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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139331
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 45/00 20060101AFI20230927BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20230927BHJP
   B60K 6/46 20071001ALI20230927BHJP
   B60W 20/16 20160101ALI20230927BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
F02D45/00 369
F02D41/04 ZHV
B60K6/46
B60W20/16
B60W10/08 900
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044802
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085338
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 一博
(74)【代理人】
【識別番号】100148910
【弁理士】
【氏名又は名称】宮澤 岳志
(72)【発明者】
【氏名】浅野 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】武田 大輝
【テーマコード(参考)】
3D202
3G301
3G384
【Fターム(参考)】
3D202AA07
3D202BB09
3D202BB11
3D202CC46
3D202DD01
3D202DD05
3D202DD18
3D202DD21
3D202DD22
3D202DD45
3G301JA21
3G301MA11
3G301NE06
3G301PB09Z
3G384AA28
3G384BA13
3G384BA14
3G384BA31
3G384DA14
3G384EB02
3G384EB10
3G384FA24Z
(57)【要約】
【課題】キャニスタから燃料蒸気を放出させるパージ処理の機会を十分に確保し、また燃料の浪費を避ける。
【解決手段】燃料タンクで発生する燃料蒸気をキャニスタに捕捉しその燃料蒸気を含むパージガスをキャニスタから吸気通路に適時放出する燃料蒸発ガス排出抑制装置が付帯した内燃機関が搭載されている車両を制御するものであり、内燃機関の運転中にその運転を停止するべき条件が成立したとき、キャニスタに捕捉しており吸気通路に流入することになるパージガスに含まれる燃料の濃度がある限度を超えて高くなると考えられる場合には、それ以前と比較してエンジン回転数を低下させまたはインジェクタからの燃料噴射量を低減した上で、内燃機関の運転を停止せず続行する車両の制御装置を構成した。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料タンクで発生する燃料蒸気をキャニスタに捕捉し前記燃料蒸気を含むパージガスを前記キャニスタから吸気通路に適時放出する燃料蒸発ガス排出抑制装置が付帯した内燃機関が搭載されている車両において、
前記内燃機関の運転中にその運転を停止するべき条件が成立したとき、前記キャニスタに捕捉しており吸気通路に流入することになるパージガスに含まれる燃料の濃度が所定閾値以上に高くなると考えられる場合には、それ以前と比較してエンジン回転数を低下させまたはインジェクタからの燃料噴射量を低減した上で、前記内燃機関の運転を停止せず続行する車両の制御装置。
【請求項2】
内燃機関の運転を停止するべき前記条件が成立したとき、前記キャニスタに捕捉しており吸気通路に流入することになるパージガスに含まれる燃料の濃度が所定閾値以上に高くなると考えられる場合に、インジェクタからの燃料噴射を止め電動機により前記内燃機関を回転駆動することで、前記内燃機関の運転を停止せず続行する請求項1記載の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載される内燃機関の運転を制御する制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、内燃機関には、燃料タンク内で蒸発した燃料蒸気を捕捉する燃料蒸発ガス排出抑制装置が付設されている(例えば、下記特許文献1を参照)。普遍的な燃料蒸発ガス排出抑制装置は、チャコールキャニスタと呼称され、発生した燃料蒸気を、活性炭を充填したキャニスタに吸着させて捕捉し、適時その燃料蒸気を内燃機関の吸気通路に送出して吸気に混交し、気筒にて燃焼処理するものである。
【0003】
キャニスタには、燃料タンク内の燃料蒸気を回収するための回収路の他、大気に開放した大気導入路、及び当該キャニスタを内燃機関の吸気通路におけるスロットルバルブの下流に連通するパージガス流路が接続している。キャニスタに吸着した燃料蒸気をパージする処理では、パージガス流路上に設けた制御バルブを開弁し、スロットルバルブの下流で発生する吸気負圧を利用して、キャニスタに外気を取り入れながら燃料蒸気を吸気通路に引き込む。
【0004】
近時では、電動機及び内燃機関の二種の動力源を備えるハイブリッド車両が一定の普及を見ている。シリーズ方式のハイブリッド車両(例えば、下記特許文献2を参照)は、内燃機関が発電用モータジェネレータを駆動して発電を行い、発電した電力を蓄電装置、即ちリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等のバッテリ及び/またはキャパシタに蓄えるとともに、走行用モータジェネレータに供給する。そして、走行用モータジェネレータによって車両の駆動輪を回転させて走行する。
【0005】
発電用モータジェネレータのみならず、走行用モータジェネレータもまた、回生制動により発電を行い、発電した電力を蓄電装置に蓄えることができる。蓄電装置の容量一杯まで既に電荷が蓄えられている場合には、回生制動により得られる電力を敢えて発電用モータジェネレータに供給し、これを電動機として作動させて内燃機関を回転駆動するモータリングを行うことで、余剰の電力を消費する。
【0006】
ハイブリッド車両では、内燃機関が燃料を燃焼させて回転駆動力を発生させるファイアリングを行わなくとも、走行用モータジェネレータが出力する回転駆動力により車両を走行させることが可能である。故に、車両の運用中であっても、内燃機関の回転を停止している状態が継続することがある。
【0007】
シリーズ方式のハイブリッド車両にあって、発電用モータジェネレータは、停止した内燃機関を始動する準備として内燃機関をモータリング即ちクランキングする役割を兼ねる。クランキング時には、蓄電装置から必要な電力の供給を受ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-044669号公報
【特許文献2】特開2020-156134号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
キャニスタに捕捉した燃料蒸気は、できるだけこまめにパージすることが望ましい。キャニスタに多量の燃料蒸気が貯留された状態で、制御バルブを開弁してパージ処理を実施すると、高濃度の燃料成分を含むパージガスが内燃機関の吸気通路に流れ込み、気筒に充填される混合気の空燃比が過リッチとなって、不当なエンジントルクの変動やエミッションの悪化を招く懸念が生じる。
【0010】
内燃機関の停止中は、キャニスタに吸着した燃料蒸気をパージできず、キャニスタに燃料蒸気が溜まってゆく。特に、ハイブリッド車両は、内燃機関を停止させたままで走行を続けることができるため、キャニスタのパージ処理を実施する機会が乏しくなり、上述の問題が顕在化する。
【0011】
以上の点に着目してなされた本発明は、キャニスタから燃料蒸気を放出させるパージ処理の機会を十分に確保し、また燃料の浪費を避けることを所期の目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明では、燃料タンクで発生する燃料蒸気をキャニスタに捕捉し前記燃料蒸気を含むパージガスを前記キャニスタから吸気通路に適時放出する燃料蒸発ガス排出抑制装置が付帯した内燃機関が搭載されている車両において、前記内燃機関の運転中にその運転を停止するべき条件が成立したとき、前記キャニスタに捕捉しており吸気通路に流入することになるパージガスに含まれる燃料の濃度が所定閾値以上に高くなると考えられる場合には、それ以前と比較してエンジン回転数を低下させまたはインジェクタからの燃料噴射量を低減した上で、前記内燃機関の運転を停止せず続行する車両の制御装置を構成した。
【0013】
なお、内燃機関の運転を停止するべき前記条件が成立したとき、前記キャニスタに捕捉しており吸気通路に流入することになるパージガスに含まれる燃料の濃度が所定閾値以上に高くなると考えられる場合に、インジェクタからの燃料噴射を止め電動機により前記内燃機関を回転駆動することで、前記内燃機関の運転を停止せず続行することがある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、燃料蒸発ガス排出抑制装置のキャニスタに捕捉した燃料蒸気を放出させるパージ処理の機会を十分に確保できる。燃料の浪費も避けられる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態におけるシリーズ方式のハイブリッド車両及び制御装置の概略構成を示す図。
図2】同実施形態のハイブリッド車両に搭載される内燃機関の概要を示す図。
図3】同実施形態のハイブリッド車両に搭載される走行用モータジェネレータの要求出力の区分を示す図。
図4】同実施形態の制御装置がプログラムに従い実行する処理の手順例を示すフロー図。
図5】同実施形態の制御装置が制御する内燃機関の運転条件を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態を、図面を参照して説明する。図1に、本実施形態における車両の主要システムの概略構成を示す。本実施形態の車両は、二種類の動力源を搭載したハイブリッド車両である。内燃機関1と、内燃機関1により駆動されて発電を行う回転電機である発電用モータジェネレータ2と、発電用モータジェネレータ2が発電した電力を蓄える蓄電装置3と、発電用モータジェネレータ2及び/または蓄電装置3から電力の供給を受けて車両の駆動輪62を駆動する回転電機である走行用モータジェネレータ4とを備えている。
【0017】
本ハイブリッド車両は、内燃機関1を発電にのみ使用するシリーズハイブリッド方式の電気自動車であり、車両の駆動輪62には専ら走行用モータジェネレータ4から走行のための駆動力を供給する。内燃機関1と駆動輪62との間は機械的に切り離されており、元来両者の間で回転駆動力の伝達がなされない。従って、内燃機関1は、走行用モータジェネレータ4及び駆動輪62から完全に独立して回転し、また完全に独立して停止することが可能である。従って、イグニッションスイッチ(パワースイッチ、またはイグニッションキー)がONに操作されている車両の運用中、運転者がアクセルペダルを踏むことで車両が走行可能な状態にあっても、蓄電装置3が十分な電荷を蓄え、かつブレーキブースタ15が十分な負圧を蓄えている状況下では、燃料の燃焼を伴う内燃機関1の運転を実施しないことがある。
【0018】
内燃機関1の回転軸であるクランクシャフトは、発電用モータジェネレータ2の回転軸と歯車機構7を介して機械的に接続している(両者は常に接続しており、この接続が切り離されることはない。両者の間に断接切換可能なクラッチ等は存在しない)。そして、内燃機関1が出力する回転駆動力を発電用モータジェネレータ2に入力することで、発電用モータジェネレータ2が発電する。発電した電力は、蓄電装置3に充電し、及び/または、走行用モータジェネレータ4に供給する。また、発電用モータジェネレータ2は、自らが回転駆動力を発生させて内燃機関1のクランクシャフトを回転駆動するモータリング用の電動機としても機能する。例えば、発電用モータジェネレータ2は、停止している内燃機関1を始動する準備としてのクランキングを実行する。
【0019】
走行用モータジェネレータ4は、車両の走行のための駆動力を発生させ、その駆動力を減速機61を介して駆動輪62に入力する。また、走行用モータジェネレータ4は、駆動輪62に連れ回されて回転することで発電し、車両の運動エネルギを電気エネルギとして回収する。この回生制動により発電した電力は、蓄電装置3に充電する。
【0020】
尤も、既に蓄電装置3の容量一杯まで電荷が蓄えられており、それ以上の充電が困難であるならば、走行用モータジェネレータ4が回生発電した電力を発電用モータジェネレータ2に供給し、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させて内燃機関1を回転駆動する。これにより、車両の制動性能を維持しながら、余剰の電力を消尽する。また、このとき、内燃機関1の回転が保たれることから、内燃機関1の気筒への燃料供給を一時的に停止する燃料カットを実行することができる。
【0021】
発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2が発電する交流電力を直流電力に変換する。そして、その直流電力を蓄電装置3または駆動機インバータ41に入力する。並びに、発電機インバータ21は、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させる際に、蓄電装置3及び/または駆動機インバータ41から供給される直流電力を交流電力に変換した上で発電用モータジェネレータ2に入力する。
【0022】
駆動機インバータ41は、蓄電装置3及び/または発電機インバータ21から供給される直流電力を交流電力に変換した上で走行用モータジェネレータ4に入力する。並びに、駆動機インバータ41は、車両の回生制動を行うときに走行用モータジェネレータ4が発電する交流電力を直流電力に変換した上で蓄電装置3または発電機インバータ21に入力する。発電機インバータ21及び駆動機インバータ41は、PCU(Power Control Unit)02の一部をなす。
【0023】
蓄電装置3は、バッテリ及び/またはキャパシタ等である。バッテリは、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素二次電池等の、エネルギ密度の大きい高電圧の二次電池である。蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々が発電する電力を充電して蓄える。並びに、蓄電装置3は、発電用モータジェネレータ2及び走行用モータジェネレータ4の各々を電動機として作動させるための電力を放電し、それらモータジェネレータ2、4に必要な電力を供給する。
【0024】
図2に、本実施形態のハイブリッド車両に搭載される内燃機関1の概要を示している。内燃機関1は、例えば火花点火式の4ストロークレシプロエンジンであり、複数の気筒11(例えば、三気筒。図2には、そのうち一つを図示する)を包有している。各気筒11の吸気ポート近傍には、吸気ポートに向けて燃料を噴射するインジェクタ111を設けている。また、各気筒11の燃焼室の天井部に、点火プラグ112を取り付けてある。点火プラグ112は、点火コイルにて発生した誘導電圧の印加を受けて、中心電極と接地電極との間で火花放電を惹起するものである。
【0025】
吸気を供給するための吸気通路13は、外部から空気を取り入れて各気筒11の吸気ポートへと導く。吸気通路13上には、エアクリーナ131、電子スロットルバルブ132、サージタンク133、吸気マニホルド134を、上流からこの順序に配置している。エアクリーナ131は、吸気通路13における最上流の、空気を取り入れる吸気口にある。吸気口は、冷たい空気を取り入れて内燃機関の充填効率を上げるために、車両の前方に開口している。
【0026】
燃料蒸発ガス排出抑制装置は、燃料タンクにおいて蒸発した燃料蒸気を活性炭を充填したキャニスタ135に吸着させて捕捉し、適時その燃料蒸気を吸気通路13に送出して吸気に混交し、気筒11にて燃焼処理するものである。キャニスタ135は、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流の箇所、より具体的にはサージタンク133または吸気マニホルド134に接続している。
【0027】
キャニスタ135と吸気通路13とを接続するパージガス流路上には、当該パージガス流路を開閉する制御バルブであるパージVSV(Vacuum Switching Valve)136を設けてある。VSV136を開弁している間、当該パージガス流路を介してキャニスタ135と吸気通路13とが連通し、スロットルバルブ132の下流に発生する吸気負圧によってキャニスタ135内の燃料蒸気が吸気通路13に引き込まれる。
【0028】
排気を排出するための排気通路14は、気筒11内で燃料を燃焼させた結果発生した排気を各気筒11の排気ポートから外部へと導く。この排気通路14上には、排気マニホルド142及び排気浄化用の三元触媒141を配置している。
【0029】
EGR装置12は、排気通路14と吸気通路13とを連通する外部EGR通路121と、EGR通路121上に設けたEGRクーラ122と、EGR通路121を開閉し当該EGR通路121を流れるEGRガスの流量を制御するEGRバルブ123とを要素とする。EGR通路121の入口は、排気通路14における触媒141の下流の箇所に接続している。EGR通路121の出口は、吸気通路13におけるスロットルバルブ132の下流の箇所(特に、サージタンク133または吸気マニホルド134)に接続している。
【0030】
本実施形態にあって、内燃機関1、発電用モータジェネレータ2、蓄電装置3、インバータ21、41及び走行用モータジェネレータ4等を制御する制御装置0は、複数基のECU、即ち内燃機関1を制御するEFI(Electronic Fuel Injection)ECU01、モータジェネレータ2、4及びインバータ21、41を制御するMG(Motor Generator)ECU02、蓄電装置3を制御するBMS(Battery Management System)ECU03、並びに、それらの制御を統括する上位のコントローラであるHV(Hybrid Vehicle)ECU00等が、CAN(Controller Area Network)等の電気通信回線を介して相互に通信可能に接続されてなるものである。各ECU00、01、02、03はそれぞれ、プロセッサ、メモリ、入力インタフェース、出力インタフェース等を有したマイクロコンピュータシステムである。
【0031】
制御装置0に対しては、車両の実車速を検出する車速センサから出力される車速信号a、内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及びエンジン回転数を検出するクランク角センサから出力されるクランク角信号b、運転者によるアクセルペダルの踏込量をアクセル開度(いわば、運転者が車両(の走行用モータジェネレータ4)に対して要求している駆動力)として検出するセンサから出力されるアクセル開度信号c、内燃機関1の気筒11に連なる吸気通路13(特に、サージタンク133または吸気マニホルド134)内の吸気温及び吸気圧を検出する温度・圧力センサから出力される吸気温・吸気圧信号d、内燃機関1の冷却水の温度を検出する水温センサから出力される冷却水温信号e、内燃機関1の排気通路14を流れる排気ガスの空燃比を検出する空燃比センサ(リニアA/FセンサまたはO2センサ)から出力される空燃比信号f、蓄電装置3に蓄えている電荷量を検出するセンサ(特に、バッテリ電流及び/またはバッテリ電圧センサ)から出力されるバッテリSOC(State Of Charge)信号g、ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧を検出する負圧センサから出力される負圧信号h等が入力される。
【0032】
そして、制御装置0は、各種センサを介してセンシングしている、運転者が操作するアクセルペダルの踏込量や、現在の車両の車速、蓄電装置3が蓄えている電荷の量、発電用モータジェネレータ2の発電電力等に応じて、走行用モータジェネレータ4が出力する回転駆動力、内燃機関1が出力する回転駆動力、及び発電用モータジェネレータ2が発電する電力の大きさ等を増減制御する。
【0033】
原則として、蓄電装置3が現在十分な電荷を蓄えており、走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が小さいならば、内燃機関1への燃料の供給を遮断して内燃機関1を運転しない。翻って、蓄電装置3が蓄えている電荷の量が下限値を下回り、または走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が大きいならば、内燃機関1を始動し気筒11に燃料を供給してこれを燃焼させるファイアリングを実行し、内燃機関1の出力する回転駆動力により発電機モータジェネレータ2を駆動し、発電を実施して蓄電装置3を充電し、または走行用モータジェネレータ4に供給する電力を増強する。
【0034】
図3に、車両の運転者が要求する出力と、内燃機関1及び発電用モータジェネレータ2の運転の要否との関係を示している。走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力は、運転者が操作するアクセルペダルの踏込量及び車速によって決まる。駆動輪62に与えるべき駆動力は、アクセル開度が大きいほど大きくなる。その要求出力は、駆動輪62に与えるべき駆動力が大きいほど大きくなり、車速が高くなるほど大きくなる。図3上、右上方に向かうほど要求出力が大きいということになる。
【0035】
制御装置0は、駆動輪62に与えるべき駆動力が比較的小さく、車速も比較的低い低出力領域Iでは、内燃機関1に燃料を供給せずにそのファイアリング運転を停止し、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させない。低出力領域Iでは、走行用モータジェネレータ4が、蓄電装置3のみから電力供給を受けて、車両の走行のための駆動力を出力する。低出力領域Iは、典型的には、アクセル開度が0または所定値以下に小さいとき、あるいは車両の減速走行中である。
【0036】
制御装置0は、駆動輪62に与えるべき駆動力がある程度以上大きい、または車速がある程度以上高い中高出力領域II、IIIでは、内燃機関1に燃料を供給してこれをファイアリング運転し、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させる。要求出力が顕著に大きくない中出力領域IIでは、走行用モータジェネレータ4が、主として発電用モータジェネレータ2から電力供給を受けて、車両の走行のための駆動力を出力する。このとき、蓄電装置3からは、少量の電力供給を受けるか、または全く電力供給を受けない。要求出力が顕著に大きい高出力領域IIIでは、走行用モータジェネレータ4が、発電用モータジェネレータ2及び蓄電装置3の双方から電力供給を受けて、車両の走行のための駆動力を出力する。
【0037】
ファイアリング運転中の内燃機関1に対して要求される出力も、基本的には、走行用モータジェネレータ4に対して要求される出力が大きいほど大きくなる。但し、現在蓄電装置3が蓄えている電荷量にもよる。蓄電装置3の電荷量が欠乏したときには、可及的速やかにこれを充電する必要があり、たとえ走行用モータジェネレータ4に対する要求出力が小さくとも、発電のために内燃機関1に対する要求出力が大きくなることがある。
【0038】
内燃機関1の気筒11に燃料を供給して内燃機関1を運転しておらず、走行用モータジェネレータ4により駆動輪62を駆動して車両を走行させている最中に、内燃機関1を始動して発電用モータジェネレータ2による発電を実行しようとするためには、まず、発電用モータジェネレータ2を電動機として作動させ、これにより内燃機関1の始動のためのモータリングを行う。そして、内燃機関1のクランクシャフトが所定回数以上または所定角度以上回転し、内燃機関1の各気筒11の現在の行程またはピストンの位置を知得する気筒判別が完了したならば、内燃機関1の各気筒11の行程に合わせて適切なタイミングで燃料を噴射し、かつ適切なタイミングで燃料を着火燃焼させるファイアリングを開始する。内燃機関1のクランクシャフトの回転角度及び回転数、または発電用モータジェネレータ2の回転軸の回転角度及び回転数(発電用モータジェネレータ2の回転数は内燃機関1の回転数に比例し、その比例定数は既知)は、内燃機関1に付帯するクランク角センサを介して(EFI ECU01において)検出することができ、発電用モータジェネレータ2に付帯するレゾルバを介して(PCU(または、MG ECU)02において)検出することもできる。
【0039】
内燃機関1が自立的に回転し発電のために必要な回転駆動力を出力可能となり、発電用モータジェネレータ2の出力を低減させてもなおエンジン回転数が上昇傾向を維持できるようになったならば、電動機として作動させている発電用モータジェネレータ2の出力を0まで低減させてモータリングを終了し、今度は内燃機関1により発電用モータジェネレータ2を回転駆動する。さらに、発電用モータジェネレータ2を発電機として作動させ、その発電電力を0から増大させる。
【0040】
しかる後、エンジン回転数を段階的に引き上げられる目標回転数に追従させるように、内燃機関1の気筒1に供給する吸気量及び燃料噴射量、並びに発電用モータジェネレータ2の発電電力を増減調整する。最終的な目標回転数は、内燃機関1を最適または最適に近い効率で運転でき燃料消費率にとって最も有利な回転数、あるいは、内燃機関1が最大トルク若しくは最大出力またはこれに近いトルク若しくは出力を達成できるような回転数に設定する。
【0041】
制御装置0の一部をなすEFI ECU01は、内燃機関1の運転制御に必要な各種情報b、d、e、fを入力インタフェースを介して取得し、エンジン回転数を知得するとともに気筒11に吸入される空気量を推算する。そして、吸入空気量に見合った(目標空燃比を具現するために必要な)要求燃料噴射量、燃料噴射タイミング(一度の燃焼に対する燃料噴射の回数を含む)、燃料噴射圧、点火タイミング(一度の燃焼に対する点火の回数を含む)、要求EGR率(または、EGRガス量)等といった内燃機関1の運転パラメータを決定する。EFI ECU01は、運転パラメータに対応した各種制御信号i、j、k、l、pを、出力インタフェースを介して点火プラグ112のイグナイタ、インジェクタ111、スロットルバルブ132、EGRバルブ123、VSV136等に対して出力する。
【0042】
車両が停車しまたは停車に近い低車速の状況から、運転者がアクセルペダルを踏み込み車両を発進させようとするときには、走行用モータジェネレータ4に対する要求出力が低出力領域Iから中高出力領域II、IIIに遷移することから、それまで停止していた内燃機関1を始動する。または、蓄電装置3に蓄えている電荷量(SOC)が所定値以下に減少したり、ブレーキブースタ15の定圧室に蓄えている負圧が所定値以下に減少したりしたときにも、内燃機関1を始動することになる。
【0043】
図4に示すように、制御装置0は、内燃機関1のファイアリング運転中(ステップS1、S6)、その運転を停止するべき所定の条件が成立したときに(ステップS2)、原則として内燃機関1のファイアリング運転を終了し内燃機関1を停止させる(ステップS5)。ステップS2に言う停止条件とは、具体的には、走行用モータジェネレータ4に対する要求出力が低出力領域I、蓄電装置3に蓄えている電荷量が所定値以上、ブレーキブースタ15に蓄えている負圧が所定値以上であることを含む。
【0044】
但し、現在キャニスタ135に捕捉しており、VSV136を開くことで吸気通路13に流入することになるパージガスに含まれる燃料の濃度が、ある限度を超えて高くなると考えられる場合には(ステップS3)、ステップS2の停止条件が成立していても、直ちには内燃機関1のファイアリング運転を停止せずに続行する(ステップS4)。これは、キャニスタ135に吸着した燃料蒸気をパージ処理する機会を十分に確保するための措置である。
【0045】
ステップS3における、パージガス濃度の推定の手法の一例を述べる。制御装置0は、停止していた内燃機関1を始動した当初、パージガス濃度の初期推定を行う。具体的には、内燃機関1の始動前の停止時間の長さと、内燃機関1の停止中の燃料タンク若しくはその周囲の温度とを基に、内燃機関1の始動直後の時期にパージガス流路を流れるパージガスの推定濃度の初期値を定める。内燃機関1の停止時間の長さ、内燃機関1の停止中の燃料タンクの温度は何れも、内燃機関1の停止中に燃料タンクで発生しキャニスタ135に捕集される燃料蒸気の量に影響を及ぼす。原則として、内燃機関1の停止時間が長いほど、キャニスタ135に捕集される燃料蒸気の量が増加して、始動直後の時期におけるパージガスの濃度が濃くなる。また、内燃機関1の停止中の燃料タンクの温度が高いほど、キャニスタ135に捕集される燃料蒸気の量が増加して、始動直後の時期におけるパージガスの濃度が濃くなる。
【0046】
制御装置0(EFI ECU01)のメモリには予め、内燃機関1の停止時間の長さ、並びに内燃機関1の停止中の燃料タンク若しくはその周囲の温度を示唆する値と、内燃機関1の始動直後のパージガスの推定濃度の初期値との関係を規定するマップデータが格納されている。内燃機関1の停止中の燃料タンク若しくはその周囲の温度を示唆する値の例として、内燃機関1の停止時または始動時の外気温を挙げることができる。ボデーECUが内燃機関1の停止中の車体の温度を実測できる場合には、その実測温度を内燃機関1の停止中の燃料タンク若しくはその周囲の温度を示唆する値として用いてもよい。制御装置0は、内燃機関1の停止時間の長さ、並びに停止中の燃料タンク若しくはその周囲の温度を示唆する値をキーとして当該マップを検索し、始動直後のパージガスの推定濃度の初期値を知得する。
【0047】
加えて、制御装置0は、内燃機関1の運転中にVSV136を開弁して燃料蒸気のパージ処理を実行する都度、パージガス流路を流れるパージガスに含まれる燃料の濃度の推定値をその初期値から逓減するように更新する演算を行う。VSV136を開弁して燃料蒸気をパージ処理すると、キャニスタ135内に滞留する燃料蒸気の量が徐々に減少し、いずれはパージガス濃度も薄くなる。制御装置0は、パージガス流路を流れるパージガス中の燃料の濃度を、内燃機関1のファイアリング運転中の空燃比フィードバック制御により燃料噴射量を補正する補正係数に基づいて推定する。仮に、気筒11に吸入される空気量に比例した噴射量の燃料を噴射している状況下で、VSV136を開弁した結果、排気通路14を流れるガスの空燃比が目標空燃比よりもリッチとなったならば、吸気通路13に流入したパージガス中の燃料成分が濃いと考えられる。その濃度は、燃料噴射量に乗ずるフィードバック補正係数が減少するほど高いと推定できる。翻って、排気通路14を流れるガスの空燃比が目標空燃比よりもリーンとなったならば、吸気通路13に流入したパージガス中の燃料成分が薄いと考えられる。その濃度は、フィードバック補正係数が増加するほど低いと推定できる。
【0048】
パージガス流路を流れるパージガス中の燃料成分の濃度を推定した制御装置0は、ステップS3にて、その現在の推定濃度を閾値と比較する。そして、推定濃度が閾値よりも高ければ、内燃機関1の運転を続行し(ステップS4)、適宜VSV136を開弁して燃料蒸気のパージ処理を実行する。パージガス中の燃料成分の濃度が閾値以下に低減したならば、内燃機関1の運転を停止する(ステップS5)。なお、ステップS4及びS5について、ステップS3にて推定したパージガス中の燃料成分の濃度に応じた(濃度が高いほど長い)待機時間を設定するとともに、その待機時間が経過するまで内燃機関1の運転を続行し、待機時間が経過したら内燃機関1の運転を停止するようにしてもよい。
【0049】
ステップS4に関して、燃料蒸気のパージ処理のために内燃機関1の運転を続行する際には、それ以前の内燃機関の運転中(ステップS1、S6)と比較して、エンジン回転数をより低下させ、及び/または、燃料噴射量をより低減する。
【0050】
図5に示すように、制御装置0(HV ECU00)のメモリには予め、内燃機関1をファイアリングして運転する際の運転条件、特にエンジン回転数とエンジントルクとの関係を規定する動作線Lのマップデータを記憶保持している。図5中、細い破線は、内燃機関1の出力が一定となる等出力線を表している。エンジン回転数を横軸にとり、エンジントルクを縦軸にとると、エンジン回転数とエンジントルクとの積であるエンジン出力が一定となる等出力線が双曲線の形で描かれる。細い鎖線は、内燃機関1の正味燃料消費率(Brake Specific Fuel Consumption)が一定となるエンジン回転数及びエンジントルクの組である等燃料消費率線を表している。燃料消費率は、内燃機関1が単位量の機械エネルギを出力するために消費する燃料の量[g/kWh]であって、燃料消費率線はその等高線である。当然ながら、燃料消費率が小さいほど、内燃機関1の熱効率は高い。
【0051】
これら等出力線と等燃料消費率線とを組み合わせることで、ある要求出力を達成するときに最も燃料消費率が小さくなる(よくなる)エンジン回転数及びエンジントルクの組を、様々な出力についてプロットすることができる。それが、最適燃費線となる動作線Lである。通常、制御装置0は、最適燃費線Lに沿って、即ち最適燃費線L上またはその近傍の範囲内に、エンジン回転数及びエンジントルクを制御する。
【0052】
走行用モータジェネレータ4に対する要求出力が中高出力領域II、IIIにある、または蓄電装置3に蓄えている電荷量が減少しておりこれを速やかに充電する必要があるときには、この運転領域Aにて内燃機関1をファイアリング運転する(ステップS1、S6)。
【0053】
要求出力が低出力領域Iにあり、蓄電装置3も十分に充電されているが、キャニスタ135のパージ処理のために内燃機関1の運転を続行する(ステップS4)ときには、上記の運転領域Aよりもエンジン回転数及びエンジントルクが低い運転領域Bにて内燃機関1をファイアリング運転する。
【0054】
因みに、蓄電装置3を充電する必要があるが、車両の運転者がアクセルペダルを踏んでおらず車速が0または0に近い低車速のときの運転領域は、上掲の運転領域A、Bよりもエンジントルクを低下させる。これは、内燃機関1により発電用モータジェネレータ2を駆動して発電を行うが、それにより発生する騒音が走行騒音によりマスキングされないことによる。
【0055】
本実施形態では、燃料タンクで発生する燃料蒸気をキャニスタ135に捕捉しその燃料蒸気を含むパージガスをキャニスタ135から吸気通路13に適時放出する燃料蒸発ガス排出抑制装置が付帯した内燃機関1が搭載されている車両を制御するものであり、内燃機関1の運転中にその運転を停止するべき条件(ステップS2)が成立したとき、キャニスタ135に捕捉しており吸気通路13に流入することになるパージガスに含まれる燃料の濃度がある限度を超えて高くなると考えられる場合には(ステップS3)、それ以前(ステップS1、S6)と比較してエンジン回転数を低下させまたはインジェクタ111からの燃料噴射量を低減した上で、内燃機関の運転を停止せず続行する(ステップS4)車両の制御装置0を構成した。
【0056】
本実施形態によれば、ハイブリッド車両のような内燃機関1の回転が停止している期間が長い車両にあっても、キャニスタパージ処理の実行機会(頻度)を増やすことができる。また、特に、シリーズハイブリッド車では、平常の内燃機関1のファイアリング中の運転領域Aが、熱機械変換効率の高い比較的高負荷の領域に設定されている。つまり、スロットルバルブ132の開度が大きく開かれるので、吸気通路132におけるスロットルバルブ132の下流に生じる吸気負圧が小さくなりがちで、キャニスタ135に捕捉された燃料蒸気を十分に吸い出すことができない可能性がある。本実施形態では、運転領域Bにて内燃機関1のファイアリングを続行し、スロットルバルブ132の開度を絞って吸気負圧を大きくして、キャニスタ135に捕捉した燃料蒸気を確実にパージすることが可能である。燃料の浪費も避けられる。
【0057】
キャニスタ135に多量の燃料蒸気が滞留、蓄積されることが抑制されるので、燃料蒸気の大気への漏洩を抑止できる上、内燃機関1のファイアリング中にVSV136を開弁したときに不当なエンジントルクの変動や燃焼の不安定化、エミッションの悪化が起こる問題を有効に回避できる。キャニスタ135の劣化も防止できる。
【0058】
加えて、既製のキャニスタ135やVSV136からハードウェアを改変する必要がなく、コスト増を招かない。
【0059】
なお、本発明は以上に詳述した実施形態に限られるものではない。例えば、本発明を適用する対象は、シリーズ方式のハイブリッド車両に搭載される内燃機関1に限定されない。
【0060】
また、ステップS4にて、内燃機関1のファイアリング運転を続行することに代えて、インジェクタ111からの燃料噴射及び燃焼を停止し(即ち、ファイアリングを終了し)、電動機たる発電用モータジェネレータ2により内燃機関1を回転駆動することにより、内燃機関1の運転を停止せず続行し、以てキャニスタパージ処理を可能とすることがある。現在蓄電装置3に蓄えている電荷量が満充電、またはそれに近い所定値以上に多いときには、燃料ではなく電力を消費して蓄電装置3の空き容量を確保しつつ内燃機関1を回転させる方が、エネルギ効率の面で有利となり得る。
【0061】
その他、各部の具体的構成や処理の手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変形が可能である。
【符号の説明】
【0062】
0…制御装置(ECU)
1…内燃機関
13…吸気通路
132…スロットルバルブ
135、136…燃料蒸発ガス排出抑制装置(キャニスタ、制御バルブ(パージVSV))
2…発電機、モータリング用電動機(発電用モータジェネレータ)
3…蓄電装置
4…走行用電動機(走行用モータジェネレータ)
62…駆動輪
図1
図2
図3
図4
図5