(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139690
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】設計プログラム、設計装置および設計方法
(51)【国際特許分類】
G06F 30/20 20200101AFI20230927BHJP
【FI】
G06F30/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045352
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 克信
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 千紘
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 秀雅
【テーマコード(参考)】
5B146
【Fターム(参考)】
5B146DC04
5B146DJ01
5B146DJ02
5B146DJ07
(57)【要約】
【課題】素線の断面やピッチによらず、要求を満たすコイルばねの設計を行うことができる設計プログラム、設計装置および設計方法を提供すること。
【解決手段】本発明に係る設計プログラムは、コンピュータに、コイルばねの特性に基づいて設定される制約条件を設定し、当該コイルばねの設計目標を示す目的関数を設定し、コイルばねの特性を算出するための解析モデルを作成し、コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータと、素線間の距離とを含む複数の設計変数からなる設計案ごとに、解析モデルに基づいて特性を算出し、各設計案の特性が、制約条件を満たすか否かを判定し、制約条件を満たすと判定された設計案のうち、目的関数を満たす設計案を選択する、ことを実行させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータに、
コイルばねの特性に基づいて設定される制約条件を設定し、
当該コイルばねの設計目標を示す目的関数を設定し、
前記コイルばねの特性を算出するための解析モデルを作成し、
前記コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータと、素線間の距離とを含む複数の設計変数からなる設計案ごとに、前記解析モデルに基づいて特性を算出し、
各設計案の特性が、前記制約条件を満たすか否かを判定し、
前記制約条件を満たすと判定された設計案のうち、前記目的関数を満たす設計案を選択する、
ことを実行させることを特徴とする設計プログラム。
【請求項2】
前記素線断面形状を表現するパラメータは、素線断面に対し、当該素線断面の中心位置を原点とする直交座標を用いて設定される、
ことを特徴とする請求項1に記載の設計プログラム。
【請求項3】
前記素線断面において、該素線断面の外縁と接する円を設定し、
前記素線断面形状を表現するパラメータとして、前記円の中心位置の座標、前記円の長軸の長さおよび短軸の長さからなる円径、前記素線断面の外縁と前記円との接点の座標、前記円の向きが設定される、
ことを特徴とする請求項2に記載の設計プログラム。
【請求項4】
コイルばねの特性を算出するための解析モデルを作成する解析モデル作成部と、
前記コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータと、素線間の距離とを含む複数の設計変数からなる設計案ごとに、前記解析モデルに基づいて特性を算出する算出部と、
各設計案の特性が、前記コイルばねの特性に基づいて設定される制約条件を満たすか否かを判定する判定部と、
前記制約条件を満たすと判定された設計案のうち、当該コイルばねの設計目標を示す目的関数を満たす設計案を選択する選択部と、
を備えることを特徴とする設計装置。
【請求項5】
コイルばねの設計案を選択する設計装置が、
前記コイルばねの特性に基づいて設定される制約条件を設定し、
当該コイルばねの設計目標を示す目的関数を設定し、
前記コイルばねの特性を算出するための解析モデルを作成し、
前記コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータと、素線間の距離とを含む複数の設計変数からなる設計案ごとに、前記解析モデルに基づいて特性を算出し、
各設計案の特性が、前記制約条件を満たすか否かを判定し、
前記制約条件を満たすと判定された設計案のうち、前記目的関数を満たす設計案を選択する、
ことを特徴とする設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計プログラム、設計装置および設計方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
構造体の設計は、設計情報を入力して得られる解析結果に基づいて実施される(例えば、特許文献1を参照)。構造体のなかでもコイルばねは、従来、線材間の距離(ピッチ)が小さいものであれば、曲げ応力を無視しても、ねじりモーメントとせん断応力を考慮することによって実際の変形状態や応力状態に対応するために、せん断応力を解析し、この解析結果に基づいて設計されていた。しかしながら、近年のコイルばねの高応力化に伴って、ピッチが大きいものが使用されるようになり、曲げ応力の影響を無視することができなくなってきている。また、設計の段階で、実際の使用状態の応力状態を知るために動的な挙動での応力状態を確認することも求められる。動的な挙動における応力状態について、非特許文献1では、コイルばねの圧縮時の末端の影響を考慮した素線軸に沿っての断面力、および断面モーメントの分布を明示し、最大ねじりモーメントが自由コイルの付け根から(3/4)πの位置に生じ、その位置が実物の折損位置と一致していることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】コイルばねの静的ならびに動的挙動、清水浩他、日本機械学会論文集、27巻179号、1119-1129
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、コイルばねに使用する素線には様々な断面の素線が用いられ、その断面や素線の巻回間隔(ピッチ)によって作製されるコイルばねの特性が異なる。しかしながら、非特許文献1では、断面が円の素線を一定のピッチで巻回したコイルばねに限定されており、他の断面形状の素線を用いるものや、ピッチが異なるコイルばねについては考慮されていない。
【0006】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、素線の断面やピッチによらず、要求を満たすコイルばねの設計を行うことができる設計プログラム、設計装置および設計方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係る設計プログラムは、コンピュータに、コイルばねの特性に基づいて設定される制約条件を設定し、当該コイルばねの設計目標を示す目的関数を設定し、前記コイルばねの特性を算出するための解析モデルを作成し、前記コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータと、素線間の距離とを含む複数の設計変数からなる設計案ごとに、前記解析モデルに基づいて特性を算出し、各設計案の特性が、前記制約条件を満たすか否かを判定し、前記制約条件を満たすと判定された設計案のうち、前記目的関数を満たす設計案を選択する、ことを実行させることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る設計プログラムは、上記発明において、前記素線断面形状を表現するパラメータは、素線断面に対し、当該素線断面の中心位置を原点とする直交座標を用いて設定される、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明に係る設計プログラムは、上記発明において、前記素線断面において、該素線断面の外縁と接する円を設定し、前記素線断面形状を表現するパラメータとして、前記円の中心位置の座標、前記円の長軸の長さおよび短軸の長さからなる円径、前記素線断面の外縁と前記円との接点の座標、前記円の向きが設定される、ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係る設計装置は、コイルばねの特性を算出するための解析モデルを作成する解析モデル作成部と、前記コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータと、素線間の距離とを含む複数の設計変数からなる設計案ごとに、前記解析モデルに基づいて特性を算出する算出部と、各設計案の特性が、前記コイルばねの特性に基づいて設定される制約条件を満たすか否かを判定する判定部と、前記制約条件を満たすと判定された設計案のうち、当該コイルばねの設計目標を示す目的関数を満たす設計案を選択する選択部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
また、本発明に係る設計方法は、コイルばねの設計案を選択する設計装置が、前記コイルばねの特性に基づいて設定される制約条件を設定し、当該コイルばねの設計目標を示す目的関数を設定し、前記コイルばねの特性を算出するための解析モデルを作成し、前記コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータと、素線間の距離とを含む複数の設計変数からなる設計案ごとに、前記解析モデルに基づいて特性を算出し、各設計案の特性が、前記制約条件を満たすか否かを判定し、前記制約条件を満たすと判定された設計案のうち、前記目的関数を満たす設計案を選択する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、素線の断面やピッチによらず、要求を満たすコイルばねの設計を行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本発明の一実施の形態に係る設計装置の概略構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施の形態において、コイルばねの基本形状の定義について説明するための図(その1)である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施の形態において、コイルばねの基本形状の定義について説明するための図(その2)である。
【
図4】
図4は、コイルばねの一例を示す図(その1)である。
【
図5】
図5は、コイルばねの一例を示す図(その2)である。
【
図6】
図6は、コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータについて説明するための図(その1)である。
【
図7】
図7は、コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータについて説明するための図(その2)である。
【
図8】
図8は、コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータについて説明するための図(その3)である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施の形態に係る設計装置が行う最適設計案の選択方法の概要を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「実施の形態」という)を説明する。なお、図面は模式的なものであって、各部分の厚みと幅との関係、それぞれの部分の厚みの比率などは現実のものとは異なる場合があり、図面の相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれる場合がある。
【0015】
(実施の形態)
図1は、本発明の一実施の形態に係る設計装置の概略構成を示すブロック図である。
図1に示す設計装置1は、コイルばねの設計案群から最適な設計案を決定するものであり、コンピュータ上で仮想的にモデリングされる製品に解析やシミュレーションを実行することにより製品の設計や開発を支援するCAEの機能を提供する装置である。設計装置1は、入力部11と、解析モデル作成部12と、算出部13と、判定部14と、選択部15と、出力部16と、記憶部17と、制御部18とを有する。
【0016】
入力部11は、設計装置1の動作に関する各種信号の入力を受け付ける。入力部11は、キーボード、マウス、スイッチ、タッチパネル等を用いて構成される。
【0017】
解析モデル作成部12は、記憶部17を参照して、解析モデルを作成するためのプログラムを実行し、解析モデルを作成する。
【0018】
算出部13は、解析モデルに設計変数を入力し、当該設計変数によって作製され得るコイルばね仮想モデルの特性を算出する。算出部13は、例えば、FEM(Finite Element Method)を用いて仮想モデルの特性を算出する。設計変数は、素線の断面形状や、コイルばねのピッチ等、コイルばねの設計に必要なパラメータを含む。一つのコイルばねを設計するために必要な複数の設計変数が組をなしており、この組の設計変数によって設計案が構成される。
【0019】
ここで、設計変数について、
図2~
図8を参照して説明する。まず、コイルばねの基本形状の定義について説明する。
図2および
図3は、本発明の一実施の形態において、コイルばねの基本形状の定義について説明するための図である。
図4および
図5は、コイルばねの一例を示す図である。
図3~
図5では、素線断面120の形状が円である例を示している。
【0020】
図2に示すように、コイルばね100は、素線を螺旋状に巻回してなる。この際、素線の中心に沿って延びる線を中心線、この中心線に対して直交する平面を切断面とする断面を素線断面とする。具体的には、コイルばね100では、
図3に示すように、素線において、所定の長さ間隔で位置する複数の中心111を通過し、当該素線の各中心111に沿って延びる中心線110と、例えば素線の端部における、該素線の中心線110と直交する平面を切断面とする素線断面120とを設定する。ここで、中心線110が周回方向に一周することを一巻とし、周回回数に応じた数を巻目として計数する。例えば、一端部から素線(中心線)が3回周回した位置を3巻目とする。コイルばねの基本形状は、巻目に、中心線座標および素線断面形状をそれぞれ対応付けることによって、定義される。
【0021】
素線断面が円の場合のコイルばねでは、基本形状の定義のほか、説計変数として、巻き数、素線の直径(線径)、コイルの平均径および中心線間の距離(ピッチ)が設定される。これらの設計変数の組み合わせによって一つの設計案が構成される。例えば、
図4に示すコイルばね101は、設計案として、巻き数が5、線径が3.2、コイル平均径が24、中心線間の距離が5.2に設定される。また、
図5に示すコイルばね102は、設計案として、巻き数が10、線径が2.2、コイル平均径が20、中心線間の距離が2.7に設定される。なお、素線の直径は、円以外の形状の場合は、例えば、当該素線断面に外接する外接円の直径として設定される。
【0022】
ここで、素線断面形状を表現するパラメータについて、
図6~
図8を参照して説明する。
図6~
図8は、コイルばねの素線断面形状を表現するパラメータについて説明するための図である。まず、
図6に示すように、素線断面に対し、該素線断面の中心(重心)位置P0を原点とし、互いに直交するX方向およびY方向からなる直交座標を設定する。また、素線断面において、該素線断面の外縁と接する円(楕円や真円、長円(オーバル)を含む)を設定する。例えば、
図6に示すような、組をなす互いに平行な二つの直線部を、互いに直交するように配置した二組(四つ)の直線部と、異なる組の直線部同士をそれぞれ連結する四つの曲線部とからなる外縁のうち、曲線部の端部とそれぞれ接する円を設定する。各円の中心位置をPc1~Pc4、円と素線断面とが接する位置(接点)をP1~P8とする。例えば、中心位置Pc1の円の接点は、位置P1およびP2である。また、中心位置Pc1の座標を(Xc1,Yc1)とする。接点P1の座標は、(X1,Y2)とする。また、この円の径(以下、単に「円径」という)は、長軸の長さと短軸の長さとで表現でき、ここでは(Rx1,Ry1)とする。さらに、X方向と長軸とがなす角度をθ1とし、この角度θ1を円の向きとする。同様に、中心位置Pc2~Pc4の円についても、同様に座標、円径、円の向きが設定される。これらのパラメータを設定することによって、素線断面形状を表現することができる。このパラメータを、巻目ごとに設定することによって、巻目(位置)における素線断面を設定することができる。
【0023】
例えば、素線断面が円であり、直径D1が4に設定される場合(
図7参照)、各パラメータは、以下のように表現される。
中心位置:Pc1~Pc4=(0,0)
円の向き:θ1~θ4=0°
円径:(Rx1,Ry1)~(Rx4,Ry4)=(2,2)
接点:(X1,Y1)=(X8,Y8)=(2,0)
(X2,Y2)=(X3,Y3)=(0,-2)
(X4,Y4)=(X5,Y5)=(-2,0)
(X6,Y6)=(X7,Y7)=(0,2)
【0024】
また、素線断面が、素線端部に形成される座巻部のような円の一部を切欠いた形状であり、外縁に沿って形成される仮想円の直径D1が4、断面の径方向の長さD2が1に設定される場合(
図8参照)、各パラメータは、以下のように表現される。
中心位置:(Xc1,Yc1)=(√2,1)
(Xc2,Yc2)=(-√2,1)
(Xc3,Yc3)=(Xc4,Yc4)=(0,0)
円の向き:θ1~θ4=0°
円径:(Rx1,Ry1)=(Rx2,Ry2)=(0,0)
(Rx3,Ry3)=(Rx4,Ry4)=(2,2)
接点:(X1,Y1)=(X2,Y2)=(X8,Y8)=(√2,1)
(X3,Y3)=(X4,Y4)=(X5,Y5)=(-√2,1)
(X6,Y6)=(X7,Y7)=(0,2)
【0025】
上述した形状のほか、楕円、長円(オーバル)、矩形や、その他の形状であっても、上記のパラメータで素線断面形状を表現することができる。その他の形状とは、例えば、組をなす二つの直線部であって、互いに非平行で向かい合う二つの直線部を、互いに異なる方向に向くように配置した二組(四つ)の直線部と、異なる組の直線部同士をそれぞれ連結する四つの曲線部とからなる外縁をなす形状や、互いに異なる曲率半径を有して延びる複数の湾曲部を繋げてなる形状等が挙げられる。
【0026】
図1に戻り、判定部14は、算出部13が算出した特性が、予め設定される制約条件を満たすか否かを、設計案ごとに判定する。ここで、制約条件は、荷重特性等のコイルばねの物性値や、形状の条件等、コイルばねの特性に基づいて設定される条件である。例えば、制約条件として、圧縮時の最大応力、ならびに、荷重の上限値および下限値が設定される。
【0027】
選択部15は、判定部14が制約条件を満たすと判定した設計案のうち、特性が目的関数を満たす最適な設計案を選択する。この際、最適な設計案は、一つであってもよいし、複数であってもよい。また、目的関数は、設計目標に相当し、コイルばねやその設計に求められる条件が設定される。例えば、目的関数として、最小となるコイルばねの質量、など、設計案から選択するための条件が設定される。
【0028】
出力部16は、制御部18の制御のもと、画像を表示させたり、音や光を出力させたりする。出力部16は、ディスプレイ(例えば
図5に示すディスプレイ10a)や、スピーカー、光源等を用いて構成される。
【0029】
記憶部17は、制御部18が各種動作を実行するためのプログラム(例えば後述する設計案を選択する設計プログラム)等を記憶する。また、記憶部17は、解析モデルを作成するためのプログラムやパラメータを記憶するモデル情報記憶部171と、設計変数を記憶する設計変数記憶部172とを有する。設計変数記憶部172は、設計案と対応付いた各種設計変数を記憶する。記憶部17は、揮発性メモリや不揮発性メモリを用いて構成されるか、またはそれらを組み合わせて構成される。例えば、記憶部17は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を用いて構成される。
【0030】
制御部18は、設計装置1の各構成部品の動作処理を制御する。制御部18は、例えば、入力部11を介して設計案の選択処理を開始する指示入力があると、各部に設計案の決定処理を実行させる。また、制御部18は、選択部15が選択した設計案の選択結果を、出力部16に出力させる。
【0031】
解析モデル作成部12、算出部13、判定部14、選択部15および制御部18は、それぞれ、CPU(Central Processing Unit)等のプロセッサや、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の機能を実行する各種演算回路等のプロセッサを用いて構成される。
【0032】
続いて、設計案の選択処理について、
図9を参照して説明する。
図9は、本発明の一実施の形態に係る設計装置が行う最適設計案の選択方法の概要を説明するためのフローチャートである。制御部18は、例えば、入力部11を介して設計案の選択処理を開始する指示入力があると、各部に設計案の決定処理を実行させる。なお、各設計案には、互いに異なる番号n(1~n
MAX:n
MAXは例えば設計案の総数に相当)が付されているものとして説明する。
【0033】
まず、制御部18は、制約条件を設定する(ステップS101)。制御部18は、入力部11を介して入力された条件、または、予め設定されている条件を、制約条件として設定する。制約条件は、コイルばねの特性に基づいて設定される条件であり、コイルばねの物性値や、形状の条件等が設定される。制御部18は、例えば、圧縮時の最大応力、ならびに、荷重の上限値および下限値を制約条件として設定する。
【0034】
その後、制御部18は、目的関数を設定する(ステップS102)。制御部18は、入力部11を介して入力された情報、または、予め設定されている関数を、目的関数として設定する。制御部18は、例えば、最小のコイルばねの質量を目的関数として設定する。
なお、制約条件の設定と目的関数の設定とは、目的関数の設定を先に実行してもよいし、それぞれを同時に実行してもよい。
【0035】
制約条件および目的関数を設定後、解析モデル作成部12が、解析モデルの作成を行う(ステップS103)。解析モデル作成部12は、予め設定されているモデル作成プログラムを読み込んで解析モデルを作成してもよいし、制約条件や目的関数に対応付いているモデル作成プログラムを読み込んで解析モデルを作成してもよいし、入力部11を介して指定されたモデル作成プログラムを読み込んで解析モデルを作成してもよい。
【0036】
解析モデル作成後、制御部18は、設計案の番号nをn=1に設定する(ステップS104)。
【0037】
その後、算出部13は、n番目の設計案について、当該設計案の説計変数を解析モデルに入力して、当該設計案の特性を算出する(ステップS105)。
【0038】
判定部14は、ステップS106において算出された特性が、制約条件を満たすか否かを判定する(ステップS106)。制御部18は、判定部14が制約条件を満たすと判定した場合(ステップS106:Yes)、ステップS107に移行する。一方、制御部18は、判定部14が制約条件を満たさないと判定した場合(ステップS106:No)、ステップS108に移行する。
【0039】
ステップS107において、制御部18は、判定対象の設計案を設計案候補に設定する。制御部18は、設定後、ステップS109に移行する。
【0040】
ステップS108において、制御部18は、判定対象の設計案を非設計案候補に設定する。制御部18は、設定後、ステップS109に移行する。
【0041】
ステップS109において、制御部18は、nがnMAXよりも大きいか否かを判断する。制御部18は、nがnMAX以上と判断した場合(ステップS109:Yes)、ステップS111に移行する。一方、制御部18は、nがnMAXよりも小さいと判断した場合(ステップS109:No)、ステップS110に移行する。
【0042】
ステップS110において、制御部18は、nを1だけ増加させる。制御部18は、増加後にステップS105に移行し、増加後のn番目について、上述した処理を繰り返す。
【0043】
ステップS111において、選択部15は、設計案候補に設定されている設計案のうち、目的関数を満たす最適設計案を選択する。具体的には、選択部15は、設計案のうち、質量が最小になる設計案を一つまたは複数選択し、この選択した設計案が最適設計案となる。この際、算出部13が、目的関数に基づいて算出処理を行う。目的関数が質量を用いるものである場合、算出部13は、各設計案候補について、解析モデルを用いて質量を算出する。
【0044】
設計案選択後、制御部18は、選択した設計案を、最適設計案として出力する(ステップS112)。この際、制御部18は、出力部16に選択結果を表示等させてもよいし、最適設計案を、制約条件および目的関数と関連付けて記憶部17に記憶させてもよい。
【0045】
以上説明した本発明の実施の形態では、素線断面を表現するパラメータを設定し、該素線断面や、ピッチを含む複数の説計変数からなる複数の設計案と、解析モデルとを用いて、設計の条件となる制約条件および目的関数を満たす設計案を最適設計案として選択するようにした。本実施の形態によれば、素線の断面やピッチによらず、要求を満たすコイルばねの設計を行うことができる。さらに、解析によって実使用時の特性を推定することが可能であり、正確な設計案の作成をアシストすることができる。
【0046】
また、本発明の実施の形態によれば、制約条件および目的関数を設定するのみで、設計案が選択されるため、設計に要する時間を短縮することができる。
【0047】
また、本発明の実施の形態によれば、単一かつ共通のアルゴリズム(同一のプログラム)によって設計案を選択することによって、使用者によらず同じ設計案を得ることができる。
【0048】
また、本発明の実施の形態よれば、形状のパラメータと特性値とを説計変数として統一して管理することによって、形状と特性値との関係を把握することができる。
【0049】
また、本実施の形態に係る設計装置に実行させるプログラムは、例えば、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルデータでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)、USB媒体、フラッシュメモリ等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供される。
【0050】
また、本実施の形態に係る設計装置に実行させるプログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成されてもよい。
【0051】
また、本実施の形態に係る設計装置は、サーバ装置として機能し、ネットワークを介して接続される外部端末との間で情報を送受信する構成とすることができる。
【0052】
ここまで、本発明を実施するための形態を説明してきたが、本発明は上述した実施の形態によってのみ限定されるべきものではない。
【0053】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を含みうるものであり、特許請求の範囲により特定される技術的思想を逸脱しない範囲内において種々の設計変更等を施すことが可能である。
【0054】
以上説明したように、本発明に係る設計プログラム、設計装置および設計方法は、素線の断面やピッチによらず、要求を満たすコイルばねの設計を行うのに好適である。
【符号の説明】
【0055】
1 設計装置
11 入力部
12 解析モデル作成部
13 算出部
14 判定部
15 選択部
16 出力部
17 記憶部
18 制御部
100、101、102 コイルばね
110 中心線
120 素線断面
171 モデル情報記憶部
172 設計変数記憶部