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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139403
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】稲作システム及び稲作方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 22/22 20180101AFI20230927BHJP
   A01C 15/00 20060101ALI20230927BHJP
   A01D 34/86 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
A01G22/22 A
A01C15/00 J
A01D34/86
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044914
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】516035013
【氏名又は名称】北川 昌昭
(71)【出願人】
【識別番号】592072584
【氏名又は名称】株式会社長崎鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【弁理士】
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(72)【発明者】
【氏名】北川 昌昭
(72)【発明者】
【氏名】長崎 将雄
【テーマコード(参考)】
2B052
2B083
【Fターム(参考)】
2B052BA03
2B052CA06
2B052EC02
2B083HA59
2B083HA60
(57)【要約】
【課題】
中山間の稲作を持続可能にするための、平地の大規模農用と同等もしくはそれ以下の労働力で稲作が可能となる未来型農作業支援ロボットシステムを提供する。
【解決手段】
稲田Fの周囲に配設されたレール10と、前記レール10に沿って自走することができる稲作用ロボット21,22とを備え、稲作用ロボット21,22は、ロボットアーム21a,22aを有し、当該ロボットアーム21a,22aを用いて稲作における複数の作業工程を行うことができる稲作システム。この稲作システムでは、従来は稲作農家の人々が自ら行っていた種々の作業工程のほぼ全てを、レール10に沿って自走する稲作用ロボット21,22が全自動又は半自動で行うことができる。このため、作業工程ごとに機械やロボットを用意する必要がなく、少ないコストで効率的に稲作を省力化することができる。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
稲田の周囲に配設されたレールと、
前記レールに沿って自走することができる稲作用ロボットと
を備え、
稲作用ロボットは、ロボットアームを有し、当該ロボットアームを用いて稲作における複数の作業工程を行うことができる
稲作システム。
【請求項2】
前記レールが、苗床に沿った箇所にも配設され、
前記レールにおける稲田の周囲に配設された部分と苗床に沿った箇所に配設された部分とが、相互に連絡していることにより、
稲作用ロボットが、稲田の周囲と苗床に沿った箇所とを行き来することができる
請求項1に記載の稲作システム。
【請求項3】
前記レールが、苗箱に播種を行うための播種場に沿った箇所にも配設され、
前記レールにおける、稲田の周囲に配設された部分と、苗床に沿った箇所に配設された部分と、播種場に沿った箇所に配設された部分とが、相互に連絡していることにより、
稲作用ロボットが、稲田の周囲と、苗床に沿った箇所と、播種場に沿った箇所とを行き来することができる
請求項2に記載の稲作システム。
【請求項4】
稲作用ロボットとは独立して前記レールに沿って自走することができ、被搬送物を積載して搬送することができる搬送用台車をさらに備えた請求項1に記載の稲作システム。
【請求項5】
稲作用ロボットとして、それぞれ独立して自走することができる第一稲作用ロボット及び第二稲作用ロボットを備えた請求項1に記載の稲作システム。
【請求項6】
稲作用ロボットが、可動式の支持用脚を有し、
稲作用ロボットの移動時には支持用脚が接地しない状態とするとともに、
稲作用ロボットの停止時には支持用脚を接地させて、稲作用ロボットを安定させることができるようにした
請求項1に記載の稲作システム。
【請求項7】
液体状、固体状又は気体状の被輸送物を、前記レールに沿って輸送することができる輸送管を備えた請求項1に記載の稲作システム。
【請求項8】
前記複数の作業工程には、
稲田の周囲に設けられた畦の草刈りを行う畦草刈工程と、
稲田に肥料又は農薬を噴霧又は散布する動力噴霧工程又は動力散布工程と
が含まれる請求項1に記載の稲作システム。
【請求項9】
請求項1~8いずれか記載の稲作システムを用いた稲作方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、稲作を省力化するための稲作システムに関する。本発明はまた、この稲作システムを用いた稲作方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
我が国における就農人口は、年々減少しており、特に稲作の分野では人手不足が顕著である。現在就農している稲作農家の中には、身体的負担の大きさから離農を検討している農家も少なくない。このため、所謂スマート農業の導入によって、稲作の省力化、自動化、効率化を行うことが急務となっている。
【0003】
このような状況に鑑みてか、各メーカーからは、自動運転機能を有する田植機(例えば、特許文献1に記載の田植機1)やコンバイン(例えば、特許文献2に記載のコンバイン1)等が次々と提案されている。しかし、田植機やコンバイン等の運転は、稲作における種々の作業の中でも比較的身体的負担が少ない作業であるため、これらを自動化したとしても、就農者の負担を十分に軽減することはできない。従来の稲作において、就農者の大きな負担となっているのは、むしろ、例えば、「苗箱運び」や、「苗箱並べ」や、「畦草刈り」や、「肥料散布」や、「農薬散布」等の、田植えや耕運・収穫以外の工程である。
【0004】
この点、特許文献3には、ベルトコンベアとロボットとを用いて「苗箱運び」を行う設備が記載されている。同設備においては、播種設備41(同文献の図10を参照。)で播種された育苗箱Cを、同文献の図1に示されるように、播種育苗箱供給コンベア2によって位置A1,A2まで運搬する。続いて、播種育苗箱段積みロボット8が、位置A1,A2にある育苗箱Cを持ち上げて、播種育苗箱供給コンベア2に隣接する育苗箱搬出コンベア4に乗せ換える。育苗箱搬出コンベア4に乗せ換えられた育苗箱Cは、育苗箱搬出コンベア4の終端部まで運搬された後、同文献の図10に示されるように、フォークリフトによって出芽室48へと運搬され、出芽室48内に並べられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021-097678号公報
【特許文献2】特開2021-185852号公報
【特許文献3】特開2015-226508号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、特許文献3に記載の設備は、導入に高いコストがかかるにもかかわらず、依然として稲作農家の負担を十分に軽減することができないものであった。というのも、同設備では、播種設備41における育苗箱Cへの播種作業や、播種後の育苗箱Cを播種設備41から育苗箱搬出コンベア4の終端部まで運ぶ作業は自動的に行うことができるかもしれないが、その後、フォークリフトで育苗箱Cを出芽室48まで運搬する作業や、育苗箱Cをフォークリフトから降ろして出芽室48内に並べる「苗箱並べ」等は、人間が行わなくてはならないからである。そして、これらの作業を自動化するために新たなロボットや機械を導入しようとすると、さらにコストがかさむ。すなわち、同文献のように、作業工程ごとにロボットや機械を用意するやり方では、稲作全体を省力化しようとすると莫大なコストがかかってしまう。
【0007】
加えて、そもそも、我が国における稲作地の約40%以上は平野部ではなく中山間部にあり、その多くは小規模な稲作農家によって運営されているところ、そのような小規模農家にとって、特許文献3のような大規模な設備を導入するメリットは極めて少ない。また、そのような小規模農家は、大規模な設備を導入するための土地や資金も有していないことが多い。しかし、中山間部の稲作がスマート化されないまま放置され、いずれ耕作放棄地になってしまえば、我が国の米作りは致命的なダメージを受ける。したがって、中山間部における稲作を持続可能なものとするためには、小規模農家の期待に応えることができるマーケットインのスマート農業を実現し、平野部の大規模農業と同等もしくはそれ以下の労働力で稲作が可能とする必要がある。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するために為されたものであり、少ないコストで効率的に稲作を省力化することができ、中山間地域における小規模な稲作農家にも導入しやすい稲作システムを提供するものである。また、この稲作システムを用いた稲作方法を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、
稲田の周囲(畦)に配設されたレールと、
前記レールに沿って自走することができる稲作用ロボットと
を備え、
稲作用ロボットは、ロボットアームを有し、当該ロボットアームを用いて稲作における複数の作業工程を行うことができる
稲作システム
を提供することによって解決される。
【0010】
この稲作システムでは、後で詳しく説明するように、従来は稲作農家の人々が自ら行っていた稲作における様々な作業工程(例えば、「畦草刈り」や、「肥料散布」や、「農薬散布」等)を、稲作用ロボットによって全自動又は半自動で行うことができる。このため、作業工程ごとに機械やロボットを用意する必要がなく、少ないコストで効率的に稲作を省力化することができる。ここで、「半自動で行う」とは、人間と稲作システムとが分担又は協働して作業工程を行うことをいう。以下においても同様とする。
【0011】
上記の稲作システムにおいては、前記レールを、苗床に沿った箇所にも配設し、前記レールにおける稲田の周囲に配設された部分と苗床に沿った箇所に配設された部分とを、相互に連絡させることにより、稲作用ロボットが、稲田の周囲と苗床に沿った箇所とを行き来することができるようにすると好ましい。これにより、例えば、「苗箱運び」や、「苗箱並べ」や、「苗散水」等、育苗工程における各種の作業も、稲作用ロボットによって全自動又は半自動で行うことができる。したがって、育苗用に別途大掛かりな装置を用意する必要がなく、より低コストで稲作を省力化することができる。ここで、レールにおける一の部分と他の部分とが「相互に連絡している」とは、一の部分と他の部分とが「連続している」場合と、一の部分と他の部分とが「連続しておらず直接的又は間接的に連絡している」場合との両方を含むものとする。以下においても同様とする。
【0012】
上記の稲作システムにおいては、前記レールを、苗箱に播種を行うための播種場に沿った箇所にも配設し、前記レールにおける、稲田の周囲に配設された部分と、苗床に沿った箇所に配設された部分と、播種場に沿った箇所に配設された部分とを、相互に連続又は連絡させることにより、稲作用ロボットが、稲田の周囲と、苗床に沿った箇所と、播種場に沿った箇所とを行き来することができるようにすると好ましい。これにより、例えば、「播種」等の作業も、稲作用ロボットによって全自動又は半自動で行うことができるとともに、「播種」を終えた苗箱を、そのまま苗床Nまでスムーズに運ぶこともできる。したがって、これらの作業用に別途大掛かりな装置を用意する必要がなく、より低コストで稲作を省力化することができる。なお、播種場は、露地に設けてもよいが、後で述べるように、建屋等の中に設けることが好ましい。
【0013】
上記の稲作システムにおいては、稲作用ロボットとは独立して前記レールに沿って自走することができ、被搬送物を積載して搬送することができる搬送用台車をさらに備えることが好ましい。これにより、例えば、多くの荷物を運ぶ必要のある作業工程等を、より効率的に行うことができる。
【0014】
上記の稲作システムにおいては、稲作用ロボットを1台だけ備えてもよい。ただし、稲作用ロボットとして、それぞれ独立して自走することができる第一稲作用ロボット及び第二稲作用ロボットを備えることが好ましい。これにより、例えば、数メートル~十数メートルもある長い粉体散布機の両端を第一稲作用ロボットと第二稲作用ロボットとで保持して散布を行う等、2台の稲作用ロボットが協力して作業を行うことができる。したがって、稲作用ロボット1台では自動で行うことが難しい作業であっても、全自動又は半自動で行うことができる。
【0015】
上記の稲作システムにおいては、稲作用ロボットが、可動式の支持用脚を有し、稲作用ロボットの移動時には支持用脚が接地しない状態とするとともに、稲作用ロボットの停止時には支持用脚を接地させて、稲作用ロボットを安定させることができるようにすると好ましい。これにより、支持用脚を接地させた際には、稲作用ロボットが支持用脚によって自立する構造とすることができる。したがって、例えば重量物を操作する際等にも、稲作用ロボットがぐらつきにくくすることができる。
【0016】
上記の稲作システムにおいては、液体状、固体状又は気体状の被輸送物を、前記レールに沿って輸送することができる輸送管を備えることが好ましい。これにより、例えば、水といっしょに肥料や農薬等を、稲田の周囲もしくは圃場内へと容易に輸送することができる。また、空気輸送により収穫した籾を圃場から籾こう乾燥機へ直接輸送することもできる。
【0017】
上記の稲作システムにおいて、稲作用ロボットが行うことができる作業工程は、その種類を特に限定されない。前記複数の作業工程には、例えば、稲田の周囲に設けられた畦の草刈りを行う畦草刈工程と、稲田に肥料又は農薬を噴霧又は散布する動力噴霧工程又は動力散布工程とを含むことができる。
【0018】
上記のレールの材質としては、コストを抑える為に安価な鉄を使うこともできるが、その場合にはレールの耐久性を高めにくくなるおそれがある。このため、レールの材質としてステンレスを使用する事が好ましい。これにより、耐久性を飛躍的に向上させることができ、レールの償却期間を、例えば50年以上にする事もできる。
【発明の効果】
【0019】
以上のように、本発明によって、少ないコストで効率的に稲作を省力化することができ、中山間地域における小規模な稲作農家にも導入しやすい稲作システムを提供することが可能になる。また、この稲作システムを用いた稲作方法を提供することも可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本実施形態の稲作システムの全体を模式的に示した図である。
図2】第一稲作用ロボット及び第二稲作用ロボット並びに搬送用台車を示した図である。
図3】稲田の周囲に配設されたレールの一部を抜き出して示した図である。
図4図3のA-A線における断面図である。
図5】レールの交差部を拡大して示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明の好適な実施形態について、図面を用いてより具体的に説明する。ただし、本発明の技術的範囲は、以下で述べる実施形態に限定されない。
【0022】
1.概要
図1は、本実施形態の稲作システムの全体を模式的に示した図である。本実施形態の稲作システムは、図1に示すように、稲田Fと、苗床Nと、レール10と、稲作用ロボット(第一稲作用ロボット21及び第二稲作用ロボット22)と、搬送用台車30と、建屋40とを備えている。レール10は、稲田Fの周囲と、苗床Nに沿った箇所と、建屋40の内部とに配設されている。稲田Fの周囲を囲うレール10と、苗床Nに沿って配されたレール10と、建屋40内のレール10とは、相互に連続又は連絡している。建屋40内には、農業資材等を搬出入するための搬出入用スペース41と、苗箱に播種を行うための播種場42と、農業資材等を収納しておくための収納部43とが設けられており、建屋40内のレール10は、搬出入用スペース41と、播種場42と、収納部43とに沿うように配設されている。
【0023】
第一稲作用ロボット21、第二稲作用ロボット22及び搬送用台車30は、それぞれ独立して、レール10に沿って自走することができる。このため、第一稲作用ロボット21、第二稲作用ロボット22及び搬送用台車30は、稲田Fの周囲と、苗床Nに沿った箇所と、建屋40内(における、搬出入用スペース41に沿った箇所と、播種場42に沿った箇所と、収納部43に沿った箇所)との間を、それぞれ自由に行き来することができ、後述するように、稲作における数多くの作業工程を全自動又は半自動で行う(以下、単に「自動で行う」又は「自動化する」と表現することがある。)ことができる。したがって、作業工程ごとに個別の自動装置を用意しなくとも、それぞれの農作業場をレールで連結する事で、ほぼ全ての作業工程を自動化し、そのほとんどを完全無人化することも可能である。
【0024】
本実施形態の稲作システムは、さらに、制御部(図示省略)も備えている。この制御部は、第一稲作用ロボット21及び第二稲作用ロボット22並びに搬送用台車30を制御するためのものである。第一稲作用ロボット21、第二稲作用ロボット22及び搬送用台車30には、それぞれ、リアルタイムキネマティック(RTK)GPSが取り付けられており、これらの位置情報を制御部が受信できるようになっている。これにより、制御部は、第一稲作用ロボット21、第二稲作用ロボット22及び搬送用台車30の位置を高い精度で把握することができる。制御部は、人工知能(AI)を搭載し、農家の声による指示で全てのシステムが稼働することが好ましい。
【0025】
稲田Fは、水田であっても乾田であってもよいが、本実施形態では水田である。図1に示す稲田Fは略矩形状であるが、稲田Fの形状は特に限定されない。レール10によって周囲を囲われる稲田Fは、1区画(1枚)だけであってもよい。本実施形態においては、図1に示すように、複数区画の稲田Fそれぞれの周囲を、互いに連続又は連絡するレール10で囲んでいる。これにより、第一稲作用ロボット21、第二稲作用ロボット22及び搬送用台車30が、複数の稲田Fの周囲を行き来することができ、複数の稲田Fにおける各種の作業を自動化することができる。したがって、1つの稲作システムで、より多くの圃場をカバーすることができ、コストパフォーマンスを高めることができる。図1においては、2区画の稲田Fをレール10で囲んでいるが、レール10によって囲われる稲田Fは、3区画以上であってもよい。
【0026】
稲田Fの周囲に配設されるレール10は、稲田Fの周縁に沿った箇所のうち、どの程度の範囲に設けるのかを限定されない。ただし、レール10を設ける範囲が少なすぎると、多様な作業に適応しにくくなるおそれがある。このため、稲田Fの周囲に配設されるレール10は、稲田Fの周縁に沿った箇所の3割以上に設けることが好ましく、5割以上に設けることがより好ましく、7割以上に設けることがさらに好ましい。本実施形態においては、図1に示すように、稲田Fの周縁に沿った箇所の9割以上にレール10を設けている。
【0027】
ただし、この場合には、トラクターやコンバイン等の農耕車両が稲田Fに出入りしにくくなるおそれがある。このため、本実施形態においては、図1に示すように、稲田Fを囲うレール10の一部に、農耕車両を出入りさせるための車両出入口α,βを設けている。車両出入口α,βは、その具体的な構成を特に限定されない。車両出入口α,βは、例えば図1に示す車両出入口αのように、稲田Fの周縁の一部にレール10を配設しないことによって形成してもよい。あるいは、図1に示す車両出入口βのように、レール10の一部を取り外し可能又は跳ね上げ可能に構成することによって、必要なときにだけ形成されるようにしてもよい。この場合、レール10の一部を取り外す作業や跳ね上げる作業は、例えば、稲作用ロボット21,22によって自動で行うことができる。
【0028】
苗床Nは、露地又はハウス内のいずれに形成されたものであってもよい。ハウス内に苗床Nを形成する場合には、レール10もハウス内に配設する。図1に示す建屋40は平屋であるが、建屋40は、複層構造を有していてもよい。この場合には、収納部43を2階以上に設けると好ましい。
【0029】
2.稲作ロボット
図2は、第一稲作用ロボット21及び第二稲作用ロボット22並びに搬送用台車30を示した図である。稲作システムで用いる稲作用ロボットの台数は、特に限定されず、1台だけであってもよい。ただし、稲作における各種の作業の中には、1台の稲作用ロボットだけで自動化することが難しい作業が含まれる可能性もある。このため、稲作用ロボットの台数は、2台以上とすることが好ましい。ただし、稲作用ロボットの台数を多くしすぎると、コストがかさむおそれがある。このため、稲作用ロボットの台数は、4台以下であることが好ましく、3台以下であることがより好ましい。本実施形態においては、稲作用ロボットとして、第一稲作用ロボット21と第二稲作用ロボット22との2台を用いている。
【0030】
第一稲作用ロボット21は、図2に示すように、ロボットアーム21aと、ロボットアーム21aを支持するためのロボット支持部21bと、ロボット支持部21bをレール10に保持させるための保持手段21cとを備えている。保持手段21cには、図示省略の駆動手段が設けられており、この駆動手段の駆動力によって、第一稲作用ロボット21はレール10上を自走することができる。ロボットアーム21aの先端部分には、作業内容に応じた様々な種類のアタッチメントを取り付けることができるようになっている。なお、「ロボットアームの先端部分にアタッチメントを取り付ける」には、ロボットアーム21aの先端部分にロボットハンドを設けて、当該ロボットハンドでアタッチメントツールを掴んで保持する場合等も含む。以下においても同様とする。
【0031】
ロボット支持部21bがロボットアーム21aを支持する方法は、特に限定されない。本実施形態におけるロボット支持部21bは、略平坦な上面を有するテーブル状に形成されており、その上面にロボットアーム21aを積載し固定することによってロボットアーム21aを支持している。ロボット支持部21bと保持手段21cとの相対的な位置関係も特に限定されない。本実施形態においては、ロボット支持部21bの下方に保持手段21cを設けている。
【0032】
第一稲作用ロボット21のロボットアーム21aは、その具体的な種類を特に限定されない。ロボットアーム21aとしては、垂直多関節ロボットを採用することが好ましい。これにより、様々な作業に柔軟に適応しやすくなる。この場合において、垂直多関節ロボットの軸数は特に限定されない。コストと作業適応性とのバランスを考慮すると、垂直多関節ロボットの軸数は、5軸以上7軸以下であることが好ましい。本実施形態においては、第一稲作用ロボット21のロボットアーム21aとして、6軸型の垂直多関節ロボットを採用している。
【0033】
第一稲作用ロボット21のロボットアーム21aの最長アーム長(以下、単に「アーム長」と表現することがある。)や最大可搬質量(以下、単に「可搬質量」と表現することがある。)は、特に限定されない。ただし、アーム長が短すぎると、多様な作業に適応しにくくなるおそれがある。このため、ロボットアーム21aのアーム長は、1000mm以上であることが好ましく、1500mm以上であることがより好ましく、2000mm以上であることがさらに好ましい。ただし、ロボットアームの価格は、アーム長が長いほど高くなる傾向があるところ、ロボットアーム21aのアーム長が長すぎると、コストがかさむおそれがある。このため、ロボットアーム21aのアーム長は、3000mm以下であることが好ましく、2500mm以下であることがより好ましい。また、ロボットアーム21aは、その可搬質量が小さすぎると、やはり多様な作業に適応しにくくなる。一方、可搬質量が大きすぎると、ロボットの価格が高くなってしまい、コストがかさむおそれがある。このため、ロボットアーム21aの可搬質量は、5~50kg程度であることが好ましく、10kg~30kg程度であることがより好ましい。
【0034】
第二稲作用ロボット22も、第一稲作用ロボット21同様、ロボットアーム22aと、ロボット支持部22bと、保持手段22cとを備えており、保持手段22cに設けられた駆動手段(図示省略)によってレール10上を自走することができる。ロボットアーム22aの先端部分には、様々な種類のアタッチメントを取り付けることができるようになっている。ロボット支持部22b及び保持手段22cの構成としては、それぞれ、第一稲作用ロボット21のロボット支持部21b及び保持手段21cについて既に述べた構成と同様のものを採用することができる。
【0035】
第二稲作用ロボット22のロボットアーム22aは、その種類を特に限定されない。ロボットアーム22aには、第一稲作用ロボット21のロボットアーム21aについて既に述べたものと同様の構成を採用することができる。第二稲作用ロボット22のロボットアーム22aは、第一稲作用ロボット21のロボットアーム21aと同じ種類でも、別の種類でもよい。本実施形態においては、第二稲作用ロボット22のロボットアーム22aとして、6軸型の垂直多関節ロボットを採用している。
【0036】
第二稲作用ロボット22のロボットアーム22aのアーム長や可搬質量は、第一稲作用ロボット21のロボットアーム21aと同程度であってもよい。しかし、本実施形態における第二稲作用ロボット22では、第一稲作用ロボット21のロボットアーム21aよりも短いアーム長を有するロボットアーム22aを採用している。これにより、コストをより低く抑えることができる。なお、この場合でも、長いアーム長が必要な作業は第一稲作用ロボット21に集約させ、第二稲作用ロボット22には第一稲作用ロボット21のサポートを行わせるようにすれば、稲作システム全体としての作業適応性を高く維持することができる。
【0037】
第一稲作用ロボット21や第二稲作用ロボット22は、常に、レール10だけによって支持されるようにしてもよい。ただし、この場合には、例えば非常に重い重量物を操作する際等に、第一稲作用ロボット21や第一稲作用ロボット22がぐらつきやすくなるおそれがある。このため、図2には図示していないが、稲作用ロボット21,22のロボット支持部21b,22bや保持手段21c,22cには、可動式(例えば折り畳み式や伸縮式)の支持用脚を設けてもよい。稲作用ロボット21,22が移動する際には、支持用脚を折り畳んだ状態や縮ませた状態として、支持用脚が接地しないようにする。これにより、支持用脚が稲作用ロボット21,22の移動の妨げにならないようにすることができる。稲作用ロボット21,22が作業を行うための場所に到着し停止した際には、支持用脚を伸ばして、その先端部を接地させる。これにより、稲作用ロボット21,22を自立させることができ、ぐらつきにくくすることができる。
【0038】
ただし、このとき、支持用脚を接地させる地面がぬかるんでいたりすると、稲作用ロボット21,22を安定させにくくなるおそれがある。このため、レール10に沿った箇所のうち、稲作用ロボット21,22が重量物を操作する可能性のある箇所には、支持用脚を接地させるためのロボット用足場を設けると好ましい。ロボット用足場は、その素材を特に限定されず、例えば、コンクリートや金属や樹脂や木等で形成することができるが、コストと強度とのバランスから、コンクリート製とすることが好ましい。このロボット用足場の上に支持用脚を接地させることにより、地面のコンディションに左右されずに稲作用ロボット21,22をしっかりと安定させることができる。
【0039】
稲作用ロボット21,22に電源を供給する方法は特に限定されない。例えば、発電機を積載し、レール10に沿って自走することができる発電台車(図示省略)や、蓄電池を積載し、レール10に沿って自走することができる電池台車(図示省略)等を設けて、これらの発電機や蓄電池から稲作用ロボット21,22に電源を供給することができる。この場合には、発電台車や電池台車にもRTKGPSを搭載することが好ましい。あるいは、別の電源供給方法として、レール10に電源供給機能を付加することもできる。
【0040】
3.搬送用台車
搬送用台車30は、被搬送物(例えば、土や、苗箱・肥料・農薬等)を積載して搬送するためのものである。本実施形態における搬送用台車30は、図2に示すように、被搬送物を積載するための荷台部31と、荷台部31をレール10に保持させるための保持手段32とを備えている。保持手段32には、図示省略の駆動手段が設けられており、この駆動手段の駆動力によって、搬送用台車30はレール10上を自走することができる。荷台部31は、その形状を特に限定されない。本実施形態においては、荷台部31を略平坦な上面を有するテーブル状に形成している。これにより、稲作用ロボット21,22が、被搬送物を荷台部31に積み降ろししやすくすることができる。保持手段32の位置も特に限定されないが、本実施形態においては荷台部31の下方に保持手段32を設けている。
【0041】
なお搬送用台車30は、第一稲作用ロボット21または第二稲作用ロボット22と一体であってもよい。いいかえると、第一稲作用ロボット21または第二稲作用ロボット22が被搬送物を積載可能な荷台部を備えていてもよい。
【0042】
4.レール
図3は、稲田Fの周囲に配設されたレール10の一部を抜き出して示した図である。図4は、図3のA-A線における断面図である。レール10は、2本以上の軌条を有するマルチレールとすることもできるが、本実施形態においては、図3に示すように、軌条を1本だけ有するモノレールとしている。これにより、レール10の設置箇所の制約を少なくすることができる。また、レール10の設置工事やメンテナンスを容易にすることもできる。本実施形態におけるレール10は、中空部10aを有する管状に形成されている。これにより、レール10を軽量化することができる。
【0043】
レール10を設置する方法は、特に限定されない。レール10は、例えば、地面Gに直接置いて(地面Gに接した状態で)設置することもできる。ただし、この場合には、レール10に土が被さったり、草が絡まったりして、稲作用ロボット21,22や搬送用台車30の移動に支障をきたすおそれがある。また、地面Gの凹凸に沿ってレール10が上下にうねりやすくなるため、搬送用台車30がレール10上を移動した際に揺れが生じて、搬送用台車30に積載した荷物が落ちやすくなるおそれもある。このため、本実施形態においては、レール10に沿って間欠的に設けられたレール支持手段11によって、レール10を地面Gよりも高い位置に(地面Gに接しない状態で)支持している。これにより、レール10に土が被さったり草が絡まったりしにくくすることができる。また、地面Gに凹凸があったとしても、レール10を略水平に保ちやすくすることもできる。さらに、レール支持手段11を設けることで、畦の上面部分だけでなく法面部分にもレール10を設置しやすくなり、中山間部の多様な稲田に対応しやすくなるというメリットもある。
【0044】
レール支持手段11は、その具体的な構成を特に限定されない。本実施形態におけるレール支持手段11は、図3に示すように、細長い棒状に形成されており、地面Gに略鉛直に立設されている。レール10は、レール支持手段11の上端部によって下方から支持されている。レール支持手段11を地面Gに立設する方法も特に限定されない。本実施形態においては、図4に示すように、レール支持手段11の下側部分を地面Gに埋設することによって、レール支持手段11を立設している。レール支持手段11の下端部には、先の尖った尖鋭部11aが設けられているため、レール支持手段11を杭のように地面Gに打ち込むことによって、レール支持手段11の下側部分を容易に埋設することができる。
【0045】
棒状のレール支持手段11を埋設して立設する場合において、レール支持手段11における地面Gに埋設された部分の略鉛直方向における長さW図4)は、特に限定されない。ただし、長さWが短すぎると、レール支持手段11がぐらつきやすくなり、レール10を安定して支持しにくくなるおそれがある。このため、長さWは、50cm以上とすると好ましく、70cm以上とするとより好ましい。一方、長さWが長すぎると、レール支持手段11を地面Gに打ち込む作業が大変になるおそれがある。このため、長さWは、150cm以下とすると好ましく、120cm以下とするとより好ましい。本実施形態においては、長さWを100cm程度としている。なお、レール10を建屋40内に配設する場合には、レール支持手段11の下側部分を床に埋設する方法のほか、床面近くに配されたベース部材(例えば、床面に置かれた重り等)にレール支持手段11の下側部分を固定する方法等も採用することができる。
【0046】
レール10の素材は特に限定されない。レール10は、例えば、金属や樹脂等で形成することができる。強度の観点から、レール10は、金属で形成することが好ましい。金属としては、腐食しにくい種類のものを採用することが好ましい。金属としては、例えば、ステンレス鋼、アルミニウム合金、チタン合金、ニッケル合金等を採用することができる。本実施形態におけるレール10は、ステンレス鋼で形成されており、高い強度と耐食性を有している。これにより、レール10の耐用年数を長くすることができ、レール10を単なる道具ではなく、資産としても活用することができる。
【0047】
本実施形態におけるレール10は、図1に示すように、交差部γを有している。図5は、レール10の交差部γを拡大して示した図である。交差部γには、交差部γにおけるレール10の連結状態を切り替えるための切替機構が設けられている。切替機構は、その具体的な構成を特に限定されない。本実施形態における切替機構は、図5に示すように、略鉛直な軸L周りに回転可能な状態で支持された切替用部材10bを備えている。切替用部材10bは、レール10と略同型の断面を有する棒状に形成されており、その両端部をレール10に連結することができるようになっている。この切替用部材10bを、図5における両矢印で示すように回転させることによって、交差部γにおけるレール10の連結状態を切り替えることができるようになっている。また、切替用部材10bに稲作用ロボット21,22や搬送用台車30が乗った状態で切替用部材10bを切り替える(回転させる)と、稲作用ロボット21,22や搬送用台車30の進行方向を切り替える事も可能となる。切替用部材10bとレール10との連結部分γには、切替用部材10bの端部とレール10の端部との位置合わせを行うための位置合わせ手段が設けられている。本実施形態においては、位置合わせ手段として、切替用部材10bの端部とレール10の端部とのうち、一方に永久磁石を、他方にも永久磁石もしくは磁性体を取り付けており、磁力によって連結部分γの位置合わせを行っている。
【0048】
切替用部材10bを切り替える(回転させる)方法は、特に限定されない。本実施形態においては、稲作ロボット21,22のロボットアーム21a,22aによって切替用部材10bを切り替えることができるようにしている。これにより、切替用部材10b用に別途動力源や制御装置を用意しなくとも、切替用部材10bを自動で切り替えることができる。また、搬送用台車30や発電台車の切替えは、稲作ロボット21,22がサポートする。ただし、頻繁に切り替えを必要とする交差部γが存在する場合には、稲作ロボット21,22によって逐一切り替えるようにすると非効率となるおそれがある。この場合には、そのような切替用部材10bを切り替えるための手段として、例えば電動・空気圧・油圧等のアクチュエーター等を採用することが好ましい。
【0049】
なお、本実施形態におけるレール10は、分岐部δ(図1)も有している。分岐部δにも、交差部γにおける切替機構と同様の切替機構(図示省略)が設けられている。
【0050】
5.輸送管
本実施形態においては、図3に示すように、レール10に沿って輸送管12を設けている。この輸送管12は、被輸送物を、レール10に沿って輸送するためのものである。図3では輸送管12を1本だけ設けているが、輸送管12は2本以上設けてもよい。輸送管12の設置方法は特に限定されない。本実施形態における輸送管12は、図4に示すように、レール支持手段11に強く固定されており、その下面が地面G(畦)に接地した状態となっている。これにより、レール10上を重量物が通過したとしても、レール支持手段11が地面Gに沈みこみにくくすることができる。換言すると、輸送管12は、レール支持手段11が埋没する事を防ぐ基礎としての機能も担っている。レール支持手段11の基礎としては、通常コンクリート製の基礎等がレール支持手段11の下部に設けられることが多いが、輸送管12を基礎として流用することにより、コンクリート製の基礎を設ける必要がなくなるため、コストをより低く抑えることができる。基礎としての機能を高めるという観点から、輸送管12は、できるだけ広面積で地面に接地させることが好ましい。
【0051】
輸送管12をレール支持手段11に固定する方法は、特に限定されない。本実施形態においては、図3に示すように、締緩可能な輸送管固定具12a(図3の例では、Uボルトと金属板)を用いて輸送管12をレール支持手段11に固定している。これにより、レール支持手段11に対する輸送管12の鉛直方向の高さを、自由に調整可能とすることができる。したがって、地面Gに凹凸があったとしても、輸送管12を地面Gに沿わせやすくなる。また、設置後に輸送管12の高さを再度調整することも可能になる。レール12と輸送管固定具12aの間には、輸送管固定具12aによる固定力を高めるための楔状部材を打ち込んでもよい。
【0052】
輸送管12によって輸送される被輸送物は、その種類を特に限定されない。被輸送物は、液体、固体若しくは気体、又はこれらのうち少なくとも2つの混合物とすることができる。液体状の被輸送物としては、例えば、水、液状の肥料、液状の農薬等が例示される。固体状の被輸送物としては、例えば、堆肥、ぼかし、屑大豆、籾殻、籾殻くん炭等が例示される。固体状の被輸送物を輸送する場合には、例えば、ルーツブロワ・ターボブロワ(図示省略)のエア圧等を利用して、輸送管12内で被輸送物を吹き飛ばしたり、吸い込んだりして移動させることができる。これにより、例えば、収穫直後の籾そのものを乾燥機まで直接投入する事が可能となり今まで2人以上で作業していた刈取作業が1人でできる様になる。
【0053】
輸送管12には、被輸送物を取り出すための被輸送物取出口13が設けられている。この被輸送物取出口13に、例えば散水器や噴霧器や散布器等を接続することによって、輸送管12を通じて輸送されてきた水や肥料や籾殻等を、図1の稲田F(で育生中の稲)に撒くことができる。被輸送物取出口13は、1つの輸送管12に1箇所だけ設けても良いが、通常、間をあけて複数箇所設けられる。輸送管12及び被輸送物取出口13は、レール10における稲田Fの周囲に配設された部分だけでなく、苗床Nに沿って配設された部分にも設けてもよい。これにより、輸送管12によって輸送されてきた水や肥料等を、苗床N(で育生中の苗)にも撒くこともできる。
【0054】
図3の被輸送物取出口13には、被輸送物取出用バルブ13aが設けられている。この被輸送物取出用バルブ13aを開閉することにより、被輸送物取出口13からの被輸送物の取り出しを開始したり停止したりすることができる。被輸送物取出用バルブ13aは、電動式等の自動バルブを使用してもよいが、その場合には、機器そのものが高価な上被輸送物取出用バルブ13aを開閉するための電源や制御信号を用意する必要があり、莫大なコストがかかってしまう。また、被輸送物取出用バルブ13aの構造が複雑化し故障の頻度も増大する。このため、被輸送物取出用バルブ13aは、稲作用ロボット21,22のロボットアーム21a,22aによって開閉することができる非電動式のバルブ(例えば、一般的な手動バルブ)を採用することが好ましい。これにより、別途電源・制御機器を用意しなくとも、被輸送物取出用バルブ13aを自動的に開閉することができる。また、被輸送物取出用バルブ13aの構造をシンプルなものとすることもできる。
【0055】
図には表示していないが、輸送管12における稲田Fの周囲に配された部分には、被輸送物を輸送管12内に投入するための被輸送物投入口が設けられている。この被輸送物投入口には、被輸送物投入装置(例えば、ホッパ等)を接続することができるようになっている。これにより、例えば、コンバインにより収穫された籾を、被輸送物投入装置を用いて輸送管12内に投入し、輸送管12を通じて籾用乾燥機まで運ぶことができる。したがって、収獲した籾を別途容器等に入れて運ばなくとも、収獲後の籾の輸送から乾燥機までの投入に至るまでを完全無人の全自動で行うことができる。
【0056】
5.使用方法
本実施形態の稲作システムを使用する際には、まず稲作ロボット21,22や搬送用台車30のティーチングを行う。これにより、稲作ロボット21,22や搬送用台車30に特定の作業を行わせる際に必要なプログラムを、図示省略の制御部に記憶させることができる。ティーチングは、オフラインティーチングとすることもできる。ただし、稲田Fや苗床Nの形状等は不定形であることが多いため、ティーチングペンダントを用いて実際に稲作ロボット21,22や搬送用台車30を動かしながら行うオンラインティーチングとすることが好ましい。あるいは、あらかじめオフラインでシミュレーションを行ったうえでオンラインティーチングを行う方法も好ましい。このため、第一稲作用ロボット21や第二稲作用ロボット22は、オンラインティーチングが可能なものを選択することが好ましい。
【0057】
ティーチングを終えた稲作ロボット21,22や搬送用台車30に対して、作業を指示するための方法は、特に限定されない。作業指示は、例えば、制御部(図示省略)と直接的又は間接的に通信可能なスマートフォンやタブレット等の電子端末を、手で操作することによって行うようにしてもよい。ただし、この場合には、指示者の手がふさがっているとき(例えば、指示者自身も作業を行っているとき)には作業指示を行うことができないおそれがある。このため、稲作ロボット21,22や搬送用台車30には、制御部(図示省略)と直接的又は間接的に通信可能なスマートマイク及びスマートスピーカーを備えて、音声による作業指示を可能とすることが好ましい。これにより、指示者の手がふさがっているときにも、適時にかつ簡単に作業指示を行うことができる。
【0058】
6.作業例
以上のような構成を有していることにより、本実施形態の稲作システムは、稲作における複数の作業工程を全自動又は半自動で行うことができる。例えば、「荷降ろし」工程では、人間が購入し軽トラ等で建屋40(図1)内の搬出入用スペース41まで運んできた農業資材等(例えば、育苗土や肥料等)を、第一稲作用ロボット21が軽トラの荷台から搬送用台車30に乗せ換える。続く「庫入れ」工程では、搬送用台車30が農業資材等を建屋40の収納部43近くまで搬送し、第一稲作用ロボット21が農業資材等を搬送用台車30から降ろして収納部43に収納する。「庫出し」工程では、収納部43に収納されている農業資材等を、第一稲作用ロボット21が搬送用台車30に乗せ、搬送用台車30が農業資材等を所定の箇所まで搬送する。このように、本実施形態の稲作システムを用いると、重い農業資材等を人間が自分で持ち上げたり運搬したりする必要がないので、就農者の身体的負担を効果的に軽減することができる。このとき、稲作ロボット21,22や搬送用台車30のスマートマイク及びスマートスピーカーと、制御部のAI機能とをフルに活用し、在庫する商品の品名・数量・受入日・使用期限・仕入先・画像等をロボットからのヒヤリング、ロボットからの農家への作業依頼(写真撮影等)で、在庫管理を行える様にする事がのぞましい。
【0059】
苗箱に種籾を播く「播種作業」では、建屋40内の播種場42に置かれた播種機42aを使用する。「播種作業」で用いる空の苗箱や肥料や育苗土等の資材は、上述した「庫出し」工程により、搬送用台車30が播種機42の近くまで搬送し、第一稲作用ロボット21が播種機42aの周辺へ仮置きする。(この時の配置は、図示省略の制御部が記憶しておく)。仮置きされた資材を、第一稲作用ロボット21が持ち上げた状態で保持し、ロボットからの音声による依頼で人間が播種機42aへとセットする(例えば、人間が箱から苗箱を出して所定の位置へセットしたり、人間が袋をナイフ等でカットし播種機のホッパへ育苗土を投入する)。種籾の播種機42aへのセットは、人間が単独で行っても、第一稲作用ロボット21が行ってもよい。「播種作業」を経た播種済苗箱は、その後すぐに苗床Nに並べてもよいし、一度発芽機(図示省略)に入れて発芽させてから苗床に並べてもよい。
【0060】
「第一苗箱運び」工程では、播種作業を終えた苗箱を、第一稲作用ロボット21が搬送用台車30に乗せ、搬送用台車30が苗床Nの近くまで運ぶ。続く「播種済苗箱並べ」工程では、第一稲作用ロボット21が、搬送用台車30から苗箱を1枚ずつ又は数枚ずつ降ろして苗床Nに並べる。このときに第一稲作用ロボット21に取り付けるアタッチメントは限定しないが、今回は吸引式のアタッチメント(図示省略)を用いる。この苗箱並べは、稲作における各種の作業工程の中でも、特に就農者の身体的負担が大きい作業である。本実施形態の稲作システムでは、この苗箱並べを完全無人化することができるため、就農者の負担を大きく軽減することができる。また、それぞれの苗箱の配置場所を正確に把握することが容易となり、これは種子の種類だけでなく、塩水選・浸漬・催芽・脱水・乾燥などの条件の異なる種子の生育状態を調査することも容易となる。
【0061】
「育苗シート掛け」「育苗シート撤収」では第一稲作用ロボット21・第二稲作用ロボット22が共同で作業を行う。苗床Nに並べられた播種済苗箱に保温と保湿の為に樹脂製のシートを掛ける。人間が苗床Nの起点部分でシートの先端を保持し、2台の稲作用ロボットがシート巻き取りロールの両端を支持し、シートの張力を計測しながら巻き戻し、シート掛け作業を行う。育苗シート撤収作業においても、人間が巻き取りロールにシートを固定した後、2台の稲作用ロボットが共同して張力を計測しながら巻き取り作業を行う。この時巻き取りロールの両端の径より中心部に向かって太くすることで、シートの蛇行やシワを改善する事ができる。
【0062】
「苗散水」工程では、苗床用散水アタッチメント(図示省略)を取り付けた第一稲作用ロボット21が、苗床Nに並べられた苗箱の苗に散水を行う。この際の水は、輸送管12(図3)によって輸送され、被輸送物取出口13(図3)から取り出されたものを用いても良いが、搬送用台車30に動力散布機と水タンクを乗せて作業することで、肥料や農薬を同時に散布することができる。「苗ローラー掛け」工程では、ローラーアタッチメント(図示省略)を取り付けた第一稲作用ロボット21が、苗床Nの苗にローラー掛けを行う。これにより、苗を強く鍛えることができる。「苗生育検査」工程では、苗用センサアタッチメント(図示省略)を取り付けた第一稲作用ロボット21が、苗床Nの苗の生育検査を行う。センサアタッチメントとしては、例えば、カメラアタッチメント(画像による生育検査用)、非接触センサアタッチメント(苗の高さ検査用)、赤外線センサアタッチメント(苗の表面温度検査用)等を採用することができる。
【0063】
「第二苗箱運び」工程では、苗床Nでの生育を終えた苗箱を、第一稲作用ロボット21が搬送用台車30に乗せ、搬送用台車30が稲田Fの近くまで搬送する。この時苗は専用の苗収納ボックスに挿入され(図示省略)台車に積み込まれる。続く「苗積載」工程では、第一稲作用ロボット21が、苗収納ボックスを搬送用台車30から降ろして、稲田F(図1)内の田植え機(図示省略)に積み込む。その後、人間が田植え機を運転して田植えを行う。田植えの最中に苗が無くなる前には、最も効率的な場所に台車30を停車させ、田植え機を搬送用台車30のそばに停車させる。すると、第一稲作用ロボット21が、空の苗箱を田植え機から搬送用台車30に移動させるとともに、新たな苗収納ボックスを搬送用台車30から田植え機に積み込む。このように、重い苗収納ボックスを持ち上げる作業等は第一稲作用ロボット21に行わせて就農者の身体的負担を軽減する一方、就農者にとって大きな負担ではない田植え機の運転は人間が行うことによって、コストを抑えながら効率的に稲作を省力化することができる。もちろん将来的には田植機も全自動にする。
【0064】
「動力噴霧」工程では、噴霧アタッチメントを取り付けた第一稲作用ロボット21が、液体状の肥料や農薬等を稲田Fに噴霧する。この際「苗散水」に使用した搬送用台車30に動力散布機と水タンクを乗せて作業する。この時使用する農薬・肥料は事前に稲作用ロボットが建屋40の所定の場所に保管してある収納箱を必要な種類と必要な数量を用意する。これを稲作用ロボットからの指示でそれぞれの肥料・農薬を水タンクに人間が投入する。水はシステムが測定して適切は水量が高精度流量計により自動的に投入される。この時、それぞれの肥料・農薬の収納箱の重量の使用前と使用後を水タンクへの投入作業前後に行い、人間の作業ミスを確認する。
【0065】
「動力散布」工程では、稲田Fを横断する長尺の散布用アタッチメントの一端を第一稲作用ロボット21が、他端を第二稲作用ロボット22が保持して、固体状の肥料や農薬等を稲田Fに散布する。従来の背負い式の動力散布器では、粒体状の肥料や農薬等でなければ上手く散布できなかったところ、このような長尺の散布用アタッチメントを用いると、粉体状の肥料や農薬等を用いることができ、肥料や農薬等のコストを抑えることができるとともに、肥料や農薬等の効きをよくすることもできる。また、従来の背負い式の動力散布器と大型ホッパを搬送用台車30に乗せ第一稲作用ロボット21が噴霧ノズルを操作することもできる。
【0066】
「輸送管散布」では、被輸送物取出口13にホースを取り付け、そのホースの先端を第一稲作用ロボット21・第二稲作用ロボット各々がティーチングにより操作して、輸送管12によって輸送されてきた被輸送物を稲田F(図1)内に分散させる。このときに分散させる被輸送物としては、例えば、堆肥、ぼかし、屑大豆、籾殻、籾殻くん炭等を用いることができる。
【0067】
「稲田灌水」工程では、輸送管12(図3)によって輸送された水を、被輸送物取出口13から取り出して稲田Fに供給する。灌水のタイミングや量は、例えば、水位用センサアタッチメントを取り付けた第一稲作用ロボット21により計測された稲田Fの水位データや、インターネット等から入手した天気予報データ等に基づいて、自動的に決定することが好ましい。近年自動水位計が安価になっているため、水位計は個別の各圃場に設置しても良い。
【0068】
「稲田排水」工程では、稲田F(図1)の排水口(図示省略)に設けられた水門を、稲作用ロボット21,22のロボットアームによって開くことで、稲田F内の水を排水する。これにより、電動式の水門を採用しなくとも(非電動式の水門を採用したとしても)、自動で水門の開閉を行うことができる。
【0069】
「稲田散水」工程では、稲田用散水アタッチメントを取り付けた稲作用ロボット21,22が、稲田Fに散水を行う。これにより、稲が過熱状態にあるときに、稲を冷却することができる。この際の水は、輸送管12によって輸送され、被輸送物取出口13から取り出されたものを用いることが好ましい。また、被輸送物取出口13にスクリンクラー等の分散を補助する装置が装着されていることが望ましい。
【0070】
「籾回収」工程では、コンバインにより収穫された籾を、輸送管12に接続されたホッパ状の被輸送物投入装置(図示省略)から輸送管12内に投入する。輸送管12内に投入された籾は、ルーツブロワ・ターボブロワ(図示省略)等の吸引手段やエア圧供給を用いて、エア圧により輸送管12内を移動し、籾用乾燥機まで自動的に運ばれる。ホッパ状の被輸送物投入装置は、搬送台車30に乗せられ移動し、使用時には、稲作用ロボット21,22と同様に支持用脚を伸ばして自立する構造とすることが好ましい。この時籾のホッパからの籾排出を補助する為にスクリュー状のハンドを装着した第一稲作用ロボット21を活用させることが望ましい。
【0071】
「畦草刈」工程では草刈りアタッチメントを取り付けた第一稲作用ロボット21が、畦の草刈りを行う。草刈りアタッチメントの構造は特定しないが、今回はバリカン状のものを採用した。畦の法面は、デコボコしている場合や、場所によって形状が異なっている場合も多いところ、上述したティーチングを行うことによって、草刈りアタッチメントをしっかりと法面に沿わせながら草刈りを行うことができる。(特に夜間実施すると有害鳥獣対策にもなる)
【0072】
「溝掃除」工程では、動力噴霧と輸送管からの2種類の高圧水を利用して稲作用ロボット21,22が溝掃除を行う。溝に土砂が多量に堆積してしまうと、これを自動で取り除く事が難しくなるため、「溝掃除」工程は頻繁(特に夜間実施すると有害鳥獣対策にもなる)に行うことが好ましい。溝の形状も、畦の法面の形状と同様、不定形であることが多いところ、上述したティーチングを行うことによって溝掃除を自動化することができる。
【0073】
「おとり稲害虫吸引」工程では、「籾回収」工程で使用するルーツブロワ・ターボブロワ等を利用する。吸引アタッチメントを取り付けた稲作用ロボット21,22が、おとり稲に付いた害虫を吸引する。吸引された害虫は、吸引アタッチメントに付属の容器等に溜めるようにしてもよいが、吸引アタッチメントを輸送管12(図3)に接続して、輸送管12を通じて輸送するようにすると好ましい。
【0074】
「有害鳥獣駆除」工程では、牽制用動物(例えば犬等)を入れた籠を乗せた搬送用台車30が、稲田Fや苗床Nの周辺を巡回する。これにより、例えばカカシ等を立てる場合に比べて、有害鳥獣による食害等を効果的に防止することができる。この有害鳥獣対策方法は、特に、カカシ等を視認しにくい夜間において優れた効果を奏することができる。
【符号の説明】
【0075】
10 レール
10a 中空部
10b 切替用部材
11 レール支持手段
11a 尖鋭部
12 輸送管
12a 輸送管固定具
13 被輸送物取出口
13a 被輸送物取出用バルブ
21 第一稲作用ロボット
21a ロボットアーム
21b ロボット支持部
21c 保持手段
22 第二稲作用ロボット
22a ロボットアーム
22b ロボット支持部
22c 保持手段
30 搬送用台車
31 荷台部
32 保持手段
40 建屋
41 搬出入用スペース
42 播種場
42a 播種機
43 収納部
F 稲田
N 苗床
G 地面
α 車両出入口
β 車両出入口
γ 交差部
γ 連結部分
δ 分岐部
図1
図2
図3
図4
図5