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特開2023-139398熱可塑性樹脂組成物およびその成形品
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139398
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物およびその成形品
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20230927BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20230927BHJP
   C08L 71/12 20060101ALI20230927BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C08L67/02
C08L69/00
C08L71/12
C08K7/14
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044908
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】日高 慎介
(72)【発明者】
【氏名】杉澤 幸志郎
(72)【発明者】
【氏名】本田 佳之
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BN124
4J002BN174
4J002CD005
4J002CD015
4J002CD025
4J002CD055
4J002CD065
4J002CD105
4J002CD194
4J002CF07W
4J002CG00X
4J002CG01X
4J002CH073
4J002CM055
4J002DL006
4J002ER007
4J002FA046
4J002FD016
4J002FD204
4J002FD205
4J002FD207
4J002GN00
(57)【要約】
【課題】成形性、高温時の剛性および湿熱処理後の耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ポリカーボネート樹脂を15~400重量部、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂を15~35重量部、(D)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤を5.0~35.0重量部、および(E)強化材を200~600重量部配合し、ならびに(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂および(B)ポリカーボネート樹脂の総量100重量部に対し、(F)加水分解抑制剤を0.1~3.5重量部配合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ポリカーボネート樹脂を15~400重量部、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂を15~35重量部、(D)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤を5.0~35.0重量部、および(E)強化材を200~600重量部配合し、ならびに(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂および(B)ポリカーボネート樹脂の総量100重量部に対し、(F)加水分解抑制剤を0.1~3.5重量部配合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
熱可塑性樹脂組成物を透過型電子顕微鏡にて観察した際の前記(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散粒子の平均粒子径が1.7μm以下であることを特徴とする請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
前記(D)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤が変性ビニル系共重合体、および芳香族ポリエステルと芳香族ビニルの共重合体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または2に記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項4】
前記(E)強化材がガラス繊維であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
前記(F)加水分解抑制剤がエポキシ化合物、およびカルボジイミド化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温時の剛性および湿熱処理後の耐衝撃性に優れる熱可塑性樹脂組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、優れた機械特性、耐熱性、成形性、リサイクル性を有するため、各種容器、フィルム、電気・電子部品などに幅広く使用されている。中でもポリエステル樹脂の1種であるポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレートはさらに無機充填剤による補強効果が高く、耐薬品性にも優れることから、自動車や電気・電子機器のコネクター、リレー、スイッチなどの工業用成形品の材料として広く使用されている。しかし、近年、工業用成形品の小型化・軽量化に対する要求がますます高まっており、特に自動車や電気・電子機器用途に用いるポリブチレンテレフタレートは、これらの要求に対し、機械特性を低下させることなく、優れた成形加工性を有することが望まれている。結晶性熱可塑性ポリマーであるポリブチレンテレフタレート樹脂と非晶性熱可塑性ポリマーであるポリカーボネート樹脂とのポリマーアロイは、双方ポリマーの優れた特性を兼備し、外観や寸法安定性、機械特性、耐久性をバランスよく満足するものである。特に耐衝撃性や耐熱性、耐薬品性に優れていることから、幅広い分野で用いられている。更にポリフェニレンエーテル樹脂は耐熱性、加水分解安定性に優れていることから注目を集めており、ポリエステル系樹脂との併用によりその効果を発揮する。また、これらのベース樹脂に対し、耐衝撃性や剛性を改良するために、ゴム質重合体やガラス繊維、タルク、マイカ、ウィスカーなどの微細な無機充填剤を配合したものも広く用いられている。
【0003】
特許文献1では、ポリブチレンテレフタレート樹脂と非晶性樹脂としてポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂などから選ばれる1種以上の樹脂からなり、流動性改良剤、充填剤を含む熱可塑性樹脂組成物が提案されている。また特許文献2では、ポリフェニレンエーテル樹脂とポリブチレンテレフタレート樹脂とポリカーボネート樹脂からなる組成物に特定のガラス繊維、熱可塑性弾性重合体を配合した組成物が提案されている。さらに特許文献3ではポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエステル樹脂とポリカーボネート樹脂からなる組成物に強化充填材、流動性付与のためテルペンフェノール樹脂を配合した樹脂組成物が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009-132851号公報
【特許文献2】特開平04-146960号公報
【特許文献3】特開平08-199050号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル樹脂などの非晶性樹脂の分散が不十分であり、また高温時の剛性および湿熱処理後の耐衝撃性が不足していた。また、特許文献2に記載の樹脂組成物は、繊維径が2μm以下のガラス繊維を使用することから得られた成形品の外観は良好であるが、ポリフェニレンエーテル樹脂の分散が不十分であり、また高温時の剛性および湿熱処理後の耐衝撃性が不足していた。また、特許文献3記載の樹脂組成物は、ポリフェニレンエーテル樹脂が多く含まれるため成形加工性が課題であり、流動性改善のためにテルペンフェノールが使用されているが、特許文献1および2と同様にポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤が不十分であり、また高温時の剛性および湿熱処理処理後の耐衝撃性が不足していた。
【0006】
そこで、本発明は高温時の剛性および湿熱処理後の耐衝撃性に優れ、成形加工性が良好な熱可塑性樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果得られたものである。
【0008】
すなわち、本発明は、
(1)(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し、(B)ポリカーボネート樹脂を15~400重量部、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂を15~35重量部、(D)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤を5.0~35.0重量部、および(E)強化材を200~600重量部を配合し、ならびに(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂および(B)ポリカーボネート樹脂の総量100重量部に対し、(F)加水分解抑制剤を0.1~3.5重量部配合してなることを特徴とする熱可塑性樹脂組成物。
(2)熱可塑性樹脂組成物を透過型電子顕微鏡にて観察した際の前記(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散粒子の平均粒子径が1.7μm以下であることを特徴とする(1)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(3)前記(D)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤が変性ビニル系共重合体、および芳香族ポリエステルと芳香族ビニルの共重合体から選択される少なくとも1種であることを特徴とする(1)または(2)に記載の熱可塑性樹脂組成物。
(4)前記(E)強化材がガラス繊維であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(5)前記(F)加水分解抑制剤がエポキシ化合物、およびカルボジイミド化合物から選択される少なくとも1種であることを特徴とする(1)~(4)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物。
(6)(1)~(5)のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品、を提供するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、成形性、高温時の剛性および湿熱処理後の耐衝撃性に優れた熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。加えて、上記の熱可塑性樹脂組成物からなる成形品は、衝撃吸収特性に優れることから衝突時に圧壊して衝突荷重を吸収するエネルギー吸収部材として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0011】
本発明を構成する(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とは、テレフタル酸あるいはそのエステル形成性誘導体と1,4-ブタンジオールあるいはそのエステル形成性誘導体とを主成分とし重縮合反応させる等の通常の重合方法によって得られる重合体であって、特性を損なわない範囲、例えばポリブチレンテレフタレート樹脂を構成する全モノマー成分を100重量%とした場合の20重量%程度以下、他の共重合成分を含んでもよい。これら(共)重合体の好ましい例としては、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレン(テレフタレート/イソフタレート)、ポリブチレン(テレフタレート/アジペート)、ポリブチレン(テレフタレート/セバケート)、ポリブチレン(テレフタレート/デカンジカルボキシレート)、ポリブチレン(テレフタレート/ナフタレート)、ポリ(ブチレン/エチレン)テレフタレート等が挙げられ、単独で用いても2種以上混合してもよい。
【0012】
本発明で用いられるポリブチレンテレフタレート樹脂は、o-クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.60~1.60dl/g、特に0.80~1.30dl/gの範囲にあるものが好適である。固有粘度が0.60dl/g以上であると機械的特性が良好であり、一方、固有粘度が1.60dl/g以下であると成形性に優れる。
【0013】
また、本発明におけるポリブチレンテレフタレート樹脂の配合量は、熱可塑性樹脂組成物全体の20~55重量%であることが好ましい。ポリブチレンテレフタレート樹脂の配合量が20重量%以上とすることで、熱可塑性樹脂組成物の耐薬品性を維持でき、55重量%以下とすることで熱可塑性樹脂組成物の衝撃強度を維持することができる。
【0014】
本発明を構成する(B)ポリカーボネート樹脂とは、2価フェノールとホスゲンまたは炭酸エステル化合物などのカーボネート前駆体とを反応させることにより得られる重合体であって、例えば、塩化メチレンなどの溶媒中において、2価フェノールとホスゲンのようなカーボネート前駆体との反応により、あるいは2価フェノールとジフェニルカーボネートのようなカーボネート前駆体とのエステル交換反応などによって製造される。2価フェノールとしては、様々なものがあるが、特に2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン[ビスフェノールA]が好ましい。ビスフェノールA以外の2価フェノールとしては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)アルカン、1,1-(4-ヒドロキシフェニル)メタン、1,1-(4-ヒドロキシフェニル)エタン、ハイドロキノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロアルカン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホキシド、ビス(4-ヒドロキシフェニル)エーテル等が挙げられる。これらの2価フェノールはそれぞれ単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。また、炭酸エステル化合物としては、ジフェニルカーボネート等のジアリールカーボネートやジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネートが挙げられる。
【0015】
本発明で用いるポリカーボネート樹脂(B)は、数平均分子量が10000~60000、特に15000~40000の範囲にあるものが好適である。数平均分子量が10000以上とすることで機械的特性が良好であり、一方、数平均分子量が60000以下であると成形性も良好である。
【0016】
本発明における(B)ポリカーボネート樹脂の配合量は(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し15~400重量部である。(B)ポリカーボネート樹脂の配合量が15重量部未満であると熱可塑性樹脂組成物の衝撃特性が悪化する傾向にあるため、好ましくない。一方で400重量部を超えると耐薬品性が低下し、また熱可塑性樹脂組成物の射出成形時における流動性の悪化によるピーク圧の増加や離型性の悪化によりハイサイクル性が劣る傾向にあるため好ましくない。(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対する(B)ポリカーボネート樹脂の配合量は、25~300重量部が好ましく、50~200重量部がより好ましく、75~125重量部がさらに好ましい。かかる範囲とすることで、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の各特性を保持しバランスの取れた物性を保持することが可能となる。
【0017】
本発明において使用される(C)ポリフェニレンエーテル樹脂は、下記一般式(1)で表される繰り返し構造単位を有する、単独重合体および/または共重合体である。
【0018】
【化1】
【0019】
ここで、式(1)中、Rは、それぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、第1級若しくは第2級の炭素数1~7のアルキル基、フェニル基、炭素数1~7のハロアルキル基、炭素数1~7のアミノアルキル基、炭素数1~7のヒドロカルビロキシ基、または炭素数1~7のハロヒドロカルビロキシ基(ここで、少なくとも2個の炭素原子がハロゲン原子と酸素原子とを隔てている。)を示す。
【0020】
その具体例としては、ポリ(2,6-ジメチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-エチル-フェニレン)エーテル、ポリ(2,6-ジエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-nプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-nブチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-エチル-6-イソプロピル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-クロル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-ヒドロキシエチル-1,4-フェニレン)エーテル、ポリ(2-メチル-6-クロロエチル-1,4-フェニレン)エーテルなどの単独重合体、およびそれらの繰り返し単位からなる共重合体などがあげられる。
【0021】
またこれら(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の重合度は、単独重合体、共重合体ともに特に限定はしないが、クロロホルム溶液中で30℃にて測定した固有粘度が0.40~0.50dl/gの範囲であることが好ましく、より好ましくは0.45~0.49dl/gの範囲のものが最も好適に用いられる。
【0022】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し15~35重量部の範囲であり、好ましくは18~30重量部であり、より好ましくは20~26重量部である。ポリフェニレンエーテル樹脂の配合量が15重量部未満では湿熱時の耐衝撃性の向上が見られず、一方、配合量が35重量部を超えると、剛性、特に高温時の剛性が著しく低下する。その他にも(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の保持する物性が阻害されるため、好ましくない。
【0023】
また、本発明で使用する(C)ポリフェニレンエーテル樹脂は、未変性のもの、すなわち、上記の式(1)中のRがすべて水素原子であることが、エネルギー吸収特性に優れ、その温度依存性のバランスが良好となる観点から好ましい。
【0024】
本発明で使用される(D)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤は、変性ビニル系共重合体、および芳香族ポリエステルと芳香族ビニルの共重合体から選定された少なくとも1種であることが好ましい。変性ビニル系共重合体とは、反応性官能基で変性されたビニル系共重合体を指す。反応性官能基として、エポキシ基、カルボキシル基、アミノ基、水酸基などが挙げられるが、その中でもエポキシ基を有するビニル形共重合体が好適に使用される。
【0025】
また、変性ビニル系共重合体はグラフト共重合体、ランダム共重合体のいずれも好適に使用することができる。変性ビニル系共重合体の例として、主鎖がポリ(エチレン-グリシジルメタクリレート)共重合(以下、EGMAという)であって、側鎖がポリスチレン[PSt]、ポリメタクリル酸メチル[PMMA]、ポリ(メタクリル酸メチル-アクリル酸ブチル)共重合体[P(MMA/BA)]、およびポリ(アクリロニトリル-スチレン)共重合体[P(AN/St)]から選択されるいずれかであるグラフト共重合体などがある。
【0026】
グラフト共重合体における主鎖と側鎖との比率は、変性ビニル系共重合体を構成する全モノマー成分の合計を100重量%とした場合に、主鎖を構成するモノマー成分:側鎖を構成するモノマー成分の比率が40:60~90:10(重量%比)が好ましく、50:50~80:20(重量%比)がさらに好ましい。グラフト共重合体は、上記の構造であればいずれのグラフト共重合体を使用することができる。特に、EGMAと側鎖成分との配合比率を上記範囲内とすることで、成形品の耐衝撃性を維持することができ、好ましい。
【0027】
本発明の変性ビニル系共重合体として用いることができるグラフト共重合体の市販品としては、例えば、モディパー(登録商標)A4100[EGMA-g-PSt]、モディパー(登録商標)A4200[EGMA-g-PMMA]、モディパー(登録商標)A4300[EGMA-g-P(MMA/BA)]、モディパー(登録商標)A4400[EGMA-g-P(AN/St)]などがある。その中でもモディパー(登録商標)A4100は、ポリフェニレンエーテル樹脂を微分散させる効果があり、最も好ましく使用される。
【0028】
また変性ビニル系共重合体として用いることができるランダム共重合体はARUFON(登録商標) UG4070[EGMA-PSt]が最も好ましく使用される。
【0029】
(D)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤として使用できる芳香族ポリエステルと芳香族ビニルの共重合体について説明する。
【0030】
芳香族ポリエステルと芳香族ビニルの共重合体とは、少なくともエステル基を有する重合体とスチレン系重合体の構成を含む共重合体である。上記芳香族ポリエステルはエステル基を有する重合体であり、具体的には、ポリエステル系熱可塑性エラストマーや、ポリカーボネート系樹脂などである。芳香族ビニルとはスチレン系重合体であり、具体的には、例えば、ポリスチレン(PS)、耐衝撃性ポリスチレン(HIPS)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(ABS)、メタクリル酸メチル-ブタジエン-スチレン共重合体などのスチレン系樹脂や、スチレン-エチレン/ブチレン-スチレンブロック重合体(SEBS)、スチレン-エチレン/プロピレン-スチレンブロック共重合体(SEPS)、これらのスチレン系樹脂の水添物などのスチレン系熱可塑性エラストマー、およびこれらのスチレン系樹脂にグラフト法や直接(共重合)法などによりカルボン酸基、酸無水物基、エポキシ基、シラン基、オキサゾリン基などの官能基が導入されたスチレン系樹脂などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていてもよい。
【0031】
なお、上記カルボン酸基または酸無水物基を導入する化合物としては、具体的には、例えば、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、イタコン酸などのα,β-不飽和ジカルボン酸またはこれらの無水物、アクリル酸、メタクリル酸、フラン酸、クロトン酸、ビニル酢酸、ペンテン酸などの不飽和モノカルボン酸などを例示することができる。これらは1種または2種以上併用してもよい。
【0032】
また、上記エポキシ基を導入する化合物としては、具体的には、例えば、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル、イタコン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸モノグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸ジグリシジルエステル、ブテントリカルボン酸トリグリシジルエステルおよびα-クロロアクリル酸、マレイン酸、クロトン酸、フマル酸などのグリシジルエステル類またはビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、グリシジルオキシエチルビニルエーテル、スチレン-p-グリシジルエーテルなどのグリシジルエーテル類、p-グリシジルスチレンなどを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていてもよい。
【0033】
また、上記シラン基を導入する化合物としては、具体的には、例えば、ビニルトリメトキシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリアセチルシラン、ビニルトリクロロシランなどの不飽和シラン化合物などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていてもよい。
【0034】
上記芳香族ポリエステルと芳香族ビニルの共重合体としては、具体的には、ポリエステル系熱可塑性エラストマーや、ポリカーボネート系樹脂を主鎖とし、側鎖として、上述したスチレン系樹脂などのビニル系ポリマーがグラフトされたグラフト共重合体などを例示することができる。これらは1種または2種以上含まれていてもよく、その中でも特にポリカーボネート系樹脂を主鎖とし、側鎖にポリスチレン樹脂がグラフトされた共重合体が好適に使用される。
【0035】
また、これらの(D)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤の配合量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対し5.0~35.0重量部の範囲である。5.0重量部未満ではポリフェニレンエーテル樹脂の分散性が悪化し、所望の物性が得られないため好ましくなく、35.0重量部を超えると特に高温時の剛性は著しく低下する。その他にも(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の保持する物性が阻害されるため好ましくない。(D)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤の配合量は、7.0~30.0重量部であることが好ましく、10.0~25.0重量部であることが、ポリフェニレンエーテル樹脂の分散性と高温時の剛性を維持し、かつ(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の保持する物性が保持されるためより好ましい。
【0036】
次に(E)強化材について説明する。強化材としては、熱可塑性樹脂組成物の剛性や強度の向上などを目的として配合される強化フィラー並びに熱可塑性樹脂組成物の着色などを目的として配合される無機顔料などが代表的に例示される。強化フィラーとしては各種のガラス繊維(チョップドストランド、ミルドファイバー、扁平断面ガラス繊維等)、ガラスフレーク、ガラスビーズ、ガラスバルーン、炭素繊維、カーボンフレーク、カーボンビーズ、タルク、クレイ、カオリン、ワラステナイト、マイカ、炭酸カルシウム、各種無機のウィスカー、金属繊維、金属フレーク、金属コートガラス繊維、金属コートガラスフレーク、および金属コート炭素繊維などを挙げることができる。その中でもガラス繊維が最も好ましく使用される。
【0037】
ガラス繊維は、所定長さにカットしたチョップドストランド、ロービングストランド、ミルドファイバーなどの形状のものがあり、いずれを使用してもよい。繊維径は特に制限はないが、4~20μmのものが好ましい。繊維径が4μm以上であれば、成形品薄肉部への充填率を高めることができる。一方、20μm以下であれば、樹脂組成物中のガラス繊維の本数を多くすることができ、ガラス繊維による補強効果が得られやすくなることから、機械強度を高めることができる。ここで、ガラス繊維の繊維径とは、各ガラス繊維の繊維径の数平均値を指し、以下の方法により求めることができる。SEM(走査型電子顕微鏡)を使用してガラス繊維の断面(繊維の長さ方向に対して垂直に切断した断面)を観察し、最大径と最小径を測定し、その平均値を各ガラス繊維の繊維径とする。無作為に選んだ10本のガラス繊維の繊維径の数平均値を算出することにより、ガラス繊維の繊維径を求めることができる。チョップドストランドを使用する場合、繊維長に特に制限はないが、押出混練作業性の高いストランド長3mmのガラス繊維が好ましく使用される。ロービングストランドを使用する場合、押出機にロービングストランドを直接投入する公知の技術により複合することができる。これらのガラス繊維を2種以上併用してもよい。
【0038】
ガラス繊維は、公知のカップリング剤(例えば、シラン系カップリング剤、チタネート系カップリング剤など)、その他の表面処理剤を用いて表面処理することが好ましく、成形品の機械強度をより向上させることができる。シラン系カップリング剤としては、例えば、アミノシラン、エポキシシラン、アクリルシランなどが挙げられる。
【0039】
また、ガラス繊維は、集束剤(結束剤)で被覆されていることが好ましく、溶融混練する際の作業性を向上させることができる。さらに、成形品の機械強度をより向上させる効果を発現する場合もある。集束剤(結束剤)としては、例えば、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アクリル酸系樹脂、アミノ系樹脂、酢酸ビニル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂などが挙げられる。
【0040】
(E)強化材の配合量は(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を100重量部に対し、200~600重量部であるが、(E)強化材の配合量が200重量部未満であると強度、剛性が低くなり落錘衝撃試験時の初期荷重も著しく低下するため好ましくない。一方、(E)強化材の配合量が600重量部を超えると、製造が困難となり、本発明の樹脂組成物を得ることができないため好ましくない。225~500重量部が好ましく、250~400重量部がより好ましく、300~360重量部が剛性、耐衝撃性の物性バランスの取れた所望の熱可塑性樹脂組成物を得ることが可能となるためさらに好ましい。
【0041】
次に(F)加水分解抑制剤について説明する。本発明で用いられる(F)加水分解抑制剤は、エポキシ化合物、およびカルボジイミド化合物から選定された少なくとも1種であることが好ましい。
【0042】
エポキシ化合物は、分子内にエポキシ基を有する化合物である。なお、エポキシ基を有する化合物であっても、前記した(D)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤に該当する化合物は、(D)成分として扱うものとする。エポキシ化合物は、特に限定されるものではないが、グリシジルエステル化合物、グリシジルエーテル化合物、エポキシ化脂肪酸エステル化合物、グリシジルイミド化合物、および脂環式エポキシ化合物などが挙げられる。これらを2種以上併用してもよい。
【0043】
グリシジルエステル化合物は、グリシジルエステル構造を有する化合物であり、具体的には、シクロヘキサンカルボン酸グリシジルエステル、ステアリン酸グリシジルエステル、ラウリン酸グリシジルエステル、パルミチン酸グリシジルエステル、バーサティック酸グリシジルエステル、オレイン酸グリシジルエステル、リノール酸グリシジルエステル、リノレン酸グリシジルエステル、4-t-ブチル安息香酸グリシジルエステル、p-トルイル酸グリシジルエステル、テレフタル酸ジグリシジルエステル、オルトフタル酸ジグリシジルエステル、ポリアクリル酸グリシジレートとその共重合体が挙げられる。
【0044】
グリシジルエーテル化合物は、グリシジルエーテル構造を有する化合物であり、フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの縮合物、ノボラック型エポキシ、多価水酸基化合物のグリシジルエーテルなどが挙げられる。
【0045】
フェノール化合物とエピクロルヒドリンとの縮合物の具体例として、ビスフェノールA、レゾルシノール、ハイドロキノン、ピロカテコール、ビスフェノールF、サリゲニン、ビスフェノールS、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、1,5-ジヒドロキシナフタレン、1,4-ジヒドロアントラセン-9,10-ジオール、6-ヒドロキシ-2-ナフトエ酸、1,1-メチレンビス-2,7-ジヒドロキシナフタレン、1,1,2,2-テトラキス-4-ヒドロキシフェニルエタン、カシューフェノール等のフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの縮合により得られる縮合物が挙げられる。
【0046】
ノボラック型エポキシの具体例として、フェノールノボラック型エポキシ、クレゾールノボラック型エポキシ、ナフトールノボラック型エポキシ、ビスフェノールAノボラック型エポキシ、ジシクロペンタジエン-フェノール付加ノボラック型エポキシ、ジメチレンフェニレン-フェノール付加ノボラック型エポキシ、ジメチレンビフェニレン-フェノール付加ノボラック型エポキシなどが挙げられる。
【0047】
多価水酸基化合物とは、水酸基を2個以上有する脂肪族化合物であり、具体的には炭素数2~20のグリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、キシリトール、マンニトール、ソルビトール、ガラクトース、マルチトール、ラクチトール、イソマルト、イノシトール、グルコース、フルクトースなどが挙げられる。
【0048】
エポキシ化脂肪酸エステル化合物とは、大豆油や亜麻仁油などの不飽和脂肪酸エステルの不飽和結合をエポキシ化した化合物であり、具体的にはエポキシ化脂肪酸オクチルエステル、エポキシ化大豆油、エポキシ化亜麻仁油などが挙げられる。
【0049】
グリシジルイミド化合物の具体例としては、N-グリシジルフタルイミド、N-グリシジル-4-メチルフタルイミド、N-グリシジル-4,5-ジメチルフタルイミド、N-グリシジル-3-メチルフタルイミド、N-グリシジル-3,6-ジメチルフタルイミド、N-グリシジル-4-エトキシフタルイミド、N-グリシジル-4-クロルフタルイミド、N-グリシジル-4,5-ジクロルフタルイミド、N-グリシジル-3,4,5,6-テトラブロムフタルイミド、N-グリシジル-4-n-ブチル-5-ブロムフタルイミド、N-グリシジルサクシンイミド、N-グリシジルヘキサヒドロフタルイミド、N-グリシジル-1,2,3,6-テトラヒドロフタルイミド、N-グリシジルマレインイミド、N-グリシジル-α,β-ジメチルサクシンイミド、N-グリシジル-α-エチルサクシンイミド、N-グリシジル-α-プロピルサクシンイミド、イソシアヌル酸トリグリシジル、N-グリシジルベンズアミド、N-グリシジル-p-メチルベンズアミド、N-グリシジルナフトアミドまたはN-グリシジルステラミドなどが挙げられる。
【0050】
脂環式エポキシ化合物の具体例としては、3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4-エポキシシクロヘキシルカルボキシレート、ビス(3,4-エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、ビニルシクロヘキセンジエポキシド、N-メチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-エチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-フェニル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミド、N-ナフチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミドまたはN-トリル-3-メチル-4,5-エポキシシクロヘキサン-1,2-ジカルボン酸イミドなどが挙げられる。
【0051】
エポキシ化合物は、エポキシ同士の反応を抑え、滞留安定性の悪化を抑制できることから、グリシジルエーテル化合物、エポキシ化脂肪酸エステル化合物、および脂環式エポキシ化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。その中でもグリシジルエーテル化合物またはエポキシ化脂肪酸エステル化合物がより好ましく、耐加水分解性をより向上できることから、グリシジルエーテル化合物がさらに好ましい。また、グリシジルエーテル化合物の中でも、耐熱性を向上できることからノボラック型エポキシが好ましい。さらにノボラック型エポキシの中でも、滞留安定性をより向上できることからジシクロペンタジエン-フェノール付加ノボラック型エポキシが特に好ましい。
【0052】
(F)加水分解抑制剤として好適に用いることのできるカルボジイミド化合物について説明する。カルボジイミド化合物とは、分子中にカルボジイミド基を有する化合物である。カルボジイミド化合物としては、主鎖が脂肪族の脂肪族カルボジイミド化合物、主鎖が脂環族の脂環族カルボジイミド化合物、主鎖が芳香族の芳香族カルボジイミド化合物のいずれも使用できるが、耐加水分解性の点で芳香族カルボジイミド化合物の使用が好ましい。
【0053】
脂肪族カルボジイミド化合物としては、ジイソプロピルカルボジイミド、ジオクチルデシルカルボジイミド、ジ-tert-ブチルカルボジイミド、1-エチル-3-tert-ブチルカルボジイミド、1-(2-ブチル)-3-エチルカルボジイミド、1,3-ジ-(2-ブチル)カルボジイミド、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)等が挙げられる。脂環族カルボジイミド化合物としてはジシクロヘキシルカルボジイミド、ポリ(ジイソプロピルカルボジイミド)等が挙げられる。
【0054】
芳香族カルボジイミド化合物としては、ジフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジエチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジ-2,6-ジtert-ブチルフェニルカルボジイミド、N-トリイル-N’-フェニルカルボジイミド、N-(2,6-ジイソプロピル-4-フェノキシフェニル)-N-tert-ブチルカルボジイミド、N,N-ビス[3-イソシアナト-2,4,6-トリス(1-メチルエチル)フェニルアミノ]カルボジイミド、N-シクロヘキシル-N-(4-(ジメチルアミノ)ナフチル)カルボジイミド、ジ-o-トリルカルボジイミド、ジ-p-トリルカルボジイミド、ジ-p-ニトロフェニルカルボジイミド、ジ-p-アミノフェニルカルボジイミド、ジ-p-ヒドロキシフェニルカルボジイミド、ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-p-メトキシフェニルカルボジイミド、ジ-3,4-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,5-ジクロルフェニルカルボジイミド、ジ-o-クロルフェニルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリメチルフェニルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリイソプロピルフェニルカルボジイミド、ジ-2,4,6-トリイソブチルフェニルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-o-トリイルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジシクロヘキシルカルボジイミド、p-フェニレン-ビス-ジ-p-クロルフェニルカルボジイミド、エチレン-ビス-ジフェニルカルボジイミドのモノ又はジカルボジイミド化合物及びポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(p-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m-フェニレンカルボジイミド)、ポリ(3,3’-ジメチル-4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1-メチル-3,5-ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5-トリエチルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)及びポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)等が挙げられる。上記のカルボジイミド化合物は、2種以上併用することもできる。
【0055】
これらの中でも特にジ-2,6-ジメチルフェニルカルボジイミド、ポリ(4,4’-ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(フェニレンカルボジイミド)及びポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)が好適に使用される。
【0056】
また(F)加水分解抑制剤として、エポキシ化合物およびカルボジイミド化合物を併用することもできる。
【0057】
(F)加水分解抑制剤の配合量は、熱可塑性樹脂組成物に配合される(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂および(B)ポリカーボネート樹脂の総量100重量部に対し、0.1~3.5重量部である。(F)加水分解抑制剤の配合量が0.1重量部未満の場合、長期耐加水分解性が低下する。(F)成分の配合量は、より好ましくは1.6重量部以上であり、さらに好ましくは2.0重量部以上である。一方、(F)加水分解抑制剤の配合量が3.5重量部を超えると、耐熱性低下、滞留安定性が悪化し、生産性にも悪影響を及ぼすため好ましくない。(F)加水分解抑制剤の配合量がより好ましくは3.2重量部以下であり、さらに好ましくは3.0重量部以下である。
【0058】
本発明の熱可塑性樹脂組成物には、本発明の効果を損なわない範囲で、離型剤、酸化防止剤、安定剤、紫外線吸収剤、着色剤、難燃剤、難燃助剤、衝撃改良材、滑剤などの通常の添加剤および少量の他種ポリマーを添加することができる。
【0059】
本発明の熱樹脂可塑性樹脂組成物はこれら配合成分が均一に分散されていることが好ましく、その配合方法は任意の方法を用いることができる。代表例として、単軸あるいは2軸の押出機、バンバリーミキサー、ニーダーあるいはミキシングロールなど、公知の溶融混合機を用いて、200~350℃の温度で溶融混練する方法を挙げることができる。各成分は、予め一括して混合しておき、それから溶融混練してもよい。なお、各成分に付着している水分は少ない方がよく、予め事前乾燥しておくことが望ましいが、必ずしも全ての成分を乾燥させる必要がある訳ではない。
【0060】
本発明の熱可塑性樹脂組成物の好ましい製造方法の例としては、シリンダー温度230~300℃の2軸押出機を用い、(A)成分~(F)成分、およびその他の任意の添加物を配合した原料を該押出機に供給して混練する方法が挙げられ、更に好ましい製造方法としては、剪断場依存型スピノーダル分解を利用する方法が挙げられ、溶融混練時の相溶化を実現させる方法として、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリカーボネート樹脂および(C)ポリフェニレンエーテル樹脂を2軸押出機のニーディングゾーンにおいて、高剪断応力下で溶融混練する方法が挙げられる。
【0061】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(C)ポリフェニレンエーテル樹脂が分散した構造を有し、透過型電子顕微鏡にて観察した際のポリフェニレンエーテル樹脂の分散粒子の平均粒子径が1.7μm以下であることが好ましい。かかる構造を有することで、物性バランスに優れ、特に高温時剛性、湿熱時の耐衝撃性に優れる。平均粒子径は1.5μm以下が好ましく、1.3μm以下がより好ましい。平均粒子径の下限値は、小さいほど好ましいが、1.0μm以上であることが好ましい。(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の平均粒子径を上記範囲とするための方法は、特に限定されないが、たとえば(C)ポリフェニレンエーテル樹脂に対する(D)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤量を本発明の範囲で配合し、かつ2軸押出機のニーディングゾーンにおいて、高剪断応力下で溶融混練する方法が挙げられる。なお、本発明におけるポリフェニレンエーテル樹脂の分散粒子の平均粒子径は、熱可塑性樹脂組成物を透過型電子顕微鏡にて観察し、ポリフェニレンエーテル樹脂の分散粒子を10個ランダムに選定し、各分散粒子の最大径の数平均から求めた値である。
【0062】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、射出成形、押出成形、ブロー成形、トランスファー成形、真空成形など一般に熱可塑性樹脂の公知の成形方法により成形されるが、なかでも射出成形が好ましい。射出成形により製造する場合にはシリンダー温度を樹脂組成物の融点よりも20℃~50℃程度高い温度として、金型温度を60~120℃とすることが好ましい。
【0063】
本発明の成形品は、車両等の衝突時に圧壊して衝突荷重を吸収するエネルギー吸収部材などの車両用外装部品として好適に用いることができる。
【実施例0064】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明する。
【0065】
実施例および比較例の評価方法を次に示す。
【0066】
(1)(C)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散粒子径
熱可塑性樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度270℃、金型温度80℃の条件で射出成形しISOダンベル試験片を得た。得られたISOダンベル試験片の中央平行部から厚み100μmの切片を切り出し、ヨウ素染色法によりポリカーボネート樹脂を染色することでポリフェニレンエーテル樹脂の分散状態を明確にした後、透過型電子顕微鏡にて10万倍に拡大して観察を行った。得られた写真よりランダムに分散粒子を10個選定し、その最大粒子径の数平均値を算出した。
【0067】
(2)高温時剛性(80℃曲げ弾性率)
熱可塑性樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で射出成形し長さ×幅×厚みが80mm×10mm×4mmの曲げ試験片を得た。得られた曲げ試験片を使用し、ISO178(2010)に準拠する方法で80℃の温度雰囲気下で曲げ弾性率を測定した。
【0068】
(3)湿熱処理20h後の耐衝撃性(シャルピー衝撃強度)(耐湿熱性)
熱可塑性樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件で射出成形し、厚み4.0mmのシャルピー衝撃試験用テストピースとし、ISO527-1多目的試験片を得た。得られた試験片を切削、ノッチ加工した試験片を121℃、湿度100%、圧力2atmの条件で20時間湿熱処理を実施後、ISO179に準拠する方法でシャルピー衝撃強度を測定した。
【0069】
(4)ISO試験片成形時のピーク圧評価(成形加工性)
熱可塑性樹脂組成物ペレットを、シリンダー温度260℃、金型温度80℃の条件でISO527-1多目的試験片を射出成形した際のピーク圧を測定し、130MPaをしきい値として成形加工性を確認した。
【0070】
(5)TGAによる加熱減量率評価(ガス量)
得られた熱可塑性樹脂組成物ペレット5.0mgを空気雰囲気下で260℃まで20℃/分で加熱し260℃到達時を基準に2h加熱した際の減量率を比較し、2.0重量%をしきい値としてガス量を確認した。
【0071】
(6)押出時のストランド切れ頻度(生産性)
熱可塑性樹脂組成物を製造するにあたり、押出機TEM37-SS(東芝機械製)を使用し、シリンダー温度を260℃に設定、スクリュー回転数250rpm、吐出量60kg/hに設定して押出し、スタートから30分後のストランド切れ回数により4段階にその頻度を示した。Aは0回、Bは1~2回、Cは3~4回、Dは5回以上を示し、A、Bは生産性良好、C、Dは生産性悪化とした。
【0072】
以下に、実施例および比較例にて使用した化合物を示す。
(A-1)ポリブチレンテレフタレート樹脂:東レ(株)製、MFR:32g/10分(250℃、1000g)
(B-1)芳香族ポリカーボネート樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製“ユーピロン”H-2000
(C-1)ポリフェニレンエーテル樹脂:三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製PX100L
(D-1)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤(変性ビニル系共重合体):日油(株)製“モディパ―”A4100
(D-2)ポリフェニレンエーテル樹脂の分散剤(変性ビニル系共重合体):東亜合成(株)製“ARUFON” UG-4070
(D-3)ポリフェニレンエーテル樹脂分散剤(芳香族ポリエステルと芳香族ビニルの共重合体):日油(株)製“モディパ―”CL130D
(E-1)ガラス繊維(GF):日本電気硝子(株)製、ECS03T-158H
(F-1)耐加水分解抑制剤(エポキシ化合物): DIC(株)製“EPICLON” HP-7200H
(F-2)耐加水分解抑制剤(カルボジイミド化合物):(株)平泉洋行製“スタバクゾール”P
【0073】
実施例1~13、比較例1~9
熱可塑性樹脂組成物の製造方法は次の通りである。(A)成分から(F)成分を、表1、2に示す組合せで配合し、シリンダー温度260℃に設定したスクリュー径37mmφの2軸押出機を用いて溶融混練した。なお、(A)、(B)、(C)、(D)、および(F)成分は全てを元込め部から、(E)成分はサイドフィーダーから二軸押出機に供給して溶融混練を行い、ダイスから吐出されたストランドを冷却バス内で冷却した後、ストランドカッターにてペレット化した。得られた各熱可塑性樹脂組成物ペレットは、130℃の熱風乾燥機で3時間以上乾燥した後、射出成形機(住友重機社製SE75DUZ-C250)で前記評価方法に記載の成形品を成形し、各評価を行なった。
【0074】
その結果を表1、2に示す。表1の実施例1~13で得られた熱可塑性樹脂組成物はいずれも、湿熱処理後の耐衝撃性、および高温における曲げ弾性率に優れたものであり、ガス発生量が少なく、押出時のストランド切れ頻度も低いため、生産性が良好であり、射出成形時のピーク圧も130MPaより低いことから成形加工性も良好であった。
【0075】
一方、表2の比較例1~9についても、(A)成分から(F)成分を、表2に示す組合せで配合し、実施例と同様にペレット化し、成形品を成形し、各種評価を行った。比較例1~9で得られた熱可塑性樹脂組成物は、高温時の剛性、湿熱処理後の耐衝撃性、ガス発生量、押出時のストランド切れ頻度、成形加工性の何れかが劣るものであった。
【0076】
【表1】
【0077】
【表2】