(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139671
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】樹脂組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 23/10 20060101AFI20230927BHJP
C08K 7/00 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C08L23/10
C08K7/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045325
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001070
【氏名又は名称】弁理士法人エスエス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】何 家成
(72)【発明者】
【氏名】中村 友哉
(72)【発明者】
【氏名】田中 宏和
【テーマコード(参考)】
4J002
【Fターム(参考)】
4J002BB111
4J002BB121
4J002DA016
4J002FA116
(57)【要約】
【課題】充分高い導電性を有する成形体を形成可能な樹脂組成物を提供すること。
【解決手段】分岐、架橋、および共通の壁部の共有からなる群より選ばれる1つ以上の構造的形態を有する複数のカーボンナノチューブを含むカーボンナノ構造体(A)と、示差走査熱量計により測定される融点(Tm)が135~167℃の範囲にあるポリプロピレン樹脂(B)とを含み、前記カーボンナノ構造体(A)および前記ポリプロピレン樹脂(B)の合計を100質量部としたときに、前記カーボンナノ構造体(A)を4.0~13.0質量部含有し、前記ポリプロピレン樹脂(B)を87.0~96.0質量部含有する樹脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
分岐、架橋、および共通の壁部の共有からなる群より選ばれる1つ以上の構造的形態を有する複数のカーボンナノチューブを含むカーボンナノ構造体(A)と、示差走査熱量計により測定される融点(Tm)が135~167℃の範囲にあるポリプロピレン樹脂(B)とを含む樹脂組成物であって、
前記カーボンナノ構造体(A)および前記ポリプロピレン樹脂(B)の合計を100質量部としたときに、前記カーボンナノ構造体(A)を4.0~13.0質量部含有し、前記ポリプロピレン樹脂(B)を87.0~96.0質量部含有する樹脂組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の樹脂組成物を含む成形体。
【請求項3】
自動車外板用成形体である、請求項2に記載の成形体。
【請求項4】
静電塗装用部品である、請求項2に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂組成物、および該樹脂組成物を含む成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
熱可塑性樹脂に炭素材料を添加することにより導電性を付与した導電性材料と、この導電性材料から形成された成形体とが、広く使用されている(例えば、特許文献1および2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-255683号公報
【特許文献2】国際公開第2018/056215号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らの検討によれば、従来技術の導電性材料から形成された成形体は、充分高い導電性を有するとは言い難い。本発明の一態様に係る課題は、充分高い導電性を有する成形体を形成可能な樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは前記課題を解決すべく検討を行った。その結果、下記構成例によれば、前記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち本発明は、例えば以下の[1]~[4]に関する。
【0006】
[1] 分岐、架橋、および共通の壁部の共有からなる群より選ばれる1つ以上の構造的形態を有する複数のカーボンナノチューブを含むカーボンナノ構造体(A)と、示差走査熱量計により測定される融点(Tm)が135~167℃の範囲にあるポリプロピレン樹脂(B)とを含む樹脂組成物であって、
前記カーボンナノ構造体(A)および前記ポリプロピレン樹脂(B)の合計を100質量部としたときに、前記カーボンナノ構造体(A)を4.0~13.0質量部含有し、前記ポリプロピレン樹脂(B)を87.0~96.0質量部含有する樹脂組成物。
[2] [1]に記載の樹脂組成物を含む成形体。
[3] 自動車外板用成形体である、[2]に記載の成形体。
[4] 静電塗装用部品である、[2]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、充分高い導電性を有する成形体を形成することができる樹脂組成物を提供することができる。さらに、本発明の樹脂組成物を用いることにより、塗装膜厚の均一性に優れ、得られる成形体は、高い導電性に加え、曲げ弾性率や衝撃強度等の機械的特性、および耐熱性等の熱的特性においても優れる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明を実施するための形態について説明する。
【0009】
〔樹脂組成物〕
本発明の樹脂組成物は、複数のカーボンナノチューブを含むカーボンナノ構造体(A)、および示差走査熱量計により測定される融点(Tm)が135~167℃の範囲にあるポリプロピレン樹脂(B)を所定量含有することを特徴とする。
【0010】
本発明の樹脂組成物における前記カーボンナノ構造体(A)の含有量は、前記カーボンナノ構造体(A)および前記ポリプロピレン樹脂(B)の合計を100質量部としたときに、4.0~13.0質量部であり、好ましくは5.0~12.0質量部、より好ましくは6.0~11.0質量部である。前記カーボンナノ構造体(A)の含有量が上記範囲を下回ると、導電性が高くなる、すなわち、表面電気抵抗率が高くなる傾向にある。一方、前記カーボンナノ構造体(A)の含有量が上記範囲を上回ると、導電性は低くなるものの、曲げ弾性率等の機械的特性および熱的特性が劣る場合があり、導電性とその他物性とのバランスに劣る傾向にある。
【0011】
また、本発明の樹脂組成物における前記ポリプロピレン樹脂(B)の含有量は、前記カーボンナノ構造体(A)および前記ポリプロピレン樹脂(B)の合計を100質量部としたときに、87.0~96.0質量部であり、好ましくは88.0~95.0質量部であり、より好ましくは89.0~94.0質量部である。カーボンナノ構造体(A)およびポリプロピレン樹脂(B)を上述の範囲でそれぞれ含有する樹脂組成物を用いることで、優れた導電性、すなわち低い表面電気抵抗率を有し、かつ、機械的特性および熱的特性に優れた成形体を形成することができる。
【0012】
<カーボンナノ構造体(A)>
本発明におけるカーボンナノ構造体(A)は、複数のカーボンナノチューブを含み、前記複数のカーボンナノチューブは、分岐、架橋、および共通の壁部の共有からなる群より選ばれる1つ以上の構造的形態を有する。前記構造的形態を有することで、複数のカーボンナノチューブはポリマー構造をとり存在することが可能である。すなわち、前記カーボンナノ構造体(A)は、該ポリマー構造の基本モノマー単位としてカーボンナノチューブを有すると見なすことができる。
【0013】
複数のカーボンナノチューブ中の各カーボンナノチューブが必ずしも分岐、架橋結合、及び共通の壁の共有という以上の構造的形態を有する必要はなく、複数のカーボンナノチューブは全体としてこれら構造的形態の1つまたは複数を有することができる。すなわち、いくつかの実施形態では、カーボンナノチューブの少なくとも一部が分岐し、カーボンナノチューブの少なくとも一部が架橋結合し、カーボンナノチューブの少なくとも一部が共通の壁を共有する。このようなカーボンナノ構造体(A)は、例えば、走査電子顕微鏡(SEM)のような一般的なカーボンナノチューブ分析技術により、通常の個々に分離したカーボンナノチューブと容易に区別することができる。
【0014】
前記カーボンナノ構造体(A)中のカーボンナノチューブは、成長基体(例えば、繊維材料)上でカーボンナノ構造体を形成する間に、分岐し、架橋結合し、相互に共通の壁を共有する状態を形成することができる。さらに、成長基体上でカーボンナノ構造体を形成するとき、カーボンナノチューブは、カーボンナノ構造体中で相互に実質的に平行であるように形成することができ、そのカーボンナノチューブは、少なくとも幾つかの他のカーボンナノチューブと平行配向されている。
【0015】
前記カーボンナノ構造体(A)は、高度に配向されたカーボンナノチューブの絡み合いおよび架橋結合により、3次元微細構造として存在する。配向形態は、急速なカーボンナノチューブ成長状態(例えば、毎秒約2~約10ミクロンなど、毎秒数ミクロン)における成長基体上のカーボンナノチューブの形成を反映したもので、それにより成長基体からの実質的に垂直なカーボンナノチューブの成長がもたらされている。いかなる理論またはメカニズムにも拘束されるものではないが、成長基体上でカーボンナノチューブが高速で成長することは、少なくとも部分的にカーボンナノ構造体の複雑な構造形態に寄与することがあると考えられる。
【0016】
前記カーボンナノ構造体(A)の嵩密度は、通常、約0.003~1.2g/cm3の範囲である。前記カーボンナノ構造体(A)は、ウェブ状形態を有することができ、その結果、カーボンナノ構造体は低い初期嵩密度を有する。生産したままのカーボンナノ構造体は、約0.003~0.015g/cm3の範囲の初期嵩密度を有することができる。さらに固めてコーティングして、カーボンナノ構造体のフレークまたは同様の材料を生成すると、初期嵩密度は約0.1~0.15g/cm3の範囲に上昇しうる。
【0017】
幾つかの実施形態では、様々な用途に使用するために、カーボンナノ構造体をさらに任意選択的に改質(例えば、カーボンナノチューブのコーティング、カーボンナノ構造体の内部への浸透、圧縮、カーボンナノ構造体の化学的改質)し、カーボンナノ構造体の嵩密度を、約1g/cm3や約1.2g/cm3という上限まで調節することができる。また、カーボンナノ構造体の嵩密度は、例えばカーボンナノチューブの成長を開始するために成長基体に配置される遷移金属ナノ粒子の触媒粒子の濃度を変更するなど、カーボンナノ構造体の成長状態を調整することによって、ある程度調節することができる。
【0018】
幾つかの実施形態では、前記カーボンナノ構造体(A)は、フレーク材料の形態とすることができる。ここで、フレーク材料とは、有限の寸法を有する離散粒子を示す。前記フレーク材料の形態をとるカーボンナノ構造体(A)は、「厚さ」が約1nm~35μm、好ましくは約1~500nmの範囲を有することができる。また、「幅」が約1~750ミクロンの範囲を有することができる。さらに、「長さ」は約1ミクロン~10,000mの広い範囲で任意の所望の長さとすることができる。前記「長さ」は、カーボンナノ構造体を形成するベースである成長基体の軸線に沿って延びる寸法を表し、カーボンナノ構造体が最初に形成されるベースである成長基体の長さに基づいてのみサイズが限定される。
【0019】
前記フレーク材料の形態をとるカーボンナノ構造体(A)は、約15,000~1,000,000g/モルの範囲の分子量を有するカーボンナノチューブポリマーの形態で、カーボンナノチューブのウェブ状ネットワークを含むことができる。幾つかの実施形態では、分子量範囲の上限を、約150,000g/モル、約200,000g/モル、または約500,000g/モルなどに調整することが可能である。分子量の大きさは、カーボンナノ構造体の寸法的な大きさに関連しうる。また、分子量は、カーボンナノ構造体中に存在する主鎖となるカーボンナノチューブの直径およびカーボンナノチューブの壁の数が関連する場合もある。幾つかの実施形態では、カーボンナノ構造体は、約2~約80モル/cm3の範囲の架橋密度を有しうる。架橋密度は、成長基体の表面上のカーボンナノ構造体の成長密度、さらにカーボンナノ構造体の成長状態が関連する。
【0020】
本発明におけるカーボンナノ構造体(A)としては、上記のような構造的形態および上記物性を有するものであれば特に限定はされないが、好ましくは、特表2015-535743号公報および特表2015-535743号公報等に開示されているカーボンナノ構造体が挙げられる。本発明におけるカーボンナノ構造体(A)は、前記カーボンナノ構造体、または前記カーボンナノ構造体を含む複合体(例えば、マスターバッチ等のポリマー複合体)の市販品を用いてもよい。市販品として、例えば、CABOT社製カーボンナノストラクチャーマスターバッチ「ATHLOS 200」、「ATHLOS 100」、「SR1200 CNS」が挙げられる。
【0021】
前記カーボンナノ構造体(A)を用いることで、従来炭素材料として用いられる、カーボンナノチューブ(CNT)、カーボンブラック(CB)、グラフェン等に比べ、成形される成形体の導電性および強度が向上する。また、炭素材料としての有利な特性である軽量性も損なわないため、軽量性と強度とが重視される用途、例えば航空機用においても優位にある。
【0022】
その理由の一つとして、カーボンナノ構造体(A)は優れた分散性を有し、その結果、様々な基質(例えば、ポリマー)中で、有利なカーボンナノチューブの特性(すなわち、化学的、機械的、電気的、および熱的特性の任意の組み合わせ)を発現できるので、カーボンナノ構造体は、従来の炭素材料、例えば、カーボンナノチューブより優れた性能を提供することができると考えられる。カーボンナノ構造体の優れた分散性は、後述する多孔質マクロ構造をとることにより個々に分離したカーボンナノチューブよりも密度が低いことに由来すると考えられる。
【0023】
カーボンナノ構造体(A)は、高度に絡み合い、分岐し、架橋結合し、及び共通の壁を共有するカーボンナノチューブを含有し、そのカーボンナノチューブおよびその相互の接続によって、単なるカーボンナノチューブ自体の構造的形態(従来のカーボンナノチューブのフォレストまたは非結合カーボンナノチューブ)よりも高度な多孔質のマクロ構造を有する。前記多孔質マクロ構造は、カーボンナノチューブ間の共有結合によって堅牢に維持される。
【0024】
また、カーボンナノ構造体(A)を用いる、強力に結合したカーボンナノチューブが脱落する危険性が最小化されるため、個々に分離したカーボンナノチューブの取扱いの問題、および潜在的な環境衛生及び安全性の懸念を防ぐことができると考えられる。さらに、個々に分離したカーボンナノチューブと比較したカーボンナノ構造体の利点の一つとして、カーボンナノ構造体は、従来のカーボンナノチューブ生産技術より容易かつ安価に生産することができると考えられる。従来のカーボンナノチューブの成長プロセスの幾つかは、カーボンの変換効率が最大約60%であった。一方、カーボンナノ構造体は、成長基体(例えば、繊維材料)上にて約85%を超えるカーボン変換効率で生産することができる。このように、カーボンナノ構造体は、カーボン原材料をより効率的に使用し、それに伴って生産コストが削減される。
【0025】
本発明の樹脂組成物100質量%に対するカーボンナノ構造体(A)の含有割合は、好ましくは1.0質量%以上、より好ましくは2.0質量%以上、さらに好ましくは3.0質量%以上であり、好ましくは20.0質量%以下、より好ましくは19.0質量%以下、さらに好ましくは18.0質量%以下である。カーボンナノ構造体(A)の含有割合が上記範囲にあると、上記樹脂組成物は成形時の流動性に優れる傾向にある。
【0026】
<ポリプロピレン樹脂(B)>
本発明におけるポリプロピレン樹脂(B)としては、一般的なポリプロピレン樹脂を用いることができる。例えば、ホモポリプロピレン、ランダムポリプロピレン、ブロックポリプロピレンが挙げられ、これらの中でもブロックポリプロピレンが好ましい。
【0027】
ランダムポリプロピレンおよびブロックポリプロピレンにおけるコモノマーとしては、例えば、プロピレン以外の炭素数2以上のα-オレフィンが挙げられ、具体的には、エチレン、1-ブテン、2-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、2-エチル-1-ブテン、2,3-ジメチル-1-ブテン、2-メチル-1-ペンテン、3-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、3,3-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、メチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ペンテン、エチル-1-ペンテン、トリメチル-1-ブテン、メチルエチル-1-ブテン、1-オクテン、メチル-1-ペンテン、エチル-1-ヘキセン、ジメチル-1-ヘキセン、プロピル-1-ヘプテン、メチルエチル-1-ヘプテン、トリメチル-1-ペンテン、プロピル-1-ペンテン、ジエチル-1-ブテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン等の炭素数2~20のα-オレフィンが挙げられる。これらの中でも、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセンおよび1-オクテンが好ましい。
【0028】
前記ポリプロピレン樹脂(B)の、示差走査熱量計により測定される融点(Tm)は、135~167℃の範囲にあり、好ましくは150~167℃、より好ましくは160~167℃の範囲にある。ポリプロピレン樹脂(B)の融点(Tm)が前記範囲にあると、耐熱性、曲げ弾性率などの機械的特性の観点から好ましい。
【0029】
前記ポリプロピレン樹脂(B)の融点(Tm)は、示差走査熱量計(例えば、日立ハイテクサイエンス社製DSC7000X)を用いて、試料約5mgを切り出し、測定用アルミパンにつめ、10℃/分の加熱速度で30℃から230℃に昇温し、230℃で5分間保持した後、10℃/分の冷却速度で30℃まで降温し、30℃で5分間保持した後、再度10℃/分の加熱速度で30℃から230℃に昇温し、230℃で5分間保持した後、再度100℃/分の冷却速度で30℃まで降温するときの、2回目の昇温時に発現した融解ピークのピーク頂点の温度を重合体の融点(Tm)とする。なお、複数のピークが検出される場合には、最も高温側で検出されるピークを採用する。ここで、ポリプロピレン樹脂由来の融点は175℃未満に検出される。
【0030】
前記ポリプロピレン樹脂(B)の一部は極性モノマーで変性されていてもよい。具体的には、ポリプロピレン樹脂(B)は、無水マレイン酸変性ポリプロピレン、マレイン酸変性ポリプロピレン等の酸変性ポリプロピレンを含んでいてもよい。酸変性ポリプロピレンにおける酸変性には、極性モノマーとして、例えば、マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸などの不飽和カルボン酸;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸などの不飽和カルボン酸無水物を用いることができる。ポリプロピレン樹脂(B)が酸変性ポリプロピレンを含むことで、得られる成形体の衝撃強度などの機械物性が向上する傾向にある。
【0031】
変性の方法としては、特に制限は無く、公知の方法を用いればよい。例えば、ポリプロピレン樹脂を溶媒に溶解し、極性モノマーおよびラジカル発生剤を添加して加熱、撹拌する方法、上記各成分を押出機に供給してグラフト共重合させる方法、固相変性法が挙げられる。
【0032】
酸変性ポリプロピレン中の極性モノマー由来の構成単位量(例:グラフト量)は、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、さらに好ましくは0.5質量%以上であり、好ましくは20質量%以下、より好ましくは15質量%以下、さらに好ましくは10質量%以下である。上記構成単位量は、例えば赤外吸収分光法により求めることができる。
【0033】
ポリプロピレン樹脂(B)におけるプロピレン由来の構成単位の含有割合は、重合体を構成する全モノマー由来の構成単位の総量中、好ましくは50モル%以上、より好ましくは70モル%以上、さらに好ましくは80モル%以上である。構成単位の含有割合は、例えば13C-NMRにより測定することができる。
【0034】
ポリプロピレン樹脂(B)の、JIS K7210に準拠した得られた230℃、2.16kg荷重でのメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.1g/10分以上、より好ましくは10g/10分以上、さらに好ましくは30g/10分以上であり、好ましくは500g/10分以下、より好ましくは400g/10分以下、さらに好ましくは300g/10分以下である。
【0035】
ポリプロピレン樹脂(B)は1種または2種以上用いることができる。
本発明の樹脂組成物100質量%に対するポリプロピレン樹脂(B)の含有割合は、好ましくは40.0質量%以上より好ましくは50.0質量%以上、さらに好ましくは60.0質量%以上であり、好ましくは98.9質量%以下、より好ましくは95.0質量%以下、さらに好ましくは90.0質量%以下である。ポリプロピレン樹脂(B)の含有割合が上記範囲にあると、上記樹脂組成物は成形時の流動性に優れる傾向にある。
【0036】
一実施態様において、上記樹脂組成物における酸変性ポリプロピレンの含有割合は、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上、さらに好ましくは0.2質量%以上であり、好ましくは10質量%以下、より好ましくは8質量%以下、さらに好ましくは5質量%以下である。
【0037】
<その他の成分>
上記樹脂組成物は、ポリプロピレン樹脂(B)以外の樹脂や、各種樹脂用添加剤をさらに含有することができる。
添加剤としては、例えば、オレフィン系エラストマーのようなエラストマーなどの衝撃強度改質剤;ポリプロピレン樹脂(B)に該当しない、低立体規則性ポリプロピレン;タルク、炭酸カルシウム、金属粉、酸化チタン、酸化亜鉛などの無機充填剤(ただし、カーボンナノ構造体(A)を除く);顔料、染料などの着色剤;酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、耐熱安定剤、帯電防止剤、結晶核剤、分散剤、難燃剤、難燃助剤、可塑剤が挙げられる。
【0038】
上記樹脂組成物中の添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、カーボンナノ構造体(A)と、ポリプロピレン樹脂(B)との合計100質量部に対して、好ましくは0.01~100質量部、より好ましくは0.1~50質量部、さらに好ましくは0.1~10質量部である。
【0039】
<樹脂組成物の製造>
上記樹脂組成物は、例えば、カーボンナノ構造体(A)と、ポリプロピレン樹脂(B)とをドライブレンドし、続いて一軸または二軸押出機で溶融混練し、ストランド状に押出しペレットに造粒することにより得ることができる。なお、カーボンナノ構造体(A)や無機充填剤などの成分は、ポリプロピレン樹脂(B)等の樹脂成分と予め混合してマスターバッチの形態で用いてもよい。
【0040】
[成形体]
本実施形態の成形体は、上記樹脂組成物を含む。成形方法としては、具体的には、従来公知のポリオレフィンの成形方法、例えば、押出成形、射出成形、フィルム成形、インフレーション成形、ブロー成形、押出ブロー成形、射出ブロー成形、プレス成形、真空成形、パウダースラッシュ成形、カレンダー成形、発泡成形等の公知の熱成形方法が挙げられる。好ましくは射出成形によって、上記樹脂組成物を加工することで、上記樹脂組成物を含む本実施形態の成形体を得ることが可能である。
【0041】
一般的には、射出成形体はプレス成形体よりも導電性が低い(表面電気抵抗率が高い)傾向にある。本実施形態の樹脂組成物では、射出成形であっても充分高い導電性を得ることができる。このように、本実施形態の樹脂組成物は、成形加工方法によらず優れた導電性を有する成形体を形成することができる。
【0042】
上記成形体は、上記樹脂組成物から形成された成形体であってもよく、また、上記樹脂組成物から形成された部分、例えば表層、を有する成形体であってもよい。
さらに、本実施形態の成形体は、機械物性にも優れている。
【0043】
成形体は、日用品やレクリエーション用途などの家庭用品から、一般産業用途、工業用品に至る広い用途で用いられる。例えば、家電材料部品、通信機器部品、電気部品、電子部品、自動車部品、その他の車両の部品、船舶、航空機材料、機械機構部品、建材関連部材、土木部材、農業資材、電動工具部品、食品容器、フィルム、シート、繊維が挙げられる。
【0044】
自動車部品としては、例えば、フロントドア、バックドア、スライドドア、フロントエンドモジュール、ドアモジュール、フェンダー、ホイルキャップ、ガソリンタンク、座席(詰物、表地など)、ベルト、天井張り、コンパーチブルトップ、アームレスト、ドアトリム、リアパッケージトレイ、カーペット、マット、サンバイザー、ホイルカバー、タイヤ、マットレスカバー、エアバック、コネクタ、絶縁材、吊り手、吊り手帯、電線被服材、電気絶縁材、塗料、コーティング材、上張り材、床材、隅壁、デッキパネル、カバー類、合板、天井板、仕切り板、側壁、カーペット、壁紙、壁装材、外装材、内装材、屋根材、防音板、断熱板、窓材が挙げられる。
【0045】
家電材料部品、通信機器部品、電気部品、電子部品としては、例えば、プリンター、パソコン、ワープロ、キーボード、PDA(小型情報端末機)、ヘッドホンステレオ、携帯電話、電話機、ファクシミリ、複写機、ECR(電子式金銭登録機)、電卓、電子手帳、電子辞書、カード、ホルダー、文具等の事務・OA機器;洗濯機、冷蔵庫、掃除機、電子レンジ、照明器具、ゲーム機、アイロン、炬燵などの家電機器;TV、VTR、ビデオカメラ、ラジカセ、テープレコーダー、ミニディスク、CDプレイヤー、スピーカー、液晶ディスプレイなどのAV機器;コネクタ、リレー、コンデンサー、スイッチ、プリント基板、コイルボビン、半導体封止材料、電線、ケーブル、トランス、偏向ヨーク、分電盤、時計、ロボット材に使用される部品が挙げられる。
【0046】
日用品としては、例えば、衣類、カーテン、シーツ、合板、合繊板、絨毯、玄関マット、シート、バケツ、ホース、容器、眼鏡、鞄、ケース、ゴーグル、スキー板、ラケット、テント、自転車、楽器などの生活・スポーツ用品が挙げられる。
【0047】
本実施形態の成形体としては、射出成形体が好ましい。
上記成形体の好適な用途の一つとして、自動車外板を以下に説明する。上記成形体、特に射出成形体は、自動車外板用成形体として好適に用いることができる。最終製品として、例えば、上記成形体、特に射出成形体を自動車外板として有する自動車が挙げられる。
【0048】
自動車外板としては、例えば、バンパー、フェンダー、サイドドア、エンジンフード、バックドア、ルーフパネル、フューエルリッドカバー、トランク、サイドスカートが挙げられ、バンパー、フェンダーが好ましい。
【0049】
以下、上記成形体、特に射出成形体を自動車外板として有する自動車の製造方法について説明する。自動車外板において、通常、静電塗装により表面塗装が自動化されている。上記塗装において、従来、樹脂製外板と自動車車体とをそれぞれ別に塗装する方法(オフライン塗装)、樹脂製外板を自動車車体に取り付けて樹脂製外板および自動車車体を一体塗装する方法(オンライン塗装)が知られている。自動車の生産工程の簡略化、生産時間の短縮化、および塗装工程での塗料ロスの低減といった観点から、オンライン塗装が望ましい。
【0050】
上記製造方法は、本実施形態の成形体、特に射出成形体を自動車車体に取り付ける工程(1)と、成形体が取り付けられた自動車車体に対してオンラインにて塗装を行う工程(2)と、前記工程(2)後の自動車車体を乾燥する工程(3)とをこの順番で有する。
【0051】
前記工程(1)において上記成形体を自動車車体に取り付け、前記工程(2)において成形体および自動車車体を一体的に塗装する(オンライン塗装)。このような方法は、成形体と自動車車体とを別々に塗装するよりも、自動車の生産性向上、塗料ロスの低減の観点から好ましい。
【0052】
前記工程(2)および前記工程(3)において、例えば、工程(2)で中塗りおよび上塗り(例えば、ベースやクリア)を行い、工程(3)で乾燥を行ってもよく、工程(2)および工程(3)を繰返し、中塗りおよび乾燥、上塗りおよび乾燥を行ってもよい。
【0053】
中塗り塗料および上塗り塗料の塗装方法については特に制限はなく、例えば、スプレー塗装法、静電塗装法などの公知の塗装方法を用いることができる。成形体と自動車車体とを一体的に塗装するオンライン塗装では、静電塗装法が好ましい。
【0054】
本実施形態では、前記工程(2)で中塗り塗料および/または上塗り塗料を用いて静電塗装する場合でも、本実施形態の樹脂組成物から形成された表層を有する成形体表面は導電性を有することから、静電塗装に必要な導電性を付与するためのプライマー塗装は行わなくてよい。
【0055】
本実施形態の成形体、特に射出成形体は、静電塗装用部品としても好適に用いられる。静電塗装用部品は、静電塗装法により表面塗装を実施することに適した部品であり、上記自動車外板に限らず、上述した家電材料部品、通信機器部品、電気部品等の種々の用途で用いられる部品に含まれる。本実施形態の成形体を静電塗装用部品として用いる際の塗装方法としては、一例として、自動車の自動車外板として用いる際の塗装方法(例えば、オンライン塗装やオフライン塗装)を挙げているが、上述したような様々な最終製品中の部品における、各種使用用途に合わせて、適した公知の塗装方法を選択すればよい。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例に基づいて更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。以下の実施例等の記載において、特に言及しない限り、「部」は「質量部」を示す。
【0057】
[融点(Tm)の測定]
日立ハイテクサイエンス社製 示差走査熱量(DSC)測定装置 DSC7000Xを用いて、1mm厚の平板試験片(下記参照)から試料約5mgを切り出し、測定用アルミパンにつめ、10℃/分の加熱速度で30℃から230℃に昇温し、230℃で5分間保持した後、10℃/分の冷却速度で30℃まで降温し、30℃で5分間保持した後、再度10℃/分の加熱速度で30℃から230℃に昇温し、230℃で5分間保持した後、再度100℃/分の冷却速度で30℃まで降温した。2回目の昇温時に発現した融解ピークを、融点(Tm)とした。
【0058】
[樹脂組成物および物性測定用試験片の作製方法]
株式会社テクノベル社製 kzw15のホッパー部に実施例または比較例に記載のドライブレンド物を投入し、230℃で溶融混練し、樹脂組成物ペレットを作製した。
その後、東芝機械株式会社製 射出成型機 東芝75トンのホッパー部に上記樹脂組成物ペレットを投入し、230℃で溶融させ、40℃の金型に射出圧60MPa、保圧20MPaで射出成形し、130mm×120mm×1mm厚の平板状試験片、ASTM D648に準拠した熱変形温度(HDT)測定用試験片、およびJIS K7111に準拠したシャルピー衝撃試験片、およびASTM D790に準拠した曲げ試験片を作製した。
【0059】
[表面電気抵抗率の測定]
試験片の表面電気抵抗率は、以下のようにして求めた。
上記1mm厚の平板状試験片について、株式会社エーディーシー社製デジタル超高抵抗/微少電流計8340A型を用いて、二重リング法により室温23℃、湿度50%、印加電圧10V、印加時間60秒の条件において測定した。
【0060】
上記測定において、1.0×106Ωを下回った試験片については、以下のようにして表面電気抵抗率を求めた。上記1mm厚の平板状試験片について、日東精工アナリテック社製 抵抗率計ロレスターGX MCP-T700、ASP型プローブを用いて、4探針法により室温23℃、湿度50%の条件の条件において、JISK7194;1994に準拠して測定した。
【0061】
[曲げ弾性率の測定]
曲げ弾性率の測定は、上記曲げ試験片について、ASTM D790に準拠して、株式会社島津製作所製 3点曲げ用5点曲げ試験機を用いて、23℃において、試験速度1.3mm/分で行った。
【0062】
[熱変形温度(HDT)の測定]
HDT測定は、上記HDT測定用試験片について、ASTM D648(0.45MPa荷重)に準拠して、東洋精機製作所社製 自動HDT試験機を用いて行った。
【0063】
[シャルピー衝撃試験]
シャルピー衝撃試験は、上記シャルピー衝撃試験片について、JIS K7111に準拠して、東京試験機製 C1-4-01試験機を用いて、23℃において測定を行った。
【0064】
[実施例1]
プライムポリマー社製ポリプロピレンJ707G(融点:160℃、2.16kg荷重における230℃でのMFR:30g/10min)を92.9質量%と、CABOT社製カーボンストラクチャー(CNS)マスターバッチATHLOS 200(カーボンナノストラクチャー(カーボンナノ構造体:CNS)93質量%+ポリエチレングリコール7質量%)を6.5質量%と、添加剤として出光興産(株)製低立体規則性ポリプロピレン エルモーデュ(登録商標)S901を0.6質量%とを、ドライブレンドした。各成分の比率は表1に示す。次に、前述の方法にて樹脂組成物ペレットおよび物性測定用試験片を作製した。上記各試験片を用いて表面電気抵抗率測定、熱変形温度(HDT)測定、シャルピー衝撃試験、曲げ弾性率測定を実施した。結果を表1に示す。
【0065】
[実施例2、3、比較例1、2]
各原料を表1に記載の比率とした以外は実施例1と同様に樹脂組成物ペレットおよび物性測定用試験片を作製した。上記各試験片を用いて表面電気抵抗率測定、熱変形温度(HDT)測定、シャルピー衝撃試験、曲げ弾性率測定を実施した。結果を表1に示す。
【0066】
[比較例3]
プライムポリマー社製ポリプロピレンJ707Gを83.5質量%と、トーヨーカラー社製カーボンナノチューブ(CNT)マスターバッチP2003(カーボンナノチューブ20質量%+ポリプロピレン樹脂(B)に該当するポリプロピレン80質量%)を15.0質量%と、添加剤として出光興産(株)製低立体規則性ポリプロピレン エルモーデュ(登録商標)S901を1.5質量%とを、ドライブレンドした。各成分の比率は表1に示す。次に、前述の方法にて樹脂組成物ペレットおよび物性測定用試験片を作製した。上記各試験片を用いて表面電気抵抗率測定、熱変形温度(HDT)測定、シャルピー衝撃試験、曲げ弾性率測定を実施した。結果を表1に示す。
【0067】
[比較例4~6]
各原料を表1に記載の比率とした以外は比較例3と同様に樹脂組成物ペレットおよび物性測定用試験片を作製した。上記各試験片を用いて表面電気抵抗率測定、熱変形温度(HDT)測定、シャルピー衝撃試験、曲げ弾性率測定を実施した。結果を表1に示す。
【0068】
[比較例7]
プライムポリマー社製ポリプロピレンJ707Gを96.8質量%と、DIC社製カーボンブラック(CB)マスターバッチP-5050(カーボンブラック25質量%+ポリプロピレン樹脂(B)に該当するポリプロピレン75質量%)を12.0質量%と、添加剤として出光興産(株)製低立体規則性ポリプロピレン エルモーデュ(登録商標)S901を1.2質量%とを、ドライブレンドした。各成分の比率は表1に示す。次に、前述の方法にて樹脂組成物ペレットおよび物性測定用試験片を作製した。上記各試験片を用いて表面電気抵抗率測定を実施した。結果を表1に示す。
を表1に示す。
【0069】
[比較例8、9]
各原料を表1に記載の比率とした以外は比較例7と同様に樹脂組成物ペレットおよび物性測定用試験片を作製した。上記各試験片を用いて表面電気抵抗率測定を実施した。結果を表1に示す。
【0070】
[比較例10]
プライムポリマー社製ポリプロピレンJ707Gを100質量%用いて、物性測定用試験片を作製した。上記各試験片を用いて表面電気抵抗率測定、熱変形温度(HDT)測定、シャルピー衝撃試験、曲げ弾性率測定を実施した。結果を表1に示す。
【0071】
【0072】
炭素材料として、カーボンナノチューブ(CNT)またはカーボンブラック(CB)を含む樹脂組成物から得られる成形体(比較例3~9)は、カーボンナノ構造体(CNS)(A)を含む樹脂組成物から得られる成形体(実施例1~3)に比べ、導電率が低い、すなわち表面電気抵抗率が高くなった。また、曲げ弾性率等の機械的な物性面に関しても劣る傾向にある。また、カーボンナノ構造体(A)を用いた場合でも、カーボンナノ構造体(A)およびポリプロピレン樹脂(B)の含有量が、本発明において規定する範囲内であると、導電率が低く、また、機械的特性および熱的特性が共に優れる(実施例1~3)が、前記範囲外であると、導電率、機械的特性、および熱的特性のバランスに劣る(比較例1および2)。