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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139406
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】植毛装置
(51)【国際特許分類】
   A41G 3/00 20060101AFI20230927BHJP
   D05C 15/02 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
A41G3/00 H
D05C15/02
A41G3/00 N
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044919
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000126218
【氏名又は名称】株式会社アートネイチャー
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】飯村 ほのか
(72)【発明者】
【氏名】小浜 次郎
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 勝貴
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 将吾
(72)【発明者】
【氏名】栗田 直樹
(57)【要約】
【課題】ベース素材に対して広範囲に効率的に植毛する。
【解決手段】植毛が行われるベース素材Jを載置すると共に、植毛の作業用開口部341を有する載置部34と、載置部34の作業用開口部341でベース素材Jに植毛用毛髪を結合させる植毛部20と、載置部34の周囲に配置され、ベース素材Jに下方から接するローラ411,421でベース素材Jを送る送り装置40とを備え、送り装置40は、交差する少なくとも二方向についてベース素材Jの送りを行う。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
植毛が行われるベース素材を載置すると共に、植毛の作業用開口部を有する載置部と、
前記載置部の前記作業用開口部で前記ベース素材に植毛用毛髪を結合させる植毛部と、
前記載置部の周囲に配置され、前記ベース素材に下方から接するローラで前記ベース素材を送る送り装置とを備え、
前記送り装置は、交差する少なくとも二方向について前記ベース素材の送りを行うことを特徴とする植毛装置。
【請求項2】
前記送り装置に対して、植毛作業を行う既定の区画単位で前記ベース素材を送る送り制御部を備えることを特徴とする請求項1に記載の植毛装置。
【請求項3】
前記送り装置は、送りを行う各方向について、前記載置部を挟んで配置された二つの前記ローラを有することを特徴とする請求項1又は2に記載の植毛装置。
【請求項4】
前記送り装置は、各方向について、前記載置部を挟んで配置された二つの前記ローラについて個別に駆動源を有し、
前記二つのローラの駆動源を互いに逆回転させて前記ベース素材に張力を付与する張力付与制御部を備えることを特徴とする請求項3記載の植毛装置。
【請求項5】
前記載置部に載置された前記ベース素材を上から押さえるクランプ部材と、前記クランプ部材を昇降させる昇降部とを有するクランプ装置を備えることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の植毛装置。
【請求項6】
前記昇降部に対して、前記クランプ部材に対する下降動作時の高さ又は下降方向の押圧力を制御して、前記ベース素材の拘束状態と送りの許容状態を切り替える状態切り替え制御部を備えることを特徴とする請求項5に記載の植毛装置。
【請求項7】
前記クランプ部材は、前記載置部の前記作業用開口部に対向する上側開口部を有し、
植毛後の前記植毛用毛髪を前記上側開口部の外側に払い出すワイパー機構を備えることを特徴とする請求項5又は請求項6に記載の植毛装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植毛装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の植毛装置は、植毛を行うメッシュ状のベース素材を保持し、当該ベース素材の個々のメッシュ穴に対して複数の鉤針を用いて植毛用毛髪の結節を形成し、植毛を行っている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-040084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記従来の植毛装置では、X-Yの移動機構により、押さえ枠の開口部の範囲内となる一区画ではベース素材を移動させることが可能だが、当該一区画の範囲内の植毛が終わり、次の区画に植毛を行う場合には、手作業でベース素材の押さえ枠に取付け直す作業が必要であった。
【0005】
本発明は、ベース素材に対して広範囲に効率的に植毛することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、植毛装置において、
植毛が行われるベース素材を載置すると共に、植毛の作業用開口部を有する載置部と、
前記載置部の前記作業用開口部で前記ベース素材に植毛用毛髪を結合させる植毛部と、
前記載置部の周囲に配置され、前記ベース素材に下方から接するローラで前記ベース素材を送る送り装置とを備え、
前記送り装置は、交差する少なくとも二方向について前記ベース素材の送りを行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上記の構成により、本発明は、ベース素材に対して広範囲に効率的に植毛することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】発明の実施形態である植毛装置の概略構成を示す正面図である。
図2】植毛装置の制御系を示すブロック図である。
図3】植毛装置の斜視図である。
図4】植毛装置の他の斜視図である。
図5】植毛装置のさらに他の斜視図である。
図6】ベースステージの平面図である。
図7】ベースステージの斜視図である。
図8】クランプ板が上昇位置にある状態のクランプ装置の正面図である。
図9】クランプ板が弱クランプ位置にある状態のクランプ装置の正面図である。
図10】クランプ板が強クランプ位置にある状態のクランプ装置の正面図である。
図11】カメラ、第一の捕捉機構及び位置切り替え機構の斜視図である。
図12図12(A)及び図12(B)はカメラ、第一の捕捉機構及び位置切り替え機構の平面図である。
図13】植毛作業の動作制御の全体的な流れを示すフローチャートである。
図14】メッシュ穴のカメラによる撮像画像の例である。
図15】補正制御のフローチャートである。
図16】他の補正機構を搭載した植毛装置の概略構成を示す正面図である。
図17】他の補正機構による補正制御のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[発明の実施形態の全体構成]
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態である植毛装置10について詳細に説明する。
図1は植毛装置10の概略構成を示す正面図、図2はその制御系を示すブロック図、図3図5はそれぞれ異なる方向から見た植毛装置10の斜視図である。
この植毛装置10は、作業負担を軽減し、円滑に植毛用毛髪をベース素材Jに植毛するためのものである。
植毛用毛髪は、人間の毛髪に限らず、天然繊維、人工繊維を含む人間の毛髪に見立てた他のあらゆる繊維を対象としている。
ベース素材Jは、繊維状に限らず、平面状或いは曲面状をなすあらゆるシート状材料を含むが、この実施形態では、六角形の格子状のメッシュ穴を有する人間の頭頂部の形状に倣った曲面状(略球殻状)のシートを例示する。なお、メッシュ穴の形状は六角形ではなくとも良い。
【0010】
図示のように、植毛装置10は、ベース素材Jが載置されるベースステージ30と、載置されたベース素材Jをその載置面上の一方向(X軸方向とする)とその直交方向(Y軸方向とする)とに送る送り装置40と、ベースステージ30に載置されたベース素材Jを上から保持するクランプ装置50と、保持されたベース素材Jの裏面側(下側)にメッシュ穴を通じて植毛用毛髪を引き込んで小ループを形成する第一の捕捉機構21と、小ループを拡張するルーパ機構24(図6及び図7参照)と、植毛用毛髪の裏面側のループを隣のメッシュ穴からベース素材Jの表面側(上側)に引き出す第二の捕捉機構22と、植毛用毛髪の表面側のループに植毛用毛髪の一端部を引き込んで結節を作る第三の捕捉機構23と、保持されたベース素材Jと第一~第三の捕捉機構21~23の鉤針との相対的な移動動作を行う移動機構25とを備えている。
【0011】
さらに、植毛装置10は、載置されたベース素材Jを撮像する撮像部としてのカメラ11と、カメラ11と第一の捕捉機構21とを保持してこれらの位置切り替えを行う位置切り替え機構28と、後述するクランプ板51の上側開口部511に挿通された状態の植毛後の植毛用毛髪を上側開口部511の外側に払い出すワイパー機構61と、ベースステージ30に載置されたベース素材Jを補助的に保持する補助クランプ機構62と、ベースステージ30上のベース素材Jの向きを補正する補正機構63と、ベース素材Jに植毛された植毛用毛髪を所定方向に寄せるためにエアーの吹き付けを行う第一ブロア機構64と、ベース素材Jをベースステージ30側に押し付けるようにエアーの吹き付けを行う第二ブロア機構65と、上記各構成の動作制御を行う制御装置100と、上記各構成を直接的または間接的に支持する基台12とを備えている。
【0012】
なお、以下の説明において、ベース素材Jが載置される載置面は水平であり、載置面に平行なY軸方向の一方を「左」側、他方を「右」側、載置面に平行なX軸方向の一方を「前」側(図1の紙面垂直方向手前側)、他方を「後」側(図1の紙面垂直方向奥側)とする。また、X軸方向及びY軸方向に直交する鉛直上下方向をZ軸方向とし、その一方を「上」側、他方を「下」側とする。
【0013】
また、上記第一~第三の捕捉機構21~23及びルーパ機構24は、植毛用毛髪をベース素材Jに結びつけて結合する植毛部20を構成する。
そして、これら植毛部20の第二、第三の捕捉機構22,23及びルーパ機構24の構成と移動機構25及び植毛部20と移動機構25によるベース素材Jに対する植毛用毛髪の結合動作については、特開2018-040084号公報に開示されているものとほぼ同一であるため、これらを参照するものとして詳細な説明は省略する。
【0014】
[基台及び移動機構]
基台12は、図1に示すように、植毛装置10の全体構成を直接的または間接的に支持する平板体である。基台12は、植毛装置10が水平面に設置された状態で、その上面が水平となる。
基台12上には、前述した第一の捕捉機構21と、第二の捕捉機構22と、第三の捕捉機構23及びカメラ11を支持する位置切り替え機構28と、ルーパ機構24と、ワイパー機構61と、補助クランプ機構62と、補正機構63と、第一ブロア機構64とが直接的に支持されている。
なお、「直接的に支持されている」とは、移動を行う機構を介することなく設置され、平面視での位置が移動しないことを示すものとする。
【0015】
移動機構25は、図1及び図2に示すように、基台12の上面に設置されたX軸ステージ26と、X軸ステージ26上に設置されたY軸ステージ27とを有する。
X軸ステージ26は、上面がX-Y平面に平行なステージ板261と、基台12に対してステージ板261をX軸方向に沿って滑動可能に支持するスライドガイド262と、ステージ板261をX軸方向について任意に移動位置決め可能とする図示しない直動機構とを有する。直動機構は、ボールねじ機構と、その駆動源となるサーボモータからなるX軸モータ263とを有する。
【0016】
Y軸ステージ27は、上面がX-Y平面に平行なステージ板271と、X軸ステージ26のステージ板261に対してステージ板271をY軸方向に沿って滑動可能に支持するスライドガイド272と、ステージ板271をY軸方向について任意に移動位置決め可能とする図示しない直動機構とを有する。直動機構は、ボールねじ機構と、その駆動源となるサーボモータからなるY軸モータ273とを有する。
【0017】
Y軸ステージ27のステージ板271上には、ベースステージ30と、送り装置40と、クランプ装置50と、第二ブロア機構65とが直接的に支持されている。
移動機構25は、X軸ステージ26とY軸ステージ27との協働により、ベースステージ30上のベース素材JをX-Y平面の任意の位置に位置決めすることができる。
【0018】
なお、X軸ステージ26とY軸ステージ27の直動機構は、いずれも、ボールねじ機構に限らず、ステージ板261又は271をX軸方又はY軸方向に沿って任意に位置決め可能な機構であればよい。例えば、ピニオン-ラック機構とサーボモータの構成でステージ板261又は271の直動動作を実現してもよく、リニアモータでステージ板261又は271を直動させてもよい。
【0019】
[ベースステージ]
図6はベースステージ30の平面図、図7は斜視図である。
図示のように、ベースステージ30は、移動機構25のY軸ステージ27上に立設された四本の支柱31(一本は図示略)に支持されたベース板32と、ベース板32の上面に設けられた櫓状の立設部33と、立設部33の上端部に設けられた載置部としての載置板34とを有する。
【0020】
立設部33は、平面視でベース板32の中央部に立設されている。
そして、立設部33の上端部に設けられた載置板34は、略矩形の枠状体であり、概ね中央部に略矩形の作業用開口部341が形成されている。また、載置板34の上面は、X-Y平面に平行な載置面となっている。
植毛作業時には、載置板34の上面である載置面にベース素材Jが載置される。載置板34は、ベース素材Jに比して小さく、載置板34に対して、ベース素材Jの下面部が部分的に接触した状態で載置される。ベース素材Jに対する植毛用毛髪の結合作業を行う際には、ベース素材Jの下側から第一の捕捉機構21の鉤針をメッシュ穴に挿入する必要があるが、当該鉤針の挿入は、載置板34の作業用開口部341を通じて行われる。また、第二及び第三の捕捉機構22,23による植毛用毛髪の結合動作も、載置板34の作業用開口部341の範囲内で行われる。
【0021】
[送り装置]
送り装置40は、図6及び図7に示すように、ベースステージ30のベース板32上において、平面視で載置板34を挟んでX軸方向の両側に配置された一対のX軸ローラ機構41,41と、平面視で載置板34を挟んでY軸方向の両側に配置された一対のY軸ローラ機構42,42とを有する。
【0022】
各X軸ローラ機構41は、載置板34の載置面に載置されたベース素材Jに下から当接するローラ411と、ローラ411の回転駆動源となるX軸送りモータ412と、ローラ411及びX軸送りモータ412を支持する支持ブラケット413と、ベース板32上において支持ブラケット413をZ軸方向に沿って昇降可能に支持する二つのスライドガイド414と、支持ブラケット413を上方に押圧する弾性部材としての二つのコイルバネ415と、コイルバネ415に抗して支持ブラケット413を下方に引き寄せる退避用エアシリンダ416を備えている。
【0023】
支持ブラケット413に支持されたX軸送りモータ412は、その出力軸からローラ411の回転軸に対して、プーリ及びタイミングベルトからなる伝達機構により送り回転を付与する。X軸送りモータ412の出力軸とローラ411の回転軸は、いずれもY軸方向に沿うように配置されている。従って、ローラ411が載置板34の載置面に載置されたベース素材Jに下から当接した状態で回転駆動を行うと、X軸方向にベース素材Jを送ることができる。
【0024】
各Y軸ローラ機構42は、載置板34の載置面に載置されたベース素材Jに下から当接するローラ421と、ローラ421の回転駆動源となるY軸送りモータ422と、ローラ421及びY軸送りモータ422を支持する支持ブラケット423と、ベース板32上において支持ブラケット423をZ軸方向に沿って昇降可能に支持するスライドガイド424と、支持ブラケット423を上方に押圧する弾性部材としてのコイルバネ425と、コイルバネ425に抗して支持ブラケット423を下方に引き寄せる退避用エアシリンダ426を備えている。
【0025】
支持ブラケット423に支持されたY軸送りモータ422は、その出力軸からローラ421の回転軸に対して、プーリ及びタイミングベルトからなる伝達機構により送り回転を付与する。Y軸送りモータ422の出力軸とローラ421の回転軸は、いずれもX軸方向に沿うように配置されている。従って、ローラ421が載置板34の載置面に載置されたベース素材Jに下から当接した状態で回転駆動を行うと、Y軸方向にベース素材Jを送ることができる。
【0026】
退避用エアシリンダ416,426が支持ブラケット413,423を下方に引き寄せていない状態であって、コイルバネ415,425が支持ブラケット413,423を最上位置まで押し上げている状態において、各ローラ411,421の上端部の高さは、載置板34の載置面(上面)の高さと一致するか、載置板34の載置面より幾分低くなるように設定されている。この高さにある各ローラ411,421を「送り位置」とする。
これに対して、退避用エアシリンダ416,426が支持ブラケット413,423を下方に引き寄せた状態では、各ローラ411,421の上端部の高さは、載置板34に載置されたベース素材Jの下面に届かず、送り動作を行うことができない高さまで下降する。この高さにある各ローラ411,421を「退避位置」とする。
【0027】
そして、一対のX軸ローラ機構41が送り位置、一対のY軸ローラ機構42が退避位置とされて、一対のX軸ローラ機構41のローラ411が同一方向に回転駆動されると、載置板34の両側からベース素材JにX軸方向の搬送力を付与することができる。
また、一対のY軸ローラ機構42が送り位置、一対のX軸ローラ機構41が退避位置とされて、一対のY軸ローラ機構42のローラ421が同一方向に回転駆動されると、載置板34の両側からベース素材JにY軸方向の搬送力を付与することができる。
このように、X軸ローラ機構41とY軸ローラ機構42とは、同時には作動せず、別々にX軸方向の搬送とY軸方向の搬送とを実行する。
【0028】
また、送り位置にある一対のX軸ローラ機構41のローラ411が逆回転でベース素材Jを互いに離隔させる方向に回転駆動されると、載置板34上においてベース素材JにX軸方向の張力を付与して弛みを抑制することができる。
また、送り位置にある一対のY軸ローラ機構42のローラ421が逆回転でベース素材Jを互いに離隔させる方向に回転駆動されると、載置板34上においてベース素材JにY軸方向の張力を付与して弛みを抑制することができる。
以下、一対のX軸ローラ機構41又は一対のY軸ローラ機構42により、ベース素材Jに各方向への張力を付与する動作制御を「張力付与制御」という。
【0029】
前述した移動機構25は、ベース素材Jに植毛用毛髪を結合する植毛作業時に、載置板34と共にベース素材Jの移動を行い、作業用開口部341の範囲内のベース素材Jの各メッシュ穴を第一~第三の捕捉機構21~23の鉤針に対して位置決めするために利用される。
これに対して、送り装置40は、載置板34に対するベース素材Jの移動を行い、ベース素材Jにおける載置板34の作業用開口部341に臨む範囲をベース素材J内の別の位置に移動させるために利用される。
従って、移動機構25によるベース素材Jの移動は、送り装置40によるベース素材Jの移動に比べて非常に微小な移動量で精細な制御が行われる。
【0030】
なお、交差する二方向のローラ機構41,42は、それぞれ互いに直交するX軸方向とY軸方向とに送りを行う構成を例示したが、直交している場合に限らず、斜めに交差する二方向に送りを行う構成としてもよい。
【0031】
なお、ベースステージ30は、ベースステージ30及び送り装置40を覆うカバー部材35を備えている。カバー部材35は、その上端部が、上方に凸となる略凸面状の多面体形状であり、上端部中央は、各ローラ411,421の上部及び載置板34が上方に露出するように広く切り欠かれている。ベースステージ30は、その上端部を、より球殻に近い多面体形状としても良いし、略球殻状としてもよい。
カバー部材35により、載置板34に載置されたベース素材Jは、送り装置40の各ローラ411,421以外の構成やベース板32の角部等に直接的に接触することが回避され、送り装置40によるベース素材Jの送り動作を円滑に行うことが可能である。
なお、カバー部材35は、図1以外では図示を省略している。
【0032】
[クランプ装置]
クランプ装置50は、図1図3図5に示すように、ベースステージ30の上方に位置するY軸方向に長尺な平板体からなるクランプ板(クランプ部材)51と、Y軸ステージ27のステージ板271の上面に立設され、クランプ板51の両端部を個別に支持する一対の支持台52と、各支持台52に対するクランプ板51の昇降を可能とするスライドガイド53と、クランプ板51を昇降させる昇降部としてのクランプ用エアシリンダ54と、各支持台52とクランプ板51との間に設けられ、クランプ板51を上方に押圧する弾性部材としてのコイルバネ55とを備えている。
クランプ装置50は、Y軸ステージ27のステージ板271上に支持されているので、ベースステージ30と共に、移動機構25によるX-Y移動が行われる。
【0033】
クランプ板51は、載置板34の作業用開口部341の直上位置において、作業用開口部341とほぼ同一形状、同一サイズの上側開口部511が上下方向に貫通形成されている。
クランプ板51は、昇降動作の下限位置において、その下面を載置板34の載置面に当接させることができる。そして、クランプ板51は、下限位置まで下降することにより、載置板34に載置されたベース素材Jを上からクランプし、固定的に保持することができる。
【0034】
さらに、昇降動作の下限位置において、載置板34の作業用開口部341と上側開口部511とを平面視でほぼ同一位置に重合させることができる。
前述した第二及び第三の捕捉機構22,23は、クランプ板51よりも上方に配置されており、これらは、鉤針を下方に延ばして、上側開口部511を介してベース素材Jの作業用開口部341内の範囲で植毛用毛髪の結合動作を実行する。
【0035】
また、クランプ板51の下面側における上側開口部511の四方には、各ローラ411,421の外周に個別に当接する四つの当接板512が装備されている。各当接板512は、その下面がクランプ板51の下面よりも低位置となり、クランプ板51の昇降動作の下限位置まで下降する手前の位置で各ローラ411,421の上部に当接する。このように、下限位置よりも手前の位置までクランプ板51を下降させることにより、載置板34上のベース素材Jを各ローラ411,421に適宜当接させることができ、一対のX軸ローラ機構41又は一対のY軸ローラ機構42による送り動作を良好に行わせることができる。
【0036】
図8図10はそれぞれクランプ板51の高さが異なる状態のクランプ装置50の正面図である。
図8は、各クランプ用エアシリンダ54の上昇圧力よって、クランプ板51が昇降動作の上限である上昇位置に位置する状態を示す。この状態では、クランプ板51の下面は載置板34の載置面から大きく離隔している。
上昇位置では、載置板34上のベース素材Jはクランプ状態から解放されている。上昇位置にあるクランプ板51は、載置板34との間が大きく離隔しているので、後述するワイパー機構61のワイパー部材611を通して植毛用毛髪の払い動作を行うことができる。
【0037】
各クランプ用エアシリンダ54は、空圧源からの供給経路にレギュレータ56が設けられており、制御装置100の制御により、各クランプ用エアシリンダ54に対してクランプ板51を下降させるための空圧を高低二段階で付与することができる。
図9は、各クランプ用エアシリンダ54の下降圧力が低圧力である場合のクランプ板51の状態を示し、図10は各クランプ用エアシリンダ54の下降圧力が高圧力である場合のクランプ板51の状態を示す。
【0038】
図9に示すように、各クランプ用エアシリンダ54の下降圧力が低圧力である場合、下降したクランプ板51は、コイルバネ55から受ける上方への押圧力に抗しきれず、クランプ板51の下面と載置板34の載置面との間に隙間dを生じ、ベース素材Jは、クランプによる拘束力が小さいか又は拘束されない状態となる。このときのクランプ板51の高さを弱クランプ位置とする。
一方、この弱クランプ位置では、クランプ板51の各当接板512は、各ローラ411,421に当接するか、或いは、各ローラ411,421に対して非常に狭いすき間を形成する。従って、載置板34上にベース素材Jが載置されている場合、ベース素材Jは、各当接板512に押されて、適度な当接力で各ローラ411,421に当接し、一対のX軸ローラ機構41又は一対のY軸ローラ機構42による送り動作を良好に行わせることができる。
【0039】
これに対して、図10に示すように、各クランプ用エアシリンダ54の下降圧力が高圧力である場合、下降したクランプ板51は、コイルバネ55に抗して、クランプ板51の下面と載置板34の載置面とを圧接した状態とすることができる。従って、載置板34上にベース素材Jが載置されている場合、ベース素材Jは、クランプ板51と載置板34とにより強固に把持され、大きな拘束力で固定保持される。このときのクランプ板51の高さを強クランプ位置とする。
【0040】
また、載置板34の上面には、照明装置57が装備されている。この照明装置57は、後述するカメラ11が載置板34の下方から作業用開口部341を介してベース素材Jを撮像する際に、上側開口部511の上方から照明光を照射する。この照明装置57は、非撮像時には、クランプ板51の一端部側に退避しており、撮像の際には、図示しないアクチュエータによって上側開口部511の真上に移動して下方に投光を行う。
【0041】
[補助クランプ機構]
補助クランプ機構62は、図3に示すように、ベースステージ30を挟んでX軸方向の両側にそれぞれ設けられている。二つの補助クランプ機構62は、二つのX軸ローラ機構41に個別に対向して配置されている。
各補助クランプ機構62は、傾動可能に設けられた補助クランプ板621と、補助クランプ板621の傾動動作を付与する補助クランプ用エアシリンダ622とを有する。
【0042】
補助クランプ板621は、基端部がY軸回りに傾動可能に支持され、先端部がX軸ローラ機構41のローラ411の外周面に当接する平板状に形成されている。
補助クランプ用エアシリンダ622は、補助クランプ板621の先端部がローラ411の外周面に当接する方向に傾動力を付与する。これにより、載置板34に載置されているベース素材Jは、X軸ローラ機構41と補助クランプ板621の先端部とに挟まれて保持される。
【0043】
二つの補助クランプ機構62は、例えば、クランプ装置50のクランプ板51を上昇位置として載置板34上のベース素材Jを解放する場合に、載置板34に対するベース素材Jの位置ずれなどが生じないようにベース素材Jを押さえるためのものである。
二つの補助クランプ機構62によってベース素材Jのクランプを行う際には、補助クランプ板621の先端部の押し付けによりベース素材Jに弛みが生じやすくなるので、一対のX軸ローラ機構41による前述した張力付与制御を同時に実施することが好ましい。
【0044】
[ワイパー機構]
ワイパー機構61は、図3及び図4に示すように、ベース素材Jに結合された植毛用毛髪を払うための機構である。
前述したように、ベース素材Jに対する植毛作業は、ベース素材Jがクランプ板51に保持された状態で作業用開口部341及び上側開口部511を通じて行われる。
その場合、ベース素材Jに結合された各植毛用毛髪は、上側開口部511を通じてクランプ板51の上側まで突出した状態となる。
一方、ベース素材Jにおける載置板34の作業用開口部341内の一区画に対して植毛用毛髪の植毛が完了すると、クランプ板51が弱クランプ位置まで上昇し、送り装置40により隣の区画が作業用開口部341内となるようにベース素材Jの送り動作が実行される。
この後、植毛された各植毛用毛髪が上側開口部511に挿通されたままの状態である場合、ベース素材Jの送り動作や次の区画の植毛用毛髪の結合動作、新たな区画に対する作業用開口部341を通じた撮像等に悪影響を及ぼす可能性がある。
従って、クランプ板51を上昇位置まで上昇し、ワイパー機構61により、クランプ板51の下側でベース素材Jに結合された植毛用毛髪を払い、上側開口部511から各植毛用毛髪を払い出す作業を実施する。
なお、ベース素材Jの送り動作と植毛用毛髪の払い出し動作は、実行の順番を前後入れ替えてもよい。
【0045】
ワイパー機構61は、図3に示すように、平面視で載置板34に対して右後方に配置されている。また、ワイパー機構61は、上昇位置のクランプ板51よりも低位置であって載置板34よりも高位置に配置されている。
ワイパー機構61は、各植毛用毛髪を払う棒状のワイパー部材611と、ワイパー部材611の伸縮を行う伸縮用エアシリンダ612と、ワイパー部材611に払い出しのための前後移動を付与する払い出し用エアシリンダ613とを備えている。
【0046】
ワイパー部材611は、Y軸方向に沿った丸棒状であって、伸縮用エアシリンダ612から左方に延出されている。
伸縮用エアシリンダ612は、進退動作を行うプランジャがY軸方向に平行となるように払い出し用エアシリンダ613に支持されている。伸縮用エアシリンダ612のプランジャには、その延長方向にワイパー部材611が直結されており、ワイパー部材611を右方に収縮させた状態と左方に伸長した状態とに切り替えることができる。
ワイパー部材611は、収縮状態では載置板34よりも右方に位置し、伸長状態でY軸方向について載置板34と重合する。
【0047】
払い出し用エアシリンダ613は、プランジャがX軸方向に平行となるように基台12に支持されている。そして、プランジャの先端部で伸縮用エアシリンダ612を支持しており、プランジャの進出状態でワイパー部材611を載置板34よりも前側に移動させ、後退状態で載置板34よりも後側に移動させることができる。
【0048】
上記構成により、ワイパー機構61は、載置板34の作業用開口部341内の一区画に対して植毛用毛髪の結合が完了してクランプ板51が上昇位置まで上昇すると、払い出し用エアシリンダ613によりワイパー部材611を前進移動させてから伸縮用エアシリンダ612によりワイパー部材611を伸長し、払い出し用エアシリンダ613によりワイパー部材611を後退移動させる。
これにより、ワイパー部材611は、載置板34の作業用開口部341とクランプ板51の上側開口部511との間を通過し、各植毛用毛髪を後方に薙ぎ払って上側開口部511から払い出すことができる。
【0049】
なお、ワイパー部材611は、植毛用毛髪を払うことが可能であれば、その形態は任意である。例えば、丸棒状に限らず、板状にしても良いし、ブラシで構成してもよい。
【0050】
[第一ブロア機構]
第一ブロア機構64は、空圧供給源と接続されたノズルを有する。第一ブロア機構64は、図3及び図4に示すように、載置板34の前方であって幾分上方に配置され、後方斜め下に向かって載置板34側にエアーの吹き付けを行う。
前述したように、ワイパー機構61によって後方に向かってまとめて払われた植毛用毛髪は、その弾性により後方に払われた状態からベース素材Jの上方に起き上がろうとする。その場合、クランプ装置50により新たな区画に対してベース素材Jをクランプする際に、植毛用毛髪を載置板34とクランプ板51との間に挟み込んでしまうおそれがある。
このため、ワイパー機構61によって後方に払われた植毛用毛髪に対して起き上がらないように、第一ブロア機構64によってエアーの吹き付けを行っている。
【0051】
[第二ブロア機構]
第二ブロア機構65は、空圧供給源と接続されたノズルを有する。第二ブロア機構65は、図1に示すように、クランプ板51のY軸方向の両端部に一基ずつ設けられ、クランプ板51の下側において、それぞれの第二ブロア機構65が載置板34側に向かってエアーの吹き付けを行う。
これら第二ブロア機構65は、クランプ板51が上昇して載置板34上のベース素材Jを解放しているとき等にエアーの吹き付けを行って、ベース素材Jをカバー部材35や各ローラ411,421に押し付ける機能を有する。
また、第二ブロア機構65は、送り装置40によりY軸方向側の隣の区画が作業用開口部341内となるようにベース素材Jの送り動作が実行されてワイパー機構61による払い動作が行われた場合に、ベース素材Jの送り方向の下流側に向かってエアーの吹き付けを行い、植毛用毛髪をベース素材Jの送り方向の下流側に寄せる機能も有する。
【0052】
[カメラ及び位置切り替え機構]
図11はカメラ11、第一の捕捉機構21及び位置切り替え機構28の斜視図、図12(A)及び図12(B)は平面図である。
カメラ11は、載置板34の下方から作業用開口部341を通じてベース素材Jを撮像する。カメラ11は、CCD(Charge-Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等のイメージセンサと光学系とを有する。
カメラ11は、第一の捕捉機構21と共に位置切り替え機構28に支持されており、作業用開口部341の中心を通るZ軸方向に沿った中心線上に、カメラ11の光軸を一致させた状態と第一の捕捉機構21が保有する鉤針の中心線を一致させた状態とに位置切り替えを行うことができる。
【0053】
第一の捕捉機構21は、上方を向いた鉤針211と、鉤針211を上端部で保持する針棒212と、Z軸方向に沿ったボールネジ213と、ボールナット214と、ボールナット214と連動して昇降動作を行う昇降ブロック215と、鉤針211の昇降動作の駆動源となる捕捉用モータ216とを備えている。
【0054】
ボールネジ213は、位置切り替え機構28の支持枠281によってZ軸回りに回転可能に支持されている。
捕捉用モータ216は、ベルト機構によりボールネジ213に回転力を付与する。
ボールナット214は、スライドガイドを介して支持枠281によって昇降可能に支持されており、ボールネジ213の回転により昇降動作を行う。
ボールナット214は、X軸方向に沿って前方に延出された連動軸217を有し、昇降ブロック215は、連動軸217が挿入されるリニアブッシュを内蔵している。また、昇降ブロック215は、針棒212の下端部を固定的に保持している。
これらの構成により、第一の捕捉機構21は、捕捉用モータ216の駆動によってボールネジ213が回転し、ボールナット214は、ボールネジ213に沿って上下動を行う。
昇降ブロック215は、連動軸217によってボールナット214と共に上下動を行い、針棒212及び鉤針211が上下動を行う。
このとき、昇降ブロック215は、内蔵されたリニアブッシュにより、連動軸217に沿って滑動可能であるため、針棒212が前方に移動した場合であっても、ボールナット214と連動して上下動を行うことが可能である。
【0055】
位置切り替え機構28は、基台12に固定設置された支持枠281と、カメラ11及び針棒212を支持する位置切り替え板282と、カメラ11と針棒212の位置切り替え動作の駆動源となる位置切り替え用エアシリンダ283とを有する。
【0056】
支持枠281は、スライドガイドによって位置切り替え板282をX軸方向に沿って滑動可能に支持している。
位置切り替え板282は、カメラ11と針棒212とをX軸方向に隣り合わせで支持している。また、位置切り替え板282は、針棒212をリニアブッシュによってZ軸方向に沿って上下動可能に支持している。
位置切り替え用エアシリンダ283は、プランジャがX軸方向に進退動作を行うように支持枠281に取り付けられており、プランジャの先端部は位置切り替え板282に連結されている。
【0057】
そして、位置切り替え機構28は、X軸方向に沿って滑動可能な位置切り替え板282に対して、X軸方向の両側からそれぞれ当接するストッパー284,285を備えている。
ストッパー284は、図12(A)に示すように、位置切り替え板282に支持されたカメラ11の光軸が作業用開口部341の中心と一致するように位置切り替え板282を位置決めする。
また、ストッパー285は、図12(B)に示すように、針棒212の鉤針211の中心が作業用開口部341の中心と一致するように位置切り替え板282を位置決めする。
このように、位置切り替え機構28は、カメラ11と第一の捕捉機構21とをX軸方向に並列で配置することで省スペース化を図ると共に、カメラ11と第一の捕捉機構21の双方を平面視で作業用開口部341の範囲内の同一位置となるように配置するという要求を実現している。
なお、前述したように、位置切り替え機構28は、基台12に直接的に設置されており、基台12上で移動を生じない。これに対して、載置板34は、基台12に対して移動機構25を介して設置されている。従って、平面視において、位置切り替え機構28に対して載置板34はX軸方向とY軸方向とに相対的に移動可能である。このため、「作業用開口部341の中心」とは、移動機構25による可動範囲の中心に載置板34が位置する状態(載置板34の基準位置とする)における作業用開口部341の中心を示すものとする。
【0058】
[補正機構]
ベース素材Jは、面上にメッシュ穴が整列されて展開されたメッシュ材料である。例えば、本実施形態のベース素材Jは、六角形のメッシュ穴が整列されている。このようなベース素材Jの各メッシュ穴に順番に植毛用毛髪の結合を行う場合、メッシュ穴の並び方向は、送り装置40の送り方向であるX軸方向又はY軸方向に平行になるように載置板34上に保持される。
しかしながら、送りの際にベース素材Jに滑りによるズレが生じたり、ベース素材Jが平面状ではなく立体形状であったり、変形を生じやすい軟質素材である場合等、種々の要因により、メッシュ穴の並び方向は、傾きを生じ得る。
このようなベース素材Jのメッシュ穴の傾きは、カメラ11の撮像画像から検出することが可能である。
そして、ベース素材Jのメッシュ穴の傾きが許容値を超えた場合、ベースステージ30上のベース素材Jは、補正機構63によって、カメラ11に対してZ軸回りに回転を加えることにより向きを補正することができる。
【0059】
補正機構63は、図3図5に示すように、載置板34の前方に配置されている。そして、補正機構63は、基台12上に設置されたブラケット631によってZ軸回りに回動可能に支持された支軸632と、支軸632の上端部に固定装備されたアーム633と、アーム633の先端部に設けられた円板状の押さえ板634と、ベルト機構を介して押さえ板634を回転させる補正用モータ635(図2参照)と、支軸632に回転動作を付与するアーム旋回用エアシリンダ636(図2参照)とを有する。
【0060】
支軸632は、ブラケット631によりZ軸方向に沿った状態で支持されている。
アーム633は、支軸632に対してスプラインナット637を介して連結されている。即ち、アーム633は、スプラインナット637により、支軸632に沿って移動可能であると共に支軸632と共にZ軸回りに回動可能である。
また、アーム633は、スプラインナット637を介して弾性部材であるコイルバネ638により上方に押圧されている。
【0061】
アーム633の先端部の下面側に設けられた押さえ板634は、アーム633に対してZ軸回りに回転可能に支持されている。この押さえ板634は、アーム633の上面側に設けられたベルト機構により、補正用モータ635から回転動作を付与される。さらに、押さえ板634は、その下面側がベースステージ30に載置されたベース素材Jに上から当接して、当該押さえ板634の回転をベース素材Jに付与することができる。
【0062】
また、アーム633は、コイルバネ638により常に上方に押圧されており、これによって、押さえ板634は、ベースステージ30上のベース素材Jに届かない高さを維持している。
そして、コイルバネ638に抗してアーム633を下降させる押さえ用エアシリンダ639がアーム633に並設されており、ベース素材Jの回転により補正を行う際には、押さえ板634を下降させて載置板34上のベース素材Jに当接させることができる。
【0063】
また、アーム旋回用エアシリンダ636は、支軸632の下端部に設けられた図示しないリンク部材を介して支軸632に回転動作を入力する。
このアーム旋回用エアシリンダ636から入力される回転動作により、アーム633は、押さえ板634を載置板34の前方の退避位置と載置板34の真上となる押さえ位置との間で移動させることができる。
【0064】
[植毛装置の制御系:制御装置]
植毛装置10の制御装置100は、図2に示すように、植毛の動作制御を行うためのプログラムが格納されたROM(Read Only Memory)102と、演算処理の作業領域地となるRAM(Random Access Memory)103と、各種設定データなどを記憶する記憶手段としての書き換え可能な不揮発性のデータメモリ104と、ROM102内のプログラムを実行するCPU101(Central Processing Unit)とを備えている。
【0065】
また、CPU101は、植毛部20を構成する第一~第三の捕捉機構21~23及びルーパ機構24と移動機構25とに接続されている。
第一~第三の捕捉機構21~23は、いずれもエアシリンダを備え、CPU101は、これらを作動させる図示しない電磁弁を通じてこれらの動作制御を行う。
ルーパ機構24は、アクチュエータを備え、CPU101は、アクチュエータを作動させる図示しない駆動回路を通じてルーパ機構24の動作制御を行う。
移動機構25は、X軸ステージ26とY軸ステージ27を備え、CPU101は、X軸ステージ26のX軸モータ263とY軸ステージ27のY軸モータ273を作動させる図示しない駆動回路を通じてX軸ステージ26及びY軸ステージ27の動作制御を行う。
【0066】
また、CPU101は、位置切り替え機構28と接続され、位置切り替え用エアシリンダ283を図示しない電磁弁を通じて制御する。
また、CPU101は、X軸ローラ機構41と接続され、X軸送りモータ412を図示しない駆動回路を通じて制御し、退避用エアシリンダ416を図示しない電磁弁を通じて制御する。
同様に、CPU101は、Y軸ローラ機構42と接続され、Y軸送りモータ422を図示しない駆動回路を通じて制御し、退避用エアシリンダ426を図示しない電磁弁を通じて制御する。
なお、X軸ローラ機構41とY軸ローラ機構42は、それぞれ二基備えているが、図2ではいずれも一基のみの図示を行っている。
【0067】
また、CPU101は、クランプ装置50と接続され、クランプ用エアシリンダ54を図示しない電磁弁を通じて制御し、クランプ用エアシリンダ54に供給される空圧の強弱をレギュレータ56により制御する。
また、CPU101は、照明装置57に接続され、照明光の照射のオンオフの切り替えを行うと共に、アクチュエータを制御して照明装置57を所定の位置に移動させる。
【0068】
また、CPU101は、ワイパー機構61と接続され、伸縮用エアシリンダ612と払い出し用エアシリンダ613とを各々に接続された図示しない電磁弁を通じて制御する。
また、CPU101は、補助クランプ機構62と接続され、補助クランプ用エアシリンダ622を図示しない電磁弁を通じて制御する。
なお、補助クランプ機構62は、二基備えているが、図2では一基のみ図示を行なっている。
【0069】
また、CPU101は、補正機構63と接続され、補正用モータ635を図示しない駆動回路を通じて制御し、アーム旋回用エアシリンダ636及び押さえ用エアシリンダ639を各々に接続された図示しない電磁弁を通じて制御する。
また、第一ブロア機構64及び第二ブロア機構65は、いずれも、ノズルへの高圧エアーの供給を行う電磁弁を有し、CPU101は、各電磁弁を制御してこれらのエアーの吐出制御を行う。
【0070】
また、CPU101は、カメラ11と接続されている。
さらに、CPU101は、植毛動作の開始を入力するペダル14と接続されている。
また、CPU101は、各種の情報を表示する表示部としての機能と各種の入力を行うための入力部としての機能とを備えた操作パネル15と接続されている。
【0071】
また、CPU101は、送り制御部105、張力付与制御部106、状態切り替え制御部107、傾き検出部108、補正制御部109等のソフトウェアモジュールを備える。なお、これらのソフトウェアモジュールの一部または全部をハードウェアから構成してもよい。
上記各ソフトウェアモジュールの機能については、後述する植毛装置10による植毛作業の動作制御の中で適宜説明する。
【0072】
なお、CPU101は、各種のエアシリンダ、各種のモータ、各種のアクチュエータ等を電磁弁や駆動回路、インターフェイス等を通じて制御している。しかしながら、これ以降の説明では、電磁弁や駆動回路、インターフェイスの記載を省略し、単に、各種のエアシリンダ、各種のモータ又は各種のアクチュエータ等を制御する、と記載するものとする。
【0073】
[植毛動作制御:ベースセット]
CPU101によって実行される植毛作業の動作制御の全体的な流れを図13のフローチャートに示す。
まず、CPU101は、前準備として、クランプ装置50のクランプ用エアシリンダ54を制御してクランプ板51を上昇位置とし、各補助クランプ機構62の補助クランプ用エアシリンダ622を制御して補助クランプ板621をX軸ローラ機構41から離隔した解放位置とする。
【0074】
そして、CPU101は、ベースセットの工程を実行する(ステップS1)。
即ち、ベースステージ30の載置板34にベース素材Jが載置されて、ペダル14から植毛作業の開始が入力されると、状態切り替え制御部107が、レギュレータ56により低圧力で空圧をクランプ用エアシリンダ54に供給し、クランプ板51を弱クランプ位置に下降させる。
【0075】
[植毛動作制御:傾き検出]
次いで、CPU101は、傾き検出の工程を実行する(ステップS3)。
即ち、CPU101は、位置切り替え機構28の位置切り替え用エアシリンダ283を制御してカメラ11の光軸が基準位置にある作業用開口部341の中心と一致するように位置切り替え板282を位置決めする。
また、CPU101は、照明装置57を制御して、上側開口部511の上に移動させると共に照明光を下方に照射させる。
さらに、カメラ11により作業用開口部341の範囲内でベース素材Jを撮像し、傾き検出部108は、撮像画像からベース素材Jの面上に展開された複数のメッシュ穴を抽出し、各メッシュ穴の重心点gを検出する。図14はカメラ11による撮像画像の例を示している。
【0076】
傾き検出部108は、図14に示すように、カメラ中心(カメラ11の光軸)に最も近い重心点gcを特定し、直線状に並び、合計の点数が基準点数である5点となるように、その上側と下側とに順次隣接して並んだ二点ずつの重心点gをさらに特定する。傾き検出部において、「隣接」とは、最も近い間隔で隣り合う状態をいうものとする。また、「最も近い間隔」とは、例えば、正六角形等の正多角形のメッシュ穴の場合、辺を接する隣同士のメッシュ穴の重心点の間隔を示す。
なお、特定の重心点gcや後述する重心点gnを他の重心点gと特に区別する必要がない場合には、これらも含んで単に「重心点g」と記載する。
【0077】
そして、傾き検出部108は、これら上下に隣接する五つの重心点gを通る直線lのX軸方向(画像中の上下方向)に対する傾斜角度θを求める。これがベース素材Jの傾きとなる。
この傾斜角度θが許容値の範囲内であれば、ベース素材Jは傾斜無しと判定され、許容値を超えた場合には傾斜ありと判定される。
【0078】
また、メッシュ穴又は重心点の検出が良好に検出されず、基準点数に満たない数の重心点gしか検出できない場合が生じ得る。この場合には、傾き検出部108は、重心点gcのメッシュ穴に対してY軸方向の一方に隣接するメッシュ穴の重心点gnを新たな重心点gcとみなして、X軸方向に隣接する重心点gnを含む五点の重心点gを検出して、傾きの判定を行う。
【0079】
また、重心点gnについて五つの重心点gが得られなかった場合には、元の重心点gcのY軸方向両側について規定の上限回数まで(例えば、左右二回ずつ)で重心点gnについて五つの重心点gの取得を行い、それでも五つの重心点gが得られなかった場合には、傾き検出を中止する。この場合、エラーを報知して植毛作業を中断しても良いし、傾き検出の工程と次の補正制御の工程をスキップして、それ以降の植毛作業を継続してもよい。なお、継続する場合には、精度がやや低い状態で植毛動作が行われる。
【0080】
[植毛動作制御:補正制御]
次いで、CPU101は、補正制御の工程を実行する(ステップS5)。この補正制御は、ステップS3において、ベース素材Jは傾斜ありと判定された場合に補正制御部109により実施される。また、傾斜無しと判定された場合にはスキップされる。
【0081】
補正制御部109による補正制御を図15のフローチャートに示す。
図示の通り、補正制御部109は、傾き検出で使用された照明装置57を消灯し、上側開口部511から退避させる(ステップS21)。
次いで、補正制御部109は、送り装置40とクランプ装置50と補助クランプ機構62とを並行的に制御する。
即ち、補正制御部109は、送り装置40の一対のX軸ローラ機構41及び一対のY軸ローラ機構42の退避用エアシリンダ416,426を制御して各ローラ411,421を下降させて退避位置とする(ステップS23)。
また、状態切り替え制御部107が、レギュレータ56により高圧力で空圧をクランプ用エアシリンダ54に供給し、クランプ装置50のクランプ板51を強クランプ位置に下降させて、載置板34上でベース素材Jを保持する(ステップS25)。
また、補正制御部109は、各補助クランプ機構62の補助クランプ用エアシリンダ622を制御して各補助クランプ板621を一対のX軸ローラ機構41のローラ411に当接させて、ベース素材Jを補助的にクランプする(ステップS27)。
【0082】
次いで、張力付与制御部106によって、一対のX軸ローラ機構41のX軸送りモータ412に対して張力付与制御を行い、ベース素材Jの弛みを除去する(ステップS29)。
そして、補正制御部109は、ベース素材Jの補助クランプ状態で、クランプ用エアシリンダ54を制御してクランプ板51を上昇位置に退避させる(ステップS31)。
【0083】
次いで、補正制御部109は、アーム旋回用エアシリンダ636を制御して押さえ板634を載置板34の上方に移動させると共に(ステップS33)、押さえ用エアシリンダ639を制御して、押さえ板634を下降させてベース素材Jを上から保持する(ステップS35)。
さらに、補正制御部109は、各補助クランプ機構62の補助クランプ用エアシリンダ622を制御して各補助クランプ板621による補助的なクランプ状態を解除してから(ステップS37)、補正用モータ635を制御して、傾き検出部108で検出された傾斜角度θを矯正する方向にベース素材Jに回転を付与する(ステップS39)。
【0084】
次いで、補正制御部109は、各補助クランプ機構62の補助クランプ用エアシリンダ622を制御して各補助クランプ板621を、再び、補助的なクランプ状態とする(ステップS41)。さらに、張力付与制御部106により、一対のX軸ローラ機構41のX軸送りモータ412によって張力付与制御を実行する(ステップS43)。
さらに、補正制御部109は、補正機構63の押さえ用エアシリンダ639を制御して押さえ板634を上昇させると共に(ステップS45)、アーム旋回用エアシリンダ636を制御して押さえ板634を載置板34から離隔した退避位置に移動させる(ステップS47)。
【0085】
そして、状態切り替え制御部107が、レギュレータ56により低圧力で空圧をクランプ用エアシリンダ54に供給し、クランプ装置50のクランプ板51を弱クランプ位置に下降させる(ステップS49)。
さらに、補正制御部109は、各補助クランプ機構62の補助クランプ用エアシリンダ622を制御して各補助クランプ板621によるベース素材Jの補助的なクランプを解除する(ステップS51)。
そして、補正制御部109は、送り装置40の一対のX軸ローラ機構41及び一対のY軸ローラ機構42の退避用エアシリンダ416,426を制御して各ローラ411,421を上昇させて送り位置とする(ステップS53)。
【0086】
[植毛動作制御:植毛]
次いで、CPU101は、植毛動作の工程を実行する(ステップS7)。
植毛動作の工程では、CPU101は、照明装置57を制御して、上側開口部511の上に移動させると共に照明光を下方に照射しつつ、カメラ11によりベース素材Jを撮像する。
そして、CPU101は、ベース素材Jの所定の区画内に展開された各メッシュ穴を抽出し、全てのメッシュ穴の周囲の植毛用毛髪の結合箇所を特定する。
【0087】
その後、CPU101は、照明装置57を退避させると共に、位置切り替え機構28の位置切り替え用エアシリンダ283を制御して第一の捕捉機構21の鉤針の中心が基準位置にある作業用開口部341の中心と一致するように位置切り替え板282を位置決めする。
そして、植毛部20の第一~第三の捕捉機構21~23、ルーパ機構24及び移動機構のX軸モータ263,Y軸モータ273を制御して、所定の区画内の撮像により特定された各結合箇所に対して植毛用毛髪の結合動作を実行する。
上記植毛用毛髪を結合するための植毛部20の第一~第三の捕捉機構21~23、ルーパ機構24及び移動機構のX軸モータ263,Y軸モータ273の動作については、前述した特開2018-040084号公報の第10図~第22図に開示されている植毛動作とほぼ同一であるため、これらを参照するものとして詳細な説明は省略する。
【0088】
そして、区画内の全ての結合箇所に対して植毛用毛髪の結合が終わると、CPU101は、ベース素材Jに予定されている全ての区画について植毛が完了したか判定し(ステップS9)、全ての区画について植毛が完了している場合には、CPU101は、クランプ装置50のクランプ板51を上昇位置に上昇させて、載置板34上のベース素材Jを解放し、植毛動作を終了する。
【0089】
[植毛動作制御:ワイパー動作]
一方、全ての区画について植毛が完了していない場合には、CPU101は、ワイパー動作の工程を実行する(ステップS11)。
まず、CPU101は、送り装置40の一対のX軸ローラ機構41及び一対のY軸ローラ機構42の退避用エアシリンダ416,426を制御して各ローラ411,421を下降させて退避位置とする。
さらに、CPU101は、各補助クランプ機構62の補助クランプ用エアシリンダ622を制御して各補助クランプ板621を一対のX軸ローラ機構41のローラ411に当接させて、ベース素材Jを補助的にクランプする。
また、張力付与制御部106が、一対のX軸ローラ機構41のX軸送りモータ412に対して張力付与制御を行い、ベース素材Jの弛みを除去する。
次いで、CPU101は、クランプ装置50のクランプ用エアシリンダ54を制御してクランプ板51を上昇位置に退避させる。
【0090】
そして、CPU101は、ワイパー機構61の払い出し用エアシリンダ613によりワイパー部材611を前進移動させると共に、伸縮用エアシリンダ612によりワイパー部材611を伸長させる。そして、払い出し用エアシリンダ613によりワイパー部材611を後退移動させることにより、ベース素材Jから上方に伸びて、上側開口部511に挿通状態にある植毛用毛髪をワイパー部材611が後方に薙いで、上側開口部511から払い出すことができる。後方に移動したワイパー部材611は、伸縮用エアシリンダ612により収縮状態に戻される。
また、CPU101は、ワイパー部材611が払い出し終わると共に、第一ブロア機構64により、後方へのエアーの吹き付けを行い、後方に払われた植毛用毛髪が復帰力によって立ち上がることを抑制する。
また、次の区画の移動のためにベース素材Jの送り方向がY軸方向に沿って行われる場合には、第二ブロア機構65により、ベース素材Jの送り方向下流側に向かってエアーの吹き付けを行って植毛用毛髪を送り方向下流側に寄せてもよい。
【0091】
そして、状態切り替え制御部107が、レギュレータ56により低圧力で空圧をクランプ用エアシリンダ54に供給し、クランプ装置50のクランプ板51を弱クランプ位置に下降させる。
また、補正制御部109は、各補助クランプ機構62の補助クランプ用エアシリンダ622を制御して各補助クランプ板621によるベース素材Jの補助的なクランプを解除する。
【0092】
[植毛動作制御:送り制御]
次いで、CPU101は、送り制御の工程を実行する(ステップS13)。この送り制御は、送り制御部105により実施される。
送り制御部105は、まず、送り装置40の一対のX軸ローラ機構41又は一対のY軸ローラ機構42の退避用エアシリンダ416又は426を制御して各ローラ411又は421を上昇させて送り位置とする。
さらに、送り制御部105は、送り装置40の各X軸ローラ機構41のX軸送りモータ412又は各Y軸ローラ機構42のY軸送りモータ422を制御して、植毛作業を行う既定の区画単位でのベース素材Jの送りを行う。例えば、作業用開口部341の範囲内に収まる正方形又は矩形の区画を設定し、当該区画の範囲内の植毛が完了すると、送り制御部105は、X軸方向又はY軸方向について区画一つ分の幅で送りを行い、次の区画にベース素材Jを移動させる動作制御を実行する。
【0093】
次の区画への送り動作が完了すると、状態切り替え制御部107が、レギュレータ56により高圧力で空圧をクランプ用エアシリンダ54に供給し、クランプ装置50のクランプ板51を強クランプ位置に下降させる。
そして、その後は、CPU101は、ステップS3に処理を戻し、新たな区画に対して、傾き検出、補正制御、植毛動作などを実行する。
【0094】
[発明の実施形態の技術的効果]
以上のように、植毛装置10は、載置板34に対してベース素材Jをローラ411によりX軸方向に送るX軸ローラ機構41と、載置板34に対してベース素材Jをローラ421によりY軸方向に送るY軸ローラ機構42とを有する送り装置40を備えている。
従って、載置板34の作業用開口部341に対するベース素材Jの植毛作業の実行領域を変更するためのベース素材Jの取り付け直し作業を手作業で行うことが不要となり、ベース素材Jに対して広範囲に効率的に植毛することが可能となる。
【0095】
また、植毛装置10は、送り装置40に対して、植毛作業を行う既定の区画単位でベース素材Jを送る送り制御部105を備えているので、所定の区画単位で植毛を行うことができ、ベース素材Jの広範囲に均質で植毛を行うことが可能となる。
【0096】
また、送り装置40のX軸ローラ機構41とY軸ローラ機構42は、いずれも、送りを行う各方向について載置板34を挟んで配置された二つのローラ411又は二つのローラ421を有するので、X軸方向の正方向と逆方向、Y軸方向の正方向と逆方向のそれぞれにベース素材Jを良好に送ることができ、送り精度の向上を図ることにより高品質の植毛を行うことが可能となる。
【0097】
また、送り装置40のX軸ローラ機構41は、二つのローラ411について個別に駆動源となるX軸送りモータ412を有し、Y軸ローラ機構42は、二つのローラ421について個別に駆動源となるY軸送りモータ422を有する。そして、送り装置40の制御装置100は、各ローラ機構41,42に対して、二つのローラのモータを互いに逆回転させる制御を行う張力付与制御部106を備えている。
このため、ベース素材Jに張力を付与して弛みの発生を抑制することができるため、ベース素材Jに対して高い位置精度で植毛用毛髪を結合させることができ、高品質の植毛を行うことが可能となる。
【0098】
また、植毛装置10は、載置板34に載置されたベース素材Jをクランプ板51により上から押さえるクランプ装置50を備え、送り装置40によりベース素材Jの送り動作を行った後にベース素材Jをクランプ保持することができるので、送り後の位置を維持しつつ植毛作業を行うことができ、ベース素材Jに対して広範囲に良好な植毛を行うことが可能となる。
【0099】
また、クランプ装置50は、クランプ板51を昇降させるクランプ用エアシリンダ54に対して、レギュレータ56によって、クランプ板51の高さ及び保持力を制御して、ベース素材の拘束状態と送りの許容状態を切り替える状態切り替え制御部107を備えている。
従って、ベース素材の送りの許容状態により、クランプ板51が、X軸ローラ機構41とY軸ローラ機構42のそれぞれのローラ411,421に対してベース素材Jを適度に押圧接触させて良好な送りを可能にすることができ、高精度にベース素材Jの送りを行うことが可能となる。
さらに、ベース素材の拘束状態により、高精度に送られたベース素材Jを保持することができ、高品質の植毛を行うことが可能となる。
【0100】
また、植毛装置10は、植毛後の植毛用毛髪をクランプ板51の上側開口部511の外側に払い出すワイパー機構61を備えているので、クランプ板51によって再クランプする際に植毛用毛髪を上側開口部511内に挟み込むことを抑制することができ、植毛用毛髪により植毛作業、ベース素材Jの送り動作、作業用開口部341からの撮像等に対する植毛用毛髪の影響を低減することが可能となる。
【0101】
また、植毛装置10は、カメラ11の撮像画像からベース素材Jの複数のメッシュ穴の並び方向を求める傾き検出部108と、カメラ11に対して載置板34上のベース素材Jの向きを変更する補正機構63と、当該補正機構63により、規定の方向に対するベース素材Jの複数のメッシュ穴の並び方向の傾斜角度に応じて、載置板34上のベース素材Jの向きを補正する補正制御部109とを備えている。
従って、送り動作やクランプ装置50によるクランプ動作等、各種の要因により向きに変動が生じたベース素材Jを適正な向きに補正することができ、ベース素材Jに対して高い位置精度で植毛用毛髪を結合させることができ、高品質の植毛を行うことが可能となる。
【0102】
また、補正機構63は、載置板34に対してベース素材Jを回転させて向きを補正するので、回転対象が最小限となり、補正機構63の小型化による装置全体の小型化を実現することが可能となる。
【0103】
また、植毛装置10は、載置板34の作業用開口部341に対して下から臨む配置となるように、カメラ11と第一の捕捉機構21との位置切り替えを行う位置切り替え機構28を備えている。
これにより、カメラ11と第一の捕捉機構21とを同一軸上に並べて配置する必要がなくなり、植毛装置10の小型化を図ることが可能となる。
また、位置切り替え機構28は、鉤針211とカメラ11の光軸とが同一軸上に切り替えられるように位置切り替えを行うので、植毛装置10を特にカメラ11の光軸方向について小型化することが可能となる。
【0104】
[その他]
以上、本発明の各実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られるものではない。例えば、実施形態において、単一の部材により一体的に形成された構成要素は、複数の部材に分割されて互いに連結又は固着された構成要素に置換してもよい。また、複数の部材が連結されて構成された構成要素は、単一の部材により一体的に形成された構成要素に置換してもよい。その他、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0105】
[補正機構の他の形態]
上記実施形態では、補正機構63として、載置板34上のベース素材Jを上から保持して載置板34に対して回転を加える構成を例示したが、これに限定されない。
例えば、図16に示すように、補正機構63に替えて、載置板34をベース素材Jと共に回転させてベース素材Jの向きを補正する他の補正機構66を植毛装置10に搭載してもよい。
以下、この補正機構66について詳細に説明する。
【0106】
補正機構66は、基台12とX軸ステージ26との間に設けられ、基準位置にある載置板34の作業用開口部341の中心を通るZ軸回りに移動機構25と当該移動機構25に支持された構成(ベースステージ30等)とを回転させることができる。
具体的には、補正機構66は、基台12の上面に直接的に設けられた、載置板34の作業用開口部341の中心を通るZ軸回りの回転を可能とする軸受662と、当該軸受662によって回転可能に支持された回転ステージ661と、回転ステージ661に回転力を付与する図示しない回転機構とを有する。回転機構は、制御装置100により回転角度を制御可能とするサーボモータ等の駆動源を備えている。
【0107】
補正機構66の回転ステージ661上には、移動機構25(X軸ステージ26及びY軸ステージ27)と、載置板34を含むベースステージ30と、ワイパー機構61と、補助クランプ機構62と、第一ブロア機構64と、第二ブロア機構65と、送り装置40と、クランプ装置50とが直接的又は間接的に搭載され、基台12に対してZ軸回りに回転動作が付与される。
これに対して、第一の捕捉機構21と、第二の捕捉機構22と、第三の捕捉機構23及びカメラ11を支持する位置切り替え機構28と、ルーパ機構24は、基台12に搭載され、補正機構66により回転は付与されない。
【0108】
また、植毛装置10に補正機構66を搭載する場合には、基台12上に、載置板34上のベース素材Jを上から押さえて載置板34の回転時にベース素材Jが回転しないように拘束する保持機構67も搭載することが好ましい。
ここで例示する保持機構67は、前述した補正機構63と多くの部材を共通化しているので、前述した補正機構63と共通する部材については、前述した補正機構63の部材の名称及び符号を使用して重複する説明を省略する。
保持機構67は、基台12上に設置されたブラケット631によってZ軸回りに回動可能に支持された支軸632と、支軸632の上端部に固定装備されたアーム633と、アーム633の先端部に設けられた押さえ板と、支軸632に回転動作を付与するアーム旋回用エアシリンダ636と、スプラインナット637と、コイルバネ638と、アーム633を下降させる押さえ用エアシリンダ639とを有する(図2及び図5参照)。
保持機構67が、前述した補正機構63と異なる点は、押さえ板がアーム633に固定的に支持されおり、また、押さえ板を回転させる補正用モータ635を有していないことである。
【0109】
保持機構67は、上記構成により、補正機構66によってベースステージ30が旋回する際に、アーム旋回用エアシリンダ636によって旋回するアーム633によって載置板34の上方に運ばれた押さえ板が、押さえ用エアシリンダ639によって下降し、ベース素材Jがベースステージ30と共に回転しないように保持することができる。
【0110】
上記補正機構66及び保持機構67を備える場合の植毛装置10に対して補正制御部109が実行する補正制御を図17のフローチャートに基づいて説明する。補正機構66による補正制御は、前述した図13のフローチャートにおいてステップS5に示した補正制御と同じタイミングで実施される。
【0111】
補正制御の直前に前述した傾き検出(図13のステップS3参照)が行われ、補正制御部109は、その際に使用された照明装置57を消灯し、上側開口部511から退避させる(ステップS71)。
次いで、補正制御部109は、送り装置40とクランプ装置50と補助クランプ機構62とを並行的に制御する。
即ち、補正制御部109は、送り装置40の一対のX軸ローラ機構41及び一対のY軸ローラ機構42の退避用エアシリンダ416,426を制御して各ローラ411,421を下降させて退避位置とする(ステップS73)。
また、状態切り替え制御部107が、レギュレータ56により高圧力で空圧をクランプ用エアシリンダ54に供給し、クランプ装置50のクランプ板51を強クランプ位置に下降させて、載置板34上でベース素材Jを保持する(ステップS75)。
また、補正制御部109は、各補助クランプ機構62の補助クランプ用エアシリンダ622を制御して各補助クランプ板621を一対のX軸ローラ機構41のローラ411に当接させて、ベース素材Jを補助的にクランプする(ステップS77)。
【0112】
次いで、張力付与制御部106によって、一対のX軸ローラ機構41のX軸送りモータ412に対して張力付与制御を行い、ベース素材Jの弛みを除去する(ステップS79)。
そして、補正制御部109は、ベース素材Jの補助クランプ状態で、クランプ用エアシリンダ54を制御してクランプ板51を上昇位置に退避させる(ステップS81)。
【0113】
次いで、補正制御部109は、アーム旋回用エアシリンダ636を制御して押さえ板を載置板34の上方に移動させると共に(ステップS83)、押さえ用エアシリンダ639を制御して、押さえ板を下降させてベース素材Jを上から保持する(ステップS85)。
【0114】
さらに、補正制御部109は、各補助クランプ機構62の補助クランプ用エアシリンダ622を制御して各補助クランプ板621により補助的なクランプ状態を解除してから(ステップS87)、補正機構66の駆動源を制御して回転ステージ661を、傾き検出部108で検出されたベース素材Jの傾斜角度θと同じ方向に同じ傾斜角度θだけ回転させる(ステップS89)。
これにより、ベース素材Jは、押さえ板によって上から押さえられているので、回転が生じないように拘束され、回転ステージ661と共にベースステージ30及び載置板34が傾斜角度θだけ回転を生じる。つまり、ベースステージ30及び載置板34がベース素材Jと同じ傾斜角度θのずれを生じた状態となる。
【0115】
次いで、補正制御部109は、各補助クランプ機構62の補助クランプ用エアシリンダ622を制御して各補助クランプ板621を、再び、補助的なクランプ状態とする(ステップS91)。さらに、張力付与制御部106により、一対のX軸ローラ機構41のX軸送りモータ412によって張力付与制御を実行する(ステップS93)。
さらに、補正制御部109は、保持機構67の押さえ用エアシリンダ639を制御して押さえ板を上昇させる(ステップS95)。
【0116】
そして、補正制御部109は、アーム旋回用エアシリンダ636を制御して押さえ板634を載置板34から離隔した退避位置に移動させる(ステップS97)。
【0117】
そして、状態切り替え制御部107が、レギュレータ56により低圧力で空圧をクランプ用エアシリンダ54に供給し、クランプ装置50のクランプ板51を弱クランプ位置に下降させる(ステップS99)。
【0118】
さらに、補正制御部109は、補正機構66と、補助クランプ機構62とを並行的に制御する。
即ち、補正制御部109は、補正機構66の駆動源を制御して回転ステージ661を、傾き検出部108で検出されたベース素材Jの傾斜角度θと同じ傾斜角度θだけ傾斜が生じている方向と逆方向に回転させる(ステップS101)。
これにより、ベース素材Jは、回転ステージ661と共にベースステージ30及び載置板34が傾斜角度θだけ傾斜方向と逆方向に回転を行い、ベース素材Jとベースステージ30及び載置板34が傾斜角度θでずれを生じていた状態が解消される。
【0119】
また、補正機構66の動作に並行して、補正制御部109は、各補助クランプ機構62の補助クランプ用エアシリンダ622を制御して各補助クランプ板621により補助的なクランプ状態を解除する(ステップS103)。
【0120】
そして、補正制御部109は、送り装置40の一対のX軸ローラ機構41及び一対のY軸ローラ機構42の退避用エアシリンダ416,426を制御して各ローラ411,421を上昇させて送り位置とする(ステップS105)。
【0121】
上記補正機構66は、ベースステージ30と共にベース素材Jを回転させて傾斜角度を補正するので、より精度良く補正を行うことが可能である。
また、補正後すぐに確認のために傾き検出を行い、ベース素材Jにまだ傾斜が生じていた場合に、角度補正のリトライを速やかに行うことが可能である。また、リトライでベース素材Jの角度補正を行う場合には、保持機構67の動作を伴わず、補正機構66による傾きを解消する方向への一回の回転動作で傾きの補正を行ってもよい。
【符号の説明】
【0122】
10 植毛装置
11 カメラ(撮像部)
12 基台
20 植毛部
21 第一の捕捉機構
211 鉤針
215 昇降ブロック
216 捕捉用モータ
217 連動軸
22 第二の捕捉機構
23 第三の捕捉機構
24 ルーパ機構
25 移動機構
26 X軸ステージ
263 X軸モータ
27 Y軸ステージ
273 Y軸モータ
28 位置切り替え機構
283 位置切り替え用エアシリンダ
284,285 ストッパー
30 ベースステージ
34 載置板(載置部)
341 作業用開口部
40 送り装置
41 X軸ローラ機構
42 Y軸ローラ機構
411,421 ローラ
412 X軸送りモータ
415,425 コイルバネ
416,426 退避用エアシリンダ
422 Y軸送りモータ
50 クランプ装置
51 クランプ板(クランプ部材)
511 上側開口部
512 当接板
54 クランプ用エアシリンダ
55 コイルバネ
56 レギュレータ
61 ワイパー機構
62 補助クランプ機構
63 補正機構
634 押さえ板
635 補正用モータ
636 アーム旋回用エアシリンダ
64 第一ブロア機構
65 第二ブロア機構
66 補正機構
661 回転ステージ
67 保持機構
100 制御装置
101 CPU
105 送り制御部
106 張力付与制御部
107 状態切り替え制御部
108 傾き検出部
109 補正制御部
B 境界線
d 隙間
g,gc,gn 重心点
l 直線
θ 傾斜角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17