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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139631
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】車両の異常検知装置
(51)【国際特許分類】
   G08G 1/00 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
G08G1/00 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045256
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】富永 孝
(72)【発明者】
【氏名】村松 潤哉
(72)【発明者】
【氏名】朽木 克博
(72)【発明者】
【氏名】岡地 涼輔
(72)【発明者】
【氏名】香山 貴志
【テーマコード(参考)】
5H181
【Fターム(参考)】
5H181AA01
5H181BB04
5H181BB05
5H181BB17
5H181BB18
5H181FF10
5H181FF13
5H181FF27
5H181MB06
(57)【要約】
【課題】粒度の粗いデータ構造で保存されている走行パラメータから車両の異常を検知するための技術が必要とされている。
【解決手段】車両の異常を検知する異常検知装置は、車両の走行時の走行パラメータに対応したヒストグラムデータを含む走行状態データを取得し、今回取得時のヒストグラムデータと前回取得時のヒストグラムデータの差分である差分時系列ヒストグラムデータを算出する差分時系列ヒストグラムデータ算出部と、差分時系列ヒストグラムデータに基づいて車両の時系列ストレス情報を算出する時系列ストレス情報算出部と、複数の車両の時系列ストレス情報に基づいて異常判定閾値を算出する異常判定閾値算出部と、対象車両の時系列ストレス情報の遷移に基づいて、対象車両の時系列ストレス情報が異常判定閾値を超える時期を予測する異常予兆予測部と、を備えている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の異常を検知する異常検知装置であって、
車両の走行時の走行パラメータに対応したヒストグラムデータを含む走行状態データを取得し、今回取得時の前記ヒストグラムデータと前回取得時の前記ヒストグラムデータの差分である差分時系列ヒストグラムデータを算出する差分時系列ヒストグラムデータ算出部と、
前記差分時系列ヒストグラムデータに基づいて前記車両の時系列ストレス情報を算出する時系列ストレス情報算出部と、
複数の車両の前記時系列ストレス情報に基づいて異常判定閾値を算出する異常判定閾値算出部と、
対象車両の前記時系列ストレス情報の遷移に基づいて、前記対象車両の前記時系列ストレス情報が前記異常判定閾値を超える時期を予測する異常予兆予測部と、を備えている、異常検知装置。
【請求項2】
前記走行状態データは、第1の走行パラメータに対応した第1のヒストグラムデータと、第2の走行パラメータに対応した第2のヒストグラムデータと、を少なくとも含んでおり、
前記第1の走行パラメータと前記第2の走行パラメータは相関関係を有しており、
前記時系列ストレス情報算出部が算出する前記時系列ストレス情報は、前記第1のヒストグラムデータから算出される第1の時系列ストレス情報と前記第2のヒストグラムデータから算出される第2の時系列ストレス情報の相関関係を示す時系列相関ストレス情報である、請求項1に記載の異常検知装置。
【請求項3】
前記異常予兆予測部はさらに、時系列的に連続した前記対象車両の前記時系列相関ストレス情報の差が所定値を超えて変化したときに、前記対象車両に異常予兆があると判定するように構成されている、請求項2に記載の異常検知装置。
【請求項4】
前記時系列ストレス情報は、前記差分時系列ヒストグラムデータの代表値に基づいて算出される、請求項1~3のいずれか一項に記載の異常検知装置。
【請求項5】
前記異常判定閾値は、前記複数の車両の前記時系列ストレス情報の標準偏差に基づいて算出される、請求項4に記載の異常検知装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、車両の異常を検知する異常検知装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、対象車両の制御に関わる時系列データ(例えば、空燃比制御データ、アイドル制御データ等)をリアルタイムで取得し、異常予兆を予測する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002-203065号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車両には、データの保存及び通信コストを抑えるために、時系列データではないヒストグラムのような粒度の粗いデータ構造で各種の走行パラメータを保存することがある。このような粒度の粗いデータ構造で保存されている走行パラメータから車両の異常を検知するための技術が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する車両の異常を検知する異常検知装置は、車両の走行時の走行パラメータに対応したヒストグラムデータを含む走行状態データを取得し、前回取得時の前記ヒストグラムデータと今回取得時の前記ヒストグラムデータの差分である差分時系列ヒストグラムデータを算出する差分時系列ヒストグラムデータ算出部と、前記差分時系列ヒストグラムデータに基づいて前記車両の時系列ストレス情報を算出する時系列ストレス情報算出部と、複数の車両の前記時系列ストレス情報に基づいて異常判定閾値を算出する異常判定閾値算出部と、対象車両の前記時系列ストレス情報の遷移に基づいて、前記対象車両の前記時系列ストレス情報が前記異常判定閾値を超える時期を予測する異常予兆予測部と、を備えることができる。この異常検知装置では、粒度の粗いデータ構造である前記走行状態データから前記時系列ストレス情報を算出し、その時系列ストレス情報の遷移に基づいて前記対象車両の異常予兆を予測することができる。この異常検知装置は、低コストで前記対象車両の異常予兆を予測することができる。
【0006】
前記走行状態データは、第1の走行パラメータに対応した第1のヒストグラムデータと、第2の走行パラメータに対応した第2のヒストグラムデータと、を少なくとも含んでいてもよい。前記第1の走行パラメータと前記第2の走行パラメータは相関関係を有している。前記時系列ストレス情報算出部が算出する前記時系列ストレス情報は、前記第1のヒストグラムデータから算出される第1の時系列ストレス情報と前記第2のヒストグラムデータから算出される第2の時系列ストレス情報の相関関係を示す時系列相関ストレス情報であってもよい。ここで、相関関係を示す時系列相関ストレス情報とは、前記第1の時系列ストレス情報と前記第2の時系列ストレス情報の間の相関関係を示す関係式に含まれる定数パラメータである。前記第1の時系列ストレス情報と前記第2の時系列ストレス情報の相関関係は、特に限定されるものではなく、例えば正比例、反比例、二乗比例及び指数比例など様々である。例えば、前記第1の時系列ストレス情報と前記第2の時系列ストレス情報の間に正比例の相関関係がある場合、前記時系列相関ストレス情報は、前記第1の時系列ストレス情報と前記第2の時系列ストレス情報の比(比例定数)である。車両の前記走行パラメータは、データ取得期間における車両の走行状態及び道路状況等によってバラツキが大きい。このため、相関関係を有する前記第1の走行パラメータに基づいて算出される前記第1の時系列ストレス情報と前記第2の走行パラメータに基づいて算出される前記第2の時系列ストレス情報は、車両の走行状態及び道路状況等に応じて両者の相関関係を維持しながら同様に変動する。このため、両者の相関関係を示す前記時系列相関ストレス情報では、車両の走行状態及び道路状況等に起因するバラツキの影響が抑えられる。
【0007】
前記異常予兆予測部はさらに、時系列的に連続した前記対象車両の前記時系列相関ストレス情報の差が所定値を超えて変化したときに、前記対象車両に異常予兆があると判定するように構成されてもよい。時系列的に連続した前記時系列相関ストレス情報の差が所定値を超えて変化することは、前記第1の時系列ストレス情報と前記第2の時系列ストレス情報の相関関係が崩れたことを示しており、前記対象車両に何らかの異常が発生したことを示唆する。この異常検知装置は、そのような相関関係の崩れから前記対象車両の異常予兆を予測することができる。
【0008】
前記時系列ストレス情報は、前記差分時系列ヒストグラムデータの代表値に基づいて算出されてもよい。代表値としては、平均値、中央値及び最頻値の少なくともいずれか1つが例示される。この場合、前記異常判定閾値は、前記複数の車両の前記時系列ストレス情報の標準偏差に基づいて算出されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本明細書が開示する異常検知装置の機能ブロック図を示す。
図2】走行状態データに含まれる走行パラメータのヒストグラムデータの一例を示す。
図3】ヒストグラムデータから差分時系列ヒストグラムデータを算出する方法、及び、差分時系列ヒストグラムデータから時系列ストレス情報を算出する方法、を説明するための図を示す。
図4】第1の時系列ストレス情報と第2の時系列ストレス情報の比である時系列相関ストレス情報と異常判定閾値の関係を示す。
図5】時系列相関ストレス情報の遷移を示す。
図6】時系列相関ストレス情報のデータ群に回帰直線を引く方法を説明するための図を示す。
図7】時系列相関ストレス情報が異常判定閾値に達する時期を予測する方法を説明するための図を示す。
図8】時系列相関ストレス情報から異常予兆を検知する方法を説明するための図を示す。
図9】異常検知装置の処理フローを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1に示すように、車両の異常(異常予兆を含む)を検知するための異常検知装置10は、走行状態データDB11と、時系列ヒストグラムデータ算出部12と、時系列ストレス情報算出部13と、異常検知判定部14と、異常予兆予測部15と、通信部16と、を備えている。以下で説明するように、異常検知装置10は、対象車両の走行状態データから対象車両の異常を検知するために用いられる。異常検知装置10は、CPUとメモリを備えており、メモリに格納されているプログラムに基づいてCPUが以下で説明する様々な処理を実行する。このような異常検知装置10を構成する構成要素の一部又は全体は、車両に搭載されていてもよく、車両外のサーバーに設けられていてもよい。
【0011】
(走行状態データDB11)
走行状態データDB11は、車両の走行時に取得される複数種類の走行パラメータの各々に対応した複数のヒストグラムデータを含んでいる。これら走行パラメータは、特に限定されるものではないが、例えば車載モータ駆動用インバータの冷却水温度、素子温度、素子電流値、及び、車載電池の電圧値であってもよい。
【0012】
図2に、ヒストグラムデータのデータ構造を例示する。例えば、走行パラメータが冷却水温度の場合、横軸が所定温度幅で分けられた冷却水温度であり、縦軸が頻度である。このようなヒストグラムデータは、車両走行時に所定周期で取得された個々の計測値を集計することで生成される。走行パラメータが素子温度、素子電流値又は電池電圧の場合も同様である。なお、同じ走行パラメータ内でも、個々の計測値がいつ取得されたかは記録されておらず、個々の計測値間の時系列相関はない。このように、走行状態データDB11に格納されているヒストグラムデータは、粒度の粗いデータ構造である。
【0013】
(時系列ヒストグラムデータ算出部12)
時系列ヒストグラムデータ算出部12は、複数の車両の各々から走行状態データを取得し、その走行状態データに含まれる複数種類の走行パラメータごとに、前回取得時のヒストグラムデータと今回取得時のヒストグラムデータの差分である差分時系列ヒストグラムデータを算出するように構成されている。
【0014】
図3に、特定の走行パラメータ(例えば、冷却水温度)のヒストグラムデータの差分時系列ヒストグラムデータを算出する方法を示す。ここで、t、t、tは、走行パラメータのヒストグラムデータを取得したタイミングを示しており、時系列的に連続したタイミングである。tは、ヒストグラムデータを取得した初回のタイミングを示す。時間が経過(tからt)するにつれて、走行パラメータのヒストグラムデータは蓄積されていく。時系列ヒストグラムデータ算出部12は、今回取得時のヒストグラムデータから前回取得時のヒストグラムデータを差し引くことで、差分時系列ヒストグラムデータを生成する。例えば、タイミングtで取得したヒストグラムデータからタイミングtで取得したヒストグラムデータを差し引くことで、タイミングtにおける差分時系列ヒストグラムデータ(t-t)を生成する。このように、差分時系列ヒストグラムデータは、前回取得時から今回取得時までの間に新たに蓄積された走行パラメータのヒストグラムデータであり、疑似的な時系列データを構成することができる。
【0015】
(時系列ストレス情報算出部13)
時系列ストレス情報算出部13は、複数種類の走行パラメータごとに算出された差分時系列ヒストグラムデータに基づいて、車両の時系列ストレス情報を算出し、算出した時系列ストレス情報を車両の識別データに紐付けてデータベースに保存するように構成されている。図3に示すように、時系列ストレス情報算出部13は、差分時系列ヒストグラムデータの代表値である平均値、中央値、最頻値のうちの少なくともいずれか1つを時系列ストレス情報として算出する。
【0016】
時系列ストレス情報算出部13はさらに、異なる2つの走行パラメータごとに算出された第1の時系列ストレス情報と第2の時系列ストレス情報の相関関係を示す時系列相関ストレス情報を算出する。なお、時系列相関ストレス情報は、時系列ストレス情報の一態様である。ここで、異なる2つの走行パラメータは、相互に物理的な影響が及ぶ関係にあり、相関関係を有している。例えば、車載モータ駆動用インバータの冷却水温度と素子温度は、素子温度が上昇すれば冷却水温度も上昇する比例関係にある。このように、相関関係が比例関係の場合、時系列ストレス情報算出部13は、2つの走行パラメータの第1の時系列ストレス情報と第2の時系列ストレス情報の比(第2の時系列ストレス情報/第1の時系列ストレス情報)である時系列相関ストレス情報を算出し、時系列相関ストレス情報をデータベースに保存する。例えば、時系列ストレス情報算出部13は、相関関係にある冷却水温度の平均値と素子温度の平均値の比である時系列相関ストレス情報を算出し、時系列相関ストレス情報をデータベースに保存する。なお、2つの走行パラメータの第1の時系列ストレス情報と第2の時系列ストレス情報の相関関係が正比例ではなく、他の相関関係(例えば、反比例、二乗比例、指数比例等)の場合、時系列ストレス情報算出部13は、第1の時系列ストレス情報と第2の時系列ストレス情報の間の相関関係を示す関係式に含まれる定数パラメータを算出すればよい。また、3つ以上の時系列ストレス情報の間に相関関係がある場合も同様であり、時系列ストレス情報算出部13は、それらの時系列ストレス情報の間の相関関係を示す関係式に含まれる定数パラメータを算出すればよい。
【0017】
車両の走行パラメータは、データ取得期間における車両の走行状態及び道路状況等によってバラツキが大きい。このため、相関関係を有する第1の走行パラメータに基づいて算出される第1の時系列ストレス情報と第2の走行パラメータに基づいて算出される第2の時系列ストレス情報は、車両の走行状態及び道路状況等に応じて同様に変動する。このため、両者の比である時系列相関ストレス情報では、車両の走行状態及び道路状況等に起因するバラツキの影響が抑えられる。以下で説明するように、本実施形態の異常検知装置10では、時系列相関ストレス情報を利用して異常検知を行うが、これに代えて、単一の時系列ストレス情報を利用して異常検知を行うことも可能である。
【0018】
(異常検知判定部14)
異常検知判定部14は、複数の車両の時系列相関ストレス情報に基づいて異常判定閾値を算出し、対象車両の時系列相関ストレス情報が異常判定閾値を超えているか否かを判定するように構成されている。異常判定閾値を算出する機能は、異常判定閾値算出部ということができる。
【0019】
図4に、時系列相関ストレス情報と異常判定閾値の関係を示す。符号22(白丸)及び符号24(黒丸)は、対象車両を含まない複数の他の車両の時系列相関ストレス情報である。異常検知判定部14は、対象車両を含まない複数の他の車両の時系列相関ストレス情報の標準偏差(σ)を算出し、±3σを異常判定閾値として設定する。なお、標準偏差(σ)に基づいた異常判定閾値(±3σ)の算出は一例であり、他の様々な指標を異常判定閾値に設定することができる。例えば、対象車両を含まない複数の他の車両の時系列相関ストレス情報の平均値、中央値、最頻値から所定値だけ上下にある値を異常判定閾値に設定してもよい。時系列相関ストレス情報が異常判定閾値を超える車両(符号24の黒丸)では、その時系列相関ストレス情報を算出するのに用いた走行パラメータに関連する部品(例えば、走行パラメータ冷却水温度であれば冷却器)に異常が生じていることが示唆される。異常検知判定部14は、対象車両の時系列相関ストレス情報が異常判定閾値を超えているとき、そのことを示す異常情報を通信部16に送信する。なお、異常検知判定部14は、対象車両を含む複数の車両の時系列相関ストレス情報の標準偏差を算出して異常判定閾値を設定してもよい。
【0020】
(異常予兆予測部15)
異常予兆予測部15は、対象車両の時系列相関ストレス情報の遷移に基づいて、対象車両の時系列相関ストレス情報が異常判定閾値を超える時期を予測するように構成されている。
【0021】
図5は、対象車両の時系列相関ストレス情報の遷移を示す。上記したように、時系列相関ストレス情報は、比例関係にある2つの時系列ストレス情報の比として算出されるので、正常であればその値は一定値である。何らかの異常が生じると、時系列相関ストレス情報は一定値から変動する。この例では、時系列相関ストレス情報が経時的に増加するように遷移する場合を示している。
【0022】
図6を参照し、対象車両の時系列相関ストレス情報の時系列データに回帰曲線を引く方法を説明する。回帰曲線は、時系列相関ストレス情報が概ね一定値で遷移する期間を対象として引かれる回帰曲線と、時系列相関ストレス情報が経時的に増加して遷移する期間を対象として引かれる回帰曲線と、で構成されている。図6は、2つの回帰曲線をどこで分割するかを説明する図である。
【0023】
図6に示すように、異常予兆予測部15はまず、(A)~(C)に示すように3つの分割点候補を設定する。なお、分割候補点の数は、4以上であってもよい。異常予兆予測部15は、複数の分割点候補の各々において、それ以前の期間とそれ以降の期間の各々に最小二乗法を適用し、以前の期間と以降の期間を含む全体の残差二乗和を算出する。異常予兆予測部15は、全体の残差二乗和が最も小さかった分割点候補を適正分割点として採用する。この例では、(B)の分割点候補を利用して算出された全体の残差二乗和が最小であり、(B)の分割点候補が適正分割点として採用される。
【0024】
図7に、対象車両の時系列相関ストレス情報が経時的に増加して遷移する期間を示す。異常予兆予測部15は、図6で採用された適正分割点を利用して引かれる回帰曲線が異常判定閾値に達する時期を算出する。異常予兆予測部15は、算出された時期を含む異常予兆情報を通信部16に送信する。
【0025】
図8を参照し、異常予兆予測部15が異常予兆を検知する他の方法を説明する。異常予兆予測部15は、異常判定閾値を超えない範囲内で、時系列的に連続した対象車両の時系列相関ストレス情報の差が所定値(例えば、1σ)を超えて変化したか否かを判定する。このような時系列相関ストレス情報の大きな変化は、第1の時系列ストレス情報と第2の時系列ストレス情報の相関関係が崩れたことを示しており、対象車両に何らかの異常が発生したことを示唆する。異常予兆予測部15は、時系列的に連続した時系列相関ストレス情報の差が所定値を超えて変化したこと示す異常予兆情報を通信部16に送信する。なお、時系列的に連続した時系列相関ストレス情報の差は、時系列的に連続した2つの時系列相関ストレス情報の差から算出してもよく、分割点よりも時系列的に前にある複数の時系列相関ストレス情報から求まる回帰直線と分割点よりも時系列的に後にある複数の時系列相関ストレス情報から求まる回帰直線の分割点における差から算出してもよい。
【0026】
(通信部16)
通信部16は、対象車両の異常(異常予兆を含む)をユーザ端末と事業者端末の少なくともいずれか一方に送信するように構成されている。ここで、ユーザ端末は、ユーザが所有する車両に搭載される端末であってもよいし、ユーザが所有する携帯電話等の端末であってもよい。事業者端末は、ユーザが定期点検を依頼するディーラ等の車両修理事業者の端末であってもよい。
【0027】
通信部16は、上記したように、対象車両の時系列相関ストレス情報が異常判定閾値を超えているとの異常情報を異常検知判定部14から受信したときに、対象車両に異常があることをユーザ端末と事業者端末の少なくともいずれか一方に送信する。対象車両に異常があることがユーザ端末に送信されることにより、ユーザは、所有する車両の異常を知ることができ、適切な対応をとることができる。また、対象車両に異常があることが事業者端末に送信されることにより、車両修理事業者は、ユーザに対して部品交換日時の提案及び調整を行うとともに、交換日時に合わせて必要となる部品の発注を行う等の適切な対応をとることができる。
【0028】
通信部16はさらに、対象車両の時系列相関ストレス情報が異常判定閾値に達すると予測される時期を含む異常予兆情報を異常予兆予測部15から受信したときに、その時期をユーザ端末と事業者端末の少なくともいずれか一方に送信する。あるいは、図7に示すように、通信部16は、予測される時期と次回のメンテナンス予定日を比較し、予測される時期が次回のメンテナンス予定日よりも遅い場合のみ(図7では、予測される時期が次回のメンテナンス予定日よりも早い場合を示している)、ユーザ端末と事業者端末の少なくともいずれか一方に送信してもよい。上記と同様に、ユーザ又は車両修理事業者は適切な対応をとることができる。
【0029】
通信部16はさらに、時系列的に連続した時系列相関ストレス情報の差が所定値を超えて変化したこと示す異常予兆情報を異常予兆予測部15から受信したときに、対象車両に異常予兆があることをユーザ端末と事業者端末の少なくともいずれか一方に送信する。上記と同様に、ユーザ又は車両修理事業者は適切な対応をとることができる。
【0030】
(異常検知装置10の処理フロー)
図9を参照し、異常検知装置10の処理フローを説明する。まず、ステップS1において、異常検知装置10は、対象車両を含む複数の車両の走行状態データを取得する。
【0031】
次に、ステップS2において、異常検知装置10の時系列ヒストグラムデータ算出部12は、走行状態データに含まれる複数種類の走行パラメータごとに、前回取得時のヒストグラムデータと今回取得時のヒストグラムデータの差分である差分時系列ヒストグラムデータを算出する。
【0032】
次に、ステップS3において、異常検知装置10の時系列ストレス情報算出部13は、複数種類の走行パラメータごとに算出された差分時系列ヒストグラムデータに基づいて、車両の時系列ストレス情報を算出する。上記したように、異常検知装置10の時系列ストレス情報算出部13はさらに、相関関係にある2つの走行パラメータの第1の時系列ストレス情報と第2の時系列ストレス情報の相関関係を示す時系列相関ストレス情報を算出する。
【0033】
次に、ステップS4において、異常検知装置10の異常検知判定部14は、複数の車両の時系列相関ストレス情報に基づいて異常判定閾値を算出する。
【0034】
次に、ステップS5において、異常検知装置10の異常検知判定部14は、対象車両の時系列相関ストレス情報が異常判定閾値を超えているか否かを判定する。対象車両の時系列相関ストレス情報が異常判定閾値を超えているときはステップS6に進む。対象車両の時系列相関ストレス情報が異常判定閾値を超えていないときはステップS7に進む。
【0035】
対象車両の時系列相関ストレス情報が異常判定閾値を超えているとき、異常検知判定部14は、異常情報を異常検知装置10の通信部16に送信する。ステップS6において、通信部16は、対象車両に異常があることをユーザ端末と事業者端末の少なくともいずれか一方に送信する。
【0036】
対象車両の時系列相関ストレス情報が異常判定閾値を超えていないとき、ステップS7において、異常検知装置10の異常予兆予測部15は、対象車両の時系列相関ストレス情報の遷移に基づいて、対象車両の異常予兆を分析する。異常予兆分析の1つでは、異常予兆予測部15は、対象車両の時系列相関ストレス情報に回帰直線を引き、対象車両の時系列相関ストレス情報が異常判定閾値を超える時期を予測する。異常予兆分析の他の1つでは、異常予兆予測部15は、異常判定閾値を超えない範囲内で、時系列的に連続した対象車両の時系列相関ストレス情報の差が所定値を超えて変化したか否かを判定する。
【0037】
次に、ステップS8において、異常予兆予測部15は、予測した時期が次回のメンテナンス予定日よりも遅い場合、異常予兆があると判定し、異常予兆情報を通信部16に送信し、ステップS6に進む。また、異常予兆予測部15は、時系列的に連続した対象車両の時系列相関ストレス情報の差が所定値を超えて変化したときに、異常予兆があると判定し、異常予兆情報を通信部16に送信し、ステップS6に進む。ステップS6において、通信部16は、対象車両に異常予兆があることをユーザ端末と事業者端末の少なくともいずれか一方に送信する。
【0038】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0039】
10 :異常検知装置
11 :走行状態データDB
12 :時系列ヒストグラムデータ算出部
13 :時系列ストレス情報算出部
14 :異常検知判定部
15 :異常予兆予測部
16 :通信部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9