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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139742
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】片側スポット溶接方法及び制御装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 11/24 20060101AFI20230927BHJP
   B23K 11/11 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
B23K11/24 315
B23K11/11 540
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045433
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】木許 圭一郎
(72)【発明者】
【氏名】岡村 麻人
(72)【発明者】
【氏名】岸本 匡史
【テーマコード(参考)】
4E165
【Fターム(参考)】
4E165AA02
4E165AA03
4E165AA04
4E165AB02
4E165AB13
4E165BB02
4E165BB13
4E165BB25
4E165CA02
4E165CA05
4E165EA14
(57)【要約】
【課題】片側スポット溶接において、上板が厚い場合でも、板隙の有無に関わらず良好なナゲットを形成する。
【解決手段】溶接電極10で接合予定部P1を厚さ方向一方側から加圧しながら両電極10,20間に通電する第1のステップS1の後、溶接電極10で、第1のステップS1の加圧力F1よりも大きい加圧力F2で接合予定部P1を厚さ方向一方側から加圧しながら両電極10,20間に通電する第2のステップS2を行う。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重ね合わせた複数の金属板からなる板組みの接合予定部を厚さ方向一方側から一方の電極で押圧すると共に、前記板組みの前記接合予定部以外の領域に他方の電極を当接させ、前記接合予定部を厚さ方向他方側からは支持しない状態で、両電極間に通電して溶接を行う片側スポット溶接方法において、
前記一方の電極で前記接合予定部を厚さ方向一方側から加圧しながら、両電極間に通電する第1のステップと、
前記一方の電極で、前記第1のステップの加圧力よりも大きい加圧力で前記接合予定部を厚さ方向一方側から加圧しながら、両電極間に通電する第2のステップとを順に行う片側スポット溶接方法。
【請求項2】
重ね合わせた複数の金属板からなる板組みの接合予定部を厚さ方向一方側から一方の電極で押圧すると共に、前記板組みの前記接合予定部以外の領域に他方の電極を当接させ、前記接合予定部を厚さ方向他方側からは支持しない状態で、両電極間に通電して溶接を行う片側スポット溶接装置に接続される制御装置であって、
前記一方の電極で前記接合予定部を厚さ方向一方側から加圧しながら、両電極間に通電する第1のステップと、
前記一方の電極で、前記第1のステップの加圧力よりも大きい加圧力で前記接合予定部を厚さ方向一方側から加圧しながら、両電極間に通電する第2のステップとを順に行うように、前記一方の電極の加圧力及び両電極間の電流値を制御する制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、片側スポット溶接方法及び制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
スポット溶接方法としては、重ね合わせた複数の金属板からなる板組みを一対の電極を挟み込んで通電するダイレクトスポット溶接が多く用いられる。しかし、部品の形状によっては、板組みの接合予定部を一対の電極で挟み込むことができず、ダイレクトスポット溶接を適用できないことがある。この場合、板組みの接合予定部に厚さ方向一方側のみから電極を押し当て、接合予定部を厚さ方向他方側からは支持しない状態で溶接する「片側スポット溶接」が適用されることがある。片側スポット溶接としては、板組みの接合予定部を厚さ方向一方側から溶接電極で加圧すると共に、板組みのうち、接合予定部とは異なる部位にアース電極を当接させた状態で両電極間に通電するインダイレクトスポット溶接(図1参照)や、一対の電極を板組みに厚さ方向一方側から押し当てて通電することにより2箇所を同時に溶接するシリーズスポット溶接(図5参照)が知られている。
【0003】
溶接すべき板組みには、金属板同士が互いに接触している部分や、金属板間に僅かな隙間(板隙)が設けられている部分がある。ダイレクトスポット溶接では、板組みの接合予定部に板隙がある場合でも、一対の電極で板組みを挟み込むことで金属板同士を確実に接触させることができるため、板隙の有無が溶接品質に影響を与えることはほとんど無い。
【0004】
一方、片側スポット溶接では、電極で板組みを厚さ方向一方側のみから加圧するため、板組みが変形しやすい。そのため、片側スポット溶接における電極による加圧力は、ダイレクトスポット溶接における加圧力よりも小さくせざるを得ない。このように、片側スポット溶接では、電極による加圧力が小さいため、板組みの接合予定部に板隙が生じていると、電極の加圧力で板隙を詰めきれず、金属板同士を接触させることができないことがある。そのため、片側スポット溶接では、板隙の有無や大きさが溶接品質に影響しやすい。
【0005】
例えば、下記の特許文献1には、インダイレクトスポット溶接において、通電期間の前半は高加圧力・低電流値とし、通電期間の後半は低加圧力・高電流値とする加圧通電パターンが示されている。このように、通電期間の前半に高加圧力で加圧しながら低電流値を通電することで、スパッタを防止しながら金属板同士の接触面積を増大させている。こうして金属板同士の接触面積を確保した状態で、通電期間の後半で加圧力を下げると共に電流値を上げることで、板隙の有無に関わらずナゲットを確実に形成することができる、とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2019-206024号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1に示されているような加圧通電パターンでは、特に溶接電極と接触する金属板(以下、「上板」と言う。)の板厚が大きい場合に、板隙の変動に対応することが難しいことが明らかになった。すなわち、上板の板厚が大きいと上板が変形しにくいため、板組みの接合予定部に板隙が形成されている場合、上板を電極で加圧しても板隙が詰まりにくい。そのため、金属板同士の接触面積が過小となり、電流密度が過大となって、溶け落ちが発生する。この場合、通電期間の前半における電極の加圧力を大きくすれば、板隙を詰めて金属板同士の接触面積を確保することができる。しかし、電極の加圧力を大きくすると、板隙が0の場合に金属板同士の接触面積が過大となるため、電流密度が高まりにくく、ナゲットが形成されにくくなる。この場合、通電後半に通電量を上げても、接触面積が過大であるため、十分な大きさのナゲットが形成されにくい。
【0008】
以上のように、上板が厚い場合、板隙が無い場合と板隙がある場合とで金属板同士の接触面積の差が大きくなるため、電流値や加圧力の調整だけでは接触面積のギャップを埋めきれず、溶接不良が生じやすい。
【0009】
そこで、本発明は、片側スポット溶接において、上板が厚い場合でも、板隙の有無に関わらず良好なナゲットを形成することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
一般に、スポット溶接は、通電期間の前半に金属板同士を接触させた後、通電期間の後半に金属板同士の接触部にナゲットを形成してこれを成長させる、というステップを経て行われる。この場合、板隙がある場合でもない場合でも、ナゲットの形成は主に通電期間の後半に行われることになる。本発明者らは、板隙がある場合とない場合とでナゲットを形成するタイミングを異ならせることで、何れの場合でも良好なナゲットを形成できることを見出した。
【0011】
具体的に、本発明は、重ね合わせた複数の金属板からなる板組みの接合予定部を厚さ方向一方側から一方の電極で押圧すると共に、前記板組みの前記接合予定部以外の領域に他方の電極を当接させ、前記接合予定部を厚さ方向他方側からは支持しない状態で、両電極間に通電して溶接を行う片側スポット溶接方法において、
前記一方の電極で前記接合予定部を厚さ方向一方側から加圧しながら、両電極間に通電する第1のステップと、
前記一方の電極で、前記第1のステップの加圧力よりも大きい加圧力で前記接合予定部を厚さ方向一方側から加圧しながら、両電極間に通電する第2のステップとを順に行うことを特徴とする。
【0012】
このように、本発明に係る片側スポット溶接方法では、第1のステップでは一方の電極による加圧力を低加圧力とし、その後の第2のステップで高加圧力とした。板隙が実質的に0の場合(金属板同士が接触しているか、あるいは無視できるほど小さな隙間が形成されている場合)、第1のステップの低加圧力でも金属板同士が接触するため、この接触部に通電することでナゲットが形成される。その後、第2のステップで加圧力を上げても、既にナゲットが形成されていることで金属板同士の接触面積が十分に確保されているため、電流密度が高まらず、ナゲットの状態はほとんど変化しない。従って、第1のステップで形成されたナゲットの品質(大きさ)が維持される。一方、板隙がある場合、特に上板の板厚が大きいと、第1のステップの低加圧力では一方の電極の加圧力により上板がほとんど変形せず、金属板同士が非接触の状態となるため、接合予定部には通電されない。そして、第2のステップの高加圧力により金属板同士を接触させ、この接触部(接合予定部)に通電することで接触部を発熱・溶融させて、ナゲットが形成される。
【0013】
上記の片側スポット溶接方法では、第2のステップにおける最大電流値を、第1のステップにおける最大電流値よりも大きくすることが好ましい。このように、低加圧力の第1のステップにおける電流値を抑えることで、第1のステップでナゲットを形成するとき(板隙が実質的に0のとき)のスパッタの発生を抑えることができる。また、第2のステップにおける電流値を大きくすることで、第2のステップでナゲットを形成するとき(板隙があるとき)の金属板同士の接触部における電流密度が高くなるため、ナゲットを十分に成長させることができる。
【0014】
上記の片側スポット溶接方法は、第1のステップにおいて、通電開始から電流値を徐々に大きくすることが好ましい。これにより、第1のステップでナゲットを形成する際、スパッタの発生を防止しながら、金属板同士の接触部における電流密度を高めてナゲットを確実に形成することができる。
【0015】
上記の片側スポット溶接方法では、第1のステップの通電時間を、前記第2ステップの通電時間よりも長くすることが好ましい。このように、第1のステップの通電時間を十分に確保することで、板隙が実質的に0の場合に、第1のステップで十分な大きさのナゲットを形成することができる。
【0016】
上記の片側スポット溶接方法では、第1のステップと第2のステップとの間に、第1のステップの終期における電流値よりも低い電流値で通電する中間ステップを設けることが好ましい。板隙が実質的に0の場合、第1のステップで形成されたナゲットを、低電流の中間ステップで一旦冷却することにより、その後の第2ステップでのナゲットの拡大が抑えられるため、ナゲットの状態(大きさ)を維持しやすくなる。一方、板隙がある場合、第1のステップではナゲットが形成されないため、中間ステップで状況はほとんど変わらず、その後の第2ステップで高加圧力で加圧しながら通電することでナゲットを形成することができる。
【発明の効果】
【0017】
以上のように、本発明の片側スポット溶接方法では、板隙が実質的に0の場合は前半の第1のステップでナゲットを形成し、板隙がある場合は後半の第2のステップでナゲットを形成するようにした。これにより、上板が厚い場合でも、板隙の有無に関わらず、良好なナゲットを形成することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】インダイレクトスポット溶接を行う様子を示す断面図である。
図2】本発明の一実施形態に係るインダイレクトスポット溶接の電流値及び加圧力の経時変化(加圧・通電パターン)を示すグラフである。
図3】上記加圧・通電パターンで溶接を施した板組みの状態を示す断面図である。
図4】他の実施形態に係る加圧・通電パターンを示すグラフである。
図5】シリーズスポット溶接を行う様子を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0020】
本実施形態では、図1に示すように、重ね合わせた上板1及び下板2からなる板組み3の接合予定部P1を、片側スポット溶接の一種であるインダイレクトスポット溶接により接合する場合を示す。上板1及び下板2は、何れも金属板、例えば鋼板である。本実施形態では、上板1及び下板2が軟鋼板(引張強度340MPa以下の鋼板)であり、具体的には亜鉛メッキ軟鋼板である。この他、上板1及び下板2の一方又は双方を、高張力鋼板(引張強度490MPa以上の鋼板)や超高張力鋼板(引張強度980MPa以上の鋼板)としてもよい。図示例では、上板1が下板2よりも厚くなっており、すなわち、上板1の板厚t1と下板2の板厚t2との比t1/t2が1より大きくなっている。尚、両板1,2の板厚比t1/t2は、1.2以上、さらには1.4以上であってもよい。
【0021】
本実施形態のインダイレクトスポット溶接方法は、インダイレクトスポット溶接装置と、これに接続された制御装置とを有する溶接設備により行われる。
【0022】
インダイレクトスポット溶接装置は、溶接電極10と、アース電極20と、両電極10,20間に通電するための電源30と、溶接電極10を軸心方向(図中矢印参照)に加圧する駆動手段(例えば、エアシリンダ)とを有する。溶接電極10は、接合予定部P1の真上に配される。アース電極20は、板組み3のうち、接合予定部P1以外の領域に当接される。図示例では、溶接電極10を上板1に上方から当接させると共に、アース電極20を下板2に下方から当接させている。この他、アース電極20を下板2に上方から当接させたり、溶接電極10及びアース電極20を共に上板1に当接させたりしてもよい。
【0023】
制御装置は、組み込まれた制御プログラムに従って、駆動手段による溶接電極10の加圧力と、溶接電極10とアース電極20との間の電流値(本実施形態では、電源30の電圧)を制御する。
【0024】
本実施形態に係る溶接方法では、時間の経過と共に加圧力及び電流値を変えながら溶接を行う。図2は、本実施形態に係る加圧力及び電流値の経時的変化を示す加圧・通電パターンである。図2に示すように、本実施形態の溶接方法は、第1のステップS1と、第2のステップS2と、これらの間に設けられた中間ステップSmとを有する。
【0025】
第1のステップS1では、溶接電極10による加圧力が一定の加圧力F1で維持される。インダイレクト溶接における加圧力は、ダイレクトスポット溶接における加圧力よりも格段に小さい。加圧力は、板組みの材質や厚さ等により異なるが、一般に、ダイレクトスポット溶接における加圧力が1500~5000N程度であるのに対し、インダイレクト溶接における加圧力は200~1000N程度とされる。本実施形態のように軟鋼板からなる板組み3をインダイレクトスポット溶接で接合する場合、第1のステップS1の加圧力F1は、例えば200~400Nとされる。
【0026】
本実施形態では、第1のステップS1の通電パターンが、通電開始から電流値を徐々に大きくする傾斜部S1aを有する。また、傾斜部S1aの後に、傾斜部S1aの最大電流値C1よりも大きい電流値C2で所定時間通電する高電流部S1bが設けられる。この高電流部S1bの電流値C2が、第1のステップS1における最大電流値となる。
【0027】
中間ステップSmでは、溶接電極10の加圧力をF1からF2まで徐々に大きくする。具体的には、溶接電極10を駆動する駆動手段に加圧力上昇の指令を出したとき、加圧力が瞬時にF2まで上昇するのではなく、駆動手段の構造上、F2まで徐々に上昇する移行期間が必然的に設けられ、この移行期間が中間ステップSmとなる。中間ステップSmでは、第1のステップS1の終期における電流値(すなわち、高電流部S1bの電流値C2)よりも低い電流値C3で通電する。図示例では、中間ステップSmにおける電流値C3が、第1のステップS1の終期の電流値C2の1/2以下となっている。尚、中間ステップSmにおける電流値は0より大きく、第1のステップS1と第2のステップS2との間で通電を停止することなく連続的に通電される。
【0028】
第2のステップS2では、第1のステップS1の加圧力F1よりも大きい一定の加圧力F2で維持される。本実施形態では、第2のステップS2の加圧力F2が、例えば400~600Nとされる。本実施形態では、第2のステップS2で、電流値を段階的に上昇させており、図示例では2段階で上昇させている。具体的には、中間ステップSmの電流値C3よりも高い電流値C4で所定時間通電した後、さらに電流値をC5まで上昇させて通電している。第2のステップS2における最大電流値C5は、第1のステップS1における最大電流値C2よりも大きい。図示例では、第2のステップS2の全域における電流値C4,C5が、第1のステップS1における最大電流値C2よりも大きい。
【0029】
第1のステップS1の通電時間は、第2のステップS2の通電時間よりも長い。本実施形態では、第1のステップS1の通電時間が、第2のステップS2の通電時間の2倍以上とされる。例えば、第1のステップS1の通電時間が5~30サイクル、第2のステップS1の通電時間が5~10サイクル、中間ステップSmの通電時間が5~10サイクルとされる。尚、1サイクルは、交流電源の周波数の逆数であり、例えば1/60秒である。
【0030】
以下に、板隙が実質的に0である接合予定部P1に対して、上記の加圧・通電パターンでインダイレクトスポット溶接を施す場合を説明する。
【0031】
まず、第1のステップS1で、溶接電極10により板組み3の接合予定部P1を低加圧力F1で加圧しながら、電極10,20間に通電する。このとき、上板1と下板2間の板隙は実質的に0であるため、板組み3の接合予定部P1を溶接電極10で加圧することで、低加圧力F1でも両板1,2が接触し、この接触部及び電極10,20を通る通電経路Lが形成される。この通電経路Lに通電することで、両板1,2の接触部が発熱・溶融し、ナゲットNが形成される{図3の(a)欄参照}。
【0032】
本実施形態では、第1のステップS1の通電時間が第2のステップS2の通電時間よりも長いため、両板1,2の接触部に十分なエネルギーを投入することができ、ナゲットNが形成されやすくなる。本実施形態では、電流値を通電開始の0の状態から徐々に上げている(傾斜部S1a)。これにより、第1ステップS1の前半では、両板1,2の接触部における電流密度の急激な上昇を回避して、スパッタの発生を防止できる。そして、第1ステップS1の後半で電流値を上げることで、両板1,2の接触部における電流密度を高めて、ナゲットNを形成することができる。本実施形態では、傾斜部S1aの後に、傾斜部S1aの最大電流値C1よりも高い電流値C2で通電する高電流部S1bを設けることで、ナゲットNの成長を促進している。
【0033】
中間ステップSmでは、第1のステップS1の終期の電流値C2よりも低い電流値C3で通電しながら、加圧力をF1からF2まで上昇させる(図2参照)。このように、電流値をC3まで下げることで、第1のステップS1で形成されたナゲットNが一旦冷却される。
【0034】
第2のステップS2では、溶接電極10により板組み3の接合予定部P1を加圧力F2で加圧しながら、電極10,20間に通電する。このとき、上板1と下板2の接触部には既にナゲットNが形成されているため、両板1,2の接触面積は十分に確保されている。従って、その後の第2のステップS2で高加圧力F2で加圧しながら通電しても、電流密度が高まらないため、発熱量は小さい。従って、ナゲットNがそれ以上成長することはなく、第1のステップS1で形成されたナゲットNの大きさ(径)が維持される{図3の(b)欄参照}。
【0035】
次に、板隙(例えば1mm)がある接合予定部P1に対して、上記の加圧・通電パターンでインダイレクトスポット溶接を施す場合を説明する。
【0036】
まず、第1のステップS1で、溶接電極10により板組み3の接合予定部P1を低加圧力F1で加圧しながら、電極10,20間に通電する。このとき、上板1と下板2間には板隙があるため、低加圧力F1では両板1,2が接触しない{図3の(c)欄参照}。特に、本実施形態では、上板1の板厚が下板2よりも厚いため、上板1が変形しにくく、低加圧力F1で加圧しても上板1と下板2とが接触しない。このように、上板1と下板2とが非接触の状態で通電しても、接合予定部P1にナゲットは形成されない。
【0037】
中間ステップSmでは、電流値C3で通電しながら、加圧力をF1からF2まで上昇させる。本実施形態では、上板1の板厚が厚いため、加圧力をF2まで上昇させても上板1が変形しにくく、上板1と下板2とが非接触の状態で維持される。尚、加圧力F1からF2まで上昇させている間に、上板1と下板2とが接触する可能性もある。この場合でも、中間ステップSmの電流値C3を低くしていることで、両板1,2の接触部でのスパッタの発生を防止できる。
【0038】
第2のステップS2では、溶接電極10により板組み3の接合予定部P1を加圧力F2で加圧しながら、電極10,20間に通電する。このとき、電流値を、中間ステップSmの電流値C3よりも高い電流値、好ましくは、第1のステップS1の最大電流値C2よりも高い電流値C3で通電することで、電極10と接触する上板1が軟化されて変形しやすくなる。これにより、上板1と下板2との間の隙間が詰まって両板1,2が接触し、この接触部及び電極10,20を通る通電経路Lに通電され、両板1,2の接触部が発熱・溶融してナゲットNが形成される{図3の(d)欄参照}。特に、本実施形態では、第2のステップS2で電流値を段階的に上昇させることで、上板1と下板2との接触部に大きなエネルギーが供給され、ナゲットNの成長が促進される。
【0039】
以上のように、本実施形態のインダイレクトスポット溶接方法では、板隙の大きさによって、ナゲットNが形成されるタイミングを意図的に異ならせている。具体的に、接合予定部P1の板隙が非常に小さい場合(実質的に0の場合)は、通電期間の前半に設けられた第1のステップS1でナゲットNを形成し、接合予定部P1にある程度の板隙が形成されている場合は、通電期間の後半に設けられた第2のステップS2でナゲットNを形成するようにした。これにより、上板1の厚さが厚い場合でも、板隙の有無に関わらず、溶け落ちを回避しながら、十分な大きさナゲットを形成することが可能となる。
【0040】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0041】
第1のステップS1の通電パターンは上記に限らず、例えば図4に示すように、高電流部S1bを省略し、傾斜部S1aの最大電流値C1で第1のステップS1の終期まで通電してもよい。この他、高電流部S1bの電流値を段階的に上昇させてもよい。
【0042】
また、第2のステップS2の通電パターンは上記に限らず、例えば図4に示すように、電流値を3段階以上で上昇させてもよい。また、第2のステップS2において、電流値を段階的ではなく、連続的に上昇させてもよい。
【0043】
本発明は、インダイレクトスポット溶接に限らず、図5に示すようなシリーズスポット溶接にも適用可能である。このシリーズスポット溶接装置は、溶接電極11,12と、両電極11,12間に通電するための電源30と、各溶接電極11,12を軸心方向(図中矢印参照)に加圧する駆動手段とを有する。板組み3の接合予定部P1,P2を、厚さ方向一方側(図中上方)から溶接電極11,12で押圧する。この状態で、上記の実施形態と同様の加圧・通電パターンで溶接を行うことで、板組みの接合予定部P1,P2にナゲットが形成される。
【符号の説明】
【0044】
1 上板(金属板)
2 下板(金属板)
3 板組み
10 溶接電極(一方の電極)
20 アース電極(他方の電極)
30 電源
L 通電経路
N ナゲット
P1,P2 接合予定部
S1 第1のステップ
S1a 傾斜部
S1b 高電流部
S2 第2のステップ
Sm 中間ステップ
図1
図2
図3
図4
図5