(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139586
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】水底設置用筒状体の補強構造及び補強方法
(51)【国際特許分類】
E02D 27/52 20060101AFI20230927BHJP
E02D 27/16 20060101ALI20230927BHJP
E02D 27/32 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
E02D27/52 A
E02D27/16
E02D27/32 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045181
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000166627
【氏名又は名称】五洋建設株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】100172096
【弁理士】
【氏名又は名称】石井 理太
(74)【代理人】
【識別番号】100088719
【弁理士】
【氏名又は名称】千葉 博史
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】池野 勝哉
(72)【発明者】
【氏名】三浦 成久
(72)【発明者】
【氏名】木村 亮
(72)【発明者】
【氏名】肥後 陽介
(72)【発明者】
【氏名】音田 慎一郎
(72)【発明者】
【氏名】澤村 康生
【テーマコード(参考)】
2D046
【Fターム(参考)】
2D046CA08
2D046DA05
2D046DA62
(57)【要約】
【課題】モノパイル式基礎や桟橋等を支持する鋼管杭等の筒状体を好適に補強し、容易に施工可能な水底設置用筒状体の補強構造及び補強方法の提供。
【解決手段】この水底設置用筒状体3の補強構造は、水底設置用筒状体3の外側に配置される補強用筒状体7を備え、補強用筒状体7は、水底設置用筒状体3の外周に沿って配置された内管8と、内管の外側に配置された外管9と、内管8と外管9との間に形成される隔室10の上面部を閉鎖する上蓋11とを備え、隔室内11を減圧することによって水底地盤1に貫入されるようにしたものである。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水底地盤に貫入された状態で前記水底地盤に立設されてなる水底設置用筒状体の補強構造であって、
前記水底設置用筒状体の外側に配置される補強用筒状体を備え、
該補強用筒状体は、前記水底設置用筒状体の外周に沿って配置された内管と、該内管の外側に配置された外管と、前記内管と前記外管との間に形成される隔室の上面部を閉鎖する上蓋とを備え、
前記隔室内を減圧することによって前記水底地盤に貫入されるようにしたことを特徴とする水底設置用筒状体の補強構造。
【請求項2】
前記補強用筒状体は、周方向に間隔をおいて前記内管と前記外管とを連結する複数の補強用リブを備えている請求項1に記載の水底設置用筒状体の補強構造。
【請求項3】
前記補強用リブは、前記隔室を周方向に隔てる板状に形成され、板厚方向に貫通した挿通孔を有している請求項2に記載の水底設置用筒状体の補強構造。
【請求項4】
前記補強用筒状体は、上部に前記補強用筒状体よりも曲げ剛性の低い剛性変化抑制部材を備えている請求項1~3の何れか一に記載の水底設置用筒状体の補強構造。
【請求項5】
前記補強用筒状体は、縦断面で分割した複数の分割筒体によって構成されている請求項1~4の何れか一に記載の水底設置用筒状体の補強構造。
【請求項6】
前記補強用筒状体は、前記上蓋を貫通し、前記隔室と連通した排水管が取り付けられている請求項1~5の何れか一に記載の水底設置用筒状体の補強構造。
【請求項7】
前記内管と前記水底設置用筒状体の外周面との隙間に充填材が充填されている請求項1~6の何れか一に記載の水底設置用筒状体の補強構造。
【請求項8】
水底地盤に貫入された状態で前記水底地盤に立設されてなる水底設置用筒状体の補強方法であって、
前記水底設置用筒状体の外周に沿って配置される内管と、該内管の外側に配置された外管と、前記内管と前記外管との間に形成される隔室の上面部を閉鎖する上蓋とを備えてなる補強用筒状体を使用し、
該補強用筒状体を前記水底設置用筒状体の外側に配置した状態で前記水底地盤上に下端を着底させた後、
前記隔室内を減圧して前記補強用筒状体を前記水底地盤に貫入させることを特徴とする水底設置用筒状体の補強方法。
【請求項9】
前記補強用筒状体を縦断面で分割した複数の分割筒体に分割しておき、各分割筒体を前記水底地盤上で前記水底設置用筒状体の外周面に沿わせて接合させる請求項8に記載の水底設置用筒状体の補強方法。
【請求項10】
前記補強用筒状体を前記水底地盤に貫入させた後、前記内管と前記水底設置用筒状体との間の土砂を除去して隙間を形成し、該隙間に充填材を充填する請求項8又は9に記載の水底設置用筒状体の補強方法。
【請求項11】
前記水底設置用筒状体に作用するせん断力及び曲げモーメントを解析し、深度毎に得られた解析結果に基づいて前記補強用筒状体の貫入長を設定する請求項8~10の何れか一に記載の水底設置用筒状体の補強方法。
【請求項12】
前記補強用筒状体を前記水底地盤に貫入する前に、該補強用筒状体の上部外周に洗掘防止用部材を取り付けておく請求項8~11の何れか一に記載の水底設置用筒状体の補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、洋上風力発電設備の基礎や杭支持構造物の支持杭等に使用する筒状体を補強する水底設置用筒状体の補強構造及び補強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
着床式洋上風力発電設備では、水底地盤に貫入させた筒状体からなるモノパイル式基礎に風車設備等を支持させるものが知られている。また、桟橋等の杭支持構造物では、水底地盤に貫入させた筒状体(鋼管杭)からなる下部工基礎に上部工を支持させたものが知られている。
【0003】
この種の筒状体を設置する方法には、陸上の工場や製作ヤードで製作されたモノパイル等の筒状体を基地港に移送し、当該基地港において昇降式作業船(以下、SEP船という)のクレーンを用いてSEP船上に積込み、SEP船にて筒状体を設置海域まで海上輸送から設置までを行うものが知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【0004】
具体的には、筒状体を積み込んだSEP船で設置海域まで海上輸送した後、設置海域にてSEP船のレグを降下して着底させ、レグに支持されたSEP船本体を水上に上昇させ、SEP船本体を波浪等に対し安定した状態とする。
【0005】
次に、SEP船のクレーンを用いてSEP船上に積載されたモノパイル等の筒状体を吊り上げて起立させ、その状態で水底地盤まで吊り下ろし着底させる。
【0006】
そして、水底地盤に着底させた筒状体の頭部をハンマ等で打ち込み、筒状体を水底地盤に貫入させて設置する。
【0007】
一方、着床式洋上風力発電設備等の構造物の水中基礎構造としては、サクション式基礎も知られている(例えば、特許文献2を参照)。
【0008】
このサクション式基礎は、上部構造物と接合された頂版と、頂版の周縁より下向きに延出したスカート部とを備え、スカート部を水底地盤に着底させた後、上面が頂版によって閉鎖されたスカート部内の水を排水管を通して排出することによって、構造物全体の自重とともにサクション荷重が作用し、スカート部が水底地盤に貫入されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2014-227966号公報
【特許文献2】特開2020-023838号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述の如き従来の洋上風力発電装置の風車を支持するモノパイル式基礎を構成する筒状体や上部工を支持する筒状体(以下、水底設置用筒状体という)では、下部が水底地盤に貫入・支持されており、地震発生時等に大きな曲げモーメントやせん断力が作用することから、安全性を確保するため、当該曲げモーメントやせん断力に対抗できるように予め水底設置用筒状体の外径や肉厚を大きくする必要がある。
【0011】
また、近年では、風車等の風力発電装置や桟橋等の水中・水上構造物の大型化、設置場所の大水深化に伴い、風車を支持するモノパイル式基礎を構成する筒状体や上部工を支持する筒状体も大重量化・長尺化している。
【0012】
よって、従来の技術だけでは、大径化、大重量化した水底設置用筒状体の施工に際し、調達したSEP船のクレーンでは吊り上げ能力が不足し、船体への筒状体の積込み、積み込んだ筒状体の建て込み作業が困難となる場合がある。
【0013】
その場合には、SEP船のクレーンより吊り上げ能力が大きいクレーンを有する大型起重機船を別途手配する必要があり、その分、費用が嵩む、作業工程の調整が煩雑となる等、作業が大掛かりになる等の問題があった。
【0014】
また、近年では、耐震性等の基準が厳格化される傾向にあり、既設の水底設置用筒状体がこの種の基準に満たない場合に補強する方法が確立されていないという問題もある。
【0015】
一方、従来のサクション式基礎では、基礎としての安全性を確保するため、曲げモーメントやせん断力に対抗できるよう深い深度まで貫入する必要がある場合、地中部の障害物の存在や壁面摩擦の増大などにより施工が困難となるおそれがあった。
【0016】
そこで、本発明は、このような従来の問題に鑑み、モノパイル式基礎や桟橋等を支持する鋼管杭等の筒状体を好適に補強し、容易に施工可能な水底設置用筒状体の補強構造及び補強方法の提供を目的としてなされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の如き従来の問題を解決するための請求項1に記載の発明の特徴は、水底地盤に貫入された状態で前記水底地盤に立設されてなる水底設置用筒状体の補強構造であって、前記水底設置用筒状体の外側に配置される補強用筒状体を備え、該補強用筒状体は、前記水底設置用筒状体の外周に沿って配置された内管と、該内管の外側に配置された外管と、前記内管と前記外管との間に形成される隔室の上面部を閉鎖する上蓋とを備え、前記隔室内を減圧することによって前記水底地盤に貫入されるようにしたことにある。
【0018】
請求項2に記載の発明の特徴は、請求項1の構成に加え、前記補強用筒状体は、周方向に間隔をおいて前記内管と前記外管とを連結する複数の補強用リブを備えていることにある。
【0019】
請求項3に記載の発明の特徴は、請求項2の構成に加え、前記補強用リブは、前記隔室を周方向に隔てる板状に形成され、板厚方向に貫通した挿通孔を有していることにある。
【0020】
請求項4に記載の発明の特徴は、請求項1~3の何れか一の構成に加え、前記補強用筒状体は、上部に前記補強用筒状体よりも曲げ剛性の低い剛性変化抑制部材を備えていることにある。
【0021】
請求項5に記載の発明の特徴は、請求項1~4の何れか一の構成に加え、前記補強用筒状体は、縦断面で分割した複数の分割筒体によって構成されていることにある。
【0022】
請求項6に記載の発明の特徴は、請求項1~5の何れか一の構成に加え、前記補強用筒状体は、前記上蓋を貫通し、前記隔室と連通した排水管が取り付けられていることにある。
【0023】
請求項7に記載の発明の特徴は、請求項1~6の何れか一の構成に加え、前記内管と前記水底設置用筒状体の外周面との隙間に充填材が充填されていることにある。
【0024】
請求項8に記載の発明の特徴は、水底地盤に貫入された状態で前記水底地盤に立設されてなる水底設置用筒状体の補強方法であって、前記水底設置用筒状体の外周に沿って配置される内管と、該内管の外側に配置された外管と、前記内管と前記外管との間に形成される隔室の上面部を閉鎖する上蓋とを備えてなる補強用筒状体を使用し、該補強用筒状体を前記水底設置用筒状体の外側に配置した状態で前記水底地盤上に下端を着底させた後、前記隔室内を減圧して前記補強用筒状体を前記水底地盤に貫入させることにある。
【0025】
請求項9に記載の発明の特徴は、請求項8の構成に加え、前記補強用筒状体を縦断面で分割した複数の分割筒体に分割しておき、各分割筒体を前記水底地盤上で前記水底設置用筒状体の外周面に沿わせて接合させることにある。
【0026】
請求項10に記載の発明の特徴は、請求項8又は9の構成に加え、前記補強用筒状体を前記水底地盤に貫入させた後、前記内管と前記水底設置用筒状体との間の土砂を除去して隙間を形成し、該隙間に充填材を充填することにある。
【0027】
請求項11に記載の発明の特徴は、請求項8~10の何れか一の構成に加え、前記水底設置用筒状体に作用するせん断力及び曲げモーメントを解析し、深度毎に得られた解析結果に基づいて前記補強用筒状体の貫入長を設定することにある。
【0028】
請求項12に記載の発明の特徴は、請求項8~11の何れか一の構成に加え、前記補強用筒状体を前記水底地盤に貫入する前に、該補強用筒状体の上部外周に洗掘防止用部材を取り付けておくことにある。
【発明の効果】
【0029】
本発明に係る水底設置用筒状体の補強構造は、請求項1の構成を具備することによって、地震時に作用する曲げモーメントやせん断力が大きくなる条件においても、水底設置用筒状体の外径や肉厚を大きくすることなく、安全性を確保することができる。
【0030】
また、本発明において、請求項2乃至3の構成を具備することによって、中空構造を有する補強用筒状体の強度を確保することができる。
【0031】
また、本発明において、請求項4の構成を具備することによって、水底用筒状体と補強用筒状体との外径差、或いは肉厚差によって水底設置用筒状体に生じる曲げ剛性の急激な変化を抑制することができる。
【0032】
また、本発明において、請求項5の構成を具備することによって、水底設置用筒状体を打設した後に確実に補強用筒状体を施工することができ、既設の水底設置用筒状体の補強にも対応することができる。
【0033】
また、本発明において、請求項6の構成を具備することによって、補強用筒状体内の水を排出し、負圧を発生させることができる。
【0034】
また、本発明において、請求項7の構成を具備することによって、水底設置用筒状体と補強用筒状体とを一体化することができる。
【0035】
本発明に係る水底設置用筒状体の補強方法は、請求項8の構成を具備することによって、地震時に作用する曲げモーメントやせん断力が大きくなる条件においても、水底設置用筒状体の外径や肉厚を大きくすることなく、安全性を確保することができる。
【0036】
また、本発明において、請求項9の構成を具備することによって、水底設置用筒状体を打設した後に確実に補強用筒状体を施工することができ、既設の水底設置用筒状体の補強にも対応することができる。
【0037】
また、本発明において、請求項10の構成を具備することによって、水底設置用筒状体と補強用筒状体との隙間を確実に形成し、当該隙間に充填材を充填することによって水底設置用筒状体と補強用筒状体とを一体化することができる。
【0038】
また、本発明において、請求項11の構成を具備することによって、曲げモーメントやせん断力の影響が大きい部分を確実に補強することができ、補強用筒状体を不必要に長くしなくてよい。
【0039】
また、本発明において、請求項12の構成を具備することによって、後工程での洗掘防止用部材の施工の手間を省き、効率的に作業を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明に係る水底設置用筒状体の補強構造の実施態様を示す正面図である。
【
図2】(a)は同上の補強部分を示すA-A線矢視断面図、(b)は同部分拡大縦断面図である。
【
図3】(a)は同上の補強用筒状体を構成する分割筒状体を示す正面図、(b)は同平面図、(c)は同底面図、(d)は
図3(b)中のB-B線矢視断面図である。
【
図4】同上の水底設置用筒状体を用いた構造物の曲げモーメント及びせん断力を測定した結果を示すグラフである。
【
図5】(a)は本発明に係る水底設置用筒状体の補強方法における補強用筒状体を構成する分割筒状体の接合作業の状態を示す平面図、(b)は同側面図である。
【
図6】(a)は同上の補強用筒状体を接合させ着底させた状態を示す平面図、(b)は同部分破断断面図である。
【
図7】同上の補強用筒状体内の排水開始した状態を示す部分破断断面図である。
【
図8】同上の補強用筒状体の貫入作業の状態を示す部分破断断面図である。
【
図9】(a)は同上の補強用筒状体を水底地盤に貫入した状態を示すA-A線矢視断面図、(b)は同部分破断断面図である。
【
図10】(a)は同上の補強用筒状体と水底設置用筒状体とを一体化した状態を示すA-A線矢視断面図、(b)は同部分破断断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
次に、本発明に係る水底設置用筒状体の補強構造の実施態様を
図1~
図4に示した実施例に基づいて説明する。尚、図中符号1は水底地盤1、符号2は水面である。
【0042】
本実施例は、水底設置用筒状体3として、洋上風力発電設備4のモノパイル式基礎を例に説明する。
【0043】
洋上風力発電設備4は、
図1に示すように、水底地盤1に貫入された状態で水底地盤1に立設されてなる水底設置用筒状体3(モノパイル式基礎)と、水底設置用筒状体3に支持された中空塔型の塔本体部5と、塔本体部5の上端部に支持された風車設備(ナセル・ロータ)6とを備え、水底設置用筒状体3と塔本体部5とで塔型を成している。
【0044】
水底設置用筒状体3は、鋼管等によって構成され、上下端が開口した円筒状等の筒状に形成されている。尚、水底設置用筒状体3の態様は、円筒状に限定されず、例えば、角筒状等であってもよい。
【0045】
この水底設置用筒状体3は、
図1、
図2に示すように、下側が所定の深さまで水底地盤1に貫入され、上側が所定の高さ分だけ水底地盤1より突出した状態で打設されている。
【0046】
また、この水底設置用筒状体3は、水底設置用筒状体3の外側に配置される補強用筒状体7を備え、地震時等に生じる曲げモーメントやせん断力に対抗できるよう補強されている。
【0047】
補強用筒状体7は、水底設置用筒状体3の外周に沿って配置された内管8と、内管8の外側に配置された外管9と、内管8と外管9との間に形成される隔室10の上面部を閉鎖する上蓋11とを備え、隔室10内の水を排出し、隔室10内を減圧することによって自重とサクション荷重とによって水底地盤1に貫入されるようになっている。
【0048】
補強用筒状体7の長さは、洋上風力発電設備4全体、又は水底設置用筒状体3に作用する曲げモーメント及びせん断力を構造解析用モデル等で解析し、その解析結果(
図4を参照)から所定の曲げモーメント及びせん断力を超える範囲に合わせて貫入長を設定し、当該貫入長に水底より突出する部分の高さ等を考慮した余裕を加えて設定する。
【0049】
尚、補強用筒状体7の貫入長は、対象となる洋上風力発電設備用に解析した結果に基づいて設定する場合に限定されず、同様の構造様式の他の洋上風力発電設備に対して過去に行った解析の結果や、実際の洋上風力発電設備4全体又は水底設置用筒状体3に作用する曲げモーメント及びせん断力を計測した結果に基づいて設定してもよい。
【0050】
また、この補強用筒状体7は、内管8の内側面、即ち、水底設置用筒状体3の外周面と対向する面と水底設置用筒状体3の外周面との隙間にモルタル等の充填材12が充填され、水底設置用筒状体3と一体化させてもよい。
【0051】
この補強用筒状体7は、縦断面で分割した複数(本実施例では一対)の分割筒状体13,13によって構成され、両分割筒状体13,13を水底設置用筒状体3の外側から組付け、互いに接合させることによって、一つの二重管構造を有する筒状を成すようになっている。
【0052】
各分割筒状体13,13は、
図3に示すように、断面半円状に形成された鋼板からなる内管用板8aと、内管用板8aと半径方向外側に間隔をおいて対向する断面半円状に形成された鋼板からなる外管用板9aと、内管用板8aと外管用板9aとの間に形成される隔室10の上面部を閉鎖する扇形状の上蓋板11aと、内管用板8aの周方向端縁と外管用板9aの周方向端縁との間の開口部を閉鎖する端板14,14とを備え、内管用板8a、外管用板9a、上蓋板11a及び両端板14,14に囲まれた下面が開口した隔室10が形成されている。
【0053】
そして、この両分割筒状体13,13が接合されることによって、互いに接合された両内管用板8a,8aによって円筒状の内管8が、両外管用板9a,9aによって円筒状の外管9が、上蓋板11a,11aによって円環板状の上蓋11が形成される。
【0054】
また、各分割筒状体13,13は、周方向に間隔をおいて細板状の複数の補強用リブ15,15…を備え、補強用リブ15,15…の水平方向両側縁がそれぞれ内管用板8aと外管用板9aとの対向する面に溶接等によって固定され、内管8と外管9とが補強用リブ15,15…を介して連結され、構造的に補強されている。
【0055】
各補強用リブ15,15…には、縦方向に間隔をおいて複数の板厚方向に貫通した挿通孔15a,15a…を有し、補強用リブ15,15…によって隔てられた隔室10内部が互いに連通している。
【0056】
また、排水管19が上蓋板11a,11aを貫通し、隔室10,10…と連通するように取り付けられている。
【0057】
また、各分割筒状体13,13の両側縁には、端板14,14と連続して一体に形成されたフランジ16,16を備え、両分割筒状体13,13を互いに組み付けるとともに、両側縁のフランジ16,16を互いに重ね合わせ、重ねた両フランジ16,16をボルト締結することにより両分割筒状体13,13が接合され、補強用筒状体7が形成されるようになっている。尚、図中符号は締結用のボルトを貫通させるボルト挿通孔16a,16a…、符号16bは締結用のボルトである。
【0058】
また、補強用筒状体7は、上蓋11に円環状の剛性変化抑制部材17が固定され、水底設置用筒状体3と補強用筒状体7との外径差によって生じる剛性の急激な変化を抑制するようになっている。
【0059】
剛性変化抑制部材17は、鋼材等によって上蓋11よりも横断面積が小さい、又は補強用筒状体7よりも肉厚の薄い円筒状に形成され、水底設置用筒状体3を把持するようになっている。
【0060】
尚、剛性変化抑制部材17は、縦断面で分割した複数(本実施例では一対)の分割剛性変化抑制部材17a,17aによって構成してもよい。
【0061】
また、補強用筒状体7は、補強用筒状体7が水底1に貫入した後、水底面上に位置する上部外周に砕石等からなる洗掘防止用部材18を設け、補強用筒状体7の周囲が潮流等によって洗掘されることを防止するようにしてもよい。
【0062】
次に、本発明に係る水底設置用筒状体3の補強方法について
図5~
図10に基づいて説明する。尚、上述の実施例と同様の構成には同一符号を付して説明を省略する。
【0063】
先ず、既存の工法に基づいて水底設置用筒状体3及び洋上風力発電設備4を構築する。
【0064】
具体的には、特に図示しないが、先ず、陸上の工場や製作ヤードで製作されたモノパイル等の水底設置用筒状体3を基地港に移送し、当該基地港において昇降式作業船(以下、SEP船という)のクレーンを用いてSEP船上に積込む。
【0065】
次に、水底設置用筒状体3を積み込んだSEP船で設置海域まで海上輸送した後、設置海域にてSEP船のレグを降下して着底させ、レグに支持されたSEP船本体を水上に上昇させ、SEP船本体を波浪等に対し安定した状態とする。
【0066】
次に、SEP船のクレーンを用いてSEP船上に積載された水底設置用筒状体3を吊り上げて起立させ、その状態で水底地盤1まで吊り下ろし着底させる。
【0067】
そして、水底地盤1に着底させた筒状体の頭部をハンマ等で打ち込み、筒状体を水底地盤1に貫入させて設置する。
【0068】
水底設置用筒状体3の打設が完了したら、上端部に風車設備(ナセル・ロータ)6が固定された塔本体部5を施工水域に移送し、上端部に風車設備(ナセル・ロータ)6が固定された塔本体部5を起重機船等によって吊り上げ、塔本体部5の下端を水底設置用筒状体3に連結し、洋上風力発電設備4を構築する。
【0069】
尚、補強対象は、上述した新設の設備に限定されず、既設の洋上風力発電設備4等でもよい。また、補強用筒状体7の設置は、水底設置用筒状体3を水底に打設した後に実施してもよい。
【0070】
次に、構築された洋上風力発電設備4全体に作用する曲げモーメント及びせん断力を構造解析用モデル等を用いて解析し、深度毎に得られた解析結果(図を参照)に基づいて補強用筒状体7の貫入長を設定し、それに基づいて補強用筒状体7の長さを決定する。
【0071】
補強用筒状体7の長さが決定したら、陸上の製作ヤード等で補強用筒状体7を構成する分割筒状体13,13を製作し、施工水域まで搬送し、補強用筒状体7を設置する。
【0072】
尚、補強用筒状体7を構成する分割筒状体13,13には、その上部外周に洗掘防止用部材18を取り付けておいてもよい。
【0073】
補強用筒状体7を設置するには、
図5~
図6に示すように、水底設置用筒状体3の外側からクレーン等(図示せず)で吊り上げた各分割筒状体13,13を、内周側を対向させて互いに近接させ、水底地盤1より上方で仮吊り、又は水底地盤1上で仮置きして水底設置用筒状体3を挟んで両分割筒状体13,13を互いに組み合わせ、両側縁のフランジ16,16を重ね合わせる。
【0074】
次に、重ね合わせたフランジ16,16をボルトで締結し、両分割筒状体13,13を接合させ、水底設置用筒状体3の外周に沿って補強用筒状体7を組み立て、組み立てた補強用筒状体7の下端を位置調整しつつ水底地盤1に着底させる。尚、水底地盤1の上方で仮吊りした状態で両分割筒状体13,13をボルト止めする都度、順次水底地盤1に向けて下降させるようにしてもよい。
【0075】
補強用筒状体7は、着底するとその自重によって下端部がある程度水底地盤1に貫入され、水底地盤1によって補強筒状体の下端開口が閉鎖される。
【0076】
次に、
図7に示すように、先端が上蓋11を貫通し、隔室10内と連通するように予め取り付けられた1又は複数の排水管19を通して隔室10内の水を排水する。尚、図中符号20は排水用ポンプである。
【0077】
排水管19の材質は、特に限定されず、鋼製でもポリエチレン等の樹脂製でもよく、水圧に耐えられる強度があるものであればよい。
【0078】
その際、隔室10内は、補強用リブ15,15…によって複数に隔てられているが、補強用リブ15,15…に挿通孔15a,15a…が設けられ、内部間が互いに連通しているので好適に隔室10内の水を排出させることができる。
【0079】
隔室10内の水が排出され、隔室10内が減圧されると、
図8に示すように、補強用筒状体7に自重による荷重とともにサクション荷重が作用し、補強用筒状体7が水底地盤1に貫入される。
【0080】
その際、補強用筒状体7の上蓋11の上面に周方向に間隔をおいて複数の水圧計を設置しておき、当該水圧計より得られる各位置の深度情報に基づき補強用筒状体7が水底地盤1に貫入される時の傾斜角を確認し、その結果に基づいて複数の排水管19による排水量や排水用ポンプ20のオン・オフを調整することが望ましい。
【0081】
尚、補強用筒状体7の貫入時の傾斜角を計測する手段は、上記の水圧計に限定されず、例えば、傾斜計等を用いてもよい。
【0082】
そして、
図9に示すように、補強用筒状体7が水底地盤1の所定の深さまで貫入されたら、排水管19を撤去し、貫入作業が完了する。
【0083】
その際、補強用筒状体7の上部外周に洗掘防止用部材18が取り付けられているので、補強用筒状体7の貫入作業完了と同時に洗掘防止用部材18の設置が完了する。
【0084】
補強用筒状体7の貫入が完了した時点では、補強用筒状体7の内管8と水底設置用筒状体3の外周との間に土砂が残った状態にあるので、必要に応じて補強用筒状体7の内管8と水底設置用筒状体3との間に向けてウォータージェットを噴射し、残存した土砂を除去して隙間を形成し、
図10に示すように、隙間にモルタル等の充填材12を充填して水底設置用筒状体3と補強用筒状体7とを一体化させる。
【0085】
最後に、
図2に示すように、必要に応じて補強用筒状体7の上部に上蓋11よりも横断面積の小さい、又は補強用筒状体7よりも肉厚の薄い筒状の剛性変化抑制部材17を取り付け、必要に応じて剛性変化抑制部材17と水底設置用筒状体3の外周との間にモルタル等の充填材12を充填して補強作業が完了する。
【0086】
このように構成された水底設置用筒状体3の補強方法では、水底設置用筒状体3の外側に補強用筒状体7が設置されることにより、大きな曲げモーメントやせん断力が作用する部分の断面積を大きくすることができ、曲げモーメントやせん断力に対し高い耐力を得ることができる。
【0087】
よって、水底設置用筒状体3の外径や肉厚を大きくすることなく、安全性を確保することができるので、水底設置用筒状体3の新設に際し、吊り上げ能力が大きいクレーンを有する大型起重機船を別途手配せずとも、調達したSEP船のクレーンでは吊り上げ能力で対応することができ、その分、施工費用を抑え、効率的に作業を行うことができる。
【0088】
この水底設置用筒状体3の補強方法では、ハンマ等による打設に依らず、サクション荷重によって補強用筒状体7を確実に貫入させることができるので、新設の場合のみならず既設の水底設置用筒状体3の補強にも対応することができる。
【0089】
尚、上述の実施例では、洋上風力発電設備4のモノパイル基礎を例に説明したが、本願発明は、桟橋等の杭支持構造物を支持する鋼管杭等にも適用することができる。
【0090】
また、上述の実施例では、補強用筒状体7を二分割した分割筒状体13,13によって構成した場合について説明したが、3分割以上に分割した分割筒状体によって構成してもよく、分割筒状体を用いずに補強用筒状体7を一体に形成してもよい。
【0091】
さらに、補強用筒状体7には、貫入時に水底地盤1内の障害物を排除するために、内管8および外管9の下端部にウォータージェットを設置するようにしてもよい。
【0092】
また、隔室内10内の水を排水するための排水用ポンプ20の排水口に減圧装置としてエジェクターを取り付けるようにしてもよい。エジェクターを取り付けることによって噴流で排水することにより負圧を駆動させることができる。
【符号の説明】
【0093】
1 水底地盤
2 水面
3 水底設置用筒状体
4 洋上風力発電設備
5 塔本体部
6 風車設備
7 補強用筒状体
8 内管
9 外管
10 隔室
11 上蓋
12 充填材
13 分割筒状体
14 端板
15 補強用リブ
16 フランジ
17 剛性変化抑制部材
18 洗掘防止用部材
19 排水管
20 排水用ポンプ