(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139704
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】排水処理方法
(51)【国際特許分類】
C02F 3/12 20230101AFI20230927BHJP
【FI】
C02F3/12 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045379
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100196508
【弁理士】
【氏名又は名称】松尾 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100112634
【弁理士】
【氏名又は名称】松山 美奈子
(72)【発明者】
【氏名】矢出 乃大
【テーマコード(参考)】
4D028
【Fターム(参考)】
4D028AB00
4D028AC06
4D028BB02
4D028BC18
4D028BD12
4D028BD16
4D028CB00
(57)【要約】
【課題】窒素化合物を有する有機性排水の生物処理における硝化を持続的に抑制し、及び硝化に起因して発生する沈殿槽における汚泥浮上を抑制し、処理水質の安定及び向上に資する排水処理方法を提供する。
【解決手段】窒素化合物を有する有機性排水を生物処理槽10にて活性汚泥処理して得られる汚泥含有水を沈殿槽20にて固液分離し、分離された汚泥の一部を返送汚泥として生物処理槽に返送し、残部を余剰汚泥として処理する排水処理方法であって、ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を生物処理槽10に添加して、生物処理槽10内での硝化を抑制することを特徴とする排水処理方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒素化合物を有する有機性排水を生物処理槽にて活性汚泥処理して得られる汚泥含有水を沈殿槽にて固液分離し、分離された汚泥の一部を返送汚泥として生物処理槽に返送し、残部を余剰汚泥として処理する排水処理方法であって、
ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を生物処理槽に供給して、生物処理槽内での硝化を抑制することを特徴とする排水処理方法。
【請求項2】
ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を返送汚泥に添加して、硝化抑制剤を含有する返送汚泥を生物処理槽に供給し、生物処理槽内での硝化を抑制することを特徴とする請求項1に記載の排水処理方法。
【請求項3】
さらに、ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を余剰汚泥の一部に添加して、硝化抑制剤を含有する余剰汚泥を生物処理槽に供給することを含む請求項1又は2に記載の排水処理方法。
【請求項4】
窒素化合物を有する有機性排水を生物処理槽にて活性汚泥処理して得られる汚泥含有水を沈殿槽にて固液分離し、分離された汚泥の一部を返送汚泥として生物処理槽に返送し、残部を余剰汚泥として処理する排水処理方法であって、
返送汚泥を生物処理槽の前半部に供給し、
ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を余剰汚泥の一部に添加して、硝化抑制剤を含有する余剰汚泥を生物処理槽に供給し、生物処理槽内での硝化を抑制することを特徴とする排水処理方法。
【請求項5】
前記硝化抑制剤を含有する余剰汚泥を、生物処理槽の後半部に供給することを特徴とする請求項4に記載の排水処理方法。
【請求項6】
窒素化合物を有する有機性排水を生物処理槽にて活性汚泥処理して得られる汚泥含有水を沈殿槽にて固液分離し、分離された汚泥の一部を返送汚泥として生物処理槽に返送し、残部を余剰汚泥として処理する排水処理方法であって、
ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を返送汚泥に添加して、硝化抑制剤を含有する返送汚泥を生物処理槽の前半部に供給し、
ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を余剰汚泥の一部に添加して、硝化抑制剤を含有する余剰汚泥を生物処理槽の後半部に供給し、生物処理槽内での硝化を抑制することを特徴とする排水処理方法。
【請求項7】
前記硝化抑制剤は、さらにチオ尿素又はアリルチオ尿素を含み、
ジチオカルバミン酸塩とチオ尿素との重量比は1:0.1以上1:5以下であり、
ジチオカルバミン酸塩とアリルチオ尿素との重量比は1:0.1以上1:2以下であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1に記載の排水処理方法。
【請求項8】
前記硝化抑制剤は、ジチオカルバミン酸塩を担体に含侵させた添着担体の形態又は包括固定化担体の形態を有することを特徴とする請求項1~6のいずれか1に記載の排水処理方法。
【請求項9】
前記硝化抑制剤は、ジチオカルバミン酸塩の水溶液であることを特徴とする請求項1~6のいずれか1に記載の排水処理方法。
【請求項10】
ジチオカルバミン酸塩を担体に含侵させた添着担体の形態又は包括固定化担体の形態を有することを特徴とする硝化抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排水処理方法に関し、特に、活性汚泥処理の際に硝化による硝酸イオンや亜硝酸イオンの生成及び沈殿槽における脱窒素による汚泥の浮上を抑制して処理水のBOD値上昇を抑制する排水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下水、し尿、工場排水等の有機物と窒素を含有する有機性排水の処理方法には、活性汚泥処理法、生物膜法、膜分離を組み込んだMBR(膜分離活性汚泥処理)法があるが、活性汚泥処理法が広く普及している。活性汚泥処理法は、活性汚泥を含む曝気槽(「活性汚泥槽」又は「生物処理槽」ともいう。)に、有機性排水を導入して好気性処理することにより、有機性排水に含まれる有機物を分解除去する排水の処理方法である。曝気槽にて有機物が分解除去される過程で活性汚泥が増殖する。曝気槽にて活性汚泥処理され、増殖した活性汚泥を含有する処理水(以下、「活性汚泥含有処理水」という。)は、後段の沈殿槽にて、上澄みの生物処理水と、沈殿する汚泥と、に固液分離される。沈殿槽から引き抜かれる汚泥の一部は曝気槽に返送されて活性汚泥処理に用いられ、残部は汚泥処理に供される。曝気槽に返送される汚泥を「返送汚泥」といい、汚泥処理に供される汚泥を「余剰汚泥」という。
【0003】
活性汚泥処理において、有機物と窒素を含有する有機性排水を生物処理すると、好気性条件下で硝化細菌(硝化菌)により有機性排水の窒素が硝酸性窒素や亜硝酸性窒素に酸化される。硝酸性窒素や亜硝酸性窒素を含む活性汚泥処理水が沈殿槽にて生物処理水と汚泥に固液分離される際に、沈殿槽の堆積汚泥部が嫌気的になると、硝酸性窒素や亜硝酸性窒素が窒素ガスに還元される。生成する窒素ガスは汚泥に付着して汚泥を浮上させるため、汚泥が生物処理水に混ざり、生物処理水のSS濃度が上昇して処理水質が悪化したり、生物処理水の外観を劣化させたりする。また、生物処理水には硝化細菌が存在するので、硝化細菌の硝化作用により、本来の有機物由来の酸素消費量だけでなく、硝化による酸素消費量(N-BOD)が加算されてBOD値が高くなり、放流基準等を満足できなくなる場合がある。
【0004】
硝化抑制方法は、生物処理槽への空気量を調節することが一般的であるが、流入する有機性排水の性状や水量などの変動があるために、常時、きめ細かい維持管理作業が必要であるので、現実的には運転管理は難しい。また、有機性排水から積極的に窒素を生物学的に除去する硝化脱窒素処理によって、処理水の浮上汚泥によるSS濃度の増加やBOD値の増加を防止できるが、硝化脱窒素処理装置が高価で、運転管理技術を要する。
【0005】
他の硝化抑制方法として、生物処理槽に硝化抑制剤を添加して硝化細菌の硝化作用を抑制する方法もあり、薬剤添加作業だけであるため運転管理が容易である。硝化抑制剤としてチオ尿素やアリルチオ尿素が用いられているが、添加した硝化抑制剤が活性汚泥で分解され、活性汚泥に対する吸着力が弱いために硝化抑制効果が長続きしないという課題がある(特許3329194号公報)。硝化抑制効果を維持するために追加添加が必要で、追加添加作業の煩雑さや薬剤量の増加による薬剤費がかかる。また、従来の硝化抑制剤は溶解度が高くないために高濃度の液体を調製することが難しく、粉末で用いられるため、硝化抑制剤の添加時に粉塵が発生するなど作業性が劣るという問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、生物処理槽への空気量の調節や硝化脱窒素処理装置などを用いずに、窒素化合物を有する有機性排水の生物処理における硝化を持続的に抑制し、及び硝化に起因して発生する沈殿槽における汚泥浮上を抑制し、処理水質の安定及び向上に資する排水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、下記態様の排水処理方法が提供される。
[1]窒素化合物を有する有機性排水を生物処理槽にて活性汚泥処理して得られる汚泥含有水を沈殿槽にて固液分離し、分離された汚泥の一部を返送汚泥として生物処理槽に返送し、残部を余剰汚泥として処理する排水処理方法であって、
ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を生物処理槽に供給して、生物処理槽内での硝化を抑制することを特徴とする排水処理方法。
[2]ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を返送汚泥に添加して、硝化抑制剤を含有する返送汚泥を生物処理槽に供給し、生物処理槽内での硝化を抑制することを特徴とする上記[1]に記載の排水処理方法。
[3]さらに、ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を余剰汚泥の一部に添加して、硝化抑制剤を含有する余剰汚泥を生物処理槽に供給することを含む上記[1]又は[2]に記載の排水処理方法。
[4]窒素化合物を有する有機性排水を生物処理槽にて活性汚泥処理して得られる汚泥含有水を沈殿槽にて固液分離し、分離された汚泥の一部を返送汚泥として生物処理槽に返送し、残部を余剰汚泥として処理する排水処理方法であって、
返送汚泥を生物処理槽の前半部に供給し、
ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を余剰汚泥の一部に添加して、硝化抑制剤を含有する余剰汚泥を生物処理槽に供給し、生物処理槽内での硝化を抑制することを特徴とする排水処理方法。
[5]前記硝化抑制剤を含有する余剰汚泥を、生物処理槽の後半部に供給することを特徴とする上記[4]に記載の排水処理方法。
[6] 窒素化合物を有する有機性排水を生物処理槽にて活性汚泥処理して得られる汚泥含有水を沈殿槽にて固液分離し、分離された汚泥の一部を返送汚泥として生物処理槽に返送し、残部を余剰汚泥として処理する排水処理方法であって、
ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を返送汚泥に添加して、硝化抑制剤を含有する返送汚泥を生物処理槽の前半部に供給し、
ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を余剰汚泥の一部に添加して、硝化抑制剤を含有する余剰汚泥を生物処理槽の後半部に供給し、生物処理槽内での硝化を抑制することを特徴とする排水処理方法。
[7]前記硝化抑制剤は、さらにチオ尿素又はアリルチオ尿素を含み、
ジチオカルバミン酸塩とチオ尿素との重量比は1:0.1以上1:5以下であり、
ジチオカルバミン酸塩とアリルチオ尿素との重量比は1:0.1以上1:2以下であることを特徴とする上記[1]~[6]のいずれか1に記載の排水処理方法。
[8]前記硝化抑制剤は、ジチオカルバミン酸塩を担体に含侵させた添着担体の形態又は包括固定化担体の形態を有することを特徴とする上記[1]~[6]のいずれか1に記載の排水処理方法。
[9]前記硝化抑制剤は、ジチオカルバミン酸塩の水溶液であることを特徴とする上記[1]~[6]のいずれか1に記載の排水処理方法。
[10]ジチオカルバミン酸塩を担体に含侵させた添着担体の形態又は包括固定化担体の形態を有することを特徴とする硝化抑制剤。
【発明の効果】
【0009】
本発明の排水処理方法は、生物処理槽における硝化を抑制し、活性汚泥処理の際の硝化により発生する亜硝酸イオンや硝酸イオンを削減することができ、固液分離の際の沈殿槽における脱窒素による汚泥の浮上を防止することができ、硝化による酸素消費量(N-BOD)の増加を防止することができ、結果的に生物処理水のBOD値の上昇を防止することができる。
【0010】
本発明の排水処理方法において、ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤をあらかじめ返送汚泥又は余剰汚泥に添加して、生物処理槽に供給することにより、硝化抑制効果の即効性及び持続性が改良される。ジチオカルバミン酸塩は汚泥に吸着されやすく、汚泥中の硝化細菌の活動を阻害する。また、活性汚泥により徐々に分解されて硝化抑制作用のあるチオ尿素様物質を放出するため、硝化抑制効果が持続し、長期間の硝化抑制効果を発揮することができる。このため、従来のチオ尿素やアリルチオ尿素よりも添加量及び添加回数を削減することができ、維持管理が簡易となる。
【0011】
本発明によれば、排水の生物処理において長時間硝化抑制可能な硝化抑制剤が提供される。ジチオカルバミン酸塩を活性炭などの担体に担持させることにより、担体が活性汚泥内に保持され、さらに処理水に流出しにくくなり、硝化抑制効果が持続する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】生物処理槽に硝化抑制剤を添加する態様の処理フロー。
【
図2】硝化抑制剤を添加した返送汚泥を生物処理槽に供給する態様の処理フロー。
【
図3】硝化抑制剤を添加した返送汚泥と、硝化抑制剤を添加しない返送汚泥と、を生物処理槽に供給する態様の処理フロー。
【
図4】返送汚泥を生物処理槽の前半部に供給し、硝化抑制剤を添加した余剰汚泥を生物処理槽に供給する態様の処理フロー。
【
図5】返送汚泥を生物処理槽の前半部に供給し、硝化抑制剤を添加した余剰汚泥を生物処理槽の後半部に供給する態様の処理フロー。
【
図6】生物処理槽を4分割又は4槽直列配備した態様の
図5と同様の処理フロー。
【
図7】硝化抑制剤を添加した返送汚泥を生物処理槽の前半部に供給し、硝化抑制剤を添加した余剰汚泥を生物処理槽の後半部に供給する態様の処理フロー。
【
図8】生物処理槽を4分割又は4槽直列配備した態様の
図7と同様の処理フロー。
【好ましい実施形態】
【0013】
以下、添付図面を参照しながら本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0014】
図1に本発明の硝化抑制方法の基本の処理フローを示す。
図1は、被処理水を活性汚泥槽などの生物処理槽10にて生物処理した後、重力式沈殿槽などの沈殿槽20にて生物処理水と汚泥とに固液分離し、汚泥配管22を介して抜き出した汚泥の一部を返送汚泥として返送汚泥配管24を介して生物処理槽10に供給し、残余の汚泥を余剰汚泥として余剰汚泥配管26を介して汚泥処理する基本の処理フローを示す。
【0015】
被処理水を生物処理槽10で好気的に生物処理すると、生物処理槽10で被処理水に共存する窒素化合物も好気性微生物の集団である活性汚泥によって最終的にアンモニア性窒素(NH4
+)に分解される。当該アンモニア性窒素は、硝化細菌により亜硝酸イオン(NO2
-)や硝酸イオン(NO3
-)に酸化される。亜硝酸イオンや硝酸イオンを含む汚泥含有水は、沈殿槽20で汚泥と生物処理水に固液分離される。生物処理水は公共水域等に放流されるか、ろ過等の高度処理の後に再利用される。汚泥の一部は、生物処理槽10の活性汚泥濃度の維持のために生物処理槽10に返送され(返送汚泥)、残部は余剰汚泥として脱水処理などの汚泥処理に供される。
【0016】
亜硝酸イオンや硝酸イオンを含む汚泥含有水は、沈殿槽20に流入した後、所定時間放置され重力沈降により固液分離される。沈殿槽20内では、汚泥が底部に蓄積されるにつれ、沈殿槽20内の汚泥が蓄積された部分が嫌気性雰囲気になり、亜硝酸イオン(NO2
-)や硝酸イオン(NO3
-)が還元されて窒素ガス(N2)が発生する。窒素ガスは、汚泥に付着して、汚泥を浮上させるため、生物処理水のSS濃度が増加する。また、沈殿槽20からの処理水は硝化細菌を含むため、硝化による酸素消費量(N-BOD)が増加して、有機物が除去されているのに生物処理水のBODが増加するという問題が生じる。
【0017】
本発明の硝化抑制方法は、硝化抑制剤の存在下で、生物処理槽10内での硝化細菌の活動を低下させて硝化を抑制する。生物処理槽10内での硝化が抑制されるため、生物処理槽10からの汚泥含有水中に含まれる亜硝酸イオンや硝酸イオンが減少し、沈殿槽20内での窒素ガス発生が抑制され、汚泥の浮上による生物処理水のSS濃度の増加及びN-BODの増加を抑制することができる。生物処理槽10内への硝化抑制剤の供給態様としては、生物処理槽10へ硝化抑制剤を直接添加する態様、生物処理槽10へ供給される返送汚泥の少なくとも一部に予め硝化抑制剤を添加する態様、通常は生物処理槽10に供給されない余剰汚泥の一部に硝化抑制剤を添加して生物処理槽10に供給する態様、及びこれらの任意の組みあわせを挙げることができる。
【0018】
図2は、沈殿槽20から生物処理槽10へ返送する途中で返送汚泥に硝化抑制剤を添加し、硝化抑制剤を含有する返送汚泥を生物処理槽10に供給する態様の処理フローである。返送汚泥へ硝化抑制剤を添加する場所は、沈殿槽20から生物処理槽10へ汚泥を返送するための返送汚泥配管25、沈殿槽20から汚泥を抜き出す返送汚泥ポンプ(図示せず)の吸込部や吐出部などが好ましい。返送汚泥配管25の途中に混合槽(図示せず)などを設けて、混合槽に硝化抑制剤を添加してもよい。また、当該混合槽には、撹拌羽根などの機械式撹拌装置やポンプ撹拌装置などを設けて、返送汚泥中に硝化抑制剤を均質に混合させることも好ましい。
【0019】
生物処理槽10に返送される途中の返送汚泥に硝化抑制剤を添加することにより、硝化抑制剤が返送汚泥中に均質に分散した状態で生物処理槽10に供給されるため、生物処理槽10内に硝化抑制剤が拡散されやすい。また硝化抑制剤が返送汚泥に添加されてから生物処理槽10に供給されるまでの間に汚泥による硝化抑制剤の分解が徐々に進行して硝化抑制作用のあるチオ尿素様物質が汚泥中に放出される。よって、硝化抑制剤を生物処理槽10に直接添加するよりも、生物処理槽10に返送される途中で返送汚泥に添加する方が硝化抑制効果は高い。また、返送汚泥は生物処理槽10内の活性汚泥よりも汚泥濃度が高く、硝化細菌を多く含むため、返送汚泥に高濃度の硝化抑制剤を添加することで、返送汚泥の硝化細菌による硝化作用を効果的に抑制できる。
【0020】
図3は、沈殿槽20から生物処理槽10へ返送汚泥を送る配管を2系統設け、一方の返送汚泥配管25の途中に硝化抑制剤を添加し、硝化抑制剤を含有する返送汚泥を生物処理槽10に供給し、他方の返送汚泥配管24には硝化抑制剤を添加しない態様の処理フローを示す。返送汚泥配管24は生物処理槽10の被処理水流入側に返送汚泥を導入するように設けられている。返送汚泥配管24を介して供給される返送汚泥の量を調整して、生物処理槽10内での被処理水の有機物除去を行うために十分な活性汚泥濃度を維持する。
【0021】
返送汚泥配管25を介して硝化抑制剤が添加された返送汚泥は、生物処理槽10の任意の場所に供給することができる。返送汚泥へ硝化抑制剤を添加する場所は、沈殿槽20から生物処理槽10へ汚泥を返送するための返送汚泥配管25、沈殿槽20から汚泥を抜き出す返送汚泥ポンプ(図示せず)の吸込部や吐出部などが好ましい。返送汚泥配管25の途中に混合槽(図示せず)などを設けて、混合槽に硝化抑制剤を添加してもよい。また、当該混合槽には、撹拌羽根などの機械式撹拌装置やポンプ撹拌装置などを設けて、返送汚泥中に硝化抑制剤を均質に混合させることも好ましい。
【0022】
図4は、沈殿槽20からの返送汚泥を、返送汚泥配管24を介して生物処理槽10へ供給し、沈殿槽20からの余剰汚泥の一部を、余剰汚泥返送配管28を介して生物処理槽10へ供給する態様の処理フローを示す。生物処理槽10に供給される余剰汚泥には、硝化抑制剤が添加される。余剰汚泥へ硝化抑制剤を添加する場所は、沈殿槽20から生物処理槽10へ余剰汚泥を供給するための余剰汚泥返送配管28などが好ましい。余剰汚泥返送配管28の途中に混合槽(図示せず)などを設けて、混合槽に硝化抑制剤を添加してもよい。また、当該混合槽には、撹拌羽根などの機械式撹拌装置やポンプ撹拌装置などを設けて、余剰汚泥中に硝化抑制剤を均質に混合させることも好ましい。
【0023】
生物処理槽10では、被処理水が供給される側(上流側)から処理水が流出する側(下流側)まで、栓流方式で被処理水が流動されながら生物処理が進行し、BOD値も徐々に低下する。しかし、生物処理槽10内で被処理水に共存する窒素化合物が活性汚泥によって分解されるアンモニア性窒素(NH4
+)は、生物処理槽10内に硝化細菌が存在すると、亜硝酸イオン(NO2
-)や硝酸イオン(NO3
-)に酸化されてしまい、硝化による酸素消費量(N-BOD)が増加する。従来は、硝化によるN-BODの増加を考慮せず、所定量の返送汚泥を生物処理槽10の被処理水供給側に返送するだけであった。本態様では、返送汚泥を生物処理槽10に供給することに加えて、余剰汚泥に硝化抑制剤を添加して生物処理槽10に供給することにより、生物処理槽10内での好適な汚泥濃度を維持し、硝化抑制剤による硝化抑制を行うことができる。
【0024】
図5は、沈殿槽20からの返送汚泥を、返送汚泥配管24を介して生物処理槽10の前半部12へ供給し、沈殿槽20からの余剰汚泥の一部を、余剰汚泥返送配管28を介して生物処理槽10の後半部14に供給する態様の処理フローを示す。生物処理槽10の後半部14に供給される余剰汚泥は、硝化抑制剤が添加されている。余剰汚泥へ硝化抑制剤を添加する場所は、沈殿槽20から生物処理槽10へ余剰汚泥を供給するための余剰汚泥返送配管28などが好ましい。余剰汚泥返送配管28の途中に混合槽(図示せず)などを設けて、混合槽に硝化抑制剤を添加してもよい。また、当該混合槽には、撹拌羽根などの機械式撹拌装置やポンプ撹拌装置などを設けて、余剰汚泥中に硝化抑制剤を均質に混合させることも好ましい。
【0025】
生物処理槽10では、被処理水が供給される側(上流側)から処理水が流出する側(下流側)まで、栓流方式で被処理水が流動されながら生物処理が進行し、BOD値も徐々に低下する。しかし、生物処理槽10内で被処理水に共存する窒素化合物が活性汚泥によって分解されるアンモニア性窒素(NH4
+)は、生物処理槽10内に硝化細菌が存在すると、亜硝酸イオン(NO2
-)や硝酸イオン(NO3
-)に酸化されてしまい、硝化による酸素消費量(N-BOD)が増加する。従来は、硝化によるN-BODの増加を考慮せず、所定量の返送汚泥を生物処理槽10の被処理水供給側に返送するだけであった。生物処理槽10内の上流側で分解されて生成するアンモニア性窒素(NH4
+)は下流側に流動するにつれ硝化細菌による硝化作用を受け、亜硝酸イオン(NO2
-)や硝酸イオン(NO3
-)に酸化されるため、生物処理水のN-BODを増加させないためには、アンモニア性窒素(NH4
+)が硝化細菌による硝化作用を強く受ける下流側において硝化を抑制することが効果的である。本態様では、沈殿槽20からの余剰汚泥の一部に硝化抑制剤を添加して、生物処理槽10の後半部14に供給することにより、生物処理槽10の後半部14における硝化作用を抑制する。
【0026】
生物処理槽10内でのBOD汚泥負荷は下記式により計算される。
[数1]
BOD汚泥負荷(kg/kg・日)
=被処理水の流入BOD重量(kg/日)/生物処理槽のMLSS重量(kg)
【0027】
被処理水の流入BOD重量は下記式により計算される。
[数2]
被処理水の流入BOD重量(kg/日)
=被処理水流入量(m3/日)×被処理水BOD(mg/L)×10-6
【0028】
生物処理槽のMLSS重量は下記式により計算される。
[数3]
生物処理槽のMLSS重量(kg)
=生物処理槽のMLSS濃度(mg/L)×10-6×生物処理槽有効容量(m3)
【0029】
生物処理槽10を被処理水が供給される側の前半部12と処理水が流出する側の後半部14とに2分割すると、生物処理槽10全体の初期BODに対するBOD汚泥負荷の設計値が0.1kg/kg・日の場合、前半部12及び後半部14では容積が半分になりMLSS重量も半分になるため、前半部12の基端12a及び後半部14の基端14aのBOD汚泥負荷の理論値はそれぞれ0.2kg/kg・日となる。本態様では、前半部12の基端12aと理論上同じBOD汚泥負荷0.2kg/kg・日となる後半部14の基端14aに硝化抑制剤を含む汚泥を供給する。すなわち、前半部12の基端12aに返送汚泥を供給し、後半部14の基端14aに硝化抑制剤を含む余剰汚泥を供給する。
【0030】
硝化抑制剤を含む余剰汚泥の供給地点は、被処理水のBOD汚泥負荷や生物処理槽の液温などにより変動する。本態様では、硝化抑制剤を含む余剰汚泥の供給地点は、被処理水の初期BODに対するBOD汚泥負荷が好ましくは0.2kg/kg・日以下となる地点である。生物処理槽全体のBOD汚泥負荷が0.15kg/kg・日以上の場合、すなわち生物処理槽10の後半部14のBOD汚泥負荷の理論値が0.3kg/kg・日以上では硝化反応が生じる可能性は低くなる。たとえば、生物処理槽10全体のBOD汚泥負荷が0.15kg/kg・日の場合、BOD汚泥負荷が0.2kg/kg・日となる地点は、
図6に示すように生物処理槽10を4分割した最下流側15の基端15aになる。
【0031】
あるいは、被処理水の初期BODに対するBOD汚泥負荷が0.1kg/kg・日で生物処理槽の滞留時間が24時間であるならば、滞留時間12時間となる地点を、硝化抑制剤を含む余剰汚泥の供給地点としてもよい。
【0032】
また、硝化抑制剤を含む余剰汚泥の供給地点は、生物処理槽10内の被処理水中の亜硝酸イオン(NO2
-)や硝酸イオン(NO3
-)の測定により決定することもできる。すなわち、生物処理槽10の上流側から下流側に至る複数の地点で汚泥含有水を採取して分析し、亜硝酸イオン(NO2
-)や硝酸イオン(NO3
-)が検出される地点を供給地点としてもよい。その場分析のために、市販のUV式硝酸計(TOADKK社製NITRATAX)などのモニターを用いることができる。
【0033】
あるいは、生物処理槽10内の汚泥含有水中の残留アンモニア性窒素濃度の測定により、硝化抑制剤を含む余剰汚泥の供給地点を決定することもできる。すなわち、生物処理槽10の上流側から下流側に至る複数の地点で汚泥含有水を採取して分析し、残留アンモニア性窒素濃度が減少する地点を供給地点としてもよい。その場分析のために、市販のアンモニア分析装置(TOADKK社製AMTAXsc)などのモニターを用いることができる。
【0034】
生物処理槽10は、
図4に示すように大型の生物処理槽であってもよいし、
図5~8に示すように小型の生物処理槽を複数直列に配備しているものでもよい。いずれの場合も、硝化抑制剤を含む余剰汚泥の供給地点は、被処理水の供給側から処理水の流出側に至る生物処理において、アンモニア性窒素の硝化が生じている場所又は硝化が生じる場所の直前とすることが好ましい。
【0035】
図7は、沈殿槽20から生物処理槽10へ返送する途中で返送汚泥に硝化抑制剤を添加して生物処理槽10の前半部12に硝化抑制剤を含む返送汚泥を供給し、沈殿槽20からの余剰汚泥の一部にも硝化抑制剤を添加して生物処理槽10の後半部14に硝化抑制剤を含む余剰汚泥を供給して、生物処理槽10内全体での硝化細菌の活動を低下させて硝化を抑制する態様の処理フローである。返送汚泥に対する硝化抑制剤の添加場所及び利点は
図2において説明したとおりであり、余剰汚泥に対する硝化抑制剤の添加場所及び利点は
図5において説明したとおりであるから、重複する説明は割愛する。
【0036】
本態様では、硝化による酸素消費量(N-BOD)の増加を考慮し、生物処理槽10の上流側に硝化抑制剤を含む返送汚泥を供給するとともに、硝化反応が進行する生物処理槽10の下流側に硝化抑制剤を含む余剰汚泥を供給する。硝化抑制剤を含む返送汚泥の生物処理槽10への供給地点は前半部12の基端12aが好ましく、硝化抑制剤を含む余剰汚泥の生物処理槽10への供給地点は後半部14の基端14aが好ましい。
【0037】
次に、本発明の硝化抑制方法において使用することができる硝化抑制剤について説明する。
【0038】
本発明で用いる硝化抑制剤は、ジチオカルバミン酸塩を含む。ジチオカルバミン酸塩は、下記に示す官能基(ジチオカルバミン酸基)
【化1】
を有するものであり、官能基の位置は末端でも内部でもよい。
【0039】
本発明において用いることができるジチオカルバミン酸塩としては、上記官能基を有するものであれば特に限定されないが、たとえば、ジエチルジチオカルバミン酸塩、ジブチルジチオカルバミン酸塩、ピペラジン-N,N'-ビスカルボジチオ酸塩、ピペラジン-1,4-ジカルボチオアート酸塩、ピペリジン-N-ジチオカルバミン酸(ペンタメチレンジチオカルバミン酸)塩、ピペラジン-N-カルボジチオ酸塩、N1,N2,N3,N5-テトラ(ジチオカルボキシ)テトラエチレンペンタミン酸塩、ジエチレントリアミンビス(ジチオカルバミン酸)塩、テトラエチレンペンタミンテトラキス(ジチオカルバミン酸)塩、ジエチルジチオカルバミン酸塩やピペラジン-N,N'-ビスカルボジチオ酸塩などを好ましく挙げることができる。
【0040】
ジチオカルバミン酸塩としては、水への溶解度が高い金属塩が好ましく、アルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩がより好ましく、カリウム塩やナトリウム塩が特に好ましい。具体的には、ジエチルジチオカルバミン酸カリウム、ジエチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ジメチルジチオカルバミン酸カリウム、ジメチルジチオカルバミン酸ナトリウム、ピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムなどを好ましく挙げることができる。
【0041】
本発明の硝化抑制方法において、親水性のジチオカルバミン酸基と疎水性の炭化水素基とを有するジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤を生物処理槽に供給することで、疎水性の炭化水素基が活性汚泥に強く吸着する。分子量が低くて疎水性の炭化水素基を有していないチオ尿素や炭化水素基が少ないアリルチオ尿素は処理水とともに沈殿槽から容易に流出したり、活性汚泥に容易に分解されたりするので、硝化抑制効果が短時間で消失する。一方、ジチオカルバミン酸塩を含む硝化抑制剤は沈殿槽から流出することもなく、生物処理槽に硝化抑制剤を含む活性汚泥がとどまることができるので、長期間にわたり硝化抑制効果を発揮することができる。活性汚泥に吸着した硝化抑制剤は、活性汚泥に含まれる硝化細菌に効率よく作用して、活性汚泥中の硝化細菌の硝化活性を低下させる。また、硝化抑制剤を含む活性汚泥から硝化抑制剤や硝化抑制剤の分解生成物であるチオ尿素様物質が徐々に放出されることにより、長期間にわたり硝化抑制効果が発揮される。
【0042】
硝化抑制剤として、ジチオカルバミン酸塩とチオ尿素又はアリルチオ尿素とを併用してもよく、即効性と持続性を発現することができる。ジチオカルバミン酸塩とチオ尿素又はアリルチオ尿素とを含む硝化抑制剤は、ジチオカルバミン酸塩の水溶液にチオ尿素又はアリルチオ尿素の水溶液を混合するか又は粉末を溶解させて調製することができる。
【0043】
ジチオカルバミン酸塩とチオ尿素又はアリルチオ尿素とを併用する場合、その場でジチオカルバミン酸塩の水溶液と、チオ尿素又はアリルチオ尿素の水溶液を所定の比率で混合して調製した混合液を用いてもよいし、それぞれの水溶液を混合せずに生物処理槽、返送汚泥又は余剰汚泥に添加してもよい。予め液体混合物として調製して添加することにより、現場での取り扱いが簡易となるため好ましい。
【0044】
硝化抑制剤がジチオカルバミン酸塩とチオ尿素との混合物である場合、50wt%濃度のジチオカルバミン酸塩の水溶液と、10wt%濃度のチオ尿素の水溶液とを1:1~1:30の容量比、好ましくは1:5~1:25の容量比で混合したものであることが望ましい。この場合、ジチオカルバミン酸塩とチオ尿素との重量比は、1:0.1~1:5、好ましくは1:1~1:4となる。混合する際の比率が上記範囲内であれば、硝化抑制効果の即効性と持続性の両者を実現できる。
【0045】
硝化抑制剤がジチオカルバミン酸塩とアリルチオ尿素との混合物である場合、50wt%濃度のジチオカルバミン酸塩の水溶液と、5wt%濃度のアリルチオ尿素の水溶液とを1:1~1:20の容量比、好ましくは1:1~1:2の容量比で混合したものであることが望ましい。この場合、ジチオカルバミン酸塩とアリルチオ尿素との重量比は、1:0.1~1:2、好ましくは1:0.5~1:1となる。混合する際の比率が上記範囲内であれば、硝化抑制効果の即効性と持続性の両者を実現できる。
【0046】
本発明において用いる硝化抑制剤は、ジチオカルバミン酸塩を担体に含侵させた添着担体の形態でもよい。担体としては、活性炭、天然ゼオライト、合成ゼオライト、ベントナイト、石炭灰、珪藻土、木炭などを好ましく挙げることができる。活性炭としては、新品でも使用済活性炭を乾燥させたものでも賦活再生活性炭でもよい。賦活再生活性炭は、ジチオカルバミン酸塩の水溶液を含侵させやすく、乾燥活性炭自重の50wt%まで水溶液を保持できるので特に好ましい。
【0047】
添着担体の含水率は5~50wt%であることが好ましい。含水率が上記範囲内であれば、生物処理槽、返送汚泥又は余剰汚泥への添加時の粉塵発生を防止することができ、取り扱いが容易であり、汚泥との親和性がよく、また含侵させたジチオカルバミン酸塩の水溶液の漏洩が少ない。
【0048】
ジチオカルバミン酸塩の担体への添着率(ジチオカルバミン酸塩重量/担体重量)は、2~30wt%、好ましくは15~25wt%であることが望ましい。添着率が上記範囲内であれば、硝化抑制効果が高く、輸送時や貯蔵時に担体からジチオカルバミン酸塩の水溶液の漏洩が少ない。
【0049】
添着担体は、ジチオカルバミン酸塩の水溶液に担体を浸漬させるか、担体と混合撹拌することで製造することができる。例えば、50wt%濃度のジチオカルバミン酸塩の水溶液に賦活再生活性炭を浸漬させることにより、含水率50wt%の場合に、添着率25wt%の添着担体を得ることができる。
【0050】
添着担体の粒子径は特に限定されないが、100μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、1μm以上10μm以下が特に好ましい。粒径50μm~100μm程度の大きな粒子は、そのまま生物処理槽、返送汚泥及び余剰汚泥に添加することができるため取り扱いが容易である。粒径50μm以下の小さな粒子は、汚泥全体により分散するため、硝化抑制効果の発現領域が広がる。粒径10μm以下の微小な粒子は、ネットなどに入れて生物処理槽、返送汚泥及び余剰汚泥に添加することが好ましい。
【0051】
添着担体を用いることにより、担体に含侵されているジチオカルバミン酸塩が汚泥中に徐々に溶出するため、ジチオカルバミン酸塩の水溶液を直接汚泥に添加する場合よりも長時間にわたり硝化抑制効果を発揮することができる。
【0052】
本発明で用いる硝化抑制剤は、ジチオカルバミン酸塩を担体に包括固定化させた包括固定化担体の形態でもよい。包括固定化担体とすることで、より長期にわたる硝化抑制効果を得ることができる。
【0053】
包括固定化担体は、ジチオカルバミン酸塩、又はジチオカルバミン酸塩を含侵させた添着担体を、ゲル化可能な水溶性高分子化合物で包括してゲル化することで製造することができる。水溶性高分子化合物としては、ゲル化可能なアルギン酸ナトリウム、でんぷん、ゲランガム、キシログルカンなどの多糖類、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの架橋性化合物、メタアクリレートなど公知のゲル化剤を用いることができる。ゲル化方法は特に限定されず、公知のゲル化方法を用いることができる。
【0054】
包括固定化担体の大きさは、有効径が0.5mm~2mmであることが好ましい。有効径が0.5mm未満では、生物処理水と共に包括固定化担体が流出し、2mmを超えると撹拌が困難になり、被処理水との接触効率が低下する。
【0055】
硝化抑制剤を生物処理槽に添加する場合の添加量は、生物処理槽有効容量(被処理水容量)に対してジチオカルバミン酸塩が0.2mg/L以上、好ましくは0.5mg/L以上、より好ましくは1.0mg/L以上となる量が望ましい。ジチオカルバミン酸塩の添加量が多いほど硝化抑制効果の即効性及び持続性が高くなるが、あまり多量に添加しても硝化抑制効果が飽和し、薬剤費用が上昇するため、40mg/L以下、好ましくは20mg/L、より好ましくは15mg/L以下となる量とすることが望ましい。生物処理槽の汚泥重量に対するジチオカルバミン酸塩の添加率は、0.02wt%以上、好ましくは0.03wt%以上、より好ましくは0.05wt%以上、2.0wt%以下、好ましくは1.0wt%以下、より好ましくは0.5wt%以下とすることが望ましい。上記範囲内であれば、生物処理槽内での硝化抑制が良好で、硝化抑制剤に起因する生物処理水のCODの上昇を抑制することができる。
【0056】
硝化抑制剤を返送汚泥に添加する場合の添加量は、返送汚泥重量に対するジチオカルバミン酸塩の添加率が0.01wt%以上、好ましくは0.02wt%以上、より好ましくは0.05wt%以上、さらに好ましくは0.10wt%以上、2.5wt%以下、好ましくは2.0wt%以下、より好ましくは1.5wt%以下となる量が望ましい。
【0057】
硝化抑制剤を余剰汚泥に添加する場合の添加量は、余剰汚泥重量に対するジチオカルバミン酸塩の添加率が0.05wt%以上、好ましくは0.1wt%以上、より好ましくは0.3wt%以上、20wt%以下、好ましくは5.0wt%、より好ましくは3.0wt%以下となる量が望ましい。
【実施例0058】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
[実施例1]
被処理水として、レストランの厨房排水(pH6.0、SS150mg/L、BOD300mg/L、アンモニア性窒素43mg/L)を用いて、表1に示す仕様及び条件の生物処理槽及び重力式沈殿槽を用いて、本発明の硝化抑制方法を行った。
【0060】
【0061】
種汚泥として、すでに硝化により汚泥浮上が発生しているレストランの厨房排水処理設備の余剰汚泥(SS12,000mg/L)を用いた。2wt%水酸化ナトリウム水溶液を用いて、生物処理槽内の汚泥を含む被処理水のpHを6.5~7に調整し、生物処理を連続的に行った。
【0062】
運転開始直後に、硝化抑制剤を、生物処理槽の水量に対して表2に示す添加量で1回添加した後3日間の連続運転を行い、1日に1回、生物処理槽内の活性汚泥を含む被処理水を採取して孔径1μmのMF膜によりろ過して得られたろ過水の亜硝酸性窒素濃度と硝酸性窒素濃度を測定した。硝化抑制剤の生物処理槽への添加地点は、生物処理槽の被処理水流入部である。
【0063】
硝化抑制剤及びその添加量を表2に示すように変更して、ろ過水の亜硝酸性窒素濃度と硝酸性窒素濃度を測定した。亜硝酸性窒素濃度はいずれの場合も0.2mg/L以下であった。硝酸性窒素濃度の測定結果を表2に示す。
【0064】
使用した硝化抑制剤は以下のとおりである。
・チオ尿素:10wt%チオ尿素水溶液
・アリルチオ尿素:5wt%アリルチオ尿素水溶液
・硝化抑制剤1::50wt%濃度のジエチルジチオカルバミン酸カリウム水溶液
・硝化抑制剤2:50wt%濃度のピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウム水溶液
・硝化抑制剤3:硝化抑制剤1と10wt%チオ尿素水溶液との1:5(容量比)混合液(ジエチルジチオカルバミン酸カリウム:チオ尿素=1:1(重量比))
・硝化抑制剤4:硝化抑制剤1と5wt%アリルチオ尿素水溶液との1:10(容量比)混合液(ジエチルジチオカルバミン酸カリウム:アリルチオ尿素=1:1(重量比))
【0065】
表2中「薬剤添加量」は硝化抑制剤の添加量を意味し、「薬剤添加率」は硝化抑制剤の添加率を意味し、「有効成分添加率」はチオ尿素、アリルチオ尿素、ジエチルジチオカルバミン酸カリウム、又はピペラジン-N,N’-ビスカルボジチオ酸カリウムの添加率を意味する。硝化抑制剤3の「有効成分添加率」は各有効成分の添加率を「/」で区切って、すなわちジエチルジチオカルバミン酸カリウムの添加率/チオ尿素の添加率を示し、硝化抑制剤4の「有効成分添加率」は各有効成分の添加率を「/」で区切って、すなわちジエチルジチオカルバミン酸カリウムの添加率/アリルチオ尿素の添加率を示す。
【0066】
【0067】
硝化による汚泥浮上が発生している余剰汚泥を種汚泥として用いたため、硝化抑制剤を添加しない状態(No.1の添加率0mg/L)で、運転開始1日後で硝酸性窒素濃度が28.5mg/L、運転開始2日後で28.0mg/L、運転開始3日後29.3mg/Lであり、運転開始1日後で完全に硝化していることが確認できた。
【0068】
硝化抑制剤としてチオ尿素のみを用いた場合(No.2~4)、添加量が20mg/Lでは運転開始1日後に20.1mg/L、2日後に26.5mg/L、3日後に29.8mg/Lであり、硝化抑制効果が認められなかった。添加量を40mg/Lに増やすと、1日後の硝酸性窒素濃度は8.8mg/Lに低下したが、2日後には23.8mg/Lとなり、硝化抑制効果が持続しなかった。添加量を60mg/Lに増やすと、1日後の硝酸性窒素濃度は2.3mg/Lまで低下し、2日後に15.1mg/L、3日後に28.2mg/Lとなり、短期間の硝化抑制効果は認められたが、持続しないことが確認された。
【0069】
硝化抑制剤としてアリルチオ尿素のみを用いた場合(No.5~7)、添加量が2mg/Lで1日後に硝酸性窒素濃度が16.3mg/Lに低下したが、2日後には22.3mg/L、3日後には27.9mg/Lとなり、硝化抑制効果が持続しなかった。添加量を5mg/L及び10mg/Lに増やすと1日後の硝酸性窒素濃度は5.8mg/L及び3.3mg/Lに低下したが、2日後には16.8mg/L及び12.1mg/Lに上昇し、3日後には26.3mg/L及び23.2mg/Lとなり、短期間の硝化抑制効果は認められたが、持続しないことが確認された。
【0070】
硝化抑制剤としてジチオカルバミン酸塩の水溶液を用いた場合(No.8~13)、添加量が2mg/Lで硝酸性窒素濃度は10.3mg/L(No.8)及び9.5mg/L(No.11)に低下し硝化抑制効果の即効性が確認され、3日後でも19.9mg/L(No.8)及び17.8mg/L(No.11)と硝化抑制効果が持続することが確認された。添加量を5mg/Lに増やすと1日後に6.5mg/L(No.9)及び4.6mg/L(No.12)まで低下し硝化抑制効果の即効性が確認され、3日後でも11.4mg/L(No.9)及び10.1mg/L(No.12)と硝化抑制効果が持続することが確認された。さらに添加量を10mg/Lに増やすと、1日後に3.3mg/L(No.10)及び3.0mg/L(No.13)まで低下し硝化抑制効果の即効性が確認され、3日後でも8.9mg/L(No.10)及び7.4mg/L(No.13)と硝化抑制効果の持続性が確認された。硝化抑制剤としてジチオカルバミン酸塩の水溶液を用いる場合には、2.0mg/L以上の添加量、好ましくは5.0mg/L以上の添加量とすることで、硝化抑制効果の即効性と持続性がともに発揮されることが確認できた。
【0071】
硝化抑制剤としてジチオカルバミン酸塩とチオ尿素とを併用した場合(No.14~16)、2mg/L及び5mg/Lの添加量ではジチオカルバミン酸塩単独よりも硝化抑制効果が高くなるが、10mg/Lの添加量では単独の場合と同等である。
【0072】
硝化抑制剤としてジチオカルバミン酸塩とアリルチオ尿素とを併用した場合(No.17~19)、2mg/Lの添加量ではジチオカルバミン酸塩単独よりも硝化抑制効果が高くなるが、5mg/L以上の添加量では単独の場合と同等である。
【0073】
以上より、ジチオカルバミン酸塩を主成分とする硝化抑制剤(チオ尿素又はアリルチオ尿素との併用を含む)は、従来の硝化抑制剤(チオ尿素又はアリルチオ尿素)よりも即効性及び持続性のある硝化抑制効果を発揮すること、ジチオカルバミン酸塩とチオ尿素又はアリルチオ尿素とを併用することで少量の添加量での硝化抑制効果が改善されることが確認できた。
【0074】
[実施例2]
実施例1の被処理水と装置を用いて、
図2に示す処理フローにて、重力式沈殿槽20から引き抜いた返送汚泥(SS10,000mg/L)に、実施例1の硝化抑制剤1を約2時間かけて添加した後、約0.5m
3/日の汚泥返送量で生物処理槽10に供給し、生物処理槽のMLSS濃度を4,000mg/Lに維持して、硝化抑制試験を行った。比較のため、硝化抑制剤としてチオ尿素のみを添加して同様の硝化抑制試験を行った。結果を表3に示す。
【0075】
【0076】
チオ尿素のみを返送汚泥に添加した場合(No.20)、実施例1の生物処理槽に直接添加する場合(表2のNo.4)とほぼ同等の結果となった。チオ尿素のみの場合には、生物処理槽に添加しても、返送汚泥に添加しても硝化抑制効果に変化は認められなかった。
【0077】
硝化抑制剤1を返送汚泥に添加すると、実施例1の生物処理槽に直接添加する場合と比較して、添加量を削減でき、硝化抑制効果の持続性が向上することが確認できる。よって、硝化細菌を多く含む返送汚泥にジチオカルバミン酸塩を添加することで、硝化細菌の硝化活性を低減できると考えられる。また、ジチオカルバミン酸塩は汚泥に吸着されやすく、生物処理槽内に留まり、硝化抑制効果を発揮し続けると考えられる。
【0078】
[実施例3]
実施例1の被処理水と装置を用いて、
図4に示す処理フローにて、重力式沈殿槽20から引き抜かれる返送汚泥(SS10,000mg/L)を約0.5m
3/日の返送量で生物処理槽10に返送して生物処理槽内のMLSS濃度を4,000mg/Lに維持し、重力式沈殿槽20から引き抜かれる余剰汚泥(SS10,000mg/L)に実施例1の硝化抑制剤1を添加した後、約0.2m
3/日の供給量で生物処理槽10に添加して硝化抑制試験を行った。生物処理槽10への返送汚泥及び余剰汚泥の供給地点はいずれも被処理水流入部である。生物処理槽のBOD汚泥負荷の設計値は0.1kg/kg・日である。結果を表4に示す。
【0079】
【0080】
硝化抑制剤を生物処理槽に直接供給する実施例1と比較すると、No.26は硝化抑制剤の添加量が1mg/LでNo.8の半分であるが、No.8と同等の硝化抑制効果を示し、No.27はNo.8と同量の添加量であり、No.28はNo.9と同量の添加量であるが、いずれも添加1日後~3日後のすべてにおいて硝酸性窒素濃度が減少しており、硝化抑制効果の即効性及び持続性が向上していることが確認できる。
【0081】
硝化抑制剤を添加した返送汚泥だけを生物処理槽に供給する実施例2と比較すると、添加量が同量であるNo.26とNo.22、No.27とNo.23、No.28とNo.24のいずれの比較においても、返送汚泥に加えて、硝化抑制剤を添加した余剰汚泥を生物処理槽に供給する本実施例の方が、硝酸性窒素濃度が減少しており、硝化抑制効果の即効性及び持続性が向上していることが確認できる。
【0082】
[実施例4]
実施例1の被処理水と装置を用いて、
図5に示すように、重力式沈殿槽20から引き抜かれる返送汚泥(SS10,000mg/L)を約0.5m
3/日の返送量で生物処理槽10の前半部12の基端12aに返送して生物処理槽内のMLSS濃度を4,000mg/Lに維持し、重力式沈殿槽20から引き抜かれる余剰汚泥(SS10,000mg/L)に実施例1の硝化抑制剤1を添加した後、約0.2m
3/日の供給量で生物処理槽10の後半部14の基端14aに供給して、硝化抑制試験を行った。生物処理槽のBOD汚泥負荷の設計値は0.1kg/kg・日であり、後半部のBOD汚泥負荷の理論値は0.2kg/kg・日である。結果を表5に示す。
【0083】
【0084】
硝化抑制剤を添加した余剰汚泥を生物処理槽の前半部に添加する実施例3と比較すると、同量の添加量であるNo.29とNo.26、No.30とNo.27、No.31とNo.28のいずれの比較においても、硝化抑制剤を添加した余剰汚泥を生物処理槽の後半部に添加する本実施例の方が、硝酸性窒素濃度が減少しており、硝化抑制効果の即効性及び持続性が向上していることが確認できる。
【0085】
以上の実施例から、(1)硝化抑制剤を用いることにより生物処理槽内での硝化を抑制できること、(2)硝化抑制剤の添加態様は、(a)生物処理槽へ直接添加する態様、(b)返送汚泥に添加してから生物処理槽に供給する態様、(b)余剰汚泥に添加してから生物処理槽の返送汚泥の供給場所と同じ前半部に供給する態様、(c)余剰汚泥に添加してから生物処理槽の返送汚泥の供給場所より下流側の後半部に供給する態様の順で、硝化抑制効果の即効性及び持続性が向上することがわかる。返送汚泥に硝化抑制剤を添加してから生物処理槽に添加し、余剰汚泥に硝化抑制剤を添加してから生物処理槽の後段に添加する態様では、生物処理槽前段での硝化抑制効果と、生物処理槽後段での硝化抑制効果が得られ、返送汚泥及び余剰汚泥に添加する硝化抑制剤の添加量を削減できると考えられる。