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特開2023-139673起泡性水中油型乳化組成物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139673
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】起泡性水中油型乳化組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 17/40 20160101AFI20230927BHJP
   A23L 17/00 20160101ALI20230927BHJP
   A23L 9/20 20160101ALI20230927BHJP
   A23C 13/14 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
A23L17/40 A
A23L17/00 101Z
A23L9/20
A23C13/14
A23L17/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045328
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】315015162
【氏名又は名称】不二製油株式会社
(72)【発明者】
【氏名】前川 敬祐
【テーマコード(参考)】
4B001
4B025
4B034
4B042
【Fターム(参考)】
4B001AC02
4B001AC03
4B001AC05
4B001AC15
4B001AC20
4B001AC26
4B001AC40
4B001BC03
4B001BC07
4B001BC08
4B001BC99
4B001EC01
4B001EC99
4B025LB21
4B025LG11
4B025LG26
4B025LG27
4B025LG32
4B025LG36
4B025LG53
4B025LG54
4B025LK01
4B025LP01
4B025LP10
4B025LP11
4B025LP12
4B025LP19
4B025LT09
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4B034LK09X
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4B034LK15X
4B034LK16X
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4B034LK36X
4B034LK38X
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4B034LP14
4B034LP15
4B034LP20
4B034LT51
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4B042AC10
4B042AD39
4B042AE08
4B042AE10
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4B042AG72
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4B042AK08
4B042AK09
4B042AK10
4B042AK15
4B042AK20
4B042AP02
4B042AP14
4B042AP18
4B042AP27
4B042AP30
4B042AT10
(57)【要約】
【課題】本発明は、耐圧容器中に被加圧気体と共存させ、圧力開放により気体が膨張し、それに伴い起泡状態とされ使用される起泡性水中油型乳化組成物においても使用可能である、従来にない濃厚な甲殻類十脚目様の風味を有する起泡性水中油型乳化組成物を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明により、pH緩衝剤及びシステインプロテアーゼを含有する水溶液に甲殻類十脚目のむき身を浸漬させ、50℃以上、10分間以上加熱し、酵素反応させる工程を含むことで、エスプーマにおいても使用可能である、濃厚な甲殻類十脚目様の風味を有する起泡性水中油型乳化組成物を提供することができることを見出した。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
pH緩衝剤及びシステインプロテアーゼを含有する水溶液に甲殻類十脚目のむき身を浸漬させ、酵素反応させる工程を含むことを特徴とする、起泡性水中油型乳化組成物の製造方法。
【請求項2】
酵素反応の条件が、50℃以上、10分間以上加熱することである、請求項1に記載の起泡性水中油型乳化組成物の製造方法。
【請求項3】
甲殻類十脚目の殻を用いて風味付けした油脂を含む、請求項1又は2に記載の起泡性水中油型乳化組成物の製造方法。
【請求項4】
pH緩衝剤及びシステインプロテアーゼを含有する水溶液に甲殻類十脚目のむき身を浸漬させ、50℃以上、10分間以上加熱し、酵素反応させる工程を含む、起泡性水中油型乳化組成物の甲殻類十脚目様風味付与方法。
【請求項5】
該甲殻類十脚目がエビである、請求項1~3いずれか1項に記載の起泡性水中油型乳化組成物の製造方法。
【請求項6】
該甲殻類十脚目がエビである、請求項4に記載の起泡性水中油型乳化組成物の甲殻類十脚目様風味付与方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、起泡性水中油型乳化組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
エビやカニ、ロブスターなどの甲殻類十脚目は、魚介類の中でも、特に万人に好まれる食品である。エビやカニ、ロブスターをそのまま食すだけでなく、ムースに含有させて食す、ソースに含有させて食す等、様々な料理に使用される。
【0003】
また、起泡性水中油型乳化組成物はホイップクリームとも称され、多くの菓子や料理に使用される食品である。
生クリームや脱脂粉乳などの乳原料を使用した起泡性水中油型乳化組成物が一般的であるが、乳由来原料を使用しないものも存在する。たとえば、大豆蛋白をはじめとする植物蛋白素材は、昨今の大豆に対する健康イメージから、各種の製品に乳の代わりに用いられる場合がある。
【0004】
魚介類を含むまたは魚介類の風味を有する水中油型乳化物に関連する出願としては、例えば特許文献1~3が存在する。特許文献1では、「魚介肉のすり身、落し身若しくは剥き身、ホイップ・クリーム及び卵白を含有するムース・ベース」に関して記載されている。特許文献2では、「少なくとも卵黄と糊化材と牛乳とを含むカスタード材料と,水産肉すり身とを含有してなるペースト体を、加熱して殺菌するとともに,糊化してクリーム状にしたことを特徴とする水産肉入カスタードクリーム」について記載されている。特許文献3では、「エビエキスを含有する液状物を冷凍して冷凍エビエキスを得る冷凍工程と、該冷凍エビエキスを含むソース原料を加熱調理する調理工程とを有する、エビエキス入りパスタソースの製造方法」について記載されている。
【0005】
また、エスプーマと称される、耐圧容器に被加圧気体と食材を共存させ、ノズル操作により圧力を開放することで、該食材が泡状になって出てくる料理、調理法、又は調理器具が存在する(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭59-109154号公報
【特許文献2】特開2012-085634号公報
【特許文献3】国際公開第2021/153727号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】http://www.espuma-ta.jp/ 2022年3月15日検索
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
エスプーマは比較的新しい調理法であり、専用の器具に材料を入れ密封し、亜酸化窒素ガスのボンベでガスを封入し、器具全体を振る。ノズルを操作すると、食材が泡状になって出てくる仕組みである。例えば、エスプーマに供することができる、魚介類の良好な風味の起泡性水中油型乳化組成物の場合、魚介類の身などをペースト状にしてエスプーマすると泡状のソースにすることは可能であるが、ホイップクリームのような立体構造をとることはできない。また、ホイップクリームに魚介類のエキスを入れただけでは、風味の面で必ずしも濃厚な素材の風味を発揮できているとは言えず、さらに改善する余地がある。
【0009】
なお、特許文献1では、「魚介肉のすり身、落とし身若しくは剥き身」をムース・ベースに含有することが必須であり、本発明を完成させる上で参考とはならなかった。特許文献2では、「少なくとも卵黄と糊化材と牛乳とを含むカスタード材料と,水産肉すり身とを含有してなるペースト体を、加熱して殺菌するとともに,糊化してクリーム状」にすることを必須としており、本願とは技術的思想が異なるため、本発明を完成させる上で参考とはならなかった。また、特許文献3は「エビエキスを含有する液状物を冷凍して冷凍エビエキスを得る冷凍工程」が必須であり、本願では該工程を必須とせず、また課題を解決する方法が異なるため、参考とならなかった。
【0010】
本発明は、耐圧容器中に被加圧気体と共存させ、圧力開放により気体が膨張し、それに伴い起泡状態とされ使用される起泡性水中油型乳化組成物においても使用可能である、従来にない濃厚な甲殻類十脚目様の風味を有する起泡性水中油型乳化組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、pH緩衝剤及びシステインプロテアーゼを含有する水溶液に甲殻類十脚目のむき身を浸漬させ、酵素反応させる工程を有することで、エスプーマに供することが可能である、従来にない濃厚な甲殻類十脚目様の風味を有する起泡性水中油型乳化組成物を得ることが可能となった。
【0012】
即ち本発明は、
(1)pH緩衝剤及びシステインプロテアーゼを含有する水溶液に甲殻類十脚目のむき身を浸漬させ、酵素反応させる工程を含むことを特徴とする、起泡性水中油型乳化組成物の製造方法、
(2)酵素反応の条件が、50℃以上、10分間以上加熱することである、(1)に記載の起泡性水中油型乳化組成物の製造方法、
(3)甲殻類十脚目の殻を用いて風味付けした油脂を含む、(1)又は(2)に記載の起泡性水中油型乳化組成物の製造方法、
(4)pH緩衝剤及びシステインプロテアーゼを含有する水溶液に甲殻類十脚目のむき身を浸漬させ、50℃以上、10分間以上加熱し、酵素反応させる工程を含む、起泡性水中油型乳化組成物の甲殻類十脚目様風味付与方法、
(5)該甲殻類十脚目がエビである、(1)~(3)いずれか1項に記載の起泡性水中油型乳化組成物の製造方法、
(6)該甲殻類十脚目がエビである、(4)に記載の起泡性水中油型乳化組成物の甲殻類十脚目様風味付与方法、
に関するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、エスプーマにおいても使用可能である、濃厚な甲殻類十脚目様の風味を有する起泡性水中油型乳化組成物を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明において、起泡性水中油型乳化組成物とは、油脂、蛋白質、水などの基礎原料に、乳化剤を併用した水中油型乳化物であり、ホイップ用クリームとも称される。これを泡立器具、又は専用のミキサーを用いて空気を抱き込ませるように攪拌したとき、いわゆる、ホイップド・クリームまたはホイップクリームと称されるものになる。
なお、泡立器具、又は専用のミキサーを用いて空気を抱き込ませるように攪拌する前までは、本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物は、起泡されていない、液状で流通、保管、販売される。
【0015】
エスプーマとは、食材を耐圧容器中に被加圧気体と共存させ、ノズルから大気中に放出された際の圧力開放により気体が膨張し、該食材を起泡状態とできる方法である。
本発明の起泡性水中油型乳化組成物は、ホイップクリームとしてだけなく、エスプーマ用としても使用できる。本発明で「エスプーマ用」というときは、上記エスプーマに供した際に、好ましい結果が得られるものを言う。本発明では特に、エスプーマに供した場合に、良好に起泡し、造花性が優れるものを指す。
【0016】
本発明の濃厚な甲殻類十脚目様の風味を有する起泡性水中油型乳化組成物には、甲殻類十脚目の身を可溶化した可溶化液を含有する。可溶化液を得るためには、pH緩衝剤及びシステインプロテアーゼを含有する水溶液に甲殻類十脚目のむき身を浸漬させ、酵素反応させる工程を有する必要がある。
なお、甲殻類十脚目には、クルマエビ、サクラエビ、ボタンエビ、バナメイエビ、イセエビなどのエビ、タラバガニ、ハナサキガニなどのカニ、ロブスター等が含まれ、本発明では、特にエビが好ましい。
【0017】
pH緩衝剤は、具体的には、クエン酸,炭酸,ホウ酸,酒石酸,リンゴ酸,アジピン酸,メタリン酸等の酸と、アルカリ金属或いは水素等の塩基、更にこれらから成る塩が挙げられる。本発明では、特にメタリン酸ナトリウムが好ましい。pH緩衝剤を使用することにより、甲殻類十脚目の筋肉を収縮させる機能に重要な役割を持つカルシウムイオンに作用してキレートすることにより、甲殻類十脚目の蛋白質が凝集することを抑制することができることで、出来上がった起泡性水中油型乳化組成物がなめらかな食感となり、エスプーマに供した場合にも起泡性及び造花性がより良好になる。
【0018】
本発明で用いるシステインプロテアーゼは、植物、動物、細菌、酵母、原虫類などから得られ、その活性中心にSH基を有するプロテアーゼであれば特に限定されない。一例として、パパイヤ、パイナップル、イチジクなどの植物を由来とするパパイン、キモパパイン、ブロメライン及びフィシンが挙げられる。本発明では、パパイン及び/又はブロメラインが好ましく、特にブロメラインがより好ましい。
また、システインプロテアーゼは、市販品、又は、植物から抽出・濃縮等の通常の手段により得られるものであってもよく、その形態は、フィルム状、板状、粒状または粉末状のような乾燥物の形態のいずれの形態でも良い。本発明では、市販品である天野エンザイム株式会社製「ブロメラインF」を例示できる。
【0019】
本発明において、システインプロテアーゼを酵素反応させる条件は、50℃以上、10分間以上加熱することが好ましい。温度は、より好ましくは55℃以上であり、さらに好ましくは60℃以上である。時間は、より好ましくは15分間以上であり、さらに好ましくは20分間以上加熱することが好ましい。また、反応条件の上限は、75℃以下、2時間以下とすることが好ましい。システインプロテアーゼを使用することにより、甲殻類十脚目の中でも特に、エビはほとんどが筋肉で構成されているため、筋肉の立体構造をばらばらにすることで解繊しやすくすることができ、エビ可溶化液がより濃厚なエビ様の風味を有することができる。
【0020】
また、本発明の起泡性水中油型乳化組成物には、甲殻類十脚目の殻を用いて風味付けした油脂を含有することが好ましい。具体的には、甲殻類十脚目の殻を乾燥させ、パウダー状にしたものを、油脂とともに加熱し、甲殻類十脚目の殻からの良好な風味を付与した油脂を含有することが好ましい。該油脂を起泡性水中油型乳化組成物に使用することで、甲殻類十脚目の身だけでなく、殻からの甲殻類十脚目様の風味も付与された、より濃厚な甲殻類十脚目様の風味を有する起泡性水中油型乳化組成物となった。
【0021】
本発明で使用する甲殻類十脚目は、市販されている甲殻類十脚目以外にも、甲殻類十脚目の個体が小さすぎて市場に出回らないものや、漁の際に捨てられている甲殻類十脚目等の未利用資源である甲殻類十脚目を使用することもできる。
【0022】
本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物に含まれる油脂類は、ヤシ油、パーム核油及びパーム油からなる群より選ばれる1以上の油脂に由来する油脂を用いることができる。なお、これらの油脂はそのまま、乃至分別、硬化及びエステル交換から選ばれる1以上の工程により加工したものを使用することもできる。本発明では、特にパーム核油を用いることが好ましい。
また、本発明の目的が、起泡性水中油型乳化組成物であることから、食す温度乃至口中温度において融解状態である油脂を使用することが望ましく、使用する油脂の融点が望ましくは25~45℃、より望ましくは27~38℃、更に望ましくは29~36℃である。なお、ここでの融点は上昇融点を指し、日本油化学会制定 規準油脂分析試験法(1)に記載される方法で測定されるものであり、毛細管に充填した試料が、所定条件での加熱により、軟化して上昇を始める温度を言う。
【0023】
本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物に含まれる油脂類は、上記の油脂以外の他の油脂を使用してもよい。植物性の油脂であって、通常食用として用いられるもの、例えば、大豆油,菜種油,キャノーラ油,サフラワー油,ひまわり油,米糠油,コーン油,綿実油,落花生油,カポック油,オリーブ油等の植物油脂が例示でき、或いはこれらの硬化,分別,エステル交換したもののいずれでもよく、これらのうち1種又は2種以上の油脂を調合して使用することもできる。
本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物の油脂の含量は、上記油脂以外の原料中に含まれる脂質も含めた脂質含量として、28質量%以上、29質量%以上、30質量%以上、32質量%以上又は33質量%以上などとすることができる。また、さらに48質量%以下、47質量%以下、46質量%以下又は45質量%以下などとすることができる。
【0024】
本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物は、乳化剤を含有することが好ましい。乳化剤は、一般に起泡性水中油型乳化組成物の製造に用いられる乳化剤であれば、いずれのものであってもよい。レシチン、酵素分解レシチン、グリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、ポリグリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリソルベート等の乳化剤が例示でき、これらの乳化剤の中から1種又は2種以上を選択して適宜使用することができる。本発明では、特に、レシチン、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、有機酸モノグリセリド、及びポリソルベートからなる群より選ばれる1種または2種以上の乳化剤を含有することが好ましい。
【0025】
本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物は、本発明の効果を妨げない範囲で、用途に応じて、糖類、増粘多糖類、塩類を含有することが好ましい。増粘多糖類としては、例えば、ジェランガム、キサンタンガム、ローカストビーンガム、グァーガム、ウェランガム、カラヤガム、サイリウムシードガム、プルラン、白キクラゲ抽出物、アルギン酸塩、水溶性大豆多糖類、カラギーナン、タマリンド種子ガム及びタラガムから選択される1種又は2種以上の増粘多糖類を選択し、適宜使用することができる。また、塩類としては、例えば、第二リン酸塩、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸塩、重曹等を1種又は2種以上混合使用することができる。その他、本発明の効果を妨げない範囲で、所望により、香料、色素、保存料等を添加することができる。
【0026】
以下、本発明に係る濃厚な甲殻類十脚目様の風味を有する起泡性水中油型乳化組成物の調製法を説明する。
【0027】
甲殻類十脚目を殻とむき身に分け、殻は乾燥させ、細かくパウダー状にした後、油脂で甲殻類十脚目殻のパウダーを150℃で10分間加熱する。また、甲殻類十脚目の可溶化液は、pH緩衝剤を溶解させた水に、細かく砕いた甲殻類十脚目のむき身及びシステインプロテアーゼを入れて混合し、攪拌させながら60℃で20分間酵素処理を行う。得られた着味油脂及び甲殻類十脚目の可溶化液を用い、起泡性水中油型乳化組成物を調製する。
【0028】
本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物の調製法は、通常の起泡性水中油型乳化組成物と基本的には同じである。まず、水相と油相を調製する。ここで水相とは、原材料のうち、水溶性の原材料を水に溶解したものである。なお、エビ可溶化液は水相に含まれる。
【0029】
次に、水相へ油相を添加し、十分に攪拌した後、高圧ホモゲナイザーによる均質化を行い、更に殺菌を行なう。なお、殺菌と均質化の順は、適宜変更が可能である。ここで殺菌は、蒸気の直接吹き込みによる加熱殺菌であることが望ましい。
その後、冷却してエージングし、容器に充填して製品とする。
【0030】
本発明の起泡性水中油型乳化組成物のエスプーマへの使用は、エスプーマにおける通常の使用の通りである。即ち、エスプーマ用の耐圧容器へ該起泡性水中油型乳化組成物を充填し、さらに所定量の気体を充填する。
なお、使用に際しては、事前に該耐圧容器を攪拌する必要があるが、本発明に係る起泡性水中油型乳化組成物を使用した場合は、少ない攪拌であっても十分に起泡する点に特徴がある。
【0031】
以下に実施例を記載する。以下「%」及び「部」は特に断りのない限り「質量%」及び「質量部」を意味するものとする。
【実施例0032】
○甲殻類十脚目様の風味を有する起泡性水中油型乳化組成物の調製
1.甲殻類十脚目の代表例であるエビを用い、ブラックタイガー1000gを殻とむき身に分け、殻は乾燥させ、細かくパウダー状にした後、表1の配合に従い、油脂でエビ殻パウダーを150℃で10分間加熱し、エビの風味を油脂に付与した着味油脂を調製した。
2.エビ可溶化液は、表2の配合に従い、pH緩衝剤であるヘキサメタリン酸塩を溶解させた水に細かく砕いたエビのむき身とシステインプロテアーゼ(ブロメライン)を入れて混合した。攪拌させながら60℃で20分間酵素処理を行った後、エビエキスを混合した。
3.表3の配合に従い、着味油脂及びエビ可溶化液を用い、起泡性水中油型乳化組成物の調製を行った。
4.起泡性水中油型乳化組成物の調製は、油脂及び油溶性乳化剤を添加し、混合溶解し油相とした。これとは別に上記以外の原材料を溶解し水相を調製した。上記油相と水相を攪拌した後、超高温滅菌装置(岩井機械工業(株)製)によって直接加熱方式による殺菌処理を行った後、ホモゲナイザーにより圧力を加えて均質化した。その後、直ちに5℃に冷却した。冷却後約24時間エージングして、該起泡性水中油型乳化油脂組成物を得た。
【0033】
表1.エビ着味油脂の配合
・油脂は、不二製油株式会社製の植物油脂である「精製パーム核油」(融点28℃)、「ニューメラリン-38」(融点38℃)、「パルケナH」(融点35℃)を混合したものを使用した。
【0034】
表2.配合
・エビエキスは、三菱商事ライフサイエンス株式会社製「ハイクックシュリンプエキスMS」を使用した。
・システインプロテアーゼは、天野エンザイム株式会社製「ブロメラインF」を使用した。ブロメラインは蛋白質を分解する酵素である。
・pH緩衝剤は、米山化学工業株式会社製の「メタリン酸ナトリウム」を使用した。
【0035】
表3.配合
・油脂は、不二製油株式会社製の植物油脂である「精製パーム核油」(融点28℃)、「ニューメラリン-38」(融点38℃)、「パルケナH」(融点35℃)を使用した。
・乳蛋白は、株式会社ラクト・ジャパン製「WPC 80%」を使用した。
・粉あめは、昭和産業株式会社製「VIANDEX-BH」を使用した。
・乳化剤には、辻製油株式会社製「SLP-ペースト」、三菱ケミカル株式会社製「リョートーシュガーエステルS-570」、及び、阪本薬品工業株式会社製「SYグリスター MS-5S」を使用した。
・増粘多糖類は、太陽化学株式会社製「ネオソフトG」を使用した。
【0036】
○官能評価法
実施例及び比較例について、官能評価を行った。上記で調製した該起泡性水中油型乳化組成物をホイップ及びエスプーマに供し、官能評価した。官能評価は、パネラー10名にて盲検にて試食を行い、風味について、合議にて以下の基準に従って評価した。なお、本評価におけるパネラーは、従前から起泡性水中油型乳化組成物の研究に従事し、熟練したパネラー10名であった。
また、エスプーマに供したものは、造花性についても評価した。
【0037】
<官能評価>
5点:非常に良好(非常に濃厚なエビ風味が感じられる)
4点:良好(濃厚なエビ風味が感じられる)
3点:許容できる
2点:やや不良(エビ風味が弱い)
1点:不良(エビ風味が感じられない)
【0038】
各パネラーの評点の平均値を求めた。そして平均値より、
A:4.5点以上
B:3.5点以上4.5点未満
C:3.0点以上3.5点未満
D:1.5点以上3.0点未満
E:1.5点未満
の5段階で評価付けを行い、官能評価がC評価以上のものを合格品質とした。結果を表4に示した。
【0039】
○エスプーマ試験法
1.各サンプル300gを、エスプーマ用ボトルであるアドバンスディスペンサーM(日本炭酸瓦斯株式会社)に充填した。
2.ボンベより亜硝酸ガスを充填した。
3.20回、上下に振った。
【0040】
○起泡物の評価法(造花性)
1.「○エスプーマ試験法」でボトルを振った直後、ボトルにアドバンスディスペンサー付属の星形ノズルをつけた。
2.エスプーマ用ボトルを逆さまにし、レバーを握り、直径8cmの花状に絞り出した。
3.15分間放置後、パネラー3名の合議により、以下の基準にて評価した。
3点:エッジが鋭く、表面も滑らかと判断されるもの。
2点:「3点」に比べ、エッジの鋭さがわずかに劣り、表面もわずかながら荒れが見られるが、許容範囲と判断されるもの。
1点:エッジの丸み及び/又は、表面の荒れがあり、許容できないと判断されるもの。2点以上を合格とした。
【0041】
表4.結果
【0042】
表4の結果より、ホイップ及びエスプーマの官能評価がC評価以上であり、かつ、エスプーマの造花性が良好な実施例1が合格であった。さらに、ホイップ及びエスプーマの起泡性については、実施例1及び比較例1ともに良好であった。
よって、本発明の甲殻類十脚目様の風味を有する起泡性水中油型乳化組成物はエスプーマ用と言えるものである。
【0043】
考察
以上の結果より、本発明において、pH緩衝剤及びシステインプロテアーゼを含有する水溶液に甲殻類十脚目のむき身を浸漬させ、50℃以上、10分間以上加熱し、酵素反応させる工程を含むことで、エスプーマにおいても使用可能である、濃厚な甲殻類十脚目様の風味を有する起泡性水中油型乳化組成物を提供することができることを見出した。