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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139414
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】フェナントロリン誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07D 519/00 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
C07D519/00 311
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044930
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】豊田 和也
(72)【発明者】
【氏名】田中 健太郎
【テーマコード(参考)】
4C072
【Fターム(参考)】
4C072MM02
4C072UU05
(57)【要約】      (修正有)
【課題】不純物が少なく、生産性の高いフェナントロリン誘導体の製造方法を提供する。
【解決手段】ジハロゲン化芳香族化合物と、有機リチウム試薬とを反応させる工程、リチオ化反応物に2-フェニル-1,10-フェナントロリン、好ましくは1,10-フェナントロリンを反応させる工程、更に前記反応物に有機リチウム試薬を反応させる工程、前記リチオ化反応物に1,10-フェナントロリンを反応させる工程、更に前記反応物をヨウ素酸化してフェナントロリン誘導体の粗生成物を得る工程を含む、下記(1)で表されるフェナントロリン誘導体の製造方法。

【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の製造方法であって、
(工程1A)ジハロゲン化芳香族化合物と、有機リチウム試薬とを反応させる工程、
(工程2A)工程1Aのリチオ化反応物に下記一般式(2)で表される構造を有する化合物を反応させる工程、
(工程3A)工程2Aの反応物に有機リチウム試薬を反応させる工程、
(工程4A)工程3Aのリチオ化反応物に下記一般式(2)で表される構造を有する化合物を反応させる工程、
(工程5A)工程4Aの反応物をヨウ素により酸化してフェナントロリン誘導体の粗生成物を得る工程、
(工程6A)工程5Aのフェナントロリン誘導体の粗生成物を再結晶し、さらに昇華する工程、
をこの順に有し、少なくとも(工程1A)から(工程5A)までを連続的に行うフェナントロリン誘導体の製造方法。
【化1】
(上記一般式(1)において、R2~R13は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。R1およびR14は、同一でも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはシクロアルキル基を表す。)
【化2】
(上記一般式(2)において、R15~R21は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。)
【請求項2】
前記(工程2A)および/または(工程4A)において、一般式(2)におけるR15が水素原子である化合物を用い、
前記(工程5A)が、少なくとも
(工程5A-1)工程4Aの反応物をヨウ素により酸化する工程、
(工程5A-2)工程5A-1の反応物にフェニルリチウムを反応させる工程、
(工程5A-3)工程5A-2の反応物をヨウ素により酸化してフェナントロリン誘導体の粗生成物を得る工程
をこの順に有する請求項1に記載のフェナントロリン誘導体の製造方法。
【請求項3】
前記ジハロゲン化芳香族化合物が1,3-ジハロゲン化ベンゼンであり、前記一般式(2)で表される構造を有する化合物が2-フェニル-1,10-フェナントロリンである請求項1記載のフェナントロリン誘導体の製造方法。
【請求項4】
前記ジハロゲン化芳香族化合物が1,3-ジハロゲン化ベンゼンであり、前記一般式(2)で表される構造を有する化合物が1,10-フェナントロリンである請求項2記載のフェナントロリン誘導体の製造方法。
【請求項5】
下記一般式(3)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の製造方法であって、
(工程1B)置換もしくは無置換のハロゲン化芳香族化合物と、有機リチウム試薬とを反応させる工程、
(工程2B)工程1Bのリチオ化反応物に下記一般式(4)で表される構造を有する化合物を反応させる工程、
(工程3B)工程2Bの反応物をヨウ素により酸化してフェナントロリン誘導体の粗生成物を得る工程、
(工程4B)工程3Bのフェナントロリン誘導体の粗生成物を再結晶し、さらに昇華する工程、
をこの順に有し、少なくとも(工程1B)から(工程3B)までを連続的に行うフェナントロリン誘導体の製造方法。
【化3】
(上記一般式(3)において、R23~R28は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。R22は、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはシクロアルキル基を表す。)
【化4】
(上記一般式(4)において、R29~R34は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。)
【請求項6】
前記ハロゲン化芳香族化合物がハロゲン化ベンゼンであり、前記一般式(4)で表される構造を有する化合物が1,10-フェナントロリンである請求項5記載のフェナントロリン誘導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェナントロリン誘導体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
フェナントロリン誘導体は、例えば、表示素子、フラットパネルディスプレイ、バックライト、照明、インテリア、標識、看板、電子写真機、光信号発生器などの発光素子材料として有用な化合物である。後述する一般式(1)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の製造方法としては、例えば、ジブロモベンゼンをn-ブチルリチウムまたはsec-ブチルリチウムによりジリチオ化した後、2-フェニル-1,10-フェナントロリンと反応させ、次いで酸化する方法(例えば、特許文献1参照)や、1,3-ジ(1,10-フェナントロリン-2-イル)ベンゼンをフェニルリチウムと反応させ、次いで酸化する方法(例えば、特許文献2参照)などが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-189660号公報
【特許文献2】国際公開2006/021982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1~2に開示された製造方法は、反応容器に原料を入れて反応させ、その都度生成物を単離する、所謂バッチ式である。バッチ式の製造方法においては、目的物の生成が進むにつれて反応速度が低下しやすく、副反応が生じやすい傾向にある。
【0005】
そこで、細い管型の反応容器(リアクター)に原料を連続的に供給し、連続的に生成物を得る、所謂フロー式のプロセスを用いてフェナントロリン誘導体を製造する方法が考えられる。特許文献1~2には、二酸化マンガンやニトロベンゼンなどの酸化剤により酸化する方法が開示されているが、これらの酸化剤をフロー式のプロセスに適用する場合、水やアルコールのようなプロトン性溶媒を用いて反応停止させた後に、酸化させる必要があった。また、二酸化マンガンは、溶媒に溶けない不均一酸化剤であること、大量の添加が必要であることから、酸化剤由来の副生成物が発生しやすい。さらに、フロー式のプロセスに適用すると流路が閉塞しやすく、生産性に課題があった。一方、ニトロベンゼンは、環境面や安全面に課題があり、量産には適さない。
【0006】
本発明は、これらの従来技術の課題に鑑み、不純物が少なく、生産性の高いフェナントロリン誘導体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のフェナントロリン誘導体の製造方法は、酸化剤としてヨウ素を用い、少なくとも酸化する工程までを連続的に行うことを特徴とする。
【0008】
本発明の第一の態様は、下記一般式(1)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の製造方法であって、
(工程1A)ジハロゲン化芳香族化合物と、有機リチウム試薬とを反応させる工程、
(工程2A)工程1Aのリチオ化反応物に下記一般式(2)で表される構造を有する化合物を反応させる工程、
(工程3A)工程2Aの反応物に有機リチウム試薬を反応させる工程、
(工程4A)工程3Aのリチオ化反応物に下記一般式(2)で表される構造を有する化合物を反応させる工程、
(工程5A)工程4Aの反応物をヨウ素により酸化してフェナントロリン誘導体の粗生成物を得る工程、
(工程6A)工程5Aのフェナントロリン誘導体の粗生成物を再結晶し、さらに昇華する工程、
をこの順に有し、少なくとも(工程1A)から(工程5A)までを連続的に行うフェナントロリン誘導体の製造方法である。
【0009】
【化1】
【0010】
上記一般式(1)において、R2~R13は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。R1およびR14は、同一でも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはシクロアルキル基を表す。
【0011】
【化2】
【0012】
上記一般式(2)において、R15~R21は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。
【0013】
また、本発明の第二の態様は、下記一般式(3)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の製造方法であって、
(工程1B)置換もしくは無置換のハロゲン化芳香族化合物と、有機リチウム試薬とを反応させる工程、
(工程2B)工程1Bのリチオ化反応物に下記一般式(4)で表される構造を有する化合物を反応させる工程、
(工程3B)工程2Bの反応物をヨウ素により酸化してフェナントロリン誘導体の粗生成物を得る工程、
(工程4B)工程3Bのフェナントロリン誘導体の粗生成物を再結晶し、さらに昇華する工程、
をこの順に有し、少なくとも(工程1B)から(工程3B)までを連続的に行うフェナントロリン誘導体の製造方法である。
【0014】
【化3】
【0015】
上記一般式(3)において、R23~R28は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。R22は、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはシクロアルキル基を表す。
【0016】
【化4】
【0017】
上記一般式(4)において、R29~R34は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。
【発明の効果】
【0018】
本発明のフェナントロリン誘導体の製造方法によれば、不純物の少ないフェナントロリン誘導体を高い生産性で製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0020】
本発明の第一の態様は、下記一般式(1)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の製造方法であって、
(工程1A)ジハロゲン化芳香族化合物と、有機リチウム試薬とを反応させる工程、
(工程2A)工程1Aのリチオ化反応物に下記一般式(2)で表される構造を有する化合物を反応させる工程、
(工程3A)工程2Aの反応物に有機リチウム試薬を反応させる工程、
(工程4A)工程3Aのリチオ化反応物に下記一般式(2)で表される構造を有する化合物を反応させる工程、
(工程5A)工程4Aの反応物をヨウ素により酸化してフェナントロリン誘導体の粗生成物を得る工程、
(工程6A)工程5Aのフェナントロリン誘導体の粗生成物を再結晶し、さらに昇華する工程、
をこの順に有し、少なくとも(工程1A)から(工程5A)までを連続的に行うフェナントロリン誘導体の製造方法である。
【0021】
【化5】
【0022】
上記一般式(1)において、R2~R13は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。これらの中でも、水素原子が好ましく、立体障害が小さいことから、R1および/またはR14の位置の反応を効率的に進めることができ、副反応に起因する不純物をより抑制することができる。
【0023】
R1およびR14は、同一でも異なっていてもよく、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはシクロアルキル基を表す。これらの中でも、アリール基、ヘテロアリール基が好ましく、ガラス転移温度が高く、耐熱性を向上させることができる。また、電子移動度が大きくなることから、発光素子材料として用いた場合に駆動電圧を低減することができる。アリール基がより好ましく、フェニル基がさらに好ましい。
【0024】
【化6】
【0025】
上記一般式(2)において、R15~R21は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。ただし、一般式(2)で表される構造を有する化合物は、一般式(1)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の原料であり、一般式(2)におけるR15~R21の位置は、一般式(1)におけるR1~R7、R14~R8の位置に、それぞれ対応する。
【0026】
一般式(1)においてR2~R7およびR13~R8のいずれかが水素原子である場合、一般式(2)において対応するR16~21も水素原子であることが好ましい。一方、一般式(1)においてR1~R7およびR14~R8のいずれかが水素原子以外である場合、一般式(2)において対応するR15~R21は、水素原子であってもよいし、水素原子以外であってもよい。一般式(2)において対応するR15~R21が水素原子である場合、その水素原子を一般式(1)における基に置換する工程を設けることにより、所望のフェナントロリン誘導体を得ることができる。
【0027】
より具体的には、一般式(1)におけるR1および/またはR14がフェニル基であり、前記(工程2A)および/または(工程4A)において、一般式(2)におけるR15が水素原子である化合物を用いる場合、R15の水素原子をフェニル基に置換する工程を設ける。すなわち、前記(工程5A)が、少なくとも
(工程5A-1)工程4Aの反応物をヨウ素により酸化する工程、
(工程5A-2)工程5A-1の反応物にフェニルリチウムを反応させる工程、
(工程5A-3)工程5A-2の反応物をヨウ素により酸化してフェナントロリン誘導体の粗生成物を得る工程
をこの順に有することが好ましい。
【0028】
本発明の第一の態様において、(工程1A)から(工程5A)までの反応により、フェナントロリン誘導体の粗生成物が得られる。バッチ式の製造方法においては、目的物の生成が進むにつれて反応速度が低下しやすく、ジハロゲン化ベンゼンの自己縮合などの副反応に起因する不純物が生成しやすい傾向にあるが、前述の工程を連続的に行い、リチオ化反応の反応時間を短くすることにより、かかる不純物の生成を抑制することができる。そして、二酸化マンガンやニトロベンゼンなどのような、一旦反応停止させた後に酸化させる必要がある酸化剤とは異なり、酸化剤としてヨウ素を選択することにより、(工程5A)を別途行う必要がなく、(工程1A)から(工程5A)までを連続して行うことができる。また、従来公知の酸化剤と比較して、酸化物との副反応による不純物を抑制することができる。
【0029】
(工程6A)は、連続的であってもよいし、バッチ式であってもよい。
【0030】
上記一般式(1)~(2)において、アリール基は、芳香族炭化水素化合物から芳香環上の水素原子1個を除いた芳香族炭化水素基であり、単環または縮合環のいずれでもよい。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、ヘリセニル基などが挙げられる。これらの中でも、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基が好ましい。これらの置換基は、さらに置換されていてもよい。ここで、本発明においては、ビフェニル基、ターフェニル基など複数のフェニル基が単結合を介して結合している基は、アリール基を置換基として有するフェニル基として扱うものとする。アリール基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは6以上40以下、より好ましくは6以上30以下の範囲である。また、フェニル基においては、そのフェニル基中の隣接する2つの炭素原子上に各々置換基がある場合、それらの置換基同士で環構造を形成していてもよい。その結果としてできた基は、その構造に応じて、「置換のフェニル基」、「2つ以上の環が縮環した構造を有するアリール基」、「2つ以上の環が縮環した構造を有するヘテロアリール基」のいずれか1つ以上に該当しうる。
【0031】
ヘテロアリール基は、炭素および水素以外の原子、すなわちヘテロ原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基であり、単環もしくは縮合環のいずれでもよい。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子が好ましい。ヘテロアリール基としては、例えば、ピリジル基、フラニル基、チエニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、カルボリニル基、インドロカルバゾリル基、ベンゾフロカルバゾリル基、ベンゾチエノカルバゾリル基、ジヒドロインデノカルバゾリル基、ベンゾキノリニル基、アクリジニル基、ジベンゾアクリジニル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基などが挙げられる。ヘテロアリール基は置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、後述するアルキル基などが挙げられる。ヘテロアリール基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは2以上40以下、より好ましくは2以上30以下の範囲である。
【0032】
アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、後述するアルコキシ基などが挙げられる。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは1以上20以下、より好ましくは1以上8以下の範囲である。
【0033】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、後述するアルコキシ基などが挙げられる。シクロアルキル基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは3以上20以下の範囲である。
【0034】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した官能基を示し、脂肪族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基などが挙げられる。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは1以上20以下の範囲である。
【0035】
アリールオキシ基とは、例えば、フェノキシ基など、エーテル結合を介して芳香族炭化水素基が結合した官能基を示し、芳香族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、アリール基の置換基として例示した基が挙げられる。アリールオキシ基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0036】
アルケニル基とは、例えば、ビニル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基などが挙げられる。アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは2以上20以下の範囲である。
【0037】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基などが挙げられる。シクロアルケニル基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは、3以上20以下の範囲である。
【0038】
アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基などが挙げられる。アルキニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは2以上20以下の範囲である。
【0039】
アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アルキルチオ基の脂肪族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、アルキル基の置換基として例示した基が挙げられる。アルキルチオ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは1以上20以下の範囲である。
【0040】
アリールチオ基とは、アリールオキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アリールチオ基における芳香族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。アリールチオ基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0041】
シアノ基は、構造が-C≡Nで表される官能基である。ここで他の官能基と結合するのは炭素原子である。
【0042】
本発明の第一の態様のフェナントロリン誘導体の製造方法の一例を示す。ただし、Xはハロゲンを示す。
【0043】
【化7】
【0044】
また、第一の態様のフェナントロリン誘導体の製造方法の別の一例として、前記(工程2A)および(工程4A)において、一般式(2)におけるR15が水素原子である化合物を用いる場合の例を示す。ただし、Xはハロゲンを示す。
【0045】
【化8】
【0046】
(工程1A)において、ジハロゲン化芳香族化合物は、立体障害を小さくして反応性を高め、副反応をより抑制して不純物をより低減する観点から、ジハロゲン化ベンゼンが好ましい。ジハロゲン化ベンゼンとしては、例えば、1,3-ジブロモベンゼン、1,3-ジヨードベンゼン,1-ブロモ-3-ヨードベンゼンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、1,3-ジブロモベンゼンが好ましい。
【0047】
有機リチウム試薬としては例えば、n-ブチルリチウム、sec-ブチルリチウム、tert-ブチルリチウムなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。これらの中でも、n-ブチルリチウムが好ましい。
【0048】
これらを溶液の状態で反応させることが好ましく、溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロヘキサンなどの炭素数5~8の飽和炭化水素系溶媒や、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。各原料の溶液濃度は、5.0M以下が好ましく、2.0M以下がより好ましい。
【0049】
ジハロゲン化芳香族化合物に対して、有機リチウム試薬を0.8~1.1当量用いることが好ましい。
【0050】
各原料の流速(ml/分)は、1ml/分以上が好ましく、4ml/分以上がより好ましい。反応温度は、-20~40℃が好ましい。
【0051】
(工程1A)の滞留時間(反応時間)は、ハロゲン-リチウム交換反応に要する時間やリチオ化反応物の安定時間を考慮し、0.1~3秒が好ましい。さらに、副反応をより抑制し、不純物をより低減する観点からは、2.5秒以下がより好ましい。一方、ジリチオ化反応を完結する観点からは、0.5秒以上がより好ましい。
【0052】
(工程2A)において、前記一般式(2)におけるR16~R21は、立体障害を小さくして反応性を高め、副反応をより抑制する観点から、水素原子が好ましい。一方、R15は、水素原子やアリールが好ましく、アリール基としては、フェニル基がより好ましい。すなわち、前記一般式(2)で表される構造を有する化合物としては、1,10-フェナントロリンや2-フェニル-1,10-フェナントロリンが好ましい。
【0053】
(工程2A)において、前記一般式(2)で表される構造を有する化合物を、ジハロゲン化芳香族化合物に対して0.8~1.1当量用いることが好ましい。また、(工程2A)の滞留時間は、フェナントロリンの反応に要する時間を考慮し、4~6秒間が好ましい。反応温度は、-20~40℃が好ましい。
【0054】
(工程3A)の好ましい態様は、(工程1A)と同様であり、(工程4A)の好ましい態様は、(工程2A)と同様である。
【0055】
(工程5A)において、ヨウ素を、使用したジハロゲン化芳香族化合物に対して1.0~1.2当量用いることが好ましい。また、(工程5A)の滞留時間は、酸化反応に要する時間を考慮し、2~4秒が好ましい。反応温度は、-20~40℃が好ましい。本発明においては、前述のとおり、酸化剤としてヨウ素を用いる。酸化剤として二酸化マンガンやニトロベンゼンなどを用いる従来の製造方法をフロープロセスに適用する場合、水やアルコールのようなプロトン性溶媒を用いて反応停止させた後に、酸化させる必要があった。これに対して、本発明においては、プロトン性溶媒を用いて反応停止させなくても、非プロトン性溶媒中においてそのまま酸化反応を進行させることができる。また、フロー式のプロセスに適用すると流路が閉塞しやすい二酸化マンガンやニトロベンゼンと異なり、ヨウ素はフロー式のプロセスに適した酸化剤であり、中間生成物と酸化剤との副反応も生じにくく、不純物を抑制することができる。
【0056】
ヨウ素を溶媒に溶解して流路内に供給することが好ましい。
【0057】
ヨウ素を溶解する溶媒としては、例えば、メタノール、エタノールなどの脂肪族アルコール系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、ニトロベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、ジメトキシエタンなどのエーテル系溶媒、N,N’-ジメチルホルムアミド、N,N’-ジメチルイミダゾリジノン(DMI)などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0058】
ヨウ素溶液の濃度は、用いる溶媒に応じて適宜選択することができ、例えば、エタノール溶液やテトラヒドロフラン溶液の場合は1~10重量%が好ましい。
【0059】
(工程5A)、(工程5A-1)および(工程5A-3)の反応時間は、2~4秒間程度が好ましい。
【0060】
(工程5A-2)において、(工程5A-1)により得られた反応物にフェニルリチウムを反応させる。フェニルリチウムは、例えば、メルク(株)などから入手することができる。(工程2A)および(工程4A)において、一般式(2)におけるR15が水素原子である化合物を用いる場合、各工程により反応したR15のそれぞれをフェニル基に置換するため、(工程5A-1)により得られた反応物に対して、フェニルリチウムを2~4当量用いることが好ましい。この反応に用いられる溶媒としては、前述の脂肪族アルコール系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、エーテル系溶媒などが挙げられる。
【0061】
(工程5A-2)の反応温度は、用いる溶媒に応じて適宜選択することができ、-20~0℃が好ましい。
【0062】
(工程5A-2)の反応時間は、2~4秒間程度が好ましい。
【0063】
(工程6A)において、フェナントロリン誘導体の粗生成物を再結晶し、さらに昇華して精製する。精製により、副生成物などを分離除去することにより、不純物を低減することができる。
【0064】
再結晶に用いられる溶媒としては、例えば、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、エタノール、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、n-ブチルラクトン、ニトロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、1-メチル2-ピロリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ピリジン、トリエチルアミンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0065】
再結晶の加熱温度や晶析温度は、使用する溶媒に応じて適宜選択することができ、0~130℃が好ましい。
【0066】
昇華温度は400℃以下が好ましく、昇華精製における真空度は1.0×10-3Pa以下が好ましい。
【0067】
ヨウ素含有量を後述する好ましい範囲に調整する方法としては、例えば、酸化後のフェナントロリン誘導体の粗生成物を洗浄する方法などが挙げられる。洗浄には、チオ硫酸ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。より具体的には、酸化後のフェナントロリン誘導体の粗生成物をチオ硫酸ナトリウム水溶液で洗浄し、水洗することにより、含まれるヨウ素を、還元剤であるチオ硫酸ナトリウムによって除去する。また、反応系中においてヨウ化塩(ヨウ化リチウム)が生成する場合には、水洗により、これも除去される。チオ硫酸ナトリウム水溶液の濃度や洗浄回数、水洗回数により、除去するヨウ素が変化することから、所望のヨウ素含有量にあわせてこれらの条件を選択することが好ましい。
【0068】
次いで、トルエンを添加して加熱しスラリー洗浄した後、ヨウ素やヨウ化塩(ヨウ化リチウム)の溶解性が高いエタノールを添加して、加熱してスラリー洗浄した後、再結晶、昇華により精製することが好ましい。再結晶には、アニソール/トルエン溶液を用いることが好ましく、昇華後は、テトラヒドロフラン/メタノール溶液を用いることが好ましい。
【0069】
例えば、酸化後のフェナントロリン誘導体の粗生成物におけるヨウ素含有量が数万ppmである場合、その溶液を0.5Mチオ硫酸ナトリウム水溶液により2回洗浄し、水洗を経た後、試料1gに対して50mlのエタノールを添加し、80℃で1時間加熱しスラリー洗浄した後に、前述の方法により再結晶・昇華すると、ヨウ素含有量は1ppmから60ppm程度になる。チオ硫酸ナトリウム水溶液による洗浄を行うことなく、水洗、再結晶・昇華のみを同様に行うと、ヨウ素含有量は60ppm~600ppm程度になる。再結晶・昇華のみを同様に行うと、ヨウ素含有量は600ppm~1,000ppm程度になる。
【0070】
本発明のフェナントロリン誘導体の製造方法においては、上記各工程を連続的に行うために、細い管型の反応容器(リアクター)に原料を連続して供給し、連続して生成物を得る、所謂フロー式のプロセスを適用することが好ましい。すなわち、原料をポンプによりリザーバーから流路内に送り、各原料をミキサー部において混合し、流路内を流れながら反応容器(リアクター)中において反応を進め、生成された化合物を流路から排出するプロセスである。
【0071】
原料の拡散速度、反応速度は反応容器の大きさに依存し、バッチ式と比べて原料が混合するスペースが小さいため、各原料は流速で定められた混合比で正確かつ迅速に混合される。このため、反応速度の低下を抑制し、副反応をより抑制することができる。また、フロー式のプロセスは、反応系全体を均一な温度に保ちやすく、局所的な温度上昇に起因する副反応による不純物の生成も抑制することができる。
【0072】
ポンプとしては、例えば、プランジャーポンプ、ダイアフラムポンプなどが挙げられる。また、ミキサーの形状としては、例えば、T字型やY字型などが挙げられる。ミキサーの流路径(内径)は、100μm~3mmが好ましい。
【0073】
上記本発明のフェナントロリン誘導体の製造方法により、ヨウ素を一定量含む、前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体が得られる。ただし、ヨウ素を含むとは、フェナントロリン誘導体の構造の一部として含まれることではなく、有用な添加物として含まれることを意味する。例えば、有機EL表示装置の発光素子材料として用いた場合、一定量のヨウ素を含有することにより、元素トラップ効果や導電性向上効果により、発光素子の駆動電圧を低減し、耐久性を向上させることができる。ヨウ素含有量は、60ppm以上が好ましい。一方、ヨウ素含有量を一定以下に抑えることにより、アルカリマイグレーションなどの電極腐食を抑制し、発光素子の発光効率や耐久性を向上させることができる。ヨウ素含有量は、10,000ppm以下が好ましい。
【0074】
ここで、フェナントロリン誘導体のヨウ素含有量は、蛍光X線分析により測定することができる。具体的には、フェナントロリン誘導体について、プレス機により圧縮成型を行い、表面からの揮発を抑制するために、表面をポリプロピレン膜で覆い、測定試料とする。得られた測定試料について、蛍光X線分析装置により一次X線を照射し、励起状態から基底状態に戻る際に出現するヨウ素の蛍光X線強度を測定する。ヨウ素含有量既知の試料を用いて予め作成した検量線から、ヨウ素含有量を算出する。
【0075】
前記(工程2A)および(工程4A)において用いる前記一般式(2)で表される構造を有する化合物も、本発明のフロー式のプロセスを用いて製造することができる。本発明の第二の態様は、下記一般式(3)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の製造方法であって、
(工程1B)置換もしくは無置換のハロゲン化芳香族化合物と、有機リチウム試薬とを反応させる工程、
(工程2B)工程1Bのリチオ化反応物に下記一般式(4)で表される構造を有する化合物を反応させる工程、
(工程3B)工程2Bの反応物をヨウ素により酸化してフェナントロリン誘導体の粗生成物を得る工程、
(工程4B)工程3Bのフェナントロリン誘導体の粗生成物を再結晶し、さらに昇華する工程、
をこの順に有し、少なくとも(工程1B)から(工程3B)までを連続的に行うフェナントロリン誘導体の製造方法である。第一の態様と同様に、酸化剤としてヨウ素を用いることにより、プロトン性溶媒を用いて反応停止させなくても、非プロトン性溶媒中においてそのまま酸化反応を進行させることができる。また、フロー式のプロセスに適用すると流路が閉塞しやすい二酸化マンガンやニトロベンゼンと異なり、ヨウ素はフロー式のプロセスに適した酸化剤であり、中間生成物と酸化剤との副反応も生じにくく、不純物を抑制することができる。
【0076】
【化9】
【0077】
上記一般式(3)において、R23~R28は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。R22は、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはシクロアルキル基を表す。
【0078】
【化10】
【0079】
上記一般式(4)において、R29~R34は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。
【0080】
上記一般式(3)は、一般式(2)におけるR15を置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはシクロアルキル基に限定したものであり、R23~28はそれぞれ一般式(2)におけるR16~21に対応する。このため、一般式(3)におけるR23~R28は、水素原子が好ましく、R22は、アリールが好ましく、フェニル基がより好ましい。すなわち、前記一般式(3)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体としては、2-フェニル-1,10-フェナントロリンが好ましい。
【0081】
また、前記一般式(4)で表される構造を有する化合物は、一般式(3)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の原料であり、一般式(4)におけるR29~R34の位置は、一般式(3)におけるR23~R28の位置に、それぞれ対応する。このため、一般式(4)におけるR29~R34は、水素原子が好ましい。
【0082】
本発明の第二の態様のフェナントロリン誘導体の製造方法の一例を示す。ただし、Xはハロゲンを示す。
【0083】
【化11】
【0084】
(工程1B)は、第一の態様における(工程1A)に対応する。ハロゲン化芳香族化合物は、立体障害を小さくして反応性を高め、副反応をより抑制する観点から、ハロゲン化ベンゼンが好ましい。その他の好ましい態様は(工程1A)と同様である。
【0085】
(工程2B)は、第一の態様における(工程2A)に対応する。前記一般式(4)におけるR29~R34は、立体障害を小さくして反応性を高め、副反応をより抑制する観点から、水素原子が好ましい。すなわち、前記一般式(4)で表される構造を有する化合物としては、1,10-フェナントロリンが好ましい。その他の好ましい態様は(工程2A)と同様である。
【0086】
(工程3B)は、(工程5A)に対応する。好ましい態様は(工程5A)と同様である。
【実施例0087】
各実施例および比較例における評価は以下の方法により行った。
【0088】
(1)ヨウ素含有量
各実施例および比較例において得られたフェナントロリン誘導体について、プレス機により圧縮成型を行い、表面からの揮発を抑制するために、表面をポリプロピレン膜で覆い、測定試料とした。得られた測定試料について、蛍光X線分析装置((株)リガク製波長分散型蛍光X線分析装置ZSX PRIMUS IV)により一次X線を照射し、励起状態から基底状態に戻る際に出現するヨウ素の蛍光X線強度を測定した。このとき、ヨウ素のKα蛍光X線ピーク28.3keVを中心にエネルギー・ウィンドウ(27.44keV~28.56keV)を設定し、バックグラウンド成分としてウィンドウ内に台形を設定し、この面積に相当するカウント数を多重散乱成分として、ウィンドウ内の総カウント数から減算することにより、ヨウ素の正味の蛍光X線強度とした。ヨウ素含有量既知の試料を用いて予め作成した検量線から、ヨウ素含有量を算出した。
【0089】
(2)フェナントロリン誘導体の純度
各実施例および比較例において得られたフェナントロリン誘導体を、それぞれガラス容器に4.0mg秤量し、40mlTHFを加えて溶解した。その調製液をHPLC用バイヤル瓶に1ml移液して、HPLC測定サンプルとした。そして、HPLCにより下記条件において分析を行った。保持時間12分~13分に検出される前記構造式(1)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の大きなピークの吸収強度面積比から、その純度を算出した。純度が高いほど、不純物が抑制されていると言える。
機器:(株)島津製作所製Nexeraliteシステム(LC-40シリーズ)
検出器:(株)島津製作所製フォトダイオードアレイ検出器(SPD-M40)
カラム種類:高純度球状シリカゲル粒子オクチル基化学結合充填剤逆相カラム
理論段数:105,000±10,000(N/m)
カラム温度:45℃
流速:1.0mL/分
注入量:10μL
測定サンプル濃度:4.0mg/40mlTHF
移動相:A液濃度0.1重量%のリン酸水溶液、B液アセトニトリル/テトラヒドロフラン混合液(重量比80/20)
送液条件:最初はA液/B液の体積比55/45、保持時間25分経過後はB液のみで、最初の25分間リニアグラジエント
解析ソフト:(株)島津製作所製LabSolutions
測定波長:254nm
フェナントロリン誘導体検出面積:6,000,000以上
不純物検出最小面積:60
Width(W):1sec
Slope(S):1,000μV/分
Drift(D):300μV/分
T.DBL(T):1,000分。
【0090】
(3)発光素子の駆動電圧、外部量子効率(EQE)および耐久性
陽極としてITO透明導電膜を100nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、10Ω/□、スパッタ品)を、75mm×75mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を、“セミコクリーン”(登録商標)56(商品名、フルウチ化学(株)製)を用いて15分間超音波浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず、正孔注入層として、下記構造式で表されるHILを10nm蒸着し、次いで、正孔輸送層として、下記構造式で表されるHTL-Aを105nmおよび下記構造式で表されるHTL-Bを10nm蒸着した。次いで、発光層として、下記構造式で表されるホスト材料Host-A、下記構造式で表されるドーパント材料Dopant-Bの混合層を、ドープ濃度が3重量%になるようにして20nmの厚さに蒸着した。次いで、電子輸送層として、下記構造式で表されるETL-Aを20nmの厚さに蒸着した。次いで、N型電荷発生層として、実施例1~3および比較例1~2により得られたフェナントロリン誘導体とリチウムの混合層を、ドープ濃度が1重量%になるようにして12nmの厚さに蒸着した。次いで、HILを10nm蒸着し、次いで、HTL-Aを55nmおよびHTL-Bを10nm蒸着した。次いで、発光層として、ホスト材料Host-A、ドーパント材料Dopant-Bの混合層を、ドープ濃度が3重量%になるようにして20nmの厚さに蒸着した。次いで、電子輸送層として、ETL-Aを20nmの厚さに蒸着した。次いで、電子注入層として、実施例1~2および比較例1~2により得られたフェナントロリン誘導体とリチウムの混合層を、ドープ濃度が1重量%になるようにして10nmの厚さに蒸着した。次いで、陰極として、アルミニウムを100nmの厚さに蒸着して、25mm×25mm角の発光素子を作製した。
【0091】
【化12】
【0092】
【化13】
【0093】
得られた発光素子を、10mA/cmで直流駆動し、初期駆動電圧および初期輝度と、発光効率の指標であるEQE(外部量子効率)を測定した。さらに、温度20~30℃の条件下、電流密度10mA/cmで直流駆動したときの輝度を測定し、初期輝度から輝度が5%低下する時間を耐久性として評価した。
【0094】
(実施例1)
(工程1A)~(工程5A)を下記条件のフロー式反応により実施した。
シリンジポンプ:YMC(株)製型式YSP-301高性能高圧タイプ
温度:10~30℃
ミキサー間の流路径(内径):1mm
ミキサー間の流路材質:“テフロン”(登録商標)
ミキサー形状:T字
ミキサー材質:“テフロン”(登録商標)
ミキサー流路径:1mm。
【0095】
(工程1A)
サーバーAから0.2Mの1,3-ジブロモベンゼン/テトラヒドロフラン溶液を流速5.0ml/分で流路に流し、サーバーBから0.2Mのn-ブチルリチウム/n-ヘキサン溶液を流速4.6ml/分で流路に流し、第一T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は9.6ml/分であった。
【0096】
(工程2A)
第一T字ミキサー部から2秒後に、サーバーCから0.2Mの2-フェニル-1,10-フェナントロリン/テトラヒドロフラン溶液を流速4.2ml/分で流路に流し、第二T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は13.8ml/分であった。
【0097】
(工程3A)
第二T字ミキサー部から4秒後に、サーバーDから0.2Mのn-ブチルリチウム/n-ヘキサン溶液を流速4.6ml/分で流路に流し、第三T字ミキサー部で反応させた。
反応物の流速は18.4ml/分であった。
【0098】
(工程4A)
第三T字ミキサー部から2秒後に、サーバーEから0.2Mの2-フェニル-1,10-フェナントロリン/テトラヒドロフラン溶液を流速4.2ml/分で流路に流し、第四T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は22.6ml/分であった。
【0099】
(工程5A)
第四T字ミキサー部から2秒後に、サーバーFから0.2Mのヨウ素/テトラヒドロフラン溶液を流速4.2ml/分で流路に流し、第五T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は26.8ml/分であった。第五T字ミキサー部から10秒後に反応物をフラスコにより採取した。ただし、反応物の採取は、ポンプが稼働してから1分経過してから行った。
【0100】
次いで、得られた反応物の懸濁溶液を、桐山ロート(濾紙目:4μm)を使用して濾過し、濾物を80℃で乾燥して、下記構造式(5)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の粗生成物を5.1g得た。
【0101】
【化14】
【0102】
続いて、(工程6A)を以下の方法(バッチ式)により行った。
【0103】
(工程6A)
(工程5A)により得られた前記構造式(5)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の粗生成物を、トルエンで加熱スラリー洗浄し、次いでアニソール/トルエン溶液で再結晶化し、テトラヒドロフラン/メタノール溶液で加熱スラリー洗浄した。その結晶を、油拡散ポンプを用いて、1.0×10-3Pa以下の圧力下、320℃で昇華精製を行い、前記構造式(5)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体を3.9g得た。
【0104】
得られたフェナントロリン誘導体について、前述の方法により評価した結果を表1に示す。
【0105】
(実施例2)
(工程2A)および(工程4A)において、2-フェニル-1,10-フェナントロリンにかえて1,10-フェナントロリンを用いたこと、および、(工程5A)を以下の(工程5A-1)~(工程5A-3)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、前記構造式(5)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体を3.6g得た。
【0106】
(工程5A-1)
第四T字ミキサー部から2秒後に、サーバーFから0.2Mのヨウ素/テトラヒドロフラン溶液を流速4.2ml/分で流路に流し、第五T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は26.8ml/分であった。
【0107】
(工程5A-2)
第五T字ミキサー部から10秒後に、サーバーGから0.2Mのフェニルリチウム/ジブチルエーテル溶液を流速8.4ml/分で流路に流し、第五T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は35.2ml/分であった。
【0108】
(工程5A-3)
第六T字ミキサー部から2秒後に、サーバーHから0.2Mのヨウ素/テトラヒドロフラン溶液を流速4.2ml/分で流路に流し、第七T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は39.4ml/分であった。第七T字ミキサー部から10秒後に反応物をフラスコにより採取した。ただし、反応液の採取は、ポンプが稼働してから1分経過してから行った。
【0109】
得られたフェナントロリン誘導体について、前述の方法により評価した結果を表1に示す。
【0110】
(実施例3)
(工程1B)~(工程5B)を、実施例1と同じ装置を用いてフロー式反応により実施した。
【0111】
(工程1B)
サーバーAから0.2Mのブロモベンゼン/テトラヒドロフラン溶液を流速5.0ml/分で流路に流し、サーバーBから0.2Mのn-ブチルリチウム/n-ヘキサン溶液を流速4.6ml/分で流路に流し、第一T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は9.6ml/分であった。
【0112】
(工程2B)
第一T字ミキサー部から2秒後に、サーバーCから0.2Mの1,10-フェナントロリン/テトラヒドロフラン溶液を流速4.2ml/分で流路に流し、第二T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は13.8ml/分であった。
【0113】
(工程3B)
第二T字ミキサー部から2秒後に、サーバーDから0.2Mのヨウ素/テトラヒドロフラン溶液を流速4.2ml/分で流路に流し、第三T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は18.0ml/分であった。第三T字ミキサー部から10秒後に反応物をフラスコにより採取した。ただし、反応物の採取は、ポンプが稼働してから1分経過してから行った。
【0114】
次いで、得られた懸濁溶液を、桐山ロート(濾紙目:4μm)を使用して濾過し、濾物を80℃で乾燥して、2-フェニル-1,10-フェナントロリンの粗生成物を5.1g得た。
【0115】
続いて、(工程4B)を以下の方法(バッチ式)により行った。
【0116】
(工程4B)
(工程3B)により得られた2-フェニル-1,10フェナントロリンの粗生成物を、トルエンで加熱スラリー洗浄し、次いでアニソール/トルエン溶液で再結晶化し、テトラヒドロフラン/メタノール溶液で加熱スラリー洗浄した。その結晶を、油拡散ポンプを用いて、1.0×10-3Pa以下の圧力下、320℃で昇華精製を行い、2-フェニル-1,10-フェナントロリンを4.0g得た。
【0117】
得られたフェナントロリン誘導体について、前述の方法により評価した結果を表1に示す。
【0118】
(比較例1)
(工程1A)から(工程4A)までは実施例1と同様にして、第四T字ミキサー部から4秒後に反応物をフラスコにより採取した。ただし、反応物の採取は、ポンプが稼働してから1分経過してから行った。続いて、以下の(工程5A’)の方法(バッチ式)により前記構造式(5)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の粗生成物を得た。
【0119】
(工程5A’)
予め、氷水を用いてフラスコ内温を0~5℃に保ち、(工程4A)により得られた反応物の溶液を50ml採取した。次いで、フラスコ内温を0~5℃に保ちながら反応物の溶液を撹拌し、HOを5ml加えてクエンチを行った。次いで、クエンチ溶液にジクロロメタンを50ml加えて、反応物を抽出した。この抽出物の溶液に、0.2Mのヨウ素/テトラヒドロフラン溶液50mlを、フラスコ内温を30℃以下に保ちながら加えた後、15分間撹拌して酸化した。次いで、得られた酸化物の懸濁液を、桐山ロート(濾紙目:4μm)を使用して濾過し、濾物を80℃で乾燥して、前記構造式(5)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の粗生成物を5.3g得た。
【0120】
次いで、(工程6A)は実施例1と同様にして構造式(5)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体を3.8g得た。
【0121】
得られたフェナントロリン誘導体について、前述の方法により評価した結果を表1に示す。
【0122】
(比較例2)
(工程1A)から(工程4A)までは実施例2と同様にして、第四T字ミキサー部から4秒後に反応物をフラスコにより採取した。ただし、反応物の採取は、ポンプが稼働してから1分経過してから行った。続いて、以下の(工程5A’-1)から(工程5A’-3)の方法(バッチ式)により構造式(5)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の粗生成物を得た。
【0123】
(工程5A’-1)
予め、氷水を用いてフラスコ内温を0~5℃に保ち、(工程4A)により得られた反応物の溶液を50ml採取した。次いで、フラスコ内温を0~5℃に保ちながら反応物の溶液を撹拌し、HOを5ml加えてクエンチを行った。次いで、クエンチ溶液にジクロロメタンを50ml加えて、反応物を抽出した。この抽出物の溶液に、0.2Mのヨウ素/テトラヒドロフラン溶液50mlを、フラスコ内温を30℃以下に保ちながら加えた後、15分間撹拌して酸化した。次いで、得られた酸化物の懸濁液を、桐山ロート(濾紙目:4μm)を使用して濾過し、濾物を80℃で乾燥した。
【0124】
(工程5A’-2)
次いで、(工程5A’-1)により得られた反応物を、窒素ガスで置換した100ml四つ口フラスコに入れた。フラスコ内温を0~5℃に保ちながら撹拌し、1.6Mのフェニルリチウム/ジブチルエーテル溶液40mLを加えて、さらに2.5時間撹拌した。次いで、フラスコ内温を0~5℃に保ちながら撹拌し、HOを10ml加えてクエンチを行った。
【0125】
(工程5A’-3)
次いで、氷水を用いてフラスコ内温を0~5℃に保ち、(工程5A’-2)により得られた反応物の溶液を40ml採取した。次いで、フラスコ内温を0~5℃に保ちながら反応物の溶液を撹拌し、HOを4ml加えてクエンチを行った。次いで、クエンチ溶液にジクロロメタンを40ml加えて、反応物を抽出した。この抽出物の溶液に、0.2Mのヨウ素/テトラヒドロフラン溶液50mlを、フラスコ内温を30℃以下に保ちながら加えた後、15分間撹拌して酸化した。次いで、得られた酸化物の懸濁液を、桐山ロート(濾紙目:4μm)を使用して濾過し、濾物を80℃で乾燥して、前記構造式(5)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体の粗生成物を2.1g得た。
【0126】
次いで、(工程6A)は実施例2と同様にして前記構造式(5)で表される構造を有するフェナントロリン誘導体を1.9g得た。得られたフェナントロリン誘導体について、前述の方法により評価した結果を表1に示す。
【0127】
【表1】