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特開2023-139754フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139754
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 8/18 20060101AFI20230927BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20230927BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20230927BHJP
   C22C 38/60 20060101ALI20230927BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20230927BHJP
   C25F 1/06 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C23C8/18
C22C38/00 302Z
C22C38/58
C22C38/60
C21D6/00 102E
C25F1/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045448
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】503378420
【氏名又は名称】日鉄ステンレス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】林 篤剛
(72)【発明者】
【氏名】濱田 純一
(57)【要約】
【課題】耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供する。
【解決手段】C、N、Si、Mn、P、S、Cr、Ni、Cu、Mo、Al、V、BおよびOを含有し、更に、Ti:0.40%以下、Nb:0.80%以下の1種または2種を含有し、残部がFeおよび不純物からなり、鋼の表面に酸化被膜があり、下記式を満たす、フェライト系ステンレス鋼板を採用する。
[Ti]+[Nb]≧0.03
18.0≦[*Cr]+[*Si]×[Si]≦35.0
0<[*Cu]-[Cu]≦5.00
表面Ra≦1.20μnm
色差L≧55
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の化学組成が、質量%で、
C:0.030%以下、
N:0.030%以下、
Si:0.01%以上、5.00%以下、
Mn:0.01%以上、3.00%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:8.0%以上、25.0%以下、
Ni:0.001%以上、2.00%以下、
Cu:0.001%以上、2.00%以下、
Mo:0.001%以上、4.00%以下、
Al:0.001%以上、0.80%以下、
V:0.01%以上、0.30%以下、
B:0.0001%以上、0.0050%以下、
O:0.0001%以上、0.0050%以下を含有し、
更に、Ti:0.40%以下、Nb:0.80%以下の1種または2種を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
鋼の表面に酸化被膜があり、
下記式(i)~(v)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。
[Ti]+[Nb]≧0.03 ・・・式(i)
18.0≦[*Cr]+[*Si]×[Si]≦35.0 ・・・式(ii)
0<[*Cu]-[Cu]≦5.00 ・・・式(iii)
表面Ra≦1.20μnm ・・・式(iv)
色差L≧55 ・・・式(v)
但し、式(i)~式(iii)中の[元素記号]は、当該元素の鋼中の含有量(質量%)であり、[*元素記号]は、前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるC、N、S、P、Oを除いたカチオン濃度における当該元素の平均含有量(質量%)である。式(iv)の表面Raは、鋼板表面の算術平均粗さRaである。式(v)の色差Lは、明度指数Lである。
【請求項2】
鋼の化学組成が、質量%で、
C:0.020%未満、
N:0.020%未満、
Si:0.10%超、3.00%以下、
Mn:0.01%以上、0.40%未満、
P:0.050%以下、
S:0.0020%未満、
Cr:10.0%超、21.0%以下、
Ni:0.001%以上、0.60%未満、
Cu:0.001%以上、0.30%未満、
Mo:0.001%以上、2.20%以下、
Al:0.001%以上、0.80%以下、
V:0.01%以上、0.30%以下、
B:0.0001%以上、0.0050%以下、
O:0.0001%以上、0.0050%以下を含有し、
更に、Ti:0.24%未満、Nb:0.55%以下、の1種または2種を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
鋼の表面に酸化被膜があり、
下記式(i)~(v)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。
[Ti]+[Nb]≧0.08 ・・・式(i)
19.5≦[*Cr]+[*Si]×[Si]≦33.0 ・・・式(ii)
0.02≦[*Cu]-[Cu]≦4.00 ・・・式(iii)
表面Ra≦1.20μm ・・・式(iv)
色差L≧60 ・・・式(v)
但し、式(i)~式(iii)中の[元素記号]は、当該元素の鋼中の含有量(質量%)であり、[*元素記号]は、前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるC、N、S、P、Oを除いたカチオン濃度における当該元素の平均含有量(質量%)である。式(iv)の表面Raは、鋼板表面の算術平均粗さRaである。式(v)の色差Lは、明度指数Lである。
【請求項3】
鋼板表面が酸洗仕上げである、請求項1または請求項2に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項4】
前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるSの平均含有量が0.3質量%以下であり、Cの平均含有量が6質量%以下である、請求項1乃至請求項3の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項5】
質量%にて、Feの一部に代えて、
W:0.001%以上、0.50%以下、
Y:0.001%以上、0.50%以下、
REM:0.001%以上、0.50%以下、
Ca:0.0001%以上、0.0050%以下、
Zr:0.001%以上、0.50%以下、
Hf:0.001%以上、1.0%以下、
Sn:0.001%以上、0.05%未満、
Mg:0.0001%以上、0.0050%以下、
Co:0.001%以上、1.0%以下、
Sb:0.001%以上、1.0%以下、
Bi:0.001%以上、1.0%以下、
Ta:0.001%以上、1.0%以下、
Ga:0.0001%以上、0.50%以下、
の1種または2種以上を含有する、請求項1乃至請求項4の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって、
最終焼鈍前の脱脂工程と、前記脱脂工程後の最終焼鈍工程と、前記最終焼鈍工程後の最終電解酸洗工程とを少なくとも備え、
前記最終焼鈍工程は、焼鈍雰囲気が2~15体積%の水素と残部窒素の雰囲気であり、焼鈍温度が800~1200℃であり、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間が5秒以上、200秒以下であり、800℃以上1200℃以下の範囲での保持時間が20秒以上、200秒以下であり、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間が800℃以上1200℃以下の範囲での保持時間より短く、
前記最終酸洗工程は、50g/L以上、300g/L以下の硫酸と、200mg/L以下のCuイオンを含む酸洗液による3秒以上、60秒以下の電解酸洗である、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関し、特に、耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車のエキゾーストマニホールド、コンバーター、フロントパイプ、センターパイプ、マフラー等の排気系部材には鋳鉄や炭素鋼が使用されていたが、排ガス規制の強化、エンジン性能の向上、車体軽量化等の流れの中、耐熱性や耐食性の観点からステンレス鋼が使用されるようになった。フェライト系ステンレス鋼はオーステナイト系ステンレス鋼より熱膨張係数が小さく熱疲労特性に優れることや材料コストの観点から汎用的に使用されるようになっている。
【0003】
排気系部材に鋳鉄や炭素鋼が使用されていた時はこれらの部材は錆びていることが当然であったが、ステンレス化することで機能面に加え美観も改善もされてきた。近年では自動車ユーザーが納車時や点検、車検時に車体下部まで目視確認する場合があり、機能的に問題のない僅かな錆までも着目されるようになった。さらには自動車の運転で加熱された排気系部材に形成されるテンパーカラーにまで言及されるようになってきた。
【0004】
テンパーカラーとは鋼表面に形成する酸化皮膜がおおよそ1μm以下の時に光の干渉によって生じる現象であり、酸化皮膜の厚みの増加に従い金属光沢を有しながら黄系から赤系、そして青系の見た目となっていく。自動車排気系部材においては錆と見間違う赤色系のテンパーカラーを回避することが重要である。
【0005】
また、自動車排気系部材は路面凍結防止のため散布される融雪塩や海水に由来される塩分が付着し加熱される高温塩害環境に曝される。そのため酸化皮膜は成長しやすくテンパーカラーも赤色域まで進行しやすい。
【0006】
ステンレス鋼においてテンパーカラーを防止する手段はいくつかある。特許文献1にはステンレス鋼に光輝焼鈍を施し表面にSiまたはAlを富化させて酸化皮膜を形成することで耐テンパーカラー性を向上させる技術が記載されている。しかしながら光輝焼鈍を行うことにより生産性が低下し、また製造コストが増大してしまう。また、電子レンジやガスレンジなどを対象とした技術であり、自動車排気系部品のような高温塩害環境での検討は行っていない。
【0007】
特許文献2にはステンレス鋼を研磨仕上げまたは研磨仕上げおよび光輝焼鈍を施しFeに対するCr、Si、Alの比率を高めた表面酸化皮膜を形成することで耐テンパーカラー性を向上させる技術が記載されている。しかしながら研磨仕上げを行うことにより生産性が低下し、また製造コストが増大してしまう。また、調理器具や暖房器具を対象とした技術であり、自動車排気系部品のような高温塩害環境での検討は行っていない。
【0008】
特許文献3には高純度フェライト系ステンレス鋼にSnを添加することで耐テンパーカラー性を向上させる技術が記載されている。しかしながらSn添加により合金コストの増加に繋がる。また、自動車排気系部品のような高温塩害環境での検討は行っていない。
【0009】
一方、自動車排気系部材は価格低減が常に求められており、生産量も多く、上記技術の適用は経済性の観点から現実的ではない。テンパーカラーに関しては自動車排気系部材は錆に見間違う赤色系のテンパーカラーを回避するという点においては上記技術の厨房機器や暖房機器よりは許容されるテンパーカラーの程度は広いが、使用環境は高温塩害環境であり厳しい環境である。これらのことから自動車排気系部材に適した耐テンパーカラー性を向上する技術の開発が必要となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開昭62-156254号公報
【特許文献2】特開平8-295999号公報
【特許文献3】特許第6106450号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供することを課題とする。また、本発明は、製造コストの高い光輝焼鈍仕上げや研磨仕上げを必要としない、耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者らは、耐テンパーカラー性に及ぼすフェライト系ステンレス鋼板の各元素の含有量や表面状態などの種々要因について鋭意検討を行った。その結果、耐テンパーカラー性には製造工程で生じる表層におけるCr、Siのカチオン濃度に加え、Cuのカチオン濃度も影響することを知見した。また、ステンレス鋼表面の色差、粗さも影響することを知見し、それが製造工程中におけるC、Sの付着に起因していると推定した。これらの知見に基づき、耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板およびその製造方法を発明するに至った。
【0013】
すなわち、上記課題を解決することを目的とした本発明の要旨は、以下のとおりである。
[1] 鋼の化学組成が、質量%で、
C:0.030%以下、
N:0.030%以下、
Si:0.01%以上、5.00%以下、
Mn:0.01%以上、3.00%以下、
P:0.050%以下、
S:0.0100%以下、
Cr:8.0%以上、25.0%以下、
Ni:0.001%以上、2.00%以下、
Cu:0.001%以上、2.00%以下、
Mo:0.001%以上、4.00%以下、
Al:0.001%以上、0.80%以下、
V:0.01%以上、0.30%以下、
B:0.0001%以上、0.0050%以下、
O:0.0001%以上、0.0050%以下を含有し、
更に、Ti:0.40%以下、Nb:0.80%以下の1種または2種を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
鋼の表面に酸化被膜があり、
下記式(i)~(v)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。
[Ti]+[Nb]≧0.03 ・・・式(i)
18.0≦[*Cr]+[*Si]×[Si]≦35.0 ・・・式(ii)
0<[*Cu]-[Cu]≦5.00 ・・・式(iii)
表面Ra≦1.20μnm ・・・式(iv)
色差L≧55 ・・・式(v)
但し、式(i)~式(iii)中の[元素記号]は、当該元素の鋼中の含有量(質量%)であり、[*元素記号]は、前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるC、N、S、P、Oを除いたカチオン濃度における当該元素の平均含有量(質量%)である。式(iv)の表面Raは、鋼板表面の算術平均粗さRaである。式(v)の色差Lは、明度指数Lである。
[2] 鋼の化学組成が、質量%で、
C:0.020%未満、
N:0.020%未満、
Si:0.10%超、3.00%以下、
Mn:0.01%以上、0.40%未満、
P:0.050%以下、
S:0.0020%未満、
Cr:10.0%超、21.0%以下、
Ni:0.001%以上、0.60%未満、
Cu:0.001%以上、0.30%未満、
Mo:0.001%以上、2.20%以下、
Al:0.001%以上、0.80%以下、
V:0.01%以上、0.30%以下、
B:0.0001%以上、0.0050%以下、
O:0.0001%以上、0.0050%以下を含有し、
更に、Ti:0.24%未満、Nb:0.55%以下、の1種または2種を含有し、
残部がFeおよび不純物からなり、
鋼の表面に酸化被膜があり、
下記式(i)~(v)を満たす、フェライト系ステンレス鋼板。
[Ti]+[Nb]≧0.08 ・・・式(i)
19.5≦[*Cr]+[*Si]×[Si]≦33.0 ・・・式(ii)
0.02≦[*Cu]-[Cu]≦4.00 ・・・式(iii)
表面Ra≦1.20μm ・・・式(iv)
色差L≧60 ・・・式(v)
但し、式(i)~式(iii)中の[元素記号]は、当該元素の鋼中の含有量(質量%)であり、[*元素記号]は、前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるC、N、S、P、Oを除いたカチオン濃度における当該元素の平均含有量(質量%)である。式(iv)の表面Raは、鋼板表面の算術平均粗さRaである。式(v)の色差Lは、明度指数Lである。
[3] 鋼板表面が酸洗仕上げである、[1]または[2]に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[4] 前記酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるSの平均含有量が0.3質量%以下であり、Cの平均含有量が6質量%以下である、[1]乃至[3]の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[5] 質量%にて、Feの一部に代えて、
W:0.001%以上、0.50%以下、
Y:0.001%以上、0.50%以下、
REM:0.001%以上、0.50%以下、
Ca:0.0001%以上、0.0050%以下、
Zr:0.001%以上、0.50%以下、
Hf:0.001%以上、1.0%以下、
Sn:0.001%以上、0.05%未満、
Mg:0.0001%以上、0.0050%以下、
Co:0.001%以上、1.0%以下、
Sb:0.001%以上、1.0%以下、
Bi:0.001%以上、1.0%以下、
Ta:0.001%以上、1.0%以下、
Ga:0.0001%以上、0.50%以下、
の1種または2種以上を含有する、[1]乃至[4]の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板。
[6] [1]乃至[5]の何れか一項に記載のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法であって、
最終焼鈍前の脱脂工程と、前記脱脂工程後の最終焼鈍工程と、前記最終焼鈍工程後の最終電解酸洗工程とを少なくとも備え、
前記最終焼鈍工程は、焼鈍雰囲気が2~15体積%の水素と残部窒素の雰囲気であり、焼鈍温度が800~1200℃であり、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間が5秒以上、200秒以下であり、800℃以上1200℃以下の範囲での保持時間が20秒以上、200秒以下であり、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間が800℃以上1200℃以下の範囲での保持時間より短く、
前記最終酸洗工程は、50g/L以上、300g/L以下の硫酸と、200mg/L以下のCuイオンを含む酸洗液による3秒以上、60秒以下の電解酸洗である、フェライト系ステンレス鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供できる。また、本発明によれば、製造コストの高い光輝焼鈍仕上げや研磨仕上げを必要としない、耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板の製造方法を提供できる。本発明に係るフェライト系ステンレス鋼板は、自動車や二輪車などの輸送機器の車体下部で露出する排気系部材およびその付属部品材に使用することに最適な耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板であり、特に、路面凍結防止のため散布される融雪塩や海水に由来される塩分が付着し加熱される高温塩害環境であっても、耐テンパーカラー性に優れたものとなる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
まず、本発明のフェライト系ステンレス鋼板の鋼の化学組成の限定理由について説明する。ここで、鋼の化学組成についての「%」は質量%を意味する。
【0017】
(C:0.030%以下)
Cは、耐酸化性を低下させる元素で耐テンパーカラー性を低下させるため、C含有量は0.030%以下とする。上記特性の低下をさらに抑制することを考慮すると、C含有量は0.020%未満とすることが好ましい。成形性、耐食性を考慮すると、0.015%以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは、0.010%以下である。但し、過度な低減は精錬コストの増加に繋がるため、C含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.0010%であり、さらに好ましくは、0.0020%以上である。
【0018】
(N:0.030%以下)
Nは、Cと同様、耐酸化性を低下させる元素で耐テンパーカラー性を低下させるため、N含有量は0.030%以下とする。上記特性の低下をさらに抑制することを考慮すると、N含有量は0.020%未満とすることが好ましい。成形性、耐食性を考慮すると、0.015%以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは、0.010%以下である。但し、過度な低減は精錬コストの増加に繋がるため、N含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.0010%であり、さらに好ましくは、0.0020%以上である。
【0019】
(Si:0.01%以上、5.00%以下)
Siは、脱酸剤として含有される元素であるとともに、耐酸化性を向上する元素で耐テンパーカラー性を向上するため、Si含有量は0.01%以上とする。上記特性をさらに向上することを考慮すると、Si含有量は0.10%超とすることが好ましく、0.30%以上とすることがより好ましい。耐食性を考慮すると、0.50%以上とすることがより好ましい。しかし、過度なSiの含有は、加工性の低下を招くため、Si含有量は5.00%以下とする。原料コストや製造コストの観点から経済性を考慮すると、Si含有量は3.00%以下とすることが好ましい。製造性を考慮すると、Si含有量は1.60%以下とすることが好ましい。より好ましくは、1.20%以下であり、さらに好ましくは、0.80%以下である。
【0020】
(Mn:0.01%以上、3.00%以下)
Mnは、脱酸剤として含有される元素であり、Mn含有量は、0.01%以上とする。精錬コストを考慮すると、Mn含有量は0.05%以上が好ましい。より好ましくは0.10%以上であり、さらに好ましくは0.15%以上である。しかし、過度なMnの含有は、耐酸化性の低下を招き、耐テンパーカラー性の低下させるため、Mn含有量は、3.00%以下とする。耐食性を考慮すると、Mn含有量を1.10%以下とすることが好ましい。耐テンパーカラー性の低下をさらに抑制することを考慮すると、Mn含有量を0.40%未満とすることがより好ましい。
【0021】
(P:0.050%以下)
Pは、製鋼精錬時に主として原料から混入する不純物であり、その含有量が高くなると、靭性や溶接性が低下するため、その含有量は少ないほど良い。そのため、P含有量は0.050%以下とする。また、製造性および製造コストを考慮すると、P含有量は0.040%以下とすることが好ましい。加工性を考慮すると、P含有量は0.035%以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは、0.030%以下である。但し、過度な低減は精錬コストの増加に繋がるため、P含有量は0.001%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.005%以上であり、さらに好ましくは、0.010%以上である。
【0022】
(S:0.0100%以下)
Sは、製鋼精錬時に主として原料から混入する不純物であり、耐酸化性の低下を招き、耐テンパーカラー性を低下させるため、S含有量は0.0100%以下とする。上記特性の低下をさらに抑制することを考慮すると、S含有量は、0.0020%未満とすることが好ましい。製造性や耐食性を考慮すると、S含有量は0.0014%以下とすることがより好ましい。但し、過度な低減は精錬コストの増加に繋がるため、S含有量は0.0001%以上とすることが好ましい。S含有量は、より好ましくは、0.0003%以上である。
【0023】
(Cr:8.0%以上、25.0%以下)
Crは、耐酸化性を向上する元素で耐テンパーカラー性を向上するため、Cr含有量は、8.0%以上とする。上記特性をさらに向上することを考慮すると、Cr含有量を10.0%超とすることが好ましい。耐食性を考慮すると、Cr含有量は10.5%以上とすることがより好ましい。さらに好ましくは、15.0%以上である。しかし、過度なCrの含有は、製造性や加工性の低下を招くため、Cr含有量は25.0%以下とする。原料コストの観点から経済性を考慮すると、Cr含有量は21.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは、18.0%未満である。
【0024】
(Ni:0.001%以上、2.00%以下)
Niは、耐食性を向上する元素であり、Ni含有量は0.001%以上とする。好ましくは0.01%以上であり、より好ましくは、0.05%以上である。しかし、過度なNiの含有は、耐酸化性の低下を招き、耐テンパーカラー性を低下させるため、Ni含有量は2.00%以下とする。上記特性の低下をさらに抑制することを考慮すると、Ni含有量は0.60%未満とすることが好ましい。原料コストや製造性を考慮すると、Ni含有量は0.50%以下とすることがより好ましい。さらに好ましくは0.40%以下である。
【0025】
(Cu:0.001%以上、2.00%以下)
Cuは、耐食性や高温強度を向上する元素であり、Cu含有量は0.001%以上とする。好ましくは、0.005%以上であり、より好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なCuの含有は、耐酸化性の低下を招き、耐テンパーカラー性を低下させるため、Cu含有量は2.00%以下とする。上記特性の低下をさらに抑制することを考慮すると、Cu含有量は0.30%未満とすることが好ましい。より好ましくは、0.20%以下である。
【0026】
(Mo:0.001%以上、4.00%以下)
Moは、耐食性や高温強度を向上する元素であり、Mo含有量は0.001%以上とする。好ましくは、0.005%以上であり、より好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なMoの含有は、製造性や加工性の低下を招くため、Mo含有量は4.00%以下とする。原料コストの観点から経済性を考慮すると、Mo含有量は2.20%以下とすることが好ましい。より好ましくは、1.20%以下であり、さらに好ましくは0.20%未満である。
【0027】
(Al:0.001%以上、0.80%以下)
Alは、脱酸剤として含有される元素であり、Al含有量は0.001%以上とする。好ましくは、0.005%以上であり、より好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なAlの含有は、製造性の低下を招くため、Al含有量は0.80%以下とする。加工性や溶接性を考慮すると、Al含有量は0.60%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.30%以下であり、さらに好ましくは0.20%以下である。
【0028】
(V:0.01%以上、0.30%以下)
Vは、耐酸化性を向上する元素で耐テンパーカラー性を向上するため、V含有量は0.01%以上とする。耐食性や高温強度を考慮すると、V含有量は0.02%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.03%以上である。しかし、過度なVの含有は析出物の粗大化による高温強度の低下を招くため、V含有量は0.30%以下とする。鋼の表面性状、製造性を考慮すると、V含有量は0.20%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.15%未満であり、さらに好ましくは0.10%以下である。
【0029】
(B:0.0001%以上、0.0050%以下)
Bは、耐酸化性を向上する元素で耐テンパーカラー性を向上するため、B含有量は0.0001%以上とする。製造性や高温強度を考慮すると、B含有量は0.0002%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.0003%以上であり、更に好ましくは0.001%以上である。しかし、過度なBの含有は熱間加工性の低下や鋼表面の表面性状の低下を招く。したがって、B含有量は0.0050%以下とする。また、製造性や成型性を考慮すると、B含有量は0.0030%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.0015%以下である。
【0030】
(O:0.0001%以上、0.0050%以下)
Oは、不可避的に含まれる不純物であり、気泡や介在物による表面疵の原因となる。また、耐酸化性の低下を招き、耐テンパーカラー性を低下させるため、O含有量は、0.0050%以下とする。また、製造性を考慮すると、O含有量は0.0040%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.0035%以下である。但し、過度なOの低減は精錬コストの増加に繋がる。また、鋼の表層部には酸化被膜以外にもSi、Alの内部酸化物があり、耐テンパーカラー性の向上に寄与していると考えている。そのため、O含有量は0.0001%以上とする。好ましくは、0.0003%以上であり、さらに好ましくは、0.0005%以上である。ここで、O含有量は、鋼に固溶している酸素および鋼中に介在する酸化物の酸素を含む合計の含有量を意味する。
【0031】
本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼板は、耐テンパーカラー性を向上するため、Ti、Nbのいずれか一方または両方を含有する。Ti,Nbは、耐テンパーカラー性を向上させる点で効果が重複するので、少なくとも一方を含有すればよい。式(i)の説明で述べるように、TiとNbの合計含有量は0.03%以上とする。
【0032】
(Ti:0.40%以下)
Tiは、C、N、Sと結合して耐酸化性を向上する元素であり、また、耐テンパーカラー性を向上する元素である。耐食性、耐粒界腐食性、深絞り性を考慮すると、Ti含有量は0.09%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.120%以上である。しかし、過度なTiの含有は、耐酸化性の低下を招き、耐テンパーカラー性を低下させるため、Ti含有量は0.40%以下とする。上記特性の低下をさらに抑制することを考慮すると、Ti含有量は0.24%未満とすることが好ましい。原料コストの低減や均一伸び、穴広げ加工性、製造性を考慮すると、Ti含有量は0.23%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.22%以下である。Tiを含有しない場合の下限は0%でもよい。
【0033】
(Nb:0.80%以下)
Nbは、C、N、Sと結合して耐酸化性を向上する元素であり、耐テンパーカラー性を向上する元素である。耐食性、耐粒界腐食性、高温強度を考慮すると、Nb含有量は0.01%以上とすることが好ましい。より好ましくは、0.05%以上であり、さらに好ましくは、0.05%超である。しかし、過度なNbの含有は、製造性や加工性の低下を招くため、Nb含有量は0.80%以下とする。原料コストの観点から経済性を考慮すると、Nb含有量は0.55%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.35%未満であり、さらに好ましくは0.25%以下である。Nbを含有しない場合の下限は0%でもよい。
【0034】
本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼板では、上述した元素および後述する選択的に含有する元素以外の残部は、Feおよび不純物である。しかしながら、上述した各元素以外の他の元素も、本実施形態の効果を損なわない範囲で含有させることができる。なお、ここで言う不純物とは、本発明に係るフェライト系ステンレス鋼を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0035】
次に、式(i)~式(v)について説明する。
【0036】
上述のように、TiおよびNbは、C、N、Sと結合して耐酸化性を向上する元素であり、また、耐テンパーカラー性を向上する元素であるため、Ti、Nbの1種または2種を含有し、合計で0.03%以上とする。すなわち、式(i)を満たすこととする。耐食性や加工性を考慮すると、式(i)の左辺の値は0.08%以上とすることが好ましい。
【0037】
[Ti]+[Nb]≧0.03 ・・・式(i)
【0038】
但し、式(i)中の[元素記号]は、当該元素の鋼中の含有量(質量%)である。
【0039】
また、本発明者らは耐テンパーカラー性に及ぼす各種影響を検討する中で、耐テンパーカラー性に、製造工程で生じる表層におけるCr、Si、Cuのカチオン元素の濃淡が影響することを知見した。そして、式(ii)および(iii)を満たすことが耐テンパーカラー性を向上させるために必要であることを見出した。
【0040】
18.0≦[*Cr]+[*Si]×[Si]≦35.0 ・・・式(ii)
【0041】
0<[*Cu]-[Cu]≦5.00 ・・・式(iii)
【0042】
但し、式(ii)及び式(iii)中の[元素記号]は、当該元素の鋼中の含有量(質量%)である。また、[*元素記号]は、酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるC、N、S、P、Oを除いたカチオン濃度における当該元素の平均含有量(質量%)である。なお、本実施形態に係る鋼板の表面には、ごく薄い酸化被膜が形成されている。後述するように、酸化被膜および酸化被膜の直下の鋼素地におけるC、Si、Cuの濃度が耐テンパー性に影響する。そのため、[*Cr]、[*Si]、[*Cu]の測定範囲は、酸化被膜及び鋼素地を含む鋼板の表層である、酸化被膜表面から40nmまでの深さの範囲とする。
【0043】
[*元素記号]で表される、酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるC、N、S、P、Oを除いたカチオン濃度における当該元素の平均含有量(質量%)は、グロー放電発光分析(GDS)にて測定を行う。具体的には、アルゴンプラズマによって酸化被膜の表面から深さ40nmを超えるまでスパッタリングし、スパッタされた元素のアルゴンプラズマ内における発光線を連続的に分光して深さ40nmまでの発光強度を積算する。そして、C、N、S、P、Oを除いたカチオン濃度の合計を100質量%とした場合の、Cr,Si,Cuの濃度を求め、これを[*Cr]、[*Si]、[*Cu]とする。
【0044】
Crは、酸化被膜に濃化する一方で、鋼素地では酸化皮膜形成に伴ってCr欠乏が生じる。このCr欠乏が少ないほど耐酸化性を向上し、耐テンパーカラー性が向上する。そのため、酸化被膜中だけでなく鋼素地も含めた表層部で平均してカチオン濃度が高いことが良い。
【0045】
SiもCrと同様に、酸化被膜と鋼素地も含めた表層部で平均してカチオン濃度が高いことが良い。しかし、Siは、鋼に対する含有量が少なく、酸化被膜へのSi濃化は検出しても鋼素地内のSiの欠乏までは検出が難しい。これを踏まえ鋭意検討した結果、Siについては表層部のカチオン濃度と鋼の含有量の両者が重要であるという考えに至った。
【0046】
式(ii)の中辺の値が18.0未満であると、耐テンパーカラー性が低下するため、式(ii)の中辺の値を18.0以上とする。上記特性をさらに向上することを考慮すると、式(ii)の中辺の値を19.5以上とすることが好ましい。式(ii)の中辺の値が過度に高い場合は、Cr、Siの合計含有量が高いか、酸化被膜が厚くなっていることが考えられ、いずれも加工性の低下を招く。そのため、式(ii)の中辺の値を35.0以下とする。また、原料コストや製造コストの観点から経済性を考慮すると、式(ii)の中辺の値を33.0以下とすることが好ましい。
【0047】
また、Cuは、鋼に含まれている元素が焼鈍酸洗時に鋼の表層に濃化することに加え、製造プロセスにおいて表面にCuが付着したことで濃化する場合がある。すなわち、酸洗工程において、酸洗液にCuイオンが含まれると、このCuイオンが鋼板表面に付着し、Cuとして析出することでも濃化する。このようなCuの濃化によって耐酸化性の低下を招き、耐テンパーカラー性を低下させることを知見した。従って、鋼板の表層部におけるCuの濃化は、できる限り少ない方がよい。
【0048】
式(iii)の中辺の値が5.00超であると耐テンパーカラー性が低下するため、式(iii)の中辺の値を5.00以下とする。上記特性の低下をさらに抑制することを考慮すると、式(iii)の中辺の値は4.00以下とすることが好ましい。また、鋼が酸洗肌であればCuは表層で濃化しているため、式(iii)の中辺の値は0超である。原料コストや製造コストの観点から経済性を考慮すると、式(iii)の中辺の値は0.02以上とすることが好ましい。
【0049】
また、本発明者らは、ステンレス鋼表面の色差、粗さも影響することを知見し、式(iv)および式(v)を満たすことが耐テンパーカラー性を向上させるために必要であることを見出した。
【0050】
表面Ra≦1.20μm ・・・式(iv)
【0051】
色差L≧55 ・・・式(v)
【0052】
式(iv)の表面Raは、鋼板表面の算術平均粗さRaであり、式(v)の色差Lは、明度指数Lである。明度指数Lは、JIS Z 8781-4:2013に規定されるL表色系におけるLである。
【0053】
表面Ra(算術平均粗さRa)が大きく、鋼板表面が粗いと、光の乱反射によりテンパーカラーが助長されると考える。このため、鋼板表面の算術平均粗さは、1.2μm以下とする。また、色差Lは大きいほど鋼板表面が明るいことを意味する。後述するように、色差Lが小さいと耐テンパーカラー性が低下するため、55以上とする。より好ましくは60以上とする。
【0054】
次に、鋼板の表面状態と製造条件との関係について述べる。最終焼鈍前の脱脂工程が省略されると、冷間圧延時に鋼板表面に付着した圧延油などが付着したままとなる。圧延油等が鋼板表面に付着したままだと、圧延油等に含まれる炭素分が、焼鈍時に、鋼の粒界において鋼中のCrと反応してCr炭化物を形成し、その後の酸洗時に粒界の溶削を促進してしまうと考えられる。すなわち、焼鈍前の脱脂工程を省略した場合、酸洗時に粒界が深く溶削されて算術表面粗さRaが増大するおそれがある。よって、上記式(iv)を満たすためには、鋼板を製造する際に、焼鈍工程前に脱脂工程を行うとよい。
【0055】
また、色差Lは、鋼板表面が粗い場合、または、鋼板表面に硫黄分が付着する場合に、小さくなる。鋼板表面には、酸洗工程の際に鋼板表面に付着した酸洗液中の硫酸に由来する硫黄分が付着する場合がある。圧延油に由来する炭素分とともに、酸洗液に由来する硫黄分が鋼板表面に付着すると、耐酸化性が低下して、耐テンパーカラー性が低下するものと考えられる。従って、酸洗後は、酸洗液の残留を極力少なくするために、酸洗工程に使用する酸洗液の硫酸濃度を低くするとよい。
【0056】
このため、本実施形態の鋼板は、酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるSの平均含有量が0.3質量%以下であり、Cの平均含有量が6質量%以下であることが好ましい。これにより、鋼板の算術表面粗さを小さくするとともに、L値を大きくすることができる。
【0057】
酸化被膜の表面から深さ40nmまでの間におけるSの平均含有量およびCの平均含有量は、グロー放電発光分析(GDS)にて測定を行う。具体的には、アルゴンプラズマによって酸化被膜の表面から深さ40nmを超えるまでスパッタリングし、スパッタされた元素のアルゴンプラズマ内における発光線を連続的に分光して深さ40nmまでの全ての発光強度を積算する。そして、検出された全元素の合計を100質量%とした場合の、CおよびSの含有率を求め、Sの平均含有量およびCの平均含有量とする。
【0058】
さらに、本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼板は、必要に応じて選択的に、W、Y、REM、Ca、Zr、Hf、Sn、Mg、Co、Sb、Bi、Ta、Gaの1種または2種以上を含有することにより、特性を更に向上させることができる。以下に、これらの元素について説明する。なお、これらの元素は、含有されなくてもよいため、これらの元素それぞれの含有量の下限は0%である。
【0059】
(W:0.001%以上、0.50%以下)
Wは、高温強度、耐食性、耐酸化性を改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.01%以上であり、さらに好ましくは、0.05%以上である。しかし、過度のWの含有は、原料コストの上昇、加工性、靭性、製造性の低下を招く場合があるため、W含有量は0.50%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.40%以下であり、さらに好ましくは、0.30%以下である。
【0060】
(Y:0.001%以上、0.50%以下)
Yは、耐銹性、熱間加工性、耐酸化性を改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.003%以上であり、さらに好ましくは0.01%以上である。しかし、過度のYの含有は、原料コストの上昇、製造性の低下を招く場合があるため、Y含有量を0.50%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.20%以下であり、さらに好ましくは、0.10%以下である。
【0061】
(REM:0.001%以上、0.50%以下)
REM(Rare earth metal;希土類元素)は、耐銹性、熱間加工性、耐酸化性を改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.003%以上であり、さらに好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なREMの含有は、原料コストの上昇、製造性の低下を招く場合があるため、REM含有量を0.50%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.20%以下であり、さらに好ましくは、0.10%以下である。REMは、スカンジウム(Sc)とランタン(La)からルテチウム(Lu)までの15元素(ランタノイド)の総称を指す。REMとして、上記元素のうちの1種を単独で含有しても良いし、2種以上を含有しても良い。REMとして上記元素のうち2種以上を含有する場合、REM含有量は、それらの元素の合計含有量である。
【0062】
(Ca:0.0001%以上、0.0050%以下)
Caは、耐食性、耐酸化性、製造性を改善する元素であり、必要に応じて0.0001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.0002%以上であり、さらに好ましくは0.0003%以上である。しかし、過度なCaの含有も耐食性、製造性の低下を招く場合があるため、Ca含有量を0.0050%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.0030%以下であり、さらに好ましくは、0.0020%以下である。
【0063】
(Zr:0.001%以上、0.50%以下)
Zrは、耐食性、耐粒界腐食性、高温強度、耐酸化性を改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.01%以上であり、さらに好ましくは、0.03%以上である。しかし、過度なZrの含有は、原料コストの上昇、製造性の低下を招く場合があるため、Zr含有量を0.50%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.30%以下であり、さらに好ましくは、0.20%以下である。
【0064】
(Hf:0.001%以上、1.0%以下)
Hfは、耐食性、耐粒界腐食性、高温強度、耐酸化性を改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.003%以上であり、さらに好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なHfの含有は、原料コストの上昇、製造性の低下を招く場合があるため、Hf含有量を1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.50%以下であり、さらに好ましくは、0.30%以下である。
【0065】
(Sn:0.001%以上、0.05%未満)
Snは、耐食性、高温強度を改善する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.003%以上であり、さらに好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度のSnの含有は、原料コストの上昇、靭性、製造性の低下による製造コストの上昇を招く場合があるため、Sn含有量を0.05%未満とすることが好ましい。より好ましくは、0.04%未満である。
【0066】
(Mg:0.0001%以上、0.0050%以下)
Mgは、脱酸元素として含有させる場合がある他、成型性、耐酸化性を改善する元素でもあり、必要に応じて0.0001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.0003%以上であり、さらに好ましくは、0.0005%以上である。しかし、過度なMgの含有は、耐食性、溶接性、表面品質の低下を招く場合があるため、Mg含有量は0.0050%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.0030%以下であり、さらに好ましくは、0.0020%以下である。
【0067】
(Co:0.001%以上、1.0%以下)
Coは、高温強度を向上する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。よりより好ましくは、0.01%以上であり、さらに好ましくは、0.03%以上である。しかし、過度なCoの含有は、原料コストの上昇、加工性、靭性、製造性の低下を招く場合があるため、Co含有量を1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.50%以下であり、さらに好ましくは、0.30%未満である。
【0068】
(Sb:0.001%以上、1.0%以下)
Sbは、高温強度を向上する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.005%以上であり、さらに好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なSbの含有は、溶接性、靭性の低下を招く場合があるため、Sb含有量を1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.50%以下であり、さらに好ましくは、0.40%以下である。
【0069】
(Bi:0.001%以上、1.0%以下)
Biは、冷間圧延時に発生するローピングを抑制し、製造性を向上する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.003%以上であり、さらに好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なBiの含有は、原料コストの上昇、加工性、熱間加工性の低下を招く場合があるため、Bi含有量を1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.50%以下であり、さらに好ましくは、0.30%以下である。
【0070】
(Ta:0.001%以上、1.0%以下)
Taは、高温強度を向上する元素であり、必要に応じて0.001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.003%以上であり、さらに好ましくは、0.01%以上である。しかし、過度なTaの含有は、原料コストの上昇、靭性、製造性の低下を招く場合があるため、Ta含有量を1.0%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.50%以下であり、さらに好ましくは、0.30%以下である。
【0071】
(Ga:0.0001%以上、0.50%以下)
Gaは、耐食性、耐水素脆化特性を向上する元素であり、必要に応じて0.0001%以上含有することが好ましい。より好ましくは、0.0003%以上であり、さらに好ましくは、0.001%以上である。しかし、過度なGaの含有は、原料コストの上昇、製造性の低下を招く場合があるため、Ga含有量を0.50%以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.30%以下であり、さらに好ましくは、0.20%以下である。
【0072】
次に、本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼板の製造方法について説明する。本実施形態に係るフェライト系ステンレス鋼板は、いかなる方法で製造されてもよいが、例えば、以下の製造方法で製造することができる。
【0073】
本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板の製造方法については、フェライト系ステンレス鋼を製造する一般的な工程を採用できる。一般に、転炉または電気炉で溶鋼とし、AOD炉やVOD炉等で精練して、連続鋳造法または造塊法で鋼片とした後、熱間圧延-熱延板の焼鈍-酸洗-冷間圧延-仕上げ焼鈍-酸洗の工程を経て製造される。必要に応じて、熱延板の焼鈍を省略してもよいし、冷間圧延-仕上げ焼鈍-酸洗を繰り返し行ってもよい。
【0074】
これら各工程の条件は一般的条件で良く、例えば熱延加熱温度1000~1300℃、熱延板焼鈍温度900~1200℃、冷延板焼鈍温度800~1200℃等で行うことができる。熱延条件、熱延板焼鈍の有無、冷延条件等は適宜選択することができる。
【0075】
また、仕上酸洗前の処理は一般的な処理を行って良く、例えば、ショットブラストや研削ブラシ等の機械的処理や、溶融ソルト処理や中性塩電解処理等の化学的処理を行うことができる。また、冷延・焼鈍後に調質圧延やテンションレベラーを付与しても構わない。更に、製品板厚についても、要求部材厚に応じて選択すれば良い。また、この鋼板を素材として電気抵抗溶接、TIG溶接、レーザー溶接等の通常の排気系部材用ステンレス鋼管の製造方法によって溶接管として製造しても良い。
【0076】
ただし、本実施形態の製造方法は、最終焼鈍前の脱脂工程と、脱脂工程後の最終焼鈍工程と、最終焼鈍工程後の最終電解酸洗工程とを少なくとも備える必要がある。
【0077】
算術平均粗さRaの説明において述べたように、最終焼鈍前に脱脂工程が省略されると、鋼板の表面へのC分の付着に起因する耐テンパーカラー性の低下を招くため、最終焼鈍前に脱脂工程を行う必要がある。脱脂工程を行うことによって、脱脂工程前の冷間圧延等において付着した圧延油等を除去され、これにより焼鈍時に鋼の結晶粒界にCr炭化物が形成されることが抑制され、その後の酸洗工程において鋼板表面の粗面化を抑制される。脱脂工程の条件は特に制限はない。
【0078】
最終焼鈍工程は、焼鈍雰囲気が2~15体積%の水素と残部窒素の雰囲気であり、焼鈍温度が800~1200℃であり、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間が5秒以上、200秒以下であり、800℃以上1200℃以下の範囲の保持時間が20秒以上、200秒以下であり、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間が800℃以上1200℃以下の範囲の保持時間より短い条件とする。
【0079】
鋼の表層部におけるCr欠乏による耐テンパーカラー性の低下を抑制するため、焼鈍雰囲気中の水素濃度は2体積%以上とする。好ましくは、3体積%以上である。水素濃度の上限は15体積%以下とする。表層部におけるCr欠乏を抑制するためには、焼鈍雰囲気中の水素濃度が15体積%以下であれば十分である。一般的な光輝焼鈍では、水素濃度が25体積%または100体積%であり、製造コストが高いため、本実施形態では経済性を考慮して、一般的な光輝焼鈍ではなく、水素濃度15体積%以下での焼鈍とする。好ましくは、水素濃度を10体積%以下とする。
【0080】
焼鈍雰囲気の残部は窒素とする。これにより、焼鈍雰囲気を還元性雰囲気とすることができ、焼鈍時の鋼板表面の酸化を抑制できる。
【0081】
焼鈍温度は、生産性を考慮して、800~1200℃の範囲とすることが好ましい。また、生産コストを重視する場合は、焼鈍温度は800~980℃にしてもよい。
【0082】
また、最終焼鈍の焼鈍雰囲気が水素と窒素からなる還元性雰囲気であっても、ある温度まではCrは酸化し得て、最終焼鈍温度に近い温度からCrは酸化が抑制または還元される。これを考慮して、鋼の表層部におけるCr欠乏による耐テンパーカラー性の低下を抑制ために、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間が5秒以上、200秒以下であり、800℃以上1200℃以下の範囲の保持時間が20秒以上、200秒以下であり、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間が800℃以上1200℃以下の範囲の保持時間より短くする。製造コストの観点から経済性を考慮して最終焼鈍温度を980℃以下とする場合は、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間を、800℃以上980℃以下の範囲の保持時間より短くすることが好ましい。
【0083】
最終焼鈍工程後の最終酸洗工程においては、生産性を考慮して、硫酸を含有する酸洗液による電解酸洗を含むこととする。酸洗液の硫酸濃度は過度に低いとデスケーリング不良を招くため、酸洗液の硫酸濃度は50g/L以上とする。好ましくは、70g/L以上である。酸洗液の硫酸濃度が過度に高いと、鋼の表面Raの増大や、硫黄分の付着に起因する耐テンパーカラー性の低下を招くため、酸洗液の硫酸濃度は300g/L以下とする。好ましくは、150g/L以下である。
【0084】
また、酸洗液にはそれまでに酸洗した鋼から溶出したCuイオンが含まれている。酸洗液のCuイオン濃度を過度に低減するには酸洗液の交換や酸洗槽の洗浄を頻繁に行う必要があり生産性の低下や製造コストの増大を招くため、酸洗液のCuイオン濃度は0.1mg/L以上としてもよい。好ましくは、1mg/L以上である。酸洗液のCuイオン濃度が過度に高いと鋼の表面へのCuイオンの付着析出に起因する耐テンパーカラー性の低下を招くため、酸洗液のCuイオン濃度は200mg/L以下とする。好ましくは、100mg/L以下である。
【0085】
電解酸洗の時間は過度に短いとデスケ不良を招くため、電解酸洗の時間は3秒以上とする。好ましくは、4秒以上である。電解酸洗の時間は過度に長いと鋼の表面Raの増大やS、Cu付着に起因する耐テンパーカラー性の低下を招くため、電解酸洗の時間は60秒以下とする。好ましくは、25秒以下である。
【0086】
電解酸洗の他の条件は特に限定する必要はない。酸洗液の温度は例えば10~50℃であればよく、電解電流密度は1~15A/dm程度でよいが、これらの条件に限定される必要はない。
【0087】
また、電解酸洗後に、表面状態に影響のない範囲で硝酸浸漬処理を行ってもよい。
【0088】
以上説明したように、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板によれば、耐テンパーカラー性を向上することができる。これにより、本実施形態のフェライト系ステンレス鋼板は、自動車排気系部材の素材として好適に用いることができる。
【実施例0089】
以下、実施例により本発明の効果をより明らかなものとする。なお、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲で適宜変更して実施することができる。
【0090】
表1A、表1Bに示す成分組成および式(i)の左辺の値を有する鋼(本発明例A~O、比較例a~r)を、真空溶解炉で溶製して150kgインゴットに鋳造して鋼片とし、鋼片を熱間圧延して4.0mm厚の鋼板とした。次いで、熱間圧延後の鋼板を酸洗し、1.0mm厚になるまで冷間圧延し、最終焼鈍をした後、硫酸を含む酸洗液による電解酸洗および硝酸浸漬を施してフェライト系ステンレス鋼板(製品板)とした。
【0091】
脱脂工程を行う場合は、最終冷間圧延後の最終焼鈍前の段階で行った。最終焼鈍温度は800~1200℃の範囲とした。硝酸浸漬は、濃度20~100g/Lの硝酸水溶液中に3~10秒間浸漬する条件とした。製品板の製造工程においては、最終焼鈍前の脱脂工程の有無、最終焼鈍の雰囲気中の水素濃度(残部は窒素)、400℃以上700℃以下の範囲における昇温時間、800℃以上1200℃以下の範囲における保持時間、電解酸洗の酸洗液の硫酸濃度、Cuイオン濃度、時間は表2A、表2Bに示す条件にて実施した。
【0092】
【表1A】
【0093】
【表1B】
【0094】
【表2A】
【0095】
【表2B】
【0096】
上記で得られた製品板の算術平均粗さ(粗さRa)、色差Lを測定した。また、製品板の酸化被膜および鋼素地を含む鋼の表面から深さ40nmまでの間におけるC、N、S、P、Oを除いたカチオン濃度におけるCr、Si、Cuの平均含有量(質量%)を順に[*Cr]、[*Si]、[*Cu]としてグロー放電発光分析(GDS)で測定した。また、GDS測定によって得られた全ての発光強度を積算し、検出された全元素の合計を100質量%とした場合の、CおよびSの含有率を求め、Sの平均含有量およびCの平均含有量を求めた。
【0097】
耐テンパーカラー性は、高温塩害環境にて熱処理を行う高温塩害試験を行い、高温塩害試験後の鋼板表面の色差aおよびbを測定して評価した。aおよびbは、JIS Z 8781-4:2013に規定されるL表色系におけるaおよびbである。
【0098】
高温塩害試験には、製品板から採取した幅20mm×長さ50mmの試験片を用いた。高温塩害試験は、試験片を加熱し、冷却、塩水浸漬、乾燥のサイクルを4サイクル実施した。加熱条件は、温度を350℃、保持時間を150分とした。冷却条件は、温度を25℃、保持時間を30分とした。塩水浸漬条件は、塩水として飽和NaCl水溶液を用い、水溶液温度を25℃、浸漬時間を30分とした。すなわち、塩水には、26質量%NaCl水溶液を用いた。乾燥条件は、塩水から取り出した後、温度を50℃、保持時間を30分とした。加熱、冷却、乾燥の空気とした。
【0099】
耐テンパーカラー性は、高温塩害試験後の色差測定を行い、a値およびb値を評価した。テンパーカラーを示している酸化被膜は、その厚みが増すにつれてa値が増大し、無色から黄色系へ、黄色系から赤系へ変化する。さらに酸化被膜が厚くなると赤系から青系に転じ、a値が急激に低下して同時にb値も低下する。本評価では、a値が11.5超またはb値が5.0未満のものを「×(不良)」とし、b値が5.0以上において、a値が10.5超12.0以下のものを「●(可)」、9.0超10.5以下のものを「○(良好)」、9.0以下のものを「◎(更に良好)」とした。
【0100】
表3A、表3Bに、本発明例A~O、比較例a~rの製品板のRa(μm)、L、[*Cr]、[*Si]、[*Cu]、式(ii)および式(iii)の中辺の値、式(iv)の左辺の値になるRa、式(v)の左辺の値となるL、耐テンパーカラー性の評価結果を示す。
【0101】
【表3A】
【0102】
【表3B】
【0103】
表1A~表3Bから明らかなように、本発明で規定する成分組成であり、式(i)~式(v)を満足する鋼板は、比較例の鋼板に比べて、耐テンパーカラー性が優れていることがわかる。また、本発明で規定する製造条件を満足すれば、式(ii)~式(v)を満足することが分かる。また、本発明例の鋼板は、表面から40nm深さまでのSの平均含有量が0.3%以下であり、Cの平均含有量が6%以下であった。
【0104】
なお、高温塩害試験ではなく、塩水浸漬を行わない大気連続酸化試験を行った場合、加熱温度を200~500℃に変えた場合、トータルの加熱時間を1~100時間に変えた場合の試験も複数実施した。その結果、酸化皮膜がおおよそ1μm以下でテンパーカラーを生じる条件においては、a値、b値の値は変わるものの、本発明鋼のテンパーカラーが赤系、青系から薄くなる側にあり、本発明鋼は耐テンパーカラー性が優位であった。これより、本発明例は様々な環境でも優れた耐テンパーカラー性を示すと考えられる。
【0105】
以上より、本発明で規定する化学組成を有し、式(i)~式(v)を満足する鋼板は、耐テンパーカラー性に優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明によれば、製造コストの高い光輝焼鈍仕上げや研磨仕上げとすることなく、酸洗仕上げで耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板であって、特に自動車や二輪車などの輸送機器における排気系部品用として路面凍結防止のため散布される融雪塩や海水に由来される塩分が付着し加熱される高温塩害環境で耐テンパーカラー性に優れたフェライト系ステンレス鋼板を提供することができる。具体的な用途としては、エキゾーストマニホールド、コンバーター、フロントパイプ、センターパイプ、マフラー、インシュレーター、EGR、EGRクーラー、ターボ部品、自動車排気系の締結部品などを例示できる。