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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139538
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】転がり軸受装置
(51)【国際特許分類】
   F16C 19/38 20060101AFI20230927BHJP
   F16C 33/60 20060101ALI20230927BHJP
   F16C 43/04 20060101ALI20230927BHJP
   B60B 35/14 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
F16C19/38
F16C33/60
F16C43/04
B60B35/14 V
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045117
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000811
【氏名又は名称】弁理士法人貴和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】神谷 良雄
(72)【発明者】
【氏名】若林 達男
【テーマコード(参考)】
3J117
3J701
【Fターム(参考)】
3J117BA10
3J117CA06
3J117DA01
3J117DA02
3J117DB02
3J117HA02
3J701AA16
3J701AA25
3J701AA32
3J701AA43
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA53
3J701BA56
3J701BA63
3J701BA80
3J701EA03
3J701EA41
3J701FA13
3J701FA46
3J701GA03
3J701XB03
3J701XB24
(57)【要約】
【課題】組立作業の作業性を向上させることができる転がり軸受装置を提供する。
【解決手段】外輪17と、1対の内輪18a、18bと、転動体19a、19bと、全体として周方向1箇所に不連続部を有する欠円環状に構成され、かつ、軸方向両側部に1対の係止部33を有し、1対の前記係止部33を1対の内輪18a、18bの係止凹溝25a、25bに係止することにより、1対の内輪18a、18bを連結する連結環20とを備える。連結環20は、自由状態で、周方向両側の端部が互いに軸方向に重畳して配置される構成を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
それぞれが外周面に単列の内輪軌道および内周面に周方向の係止凹溝を有する1対の内輪と、
前記複列の外輪軌道と1対の前記内輪の前記内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置された転動体と、
全体として周方向1箇所に不連続部を有する欠円環状に構成され、かつ、軸方向両側部に1対の係止部を有し、1対の前記係止部を1対の前記内輪の前記係止凹溝に係止することにより、1対の前記内輪を連結する連結環と、を備え、
前記連結環は、自由状態で、周方向両側の端部が互いに軸方向に重畳して配置される構成を有する、
転がり軸受装置。
【請求項2】
内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、
それぞれが外周面に単列の内輪軌道および内周面に周方向の係止凹溝を有する1対の内輪と、
前記複列の外輪軌道と1対の前記内輪の前記内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置された転動体と、
全体として周方向1箇所に不連続部を有する欠円環状に構成され、かつ、軸方向両側部に1対の係止部を有し、1対の前記係止部を1対の前記内輪の前記係止凹溝に係止することにより、1対の前記内輪を連結する連結環と、を備え、
前記連結環は、自由状態で、軸方向から見て周方向両側の端部が所定の離間幅をもって離間し、かつ、該離間幅が該連結環の径方向幅よりも小さい構成を有する、
転がり軸受装置。
【請求項3】
前記連結環は、自由状態で、周方向両側の端部が軸方向にずれて配置された螺旋形状を有する、請求項1または2のいずれかに記載の転がり軸受装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、連結環により連結された1対の内輪を備える転がり軸受装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図8図10は、特開2011-027130号公報(特許文献1)などに記載されて従来から知られている、トラックやバスなどの重量が嵩む大型車両用の駆動輪支持装置100を示している。駆動輪支持装置100に関して、軸方向外側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向外側となる図8および図9の左側であり、軸方向内側は、車両に組み付けた状態で車両の幅方向中央側となる図8および図9の右側である。
【0003】
駆動輪支持装置100は、転がり軸受装置101と、車軸管102と、ハブ輪103と、駆動軸104とを備える。転がり軸受装置101は、車軸管102の周囲にハブ輪103を回転自在に支持する。車軸管102の内側には、駆動軸104が挿通されている。駆動軸104の軸方向外側の端部にはフランジ105が備えられており、該フランジ105には、ハブ輪103が固定されている。ハブ輪103には、駆動輪となる車輪106および制動用回転体107が固定されている。このような構成により、車輪106および制動用回転体107を車軸管102に対して回転自在に支持し、かつ、駆動軸104からのトルクを車輪106および制動用回転体107に伝達可能としている。
【0004】
転がり軸受装置101は、図9に示すように、複列円すいころ軸受であり、使用状態で回転する外輪108と、使用状態で回転しない1対の内輪109a、109bと、複数個の転動体110a、110bと、連結環111とを備える。
【0005】
外輪108は、内周面に複列の外輪軌道112a、112bを有する。外輪108は、ハブ輪103に締り嵌めで内嵌されている。
【0006】
1対の内輪109a、109bを構成するそれぞれの内輪109a、109bは、外周面に単列の内輪軌道113a、113bを有する。1対の内輪109a、109bは、互いに対向する小径側端面同士を突き合わせた状態で、車軸管102に外嵌されている。
【0007】
転動体110a、110bは、円すいころであり、外輪軌道112a、112bと内輪軌道113a、113bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、転動自在に配置されている。
【0008】
車軸管102に対する転がり軸受装置101の着脱を可能とするために、1対の内輪109a、109bは、車軸管102に対して隙間嵌めで外嵌されている。
【0009】
連結環111は、全体として周方向1箇所に不連続部114を有する欠円環状に構成されており、U字形の断面形状を有する。連結環111は、本体部115と、1対の係止部116とを備える。本体部115は、周方向1箇所に不連続部を有する欠円筒状に構成されている。1対の係止部116を構成するそれぞれの係止部116は、本体部115の軸方向両側の端部から径方向外側に向けて伸長した欠円輪形状を有する。連結環111は、1対の係止部116を1対の内輪109a、109bの小径側端部の内周面に備えられた係止凹溝117a、117bに係止することで、1対の内輪109a、109bを軸方向に連結している。そして、ハブ輪103を外嵌した転がり軸受装置101を車軸管102に組み付ける際に、内輪109a、109bの内周面に作用する摩擦によって、1対の内輪109a、109bが互いに軸方向に分離したり、内輪109aの軸方向内端部が車軸管102の嵌合面の軸方向外端部に衝突して、該内輪109aが車軸管102から軸方向外側に抜け出したりするのを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011-027130号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来構造の転がり軸受装置101には、組立作業の容易化を図る面で改良の余地がある。
【0012】
すなわち、従来構造の転がり軸受装置101では、自由状態での連結環111を軸方向から見た場合に、図10(a)に示すように、該連結環111の周方向両側の端部が所定の離間幅W111をもって離間している。換言すれば、自由状態での連結環111を軸方向から見た場合に、不連続部114に、離間幅W111の隙間が生じている。そして、この離間幅W111が、図10(a)および図10(b)に示すように、連結環111の径方向幅H111よりも大きくなっている(W111>H111)。このため、多数の連結環111が無秩序な状態で収容された部品収容ケース内において、該連結環111が互いに絡まった状態になりやすい。すなわち、連結環111の不連続部114の前記隙間(離間幅W111)を通じて、該連結環111の径方向外側から径方向内側に、他の連結環111の周方向一部が進入することにより、これらの連結環111が互いに絡まった状態になりやすい。その結果、転がり軸受装置101を組み立てる際に、部品収容ケース内から連結環111を1つずつ取り出すことが困難になり、作業性が低下する可能性がある。
【0013】
本発明は、組立作業の作業性を向上させることができる転がり軸受装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の一態様の転がり軸受装置は、内周面に複列の外輪軌道を有する外輪と、それぞれが外周面に単列の内輪軌道および内周面に周方向の係止凹溝を有する1対の内輪と、 前記複列の外輪軌道と1対の前記内輪の前記内輪軌道との間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ配置された転動体と、全体として周方向1箇所に不連続部を有する欠円環状に構成され、かつ、軸方向両側部に1対の係止部を有し、1対の前記係止部を1対の前記内輪の前記係止凹溝に係止することにより、1対の前記内輪を連結する連結環とを備える。
【0015】
本発明の第1の態様の転がり軸受装置では、前記連結環は、自由状態で、周方向両側の端部が互いに軸方向に重畳して配置される構成を有する。
【0016】
本発明の第2の態様の転がり軸受装置では、前記連結環は、自由状態で、軸方向から見て周方向両側の端部が所定の離間幅をもって離間し、かつ、該離間幅が該連結環の径方向幅よりも小さい構成を有する。
【0017】
本発明の一態様の転がり軸受装置では、前記連結環は、自由状態で、周方向両側の端部が軸方向にずれて配置された螺旋形状を有する。
【0018】
本発明の一態様の転がり軸受装置では、前記連結環の周方向両側の端縁部のそれぞれは、径方向から見て、該連結環の軸方向に対して同方向に傾斜した直線形状を有する。
【0019】
本発明の一態様では、前記連結環の周方向一方側の端縁部は、周方向に凹入する凹形状を有し、前記連結環の周方向他方側の端縁部は、周方向に突出する凸形状を有する。該連結環は、自由状態で、あるいは、少なくとも弾性的に縮径した状態で、前記周方向一方側の端縁部の内側に、前記周方向他方側の端縁部が周方向に進入する構成を有する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、組立作業の作業性を向上させることができる転がり軸受装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、本発明の実施の形態の第1例の転がり軸受装置を組み込んだ駆動輪支持装置を示す断面図である。
図2図2は、第1例の転がり軸受装置の部分断面図である。
図3図3(a)は、第1例の転がり軸受装置を構成する連結環を自由状態で軸方向から見た図であり、図3(b)は、図3(a)のA-A断面図である。
図4図4(a)は、本発明の実施の形態の第2例の転がり軸受装置を構成する連結環を自由状態で軸方向から見た図であり、図4(b)は、図4(a)のB-B断面図である。
図5図5(a)は、本発明の実施の形態の第3例の転がり軸受装置を構成する連結環を自由状態で軸方向から見た図であり、図5(b)は、図5(a)のC-C断面図である。
図6図6(a)は、本発明の実施の形態の第4例の転がり軸受装置を構成する連結環を自由状態で軸方向から見た図であり、図6(b)は、図6(a)のD-D断面図である。
図7図7(a)は、本発明の実施の形態の第5例の転がり軸受装置を構成する連結環を自由状態で軸方向から見た図であり、図7(b)は、図7(a)のE-E断面図である。
図8図8は、従来構造の転がり軸受装置を組み込んだ駆動輪支持装置の断面図である。
図9図9は、従来構造の転がり軸受装置の部分断面図である。
図10図10(a)は、従来構造の転がり軸受装置を構成する連結環を自由状態で軸方向から見た図であり、図10(b)は、図10(a)のF-F断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1例]
本発明の実施の形態の第1例について、図1図3を用いて説明する。
【0023】
本例では、本発明の転がり軸受装置を、トラックやバスなどの重量が嵩む大型車両用の駆動輪支持装置に適用している。ただし、本発明の転がり軸受装置は、駆動輪支持装置に限らず、従動輪支持装置を含む各種機械装置の回転支持部に組み込んで使用することができる。
【0024】
本例の駆動輪支持装置1は、図1に全体構成を示すように、転がり軸受装置2と、車軸管3と、ハブ輪4と、駆動軸5とを備える。駆動輪支持装置1は、トラックの後輪などの駆動輪となる車輪6および制動用回転体7を回転自在に支持するとともに、車輪6および制動用回転体7に駆動トルクを伝達する装置であり、全浮動型の構成を有する。駆動輪支持装置1に関して、軸方向外側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向外側となる、図1および図2の左側であり、軸方向内側は、車両への組み付け状態で車両の幅方向中央側となる、図1および図2の右側である。
【0025】
転がり軸受装置2は、車軸管3の軸方向外側の端部の周囲に、ハブ輪4を回転自在に支持している。転がり軸受装置2は、車軸管3の外周面とハブ輪4の内周面との間に配置されている。
【0026】
車軸管3は、アクスルハウジングと呼ばれる部材であり、円筒形状を有し、軸方向内側の端部が図示しないデフケースにつながっている。このため、車軸管3は、使用時にも回転しない。車軸管3の内部空間は、デフケースの内部空間に連通している。車軸管3は、外周面の軸方向外側部に、円筒面状の円筒面部8を有する。車軸管3は、外周面のうち円筒面部8の軸方向内側に隣接する部分に軸方向外側を向いた段差面9、および、円筒面部8の軸方向外側に隣接する部分に円筒面部8よりも小径の雄ねじ部10を有する。雄ねじ部10には、転がり軸受装置2に予圧を付与するためのナット11が螺合されている。
【0027】
駆動軸5は、アクスルシャフトと呼ばれる部材であり、中実状で、車軸管3の内側に挿通されている。駆動軸5は、車軸管3と同軸に配置されている。駆動軸5の軸方向内側の端部は、図示しないディフェレンシャルギアに連結されている。このため、駆動軸5は、使用時に回転する。駆動軸5は、車軸管3から突出した軸方向外側の端部に、外向フランジ状のフランジ12を備える。フランジ12には、複数本のボルト13によりハブ輪4が固定されている。
【0028】
ハブ輪4は、円環形状を有する。ハブ輪4は、内周面に円筒面状の嵌合面14、および、外周面の軸方向中間部に回転フランジ15を有する。回転フランジ15には、ハブボルトやスタッドなどの結合部材16により、車輪6が固定されている。ハブ輪4の軸方向内側には、制動用回転体7がボルト13により固定されている。
【0029】
駆動輪支持装置1は、上述のような構成により、車輪6および制動用回転体7を車軸管3に対して回転自在に支持し、かつ、駆動軸5からのトルクを車輪6および制動用回転体7に伝達可能としている。全浮動型の駆動輪支持装置1では、車両の荷重は、駆動軸5によっては支承されず、車軸管3によって支承される。駆動軸5は、トルクの伝達のみを負担する。
【0030】
本例では、転がり軸受装置2は、背面組み合わせ型の複列円すいころ軸受であり、外輪17と、1対の内輪18a、18bと、複数個の転動体19a、19bと、連結環20とを備える。
【0031】
外輪17は、軸受鋼などの硬質金属製であり、内周面に円すい凹面状の複列の外輪軌道21a、21bを有する。外輪17は、転がり軸受装置2の車両への組み付け状態で、ハブ輪4の内周面に備えられた嵌合面14に対し締り嵌めで内嵌固定される。このため、外輪17は、ハブ輪4とともに回転する。
【0032】
1対の内輪18a、18bを構成するそれぞれの内輪18a、18bは、軸受鋼などの硬質金属製であり、外周面の軸方向中間部に、円すい凸面状の単列の内輪軌道22a、22bを有する。内輪18a、18bは、内輪軌道22a、22bの軸方向両側に、大鍔部23a、23bと小鍔部24a、24bとをそれぞれ有する。内輪18a、18bの外径は、大鍔部23a、23bを備えた大径側端部で、小鍔部24a、24bを備えた小径側端部よりも大きい。
【0033】
内輪18a、18bは、小径側端部の内周面に、周方向の係止凹溝25a、25bを有する。係止凹溝25a、25bは、内輪18a、18bの内周面にのみ開口しており、内輪18a、18bの全周にわたり備えられている。内輪18a、18bの内周面は、軸方向に関して係止凹溝25a、25bから大径側端面側に外れた部分に、円筒面状の小径面部26a、26bを有する。内輪18a、18bの内周面は、軸方向に関して係止凹溝25a、25bから小径側端面側に外れた部分に、小径面部26a、26bよりも内径が大きい、円筒面状の大径面部27a、27bを有する。内輪18a、18bは、小径面部26a、26bと大径側端面との接続部に、円弧状の母線形状を有する面取り部28a、28bを有する。
【0034】
1対の内輪18a、18bは、互いの小径側端面を突き合わせた状態で、外輪17の径方向内側に、外輪17と同軸に配置されている。1対の内輪軌道22a、22bは、複列の外輪軌道21a、21bと径方向に対向する位置に、複列に配置されている。1対の内輪18a、18bの小径側端面同士を面接触させるように突き合わせることで、突き合わせ部29が構成される。
【0035】
1対の内輪18a、18bは、転がり軸受装置2の車両への組み付け状態で、車軸管3の外周面に備えられた円筒面部8に対し隙間嵌めで外嵌される。1対の内輪18a、18bは、車軸管3の外周面に備えられた段差面9とナット11との間に、軸方向に挟持される。この状態で、転がり軸受装置2のアキシアル方向の内部隙間が、ゼロまたは若干量の正もしくは負の値になるように、ナット11の螺合量が設定される。
【0036】
転動体19a、19bは、円すいころであり、たとえば軸受鋼製またはセラミック製である。転動体19a、19bは、複列の外輪軌道21a、21bと複列の内輪軌道22a、22bとの間に、それぞれの列ごとに複数個ずつ、保持器30a、30bにより保持された状態で転動自在に配置されている。
【0037】
連結環20は、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結するための部材であり、金属板製である。連結環20は、図3(a)および図3(b)に示すように、全体として周方向1箇所に不連続部31を有する欠円環状に構成され、かつ、軸方向両側部に1対の係止部33を有しており、U字形の断面形状を有する。
【0038】
本例の連結環20は、本体部32と、1対の係止部33とを備える。本体部32は、周方向1箇所に不連続部を有する欠円筒状に構成されている。1対の係止部33を構成するそれぞれの係止部33は、本体部32の軸方向両側の端部から径方向外側に向けて伸長した欠円輪形状を有する。
【0039】
本例では、連結環20の周方向両側の端縁部34a、34bのそれぞれは、径方向から見て、図3(b)に示すように、連結環20の軸方向に対して同方向に傾斜した直線形状を有する。本発明を実施する場合、連結環20の軸方向に対する端縁部34a、34bの傾斜角度αは特に限定されないが、該傾斜角度αは、30゜以上60゜以下であることが好ましい。さらに、この角度範囲において、傾斜角度αは、45゜以上であることがより好ましい。図示の例では、傾斜角度αを45゜程度としている。傾斜角度αが30°より小さいと、端縁部34a、34bを軸方向に重畳させることが困難になる。また、傾斜角度αが60°より大きいと、端縁部34a、34bが長くなるとともに先端が尖り、加工が困難になる。
【0040】
本例では、連結環20は、自由状態で、図3(a)および図3(b)に示すように、周方向両側の端部が互いに軸方向に重畳して配置される構成を有する。すなわち、自由状態での連結環20を軸方向から見た場合に、連結環20の周方向両側の端部が離間していない。
【0041】
本例では、自由状態での連結環20を径方向から見た場合に、連結環20の周方向両側の端縁部34a、34bは、図3(b)に示すように、周方向に離間している。該離間幅は、後述する連結環20の装着を行う際に、該連結環20が内輪18a(または18b)の径方向内側に進入できる程度に弾性的に縮径できる大きさに設定されている。
【0042】
連結環20は、1対の係止部33を1対の内輪18a、18bの小径側端部の内周面に備えられた係止凹溝25a、25bに係止することで、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結している。この状態で、連結環20の本体部32の外周面は、内輪18a、18bの大径面部27a、27bに対して接触するか、または、大径面部27a、27bに対して微小隙間を介して対向する。また、連結環20の本体部32の内周面は、内輪18a、18bの小径面部26a、26bよりも径方向内側に突出しない。本例の構造では、このような連結環20により1対の内輪18a、18bが軸方向に連結されるため、転がり軸受装置2を車軸管3に組み付ける際に1対の内輪18a、18bの内周面に作用する摩擦によって、1対の内輪18a、18bが互いに分離したり、内輪18aの軸方向内端部が車軸管3の円筒面部8の軸方向外端部に衝突して、該内輪18aが車軸管3から軸方向外側に抜け出したりすることを防止できる。
【0043】
本例の転がり軸受装置2は、外輪17の内周面と1対の内輪18a、18bの外周面との間に存在する内部空間35の軸方向両側の開口部を塞ぐ1対の密封装置36a、36bを備える。一方の密封装置36aは、外輪17の内周面の軸方向外側部と内輪18aの大鍔部23aの外周面との間に配置される。他方の密封装置36bは、外輪17の内周面の軸方向内側部と内輪18bの大鍔部23bの外周面との間に配置される。1対の密封装置36a、36bのうち、一方の密封装置36aは、内部空間35に封入したグリースが外部空間に漏洩することを防止し、かつ、車軸管3の内部に存在するデフオイルやコンタミネーションの侵入を防止する。また、他方の密封装置36bは、内部空間35に封入したグリースが外部空間に漏洩することを防止し、かつ、外部空間に存在する泥水などの異物が内部空間35に侵入することを防止する。
【0044】
本例の転がり軸受装置2は、1対の内輪18a、18bの突き合わせ部29を密封するためのシール部材37を備える。シール部材37は、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)などの弾性材製で、略円筒形状を有する。本例では、シール部材37は、突き合わせ部29を軸方向に跨ぐように、1対の内輪18a、18bの小鍔部24a、24bに対し外嵌される。シール部材37は、突き合わせ部29を通じて、車軸管3の内部に存在するデフオイルやコンタミネーション、泥水などの異物が、転がり軸受装置2の内部空間に侵入することを防止する。本発明を実施する場合には、シール部材を、突き合わせ部の径方向中間部、もしくは、突き合わせ部の径方向内側かつ連結環の径方向外側に配置することもできる。
【0045】
本例の転がり軸受装置2の組立作業時に、連結環20を装着する際には、たとえば、1対の内輪18a、18bの小径側端面同士を突き合わせた状態で、弾性的に縮径させた連結環20を、内輪18a(または18b)の径方向内側を通じて、突き合わせ部29の径方向内側に位置する箇所まで軸方向に移動させる。そして、該箇所で連結環20の径寸法を弾性的に復元させることにより、1対の係止部33を1対の内輪18a、18bの係止凹溝25a、25bに係止することで、1対の内輪18a、18bを軸方向に連結する。
【0046】
なお、上述のように連結環20を弾性的に縮径させ、かつ、内輪18a(または18b)の径方向内側を通じて、突き合わせ部29の径方向内側に位置する箇所まで軸方向に移動させる作業は、たとえば、内輪18a(または18b)の面取り部28a(または28b)を案内面として、連結環20を内輪18a(または18b)の径方向内側に軸方向に押し込むことに基づいて行うことができる。
【0047】
本例の転がり軸受装置2では、連結環20は、自由状態で、図3(a)および図3(b)に示すように、周方向両側の端部が互いに軸方向に重畳して配置される構成を有する。すなわち、本例では、自由状態での連結環20を軸方向から見た場合に、連結環20の周方向両側の端部が離間していない。このため、多数の連結環20が無秩序な状態で収容された部品収容ケース内において、該連結環20が互いに絡まった状態になりにくい。つまり、連結環20の不連続部31を通じて、該連結環20の径方向外側から径方向内側に、他の連結環20の周方向一部が進入しにくいため、これらの連結環20が互いに絡まった状態になりにくい。その結果、転がり軸受装置2を組み立てる際に、部品収容ケース内から連結環20を1つずつ取り出すことが容易になり、作業性を向上させることができる。
【0048】
[第2例]
本発明の実施の形態の第2例について、図4(a)および図4(b)を用いて説明する。
【0049】
本例では、連結環20aの周方向一方側の端縁部34cは、周方向に凹入する凹形状を有する。連結環20aの周方向他方側の端縁部34dは、周方向に突出し、かつ、周方向一方側の端縁部34cの内側に周方向に進入可能な凸形状を有する。本発明を実施する場合には、これらの凹形状および凸形状として、任意の形状を採用することができるが、本例では、周方向一方側の端縁部34cは、径方向から見て、凹V字形状を有し、周方向他方側の端縁部34dは、径方向から見て、周方向一方側の端縁部34cに合致可能な凸V字形状を有する。本発明を実施する場合、連結環20aの軸方向に対する端縁部34c、34dの軸方向両側部の傾斜角度βは特に限定されないが、該傾斜角度βは、50゜以上70゜以下であることが好ましい。さらに、この角度範囲において、傾斜角度βは、60゜以上であることがより好ましい。図示の例では、傾斜角度βを60゜程度としている。傾斜角度βが50°より小さいと、端縁部34c、34dを軸方向に重畳させることが困難になる。また、傾斜角度αが70°より大きいと、端縁部34c、34dが長くなるとともに先端が尖り、加工が困難になる。
【0050】
本例においても、連結環20aは、自由状態で、周方向両側の端部が互いに軸方向に重畳して配置される構成を有する。すなわち、自由状態での連結環20aを軸方向から見た場合に、連結環20aの周方向両側の端部が離間していない。
【0051】
本例では、連結環20aの自由状態で、凹V字形状を有する端縁部34cの内側に、凸V字形状を有する端縁部34dの先端部が、軸方向および周方向の隙間を介して進入している。このため、転がり軸受装置に対する連結環20aの装着前または装着時に、該連結環20aに対して、周方向両側の端部を軸方向に関して一方または他方の向きに相対変位させるような外力が作用したとしても、凹V字形の端縁部34cと凸V字形の端縁部34dとの係合に基づいて、連結環20aの周方向両側の端部が軸方向に過度に相対変位することを有効に防止できる。その結果、連結環20aが破損することを防止できる。その他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0052】
[第3例]
本発明の実施の形態の第3例について、図5(a)および図5(b)を用いて説明する。
【0053】
本例においても、連結環20bの周方向一方側の端縁部34eは、周方向に凹入する凹形状を有し、および、連結環20bの周方向他方側の端縁部34fは、周方向に突出し、かつ、周方向一方側の端縁部34eの内側に周方向に進入可能な凸形状を有する。より具体的には、本例では、周方向一方側の端縁部34eは、軸方向中間部に周方向に凹入する凹部38を有する。周方向他方側の端縁部34fは、軸方向中間部に周方向に突出する凸部39を有する。図示の例では、凹部38は、径方向から見て、凹U字形状を有しており、凸部39は、径方向から見て、凹部38に合致可能な凸U字形状を有する。
【0054】
本例においても、連結環20bは、自由状態で、周方向両側の端部が互いに軸方向に重畳して配置される構成を有する。すなわち、自由状態での連結環20bを軸方向から見た場合に、連結環20bの周方向両側の端部が離間していない。
【0055】
本例では、連結環20bの自由状態で、一方の端縁部34eの凹部38の内側に、他方の端縁部34fの凸部39の先端部が、周方向の隙間を介して、かつ、軸方向のがたつきなく進入している。このため、転がり軸受装置に対する連結環20bの装着前または装着時に、該連結環20bに対して、周方向両側の端部を軸方向に関して一方または他方の向きに相対変位させるような外力が作用したとしても、凹部38と凸部39との係合に基づいて、連結環20bの周方向両側の端部が軸方向に相対変位することを防止できる。その結果、連結環20aが破損することを防止できる。その他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0056】
[第4例]
本発明の実施の形態の第4例について、図6(a)および図6(b)を用いて説明する。
【0057】
本例では、連結環20cは、自由状態で、軸方向から見て周方向両側の端部が所定の離間幅W20をもって離間し、かつ、該離間幅W20が該連結環20cの径方向幅H20よりも小さい構成を有する(W20<H20)。このため、多数の連結環20cが無秩序な状態で収容された部品収容ケース内において、該連結環20cが互いに絡まった状態になりにくい。つまり、連結環20cの不連続部31を通じて、該連結環20cの径方向外側から径方向内側に、他の連結環20cの周方向一部が進入しにくいため、これらの連結環20cが互いに絡まった状態になりにくい。その結果、転がり軸受装置を組み立てる際に、部品収容ケース内から連結環20cを1つずつ取り出すことが容易になり、組立作業の作業性を向上させることができる。その他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0058】
[第5例]
本発明の実施の形態の第5例について、図7(a)および図7(b)を用いて説明する。
【0059】
本例では、連結環20dは、転がり軸受装置に装着された状態で、第1例の連結環20と同様の欠円環形状を有する。ただし、本例では、連結環20dは、自由状態で、周方向両側の端部が軸方向にずれて配置された、スプリングワッシャのような螺旋形状を有する。すなわち、連結環20dの自由状態で、本体部32aは、周方向両側の端部が軸方向にずれて配置された螺旋筒形状を有し、1対の係止部33aを構成するそれぞれの係止部33aも、該本体部32aの軸方向両側の端部から径方向外側に突出した螺旋形状を有する。
【0060】
このような本例の連結環20dによれば、該連結環20dを製造する際に、帯鋼から定尺への裁断、断面形状をU字形状とするための曲げ加工、および全体を欠円環状とするための丸め加工を、連続的に行うことができる。このため、連結環20dの製造コストを抑えることができる。本例では、連結環20dの自由状態での螺旋形状は、該連結環20dが転がり軸受装置に装着されることに伴い、周方向両側の端部が軸方向にずれていない欠円環形状に矯正される。その他の構成および作用効果は、第1例と同様である。
【0061】
以上、本発明の実施の形態について説明したが、本発明はこれに限定されることなく、発明の技術思想を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。また、実施の形態の各例の構造は、矛盾を生じない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。
【符号の説明】
【0062】
1 駆動輪支持装置
2 転がり軸受装置
3 車軸管
4 ハブ輪
5 駆動軸
6 車輪
7 制動用回転体
8 円筒面部
9 段差面
10 雄ねじ部
11 ナット
12 フランジ
13 ボルト
14 嵌合面
15 回転フランジ
16 結合部材
17 外輪
18a、18b 内輪
19a、19b 転動体
20、20a、20b、20c、20d 連結環
21a、21b 外輪軌道
22a、22b 内輪軌道
23a、23b 大鍔部
24a、24b 小鍔部
25a、25b 係止凹溝
26a、26b 小径面部
27a、27b 大径面部
28a、28b 面取り部
29 突き合わせ部
30a、30b 保持器
31 不連続部
32、32a 本体部
33、33a 係止部
34a、34b、34c、34d、34e、34f 端縁部
35 内部空間
36a、36b 密封装置
37 シール部材
38 凹部
39 凸部
100 駆動輪支持装置
101 転がり軸受装置
102 車軸管
103 ハブ輪
104 駆動軸
105 フランジ
106 車輪
107 制動用回転体
108 外輪
109a、109b 内輪
110a、110b 転動体
111 連結環
112a、112b 外輪軌道
113a、113b 内輪軌道
114 不連続部
115 本体部
116 係止部
117a、117b 係止凹溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10