(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139753
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】射出成形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 45/16 20060101AFI20230927BHJP
B29C 45/13 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
B29C45/16
B29C45/13
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045447
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107423
【弁理士】
【氏名又は名称】城村 邦彦
(74)【代理人】
【識別番号】100120949
【弁理士】
【氏名又は名称】熊野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100155457
【弁理士】
【氏名又は名称】野口 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】植村 俊基
【テーマコード(参考)】
4F206
【Fターム(参考)】
4F206AH17
4F206JA07
4F206JB28
4F206JL02
4F206JM04
4F206JN12
4F206JN14
4F206JN15
4F206JN16
4F206JQ81
(57)【要約】
【課題】グラデーションを形成可能な2色成形方法を提供する。
【解決手段】一次ゲート4から一次樹脂R1をキャビティ3に射出し、一次樹脂R1が二次ゲート5を通過した後に、二次ゲート5から二次樹脂R2をキャビティ3に射出する。一次ゲート4からキャビティ3への一次樹脂R1の供給を停止した後、二次ゲート5からキャビティ3への二次樹脂R2の供給を停止することにより、キャビティ3内における一次樹脂R1の流速を、キャビティ3内における二次樹脂R2の流速よりも小さくする。
【選択図】
図9
【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャビティと、前記キャビティに開口した一次ゲート及び二次ゲートとを有する金型を用いて行う射出成形方法において、
前記一次ゲートから一次樹脂を前記キャビティに供給する工程と、
前記一次樹脂が前記二次ゲートを通過した後に、前記二次ゲートから、前記一次樹脂と異なる色を有する二次樹脂を前記キャビティに供給する工程と、
前記キャビティ内における前記一次樹脂の流速を、前記キャビティ内における前記二次樹脂の流速よりも小さくする工程とを有する射出成形方法。
【請求項2】
一次樹脂からなる一次成形部分と、前記一次樹脂と異なる色を有する二次樹脂からなる二次成形部分と、前記一次成形部分と前記二次成形部分との間に設けられたグラデーション部分とを有する射出成形品であって、
前記グラデーション部分が、厚さ方向両側の表面に設けられた前記一次樹脂からなる表層と、前記表層の厚さ方向間に設けられた前記二次樹脂からなる内側層とを有し、
前記グラデーション部分の前記表層の厚さが、前記一次成形部分側から前記二次成形部分側に向けて徐々に薄くなっている射出成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
射出成形法として、場所によって色が異なる成形品を同一金型で成形する、いわゆる2色成形法が知られている。2色成形法としては、例えば、コアバック式と呼ばれるものが知られている(例えば、下記の特許文献1の
図6参照)。具体的には、
図15に示すように、固定型210、可動型220、及びコア230で一次キャビティを形成し、この一次キャビティに一次ゲート211から一次樹脂を射出して、一次成形部分Aを成形する。次に、
図16に示すようにコア230を後退させ、固定型210、コア230、及び一次成形部分Aとで二次キャビティを形成し、この二次キャビティに二次ゲート212から二次樹脂を射出して、一次成形部分Aと一体化した二次成形部分Bを成形する(
図17参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、樹脂成形品は、無機的な印象を与える影響が強いため、意匠性向上手法の一つとして、異なる色の部分の境界で色を連続的に変化させる、いわゆるグラデーションを設けることが検討されている。グラデーションを設けることで、より立体的で有機的な視覚効果を生むことができる。しかし、
図15~17に示されたような方法で成形された2色成形品では、一次成形部分Aと二次成形部分Bとの境界で色が切り替わるため、連続的に色を変化させることはできない。
【0005】
そこで、本発明は、グラデーションを形成可能な2色成形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
キャビティに樹脂を射出すると、高温の樹脂が金型表面に接する部分から固化し始めるため、厚さ方向中央側ほど流速が速くなる。そのため、樹脂の流れ方向下流側端部では、厚さ方向中央から両側に向けて樹脂が流れる、いわゆるファウンテンフロー現象が現れる(
図9の矢印参照)。本発明は、このファウンテンフロー現象を利用して、グラデーションを形成することを特徴とするものである。
【0007】
すなわち、本発明は、キャビティと、前記キャビティに開口した一次ゲート及び二次ゲートとを有する金型を用いて行う射出成形方法において、
前記一次ゲートから一次樹脂を前記キャビティに供給する工程と、
前記一次樹脂が前記二次ゲートを通過した後に、前記二次ゲートから、前記一次樹脂と異なる色を有する二次樹脂を前記キャビティに供給する工程と、
前記キャビティ内における前記一次樹脂の流速を、前記キャビティ内における前記二次樹脂の流速よりも小さくする工程とを有する射出成形方法を提供する。
【0008】
このように、一次樹脂が二次ゲートを通過した後に、二次ゲートから二次樹脂をキャビティに供給すると、金型表面と接して固化した一次樹脂からなる表層(スキン層)の間を、二次樹脂が、キャビティの厚さ方向中央の未固化の一次樹脂を押し出しながら流れる。その後、例えば一次樹脂の供給を二次樹脂よりも先に停止することで、キャビティ内における一次樹脂の流速を二次樹脂の流速よりも小さくする。これにより、一次樹脂の流れ方向下流側端部への供給量が減るため、一次樹脂からなる表層の厚さが徐々に薄くなり、その表層の間から二次樹脂が下流側に飛び出す。この一次樹脂の下流側端部付近を外部から見ると、一次樹脂からなる薄い表層を介して、その奥の二次樹脂の色が透けて見える。そして、一次樹脂からなる表層が下流側に行くにつれて徐々に薄くなっていることで、一次樹脂の色から二次樹脂の色に連続的に変化するグラデーションが形成される。
【0009】
上記の射出成形方法により、一次樹脂からなる一次成形部分と、前記一次樹脂と異なる色を有する二次樹脂からなる二次成形部分と、前記一次成形部分と前記二次成形部分との間に設けられたグラデーション部分とを有する射出成形品であって、
前記グラデーション部分が、厚さ方向両側の表面に設けられた前記一次樹脂からなる表層と、前記表層の厚さ方向間に設けられた前記二次樹脂からなる内側層とを有し、
前記グラデーション部分の前記表層の厚さが、前記一次成形部分側から前記二次成形部分側に向けて徐々に薄くなっている射出成形品を得ることができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明の射出成形方法によれば、一次樹脂の色から二次樹脂の色に連続的に変化するグラデーションを形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る射出成形方法に用いる金型の断面図であり、
図2のX-X線における矢視断面図である。
【
図2】
図1の金型のキャビティをZ方向から見た側面図である。
【
図3】一次ゲートから一次樹脂を射出したときの上記金型のキャビティの側面図である。
【
図4】
図3に示す状態の金型のX-X線における矢視断面図である。
【
図5】
図3に示す状態の金型のY-Y線における矢視断面図である。
【
図6】二次ゲートから二次樹樹脂を射出したときの上記金型の断面図である。
【
図7】二次樹脂が表面に露出したときの上記金型のキャビティの側面図である。
【
図8】
図7に示す状態の金型のY-Y線における矢視断面図である。
【
図10】成形が完了したときの上記金型のキャビティの側面図である。
【
図11】
図10に示す状態の金型のY-Y線における矢視断面図である。
【
図12】他の実施形態に係る金型のキャビティの側面図である。
【
図13】さらに他の実施形態に係る金型のキャビティの側面図である。
【
図14】さらに他の実施形態に係る金型の断面図である。
【
図15】従来の2色成形を行う金型の断面図であり、一次成形部分を成形した状態を示す。
【
図16】
図15の金型で、二次キャビティを形成した状態を示す断面図である。
【
図17】
図15の金型で、二次成形部分を成形した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本実施形態の射出成形方法で使用する金型である。この金型は、板状部品、例えば自動車の外装パネル部品(バンパ等)や内装パネル部品(インストルメントパネル等)を成形するためのものである。この金型は、固定型1と可動型2とを有し、固定型1と可動型2を型締めすることによりキャビティ3が形成される。
図2に示すように、キャビティ3には、一次樹脂R1を射出するための一次ゲート4と、一次樹脂R1の異なる色を有する二次樹脂R2を射出するための二次ゲート5とが設けられる。尚、
図2では、固定型1及び可動型2の図示を省略し、キャビティ3を簡略化して矩形で示している。
【0014】
本実施形態の一次ゲート4及び二次ゲート5は、キャビティ3の側面に開口するサイドゲートである。具体的には、
図1に示すように、固定型1と可動型2を型締めすることで、一次ゲート4及び一次コールドランナ6と、二次ゲート5及び二次コールドランナ7とが形成される。固定型1には一次ホットランナ8及び二次ホットランナ9が設けられる。各ホットランナ8,9の内部にはバルブピン10が設けられ、バルブピン10を軸方向に進退させることにより、ホットランナ8,9の下流端の開口部(バルブゲート11)を開閉することができる。
【0015】
以下、上記の金型を用いてグラデーションを有する樹脂成形品を成形する方法を説明する。
【0016】
まず、
図3及び
図4に示すように、一次ホットランナ8のバルブピン10を後退させてバルブゲート11を開くことにより、一次樹脂R1を、一次コールドランナ6及び一次ゲート4を介してキャビティ3に射出する。そして、キャビティ3に射出された一次樹脂R1が二次ゲート5に達すると、
図5に示すように、一次樹脂R1が二次ゲート5から二次コールドランナ7内に逆流する。このとき、二次ホットランナ9のバルブゲート11は閉じられている。二次コールドランナ7内に侵入した一次樹脂R1は、二次ホットランナ9のバルブゲート11付近まで達し、図示例では二次コールドランナ7が一次樹脂R1で満たされる。
【0017】
そして、一次ゲート4からキャビティ3に射出された一次樹脂R1が二次ゲート5を通過した後、予め設定された所定のタイミングで、二次ホットランナ9のバルブゲート11を開く(
図6参照)。これにより、二次樹脂R2が、二次コールドランナ7及び二次ゲート5を介してキャビティ3に射出される。
【0018】
このとき、キャビティ3及び二次コールドランナ7に供給された一次樹脂R1は、金型の表面付近では金型と接触することで冷却されて固化しているが、金型の表面から離れた厚さ方向中央部では、溶融状態で維持されている。従って、二次ホットランナ9のバルブゲート11から射出された二次樹脂R2は、コールドランナ7及びキャビティ3の厚さ方向中央部で溶融状態で維持された一次樹脂R1を下流側に押し込みながら、金型表面付近で固化した一次樹脂R1からなる表層(スキン層)の間を流れる。こうして、一次樹脂R1が下流側に向けて流れながら、その内部で二次樹脂R2が下流側に向けて流れる。このとき、キャビティ3に射出された樹脂の厚さ方向両側の表面には、一次樹脂R1のみが露出しており、二次樹脂R2は露出していない。
【0019】
その後、一次ホットランナ8のバルブゲート11を閉じて、一次ゲート4からキャビティ3への一次樹脂R1の供給を停止する。これにより、キャビティ3内での一次樹脂R1の流速が二次樹脂R2の流速よりも小さくなり、
図7及び
図8に示すように、二次樹脂R2が、一次樹脂R1の内部を抜けて下流側へ飛び出す。換言すると、後に供給を開始した二次樹脂R2が、先に供給を開始した一次樹脂R1よりも下流側に飛び出していれば、キャビティ3内での一次樹脂R1の流速を二次樹脂R2の流速よりも小さくする工程が施されたことを確認できる。
【0020】
一次樹脂R1の内部から下流側に飛び出した二次樹脂R2は、
図9に矢印で示すように、厚さ方向中央から両端に向けて流動しながら下流側に流れる(いわゆるファウンテンフロー現象)。そのため、二次樹脂R2は、厚さ方向中央の溶融状態の一次樹脂R1を厚さ方向両側に押しのけながら、下流側に流動する。このとき、一次樹脂R1の供給は停止されているため、下流側端部へ行くほど一次樹脂R1の供給量が少なくなる。これにより、金型表面付近で固化した一次樹脂R1からなる表層の下流側端部に、下流側へ行くにつれて肉厚が徐々に薄くなった傾斜部R1aが形成される。この一次樹脂R1の傾斜部R1aが設けられた領域が、後述するグラデーション部分103となる。
【0021】
その後、
図10及び
図11に示すように、二次樹脂R2がキャビティ3の端部まで達したら、二次ホットランナ9のバルブゲート11を閉じて二次ゲート5からの二次樹脂R2の供給を停止する。
【0022】
以上のような工程を経て成形された樹脂成形品100は、
図10に示すように、一次樹脂R1が表面に露出した一次成形部分101と、二次樹脂R2が表面に露出した二次成形部分102と、一次成形部分101と二次成形部分102との間に設けられたグラデーション部分103とを有する。
図9に示すように、一次成形部分101は、厚さ方向両側の表面に設けられた一次樹脂R1からなる表層(スキン層)と、その厚さ方向間に設けられた二次樹脂R2からなる内側層とを有する。一次成形部分101では、二次樹脂R2が樹脂成形品100の表面には露出しておらず、一次樹脂R1の色のみが表面に現れている。二次成形部分102は、二次樹脂R2のみで形成され、二次樹脂R2の色のみが表面に現れている。
【0023】
グラデーション部分103は、厚さ方向両側の表面に設けられた一次樹脂R1からなる表層(傾斜部R1a)と、その厚さ方向間に設けられた二次樹脂R2からなる内側層とを有する。グラデーション部分103の表層(傾斜部R1a)は、一次成形部分101の表層よりも肉厚が薄くなっているため、傾斜部R1aの薄くなっている部分を表面から見たときに、傾斜部R1aの奥側(厚さ方向中央)にある二次樹脂R2の色が透けて見える。そして、傾斜部R1aの肉厚は下流側に行くにつれて徐々に薄くなっているため、グラデーション部分103を表面から見たときに、傾斜部R1aの厚さが薄くなるほど、すなわち二次成形部分102に近づくほど、二次樹脂R2の色が濃くなる。その結果、グラデーション部分103を表面から見ると、一次樹脂R1の色から二次樹脂R2の色に連続的に変化している。このように、上記の射出成形方法によれば、グラデーション部分103を有する樹脂成形品100を形成することができる。
【0024】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明するが、上記の実施形態と同様の点については重複説明を省略する。
【0025】
例えば、上記の実施形態では、一次ゲート4からキャビティ3への一次樹脂R1の供給を、二次ゲート5からキャビティ3への二次樹脂R2の供給よりも先に停止したが、これに限られない。例えば、一次ホットランナ8のバルブピン10によるバルブゲート11の開き具合を調整し、一次ゲート4からキャビティ3への一次樹脂R1の供給量を低減することで、キャビティ3内における一次樹脂R1の流速を二次樹脂R2の流速よりも小さくしてもよい。
【0026】
また、一次ゲート4及び二次ゲート5の位置や数は上記の実施形態に限られない。例えば、
図12では、一対の一次ゲート4及び一対の二次ゲート5を、それぞれ同じ方向(
図12の上下方向)で対向させて配置している。また、
図13では、一次ゲート4を一箇所に配置し、一対の二次ゲート5を、一次ゲート4の射出方向(
図13の左右方向)と直交する方向(同上下方向)で対向させて配置している。これらのように、一次ゲート4及び二次ゲート5を対称な位置に配置することで、グラデーション部分103を略直線状とすることができる。
【0027】
また、一次ゲート4からキャビティ3への一次樹脂R1の供給を停止するタイミングを変えることで、グラデーション部分103の位置を調整することができる。例えば、一次樹脂R1の供給を停止するタイミングを早くすると、グラデーション部分103が二次ゲート5側に近づく。ただし、一次樹脂R1は、二次ゲート5を超えた後に停止する必要があるため、グラデーション部分103は必ず二次ゲート5よりも下流側(一次ゲート4と反対側)に設けられる。一方、一次樹脂R1の供給を停止するタイミングを遅くすると、グラデーション部分103が二次ゲート5から離れる。ただし、一次樹脂R1から二次樹脂R2を下流側に突出させて二次樹脂R2を表面に露出させる必要があるため、一次樹脂R1がキャビティ3の端部に到達する前に、一次樹脂R1の供給を停止する。
【0028】
以上の実施形態では、一次ゲート4及び二次ゲート5が、キャビティ3の側面に開口するサイドゲートである場合を示したが、ゲートの種類はこれに限られない。例えば、
図14に示すように、二次ホットランナ9を、コールドランナを介することなく直接キャビティ3に接続する、いわゆるダイレクトゲートとしてもよい。この場合、二次ホットランナ9のバルブゲート11が二次ゲート5となる。このとき、一次ゲート4は、サイドゲートであっても、ダイレクトゲートであってもよい。また、一次ゲート4をダイレクトゲートとし、二次ゲート5をサイドゲートとしてもよい。
【符号の説明】
【0029】
1 固定型
2 可動型
3 キャビティ
4 一次ゲート
5 二次ゲート
6 一次コールドランナ
7 二次コールドランナ
8 一次ホットランナ
9 二次ホットランナ
10 バルブピン
11 バルブゲート
100 樹脂成形品
101 一次成形部分
102 二次成形部分
103 グラデーション部分
R1 一次樹脂
R1a 傾斜部(表層)
R2 二次樹脂