(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139695
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】抗アレルギー活性を有する菊花の抽出物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/105 20160101AFI20230927BHJP
A61K 36/28 20060101ALI20230927BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20230927BHJP
A61Q 19/00 20060101ALI20230927BHJP
A61P 37/08 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
A23L33/105
A61K36/28
A61K8/9789
A61Q19/00
A61P37/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045365
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】和田 美貴代
(72)【発明者】
【氏名】満田 雄己
【テーマコード(参考)】
4B018
4C083
4C088
【Fターム(参考)】
4B018LB01
4B018LB08
4B018LB10
4B018LE01
4B018LE02
4B018LE03
4B018LE05
4B018MD61
4B018ME07
4B018MF01
4B018MF06
4C083AA111
4C083AA112
4C083CC01
4C083EE11
4C088AB26
4C088AC03
4C088CA08
4C088NA05
4C088NA14
4C088ZB13
(57)【要約】 (修正有)
【課題】高い抗I型アレルギー効果を有する食用菊の抽出物、剤または組成物を提供すること。
【解決手段】本発明によれば、食用菊である阿房宮(Chrysanthemum morifolium Ramat.)の花部の含水エタノール抽出物、またはこれを含む抗I型アレルギー剤もしくは組成物を提供することができる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
阿房宮(Chrysanthemum morifolium Ramat.)の花部の含水エタノール抽出物。
【請求項2】
阿房宮の花部の含水エタノール抽出物を含む、抗I型アレルギー剤。
【請求項3】
(1)脱顆粒、(2)Tumor Necrosis Factor-α(TNF-α)の放出、および(3)細胞内カルシウムイオン濃度の上昇に係わるヒスタミン作用のうちの一つ以上を抑制する、請求項2に記載の抗I型アレルギー剤。
【請求項4】
阿房宮の花部の含水エタノール抽出物を含む、I型アレルギーの処置のための組成物。
【請求項5】
(1)脱顆粒、(2)TNF-αの放出、および(3)ヒスタミンによる細胞内へのカルシウムイオン濃度の上昇のうちの一つ以上を抑制する、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
食品である、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項7】
化粧料である、請求項4または5に記載の組成物。
【請求項8】
医薬である、請求項4または5に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗I型アレルギー作用を有する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
花粉症、アレルギー性鼻炎、食物性アレルギー、喘息、蕁麻疹、結膜炎およびアナフィラキシーショック等は、I型アレルギーに分類される疾患として知られる。I型アレルギーの中でも、特に罹患者の多いアレルギー性鼻炎に関しては、実に日本人の二人に一人が罹患しているという調査報告もあり、I型アレルギーに対する有効な治療薬や機能性食品が求められている。
【0003】
I型アレルギーのメカニズムとしては、抗原特異的な免疫グロブリンE(IgE:Immunoglobulin E)の産生を介するものが知られる。生体内に抗原が侵入すると、抗原を認識したマクロファージ等からの抗原提示により、Bリンパ球が抗原特異的なIgEを産生するようになる。IgEが、肥満細胞や好塩基球などの細胞表面に発現している、高親和性IgE受容体(FcεRI)に結合することで感作が成立する。再び侵入した抗原が、IgEに結合し抗体どうしを架橋させると、細胞からの脱顆粒が引き起こされ、ヒスタミンやロイコトリエン等の炎症メディエーターが放出される。これらの炎症メディエーターにより血管透過性亢進、血管拡張、かゆみ等の生体反応が引き起こされる。
【0004】
一方で、キク科キク属のキク(Chrysanthemum morifolium Ramat.)の花(菊花)は、食材としても用いられるが、日本および中国の薬局方に掲載されている生薬としても知られており、様々な作用を有することが分かっている。
特許文献1においては、食用菊の乾燥花弁のメタノール抽出物から得た特定のトリテルペン系化合物が好塩基球によるヒスタミンの遊離やロイコトリエンの放出を抑制することが示されており、食用菊の乾燥花弁のメタノール抽出物を用いた抗アレルギー剤に関する発明が記載されている。また、非特許文献1においては、ミクログリア細胞におけるTumor Necrosis Factor-α(TNF-α)の産生が食用菊のヘキサン抽出物によって抑制されたことが報告されており、食用菊のヘキサン抽出物が神経保護作用を有することが示唆されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Nippon Shokuhin Kogaku Kaishi, 66(4), 127-138, 2019
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、非特許文献1においては、Chrysanthemum morifolium Ramat.(キク科キク属キク)のうちの延命楽という品種のヘキサン抽出物においては、TNF-α産生抑制効果が認められたのに対し、阿房宮という品種のヘキサン抽出物においては、この効果は得られなかった結果が示されており、キク科キク属キクの品種によって抽出物の組成や効果が大きく異なることが示唆される。また、特許文献1に記載の発明においては、食用菊の品種は特定されていないため、食用菊の品種によっては、特許文献1に記載の抗アレルギー効果を達成できない場合もあると推察される。
【0008】
本発明は、高い抗I型アレルギー効果を有する食用菊の抽出物、剤または組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
そこで、本発明者らは、効果的な抗I型アレルギー作用を有する食用菊の抽出物エキスを提供することを課題として研究を行った。種々のキク科植物の蕾、花、葉、茎等の様々な部位およびメタノール、エタノール、水、熱水等の様々な抽出溶媒を用いて280種類の抽出エキスを作成し、抗I型アレルギー作用のスクリーニングを行った結果、食用菊の一種である阿房宮(Chrysanthemum morifolium Ramat.)の花部の含水エタノール抽出物(AEtE)が脱顆粒抑制作用を有することが分かった。さらにAEtEは、白血球細胞からのTNF-α放出を抑制する作用およびヒスタミンによる細胞内シグナル伝達を抑制する作用を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、以下を提供する。
[1]阿房宮(Chrysanthemum morifolium Ramat.)の花部の含水エタノール抽出物。
[2]阿房宮の花部の含水エタノール抽出物を含む、抗I型アレルギー剤。
[3](1)脱顆粒、(2)Tumor Necrosis Factor-α(TNF-α)の放出、および(3)細胞内カルシウムイオン濃度の上昇に係わるヒスタミン作用のうちの一つ以上を抑制する、請求項2に記載の抗I型アレルギー剤。
[4]阿房宮の花部の含水エタノール抽出物を含む、I型アレルギーの処置のための組成物。
[5](1)脱顆粒、(2)TNF-αの放出、および(3)細胞内カルシウムイオン濃度の上昇に係わるヒスタミン作用のうちの一つ以上を抑制する、請求項4に記載の組成物。
[6]食品である、請求項4または5に記載の組成物。
[7]化粧料である、請求項4または5に記載の組成物。
[8]医薬である、請求項4または5に記載の組成物。
【0011】
[A]阿房宮(Chrysanthemum morifolium Ramat.)の花部の含水エタノール抽出物を対象に投与することを含む、I型アレルギーを抑制する方法。
[B]I型アレルギーの処置において使用するための、阿房宮の花部の含水エタノール抽出物。
[C]抗I型アレルギー剤の製造のための、阿房宮の花部の含水エタノール抽出物の使用。
[D]I型アレルギーの処置のための組成物の製造のための、阿房宮の花部の含水エタノール抽出物の使用。
【発明の効果】
【0012】
本発明の阿房宮の花部の含水エタノール抽出物は、I型アレルギーの処置に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、AEtEによるRBL-2H3細胞の脱顆粒抑制作用を示す図である。β-hex:β-ヘキソサミニダーゼ、CON:無感作群、NC:無添加群、WM:ウォルトマンニン添加群 ### p<0.001(vs CON)、*** p<0.001(vs NC)
【
図2】
図2は、AEtEによる受動皮膚アナフィラキシー抑制作用を示す図である。
図2のaは、マウス耳介の受動皮膚アナフィラキシーモデルの作成図である。
図2のbおよびcは、受動皮膚アナフィラキシー反応によるマウス耳介の血管外漏出を定量した結果を示す図である。KET:ケトチフェン投与群
【
図3】
図3は、抗原抗体反応によって引き起こされるRBL-2H3細胞内Ca
2+濃度上昇をAEtEが抑制した結果を示す図である。
【
図4】
図4は、抗原抗体反応によって誘発されるRBL-2H3細胞からのTNF-αの放出をAEtEが抑制した結果を示す図である。DEX:デキサメタゾン添加群
【
図5】
図5は、ヒスタミン添加によって引き起こされるHeLa細胞内Ca
2+濃度上昇をAEtEが抑制した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(本発明の抽出物)
本発明の抽出物は、キク科キク属キク(Chrysanthemum morifolium Ramat.)の食用品種である阿房宮の花部の含水エタノール抽出物である。
阿房宮は、主に日本の青森県等を生産地とし、食用菊として用いられている。本発明の抽出原料としては、阿房宮の花部を用いる。
本発明おける花部とは、一般概念として花と称される部分全体を指す。本発明においては、花軸より先端部分を利用することができ、例えば、花弁や子房のみ等、花部の一部分のみを取り出して使用することも可能である。
本発明で使用する阿房宮の生産方法は特に限定されない。また、本発明で使用する阿房宮の採取時期、生育年数、栽培方法、栽培期間についても特に制限されない。
【0015】
阿房宮の花部の抽出物は、阿房宮の花部を生のまま、または乾燥させた後、そのまま、または破砕機を用いて破砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得られる。乾燥は天日で行ってもよく、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよいが、これらに限られるものではない。乾燥は、20~80℃、好ましくは30~70℃、より好ましくは40~60℃、最も好ましくは50℃の温度下で行うことができる。また、乾燥させる時間は、24~120時間、好ましくは36~108時間、より好ましくは48~96時間、さらに好ましくは60~84時間、最も好ましくは72時間である。
【0016】
抽出処理は、抽出原料に含まれる有効成分を抽出溶媒である含水エタノールに溶出させて得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の1~100倍量(質量比)、好ましくは5~80倍量、より好ましくは10~60倍量、さらに好ましくは15~40倍量、最も好ましくは20倍量の抽出溶媒に、抽出原料を懸濁させ、常温または還流加熱下で4~96時間、好ましくは8~72時間、特に好ましくは12~60時間、より好ましくは16~48時間、さらに好ましくは20~36時間、最も好ましくは24時間かけて有効成分を抽出した後、遠心分離または濾過等により抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を蒸発させると抽出物エキスが得られる。
【0017】
本発明において、抽出溶媒としては、含水エタノールを用いる。エタノール濃度が、1~99%、好ましくは10~90%、特に好ましくは20~80%、より好ましくは30~70%、さらに好ましくは40~60%、最も好ましくは50%の含水エタノールを用いることができる。
【0018】
得られた抽出物エキスは、該抽出物エキスの希釈液もしくは濃縮液、該抽出エキスの乾燥物、またはこれらの粗精製物もしくは精製物を得るために、常法に従って希釈、濃縮、乾燥、精製等の処理を施してもよい。
【0019】
(本発明の抗I型アレルギー剤および組成物)
本発明の阿房宮の花部の含水エタノール抽出物エキス(AEtE)は、抗原特異的なIgEの産生を介するI型アレルギーの反応を抑制する作用を有するため、抗I型アレルギー剤およびI型アレルギーの処置のための組成物として用いることができる。
ここで、処置という場合、疾患に対する予防または治療等を意味する。
【0020】
ここで、AEtEの抗I型アレルギー作用は、例えば、脱顆粒、Tumor Necrosis Factor-α(TNF-α)の放出、および細胞内カルシウムイオン濃度の上昇に係わるヒスタミン作用のうちの一つ以上を抑制する作用に基づいて発揮される。ただし、AEtEの抗I型アレルギー作用は、前記作用に基づいて発揮される抗I型アレルギー作用に限定されるわけではない。なお、AEtEは、脱顆粒抑制作用、TNF-αの放出抑制作用、またヒスタミンによる細胞内へのカルシウムイオン濃度上昇抑制作用を有しているので、脱顆粒抑制剤、TNF-α放出抑制剤、細胞内Ca2+濃度上昇抑制剤の有効成分として利用することもできる。
【0021】
本発明において、脱顆粒とは、肥満細胞または好塩基球が細胞内の顆粒を細胞外に放出することをいう。抗原が肥満細胞や好塩基球などの細胞表面に結合しているIgE抗体に結合し、抗体どうしが架橋すると、肥満細胞または好塩基球は活性化し、脱顆粒を引き起こす。肥満細胞または好塩基球から放出された顆粒には、ヒスタミン、ロイコトリエン、セロトニン等の炎症性物質が含まれ、これらの炎症性物質により、血管透過性亢進、血管拡張またはかゆみ等のI型アレルギー反応が引き起こされる。
【0022】
脱顆粒の抑制作用は、当業者であれば公知の方法に従って評価することができる。具体的な例の一つとしては、脱顆粒により細胞から遊離したβ-ヘキソサミニダーゼの酵素活性を測定する方法が挙げられる。β-ヘキソサミニダーゼは、脱顆粒によりヒスタミン等の炎症性物質と同時に放出される。RBL-2H3細胞(ラット好塩基球白血病細胞)からのβ-ヘキソサミニダーゼ遊離抑制作用の評価は、I型アレルギー抑制効果の指標の一つとして広く用いられている。
【0023】
TNF-αは、炎症性サイトカインの一種であり、主に活性化されたマクロファージから放出される他、肥満細胞、T細胞、脂肪細胞など、種々の細胞で産生される。これらの細胞から放出されたTNF-αは、免疫機構の賦活化を行うが、過剰に放出されると炎症や組織の障害を引き起こす。また、TNF-αは血管拡張作用や血管透過性亢進作用を有し、様々な免疫反応に関わることも知られている。
【0024】
TNF-αの放出の抑制作用は、当業者であれば公知の方法に従って評価することができる。具体的な例の一つとしては、抗原抗体反応により活性化されたRBL-2H3細胞から細胞外に放出されたTNF-αの濃度をELISA法によって定量する方法が挙げられる。
【0025】
脱顆粒によって遊離したヒスタミンは血管透過性亢進、血管拡張、かゆみ等のI型アレルギーの症状を引き起こすことが知られる。これらのI型アレルギー反応は、遊離したヒスタミンが血管内皮細胞、神経細胞、肥満細胞等に発現するヒスタミン受容体に作用し、細胞内小胞体からのCa2+放出や細胞外からのCa2+流入により細胞内のCa2+濃度が上昇することを介して引き起こされる。
【0026】
ヒスタミンによる細胞内Ca2+濃度の上昇の抑制作用は、当業者であれば公知の方法に従って評価することができる。具体的な例の一つとしては、細胞内のCa2+濃度に応じて蛍光強度が変化する検出試薬を、細胞と共にインキュベートすることにより細胞内に取り込ませ、蛍光強度を測定することにより細胞内のCa2+濃度の変化を定量する方法が挙げられる。
【0027】
本発明の抗I型アレルギー剤またはI型アレルギーの処置のための組成物は、AEtEを、0.01~100質量%含有することができ、0.1~90質量%含有することが好ましく、1.0~80質量%含有することが特に好ましく、2.0~70質量%含有することがより好ましく、3.0~60質量%含有することがさらに好ましく、3.0~50質量%含有することが最も好ましい。
【0028】
本発明におけるAEtEを含む組成物の形態としては、特に限定されず、製造して得られた抽出物をそのまま用いても構わないが、例えば前記抽出物と、必要に応じて加えられる他の成分とからなる組成物の形態で用いてもよい。このような組成物の具体例としては、例えば食品(飲料を含む)、食品材料、化粧料、医薬部外品、医薬品、動物飼料等が挙げられる。
【0029】
本発明の食品は、溶液、懸濁液、乳濁液、粉末、個体成形物等の、経口摂取可能な任意の形態とすることができる。前記食品の具体例としては、清涼飲料、ジュース、コーヒー、紅茶、リキュール、乳飲料、乳酸菌飲料、飴、ガム、チョコレート、グミ、ヨーグルト、アイスクリーム、等が挙げられる。
本発明の食品には、サプリメント、機能性食品、特定保健用食品等が含まれる。サプリメント、機能性食品または特定保健用食品等の形態は、特に制限されず、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、トローチ剤等の任意の形態とすることができる。
本発明の食品には、必要に応じて、甘味料、着色料、保存料、増粘剤、安定剤、酸化防止剤、防かび剤、香料、調味料、ビタミン類、ミネラル類等を添加することができる。
本発明の食品は、本発明のI型アレルギーの処置のための組成物と他の食品素材や添加物等と組み合わせて、当業者に公知の食品の製造方法により製造することができる。
【0030】
本発明の化粧料の形態は任意であり、例えば、化粧水、乳液、クリーム、美容液、パック、日焼け止め、石鹸、洗顔料、ファンデーション、コンシーラー、化粧下地、口紅、頬紅、アイシャドウ、アイライナー、シャンプー、リンス、香水等が挙げられる。
本発明の化粧料には、必要に応じて、植物油、動物油、高級アルコール、高級脂肪酸エステル、多価アルコール類、界面活性剤、保湿剤、水溶性高分子、増粘剤、防腐剤、殺菌剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、香料、pH調整剤、エタノール、水、美白剤、しわ防止剤、ビタミン類等を添加することができる。
本発明の化粧料は、本発明のI型アレルギーの処置のための組成物と他の原材料や添加物等と組み合わせて、当業者に公知の化粧料の製造方法により製造することができる。
本発明の化粧料において、AEtEの含有量は、化粧料の形態、使用するヒトの年齢等に応じて、適宜設定することができる。
【0031】
本発明の医薬は、剤形に基づいて、経口または非経口的に投与される。非経口投与としては、例えば、経皮吸収、外用、皮下注射、静脈内注射等が選択される。
本発明の医薬は、経口剤である場合、AEtEを有効成分として添加し、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤、内用液剤等の任意の剤形として製造することができる。
本発明の医薬には、必要に応じて、賦形剤、崩壊剤、結合剤、滑沢剤、コーティング剤、分散剤、乳化剤、溶解補助剤、着色剤等を添加することができる。好ましくは、例えば、デンプン、乳糖、カルボキシメチルセルロース、蒸留水、生理食塩水、ブトウ糖溶液、アルコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、動植物油、白色ワセリン、パラフィン、ロウ等が挙げられる。
本発明の医薬は、本発明のI型アレルギーの処置のための組成物と他の添加物とを組み合わせて、当業者に公知の医薬の製造方法により製剤化することができる。
【0032】
食品または医薬の形態で本発明の組成物を摂取する際における、AEtEのヒトへの摂取量は、1日当たり0.01~1500mg/kg体重の範囲であるのが好ましく、1日当たり0.1~300mg/kg体重であるのがより好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0033】
以上説明した本発明の抗I型アレルギー剤、組成物、食品、化粧料ならびに医薬は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物に対して適用することも可能である。
【実施例0034】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが本発明はこれにより限定して解釈されるものではない。
【0035】
[実施例1.阿房宮の花部の含水エタノール抽出物エキス(AEtE)の調製]
阿房宮は、八戸市農業経営振興センターから譲渡されたものを用いた。
阿房宮(Chrysanthemum morifolium Ramat.)の花弁を50℃で3日間風乾させた後、ビーズ式破砕機(マルチビーズショッカー:安井器械株式会社)を用いてパウダー状に破砕した。得られた粉末を20倍量の50%エタノールに懸濁し、24時間振盪した。その後、遠心分離(4℃、3500rpm、10分)を行い、上清を回収し、抽出溶媒を遠心エバポレーターで蒸発させ、除去することで、阿房宮の花部の含水エタノール抽出物エキス(AEtE)を得た。
【0036】
[実施例2.RBL-2H3細胞における脱顆粒抑制試験]
RBL-2H3細胞(ラット好塩基球白血病細胞)は、JCRB細胞バンクから入手した(細胞番号JCRB0023)。
牛胎児血清10%、ゲンタマイシン5μg/mL濃度で含むDMEM(ダルベッコ改変イーグル培地)にRBL-2H3細胞を懸濁させ、96ウェルマイクロプレートに2.5×104個/ウェルで播種すると同時に、Anti DNP-IgE(抗ジニトロフェニルIgE)溶液を終濃度100ng/mLになるよう添加し、37℃、5% CO2の条件で24時間培養することで、細胞を感作した。その後、培地を吸引除去し、細胞をMT Buffer(137mM 塩化ナトリウム、2.7mM 塩化カリウム、1.8mM 塩化カルシウム、1.0mM 塩化マグネシウム六水和物、5.6mM グルコース、20mM ヘペス、0.1% ウシ血清アルブミン、pH7.3)で2度洗浄後、25~400μg/mLの各濃度のAEtEを含むMT Bufferを各ウェルに100μLずつ添加して1時間培養した。陽性対照群としては、RBL-2H3細胞表面のIgE受容体からのシグナル伝達を抑制する効果を有する、PI3K(ホスファチジルイノシトール3-キナーゼ)阻害剤のウォルトマンニンを5μMの濃度で含むMT Bufferを同時に加えた。
抗原抗体反応を誘発するために、ジニトロフェニル結合ヒト血清アルブミン(DNP-HSA)溶液を終濃度100ng/mLになるように添加し、30分培養した後、マイクロプレートを15分氷冷して反応を停止させた。上清を全て回収し、その一部を、抗原抗体反応により放出された顆粒に含まれる酵素であるβ-ヘキソサミニダーゼ測定に供した。残った細胞には0.1%トライトン(登録商標)X-100溶液を各ウェルに110μLずつ添加し、1000rpmで15分攪拌することにより、細胞溶解液を調製した。
上清及び細胞溶解液、各50μLに対して、β-ヘキソサミニダーゼの基質溶液(3.3Mパラニトロフェニル-2‐アセトアミド-2-デオキシ-β-D-グルコピラノシド、100mMクエン酸、pH4.5)を100μL添加し、60rpmの速度で振盪しながら37℃、1時間、酵素反応を行った。反応停止液(2Mグリシン、pH10.4)を100μL添加後、405nmの吸光度を測定した。ブランクとして、反応停止液を基質溶液より先に添加した反応液の吸光度を測定した。β-ヘキソサミニダーゼの放出率は以下の式より算出した。
β-hex release(%)=100×((S-Sb)/((S-Sb)+(CL-CLb)))
S:上清の吸光度 Sb:上清ブランクの吸光度
CL:細胞溶解液の吸光度 CLb:細胞溶解液ブランクの吸光度
【0037】
図1に示す通り、抗原抗体反応によって誘発された脱顆粒は、AEtEの添加によって濃度依存的に抑制された。
【0038】
[実施例3.受動皮膚アナフィラキシー抑制試験]
ICRマウス(雄、5週齢)を、入荷後1週間の馴化期間を経て実験に供した。イソフルラン吸入麻酔下で、マウスの左耳にAnti DNP-IgE溶液(0.5μg/20μL)を皮内投与した。その23時間後に生理食塩水に懸濁したAEtEを125~500mg/kg経口投与した。陽性対照群としては、肥満細胞や好塩基球の脱顆粒抑制作用を有するケトチフェンフマル酸塩溶液(25mg/kg体重)を腹腔内投与した。陰性対照群としては、生理食塩水を経口投与した。
1時間後にイソフルラン吸入麻酔下で、DNP-HSA(ヒト血清アルブミン)(100μg/mouse)及び2%エバンスブルーの混合溶液200μLを尾静脈注射し、その30分後に炭酸ガスを用いてマウスを安楽死させた。マウスの耳介をデジタルカメラで撮影すると共に、ハサミで切り取り回収した。耳介に漏出したエバンスブルーは、耳介をホルムアミド1mLに浸し、63℃で48時間インキュベートすることで抽出した。抽出したエバンスブルーを用いて620nmの吸光度を測定することで、血管からの漏出量を定量した(
図2a)。
【0039】
図2bおよびcに示す通り、AEtEを投与したマウスの耳介においては、抗原抗体反応により誘発された血管外漏出が抑制され、AEtE 250mg/kg投与群においては、有意な抑制効果が見られた。
【0040】
[実施例4.RBL-2H3細胞における細胞内Ca2+濃度上昇抑制試験]
細胞内Ca2+濃度はCalcium Kit-Fura 2(同仁化学)を用い、キットの説明書に従って測定した。実施例2の手順と同様にして、RBL-2H3細胞の感作を行った。その後、培地を吸引除去し、細胞をMT Bufferで2度洗浄後、Loading Medium(5μg/mL Fura 2-AM、20mM ヘペス、115mM 塩化ナトリウム、5.4mM 塩化カリウム、0.8mM 塩化マグネシウム、1.8mM 塩化カルシウム、13.8mM グルコース、1.25mM プロベネシド、0.04% Pluronic(登録商標)F-127、pH7.4)を添加し1時間培養した。細胞をMT Bufferで2度洗浄後、100~400μg/mLの各濃度になるようにAEtEを含むRecording Medium(20mM ヘペス、115mM 塩化ナトリウム、5.4mM 塩化カリウム、0.8mM 塩化マグネシウム、1.8mM 塩化カルシウム、13.8mM グルコース、1.25mM プロベネシド、pH7.4)を100μL/ウェル添加して1時間培養した。陽性対照群としては、ウォルトマンニンを5μMの濃度で含むRecording Mediumを同時に加えた。抗原抗体反応を誘発するために、DNP-HSA溶液を終濃度100ng/mLになるように各ウェルに添加後、直ちに蛍光強度(励起波長:340/380nm、蛍光波長:510nm)を測定した。
【0041】
図3に示す通り、抗原抗体反応によって誘発された細胞内の細胞内Ca
2+濃度上昇は、AEtEの添加によって濃度依存的に抑制された。
【0042】
[実施例5.RBL-2H3細胞におけるTNF-α放出抑制試験]
実施例2の手順と同様にして、RBL-2H3細胞の感作を行った。培地を吸引除去し、細胞をMT Bufferで2度洗浄後、100~400μg/mLの各濃度のAEtEを含むDMEMを各ウェルに100μLずつ添加して1時間培養した。陽性対照群としては、ステロイド剤であるデキサメタゾンを10μMの濃度で含むDMEMを同時に加えた。抗原抗体反応を誘発するために、DNP-HSA溶液を終濃度100ng/mLになるように添加し、6時間培養した後、細胞上清を回収した。上清中に含まれるTNF-αは、Rat TNF-αELISA MAXTM Deluxe Sets(BioLegend)を用い、キットの説明書に従って定量した。
【0043】
図4に示す通り、抗原抗体反応によって引き起こされたRBL-2H3細胞からのTNF-αの放出は、AEtEの添加によって濃度依存的に抑制された。
【0044】
[実施例6.HeLa細胞におけるヒスタミンによる細胞内Ca2+濃度上昇抑制試験]
HeLa細胞は、RIKEN BRC CELL BANKから入手した(細胞番号RCB0007)。
細胞内Ca2+濃度はCalcium Kit-Fura 2(同仁化学)を用い、キットの説明書に従って測定した。牛胎児血清10%、ゲンタマイシン5μg/mL濃度で含むDMEMにHeLa細胞を懸濁させ、96ウェルマイクロプレートに2.5×104個/ウェルで播種し、37℃、5% CO2の条件で24時間培養した。培地を吸引除去し、細胞をMT Bufferで2度洗浄後、Loading Mediumを添加し1時間培養した。細胞をMT Bufferで2度洗浄後、100~400μg/mLの各濃度のAEtEを含むRecording Mediumを各ウェル100μLずつ添加して1時間培養した。陽性対照群としては、ヒスタミンH1受容体拮抗作用を有するジフェンヒドラミン塩酸塩を1μMの濃度で含むRecording Mediumを同時に加えた。抗原抗体反応を誘発するために、ヒスタミン溶液を終濃度100μMになるように添加後、直ちに蛍光強度(励起波長:340/380nm、蛍光波長:510nm)を測定した。
【0045】
図5に示す通り、ヒスタミンの添加によって引き起こされた細胞内Ca
2+濃度上昇は、AEtEの添加によって濃度依存的に抑制された。