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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139415
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】発光素子
(51)【国際特許分類】
   H10K 50/16 20230101AFI20230927BHJP
   H10K 50/10 20230101ALI20230927BHJP
   H05B 33/22 20060101ALI20230927BHJP
   H10K 59/10 20230101ALI20230927BHJP
   G09F 9/30 20060101ALI20230927BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20230927BHJP
   F21Y 115/15 20160101ALN20230927BHJP
【FI】
H05B33/22 B
H05B33/14 A
H05B33/22 A
H01L27/32
G09F9/30 365
F21S2/00 482
F21Y115:15
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044931
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】豊田 和也
(72)【発明者】
【氏名】田中 健太郎
【テーマコード(参考)】
3K107
3K244
5C094
【Fターム(参考)】
3K107AA01
3K107BB01
3K107BB02
3K107CC12
3K107CC21
3K107DD74
3K107DD78
3K107DD84
3K107DD86
3K107FF14
3K244AA01
3K244AA04
3K244BA01
3K244BA26
3K244BA42
3K244CA02
3K244DA03
5C094AA31
5C094BA27
5C094FB01
5C094HA05
5C094HA08
(57)【要約】
【課題】駆動電圧を低減した、耐久性に優れる発光素子を提供すること。
【解決手段】陽極と陰極との間に少なくとも有機薄膜層と発光層とが存在し、電気エネルギーにより発光する発光素子であって、前記有機薄膜層が、ヨウ素を含む、下記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含有する発光素子。
【化1】
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽極と陰極との間に少なくとも有機薄膜層と発光層とが存在し、電気エネルギーにより発光する発光素子であって、前記有機薄膜層が、ヨウ素を含む、下記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含有する発光素子。
【化1】
(上記一般式(1)において、R2~R7は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。R1およびR8は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはシクロアルキル基を表す。ただし、R1およびR8のうち少なくとも一方は置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはシクロアルキル基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体として、2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンおよび/または2-[4-(9-フェナントレニル)-1-ナフタレニル]-1,10-フェナントロリンを含有する請求項1に記載の発光素子。
【請求項3】
前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体におけるヨウ素の含有量が60ppm以上10,000ppm以下である請求項1または請求項2に記載の発光素子。
【請求項4】
前記有機薄膜層として、n型電荷発生層、電子輸送層および/または電子注入層を有する請求項1~3のいずれかに記載の発光素子。
【請求項5】
前記有機薄膜層が、アルカリ金属原子および/または希土類金属原子を含有する請求項1~4のいずれかに記載の発光素子。
【請求項6】
前記請求項1~5のいずれかに記載の発光素子を含む表示装置。
【請求項7】
前記請求項1~5のいずれかに記載の発光素子を含む照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発光素子に関する。
【背景技術】
【0002】
フェナントロリン誘導体は、例えば、表示素子、フラットパネルディスプレイ、バックライト、照明、インテリア、標識、看板、電子写真機、光信号発生器などの発光素子材料として有用な化合物である。フェナントロリン誘導体を用いた発光素子として、例えば、正極と負極の間に発光物質が存在し、電気エネルギーにより発光する素子であって、該素子がフェナントロリン骨格を有する有機蛍光体を含むことを特徴とする発光素子(例えば、特許文献1参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001-267080号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、有機エレクトロルミネッセンス素子などの発光素子は耐久性が向上し、スマートフォンなどのモバイル用途では液晶素子にとって代わる存在の表示素子になってきており、特許文献1に記載される発光素子もその一つである。しかし、車載ディスプレイやテレビなどの長期に渡って使用する用途の表示素子では、モバイル用途よりもさらに長期の耐久性が要求されており、これらの用途に適用するには更なる駆動電圧の低減および耐久性の向上が求められる。その点は特許文献1の発明でも同様である。そのような状況下、本発明は、従来、素子材料の不純物として除去の対象にされてきたヨウ素の秘めたる特性を見出したことにより、耐久性の更なる向上を図ることを目的とした発明である。
【0005】
本発明は、これらの従来技術の課題に鑑み、駆動電圧を低減した、耐久性に優れる発光素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、陽極と陰極との間に少なくとも有機薄膜層と発光層とが存在し、電気エネルギーにより発光する発光素子であって、前記有機薄膜層が、ヨウ素を含む、下記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含有する発光素子である。
【0007】
【化1】
【0008】
上記一般式(1)において、R2~R7は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。R1およびR8は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはシクロアルキル基を表す。ただし、R1およびR8のうち少なくとも一方は置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはシクロアルキル基である。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、駆動電圧を低減した、従来よりも更に耐久性に優れる発光素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の発光素子の一例の概略断面図である。
図2】本発明の発光素子の別の一例の概略断面図である。
図3】本発明の発光素子の別の一例の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について説明する。
【0012】
本発明の発光素子は、電気エネルギーにより発光するものであり、陽極と陰極との間に少なくとも有機薄膜層と発光層とが存在する。発光層は、正孔と電子の再結合によって発生した励起エネルギーにより発光する層である。有機薄膜層とは、前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含有する発光層以外の層である。このような有機薄膜層としては、例えば、後述するn型電荷発生層、電子輸送層、電子注入層、などが挙げられる。n型電荷発生層は、電圧の印加により電子を発生または分離し、隣接する層へ電子を供給する層である。電子輸送層は、陰極やn型電荷発生層から注入された電子を発光層に輸送する層である。電子注入層は、陰極から電子輸送層への電子の注入を助ける層である。n型電荷発生層、電子輸送層や電子注入層は、それぞれ2層以上の積層構造を有してもよい。
【0013】
図1~4に、本発明の発光素子の概略断面図の例を示す。図1に示す発光素子1は、陽極2上に、有機薄膜層6、発光層5および陰極3をこの順に有する。図2に示す発光素子1は、陽極2上に、発光層5、有機薄膜層6および陰極3をこの順に有する。図3に示す発光素子1は、陽極2上に、有機薄膜層6および発光層5が交互に積層され、上層の有機薄膜層6上に陰極3を有する。すなわち、有機薄膜層6は、陽極2と発光層5との間に形成されていてもよいし(図1参照)、陰極3と発光層5との間に形成されていてもよい(図2参照)。また、発光層5が複数層形成されるタンデム構造の場合、発光層5と発光層5との間に形成されていてもよい。また、有機薄膜層6は前記陽極2と発光層5との間や陰極3と発光層5との間にも形成してもよい(図3参照)。また、有機薄膜層6は複数積層形成された層であってもよい。
【0014】
本発明の発光素子は、有機薄膜層が、ヨウ素を含む、下記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含有することを特徴とする。
【0015】
【化2】
【0016】
上記一般式(1)において、R2~R7は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルケニル基、シクロアルケニル基、アルキニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基またはシアノ基を表す。これらの中でも、水素原子が好ましく、立体障害が小さいことから、R1および/またはR8の位置の反応を効率的に進めることができる。
【0017】
R1およびR8は、同一でも異なっていてもよく、水素原子、置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはシクロアルキル基を表す。ただし、R1およびR8のうち少なくとも一方は置換もしくは無置換のアリール基、ヘテロアリール基、アルキル基またはシクロアルキル基である。R1およびR8は、置換もしくは無置換のアリール基、置換もしくは無置換のヘテロアリール基が好ましく、ガラス転移温度が高く、耐熱性を向上させることができる。また、電子移動度が大きくなることから、駆動電圧をより低減することができる。置換もしくは無置換のアリール基がより好ましく、置換もしくは無置換のフェニル基がさらに好ましい。
【0018】
上記一般式(1)において、アリール基は、芳香族炭化水素化合物から芳香環上の水素原子1個を除いた芳香族炭化水素基であり、単環または縮合環のいずれでもよい。アリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、ヘリセニル基などが挙げられる。これらの中でも、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基が好ましい。アリール基は、置換されていても無置換でもよい。置換基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、ベンゾフルオレニル基、ジベンゾフルオレニル基、フェナントリル基、フェナントロリニル基、アントラセニル基、ベンゾフェナントリル基、ベンゾアントラセニル基、クリセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基、ベンゾフルオランテニル基、ジベンゾアントラセニル基、ペリレニル基、ヘリセニル基などが挙げられる。これらの中でも、フェニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、フェナントロリニル基、アントラセニル基、ピレニル基、フルオランテニル基、トリフェニレニル基が好ましい。これらの置換基は、さらに置換されていてもよい。ここで、本発明においては、ビフェニル基、ターフェニル基など複数のフェニル基が単結合を介して結合している基は、アリール基を置換基として有するフェニル基として扱うものとする。アリール基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは6以上40以下、より好ましくは6以上30以下の範囲である。また、フェニル基においては、そのフェニル基中の隣接する2つの炭素原子上に各々置換基がある場合、それらの置換基同士で環構造を形成していてもよい。その結果としてできた基は、その構造に応じて、「置換のフェニル基」、「2つ以上の環が縮環した構造を有するアリール基」、「2つ以上の環が縮環した構造を有するヘテロアリール基」のいずれか1つ以上に該当しうる。
【0019】
ヘテロアリール基は、炭素および水素以外の原子、すなわちヘテロ原子を一個または複数個環内に有する環状芳香族基であり、単環もしくは縮合環のいずれでもよい。ヘテロ原子としては、窒素原子、酸素原子、硫黄原子が好ましい。ヘテロアリール基としては、例えば、ピリジル基、フラニル基、チエニル基、キノリニル基、イソキノリニル基、ピラジニル基、ピリミジル基、ピリダジニル基、トリアジニル基、ナフチリジニル基、シンノリニル基、フタラジニル基、キノキサリニル基、キナゾリニル基、ベンゾフラニル基、ベンゾチエニル基、インドリル基、ジベンゾフラニル基、ジベンゾチエニル基、カルバゾリル基、ベンゾカルバゾリル基、カルボリニル基、インドロカルバゾリル基、ベンゾフロカルバゾリル基、ベンゾチエノカルバゾリル基、ジヒドロインデノカルバゾリル基、ベンゾキノリニル基、アクリジニル基、ジベンゾアクリジニル基、ベンゾイミダゾリル基、イミダゾピリジル基、ベンゾオキサゾリル基、ベンゾチアゾリル基、フェナントロリニル基などが挙げられる。ヘテロアリール基は置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、後述するアルキル基などが挙げられる。ヘテロアリール基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは2以上40以下、より好ましくは2以上30以下の範囲である。
【0020】
アルキル基とは、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、後述するアルコキシ基などが挙げられる。アルキル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは1以上20以下、より好ましくは1以上8以下の範囲である。
【0021】
シクロアルキル基とは、例えば、シクロプロピル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、アダマンチル基などの飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、後述するアルコキシ基などが挙げられる。シクロアルキル基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは3以上20以下の範囲である。
【0022】
アルコキシ基とは、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基などのエーテル結合を介して脂肪族炭化水素基が結合した官能基を示し、脂肪族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基などが挙げられる。アルコキシ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは1以上20以下の範囲である。
【0023】
アリールオキシ基とは、例えば、フェノキシ基など、エーテル結合を介して芳香族炭化水素基が結合した官能基を示し、芳香族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、アリール基の置換基として例示した基が挙げられる。アリールオキシ基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0024】
アルケニル基とは、例えば、ビニル基、ブタジエニル基などの二重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基などが挙げられる。アルケニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは2以上20以下の範囲である。
【0025】
シクロアルケニル基とは、例えば、シクロペンテニル基、シクロペンタジエニル基、シクロヘキセニル基などの二重結合を含む不飽和脂環式炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基などが挙げられる。シクロアルケニル基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは、3以上20以下の範囲である。
【0026】
アルキニル基とは、例えば、エチニル基などの三重結合を含む不飽和脂肪族炭化水素基を示し、これは置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、前述のアリール基、ヘテロアリール基、アルコキシ基などが挙げられる。アルキニル基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは2以上20以下の範囲である。
【0027】
アルキルチオ基とは、アルコキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アルキルチオ基の脂肪族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、例えば、アルキル基の置換基として例示した基が挙げられる。アルキルチオ基の炭素数は特に限定されないが、好ましくは1以上20以下の範囲である。
【0028】
アリールチオ基とは、アリールオキシ基のエーテル結合の酸素原子が硫黄原子に置換されたものである。アリールチオ基における芳香族炭化水素基は置換されていても無置換でもよい。置換される場合の置換基としては、アリール基の置換基として例示した基が挙げられる。アリールチオ基の環形成炭素数は特に限定されないが、好ましくは、6以上40以下の範囲である。
【0029】
シアノ基は、構造が-C≡Nで表される官能基である。ここで他の官能基と結合するのは炭素原子である。
【0030】
上記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体としては、以下に例示したような化合物が挙げられる。
【0031】
【化3】
【0032】
【化4】
【0033】
【化5】
【0034】
【化6】
【0035】
これらの中でも、合成のし易さや原料入手が容易である点から、バソクプロイン、1,3-ビス(1,10-フェナントロリン-9-イル)ベンゼン、1,3-ビス[(1,10-フェナントロリン-2-イル)メチル]-2,4,6-トリエチルベンゼン、2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリン、2-[4-(9-フェナントレニル)-1-ナフタレニル]-1,10-フェナントロリンなどが好ましく、2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリン、2-[4-(9-フェナントレニル)-1-ナフタレニル]-1,10-フェナントロリンがより好ましい。
【0036】
本発明においては、一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体がヨウ素を含むことを特徴とする。ただし、ヨウ素を含むとは、フェナントロリン誘導体の構造の一部として含まれることではなく、有用な添加物として含まれることを意味する。フェナントロリン誘導体がヨウ素を含有することにより、元素トラップ効果や導電性向上効果により、発光素子の駆動電圧を低減し、耐久性を向上させることができる。
【0037】
ヨウ素等のハロゲン元素は、一般的に発光層に含まれるホスト材料の反応生成過程で発生する不純物と位置づけされる物質であり、ヨウ素等のハロゲン元素質量濃度はできるだけ低くするのが当業者の一般常識であり、発光輝度及び発光効率を高くし、寿命を長くするために、晶析や高速液体クロマトグラフィーなどの分離処置によりハロゲン元素は可能な限り除去されている。このような処置は、発光層以外の他の層に形成する特許文献1の発明でもなされているが、本発明ではヨウ素の上記効果に着目し、有用な添加物と見なしてフェナントロリン誘導体に含ませている。
【0038】
一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体のヨウ素含有量は、60ppm以上が好ましく、駆動電圧をより低減し、耐久性をより向上させることができる。一方、ヨウ素含有量は、10,000ppm以下が好ましく、アルカリマイグレーションなどの電極腐食を抑制し、駆動電圧をより低減し、耐久性をより向上させることができる。
【0039】
ここで、フェナントロリン誘導体のヨウ素含有量は、蛍光X線分析により測定することができる。具体的には、フェナントロリン誘導体について、プレス機により圧縮成型を行い、表面からの揮発を抑制するために、表面をポリプロピレン膜で覆い、測定試料とする。得られた測定試料について、蛍光X線分析装置により一次X線を照射し、励起状態から基底状態に戻る際に出現するヨウ素の蛍光X線強度を測定する。ヨウ素含有量既知の試料を用いて予め作成した検量線から、ヨウ素含有量を算出する。
【0040】
一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体のヨウ素含有量は、例えば、フェナントロリン誘導体の重量に応じて、適量のヨウ素化合物を添加する方法や、後述するフェナントロリン誘導体の製造方法において、酸化剤としてヨウ素を用いる方法などが挙げられる。後者の場合、酸化したフェナントロリン誘導体の粗生成物の洗浄条件を調整することにより、ヨウ素含有量を所望の範囲に容易に調整することができる。
【0041】
一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体の製造方法としては、例えば、パラジウムを用いたハロゲン化アリール誘導体とアリールボロン酸誘導体とのカップリング反応により一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を合成した後、適量のヨウ素やヨウ素化合物を添加してヨウ素含有量を調整する方法や、酸化剤としてヨウ素を用いた、細い管型の反応容器(リアクター)によるフロー式の反応方法などが挙げられる。前者の場合、ヨウ素やヨウ素化合物を溶媒に溶解した溶液を添加することが好ましい。溶媒としては、例えば、テトラヒドロフランやエタノールなどが挙げられる。ヨウ素を酸化剤として用いたフロー反応は、生産性が高く、後でヨウ素を添加する必要がないため好ましい。
【0042】
フェナントロリン誘導体の製造方法において、酸化剤としてヨウ素を用いる場合、酸化後のフェナントロリン誘導体の粗生成物を洗浄することが好ましい。洗浄には、チオ硫酸ナトリウム水溶液を用いることが好ましい。より具体的には、酸化後のフェナントロリン誘導体の粗生成物をチオ硫酸ナトリウム水溶液で洗浄し、水洗することにより、含まれるヨウ素を、還元剤であるチオ硫酸ナトリウムによって除去する。また、反応系中においてヨウ化塩(ヨウ化リチウム)が生成する場合には、水洗により、これも除去される。チオ硫酸ナトリウム水溶液の濃度や洗浄回数、水洗回数により、除去するヨウ素が変化することから、所望のヨウ素含有量にあわせてこれらの条件を選択することが好ましい。
【0043】
次いで、トルエンを添加して加熱しスラリー洗浄した後、ヨウ素やヨウ化塩(ヨウ化リチウム)の溶解性が高いエタノールを添加して、加熱してスラリー洗浄した後、晶析、昇華により精製することが好ましい。晶析には、アニソール/トルエン溶液を用いることが好ましく、昇華後は、テトラヒドロフラン/メタノール溶液を用いることが好ましい。
【0044】
例えば、酸化後のフェナントロリン誘導体の粗生成物におけるヨウ素含有量が数万ppmである場合、その溶液を0.5Mチオ硫酸ナトリウム水溶液により2回洗浄し、水洗を経た後、試料1gに対して50mlのエタノールを添加し、80℃で1時間加熱しスラリー洗浄した後に、前述の方法により晶析・昇華すると、ヨウ素含有量は1ppmから60ppm程度になる。チオ硫酸ナトリウム水溶液による洗浄を行うことなく、水洗、晶析・昇華のみを同様に行うと、ヨウ素含有量は60ppm~600ppm程度になる。晶析・昇華のみを同様に行うと、ヨウ素含有量は600ppm~1,000ppm程度になる。
【0045】
有機薄膜層は、前述のフェナントロリン誘導体に加えて、アルカリ金属原子および/または希土類金属原子を含有することが好ましい。アルカリ金属原子および/または希土類金属原子を含有することにより、ヨウ素と他の成分との反応を抑制し、ヨウ素を金属塩として安定化することができ、本発明の効果をより顕著に奏することができる。また、アルカリ金属原子および/または希土類金属原子の導電性が、電子や正孔の授受に寄与する。従って、有機薄膜層が電子や正孔の授受に関連する電荷発生層や電子輸送層、電子注入層、正孔輸送層、正孔発生層である場合は、アルカリ金属原子および/または希土類金属原子を含有することが特に好ましい。
【0046】
本発明の発光素子の構成について、より詳細に説明する。本発明の発光素子における陽極と陰極の間の層構成は、1)発光層/電子輸送層、2)正孔輸送層/発光層/電子輸送層、3)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層、4)正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、5)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層、6)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/正孔阻止層/電子輸送層/電子注入層といった積層構成が挙げられる。
【0047】
さらに、上記の積層構成を、中間層を介して複数積層したタンデム型であってもよい。中間層は、一般的に、中間電極、中間導電層、電荷発生層、電子引抜層、接続層、中間絶縁層とも呼ばれる。タンデム型の具体例は、例えば7)正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電荷発生層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層、8)正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層/電荷発生層/正孔注入層/正孔輸送層/発光層/電子輸送層/電子注入層といった、陽極2と陰極3の間に中間層として電荷発生層を含む積層構成が挙げられる。
【0048】
また、上記各層は、それぞれ単一層、複数層のいずれでもよく、ドーピングされていてもよい。特に、上記電子注入層および電荷発生層は、金属をドープした金属ドーピング層とすることが好ましく、電子輸送能力や隣接する他層への電子注入能力を向上させることができる。また、上記各層に加えて、保護層(キャップ層)をさらに有してもよく、光学干渉効果により発光効率をより向上させることができる
本発明における前述の有機薄膜層は、発光層を除く上記のいずれの層に用いられてもよいが、特に電子輸送層、電荷発生層、電子注入層に好適に用いられる。例えば、陽極と陰極との間に少なくとも電子輸送層と発光層とを有し、電子輸送層として前述の有機薄膜層を用いる構成、陽極と陰極との間に少なくとも電荷発生層と発光層とを有し、電荷発生層として前述の有機薄膜層を用いる構成、陽極と陰極との間に少なくとも電子注入層と発光層とを有し、電子注入層として前述の有機薄膜層を用いる構成などが挙げられる。これらの発光層を除く2層以上に前述の有機薄膜層を用いてもよい。
【0049】
本発明の実施の形態に係る発光素子において、陽極と陰極は素子の発光のために十分な電流を供給するための役割を有するものであり、光を取り出すために少なくとも一方は透明または半透明であることが望ましい。通常、基板上に形成される陽極2を透明電極とする。
【0050】
(基板)
発光素子の機械的強度を保つために、発光素子を基板上に形成することが好ましい。基板としては、ソーダガラスや無アルカリガラスなどのガラス基板や、プラスチック基板などが挙げられる。ガラス基板の厚みは、機械的強度を保つために十分な厚みがあればよく、0.5mm以上あれば十分である。ガラスの材質については、ガラスからの溶出イオンが少ないことが好ましく、無アルカリガラスが好ましい。また、SiOなどのバリアコートを施したソーダライムガラスも市販されており、これを使用することもできる。
【0051】
(陽極)
陽極に用いる材料は、正孔を発光層に効率よく注入できることが好ましい。また、光を取り出すために、透明または半透明であることが好ましい。陽極に用いる材料としては、例えば、酸化亜鉛、酸化錫、酸化インジウム、酸化錫インジウム(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)などの導電性金属酸化物や、金、銀、クロムなどの金属、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリンなどの導電性ポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、ITOガラスやネサガラスが好ましい。これらの電極材料は、単独で用いてもよいし、複数の材料を積層または混合して用いてもよい。透明電極の抵抗は、素子の発光に十分な電流が供給できればよいが、素子の消費電力の観点からは、低抵抗であることが好ましい。例えば、300Ω/□以下のITO基板であれば素子電極として機能するが、現在では10Ω/□程度の基板の供給も可能になっていることから、20Ω/□以下の低抵抗の基板を使用することが好ましい。ITOの厚みは抵抗値に合わせて任意に選ぶ事ができ、通常45~300nmの間で用いられることが多い。
【0052】
(陰極)
陰極に用いる材料は、電子を効率よく発光層に注入できる物質であれば特に限定されない。陰極に用いる材料としては、例えば、白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウム、インジウムなどの金属、またはこれらの金属とリチウム、ナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムなどの低仕事関数金属との合金や多層積層などが挙げられる。中でも、電気抵抗値や製膜しやすさ、膜の安定性、発光効率などの面から、主成分としてはアルミニウム、銀、マグネシウムが好ましく、電子輸送層および電子注入層への電子注入が容易であることから、アルミニウムで構成されることがより好ましい。
【0053】
(保護層)
陰極の保護のために、陰極上に保護層(キャップ層)を積層することが好ましい。保護層を構成する材料(キャッピング材料)としては、特に限定されないが、例えば、白金、金、銀、銅、鉄、錫、アルミニウムおよびインジウムなどの金属、これら金属を用いた合金、シリカ、チタニアおよび窒化ケイ素などの無機物、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、炭化水素系高分子化合物などの有機高分子化合物などが挙げられる。ただし、発光素子が、陰極側から光を取り出す素子構造(トップエミッション構造)である場合は、キャッピング材料は、可視光領域において光透過性を有することが好ましい。
【0054】
(正孔注入層)
正孔注入層は、陽極と正孔輸送層の間に挿入される層である。正孔注入層は1層であっても複数の層が積層されていてもどちらでもよい。正孔輸送層と陽極の間に正孔注入層が存在すると、より低電圧駆動し、耐久性も向上するだけでなく、さらに素子のキャリアバランスが向上して発光効率も向上するため好ましい。
【0055】
正孔注入層に用いられる材料は特に限定されないが、陽極から正孔輸送層へ円滑に正孔を注入輸送する観点から、ヨウ素が含有された一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体、4,4’-ビス(N-(3-メチルフェニル)-N-フェニルアミノ)ビフェニル(TPD)、4,4’-ビス(N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ)ビフェニル(NPD)、4,4’-ビス(N,N-ビス(4-ビフェニリル)アミノ)ビフェニル(TBDB),ビス(N,N’-ジフェニル-4-アミノフェニル)-N,N-ジフェニル-4,4’-ジアミノ-1,1’-ビフェニル(TPD232)などのベンジジン誘導体や、4,4’,4”-トリス(3-メチルフェニル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(m-MTDATA)、4,4’,4”-トリス(1-ナフチル(フェニル)アミノ)トリフェニルアミン(1-TNATA)などのスターバーストアリールアミン系材料が好ましい。
【0056】
これらの材料は単独で用いてもよいし、2種以上の材料を混合して用いてもよい。また、複数の材料を積層して正孔注入層としてもよい。さらにこの正孔注入層が、アクセプター性化合物単独で構成されているか、または上記のような正孔注入材料にアクセプター性化合物をドープして用いると、上述した効果がより顕著に得られるのでより好ましい。アクセプター性化合物とは、単層膜として用いる場合は接している正孔輸送層と、ドープして用いる場合は正孔注入層を構成する材料と電荷移動錯体を形成する材料である。このような材料を用いると、正孔注入層の導電性が向上し、より発光素子の駆動電圧低下に寄与し、発光効率や耐久性をより向上させることができる。
【0057】
アクセプター性化合物としては、例えば、塩化鉄(III)、塩化アルミニウム、塩化ガリウム、塩化インジウム、塩化アンチモンなどの金属塩化物、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化タングステン、酸化ルテニウムなどの金属酸化物、トリス(4-ブロモフェニル)アミニウムヘキサクロロアンチモネート(TBPAH)などの電荷移動錯体、分子内にニトロ基、シアノ基、ハロゲンまたはトリフルオロメチル基を有する有機化合物、キノン系化合物、酸無水物系化合物、フラーレンなどが挙げられる。これらの中でも、金属酸化物やシアノ基含有化合物が取り扱いやすく、蒸着もしやすいことから、容易に上述した効果が得られるので好ましい。正孔注入層がアクセプター性化合物単独で構成される場合、または正孔注入層にアクセプター性化合物がドープされている場合のいずれの場合も、正孔注入層は1層であってもよいし、複数の層が積層されて構成されていてもよい。
【0058】
(正孔輸送層)
正孔輸送層は、陽極から注入された正孔を発光層まで輸送する層である。正孔輸送層は単層であっても複数の層が積層されて構成されていてもどちらでもよい。
【0059】
正孔輸送層に用いられる材料としては、正孔注入層に用いられる材料として例示したものが挙げられる。発光層へ円滑に正孔を注入輸送する観点から、トリアリールアミン誘導体、ベンジジン誘導体がより好ましい。
【0060】
(発光層)
発光層は、単一層、複数層のどちらでもよく、それぞれ発光材料(ホスト材料、ドーパント材料)により形成され、これはホスト材料とドーパント材料との混合物であっても、ホスト材料単独であっても、2種類のホスト材料と1種類のドーパント材料との混合物であっても、いずれでもよい。すなわち、本発明の実施の形態における発光素子1は、各発光層5において、ホスト材料もしくはドーパント材料のみが発光してもよいし、ホスト材料とドーパント材料がともに発光してもよい。電気エネルギーを効率よく利用し、高色純度の発光を得るという観点からは、発光層はホスト材料とドーパント材料の混合からなることが好ましい。また、ホスト材料とドーパント材料は、それぞれ一種類であっても、複数の組み合わせであっても、いずれでもよい。ドーパント材料はホスト材料の全体に含まれていても、部分的に含まれていても、いずれでもよい。ドーパント材料は積層されていても、分散されていても、いずれでもよい。ドーパント材料は発光色の制御ができる。ドーパント材料の量は、濃度消光現象を抑制する観点から、ホスト材料に対して30重量%以下が好ましく、さらに好ましくは20重量%以下である。ドーピング方法は、ホスト材料との共蒸着法によって形成することができるが、ホスト材料と予め混合してから同時に蒸着してもよい。
【0061】
発光材料としては、発光体として知られているアントラセンやピレンなどの縮合環誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウムなどの金属キレート化オキシノイド化合物、ビススチリルアントラセン誘導体やジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体や、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリチオフェン誘導体などのポリマーなどが挙げられる。
【0062】
発光材料に含有されるホスト材料は、化合物一種のみに限る必要はなく、複数の化合物を混合して用いてもよい。また、積層して用いてもよい。ホスト材料としては、特に限定されないが、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、クリセン、ナフタセン、トリフェニレン、ペリレン、フルオランテン、フルオレン、インデンなどの縮合アリール環を有する化合物やその誘導体、N,N’-ジナフチル-N,N’-ジフェニル-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミンなどの芳香族アミン誘導体、トリス(8-キノリナート)アルミニウム(III)などの金属キレート化オキシノイド化合物、ジスチリルベンゼン誘導体などのビススチリル誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、インデン誘導体、クマリン誘導体、オキサジアゾール誘導体、ピロロピリジン誘導体、ペリノン誘導体、シクロペンタジエン誘導体、ピロロピロール誘導体、チアジアゾロピリジン誘導体、ジベンゾフラン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、トリアジン誘導体や、ポリフェニレンビニレン誘導体、ポリパラフェニレン誘導体、ポリフルオレン誘導体、ポリビニルカルバゾール誘導体、ポリチオフェン誘導体などのポリマーなどが挙げられる。中でも、発光層が三重項発光(りん光発光)を行う際に用いられるホストとしては、金属キレート化オキシノイド化合物、ジベンゾフラン誘導体、ジベンゾチオフェン誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、トリアジン誘導体、トリフェニレン誘導体などが好適に用いられる。
【0063】
発光材料に含有されるドーパント材料としては、例えば、ナフタレン、アントラセン、フェナンスレン、ピレン、フルオランテン、トリフェニレン、ペリレン、フルオレン、インデンなどのアリール環を有する化合物やその誘導体(例えば2-(ベンゾチアゾール-2-イル)-9,10-ジフェニルアントラセンや5,6,11,12-テトラフェニルナフタセンなど)、フラン、ピロール、チオフェン、シロール、9-シラフルオレン、9,9’-スピロビシラフルオレン、ベンゾチオフェン、ベンゾフラン、インドール、ジベンゾチオフェン、ジベンゾフラン、イミダゾピリジン、フェナントロリン、ピラジン、ナフチリジン、キノキサリン、ピロロピリジン、チオキサンテンなどのヘテロアリール環を有する化合物やその誘導体、ジスチリルベンゼン誘導体、4,4’-ビス(2-(4-ジフェニルアミノフェニル)エテニル)ビフェニル、4,4’-ビス(N-(スチルベン-4-イル)-N-フェニルアミノ)スチルベンなどのアミノスチリル誘導体、芳香族アセチレン誘導体、テトラフェニルブタジエン誘導体、スチルベン誘導体、アルダジン誘導体、ピロメテン誘導体、ジケトピロロ[3,4-c]ピロール誘導体、2,3,5,6-1H,4H-テトラヒドロ-9-(2’-ベンゾチアゾリル)キノリジノ[9,9a,1-gh]クマリンなどのクマリン誘導体、イミダゾール、チアゾール、チアジアゾール、カルバゾール、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾールなどのアゾール誘導体、その金属錯体、N,N’-ジフェニル-N,N’-ジ(3-メチルフェニル)-4,4’-ジフェニル-1,1’-ジアミンなどの芳香族アミン誘導体などが挙げられる。これらの中でも、ジアミン骨格を含むドーパントや、フルオランテン骨格を含むドーパントは、発光効率をより向上させることができる。
【0064】
発光層は三重項発光材料を含有することも好ましい。発光層5が三重項発光(りん光発光)を行う際に用いられるドーパントとしては、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、オスミウム(Os)、及びレニウム(Re)からなる群から選択される少なくとも一つの金属を含む金属錯体化合物が好ましい。配位子は、フェニルピリジン骨格またはフェニルキノリン骨格またはカルベン骨格などの含窒素芳香族複素環を有することが好ましい。しかしながら、これらに限定されるものではなく、要求される発光色、素子性能、ホスト化合物との関係から適切な錯体が選ばれる。
【0065】
また、発光層は熱活性化遅延蛍光材料を含有することも好ましい。熱活性化遅延蛍光材料は、一般的に、TADF材料とも呼ばれる。熱活性化遅延蛍光材料は、単一の材料で熱活性化遅延蛍光を示す材料であってもよいし、複数の材料で熱活性化遅延蛍光を示す材料であってもよい。材料が複数からなる場合は、混合物として用いてもよいし、各材料からなる層を積層して用いてもよい。熱活性化遅延蛍光材料としては、公知の材料を用いることができる。例えば、ベンゾニトリル誘導体、トリアジン誘導体、ジスルホキシド誘導体、カルバゾール誘導体、インドロカルバゾール誘導体、ジヒドロフェナジン誘導体、チアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0066】
TADF材料が発光層に含まれる発光素子には、さらに発光層に蛍光ドーパントが含まれていることが好ましい。TADF材料により三重項励起子が一重項励起子に変換され、その一重項励起子を蛍光ドーパントが受け取ることにより、より高い発光効率やより長い耐久性を達成できるためである。
【0067】
(電子輸送層)
本発明において、電子輸送層とは、陰極から電子が注入され、さらに電子を輸送する層である。電子輸送層には、電子注入効率が高く、注入された電子を効率良く輸送することが望まれる。そのため、電子輸送層を構成する材料は、電子親和力が大きく、電子移動度が大きく、安定性に優れ、製造時および使用時に、トラップとなる不純物が発生しにくい物質であることが好ましい。特に厚みを厚く積層する場合には、低分子量の化合物は結晶化するなどして膜質が劣化しやすいため、安定な膜質を保つため、分子量400以上の化合物が好ましい。しかしながら、正孔と電子の輸送バランスを考えた場合に、電子輸送層が陽極からの正孔が再結合せずに陰極側へ流れることを効率よく阻止できる役割を主に果たすならば、電子輸送能力がそれ程高くない材料で構成されていても、発光効率を向上させる効果は電子輸送能力が高い材料で構成されている場合と同等となる。したがって、本発明における電子輸送層には、正孔の移動を効率よく阻止できる正孔阻止層も同義のものとして含まれ、正孔阻止層および電子輸送層は単独でも複数の材料が積層されて構成されていてもよい。
【0068】
電子輸送層に用いられる電子輸送材料としては、例えば、ナフタレン、アントラセンなどの縮合多環芳香族誘導体、4,4’-ビス(ジフェニルエテニル)ビフェニルなどのスチリル系芳香環誘導体、アントラキノンやジフェノキノンなどのキノン誘導体、リンオキサイド誘導体、トリス(8-キノリノラート)アルミニウム(III)などのキノリノール錯体、ベンゾキノリノール錯体、ヒドロキシアゾール錯体、アゾメチン錯体、トロポロン金属錯体およびフラボノール金属錯体などの各種金属錯体が挙げられる。駆動電圧をより低減し、より高効率の発光が得られることから、炭素、水素、窒素、酸素、ケイ素、リンの中から選ばれる元素で構成され、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環構造を有する化合物を用いることが好ましい。
【0069】
上記電子輸送材料は単独で用いてよいし、上記電子輸送材料の2種以上を混合して用いたり、その他の電子輸送材料の一種以上を上記の電子輸送材料に混合して用いたりしても構わない。また、ドナー性化合物を含有してもよい。ここで、ドナー性化合物とは、電子注入障壁の改善により、陰極3または電子注入層からの電子輸送層への電子注入を容易にし、さらに電子輸送層の電気伝導性を向上させる化合物である。
【0070】
ドナー性化合物の好ましい例としては、アルカリ金属、アルカリ金属を含有する無機塩、アルカリ金属と有機物との錯体、アルカリ土類金属、アルカリ土類金属を含有する無機塩またはアルカリ土類金属と有機物との錯体、希土類金属などが挙げられる。アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属の好ましい例としては、低仕事関数で電子輸送能向上の効果が大きいリチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウムなどのアルカリ金属や、マグネシウム、カルシウム、セリウム、バリウムなどのアルカリ土類金属や、サマリウム、ユーロピウム、イッテルビウムなどの希土類金属が挙げられる。またこれら金属を複数用いてもよく、これらの金属からなる合金を用いてもよい。
【0071】
また、真空中での蒸着が容易で取り扱いに優れることから、金属単体よりも無機塩、あるいは有機物との錯体の状態であることが好ましい。さらに、大気中における取扱を容易にし、添加濃度を調整しやすくできる点で、有機物との錯体の状態にあることがより好ましい。無機塩の例としては、LiO、LiO等の酸化物、窒化物、LiF、NaF、KF等のフッ化物、LiCO、NaCO、KCO、RbCO、CsCO等の炭酸塩などが挙げられる。また、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の好ましい例としては、駆動電圧をより低減することができるという観点では、リチウム、セシウムが挙げられる。また、有機物との錯体における有機物の好ましい例としては、キノリノール、ベンゾキノリノール、ピリジルフェノール、フラボノール、ヒドロキシイミダゾピリジン、ヒドロキシベンズアゾール、ヒドロキシトリアゾールなどが挙げられる。中でも、発光素子の駆動電圧をより低減することができる観点では、アルカリ金属と有機物との錯体が好ましい。さらに、合成のしやすさ、熱安定性という観点から、リチウムと有機物との錯体がより好ましく、比較的安価で入手できるリチウムキノリノール(Liq)が特に好ましい。
【0072】
前述の有機薄膜層を電子輸送層として用いることが好ましい。この場合、前述のフェナントロリン誘導体とともに、アルカリ金属および/または希土類金属を含有することが好ましい。
【0073】
電子輸送層のイオン化ポテンシャルは、特に限定されないが、好ましくは5.6eV以上8.0eV以下であり、より好ましくは5.6eV以上7.0eV以下である。
【0074】
発光素子を構成する上記各層の形成方法は、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、スパッタリング、分子積層法、コーティング法など特に限定されないが、通常は、素子特性の点から抵抗加熱蒸着または電子ビーム蒸着が好ましい。
【0075】
(電子注入層)
本発明において、陰極と電子輸送層の間に電子注入層を設けてもよい。一般的に電子注入層は陰極から電子輸送層への電子の注入を助ける目的で挿入されるが、挿入する場合は、電子受容性窒素を含むヘテロアリール環構造を有する化合物を用いてもよいし、上記のドナー性材料を含有する層を用いてもよい。
【0076】
また、電子注入層に絶縁体や半導体の無機物を用いることもできる。これらの材料を用いることにより、発光素子の短絡を抑制して、かつ電子注入性を向上させることができる。
【0077】
このような絶縁体としては、アルカリ金属カルコゲナイド、アルカリ土類金属カルコゲナイド、アルカリ金属のハロゲン化物およびアルカリ土類金属のハロゲン化物からなる群から選択される少なくとも一つの金属化合物が好ましい。
【0078】
具体的に、好ましいアルカリ金属カルコゲナイドとしては、例えば、LiO、NaSおよびNaSeが挙げられる。また、好ましいアルカリ土類金属カルコゲナイドとしては、例えば、CaO、BaO、SrO、BeO、BaSおよびCaSeが挙げられる。また、好ましいアルカリ金属のハロゲン化物としては、例えば、LiF、NaF、KF、LiCl、KClおよびNaCl等が挙げられる。また、好ましいアルカリ土類金属のハロゲン化物としては、例えば、CaF、BaF、SrF、MgFおよびBeF等のフッ化物や、フッ化物以外のハロゲン化物が挙げられる。
【0079】
さらに、有機物と金属の錯体も好適に用いられる。電子注入層に有機物と金属の錯体を用いる場合、厚みを容易に調整することができる。有機金属錯体における有機物の好ましい例としては、キノリノール、ベンゾキノリノール、ピリジルフェノール、フラボノール、ヒドロキシイミダゾピリジン、ヒドロキシベンズアゾール、ヒドロキシトリアゾールなどが挙げられる。
【0080】
前述の有機薄膜層を電子輸送層として用いることが好ましい。この場合、前述のフェナントロリン誘導体とともに、アルカリ金属および/または希土類金属を含有してもよく、駆動電圧をより低減し、耐久性をより向上させることができる。
【0081】
(電荷発生層)
本発明における電荷発生層は、一般に二重層からなり、具体的には、n型電荷発生層およびp型電荷発生層からなるpn接合型電荷発生層として用いることができる。上記pn接合型電荷発生層は、発光素子中で電圧が印加されることにより、電荷を発生、または電荷を正孔および電子に分離し、これらの正孔および電子を正孔輸送層および電子輸送層を経由して発光層に注入する。具体的には、発光層が積層された発光素子において中間層の電荷発生層として機能する。n型電荷発生層は陽極側に存在する発光層に電子を供給し、p型電荷発生層は陰極側に存在する発光層に正孔を供給する。そのため、複数の発光層を積層した発光素子における発光効率をより向上させ、駆動電圧をより低減することができ、素子の耐久性もより向上させることができる。
【0082】
上記n型電荷発生層は、n型ドーパントおよびホストからなり、これらは従来の材料を用いることができる。例えば、n型ドーパントとして、アルカリ金属、アルカリ土類金属、または希土類金属を用いることができる。また、ホストとして、フェナントロリン誘導体およびオリゴピリジン誘導体などの含窒素芳香族複素環を有する化合物を用いることができる。特に、前述の有機薄膜層をn型電荷発生層として用いることが好ましく、一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体は、n型電荷発生層のホストとして優れた性質を示す。この場合、前述のフェナントロリン誘導体とともに、アルカリ金属および/または希土類金属を含有することが好ましい。
【0083】
上記p型電荷発生層は、p型ドーパントおよびホストからなり、これらは従来の材料を用いることができる。例えば、p型ドーパントとして、テトラフルオレ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン(F4-TCNQ)、テトラシアノキノジメタン誘導体、ラジアレン誘導体、ヨウ素、FeCl、FeF、SbClなどを用いることができる。p型ドーパントとして好ましくは、ラジアレン誘導体である。ホストとして好ましくはアリールアミン誘導体である。
【0084】
有機薄膜層の厚みは、発光物質の抵抗値にもよるので限定することはできないが、1~1000nmであることが好ましい。発光層の厚みは、好ましくは1nm以上200nm以下であり、さらに好ましくは5nm以上100nm以下である。
【0085】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、電気エネルギーを光に変換できる機能を有する。ここで電気エネルギーとしては主に直流電流が使用されるが、パルス電流や交流電流を用いることも可能である。電流値および電圧値は特に制限はないが、素子の消費電力や寿命を考慮すると、できるだけ低いエネルギーで最大の輝度が得られるよう選ばれるべきである。
【0086】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、例えば、マトリクスおよび/またはセグメント方式で表示するディスプレイ等の表示装置として好適に用いられる。
【0087】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、各種機器等のバックライトとしても好ましく用いられる。バックライトは、主に自発光しないディスプレイ等の表示装置の視認性を向上させる目的に使用され、液晶ディスプレイ、時計、オーディオ装置、自動車パネル、表示板および標識などに使用される。特に、液晶ディスプレイ、中でも薄型化が検討されているパソコン用途のバックライトに本発明の発光素子は好ましく用いられ、従来のものより薄型で軽量なバックライトを提供できる。
【0088】
本発明の実施の形態に係る発光素子は、各種照明装置としても好ましく用いられる。本発明の実施の形態に係る発光素子は、高い発光効率と高色純度との両立が可能であり、さらに、薄型化や軽量化が可能であることから、低消費電力と鮮やかな発光色、高いデザイン性を合わせ持った照明装置が実現できる。
【実施例0089】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0090】
合成例1:バッチ法による2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンの合成
1,10-フェナントロリン9.64gとトルエン250mlを、窒素ガスで置換した100ml四つ口フラスコに入れた。フラスコ内温を0~5℃に保ちながら溶液を撹拌し、フェニルリチウム(1.6Mのジブチルエーテル溶液)100mlを加えて、さらに1.5時間撹拌し、反応させた。次いで、フラスコ内温を0~5℃に保ちながら反応溶液を撹拌し、HOを150ml加えてクエンチを行った。次いで、クエンチ溶液に、ジクロロメタン200mlを加えて、反応物を抽出した。この抽出物の溶液に、二酸化マンガン93gを分散したジクロロメタン溶液200mlを、フラスコ内温を30℃以下に保ちながら加えた後、室温で1時間撹拌して酸化した。次いで、得られた酸化物の溶液を、桐山ロート(濾紙目:4μm)を使用して濾過し、その濾液を、エバポレーターを使用してバス温度40℃で濃縮乾固して、2-フェニル-1,10-フェナントロリンを9.44g得た。
【0091】
1,3-ジブロモベンゼン0.24mlとn-ヘキサン6.9mlを、窒素ガスで置換した200ml四つ口フラスコに入れて、室温で撹拌した。この溶液を撹拌しながら、n-ブチルリチウム(1.52Mヘキサン溶液)3.3mlを加えてさらに撹拌した。この混合液を、オイルバスを使用して外温70℃で加熱し、還流下1時間撹拌した後、氷浴で0~5℃に冷却した。別に用意した、窒素ガスで置換した100ml四つ口フラスコに、2-フェニル-1,10-フェナントロリン1.02gとTHF20mlを入れて撹拌混合し、得られた溶液を氷浴で0~5℃に冷却した。この溶液を、1,3-ジリチオベンゼン溶液に、フラスコ内温を0~5℃に保ちながら滴下し、2時間撹拌した後、フラスコ内温を0~5℃に保ちながら水20mlを加えてクエンチを行った。次いで、クエンチ溶液にジクロロメタンを50ml加えて、反応物を抽出した。この抽出物の溶液に、二酸化マンガン7.0gを分散したジクロロメタン溶液50mlを、フラスコ内温を30℃以下に保ちながら加えた後、15分間撹拌して酸化した。次いで、得られた酸化物の溶液を、桐山ロート(濾紙目:4μm)を使用して濾過し、その濾液を、エバポレーターを使用してバス温度40℃で濃縮乾固して、前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体である、2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンの粗生成物を0.65g得た。
【0092】
得られた粗生成物を、トルエンで加熱スラリー洗浄し、次いでアニソール/トルエン溶液で再結晶化し、テトラヒドロフラン/メタノール溶液で加熱スラリー洗浄した。その結晶を、油拡散ポンプを用いて、1.0×10-3Pa以下の圧力下、320℃で昇華精製を行い、前記一般式(1)で表されるフェナントロリン誘導体である、2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンを3.8g得た。
【0093】
合成例2:バッチ法によるヨウ素含有2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンの合成
合成例1と同様にして得られた2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンに、エタノールに溶解した0.2Mヨウ素溶液を適宜加えて、ヨウ素含有量が1ppm、60ppm、10,000ppm、100,000ppmになるよう調製した。
【0094】
合成例3:フロー法によるヨウ素含有2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンの合成
2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンを下記の(工程1A)~(工程5A)のフロー式反応により合成した。
シリンジポンプ:YMC(株)製型式YSP-301高性能高圧タイプ
温度:10~30℃
ミキサー間の流路径(内径):1mm
ミキサー間の流路材質:“テフロン”(登録商標)
ミキサー形状:T字
ミキサー材質:“テフロン”(登録商標)
ミキサー流路径:1mm。
【0095】
(工程1A)
サーバーAから0.2Mの1,3-ジブロモベンゼン/テトラヒドロフラン溶液を流速5.0ml/分で流路に流し、サーバーBから0.2Mのn-ブチルリチウム/n-ヘキサン溶液を流速4.6ml/分で流路に流し、第一T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は9.6ml/分であった。
【0096】
(工程2A)
第一T字ミキサー部から2秒後に、サーバーCから0.2Mの2-フェニル-1,10-フェナントロリン/テトラヒドロフラン溶液を流速4.2ml/分で流路に流し、第二T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は13.8ml/分であった。
【0097】
(工程3A)
第二T字ミキサー部から4秒後に、サーバーDから0.2Mのn-ブチルリチウム/n-ヘキサン溶液を流速4.6ml/分で流路に流し、第三T字ミキサー部で反応させた。
反応物の流速は18.4ml/分であった。
【0098】
(工程4A)
第三T字ミキサー部から2秒後に、サーバーEから0.2Mの2-フェニル-1,10-フェナントロリン/テトラヒドロフラン溶液を流速4.2ml/分で流路に流し、第四T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は22.6ml/分であった。
【0099】
(工程5A)
第四T字ミキサー部から2秒後に、サーバーFから0.2Mのヨウ素/テトラヒドロフラン溶液を流速4.2ml/分で流路に流し、第五T字ミキサー部で反応させた。反応物の流速は26.8ml/分であった。第五T字ミキサー部から10秒後に反応物をフラスコにより採取した。ただし、反応物の採取は、ポンプが稼働してから1分経過してから行った。
【0100】
次いで、得られた反応物の懸濁溶液を、桐山ロート(濾紙目:4μm)を使用して濾過し、濾物を80℃で乾燥して、2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンの粗生成物を5.1g得た。
【0101】
続いて、(工程6A)を以下の方法(バッチ式)により行った。
【0102】
(工程6A)
(工程5A)により得られた2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンの粗生成物を、トルエンで加熱スラリー洗浄し、次いでアニソール/トルエン溶液で再結晶化し、テトラヒドロフラン/メタノール溶液で加熱スラリー洗浄した。その結晶を、油拡散ポンプを用いて、1.0×10-3Pa以下の圧力下、320℃で昇華精製を行い、2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンを3.9g得た。後述の方法によりヨウ素含有量を測定したところ、850ppmであった。
【0103】
合成例1~3により得られた2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリンの構造を以下に示す。
【0104】
【化7】
【0105】
次に、各実施例における評価方法について説明する。
【0106】
(ヨウ素含有量)
合成例3において得られたフェナントロリン誘導体を、プレス機により圧縮成型し、表面からの揮発を抑制するために、表面をポリプロピレン膜で覆い、測定試料とした。得られた測定試料について、蛍光X線分析装置により一次X線を照射し、励起状態から基底状態に戻る際に出現するヨウ素の蛍光X線強度を測定した。ヨウ素含有量既知の試料を用いて予め作成した検量線から、ヨウ素含有量を算出した。
【0107】
以下の評価は、早期に結果が出るよう、実際の使用条件よりもかなり過酷な条件の直流駆動電流や駆動電圧を負荷した促進試験による評価である。
【0108】
(駆動電圧)
実施例1~13および比較例1~2において得られた素子を、それぞれ10mA/cmで直流駆動し、初期駆動電圧を測定した。
【0109】
また、実施例14~26および比較例3~4において得られた発光素子を、それぞれ輝度1000cd/mで点灯させ、初期駆動電圧を測定した。
【0110】
また、実施例27~39および比較例5~6において得られた発光素子を、それぞれ10mA/cmの電流密度で駆動させ、初期駆動電圧を測定した。
【0111】
(耐久性)
(1)実施例1~13および比較例1~2において得られた素子を、温度70℃の環境下、電流密度10mA/cmで100時間直流駆動したときの電圧を測定し、初期駆動電圧からの電圧上昇量を算出した。電圧上昇量が小さいほど、耐久性に優れる。
【0112】
また、実施例14~26および比較例3~4において得られた発光素子を、温度70℃の環境下、電流密度10mA/cmで100時間定電流駆動したときの電圧を測定し、初期駆動電圧からの電圧上昇量を算出した。電圧上昇量が小さいほど、耐久性に優れる。
【0113】
(2)実施例14~39および比較例4~6において得られた発光素子を、10mA/cmで点灯させ、初期輝度を測定した。さらに、10mA/cmの定電流で継続駆動させ、初期輝度から輝度が20%低下する時間(以下、「輝度低下時間」と略記する場合がある)を測定した。
【0114】
実施例1
陽極としてITO透明導電膜を100nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、10Ω/□、スパッタ品)を、75mm×75mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を、“セミコクリーン”(登録商標)56(商品名、フルウチ化学(株)製)を用いて15分間超音波浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず、発光層として、下記構造式で表されるホスト材料TR-ホストA、下記構造式で表されるドーパント材料TR-ドーパントBの混合層を、ドープ濃度が3重量%になるようにして20nmの厚さに蒸着した。次いで、電子輸送層として合成例3により得られた2-フェニル-9-[3-(9-フェニル-1,10-フェナントロリン-2-イル)フェニル]-1,10-フェナントロリン(以下、「化合物1」と略記する場合がある)と、ドーパントである金属元素Liとを、蒸着速度比が化合物1:Li=99:1となるように100nm蒸着し、重量比が99:1の層を形成した。次いで陰極として、アルミニウムを100nmの厚さに蒸着して、25mm×25mm角の発光素子を作製した。ここで言う厚みは、水晶発振式厚みモニター表示値であり、他の実施例、比較例においても共通する。
【0115】
【化8】
【0116】
この発光素子について、前述の方法により評価したところ、初期駆動電圧は0.029V、70℃で100時間駆動したときの電圧上昇量は0.001Vであった。
【0117】
実施例2~7、比較例1
化合物1として、表1に記載のヨウ素含有量の化合物1を用い、化合物1と金属元素Liの蒸着速度比を表1のとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして発光素子を作製した。ここで、化合物1として、実施例2~7は合成例2により得られた化合物1を用い、比較例1は合成例1により得られた化合物1を用いた。
【0118】
実施例8~13、比較例2
化合物1にかえて、表1に記載のヨウ素含有量の、下記構造式で表される化合物2を用い、化合物2と金属元素Liの蒸着速度比を表1のとおりとしたこと以外は実施例1と同様にして発光素子を作製した。
【0119】
【化9】
【0120】
【表1】
【0121】
実施例14
陽極としてITO透明導電膜を100nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、10Ω/□、スパッタ品)を、75mm×75mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を、“セミコクリーン”(登録商標)56(商品名、フルウチ化学(株)製)を用いて15分間超音波浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず、正孔注入層として、TR-HILを5nm蒸着し、次いで正孔輸送層として、TR-HTL-Aを105nmおよびTR-HTL-Bを10nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料TR-ホストA、ドーパント材料TR-ドーパントBの混合層を、ドープ濃度が3重量%になるようにして20nmの厚さに蒸着した。次に、TR-ETL-Aを20nmの厚さに蒸着した。次に、電子注入層として、合成例3により得られた化合物1と、ドーパントである金属元素Liとを、蒸着速度比が化合物1:Li=99:1となるように10nm蒸着した。その後、アルミニウムを100nm蒸着して陰極とし、25mm×25mm角の発光素子を作製した。TR-HIL、TR-HTL-A、TR-HTL-B、TR-ETL-Aの構造を以下に示す。
【0122】
【化10】
【0123】
この発光素子について、前述の方法により評価したところ、初期駆動電圧は4.01V、輝度低下時間は1040時間、電圧上昇量は0.003Vであった。
【0124】
実施例15~20、比較例3
化合物1として、表2に記載のヨウ素含有量の化合物1を用い、化合物1と金属元素Liの蒸着速度比を表2のとおりとしたこと以外は実施例14と同様にして発光素子を作製した。ここで、化合物1として、実施例15~20は合成例2により得られた化合物1を用い、比較例3は合成例1により得られた化合物1を用いた。
【0125】
実施例21~26、比較例4
化合物1にかえて、表2に記載のヨウ素含有量の化合物2を用い、化合物2と金属元素Liの蒸着速度比を表2のとおりとしたこと以外は実施例14と同様にして発光素子を作製した。
【0126】
各実施例および比較例の結果を表2に示す。
【0127】
【表2】
【0128】
実施例27
陽極としてITO透明導電膜を165nm堆積させたガラス基板(ジオマテック(株)製、11Ω/□、スパッタ品)を、75mm×75mmに切断し、エッチングを行った。得られた基板を、“セミコクリーン”(登録商標)56(商品名、フルウチ化学(株)製)を用いて15分間超音波浄してから、超純水で洗浄した。この基板を、素子を作製する直前に1時間UV-オゾン処理し、真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度が5×10-4Pa以下になるまで排気した。抵抗加熱法によって、まず、正孔注入層として、TR-HILを10nm蒸着した。次いで、正孔注入層上に正孔輸送層、発光層および電子輸送層からなる、発光ユニット(第一の発光ユニット)を形成した。
【0129】
具体的には、正孔輸送層として、TR-HTL-Aを105nmおよびTR-HTL-Bを10nm蒸着した。次に、発光層として、ホスト材料TR-ホストA、前述のドーパント材料TR-ドーパントBの混合層を、ドープ濃度が3重量%になるようにして20nmの厚さに蒸着した。次に、電子輸送層として、TR-ETL-Aを20nmの厚さに蒸着した。
【0130】
第一の発光ユニット上に、N型電荷発生層として、合成例3により得られた化合物1と、ドーパントである金属元素Liとを、蒸着速度比が化合物1:Li=99:1となるように12nm蒸着し、次に、P型電荷発生層としてTR-HILを10nm蒸着した。
【0131】
電荷発生層に続いて、第一の発光ユニットと同様に第二の発光ユニットを形成した。その後、電子注入層として、合成例3により得られた化合物1と、ドーパントである金属元素Liとを、蒸着速度比が化合物1:Li=99:1で10nm蒸着し、続いてアルミニウムを100nm蒸着して陰極とし、25mm×25mm角の発光素子を作製した。
【0132】
この発光素子について、前述の方法により評価したところ、初期駆動電圧は8.12V、輝度低下時間は2670時間であった。
【0133】
実施例28~33、比較例5
化合物1として、表3に記載のヨウ素含有量の化合物1を用い、化合物1と金属元素Liの蒸着速度比を表3のとおりとしたこと以外は実施例27と同様にして発光素子を作製した。ここで、化合物1として、実施例28~33は合成例2により得られた化合物1を用い、比較例5は合成例1により得られた化合物1を用いた。
【0134】
実施例34~39、比較例6
化合物1にかえて、表3に記載のヨウ素含有量の化合物2を用い、化合物2と金属元素Liの蒸着速度比を表3のとおりとしたこと以外は実施例27と同様にして発光素子を作製した。
【0135】
各実施例および比較例の結果を表3に示す。
【0136】
【表3】
【符号の説明】
【0137】
1 発光素子
2 陽極
3 陰極
5 発光層
6 有機薄膜層
図1
図2
図3