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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139791
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】電池モジュール及び電池パック
(51)【国際特許分類】
   H01M 50/204 20210101AFI20230927BHJP
   H01M 10/658 20140101ALI20230927BHJP
   H01M 50/342 20210101ALI20230927BHJP
   H01M 50/271 20210101ALI20230927BHJP
   H01M 50/278 20210101ALI20230927BHJP
【FI】
H01M50/204 401F
H01M10/658
H01M50/342 101
H01M50/342 201
H01M50/271 S
H01M50/271 B
H01M50/278
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045502
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】100092978
【弁理士】
【氏名又は名称】真田 有
(72)【発明者】
【氏名】藤本 貴洋
(72)【発明者】
【氏名】棚田 浩
【テーマコード(参考)】
5H012
5H031
5H040
【Fターム(参考)】
5H012AA07
5H012BB02
5H012BB08
5H012FF01
5H012FF03
5H031AA00
5H031AA09
5H031KK02
5H040AA27
5H040AA37
5H040AS07
5H040AT02
5H040AY04
5H040AY05
5H040LL04
5H040LL06
5H040NN03
(57)【要約】
【課題】複数の電池セルのうち、いずれかの電池セルからガスが放出された場合に、その他の電池セルへの連爆を防ぐ。
【解決手段】断熱部材4を介して横方向に並設された複数の電池セル2が電池ケース3内に収容された電池モジュール1には、各々の電池セル2の上面22に、各電池セル2の内圧の上昇により開弁して各電池セル2内のガスを放出するための安全弁25が設けられる。複数の電池セル2のうち、いずれかの電池セル2の安全弁25が開弁した場合には、安全弁25が開弁した電池セル2の放出ガスにより電池セル2以外の他の電池セル2の上面22に連爆防止用の断熱膜が形成される。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
断熱部材を介して横方向に並設された複数の電池セルが電池ケース内に収容された電池モジュールにおいて、
各々の前記電池セルの上面には、前記各電池セルの内圧の上昇により開弁して前記各電池セル内のガスを放出するための安全弁が設けられ、
前記複数の電池セルのうち、いずれかの前記電池セルの前記安全弁が開弁した場合には、前記安全弁が開弁した前記電池セルの放出ガスにより当該電池セル以外の他の前記電池セルの前記上面に連爆防止用の断熱膜が形成される
ことを特徴とする、電池モジュール。
【請求項2】
前記電池ケースは、前記複数の電池セルの前記上面よりも上方において前記複数の電池セルを覆う蓋部を備え、
前記断熱膜を構成する部材は、前記蓋部に設けられており、
前記放出ガスにより前記部材が前記複数の電池セルの前記上面に落下することで前記断熱膜が形成される
ことを特徴とする、請求項1に記載の電池モジュール。
【請求項3】
前記部材は、前記蓋部であり、
前記蓋部は、前記電池ケースの外周部において前記電池ケースの側壁部と重複しない位置に設けられて前記蓋部を支持する支持部と、前記各電池セルの前記安全弁の直上に設けられた排煙部と、を備え、
前記蓋部は、前記放出ガスにより、前記支持部が最初に溶解することで落下し、前記安全弁が開弁した前記電池セルの直上の前記排煙部が前記支持部の次に溶解することで前記放出ガスを前記電池ケース外に放出させる排煙口を形成することで、前記断熱膜を形成する
ことを特徴とする、請求項2に記載の電池モジュール。
【請求項4】
前記支持部は、前記蓋部の前記支持部以外の部分よりも融点の低い樹脂で形成されている
ことを特徴とする、請求項3に記載の電池モジュール。
【請求項5】
前記支持部は、前記蓋部の前記支持部以外の部分よりも薄肉に形成されている
ことを特徴とする、請求項3又は4に記載の電池モジュール。
【請求項6】
前記蓋部における前記電池セル側を向く面には、前記放出ガスにより溶解されやすいフィルムにセラミック及び熱硬化樹脂を共に内包した包装体が複数設けられ、
前記部材は、前記セラミック及び前記熱硬化樹脂である
ことを特徴とする、請求項2~5のいずれか一項に記載の電池モジュール。
【請求項7】
前記包装体は、前記各電池セルの前記安全弁の直上からずれた位置に配置される
ことを特徴とする、請求項6に記載の電池モジュール。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか一項に記載の電池モジュールを複数備える
ことを特徴とする、電池パック。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、断熱部材を介して横方向に並設された複数の電池セルが電池ケース内に収容された電池モジュール及び、当該電池モジュールを備えた電池パックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば車両の走行駆動用電池のように、高出力高容量の電池には、単電池(電池セル)を複数個組み合わせて構成された電池モジュールや、当該電池モジュールを備えた電池パックを採用したものが知られている。このような電池モジュールまたは電池パックでは、万一、一つの電池セルが熱暴走(発煙)を起こすと、隣接する電池セルも熱暴走を起こす可能性がある。このため、電池モジュールまたは電池パックには、一つの電池セルの熱暴走時に、隣接する電池セルの連鎖的な熱暴走(連爆)を抑制することが求められている。例えば、特許文献1には、互いに隣接する電池セルの間に熱暴走防止シートを配設することで、隣接する電池セルへの熱伝達や連爆を防止又は抑制したバッテリモジュール(電池パック)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-206605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1では、隣接する電池セル間の横方向における熱伝達や連爆は防止され得る。しかしながら、電池セルの上方の空間を通じた連爆の防止には改善の余地がある。各電池セルの上面には、各電池セルの内圧が上昇した場合、例えば、内部短絡や過充電などにより発熱して発煙した場合に、内部のガスや煙を放出して内圧を下げるための安全弁が設けられることがある。このような電池セルを有する電池モジュールまたは電池パックでは、一部の電池セルの安全弁から放出されたガスが、電池セルの上方の空間を通じて他の電池セルに伝わり、連爆を起こす可能性があるからである。
【0005】
本件は、上記のような課題に鑑み創案されたものであり、複数の電池セルのうち、いずれかの電池セルからガスが放出された場合に、その他の電池セルへの連爆を防ぐことを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する発明を実施するための形態に示す各構成により導かれる作用効果であって、従来の技術によっては得られない作用効果を奏することも本件の他の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の電池モジュール及び電池パックは、以下に開示する態様又は適用例として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
(1)ここで開示する電池モジュールは、断熱部材を介して横方向に並設された複数の電池セルが電池ケース内に収容された電池モジュールにおいて、各々の前記電池セルの上面には、前記各電池セルの内圧の上昇により開弁して前記各電池セル内のガスを放出するための安全弁が設けられ、前記複数の電池セルのうち、いずれかの前記電池セルの前記安全弁が開弁した場合には、前記安全弁が開弁した前記電池セルの放出ガスにより当該電池セル以外の他の前記電池セルの前記上面に連爆防止用の断熱膜が形成される。
【0007】
(2)前記電池ケースは、前記複数の電池セルの前記上面よりも上方において前記複数の電池セルを覆う蓋部を備えることが好ましい。この場合、前記断熱膜を構成する部材は、前記蓋部に設けられており、前記放出ガスにより前記部材が前記複数の電池セルの前記上面に落下することで前記断熱膜が形成されることが好ましい。
【0008】
(3)前記部材は、前記蓋部であり、前記蓋部は、前記電池ケースの外周部において前記電池ケースの側壁部と重複しない位置に設けられて前記蓋部を支持する支持部と、前記各電池セルの前記安全弁の直上に設けられた排煙部と、を備えることが好ましい。この場合、前記蓋部は、前記放出ガスにより、前記支持部が最初に溶解することで落下し、前記安全弁が開弁した前記電池セルの直上の前記排煙部が前記支持部の次に溶解することで前記放出ガスを前記電池ケース外に放出させる排煙口を形成することで、前記断熱膜を形成することが好ましい。
【0009】
(4)前記支持部は、前記蓋部の前記支持部以外の部分よりも融点の低い樹脂で形成されていることが好ましい。
(5)前記支持部は、前記蓋部の前記支持部以外の部分よりも薄肉に形成されていることが好ましい。
【0010】
(6)前記蓋部における前記電池セル側を向く面には、前記放出ガスにより溶解されやすいフィルムにセラミック及び熱硬化樹脂を共に内包した包装体が複数設けられていることが好ましい。この場合、前記部材は、前記セラミック及び前記熱硬化樹脂であることが好ましい。
(7)前記包装体は、前記各電池セルの前記安全弁の直上からずれた位置に配置されることが好ましい。
(8)ここで開示する電池パックは、上記の(1)~(7)のいずれか一つに記載の電池モジュールを複数備える。
【発明の効果】
【0011】
開示の電池モジュール及び電池パックによれば、複数の電池セルのうち、いずれかの電池セルからガスが放出された場合に、その他の電池セルへの連爆を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】第一実施形態に係る電池モジュールの縦断面図である。
図2図1の電池モジュールの作用を説明する図であって、複数の電池セルのうち一つの安全弁が開弁した状態を示す電池モジュールの縦断面図である。
図3図1の電池モジュールの作用を説明する図であって、断熱膜を構成する電池ケースの蓋部が落下した状態を示す電池モジュールの縦断面図である。
図4】第二実施形態に係る電池モジュールの縦断面図である。
図5図4の電池モジュールの作用を説明する図であって、断熱膜が形成された状態を示す電池モジュールの縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図面を参照して、実施形態としての電池モジュール及び電池パックについて説明する。以下に示す実施形態はあくまでも例示に過ぎず、以下の実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、あるいは適宜組み合わせることができる。
【0014】
実施形態の電池モジュールは、複数の電池セルを備えるものであり、電池パックは、当該電池モジュールを備える。電池モジュールは、複数の電池セルのうちいずれかの電池セルが、例えば内部短絡や過充電などにより発熱して発煙した場合に、当該電池セルから放出されたガス(以下、「放出ガス」ともいう)により当該電池セル以外の他の電池セルが連爆することを防ぐ機能を有する。各電池セルの上面には、各電池セルの内圧の上昇により開弁して各電池セル内のガスを放出する安全弁が設けられている。電池モジュールには、複数の電池セルのうち、いずれかの電池セルの安全弁が開弁した場合に、当該電池セル以外の他の電池セルの上面に連爆防止用の断熱膜が形成される。これにより、電池セルの上方の空間を通じて他の電池セルに放出ガスの熱が伝達されることが抑制されるため、他の電池セルの連爆を抑制できる。
【0015】
なお、特許請求の範囲の「当該電池セル以外の他の前記電池セルの前記上面に連爆防止用の断熱膜が形成される」とは、「当該電池セル」の上面には断熱膜が形成されないことを意図したものではない。当該記載は、少なくとも「他の前記電池セルの前記上面」に断熱膜が形成されることを意図する。つまり、上記の記載が意図する構成には、「他の前記電池セルの前記上面」を含め「当該電池セル」の上面の一部にも断熱膜が形成される構成が含まれている。
【0016】
[1.第一実施形態]
[1-1.構成]
第一実施形態としての電池モジュール1を図1に示す。電池パックは、図示は省略するが、複数の電池モジュール1がケーシング内に収容されて構成されたものであり、例えば図示しない車両の床下に搭載される。複数の電池モジュール1を内包した電池パックは、車両の走行駆動用電池として利用される。この車両は、駆動源としてのエンジン及びモータと発電装置としてのジェネレータと蓄電装置としてのバッテリ(電池パック)とが搭載されたハイブリッド自動車(ハイブリッド電気自動車,HEV,Hybrid Electric Vehicle)またはプラグインハイブリッド自動車(プラグインハイブリッド電気自動車,PHEV,Plug-in Hybrid Electric Vehicle)、または、駆動源としてのモータと蓄電装置としてのバッテリとが搭載された電気自動車(BEV, Battery EV)である。プラグインハイブリッド自動車とは、バッテリに対する外部充電またはバッテリからの外部給電が可能なハイブリッド自動車を意味する。プラグインハイブリッド自動車と電気自動車とには、外部充電設備からの電力が送給される充電ケーブルを差し込むための充電口(インレット)や外部給電用のコンセント(アウトレット)が設けられる。
【0017】
図1に示すように、電池モジュール1は、複数の電池セル2が断熱部材4を介して横方向に並設された状態で、電池ケース3(以下、単に「ケース3」という)内に収容されて構成される。本実施形態において、上述の連爆防止用の断熱膜を構成する部材は、ケース3の後述する蓋部6である。第一実施形態の電池モジュール1では、複数の電池セル2のうち、いずれかの電池セル2が発熱して発煙した場合に、当該電池セル2から放出されたガスによりケース3の蓋部6が落下する。これにより、蓋部6は、電池セル2の上方の空間と各電池セル2との間の熱の伝達を妨げる連爆防止用の断熱膜として機能する。
【0018】
各電池セル2は、例えば、リチウムイオン二次電池等の角型電池であり、容器部21と容器部21を上方から封止する上面部22(上面)とを備える。容器部21は、例えばアルミ箔を樹脂でコートしたパウチ型のフィルムである。容器部21は、ステンレス等の金属で形成された有底筒型のものであってもよい。容器部21の内部には、正極板,負極板及びセパレータを含む電極体(蓄電要素)が電解液と共に収容される。なお、図1図3及び後述する第二実施形態の電池モジュール1′に係る図4及び図5では、電池セル2,2′の上面部22,22′のみを断面図として示し、その他の部分を簡略化して示している。また、図1図5では、ケース3,3′内で横方向(図中左右方向)に8個の電池セル2,2′が並設された電池モジュール1,1′を例示しているが、電池セル2,2′の数はこれに限らない。
【0019】
上面部22には、容器部21内に収容された電極体の正極板及び負極板のそれぞれに接続される正極端子23及び負極端子24が上方に向かって突設される。複数の電池セル2は、正極端子23及び負極端子24のそれぞれを介して互いに直列に接続される。上面部22にはさらに、正極端子23及び負極端子24の間に安全弁25が設けられる。安全弁25は、上面部22の他の部分よりも相対的に脆弱に形成されており、例えば、容器部21内で内部短絡(ショート)が生じた際等に、容器部21の内圧が所定値に達すると開弁するように構成される。これにより容器部21の内圧が上昇した場合でも、容器部21内のガスが開弁した安全弁25から外部に噴出する。したがって、内圧の上昇による容器部21の破裂を抑制することができる。
【0020】
ケース3は、トレイ部5の上方から蓋部6が組み合わされることで構成される電池モジュール1の外殻である。ケース3は、例えば、後述する支持部61及び排煙部62を除き、ステンレス等の金属で成形される。
【0021】
トレイ部5は、上面側が開放された箱形の容器である。トレイ部5は、平板状の底壁部51と、底壁部51の周縁部から立設された側壁部52とを有する。底壁部51は、例えば上面視で略直方形状をなす。側壁部52は、底壁部51の形状に対応して、四角筒状をなす。複数の電池セル2は、底壁部51の上に載置される。なお、図1では、左右方向に並設された複数の電池セル2を例示しているが、複数の電池セル2は、紙面に直交する方向に並設されていてもよい。つまり、上述の「横方向」とは、ケース3の底壁部51に沿う方向を意味する。
【0022】
蓋部6は、電池セル2よりも上方において複数の電池セル2の全てを覆う部材である。本実施形態の蓋部6は、上述のトレイ部5の形状に対応して上面視で略直方形状をなし、トレイ部5の側壁部52に内嵌する平板状をなす。つまり、本実施形態の蓋部6は、側壁部52と横方向に重複しないように配置される。蓋部6は、複数の電池セル2の上面部22よりも上方において、複数の電池セル2の上面部22との間に空間を形成するように配置される。
【0023】
蓋部6には、上面視でその外形をなす外周部において、側壁部52と横方向に重複しない位置に設けられて蓋部6を支持する支持部61が設けられる。上述のように、本実施形態の蓋部6は、トレイ部5の側壁部52に内嵌することから、支持部61は、蓋部6の外周部そのものをなす。支持部61は、側壁部52の内面に接着されることで、蓋部6を支持する。蓋部6は、支持部61により支持されてその位置が固定され、ケース3は、支持部61が側壁部52の内面に接着されることで密閉される。
【0024】
支持部61は、蓋部6の支持部61以外の部分よりも放出ガスによって溶かされやすく構成される。支持部61の構成方法としては、例えば、蓋部6の支持部61を構成する部分だけ支持部61以外の部分よりも融点の低い樹脂で成形することで構成してもよい。また、支持部61を構成する部分だけ支持部61以外の部分よりも薄肉に形成することで構成してもよい。或いは、これらを組み合わせて構成してもよい。
【0025】
さらに、蓋部6には、各電池セル2の安全弁25の直上に、支持部61の次に放出ガスによって溶かされやすく構成された排煙部62が設けられる。排煙部62は、例えば、支持部61よりも融点が高く、且つ、蓋部6の支持部61及び排煙部62以外の部分よりも融点の低い樹脂で成形することで構成されてもよい。また、排煙部62は、支持部61よりも肉厚で、且つ、蓋部6の支持部61及び排煙部62以外の部分よりも薄肉に形成することで構成されてもよい。或いは、排煙部62は、これらを組み合わせて、支持部61の次に溶かされやすくなるように構成されてもよい。
【0026】
断熱部材4は、隣り合う電池セル2への熱の伝達を抑制する部材である。断熱部材4は、例えば、セラミック材で成形される。本実施形態では、ケース3の底壁部51から電池セル2の上面部22の位置まで立設された断熱部材4を例示する。なお、断熱部材4の形状は、隣接する電池セル2同士の熱の伝達を抑制する形状であれば特に限らない。また、隣接する電池セル2同士の間には、各電池セル2を冷却するための冷却水が流動する冷却路が設けられていてもよい。また、ケース3内には、各電池セル2を空冷するためのファンや通風路が設けられていてもよい。
【0027】
[1-2.作用]
次に、複数の電池セル2の一つが発熱して発煙した場合における上記の電池モジュール1の作用を説明する。
【0028】
例えば、内部短絡や過充電などにより、複数の電池セル2のうち一つの電池セル2(以下、「発煙セル2」という)が、発熱して発煙すると、図2に示すように、発煙セル2の容器部21の内圧が上昇し、安全弁25が開弁する。これにより、発煙セル2の安全弁25から高温の放出ガスが噴出して、電池セル2と蓋部6との間の空間に放出ガスが充満する。蓋部6は、高温の放出ガスに晒されて、或いは、放出ガスの圧力により、蓋部6のうち最も溶解されやすい支持部61が溶解する。これにより、支持部61による蓋部6の支持が解除される。
【0029】
支持部61による支持が解除されることで、図3に示すように、蓋部6は下方に落下する。これにより、蓋部6は、電池セル2とその上方の空間との間を断熱する断熱膜となる。また、このとき、発煙セル2の直上に位置する蓋部6の排煙部62は、発煙セル2から噴出する高温の放出ガスに晒されて、或いは、放出ガスの圧力により、溶解する。これにより、発煙セル2の直上には放出ガスが流動可能な排煙口62hが形成される。
【0030】
発煙セル2の放出ガスは、この排煙口62hからケース3の外部に放出される。このとき、ケース3の外部において、発煙セル2の付近の電池セル2の上方にも放出ガスが蔓延する。しかし、発煙セル2以外の他の電池セル2とその上方の空間との間には上述のように断熱膜としての蓋部6が存在する。このため、放出ガスの熱により他の電池セル2が発熱することが蓋部6により妨げられる。
【0031】
よって、電池モジュール1では、断熱部材4により隣接する電池セル2間の横方向の熱伝達が抑制されるだけでなく、断熱膜としての蓋部6により電池セル2の上方の空間を通じた他の電池セル2への熱伝達も抑制されることから、他の電池セル2の連爆が抑制される。なお、上述の通り、上面部22には正極端子23及び負極端子24が突設されているため、上面部22と蓋部6との間には若干の隙間が形成されるが、放出ガスには上方に逃げる(流れる)性質があるため、当該隙間には放出ガスが流入しにくい。なお、電池パックのケーシングには、このケーシングの内圧が上昇したときに開放される弁が設けられていることが好ましく、放出ガスはこの弁が開弁することで電池パックから排煙されることが好ましい。
【0032】
[1-3.効果]
(1)上述の電池モジュール1及び電池パックによれば、発煙セル2の安全弁25が開弁した場合に、発煙セル2の放出ガスにより他の電池セル2の上面部22の上面に連爆防止用の断熱膜が形成される。これにより、電池セル2の上方の空間を通じて他の電池セル2に放出ガスの熱が伝達されることが抑制される。よって、他の電池セル2の連爆を防ぐことができる。また、電池モジュール1では、安全弁25が開弁した場合にのみ断熱膜が形成される。言い換えれば、各電池セル2の通常作動時には、各電池セル2の放熱が断熱膜により妨げられることがない。よって、電池セル2の放熱性の低下を防ぐことができる。延いては、電池セル2(電池モジュール1及び電池パック)の劣化を抑制することができる。
【0033】
(2)各電池セル2の上面部22には、安全弁25だけでなく正極端子23や負極端子24も設けられる。このため、断熱膜を構成する部材を上面部22上に配置すると、電池モジュールや電池パックの構造が複雑になり得る。対して、上述の電池モジュール1及び電池パックでは、断熱膜を構成する部材が、ケース3の蓋部6に設けられるため、各電池セル2の正極端子23や負極端子24の配置に制約されることなく、簡単な構成で発煙時に断熱膜を形成することができる。
【0034】
(3)上述の電池モジュール1及び電池パックにおいて、断熱膜を構成する部材は、ケース3の蓋部6である。このように、各電池セル2を収容するためのケース3の蓋部6を、断熱膜を構成する部材としても利用することで、部品点数を増加させることなく他の電池セル2の連爆を防ぐことができる。また、複数の電池セル2を覆う蓋部6を断熱膜を構成する部材として利用することで、他の電池セル2の上面を確実に覆うことができ、より確実に他の電池セル2の連爆を防ぐことができる。
【0035】
(4)支持部61を蓋部6の支持部61以外の部分よりも融点の低い樹脂で形成した場合には、電池セル2と蓋部6との間の空間内の温度上昇が当該部分の溶ける温度に至る前に、支持部61が溶け始める。このため、簡単な手法でより確実に支持部61による蓋部6の支持を解除し、蓋部6を落下させることができる。また、この場合、支持部61の板厚を蓋部6の支持部61以外の部分と同等とすることができるため、蓋部6の剛性強度を確保しつつ、発煙時には蓋部6を落下させることができる。
【0036】
(5)支持部61を蓋部6の支持部61以外の部分よりも薄肉に形成した場合には、蓋部6の材質を変更することなく簡単な構成で、発煙時の熱や勢い(圧力)を利用して蓋部6を落下させることができる。また、上記の支持部61の構成方法を組み合わせることで、発煙時の熱と勢い(圧力)とを利用してより素早く蓋部6を落下させることができる。
【0037】
[2.第二実施形態]
図4は、第二実施形態としての電池モジュール1′を示す縦断面図である。電池モジュール1′は、連爆防止用の断熱膜を構成する部材が違う点、及び、ケース3′には支持部61及び排煙部62が設けられていない点で第一実施形態の電池モジュール1と異なる。以下の説明では、上述した第一実施形態と異なる構成をおもに説明し、第一実施形態の構成と対応する構成については図1の符号にダッシュ(′)を付し、重複する説明は省略する。なお、第二実施形態の電池パックについても図示は省略するが、第一実施形態と同様、複数の電池モジュール1′がケーシング内に収容されて構成される。
【0038】
第二実施形態の電池モジュール1′において、連爆防止用の断熱膜を構成する部材は、ケース3′の蓋部6′に設けられたセラミック11及び熱硬化樹脂12である。第二実施形態の電池モジュール1′及び電池パックでは、複数の電池セル2′の一部が発熱して発煙した場合に、放出ガスにより、セラミック11及び熱硬化樹脂12が飛散して落下する。そして、熱硬化樹脂12が、放出ガスの熱によりセラミック11とともに各電池セル2′の上面部22′上で硬化することで、各電池セル2′の上方の空間と各電池セル2′との間の熱の伝達を防ぐ断熱膜F(図5参照)が形成される。
【0039】
セラミック11及び熱硬化樹脂12は、図4に示すように、フィルム7に内包された包装体8として、蓋部6′の電池セル2′側を向く面、すなわち、下面に配置される。セラミック11及び熱硬化樹脂12は、例えば、図4に二点鎖線で拡大して示すように、細かい粒子状に形成されて互いに混ざり合った粉体として設けられる。粒子の大きさは、例えば、1mmよりも小さい径(例えば、400μm)とされる。フィルム7は、放出ガスにより溶解されやすい薄い素材で構成される。
【0040】
セラミック11及び熱硬化樹脂12を内包する包装体8は、複数設けられる。また、包装体8は、好ましくは、各電池セル2′の安全弁25′の直上からずれた位置に配置される。ここでは、隣接する電池セル2′同士の間に配置された7個の包装体8を例示するが、包装体8の数はこれに限らない。また、包装体8の配置もこれに限らない。例えば、包装体8は、各電池セル2′の安全弁25′が設けられる位置に対して、紙面に直交する方向にずれた位置に配置されていてもよい。
【0041】
上記の電池モジュール1′の作用を説明する。発煙セル2′が発煙して発煙セル2′の安全弁25′が開弁すると、発煙セル2′の安全弁25′から高温の放出ガスが噴出する。蓋部6′に設けられた複数の包装体8のフィルム7は、放出ガスの熱により溶かされてセラミック11及び熱硬化樹脂12の粉体が露出する。そして、セラミック11及び熱硬化樹脂12は、噴出した放出ガスによって飛散する。
【0042】
詳述すると、セラミック11及び熱硬化樹脂12は、図5のドット塗の矢印で示すように、発煙セル2′の安全弁25′を中心に蔓延する放出ガスの流れに乗って、斜めに吹き飛ばされて飛散する。なお、本実施形態では、上述の通り、発煙セル2′の直上に包装体8が配置されていないため、発煙セル2′の安全弁25′から上方に向かって流れる放出ガスによって、セラミック11及び熱硬化樹脂12が蓋部6′に張り付くことが防止される。
【0043】
その後、飛散したセラミック11及び熱硬化樹脂12は、電池セル2′の上面に落下して付着し、放出ガスの熱と圧力とによって熱硬化樹脂12がセラミック11とともに硬化する。これにより、他の電池セル2′の上面部22′上には、断熱膜Fが形成される。よって、断熱膜Fにより電池セル2′の上方の空間を通じた他の電池セル2′への熱伝達が抑制されることから、他の電池セル2′の連爆が抑制される。
【0044】
上述した電池モジュール1′及び電池パックにおいても、第一実施形態の電池モジュール1及び電池パックと同様の効果を得ることができる。すなわち、上述の電池モジュール1′及び電池パックによれば、発煙セル2′の安全弁25′が開弁した場合に、発煙セル2′の放出ガスにより他の電池セル2′の上面部22′の上面に連爆防止用の断熱膜Fが形成されるため、他の電池セル2′の連爆を防ぐことができる。また、電池モジュール1′及び電池パックでは、安全弁25′が開弁した場合にのみ断熱膜Fが形成されるため、電池セル2′の放熱性の低下を防ぐことができる。さらに、断熱膜Fを構成するセラミック11及び熱硬化樹脂12は、蓋部6′に設けられるため、簡単な構成で各電池セル2′の上面に断熱膜Fを形成することができる。
【0045】
(6)また、上述の電池モジュール1′及び電池パックにおいて、断熱膜Fを構成する部材は、セラミック11と熱硬化樹脂12とであり、セラミック11及び熱硬化樹脂12はフィルム7に内包された包装体8として蓋部6′の下面に配置される。このように、蓋部6′の下面に包装体8を貼り付けるだけで連爆を防ぐことができるため、既存の電池モジュールや電池パックにも適用しやすく、汎用性を高めることができる。また、電池モジュール1′には、複数の包装体8が設けられることから、複数の電池セル2′のどの電池セル2′の発煙にも対応することができる。
【0046】
(7)包装体8が各電池セル2′の安全弁25′の直上からずれた位置に配置されることで、放出ガスの勢いで包装体8に含まれるセラミック11及び熱硬化樹脂12が蓋部6′に張り付くことを防止することができる。また、この場合、セラミック11及び熱硬化樹脂12は、発煙セル2′の安全弁25′を中心に蔓延する放出ガスの流れに乗って、斜めに吹き飛ばされて落下する。このため、他の電池セル2′の上面にセラミック11及び熱硬化樹脂12が局所的に集まることを抑制することができる。よって、他の電池セル2′の上面に満遍なく断熱膜Fを形成することができる。
【0047】
[3.その他]
上述の電池モジュール1,1′及び電池パックの構成は一例である。電池パックは、上述の電池モジュール1,1′を複数備えたものでなくてもよい。この場合、各電池セル2,2′は、電池パックの外郭をなすケーシングに直接載置されていてもよい。また、この場合、当該ケーシングにケース3,3′の構成が適用されてもよい。つまり、特許請求の範囲の「電池モジュール」とは、「断熱部材を介して横方向に並設された複数の電池セルが電池ケース内に収容された」ものを意図したもの(便宜的によんだもの)であり、「電池モジュール」そのものが「電池パック」と読み替えられてもよい。
【0048】
各電池セル2,2′は、上面部22,22′に安全弁25,25′を有する電池であれば、角型に限らない。ケース3,3′の形状も、複数の電池セル2,2′を横方向に並設できるものであれば矩形の筐体に限らない。第一実施形態の電池モジュール1において、蓋部6は、電池セル2の発煙時に支持部61が初めに溶解して落下できるものであれば、上述のものに限らない。例えば、蓋部6は、トレイ部5の側壁部52に外嵌するものであってもよい。この場合、支持部61は、蓋部6の外周部のうち内側の部分であって側壁部52と横方向に重複しない位置(支持部61が溶解したときに、蓋部6における支持部61の内側部分が落下する位置)に設けられていればよい。
【0049】
第二実施形態の電池モジュール1′に、第一実施形態の蓋部6の構成を適用してもよい。この場合、電池モジュール1′には、包装体8に内包されるセラミック11及び熱硬化樹脂12により形成される断熱膜Fと、蓋部6′により形成される断熱膜との二重の断熱膜が形成されるため、断熱膜の断熱性がより向上される。特に、第二実施形態の電池モジュール1′では、飛散したセラミック11及び熱硬化樹脂12により断熱膜Fが形成されることから、断熱膜Fの形状や位置を正確にコントロールすることが難しい。対して、第一実施形態の電池モジュール1では、自重によって落下する蓋部6により断熱膜が形成されることから、断熱膜の形状や位置をより正確にコントロールできる。よって、第一実施形態に開示の構成を第二実施形態の電池モジュール1′に適用することで、断熱膜の断熱性をより向上させることができる。
【0050】
また、第二実施形態の蓋部6′には、第一実施形態の排煙部62が設けられていてもよい。第二実施形態の蓋部6′には、ケース3′の内部とケース3′の外部とを連通させるホースを備えた排煙機構が設けられていてもよい。また、電池モジュール1,1′は、車両の走行駆動用電池に限らず、複数の電池セルを備える種々の電池モジュールや電池パックに適用されてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1,1′ 電池モジュール
2,2′ 電池セル
3,3′ ケース(電池ケース)
4,4′ 断熱部材
6,6′ 蓋部
7 フィルム
8 包装体
11 セラミック
12 熱硬化性樹脂
22,22′ 上面部
25,25′ 安全弁
61 支持部
62 排煙部
62h 排煙口
F 断熱膜
図1
図2
図3
図4
図5