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特開2023-139785弾性波素子及びそれを用いた原子発振器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139785
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】弾性波素子及びそれを用いた原子発振器
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/17 20060101AFI20230927BHJP
   H03L 7/26 20060101ALI20230927BHJP
   H03H 9/19 20060101ALN20230927BHJP
【FI】
H03H9/17 G
H03L7/26
H03H9/19 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045493
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000237444
【氏名又は名称】リバーエレテック株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519368965
【氏名又は名称】株式会社多摩川ホールディングス
(71)【出願人】
【識別番号】519445060
【氏名又は名称】株式会社SMACs
(74)【代理人】
【識別番号】100097043
【弁理士】
【氏名又は名称】浅川 哲
(74)【代理人】
【識別番号】100197996
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 武彦
(72)【発明者】
【氏名】古屋 泰文
(72)【発明者】
【氏名】西野 仁
(72)【発明者】
【氏名】芦沢 英紀
(72)【発明者】
【氏名】高嶋 世直
【テーマコード(参考)】
5J106
5J108
【Fターム(参考)】
5J106AA01
5J106CC07
5J106GG02
5J106KK24
5J106KK25
5J106KK26
5J106LL10
5J108AA01
5J108BB02
5J108CC04
5J108DD02
5J108EE03
(57)【要約】
【課題】 位相ノイズやジッタを抑制し、且つ、高周波で安定的に原子共鳴に同期させた発振出力信号を得ることが可能な弾性波素子を提供する。
【解決手段】 厚みすべり振動モードを有する水晶振動板16と、前記水晶振動板16に積層され、低音響インピーダンス層Ltと高音響インピーダンス層Htとが交互に重なり合う音響多層膜13と、前記音響多層膜13を挟んで前記水晶振動板16と対向する支持基板12と、を備えた弾性波素子11であって、前記水晶振動板16の厚みを1とした場合に、前記低音響インピーダンス層Ltの厚み比が0.6~1.0、前記高音響インピーダンス層Htの厚み比が0.3~0.5、且つ、Ht/Ltが0.30~0.83の範囲である。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚みすべり振動モードを有する水晶振動板と、
前記水晶振動板に積層され、低音響インピーダンス層Ltと高音響インピーダンス層Htとが交互に重なり合う音響多層膜と、
前記音響多層膜を挟んで前記水晶振動板と対向する支持基板と、を備えた弾性波素子であって、
前記水晶振動板の厚みを1とした場合に、前記低音響インピーダンス層Ltの厚み比が0.6~1.0、前記高音響インピーダンス層Htの厚み比が0.3~0.5、且つ、Ht/Ltが0.30~0.83の範囲である弾性波素子。
【請求項2】
前記音響多層膜は、6層以上に積層された前記低音響インピーダンス層Ltと高音響インピーダンス層との交互の重なり合いによって形成されている請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項3】
前記低音響インピーダンス層が二酸化ケイ素によって、前記高音響インピーダンス層がタングステンによって、それぞれ形成されている請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項4】
前記水晶振動板には、一対の電極が設けられ、いずれか一方の電極が前記音響多層膜の高音響インピーダンス層に設定される請求項1又は2に記載の弾性波素子。
【請求項5】
前記一対の電極は、いずれか一方が前記水晶振動板に設けられるスルーホールを介して形成される請求項4に記載の弾性波素子。
【請求項6】
前記水晶振動板及び前記支持基板は、X軸、Y軸及びZ軸からなる三次元の結晶方位を有する水晶体から、Y板X軸回転+35度15分を中心としてカットされたATカット板である請求項1に記載の弾性波素子。
【請求項7】
前記水晶振動板及び前記支持基板は、X軸、Y軸及びZ軸からなる三次元の結晶方位が互いに揃っている請求項1又は6に記載の弾性波素子。
【請求項8】
請求項1乃至7に記載の弾性波素子を振動源とする電圧制御水晶発振器を備え、
前記電圧制御水晶発振器は、原子共鳴器から出力される原子共鳴信号に同期した基準信号を出力すると共に、前記基準信号によって前記原子共鳴器を励起する原子発振器。
【請求項9】
請求項1乃至7に記載の弾性波素子を振動源とする電圧制御水晶発振器と、
金属原子が封入されたガスセル部及び該ガスセル部を励起するレーザ駆動部を有する原子共鳴器と、
第1の検波部を有し、前記原子共鳴器から出力される原子共鳴信号に同期した基準信号を、前記第1の検波部を介して前記レーザ駆動部にフィードバックするレーザ波長安定化ユニットと、
第2の検波部を有し、前記電圧制御水晶発振器から出力される周波数の前記基準信号を、前記第2の検波部を介して前記レーザ駆動部にフィードバックする周波数安定化ユニットと、を備えた原子発振器。
【請求項10】
前記電圧制御水晶発振器と前記原子共鳴器との間に配置され、前記電圧制御水晶発振器から出力される基準信号の周波数を所定の逓倍率に変換する同期発振ユニットを備えた請求項8又は9に記載の原子発振器。
【請求項11】
前記電圧制御水晶発振器は、前記原子共鳴に同期した周波数の基準信号を外部に出力する外部出力部と、前記基準信号を内部にフィードバックする内部出力部と、を備え、
前記外部出力部と内部出力部の周波数が同じか又は異なる請求項8乃至10のいずれかに記載の原子発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、SMR型の弾性波素子及びこの弾性波素子を用いた原子発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、高速通信用のデバイスとして、弾性表面波(SAW)や弾性バルク波(BAW)による共振子を備えた発振器が知られている。BAWには、高周波用として用いられるSMR(Solidly Mounted Resonator)構造の共振子がある。SMR型共振子は、電極に挟まれた圧電薄膜と支持基板との間に数層の誘電体薄膜を積層した構造を有している。誘電体薄膜層は固有音響インピーダンスの高い層と低い層が交互に積み重ねられており、厚さはいずれも動作中心周波数で4分の1波長程度になるように設定されている(特許文献1)。
【0003】
前記高周波用の共振子は、電圧によって発振を制御する電圧制御発振器(VCO)の発振源として用いられている。また、前記共振子を構成する圧電材料に水晶を利用した電圧制御水晶発振器(VCXO)も知られている。
【0004】
前記電圧制御水晶発振器(VCXO)は、原子発振器にも採用されており、原子時計の基準信号発生源として利用されている。原子発振器では、量子干渉現象のCPT(Coherent Population Trapping)共鳴による共鳴線のピークを検出し、そのピークを基準として、前記VCXOから出力される信号の誤差を補正するフィードバック回路を形成している。
【0005】
特許文献2には、能動素子に電圧制御水晶発振器を用い、この出力をPLL回路へ入力し、このPLL回路のVCOの出力とシンセサイザの出力とを混合することによって光マイクロ波共鳴器に必要な周波数信号を生成している。前記電圧制御水晶発振器は、SAW(Surface Acoustic Wave)による共振子を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-113954号公報
【特許文献2】特開平5-110434号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1に開示のSMR型の共振子にあっては、圧電層で生じた振動を音響多層膜に閉じ込めることで、振動漏れやそれに伴う不要振動(スプリアス)を減少させる効果があることが知られている。しかしながら、圧電層の厚みに対して、音響多層膜を構成する低音響インピーダンス層及び高音響インピーダンス層のそれぞれの厚みをどの程度に設定すれば、振動漏れやスプリアスを最小に抑えることができるか、といった詳細な検証はされていなかった。そのため、共振子の製造段階において、音響多層膜の層数や各層の厚みを実際に測定しながら調整する必要があった。
【0008】
このように、従来のSMR型の共振子は、振動漏れやそれに伴うスプリアスの発生を低減できるといった特性を有しているが、音響多層膜の層数や各層の厚みを適正に調整しないと、短期に安定した所定の振動レベルに達することができないといった問題があった。
【0009】
一方、特許文献2では、6.8GHzに逓倍した周波数信号を得る目的でSAW発振器が使用されている。このようなSAW発振器は、単体では温度ドリフトによる影響を受けやすい。このため、時間の経過と共に安定度が低下し、位相ノイズやジッタが大きくなり、精度の高い発振出力信号を得ることができないことや短期安定度が水晶に比べて劣るといった問題があった。
【0010】
上記原子発振器を利用したシステムとしては、通信基地局からの信号を受信する人工衛星等の小型原子時計を搭載する機器(マスタ側)と、前記人工衛星からの信号を受信することによって小型原子時計に同期する移動体等のシステム(スレーブ側)とがある。このようなマスタ、スレーブ間においては、同期信号が切れた時や信号受信時間が長い場合、スレーブ内でのクロックの性能が時刻の性能に依存し、特に短期安定度が悪いと移動体に内蔵されている時計の性能が短時間で劣り、遅延等の通信障害が発生する場合がある。
【0011】
そこで、本願の目的は、位相ノイズやジッタを抑制し、且つ、高周波で安定的に原子共鳴に同期させた発振出力信号を得ることが可能な弾性波素子及び原子発振器を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願に開示の弾性波素子は、厚みすべり振動モードを有する水晶振動板と、
前記水晶振動板に積層され、低音響インピーダンス層Ltと高音響インピーダンス層Htとが交互に重なり合う音響多層膜と、
前記音響多層膜を挟んで前記水晶振動板と対向する支持基板と、を備えた弾性波素子であって、
前記水晶振動板の厚みを1とした場合に、前記低音響インピーダンス層Ltの厚み比が0.6~1.0、前記高音響インピーダンス層Htの厚み比が0.3~0.5、且つ、Ht/Ltが0.30~0.83の範囲である。
【0013】
本願に開示の原子発振器は、上記弾性波素子を振動源とする電圧制御水晶発振器を備え、
前記電圧制御水晶発振器は、原子共鳴器から出力される原子共鳴信号に同期した基準信号を出力すると共に、前記基準信号によって前記原子共鳴器を励起する。
【0014】
本願に開示の原子発振器は、上記弾性波素子を振動源とする電圧制御水晶発振器と、
金属原子が封入されたガスセル部及び該ガスセル部を励起するレーザ駆動部を有する原子共鳴器と、
第1の検波部を有し、前記原子共鳴器から出力される原子共鳴信号に同期した基準信号を、前記第1の検波部を介して前記レーザ駆動部にフィードバックするレーザ波長安定化ユニットと、
第2の検波部を有し、前記電圧制御水晶発振器から出力される周波数の前記基準信号を、前記第2の検波部を介して前記レーザ駆動部にフィードバックする周波数安定化ユニットと、を備えた。
【発明の効果】
【0015】
本願に開示の弾性波素子によれば、音響多層膜を構成する低音響インピーダンス層及び高音響インピーダンス層の厚みを、ATカットの水晶振動板の厚みとの関係において特定したことによって、高周波且つノイズの少ない周波数特性を得ることができる。
【0016】
本願に開示の原子発振器によれば、上記弾性波素子を備えた電圧制御水晶発振器によって、原子共鳴信号に同期した基準信号を生成することができ、位相ノイズやジッタの抑制及び短期安定性の向上を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】SMR型の弾性波素子の基本構成を示す断面図である。
図2】6層の音響多層膜を備えたSMR型の弾性波素子の断面図である。
図3】スルーホールによる電極構造を備えたSMR型の弾性波素子の断面図である。
図4A】音響多層膜なし(0層)、2層、4層の場合における周波数特性を示すグラフである。
図4B】音響多層膜が6層、8層の場合における周波数特性を示すグラフである。
図5A】Lt=0.3に対して、Ht=0.3~0.5に変化させたときの周波数特性を示すグラフである。
図5B】Lt=0.3に対して、Ht=0.6、0.7に変化させたときの周波数特性を示すグラフである。
図6A】Lt=0.4に対して、Ht=0.3~0.5に変化させたときの周波数特性を示すグラフである。
図6B】Lt=0.4に対して、Ht=0.6、0.7に変化させたときの周波数特性を示すグラフである。
図7A】Lt=0.5に対して、Ht=0.3~0.5に変化させたときの周波数特性を示すグラフである。
図7B】Lt=0.5に対して、Ht=0.6、0.7に変化させたときの周波数特性を示すグラフである。
図8A】Lt=0.6に対して、Ht=0.3~0.5に変化させたときの周波数特性を示すグラフである。
図8B】Lt=0.6に対して、Ht=0.6、0.7に変化させたときの周波数特性を示すグラフである。
図9A】Lt=0.7に対して、Ht=0.3~0.5に変化させたときの周波数特性を示すグラフである。
図9B】Lt=0.7に対して、Ht=0.6、0.7に変化させたときの周波数特性を示すグラフである。
図10A】Lt=0.8に対して、Ht=0.3~0.5に変化させたときの周波数特性を示すグラフである。
図10B】Lt=0.8に対して、Ht=0.6、0.7に変化させたときの周波数特性を示すグラフである。
図11】上記弾性波素子の周波数温度特性を示すグラフである。
図12】LtとHtの厚み比の組み合わせにおける容量比を測定した表である。
図13】上記弾性波素子を用いた第1実施形態の原子発振器のブロック図である。
図14】上記弾性波素子を用いた第2実施形態の原子発振器のブロック図である。
図15】上記弾性波素子を用いた第3実施形態の原子発振器のブロック図である。
図16】本願の弾性波素子を用いた発振器を640MHzで位相ロックさせた際のジッタの測定値である。
図17】本願の弾性波素子を用いた発振器を1GHzで位相ロックさせた際のジッタの測定値である。
図18】従来の原子発振器におけるジッタの測定値である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本願に開示の弾性波素子の実施形態を添付図面に基づいて説明する。図1はSMR型の基本構成による弾性波素子の断面図、図2は音響多層膜が6層構造の弾性波素子の断面構造を示したものである。弾性波素子11は、支持基板12と、この支持基板12上に積層形成された音響多層膜13と、この音響多層膜13上に積層形成された圧電層14とによって構成されている。
【0019】
前記支持基板12は、前記音響多層膜13及び圧電層14よりも厚みを有して平板状に形成されたシリコンや水晶等の単結晶基材が用いられ、音響多層膜13及び圧電層14を支持すると共に、強度を確保するために設けられている。本実施形態では、支持基板12として、圧電層14を構成する水晶振動板16と同じカット角による水晶基板を使用した。また、カット角が同じであると共に、図1に示したように、X軸、Y軸及びZ軸からなる三次元の結晶方位が接合後の支持基板12と水晶振動板16とにおいて互いに揃っていることが望ましいが、X-Z´面はY´軸で回転していても略同様の効果が得られる。このように、支持基板12に水晶振動板16とカット角が同じで結晶方位が揃った水晶基板を用いることで、同様の熱膨張係数を有し、使用中の温度変化に対する圧電層14の応力変化や、製造中の温度による残留応力を最小限にすることができる。これによって、周波数温度変化や長期周波数変化を抑えることができる。なお、水晶基板の他に、熱膨張係数が近似している石英ガラス、シリコン等を使用することも可能である。
【0020】
前記音響多層膜13は、低音響インピーダンス層Ltと高音響インピーダンス層Htとが交互に複数(Lt1~n、Ht1~n)積層された積層体となっている。前記低音響インピーダンス層Ltは二酸化ケイ素(SiO)であり、前記高音響インピーダンス層Htはタングステン(W)である。この音響多層膜13は、前記支持基板12に接合層15を介して接合されている。なお、図1では、接合層15に高音響インピーダンス層Htnが接しているが、このHtn層を取り除き、Ltn層が接合層層15に接している場合であってもよく、作用効果は同様である。
【0021】
前記SiOとWの組み合わせによれば、横波による音響インピーダンスの差が大きくなり、これに比例して反射係数を大きくすることができる。このため、圧電層14で発生する振動エネルギーの閉じ込め効果が大きい。また、SiO、Wのどちらも線膨張整数が小さく、圧電層14の温度特性に及ぼす影響も小さくなる。特に、SiOは成膜条件で線膨張係数をほぼゼロにすることも可能である。本実施形態では、低音響インピーダンス層にSiO、高音響インピーダンス層にWを用いたが、これらの材料に限定されることはなく、同程度の特性を有する材料の組み合わせとすることができる。
【0022】
前記圧電層14は、所定のカット角による水晶振動板16と、この水晶振動板16を励振させるための上部電極17及び下部電極18とを有する。前記水晶振動板16は、X軸、Y軸及びZ軸からなる三次元の結晶方位を有する水晶体からY板X軸回転+35度15分を中心としてカットされたATカット板によって形成されている。前記上部電極17及び下部電極18は、金(Au)によって形成され、水晶振動板16の上面及び下面にクロム(Cr)等のコンタクトメタルを介して接合されている。前記音響多層膜13は、前記下部電極18を接合層として積層形成されている。
【0023】
前記下部電極18は、音響多層膜13の高音響インピーダンス層Htを構成するタングステン(W)に代替することができる。これによって、下部電極18に用いるAuを省略することができる。
【0024】
また、図3に示すように、水晶振動板16の上面から下部電極18に通じるスルーホール19を設け、前記水晶振動板16の上面の一部に設けられる第1電極17aと、前記スルーホール19を介して水晶振動板16の上面側で前記第1電極17a及び第2電極17bからなる一対の電極端子を形成することができる。
【0025】
次に、上記構造の弾性波素子11の製造方法について説明する。
工程(1):ATカットによる水晶振動板16を所定の振動周波数となるような厚みに加工調整する。
工程(2):前記水晶振動板16の上面に上部電極17及び下面に下部電極18をAu蒸着等によって形成する。
工程(3):前記下部電極18上にSiOによる低音響インピーダンス層Ltを成膜する。
工程(4):前記低音響インピーダンス層Lt上に高音響インピーダンス層Htを成膜する。
工程(5):以下、LtとHtを交互に成膜していく。この成膜は、蒸着又はスパッタ等によって行われる。
工程(6):最後に形成したHtの上に接合層15を介して前記水晶振動板16と同じATカットの水晶基板からなる支持基板12を接合する。このように、支持基板12を振動エネルギーの漏れ出しがほぼゼロとなる音響多層膜の最外膜で接合することで、振動特性の劣化を抑えることができる。
【0026】
前記接合層15は、Ht上に形成したAu層と支持基板12上に形成したAu層とが固相拡散接合によって結合される。このようなAu-Au固相拡散接合によって、音響多層膜13と支持基板12との結合がより強固となる。なお、接合方法は、固相拡散接合に限らず、液相拡散接合、溶融接合、接着剤接合等などによってもよい。
【0027】
図2に示したように、下面電極をW膜とする場合は、工程(2)において、水晶振動板の下面にAu膜を形成する工程は不要となる。また、水晶振動板にスルーホールを設ける場合は、工程(1)における水晶振動板の厚み加工前に予めエッチング等によってスルーホールを形成しておき、工程(2)において、電極膜を形成する。
【0028】
以下、上記構成の弾性波素子に対するFEM解析結果について説明する。FEM解析は、ムラタソフトウェア社製のFemtet Version 2020.1.2.80982を使用した。
図4A及び図4Bは、音響多層膜を構成する低音響インピーダンス層Lt及び高音響インピーダンス層Htの層数に対する周波数F[Hz]と共振レベルZ[dB]を、計算によって求めたものである。弾性波素子の設定条件は以下の通りである。
水晶振動板16はATカットの水晶板で、上部電極17が金(Au)、下部電極18がタングステン(W)となっている。音響多層膜13を構成する低音響インピーダンス層LtにSiO、高音響インピーダンス層HtにWを使用した。
各層の厚みは、水晶振動板16の厚みを1とした場合に、上部電極17が0.01、下部電極18が0.5、Ltが0.663、Htが0.5となっている。なお、支持基板12には、水晶振動板16とカット角が同じで結晶方位の揃った水晶基板を使用している。
【0029】
図4Aに示したように、音響多層膜なし(0層)の場合は、810MHz~840MHzの範囲で、-20db~+30dbの共振が現れ、共振のピークにバラツキが生じている。図4A(b)、(c)に示したように、2層、4層の場合は、870MHz近辺において共振のピークがはっきり表れるようになり、4層においては共振のレベルが±40dBとなる。図4B(d)、(e)に示した6層及び8層では、870MHz近辺において、位相ノイズが小さくきれいな共振のピーク波長が現れている。この結果から、音響多層膜を構成する低音響インピーダンス層Lt及び高音響インピーダンス層Htによる層は6層又は8層が好ましい。
【0030】
次に、前記低音響インピーダンス層Lt及び高音響インピーダンス層Htのそれぞれの最適な厚みについて解析した結果を図5A乃至図10Bに示す。本解析においては、図2に示したように、音響多層膜13をLt1~Lt3とHt1~Ht3とによる6層構造とし、水晶振動板を1とした場合における低音響インピーダンス層Lt及び高音響インピーダンス層Htの厚み比を求めた。なお、水晶振動板16に設けられる上部電極17及び下部電極18にはAuを用い、水晶振動板16の厚みを1とした場合に、上部電極17及び下部電極18の厚み比はそれぞれ0.01に設定している。
【0031】
図5A及び図5Bは、Lt=0.3に対して、Htを0.3、0.4、0.5、0.6、0.7に変化させた場合の周波数と共振レベルを比較したものである。この結果、Htの厚み比が低いほど位相ノイズが大きく、共振レベルが低くなる一方、Htが0.6、0.7では位相ノイズが小さく、900MHz近辺で共振レベルが高くなっている。図6A及び図6Bは、Lt=0.4に対して、Htを0.3、0.4、0.5、0.6、0.7に変化させた場合の周波数と共振レベルを比較したものである。この結果からも、Htの厚み比が低いほど位相ノイズが大きく、共振レベルが低くなる一方、Htが0.6、0.7では位相ノイズが小さく、890MHz近辺で共振レベルが高くなっている。図7A及び図7Bは、Lt=0.5に対して、Htを0.3、0.4、0.5、0.6、0.7に変化させた場合の周波数と共振レベルを比較したものである。この結果から、Ht=0.3では位相ノイズが大きく、共振レベルが低くなる一方、Htが0.4以上では位相ノイズが小さく、870MHz~890MHz近辺で共振レベルが高くなっている。図8A及び図8Bは、Lt=0.6に対して、Htを0.3、0.4、0.5、0.6、0.7に変化させた場合の周波数と共振レベルを比較したものである。この結果から、全てのHtの範囲で位相ノイズが小さく、870MHz~890MHz近辺で共振レベルが高くなっている。図9A及び図9Bは、Lt=0.7に対して、Htを0.3、0.4、0.5、0.6、0.7に変化させた場合の周波数と共振レベルを比較したものである。この結果から、全てのHtの範囲で位相ノイズが小さく、870MHz~890MHz近辺で共振レベルが高くなっている。図10A及び図10Bは、Lt=0.8に対して、Htを0.3、0.4、0.5、0.6、0.7に変化させた場合の周波数と共振レベルを比較したものである。図9A及び図9Bの場合と略同様の結果となっている。
【0032】
上記図5A乃至図10Bの結果を総合すると、図7A(b)のLt=0.5、Ht=0.4、Ht/Lt=0.8と、図8A(b)のLt=0.6、Ht=0.4、Ht/Lt=0.66が膜厚の最適値となる。よって、Ht/Lt=0.66~0.80となるように、低音響インピーダンス層Ltと高音響インピーダンス層Htの厚みを設定するのが好ましい。
【0033】
図11は、上記弾性波素子11の周波数温度特性を示したものである。近似式では+2.5ppm/℃の一次係数を有している。一般的なATカットでは0ppm/℃に調整されているため、ATカット角での調整が必要となる。ATカット角と一次温度係数αとの関係については、ATカットの回転角1度あたり約-5ppm/℃の変化が生じる。このため、上記実施形態の弾性波素子11では、温度特性を補正する場合には、カット角を約0.5度変えることによって温度特性を補正することができる。
【0034】
図12は低音響インピーダンス層Ltと高音響インピーダンス層Htの厚み比に対する容量比r=C0/C1を前記FEM解析によって求めたものである。一般的な従来型のATカット水晶振動子の容量比rは、200程度となることが知られている。振動阻害等の影響があると容量比rは大きくなる傾向になり、設計上の指針として利用できる。図12から容量比が最も200に近いのはLt0.8,Ht0.4のところとなり、この寸法が最適値となる。実際には材料特性などが計算で利用した値と若干異なることがあるため、実際の製品のおいてはLt0.6~1.0,Ht0.3~0.5の範囲で調整される。また、容量比が200に近いということは、水晶振動板の部分が中空保持の従来型ATカット水晶振動子と同じ振動姿態になっていることが予想されるため、周波数温度特性においても従来型ATカットに近い特性が得られる。
【0035】
本願の弾性波素子は、圧電層がATカット厚みすべり振動モードによる水晶振動板を使用していると共に、支持基板に前記水晶振動板とカット角が同じで結晶方位の揃った水晶基板を使用している。これによって、温度歪が最小限に抑えられる。さらに、図12に示したように、音響多層膜の容量比がATカット厚みすべりモードの水晶振動板の220程度となるように構成されている。このことから、振動漏れが少なく、温度特性がATカットと同程度となる。
【0036】
上記音響多層膜の層数に関しては、製造コストや周波数温度特性の点からはできるだけ少なくしたいが、等価抵抗の点からはできるだけ多くしたい。FEM解析により、6層程度で振動エネルギーは閉じ込められていることが確認されている。
【0037】
ATカットの水晶振動板を高周波に対応するように薄くした場合、高次屈曲振動等のスプリアス振動が大量に発生しATカットの振動とカップリングしやすくなり特性が悪化しやすい。しかし、本考案の構成にすることで高次屈曲振動等は音響多層膜の反射周波数帯域が異なるため強い振動強度を持つことができず、結果として純粋なATカット振動のみが振動する理想的な振動を得ることができる。
【0038】
次に、上記弾性波素子からなる電圧制御水晶発振器(VCXO)を用いた原子発振器について説明する。図13は第1実施形態の原子発振器100の構成例を示したものである。本実施形態の原子発振器100は、原子共鳴ユニット101と、この原子共鳴ユニット101を制御する制御ユニット102と、前記原子共鳴ユニット101を中心としたフィードバックループを形成するレーザ波長安定化ユニット103及び周波数安定化ユニット104とを備えている。
【0039】
原子共鳴ユニット101は、ルビジウム(Rb)やセシウム(Cs)等の金属原子を収容したガスセル部110と、このガスセル部110にレーザ光を照射するレーザ発光部111と、前記ガスセル部110を透過した透過光を検出する光検出部112と、前記レーザ発光部111を駆動するレーザ駆動部113とによって構成されている。制御ユニット102は、レーザ発光部111及びガスセル部110の温度をP(比例帯),I(積分時間),D(微分時間)によって制御する第1PID制御部114及び第2PID制御部115と、ガスセル部110に電流を供給するコイル電流源116によって構成されている。
【0040】
レーザ波長安定化ユニット103は、原子共鳴ユニット101から出力される原子共鳴信号(共鳴信号)RPを検波する第1検波部117と、この第1検波部117によって検波された信号を変調して原子共鳴ユニット101のレーザ駆動部113にフィードバックする変調部118と、前記第1検波部117及び変調部118を駆動させる第1低周波発振部119とを備えている。
【0041】
周波数安定化ユニット104は、直流電圧発生部120と、前記共鳴信号RPに位相同期させる電圧制御水晶発振器(共鳴同期VCXO)121とを備えている。前記直流電圧発生部120は、前記原子共鳴ユニット101から出力される共鳴信号RPを検波する第2検波部122と、この第2検波部122を駆動させる第2低周波発振部123とを備えている。前記共鳴同期VCXO121は、図1乃至図3に示した弾性波素子11と、この弾性波素子11を電圧制御する可変容量キャパシタ(図示せず)等を備えており、前記第2検波部122によって検波された直流電圧RPvによって、高周波の基準信号BPとして前記原子共鳴ユニット101のレーザ駆動部113にフィードバックさせる。また、前記原子共鳴に同期した周波数の基準信号を外部出力信号OPとして出力する外部出力部OUT1と前記基準信号を前記原子共鳴ユニット101にフィードバックする内部出力部OUT2を備えており、外部出力部OUT1と内部出力部OUT2から出力される信号の周波数を同じか又は異なるように設定することができる。前記原子共鳴ユニット101を励起させる基準信号BP及び外部出力信号OPの周波数は、時計遷移周波数(6.8GHz)の1/2となる3.4GHzに設定される。一方、同期前の共鳴同期VCXO121の周波数偏差を抑えることができれば、3.4GHzの1/2となる1.7GHzあるいは1/3となる1.13GHz、さらには1/4となる850MHz、1/5となる680MHz等に設定しても同期をとることが可能となる。このように、周波数を下げることによって、原子発振器100全体の消費電力を下げる効果が得られる。
【0042】
上記レーザ波長及び共鳴信号は、原子共鳴ユニット101のガスセル部110に収容される金属原子の種類及び共鳴に利用する金属原子の同位体によって異なる。以下、金属原子として、ルビジウム(Rb)の同位体であるRb87及びRb85と、セシウム(Cs)の同位体であるCs133を用いた場合について説明する。
[Rb87の場合]
レーザ光の波長は、794.98nmを中心とした±1.0nmの範囲にあり、共鳴信号は、Rb87の時計遷移周波数の
6.834 682 610 904 290 GHz・・・(1)
を中心とすると、±50kHzの範囲にあり、(1)の1/2の場合や1/3等の場合があり得る。実際の周波数はガスセル部110内のバッファガスの圧力や温度等により、時計遷移周波数から±50kHz程度の範囲にある値で共鳴信号をとるが、便宜的に6.8GHzとされる。また、様々な条件により前記周波数範囲を超えた場合においても、本願の構成により同等の効果を得ることができる。
[Rb85の場合]
レーザ光の波長は、780.24nmを中心とした±1.0nmの範囲にあり、共鳴信号は、Rb85の時計遷移周波数の
3.035 732 439 0 GHz・・・(2)
を中心とすると、±50kHzの範囲にあり、(2)の1/2の場合や1/3等の場合があり得る。実際の周波数はガスセル部110内のバッファガスの圧力や温度等により、時計遷移周波数から±50kHz程度の範囲にある値で共鳴信号をとるが、便宜的に3.0GHzとされる。また、様々な条件により前記周波数範囲を超えた場合においても、本願の構成により同等の効果を得ることができる。
[Cs133の場合]
レーザ光の波長は、894.59nmを中心とした±1.0nmの範囲にあり、共鳴信号は、Cs133の時計遷移周波数の
9.192 631 770 GHz・・・(3)
を中心とすると、±50kHzの範囲にあり、(3)の1/2の場合や1/3等の場合があり得る。実際の周波数はガスセル部110内のバッファガスの圧力や温度等により、時計遷移周波数から±50kHz程度の範囲にある値で共鳴信号をとるが、便宜的に9.1GHzとされる。また、様々な条件により前記周波数範囲を超えた場合においても、本願の構成により同等の効果を得ることができる。
【0043】
本実施形態の原子発振器100は、PLL回路や逓倍回路等を用いることなく、共鳴同期VCXO121によって共鳴信号RPに同期した高周波(3.4GHz又は6.8GHz)の発振が可能となっている。これによって、小型で高性能の原子発振器100を実現することができる。
【0044】
図14は第2実施形態の原子発振器200の構成例を示したものである。本実施形態の原子発振器200は、上記第1実施形態の原子発振器100において、共鳴同期VCXO121の後段に共鳴同期VCXO121から出力される第1の基準信号BP1の周波数を高めて、前記共鳴信号RPの位相に同期させた第2の基準信号BP2を生成する同期発振ユニット201を追加したものである。
【0045】
また、前記共鳴同期VCXO121は、外部出力信号OPとして、前記第1の基準信号BP1とは異なる周波数を出力するように構成することができる。例えば、第1の基準信号BP1を100MHzとし、外部出力信号OPを500MHz乃至2GHz程度の周波数とすることができる。
【0046】
同期発振ユニット201は、共鳴同期VCXO121から出力される第1の基準信号BP1と内部の分周器202を介してフィードバックされた第2の基準信号BP2の位相を比較する位相比較器203と、この位相比較器203を通した信号を平滑化するループフィルタ204と、このループフィルタ204から出力された信号を所定の周波数となるように発振させる電圧制御発振器(VCO)205とを備えている。前記VCO205から出力される第2の基準信号BP2は前記原子共鳴ユニット101のレーザ駆動部113を直接駆動すると共に、分周器202を介して1MHz~2GHzに分周され、共鳴同期VCXO121から順次出力される第1の基準信号BP1と位相比較が行われる。このように、同期発振ユニット201は、共鳴同期VCXO121から出力される第1の基準信号BP1を位相調整しながら所定の高周波信号に逓倍した状態で位相ロックさせることができる。例えば、第1の基準信号BP1を500MHz~2GHzとした場合、第2の基準信号BP2を3.4GHz乃至6.8GHzに逓倍させることができる。
【0047】
前記共鳴同期VCXO121の出力周波数は一例であり、500MHzから2GHzには限定されることはなく、同期発振ユニット201に備わる分周器202の分周比を調整することによって逓倍率を調整することができる。例えば、共鳴同期VCXO121の出力周波数680MHzを同期発振ユニット201によって5逓倍することで、3.4GHzの共鳴信号RPを得ることができる。また、共鳴同期VCXO121の出力周波数850MHzとした場合、同期発振ユニット201によって2逓倍することで1.7GHz、4逓倍することで3.4GHzの共鳴信号RPを得ることができる。このように、共鳴同期VCXO121の出力周波数と、同期発振ユニット201における逓倍率を組み合わせることで、周波数精度の向上及び低消費電力化を図ることが可能となる。
【0048】
前記共鳴同期VCXO121は、原子発振器100を起動させるための基準信号発生源となっており、電源投入時において出力した信号に基づいて原子共鳴ユニット101を励起させ、所定の共鳴信号RPを出力する。ここで得た共鳴信号RPは、上記レーザ波長安定化ユニット103によって位相ロックされると共に、周波数安定化ユニットによって前記共鳴信号RPと同期した高周波(3.4GHz)の基準信号BPを安定的に原子共鳴ユニット101に供給することができる。
【0049】
図15は第3実施形態の原子発振器300の構成例を示したものである。本実施形態の原子発振器300は、共鳴信号RPを入力とする低周波の電圧制御水晶発振器(低周波VCXO)301を中心として、内部にフィードバックする第1同期発振ユニット302及び外部に出力する第2同期発振ユニット303を備えた構造となっている。前記第1同期発振ユニット302は、図14に示した同期発振ユニット201と同一構成であるが、第2同期発振ユニット303は、本願の弾性波素子11を使用した高周波(1.0GHz)の共鳴同期VCXO121を使用している。例えば、前記低周波VCXO301の出力周波数を10MHzとした場合に、前記第1同期発振ユニット302を介して逓倍した3.4GHzの基準信号BP2を原子共鳴ユニット101にフィードバックし、前記第2同期発振ユニット303を介して前記共鳴信号RPに同期した1.0GHzの外部出力信号OP2を出力することができる。
【0050】
一般に、原子共鳴ユニットから出力される共鳴信号は温度特性の影響を受けることがないので、長期安定性に優れている。これに対して、基準信号を発生させる従来の電圧制御発振器は、温度特性による影響を受けやすく、信号周波数の不安定性を示す位相ノイズや時間領域での信号波形の変動を示すジッタ等によって、短期安定性に問題があった。本願では、以下に示す弾性波素子を用いた共鳴同期VCXO121によって、原子発振器の短期安定性を改善した。
【0051】
本願のSMR型の弾性波素子11を用いた共鳴同期VCXOは、高周波の基本波が発振可能で、且つ、ATカットの水晶振動子と同等以上の周波数温度特性を有していることから、原子共鳴ユニットを高周波で、且つ、位相ノイズやジッタが抑制された基本信号で駆動することができる。また、原子共鳴ユニットによる共鳴信号に基づいて変換された直流電圧を入力として制御されるので、温度特性の影響を受けることなく、高周波で、且つ、位相ノイズやジッタが抑制された発振出力信号を得ることができる。
【0052】
図16及び図17は、上記弾性波素子11を用いた共鳴同期VCXO121に対して位相ノイズ及びジッタについて測定したものである。図16は、640MHzで共鳴同期VCXO121を原子発振器にロックさせたときの結果であり、12kHz~20MHzにおけるジッタ(矢線で示す)は、8.7フェムト秒と測定された。図17は、1GHzで共鳴同期VCXO121を原子発振器にロックさせたときの結果であり、12kHz~20MHzにおけるジッタ(矢線で示す)は、17.7フェムト秒と測定された。図18は、比較のために従来の原子発振器の位相ノイズ及びジッタについて測定したものである。ここで測定されたジッタ(矢線で示す)は、316.2フェムト秒となっている。図16及び図17に示したように、本願の弾性波素子11を用いた共鳴同期VCXO121によれば、ジッタが従来よりも格段に低いことが確認された。このように、本願の弾性波素子11を用いた共鳴同期VCXOは低ジッタ性を有しているため、原子発振器を所定の発振周波数に短時間で安定させるための短期安定性を向上させることが可能となる。
【0053】
上記構成の弾性波素子を用いた共鳴同期VCXOは、高周波の基本波が発振可能で、且つ、ATカットの水晶振動子と同等以上の周波数温度特性を有していることから原子共鳴ユニットを高周波で、且つ、位相ノイズやジッタが抑制された基本信号で駆動することができる。また、原子共鳴ユニットによる共鳴信号に基づいて変換された直流電圧を入力として制御されるので、温度特性の影響を受けることなく、高周波且つ位相ノイズやジッタが抑制された発振出力信号を得ることができる。
【0054】
従来、GHz帯の高周波において、位相ノイズやジッタを抑制して安定した発振特性を得るためには、発振器の周波数を分周してMHz帯に落とした上で高安定な水晶発振器に位相ロックさせるのが一般的であった。しかしながら、このような構成にあっては、水晶発振器の他に分周回路等多数の構成要素が必要となり、原子発振器を構成する部品点数が増加し、それに伴って消費電力も増加するといった問題があった。これに対して、本本願の原子発振器においては、GHz帯での高周波発振が可能で位相ノイズやジッタが抑制された弾性波素子11によって共鳴同期VCXO121を構成している。これによって、別途分周回路等を用いることなく直接的に原子共鳴の同期するCPT信号を生成することができ、原子発振器の短期安定性が向上すると共に、消費電力を抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0055】
BP 基準信号
BP1 第1の基準信号
BP2 第2の基準信号
RP 共鳴信号
OP 外部出力信号
OUT1 外部出力部
OUT2 内部出力部
Lt 低音響インピーダンス層
Ht 高音響インピーダンス層
11 弾性波素子
12 支持基板
13 音響多層膜
14 圧電層
15 接合層
16 水晶振動板
17 上部電極
17a 第1電極
17b 第2電極
18 下部電極
19 スルーホール
100 原子発振器
101 原子共鳴ユニット
102 制御ユニット
103 レーザ波長安定化ユニット
104 周波数安定化ユニット
110 ガスセル部
111 レーザ発光部
112 光検出部
113 レーザ駆動部
114 第1PID制御部
115 第2PID制御部
116 コイル電流源
117 第1検波部
118 変調部
119 第1低周波発振部
120 直流電圧発生部
121 共鳴同期VCXO(電圧制御水晶発振器)
122 第2検波部
123 第2低周波発振部
200 原子発振器
201 同期発振ユニット
202 分周器
203 位相比較器
204 ループフィルタ
205 VCO
300 原子発振器
301 低周波VCXO
302 第1同期発振ユニット
303 第2同期発振ユニット


図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図6A
図6B
図7A
図7B
図8A
図8B
図9A
図9B
図10A
図10B
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18