(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139816
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】絶縁抵抗監視装置
(51)【国際特許分類】
G01R 31/52 20200101AFI20230927BHJP
【FI】
G01R31/52
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045537
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】596041168
【氏名又は名称】株式会社竹中電機
(74)【代理人】
【識別番号】110000534
【氏名又は名称】弁理士法人真明センチュリー
(72)【発明者】
【氏名】松本 学
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敦
(72)【発明者】
【氏名】榊原 健二
(72)【発明者】
【氏名】桑原 剛
【テーマコード(参考)】
2G014
【Fターム(参考)】
2G014AA17
2G014AB07
(57)【要約】
【課題】負荷機器を作動させる電力を、その負荷機器を含む計測対象物の絶縁抵抗を監視する印加型計測器へ入力され難くできる絶縁抵抗監視装置を提供すること。
【解決手段】計測対象物は、三相電力を供給する交流電線11~13と、その三相電力によって作動する負荷機器14を備える。3つの抵抗器24a~24cの一端が3本の交流電線11~13に個別に接続され、それら抵抗器24a~24cの他端が互いに合成される。この他端に接続された印加型計測器30が計測対象物の絶縁抵抗を監視する。3つの抵抗器24a~24cは同一の抵抗値を有するので、三相電力によって3つの抵抗器24a~24cにそれぞれ生じる電流の総和が略0Aとなり、抵抗器24a~24cの他端側で合成された電圧も略0Vとなる。よって、三相電力に基づく電流や電圧を印加型計測器30へ入力され難くできる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
三相3線式の電路を構成して上流から下流へ三相電力を供給する3本1組の交流電線と、それら3本1組の交流電線から供給された三相電力によって作動する負荷機器と、を備えた計測対象物に対し、接地された接地部とその計測対象物との間の絶縁抵抗を監視する絶縁抵抗監視装置であって、
3本の前記交流電線に一端が個別に接続されて他端が互いに合成され、同一の抵抗値を有する3つの抵抗器と、
それら3つの抵抗器の合成された他端と前記接地部とにそれぞれ接続され、前記抵抗器が接続された前記計測対象物を前記接地部と非接続にした状態で、前記他端と前記接地部との間に電圧を印加することにより、前記計測対象物の絶縁抵抗に応じて生じた電流、又は、その電流を変換した電圧を計測する印加型計測器と、
を備えることを特徴とする絶縁抵抗監視装置。
【請求項2】
前記抵抗器が接続された3本の前記交流電線は、いずれも前記接地部と非接続の状態に維持されていることを特徴とする請求項1記載の絶縁抵抗監視装置。
【請求項3】
3つの前記抵抗器の一端がそれぞれ接続される位置よりも上流の3本の前記交流電線に配置され、その配置位置よりも上流側と下流側とで前記交流電線を絶縁しつつ、上流側から下流側へ電磁誘導により前記三相電力を伝達する上流トランスを備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の絶縁抵抗監視装置。
【請求項4】
3つの前記抵抗器の一端がそれぞれ接続される位置よりも下流の3本の前記交流電線に配置され、その配置位置よりも上流側と下流側とで前記交流電線を絶縁しつつ、上流側から下流側へ電磁誘導により前記三相電力を伝達する下流トランスを備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の絶縁抵抗監視装置。
【請求項5】
前記印加型計測器は、
前記接地部へ正の電圧を印加する電圧印加部と、
前記他端に接続され、前記電圧印加部で印加した電圧により前記他端側に生じた電流または電圧を計測する計測部と、
その計測部と前記接地部との間に配置され、予め定めた抵抗値を有する標準抵抗と、
前記計測部と前記他端との接続を、前記標準抵抗を介した前記計測部と前記接地部との接続に切り換える切換部と、を備え、
前記計測部は、前記切換部により前記標準抵抗を介した前記計測部と前記接地部との接続に切り換えられた状態で、前記電圧印加部で印加した電圧に基づき、前記計測対象物の絶縁抵抗に応じて生じる電流または電圧の代わりに、前記標準抵抗の抵抗値に応じて生じる電流または電圧を計測することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の絶縁抵抗監視装置。
【請求項6】
直流電力を出力するバッテリと、そのバッテリの正極に接続される正極線と、前記バッテリの負極に接続される負極線と、それら正極線および負極線を介して前記バッテリから供給された直流電力により作動する負荷機器と、を備えた計測対象物に対し、接地された接地部とその計測対象物との間の絶縁抵抗を監視する絶縁抵抗監視装置であって、
前記正極線とは非接続にされつつ前記負極線と前記接地部とにそれぞれ接続され、その負極線を前記接地部と非接続にした状態で、前記負極線と前記接地部との間に電圧を印加することにより、前記計測対象物の絶縁抵抗に応じて生じた電流、又は、その電流を変換した電圧を計測する印加型計測器と、
を備えることを特徴とする絶縁抵抗監視装置。
【請求項7】
前記負極線は、前記接地部と非接続の状態に維持されていることを特徴とする請求項6記載の絶縁抵抗監視装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、負荷機器を作動させる電力を、その負荷機器を含む計測対象物の絶縁抵抗を監視する印加型計測器へ入力され難くできる絶縁抵抗監視装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、上流から下流へ電力を供給する複数本1組の電源線と、その電源線から供給された電力によって作動する負荷機器と、を備えた計測対象物の絶縁抵抗を監視する印加型計測器が記載されている。この印加型計測器は、接地(アース)された接地部と計測対象物とに接続されており、接地部と計測対象物との間に電圧を印加する。この電圧が計測対象物の絶縁抵抗と印加型計測器の内部の基準抵抗とで分圧され、印加型計測器は、その基準抵抗にかかる電圧を計測することによって、接地部に対する計測対象物の絶縁抵抗を算出する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来技術では、計測対象物の絶縁抵抗を監視するために計測対象物に接続された印加型計測器へ、計測対象物の負荷機器を作動させる電力が入力されてしまうおそれがあった。
【0005】
本発明は上述した問題点を解決するためになされたものであり、負荷機器を作動させるための電力を印加型計測器へ入力され難くできる絶縁抵抗監視装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この目的を達成するために本発明の絶縁抵抗監視装置は、三相3線式の電路を構成して上流から下流へ三相電力を供給する3本1組の交流電線と、それら3本1組の交流電線から供給された三相電力によって作動する負荷機器と、を備えた計測対象物に対し、接地された接地部とその計測対象物との間の絶縁抵抗を監視するものであって、3本の前記交流電線に一端が個別に接続されて他端が互いに合成され、同一の抵抗値を有する3つの抵抗器と、それら3つの抵抗器の合成された他端と前記接地部とにそれぞれ接続され、前記抵抗器が接続された前記計測対象物を前記接地部と非接続にした状態で、前記他端と前記接地部との間に電圧を印加することにより、前記計測対象物の絶縁抵抗に応じて生じた電流、又は、その電流を変換した電圧を計測する印加型計測器と、を備える。
【0007】
また、本発明の絶縁抵抗監視装置は、直流電力を出力するバッテリと、そのバッテリの正極に接続される正極線と、前記バッテリの負極に接続される負極線と、それら正極線および負極線を介して前記バッテリから供給された直流電力により作動する負荷機器と、を備えた計測対象物に対し、接地された接地部とその計測対象物との間の絶縁抵抗を監視するものであって、前記正極線とは非接続にされつつ前記負極線と前記接地部とにそれぞれ接続され、その負極線を前記接地部と非接続にした状態で、前記負極線と前記接地部との間に電圧を印加することにより、前記計測対象物の絶縁抵抗に応じて生じた電流、又は、その電流を変換した電圧を計測する印加型計測器と、を備える。
【0008】
なお、「接地部」には、電気的に大地に接続された部分(例えば負荷機器の筐体)だけでなく、大地自身も含まれる。更に、車両や船舶、飛行機のフレームなどの大きな導体であって大地に接続されていない導体に接続することも「接地」と言い、接地された「接地部」には、フレームなどの大きな導体や、その導体に接続されたものも含まれる。
【発明の効果】
【0009】
請求項1記載の絶縁抵抗監視装置によれば、3つの抵抗器の一端が3本の交流電線に個別に接続され、それら3つの抵抗器の他端が互いに合成される。その合成された他端と接地部とにそれぞれ接続される印加型計測器は、抵抗器が接続された計測対象物(負荷機器、交流電線)を接地部と非接続にした状態で、合成された他端と接地部との間に電圧を印加する。この電圧の印加により、抵抗器を介して印加型計測器に接続されている計測対象物の絶縁抵抗に応じた電流が生じ、その電流が印加型計測器に入力される。この入力された電流、又は、その電流を変換した電圧を印加型計測器で計測することにより、絶縁抵抗監視装置は計測対象物の絶縁抵抗を監視できる。
【0010】
3本の交流電線と印加型計測器との間に設けた3つの抵抗器は同一の抵抗値を有するので、三相3線式の交流電線から供給された三相電力によって3つの抵抗器にそれぞれ生じる電流の総和が略0Aとなり、抵抗器の他端側で合成された電圧も略0Vとなる。よって、負荷機器を作動させるための三相電力に基づく電流や電圧を印加型計測器へ入力され難くできる。
【0011】
なお、「同一の抵抗値」とは、各々の抵抗値が±5%の範囲で異なる場合を含む。
【0012】
請求項2記載の絶縁抵抗監視装置によれば、請求項1記載の絶縁抵抗監視装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。抵抗器が接続された3本の交流電線は、いずれも接地部と非接続の状態に維持されているので、印加型計測器による計測時に、それらの交流電線を接地部から切り離す作業や工程を不要にできる。よって、印加型計測器による計測を簡素化できる。
【0013】
なお、印加型計測器による計測時に交流電線を接地部から切り離す場合、負荷機器などの誤動作を防止するために、その負荷機器を作動させる三相電力の供給を止めてから切り離すことが好ましい。しかし、その切り離しの不要によって、印加型計測器による計測時に三相電力の供給を止める必要が無い。これに加えて、3つの抵抗器により三相電力に基づく電流や電圧が印加型計測器へ入力され難いので、三相電力による負荷機器の作動中でも、印加型計測器は計測対象物の絶縁抵抗に応じた電流または電圧を計測できる。よって、絶縁抵抗監視装置は、負荷機器の作動中でも計測対象物の絶縁抵抗を監視できる。
【0014】
請求項3記載の絶縁抵抗監視装置によれば、請求項1又は2に記載の絶縁抵抗監視装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。3つの抵抗器の一端がそれぞれ接続される位置よりも上流の3本の交流電線に上流トランスが配置される。この上流トランスは、自身の配置位置よりも上流側と下流側とで交流電線を絶縁しつつ、上流側から下流側へ電磁誘導により三相電力を伝達する。
【0015】
そのため、印加型計測器は、電圧の印加により上流トランスの下流側の計測対象物の絶縁抵抗に応じて生じた電流または電圧を計測できる。その結果、絶縁抵抗監視装置は、交流電線の一部の絶縁抵抗を監視するために交流電線を途中で切り離して三相電力の供給を止めなくても、上流トランスを設けることでその下流側の絶縁抵抗を監視できる。
【0016】
請求項4記載の絶縁抵抗監視装置によれば、請求項1から3のいずれかに記載の絶縁抵抗監視装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。3つの抵抗器の一端がそれぞれ接続される位置よりも下流の3本の交流電線に下流トランスが配置される。この下流トランスは、自身の配置位置よりも上流側と下流側とで交流電線を絶縁しつつ、上流側から下流側へ電磁誘導により三相電力を伝達する。
【0017】
そのため、印加型計測器は、電圧の印加により下流トランスの上流側の計測対象物の絶縁抵抗に応じて生じた電流または電圧を計測できる。その結果、絶縁抵抗監視装置は、交流電線の一部の絶縁抵抗を監視するために交流電線を途中で切り離して三相電力の供給を止めなくても、下流トランスを設けることでその上流側の絶縁抵抗を監視できる。
【0018】
請求項5記載の絶縁抵抗監視装置によれば、請求項1から4のいずれかに記載の絶縁抵抗監視装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。印加型計測器の電圧印加部で接地部へ正の電圧を印加すると、3つの抵抗器の合成された他端に接続された計測部は、電圧印加部で印加した電圧により抵抗器の他端側に生じた電流または電圧を計測する。この計測部と抵抗器の他端との接続は、切換部によって、標準抵抗を介した計測部と接地部との接続に切り換えられる。このように切り換えた状態で、計測部は、電圧印加部で印加した電圧に基づき、計測対象物の絶縁抵抗に応じて生じる電流または電圧の代わりに、標準抵抗の抵抗値に応じて生じる電流または電圧を計測する。これにより、例えば、その計測した電流または電圧から算出される抵抗値を、予め定められている標準抵抗の抵抗値と比較することで、印加型計測器の正常動作を確認できる。
【0019】
請求項6記載の絶縁抵抗監視装置によれば、正極線とは非接続にされつつ負極線と接地部とにそれぞれ接続される印加型計測器は、負極線を接地部と非接続にした状態で、負極線と接地部との間に電圧を印加する。この電圧の印加により、印加型計測器に接続されている計測対象物の絶縁抵抗に応じた電流が生じ、その電流が印加型計測器に入力される。この入力された電流、又は、その電流を変換した電圧を印加型計測器で計測することにより、絶縁抵抗監視装置は計測対象物の絶縁抵抗を監視できる。
【0020】
なお、バッテリは低抵抗の導体とみなされるので、バッテリを介して繋がった正極線および負極線が1本の電線とみなされる。これにより、絶縁抵抗監視装置は、負極線だけでなく正極線の絶縁抵抗に応じた電流または電圧を印加型計測器で計測でき、正極線および負極線の絶縁抵抗を監視できる。
【0021】
また、接地部に対する負極線の電位は0Vに近くなるので、負荷機器へ直流電力が供給されている間でも、その直流電力に基づく電流や電圧を負極線から印加型計測器へ入力され難くできる。
【0022】
請求項7記載の絶縁抵抗監視装置によれば、請求項6記載の絶縁抵抗監視装置の奏する効果に加え、次の効果を奏する。負極線は接地部と非接続の状態に維持されているので、印加型計測器による計測時に負極線を接地部から切り離す作業や工程を不要にできる。よって、印加型計測器による計測を簡素化できる。
【0023】
なお、印加型計測器による計測時に負極線を接地部から切り離す場合、負荷機器などの誤動作を防止するために、その負荷機器を作動させる直流電力の供給を止めてから切り離すことが好ましい。しかし、その切り離しの不要によって、印加型計測器による計測時に直流電力の供給を止める必要が無い。これに加えて、負極線に接続された印加型計測器へ直流電力に基づく電流や電圧が入力され難いので、直流電力による負荷機器の作動中でも、印加型計測器は計測対象物の絶縁抵抗に応じた電流または電圧を計測できる。よって、絶縁抵抗監視装置は、負荷機器の作動中でも計測対象物の絶縁抵抗を監視できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】第1実施形態における絶縁抵抗監視装置および計測対象物の電気回路を模式的に示した回路図である。
【
図2】印加型計測器の電気的構成を示したブロック図である。
【
図3】印加型計測器のCPUで実行される定期計測処理のフローチャートである。
【
図4】絶縁抵抗の計測結果の経時変化と今後の予測とを示すグラフである。
【
図5】第2実施形態における絶縁抵抗監視装置および計測対象物の電気回路を模式的に示した回路図である。
【
図6】第2実施形態における印加型計測器の電気的構成を示したブロック図である。
【
図7】第2実施形態における定期計測処理のフローチャートである。
【
図8】第3実施形態における絶縁抵抗監視装置および計測対象物の電気回路を模式的に示した回路図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、好ましい実施形態について添付図面を参照して説明する。まず
図1を参照して第1実施形態における絶縁抵抗監視装置20及び計測対象物について説明する。
図1は、絶縁抵抗監視装置20及び計測対象物の電気回路を模式的に示した回路図である。計測対象物は、三相3線式の交流電路を構成する3本1組の交流電線11,12,13と、それら3本1組の交流電線11~13に接続される負荷機器14と、を備える。
【0026】
交流電線11~13は、上流の柱上変圧器などから下流の負荷機器14へ三相電力(負荷用電力)を供給する電源線である。三相電力とは三相交流の電力であり、三相交流とは、交流電線11~13をそれぞれ流れる3つの同一電圧の単相交流の位相を120°ずつずらしたものである。
【0027】
負荷機器14は、1組の交流電線11~13から供給された三相電力によって作動する電気回路である。負荷機器14としては、例えば三相誘導電動機が挙げられる。負荷機器14は、接地線18を介してD種接地(アース)された筐体14aに収容されている。負荷機器14は、筐体14a内で交流電線11~13に直接接続されている。
【0028】
なお、接地線18は、大地に埋め込まれた接地極に接続された電線である。筐体14a、後述する絶縁トランス21,22及び印加型計測器30に接続される接地線18は、同一の電線でも良く、大地を介して互いに接続される別々の電線でも良い。
【0029】
絶縁抵抗監視装置20は、接地線18や筐体14a、大地などの接地部と計測対象物との間の絶縁抵抗を監視するためのものである。絶縁抵抗監視装置20は、交流電線11~13の途中に配置される絶縁トランス21,22と、交流電線11~13に接続される合成抵抗部23,24と、合成抵抗部23,24と接地線18との間に接続される印加型計測器30と、を備える。
【0030】
絶縁トランス21の下流側の交流電線11~13に絶縁トランス22が配置される。絶縁トランス21は、自身の配置位置よりも上流側の交流電線11~13に接続される1次巻線21aと、自身の配置位置よりも下流側の交流電線11~13に接続される2次巻線21bと、1次巻線21a及び2次巻線21bが巻き付けられる鉄心(図示せず)と、1次巻線21a、2次巻線21b及び鉄心が収容される筐体21cと、を備える。
【0031】
同様に、絶縁トランス22は、1次巻線22aと、2次巻線22bと、鉄心(図示せず)と、筐体22cと、を備える。なお、絶縁トランス21,22内で生じた漏洩電流などを大地へ逃がすために、筐体21c,22cは接地線18に接続されて接地される。
【0032】
ここで交流電線11~13のうち、絶縁トランス21の1次巻線21aに接続される部位をそれぞれ上流線11a~13aとし、絶縁トランス21の2次巻線21bと絶縁トランス22の1次巻線22aとを繋ぐ部位をそれぞれ中間線11b~13bとし、絶縁トランス22の2次巻線22bに接続される部位をそれぞれ下流線11c~13cとする。
【0033】
絶縁トランス21は、上流線11a~13aと中間線11b~13bとを絶縁しつつ、上流線11a~13aから中間線11b~13bへ電磁誘導により三相電力を伝達する。同様に、絶縁トランス22は、中間線11b~13bと下流線11c~13cとを絶縁しつつ、中間線11b~13bから下流線11c~13cへ電磁誘導により三相電力を伝達する。
【0034】
なお、絶縁トランス21は、1次巻線21aの巻数と2次巻線21bの巻数とを異ならせることで、1次巻線21a側の電圧を変圧して2次巻線21b側へ伝達できる。但し、1次巻線21aの巻数と2次巻線21bの巻数とを同一にして絶縁トランス21で変圧しなくても良い。同様に絶縁トランス22で変圧しても良いし変圧しなくても良い。
【0035】
また、絶縁トランス21,22の下流側の中間線11b~13b及び下流線11c~13cはいずれも、接地線18等の接地部と非接続の状態に維持されている。即ち、絶縁トランス21,22の下流側がB種接地されていない。
【0036】
合成抵抗部23は、中間線11bに一端が接続される抵抗器23aと、中間線12bに一端が接続される抵抗器23bと、中間線13bに一端が接続される抵抗器23cと、を備える。これら3つの抵抗器23a~23cの他端は互いに合成される。この合成された抵抗器23a~23cの他端と印加型計測器30とが合成電線23dで繋がれる。
【0037】
3つの抵抗器23a~23cは同一の抵抗値を有する。これにより、中間線11b~13bから供給された三相電力によって3つの抵抗器23a~23cにそれぞれ生じる電流の時間変化のグラフは、中間線11b~13bの電圧の時間変化のグラフ(同一電圧の単相交流の位相が120°ずつずれたグラフ)と相似関係となる。
【0038】
そのため、いずれの時間においても、抵抗器23a~23cを流れる電流の総和は略0Aとなる。よって、それらの電流が合成された合成電線23dに流れる電流は略0Aとなり、合成電線23dで合成された電圧も略0Vとなる。なお、三相電力に基づく電流および電圧が略0としたのは、中間線11b~13b間の電圧のバランスが崩れたときに、合成電線23dにも微量の電流および電圧が生じることがあるためである。
【0039】
また、「同一の抵抗値」とは、各々の抵抗値が±5%の範囲で異なる場合を含む。3つの抵抗器23a~23cの抵抗値が若干異なる場合にも、合成電線23dに微量の電流および電圧が生じることがある。
【0040】
合成抵抗部23と同様に、合成抵抗部24は、下流線11c~13cそれぞれに一端が接続される抵抗器24a~24cを備える。互いに合成された抵抗器24a~24cの他端と印加型計測器30とが合成電線24dで繋がれる。抵抗器24a~24cは同一の抵抗値を有するため、三相電力に基づいて合成電線24dに流れる電流は略0Aとなり、合成電線24dで合成された電圧も略0Vとなる。
【0041】
これらのように、合成抵抗部23,24を介して印加型計測器30が交流電線11~13に接続されることで、三相電力に基づく電流および電圧を印加型計測器30へ入力され難くできる。その結果、三相電力の供給時に交流電線11~13から印加型計測器30を外す作業や、それを着け外しするための電磁開閉器などを不要にできる。
【0042】
また、その電磁開閉器を設けた場合でも、電磁開閉器が溶着などの不具合で開かなくなったときに、合成抵抗部23,24によって三相電力に基づく電流および電圧を印加型計測器30へ入力され難くできる。よって、合成抵抗部23,24を用いることで、三相電力の供給時でも印加型計測器30を交流電線11~13に接続したままにできる。
【0043】
印加型計測器30は、接地線18に接続される端子Eと、合成電線23d及び合成抵抗部23を介し中間線11b~13bに接続される端子aと、合成電線24d及び合成抵抗部24を介し下流線11c~13cに接続される端子bと、を備える。
【0044】
印加型計測器30は、端子Eと端子a又は端子bとの間に電圧を印加することで、その端子a又は端子bに接続された計測対象物(交流電線11~13、負荷機器14)の絶縁抵抗に応じて電流を生じさせる。印加型計測器30は、この電流を変換した電圧を計測し、その電圧から絶縁抵抗を算出して監視する。
【0045】
なお、印加型計測器30による電圧の印加で交流電線11~13に生じる電流は、絶縁トランス21,22を越えて流れない。そのため、印加型計測器30は、端子Eと端子aとの間に電圧を印加したとき、計測対象物のうち端子aに接続された中間線11b~13b、2次巻線21b及び1次巻線22a(以下「計測対象物a」と称す)の絶縁抵抗に応じて生じた電圧を計測できる。同様に、印加型計測器30は、端子Eと端子bとの間に電圧を印加したとき、計測対象物のうち端子bに接続された下流線11c~13c、2次巻線22b及び負荷機器14(以下「計測対象物b」と称す)の絶縁抵抗に応じて生じた電圧を計測できる。
【0046】
このように、絶縁抵抗監視装置20は、端子a,bの接続位置よりも上流側にある絶縁トランス21,22によって、その絶縁トランス21,22の下流側の計測対象物a,bの絶縁抵抗を監視できる。また、絶縁抵抗監視装置20は、端子aの接続位置よりも下流側にある絶縁トランス22によって、その絶縁トランス22の上流側の計測対象物aの絶縁抵抗を監視できる。
【0047】
従来、交流電線11~13を含む計測対象物の絶縁抵抗を部分的に監視するには、交流電線11~13を途中で切り離す必要があった。しかし、本実施形態における絶縁抵抗監視装置20では、絶縁トランス21,22を設けることにより、交流電線11~13を途中で切り離さなくても、計測対象物の絶縁抵抗を部分的に監視できる。言い換えると、絶縁抵抗監視装置20では、計測対象物の絶縁抵抗を監視するために、交流電線11~13を切り離して三相電力の供給を止める必要はない。
【0048】
具体的に、端子aに接続された計測対象物a(中間線11b~13b等)の絶縁抵抗を印加型計測器30で算出する方法を説明する。まず、端子Eと端子aとの間に所定の電圧V0(例えば250~1000V)を印加すると、計測対象物aの絶縁抵抗に応じた電流が生じる。印加型計測器30は、この電流を、印加型計測器30の内部に設けた基準抵抗40(
図2参照)によって電圧V1に変換し、その電圧V1を計測する。
【0049】
これを別の観点から説明する。印加型計測器30によって端子Eと端子aとの間に印加された電圧V0は、主に計測対象物aの絶縁抵抗と抵抗器23a~23cと基準抵抗40とに分圧される。印加型計測器30は、この分圧された電圧のうち基準抵抗40にかかる電圧V1を計測する。
【0050】
ここで、計測対象物aの絶縁抵抗の値をR1、合成抵抗部23の抵抗値(3つの抵抗器23a,23b,23cの抵抗値を合成した値)をR2、基準抵抗40の抵抗値をR3とすると、V1=V0×R1/(R1+R2+R3)の式が成り立つ。電圧V0、抵抗値R2,R3は予め判明しているため、電圧V1を計測することで、計測対象物aの絶縁抵抗の値R1が算出される。
【0051】
同様に、端子bに接続された計測対象物b(下流線11c~13c等)の絶縁抵抗を計測する場合、印加型計測器30は、端子Eと端子bとの間に電圧V0を印加し、基準抵抗40にかかる電圧V1を計測して、その計測結果から計測対象物bの絶縁抵抗の値R1を算出する。この場合、合成抵抗部24の抵抗値(3つの抵抗器24a,24b,24cの抵抗値を合成した値)をR2とする。
【0052】
印加型計測器30は、交流電線11~13から供給される三相電力ではなく、蓄電池25によって作動する。更に、印加型計測器30は、自身で印加した電圧(蓄電池25の電力)を利用して絶縁抵抗に応じた電圧を計測するので、三相電力の非供給時でも計測対象物a,bの絶縁抵抗を監視できる。
【0053】
また、印加型計測器30により計測対象物a,bの絶縁抵抗を計測するには、その計測対象物a,bを接地線18等の接地部と非接続にする必要がある。但し、中間線11b~13bや下流線11c~13cを含む計測対象物a,bは、B種接地が無いことによって接地線18と非接続の状態に維持されている。そのため、印加型計測器30による計測時に、計測対象物a,bを接地線18から切り離す作業や工程を不要にできる。よって、印加型計測器30による計測を簡素化できる。
【0054】
なお、印加型計測器30による計測時に交流電線11~13を接地線18から切り離す場合、負荷機器14等の誤動作を防止するために、交流電線11~13による三相電力の供給を止めてから切り離すことが好ましい。しかし、その切り離しの不要によって、印加型計測器30による計測時に交流電線11~13による三相電力の供給を止める必要が無い。
【0055】
これに加えて、合成抵抗部23,24により三相電力に基づく電流や電圧が印加型計測器30へ入力され難い。これらの結果、三相電力による負荷機器14の作動中でも、印加型計測器30は、三相電力による計測結果への影響を抑えつつ、計測対象物a,bの絶縁抵抗に応じた電圧を計測できる。よって、絶縁抵抗監視装置20は、負荷機器14の作動中でも計測対象物a,bの絶縁抵抗を正確に監視できる。
【0056】
次に
図2~
図4を参照して、印加型計測器30の制御についてより詳しく説明する。
図2は、印加型計測器30の電気的構成を示したブロック図である。印加型計測器30は、CPU31と、フラッシュROM32と、CPU31のプログラムの実行時に各種のワークデータやフラグ等を書き換え可能に記憶するためのメモリであるRAM33とを有し、これらはバスライン34を介して、入出力ポート35にそれぞれ接続されている。
【0057】
入出力ポート35には、更に、外部制御機器26に接続される通信装置36と、計測部37と、電圧印加部38と、切換部39と、がそれぞれ接続されている。外部制御機器26は、絶縁抵抗監視装置20(印加型計測器30)から取得した計測対象物の絶縁抵抗の計測結果を解析したり、負荷機器14等の作動を制御する機器である。
【0058】
CPU31は、バスライン34により接続された各部を制御する演算装置である。フラッシュROM32は、CPU31により実行されるプログラムや固定値データ等を格納した書き換え可能な不揮発性のメモリであり、印加監視プログラム32aが設けられる。CPU31によって印加監視プログラム32aが実行されると、
図3の定期計測処理が実行される。
【0059】
計測部37は、印加型計測器30に内蔵された基準抵抗40にかかる電圧を計測する機器である。基準抵抗40は、基準となる予め定めた抵抗値を有する負荷であり、一端が切換部39に接続されて他端がグランド41に接続されている。電圧印加部38は、このグランド41を基準電位として、端子Eから接地線18へ直流の正の電圧を印加する機器である。
【0060】
切換部39は、端子a,bに接続された計測対象物a,bのうちの1つを基準抵抗40及び計測部37に接続し、その計測部37に接続された計測対象物a又はbの絶縁抵抗を算出可能とするための回路である。
【0061】
端子aと計測部37との間の電路はスイッチSW1によって開閉可能に接続され、端子bと計測部37との間の電路はスイッチSW2によって開閉可能に接続されている。スイッチSW1,SW2は、CPU31からの指示に応じて電気回路を開閉するスイッチであり、非通電時に開状態を維持する。
【0062】
更に、切換部39は、端子Eと電圧印加部38との間から分岐した電線に接続される標準抵抗42と、その標準抵抗42と計測部37とを開閉可能に接続するスイッチSW3と、を備える。標準抵抗42は、予め定めた抵抗値を有する負荷である。なお、スイッチSW3は、端子Eと電圧印加部38との間から分岐した電線と、標準抵抗42との間に設けても良い。
【0063】
次に
図3を参照して、印加型計測器30のCPU31で実行される定期計測処理を説明する。
図3は、印加型計測器30の定期計測処理のフローチャートである。印加型計測器30の定期計測処理は、印加型計測器30の電源が投入されている間、定期的(例えば10分毎)に実行される。
【0064】
印加型計測器30の定期計測処理は、まず、計測対象物aの絶縁抵抗を算出するためにn=1を設定する(S11)。次いで、スイッチSWn(n:整数)を閉じる(S12)。n=1としたS11の処理の直後におけるS12の処理では、スイッチSW1を閉じて、計測対象物aを計測部37に接続する。
【0065】
これにより、計測対象物aの絶縁抵抗を算出するための回路が形成されたので、電圧印加部38で端子Eから接地線18へ正の電圧を印加する(S13)。次いで、電圧の印加から所定時間が経過したかを確認し(S14)、所定時間が経過していない場合には(S14:No)、計測対象物aの絶縁抵抗に応じて生じる電圧の計測値が安定していないので、S14の処理をループする。
【0066】
一方、電圧の印加から所定時間が経過した場合には(S14:Yes)、n≦2であるかを確認することで(S15)、計測対象物a又はbの絶縁抵抗を算出するタイミングであるかを確認する。n≦2である場合には(S15:Yes)、計測対象物a又はbの絶縁抵抗を算出するタイミングが到来しているので、基準抵抗40にかかる電圧を計測部37で計測し、上述した通り、その計測結果から計測対象物aの絶縁抵抗を算出する(S16)。
【0067】
次いで、その計測結果と、計測対象(S11の処理後の1回目の処理では計測対象物a)と、計測した日時とを外部制御機器26へ送信する(S18)。外部制御機器26では、
図4を用いて後述する通り、この計測結果を蓄積して解析を行う。
【0068】
S18の処理後、次の計測のためにスイッチSWnを開ける(S19)。S11の処理後の1回目の処理では、S19でスイッチSW1を開け、計測対象物aを計測部37から切り離す。この切り離しを確認するために、絶縁抵抗に応じた電圧が計測部37でもう検出されないことを確認する(S20)。
【0069】
S20の処理で電圧が検出されなかった場合には(S20:Yes)、S19の処理で開くように指示したスイッチSW1が問題無く開いたことが分かる。そのため、電圧印加部38による電圧の印加を終了して(S21)、次の計測のためにn=n+1をする(S22)。
【0070】
次いで、n≧4であるかを確認し(S23)、n<4であれば(S23:No)、未計測のものが残っているので、S12以下の処理を再び実行する。具体的に、S22の処理でn=2となった場合、S12,S19の処理でスイッチSW2を開閉し、S16の処理で計測対象物bの絶縁抵抗を算出する。
【0071】
また、S22の処理でn=3となった場合には、S12の処理でスイッチSW3を閉じることで、標準抵抗42を介して電圧印加部38と計測部37及び基準抵抗40とが接続される。更に、S15の処理ではn>2となるため(S15:No)、S16の処理に代えて、S17の処理を実行する。
【0072】
S17の処理では、基準抵抗40にかかる電圧を計測部37で計測し、その計測結果から標準抵抗42の抵抗値を算出する(S17)。電圧印加部38により印加される電圧V0が、標準抵抗42と基準抵抗40とに分圧されるので、標準抵抗42の抵抗値をR4、基準抵抗40にかかる電圧をV1、基準抵抗40の抵抗値をR3とすると、V1=V0×R4/(R3+R4)の式が成り立つ。この式に各値を代入することで、標準抵抗42の抵抗値R4が算出される。
【0073】
このS17の処理で算出した計測結果は、計測対象を標準抵抗42としてS18の処理で外部制御機器26へ送信される。外部制御機器26では、印加型計測器30で算出した抵抗値R4と、予め定められている標準抵抗42の本来の抵抗値とを比較し、両者が殆ど一致していれば、印加型計測器30が正常に動作していると判断できる。
【0074】
また、印加型計測器30で算出した抵抗値R4が、標準抵抗42の予め定めた抵抗値に近づくように、印加型計測器30を校正させる信号を外部制御機器26から印加型計測器30へ送ることもできる。なお、これらの正常動作や校正の判断を外部制御機器26ではなく印加型計測器30で実行させても良い。
【0075】
n=3である場合のS18の処理後は、S19の処理でスイッチSW3を開け、S20~S23の処理を実行する。このS23の処理では、直前のS22の処理によりn=4になっており(S23:Yes)、全ての計測が終了したので、定期計測処理を終了する。
【0076】
また、nの値に関わらず、S20の処理において、計測部37で電圧が検出された場合には(S20:No)、S19の処理で開くように指示したスイッチSWnが溶着などによって実際には開かなかったと判断できる。この場合、スイッチSWnが開かなかったというエラー情報を外部制御機器26へ送信し(S24)、電圧印加部38による電圧の印加を終了し(S25)、定期計測処理を終了する。
【0077】
ここで例えば、スイッチSW1が溶着により開かずエラーとなっている場合に定期計測処理を終了せず、S12以下の処理を再び実行して、計測対象物bの絶縁抵抗の計測のためにスイッチSW2を閉じると、計測対象物aと計測対象物bとが接続されてしまう。この状態で三相電力を供給したり電圧印加部38で電圧を印加したりすると、意図しない電圧によって印加型計測器30や計測対象物a,bの各部位が故障する可能性がある。
【0078】
これに対し、S20の処理で電圧を検出するというエラーが有った場合に(S20:No)、定期計測処理を終了することで、切換部39を介して複数の計測対象物a,b同士が接続されてしまうことを抑制できる。その結果、意図しない電圧によって印加型計測器30や計測対象物a,bの各部位が故障する可能性を低減できる。
【0079】
更に、エラーが解消するまで、定期計測処理を実行しないように制御しても良い。これにより、意図しない電圧によって印加型計測器30や計測対象物a,bの各部位が故障する可能性を更に低減できる。
【0080】
図4を参照し、外部制御機器26で実行される解析のうち、印加型計測器30による計測対象物aの絶縁抵抗の計測結果に対する解析について説明する。なお、計測対象物bの絶縁抵抗の計測結果に対しても同一の解析が行われる。
【0081】
外部制御機器26では、
図4に示すように、計測対象物aに関し、過去の絶縁抵抗の計測結果を縦軸に、日時を横軸にしたグラフを生成し表示する。
図4のグラフでは、過去の計測結果(実測値)の経時変化を実線で示し、その実測値を最小二乗法で近似した直線の延長線による今後の計測結果(予測値)の経時変化を二点鎖線で示している。また、
図4のグラフには、絶縁抵抗の劣化が疑われる閾値を破線で示している。
【0082】
外部制御機器26は、過去の計測結果が閾値を下回っている場合に、計測対象物aの絶縁抵抗の劣化が疑われることを外部制御機器26の管理者へ通知する。この際、負荷機器14を操作する作業者やオペレータに通知しても良い。なお、印加型計測器30で絶縁抵抗を計測する際に計測時の温度や湿度も取得し、それらの情報に基づき絶縁抵抗を補正したり閾値を変更する等しても良い。
【0083】
外部制御機器26では、今後の計測結果(予測値)の経時変化と閾値とから、今後の計測結果が閾値以下となる日時が予測され、その日時が
図4のグラフに表示されている。よって、外部制御機器26の管理者は、今後の計測結果が閾値以下となる日時を目安に計測対象物aのメンテナンス等のスケジュールを計画することができると共に、交換が必要な機器や部品の発注などを計画することができる。
【0084】
次に
図5~
図7を参照して第2実施形態について説明する。第1実施形態では、絶縁トランス22の下流側がB種接地されていない場合について説明した。これに対し、第2実施形態では、絶縁トランス22の下流側がB種接地されている場合について説明する。なお、第1実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0085】
図5は、第2実施形態における絶縁抵抗監視装置60及び計測対象物の電気回路を模式的に示した回路図である。第2実施形態における計測対象物は、第1実施形態の計測対象物に対し絶縁トランス22の上流側を省略したものである。
【0086】
絶縁抵抗監視装置60は、絶縁トランス22と、その絶縁トランス22の下流側をB種接地させるB種接地線66と、そのB種接地線66に設けられる電磁開閉器67と、合成抵抗部24と、合成抵抗部24と接地線18との間に接続される印加型計測器61と、を備える。
【0087】
B種接地線66は、絶縁トランス22の近傍で下流線13cから分岐した電線であって、絶縁トランス22の筐体22cの接地線18に接続される。これにより、絶縁トランス22の下流側がB種接地される。なお、B種接地線66を大地に直接接続して下流線13cを接地させても良い。
【0088】
電磁開閉器67は、B種接地線66を開閉するノーマルクローズ型の開閉器である。電磁開閉器67は、電磁開閉器67への非通電時にB種接地線66を閉じて(通電して)下流線13cを接地させ、電磁開閉器67への通電時にB種接地線66を開いて(遮断して)下流線13cを非接地に切り換える。
【0089】
図6に示すように、印加型計測器61は、第1実施形態における印加型計測器30(
図2参照)に対し、切換部39及び端子bが省略され、合成抵抗部24に接続された端子aが計測部37及び基準抵抗40に直接接続されている点で異なる。更に、印加型計測器61のフラッシュROM32には、第1実施形態と異なる印加監視プログラム62が設けられている。その他の印加型計測器61の構成は、第1実施形態における印加型計測器30と同一である。
【0090】
外部制御機器26には、印加型計測器61、負荷機器14、電磁開閉器67がそれぞれ接続されている。外部制御機器26は、負荷機器14の作動状態や電磁開閉器67の開閉状態を印加型計測器61に伝達したり、印加型計測器61からの切換信号を電磁開閉器67へ伝達したりする。
【0091】
次に
図7を参照して、印加型計測器61のCPU31によって印加監視プログラム62が実行されたときの処理について説明する。
図7は、印加監視プログラム62によってCPU31で実行される定期計測処理のフローチャートである。印加型計測器61の定期計測処理は、印加型計測器61の電源が投入されている間、定期的(例えば10分毎)に実行される。
【0092】
印加型計測器61の定期計測処理は、まず、電磁開閉器67を開くことが可能かを判断するために、負荷機器14の電源がオフであるかを確認する(S41)。負荷機器14の電源がオンである場合に電磁開閉器67を開いて下流線13cを非接地にすると、例えば負荷機器14の作動時のノイズをB種接地線66から大地へ逃がせなくなり、負荷機器14が誤動作するおそれがある。
【0093】
負荷機器14の電源がオフである場合には(S41:Yes)、電磁開閉器67を開いても負荷機器14が誤動作しないので、電磁開閉器67を開ける(S42)。具体的にS42の処理では、電磁開閉器67を開ける信号を外部制御機器26を介して電磁開閉器67へ送信し、電磁開閉器67はその信号を受信したときに開く。
【0094】
S42の処理後、第1実施形態と同様にS13,S14,S16,S18,S21の処理を実行し、端子aに接続された計測対象物の絶縁抵抗を算出して外部制御機器26へ送信する。次いで、電源をオンにしたときに負荷機器14が正常に動作するよう、電磁開閉器67を閉じて下流線13cを再び接地させ(S43)、定期計測処理を終了する。
【0095】
一方、S41の処理において、負荷機器14の電源がオンである場合には(S41:No)、電磁開閉器67を開いたときの負荷機器14の誤動作を抑制するため、電磁開閉器67を閉じたままにして定期計測処理を終了する。電磁開閉器67を閉じたまま、電圧印加部38で接地線18へ電圧を印加すると、その電圧に応じた電流が絶縁抵抗を介さずに接地線18及びB種接地線66から下流線13cへ直接流れ、その電流が計測部37へ入力されてしまう。この場合、計測部37の計測結果から計測対象物の絶縁抵抗を正確に計測できないおそれがある。
【0096】
これに対し、印加型計測器61は、負荷機器14へ三相電力を供給せずに電磁開閉器67を開いた状態で計測部37により電圧を計測するので、計測対象物の絶縁抵抗に応じた電圧を計測部37で正確に計測できる。その結果、印加型計測器61は、計測部37の計測結果から計測対象物の絶縁抵抗を正確に算出できる。
【0097】
次に
図8を参照して第3実施形態について説明する。第1,2実施形態では、三相3線式の交流電線11~13を含む計測対象物の絶縁抵抗を監視する絶縁抵抗監視装置20,60について説明した。これに対し、第3実施形態では、バッテリ81から直流電力を負荷機器86へ供給する計測対象物の絶縁抵抗を監視する絶縁抵抗監視装置90について説明する。なお、第1,2実施形態と同一の部分については、同一の符号を付して以下の説明を省略する。
【0098】
図8は、第3実施形態における絶縁抵抗監視装置90及び計測対象物の電気回路を模式的に示した回路図である。第3実施形態の計測対象物は、直流電力(負荷用電力)を出力するバッテリ81と、そのバッテリ81の正極に接続される正極線84と、バッテリ81の負極に接続される負極線85と、それら正極線84及び負極線85を介してバッテリ81から供給された直流電力により作動する負荷機器86と、を備える。この計測対象物としては、例えば電気を駆動源とする自動車や産業車両、鉄道車両、航空機、船舶、その他の電気機器が挙げられる。
【0099】
バッテリ81は、所定の電圧(例えば約400V)の直流電力を出力する電源であって、内部抵抗82を有している。但し、この内部抵抗82の抵抗値は、計測対象物の絶縁抵抗に対し、バッテリ81を電線と同様の導体とみなすことができる程度に低い。
【0100】
正極線84及び負極線85は、上流のバッテリ81から下流の負荷機器86へ直流電力を供給するための2本1組の電源線である。負荷機器86は、その直流電力によって作動する電気回路である。負荷機器86は、接地線18を介してD種接地された筐体86aに収容されている。なお、計測対象物が車両などの場合、車両のフレームなど大きな導体に接続することを「接地」と言い、その大きな導体が大地に接続されていなくても良い。
【0101】
絶縁抵抗監視装置90は、負極線85と接地線18との間に接続される印加型計測器30を備える。印加型計測器30の端子Eが接地線18に接続され、端子aが負極線85のみに接続される。印加型計測器30は、端子Eと端子aとの間に電圧を印加することで、その端子aに接続された計測対象物の絶縁抵抗に応じた電圧を計測し、その電圧から絶縁抵抗を算出する。
【0102】
上述した通りバッテリ81が低抵抗の導体とみなされるので、印加型計測器30は、端子aが正極線84に直接接続されていなくても、計測対象物のうち負極線85、バッテリ81及び負荷機器86だけでなく正極線84の絶縁抵抗に応じた電圧を計測できる。よって、絶縁抵抗監視装置90は、印加型計測器30の計測結果に基づいて、正極線84、負極線85、バッテリ81及び負荷機器86の絶縁抵抗を監視できる。
【0103】
また、接地線18に対する負極線85の電位は、両者の接続の有無に関わらず0Vに近くなる。そのため、負荷機器86へバッテリ81からの直流電力が供給されている間でも、その直流電力に基づく電流や電圧を負極線85から印加型計測器30へ入力され難くできる。その結果、バッテリ81からの直流電力の供給時に負極線85から印加型計測器30を外す作業や、それを着け外しするための電磁開閉器などを不要にできる。よって、直流電力の供給時でも印加型計測器30を負極線85に接続したままにできる。
【0104】
負荷機器86のノイズ対策などのために、負極線85を接地線18や車両フレーム等の接地部に接続して接地させる場合もあるが、本実施形態では、負極線85を接地線18と非接続の状態で維持している。これにより、印加型計測器30による計測時に負極線85を接地線18から切り離す作業や工程(例えば第2実施形態のような電磁開閉器67の開閉)を不要にできる。よって、印加型計測器30による計測を簡素化できる。
【0105】
更に、印加型計測器30による計測時に、負極線85を接地線18から切り離す必要が無いため、負極線85及び正極線84による直流電力の供給を止める必要も無い。加えて、負極線85に接続された印加型計測器30へ直流電力に基づく電流や電圧が入力され難いことから、直流電力による負荷機器86の作動中でも、印加型計測器30は、直流電力による計測結果への影響を抑えつつ計測対象物の絶縁抵抗に応じた電圧を計測できる。よって、絶縁抵抗監視装置90は、負荷機器86の作動中でも計測対象物の絶縁抵抗を正確に監視できる。
【0106】
以上、実施形態に基づき本発明を説明したが、本発明は上述した実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の改良変更が可能であることは容易に推測できるものである。例えば、電圧印加部38により印加する電圧やバッテリ81の出力電圧の大きさ、定期計測処理を実行する間隔、負荷機器14,86の数などを適宜変更しても良い。また、外部制御機器26を省略し、外部制御機器26で実行する制御などを、印加型計測器30,61で実行させても良い。
【0107】
上記実施形態における印加型計測器30,61では、電圧印加部38で電圧を印加することにより計測対象物の絶縁抵抗に応じて電流を生じさせ、その電流を変換した電圧を計測部37で計測する場合を説明した。これに対し、基準抵抗40を省略し、計測部37を電流計とすることで、電圧印加部38による電圧の印加時に計測対象物の絶縁抵抗に応じて生じた電流を計測部37で計測しても良い。
【0108】
また、電圧印加部38から端子Eを介し接地線18へ正の電圧を印加する場合に限らない。例えば、電圧印加部38から端子a又はbへ正の電圧を印加し、その電圧の印加により絶縁抵抗に応じて生じた電流または電圧を端子Eから印加型計測器30,61へ入力させても良い。この場合、端子Eに繋げた計測部37で、絶縁抵抗に応じて生じた電流または電圧を計測する。
【0109】
但し、電圧印加部38から端子E(接地線18)へ正の電圧を印加する方が好ましい。この場合、端子a,bへ正の電圧を印加する場合と比べて、絶縁抵抗の計測結果が低くなり易いので、早期に絶縁抵抗の劣化を判断し易くできる。
【0110】
上記第1実施形態では、互いに絶縁された計測対象物にそれぞれ端子a,bが接続される場合を説明した。互いに絶縁された計測対象物の数に応じて、その端子の数を適宜増やし、その複数の端子を切換部39によって選択的に計測部37及び基準抵抗40へ接続しても良い。更に、上記第2,3実施形態に切換部39及び複数の端子を適用しても良い。また、切換部39を省略して端子aのみを設けた複数の印加型計測器を、互いに絶縁された複数の計測対象物にそれぞれ接続しても良い。
【0111】
上記実施形態では、交流電線11~13の途中に絶縁トランス21,22が配置される場合を説明したが、これらの絶縁トランス21,22を省略しても良い。このとき、交流電線11~13の一部の絶縁抵抗を印加型計測器30,61で監視する場合には、交流電線11~13の一部を他部と切り離すと共に、その一部を接地線18等の接地部から切り離せば良い。
【0112】
また、上記実施形態における合成抵抗部23,24を省略し、交流電線11~13のうち1本を端子a,bに直接接続しても良い。但しこの場合、三相電力の供給時に交流電線11~13を計測部37から外すため、それらの間にスイッチSW1,SW2や電磁開閉器を設けることが好ましい。
【0113】
上記第2実施形態では、下流線13cからB種接地線66が分岐する場合を説明したが、下流線11c又は下流線12cからB種接地線66を分岐させても良い。また、上記第1実施形態の中間線11b~13bのうちの1本や、下流線11c~13cのうちの1本、上記第3実施形態の負極線85を、上記第2実施形態のB種接地線66によって接地線18に接続しても良い。この場合、B種接地線66に設けた電磁開閉器67を開いた状態で印加型計測器30による計測を行う。逆に、上記第2実施形態において、B種接地線66を省略しても良い。
【0114】
上記実施形態では、標準抵抗42の抵抗値を印加型計測器30で計測することにより、印加型計測器30の正常動作を確認する場合について説明した。この正常動作の確認以外でスイッチSW3を閉じ、標準抵抗42を介して計測部37や切換部39の各部を接地線18に接続しても良い。この場合、印加型計測器30内に寄生する残留電圧や静電容量を、標準抵抗42を利用して放電することができる。
【0115】
上記実施形態では、電磁開閉器67がノーマルクローズ型の開閉器である場合を説明したが、非通電時に開いて通電時に閉じるノーマルオープン型の開閉器を電磁開閉器67に用いても良い。また、非通電時に開閉状態を維持して電気信号に応じ開閉するラッチ式の開閉器を電磁開閉器67に用いても良い。
【符号の説明】
【0116】
11,12,13 交流電線
14,86 負荷機器
14a,21c,22c,86a 筐体(接地部)
18 接地線(接地部)
20,60,90 絶縁抵抗監視装置
21 絶縁トランス(上流トランス)
22 絶縁トランス(上流トランス、下流トランス)
23a~23c,24a~24c 抵抗器
30,61 印加型計測器
37 計測部
38 電圧印加部
39 切換部
42 標準抵抗
81 バッテリ
84 正極線
85 負極線