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特開2023-139383エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、繊維強化複合材料、及び圧力容器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139383
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】エポキシ樹脂組成物、プリプレグ、繊維強化複合材料、及び圧力容器
(51)【国際特許分類】
   C08L 63/00 20060101AFI20230927BHJP
   C08L 51/04 20060101ALI20230927BHJP
   C08K 5/09 20060101ALI20230927BHJP
   C08K 5/17 20060101ALI20230927BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20230927BHJP
   B29C 70/32 20060101ALI20230927BHJP
   F17C 1/06 20060101ALI20230927BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C08L63/00 A
C08L51/04
C08K5/09
C08K5/17
C08J5/04 CFC
B29C70/32
F17C1/06
F16J12/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044886
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新田 直毅
(72)【発明者】
【氏名】坂根 裕之
【テーマコード(参考)】
3E172
3J046
4F072
4F205
4J002
【Fターム(参考)】
3E172AA02
3E172AA05
3E172AB01
3E172BA01
3E172BB03
3E172BB12
3E172BB17
3E172BC04
3E172BD03
3E172BD10
3E172DA36
3J046AA01
3J046AA14
3J046AA20
3J046BA03
3J046CA04
3J046EA10
4F072AA07
4F072AB06
4F072AB08
4F072AB09
4F072AB10
4F072AB22
4F072AB28
4F072AB29
4F072AB30
4F072AD02
4F072AD09
4F072AD26
4F072AD28
4F072AD34
4F072AD52
4F072AE03
4F072AE04
4F072AE23
4F072AF27
4F072AF30
4F072AG03
4F072AG06
4F072AH25
4F072AH31
4F072AH44
4F072AH49
4F072AJ04
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4F072AK05
4F072AK06
4F072AK11
4F072AK14
4F072AL02
4F072AL16
4F205AA39
4F205AD12
4F205AD16
4F205AG07
4F205AH55
4F205HA02
4F205HA23
4F205HA33
4F205HA37
4F205HA46
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4F205HF01
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4F205HL02
4F205HT22
4J002BN12X
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4J002BN16X
4J002BN17X
4J002BN22X
4J002CD00W
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4J002CD05W
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4J002CD12W
4J002DD037
4J002DK007
4J002EF126
4J002EN017
4J002FD146
4J002FD158
4J002GG00
4J002GQ00
(57)【要約】
【課題】繊維強化複合材料及び圧力容器等の製造で使用可能なエポキシ樹脂組成物であって、繊維に含浸させることが可能であり、かつ硬化後には良好な耐圧性と耐疲労特性を示すエポキシ樹脂組成物の提供。
【解決手段】液状エポキシ樹脂(A)100重量部、酸無水物(B)50~150重量部、ルイス酸アミン錯体(C)0.1~20重量部、及び、コアシェル構造を有するポリマー粒子(D)1~50重量部、を含有するエポキシ樹脂組成物。酸無水物(B)は脂環式酸無水物であることが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
液状エポキシ樹脂(A)100重量部、
酸無水物(B)50~150重量部、
ルイス酸アミン錯体(C)0.1~20重量部、及び、
コアシェル構造を有するポリマー粒子(D)1~50重量部、を含有する、エポキシ樹脂組成物。
【請求項2】
酸無水物(B)が、脂環式酸無水物である、請求項1に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂環式酸無水物が、置換又は無置換のテトラヒドロフタル酸無水物、置換又は無置換のヘキサヒドロフタル酸無水物、置換又は無置換のメチルナド酸無水物、及び、置換又は無置換の水素化メチルナド酸無水物からなる群より選択される少なくとも1種である、請求項2に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項4】
コアシェル構造を有するポリマー粒子(D)は、ジエン系ゴムを含むコア層を有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項5】
コアシェル構造を有するポリマー粒子(D)は、(メタ)アクリレートモノマーを構成単量体単位として含むシェル層を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項6】
コアシェル構造を有するポリマー粒子(D)は、エポキシ基を有するシェル層を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項7】
ルイス酸アミン錯体(C)が、三ハロゲン化ホウ素アミン錯体である、請求項1~6のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項8】
前記エポキシ樹脂組成物、炭素繊維、及びアルミライナーを使用し、ウェットフィラメントワインディング法により成型し、120℃で3時間硬化させて得られる圧力容器の、非水槽式破裂試験により測定した破裂強度Pと、最大圧力20MPa、最小圧力2MPaの内圧を10000サイクル負荷させた後に非水槽式破裂試験により測定した破裂強度Pの比(P/P)が0.5以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物。
【請求項9】
繊維、及び、該繊維に含浸した請求項1~8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物、を含む、プリプレグ。
【請求項10】
繊維、及び、請求項1~8のいずれか1項に記載のエポキシ樹脂組成物の硬化物、を含む、繊維強化複合材料。
【請求項11】
容器本体、及び、該容器本体の外面を被覆する請求項10に記載の繊維強化複合材料、を含む、圧力容器。
【請求項12】
フィラメントワインディング法により成型した、請求項11に記載の圧力容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エポキシ樹脂組成物、並びに、該組成物を用いたプリプレグ、繊維強化複合材料、及び圧力容器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、燃料電池内で水素と酸素の化学反応によって発電した電気エネルギーで、モーターを回して走行する燃料電池自動車が実用化されている。そのような燃料電池自動車には、エネルギー源である水素を高圧で圧縮して貯蔵する圧力容器が搭載されている。
【0003】
そのような圧力容器には、軽量化と耐圧性を両立することが求められる。そのような要求を満足するものとして、ガスバリア性を有するプラスチック又は金属製の中空容器(タンクライナーともいう)の外表面を、繊維強化複合材料、特に炭素繊維強化プラスチック(CFRP)で補強して耐圧性を付与した圧力容器が利用されている。
【0004】
繊維強化複合材料を用いた圧力容器を製造する技術としては、硬化性樹脂組成物を含侵させてなる繊維を、前記タンクライナーの外表面に巻き付けた(フィラメントワインディング)後、加熱して前記硬化性樹脂組成物を硬化させて繊維強化複合材料とする手法が知られている。
【0005】
このような圧力容器の製造では、前記硬化性樹脂組成物として、エポキシ樹脂を主体とする硬化性組成物を使用できることが知られており、また、当該硬化性組成物に対しコアシェル型ポリマー粒子を配合して靭性を向上させることが報告されている(例えば、特許文献1~3を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2016/002777号
【特許文献2】特開2020-51538号公報
【特許文献3】特表2016-518469号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
水素タンク等として使用される圧力容器は、高度な耐圧性を満足すると共に、繰り返し使用に対する耐性、即ち耐疲労特性が良好であることが求められる。しかし、従来知られているエポキシ樹脂組成物では、これらの特性を十分なレベルで達成することが困難であった。
【0008】
特許文献1及び2に記載のようにエポキシ樹脂にコアシェル型ポリマー粒子を配合して靭性を向上させることは報告されているが、コアシェル型ポリマー粒子を配合すると樹脂組成物の繊維への含浸性が低下してしまい、靭性の向上と繊維への含浸性を両立することが困難であった。
【0009】
特許文献3では、樹脂組成物の粘度を抑制しつつ靭性向上を図るため、コアシェル型ポリマー粒子に加えてポリオールを配合することが記載されている。しかしポリオールは、樹脂組成物の耐熱性を著しく低下させる。圧力容器は過酷な高温環境に晒されることがあるため、圧力容器の材料に、耐熱性を低下させるポリオールを使用することは望ましくない。
【0010】
本発明は、上記現状に鑑み、繊維強化複合材料及び圧力容器等の製造で使用可能なエポキシ樹脂組成物であって、繊維に含浸させることが可能であり、かつ硬化後には良好な耐圧性と耐疲労特性を示すエポキシ樹脂組成物、並びに、該組成物を用いたプリプレグ、繊維強化複合材料、及び圧力容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、コアシェル型ポリマー粒子の配合による靭性向上に加えて、樹脂組成物の配合を検討することで樹脂組成物を低粘度化できる成分の組合せを見出した。驚くべきことに、コアシェル型ポリマー粒子の配合によって靭性が向上した樹脂組成物の低粘度化は、繊維への含浸性を良好にして成型不良を低減するだけではなく、耐疲労特性の劇的な向上をもたらすことを見出し、本発明に至った。
【0012】
すなわち本発明は、液状エポキシ樹脂(A)100重量部、
酸無水物(B)50~150重量部、
ルイス酸アミン錯体(C)0.1~20重量部、及び、
コアシェル構造を有するポリマー粒子(D)1~50重量部、を含有する、エポキシ樹脂組成物に関する。
好ましくは、酸無水物(B)が、脂環式酸無水物である。
好ましくは、前記脂環式酸無水物が、置換又は無置換のテトラヒドロフタル酸無水物、置換又は無置換のヘキサヒドロフタル酸無水物、置換又は無置換のメチルナド酸無水物、及び、置換又は無置換の水素化メチルナド酸無水物からなる群より選択される少なくとも1種である。
好ましくは、コアシェル構造を有するポリマー粒子(D)は、ジエン系ゴムを含むコア層を有する。
好ましくは、コアシェル構造を有するポリマー粒子(D)は、(メタ)アクリレートモノマーを構成単量体単位として含むシェル層を有する。
好ましくは、コアシェル構造を有するポリマー粒子(D)は、エポキシ基を有するシェル層を有する。
好ましくは、ルイス酸アミン錯体(C)が、三ハロゲン化ホウ素アミン錯体である。
好ましくは、前記エポキシ樹脂組成物、炭素繊維、及びアルミライナーを使用し、ウェットフィラメントワインディング法により成型し、120℃で3時間硬化させて得られる圧力容器の、非水槽式破裂試験により測定した破裂強度Pと、最大圧力20MPa、最小圧力2MPaの内圧を10000サイクル負荷させた後に非水槽式破裂試験により測定した破裂強度Pの比(P/P)が0.5以上である。
また本発明は、繊維、及び、該繊維に含浸した前記エポキシ樹脂組成物、を含む、プリプレグにも関する。
さらに本発明は、繊維、及び、前記エポキシ樹脂組成物の硬化物、を含む、繊維強化複合材料にも関する。
さらにまた本発明は、容器本体、及び、該容器本体の外面を被覆する前記繊維強化複合材料、を含む、圧力容器にも関する。当該圧力容器はフィラメントワインディング法により成型したものが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、繊維強化複合材料及び圧力容器等の製造で使用可能なエポキシ樹脂組成物であって、繊維に含浸させることが可能であり、かつ硬化後には良好な耐圧性と耐疲労特性を示すエポキシ樹脂組成物、並びに、該組成物を用いたプリプレグ、繊維強化複合材料、及び圧力容器を提供することができる。
本発明の好適な態様によると、耐熱性を低下させる成分であるポリオールを配合することなく、繊維への含浸性が良好で、硬化後には良好な耐圧性と耐疲労特性を示すエポキシ樹脂組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の実施形態を詳細に説明する。
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、少なくとも、液状エポキシ樹脂(A)100重量部、酸無水物(B)50~150重量部、ルイス酸アミン錯体(C)0.1~20重量部、及び、コアシェル構造を有するポリマー粒子(D)1~50重量部、を含有する。
【0015】
<液状エポキシ樹脂(A)>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、硬化性樹脂として、液状エポキシ樹脂(A)を含有する。液状エポキシ樹脂とは、常温又は加熱下で液状を呈するエポキシ樹脂のことをいう。液状エポキシ樹脂としては、各種の液状エポキシ樹脂を使用することができる。例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールAD型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAプロピレンオキシド付加物のグリシジルエーテル型エポキシ樹脂、水添ビスフェノールA(又はF)型エポキシ樹脂、フッ素化エポキシ樹脂、テトラブロモビスフェノールAのグリシジルエーテルなどの難燃型エポキシ樹脂、p-オキシ安息香酸グリシジルエーテルエステル型エポキシ樹脂、m-アミノフェノール型エポキシ樹脂、ジアミノジフェニルメタン系エポキシ樹脂、各種脂環式エポキシ樹脂、N,N-ジグリシジルアニリン、N,N-ジグリシジル-o-トルイジン、トリグリシジルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンジオキシド、レゾルシノールジグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル、グリコールジグリシジルエーテル、脂肪族多塩基酸のジグリシジルエステル、グリセリンのような二価以上の多価脂肪族アルコールのグリシジルエーテル、キレート変性エポキシ樹脂、ゴム変性エポキシ樹脂、ウレタン変性エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、石油樹脂などのような不飽和重合体のエポキシ化物、含アミノグリシジルエーテル樹脂や、上記のエポキシ樹脂にビスフェノールA(又はF)類または多塩基酸類等を付加反応させて得られるエポキシ化合物などが例示されるが、これらに限定されるものではなく、一般に使用されているエポキシ樹脂が使用され得る。これらエポキシ樹脂は単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0016】
これらのエポキシ樹脂の中でもエポキシ基を一分子中に少なくとも2個有するものが、硬化性が高く、硬化後の機械的特性に優れるなどの点から好ましい。前記のエポキシ樹脂の中でもエポキシ基を一分子中に2個有するものが、硬化後の可撓性に富み、ポリマー粒子(D)の配合による耐疲労特性向上効果に優れるなどの点から特に好ましい。
【0017】
前記のエポキシ樹脂の中でも、分子内に芳香環構造もしくは脂環構造を有するものが、硬化後の耐熱性に優れるなどの点から好ましい。
【0018】
前記のエポキシ樹脂の中でも、ビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂は、得られる硬化物の弾性率が高く、耐熱性および耐圧性に優れ、比較的安価であるため好ましく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が特に好ましい。
【0019】
また、各種のエポキシ樹脂の中でも、エポキシ当量が220未満のエポキシ樹脂は、得られる硬化物の弾性率および耐熱性が高いため好ましく、エポキシ当量は90以上210未満がより好ましく、150以上200未満が更に好ましい。
【0020】
特に、エポキシ当量が220未満のビスフェノールA型エポキシ樹脂やビスフェノールF型エポキシ樹脂は、常温で液体であり、得られるエポキシ樹脂組成物の取扱い性が良いため好ましい。
【0021】
<酸無水物(B)>
本実施形態では、液状エポキシ樹脂(A)の硬化剤として、酸無水物(B)と、ルイス酸アミン錯体(C)を併用する。酸無水物(B)を配合することによって、エポキシ樹脂組成物を低粘度化し、繊維への含浸性を改善できると共に、エポキシ樹脂組成物の硬化を促進することができる。また、エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物の耐圧性及び耐疲労特性を良好なものにすることができる。
【0022】
酸無水物(B)としては特に限定されないが、例えば、ポリセバシン酸ポリ無水物、ポリアゼライン酸ポリ無水物、無水コハク酸、シトラコン酸無水物、イタコン酸無水物、アルケニル置換コハク酸無水物、オクテニルコハク酸無水物、ドデセニルコハク酸無水物、無水マレイン酸、トリカルバリル酸無水物、ナド酸無水物、メチルナド酸無水物、水素化メチルナド酸無水物、無水マレイン酸によるリノール酸付加物、アルキル化末端アルキレンテトラヒドロフタル酸無水物、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、トリアルキルテトラヒドロフタル酸無水物、ピロメリット酸二無水物、トリメリット酸無水物、無水フタル酸、テトラクロロフタル酸無水物、テトラブロモフタル酸無水物、ジクロロマレイン酸無水物、クロロナド酸無水物、クロレンド酸無水物、無水マレイン酸-グラフト化ポリブタジエン等が挙げられる。酸無水物(B)としては1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0023】
中でも、エポキシ樹脂組成物の低粘度化効果が良好で、繊維への含浸性を更に改善して、結果、硬化物の耐圧性及び耐疲労特性をより良好にすることができるため、酸無水物(B)としては、脂環式酸無水物が好ましい。なかでも、置換又は無置換のテトラヒドロフタル酸無水物、置換又は無置換のヘキサヒドロフタル酸無水物、置換又は無置換のメチルナド酸無水物、置換又は無置換の水素化メチルナド酸無水物がより好ましい。これら酸無水物が有してもよい置換基としては特に限定されず、例えば、炭化水素基やアルコキシ基等が挙げられる。
【0024】
前記脂環式酸無水物としては、メチルテトラヒドロフタル酸無水物、テトラヒドロフタル酸無水物、ヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルヘキサヒドロフタル酸無水物、メチルナド酸無水物、水素化メチルナド酸無水物が特に好ましい。
【0025】
酸無水物(B)の配合量は、エポキシ樹脂組成物の硬化性や、硬化物の耐圧性及び耐疲労特性のバランスの観点から、液状エポキシ樹脂(A)の総量100重量部に対して、50~150重量部であることが好ましく、55~130重量部がより好ましく、60~120重量部がさらに好ましく、65~110重量部がより更に好ましく、70~100重量部が特に好ましい。
【0026】
また、エポキシ樹脂組成物の硬化性や、硬化物の耐圧性及び耐疲労特性のバランスの観点から、液状エポキシ樹脂(A)が有するエポキシ基に対して、酸無水物(B)が有する酸無水物基は、0.5~1.5当量であることが好ましく、0.7~1.3当量がより好ましく、0.8~1.2当量がさらに好ましく、0.9~1.1当量が特に好ましい。
【0027】
<ルイス酸アミン錯体(C)>
ルイス酸アミン錯体(C)は、潜在性の硬化促進剤であり、エポキシ樹脂組成物の常温での可使時間(ポットライフ)を確保する一方、加熱することにより、エポキシ樹脂組成物の硬化を促進し、(B)成分と併存することで、比較的穏和な硬化条件下で短時間での硬化を実現できる。また、エポキシ樹脂組成物を硬化させて得られる硬化物の耐圧性及び耐疲労特性を良好なものとすることができる。ルイス酸アミン錯体(C)としては1種類のみを使用してもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0028】
ルイス酸アミン錯体(C)を構成するルイス酸としては特に限定されず、例えば、塩化チタン、塩化錫、塩化ジルコニウム、塩化アルミニウム、塩化鉄、塩化亜鉛、塩化銅、塩化アンチモン、塩化ガリウム、塩化インジウム、臭化チタン、臭化錫、臭化ジルコニウム、臭化アルミニウム、臭化鉄、臭化亜鉛、臭化銅などのハロゲン化金属;三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、三ヨウ化ホウ素などの三ハロゲン化ホウ素;トリフルオロメタンスルホン酸トリメチルシリル、スカンジウムトリフラート、イットリウムトリフラート、ジンクトリフラートなどの金属トリフラート化合物;等が挙げられる。
【0029】
液状エポキシ樹脂(A)への溶解性が良好であるため、前記ルイス酸の中でも、三ハロゲン化ホウ素が好ましく、三フッ化ホウ素または三塩化ホウ素がより好ましく、三塩化ホウ素が特に好ましい。
【0030】
ルイス酸アミン錯体(C)を構成するアミンとしては特に限定されず、例えば、アンモニア、モノエチルアミン、トリエチルアミン、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU)、ピリジン、ピペリジン、アニリン、モルホリン、シクロヘキシルアミン、n-ブチルアミン、ジブチルアミン、シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミン、トリブチルアミン、ジメチルオクチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等が挙げられる。
【0031】
ルイス酸アミン錯体(C)の配合量は、エポキシ樹脂組成物の硬化性や、硬化物の耐圧性及び耐疲労特性のバランスの観点から、液状エポキシ樹脂(A)の総量100重量部に対して、0.1~20重量部であることが好ましく、0.3~15重量部がより好ましく、0.5~10重量部がさらに好ましく、0.7~8重量部がより更に好ましく、1~5重量部が特に好ましい。
【0032】
ルイス酸アミン錯体(C)の配合量は、エポキシ樹脂組成物の常温での可使時間(ポットライフ)が十分確保できる、加熱時の硬化反応加速効果が優れるなどの点から、酸無水物(B)100重量部に対して0.1~10重量部が好ましく、0.5~7重量部がより好ましく、1~5重量部が特に好ましい。
【0033】
<コアシェルポリマー粒子(D)>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、(D)成分として、コアシェル構造を有するポリマー粒子を含有する。以下では、コアシェル構造を有するポリマー粒子(D)を、コアシェルポリマー粒子(D)又はポリマー粒子(D)ともいう。
【0034】
コアシェルポリマー粒子(D)の配合によって、エポキシ樹脂組成物の硬化物の靭性を高めることができる。一方、コアシェルポリマー粒子(D)は、エポキシ樹脂組成物の粘度を上昇させる傾向がある。樹脂組成物の粘度が高いと、繊維間に樹脂組成物を十分に充填することができず、硬化物の表面外観を悪化させる場合がある。加えて、硬化物中に空隙(ボイド)が形成されやすくなる。しかしながら、本実施形態によると、コアシェルポリマー粒子(D)に加えて、上述した(B)成分を配合することで、強靭化されたエポキシ樹脂組成物を低粘度化することができ、これによって、繊維間に、強靭化された樹脂組成物が十分に満たされ、高度な強靭化を実現でき、耐疲労特性を劇的に改善することができる。
【0035】
コアシェルポリマー粒子(D)は、シェル層にエポキシ基を有しないものであってもよいが、シェル層にエポキシ基を有するものが好ましい。この時、ポリマー粒子(D)の総量に対する、前記シェル層が有するエポキシ基の含有量は、得られる硬化物の耐疲労特性の観点から、0.01mmol/g以上2.0mmol/g以下であることが好ましく、0.02mmol/g以上1.5mmol/g以下であることがより好ましく、0.03mmol/g以上1.0mmol/g以下であることがさらに好ましい。これにより、ポリマー粒子(D)の凝集が抑制され、ポリマー粒子(D)が硬化物中に一次粒子の状態で分散することができ、その結果、硬化物の耐疲労特性が改善され得る。
【0036】
ポリマー粒子(D)の粒子径は特に限定されないが、工業的生産性を考慮すると、体積平均粒子径(Mv)は10~2000nmが好ましく、30~600nmがより好ましく、50~400nmが更に好ましく、70~300nmが特に好ましい。なお、ポリマー粒子の体積平均粒子径(Mv)は、ポリマー粒子のラテックスについて、市販の測定機器、例えばナノトラックWave EX-150(日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
【0037】
ポリマー粒子(D)はエポキシ樹脂組成物中で1次粒子の状態で分散していることが好ましい。本願明細書における「コアシェルポリマー粒子が1次粒子の状態で分散している」(以下、一次分散とも呼ぶ。)とは、コアシェルポリマー粒子同士が実質的に独立して(接触なく)分散していることを意味し、その分散状態は、例えば、エポキシ樹脂組成物の一部をメチルエチルケトンのような溶剤に溶解し、これをレーザー光散乱による粒子径測定装置等により、その粒子径を測定することにより確認できる。
【0038】
前記粒子径測定による体積平均粒子径(Mv)/個数平均粒子径(Mn)の値は、特に制限されないが、3以下であることが好ましく、2.5以下がより好ましく、2以下が更に好ましく、1.5以下が特に好ましい。体積平均粒子径(Mv)/個数平均粒子径(Mn)が3以下であれば、ポリマー粒子(D)が良好に分散していると考えられ、得られる硬化物の耐圧性が良好になる。
【0039】
なお、体積平均粒子径(Mv)/個数平均粒子径(Mn)は、市販の測定機器、例えばナノトラックWave EX-150(日機装株式会社製)を用いて測定し、MvをMnで除することによって求めることができる。
【0040】
また、コアシェルポリマー粒子の「安定な分散」とは、コアシェルポリマー粒子が、連続層中で凝集したり、分離したり、沈殿したりすることなく、定常的に通常の条件下にて、長期間に渡って、分散している状態を意味する。また、コアシェルポリマー粒子の連続層中での分布も実質的に変化せず、また、これらの組成物を危険がない範囲で加熱することで粘度を下げて攪拌したりしても、「安定な分散」を保持できることが好ましい。
ポリマー粒子(D)は単独で用いても良く、2種以上を併用しても良い。
【0041】
ポリマー粒子(D)の構造は特に限定されないが、2層以上を有することが好ましい。また、コア層を被覆する中間層と、この中間層をさらに被覆するシェル層とから構成される3層以上の構造を有することも可能である。
【0042】
以下、ポリマー粒子(D)の各層について具体的に説明する。
≪コア層≫
コア層は、エポキシ樹脂組成物の硬化物の靱性を高めるために、ゴムとしての性質を有する弾性コア層であることが好ましい。ゴムとしての性質を有するためには、弾性コア層は、ゲル含量が60重量%以上であることが好ましく、80重量%以上であることがより好ましく、90重量%以上であることがさらに好ましく、95重量%以上であることが特に好ましい。なお、本明細書でいうゲル含量とは、凝固、乾燥により得られたクラム0.5gをトルエン100gに浸漬し、23℃で24時間静置した後に不溶分と可溶分を分別したときの、不溶分と可溶分の合計量に対する不溶分の比率を意味する。
【0043】
コア層は、ジエン系ゴム、(メタ)アクリレート系ゴム、及びオルガノシロキサン系ゴムからなる群より選択される1種以上を含むことが好ましい。得られる硬化物の耐疲労特性の改善効果が高い点、及び、液状エポキシ樹脂(A)との親和性が低いために(A)成分によるコア層の膨潤に起因する経時での粘度上昇が起こりにくい点から、コア層は、ジエン系ゴムを含むことが好ましい。
【0044】
(ジエン系ゴム)
前記ジエン系ゴムを構成する共役ジエン系単量体としては、例えば、1,3-ブタジエン、イソプレン、2-クロロ-1,3-ブタジエン、2-メチル-1,3-ブタジエンなどが挙げられる。これらの共役ジエン系単量体は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0045】
前記共役ジエン系単量体の含有量は、コア層の50~100重量%の範囲であることが好ましく、70~100重量%の範囲であることがより好ましく、90~100重量%の範囲であることが更に好ましい。共役ジエン系単量体の含有量が50重量%以上であると、得られる硬化物の耐疲労特性がより良好になり得る。
【0046】
共役ジエン系単量体と共重合可能なビニル系単量体としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどのビニルアレーン類;アクリル酸、メタクリル酸などのビニルカルボン酸類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;酢酸ビニル;エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのアルケン類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性モノマーなどが挙げられる。これらのビニル系単量体は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。特に好ましくはスチレンである。
【0047】
前記共役ジエン系単量体と共重合可能なビニル系単量体の含有量は、コア層の0~50重量%の範囲であることが好ましく、0~30重量%の範囲であることがより好ましく、0~10重量%の範囲であることが更に好ましい。共役ジエン系単量体と共重合可能なビニル系単量体の含有量が50重量%以下であると、得られる硬化物の耐疲労特性がより良好になり得る。
【0048】
耐疲労特性の改良効果が高い点、および、液状エポキシ樹脂(A)との親和性が低いためにコア層の膨潤に起因する経時での粘度上昇が起こり難い点から、ジエン系ゴムは、1,3-ブタジエンを用いるブタジエンゴム、および/または、1,3-ブタジエンとスチレンの共重合体であるブタジエン-スチレンゴムであることが好ましく、ブタジエンゴムがより好ましい。また、ブタジエン-スチレンゴムは、屈折率の調整により得られる硬化物の透明性を高めることができる点で好ましい。
【0049】
((メタ)アクリレート系ゴム)
前記(メタ)アクリレート系ゴムは、(メタ)アクリレート系モノマーからなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーを50~100重量%、及び、(メタ)アクリレート系モノマーと共重合可能な他のビニル系モノマーを0~50重量%含有するモノマー混合物を重合して得られるゴム弾性体であることが好ましい。
【0050】
前記(メタ)アクリレート系モノマーとしては、例えば、(i)メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベヘニル(メタ)アクリレートなどのアルキル(メタ)アクリレート類;(ii)フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートなどの芳香環含有(メタ)アクリレート類;(iii)2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート類;(iv)グリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルアルキル(メタ)アクリレートなどのグリシジル(メタ)アクリレート類;(v)アルコキシアルキル(メタ)アクリレート類;(vi)アリル(メタ)アクリレート、およびアリルアルキル(メタ)アクリレートなどのアリルアルキル(メタ)アクリレート類;(vii)モノエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなどの多官能性(メタ)アクリレート類などが挙げられる。これらの(メタ)アクリレート系モノマーは、1種類を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。(メタ)アクリレート系モノマーとしては、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、及び2-エチルヘキシル(メタ)アクリレートが好ましい。
【0051】
(メタ)アクリレート系モノマーと共重合可能な他のビニル系モノマーとしては、例えば、(i)スチレン、α-メチルスチレン、モノクロロスチレン、ジクロロスチレンなどのビニルアレーン類;(ii)アクリル酸、メタクリル酸などのビニルカルボン酸類;(iii)アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのビニルシアン類;(iv)塩化ビニル、臭化ビニル、クロロプレンなどのハロゲン化ビニル類;(v)酢酸ビニル;(vi)エチレン、プロピレン、ブチレン、イソブチレンなどのアルケン類;(vii)ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼンなどの多官能性モノマーなどが挙げられる。これらのビニル系モノマーは、1種類を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。屈折率を容易に大きくすることができる点から、特に好ましくはスチレンである。
【0052】
(オルガノシロキサン系ゴム)
前記オルガノシロキサン系ゴムとしては、例えば、(i)ジメチルシリルオキシ、ジエチルシリルオキシ、メチルフェニルシリルオキシ、ジフェニルシリルオキシ、ジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシなどの、アルキル又はアリール2置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサン系ポリマー;(ii)側鎖のアルキルの一部が水素原子に置換されたオルガノハイドロジェンシリルオキシなどの、アルキル又はアリール1置換シリルオキシ単位から構成されるポリシロキサン系ポリマーなどが挙げられる。これらのポリシロキサン系ポリマーは、1種類を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。中でも、ジメチルシリルオキシ、メチルフェニルシリルオキシ、及びジメチルシリルオキシ-ジフェニルシリルオキシが硬化物に耐熱性を付与することができることから好ましく、ジメチルシリルオキシが容易に入手できることから最も好ましい。コア層がオルガノシロキサン系ゴムから形成される態様において、ポリシロキサン系ポリマー部位は、硬化物の耐熱性を損なわないために、オルガノシロキサン系ゴム全体を100重量%として80重量%以上(より好ましくは90重量%以上)含有していることが好ましい。
【0053】
コア層のガラス転移温度(以下、単に「Tg」と称する場合がある)は、得られる硬化物の靱性を高め、耐疲労性の向上効果が優れる点から、0℃以下であることが好ましく、-20℃以下がより好ましく、-40℃以下が更に好ましく、-60℃以下であることが特に好ましい。
【0054】
また、コア層の体積平均粒子径は0.03~2μmが好ましいが、0.05~1μmがさらに好ましい。この範囲内であると、安定的に製造することができ、また、硬化物の耐熱性や耐衝撃性が良好なものとなり得る。なお体積平均粒子径は、市販の測定機器、例えばナノトラックWave EX-150(日機装株式会社製)を用いて測定することができる。
【0055】
コア層の割合は、コアシェルポリマー粒子全体を100重量%として40~97重量%が好ましく、60~96重量%がより好ましく、70~95重量%が更に好ましく、80~94重量%が特に好ましい。コア層の割合が40重量%以上であると、得られる硬化物の耐疲労特性がより良好になり得る。コア層の割合が97重量%以下であると、コアシェルポリマー粒子が凝集し難く、エポキシ樹脂組成物がより低粘度となり、作業性がより良好になり得ることに加えて、繊維への含浸性が更に改善され、結果、硬化物の耐圧性及び耐疲労特性をより良好にすることができる。
【0056】
コア層は単層構造であることが多いが、ゴム弾性を有する層からなる多層構造であってもよい。また、コア層が多層構造の場合は、各層のポリマー組成は、前記開示の範囲内で各々相違していてもよい。
【0057】
≪中間層≫
コア層とシェル層の間に、必要により、中間層を形成させてもよい。特に、中間層として、以下のゴム表面架橋層を形成させてもよい。得られる硬化物の靱性改良効果および耐疲労特性改良効果の点からは、中間層を含有しないこと、特に、以下のゴム表面架橋層を含有しないことが好ましい。
【0058】
中間層が存在する場合、コア層100重量部に対する中間層の割合は、0.1~30重量部が好ましく、0.2~20重量部がより好ましく、0.5~10重量部がさらに好ましく、1~5重量部が特に好ましい。
【0059】
前記ゴム表面架橋層は、一分子内にラジカル重合性二重結合を2個以上有する多官能性モノマー30~100重量%、及びその他のビニルモノマー0~70重量%からなるゴム表面架橋層成分を重合してなる中間層ポリマーからなり、エポキシ樹脂組成物の粘度を低下させる効果、ポリマー粒子(D)の(A)成分への分散性を向上させる効果を有する。また、コア層の架橋密度を上げたりシェル層のグラフト効率を高める効果も有する。
【0060】
前記多官能性モノマーの具体例としては、ブタジエンなどの共役ジエン系モノマーは含まれず、アリル(メタ)アクリレート、アリルアルキル(メタ)アクリレート等のアリルアルキル(メタ)アクリレート類;アリルオキシアルキル(メタ)アクリレート類;(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル基を2個以上有する多官能(メタ)アクリレート類;ジアリルフタレート、トリアリルシアヌレート、トリアリルイソシアヌレート、ジビニルベンゼン等が例示されるが、好ましくはアリルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレートである。本願明細書において(メタ)アクリレートとは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0061】
≪シェル層≫
コアシェルポリマー粒子の最も外側に存在するシェル層は、シェル層形成用モノマーを重合したものであるが、ポリマー粒子(D)と(A)成分との相溶性を向上させ、エポキシ樹脂組成物、又はその硬化物中においてポリマー粒子(D)が一次粒子の状態で分散することを可能にする役割を担うシェルポリマーからなる。
【0062】
このようなシェルポリマーは、好ましくは前記コア層及び/又は中間層にグラフトしている。なお、以下、「コア層にグラフトしている」という場合、このコア層に中間層が形成されている時には、中間層にグラフトしている態様も含むものとする。より正確には、シェル層の形成に用いるモノマー成分が、コア層を形成するコアポリマー(中間層を形成した場合には、コアポリマーには、中間層を形成する中間層ポリマーも含まれる。以下、同じ)にグラフト重合して、実質的にシェルポリマーとコアポリマーとが化学結合していることが好ましい(中間層を形成した場合には、シェルポリマーと中間層ポリマーとが化学結合していることも好ましい)。即ち、好ましくは、シェルポリマーは、コアポリマーの存在下に前記シェル層形成用モノマーをグラフト重合させることで形成され、このようにすることで、コアポリマーにグラフト重合されており、コアポリマーの一部又は全体を覆っている。この重合操作は、水性のポリマーラテックス状態で調製されたコアポリマーのラテックスに対して、シェルポリマー層形成用モノマーを加えて重合させることで実施できる。
【0063】
シェル層形成用モノマーとしては、ポリマー粒子(D)のエポキシ樹脂組成物中での相溶性及び分散性の点から、例えば、芳香族ビニルモノマー、ビニルシアンモノマー、又は(メタ)アクリレートモノマーが好ましく、(メタ)アクリレートモノマーがより好ましい。特に、シェル層形成用モノマーは、メチルメタクレリートを含むことが好ましい。これらシェル層形成用モノマーは、単独で用いてもよく、適宜組み合わせて用いてもよい。
【0064】
芳香族ビニルモノマー、ビニルシアンモノマー、及び(メタ)アクリレートモノマーの合計量は、シェル層形成用モノマー100重量%中に、10~99.5重量%であることが好ましく、50~99重量%がより好ましく、65~98重量%が更に好ましく、67~90重量%が特に好ましく、67~85重量%が最も好ましい。
【0065】
メチルメタクレリートの含有量は、シェル層形成用モノマー100重量%中に、5~100重量%であることが好ましく、20~99重量%がより好ましく、30~97重量%が更に好ましく、70~95重量%が特に好ましい。
【0066】
硬化物やエポキシ樹脂組成物中でポリマー粒子(D)が凝集せずに良好な分散状態を維持するために、(A)成分と化学結合させる観点から、シェル層形成用モノマーとして、エポキシ基、オキセタン基、水酸基、アミノ基、イミド基、カルボン酸基、カルボン酸無水物基、環状エステル、環状アミド、ベンズオキサジン基、及びシアン酸エステル基からなる群から選ばれる1種以上を含有する反応性基含有モノマーを含有することが好ましく、特に、エポキシ基を有するモノマーが好ましい。
【0067】
エポキシ基を有するモノマーは、耐疲労特性の観点から、シェル層形成用モノマー100重量%中に、0~90重量%含まれていることが好ましく、1~50重量%がより好ましく、2~40重量%が更に好ましく、3~30重量%が特に好ましい。
【0068】
エポキシ基を有するモノマーは、シェル層の形成に使用することが好ましく、シェル層のみに使用することがより好ましい。
【0069】
また、シェル層形成用モノマーとして、ラジカル重合性二重結合を2個以上有する多官能性モノマーを使用すると、エポキシ樹脂組成物中においてコアシェルポリマー粒子の膨潤を防止し、また、エポキシ樹脂組成物の粘度が低く取扱い性がよくなる傾向があるため好ましい。一方、得られる硬化物の靱性改良効果および耐疲労特性改良効果の点からは、シェル層形成用モノマーとして、ラジカル重合性二重結合を2個以上有する多官能性モノマーを使用しないことが好ましい。
【0070】
多官能性モノマーは、シェル層形成用モノマー100重量%中に、例えば、0~20重量%含まれていてもよく、1~20重量%含まれていることが好ましく、より好ましくは、5~15重量%である。
【0071】
前記芳香族ビニルモノマーの具体例としては、スチレン、α-メチルスチレン、p-メチルスチレン、ジビニルベンゼン等のビニルベンゼン類が挙げられる。
【0072】
前記ビニルシアンモノマーの具体例としては、アクリロニトリル、又はメタクリロニトリル等が挙げられる。
【0073】
前記(メタ)アクリレートモノマーの具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステル;(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステル等が挙げられる。
【0074】
前記(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキルエステルの具体例としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ直鎖アルキル(メタ)アクリレート(特に、ヒドロキシ直鎖C1-6アルキル(メタ)アクリレート);カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート;α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸メチル、α-(ヒドロキシメチル)アクリル酸エチル等のヒドロキシ分岐アルキル(メタ)アクリレート、二価カルボン酸(フタル酸等)と二価アルコール(プロピレングリコール等)とから得られるポリエステルジオール(特に飽和ポリエステルジオール)のモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシル基含有(メタ)アクリレート類等が挙げられる。
【0075】
前記エポキシ基を有するモノマーの具体例としては、グリシジル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のグリシジル基含有ビニルモノマーが挙げられる。
【0076】
前記ラジカル重合性二重結合を2個以上有する多官能性モノマーの具体例としては、上述の多官能性モノマーと同じモノマーが例示されるが、好ましくはアリルメタクリレート、トリアリルイソシアヌレートである。
【0077】
本実施形態では、例えば、芳香族ビニルモノマー(特にスチレン)0~50重量%(好ましくは1~50重量%、より好ましくは2~48重量%)、ビニルシアンモノマー(特にアクリロニトリル)0~50重量%(好ましくは0~30重量%、より好ましくは10~25重量%)、(メタ)アクリレートモノマー(特にメチルメタクリレート)0~100重量%(好ましくは5~100重量%、より好ましくは70~95重量%)、エポキシ基を有するモノマー(特にグリシジルメタクリレート)1~50重量%(好ましくは2~40重量%、より好ましくは3~30重量%)を組み合わせたシェル層形成用モノマー(合計100重量%)のポリマーであるシェル層とすることが好ましい。これにより、所望の靱性改良効果と機械特性をバランス良く実現することができる。
【0078】
これらのモノマー成分は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。シェル層は、上記モノマー成分の他に、他のモノマー成分を含んで形成されてもよい。
【0079】
シェル層のグラフト率は、70%以上(より好ましくは80%以上、さらに好ましくは90%以上)であることが好ましい。グラフト率が70%以上であると、エポキシ樹脂組成物がより低粘度となり得る。
【0080】
前記グラフト率の算出方法は次に記載の通りである。先ず、コアシェルポリマー粒子を含有する水性ラテックスを凝固・脱水し、最後に乾燥してコアシェルポリマー粒子のパウダーを得る。次いで、コアシェルポリマー粒子のパウダー2gをメチルエチルケトン(MEK)100gに23℃で24時間浸漬した後にMEK可溶分をMEK不溶分と分離し、さらにMEK可溶分からメタノール不溶分を分離する。そして、MEK不溶分とメタノール不溶分との合計量に対するMEK不溶分の比率を求めることによってグラフト率を算出する。
【0081】
≪コアシェルポリマー粒子の製造方法≫
(コア層の製造方法)
ポリマー粒子(D)を構成するコア層の形成は、例えば、乳化重合、懸濁重合、マイクロサスペンジョン重合などによって製造することができ、例えば国際公開第2005/028546号に記載の方法を用いることができる。
【0082】
(シェル層および中間層の形成方法)
中間層は、中間層形成用モノマーを公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。コア層を構成するゴム弾性体をエマルジョンとして得た場合には、中間層形成用モノマーの重合は乳化重合法により行うことが好ましい。
【0083】
シェル層は、シェル層形成用モノマーを、公知のラジカル重合により重合することによって形成することができる。コア層、または、コア層を中間層で被覆して構成されるポリマー粒子前駆体をエマルジョンとして得た場合には、シェル層形成用モノマーの重合は乳化重合法により行うことが好ましく、例えば、国際公開第2005/028546号に記載の方法に従って製造することができる。
【0084】
乳化重合において用いることができる乳化剤(分散剤)としては、ジオクチルスルホコハク酸やドデシルベンゼンスルホン酸などに代表されるアルキルまたはアリールスルホン酸、アルキルまたはアリールエーテルスルホン酸、ドデシル硫酸に代表されるアルキルまたはアリール硫酸、アルキルまたはアリールエーテル硫酸、アルキルまたはアリール置換燐酸、アルキルまたはアリールエーテル置換燐酸、ドデシルザルコシン酸に代表されるN-アルキルまたはアリールザルコシン酸、オレイン酸やステアリン酸などに代表されるアルキルまたはアリールカルボン酸、アルキルまたはアリールエーテルカルボン酸などの各種の酸類、これら酸類のアルカリ金属塩またはアンモニウム塩などのアニオン性乳化剤(分散剤);アルキルまたはアリール置換ポリエチレングリコールなどの非イオン性乳化剤(分散剤);ポリビニルアルコール、アルキル置換セルロース、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸誘導体などの分散剤が挙げられる。これらの乳化剤(分散剤)は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0085】
ポリマー粒子の水性ラテックスの分散安定性に支障を来さない限り、乳化剤(分散剤)の使用量は少なくすることが好ましい。また、乳化剤(分散剤)は、その水溶性が高いほど好ましい。水溶性が高いと、乳化剤(分散剤)の水洗除去が容易になり、最終的に得られる硬化物への悪影響を容易に防止できる。
【0086】
乳化重合法を採用する場合には、公知の開始剤、すなわち2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどを熱分解型開始剤として用いることができる。
【0087】
また、t-ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、パラメンタンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ヘキシルパーオキサイドなどの有機過酸化物;過酸化水素、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどの無機過酸化物といった過酸化物と、必要に応じてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、グルコースなどの還元剤、および必要に応じて硫酸鉄(II)などの遷移金属塩、さらに必要に応じてエチレンジアミン四酢酸二ナトリウムなどのキレート剤、さらに必要に応じてピロリン酸ナトリウムなどのリン含有化合物などを併用したレドックス型開始剤を使用することもできる。
【0088】
レドックス型開始剤系を用いた場合には、前記過酸化物が実質的に熱分解しない低い温度でも重合を行うことができ、重合温度を広い範囲で設定できるようになり好ましい。中でもクメンハイドロパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイドなどの有機過酸化物をレドックス型開始剤として用いることが好ましい。前記開始剤の使用量、レドックス型開始剤を用いる場合には前記還元剤・遷移金属塩・キレート剤などの使用量は公知の範囲で用いることができる。またラジカル重合性二重結合を2個以上有するモノマーを重合するに際しては公知の連鎖移動剤を公知の範囲で用いることができる。追加的に界面活性剤を用いることができるが、これも公知の範囲である。
【0089】
重合に際しての重合温度、圧力、脱酸素などの条件は、公知の範囲のものが適用できる。また、中間層形成用モノマーの重合は1段で行なっても2段以上で行なっても良い。例えば、弾性コア層を構成するゴム弾性体のエマルジョンに中間層形成用モノマーを一度に添加する方法、連続追加する方法の他、あらかじめ中間層形成用モノマーが仕込まれた反応器に弾性コア層を構成するゴム弾性体のエマルジョンを加えてから重合を実施する方法などを採用することができる。
【0090】
コアシェルポリマー粒子(D)の配合量は、エポキシ樹脂組成物の取扱いやすさと、得られる硬化物の耐疲労特性改良効果のバランスから、液状エポキシ樹脂(A)100重量部に対して、1~50重量部であることが好ましい。当該配合量が1重量部以上であると、耐疲労特性改良効果が顕著になる。一方、50重量部を超えると、エポキシ樹脂組成物の粘度が高くなり、繊維間への含侵が困難になる。それにより、樹脂組成物が繊維間に十分に充填されず、加えて空隙(ボイド)が残留することで耐疲労特性が大きく低下してしまう。前記配合量は、3~40重量部がより好ましく、5~35重量部がさらに好ましく、7~30重量部がより更に好ましく、10~25重量部が特に好ましい。
【0091】
<その他の配合成分>
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物では、必要に応じて、その他の配合成分を使用することができる。その他の配合成分としては、エポキシ未変性ゴム系重合体等の強化剤、ケイ酸および/またはケイ酸塩等の無機充填材、酸化カルシウム、ラジカル硬化性樹脂、モノエポキシド、光重合開始剤、アゾタイプ化学的発泡剤や熱膨張性マイクロバルーンなどの膨張剤、アラミド系パルプなどの繊維パルプ、顔料や染料等の着色剤、体質顔料、紫外線吸収剤、酸化防止剤、安定化剤(ゲル化防止剤)、可塑剤、レベリング剤、消泡剤、シランカップリング剤、帯電防止剤、難燃剤、滑剤、減粘剤、低収縮剤、有機質充填剤、熱可塑性樹脂、乾燥剤、分散剤等が挙げられる。
【0092】
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、耐熱性を低下させる成分であるポリオールを実質的に含有しないことが好ましい。ポリオールに関しては特許文献3の記載を参照することができ、具体例としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカプロラクトンポリオール、ポリカーボネートポリオール、ヒドロキシル末端ポリブタジエン等が挙げられる。「実質的に含有しない」とは、前記エポキシ樹脂組成物中のポリオールの含有量が好ましくは1重量%未満、より好ましくは0.1重量%未満であることを意味する。
【0093】
<エポキシ樹脂組成物の製法>
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、コアシェルポリマー粒子(D)が1次粒子の状態で分散した組成物であることが好ましい。このようなエポキシ樹脂組成物は、高濃度のコアシェルポリマー粒子(D)が1次粒子の状態で分散したポリマー粒子分散組成物を用いて製造することが好ましい。当該ポリマー粒子分散組成物を用いることで、エポキシ樹脂組成物中での1次粒子の分散を容易に実現することができる。
【0094】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、コアシェルポリマー粒子(D)のパウダーを液状エポキシ樹脂(A)に直接混合・分散させて製造することも可能である。しかし、この方法によると未分散物(凝集体)が生じやすく、これによって当該エポキシ樹脂組成物の繊維への含侵が阻害され、硬化物中に空隙(ボイド)が増加したり、硬化物の均質性が損なわれることで、機械特性、耐圧性、又は耐疲労性が低下する場合がある。
【0095】
前記ポリマー粒子分散組成物を得る方法は、種々の方法が利用できるが、例えば水性ラテックス状態で得られたコアシェルポリマー粒子を(A)成分と接触させた後、水等の不要な成分を除去する方法、コアシェルポリマー粒子を一旦有機溶剤に抽出後に(A)成分と混合してから有機溶剤を除去する方法等が挙げられるが、国際公開第2005/028546号に記載の方法を利用することが好ましい。その具体的な製造方法は、順に、コアシェルポリマー粒子(D)を含有する水性ラテックス(詳細には、乳化重合によってコアシェルポリマー粒子を製造した後の反応混合物)を、20℃における水に対する溶解度が5重量%以上40重量%以下の有機溶媒と混合した後、さらに過剰の水と混合して、ポリマー粒子を凝集させる第1工程と、凝集したコアシェルポリマー粒子(D)を液相から分離・回収した後、再度有機溶媒と混合して、コアシェルポリマー粒子(D)の有機溶媒溶液を得る第2工程と、有機溶媒溶液をさらに(A)成分と混合した後、前記有機溶媒を留去する第3工程とを含んで調製されることが好ましい。
【0096】
(A)成分は、23℃で液状であると、前記第3工程が容易となるため好ましい。「23℃で液状」とは、軟化点が23℃以下であることを意味し、23℃で流動性を示すものである。
【0097】
上記の工程を経て得た、(A)成分にコアシェルポリマー粒子(D)が1次粒子の状態で分散したポリマー粒子分散組成物に対し、追加の(A)成分、(B)成分、(C)成分、及び、必要に応じてその他の成分を混合することにより、コアシェルポリマー粒子(D)が1次粒子の状態で分散した本態様に係るエポキシ樹脂組成物を得ることができる。
【0098】
一方、塩析等の方法により凝固させた後に乾燥させて得た、粉体状のコアシェルポリマー粒子(D)は、3本ペイントロールやロールミル、ニーダー等の高い機械的せん断力を有する分散機を用いて、(A)成分中に再分散することが可能である。この際、(A)成分と(D)成分は、高温で機械的せん断力を与えることで、効率良く、(D)成分の分散を可能にする。分散させる際の温度は、50~200℃が好ましく、70~170℃がより好ましく、80~150℃が更に好ましく、90~120℃が特に好ましい。
【0099】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、繊維への含侵性の観点から、25℃における粘度が5000mPa・s以下であることが好ましく、2000mPa・s以下であることがより好ましく、1000mPa・s以下であることが更に好ましく、800mPa・s以下であることが特に好ましい。同様に繊維への含侵性の観点から、本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、50℃における粘度が1000mPa・s以下であることが好ましく、500mPa・s以下であることがより好ましく、300mPa・s以下であることが更に好ましく、200mPa・s以下であることが特に好ましい。
【0100】
本実施形態のエポキシ樹脂組成物は、硬化後に良好な耐疲労特性を示すものである。良好な耐疲労特性を示す指標として、疲労試験を実施する前に測定した破裂強度Pと、疲労試験を実施した後に測定した破裂強度Pの比(P/P)を使用する。本実施形態のエポキシ樹脂組成物が示す破裂強度の比(P/P)は、0.5以上であることが好ましい。より好ましくは0.7以上であり、さらに好ましくは0.8以上であり、特に好ましくは0.9以上である。前記比の上限は特に限定されないが、例えば、1.5以下であってよく、1.2以下であっても良い。
【0101】
前記破裂強度の比は以下のようにして測定することができる。前記エポキシ樹脂組成物、炭素繊維、及びアルミライナーを使用し、ウェットフィラメントワインディング法により成型し、120℃で3時間硬化させて得られる圧力容器について、非水槽式破裂試験により破裂強度Pを測定する。同じ条件で作製した圧力容器について、最大圧力20MPa、最小圧力2MPaの内圧を10000サイクル負荷させた後に、同様に非水槽式破裂試験により破裂強度Pを測定する。得られた破裂強度PとPから、比P/Pを算出すればよい。
前記非水槽式破裂試験は、例えば、KHK S 1121規格に準拠した方法で実施することができる。
【0102】
<強化繊維>
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、強化繊維に含浸させ、更に、硬化させることにより繊維強化複合材料を得ることができる。
【0103】
前記強化繊維としては、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ボロン繊維等が挙げられる。中でも軽量でありながら、強度、弾性率等の機械特性に優れる繊維強化複合材料が得られることから、炭素繊維が特に好ましく使用されるが、2種以上の繊維を組み合わせて使用してもよい。炭素繊維としては、PAN系、ピッチ系、レーヨン系などの炭素繊維が挙げられ、2種以上の炭素繊維を使用してもよい。
【0104】
前記強化繊維は、短繊維、連続繊維のいずれを使用してもよく、両者を併用してもよい。強化繊維はストランドの形態で用いてもよいし、強化繊維基材として用いてもよい。強化繊維機材としては、強化繊維を一方向に引き揃えたものや、一方向に引き揃えられた強化繊維(経糸)を固定するガラス繊維または化学繊維(緯糸)により構成されるノンクリンプファブリック、マット、織物、ニット、ブレイドなどを用いることができる。
【0105】
エポキシ樹脂組成物の強化繊維への含浸方法の具体例を以下に示すが、以下の記載に限定されるものではない。例えば、必要に応じて加熱したエポキシ樹脂組成物をロールや離型紙上でフィルム化し、次いで、強化繊維の片面、又は両面に転写し、屈曲ロール又は圧力ロールに通すことで加圧して含浸させる方法、必要に応じて加熱したエポキシ樹脂組成物を、強化繊維に塗布して含浸させる方法、あるいは、エポキシ樹脂組成物で満たした槽を必要に応じて加熱し、強化繊維を浸漬させる方法などが挙げられる。
【0106】
圧力容器を製造する場合には、以上のようにして得られたエポキシ樹脂組成物含浸強化繊維を、フィラメントワインディング法により、密閉可能でガスバリア性を有するプラスチック又は金属製の中空容器(タンクライナーともいう)の外表面に巻き付ける。タンクライナーへの巻き付けにあたっては、公知のフープ巻、低角度又は高角度のヘリカル巻き等を利用することができる。
【0107】
その後、所定の硬化温度に加熱して、エポキシ樹脂組成物を硬化させることにより、繊維強化複合材料又は圧力容器を製造することができる。得られた圧力容器は、高圧水素タンクとして好適に使用することができる。
前記硬化温度は特に限定はないが、50℃~250℃程度が好ましく、80℃~200℃がより好ましく、100℃~150℃が特に好ましい。
【0108】
本実施形態に係るエポキシ樹脂組成物は、以上の通り繊維強化複合材料の製造において好適に使用することができる。しかし、この用途に限定されず、例えば、木材、金属、プラスチック、ガラス等の基材を接合するための接着剤として使用することもできる。
【0109】
また、本実施形態に係る繊維強化複合材料は、以上の通りタンクライナーの外面を被覆して圧力容器を構成するものとして好適に使用することができる。しかし、この用途に限定されず、航空機や宇宙機、自動車、産業機械、鉄道車両、船舶などの構造部材や外板などとして好ましく使用することもできる。
【0110】
上述した用途の繊維強化複合材料を得るための成形方法としては特に限定されず、液状のエポキシ樹脂組成物を強化繊維に含浸させ、硬化させる公知の方法を利用することができる。具体的には、ハンドレイアップ、フィラメントワインディング、プルトルージョン、ウェットモールディング、プリプレグ、真空バッグ法、加圧バッグ法、スプレーアップ法、オートクレーブ法、マッチドダイ法、シートモールディングコンパウンド法(SMC)、バルクモールディングコンパウンド法(BMC)、連続積層法、レジントランスファーモールディング(RTM)、高圧レジントランスファーモールディング(HP-RTM)、バキュームアシステッドRTM(VaRTM)などが挙げられる。中でもフィラメントワインディングが好ましい。
【実施例0111】
以下、実施例および比較例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0112】
まず、実施例および比較例によって製造したエポキシ樹脂組成物の評価方法について、以下説明する。
[1]体積平均粒子径の測定
水性ラテックスに分散しているポリマー粒子の体積平均粒子径(Mv)は、ナノトラックWave EX-150(日機装株式会社製)を用いて測定した。脱イオン水で希釈したものを測定試料として用いた。測定は、水の屈折率、および各ポリマー粒子の屈折率を入力し、計測時間120秒、Signal Levelが0.6~0.8の範囲内になるように試料濃度を調整して行った。
【0113】
[2]粘度の測定
液状エポキシ樹脂(A)およびエポキシ樹脂組成物の粘度は、BROOKFIELD社製デジタル粘度計DV-II+Pro型を用いて測定した。スピンドルCPE-41を使用し、せん断速度10s-1、25℃又は50℃で測定した。
【0114】
[3]破裂強度及びサイクル後強度保持率の測定
破裂強度及びサイクル後強度保持率は以下のように測定した。
まず、ウェットフィラメントワインディング法により圧力容器を成型した。エポキシ樹脂組成物で満たした槽に炭素繊維(TR50S 15、三菱ケミカル社製)を浸漬し、エポキシ樹脂組成物を付着させた。得られたエポキシ樹脂組成物が付着した炭素繊維をアルミライナーに巻き付け、120℃、3時間硬化させ、圧力容器を作製した。
次に、KHK S 1121規格に準拠した方法で非水槽式耐圧試験を実施し、圧力容器の破裂強度を測定した(この時の破裂強度をPとする)。さらに別の圧力容器を用い最大圧力20MPa、最小圧力2MPaの内圧を10000サイクル負荷させた後、同様の非水槽式耐圧試験を実施し破裂強度を測定した(この時の破裂強度をPとする)。サイクル後強度保持率を、P、Pを用い以下の式で算出した。
式:サイクル後強度保持率 = P/P
【0115】
[製造例1-1]ポリブタジエンゴムラテックス(R-1)の調製
100L耐圧重合機中に、脱イオン水200重量部、リン酸三カリウム0.03重量部、リン酸二水素カリウム0.25重量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.002重量部、硫酸第一鉄・7水和塩(FE)0.001重量部およびドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(SDS)1.5重量部を投入し、撹拌しつつ十分に窒素置換を行なって酸素を除いた後、ブタジエン(BD)100重量部を系中に投入し、45℃に昇温した。パラメンタンハイドロパーオキサイド(PHP)0.015重量部、続いてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.04重量部を投入し重合を開始した。重合開始から4時間目に、PHP0.01重量部、EDTA0.0015重量部およびFE0.001重量部を投入した。重合10時間目に減圧下残存モノマーを脱揮除去して重合を終了し、ポリブタジエンゴム粒子を含むラテックス(R-1)を得た。得られたラテックスに含まれるポリブタジエンゴム粒子の体積平均粒子径は95nmであった。
【0116】
[製造例1-2]ポリブタジエンゴムラテックス(R-2)の調製
100L耐圧重合機中に、製造例1-1で得たポリブタジエンゴムラテックス(R-1)を固形分で7重量部、脱イオン水200重量部、リン酸三カリウム0.03重量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム(EDTA)0.002重量部、および硫酸第一鉄・7水和塩(FE)0.001重量部を投入し、撹拌しつつ十分に窒素置換を行なって酸素を除いた後、ブタジエン(BD)93重量部を系中に投入し、45℃に昇温した。パラメンタンハイドロパーオキサイド(PHP)0.02重量部、続いてナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート(SFS)0.10重量部を投入し重合を開始した。重合開始から24時間目まで3時間おきに、それぞれ、PHP0.025重量部、EDTA0.0006重量部およびFE0.003重量部を投入した。重合30時間目に減圧下残存モノマーを脱揮除去して重合を終了し、ポリブタジエンゴム粒子を含むラテックス(R-2)を得た。得られたラテックスに含まれるポリブタジエンゴム粒子の体積平均粒子径は195nmであった。
【0117】
[製造例2-1]ポリマー微粒子ラテックス(L-1)の調製
3Lガラス容器に、製造例1-2で得たラテックス(R-2)1575重量部(ポリブタジエンゴム粒子510重量部相当)および脱イオン水315重量部を仕込み、窒素置換を行いながら60℃で撹拌した。EDTA0.024重量部、FE0.006重量部、SFS0.2重量部を加えた後、グラフトモノマー(グリシジルメタクリレート(GMA)12重量部、メチルメタクリレート(MMA)48重量部)、およびクメンヒドロパーオキサイド(CHP)0.08重量部の混合物を1時間かけて連続的に添加しグラフト重合した。添加終了後、更に2時間撹拌して反応を終了させ、コアシェル構造を有するポリマー微粒子のラテックス(L-1)を得た。得られたラテックス(L-1)に含まれるポリマー粒子(D-1)の体積平均粒子径は205nmであった。
【0118】
[製造例3-1]分散物(M-1)の調製
25℃の1L混合槽にメチルエチルケトン(MEK)130gを導入し、撹拌しながら、前記製造例2-1で得られたポリマー微粒子のラテックス(L-1)を130g(コアシェル構造を有するポリマー粒子(D-1)40g相当)投入した。均一に混合後、水200gを80g/分の供給速度で投入した。供給終了後、速やかに撹拌を停止したところ、浮上性の凝集体および有機溶媒を一部含む水相からなるスラリー液を得た。次に、一部の水相を含む凝集体を残し、水相360gを槽下部の払い出し口より排出させた。得られた凝集体にMEK90gを追加して均一に混合し、ポリマー微粒子を均一に分散した分散体を得た。この分散体に、(A)成分である液状エポキシ樹脂(A-1:三菱ケミカル株式会社製、jER828EL:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、粘度11800mPa・s)60gを混合した。この混合物から、回転式の蒸発装置で、MEKを除去した。このようにして、液状エポキシ樹脂(A-1)にポリマー粒子(D-1)が分散した分散物(M-1)を得た。
【0119】
(実施例1~3及び比較例1~4)
表1に示す処方に従って、各成分[実施例1~3では(A-1)と(D-1)を含む分散物(M-1)と、(A-1)、(B-1)、及び(C-1)]をそれぞれ計量し、よく混合してエポキシ樹脂組成物を得た。
表1の各組成物を用いて、粘度およびサイクル後強度保持率を測定した。結果を表1に示す。なお、表1中の各種配合剤は、以下に示すものを使用した。
【0120】
<液状エポキシ樹脂(A)>
A-1:三菱ケミカル株式会社製、jER828EL:ビスフェノールA型エポキシ樹脂、粘度11800mPa・s
A-2:ハンツマン社製、アラルダイト CY184:脂環式エポキシ樹脂、粘度800mPa・s
A-3:日鉄ケミカル・マテリアル社製、YDF-170:ビスフェノールF型エポキシ樹脂、粘度170mPa・s
【0121】
<酸無水物(B)>
B-1:DIC株式会社製、エピクロンB-570-H:メチルテトラヒドロフタル酸無水物
B-2:新日本理化株式会社製、リカシッドMH-T:メチルヘキサヒドロフタル酸無水物
B-3:昭和電工マテリアルズ株式会社製、MHAC-P:メチルナド酸無水物
【0122】
<ルイス酸アミン錯体(C)>
C-1:Huntsman社製、DY9577:三塩化ホウ素アミン錯体
【0123】
<ポリマー粒子(D)>
D-1:前記製造例3-1で得られた分散物(M-1)から持ち込まれる。
【0124】
<その他の成分>
・アルツケム社製、ダイハード 100S:ジシアンジアミド
・四国化成工業株式会社製、キュアゾール2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール
【0125】
なお、表1に示した(A)成分の配合量は、液状エポキシ樹脂そのものとして添加した(A-1)成分の添加量と、ポリマー微粒子の分散物(M)に含まれる(A-1)成分の含有量とを合計した量である。また、表中の「n.d.」とは、樹脂組成物の粘度が低く、粘度計で検出できなかったことを示す。
【0126】
【表1】
【0127】
表1から、液状エポキシ樹脂(A)、酸無水物(B)、ルイス酸アミン錯体(C)、及びコアシェル構造を有するポリマー粒子(D)を含有する実施例1のエポキシ樹脂組成物は、ポリマー粒子(D)を含有しない比較例1と比較して、高い破裂強度と、高い耐サイクル疲労性を示すことが分かる。特に、耐サイクル疲労性が3倍程度と顕著に改善されていることが分かる。
また、実施例2~3はエポキシ樹脂組成物の粘度が比較例2~4と比較して有意に低く、実施例1と同様に高い破裂強度と耐サイクル疲労性を示すことが推測される。特に比較例2は、ポリマー粒子(D)を含有しないにも関わらず粘度が明らかに高く、ポリマー粒子(D)を含有させたとしても、繊維への樹脂組成物の含浸が不十分となることで破裂強度や耐サイクル疲労性を十分に向上させられないと推測される。