(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139679
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】化学物質検知装置及び化学物質検知方法
(51)【国際特許分類】
G01N 27/62 20210101AFI20230927BHJP
G01N 1/22 20060101ALI20230927BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20230927BHJP
H01J 49/00 20060101ALI20230927BHJP
H01J 49/04 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
G01N27/62 F
G01N1/22 T
G01N1/00 101R
H01J49/00 310
H01J49/04 220
H01J49/04 900
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045336
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】301078191
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクソリューションズ
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高田 安章
(72)【発明者】
【氏名】熊野 峻
(72)【発明者】
【氏名】杉山 益之
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 英樹
【テーマコード(参考)】
2G041
2G052
【Fターム(参考)】
2G041CA01
2G041DA09
2G041DA11
2G041EA06
2G052AA40
2G052AB23
2G052AD42
2G052BA19
2G052CA04
2G052CA12
2G052EB01
2G052EB11
2G052GA24
(57)【要約】
【課題】簡易な構成で効率的な検査を行うことを課題とする。
【解決手段】検査対象に付着している化学物質を拭き取った拭取部材を加熱する加熱装置1と、拭取部材が加熱されることで、加熱装置1で発生した化学物質に関する蒸気をイオン化するイオン源5と、イオン源5で生成したイオンを分析する質量分析計61と、加熱装置1で発生した蒸気を吸引する吸気ポンプ302と、加熱装置1と吸気ポンプ302とを接続する配管201~203と、配管201~203に設けられ、一方がイオン源5に接続され、他方が吸気ポンプ302に接続されるよう配管201を分岐する分岐部BRと、を有することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
検査対象に付着している化学物質を拭き取った媒体を加熱する第1の加熱部と、
前記媒体が加熱されることで、前記第1の加熱部で発生した前記化学物質に関する蒸気をイオン化するイオン源部と、
前記イオン源部で生成したイオンを分析する第1の分析部と、
前記第1の加熱部で発生した前記蒸気を吸引する吸引部と、
前記第1の加熱部と前記吸引部とを接続する配管と、
前記配管に設けられ、一方が前記イオン源部に接続され、他方が前記吸引部に接続されるよう前記配管を分岐する分岐部と、
を有することを特徴とする化学物質検知装置。
【請求項2】
前記分岐部と、前記吸引部との間に、第2の分析部が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の化学物質検知装置。
【請求項3】
前記第2の分析部は分光分析部
であることを特徴とする請求項2に記載の化学物質検知装置。
【請求項4】
前記分光分析部は、赤外吸光光度計、ラマン分光装置、テラヘルツ分光装置のうち、いずれかである
ことを特徴とする請求項3に記載の化学物質検知装置。
【請求項5】
前記分岐部と、前記吸引部との間に、前記化学物質を吸着する吸着剤を有する吸着部が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の化学物質検知装置。
【請求項6】
前記分岐部と前記吸着部との間に、前記蒸気が前記吸引部の方向へ流れる第1の流路と、前記蒸気が前記吸着部の方向へ流れる第2の流路とを切り替える流路制御部が設けられており、
前記流路制御部を制御する制御部を有し、
前記制御部は、
前記第1の分析部による所定の化学物質の検出にともない、前記第1の流路を流れていた前記蒸気が前記第2の流路へ流れるよう前記流路制御部によって流路を切り替えさせる
ことを特徴とする請求項5に記載の化学物質検知装置。
【請求項7】
前記化学物質を運搬するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、
前記化学物質を分析する第3の分析部と、
前記吸着部を加熱する第2の加熱部と、
を有し、
前記制御部は、
前記第1の分析部による所定の化学物質の検出にともない、前記第1の加熱部で発生した前記蒸気が前記吸着部に流入せず、前記キャリアガスが前記キャリアガス供給部から前記吸着部を介して前記第3の分析部へ流入するよう前記流路制御部を制御するとともに、前記キャリアガス供給部に前記キャリアガスを供給させ、前記第2の加熱部による前記吸着部の加熱を行う
ことを特徴とする請求項6に記載の化学物質検知装置。
【請求項8】
前記イオン源部は、バリア放電イオン源であり、
前記分岐部から前記バリア放電イオン源に接続される前記配管は、前記バリア放電イオン源に使用され、前記第1の加熱部から前記分岐部までの前記配管より細い細管である
ことを特徴とする請求項1に記載の化学物質検知装置。
【請求項9】
検査対象に付着している化学物質を拭き取る媒体を加熱する第1の加熱部と、
前記媒体が加熱されることで、前記第1の加熱部で発生した前記化学物質に関する蒸気をイオン化するイオン源部と、
前記イオン源部で生成したイオンを分析する第1の分析部と、
前記第1の加熱部で発生した前記蒸気を吸引する吸引部と、
前記第1の加熱部と前記吸引部とを接続する配管と、
前記配管に設けられ、一方が前記イオン源部に接続され、他方が前記吸引部に接続されるよう前記配管を分岐する分岐部と、
を有する化学物質検知装置が、
前記媒体を前記第1の加熱部によって加熱する媒体加熱工程と、
前記媒体から発生した前記蒸気を前記吸引部で吸引する吸引工程と、
前記分岐部で分岐された前記蒸気の一部を前記第1の分析部で分析する第1の分析工程と、
前記第1の分析部での分析の結果、検出対象成分を検出したか否かを判定する判定工程と、
を実行することを特徴とする化学物質検知方法。
【請求項10】
前記分岐部と、前記吸引部との間に、第2の分析部が設けられており、
前記分岐部で分岐された蒸気のうち、前記第1の分析部による分析が行われていない蒸気を前記第2の分析部で分析する第2の分析工程
を実行することを特徴とする請求項9に記載の化学物質検知方法。
【請求項11】
前記判定工程では、
前記第1の分析部及び前記第2の分析部の少なくともいずれかで、検出対象成分を検出したか否かを判定する
ことを特徴とする請求項10に記載の化学物質検知方法。
【請求項12】
前記判定工程の結果、前記第1の分析部で検出対象成分を検出した場合に警報部が警報を発報する第1の警報工程
を実行することを特徴とする請求項9に記載の化学物質検知方法。
【請求項13】
前記判定工程において、前記第1の分析部及び前記第2の分析部の少なくともいずれかで検出対象成分を検出したと判定された場合に警報部が警報を発報する第2の警報工程
を実行することを特徴とする請求項11に記載の化学物質検知方法。
【請求項14】
前記分岐部と、前記吸引部との間に、前記化学物質を吸着する吸着剤を有する吸着部が設けられており、
前記判定工程において検出対象成分を検出した場合、前記分岐部で分岐された前記蒸気のうち、前記第1の分析部による分析が行われていない前記蒸気が前記吸着部へ流れるよう流路を切り替える第1の流路切替工程
を実行することを特徴とする請求項9に記載の化学物質検知方法。
【請求項15】
前記吸着部に前記化学物質を運搬するキャリアガスを供給するキャリアガス供給部と、
前記化学物質を分析する第3の分析部と、
前記吸着部を加熱する第2の加熱部と、
を有し、
前記第1の流路切替工程の後、前記第1の加熱部で発生した前記蒸気が前記吸着部に流入せず、前記キャリアガスが前記キャリアガス供給部から前記吸着部を介して前記第3の分析部へ流入するよう流路を切り替える第2の流路切替工程と、
前記第2の流路切替工程の後、前記キャリアガス供給部から前記キャリアガスを供給させるキャリアガス供給工程と、
前記キャリアガス供給工程の後、前記第2の加熱部による前記吸着部の加熱を行う吸着部加熱工程と、
前記第3の分析部による分析を行う第2の分析工程と、
を実行することを特徴とする請求項14に記載の化学物質検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、化学物質検知装置及び化学物質検知方法の技術に関する。
【背景技術】
【0002】
爆発物や違法薬物の持ち込みを防止する方法の一つとして、トレース検査が行われる。例えば、カバンの外側に爆薬や薬物が付着していれば、カバンの内部に隠蔽されている可能性がある。そこで、検査対象の表面を拭き取り、付着物を採取して化学分析手段で同定する検査が行われる。このようなトレース検査における分析には、イオンモビリティ法や質量分析法がよく用いられている。
【0003】
特許文献1には、「検査対象から採取した試料が付着した検査片を加熱するステップと、加熱された前記検査片から発生する気体を試料ガスとして吸引するステップと、該吸引された試料ガスをイオン化するステップと、イオン化された試料ガスのイオンの質量を分析して質量スペクトルを取得する第1の分析ステップと、第1の固有のm/z値のイオンが存在するか判定する第1の判定ステップと、前記第1の判定ステップの判定結果に応じてタンデム質量分析を行う第2の分析ステップと、前記タンデム質量分析で得られた質量スペクトルで第2の固有のm/z値のイオンが存在するか判定する第2の判定ステップとを備え、前記検査片を加熱するステップは、間隔を離して対向配置された2枚の加熱板の間に前記検査片を挿入して加熱することを特徴とする」特定薬物の探知方法及び探知装置が開示されている(請求項1参照)。
【0004】
特許文献2には、「第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と前記第2の電極との間に設けられ、試料及び放電ガスの導入部及び排出部を有する誘電体部と、前記第1の電極と前記第2の電極のいずれか一方に対して交流電圧を印加し、前記第1の電極と前記第2の電極との間で発生する放電により前記試料をイオン化する電源と、前記排出部から排出されたイオンを分析する質量分析部とを有し、前記放電は2Torr以上300Torr以下で行われることを特徴とする」質量分析装置が開示されている(請求項1参照)。
【0005】
特許文献3には、「本発明は、被検査試料を気化する気化室(1)と、被検査試料を加熱する加熱器(16)と、気化され、イオン化された試料を分析する分析装置(3)と、加熱器の加熱温度と気化室へのガス流に関する情報を設定する設定装置を備え、当該設定装置は、任意の時間範囲の加熱条件とガス流を設定するものであって、設定された情報に基づいて、前記加熱器と前記吸引装置を制御する」薬物探知装置が開示されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第3800422号公報
【特許文献2】特許第5622751号公報
【特許文献3】特開2016-173332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
トレース検査装置の小型化のため、イオン源における化学物質のイオン化を減圧下で行う技術が開示されている。しかし、化学物質のイオン化を減圧下で行うためには、イオン化を行う放電部と、大気圧の外部とを遮断するため、細い細管を介して化学物質をイオン源に導入する必要がある。しかし、このような構成では検査に時間がかかるため改良が必要であった。
【0008】
このような課題に鑑みて、本発明は、簡易な構成の変更で効率的な検査を行うことを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記した課題を解決するため、本発明は、検査対象に付着している化学物質を拭き取った媒体を加熱する第1の加熱部と、前記媒体が加熱されることで、前記第1の加熱部で発生した前記化学物質に関する蒸気をイオン化するイオン源部と、前記イオン源部で生成したイオンを分析する第1の分析部と、前記第1の加熱部で発生した前記蒸気を吸引する吸引部と、前記第1の加熱部と前記吸引部とを接続する配管と、前記配管に設けられ、一方が前記イオン源部に接続され、他方が前記吸引部に接続されるよう前記配管を分岐する分岐部と、を有することを特徴とする。
その他の解決手段は実施形態中において適宜記載する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡易な構成の変更で効率的な検査を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係るトレース検査装置の構成を示す図である。
【
図3】第1実施形態におけるトレース検査装置が行う処理の手順を示すフローチャートである。
【
図4】比較例におけるトレース検査装置の構成例を示す図である。
【
図5】トレース検査装置に用いられるイオン源の構成例を示す図である。
【
図6】第2実施形態に係るトレース検査装置の構成例を示す図である。
【
図7】第2実施形態におけるトレース検査装置が行う処理の手順を示すフローチャートである。
【
図8】第3実施形態に係るトレース検査装置の構成を示す図である。
【
図9】第3実施形態におけるトレース検査装置が行う処理の手順を示すフローチャートである。
【
図10】第4実施形態に係るトレース検査装置の構成を示す図である。
【
図11A】第4実施形態におけるトレース検査装置が行う処理の手順を示すフローチャート(その1)である。
【
図11B】第4実施形態におけるトレース検査装置が行う処理の手順を示すフローチャート(その2)である。
【
図12】制御装置のハードウェア構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明を実施するための形態(「実施形態」という)について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
【0013】
[第1実施形態]
<システム構成>
図1は第1実施形態に係るトレース検査装置Tの構成を示す図である。また、
図2は加熱装置1の構成を示す図である。
図1に示すように、トレース検査装置(化学物質検知装置)Tは、加熱装置(第1の加熱部)1、流量制御装置301、吸気ポンプ(吸引部)302、イオン源(イオン源部)5、質量分析計(第1の分析部)61、排気ポンプ62、制御装置(制御部)71、警報装置(警報部)72を備える。イオン源5として、バリア放電イオン源5A(
図5参照)が用いられる。質量分析計61と制御装置71とは信号ライン801を介して通信可能に接続されている。さらに、制御装置71と、警報装置72とは信号ライン802を介して通信可能に接続されている。加熱装置1は、配管201及び配管202を介して流量制御装置301に接続されている。さらに、流量制御装置301は配管203を介して吸気ポンプ302に接続されている。つまり、配管201及び配管202は、加熱装置1と吸気ポンプ302とを接続する配管である。また、加熱装置1は配管201及び細管401を介してイオン源5に接続している。分岐部BRについては後記する。なお、本実施形態では加熱装置1側を上流、吸気ポンプ302又はイオン源5側を下流と適宜称する。
【0014】
<加熱装置1>
まず、
図2を参照して加熱装置1の構成について説明し、
図1における加熱装置1以外の構成については後記する。
図2に示すように、加熱装置1は、上側加熱部110、下側加熱部120を備える。下側加熱部120は可動ロッド131により上下方向(白矢印141)に可動する。上側加熱部110は固定されている。ただし、下側加熱部120が固定され、上側加熱部110が上下方向に可動してもよい。あるいは、上側加熱部110及び下側加熱部120の双方が上下方向に可動してもよい。ちなみに、加熱装置1をトレース検査装置Tに設置した際に、地面側を下、地面側と反対方向を上とする。
【0015】
これらの下側加熱部120、上側加熱部110はヒータ(不図示)により200℃程度に加熱されている。また、下側加熱部120には空気を取り入れるための開孔部121が設けられている。さらに、上側加熱部110は、配管201との接続部に貫通孔が設けられることによって配管201と接続されている。化学物質の吸着を防止するため、配管201は200℃程度に加熱されている。
【0016】
カバン等の検査対象の表面等(気になる部分)を拭き取った拭取部材(検査対象に付着している化学物質を拭き取った媒体)Wは、検査者によって加熱装置1の中に挿入される。加熱装置1に拭取部材Wが挿入されると、可動ロッド131により下側加熱部120が上昇する。これにより、それぞれ加熱されている上側加熱部110と下側加熱部120とに拭取部材Wが挟み込まれる。拭取部材Wが上側加熱部110と、下側加熱部120に挟み込まれることによって、拭取部材Wが加熱される。拭取部材Wに付着している化学物質は熱により気化し、上側加熱部110に設けられている貫通孔を介して配管201へ送られる。配管201に導入された化学物質は、細管401(
図1参照)を介してイオン源5(
図1参照)へ送られる(白矢印142)。
【0017】
以下、適宜、
図2を参照しつつ、
図1を参照して第1実施形態の構成について説明する。
まず、検査者は、カバン等の検査対象を拭き取った布等の拭取部材Wを加熱装置1の中に挿入する。加熱装置1において、拭取部材Wは、加熱されている上側加熱部110及び下側加熱部120によって、上下から挟み込まれる形で加熱される。これによって、拭取部材Wに付着している化学物質が、上側加熱部110及び下側加熱部120の熱により気化する。気化した化学物質の蒸気は、配管201~203を介して吸気ポンプ302により吸気される。要するに、吸気ポンプ302は、加熱装置1で発生した化学物質の蒸気を吸引する。加熱装置1及び吸気ポンプ302の間には吸気の流量を調節するための流量制御装置301が設けられるとよい。ちなみに、化学物質の蒸気(以下、適宜蒸気と称する)の効率的な吸気のため、吸気ポンプ302による流量は1,000mL/min程度に制御されていることが好ましい。このように、加熱装置1は、検査対象に付着している化学物質を拭き取った媒体を加熱する。
【0018】
加熱装置1と流量制御装置301との間には分岐部BRが設けられている。分岐部BRにおいて配管201は、流量制御装置301の方向へ蒸気を流す配管202と、細管401を介してイオン源5へ蒸気を流す細管401とに分岐される。つまり、分岐部BRは配管201に設けられ、一方がイオン源5に接続され、他方が吸気ポンプ302に接続されるよう配管201を分岐する。なお、イオン源5として、バリア放電イオン源5A(
図5参照)が用いられる場合、分岐部BRからバリア放電イオン源5Aに接続される配管は、バリア放電イオン源5Aに使用され、加熱装置1から分岐部BRまでの配管201より細い細管401である。
【0019】
分岐部BRにおいて、加熱装置1で発生した化学物質の蒸気の大部分は吸気ポンプ302によって、配管202及び配管203を介して排気される。分岐部BRから、化学物質の蒸気の一部が、細管401を介してイオン源5へと導入される。イオン源5に導入する流量は細管401の内径や長さで決まるが、1mL/minから100mL/min程度が好ましい。なお、配管201,202の径>>細管401である。ちなみに、細管401の内径は0.1mmから0.2mm程度である。
【0020】
イオン源5は導入された蒸気をイオン化することによって化学物質のイオンを生成する。つまり、イオン源5は、拭取部材Wが加熱されることで、加熱装置1で発生した化学物質に関する蒸気をイオン化する。イオン源5で生成されたイオンは質量分析計61に送られ質量分析される。つまり、質量分析計61は、イオン源5で生成したイオンを分析する。質量分析計61の内部は排気ポンプ62により真空に排気されている。質量分析計61で得られた質量分析結果は、信号ライン801を介して制御装置71に送られる。制御装置71は、違法薬物等といった検出対象となる化学物質の成分(例えば、危険物の成分)のデータが格納されているデータベースを有している。制御装置71は、質量分析計61による質量分析結果がデータベースに格納されている成分(例えば、危険物の成分)のデータと一致するか否かを判定する。一致する場合、制御装置71は信号ライン802を介して警報装置72に警報発報を指示する。指示を受けた警報装置72は警報を発報する。
【0021】
<フローチャート>
図3は、第1実施形態におけるトレース検査装置Tが行う処理の手順を示すフローチャートである。
まず、検査者が拭取部材Wを加熱装置1に挿入し、加熱装置1による加熱が行われる(S101)。ステップS101は、媒体である拭取部材Wを第1の加熱部である加熱装置1によって加熱する媒体加熱工程である。
そして、吸気ポンプ302によって加熱装置1で発生した蒸気が吸引される(S102)。この際、加熱装置1に備えられている、図示しないセンサによって拭取部材Wが検知されると、吸気ポンプ302の吸引が開始されるようにしてもよい。あるいは、トレース検査装置Tの電源がオンになっている間、吸気ポンプ302の吸引が行われ続けてもよい。ステップS102は、拭取部材Wから発生した蒸気を吸気ポンプ302で吸引する吸引工程である。
【0022】
加熱装置1から吸引された蒸気は分岐部BRで分岐される(S103)。分岐された蒸気の一部は細管401を介してイオン源5に導入され、他の蒸気は吸気ポンプ302によって排気される。
イオン源5に導入された蒸気は、イオン源5でイオン化された後、質量分析計61によって分析される(S104)。ステップS104は、分岐部BRで分岐された蒸気の一部を質量分析計61で分析する第1の分析工程である。
続いて、制御装置71は質量分析計61による分析結果を基に検出対象成分を検出したか否かを判定する(S111)。ステップS111は、質量分析計61での分析の結果、検出対象成分を検出したか否かを判定する判定工程である。
検出していない場合(S111→No)、検査者は拭取部材Wを加熱装置1から取り出して(S113)、処理が終了する。
質量分析計61によって検出対象成分が検出された場合(S111→Yes)、制御装置71は警報装置72に警報発報を指示する。
指示を受けた警報装置72は警報を発報する(S112)。ステップS112は、判定工程の結果、質量分析計61で検出対象成分を検出した場合に警報装置72が警報を発報する第1の警報工程である。その後、検査者は拭取部材Wを加熱装置1から取り出して(S113)、処理が終了する。
【0023】
[比較例]
次に、
図4及び
図5を参照して、これまでのトレース検査装置Tzについて、本実施形態に対する比較例として説明する。
【0024】
<トレース検査装置Tz>
図4は、比較例におけるトレース検査装置Tzの構成例を示す図である。
図4におけるトレース検査装置Tzについて、
図1と同様の構成については同一の符号を付し、説明を省略する。
図4におけるトレース検査装置Tzが
図1に示すトレース検査装置Tと大きく異なる点は、以下の点である。
つまり、加熱装置1とイオン源5とを接続する配管201aが
図1に示す分岐部BRを有していない。そのため、加熱装置1で蒸発した化学物質の蒸気のほとんどが細管401を介してイオン源5に導入されている。また、トレース検査装置Tzには、
図1に示す流量制御装置301及び吸気ポンプ302が備えられていない。
【0025】
なお、制御装置71は信号ライン811を介して加熱装置1を制御している。さらに、制御装置71は信号ライン812を介してイオン源5を制御している。そして、制御装置71は信号ライン813を介して排気ポンプ62を制御している。ちなみに、
図1におけるトレース検査装置T、
図6におけるトレース検査装置Ta、
図8におけるトレース検査装置Tb、
図10におけるトレース検査装置Tcでも、
図4と同様、制御装置71は加熱装置1、イオン源5、排気ポンプ62を制御している。しかし、図が煩雑になるため、
図1、
図6、
図8、
図10では
図4に示されている信号ライン811~813を省略している。
【0026】
まず、検査者は検査対象の表面を拭き取った拭取部材W(
図2参照)を加熱装置1に挿入する。拭取部材Wに付着していた化学物質は加熱装置1による熱により気化される。この気化によって発生した化学物質の蒸気は、配管201aを介してイオン源5に導入される。化学物質の吸着を防ぐため、配管201aは加熱されている。イオン源5は、導入された蒸気をイオン化することによって、化学物質のイオンを生成する。
【0027】
そして、
図1と同様、イオン源5で生成された化学物質のイオンは質量分析計61に導入され質量分析される。質量分析計61の内部は排気ポンプ62により真空に排気されている。前記したように、加熱装置1、イオン源5、質量分析計61、排気ポンプ62のそれぞれは、信号ライン801,811~813を介して制御装置71により制御されている。質量分析された結果(質量分析結果)は、制御装置71に設置されているデータベース(不図示)内に格納された成分(例えば、危険物の成分)のデータと比較される。そして、質量分析によって検出された成分のデータと、データベース(不図示)内に格納された成分のデータとが一致すると制御装置71が判定した場合、信号ライン802を介して制御装置71は警報装置72に警報発報を指示する。指示を受けた警報装置72は警報を発報する。
【0028】
<イオン源5>
図5は、トレース検査装置Tzに用いられイオン源5の構成例を示す図である。
図5では、イオン源5の一例として減圧下でバリア放電を行うバリア放電イオン源5Aが示されている。適宜、
図4を参照する。ちなみに、イオン源5としての
図5のバリア放電イオン源5Aは、比較例ばかりでなく、第1~第4実施形態でも用いられているイオン源5である。
イオン源5は、放電管511、外筒電極512、加熱部514、内筒電極515、オリフィス電極522を備えている。なお、
図5において、差動排気部531、高真空部532、細孔付電極541及び直流電源543は質量分析計61を構成するものである。
【0029】
一般的にトレース検査装置Tzには、イオン源5として、バリア放電イオン源5Aとは異なる、大気中での化学反応により化学物質をイオン化する大気圧化学イオン化法が一般的によく用いられる。このような大気圧化学イオン化法では、大気中で生成したイオンは管を介して質量分析計61の内部における真空中に導入される。ただし、大気中で生成したイオンを質量分析計61の真空中に導入するための管を細くすると、この管で失われるイオンが多くなるため、管を細くすることができない。大気圧と通じている管を細くすることができないため、質量分析計61の真空度を高めるためには、排気ポンプ62の排気量を大きくする必要がある。
【0030】
ここで、トレース検査装置Tzの小型化するためには、排気ポンプ62を小型化する必要がある。しかし、排気ポンプ62が小型化すると、大気圧化学イオン化法によるイオン源5では、質量分析計61の真空度が低くなってしまう。
【0031】
そこで、バリア放電イオン源5Aでは、イオン源5におけるイオン化領域を減圧することで、質量分析計61の内部を減圧する排気ポンプ62を小型化することができる。バリア放電イオン源5Aでは、イオン源5におけるイオン化領域を減圧するための吸引ポンプが排気ポンプ62とは別に必要となるが、排気ポンプ62を著しく小型化することができるため、イオン源5におけるイオン化領域を減圧するための吸引ポンプが追加されても、トレース検査装置Tzの全体を小型化することができる。なお、バリア放電イオン源5Aでは、低圧のイオン化領域と大気とを遮断するため、細管401を介して化学物質が気化した蒸気をイオン化領域に導入する。細管401を通るものはイオンではなく、イオン化される前の蒸気であるため、細管401を細くしても質量分析計61の感度に影響しない。
【0032】
このように、トレース検査装置Tzの小型化を目的として、大気圧化学イオン化法によるイオン源5の代わりにバリア放電イオン源5Aが用いられる。以下、バリア放電イオン源5Aの構成について、さらに説明する。
【0033】
図5に示すバリア放電イオン源5A(イオン源5)では、内径0.1mmから0.2mm程度で、長さが10mmから100mm程度の細管401が接続されている。細管401は加熱装置1(
図2参照)に接続している配管201aと接続している。この配管201aを介して、加熱装置1から細管401へ化学物質の蒸気が導入される。さらに、細管401を介して、化学物質の蒸気が、ガラス等の絶縁材で構成される放電管511の内部に導入される。ちなみに、加熱装置1に繋がる配管201aと細管401とは、配管201a及び細管401の径を変換するための変換コネクタCNで互いに接続されている。また、配管201aや、細管401、変換コネクタCNは200℃程度に加熱されている。
【0034】
放電管511の外側には円筒状の外筒電極512が設けられている。この外筒電極512は高周波電源513に接続されている。また、放電管511のさらに外側には加熱部514が設けられている。加熱部514によって放電管511も200℃程度に加熱されている。放電管511において、細管401の接続端とは逆の端には、オリフィス521が開口しているオリフィス電極522が設けられている。また、放電管511のオリフィス電極522側の端において、放電管511の内側には円筒状の内筒電極515が設けられている。
【0035】
内筒電極515とオリフィス電極522とは電気的に導通しており、ともに直流電源523に接続されている。オリフィス電極522と細孔付電極541との間は排気ポンプ62で排気されている(白矢印A2)差動排気部531である。なお、差動排気部531は、実際には閉空間となっている。また、前記したように差動排気部531は質量分析計61を構成するものである。
【0036】
外筒電極512に、10kHzから20kHzで±2kV程度の高周波が印可されると、外筒電極512と内筒電極515との間で放電が発生する(放電部DS)。放電管511の内部に導入された化学物質の蒸気は放電部DSにおいて、プラズマに曝されイオン化される。例えば、正イオンを測定する場合、オリフィス電極522には20~30V程度の電圧が直流電源523により印加される。このように、放電管511の内部がイオン化領域となっている。
【0037】
また、質量分析計61を構成する細孔付電極541には5~10V程度の電圧が直流電源543により印可される。これにより、オリフィス521を通過した正イオンは、差動排気部531において細孔付電極541の方向にドリフトする。細孔付電極541に設けられている細孔542を通過したイオン(白矢印A1)は高真空部532を備える質量分析計61で分析される。
【0038】
なお、質量分析計61構成する高真空部532は排気ポンプ62で排気されている(白矢印A3)。高真空部532は、実際には閉空間となっている。なお、放電管511の内部はオリフィス521を介して排気ポンプ62とは異なる吸引ポンプにより排気されるため、1/10気圧から1/100気圧程度に減圧されている。
【0039】
また、負イオンを分析する場合、オリフィス電極522及び細孔付電極541には、前記した電圧の極性を逆にした電圧が印加される。すなわち、オリフィス電極522には-20~-30V程度、細孔付電極541には-5V~-10V程度の電圧が印可される。これによって、オリフィス521を通過した負イオンは、差動排気部531において細孔付電極541の方向にドリフトする。
【0040】
このように、バリア放電イオン源5Aでは、減圧されている放電部DSで蒸気がイオン化する。これにより、大気圧でイオン化する大気圧化学イオン化法を用いるイオン源5よりも、イオン化領域(放電管511の内部)と、質量分析計61(
図4参照)を構成する高真空部532との圧力差を小さくすることができる。この結果、排気ポンプ62を小型化しても無理なくイオンを質量分析計61まで導入することができる。
図5に示したイオン源5(バリア放電イオン源5A)では、細管401を細く、又は長くすることにより、大気中から取り込まれる気体の流量を抑えることができ、イオン化領域を低圧に保つことができる。これにより、小型の排気ポンプ62を用いても高感度で分析が可能である。
【0041】
しかし、細管13を介してバリア放電イオン源5Aに吸引できる流量は、およそ1mL/minから100mL/minと限られる。
図4で示すように加熱装置1と、バリア放電イオン源5Aであるイオン源5とを直結すると、イオン源5への吸引流量が限られるため、加熱装置1で発生した化学物質に関する蒸気がイオン源5に到達するまで時間がかかり、迅速な検査を妨げていた。
【0042】
図1のような第1実施形態に示すトレース検査装置Tの構成とすることで、吸気ポンプ302の吸引により加熱装置1と分岐部BRとの間の流量を大きくすることができる。この結果、加熱装置1と分岐部BRとの間を蒸気が流れる時間を無視することができる。すなわち、加熱装置1と分岐部BRとの間を蒸気が流れる時間を短縮することができる。これにより、加熱装置1で発生した化学物質の蒸気を、細管401を介して、速やかにイオン源5に導入することができる。このため、
図4の比較例のように、分岐部BRを設けず加熱装置1とイオン源5とを直結した場合よりも、簡易な構成の変更で迅速な検査が可能となる。つまり、加熱装置1で発生した化学物質の蒸気を、細管401を介して、速やかにイオン源5に導入できるため、質量分析計61のレスポンスを向上させることができる。要するに、加熱装置1で発生した化学物質に関する蒸気を、イオン源5の細管401の入り口まで迅速に輸送することができ、検査を短時間で終わらせることができる。従って、トレース検査装置Tの小型化のために、減圧下でイオンを生成するバリア放電イオン源5Aを用いても、迅速な検査を可能にすることができる。
【0043】
加えて、第1実施形態に示す構成とすることにより、加熱装置1で発生した化学物質の蒸気を、配管201の内部を流通する蒸気の速度を上げることができる。これにより、配管201の内部に蒸気に含まれる化学物質が付着することを防止できる。
【0044】
また、これまでのトレース検査装置Tzでは、加熱装置1で発生した蒸気を吸引する吸気ポンプ302が設けられていなかった。そのため、加熱装置1で発生した蒸気は、加熱装置1の内部で散逸してしまっていた。第1実施形態によるトレース検査装置Tによれば、加熱装置1で発生した蒸気は、吸気ポンプ302による吸気によって配管201に吸気される。このため、第1実施形態によるトレース検査装置Tは、加熱装置1で発生した蒸気の散逸防止が可能である。また、イオン源5としてバリア放電イオン源5Aを用いることでトレース検査装置Tの小型化が可能となる。
【0045】
なお、特許文献3に記載の技術では、
図1の分岐部BRに該当する箇所に三方バルブが設けられている。これは、過剰に高濃度な試料が導入された場合、試料を排気するためのものであり、本実施形態の分岐部BRとは目的が異なっている。本実施形態では、分岐部BRにバルブは設けられておらず、また、特許文献3に記載の技術とは分岐部BRの使用目的が全く異なっている。
【0046】
[第2実施形態]
次に、
図6及び
図7を参照して、本発明の第2実施形態について説明する。
【0047】
<トレース検査装置Ta>
図6は、第2実施形態に係るトレース検査装置Taの構成例を示す図である。
図6において、
図1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
図6に示すトレース検査装置Taが
図1に示すトレース検査装置Tと異なる点は、分岐部BRと、流量制御装置301との間に分光分析装置(第2の分析部、分光分析部)311が設けられている点である。つまり、分岐部BRと、吸気ポンプ302との間に、分光分析装置311が設けられている。分光分析装置311の下流側は配管204によって流量制御装置301と接続している。また、分光分析装置311は信号ライン821を介して制御装置71と通信可能に接続されている。
【0048】
図1に示すトレース検査装置Tでは、加熱装置1で発生した化学物質の蒸気が吸気ポンプ302で吸引されるとともに、分岐部BRで分岐される。そして、蒸気の一部がイオン源5に導入される。前記したように、これにより、
図1に示すトレース検査装置Tでは迅速な検査が可能である。しかし、加熱装置1で発生した化学物質の蒸気の大部分は分岐部BRから流量制御装置301の方向に流れるため、改良が望まれる。そこで、
図6に示すトレース検査装置Taでは、分岐部BRと流量制御装置301の間に分光分析装置311が設けられている。
【0049】
分光分析装置311として、物質の同定能力に優れた赤外吸光光度計、ラマン分光装置、テラヘルツ分光装置が用いられるとよい。このような分光分析装置311によって物質の構造に関する情報を得ることができる。そして、本検査が行われる前、予め分光分析装置311による、検出対象となる化学物質の成分のデータが予め取得される事前検査が行われる。ちなみに、本検査とは、カバン等の検査対象に対して行う検査のことであり、事前検査とは検査対象に対する検査の前にデータベースの準備等のために本検査の前に行われる検査である。そして、事前検査による分光分析結果は、信号ライン821を介して、そのデータ(分光分析結果)が制御装置71へ送られる。制御装置71は、送られた事前検査による分光分析結果をデータベースに登録する。
【0050】
そして、本検査時において、制御装置71は、信号ライン801を介して、質量分析計61で得られた質量分析結果のデータを取得するとともに、信号ライン821を介して、分光分析装置311で得られたデータを取得する。制御装置71は、質量分析結果のデータベースと、本検査の質量分析結果とを比較するとともに、分光分析結果のデータベースと、本検査の分光分析結果とを比較する。そして、本検査における質量分析結果及び分光分析結果の少なくとも一方について、データベースに格納されている成分のデータが一致した場合、制御装置71は信号ライン802を介して警報装置72に警報発報を指示する。指示を受けた警報装置72が警報を発報する。
【0051】
<フローチャート>
図7は、第2実施形態におけるトレース検査装置Taが行う処理の手順を示すフローチャートである。
図7に示す処理は本検査で行われる処理である。
まず、検査者が拭取部材Wを加熱装置1に挿入し、加熱装置1による加熱が行われる(S201)。
そして、吸気ポンプ302によって加熱装置1で発生した蒸気が吸引される(S202)。
図3と同様、加熱装置1に備えられている、図示しないセンサによって拭取部材Wが検知されると、吸気ポンプ302が吸気ポンプ302の吸引が開始されるようにしてもよい。あるいは、トレース検査装置Taの電源がオンになっている間、吸気ポンプ302の吸引が行われ続けてもよい。
【0052】
加熱装置1から吸引された蒸気は分岐部BRで分岐される(S203)。
図3と同様、分岐された蒸気の一部は細管401を介してイオン源5に導入され、他は吸気ポンプ302によって排気される。
イオン源5に導入された蒸気は、イオン源5でイオン化された後、質量分析計61によって分析される(S204)。なお、ステップS201~S204の処理は、
図3のステップS101~S104の処理と同様の処理である。
【0053】
また、分岐部BRで分岐された蒸気のうち、流量制御装置301の方向へ流れた蒸気は分光分析装置311によって分析される(S205)。ステップS204とステップS205とは同時に行われることが望ましい。ステップS205は、分岐部BRで分岐された蒸気のうち、質量分析計61による分析が行われていない蒸気を分光分析装置311で分析する第2の分析工程である。
そして、制御装置71は、質量分析計61による質量分析結果と、分光分析装置311による分光分析結果の少なくともいずれかで検出対象成分を検出したか否かを判定する(S211)。ステップS211の判定工程で、制御装置71が、質量分析計61及び分光分析装置311の少なくともいずれかで、検出対象成分を検出したか否かを判定する。
検出されていない場合(S211→No)、検査者は拭取部材Wを加熱装置1から取り出して(S213)、処理が終了する。
質量分析結果と分光分析結果の少なくともいずれかで検出対象成分が検出された場合(S211→Yes)、制御装置71は警報装置72に警報発報を指示する。指示を受けた警報装置72は警報を発報する(S212)。ステップS212は、ステップS211の判定工程において、質量分析計及び分光分析装置311の少なくともいずれかで検出対象成分を検出したと判定された場合に警報装置72が警報を発報する第2の警報工程である。その後、検査者が拭取部材Wを加熱装置1から取り出して(S213)、処理を終了する。
【0054】
このような構成とすることで、流量制御装置301の方向へ流れる蒸気を有効活用することができ、さらに検査の精度を向上させることができる。
【0055】
[第3実施形態]
次に、
図8及び
図9を参照して、本発明の第3実施形態を説明する。
図8は、第3実施形態に係るトレース検査装置Tbの構成を示す図である。
図8において、
図1と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
図6に示すトレース検査装置Tbが
図1に示すトレース検査装置Tと異なる点は、以下の点である。
(1)分岐部BRと流量制御装置301の間に分岐部BR1が設けられている。分岐部BR1によって、配管202は流量制御装置301の方向へ向かう流路である配管(第1の流路)205と、流量制御装置301の方向とは別の方向へ向かう流路である枝管(第2の流路)211とに分岐する。分岐部BR1には、例えば三方バルブで構成される第1バルブ(流路制御部)901が設けられており、配管205へ向かう気流(蒸気を含む)と、枝管211へ向かう気流とを制御している。なお、第1バルブ901は信号ライン831を介して制御装置71によって制御されている
(2)枝管211には、蒸気に含まれる化学物質を吸着する吸着剤が設けられている吸着部としての吸着装置321が備えられている。吸着装置321の下流側に接続されている枝管212は配管205に合流する。このように、分岐部BRと、吸気ポンプ302との間に、化学物質を吸着する吸着剤を有する吸着装置321が設けられている。このように、分岐部BRと吸着装置321との間に、蒸気が吸気ポンプ302の方向へ流れる配管205と、蒸気が吸着装置321の方向へ流れる枝管211とを切り替える第1バルブ901が設けられている。
【0056】
図1に示すトレース検査装置Tでは、加熱装置1で発生した化学物質の蒸気が分岐部BRで分岐される。そして、分岐された蒸気のうち、一方がイオン源5に導入されることにより迅速な検査が可能になるが、加熱装置1で発生した化学物質の蒸気の大部分は分岐部BRから流量制御装置301の方向に流れる。そのため、改良が望まれる。
【0057】
加熱装置1によって、化学物質の蒸気が生じると、まず、配管202→枝管211への流れが停止され、配管202→配管205の方向へ蒸気が流れるよう第1バルブ901が制御装置71によって制御される。つまり、制御装置71は、第1バルブ901を制御する。この結果、蒸気は第1バルブ901により分岐部BR1から流量制御装置301へと流路A(第1の流路)の方向に吸引される。そして、質量分析計61による分析の結果、質量分析計61により検出対象成分を検出したと制御装置71が判定した場合、警報装置72が警報を発報する。そして、警報の発報とともに、制御装置71は第1バルブ901を切り替える。この際、第1バルブ901は、配管205の方向への流れを停止し、枝管211の方向へ蒸気が流れる(流路B)よう制御される。この結果、蒸気は吸着装置321の方向へ流れる。つまり、制御装置71は、質量分析計61による所定の化学物質の検出にともない、配管205を流れていた蒸気が枝管211へ流れるよう第1バルブ901によって流路を切り替えさせる。
【0058】
蒸気が枝管211へ流される(流路B:第2の流路)ことで蒸気に含まれる化学物質が吸着装置321の吸着剤に吸着される。通常、加熱装置1からの化学物質の蒸気は、10秒程度は発生が続く。従って、目安として10秒間、蒸気に含まれる化学物質を吸着装置321の吸着剤に吸着させた後、制御装置71は、第1バルブ901を元に戻し、次の検査に備える。第1バルブ901を元に戻すとは、配管205の方向(流路A)へ蒸気が流れるようにし、枝管211の方向(流路B)へ蒸気が流れないようにすることである。
【0059】
その後、検査者は、化学物質を吸着した吸着装置321を取り外し、吸着剤を加熱したり、溶媒抽出したりすることで吸着剤に吸着していた化学物質を抽出する。そして、抽出された化学物質はガスクロマトグラフ・質量分析計等の精密分析手段で分析される。この分析は、質量分析計61による分析とは別の分析である。
【0060】
<フローチャート>
図9は、第3実施形態におけるトレース検査装置Tbが行う処理の手順を示すフローチャートである。
まず、検査者が拭取部材Wを加熱装置1に挿入し、加熱装置1による加熱が行われる(S301)。
そして、吸気ポンプ302によって加熱装置1で発生した蒸気が吸引される(S302)。
図1と同様、吸気ポンプ302は、加熱装置1に備えられている、図示しないセンサによって拭取部材Wが検知されると、吸気ポンプ302の吸引が開始されるようにしてもよい。あるいは、トレース検査装置Tbの電源がオンになっている間、吸気ポンプ302の吸引が行われ続けてもよい。
【0061】
加熱装置1から吸引された蒸気は分岐部BRで分岐される(S303)。この際、第1バルブ901は、
図8の流路Aの方向へ加熱装置1で発生した蒸気が流れるよう制御されている。分岐された蒸気の一部は細管401を介してイオン源5に導入され、他方は吸気ポンプ302によって排気される。
イオン源5に導入された蒸気は、イオン源5でイオン化された後、質量分析計61によって分析される(S304)。
続いて、制御装置71は質量分析計61による分析結果を基に検出対象成分を検出したか否かを判定する(S311)。
検出していない場合(S311→No)、検査者は拭取部材Wを加熱装置1から取り出して(S312)、処理が終了される。ちなみに、
図9のステップS301~S304,S311,S312は、
図3のS101~S104,S111,S113と同様の処理である。
【0062】
質量分析計61によって検出対象成分が検出された場合(S311→Yes)、制御装置71が警報装置72に警報発報を指示する。
指示を受けた警報装置72は警報を発報する(S321)
また、制御装置71は第1バルブ901を切り替える(S322)。ステップS322において、制御装置71は、加熱装置1で発生した蒸気が
図8の流路Aから流路Bの方向に流れるよう第1バルブ901を切り替える。ステップS322は、ステップS311において検出対象成分を検出した場合、分岐部BRで分岐された蒸気のうち、質量分析計61による分析が行われていない蒸気が吸着装置321へ流れるよう流路を切り替える第1の流路切替工程である。
その後、蒸気に含まれる化学物質が吸着装置321に設けられている吸着剤に吸着される(S323)。
そして、制御装置71は、所望の時間(例えば、10秒間)が経過したか否かを判定する(S324)。
所望の時間が経過していない場合(S324→No)、制御装置71はステップS323へ処理を戻し、化学物質の吸着剤への吸着が継続される。
所望の時間が経過している場合(S324→Yes)、制御装置71は第1バルブ901を元に戻す(S325)。第1バルブ901を元に戻すとは、
図8の流路Aの方向に蒸気が流れる状態にするという意味である。
【0063】
そして、検査者は、拭取部材Wを加熱装置1から取り出し(S326)、吸着装置321を交換して(S327)、処理が終了する。
【0064】
第3実施形態では、吸着装置321に備えられている吸着剤に吸着されている化学物質の成分を詳細に分析することができる。このようにすることにより、トレース検査装置Tbが正しく検出対象成分(危険物等)に反応したのか、あるいは誤報だったのか、誤報だった場合、どの成分が誤報を引き起こしたのか等を詳細に解析することができる。吸着剤に吸着されている化学物質の分析結果が、制御装置71での判定ロジックやデータベースに反映されることで、より誤報の少ない精度の高いトレース検査装置Tbの構築が可能になる。また、分岐部BRで分岐された蒸気のうち、イオン源5へ送られなかった化学物質を有効活用することができる。
【0065】
【0066】
図10は、第4実施形態に係るトレース検査装置Tcの構成を示す図である。
図10において、
図8と同様の構成については同一の符号を付して説明を省略する。
トレース検査装置Tcでは、
図8と同様、加熱装置1で発生した化学物質の蒸気を分岐するための分岐部BRが設けられている。また、
図8と同様、分岐部BRと、吸気ポンプ302の流量を制御するための流量制御装置301との間に分岐部BR1が設けられている。分岐部BR1は、加熱装置1から流れる気流(蒸気を含む)を、流量制御装置301の方向に流すための配管205と、流量制御装置301とは別の方向に流すための枝管221とに分岐させる。
図8と同様、分岐部BR1には第1バルブ901が設けられており、第1バルブ901によって配管205へ向かう気流と、枝管221へ向かう気流とが制御されている。
【0067】
そして、
図10に示すトレース検査装置Tcでは、
図8に示すトレース検査装置Tbとは異なり、分岐部BR1と、吸着装置321との間に分岐部BR2が備えられている。分岐部BR2では、分岐部BR1に接続されている枝管221と、キャリアガス供給装置331が接続されている枝管222とが、吸着装置321が備えられている枝管223に合流している。
【0068】
分岐部BR2には、例えば三方バルブで構成される第2バルブ(流路制御部)911が設けられており、第2バルブ911によって、分岐部BR1から吸着装置321への気流と、キャリアガス供給装置(キャリアガス供給部)331から吸着装置321へのキャリアガスの気流とが制御されている。ちなみに、キャリアガス供給装置331はキャリアガスを供給する装置である。キャリアガスとは化学物質を運搬するガスである。つまり、キャリアガス供給装置331は、化学物質を運搬するキャリアガスを供給する。
【0069】
さらに、吸着装置321の下流側には、分岐部BR3が設けられている。分岐部BR3は、吸着装置321から流れ、吸着装置321の下流側に接続されている枝管224を流れる気流を、配管205との合流部へ流す枝管226と、化学物質を分析するガスクロマトグラフ・質量分析計(第3の分析部)332へと流す枝管225とに分岐させる。分岐部BR3には、例えば三方バルブで構成される第3バルブ(流路制御部)912が設けられている。第3バルブ912は、枝管224→枝管226の気流と、枝管224→枝管225の気流とを制御している。
【0070】
そして、吸着装置321には吸着装置321を加熱・冷却する(吸着装置321を加熱する)温調装置(第2の加熱部)333が備えられている。
【0071】
なお、第1バルブ901、第2バルブ911、第3バルブ912のそれぞれは制御装置71によって制御されている(信号ライン831,841,842)。さらに、制御装置71は、信号ライン851を介して温調装置333を制御している。加えて、制御装置71は、信号ライン861を介してキャリアガス供給装置331を制御している。
【0072】
このような構成を有することにより、トレース検査装置Tcは、吸着装置321に備えられている吸着剤に吸着された化学物質の精密分析を自動で行うことを特徴とする。
【0073】
加熱装置1によって、化学物質の蒸気が生じると、まず、枝管221への流れが停止され、配管205へ蒸気が流れるよう第1バルブ901が制御装置71によって制御される。この結果、蒸気は第1バルブ901により分岐部BR1から流量制御装置301へと流路Aの方向で吸引される。そして、質量分析計61による分析の結果、質量分析計61により検出対象成分を検出したと制御装置71が判定した場合(質量分析計61による所定の化学物質の検出にともない)、警報装置72が警報を発報する。そして、警報の発報とともに、制御装置71は第1バルブ901、第2バルブ911、第3バルブ912を切り替える。この際、制御装置71は第1バルブ901→吸着装置321の方向へ蒸気が流れるよう第1バルブ901及び第2バルブ911を制御する。さらに、制御装置71は吸着装置321→配管205の方向へ蒸気が流れるよう第3バルブ912を制御する。この結果、警報装置72から警報が発報されると、化学物質の蒸気は吸着装置321を通る流路(流路B)に流れ、蒸気に含まれる化学物質が吸着装置321に設けられている吸着剤に吸着される。
【0074】
所望の時間(例えば、10秒間)、吸着装置321の吸着剤に化学物質を吸着させた後、制御装置71は、第1バルブ901を元に戻す。すなわち、蒸気が流路Aを流れるよう制御装置71が第1バルブ901を制御する。そして、検査者が拭取部材Wを加熱装置1から取り出す。
【0075】
その後、制御装置71は、流路がキャリアガス供給装置331→吸着装置321→ガスクロマトグラフ・質量分析計332の流路(流路C)となるよう、第2バルブ911及び第3バルブ912を切り替える。つまり、制御装置71は、加熱装置1で発生した蒸気が吸着装置321に流入せず、キャリアガスがキャリアガス供給装置331から吸着装置321を介してガスクロマトグラフ・質量分析計332へ流入するよう第2バルブ911及び第3バルブ912を制御する。
【0076】
さらに、制御装置71は、キャリアガス供給装置331にキャリアガスを供給させる。これにより、流路Cを介してキャリアガス供給装置331からヘリウム等のキャリアガスが吸着装置321に流される。同時に、制御装置71は、温調装置333によって吸着装置321を加熱し、吸着装置321の吸着剤に吸着している化学物質を脱離させる。つまり、制御装置71は、温調装置333による吸着装置321の加熱を行う。ちなみに、キャリアガス供給装置331→吸着装置321→ガスクロマトグラフ・質量分析計332の流路にキャリアガスが流れている際、制御装置71は加熱装置1→流量制御装置301の流路に、加熱装置1で発生した蒸気が流れるよう、第1バルブ901を制御している(流路D)。つまり、流路Cと流路Dとのそれぞれに気流が流れるよう、第1バルブ901、第2バルブ911、第3バルブ912が制御される。
【0077】
吸着装置321の吸着剤から脱離した化学物質はキャリアガスと共にガスクロマトグラフ・質量分析計332に導入され精密分析される。所望の時間、ガスクロマトグラフ・質量分析計332による分析が行われた後、制御装置71は、温調装置333によって吸着装置321を冷却するとともに、第2バルブ911及び第3バルブ912を元の状態に戻す。第2バルブ911及び第3バルブ912を元の状態に戻すとは、流路Bの方向にガスが流れるよう、制御装置71が第2バルブ911及び第3バルブ912を制御するという意味である。これにより、吸着装置321へ流入するキャリアガスの流入が止められ、検査者は、次の検査に備えて吸着装置321を交換する。
【0078】
<フローチャート>
図11A及び
図11Bは、第4実施形態におけるトレース検査装置Tcが行う処理の手順を示すフローチャートである。
まず、検査者が拭取部材Wを加熱装置1に挿入し、加熱装置1による加熱が行われる(
図11AのS401)。
そして、吸気ポンプ302によって加熱装置1で発生した蒸気が吸引される(S402)。
図1と同様、吸気ポンプ302は、加熱装置1に備えられている、図示しないセンサによって拭取部材Wが検知されると、吸気ポンプ302の吸引が開始されるようにしてもよい。あるいは、トレース検査装置Tcの電源がオンになっている間、吸気ポンプ302の吸引が行われ続けてもよい。
【0079】
加熱装置1から吸引された蒸気は分岐部BRで分岐される(S403)。この際、第1バルブ901は、
図8の流路Aの方向へ蒸気が流れるよう制御されている。分岐された蒸気の一部は細管401を介してイオン源5に導入され、他方は吸気ポンプ302によって排気される。
イオン源5に導入された蒸気は、イオン源5でイオン化された後、質量分析計61によって分析される(S404)。
続いて、制御装置71は質量分析計61による分析結果を基に検出対象成分を検出さしたか否かを判定する(S411)。
検出していない場合(S411→No)、検査者は拭取部材Wを加熱装置1から取り出して(S422)、処理が終了する。ちなみに、
図9のステップS401~S404,S411,S412は、
図3のS101~S104,S111,S113と同様の処理である。
【0080】
質量分析計61によって検出対象成分が検出された場合(S411→Yes)、制御装置71は警報装置72に警報発報を指示する。
指示を受けた警報装置72は警報を発報する(S421)。
また、制御装置71は第1バルブ901、第2バルブ911及び第3バルブ912(バルブ)を切り替える(S422)。ステップS422において、制御装置71は、
図10の流路Aから流路Bの方向に蒸気が流れるよう第1バルブ901、第2バルブ911及び第3バルブ912を切り替える。
その後、蒸気に含まれる化学物質が吸着装置321に設けられている吸着剤に吸着される(S423)。
そして、制御装置71は、所望の時間(例えば、10秒間)が経過したか否かを判定する(S424)。
所望の時間が経過していない場合(S424→No)、制御装置71はステップS423へ処理を戻し、化学物質の吸着剤への吸着が継続される。
所望の時間が経過している場合(S424→Yes)、制御装置71は第1バルブ901を元の状態に戻す(S425)。第1バルブ901を元の状態に戻すとは、
図10の流路Aの方向に蒸気が流れる状態にするという意味である。
そして、検査者は拭取部材Wを加熱装置1から取り出す(S426)。
なお、ステップS421~S426の処理は
図9のステップS321~S326と同様の処理である。
【0081】
続いて、制御装置71は、第2バルブ911及び第3バルブ912を切り替える(S431)。この際、制御装置71は、流路がキャリアガス供給装置331→吸着装置321→ガスクロマトグラフ・質量分析計332の流路(流路C)となるよう、第2バルブ911及び第3バルブ912を切り替える。ステップS431は、制御装置71が、ステップS422(第1の流路切替工程)の後、加熱装置1で発生した蒸気が吸着装置321に流入せず、キャリアガスがキャリアガス供給装置331から吸着装置321を介してガスクロマトグラフ・質量分析計332へ流入するよう流路を切り替える第2の流路切替工程である。
さらに、制御装置71は、キャリアガス供給装置331からキャリアガスを枝管222,223に供給させることで、キャリアガスを吸着装置321に導入する(S432)。ステップS432は、ステップS431の後、制御装置(制御部)71が、キャリアガス供給装置331からキャリアガスを供給させるキャリアガス供給工程である。さらに、制御装置71は温調装置333によって吸着装置321を加熱させることで、吸着装置321に設けられている吸着剤が加熱され、化学物質が脱離する(
図11BのS433)。ステップS433は、ステップS432の後、温調装置333による吸着装置321の加熱を行う吸着部加熱工程である。
【0082】
脱離した化学物質は、枝管224→第3バルブ912→枝管225を介してガスクロマトグラフ・質量分析計(GC/MS)332に導入される。これにより、ガスクロマトグラフ・質量分析計(GC/MS)332が脱離した化学物質を分析する(S441)。ステップS441は、ガスクロマトグラフ・質量分析計332による分析を行う第2の分析工程である。
そして、制御装置71は、所望の時間が経過したか否かを判定する(S442)。ステップS442における所望の時間とは、ガスクロマトグラフ・質量分析計332による分析に要する時間である。
所望の時間が経過していない場合(S442→No)、制御装置71はステップS441へ処理を戻す。この結果、ガスクロマトグラフ・質量分析計332による分析が継続される。
【0083】
所望の時間が経過している場合(S442→Yes)、制御装置71は、温調装置333を制御して吸着装置321を冷却する(S443)。
また、制御装置71は、第2バルブ911及び第3バルブ912を元の状態に戻す(S444)。第2バルブ911及び第3バルブ912を元の状態に戻すとは、流路が
図10の流路Bとなるよう、第2バルブ911及び第3バルブ912を制御するという意味である。
その後、検査者は、次の測定に備えて吸着装置321を交換し(S445)、処理が終了する。
【0084】
第1~第3実施形態のトレース検査装置T,Ta~Tcでは、警報装置72により警報が発報されると、バッグ等の検査対象の内部の確認のため、検査対象(バッグ等)の開封検査等が行われる。これに対し、第4実施形態によれば、警報発報後の数分の間にガスクロマトグラフ・質量分析計332による精密分析の結果を得ることができる。つまり、開封検査等の準備をしている間に精密分析の結果が判明するため、もし警報が誤報だった場合、時間のかかる開封検査等を止めることができる。これにより、検査の無駄を省くことが可能となり、トレース検査の迅速化が可能になる。
【0085】
[ハードウェア構成]
図12は、制御装置71のハードウェア構成を示す図である。
制御装置71は、PC(Personal Computer)等で構成され、主記憶装置であるメモリ711、演算装置であるCPU(Central Processing Unit)712を備える。また、制御装置71は、副記憶装置であり、HD(Hard Disk)、SSD(Solid State Drive)で構成される記憶装置713、質量分析計61、警報装置72、第1バルブ901、第2バルブ911、第3バルブ912、キャリアガス供給装置331、温調装置333等との通信を行う通信装置714等を備える。
【0086】
そして、記憶装置713に格納されているプログラムがメモリ711にロードされ、CPU712によって実行されることで、
図3、
図7、
図9、
図11A、
図11Bに示す各処理が実行される。
【0087】
本発明は前記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、前記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明したすべての構成を有するものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【0088】
また、
図8の枝管212は下流側において、配管205と合流している。しかし、これに限らず、枝管212の下流側に吸気ポンプ302とは別の吸気ポンプを設けることで、枝管212が配管205と合流しない構成としてもよい。
図10における枝管226も同様である。
【0089】
また、本実施形態では、イオン源5としてバリア放電イオン源5Aが用いられているが、大気圧化学イオン化法によるイオン源5にも適用可能である。
【0090】
また、前記した各構成、機能、制御装置71、データベース等は、それらの一部又はすべてを、例えば集積回路で設計すること等によりハードウェアで実現してもよい。また、前記した各構成、機能等は、CPU712等のプロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、HD(Hard Disk)に格納すること以外に、メモリ711や、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、IC(Integrated Circuit)カードや、SD(Secure Digital)カード、DVD(Digital Versatile Disc)等の記録媒体に格納することができる。
また、各実施形態において、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしもすべての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には、ほとんどすべての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0091】
1 加熱装置(第1の加熱部)
5 イオン源(イオン源部)
5A バリア放電イオン源(イオン源部)
61 質量分析計(第1の分析部)
71 制御装置(制御部)
72 警報装置(警報部)
201~205,201a 配管
211,212,221~226 枝管
301 流量制御装置
302 吸気ポンプ(吸引部)
311 分光分析装置(第2の分析部)
321 吸着装置(吸着部)
331 キャリアガス供給装置(キャリアガス供給部)
332 ガスクロマトグラフ・質量分析計(第3の分析部)
333 温調装置(第2の加熱部)
401 細管
901 第1バルブ(流路制御部)
911 第2バルブ(流路制御部)
913 第3バルブ(流路制御部)
BR,BR1~BR3 分岐部
A 流路(第1の流路)
B 流路(第2の流路)
C,D 流路
T,Ta~Tc,Tz トレース検査装置(化学物質検知装置)
W 拭取部材(媒体)
S101 挿入加熱(媒体加熱工程)
S102 発生した蒸気を吸引(吸引工程)
S104 質量分析計による分析(第1の分析工程)
S112 警報を発報(第1の警報工程)
S205 光学分析装置による分析(第2の分析工程)
S212 警報を発報(第2の警報工程)
S322 第1バルブを切り替え(第1の流路切替工程)
S431 第2バルブ、第3バルブを切り替え(第2の流路切替工程)
S432 キャリアガスを吸着装置に導入(キャリアガス供給工程)
S433 吸着装置を加熱し化学物質を脱離(吸着部加熱工程)
S441 脱離した化学物質をGC/MSで分析(第2の分析工程)