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特開2023-139355熱可塑性樹脂、それからなる光学部材およびジオール化合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139355
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂、それからなる光学部材およびジオール化合物
(51)【国際特許分類】
   C08G 64/02 20060101AFI20230927BHJP
   C08G 63/672 20060101ALI20230927BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20230927BHJP
   C07D 493/04 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C08G64/02
C08G63/672
G02B1/04
C07D493/04 106B
C07D493/04 CSP
【審査請求】未請求
【請求項の数】17
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044840
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003001
【氏名又は名称】帝人株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169085
【弁理士】
【氏名又は名称】為山 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大山 達也
(72)【発明者】
【氏名】今里 健太
(72)【発明者】
【氏名】布目 和徳
【テーマコード(参考)】
4C071
4J029
【Fターム(参考)】
4C071AA01
4C071BB01
4C071CC14
4C071DD22
4C071EE06
4C071FF05
4C071GG03
4C071KK01
4C071LL03
4J029AA03
4J029AA09
4J029AB01
4J029AB07
4J029AC01
4J029AD10
4J029AE04
4J029BB18
4J029BD01
4J029BD08
4J029BF20
4J029BF30
4J029CA02
4J029CA03
4J029CA04
4J029CA05
4J029CA06
4J029CA09
4J029CB04A
4J029CB05A
4J029CB06A
4J029CB10A
4J029CC03A
4J029CC05A
4J029CC06A
4J029CC07
4J029CC09
4J029CD03
4J029CD05
4J029HA01
4J029HC05A
4J029KB02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新規なジオール化合物を用い、適切な屈折率およびアッベ数を有し、かつ、吸水率の低い熱可塑性樹脂およびそれを含む光学部材を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される構成単位を含む、熱可塑性樹脂。

(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~10の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の脂環式炭化水素基を示し、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の2価の脂環式炭化水素基を示す。また、RとR、またはRとRが相互に結合して環を形成していてもよい。Wは、炭酸もしくはジカルボン酸から水酸基を除いた残基である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構成単位を含む、熱可塑性樹脂。
【化1】
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~10の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の脂環式炭化水素基を示し、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の2価の脂環式炭化水素基を示す。また、RとR、またはRとRが相互に結合して環を形成していてもよい。Wは下記式(2)および下記式(3)からなる群より選ばれる少なくとも一つである。)
【化2】
【化3】
(式中、Xは2価の連結基を示す。)
【請求項2】
前記式(1)で表される構成単位が、前記熱可塑性樹脂を構成する全構成単位の5mol%~100mol%を占める、請求項1に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項3】
前記式(1)におけるRおよびRがメチル基である、請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂。
【請求項4】
前記式(1)におけるRおよびRがメチレン基である、請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【請求項5】
下記式(4)で表される構成単位をさらに含む請求項1~4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【化4】
(式(4)中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子または炭素原子数1~10の炭化水素基を表し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示す。)
【請求項6】
前記式(1)中、Wが前記式(2)である、請求項1~5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【請求項7】
23℃、24時間浸漬後の吸水率が0.25%以下である請求項1~6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【請求項8】
バイオマス度が5%以上である請求項1~7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【請求項9】
5%重量減少温度が350℃以上である請求項1~8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【請求項10】
屈折率が1.450~1.650である請求項1~9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【請求項11】
アッベ数が20~65である請求項1~10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【請求項12】
請求項1~11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂から形成される光学部材。
【請求項13】
光学レンズである請求項12に記載の光学部材。
【請求項14】
下記式(a)で表されるジオール化合物。
【化5】
(式(a)中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~10の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の脂環式炭化水素基を示し、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の2価の脂環式炭化水素基を示す。また、RとR、またはRとRが相互に結合して環を形成していてもよい。)
【請求項15】
前記式(a)におけるRおよびRがメチル基である、請求項14に記載のジオール化合物。
【請求項16】
前記式(a)におけるRおよびRがメチレン基である、請求項14または15に記載のジオール化合物。
【請求項17】
下記式(5)で表されるヒドロキシケトン類と下記式(6)で表されるエリスリトールとを酸触媒および溶媒の存在下、脱水環化反応させる請求項14に記載のジオール化合物の製造方法。
【化6】
(式(5)中、Rは水素原子、炭素原子数1~10の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の脂環式炭化水素基を示し、Rは炭素原子数1~10の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の2価の脂環式炭化水素基を示し、RとRが相互に結合して環を形成していてもよい。)
【化7】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なジオール化合物を用い、適切な屈折率およびアッベ数を有し、かつ、吸水率の低い熱可塑性樹脂およびそれからなる光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
カメラ、ビデオカメラあるいはカメラ付携帯電話、テレビ電話あるいはカメラ付ドアホンなどには、撮像モジュールが用いられている。近年、この撮像モジュールに用いられる光学系では、特に小型化が求められている。光学系を小型化していくと光学系の色収差が大きな問題となる。そこで、光学レンズの屈折率を高く、かつアッベ数を小さくして高分散にした光学レンズ材料と、屈折率を低くかつアッベ数を大きくして低分散にした光学レンズ材料を組み合わせることで、色収差の補正を行うことができることが知られている。
【0003】
近年、撮影モジュールに使用される光学素子の種類はより多くなっており、様々なバランスの屈折率とアッベ数を有する光学レンズ向け樹脂の要望が強くなっている。しかしながら、屈折率を低くかつアッベ数を大きくして低分散にした光学レンズ材料に関しては、耐熱性とのバランスが取れた熱可塑性樹脂の報告は少ない。
【0004】
また、近年、石油資源の枯渇の懸念や、地球温暖化を引き起こす空気中の二酸化炭素の増加の問題から、原料を石油に依存せず、また燃焼させても二酸化炭素を増加させないカーボンニュートラルが成り立つバイオマス資源が大きく注目を集めるようになり、ポリマーの分野においても、バイオマス資源から生産されるバイオマスプラスチックが盛んに開発されている。特に、モノマーとしてイソソルビドを中心に用いたポリカーボネートは耐熱性や耐候性、表面硬度、耐薬品性といった点で優れており、一般のビスフェノールAからなるポリカーボネートとは異なる特徴を有することから注目され、種々の検討がなされている(特許文献1、2)。光学特性においても、屈折率が低くかつアッベ数が大きいことが報告されている。(特許文献3)。これらのイソソルビド系ポリカーボネートは優れた特徴を有する一方で、吸水率が高いという課題がある。そのため、光学レンズ材料としての利用する場合はイソソルビド共重合比率を高くすることができず、バイオプラスチックとしては十分にイソソルビドの特徴を活かしきれていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006-36954号公報
【特許文献2】特開2009-46519号公報
【特許文献3】国際公開第2012/144573号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、新規なジオール化合物を用い、適切な屈折率およびアッベ数を有し、かつ、吸水率の低い熱可塑性樹脂およびそれを含む光学部材を提供することにある。
また、本発明の好ましい目的は、石油由来ではない原料から合成される新規なジオール化合物を用い、バイオマス度の高い熱可塑性樹脂およびそれを含む光学部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らはこの目的を達成せんとして鋭意研究を重ねた結果、特定の構造を有する熱可塑性樹脂が前記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明は、以下の(態様1)から(態様17)のとおりである。
【0008】
(態様1)
下記式(1)で表される構成単位を含む、熱可塑性樹脂。
【0009】
【化1】
【0010】
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~10の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の脂環式炭化水素基を示し、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の2価の脂環式炭化水素基を示す。また、RとR、またはRとRが相互に結合して環を形成していてもよい。Wは下記式(2)および下記式(3)からなる群より選ばれる少なくとも一つである。)
【0011】
【化2】
【0012】
【化3】
【0013】
(式中、Xは2価の連結基を示す。)
【0014】
(態様2)
前記式(1)で表される構成単位が、前記熱可塑性樹脂を構成する全構成単位の5mol%~100mol%を占める、態様1に記載の熱可塑性樹脂。
(態様3)
前記式(1)におけるRおよびRがメチル基である、態様1または2に記載の熱可塑性樹脂。
(態様4)
前記式(1)におけるRおよびRがメチレン基である、態様1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
(態様5)
下記式(4)で表される構成単位をさらに含む態様1~4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
【0015】
【化4】
【0016】
(式(4)中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子または炭素原子数1~10の炭化水素基を表し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示す。)
【0017】
(態様6)
前記式(1)中、Wが前記式(2)である、態様1~5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
(態様7)
23℃、24時間浸漬後の吸水率が0.25%以下である態様1~6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
(態様8)
バイオマス度が5%以上である態様1~7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
(態様9)
5%重量減少温度が350℃以上である態様1~8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
(態様10)
屈折率が1.450~1.650である態様1~9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
(態様11)
アッベ数が20~65である態様1~10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂。
(態様12)
態様1~11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂から形成される光学部材。
(態様13)
光学レンズである態様12に記載の光学部材。
(態様14)
下記式(a)で表されるジオール化合物。
【0018】
【化5】
【0019】
(式(a)中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~10の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の脂環式炭化水素基を示し、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の2価の脂環式炭化水素基を示す。また、RとR、またはRとRが相互に結合して環を形成していてもよい。)
【0020】
(態様15)
前記式(a)におけるRおよびRがメチル基である、態様14に記載のジオール化合物。
(態様16)
前記式(a)におけるRおよびRがメチレン基である、態様14または15に記載のジオール化合物。
(態様17)
下記式(5)で表されるヒドロキシケトン類と下記式(6)で表されるエリスリトールとを酸触媒および溶媒の存在下、脱水環化反応させる態様14に記載のジオール化合物の製造方法。
【0021】
【化6】
【0022】
(式(5)中、Rは水素原子、炭素原子数1~10の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の脂環式炭化水素基を示し、Rは炭素原子数1~10の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の2価の脂環式炭化水素基を示し、RとRが相互に結合して環を形成していてもよい。)
【0023】
【化7】
【発明の効果】
【0024】
本発明の熱可塑性樹脂は、光学特性に優れ、吸水率が低いため、光学レンズ、プリズム、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、光学膜、光学フィルター、ハードコート膜等の光学部材に用いることができ、特に携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、パソコン、デジタルカメラ、ビデオカメラ、車載カメラ、又は監視カメラに用いるための光学レンズに極めて有用であり、そのため、その奏する産業上の効果は格別である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1で得られた2,6-ビス(ヒドロキシメチル)-2,6-ジメチル-1,3,5,7-テトラオキサデカリンのH NMRである。
図2】実施例2で得られたポリカーボネート樹脂のH NMRである。
図3】実施例3で得られたポリカーボネート樹脂のH NMRである。
図4】実施例4で得られたポリカーボネート樹脂のH NMRである。
図5】実施例2~4、比較例1~2における吸水率の推移のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明をさらに詳しく説明する。
<熱可塑性樹脂>
本発明の熱可塑性樹脂は、下記式(1)で表される構成単位を含む熱可塑性樹脂である。
【0027】
【化8】
【0028】
(式(1)中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~10の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の脂環式炭化水素基を示し、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の2価の脂環式炭化水素基を示す。また、RとR、またはRとRが相互に結合して環を形成していてもよい。Wは下記式(2)および下記式(3)からなる群より選ばれる少なくとも一つである。)
【0029】
【化9】
【0030】
【化10】
【0031】
(式中、Xは2価の連結基を示す。)
前記式(1)において、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素原子数1~10の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の脂環式炭化水素基を示し、水素原子または炭素原子数1~3の非環状炭化水素基が好ましく、水素原子またはメチル基がより好ましく、メチル基がさらに好ましい。
【0032】
前記式(1)において、R、Rはそれぞれ独立に炭素原子数1~10の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の2価の脂環式炭化水素基を示し、炭素原子数1~3の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~6の2価の脂環式炭化水素基が好ましく、メチレン基がより好ましい。
【0033】
前記式(1)において、RとR、またはRとRが相互に結合して環を形成していてもよく、構造の例として、好ましくは、下記構造式(1-a)で表されるものが挙げられ、これらのうち、耐熱性の観点から環構造がシクロヘキサンであることが特に好ましい。
【0034】
【化11】
【0035】
(式(1-a)中、Lは2価の連結基を示し、kはそれぞれ独立に0または1を示す。)
前記式(1-a)において、Lは2価の連結基を示し、炭素原子数1~4のアルキレン基が好ましく、メチレン基またはエチレン基がより好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
【0036】
前記式(1)において、Wは前記式(2)および前記式(3)からなる群より選ばれる少なくとも1つであり、前記式(2)が好ましい。Wが前記式(2)である場合、前記式(1)はカーボネート単位となり、Wが前記式(3)である場合、前記式(1)はエステル単位となる。
【0037】
前記式(1)は、ジヒドロキシ化合物と炭酸エステルなどのカーボネート前駆物質、またはジヒドロキシ化合物とジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とから得ることができる。
【0038】
本発明における式(1)で表される構成単位を含む熱可塑性樹脂において、熱可塑性樹脂を構成する全構成単位中、前記式(1)で表される構成単位を、5mоl%以上、10mol%以上、15mol%以上、20mol%以上で含んでいてもよく、100mol%以下、90mol%以下、80mol%以下、70mol%以下、60mol%以下、50mol%以下、40mol%以下で含んでいてもよい。本発明の熱可塑性樹脂において、前記式(1)で表される構成単位を、熱可塑性樹脂を構成する全構成単位中、好ましくは5mol%以上100mol%以下、より好ましくは10mol%以上80mol%以下、さらに好ましくは15mol%以上60mol%以下、特に好ましくは20mol%以上50mol%以下で含むことができる。前記式(1)で表される構成単位の割合が前記範囲であると適切な屈折率およびアッベ数を有し、低吸水率となり、かつ、石油資源由来ではない原料の割合が高くなるため好ましい。
【0039】
本発明の熱可塑性樹脂において、さらに下記式(4)で表される構成単位を含むことができる。
【0040】
【化12】
【0041】
(式(4)中、RおよびRは、同一または異なって、水素原子または炭素原子数1~10の炭化水素基を表し、LおよびLはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、mおよびnはそれぞれ独立に0または1を示す。)
【0042】
前記式(4)においてRおよびRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、芳香族基を含んでいてもよい炭素原子数1~20の置換基を示し、水素原子、メチル基、フェニル基またはナフチル基が好ましく、水素原子、メチル基またはフェニル基がより好ましく、水素原子またはメチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0043】
前記式(4)において、L、Lはそれぞれ独立に2価の連結基を示し、炭素数1~12のアルキレン基であると好ましく、炭素数1~4のアルキレン基であるとより好ましく、エチレン基であるとさらに好ましい。L、Lの連結基の長さを調整することによって、樹脂のガラス転移温度(Tg)を調整することができる。
【0044】
<熱可塑性樹脂の物性>
本発明の熱可塑性樹脂の吸水率は、23℃、24時間浸漬後の吸水率が0.25%以下であると好ましく、0.20%以下であるとより好ましく、0.18%以下であるとさらに好ましい。また、23℃、480時間浸漬後の吸水率が0.60%以下であると好ましく、0.50%以下であるとより好ましく、0.45%以下であるとさらに好ましい。吸水率が上限より高い場合は、吸脱湿による形状の寸法変化が大きくなる。特にレンズなどに成型した場合には膨張収縮や屈折率変化が起こり、焦点距離や波面収差などのレンズ性能低下をもたらすことがある。
【0045】
本発明の熱可塑性樹脂のバイオマス度は5%以上であると好ましく、10%以上であるとより好ましく、15%以上であるとさらに好ましく、20%以上であると特に好ましい。
【0046】
本発明において、熱可塑性樹脂におけるバイオマス度は、熱可塑性樹脂を構成する全構造単位のうち、植物由来資源から合成された構造単位の重量比率と定義する。なお、熱可塑性樹脂中のバイオマス度は100%である必要はない。一部にでもバイオマス由来の原料が用いられていれば、化石燃料の使用量を削減し環境負荷を低減するという本発明の趣旨に沿うためである。また、植物由来の資源から製造されたものであるかどうかは、例えば、放射性炭素(14C)の濃度測定により確認することが可能である。大気中の二酸化炭素には、14Cが一定割合(105.5pMC)で含まれているため、大気中の二酸化炭素を取り入れて成長する植物、例えばトウモロコシ中の14C含有量も105.5pMC程度であることが知られている。また、化石燃料中には14Cが殆ど含まれていないことも知られている。したがって、熱可塑性樹脂中の全炭素原子中に含まれる14Cの割合を測定することにより、バイオマス由来の炭素の割合を算出することができる。
【0047】
本発明の熱可塑性樹脂の数平均分子量は、3,000以上であると好ましく、5,000以上であるとより好ましく、7,500以上であるとさらに好ましく、10,000以上であると特に好ましい。数平均分子量が上記範囲内であると成形性と機械強度のバランスに優れるため好ましい。
【0048】
本発明の熱可塑性樹脂の重量平均分子量は、7,500以上であると好ましく、10,000以上であるとより好ましく、20,000以上であるとさらに好ましく、30,000以上であると特に好ましい。重量平均分子量が上記範囲内であると成形性と機械強度のバランスに優れるため好ましい。
【0049】
本発明の熱可塑性樹脂の5%重量減少温度は、窒素雰囲気下で昇温速度20℃/分での5%重量減少温度であり、350℃以上であることが好ましく、360℃以上であるとより好ましく、370℃以上であるとさらに好ましく、380℃以上であると特に好ましい。5%重量減少温度が上記下限以上であると耐熱安定性が高い。
【0050】
本発明の熱可塑性樹脂の屈折率は、温度:20℃、波長:587.56nmで測定した場合に、1.450以上、1.460以上、1.470以上、1.480以上、1.490以上、または1.500以上であってもよく、1.650以下、1.640以下、1.630以下、1.620以下、1.610以下または1.600以下であってもよい。
【0051】
本発明の熱可塑性樹脂の屈折率は、1.450~1.650の範囲であることが好ましく、1.460~1.640の範囲であるとより好ましく、1.470~1.630の範囲であるとさらに好ましく、1.480~1.620の範囲であると特に好ましく、1.490~1.610の範囲であると最も好ましい。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂のアッベ数は、20以上、21以上、22以上、23以上、24以上または25以上であってもよく、65以下、64以下、63以下、62以下、61以下、60以下または59以下であってもよい。アッベ数(νd)は、20~65の範囲であることが好ましく、22~63の範囲であることがより好ましく、25~60の範囲であるとさらに好ましい。
【0053】
ここで、アッベ数は、温度:20℃、波長:486.13nm、587.56nm、656.27nmの屈折率から、下記式を用いて算出する:
νd=(nd-1)/(nF-nC)
nd:波長587.56nmにおける屈折率、
nF:波長486.13nmにおける屈折率、
nC:波長656.27nmにおける屈折率を意味する。
【0054】
<熱可塑性樹脂の原料>
(式(1)のジオール成分)
式(1)の原料となるジオール成分は、主として下記式(a)で表されるジオール成分であり、単独で使用してもよく、又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0055】
【化13】
【0056】
(式(a)中、RおよびRは、それぞれ独立して水素原子、炭素原子数1~10の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の脂環式炭化水素基を示し、RおよびRは、それぞれ独立して、炭素原子数1~10の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の2価の脂環式炭化水素基を示す。また、RとR、またはRとRが相互に結合して環を形成していてもよい。)
式(a)における、R、R、R、Rは、式(1)におけるR、R、R、Rと同義であり、好ましい範囲も同様である。
【0057】
式(a)で表されるジオールは、下記式(5)で表されるヒドロキシケトンと、下記式(6)で表されるエリスリトールを脱水環化反応させることによって得られる。エリスリトールは自然派甘味料として知られ、トウモロコシを原料に酵素を用いて発酵させて製造することができる。本発明においては、石油由来ではない原料を用いることが好ましい。
【0058】
【化14】
【0059】
(式(5)中、Rは水素原子、炭素原子数1~10の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の脂環式炭化水素基を示し、Rは炭素原子数1~10の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の2価の脂環式炭化水素基を示し、RとRが相互に結合して環を形成していてもよい。)
【0060】
【化15】
【0061】
式(5)におけるRは水素原子、炭素原子数1~10の非環状炭化水素基または炭素原子数が3~10の脂環式炭化水素基を示し、水素原子または炭素原子数1~3の非環状炭化水素基が好ましく、水素原子またはメチル基がさらに好ましく、メチル基が特に好ましい。
【0062】
式(5)におけるRとしては、それぞれ独立に炭素原子数1~10の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~10の2価の脂環式炭化水素基を示し、炭素原子数1~3の2価の非環状炭化水素基または炭素原子数3~6の2価の脂環式炭化水素基が好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
【0063】
前記式(5)において、RとRが相互に結合して環を形成していてもよく、構造の例として、好ましくは、下記構造式(a-1)で表されるものが挙げられ、これらのうち、耐熱性の観点から環構造がシクロヘキサンであることが特に好ましい。
【0064】
【化16】
【0065】
(式(a-1)中、L、kは前記式(1-a)と同じである。)
前記式(a-1)において、Lは2価の連結基を示し、炭素原子数1~4のアルキレン基が好ましく、メチレン基またはエチレン基がより好ましく、メチレン基がさらに好ましい。
【0066】
本発明の前記式(a)で表されるジオール化合物の純度は95%以上であると好ましく、97%以上であるとより好ましく、98%以上であるとさらに好ましい。純度はガスクロマトグラフで測定される。
【0067】
<ジオール化合物の製造方法>
本発明の前記式(a)で表されるジオール化合物は、上記式(5)で表されるヒドロキシケトン類と上記式(6)で表されるエリスリトールとを酸触媒および溶媒の存在下、脱水環化反応させることで得られる。特に、石油由来ではない原料から合成されることが好ましい。
【0068】
本発明の製造方法において、上記式(5)で表されるヒドロキシケトン類の使用比率は、上記式(6)で表されるエリスリトール1モルに対して1.8~2.4モルが好ましく、1.9~2.1モルがより好ましい。
【0069】
酸触媒として、シュウ酸、酢酸、塩酸、硫酸、リン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、ヘテロポリ酸が挙げられ、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸が好ましく、p-トルエンスルホン酸がより好ましい。
【0070】
本発明で使用する酸触媒の使用量は、エリスリトール1モルに対して、0.001~1モルが好ましく、0.005~0.1モルがより好ましく、0.01~0.05モルがさらに好ましい。
【0071】
溶媒として、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメチルスルホキシドが挙げられ、トルエン、ジメチルホルムアミドが好ましい。これら溶媒は単独で使用しても良く、2種類以上を併用しても良い。
【0072】
溶媒の量は、エリスリトールに対して、1~100重量倍であると好ましく、3~50重量倍であるとより好ましく、5~20重量倍であるとさらに好ましい。
【0073】
ジオール化合物の製造方法において、反応器の上にディーンスターク装置を付け、副生する水を系外に除去することが好ましい。
【0074】
ジオール化合物の製造方法において、脱水縮合反応の反応温度は60~150℃が好ましく、80~130℃がより好ましく、100~120℃がさらに好ましい。
【0075】
反応は大気下でも実施することができるが、安全性や色相の観点から、窒素、アルゴンなどの不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。反応はガスクロマトグラフィーや液体クロマトグラフィーなどの分析手段で追跡することができる。
【0076】
(前記式(1)のカーボネート成分)
本発明の熱可塑性樹脂の前記式(1)で表される単位に使用するカーボネート成分としては、ホスゲン、カーボネートエステルがあげられる。カーボネートエステルは、置換されていてもよい炭素数6~10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1~4のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、ビス(m-クレジル)カーボネート、ジナフチルカーボネートなどの炭酸ジアリール、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジシクロヘキシルカーボネートなどの炭酸ジアルキル、エチルフェニルカーボネート、シクロヘキシルフェニルカーボネートなどの炭酸アルキルアリール、または、ジビニルカーボネート、ジイソプロぺニルカーボネート、ジプロペニルカーボネートなどの炭酸ジアルケニルなどが挙げられ、なかでも炭酸ジアリールが好ましく、ジフェニルカーボネートがより好ましい。
【0077】
(前記式(1)のジカルボン酸成分)
本発明の熱可塑性樹脂の前記式(1)で表される単位に使用するジカルボン酸成分は主として、式(b)で表されるジカルボン酸、またはそのエステル形成性誘導体が好ましく用いられる。
【0078】
【化17】
【0079】
前記式(b)において、Xは2価の連結基を示す。
以下、前記式(b)で表されるジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の代表的具体例を示すが、本発明の前記式(b)に用いられる原料としては、それらによって限定されるものではない。
【0080】
本発明の熱可塑性樹脂に使用するジカルボン酸成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸成分、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等の単環式芳香族ジカルボン酸成分、2,6-ナフタレンジカルボン酸、2,7-ナフタレンジカルボン酸、2,3-ナフタレンジカルボン酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9-ビス(カルボキシメチル)フルオレン、9,9-ビス(1-カルボキシエチル)フルオレン、9,9-ビス(1-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルエチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルプロピル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシブチル)フルオレン、9,9-ビス(2-カルボキシ-1-メチルブチル)フルオレン、9,9-ビス(5-カルボキシペンチル)フルオレン、9,9-ビス(カルボキシシクロヘキシル)フルオレン、2,2’-ビス(カルボキシメトキシ)-1,1’-ビナフチル等の多環式芳香族ジカルボン酸成分、2,2’-ビフェニルジカルボン酸等のビフェニルジカルボン酸成分、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、2,6-デカリンジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸成分が挙げられる。これらは単独または二種類以上組み合わせて用いても良い。また、エステル形成性誘導体としては酸クロライドや、メチルエステル、エチルエステル、フェニルエステル等のエステル類を用いてもよい。
【0081】
(前記式(4)の成分)
本発明の熱可塑性樹脂は、さらに前記式(4)の構成単位を有していてもよく、前記式(4)の原料となるジヒドロキシ化合物成分を以下に示す。これらは単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0082】
本発明の前記式(4)の原料となるジヒドロキシ化合物成分は、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-シクロヘキシルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-フェニルフェニル)フルオレン等が例示され、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-3-フェニルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)フルオレンが特に好ましい。これらは単独で使用してもよく、または二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0083】
また、本発明の熱可塑性樹脂には、必要に応じて熱安定剤、可塑剤、光安定剤、重合金属不活性化剤、難燃剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、抗菌剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤等の添加剤を配合することができる。
【0084】
本発明の熱可塑性樹脂は、例えばジヒドロキシ化合物成分に炭酸ジエステルなどのカーボネート前駆物質を反応させる方法やジオール成分にジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体を反応させる方法等により製造される。以下にその具体例を示す。
【0085】
<製造方法>
(ポリカーボネート樹脂の製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂がポリカーボネート樹脂である場合はそれ自体公知の反応手段、例えばジヒドロキシ化合物成分とカーボネート前駆物質を溶融重合法によって反応させて得られる。ポリカーボネート樹脂を製造するに当たっては、必要に応じて触媒、末端停止剤、酸化防止剤等を使用してもよい。
【0086】
(ポリエステル樹脂の製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂がポリエステル樹脂である場合はそれ自体公知の反応手段、例えばジヒドロキシ化合物成分とジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とをエステル化反応もしくはエステル交換反応させ、得られた反応生成物を重縮合反応させ、所望の分子量の高分子量体とすればよい。
【0087】
(ポリエステルカーボネート樹脂の製造方法)
本発明の熱可塑性樹脂がポリエステルカーボネート樹脂である場合は、ジヒドロキシ化合物成分およびジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体と、カーボネートエステルなどのカーボネート前駆物質とを反応させることにより製造することができる。重合方法は前記ポリカーボネート樹脂またはポリエステル樹脂と同様の方法を用いることができる。
【0088】
<光学部材>
本発明の光学部材は、上記の熱可塑性樹脂から形成される。そのような光学部材としては、上記の熱可塑性樹脂が有用となる光学用途であれば、特に限定されないが、光学レンズ、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、レンズ、プリズム、光学膜、基盤、光学フィルター、ハードコート膜等を挙げることができる。
【0089】
本発明の光学部材は、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、溶融押出成形、キャスティング等の任意の方法により成形、加工することができる。
【0090】
<光学レンズ>
本発明の光学部材として、特に光学レンズを挙げることができる。このような光学レンズとしては、携帯電話、スマートフォン、タブレット端末、パソコン、デジタルカメラ、ビデオカメラ、車載カメラ、監視カメラ等のための光学レンズを挙げることができる。
【0091】
本発明の光学レンズは、射出成形、圧縮成形、射出圧縮成形、溶融押出成形、キャスティング等の任意の方法により成形、加工することができるが、射出成形が特に好適である。
【0092】
射出成形の成形条件は特に限定されないが、成形機のシリンダー温度は180~320℃が好ましく、220~300℃がより好ましく、240~280℃が特に好ましい。また、金型温度は70~130℃が好ましく、80~125℃がより好ましく、90~120℃が特に好ましい。射出圧力は5~170MPaが好ましく、50~160MPaがより好ましく、100~150MPaが特に好ましい。
【実施例0093】
本発明を以下の実施例でさらに具体的に説明をするが、本発明はこれによって限定されるものではない。
≪評価方法≫
<テトラオキサデカリン骨格を有する化合物>
<NMR>
得られたジオール化合物を日本電子(株)製JNM-ECZ400Sを用いてHNMR測定することによって、構造を同定した。溶媒はDMSO-dを用いた。
<純度>
アジレント・テクノロジー製シングル四重極GC/MS 5977Bを用い、下記測定条件で測定した。実施例中、特に断らない限り純度(%)はGC/MSにおける溶媒を除いて補正した面積百分率値である。
(GC)
カラム:DB-1(内径0.25mm、長さ30m、膜厚0.25μm)
注入量:1μl
注入法:スプリット比40:1
注入口温度:280℃
オーブン:60℃-10℃/分-280℃(28分)
キャリアガス:He、線速度 36.6cm/s
(MS)
イオン源温度:230℃
イオン化モード:EI 70eV
測定範囲:m/z 33-700
【0094】
<熱可塑性樹脂>
<共重合比>
得られた樹脂を日本電子(株)製JNM-ECZ400Sを用いてHNMR測定することによって、各の熱可塑性樹脂組成比を算出した。溶媒はDMSO-dを用いた。
<分子量>
ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて、下記の条件により分子量分布を測定し、数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)を求めた。
得られた樹脂10mgをクロロホルム5mLに溶解して溶液を調整した。
(測定条件)
装置 : 東ソー株式会社製 HLC-8420
カラム : 東ソー株式会社製TSKgel SupermultiporeHZM-M×3+TSKgel guardcolumn
流量 : 0.350mL/min
検出条件 : UV254nm
カラム温度 : 40.0℃
溶離液 : クロロホルム
<吸水率>
各樹脂の3mm厚成形板を圧縮成形にて作製し、80℃で12時間乾燥した3mm厚さの成形板を23℃の水中に浸し、定期的に取り出してその重量を測定し、吸水率を下記式から計算した。なお、測定はそれぞれの熱可塑性樹脂において3つの成型板サンプルで行い、その平均値を吸水率とした。
吸水率(%)=(吸水後の成形板の質量-吸水前の成形板の質量)/吸水前の成形板の質量×100
<5%重量減少温度>
得られた樹脂をTAインスツルメント製の示差熱・熱重量同時測定装置Discovery SDT650により、窒素雰囲気下で、昇温速度20℃/minで測定し、5%重量減少温度を測定した。試料は5mg程度で測定した。
【0095】
<光学特性>
(屈折率)
各樹脂の3mm厚試験片を圧縮成形にて作製し、研磨した後、島津製作所製のカルニュー精密屈折計KPR-2000を使用して、20℃における屈折率nd(587.56nm)を測定した。
(アッベ数)
アッベ数の測定波長は、486.13nm、587.56nm、656.27nmの屈折率から下記の式を用いて算出した。
νd=(nd-1)/(nF-nC)
nd:波長587.56nmでの屈折率、
nF:波長486.13nmでの屈折率、
nC:波長656.27nmでの屈折率を意味する。
<バイオマス度>
熱可塑性樹脂を構成する全構造単位のうち、植物由来資源から合成された構造単位の重量比率を計算した。
【0096】
[実施例1]2,6-ビス(ヒドロキシメチル)-2,6-ジメチル-1,3,5,7-テトラオキサデカリン(以下、MMTODと省略することがある)の合成
窒素雰囲気下、撹拌機、冷却器、ディーンスターク管、温度計を備え付けたフラスコにmeso-エリスリトール(石油由来ではない原料)10.00g、ヒドロキシアセトン12.13g、p-トルエンスルホン酸1水和物0.31g、トルエン75ml、ジメチルホルムアミド7mlを仕込み、110℃で5時間反応した。反応終了後、エバポレーターで反応液を濃縮し、濃縮後の粗生成物をカラム精製した(展開溶媒は酢酸エチル:ヘキサン=2:1)。メイン成分のみを分取した溶離液をエバポレーターで濃縮後、乾燥しMMTODを13.15g得た(収率:69%、純度:98.39)。なお、MMTODは、以下の化学構造を有する。
【0097】
【化18】
【0098】
[実施例2]ポリカーボネート樹脂の製造
MMTODを2.3質量部(20mоl%)、9,9-ビス[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]フルオレン(以下、BPEFと省略することがある)17.54質量部(80mоl%)、ジフェニルカーボネート(以下、DPCと省略することがある)10.82質量部(101mоl%)、及び触媒として濃度60mmol/Lの濃度で炭酸水素ナトリウムを2.10×10-4質量部(5.00×10-3mоl%)を加え、窒素雰囲気下180℃に加熱し溶融させた。その後、5分間かけて減圧度を20kPaに調整した。40℃/hrの昇温速度で250℃まで昇温を行い、フェノールの流出量が70%になった後で40kPa/hrで減圧し、所定の電力に到達するまで重合反応を行い、反応終了後フラスコから樹脂を取り出した。得られたポリカ―ボネート樹脂を、HNMRにより分析し、MMTOD成分が全モノマーに対して20mоl%、BPEF成分が全モノマー成分に対して80mоl%導入されていることを確認した。該ポリカ―ボネート樹脂を用いて、共重合比、分子量、屈折率、アッベ数、吸水率、5%重量減少温度を評価し結果を表1に、バイオマス度を表2に示した。なお、BPEFは、以下の化学構造を有する。
【0099】
【化19】
【0100】
[実施例3]ポリカーボネート樹脂の製造
MMTODとBPEFの比率を36:64(mol%)に変更した以外は変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。該ポリカ―ボネート樹脂を用いて、共重合比、分子量、屈折率、アッベ数、吸水率、5%重量減少温度を評価し結果を表1に、バイオマス度を表2に示した。
【0101】
[実施例4]ポリカーボネート樹脂の製造
MMTODとBPEFの比率を49:51(mol%)に変更した以外は変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。該ポリカ―ボネート樹脂を用いて、共重合比、分子量、屈折率、アッベ数、吸水率、5%重量減少温度を評価し結果を表1に、バイオマス度を表2に示した。
【0102】
[比較例1]ポリカーボネート樹脂の製造
MMTODの代わりにイソソルビド(以下、「ISS」と省略することがある)を使用し、ISSとBPEFの比率を20:80(mol%)に変更した以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した。該ポリカ―ボネート樹脂を用いて、共重合比、分子量、屈折率、アッベ数、吸水率、5%重量減少温度を評価し結果を表1に、バイオマス度を表2に示した。なお、ISSは、以下の化学構造を有する。
【0103】
【化20】
【0104】
[比較例2]ポリカーボネート樹脂の製造
MMTODの代わりにISSを使用し、ISSとBPEFの比率を40:60(mol%)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、ポリカーボネート樹脂を製造した該ポリカ―ボネート樹脂を用いて、共重合比、分子量、屈折率、アッベ数、吸水率、5%重量減少温度を評価し結果を表1に、バイオマス度を表2に示した。
【0105】
【表1】
【0106】
【表2】
【0107】
実施例2~4で得られた熱可塑性樹脂は、MMTODの比率を増加させても吸水率が増加することなく、ISSと同等の優れた光学特性を維持しており、バイオマス度を高くすることができる。これに対して、比較例の熱可塑性樹脂は、光学特性は優れるものの、共重合比を増加させると吸水率が増加し、バイオマス度を高くすることができない。
【0108】
MMTODのような構造は、優れた光学特性を維持しつつ、低い吸水率であるため、低屈折率化ならびに高アッベ数化、バイオマス度向上に効果的である。
【産業上の利用可能性】
【0109】
本発明の熱可塑性樹脂は、光学特性に優れ、吸水率が低いことから、光学材料として好適に用いられ、具体的に光学レンズ、プリズム、光ディスク、透明導電性基板、光カード、シート、フィルム、光ファイバー、光学膜、光学フィルター、ハードコート膜等の光学部材として用いることができ、特に光学レンズ材料として極めて有用である。
図1
図2
図3
図4
図5