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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139813
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】タイヤ加硫装置および方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20230927BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20230927BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20230927BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C35/02
B29L30:00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045531
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】松田 健太
【テーマコード(参考)】
4F202
4F203
【Fターム(参考)】
4F202AA45
4F202AH20
4F202AJ11
4F202AK11
4F202CA21
4F202CB01
4F202CU01
4F202CY10
4F202CY22
4F203AA45
4F203AH20
4F203AK11
4F203DA11
4F203DB01
4F203DC15
4F203DL10
4F203DM23
(57)【要約】
【課題】平面視で円環状に組み付けられるセクタモールドを、誘導加熱コイルを用いて、より効率的に加熱できるタイヤ加硫装置および方法を提供する。
【解決手段】各セクタモールド7Cには、平面視で外周面に平坦に形成された外周面平坦凹部8aを設け、外周面平坦凹部8aに対向して導体プレート9の平坦部10を当接させて取り付けて、導体プレート9はセクタモールド7Cよりも透磁率が高い材質で形成し、開型した状態のモールド7の中にグリーンタイヤGを横置き状態で配置し、中心機構3を囲むように設置した複数のセクタモールド7Cを円環状に組み付けてモールド7を閉型して、導体プレート9の外周側に配置した誘導加熱コイル11を用いて導体プレート9を加熱し、加熱した導体プレート9の熱をセクタモールド7Cに伝導させて加熱することによりグリーンタイヤGを加硫する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状の加硫用ブラダを上下に挿通する中心機構と、この中心機構を囲むように設置されて環状に組み付けられる複数のセクタモールドを有する加硫用モールドと、この加硫用モールドを開閉する開閉手段と、前記加硫用モールドを加熱する誘導加熱コイルとを備えたタイヤ加硫装置において、
それぞれの前記セクタモールドは、平面視で外周面に平坦に形成されている外周面平坦部を有し、この外周面平坦部に対向して当接する平坦部を有する導体プレートを備えて、この導体プレートが前記セクタモールドよりも透磁率が高い材質で形成されていて、前記誘導加熱コイルが前記導体プレートの外周側に配置されているタイヤ加硫装置。
【請求項2】
前記誘導加熱コイルは、それぞれの前記セクタモールドの外周面に取り付けられるセグメントの内部に配置されている請求項1に記載のタイヤ加硫装置。
【請求項3】
前記外周面平坦部は、それぞれの前記セクタモールドの平面視で円弧状の外周面の一部が平坦面に削除された形状である請求項1または2に記載のタイヤ加硫装置。
【請求項4】
前記外周面平坦部は、それぞれの前記セクタモールドの平面視で円弧状の外周面の一部が平坦面に肉盛りされた形状である請求項1または2に記載のタイヤ加硫装置。
【請求項5】
それぞれの前記セクタモールドは、前記外周面平坦部を複数有している請求項1~4のいずれかに記載のタイヤ加硫装置。
【請求項6】
開型した状態の加硫用モールドの中にグリーンタイヤを横置き状態で配置し、筒状の加硫用ブラダを上下に挿通する中心機構を囲むように平面視で円環状に設置した複数のセクタモールドを有する前記加硫用モールドを、それぞれの前記セクタモールドを円環状に組み付けて閉型して、誘導加熱コイルを用いて前記加硫用モールドを加熱して前記グリーンタイヤを加硫するタイヤ加硫方法において、
それぞれの前記セクタモールドには、平面視で外周面に平坦に形成された外周面平坦部を設け、この外周面平坦部に対向して導体プレートの平坦部を当接させて取り付けておき、前記導体プレートは前記セクタモールドよりも透磁率が高い材質で形成し、前記導体プレートの外周側に配置した前記誘導加熱コイルを用いて前記導体プレートを加熱し、加熱した前記導体プレートの熱を前記セクタモールドに伝導させて加熱するタイヤ加硫方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤ加硫装置および方法に関し、さらに詳しくは、平面視で円環状に組み付けられるセクタモールドを、誘導加熱コイルを用いて、より効率的に加熱できるタイヤ加硫装置および方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
タイヤ加硫工程でグリーンタイヤを加硫する際に、誘導加熱コイルを用いてモールドを加熱する方法が種々提案されている(例えば、特許文献1参照)。モールドが鉄などに比して透磁率が低いアルミニウム等で形成されている場合は、誘導加熱コイルを用いてモールドを直接加熱しても迅速に昇温させることができない。
【0003】
そこで、特許文献1などの従来技術では、誘導加熱コイルとモールドとの間に、鉄などの透磁率の高い材質で形成された発熱体を介在させている。これにより、誘導加熱コイルを用いて発熱体を迅速に昇温させ、加熱された発熱体の熱をモールドに伝導させることでモールドを迅速に加熱させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012-25126号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
セクショナルタイプのモールドは、平面視で円環状に組み付けられる複数のセクタモールドを有している。それぞれのセクタモールドの外周面は、平面視で円弧状になっている。誘導加熱コイルとセクタモールドとの間に設置される発熱体は、セクタモールドの平面視で円弧状の外周面に当接した状態で取り付けられるため、発熱体の内周面はセクタモールドの円弧状の外周面に適合するように平面視で円弧状に形成される。
【0006】
この発熱体は誘導加熱コイルを用いて加熱されると熱変形するので、その内周面の曲率半径が変化し、セクタモールドの外周面との間に隙間が生じることが判明した。この隙間の存在によって、発熱体とセクタモールドとの間の熱伝導が著しく妨げられて、セクタモールドを迅速に加熱できないという問題がある。それ故、平面視で円環状に組み付けられるセクタモールドを、誘導加熱コイルを用いて、より効率的に加熱するには改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のタイヤ加硫装置は、筒状の加硫用ブラダを上下に挿通する中心機構と、この中心機構を囲むように設置されて環状に組み付けられる複数のセクタモールドを有する加硫用モールドと、この加硫用モールドを開閉する開閉手段と、前記加硫用モールドを加熱する誘導加熱コイルとを備えたタイヤ加硫装置において、それぞれの前記セクタモールドは、平面視で外周面に平坦に形成されている外周面平坦部を有し、この外周面平坦部に対向して当接する平坦部を有する導体プレートを備えて、この導体プレートが前記セクタモールドよりも透磁率が高い材質で形成されていて、前記誘導加熱コイルが前記導体プレートの外周側に配置されていることを特徴とする。
【0008】
本発明のタイヤ加硫方法は、開型した状態の加硫用モールドの中にグリーンタイヤを横置き状態で配置し、筒状の加硫用ブラダを上下に挿通する中心機構を囲むように平面視で円環状に設置した複数のセクタモールドを有する前記加硫用モールドを、それぞれの前記セクタモールドを円環状に組み付けて閉型して、誘導加熱コイルを用いて前記加硫用モールドを加熱して前記グリーンタイヤを加硫するタイヤ加硫方法において、それぞれの前記セクタモールドには、平面視で外周面に平坦に形成された外周面平坦部を設け、この外周面平坦部に対向して導体プレートの平坦部を当接させて取り付けておき、前記導体プレートは前記セクタモールドよりも透磁率が高い材質で形成し、前記導体プレートの外周側に配置した前記誘導加熱コイルを用いて前記導体プレートを加熱し、加熱した前記導体プレートの熱を前記セクタモールドに伝導させて加熱することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、それぞれの前記セクタモールドの平面視で外周面に形成されている外周面平坦部と導体プレートの平坦部とが対向して互いが当接している。外周面平坦部と導体プレートの平坦部との平坦面どうしが面接触しているので、前記セクタモールドおよび前記導体プレートの熱変形に起因して互いが離反することを防止するには有利になっている。そして、前記誘導加熱コイルを用いて、前記セクタモールドよりも透磁率が高い前記導体プレートを加熱し、加熱された前記導体プレートの熱を前記セクタモールドに迅速に伝導させて、前記セクタモールドを効率的に加熱することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】タイヤ加硫装置の実施形態の左半分を縦断面視で例示する説明図である。
図2図1のセグメントおよびセクタモールドを平面視で例示する説明図である。
図3図1のセグメントとセクタモールドの一体物を拡大して例示する説明図である。
図4図3の一体物を外周面側からの視点で例示する説明図である。
図5図3の一体物を平面視で例示する説明図である。
図6】セグメントとセクタモールドを一体化する前の状態を例示する説明図である。
図7図6の状態を平面視で例示する説明図である。
図8図6のセクタモールドに導体プレートを取り付ける状態を外周面側からの視点で例示する説明図である。
図9図6のセグメントに誘導加熱コイルを取り付ける状態を内周面側からの視点で例示する説明図である。
図10図1の加硫用モールドを開型している状態を例示する説明図である。
図11】閉型した状態でのセグメントおよびセクタモールドを平面視で例示する説明図である。
図12】グリーンタイヤを加硫しているタイヤ加硫装置を例示する説明図である。
図13図12のA-A断面視でセグメントおよびセクタモールドを例示する説明図である。
図14】セクタモールドおよび導体プレートの変形例を平面視で示す説明図である。
図15図14のセクタモールドに導体プレートを取り付ける状態を外周面側からの視点で例示する説明図である。
図16】セクタモールドの別の変形例を平面視で示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明のタイヤ加硫装置および方法を、図に示した実施形態に基づいて説明する。
【0012】
図1図2に例示する本発明のタイヤ加硫装置1(以下、加硫装置1という)は、中心機構3と、中心機構3に保持される筒状の加硫用ブラダ5と、加硫用モールド7(以下、モールド7という)と、モールド7を開閉する開閉手段(後述する上下移動板部2およびコンテリング15)と、導体プレート9と、モールド7(上側サイドモールド7A、下側サイドモールド7B、セクタモールド7C)を加熱する誘導加熱コイル11とを備えている。図1では加硫装置1の左半分が図示されているが、右半分も左半分と実質的に同じ構造である。
【0013】
中心機構3は、中心ポスト3aと、中心ポスト3aに上下間隔をあけて取付けられた円盤状のクランプ部6aとを有している。中心ポスト3aは加硫用ブラダ5を上下に貫通している。加硫用ブラダ5の上側の開口縁部は、上側サイドモールド7Aの内周側下面に取り付けられているビードリング6bと上側のクランプ部6aとに挟まれて保持されている。加硫用ブラダ5の下側の開口縁部は、下側サイドモールド7Bの内周側上面に取り付けられているビードリング6bと下側のクランプ部6aとに挟まれて保持されている。図1の一点鎖線CLは、中心ポスト3aの軸心位置を示している。
【0014】
中心ポスト3aは、上側のクランプ部6aと下側のクランプ部6aの間の位置に、注入口4aおよび排出口4bを有している。注入口4aおよび排出口4bはそれぞれ、中心ポスト3aを下方に延びる配管に接続されている。注入口4aからはスチームなどの加熱媒体や窒素ガスなどの加圧媒体(以下、加熱媒体と加圧媒体を総称して加硫媒体Mという)が加硫用ブラダ5に注入される。
【0015】
モールド7はセクショナルタイプであり、円環状の上側サイドモールド7Aと、円環状の下側サイドモールド7Bと、複数のセクタモールド7Cとを有している。この実施形態では、上側サイドモールド7Aおよび下側サイドモールド7Bは鉄製、それぞれのセクタモールド7Cはアルミニウム製またはアルミニウム合金製である。
【0016】
上側サイドモールド7Aは、上部プレート12の下面に取り付けられている。上側サイドモールド7Aと上部プレート12の間には、誘導加熱コイル11が配置されている。下側サイドモールド7Bは、ベースに固定された下部プレート13の上面に不動状態で取り付けられている。下側サイドモールド7Bと下部プレート13の間には、誘導加熱コイル11が配置されている。
【0017】
それぞれのセクタモールド7Cは平面視で円弧状であり、中心ポスト3aを中心にして中心ポスト3aを囲むように円環状に配置されている。また、平面視で中心ポスト3aを中心にして、セクタモールド7Cと同数のセグメント14が円環状に配置されていて、それぞれのセクタモールド7Cは、対応するセグメント14の内周面に取り付けられている。それぞれのセクタモールド7Cとそれぞれのセグメント14との間には、導体プレート9および誘導加熱コイル11が配置されている。セクタモールド7Cとセグメント14との一体物の詳細については後述する。
【0018】
それぞれのセグメント14は、外周面に上方から下方に外周側に向かって傾斜する外周傾斜面を有している。それぞれのセグメント14には、その外周傾斜面に沿ってガイド溝が上下方向に延在している。この実施形態では、それぞれのセグメント14は鉄製である。
【0019】
中心機構3の上方で上下移動する上下移動板部2の下面には、円筒状のコンテリング15が設置されている。コンテナリング15は、中心機構3(中心ポスト3a)を中心にした円筒体であり、それぞれのセグメント14の外周側で上下移動板部2とともに上下移動する。上下移動板部2およびコンテリング15と、上部プレート12および上側サイドモールド7Aとは、油圧シリンダによって独立して上下移動する。
【0020】
コンテナリング15は、内周面に上方から下方に外周側に向かって傾斜する内周傾斜面を有している。この内周傾斜面とそれぞれのセグメント14の外周傾斜面とは互いが対向するように配置される。コンテナリング15の内周傾斜面には、周方向に間隔をあけて複数のガイドキーが、この内周傾斜面に沿って上下方向に延在している。それぞれのガイドキーは対応するセグメント14のガイド溝に係合していて、ガイドキー(コンテナリング15の内周傾斜面)とガイド溝(それぞれのセグメント14の外周傾斜面)とが摺動する構成になっている。
【0021】
図3図5に例示するように、それぞれのセクタモールド7Cは、対応するそれぞれのセグメント14にビス等によって取付けられている。セクタモールド7Cの外周面とセグメント14の内周面とが対向していて、この外周面と内周面との間に導体プレート9および誘導加熱コイル11が介在している。
【0022】
セクタモールド7Cとセグメント14の一体物を、構成部品に分離した状態を図6図9に例示する。
【0023】
それぞれのセクタモールド7Cは、外周面に平坦に形成された外周面平坦部(外周面平坦凹部8a)を有している。この外周面平坦凹部8aは、セクタモールド7Cの平面視で円弧状の外周面の一部が平坦面に削除された形状になっている。図7では、セクタモールド7Cに外周面平坦凹部8aが存在していない場合の円弧状の外周面が二点鎖線によって記載されている。セクタモールド7Cの円弧状の外周面を平坦面に切削して外周面平坦凹部8aを形成するだけでなく、外周面平坦凹部8aを有する形状のセクタモールド7Cを鋳造してもよい。
【0024】
外周面平坦凹部8aは、この実施形態のような正面視で矩形状に限らず、任意の形状にすることができる。外周面平坦凹部8aの大きさ(総面積)は例えば、セクタモールド7Cの外周面の総面積の10%以上より好ましくは20%以上にして、正面視で外周面の中央部を含む範囲に外周面平坦凹部8aを形成するとよい。
【0025】
導体プレート9は、平坦に形成されている平坦部10を有していて、この平坦部10が外周面平坦凹部8aに対向して当接する。即ち、セクタモールド7Cと導体プレート9とは、互いの平坦部8a、10どうし(平坦面どうし)を面接触させて一体化している。導体プレート9とセクタモールド7Cとはビス等で固定される。導体プレート9は、セクタモールド7Cよりも透磁率が高い材質で形成されている。セクタモールド7Cはアルミニウム、または、アルミニウム合金により形成されているので、導体プレート9は例えば、鉄、純鉄、ステンレス鋼、パーマロイなどにより形成される。
【0026】
導体プレート9は、この実施形態のような表裏を平坦面にした単純な矩形の薄板状に限らず、平坦部10を有する任意の形状にすることができる。導体プレート9の大きさ(総面積)は例えば、セクタモールド7Cの外周面の総面積の10%以上より好ましくは20%以上にして、正面視でセクタモールド7Cの外周面の中央部を含む範囲に配置するとよい。尚、外周面平坦凹部8aと平坦部10との接触面積は、例えば、セクタモールド7Cの外周面の総面積の10%以上より好ましくは20%以上にする。
【0027】
誘導加熱コイル11は、電磁誘導加熱に使用される公知の種々の仕様を用いることができる。誘導加熱コイル11に所定の周波数の交流電流を流すことによりモールド7を加熱する。誘導加熱コイル11に流す交流電流の周波数は、グリーンタイヤGの加硫に適した範囲を予め把握しておき、適切な周波数に設定する。加硫工程ではグリーンタイヤGを例えば150℃~200℃程度で加熱するので、この温度に加熱するために適した周波数の交流電流を誘導加熱コイル11に流すように設定する。それぞれの誘導加熱コイル11に流す交流電流は個別に制御できるので、上側サイドモールド7A、下側サイドモールド7B、それぞれのセクタモールド7Cの加熱温度を同じ温度に設定するだけでなく、異なる温度に設定することもできる。
【0028】
それぞれのセグメント14は、内周面に開口する収容室14aを有している。この収容室14aは、外周面平坦凹部8aや導体プレート9に対応する位置に形成されている。この収容室14aには、セクタモールド7Cを加熱するために使用される誘導加熱コイル11が設置されている。セクタモールド7Cを加熱する誘導加熱コイル11は、そのセクタモールド7Cに固定される導体プレート9の外周側に配置されていればよい。したがって、誘導加熱コイル11の設置位置は収容室14aに限定されず、例えば、セグメント14の外周面にすることもできる。
【0029】
次に、この加硫装置1を用いてグリーンタイヤGを加硫して空気入りタイヤTを製造する手順の一例を説明する。
【0030】
グリーンタイヤGを加硫する際には、モールド7を大きく型開して、グリーンタイヤGを下側サイドモールド7Bの上に横倒し状態で配置する。グリーンタイヤGの下側のビードコアは下側のビードリング6bに載置される。加硫用ブラダ5を若干膨張させてグリーンタイヤGを保持する。
【0031】
次いで、図1に例示するように、上方の待機位置にある上部プレート12とともに上側サイドモールド7Aを下方移動させ、上下移動板部2とともにコンテナリング15およびそれぞれのセグメント14を下方移動させる。これにより、それぞれのセグメント14を下部プレート13の上面に載置して、上部プレート12と下部プレート13の上下間にそれぞれのセグメント14を挟んだ状態にする。この状態では、図2に例示するように平面視で円環状に配置されたそれぞれのセクタモールド7C(セグメント14)は拡径した位置にある。
【0032】
次いで、上下移動板部2とともにコンテナリング15を、図1の状態から図10に例示するようにさらに下方移動させる。これにより、それぞれのセグメント14の外周傾斜面が、下方移動するコンテナリング15の内周傾斜面により押圧される。その結果、図11に例示するように、それぞれのセクタモールド7Cは中心ポスト3aに対して近接移動し、これらセクタモールド7Cが円環状に組み付けられてモールド7が閉型する。
【0033】
モールド7を閉型した後は、図12に例示するように注入口4aから加硫媒体Mを加硫用ブラダ5に注入する。これにより加硫用ブラダ5を十分に膨張させて、グリーンタイヤGをモールド7の内面に押し付けて加硫させる。また、それぞれの誘導加熱コイル11を用いてモールド7を加熱する。このようにして、グリーンタイヤGがモールド7の内面に押し付けられつつ加熱されて所定時間が経過することで、加硫工程が完了してタイヤTが製造される。その後、上部移動板部2およびコンテナリング15を上方移動させてモールド7を開型し、モールド7の中からタイヤTを取り出す。尚、本発明は空気入りタイヤTに限らず、その他の種々のタイプのタイヤを製造する際に適用できる。
【0034】
加硫工程では、上側サイドモールド7A、下側サイドモールド7Bは、それぞれに近接して配置された誘導加熱コイル11によって直接加熱される。それぞれのセクタモールド7Cは、それぞれが取り付けられているセグメント14の収容室14aに設置された誘導加熱コイル11によって直接加熱されるのではなく、導体プレート9を介して加熱される。
【0035】
詳述すると、図13に例示するように、セクタモールド7Cの外周面平坦凹部8aと誘導加熱コイル11との間に導体プレート9が配置されている。誘導加熱コイル11によって直接加熱される導体プレート9は、セクタモールド7Cよりも透磁率が高い材質で形成されているので迅速に加熱される。導体プレート9は加熱されることで熱変形する。導体プレート9とセクタモールド7Cとは材質が異なるので両者の熱膨張率も異なる。
【0036】
セクタモールド7Cと導体プレート9とは、外周面平坦凹部8aと平坦部10とが対向して当接している。即ち、外周面平坦凹部8aと平坦部10との平坦面どうしが面接触しているので、セクタモールド7Cおよび導体プレート9がそれぞれの熱膨張率で熱変形しても外周面平坦凹部8aと平坦部10とは離反し難く、両者の間に隙間が生じ難くなっている。そのため、外周面平坦凹部8aと平坦部10との接触面積の減少が抑制される。
【0037】
外周面平坦凹部8aと平坦部10との接触面積の減少は、導体プレート9からセクタモールド7Cへの熱伝導を著しく減少させるが、本発明によれば、この接触面積の減少が抑制されるので、迅速に加熱された導体プレート9の熱が、平坦部10および外周面平坦凹部8aを通じて迅速にセクタモールド7Cに伝導される。それ故、誘導加熱コイル11により供給される熱エネルギの熱伝導ロスを最小限にしてセクタモールド7Cを効率的に加熱することができる。これに伴い、グリーンタイヤGを省エネルギで加硫してタイヤTを製造するには有利になる。
【0038】
この実施形態では、セクタモールド7Cを加熱する誘導加熱コイル11が、そのセクタモールド7Cが取り付けられるセグメント14の内部に配置されている。誘導加熱コイル11をセクタモールド7Cの外周面に配置する場合に比して、セクタモールド7Cにより近い位置に誘導加熱コイル11が配置されている。そのため、誘導加熱コイル11が供給する熱エネルギを、導体プレート9を介してセクタモールド7Cに迅速に無駄なく伝導するには有利になっている。
【0039】
上述した実施形態では、それぞれのセクタモールド7Cは、外周面平坦凹部8aを1つだけ有する仕様になっているが、図14図15に例示するように複数の外周面平坦凹部8aを有する仕様にすることもできる。それぞれの外周面平坦凹部8aに対して、導体プレート9が平坦部10を当接させて取り付けられる。
【0040】
図14図15では、3つの外周面平坦凹部8aが、セクタモールド7Cの周方向に間隔をあけて形成されているが、外周面平坦凹部8aの数は3つに限らず、2つ或いは4つ以上でもよい。図14では、セクタモールド7Cに外周面平坦凹部8aが存在していない場合の円弧状の外周面が二点鎖線によって記載されている。1つの外周面平坦凹部8aだけで平坦面の面積を大きくするには、セクタモールド7Cの外周面に対する削り代が多くなる。一方、図14図15に例示するように、外周面平坦凹部8aを周方向に複数に分割して形成することで、セクタモールド7Cの外周面に対する削り代を少なくして、外周面平坦凹部8aの総面積を増大させるには有利になる。
【0041】
図16に例示するように、セクタモールド7Cは外周面平坦凹部8aに代えて外周面平坦凸部8bを有する仕様にすることもできる。外周面平坦凸部8bは、セクタモールド7Cの平面視で円弧状の外周面の一部が平坦面に肉盛りされた形状になっている。外周面平坦凸部8bに対して、導体プレート9が平坦部10を当接させて取り付けられる。図16では、セクタモールド7Cに外周面平坦凸部8bが存在していない場合の円弧状の外周面が二点鎖線によって記載されている。外周面平坦凸部8bを有する形状のセクタモールド7Cを鋳造するだけでなく、セクタモールド7Cの円弧状の外周面の一部を平坦面に切削して外周面平坦凸部8bを形成することもできる。
【0042】
セクタモールド7Cが外周面平坦凸部8bを有する仕様であると、外周面に平坦面を設けるためにセクタモールド7Cの半径方向厚さが小さくなることがない。それ故、半径方向厚さを小さくすることが難しいセクタモールド7Cは、外周面平坦凸部8bを有する仕様にするとよい。外周面平坦凸部8bも外周面平坦凹部8aと同様に、1つのセクタモールド7Cに対して複数形成することができる。
【実施例0043】
図1図5に例示したような一般的な自動車用の加硫用モールドを備えた加硫装置(実施例)と、実施例に対してセクタモールドを外周面平坦凹部が形成されていない円弧状の外周面にして、この外周面に沿った曲面の導体プレートをこの外周面に当接させたことのみを異ならせた加硫装置(比較例)とを用いて、誘導加熱コイルに同条件の交流電流を流してセクタモールドの温度の経時変化を測定した。加熱前の導体プレートとセクタモールドの外周面との接触面積は180mm×180mmに設定した。セクタモールドはアルミニウム製、導体プレートは鉄製にした。
【0044】
その結果、実施例では測定開始から30分でセクタモールドは160℃まで昇温した。導体プレートとセクタモールドの外周面との接触面積には殆ど変化が無かった。比較例では加熱された導体プレートが熱変形して、導体プレートとセクタモールドの外周面との接触面積が著しく減少した。そのため、測定開始から30分でセクタモールドは60℃程度までしか昇温せずに、その後も160℃まで昇温することは無かった。
【符号の説明】
【0045】
1 加硫装置
2 上下移動板部
3 中心機構
3a 中心ポスト
4a 注入口
4b 排出口
5 加硫用ブラダ
6a クランプ部
6b ビードリング
7 加硫用モールド
7A 上側サイドモールド
7B 下側サイドモールド
7C セクタモールド
8a 外周面平坦凹部(外周面平坦部)
8b 外周面平坦凸部(外周面平坦部)
9 導体プレート
10 平坦部
11 誘導加熱コイル
12 上部プレート
13 下部プレート
14 セグメント
14a 収容室
15 コンテナリング
G グリーンタイヤ
T 加硫済みタイヤ
図1
図2
図3
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図5
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