(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139431
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】締結ボルト
(51)【国際特許分類】
F16B 35/00 20060101AFI20230927BHJP
F16B 23/00 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
F16B35/00 P
F16B23/00 R
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044962
(22)【出願日】2022-03-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-08-01
(71)【出願人】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【弁理士】
【氏名又は名称】泉 通博
(74)【代理人】
【識別番号】100124084
【弁理士】
【氏名又は名称】黒岩 久人
(74)【代理人】
【識別番号】100154070
【弁理士】
【氏名又は名称】久恒 京範
(74)【代理人】
【識別番号】100153280
【弁理士】
【氏名又は名称】寺川 賢祐
(72)【発明者】
【氏名】高倉 裕太朗
(72)【発明者】
【氏名】箱本 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】瀬川 太郎
(57)【要約】
【課題】共振現象によって発生する応力を締結ボルトによって抑制する。
【解決手段】外力が入力可能な被締結部を締結する締結ボルトは、ネジが形成された軸部10と、軸部10の軸方向一端側と連結され、六角部22及びフランジ部26を有する頭部20を備える。頭部20の高さが、六角部22の対向する2つの側面の幅の50%~60%の大きさであり、フランジ部26のアンダーカットの深さが、フランジ部26の厚さの50%~100%の大きさである。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力が入力可能な被締結部を締結する締結ボルトであって、
ネジが形成された軸部と、
前記軸部の軸方向一端側と連結され、六角部及びフランジ部を有する頭部と、
を備え、
前記頭部の高さが、前記六角部の対向する2つの側面の幅の50%~60%の大きさであり、
前記フランジ部のアンダーカットの深さが、前記フランジ部の厚さの50%~100%の大きさである、
締結ボルト。
【請求項2】
前記頭部の高さが、前記六角部の対向する2つの側面の幅の50%~55%の大きさである、
請求項1に記載の締結ボルト。
【請求項3】
前記フランジ部のアンダーカットの深さが、前記フランジ部の厚さの90%~100%の大きさである、
請求項1又は2に記載の締結ボルト。
【請求項4】
前記フランジ部の直径は、前記軸部のネジ部の外径の205%~230%の大きさであり、
前記フランジ部の下面は、前記軸方向に直交する直交面と成す角度が0.02°~0.3の大きさである傾斜面となっている、
請求項1から3のいずれか1項に記載の締結ボルト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被締結部を締結する締結ボルトに関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、エンジンの構成部材の振動を抑制するために、当該構成部材(被締結部)に挿入されるボルトと、ボルトが遊嵌するボスとを備えた防振構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、被締結部である構成部材は、固有振動数を有している。このため、外部からの入力によって共振現象が発生し、構成部材に応力が発生してしまう。共振現象を抑制するために、締結部位を増やす方策も検討されうるが、この場合には、部品点数が増加してしまう。
【0005】
そこで、本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、共振現象によって発生する応力を締結ボルトによって抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一の態様においては、外力が入力可能な被締結部を締結する締結ボルトであって、ネジが形成された軸部と、前記軸部の軸方向一端側と連結され、六角部及びフランジ部を有する頭部と、を備え、前記頭部の高さが、前記六角部の対向する2つの側面の幅の50%~60%の大きさであり、前記フランジ部のアンダーカットの深さが、前記フランジ部の厚さの50%~100%の大きさである、締結ボルトを提供する。
【0007】
また、前記頭部の高さが、前記六角部の対向する2つの側面の幅の50%~55%の大きさであることとしてもよい。
【0008】
また、前記フランジ部のアンダーカットの深さが、前記フランジ部の厚さの90%~100%の大きさであることとしてもよい。
【0009】
また、前記フランジ部の直径は、前記軸部のネジ部の外径の205%~230%の大きさであり、前記フランジ部の下面は、前記軸方向に直交する直交面と成す角度が0.02°~0.3の大きさである傾斜面となっていることとしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、共振現象によって発生する応力を締結ボルトによって抑制できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一の実施形態に係る締結ボルト1の構成を説明するための模式図である。
【
図2】フランジ部26及びアンダーカット30の構成を説明するための模式図である。
【
図3】頭部高さL1の二面幅L2に対する比率と応力抑制との関係を説明するためのグラフである。
【
図4】アンダーカット深さL3のフランジ厚さL4に対する比率と応力抑制との関係を説明するためのグラフである。
【
図5】フランジ径L5のネジ呼び径L6に対する比率と応力抑制との関係を説明するためのグラフである。
【
図6】フランジ部26のフランジ下面角度θの大きさと応力抑制との関係を説明するためのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<締結ボルトの構成>
一の実施形態に係る締結ボルトの構成について、
図1及び
図2を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、一の実施形態に係る締結ボルト1の構成を説明するための模式図である。
図2は、フランジ部26及びアンダーカット30の構成を説明するための模式図である。なお、
図1(a)には締結ボルト1の正面図が示され、
図1(b)には締結ボルト1の側面図が示されている。
【0014】
締結ボルト1は、外力が入力可能な被締結部を締め付けて固定する機械要素である。締結ボルト1は、例えばナットと協働して被締結部を挟んで締める。締結ボルト1は、一例として、エンジンの構成部材の締め付けに用いられる。
【0015】
締結ボルト1は、ここでは六角ボルトである。締結ボルト1は、
図1(a)に示すように、軸部10と、頭部20を有する。
【0016】
軸部10は、雄ネジが形成されたネジ部12を有する。ネジ部12は、軸部10の先端側のみに形成されていてもよく、軸部10のほぼ全てに形成されていてもよい。
図1(a)のL6は、ネジ部12の外径を示す。
【0017】
頭部20は、軸部10の軸方向一端側と連結されている。
図1(a)のL1は、頭部20の高さを示す。頭部20は、
図1(b)に示すように、六角部22と、フランジ部26を有する。
【0018】
六角部22は、例えばスパナで回される部分である。六角部22は、互いに対向する2つの側面を3組有する。
図1(b)のL2は、2つの側面の幅(以下、二面幅とも呼ぶ)を示す。
【0019】
フランジ部26は、頭部20の座面に形成されている。
図2のL5は、フランジ部26の直径を示し、
図1(a)のL4は、フランジ部26の厚さを示す。フランジ部26と軸部10の連結部には、
図2に示すように、アンダーカット30が形成されている。
図2のL3は、アンダーカット30の深さを示す。
【0020】
また、フランジ部26の下面26aは、
図2に示すように、軸部10の軸方向と直交する直交面に対して傾斜した傾斜面となっている。
図2のθは、下面26aの傾斜角度(以下、フランジ下面角度とも呼ぶ)を示す。
【0021】
本実施形態では、被締結部での共振現象で発生する応力のバラツキを抑制するために、締結ボルト1の頭部20の高さと、フランジ部26のアンダーカット30の深さを以下のように設定している。具体的には、頭部20の頭部高さL1が、六角部22の二面幅L2に対して所定範囲の大きさになるように設定されている。また、アンダーカット30のカット深さL3が、フランジ部26のフランジ厚さL4の所定範囲の大きさになるように設定されている。
【0022】
図3は、頭部高さL1の二面幅L2に対する比率と応力抑制との関係を説明するためのグラフである。グラフの横軸が、頭部高さL1の二面幅L2に対する比率を示し、グラフの縦軸が、応力の安定性指標(以下、単に安定性指標と呼ぶ)を示す。グラフの黒点は、頭部高さL1と二面幅L2の比率を変えて実験した際の安定性指標の値をプロットしたものである。なお、安定性指標は、「JIS Z 9061 新技術及び新製品開発プロセスのための統計的方法の応用―ロバストパラメータ設計(RPD)」に従い実施したパラメータ設計より求めた指標である。安定性指標(SN比db)のSN比は、一般にデシベル値で表され、ロバストネスの指標としてのSN比の単位記号は「db」を用いる。SN比の真数は、分数又は変動係数のようなばらつきの尺度の逆数である。すなわち、安定性指標が大きくなると、締結ボルト1の減衰性能のバラツキが小さくなることを意味する。
【0023】
この実験において、安定性指標の大きさがT1以上である場合に、共振現象で発生する応力のバラツキを抑制しうることが分かった。このため、頭部高さL1の二面幅L2に対する比率は、60(%)以下であることが望ましい。一方で、締結ボルト1の汎用工具としての締め付けを考慮すると、頭部高さL1の二面幅L2に対する比率は、50%以上であることが望ましい。
このため、汎用工具として締結ボルト1で被締結部を締結する場合には、頭部20が被締結部に追従して応力のバラツキを抑制するために、頭部20の頭部高さL1は、六角部22の二面幅L2の50%~60%の大きさであることが望ましい。好ましくは、頭部20の頭部高さL1が、六角部22の二面幅L2の50%~55%の大きさである。なお、上記範囲では、頭部高さL1の二面幅L2に対する比率が50%である場合に、安定性指標が最も高い。
【0024】
図4は、アンダーカット深さL3のフランジ厚さL4に対する比率と応力抑制との関係を説明するためのグラフである。グラフの横軸が、アンダーカット深さL3のフランジ厚さL4に対する比率を示し、グラフの縦軸が、応力の安定性指標を示す。グラフの黒点は、アンダーカット深さL3とフランジ厚さL4の比率を変えて実験した際の安定性指標の値をプロットしたものである。
【0025】
この実験において、安定性指標の大きさがT2以上である場合に、共振現象で発生する応力のバラツキを抑制しうることが分かった。このため、アンダーカット深さL3のフランジ厚さL4に対する比率は、50%以上であることが望ましい。一方で、締結ボルト1の生産性を考慮すると、アンダーカット深さL3のフランジ厚さL4に対する比率は、100%以下であることが望ましい。
このため、生産性が高い締結ボルト1で被締結部を締結する場合には、フランジ部26が被締結部に追従して応力のバラツキを抑制するために、フランジ部26のアンダーカット深さL3が、フランジ部26のフランジ厚さL4の50%~100%の大きさであることが望ましい。好ましくは、フランジ部26のアンダーカット深さL3が、フランジ厚さL4の90%~100%の大きさである。なお、上記範囲では、アンダーカット深さL3のフランジ厚さL4に対する比率が100%である場合に、安定性指標が最も高い。
【0026】
また、本実施形態では、被締結部での共振現象で発生する応力を大きく減衰するために、締結ボルト1のフランジ部26の直径と、フランジ部26のフランジ下面角度を以下のように設定している。具体的には、フランジ部26の直径であるフランジ径L5が、ネジ部12の外径であるネジ呼び径L6の所定範囲の大きさになるように設定されている。また、フランジ部26のフランジ下面角度θが、所定範囲の角度に設定されている。
【0027】
図5は、フランジ径L5のネジ呼び径L6に対する比率と応力抑制との関係を説明するためのグラフである。グラフの横軸が、フランジ径L5のネジ呼び径L6に対する比率を示し、グラフの縦軸が、応力を抑える指標(以下、応力抑制指標と呼ぶ)を示す。グラフの黒点は、フランジ径L5とネジ呼び径L6の比率を変えて実験した際の応力抑制指標の値をプロットしたものである。応力抑制指標も、安定性指標と同様に、パラメータ設計より求めた指標である。応力抑制指標の感度は、一般にデシベル(db)値で表す。動特性の場合、線形係数をβで表した時に、感度は、単位記号に係る効果の大きさβ
2で表される。応力抑制指標が大きくなると、ボルトの減衰性能が大きくなることを意味する。
【0028】
この実験において、応力抑制指標の大きさがT3以上である場合に、共振現象で発生する応力が減衰しうることが分かった。このため、フランジ径L5のネジ呼び径L6に対する比率は、205%以上であることが望ましい。一方で、フランジ径L5が大きくすぎることによる干渉を防ぐことを考慮すると、フランジ径L5のネジ呼び径L6に対する比率は、230%以下であることが望ましい。
このため、締結ボルト1が干渉することなく応力を減衰するために、フランジ部26が被締結部と接触する面積を増やすべく、フランジ部26のフランジ径L5は、ネジ部12のネジ呼び径L6の205%~230%の大きさであることが望ましい。好ましくは、フランジ部26のフランジ径L5は、ネジ部12のネジ呼び径L6の205%~215%の大きさである。なお、上記範囲では、フランジ径L5のネジ呼び径L6に対する比率が215%である場合に、応力抑制指標が最も高い。
【0029】
図6は、フランジ部26のフランジ下面角度θの大きさと応力抑制との関係を説明するためのグラフである。グラフの横軸が、フランジ下面角度θの大きさを示し、グラフの縦軸が、応力抑制指標を示す。グラフの黒点は、フランジ下面角度θの大きさを変えて実験した際の応力抑制指標の値をプロットしたものである。
【0030】
この実験において、応力抑制指標の大きさがT4以上である場合に、共振現象で発生する応力が減衰しうることが分かった。このため、フランジ下面角度θは、0.3°以下であることが望ましい。一方で、締結ボルト1の締め付け性を考慮すると、フランジ下面角度θは、0.02°以上であることが望ましい。
このため、締結ボルト1の締め付け性を損なわずに応力を減衰するために、被締結部と接触するフランジ部26の下面26aの圧力を分散すべく、フランジ部26のフランジ下面角度θは、0.02°~0.3の大きさであることが望ましい。好ましくは、フランジ下面角度θは、0.02°~0.1の大きさである。なお、上記範囲では、フランジ下面角度θが0.02°である場合に、応力抑制指標が最も高い。
【0031】
<本実施形態における効果>
上述した実施形態の締結ボルト1において、頭部20の頭部高さL1は、六角部22の二面幅L2の50%~60%の大きさであり、フランジ部26のアンダーカット深さL3は、フランジ部26のフランジ厚さL4の50%~100%の大きさである。
上述した締結ボルト1の頭部高さL1及びアンダーカット深さL3を設定することにより、共振現象時に頭部20及びフランジ部26が被締結部に追従しやすくなり、共振現象で発生する応力のバラツキを抑制できる。
【0032】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されず、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、装置の全部又は一部は、任意の単位で機能的又は物理的に分散・統合して構成することができる。また、複数の実施の形態の任意の組み合わせによって生じる新たな実施の形態も、本発明の実施の形態に含まれる。組み合わせによって生じる新たな実施の形態の効果は、もとの実施の形態の効果を併せ持つ。
【符号の説明】
【0033】
1 締結ボルト
10 軸部
20 頭部
22 六角部
26 フランジ部
26a 下面
30 アンダーカット
【手続補正書】
【提出日】2023-06-02
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外力が入力可能な被締結部を締結する締結ボルトであって、
ネジが形成された軸部と、
前記軸部の軸方向一端側と連結され、六角部及びフランジ部を有する頭部と、
を備え、
前記頭部の高さが、前記六角部の対向する2つの側面の幅の50%~60%の大きさであり、
前記フランジ部と前記軸部の連結部に形成されたアンダーカットの深さが、前記フランジ部の厚さの50%~100%の大きさであり、
前記フランジ部の外周面の下端と前記アンダーカットとを繋ぐ下面は、前記軸方向に直交する直交面と成す角度が0.02°~0.1°の大きさである傾斜面となっている、
締結ボルト。
【請求項2】
前記頭部の高さが、前記六角部の対向する2つの側面の幅の50%~55%の大きさである、
請求項1に記載の締結ボルト。
【請求項3】
前記フランジ部のアンダーカットの深さが、前記フランジ部の厚さの90%~100%の大きさである、
請求項1又は2に記載の締結ボルト。
【請求項4】
前記フランジ部の直径は、前記軸部のネジ部の外径の205%~230%の大きさである、
請求項1から3のいずれか1項に記載の締結ボルト。