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特開2023-139513紫外線治療器および紫外線治療器の紫外線照射方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139513
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】紫外線治療器および紫外線治療器の紫外線照射方法
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/06 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
A61N5/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045080
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】506218664
【氏名又は名称】公立大学法人名古屋市立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000102212
【氏名又は名称】ウシオ電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】森田 明理
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 尚司
(72)【発明者】
【氏名】木尾 智彦
(72)【発明者】
【氏名】柴田 弘
【テーマコード(参考)】
4C082
【Fターム(参考)】
4C082PA03
4C082PC01
4C082PE09
4C082PG15
4C082PG16
4C082PJ03
(57)【要約】      (修正有)
【課題】優れた治療効果を得ることができる紫外線治療器を提供する。
【解決手段】紫外線を含む光を放射する複数のLEDと、LEDからの光を放射する光放射面と、LEDを複数に区画して、各LEDの点灯を区画毎に制御する制御部45と、基準光源から放射される基準光を治療光として用いた場合に患者に照射すべき治療光の照射量である設定照射量を入力する入力部41と、設定照射量を補正するためのパラメータを区画毎に記録する記録部43とを備え、制御部が、記録部に記録されたパラメータに基づいて、入力部により入力された設定照射量を区画毎に補正する補正部53と、光の照射量が補正部により補正された補正後の設定照射量となるようにLEDを区画毎に点灯させる点灯制御部54とを備え、補正後の設定照射量が、基準光による人体への影響度と、光放射面から放射される光による人体への影響度とに基づいて導出される照射量である紫外線治療器1。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線を含む光を放射する複数のLEDと、
該LEDからの光を放射する光放射面と、
前記LEDを複数に区画して、各前記LEDの点灯を区画毎に制御する制御部と、
基準光源から放射される基準光を治療光として用いた場合に患者に照射すべき前記治療光の照射量である設定照射量を入力する入力部と、
前記設定照射量を補正するためのパラメータを前記区画毎に記録する記録部とを備え、
前記制御部が、前記記録部に記録された前記パラメータに基づいて、前記入力部により入力された前記設定照射量を前記区画毎に補正する補正部と、前記光の照射量が前記補正部により補正された補正後の設定照射量となるように前記LEDを前記区画毎に点灯させる点灯制御部とを備え、
前記補正後の設定照射量が、前記基準光による人体への影響度と、前記光放射面から放射される前記光による前記人体への影響度とに基づいて導出される照射量である紫外線治療器。
【請求項2】
前記記録部が、前記パラメータとして、前記基準光による前記人体への影響度を前記光放射面から放射される前記光による前記人体への影響度によって除した値である補正係数を記録し、
前記補正部が、前記入力部により入力された前記設定照射量に、前記記録部に記録された前記補正係数を乗じることにより、前記補正後の設定照射量を算出する請求項1に記載の紫外線治療器。
【請求項3】
前記記録部が、前記パラメータとして、前記基準光の分光スペクトルと、前記光放射面から放射される前記光の分光スペクトルと、紅斑作用スペクトルとを少なくとも記録し、
前記補正部が、前記記録部に記録された前記基準光の前記分光スペクトルと前記紅斑作用スペクトルとの積に基づいて前記基準光による前記人体への影響度を算出するとともに、前記記録部に記録された前記光放射面から放射される前記光の前記分光スペクトルと前記紅斑作用スペクトルとの積に基づいて前記光放射面から放射される光による前記人体への影響度を算出し、前記基準光による前記人体への影響度を前記光放射面から放射される前記光による前記人体への影響度によって除した値である補正係数を算出し、前記入力部により入力された前記設定照射量に前記補正係数を乗じることにより、前記補正後の設定照射量を算出する請求項1に記載の紫外線治療器。
【請求項4】
前記記録部が、前記光放射面から放射される前記光の放射照度を記録し、
前記点灯制御部が、前記補正後の設定照射量を前記光放射面から放射される前記光の前記放射照度で除算することにより、前記LEDからの前記光の照射時間を算出し、算出された該照射時間を用いて、前記LEDを点灯させる請求項1に記載の紫外線治療器。
【請求項5】
前記点灯制御部が、前記補正後の設定照射量を予め設定された照射時間で除算することにより、前記光放射面から放射される前記光の放射照度を算出し、算出された該放射照度を用いて、前記照射時間にわたって、前記LEDを点灯させる請求項1に記載の紫外線治療器。
【請求項6】
前記影響度が、分光スペクトルと紅斑作用スペクトルとの積を予め設定された波長区間で波長積分した値である請求項1に記載の紫外線治療器。
【請求項7】
前記波長区間が、250nm以上400nm以下である請求項6に記載の紫外線治療器。
【請求項8】
前記影響度が、UVインデックスであることを請求項1に記載の紫外線治療器。
【請求項9】
前記LEDが、波長308nm以上313nm以下にピークを有する前記光を放射するように製造されたものである請求項1から請求項8のいずれかに記載の紫外線治療器。
【請求項10】
前記LEDが、波長308nmにピークを有する前記光を放射するように製造されたものである請求項9に記載の紫外線治療器。
【請求項11】
前記基準光源が、波長308nm以上313nm以下にピークを有する前記基準光を放射するランプである請求項9に記載の紫外線治療器。
【請求項12】
前記基準光源が、エキシマランプである請求項11に記載の紫外線治療器。
【請求項13】
前記基準光源が、波長308nm以上313nm以下にピークを有する前記基準光を放射するLEDである請求項9に記載の紫外線治療器。
【請求項14】
複数のLEDから出射される紫外線を含む光を放射する光放射面を有する紫外線治療器の紫外線照射方法であって、
基準光源から放射される基準光を治療光として用いた場合に患者に照射すべき前記治療光の照射量である設定照射量を入力する第1の工程と、
前記基準光による人体への影響度と、前記光放射面から放射される前記光による前記人体への影響度とを比較して、前記設定照射量を、少なくとも1つの前記LEDを含む区画毎に補正する第2の工程と、
前記光の照射量が補正後の前記設定照射量となるように前記LEDを前記区画毎に点灯させる第3の工程とを含む紫外線治療器の紫外線照射方法。
【請求項15】
前記第2の工程が、前記光放射面から放射される前記光の分光スペクトルを、予め設定された波長区間で測定する工程と、
前記光放射面から放射される前記光の前記分光スペクトルと紅斑作用スペクトルとを乗算し、前記波長区間にわたって波長積分することにより、紅斑紫外線量を算出する工程と、
前記紅斑紫外線量を前記光放射面から放射される前記光の前記分光スペクトルの前記波長区間の積分値で規格化して、前記光放射面から放射される前記光による前記人体への影響度である相対紅斑紫外線量を算出する工程と、
前記基準光の分光スペクトルを、前記波長区間で測定する工程と、
前記基準光の前記分光スペクトルと前記紅斑作用スペクトルとを乗算し、前記波長区間にわたって波長積分することにより、基準紅斑紫外線量を算出する工程と、
前記基準紅斑紫外線量を前記基準光の前記分光スペクトルの前記波長区間の積分値で規格化することにより、前記基準光による前記人体への影響度である基準相対紅斑紫外線量を算出する工程と、
前記基準相対紅斑紫外線量を前記相対紅斑紫外線量によって除し、補正係数を算出する工程と、
前記設定照射量に前記補正係数を乗ずることにより、前記補正後の設定照射量を算出する工程とを含む請求項14に記載の紫外線治療器の紫外線照射方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、紫外線治療器および紫外線治療器の紫外線照射方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光線治療として、UVA(波長320nm~400nm)、UVB(波長280~320nm)といった波長域の紫外線を用いる紫外線治療が存在する。紫外線治療とは、紫外線照射により免疫抑制を図り、治療効果を得るものである。例えば、特許文献1には、紫外線によって皮膚疾患を治療する紫外線治療器が開示されている。この紫外線治療器は、紫外線源としてランプ光源やLEDを備える。
【0003】
LEDを光源として用いた場合、概して、ランプの電源装置よりも簡単な回路構成を実現でき、装置の小型化、軽量化が可能である。そのため、近年、紫外線の光源として紫外線発光素子(UVLED)を用いた紫外線治療器が提案されている。なお、以下の説明においては、紫外線および紫外線を含む光を、単に「光」と呼ぶこともある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2017-131522号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
例えば、UVBの波長域の紫外線を利用する紫外線治療器として、波長308nmにピークを有する光を放射するエキシマランプを用いたものが知られている。これに対して、紫外線を放射するLEDの一つとして、波長308nmにピークを有する光を放射するもの(以下「308nmLED」と呼ぶ。)がある。そこで、上記のエキシマランプを用いたUVB治療器の代替として、308nmLEDを用いた治療器を採用することが考えられる。しかしながら、LEDはランプとは異なり、ピーク波長308nmを狙って製造されたLEDであっても、製造上のばらつきにより、LEDから放射される光のピーク波長には±5nm程度のばらつきが生じ得る。つまり、308nmLEDの中には、308nmに波長のピークを持つものだけでなく、303nm~313nmの波長範囲にピークを持つものが含まれる。
【0006】
一方、UVB領域の紫外線が皮膚へ及ぼす影響は、当該紫外線の波長毎に異なる。一般に、紫外線治療器においては、光源から放射される光の波長に応じて、患部に紅斑が発生しない範囲で光を照射して、治療効果を得るようにしている。そのため、紫外線治療器の光源として複数のLEDを使用する場合に、光源として使用するLEDの個体差によって、紫外線治療器から放射される光の波長に光放射面の位置により差が生じると、患部に対して、紅斑が発生しない範囲で光を照射したつもりであっても紅斑が発生したり、反対に治療効果が不足したりすることがある。
【0007】
そこで、本発明は、LEDの個体差によらずに、紅斑を発生させることなく、優れた治療効果を得ることができる紫外線治療器および紫外線治療器の紫外線照射方法を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の態様は、紫外線を含む光を放射する複数のLEDと、該LEDからの光を放射する光放射面と、前記LEDを複数に区画して、各前記LEDの点灯を区画毎に制御する制御部と、基準光源から放射される基準光を治療光として用いた場合に患者に照射すべき前記治療光の照射量である設定照射量を入力する入力部と、前記設定照射量を補正するためのパラメータを前記区画毎に記録する記録部とを備え、前記制御部が、前記記録部に記録された前記パラメータに基づいて、前記入力部により入力された前記設定照射量を前記区画毎に補正する補正部と、前記光の照射量が前記補正部により補正された補正後の設定照射量となるように前記LEDを前記区画毎に点灯させる点灯制御部とを備え、前記補正後の設定照射量が、前記基準光による人体への影響度と、前記光放射面から放射される前記光による前記人体への影響度とに基づいて導出される照射量である紫外線治療器である。
本態様によれば、紫外線治療器に備えられる複数のLEDの点灯が、制御部により区画毎に制御される。LEDから放射される光の波長が区画毎にばらついていても、各区画から放射される光に適した照射量で紫外線照射を行うことができる。これにより、光放射面における紅斑作用のむらの発生を防止して患部に紅斑を生じさせることなく、優れた治療効果を得る均一な紫外線照射を行うことができる。
【0009】
この場合に、基準光を治療光とした場合に適した設定照射量を、基準光による人体への影響度と、実際に治療に用いる紫外線治療器(本治療器)の光放射面から放射される光による人体への影響度とに基づいて区画毎に補正してLEDを点灯させる。したがって、基準光と本治療器から放射される光との間で波長の差異が生じている場合であっても、本治療器から放射される光に適した照射量で紫外線照射を行うことができる。そのため、患部に紅斑を生じさせることなく、優れた治療効果を得ることができる。
【0010】
上記態様においては、前記記録部が、前記パラメータとして、前記基準光による前記人体への影響度を前記光放射面から放射される前記光による前記人体への影響度によって除した値である補正係数を記録し、前記補正部が、前記入力部により入力された前記設定照射量に、前記記録部に記録された前記補正係数を乗じることにより、前記補正後の設定照射量を算出してもよい。
この場合、簡易な演算で補正後の設定照射量を導出することができる。
【0011】
また、上記態様においては、前記記録部が、前記パラメータとして、前記基準光の分光スペクトルと、前記光放射面から放射される前記光の分光スペクトルと、紅斑作用スペクトルとを少なくとも記録し、前記補正部が、前記記録部に記録された前記基準光の前記分光スペクトルと前記紅斑作用スペクトルとの積に基づいて前記基準光による前記人体への影響度を算出するとともに、前記記録部に記録された前記光放射面から放射される前記光の前記分光スペクトルと前記紅斑作用スペクトルとの積に基づいて前記光放射面から放射される光による前記人体への影響度を算出し、前記基準光による前記人体への影響度を前記光放射面から放射される前記光による前記人体への影響度によって除した値である補正係数を算出し、前記入力部により入力された前記設定照射量に前記補正係数を乗じることにより、前記補正後の設定照射量を算出してもよい。
この場合、適切に補正後の設定照射量を導出することができる。
【0012】
また、上記態様においては、前記記録部が、前記光放射面から放射される前記光の放射照度を記録し、前記点灯制御部が、前記補正後の設定照射量を前記光放射面から放射される前記光の前記放射照度で除算することにより、前記LEDからの前記光の照射時間を算出し、算出された該照射時間を用いて、前記LEDを点灯させてもよい。
この場合、LEDの点灯時間を制御して、光の照射量が補正後の設定照射量となるように適切に制御することができる。
【0013】
また、上記態様においては、前記点灯制御部が、前記補正後の設定照射量を予め設定された照射時間で除算することにより、前記光放射面から放射される前記光の放射照度を算出し、算出された該放射照度を用いて、前記照射時間にわたって、前記LEDを点灯させてもよい。
この場合、LEDの電流値を制御して、光の照射量が補正後の設定照射量となるように適切に制御することができる。
【0014】
また、上記態様においては、前記影響度が、分光スペクトルと紅斑作用スペクトルとの積を予め設定された波長区間で波長積分した値であってもよい。
この場合、基準光による人体への影響度と本治療器から放射される光による人体への影響度とに基づいて適切に補正された設定照射量を得ることができる。
【0015】
また、上記態様においては、前記波長区間が、250nm以上400nm以下であってもよい。
この場合、紅斑作用スペクトルが定義されている波長区間で適切に導出された影響度に基づく補正後の設定照射量を得ることができる。
【0016】
また、上記態様においては、前記影響度が、UVインデックスであってもよい。
この場合、UVインデックス測定器を用いることで、より簡易的に人体への影響度を測定、算出することができる。
【0017】
また、上記態様においては、前記LEDが、波長308nm以上313nm以下にピークを有する前記光を放射するように製造されたものであってもよい。
この場合、中波紫外線療法が適応される各種皮膚疾患を適切に治療することができる。
【0018】
また、上記態様においては、前記LEDが、波長308nmにピークを有する前記光を放射するように製造されたものであってもよい。
この場合、波長308nmにピークを有する従来のエキシマランプを光源とする紫外線治療器と同様に各種皮膚疾患を適切に治療することができる。
【0019】
また、上記態様においては、前記基準光源が、波長308nm以上313nm以下にピークを有する前記基準光を放射するランプであってもよい。
この場合、ランプを光源とする紫外線治療器に設定していた照射量を、本治療器に入力する設定照射量として使用することができる。
【0020】
また、上記態様においては、前記基準光源が、エキシマランプであってもよい。
この場合、従来のエキシマランプを光源とする紫外線治療器に設定していた照射量を、本治療器に入力する設定照射量として使用することができる。
【0021】
また、上記態様においては、前記基準光源が、波長308nm以上313nm以下にピークを有する前記基準光を放射するLEDであってもよい。
この場合、特定の波長のLEDを光源としたときの実際の照射量を、本治療器に入力する設定照射量として使用することができる。
【0022】
また、第2の態様は、複数のLEDから出射される紫外線を含む光を放射する光放射面を有する紫外線治療器の紫外線照射方法であって、基準光源から放射される基準光を治療光として用いた場合に患者に照射すべき前記治療光の照射量である設定照射量を入力する第1の工程と、前記基準光による人体への影響度と、前記光放射面から放射される前記光による前記人体への影響度とを比較して、前記設定照射量を、少なくとも1つの前記LEDを含む区画毎に補正する第2の工程と、前記光の照射量が補正後の前記設定照射量となるように前記LEDを前記区画毎に点灯させる第3の工程とを含む紫外線治療器の紫外線照射方法である。
【0023】
このように、基準光を治療光とした場合に適した設定照射量を、基準光による人体への影響度と、実際に治療に用いる紫外線治療器の光放射面から放射される光による人体への影響度とに基づいて補正してLEDを点灯させる。したがって、基準光と紫外線治療器から放射される光との間で波長の差異が生じている場合であっても、紫外線治療器から放射される光に適した照射量で紫外線照射を行うことができる。また、区画毎に光放射面から放射される光に波長の差異が生じている場合であっても、患部に対する影響度を等しくして、広い患部にむらなく放射することができる。そのため、患部に紅斑を発生させることなく、優れた治療効果を得ることができる。
【0024】
上記態様においては、前記第2の工程が、前記光放射面から放射される前記光の分光スペクトルを、予め設定された波長区間で測定する工程と、前記光放射面から放射される前記光の前記分光スペクトルと紅斑作用スペクトルとを乗算し、前記波長区間にわたって波長積分することにより、紅斑紫外線量を算出する工程と、前記紅斑紫外線量を前記光放射面から放射される前記光の前記分光スペクトルの前記波長区間の積分値で規格化して、前記光放射面から放射される前記光による前記人体への影響度である相対紅斑紫外線量を算出する工程と、前記基準光の分光スペクトルを、前記波長区間で測定する工程と、前記基準光の前記分光スペクトルと前記紅斑作用スペクトルとを乗算し、前記波長区間にわたって波長積分することにより、基準紅斑紫外線量を算出する工程と、前記基準紅斑紫外線量を前記基準光の前記分光スペクトルの前記波長区間の積分値で規格化することにより、前記基準光による前記人体への影響度である基準相対紅斑紫外線量を算出する工程と、前記基準相対紅斑紫外線量を前記相対紅斑紫外線量によって除し、補正係数を算出する工程と、前記設定照射量に前記補正係数を乗ずることにより、前記補正後の設定照射量を算出する工程とを含んでいてもよい。
この場合、適切に補正後の設定照射量を算出することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、光源として紫外線を出射するLED(UVLED)を用いた紫外線治療器において、光源であるLEDの個体差によらずに、患部に紅斑を発生させることなく、優れた治療効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の一実施形態に係る紫外線治療器を示すブロック図である。
図2図1の紫外線治療器のLED駆動ユニットおよび治療具を示すブロック図である。
図3】CIEの紅斑作用スペクトルを示すグラフである。
図4】分光スペクトルを示すグラフである。
図5】分光スペクトルと紅斑作用スペクトルとの積を示すグラフである。
図6】個々人のMEDの比率を示す図である。
図7】従来の紫外線治療器の処理フローを示す図である。
図8】本実施形態における紫外線治療器の処理フローを示す図である。
図9】4人の被験者に対して実施したMEDの実測値を示す表である。
図10図9のMEDの平均値を用いた補正前後の照射量を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の一実施形態に係る紫外線治療器1について、図面を参照して以下に説明する。
本実施形態に係る紫外線治療器1は、図1に示されるように、紫外線を含む光を放射するLED50を有する治療具2と、治療具2が有するLED50を制御する本体部4とを備える。
【0028】
治療具2は、図2に示されるように、操作者によって把持される筐体51の内部に、例えば、正方配列された4×4=16個のLED50を備えている。筐体51には、16個のLED50を正方配列された2×2=4個ずつの4つの区画X(X=1~4)が設けられている。
LED50の数は任意でよいし、区画Xの数も任意でよい。区画Xに含まれるLED50の数も任意でよい。また、LED50は正方配列ではなく同心円配列されていても、他の任意の方式に従って配列されていてもよい。
【0029】
本体部4は、入力部41と、表示部42と、記録部43と、電源ユニット44と、制御ユニット(制御部)45と、LED駆動ユニット46a,46b,46c,46dとを備える。治療具2と本体部4とは接続線6により接続されており、接続線6は、太線によって示す電源線6aと、細線によって示す信号線6bとを備える。
【0030】
入力部41は、操作者(例えば、医師)により入力された設定照射量Hを取得し、その情報を制御ユニット45に出力する。
表示部42は、紫外線の照射強度や照射時間、紫外線照射中の経過時間などを表示することができる。また、表示部42は、紫外線治療器1において何らかの異常が発生した場合には、異常が発生していることを示す情報(エラーメッセージなど)を表示することもできる。
記録部43は、紫外線治療器1の光放射面における区画X毎の放射照度Eと、設定照射量Hを補正するための区画X毎の補正係数pとを記録する。
【0031】
電源ユニット44は、外部電源8から供給された電力を、後段の各ユニット42,4546a,46b,46c,46dに適切な電圧に変換し、供給する。
制御ユニット45は、入力部41から入力された設定照射量Hを記録部43に記録された補正係数pを用いて補正し、区画X毎の補正後の設定照射量Hを記録部43に記録された放射照度Eによって除算することにより区画X毎の照射時間tを算出する。
【0032】
そして、制御ユニット45は、LED駆動ユニット46a,46b,46c,46dを制御し、治療具2が有するLED50の照射量(照射時間t)を制御する。つまり、制御ユニット45は、設定照射量Hを補正する補正部53と、LED50からの光の照射量が補正後の設定照射量HとなるようにLED50を点灯させる点灯制御部54とを有する。
【0033】
LED駆動ユニット46a,46b,46c,46dは、4つの区画X毎に設けられている。4つのLED駆動ユニット46a,46b,46c,46dは、制御ユニット45からの制御信号に従い、対応する区画Xに属するLED50にそれぞれ給電を行う。
【0034】
以下、本実施形態において用いる量について説明する。
本実施形態に係る紫外線治療器1の治療具2は、紫外線を含む光として、例えば、UVB(波長280nm~320nm)の領域の紫外線を含む光を放射する。ここでは、波長308nmにピークを有する光を放射するように製造されたLED50を備える場合について説明する。
【0035】
UVB領域の紫外線をヒトの皮膚に当てると、紅斑が発生することがある。紅斑とは、毛細血管の拡張などが原因で皮膚表面に発赤を伴った状態をいう。皮膚に紅斑が発生する最低の紫外線照射量を最少紅斑量(MinimalErythemaDose:MED)という。なお、MEDの単位は、mJ/cmである。日焼けのしやすさに個人差があるように、紅斑の出やすさ、すなわちMEDにも個人差がある。
【0036】
また、紫外線による紅斑の出やすさ、つまり紫外線による人体への影響度は、当該紫外線の波長により異なる。波長毎の人体への相対影響度については、国際照明委員会(CIE:Commission Internationale de l′Eclairage)により紅斑作用スペクトルとして定義されている。
【0037】
図3は、紅斑作用スペクトルを示すグラフである。
この図3において、横軸は波長λ(nm)であり、縦軸は相対影響度である。紅斑作用スペクトルSerは、250nm~400nmの波長区間において定義されており、下記(1)式に定義式を示すように、波長250nm~298nmの光が皮膚に与える影響を1とした場合の、各波長の相対影響度として示される。
【0038】
【数1】
【0039】
図3に示すグラフの概形から、波長が短い方が人体の影響が大きく、紅斑が出やすいということがわかる。具体的には、UVBの領域よりも長い波長の光、厳密に上記(1)式を適用するのであれは波長328nmよりも長波長の光は、皮膚にほとんど影響を及ぼさない。一方、波長が328nm以下になると、皮膚へ影響が生じ始め、その影響は短波長になるほど増加する。
このことから、波長が短い方がMEDは小さいということがわかる。つまり、MEDは、この紅斑作用スペクトルSerと反比例の関係にある。
【0040】
そして、紫外線による人体への総合的な影響度は、照射される紫外線の分光放射照度Λと紅斑作用スペクトルSerとの積を、250nm~400nmの区間で波長積分することにより得られる。このようにして求められる影響度を、紅斑紫外線量Iという。
【0041】
【数2】
【0042】
また、紫外線による人体への総合的な影響度として、UVインデックスIUVがよく用いられる。UVインデックスIUVと紅斑紫外線量Iとは、下記(3)式の関係にある。UVインデックスIUVは、簡易的な測定器により測定することが可能である。
UV=I/25 (3)
【0043】
図3からもわかるように、特に波長298nm以上310nm以下の波長範囲では、わずか1nmの波長の差でも、人体への影響度は大きく変化する。
図4は、ピーク波長が306nm、307nm、308nm、309nmのLED光の分光スペクトルを示すグラフである。この分光スペクトルは、波長250nm~400nmの区間で波長積分した値が1となるように規格化されている。図4の縦軸の値は、次式で表される。
【0044】
【数3】
【0045】
図5は、図4に示す分光スペクトルと図3に示す紅斑作用スペクトルSerとの積を示すグラフである。図5の縦軸の値は、次式で表される。
【0046】
【数4】
【0047】
この図5に示すように、ピーク波長が1nm違うだけで、人体への影響度は大きく異なる。
そのため、例えば、ピーク波長308nmを狙って製造されたLED(308nmLED)を使用した紫外線治療器で治療を受けようとする場合、その308nmLEDから放射される光のピーク波長が、LED50の製造上のばらつきにより1nmずれるだけで、紅斑が発生したり、反対に治療効果が不足したりする。
【0048】
例えば、波長308nmの光でのMEDが200mJ/cmの人が、紅斑が生じない範囲で最大の治療効果をあげるために、308nmLEDを使用した紫外線治療器の設定照射量を、例えば、190mJ/cm(MEDより少しだけ低い照射量)に設定して治療を受ける場合について考える。この場合、その紫外線治療器の308nmLEDが、実際は波長307nmにピークを有するLEDであると、波長307nmの光でのMEDを上回る紫外線照射を受けることになり、患部に紅斑が発生してしまう。
ここで、波長308nmの光でのMEDが200mJ/cmである人の波長307nmの光でのMEDは、紅斑作用スペクトルSerをもとに約161mJ/cmであると計算できる。
【0049】
反対に、その紫外線治療器の308nmLEDが、実際は波長309nmにピークを持つLEDであった場合は、皮膚に与える影響が想定よりも小さくなる。したがって、190mJ/cmの照射では、患部に対して最大の治療効果をあげられない、言い換えると、紅斑の発生しない範囲で、もう少し多くの照射ができたということになる。
【0050】
このように、LED50は素子間で波長にばらつきが生じ得るため、同じ紫外線照射量を設定しても、複数のLEDを光源とした紫外線治療器では紅斑の出方や治療効果の出方が治療器の光放射面の位置により変わってしまう可能性がある。本実施形態では、このような波長の面内ばらつきを考慮して、紫外線治療器に設定された紫外線照射量(設定照射量)を区画毎に補正する。
【0051】
本発明者らは、各波長のMED(紅斑の出やすさ)には個人差があるが、MEDの比率には個人差はなく、CIEの紅斑作用スペクトルSerに準ずることを確認した。
図6は、個々人のMEDの比率を示す図である。図6における□、△、〇、◇は、4人の被験者のMED比をプロットしたものである。このプロットの値は、個々人の波長毎のMED(306nmLED、307nmLED、308nmLED、309nmLEDのMED)を、個々人の308nmLEDのMEDで除算した値である。また、図6の破線によって示す曲線は、紅斑作用スペクトルSerをもとに計算されたMED比である。
【0052】
上記知見から、本発明者らは、任意の基準の紫外線治療器(基準治療器とも言う。)から放射される基準光による人体への影響度と、実際に治療に用いる紫外線治療器(本治療器とも言う。)から放射される光による人体への影響度との比率に基づいて、基準治療器から患者に照射すべき最適な照射量(基準光での患者のMEDに応じた照射量)を補正する。これにより、本治療器から患者に照射すべき最適な照射量(本治療器の光を用いた場合の患者のMEDに応じた照射量)を算出できることを見出した。
本実施形態では、波長308nmにピークを有する光を放射するエキシマランプを基準光源として用いる場合について説明する。
【0053】
まず、従来のエキシマランプを光源とした紫外線治療器を用いた場合の処理フローについて、図7を参照しながら説明する。
エキシマランプは、LED50とは異なり、製造上の波長のばらつきは殆どなく、紫外線治療器として狙った波長308nmの光を放射することができる。そのため、複数の光源を用いた治療器であっても光放射面の位置により波長の違いを考慮して紫外線照射量を補正する必要がない。
【0054】
この図7において、ステップS11は、工場にて紫外線治療器の出荷前に実施される処理であり、ステップS21~S23は、例えば、病院等での治療時に実施される処理である。
ステップS11においては、紫外線治療器の光放射面における放射照度E[mW/cm]を測定し、測定された放射照度Eを紫外線治療器に記録する。
【0055】
ステップS21においては、医師が患者を診察し、疾患に応じて適切な照射量(設定照射量)H[mJ/cm]を決定し、紫外線治療器に入力する。
紫外線治療器に入力される設定照射量Hは、波長308nmのエキシマランプ光での患者のMEDに応じた照射量であり、例えば、波長308nmのエキシマランプ光での患者のMEDよりも若干小さい照射量とすることができる。
【0056】
ステップS22においては、紫外線治療器における照射時間tが自動計算される。具体的には、紫外線治療器は、医師から入力された設定照射量Hを取得し、当該設定照射量Hを紫外線治療器に記録されている放射照度Eによって除算し、照射時間t[sec]を算出する。
t=H/E (6)
【0057】
ステップS23においては、医師、場合によっては看護師などの医療従事者が、患部に紫外線治療器の光放射面を押し当て、紫外線治療器に設けられたスイッチを押し、紫外線照射を開始して治療処置を実施する。この治療処置は、照射時間t秒後に終了する。
【0058】
上記のように、光源としてエキシマランプを使用した場合、紫外線治療器からは狙ったとおりの波長の光が放射される。つまり、ステップS21において入力された設定照射量Hは、本治療器の光での患者のMEDに応じた最適な照射量となっている。そのため、設定照射量Hをそのまま照射時間tの算出に用いることができる。
【0059】
次に、本実施形態におけるLED50を光源とした紫外線治療器1を用いた場合の処理フローについて、図8を参照しながら説明する。ここでは、光源として、波長308nmにピークを有する光を放射するように製造されたLED50を使用する場合について説明する。
【0060】
上述したように、LED50においては素子間において波長にばらつきが生じ得る。つまり、波長308nmの光を放射するように製造されたLED50を光源として使用した場合であっても、紫外線治療器1から放射される光のピーク波長は光放射面の位置により308nmからずれる可能性がある。そのため、波長308nmの光における患者のMEDに応じて設定された照射量は、本治療器1の光放射面の位置により最適な照射量になるとは限らない。
そこで、本実施形態においては、波長の光放射面内のばらつきを考慮して上記設定照射量Hを補正し、区画X毎の補正後の設定照射量Hに基づいて紫外線照射を実施する。
【0061】
この図8において、ステップS11’~S13は、工場にて紫外線治療器1の出荷前に実施される処理であり、ステップS21~S23は、例えば、病院等での治療時に実施される処理である。なお、図8において、図7と同一処理を行うステップには図7と同一ステップ番号を付している。
【0062】
ステップS11’においては、紫外線治療器1の区画X(X=1~4)のLED50を点灯させたときの光放射面における放射照度E[mW/cm]を測定し、測定された放射照度Eを紫外線治療器1に記録する。ここで測定される放射照度Eは、各区画Xに属する1以上のLED50から放射される光の合成光の区画X毎の放射照度である。
【0063】
ステップS12においては、紫外線治療器1の区画XのLED50を点灯させたときの光放射面における分光放射照度(波長別紫外線照度)Λ[mW/cm・nm]を、少なくとも波長250nm~400nmの区間において測定する。
【0064】
また、紫外線治療器1の区画Xにおける分光放射照度Λと、CIEの紅斑作用スペクトルSerとを乗算し、波長250nm~400nmの区間にわたって波長積分した値である区画Xにおける紅斑紫外線量I[mW/cm]を算出する。区画Xにおける紅斑紫外線量Iは、上記(2)式により表される。
【0065】
次に、算出された紅斑紫外線量Iを、紫外線治療器1の分光放射照度Λの波長250nm~400nmの区間の積分値を用いて規格化し、(7)式に示すように、区画Xにおける相対紅斑紫外線量Rを算出する。
【0066】
【数5】
【0067】
ステップS13においては、設定照射量Hを補正するための区画Xにおける補正係数pを算出し、算出された補正係数pを紫外線治療器1に記録する。
補正係数pは、例えば、区画X=1のLED50を点灯させたときの相対紅斑紫外線量を、基準相対紅斑紫外線量Rstdとして、(8)式により算出する。
【0068】
=Rstd/R (8)
【0069】
そして、ステップS11’~S13を各区画X(X=1~4)について繰り返す。各区画Xについて繰り返した後、ステップS21に移行する。
【0070】
相対紅斑紫外線量Rは、紫外線治療器1の区画XのLED50を点灯させたときに光放射面から放射される光による人体への影響度であり、図5に示す分光スペクトルと紅斑作用スペクトルSerとの積を、波長250nm~400nmの区間にわたって波長積分した値に相当する。
したがって、ここでは分光放射照度Λと紅斑作用スペクトルSerとの積を波長250nm~400nmの区間にわたって波長積分して紅斑紫外線量Iを算出し、紅斑紫外線量Iを規格化して相対紅斑紫外線量Rを算出する場合について説明したが、紫外線治療器1から放射される光の分光スペクトルと紅斑作用スペクトルSerとの積を波長250nm~400nmの区間にわたって波長積分して、相対紅斑紫外線量Rを直接算出するようにしてもよい。
【0071】
また、基準相対紅斑紫外線量Rstdは、基準光による人体への影響度である。
基準相対紅斑紫外線量Rstdとして区画1のLED50を点灯させたときの相対紅斑紫外線量を利用したが、これに代えて、他の区画XのLED50を点灯させたときの相対紅斑紫外線量を利用してもよい。また、全てのLED50を点灯させたときの分光放射照度あるいは別途用意した基準光源の分光放射照度を利用してもよい。
または、基準光の分光スペクトルと紅斑作用スペクトルSerとの積を波長250nm~400nmの区間で波長積分して、基準相対紅斑紫外線量Rstdを算出してもよい。
【0072】
ステップS21においては、医師が患者を診察し、疾患に応じて適切な照射量(設定照射量)H[mJ/cm]を決定し、紫外線治療器1に入力する。
紫外線治療器1に入力される設定照射量Hは、上記任意の基準光(例えば、波長308nmのエキシマランプ光)における患者のMEDに応じた照射量であり、例えば、基準光における患者のMEDよりも若干小さい照射量とすることができる。
【0073】
ステップS22においては、紫外線治療器1において区画Xにおける照射時間tが自動計算される。具体的には、紫外線治療器1は、医師から入力された設定照射量Hを取得し、当該設定照射量Hに紫外線治療器1に記録されている補正係数pを乗じることにより、補正後の設定照射量H(=H×p)を算出する。補正係数pは区画X毎に記録されており、補正後の設定照射量Hは区画X毎に算出される。そして、補正後の設定照射量Hを紫外線治療器1に記録されている放射照度Eにより除算し、補正された照射時間t[sec]を区画X毎に算出する。
=H×p/E (9)
【0074】
ステップS23においては、医師、場合によっては看護師などの医療従事者が、患部に紫外線治療器1の光放射面を押し当て、紫外線治療器1に設けられたスイッチを押し、紫外線照射を開始して治療処置を実施する。この治療処置は、区画X毎に照射時間t秒経過することにより終了する。
【0075】
このように、医師が入力した設定照射量H[mJ/cm]に対して、実際に処置する照射量は、LED50の波長のばらつきを考慮して区画X毎に補正された照射量H=H×p[mJ/cm]とすることができる。
【0076】
図9に、同一メーカ、同一ロットのLED50にてピーク波長が異なる4つのLED50を入手し、4人の被験者のMEDを測定した結果を纏めた。図9の平均値に対して、エキシマランプのピーク波長308nmに最も近い307.7nmのLED50の照射量を基準とした補正の有無による照射量を図10に示す。
【0077】
補正しない場合には、異なる波長でも照射量は一定となるが、補正を実施した場合には、平均値のプロットに照射量の曲線が近づいていることから、波長の違いによる紅斑の発生の可能性増大や治療効果の低下を抑えることができる。すなわち、補正を実施することにより、光放射面の位置により波長が異なる場合でも、紅斑の発生し易さが同程度となり、医療従事者は位置による波長の違いを意識することなく、紫外線治療器1を使用することができる。
【0078】
また、本治療器1によって補正後の設定照射量Hにより処置した場合の紅斑の発生のし方は、上記基準光を放射する基準治療器によって設定照射量Hで処置した場合の紅斑の発生のし方と同等となる。すべての紫外線治療器1で同一の基準治療器を設定することにより、波長が異なる治療器を使っても、医師は波長の違いを意識することなく治療に専念することができる。
【0079】
以下、操作者が本実施形態の紫外線治療器1を用いて患部に紫外線を照射する手順について説明する。
まず、操作者は、入力部41を操作して、患部に照射する紫外線の照射量(設定照射量H)を入力する。このとき、紫外線治療器1において、設定照射量Hの補正が行われ、紫外線の照射時間tがLED50の区画X毎に算出される。
【0080】
次に操作者は、治療具2を持ち、光放射面を患部に当接もしくは近接させる。そして、操作者は、治療具2に設けられたスイッチ(不図示)を押す。すると、LED50が点灯し、患部への紫外線照射が開始される。
その後、各区画Xの光放射面からの紫外線の照射量が補正後の設定照射量Hに達すると(照射時間が算出された照射時間tに達すると)、自動的にLED50が消灯する。
【0081】
以上説明したように、本実施形態における紫外線治療器1は、紫外線を含む光を放射する複数のLED50と、LED50を複数に区画して、各LED50の点灯を区画X毎に制御する制御ユニット45とを備える。
また、紫外線治療器1は、基準光源から放射される基準光を治療光として用いた場合に患者に照射すべき当該治療光の照射量である設定照射量Hを入力する入力部41と、設定照射量Hを補正するためのパラメータを記録する記録部43とを備える。
【0082】
ここで、記録部43は、上記パラメータとして、基準光による人体への影響度(基準相対紅斑紫外線量Rstd)と、本治療器1の光放射面から放射される光による人体への影響度(相対紅斑紫外線量R)とに基づいて決定される補正係数pを区画X毎に記録する。また、記録部43は、紫外線治療器1の光放射面における光の放射照度Eも区画X毎に記録する。
【0083】
そして、制御ユニット45は、記録部43に記録された補正係数pに基づいて設定照射量Hを区画X毎に補正し、光の照射量が補正後の設定照射量HとなるようにLED50を点灯させる。具体的には、制御ユニット45は、設定照射量Hに補正係数pを乗じることで補正後の設定照射量Hを算出する。また、制御ユニット45は、補正後の設定照射量Hを放射照度Eで除算することで、LED50からの光の照射時間tを区画X毎に算出し、算出された照射時間tにわたってLED50を点灯させる。
【0084】
つまり、本実施形態における紫外線治療器1の紫外線照射方法は、基準光源から放射される基準光を治療光として用いた場合に患者に照射すべき治療光の照射量である設定照射量Hを入力する第1の工程と、基準光による人体への影響度と、本治療器1の光放射面から放射される光による人体への影響度とを比較して、設定照射量Hを補正する第2の工程と、光の照射量が、区画X毎に補正後の設定照射量HとなるようにLED50を点灯させる第3の工程とを含む。
【0085】
具体的には、本実施形態に係る紫外線照射方法の実施に先立って、紫外線治療器1の光放射面における分光放射照度Λを、予め設定された波長区間で区画X毎に測定する。また、分光放射照度Λと紅斑作用スペクトルSerとを乗算し、上記波長区間にわたって波長積分して、紅斑紫外線量Iを区画X毎に算出する。さらに、紅斑紫外線量Iを分光放射照度Λの上記波長区間の積分値を用いて規格化して、紫外線治療器1の光放射面から放射される光による人体への影響度である相対紅斑紫外線量Rを区画X毎に算出する。
【0086】
さらに、必要に応じて基準光の分光放射照度を、上記波長区間にわたって測定する。また、基準光の分光放射照度と紅斑作用スペクトルSerとを乗算し、上記波長区間で波長積分して、基準紅斑紫外線量を算出する。さらに、基準紅斑紫外線量を基準光の分光放射照度の上記波長区間の積分値を用いて規格化して、基準光による人体への影響度である基準相対紅斑紫外線量Rstdを算出する。
そして、基準相対紅斑紫外線量Rstdを区画X毎の相対紅斑紫外線量Rにより除算して補正係数pを区画X毎に算出しておく。第2の工程においては、設定照射量Hに区画X毎の補正係数pを乗算して、補正後の設定照射量Hを区画X毎に算出する。
【0087】
このように、基準光を治療光とした場合に適した設定照射量Hを、基準光による人体への影響度(基準相対紅斑紫外線量Rstd)と、紫外線治療器1の光放射面から放射される光による人体への影響度(相対紅斑紫外線量R)とに基づいて補正してLED50を点灯させる。したがって、基準光と紫外線治療器1から放射される光との間で波長の差異が生じている場合であっても、紫外線治療器1から放射される光に適した照射量で紫外線照射を行うことができる。そのため、患部に紅斑を発生させることなく、優れた治療効果を得ることができる。
【0088】
特に、複数のLED50から射出される光の波長にばらつきが存在しても、複数に区画された光放射面から放射される光による人体への影響度の面内ばらつきの発生を防止することができる。これにより、光放射面全体から光が放射される広い患部の一部に紅斑が発生することを防止することができる。
【0089】
また、上記基準光を、従来の紫外線治療器の光源であるエキシマランプから放射される光とすることにより、医師は、従来の紫外線治療器において設定していた照射量を本治療器1に入力する設定照射量Hとしてそのまま使用することができる。つまり、医師は、紫外線治療器の光源の違い(エキシマランプであるかLEDであるか)や、LED50の個体差による波長の違い等を意識することなく、従来と同様に紫外線治療器1を使用することができる。
【0090】
(変形例)
上記実施形態においては、紫外線治療器1の記録部43に放射照度Eを記録し、制御ユニット45は、補正後の設定照射量Hを放射照度Eで除算することにより、各区画XのLED50からの光の照射時間tを算出し、算出された照射時間tにわたって、LED50を点灯させる場合について説明した。しかし、光の照射量が補正後の設定照射量HとなるようにLED50を点灯させることができればよく、制御ユニット45は、光の照射時間tではなく、光の放射照度(LED50の電流値)を制御するようにしてもよい。
【0091】
この場合、制御ユニット45は、補正後の設定照射量Hを予め設定された照射時間で除算することにより、光放射面からの放射照度Eを算出し、算出された放射照度Eで、上記の予め設定された照射時間にわたって、LED50を点灯させる。つまり、この場合には、記録部43に放射照度Eを記録する必要はない。
【0092】
このように光の放射照度を制御する方法によれば、全ての区画Xの光放射面からの光の放射を同じ照射時間で終了させることができる。したがって、照射時間を制御する場合には、区画X毎に異なる照射時間で光の放射が終了するために、治療者あるいは被治療者が、紫外線治療器1が故障したのではないかという誤解を抱く可能性があるが、放射照度を制御すれば、そのような不都合はない。
【0093】
また、上記実施形態においては、紫外線治療器1の記録部43に補正係数pを記録し、制御ユニット45は、設定照射量Hに補正係数pを乗算して補正後の設定照射量Hを算出する場合について説明した。しかしながら、記録部43には、設定照射量Hを補正するためのパラメータが記録されていればよく、例えば、記録部43には、補正係数pの算出に必要な情報として、基準光の分光パラメータ(または分光放射照度)と、本治療器1から放射される光の分光スペクトル(または分光放射照度)と、紅斑作用スペクトルSerとを記録してもよい。
この場合、制御ユニット45は、記録部43に記録された情報に基づいて補正係数pを算出し、設定照射量Hに算出された補正係数pを乗算して補正後の設定照射量Hを算出する。
【0094】
さらに、上記実施形態においては、波長308nmの光を治療光とする場合について説明したが、治療光の波長は疾患に応じて任意に設定することができる。
また、上記実施形態においては、基準光を放射する基準光源がエキシマランプである場合について説明したが、基準光は、蛍光灯などのランプが放射する光、LED50が放射する光、単一の線スペクトルなどの任意のスペクトル形状を有する光であってもよい。
【0095】
本発明の紫外線治療器1においては、上記の実施の形態に限定されず、種々の変更を加えることが可能である。
例えば、分光放射照度を積分して放射照度を算出したり、分光スペクトルと放射照度とに基づいて分光放射照度を算出したりしてもよい。
あるいは、分光放射照度や分光スペクトルを介さず、UVインデックスから紅斑紫外線量や補正係数を算出してもよい。
【0096】
1 紫外線治療器
41 入力部
43 記録部
45 制御ユニット(制御部)
46a,46b,46c,46d LED駆動ユニット
50 LED
53 補正部
54 点灯制御部
X 区画
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10