(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139439
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】インクジェット印刷装置、および、インクジェット印刷方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/18 20060101AFI20230927BHJP
B41J 2/175 20060101ALI20230927BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
B41J2/18
B41J2/175 111
B41J2/175 121
B41J2/175 503
B41J2/01 401
B41J2/01 451
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022044973
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000207551
【氏名又は名称】株式会社SCREENホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100088672
【弁理士】
【氏名又は名称】吉竹 英俊
(74)【代理人】
【識別番号】100088845
【弁理士】
【氏名又は名称】有田 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼濱 郁彦
【テーマコード(参考)】
2C056
【Fターム(参考)】
2C056EA15
2C056EA16
2C056EA26
2C056EB16
2C056EB20
2C056EB21
2C056EB34
2C056EB48
2C056EC19
2C056EC20
2C056EC32
2C056EC40
2C056FA13
2C056KB16
2C056KB37
(57)【要約】
【課題】圧力の変動を抑制して、均一な印刷品質を実現するための技術である。
【解決手段】インクジェット印刷装置は、インクを吐出するためのヘッドと、ヘッドにインクを供給するための供給タンクと、ヘッドからインクを回収し、かつ、インクを供給タンクへ循環させるための循環タンクと、ヘッドと供給タンクと循環タンクとを結ぶ経路であるインク流路における圧力の変化を検出するための検出部と、検出部において検出された圧力の変化を打ち消す方向に、供給タンクの内圧を制御するための制御部とを備える。
【選択図】
図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するためのヘッドと、
前記ヘッドに前記インクを供給するための供給タンクと、
前記ヘッドから前記インクを回収し、かつ、前記インクを前記供給タンクへ循環させるための循環タンクと、
前記ヘッドと前記供給タンクと前記循環タンクとを結ぶ経路であるインク流路における圧力の変化を検出するための検出部と、
前記検出部において検出された前記圧力の変化を打ち消す方向に、前記供給タンクの内圧を制御するための制御部とを備える、
インクジェット印刷装置。
【請求項2】
請求項1に記載のインクジェット印刷装置であり、
前記検出部が、前記インク流路における前記インクの流量の変化を検出することによって、前記インク流路における前記圧力の変化を検出する、
インクジェット印刷装置。
【請求項3】
請求項2に記載のインクジェット印刷装置であり、
前記制御部が、前記検出部において検出された前記インクの前記流量が低下した場合に、前記供給タンクの前記内圧を正圧側に設定する、
インクジェット印刷装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載のインクジェット印刷装置であり、
前記制御部が、前記検出部において検出された前記インクの前記流量が低下した場合に、前記循環タンクの前記内圧を維持しつつ、前記供給タンクの前記内圧を正圧側に設定する、
インクジェット印刷装置。
【請求項5】
請求項1から4のうちのいずれか1つに記載のインクジェット印刷装置であり、
前記検出部において検出された前記圧力の変化の量があらかじめ定められたしきい値を超える場合、警報を発報するための発報部をさらに備える、
インクジェット印刷装置。
【請求項6】
インクを吐出するためのヘッドと、前記ヘッドに前記インクを供給するための供給タンクと、前記ヘッドから前記インクを回収し、かつ、前記インクを前記供給タンクへ循環させるための循環タンクとを備えるインクジェットヘッド印刷装置を使って印刷を行うインクジェットヘッド印刷方法であり、
前記ヘッドと前記供給タンクと前記循環タンクとを結ぶインク流路における圧力の変化を検出する工程と、
検出された前記圧力の変化を打ち消す方向に、前記供給タンクの内圧を制御する工程とを備える、
インクジェット印刷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願明細書に開示される技術は、インクジェット印刷技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、インクジェット方式で印刷を行うインクジェット印刷装置が使われている。
【0003】
インクジェット印刷装置では、インクの乾燥または沈降などを抑制するために、たとえば、インクを供給タンクと循環タンクとの間で循環させつつヘッドへ供給するものがある(たとえば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1においては、インクが循環する流路において異物または凝集物が蓄積すると、インクの流路が狭くなって圧力損失が生じる。そうすると、インクにかかる圧力が変動して、印刷品質にばらつきが生じてしまう。
【0006】
本願明細書に開示される技術は、以上に記載されたような問題を鑑みてなされたものであり、圧力の変動を抑制して、均一な印刷品質を実現するための技術である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願明細書に開示される技術の第1の態様であるインクジェット印刷装置は、インクを吐出するためのヘッドと、前記ヘッドに前記インクを供給するための供給タンクと、前記ヘッドから前記インクを回収し、かつ、前記インクを前記供給タンクへ循環させるための循環タンクと、前記ヘッドと前記供給タンクと前記循環タンクとを結ぶ経路であるインク流路における圧力の変化を検出するための検出部と、前記検出部において検出された前記圧力の変化を打ち消す方向に、前記供給タンクの内圧を制御するための制御部とを備える。
【0008】
本願明細書に開示される技術の第2の態様であるインクジェット印刷装置は、第1の態様であるインクジェット印刷装置に関連し、前記検出部が、前記インク流路における前記インクの流量の変化を検出することによって、前記インク流路における前記圧力の変化を検出する。
【0009】
本願明細書に開示される技術の第3の態様であるインクジェット印刷装置は、第2の態様であるインクジェット印刷装置に関連し、前記制御部が、前記検出部において検出された前記インクの前記流量が低下した場合に、前記供給タンクの前記内圧を正圧側に設定する。
【0010】
本願明細書に開示される技術の第4の態様であるインクジェット印刷装置は、第2または3の態様であるインクジェット印刷装置に関連し、前記制御部が、前記検出部において検出された前記インクの前記流量が低下した場合に、前記循環タンクの前記内圧を維持しつつ、前記供給タンクの前記内圧を正圧側に設定する。
【0011】
本願明細書に開示される技術の第5の態様であるインクジェット印刷装置は、第1から4のうちのいずれか1つの態様であるインクジェット印刷装置に関連し、前記検出部において検出された前記圧力の変化の量があらかじめ定められたしきい値を超える場合、警報を発報するための発報部をさらに備える。
【0012】
本願明細書に開示される技術の第6の態様であるインクジェット印刷方法は、インクを吐出するためのヘッドと、前記ヘッドに前記インクを供給するための供給タンクと、前記ヘッドから前記インクを回収し、かつ、前記インクを前記供給タンクへ循環させるための循環タンクとを備えるインクジェットヘッド印刷装置を使って印刷を行うインクジェットヘッド印刷方法であり、前記ヘッドと前記供給タンクと前記循環タンクとを結ぶインク流路における圧力の変化を検出する工程と、検出された前記圧力の変化を打ち消す方向に、前記供給タンクの内圧を制御する工程とを備える。
【発明の効果】
【0013】
本願明細書に開示される技術の少なくとも第1、6の態様によれば、インク流路内の圧力損失が生じた場合でも、インク流路における圧力の変化を打ち消す方向に供給タンクの内圧を制御することによって、インクにかかる圧力を一定に維持することができる。その結果、均一な印刷品質を実現することができる。
【0014】
また、本願明細書に開示される技術に関連する目的と、特徴と、局面と、利点とは、以下に示される詳細な説明と添付図面とによって、さらに明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施の形態に関するインクジェット印刷システムの構成を概略的に例示する図である。
【
図2】複数のインクジェットヘッドを備えるラインヘッドおよびその周辺の構成を例示する平面図である。
【
図3】
図1に例示された制御部の機能構成を概念的に例示する図である。
【
図4】インクジェットヘッドに供給されるインクの循環系の構成を概略的に示す図である。
【
図5】ノズルの吐出口におけるインクの液面形状の例を示す図である。
【
図6】ノズルの吐出口におけるインクの液面形状の例を示す図である。
【
図7】ノズルの吐出口におけるインクの液面形状の例を示す図である。
【
図8】インク流路におけるインクの流量と供給タンクの内圧との関係を示す図である。
【
図9】圧力制御による印刷品質の評価結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付される図面を参照しながら実施の形態について説明する。
【0017】
なお、図面は概略的に示されるものであり、説明の便宜のため、適宜、構成の省略、または、構成の簡略化がなされるものである。また、異なる図面にそれぞれ示される構成などの大きさおよび位置の相互関係は、必ずしも正確に記載されるものではなく、適宜変更され得るものである。
【0018】
また、以下に示される説明では、同様の構成要素には同じ符号を付して図示し、それらの名称と機能とについても同様のものとする。したがって、それらについての詳細な説明を、重複を避けるために省略する場合がある。
【0019】
また、以下に記載される説明において、「上」、「下」、「左」、「右」、「側」、「底」、「表」または「裏」などの特定の位置と方向とを意味する用語が用いられる場合があっても、これらの用語は、実施の形態の内容を理解することを容易にするために便宜上用いられるものであり、実際に実施される際の方向とは関係しないものである。
【0020】
<実施の形態>
以下、本実施の形態に関するインクジェット印刷装置、インクジェット印刷方法およびインクジェット印刷システムについて説明する。
【0021】
<インクジェット印刷システムの構成について>
図1は、本実施の形態に関するインクジェット印刷システムの構成を概略的に例示する図である。
図1に例示されるように、本実施の形態に関するインクジェット印刷システムは、給紙部12と、インクジェット印刷装置14と、排紙部16とを備える。
【0022】
給紙部12は、ロール状の連続紙100を水平軸周りに回転可能に保持し、インクジェット印刷装置14に対して連続紙100を巻き出して供給する。インクジェット印刷装置14は、連続紙100に対して印刷を行う。排紙部16は、インクジェット印刷装置14において印刷された連続紙100を水平軸周りに巻き取る。
【0023】
連続紙100の供給側を上流とし、連続紙100の排紙側を下流とすると、給紙部12はインクジェット印刷装置14の上流側に配置され、排紙部16はインクジェット印刷装置14の下流側に配置される。
【0024】
インクジェット印刷装置14は、連続紙が供給される上流から順に、駆動ローラ21と、インクジェットヘッド22と、乾燥部23と、検査部24と、駆動ローラ25とを備える。また、インクジェット印刷装置14は、これらの構成間において、搬送される連続紙100を支持する複数の搬送ローラ26を備える。
【0025】
駆動ローラ21は、給紙部12から連続紙100を取り込む。駆動ローラ21によって給紙部12から巻き出された連続紙100は、複数個の搬送ローラ26に沿って下流側の排紙部16に向かって、すなわち、
図1におけるX軸負方向に搬送される。
【0026】
駆動ローラ25は、搬送ローラ26に沿って搬送される連続紙100を排紙部16に向かって送り出す。
【0027】
乾燥部23は、インクジェットヘッド22によって印刷されたインクの乾燥を行う。検査部24は、印刷された領域の汚れまたは印刷抜けなどがないかを検査する。
【0028】
インクジェットヘッド22は、インク滴を吐出する複数個のノズル22aを備える。インクジェットヘッド22の詳細な構成については、後述する。
【0029】
また、インクジェット印刷装置14は、制御部27を備える。制御部27は、たとえば、マウス、キーボード、モニタおよび外部データ入力機器などを備えるコンピュータによって実現され、具体的には、CPUおよび揮発性または不揮発性のメモリなどに相当する。
【0030】
制御部27は、入力された印刷データに基づき駆動ローラ21、インクジェットヘッド22、乾燥部23、検査部24および駆動ローラ25の動作を制御することによって、連続紙100に対する印刷動作を制御する。
【0031】
図2は、複数のインクジェットヘッドを備えるラインヘッドおよびその周辺の構成を例示する平面図である。
図2においては、X軸負方向が連続紙100の搬送方向であり、印刷方向はその逆方向のX軸正方向である。
図2に例示されるように、ラインヘッド30は、複数のノズル22aをそれぞれ有するインクジェットヘッド22が、複数配列されて構成される。
図2に例示される場合では、ラインヘッド30において、それぞれのインクジェットヘッド22は千鳥配置(ジグザグ配置)されているが、インクジェットヘッド22の配置方法は、
図2に開示される場合に限られるものではなく、たとえば、インクジェットヘッド22がY軸方向に沿って一列に並ぶ配置方法であってもよい。
【0032】
ここで、ラインヘッド30は、連続紙100の搬送方向(X軸負方向)に沿って複数個配置されていることが一般的である。例えば、ブラック(K)、シアン(C)、マゼンタ(M)、イエロー(Y)についてそれぞれ1つまたは2つのラインヘッド30を備えることができる。しかしながら、発明の理解を容易にする観点から、
図1においては1つのインクジェットヘッド22のみを示し、
図2においては1つのラインヘッド30のみを示している。
【0033】
図2に例示されるように、それぞれのインクジェットヘッド22、さらには複数のインクジェットヘッド22からなるラインヘッド30は、連続紙100の搬送方向と交差する方向、すなわち、
図2におけるY軸方向に長手方向が向けられた姿勢で配置される。また、ラインヘッド30は、連続紙100が搬送される搬送路34の幅以上の長さ、好ましくは、搬送路34の幅に等しい長さを有する。
【0034】
なお、本実施の形態では、複数のインクジェットヘッド22からなるラインヘッド30が示されたが、インクジェットヘッド22が1つのみ設けられる場合も想定可能である。さらに、インクジェットヘッド22に設けられるノズル22aが1つのみである場合も想定可能である。
【0035】
図3は、
図1に例示された制御部の機能構成を概念的に例示する図である。
図3に例示されるように、制御部27は、判断部27aと、記憶部27bとを備える。
【0036】
判断部27aは、駆動ローラ21、インクジェットヘッド22、乾燥部23、検査部24および駆動ローラ25の動作を制御するに際し、必要な判断を行う。たとえば、インクジェットヘッド22の制御に際しては、後述のタンク内の内圧制御に必要な判断を行う。
【0037】
記憶部27bは、連続紙100の仕様、印刷データなどを記憶する。また、記憶部27bは、後述の関係テーブルを記憶する。
【0038】
図4は、インクジェットヘッド22に供給されるインクの循環系の構成を概略的に示す図である。
図4に示されるように、インクジェットヘッド22に供給されるインクは循環系を循環する。ここで、循環系における、インクジェットヘッド22と供給タンク42と循環タンク54とを結ぶ経路をインク流路とする。インク流路は、複数の配管から構成されており、インクは、インク流路を介してインクジェットヘッド22、供給タンク42および循環タンク54間を循環する。なお、インク流路は、供給タンク42内および循環タンク54内を含まない経路である。
【0039】
インクジェットヘッド22の上流側のインクの循環系は、供給タンク42と、供給タンク42の下流に位置するヒーター44と、ヒーター44の下流に位置するマニホールド46と、マニホールド46の下流に位置するフィルター48と、フィルター48の下流に位置する流量計90とを備えるものである。
【0040】
供給タンク42はインクを貯留し、かつ、インクジェットヘッド22にインクを供給する。ヒーター44は、供給タンク42からインク流路を介して供給されるインクを加熱する。
【0041】
マニホールド46は、ヒーター44を介して供給タンク42から供給されるインクを、マニホールド46に接続されているそれぞれのインクジェットヘッド22に分配する。
【0042】
フィルター48は、それぞれのインクジェットヘッド22の上流側に設けられ、マニホールド46から出力されるインク中の不純物などを除去する。
【0043】
流量計90は、フィルター48の下流のインク流路を流れるインクの流量を測定する。流量計90は、たとえば、インク流路を構成する配管を外側から挟むクランプ式流量計などである。なお、流量計90が配置される位置は
図4に示された箇所に限られるものではなく、インク流路における他の箇所であってもよい。たとえば、流量計90が、マニホールド52と循環タンク54との間のインク流路、または、ポンプ56と供給タンク42との間のインク流路に設けられていてもよい。
【0044】
インクジェットヘッド22の下流側のインクの循環系は、絞り弁50と、絞り弁50の下流に位置するマニホールド52と、マニホールド52の下流に位置する循環タンク54と、循環タンク54の下流に位置するポンプ56と、ポンプ56の下流に位置するフィルター58とを備えるものである。
【0045】
絞り弁50は、インクジェットヘッド22を介してインク流路を流れるインクの流量を調整する。
【0046】
マニホールド52は、接続されているそれぞれのインクジェットヘッド22から流入するインクを、インク流路を介して循環タンク54に戻す。
【0047】
循環タンク54は、マニホールド52から流入するインクを貯留し、かつ、循環系の下流へ供給する。
【0048】
ポンプ56は、循環タンク54から供給されるインクをインク流路を介して供給タンク42側へ流す。フィルター58は、ポンプ56から出力されるインク中の不純物などを除去する。
【0049】
このように構成されることによって、インクジェットヘッド22に供給されるインクは、ノズル22aから吐出されない間も循環系を循環するため、インクの乾燥または沈降などが抑制される。
【0050】
本実施の形態では、供給タンク42の内圧PAと、循環タンク54の内圧PBとを制御することによって、循環系を流れるインクの流量およびインクにかかる圧力を調整する。
【0051】
なお、循環系を流れるインクの流量およびインクにかかる圧力の調整は、たとえば、供給タンク42に貯留されるインクの液面のインクジェットヘッド22のノズル22aにおけるインクの液面に対する液面差hA、循環タンク54に貯留されるインクの液面のインクジェットヘッド22のノズル22aにおけるインクの液面に対する液面差hB、供給タンク42に貯留されるインクの液量のインクジェットヘッド22のノズル22aにおけるインクの液量に対する水頭圧差PhA、循環タンク54に貯留されるインクの液量のインクジェットヘッド22のノズル22aにおけるインクの液量に対する水頭圧差PhB、ポンプ56の流量QPなどを制御することによってもなされ得るが、本実施の形態では、これらの要素および循環系における流路抵抗が適切に調整された状態で、供給タンク42の内圧PAと、循環タンク54の内圧PBとを制御するものとする。
【0052】
供給タンク42の内圧PAと、循環タンク54の内圧PBとが制御部27で制御されることによって、あらかじめ定められた流量のインクが供給タンク42からインクジェットヘッド22を介して循環タンク54へ流れ、さらに、ポンプ56の圧力によって当該インクが循環タンク54から供給タンク42に戻される。一方で、制御部27でインクジェットヘッド22における圧電素子などが制御されることで、所望の流量のインク滴が、インクジェットヘッド22のノズル22aから所望のタイミングで吐出される。
【0053】
<インクにかかる圧力について>
上記の循環系を循環するインクには、一定の圧力がかかっている。当該圧力はノズル22aの吐出口からのインク吐出に影響を与えるため、均一な印刷品質を維持するためには当該圧力の制御が重要である。
【0054】
図5、
図6および
図7は、ノズル22aの吐出口22bにおけるインク80の液面形状の例を示す図である。
図5、
図6および
図7では、インク80の液面にかかる圧力が吐出口22bにおけるインク80の液面形状に反映されることが示されている。
【0055】
図5では、インク80の液面にかかる圧力であるメニスカス圧が強く、吐出口22bのインク80の液面がノズル22a内に引き込まれている。
【0056】
図6では、インク80の液面にかかる圧力であるメニスカス圧が0kPa付近であり、吐出口22bのインク80の液面が平坦形状となっている。
【0057】
図7では、インク80の液面にかかる圧力であるメニスカス圧が弱く、吐出口22bのインク80の液面がノズル22aから飛び出している。
【0058】
一方で、インク80が循環するインク流路では、構成要素の経時変化によって圧力損失が生じる場合がある。たとえば、フィルター48における蓄積物が流路を狭くすることによって、圧力損失が生じる場合がある。そのような場合には、インク流路を循環するインク80にかかる圧力が変化し、インク流路を流れるインク80の圧力が変化し、結果として、吐出口22bのインク80の液面形状が一定の形状に保たれなくなる。
【0059】
本実施の形態では、インク流路で圧力損失が生じた場合であってもインク80にかかる圧力および流量を一定の値に維持して、印刷品質を均一に保つことを目的とする。
【0060】
<インクの液面にかかる圧力の制御について>
インク80の液面にかかる圧力の制御について、以下説明する。
【0061】
供給タンク42の内圧PAが正圧であり、循環タンク54の内圧PBが負圧である場合、たとえば、フィルター48における蓄積物が流路を狭くしてインク流路における圧力損失が生じると、吐出口22bにおけるインク80の液面にかかるメニスカス圧が基準となるメニスカス圧(基準メニスカス圧)よりも強くなり、吐出口22bのインク80の液面がノズル22a内に引き込まれる。このような液面形状の変化によって吐出不良が発生し、均一な印刷品質を維持することが困難になる。
【0062】
ここで、基準メニスカス圧とは、インク80の吐出を良好に行うことができるメニスカス圧であり、たとえば、インク80を実際に吐出するなどの試行によってあらかじめ定められる圧力である。
【0063】
一方で、インク流路における圧力損失が生じると、それに伴ってインク流路を流れるインク80の流量が低下する。よって、本実施の形態では、インク流路を流れるインク80の流量を測定し、測定されたインク80の流量の変化を打ち消す方向(すなわち、流量が増加する方向)に供給タンク42の内圧PAを制御する(具体的には、より正圧側に設定する)ことによってインク80の流量を低下前の流量(基準流量)に戻し、その結果として、インク流路におけるインク80にかかる圧力、さらには、吐出口22bにおけるインク80の液面にかかるメニスカス圧を圧力損失が生じる前の圧力(基準メニスカス圧)に戻す。すなわち、インク流路におけるインク80の流量の変化を検出することによって、間接的にインク80にかかる圧力の変化を検出して、メニスカス圧を制御する。
【0064】
供給タンク42の内圧PAおよび循環タンク54の内圧PBともに負圧である場合でも同様に、インク流路における圧力損失が生じると、それに伴ってインク流路を流れるインク80の流量が低下する。よって、本実施の形態では、インク流路を流れるインク80の流量を測定し、測定されたインク80の流量の変化を打ち消す方向(すなわち、流量が増加する方向)に供給タンク42の内圧PAを制御する(具体的には、より正圧側に設定する)ことによってインク80の流量を低下前の流量(基準流量)に戻し、その結果として、インク流路におけるインク80にかかる圧力、さらには、吐出口22bにおけるインク80の液面にかかるメニスカス圧を圧力損失が生じる前の圧力(基準メニスカス圧)に戻す。
【0065】
なお、インク80にかかる圧力を直接測定し、測定された当該圧力値に基づいて、供給タンク42の内圧PAなどが制御されてもよい。
【0066】
図8は、インク流路におけるインク80の流量と供給タンク42の内圧P
Aとの関係を示す図である。
【0067】
供給タンク42の内圧PAと循環タンク54の内圧PBとが所定の内圧差で設定されて所定の流量(基準流量)のインク80がインク流路を流れ、その後、経時変化によって圧力損失が生じ、供給タンク42の内圧PAが内圧P1に維持されているにも関わらず、インク流路におけるインク80の流量が流量R1まで低下している場合を想定する。
【0068】
この場合、制御部27の判断部27aが、インク流路におけるインク80の流量が当初の流量(基準流量)に戻るまで、供給タンク42の内圧PAをより正圧側に設定する。すなわち、インク80の流量の変化(低下)を打ち消す方向に、内圧PAを制御する。その結果として、インク流路におけるインク80にかかる圧力、さらには、吐出口22bにおけるインク80の液面にかかるメニスカス圧を圧力損失が生じる前の圧力(基準メニスカス圧)に戻す。
【0069】
図8に示されるように内圧P
Aの増加に伴って、インク80の流量は増加する。よって、制御部27の判断部27aは、基準流量に対応する圧力値(内圧P
2)まで内圧P
Aをより正圧側に設定する。
【0070】
以上のような動作によれば、インク流路内の圧力損失が生じた場合でも、インク流路における圧力の変化を打ち消す方向に供給タンク42の内圧PAを制御することによって、インク80にかかる圧力を一定に維持することができる。その結果、吐出口22bにおけるインク80の液面にかかる圧力であるメニスカス圧を一定に維持して、均一な印刷品質を実現することができる。
【0071】
そうすれば、たとえば、インク流路における部品に不良が生じて交換が必要になった場合でも、良好な印刷品質を維持しつつ、部品交換作業まで一時的にインクジェットヘッド印刷装置を稼働させ続けることができる。そのため、装置のダウンタイム発生を抑制することができる。
【0072】
なお、内圧PAとインク流量との関係は、インク流路における圧力損失の発生状況によって変化する。そのため、制御部27の判断部27aは、流量計90でインク流路におけるインク80の流量を監視しながら徐々に供給タンク42の内圧PAをより正圧側に設定していき、インク80の流量が基準流量に対して所定の範囲となるように自動調整する。
【0073】
<印刷品質の評価結果について>
図9は、上記の圧力制御による印刷品質の評価結果を示す図である。
【0074】
供給タンク42の内圧P
Aおよび循環タンク54の内圧P
Bが維持されていても、インク流路において圧力損失が発生すると印刷不良(たとえば、サテライト滴またはミスト滴などによる意図しない箇所へのインクの着液が増加するなど)となる。
図9においては、最上段の「流量低下」がこれに該当する。
【0075】
この状態で、制御部27の判断部27aは、
図8に示されたようにインクにかかる圧力を制御する。ここで、制御部27の判断部27aは、供給タンク42の内圧P
Aに加えて循環タンク54の内圧P
Bも制御可能であるが、以下に説明されるように、供給タンク42の内圧P
Aのみが制御される場合に、印刷不良が改善する。
【0076】
まず、供給タンク42の内圧PAおよび循環タンク54の内圧PBの双方を制御する場合、制御部27の判断部27aは、双方の圧力絶対値の比率を固定しつつ、供給タンク42の内圧PAをより正圧側に設定し、かつ、循環タンク54の内圧PBをより負圧側に設定する。そうすることによって、制御部27の判断部27aは、供給タンク42の内圧PAと循環タンク54の内圧PBとの内圧差を大きくして、インク流路におけるインク80の流量を増加させる。
【0077】
この場合には、
図9における上から二段目の「双方制御」に示されるように、インク流路におけるインク80の流量は増加したものの、印刷不良は十分には改善されなかった。
【0078】
次に、循環タンク54の内圧PBのみを制御する場合(すなわち、供給タンク42の内圧PAは維持する場合)、制御部27の判断部27aは、循環タンク54の内圧PBをより負圧側に設定する。そうすることによって、制御部27の判断部27aは、供給タンク42の内圧PAと循環タンク54の内圧PBとの内圧差を大きくして、インク流路におけるインク80の流量を増加させる。
【0079】
この場合にも、
図9における上から三段目の「循環タンク制御」に示されるように、インク流路におけるインク80の流量は増加したものの、印刷不良は十分には改善されなかった。
【0080】
次に、供給タンク42の内圧PAのみを制御する場合(すなわち、循環タンク54の内圧PBは維持する場合)、制御部27の判断部27aは、供給タンク42の内圧PAをより正圧側に設定する。そうすることによって、制御部27の判断部27aは、供給タンク42の内圧PAと循環タンク54の内圧PBとの内圧差を大きくして、インク流路におけるインク80の流量を増加させる。
【0081】
この場合には、
図9における上から四段目の「供給タンク制御」に示されるように、インク流路におけるインク流量は増加し、かつ、前述のような印刷不良も十分に改善された。
【0082】
このことから、供給タンク42の内圧PAのみを制御する場合では、インク80の流量が基準流量となったことに伴い、吐出口22bにおけるインク80の液面のメニスカス圧も圧力損失が生じる前の基準メニスカス圧に十分に近づいたものと考えられる。
【0083】
<警報の発報について>
上記のように測定されるインク80の流量の変化の量が、あらかじめ定められたしきい値(たとえば、基準流量よりも数%低い値)を定常的に下回る場合に、図示しない表示部などが制御部27によって制御されて、部品交換またはメンテナンスを促す警告(エラーメッセージなど)を発報してもよい。
【0084】
<以上に記載された実施の形態によって生じる効果について>
次に、以上に記載された実施の形態によって生じる効果の例を示す。なお、以下の説明においては、以上に記載された実施の形態に例が示された具体的な構成に基づいて当該効果が記載されるが、同様の効果が生じる範囲で、本願明細書に例が示される他の具体的な構成と置き換えられてもよい。すなわち、以下では便宜上、対応づけられる具体的な構成のうちのいずれか1つのみが代表して記載される場合があるが、代表して記載された具体的な構成が対応づけられる他の具体的な構成に置き換えられてもよい。
【0085】
以上に記載された実施の形態によれば、インクジェット印刷装置は、ヘッドと、供給タンク42と、循環タンク54と、検出部と、制御部27とを備える。ここで、ヘッドは、たとえば、インクジェットヘッド22などに対応するものである。また、検出部は、たとえば、流量計90などに対応するものである。インクジェットヘッド22は、インク80を吐出する。供給タンク42は、インクジェットヘッド22にインク80を供給する。循環タンク54は、インクジェットヘッド22からインク80を回収する。また、循環タンク54は、インク80を供給タンク42へ循環させる。流量計90は、インク流路における圧力の変化を検出する。ここで、インク流路とは、インクジェットヘッド22と供給タンク42と循環タンク54とを結ぶ経路である。制御部27は、流量計90において検出された圧力の変化を打ち消す方向に、供給タンク42の内圧を制御する。
【0086】
このような構成によれば、インク流路内の圧力損失が生じた場合でも、インク流路における圧力の変化を打ち消す方向に供給タンク42の内圧を制御することによって、インク80にかかる圧力を一定に維持することができる。その結果、吐出口22bにおけるインク80の液面にかかる圧力であるメニスカス圧を一定に維持して、均一な印刷品質を実現することができる。なお、供給タンク42の内圧PAおよび循環タンク54の内圧PBが一定に維持されていても、インク流路内で圧力損失が生じた場合にはメニスカス圧は変動してしまうため、インク流路における圧力の変化を検出することが重要である。また、上記によれば、インク流路内の圧力損失が生じた場合に、インクジェットヘッド22またはフィルター48などの交換を待たずにメニスカス圧を維持することができるため、インクジェットヘッド22またはフィルター48などの交換の時間的な自由度を高めることができる。
【0087】
なお、上記の構成に本願明細書に例が示された他の構成を適宜追加した場合、すなわち、上記の構成としては言及されなかった本願明細書中の他の構成が適宜追加された場合であっても、同様の効果を生じさせることができる。
【0088】
また、以上に記載された実施の形態によれば、流量計90が、インク流路におけるインク80の流量の変化を検出することによって、インク流路における圧力の変化を検出する。このような構成によれば、インク80が流れる配管を外側から囲む簡易な構成の流量計90を使ってインク80の流量を測定し、測定された当該流量値に基づいて、インク流路においてインク80にかかる圧力の変化を検出することができる。よって、インク80が流れる配管内に直接圧力計を設置しなくても、インク80にかかる圧力の変化を検出することができる。
【0089】
また、以上に記載された実施の形態によれば、制御部27が、流量計90において検出されたインク80の流量が低下した場合に、供給タンク42の内圧を正圧側に設定する。このような構成によれば、フィルター48の目詰まりなどで一部のインク流路が狭くなって圧力損失が生じ、インク流路におけるインクの流量が低下した場合に、供給タンク42の内圧をより正圧側に設定する制御を行うのみで、インク流路におけるインクの流量を増加させて、その結果、インク流路における圧力および吐出口22bにおけるインク80の液面にかかる圧力を一定に維持することができる。よって、均一な印刷品質を実現することができる。
【0090】
また、以上に記載された実施の形態によれば、制御部27が、流量計90において検出されたインク80の流量が低下した場合に、循環タンク54の内圧を維持しつつ、供給タンク42の内圧を正圧側に設定する。このような構成によれば、インク流路におけるインクの流量が低下した場合に、循環タンク54の内圧を維持しつつ供給タンク42の内圧をより正圧側に設定することで、吐出口22bにおけるインク80の液面にかかるメニスカス圧を効果的に制御することができる。よって、均一な印刷品質を実現することができる。
【0091】
また、以上に記載された実施の形態によれば、インクジェット印刷装置は、流量計90において検出された圧力の変化の量があらかじめ定められたしきい値を超える場合、警報を発報するための発報部を備える。このような構成によれば、インク流路における圧力の変化がしきい値を超える場合に、供給タンク42における内圧制御のみではメニスカス圧を維持することが難しくなると判断して、インクジェットヘッド印刷装置のメンテナンスを促すなどの対策をとることができる。
【0092】
以上に記載された実施の形態によれば、インクジェット印刷方法において、インクジェットヘッド22と供給タンク42と循環タンク54とを結ぶインク流路における圧力の変化を検出する工程と、検出された圧力の変化を打ち消す方向に、供給タンク42の内圧を制御する工程とを備える。
【0093】
このような構成によれば、インク流路内の圧力損失が生じた場合でも、インク流路における圧力の変化を打ち消す方向に供給タンク42の内圧を制御することによって、インク80にかかる圧力を一定に維持することができる。その結果、吐出口22bにおけるインク80の液面にかかる圧力であるメニスカス圧を一定に維持して、均一な印刷品質を実現することができる。
【0094】
なお、特段の制限がない場合には、それぞれの処理が行われる順序は変更することができる。
【0095】
また、上記の構成に本願明細書に例が示された他の構成を適宜追加した場合、すなわち、上記の構成としては言及されなかった本願明細書中の他の構成が適宜追加された場合であっても、同様の効果を生じさせることができる。
【0096】
<以上に記載された実施の形態の変形例について>
以上に記載された実施の形態では、それぞれの構成要素の材質、材料、寸法、形状、相対的配置関係または実施の条件などについても記載する場合があるが、これらはすべての局面においてひとつの例であって、限定的なものではないものとする。
【0097】
したがって、例が示されていない無数の変形例と均等物とが、本願明細書に開示される技術の範囲内において想定される。たとえば、少なくとも1つの構成要素を変形する場合、追加する場合または省略する場合が含まれるものとする。
【0098】
また、以上に記載された実施の形態において、特に指定されずに材料名などが記載された場合は、矛盾が生じない限り、当該材料に他の添加物が含まれた、たとえば、合金などが含まれるものとする。
【符号の説明】
【0099】
14 インクジェット印刷装置
22 インクジェットヘッド
27 制御部
42 供給タンク
48 フィルター
54 循環タンク
58 フィルター
80 インク
P1 内圧
P2 内圧
PA 内圧
PB 内圧
QP 流量
R1 流量