(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139358
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】ホワイトニングシートおよびマウスピース
(51)【国際特許分類】
A61C 17/00 20060101AFI20230927BHJP
A61C 19/06 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
A61C17/00 Z
A61C19/06 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044847
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000231361
【氏名又は名称】NISSHA株式会社
(72)【発明者】
【氏名】山本 博美
(72)【発明者】
【氏名】岸 圭司
(72)【発明者】
【氏名】岡部 貴広
【テーマコード(参考)】
4C052
【Fターム(参考)】
4C052AA20
(57)【要約】
【課題】従来よりも溶解時間が長いためにホワイトニング剤が歯に浸透しやすく、歯の色ムラが発生しにくいホワイトニングシートと、そのようなマウスピースを提供する。
【解決手段】ホワイトニングシートは、支持体と、支持体に積層され、歯用ホワイトニング剤を含む薬剤層とを備え、薬剤層が、多糖類を薬剤層の60重量%以上65重量%以下含む。マウスピースは、歯に接する面から順に、歯用ホワイトニング剤を含む薬剤層と、厚みが80μm以上300μmの熱可塑性樹脂シートである支持体とが積層されており、薬剤層が、多糖類を薬剤層の60重量%以上65重量%以下含む。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と、
前記支持体に積層され、歯用ホワイトニング剤を含む薬剤層とを備え、
前記薬剤層が、多糖類を前記薬剤層の60重量%以上65重量%以下含む、ホワイトニングシート。
【請求項2】
前記薬剤層が歯周病予防剤および虫歯予防剤の少なくとも一方をさらに含む、請求項1に記載のホワイトニングシート。
【請求項3】
前記支持体が熱可塑性樹脂シートであり、厚みが80μm以上300μm以下である、請求項1または2に記載のホワイトニングシート。
【請求項4】
前記ホワイトニングシートの前記薬剤層が使用者の歯列表面に貼り付けられた後に、前記薬剤層が前記支持体から剥離可能なように構成された、請求項1または2に記載のホワイトニングシート。
【請求項5】
使用者の歯列を覆うように装着され、前記歯列の歯の形状および配列に対応した形状を有するマウスピースであって、
前記マウスピースの前記歯に接する面から順に、
歯用ホワイトニング剤を含む薬剤層と、
厚みが80μm以上300μm以下の熱可塑性樹脂シートである支持体とが積層されており、
前記薬剤層が、多糖類を前記薬剤層の60重量%以上65重量%以下含む、マウスピース。
【請求項6】
前記薬剤層が歯周病予防剤および虫歯予防剤の少なくとも一方をさらに含む、請求項5に記載のマウスピース。
【請求項7】
前記歯列を矯正するためのマウスピースであって、請求項5または6に記載のマウスピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホワイトニングシートおよびマウスピースに関する。
【背景技術】
【0002】
歯を白くするために、使用者が自ら歯に貼り付けて用いるホワイトニングシートが知られている(たとえば、特許文献1参照)。
図5を参照して、このホワイトニングシート100は、ホワイトニング剤を含有する水溶性の薬剤層300のみからなる、単層のシートである。このホワイトニングシート100は、支持体を含まないため、歯の上にある間に残留物なく完全に溶解する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来のホワイトニングシートの溶解時間は5~20分程度と比較的短いため、ホワイトニング剤が歯の内部に浸透しにくく、歯の色ムラが発生するという問題があった。
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、従来よりも溶解時間が長いためにホワイトニング剤が歯に浸透しやすく、歯の色ムラが発生しにくいホワイトニングシートと、そのようなマウスピースを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記の目的を達成するための第1の発明は、
支持体と、
支持体に積層され、歯用ホワイトニング剤を含む薬剤層とを備え、
薬剤層が、多糖類を薬剤層の60重量%以上65重量%以下含む、ホワイトニングシートである。
【0006】
第2の発明は、第1の発明において、薬剤層が歯周病予防剤および虫歯予防剤の少なくとも一方をさらに含むホワイトニングシートである。
【0007】
第3の発明は、第1または第2の発明において、支持体が熱可塑性樹脂シートであり、厚みが80μm以上300μm以下であるホワイトニングシートである。
【0008】
第4の発明は、第1または第2の発明において、ホワイトニングシートの薬剤層が使用者の歯列表面に貼り付けられた後に、薬剤層が支持体から剥離可能なように構成されたホワイトニングシートである。
【0009】
第5の発明は、使用者の歯列を覆うように装着され、歯列の歯の形状および配列に対応した形状を有するマウスピースであって、
マウスピースの歯に接する面から順に、
歯用ホワイトニング剤を含む薬剤層と、
厚みが80μm以上300μmの熱可塑性樹脂シートである支持体とが積層されており、
薬剤層が、多糖類を薬剤層の60重量%以上65重量%以下含む、マウスピースである。
【0010】
第6の発明は、第5の発明において、薬剤層が歯周病予防剤および虫歯予防剤の少なくとも一方をさらに含むマウスピースである。
【0011】
第7の発明は、歯列を矯正するためのマウスピースであって、第5または第6の発明のマウスピースである。
【発明の効果】
【0012】
本発明のホワイトニングシートおよびマウスピースは、従来よりも溶解時間が長いためにホワイトニング剤が歯に浸透しやすく、歯の色ムラが発生しにくい。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】(a)ホワイトニングシートの一実施形態を示す模式的な斜視図。(b)(a)のA-A断面図。
【
図2】(a)湾曲状のホワイトニングシートの一例を示す模式的な平面図。(b)丸みのある角部および切込を有するホワイトニングシートの一例を示す模式的な平面図。
【
図3】ホワイトニングシートの別の例を示す模式的な断面図。
【
図4】(a)マウスピースの一実施形態を示す模式的な斜視図。(b)(a)のA-A断面図。
【
図5】従来のホワイトニングシートを示す模式的な斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1を参照して、本実施形態のホワイトニングシート1は、支持体2と、支持体2に積層され、歯用ホワイトニング剤を含む薬剤層3とを備え、薬剤層3が、多糖類を薬剤層3の60重量%以上65重量%以下含むものである。
【0015】
図1(a)を参照して、ホワイトニングシート1は、長さが幅よりも大きい長方形であり、使用者の任意の歯列表面を覆う大きさである。ホワイトニングシート1の大きさは、たとえば、長さ50mm、幅25mm、厚み50μmである。
【0016】
支持体2は、その上に形成される薬剤層3を支持する。支持体2の形状は、
図1(a)に示す長方形の他、たとえば湾曲状(
図2(a)参照)、丸みのある角部を有する長方形(
図2(b)参照)といった曲線部分を有する形状であってもよい。また、支持体2は、ホワイトニングシート1を歯列に貼りやすいように切込2aを有していてもよい(
図2(b)参照)。切込2aは、図に示すように支持体2の長辺の両方に有してもよいし、一方の長辺のみに有してもよい。
支持体2の材料は、歯列に沿って変形可能な程度の柔軟性を有するものであり、たとえば樹脂シートなどを用いることができる。特に、支持体2が熱可塑性樹脂シートであり、厚みが80μm以上300μm以下であると、後述するようにホワイトニングシート1を成形してマウスピースを得ることができる。
【0017】
薬剤層3は、支持体2の上に積層されており、歯用ホワイトニング剤を含む。薬剤層3の表面3aが、使用者の歯列表面に貼り付けられる。ここで歯列表面とは、使用者の歯の表側の面を少なくとも含み、歯の裏側の面およびかみ合わせ面を含んでもよい。歯用ホワイトニング剤としては、公知の物質を用いることができ、たとえばフィチン酸、ポリリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、ポリアスパラギン酸ナトリウム、メタリン酸、リンゴ酸などを用いることができる。薬剤層3の厚みは、たとえば45μm以上50μm以下である。薬剤層3は、たとえばスクリーン印刷、コーティングなどの方法で形成できる。
【0018】
ホワイトニングシート1は、薬剤層3が使用者の歯列表面に貼り付けられた後に、薬剤層3が支持体2から剥離可能なように構成されてもよい。たとえば
図3を参照して、このような構成としては、支持体2の薬剤層3が積層される面に剥離層4が積層された構成、支持体2の材料に薬剤層3との密着性が低いものを用いる構成などが挙げられる。
【0019】
薬剤層3は、多糖類を薬剤層3の60重量%以上65重量%以下含む。ホワイトニングシート1は、従来のホワイトニングシート100の薬剤層300よりも多く多糖類を含むため、従来よりも薬剤層3の溶解時間を長くすることができる。薬剤層3の溶解時間は、たとえば従来の薬剤層300と同じ厚み(50μm)の場合、30分以上65分以下である。
多糖類の含有量が60重量%未満であると、薬剤層3の溶解時間が30分未満となる。また、多糖類の含有層が65重量%を超えると、薬剤層3の粘度が増加するため、層形成が困難になる。
多糖類としては、たとえばプルラン、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カラギーナンなどを用いることができる。
【0020】
薬剤層3は、歯周病予防剤および虫歯予防剤の少なくとも一方をさらに含んでもよい。歯周病予防剤としては、たとえばβ-グリチルレチン酸、トラネキサム酸、グリチルリチン酸ジカリウム、イソプロピルメチルフェノール、塩化セチルピリジニウム、トリクロサン、オウパクエキス、酢酸トコフェノールなどを用いることができる。
虫歯予防剤としては、たとえばモノフルオロリン酸ナトリウム、フッ化ナトリウム、デキストラナーゼなどを用いることができる。
なお、薬剤層3は香料、甘味剤、着色剤などの添加剤を含んでもよい。
【0021】
ホワイトニングシート1は、薬剤層3が多糖類を薬剤層3の60重量%以上65重量%以下含むことで、従来のホワイトニングシート100よりも薬剤層3の溶解時間を長くすることができるため、歯用ホワイトニング剤を歯に浸透させやすく、歯の色ムラが発生しにくい。
【0022】
図4を参照して、本実施形態のマウスピース4は、使用者の歯列を覆うように装着され、歯列の歯の形状および配列に対応した形状を有するマウスピース4であって、マウスピース4の歯に接する面から順に、歯用ホワイトニング剤を含む薬剤層3と、厚みが80μm以上300μm以下の熱可塑性樹脂シートである支持体2とが積層されており、薬剤層3が、多糖類を薬剤層3の60重量%以上65重量%以下含むものである。
【0023】
図4(b)を参照して、マウスピース5は、使用者の歯列の歯の形状および配列に対応した形状をしている。つまり、マウスピース5は使用者一人ひとりの歯列に合った形状をしている。また、マウスピース5は、使用者の歯列を覆う凹部5aを有する。凹部5aの内側から順に、薬剤層3と支持体2とが積層されている。薬剤層3の表面3aが使用者の歯表面に接触し続けることで、薬剤層3に含まれる歯用ホワイトニング剤が歯に浸透していく。
なお、薬剤層3の具体的な内容については、
図1を参照して説明した上記ホワイトニングシート1の内容と同じである。
【0024】
マウスピース5は、
図1に示すようなホワイトニングシート1を加熱して、真空成形または加圧成形することによって製造する。このとき、支持体2に熱可塑性樹脂シートを用いると、加熱によって加工がしやすくなる。また、熱可塑性樹脂シートの厚みが80μm以上300μm以下であると、真空成形または加圧成形しても、熱可塑性樹脂シートが破断するなどの不具合が生じにくい。
【0025】
マウスピース5は、使用者一人ひとりの歯列に合った形状であり、歯表面に接触する薬剤層3が薬剤層3の外側にある支持体2によって支持され、使用者の歯列を覆うように装着される。つまり、薬剤層3を歯表面に接触させ続けることができるため、歯用ホワイトニング剤が歯に浸透しやすく、歯の色ムラが発生しにくい。また、薬剤層3が多糖類を薬剤層3の60重量%以上65重量%以下含むことで、従来よりも薬剤層3の溶解時間を長くすることができるため、歯用ホワイトニング剤をより歯に浸透させやすく、歯の色ムラが発生しにくい。
【0026】
なお、マウスピース5は、使用者の歯列を矯正するための矯正用マウスピースであってもよい。矯正用マウスピースの形状は、使用者の歯列にわずかに整合していない。そのため、矯正用マウスピースを装着すると、特定位置で制御された力が加わり、歯を使用者の所望の配列に徐々に移動させる。新しい歯の配列に対応した矯正用マウスピースを使い、この過程を繰り返すと、最終的に歯は使用者の所望の配列となる。
【0027】
なお、マウスピース5の薬剤層3が溶解した後は、たとえば次の2種類の方法で再度歯のホワイトニングをすることができる。1種類目は、ホワイトニングシート1を歯に貼ってマウスピース5を装着する方法である。2種類目は、薬剤層3のみを歯に貼ってマウスピース5を装着する方法である。ここで、薬剤層3のみを貼る方法としては、薬剤層3のみからなるホワイトニングシートを貼る方法、または薬剤層3が剥離可能になるような加工を支持体2に施し、薬剤層3を歯表面に転写する方法が挙げられる。
【実施例0028】
(実施例1~3)
歯用ホワイトニング剤としてフィチン酸(中和)50%水溶液を、多糖類としてプルランをそれぞれ用い、表1に示す処方で薬剤層をスクリーン印刷によって支持体の上に形成し、ホワイトニングシートを得た。多糖類の含有量は61.8重量%である。
【0029】
(実施例4~7)
多糖類の含有量を変えたこと以外は実施例1~3と同様とし、表2に示す処方で薬剤層をスクリーン印刷によって支持体の上に形成し、ホワイトニングシートを得た。多糖類の含有量は64.7重量%である。
【0030】
【0031】
【0032】
(比較例1)
従来のホワイトニングシートとして、多糖類を薬剤層の約50重量%含むホワイトニングシート(花王製、クリアクリーンプレミアム濃密美歯パックハミガキA(販売名))を用いた。
【0033】
ビーカーに40℃の水50mlを入れ、300rpmで撹拌しながら、ホワイトニングシートの溶解時間を測定した。実施例1~7および比較例1について、それぞれ2回測定し、平均時間を溶解時間とした。結果を表3および表4に示す。
【0034】
【0035】
【0036】
実施例3および実施例7は、比較例1と同等の厚みであるが、比較例1よりも多く多糖類を含有しているため、溶解時間が長くなった。また、実施例1、実施例4および実施例5は、薬剤層の厚みが比較例1の半分程度またはそれよりも小さいが、比較例1よりも多く多糖類を含有しているため、溶解時間が比較例1よりも長くなった。
これらのことから、薬剤層が多糖類を60重量%以上65重量%以下含むホワイトニングシートは、従来のホワイトニングシートよりも溶解時間を長くすることができる。また、薬剤層の厚みを従来よりも小さくしても、溶解時間を長く保つことができる。