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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139470
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】導電性グリース組成物
(51)【国際特許分類】
   C10M 169/06 20060101AFI20230927BHJP
   C10N 50/10 20060101ALN20230927BHJP
   C10N 40/02 20060101ALN20230927BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20230927BHJP
【FI】
C10M169/06
C10N50:10
C10N40:02
C10N30:00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045027
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】591213173
【氏名又は名称】住鉱潤滑剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】渡部 泰希
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104BA07A
4H104BB33A
4H104BB34A
4H104BB36A
4H104BB41A
4H104BH03A
4H104CB14A
4H104EA01C
4H104LA14
4H104PA01
4H104QA18
(57)【要約】
【課題】良好な導電性を付与することができるグリース組成物を提供すること。
【解決手段】本発明に係るグリース組成物は、基油と、増ちょう剤とを含むベースグリースに、HLB値が10~15の非イオン系界面活性剤が配合されてなることを特徴としている。非イオン系界面活性剤としては、疎水基がアルキルエーテル型又はエステル型であるものであることが好ましい。また、非イオン系界面活性剤の含有量は、組成物全量に対して0.1質量%~10質量%の範囲であることが好ましい。さらに、当該導電性グリース組成物は、軸受に用いられて好適である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基油と、増ちょう剤とを含むベースグリースに、
HLB値が10~15の非イオン系界面活性剤が配合されてなる、
導電性グリース組成物。
【請求項2】
前記非イオン系界面活性剤は、疎水基がアルキルエーテル型又はエステル型である、
請求項1に記載の導電性グリース組成物。
【請求項3】
前記非イオン系界面活性剤の含有量は、0.1質量%~10質量%の範囲である、
請求項1又は2に記載の導電性グリース組成物。
【請求項4】
当該導電性グリース組成物は、軸受に用いられる、
請求項1乃至3のいずれかに記載の導電性グリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特に軸受に塗布して好適な、導電性グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
インバータ等の周波数制御で運転したモータでは、コモンモード電圧が回転子-固定子巻線間の静電容量により、軸と筐体間における対地軸電圧が発生する。これら電圧は、軸受や潤滑性の状態によって、軸受の内部で放電を発生させ、軸受損傷を引き起こす。
【0003】
このような軸受損傷を防ぐ方法として、軸受の内部にグリース被膜を塗布することによって、潤滑性を向上させることに加え、そのグリース被膜に導電性を付与して静電気を逃がす経路(導電パス)を形成する方法が考えられる。
【0004】
なお、グリース被膜に導電性を付与して軸受の電食を抑制する技術として、例えば特許文献1、2に記載の技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008-94975号公報
【特許文献2】特開2020-193287号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、良好な導電性を付与することができるグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、グリース組成物において、特定のHLBの非イオン性界面活性剤を配合することで、良好な導電性を付与できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1)本発明の第1の発明は、基油と、増ちょう剤と、を含むベースグリースに、HLB値が10~15の非イオン系界面活性剤が配合されてなる、導電性グリース組成物である。
【0009】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記非イオン系界面活性剤は、疎水基がアルキルエーテル型又はエステル型である、導電性グリース組成物である。
【0010】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、前記非イオン系界面活性剤の含有量は、0.1質量%~10質量%の範囲である、導電性グリース組成物である。
【0011】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、当該導電性グリース組成物は、軸受に用いられる、導電性グリース組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、良好な導電性を付与することができるグリース組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更が可能である。
【0014】
≪1.グリース組成物≫
本実施の形態に係るグリース組成物は、基油と、増ちょう剤と、を含むベースグリースに、特定の非イオン系界面活性剤が配合されてなる。具体的には、HLB値が10~15の範囲の非イオン系界面活性剤が配合されてなることを特徴としている。
【0015】
また、好ましくは、その非イオン系界面活性剤は、疎水基がアルキルエーテル型又はエステル型であるものである。
【0016】
このように、HLB値が10~15の非イオン系界面活性剤を配合してなるグリース組成物であることにより、そのグリース(グリース被膜)に導電性を付与することができる。これにより、そのグリース組成物を、例えばモータ等における軸受の内部に塗布することで、軸受に優れた潤滑性を付与して摺動特性を向上させるとともに、そのグリース被膜が、軸受の摺動により生じる静電気を逃がす、いわゆる導電経路(導電パス)となり、軸受内部における放電発生に基づく軸受損傷を効果的に防ぐことができる。
【0017】
なお、上述したように、本実施の形態に係るグリース組成物は、軸受の内部にグリース被膜を形成するための、軸受用のグリース組成物として好適である。軸受の種類については、特に限定されず、転がり軸受、すべり軸受等、いずれのものでも適用できる。
【0018】
[基油]
基油(ベースオイル)は、グリースの主成分をなすものであり、後述する増ちょう剤と共にベースグリース(基グリース)を構成する。基油は、グリースに良好な潤滑性を付与する。
【0019】
基油の種類としては、特に限定されるものではなく、従来から一般的に使用されているものを用いることができる。例えば、鉱物油、エーテル油系合成油、エステル系合成油、及び炭化水素合成油等の潤滑油、又はそれらの合成油が挙げられる。その中でも、エステル油系合成油、炭化水素合成油を用いることが好ましい。エステル油系合成油としては、ポリオールエステル油、リン酸エステル油、ポリマーエステル油、芳香族エステル油、炭酸エステル油、ジエステル油、ポリグリコール油等が挙げられる。炭化水素系合成油としては、ポリα-オレフィン(PAO)等が挙げられる。
【0020】
基油は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。例えば、粘度の異なる2種類以上を併用して基油を構成するようにしてもよい。
【0021】
グリース組成物中の基油の含有量としては、特に限定されず、ベースグリースを構成する後述の増ちょう剤との配合割合を考慮して決定することができる。例えば、グリース組成物の全量に対して、50質量%以上の割合とすることができ、60質量%以上とすることが好ましく、70質量%以上とすることがより好ましい。なお、上限値は特に限定されず、後述する配合成分の効果を損なわせない範囲で設定すればよく、例えば95質量%以下程度とする。
【0022】
[増ちょう剤]
増ちょう剤は、グリースにおいて油を保持するために必要な材料であり、基油と共にベースグリースを構成する。
【0023】
増ちょう剤の種類としては、特に限定されるものではなく、従来から一般的に使用されているものを用いることができる。
【0024】
具体的には、増ちょう剤は、石鹸系と非石鹸系との大別でき、石鹸系としては、例えばリチウム石鹸、リチウム複合石鹸、カルシウム石鹸、カルシウム複合石鹸、アルミニウム石鹸、アルミニウム複合石鹸が挙げられ、非石鹸系としては、例えばウレア、ナトリウムテレフタラート、フッ素樹脂、有機ベントナイト、シリカゲル等が挙げられる。これらの増ちょう剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0025】
グリース組成物中の増ちょう剤の含有量としては、特に限定されず、ベースグリースを構成する上述の基油の配合割合を考慮して決定することができる。
【0026】
[非イオン系界面活性剤]
上述したように、本実施の形態に係るグリース組成物においては、HLB値が10~15の範囲の非イオン系界面活性剤が配合されている。界面活性剤は、グリースに導電性を付与することができる。
【0027】
界面活性剤において、「HLB」は親水性と親油性のバランスを示す値であり、そのHLB値が10~15の範囲であることにより、グリースに優れた導電性を付与することができる。HLB値が10未満であると、導電性が低下する。一方で、HLB値が11を超えると、親水性が高くなりすぎて、グリース組成物において基油となじみ難くなり溶解しない可能性がある。
【0028】
また、そのHLB値は、11~14の範囲であることが好ましく、12~13.5の範囲であることがより好ましい。好ましくはこのような範囲であることにより、基油に良好に溶解し、またより優れた導電性を付与する。
【0029】
非イオン系界面活性剤としては、HLB値が上述した範囲のものである限りその種類は特に限定されないが、その中でも、疎水基がアルキルエーテル型又はエステル型のものであることが好ましい。
【0030】
具体的に、疎水基がアルキルエーテル型の非イオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリオキシエチレン2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンヒマシ油エーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシアルキレン2-エチルヘキシルエーテル、ポリオキシアルキレンノニルエーテル、ポリオキシアルキレントリデシルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンブロックコポリマー等が挙げられる。
【0031】
また、疎水基がエステル型の非イオン系界面活性剤としては、特に限定されないが、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン多価アルコール脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、多価アルコール脂肪酸エステル、ソルビタンエステル、グリセリンエステル、プロピレングリコールエステル、ポリエチレングリコール脂肪酸エスエル等が挙げられる。
【0032】
これらの非イオン系界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよく、複数種類を併用してもよい。
【0033】
非イオン系界面活性剤の含有量は、特に限定されないが、グリース組成物の全量に対して、0.1質量%以上とすることが好ましく、0.2質量%以上とすることがより好ましく、0.5質量%以上とすることが特に好ましい。また、非イオン系界面活性剤の含有量は、グリース組成物の全量に対して、10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましく、3質量%以下とすることが特に好ましい。なお、複数の非イオン系界面活性剤を用いる場合には、その合計含有量が、上述した範囲となるように配合することが好ましい。
【0034】
[その他]
本実施の形態に係るグリース組成物では、上述した各成分に加え、更に、潤滑油やグリースに一般的に用いられている各種添加剤、例えば、極圧剤、酸化防止剤、防錆剤、ポリマー添加剤等を必要に応じて配合することができる。また、上述した成分以外の摩擦調整剤、耐摩耗剤、及び固体潤滑剤等の添加剤を更に添加することもできる。
【0035】
これらの添加剤を含有させる場合の含有量は、それぞれ、グリース組成物の全量中、0.1質量%~10質量%程度の割合とすることが好ましい。
【0036】
なお、上述した添加剤は、基油と、増ちょう剤と共に、ベースグリースを構成する成分として含有させてもよいことは言うまでもない。
【0037】
≪2.グリース組成物の製造方法≫
本実施の形態に係るグリース組成物は、上述したように、基油と、増ちょう剤と、を含むベースグリースに、HLB値が10~15の範囲の非イオン系界面活性剤を配合してなる。このグリース組成物は、従来のグリース組成物と同様に、周知の方法により製造することができる。
【0038】
具体的には、例えば、基油と、金属石鹸等の増ちょう剤とを混練してベースグリースを作製し、このベースグリースに、HLB値が10~15の非イオン系界面活性剤を添加して分散させ、さらに必要に応じて各種の添加剤を加えて混練することにより得られる。
【0039】
混練処理においては、例えば三本ロール、万能撹拌機、ホモジナイザー、コロイドミル等の周知の撹拌・分散処理装置を用いて行うことができる。なお、上述のように各成分を順に添加して混練することに限られず、各成分を同時に添加し混練してもよい。
【実施例0040】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0041】
[グリース組成物の製造]
実施例、比較例において、ベースグリースに下記表1に示すように添加剤を配合してグリース組成物を製造した。
【0042】
具体的に、実施例1~10では、先ず、基油及び脂肪酸をビーカーに一定量秤量し、脂肪酸が溶融するまで撹拌しながら加熱した。アルカリを使用して1次及び2次けん化反応を生じさせ、完全に水分を除去した後、所定の温度まで昇温し、その後自然冷却してベースグリースを作製した。次に、作製したベースグリースと、添加剤として下記表1に示す非イオン系界面活性剤とを秤量し、撹拌処理及び分散処理を施してグリース組成物を製造した。撹拌は、万能撹拌機を用いて行った。また、分散処理は、三本ロールミルを用いて行った。
【0043】
なお、基油としては鉱物油及びポリアルファオレフィン(PAO)を用い、上述のようにして、リチウム複合石鹸を増ちょう剤として含有するベースグリースとした。
【0044】
比較例1では、ベースグリースのみから構成し、比較例2~7では、添加剤として下記表1に示す化合物を添加した。このこと以外は、実施例と同様にした。
【0045】
[評価]
実施例1~10、比較例1~7のグリース組成物について、室温における体積抵抗率を測定した。体積抵抗率(単位体積あたりの抵抗値)は、グリースを塗布した黄銅板の間に印加し、断面積に一定電流を流して、離れた電極間の電位差を測ることにより算出した。下記表1に結果を示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1の結果に示されるように、HLB値が10~15の非イオン系界面活性剤が配合されてなるグリース組成物(実施例1~10)では、比較例のグリース組成物に比べて抵抗値が有効に低下した。すなわち、実施例のグリース組成物によれば、優れた導電性を付与できることがわかった。