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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139817
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】抗がん剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 45/00 20060101AFI20230927BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20230927BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230927BHJP
   A61K 31/505 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
A61K45/00
A61P43/00 111
A61P35/00
A61K31/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045538
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】591060289
【氏名又は名称】岐阜市
(71)【出願人】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100112874
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 薫
(74)【代理人】
【識別番号】100201710
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 佑佳
(72)【発明者】
【氏名】檜井 栄一
(72)【発明者】
【氏名】富安 博隆
(72)【発明者】
【氏名】中田 光俊
【テーマコード(参考)】
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C084AA17
4C084ZB261
4C084ZC202
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC42
4C086MA01
4C086MA05
4C086NA14
4C086ZB26
4C086ZC20
(57)【要約】      (修正有)
【課題】新しい作用機序に基づく抗がん剤を提供すること。
【解決手段】本発明では、PP5(プロテインホスファターゼ5)阻害物質を有効成分とする、抗がん剤を提供する。本発明において、前記物質は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩であってよい。

(一般式(1)中、R及びRは、各々独立して1価の置換基であってよく、互いに結合してそれぞれが結合する原子とともに環を形成していてもよい。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
PP5(プロテインホスファターゼ5)阻害物質を有効成分とする、抗がん剤。
【請求項2】
前記物質は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩である、請求項1に記載の抗がん剤。
【化1】
(一般式(1)中、R及びRは、各々独立して1価の置換基であってよく、互いに結合してそれぞれが結合する原子とともに環を形成していてもよい。)
【請求項3】
前記一般式(1)中、R及びRは、水素原子、アルキル基、及びアルコキシ基からなる群より選ばれるいずれか1種である、請求項2に記載の抗がん剤。
【請求項4】
前記物質は、下記化学式(1-1)又は(1-2)で表される化合物である、請求項3に記載の抗がん剤。
【化2】
【化3】
【請求項5】
前記物質は、PP5による、Smurf2(Smad特異的E3ユビキチンタンパク質リガーゼ2)の第249番目のスレオニンのリン酸化状態からの、脱リン酸化を阻害する、請求項5に記載の抗がん剤。
【請求項6】
神経膠腫又は血液癌の予防及び/又は治療に用いられる、請求項1から5のいずれか一項に記載の抗がん剤。
【請求項7】
下記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有する、PP5(プロテインホスファターゼ5)阻害剤。
【化4】
(一般式(1)中、R及びRは、各々独立して1価の置換基であってよく、互いに結合してそれぞれが結合する原子とともに環を形成していてもよい。)
【請求項8】
PP5(プロテインホスファターゼ5)阻害物質を投与又は摂取することを含む、がんの予防及び/又は治療方法(ただし、ヒトに対する医療行為を除く)。
【請求項9】
前記物質は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩である、請求項8に記載の予防及び/又は治療方法(ただし、ヒトに対する医療行為を除く)。
【化5】
(一般式(1)中、R及びRは、各々独立して1価の置換基であってよく、互いに結合してそれぞれが結合する原子とともに環を形成していてもよい。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗がん剤に関する。より詳しくは、新しい作用機序に基づく抗がん剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、がんに罹患する人や、がんにより死亡する人は世界的に増加傾向にある。これに対し、種々の抗がん剤が市販や開発されているが、未だ発展途上である。すなわち、現在の抗がん剤は、完治することが難しい、効果に差がある、副作用が大きい、高価である等の課題を有しており、更なる抗がん剤の開発乃至改良が求められているという実情がある。
【0003】
これに対し、例えば、特許文献1には、特定のポリヌクレオチド配列を含むウイルスベクターを含む、悪性神経膠腫の治療のための薬学的組成物が開示されている。また、例えば、特許文献2には、悪性グリオーマを治療するための方法に使用するための特定の化合物が開示されている。更に、例えば、特許文献3には、特定の化合物を有効成分として含有する悪性リンパ腫の治療又は予防剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2013-516456号公報
【特許文献2】特表2011-529467号公報
【特許文献3】国際公開2012/020787号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、抗がん剤に関する研究開発は未だ十分でなく、この疾患に対する新しいアプローチが期待されているという実情がある。
【0006】
このような実情のもと、本発明では、新しい作用機序に基づく抗がん剤を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明では、まず、PP5(プロテインホスファターゼ5)阻害物質を有効成分とする、抗がん剤を提供する。
また、本発明において、前記物質は、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩であってよい。
【0008】
【化1】
(一般式(1)中、R及びRは、各々独立して1価の置換基であってよく、互いに結合してそれぞれが結合する原子とともに環を形成していてもよい。)
この場合、前記一般式(1)中、R及びRは、水素原子、アルキル基、及びアルコキシ基からなる群より選ばれるいずれか1種であってよい。
また、この場合、前記物質は、下記化学式(1-1)又は(1-2)で表される化合物であってよい。
【0009】
【化2】
【0010】
【化3】
【0011】
更に、この場合、前記物質は、PP5による、Smurf2(Smad特異的E3ユビキチンタンパク質リガーゼ2)の第249番目のスレオニンのリン酸化状態からの、脱リン酸化を阻害してよい。
加えて、本発明に係る抗がん剤は、神経膠腫又は血液癌の予防及び/又は治療に用いられてよい。
【0012】
また、本発明では、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有する、PP5(プロテインホスファターゼ5)阻害剤も提供する。
【0013】
更に、本発明では、PP5(プロテインホスファターゼ5)阻害物質を投与又は摂取することを含む、がんの予防及び/又は治療方法(ただし、ヒトに対する医療行為を除く)も提供する。
本発明において、前記物質は、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩であってよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、新しい作用機序に基づく抗がん剤を提供することができる。
なお、ここに記載された効果は、必ずしも限定されるものではなく、本明細書中に記載されたいずれかの効果であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実験例1の結果を示す図である。
図2】実験例2の結果を示す図である。
図3】実験例3の結果を示す図である。
図4】実験例4の結果を示す図である。
図5】実験例5の結果を示す図である。
図6】実験例6の結果を示す図である。
図7】実験例7の結果を示す図である。
図8】実験例8の結果を示す図である。
図9】実験例9の結果を示す図である。
図10】実験例10の結果を示す図である。
図11】実験例11の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。
以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0017】
1.抗がん剤
本発明に係る抗がん剤は、プロテインホスファターゼ5阻害物質を有効成分とする。
【0018】
プロテインホスファターゼ(Protein phosphatase;PP)は、リン酸化されたタンパク質のリン酸基を加水分解により脱離(脱リン酸化)させる酵素であり、幅広い生物種で確認されており、哺乳類では広範な組織に存在している。プロテインホスファターゼ5(Protein phosphatase 5;PP5)は、リンタンパク質ホスファターゼ(Phosphoprotein phosphatase;PPP)ファミリーに属しており、該ファミリーは、PP1、PP2A、PP2B、PP4、PP5、PP6、PP7からなる。PP5のホスファターゼドメインは、PP1、PP2A、PP2Bと配列相同性が約40%と低く、また、他のPPPファミリーには見られない2つのドメインである、ペプチジル-プロリルシス-トランスイソメラーゼ(PPIアーゼ)ドメインとN末端領域に位置する3つの連続したTPR(tetratricopeptide repeat)ドメインとを有する。
【0019】
本願発明者らは、このPP5に着目したところ、後述する実施例に示すように、PP5を阻害することで、神経膠腫やリンパ腫といった悪性腫瘍に対して効果が奏されることを見出した。
【0020】
なお、本明細書における「抗がん剤」とは、標的の疾病ないし病態である、がんに対する予防的又は治療的効果を示す薬剤のことをいう。「予防」とは、発症の阻害、発症リスクの低減、又は発症の遅延を含む。また、「治療」とは、対象となる疾患又は状態の改善又は進行の抑制(維持又は遅延)を含む。
【0021】
また、本発明に係る抗がん剤の対象である「がん」は広義に解釈され、「悪性腫瘍」と互換的に使用される。また、病理学的に診断が確定される前の段階、すなわち、腫瘍としての良性、悪性のどちらかが確定される前には、良性腫瘍、良性悪性境界病変、悪性腫瘍を総括的に含む場合もあり得る。本発明に係る抗がん剤の対象となる癌は特に制限はされないが、例えば、神経膠腫、頭頚部癌、食道癌、胃癌、十二指腸癌、結腸癌、直腸癌、肝臓癌、胆嚢・胆管癌、胆道癌、膵臓癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、子宮頚癌、子宮体癌、腎癌、膀胱癌、前立腺癌、精巣腫瘍、骨・軟部肉腫、多発性骨髄腫、皮膚癌、脳腫瘍、中皮腫、血液癌等が挙げられる。
【0022】
本発明に係る抗がん剤では、これらの中でも特に、神経膠腫又は血液癌の予防及び/又は治療に用いられることが好ましい。
【0023】
本明細書における「神経膠腫」とは、全てのグレードの神経膠腫(グリオーマ)、高悪性度グリオーマ及びグリオブラストーマを包含する。神経膠腫(グリオーマ、glioma)とは、脳に発生する悪性腫瘍の一つであり、脳腫瘍の多くを占めている。神経膠腫には多様な種類が存在するが、世界保健機関(WHO)による分類が世界的に用いられている。この分類は悪性度に基づいており、各神経膠腫がグレード1(悪性度が最も低い)~グレード4(悪性度が最も高い)に分類され、グレード3及び4の神経膠腫は高悪性度グリオーマと呼ばれ、高い増殖能、浸潤能を持つ。高悪性度グリオーマの中でも最も悪性度が高いのは、グレード4に分類される膠芽腫(グリオブラストーマ、GBM)であり、その5年生存率は僅か10%前後であることが知られている。
【0024】
神経膠腫の治療には、通常、手術、放射線療法、テモゾロミドによる化学療法などが行われるが、現在、膠芽腫を有する患者の生存期間中央値は、僅か12~15ヶ月であることから、神経膠腫の予防や治療に対する新しいアプローチが求められているという実情がある。
【0025】
本明細書において「血液癌」とは、白血病、悪性リンパ腫、多発性骨髄腫などを包含する。本発明に係る抗がん剤では、これらの中でも特に、悪性リンパ腫の予防及び/又は治療に用いられることが好ましい。悪性リンパ腫とは、白血球の一種、リンパ球ががん化する疾患であり、全身組織であるリンパ系に生じることから、上皮細胞由来のがんなどとは異なり、外科的手術による切除は不可能である。
本明細書において「悪性リンパ腫」には、例えば、再発難治性のものを含む、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫等を挙げることができる。
「非ホジキンリンパ腫」としては、例えば、B細胞性リンパ腫、NK/T細胞性リンパ腫等を挙げることができる。
「ホジキンリンパ腫」としては、例えば、結節性リンパ球優位型ホジキンリンパ腫、古典的ホジキンリンパ腫等を挙げることができる。
【0026】
また、「PP5阻害物質」は、PP5の活性を阻害乃至抑制するあらゆる物質を含むが、例えば、下記一般式(1)で表される化合物又はその塩が挙げられる。
なお、本明細書における「塩」とは、例えば、薬学的に許容される塩であり、これは親化合物(塩フリーの化合物)の生物学的有効性を備え、生物学的に無毒性か、或いは生物学的に毒性の低い無機又は有機の酸又は塩基の付加塩をいう。
このような塩としては、例えば、塩酸、硫酸等との無機酸付加塩;ギ酸、酢酸、トリフルオロ酢酸、酒石酸等との有機酸付加塩;ナトリウム、カリウム等とのアルカリ金属塩;カルシウム、マグネシウム等とのアルカリ土類金属塩;メチルアミン、エチルアミン、ジエタノールアミン等との有機アミン塩等が挙げられる。
なお、上述した例示は、「薬学的に許容される塩」が限定解釈されるために用いられるべきではない。すなわち、「薬学的に許容される塩」とは、広義に解釈されるべきであり、各種の塩を含む広い概念である。
【0027】
【化4】
(一般式(1)中、R及びRは、各々独立して1価の置換基であってよく、互いに結合してそれぞれが結合する原子とともに環を形成していてもよい。)
【0028】
本発明において、一般式(1)中、R及びRは、互いに結合してそれぞれが結合する原子とともに環を形成しないことが好ましい。
【0029】
がんは、前述の通り、世界的に主な死亡原因であり、新規抗癌剤の開発が急務とされている。近年、治療奏効率の優れた抗がん剤が市販されてはいるものの、その大半は抗体医薬であり、高い効果が得られる反面、大量生産が困難などの原因による高い薬価が問題となっている。したがって、金銭上の理由から治療を選択できない患者も多く存在する。
【0030】
そのため、大量生産が容易であり、比較的安価である低分子医薬の開発が望まれる。これに対し、本発明に係る抗がん剤は、低分子化合物であることから化学合成が容易であり、大量生産にも耐えられることが想定されるため、癌治療への適応が得られれば、患者の治療機会の向上、ひいては国民医療費の削減に寄与できると考えられる。
【0031】
及びRが各々独立して1価の置換基である場合、前記1価の置換基としては、例えば、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、カルボキシ基、シアノ基、ニトロ基、スルファニル基、アミノ基、アシル基、(C-C)アルキル基、ハロ(C-C)アルキル基、(C-C)シクロアルキル基、ハロ(C-C)シクロアルキル基、(C-C)シクロアルキル(C-C)アルキル基、ハロ(C-C)シクロアルキル(C-C)アルキル基、(C-C)アルコキシ基、ハロ(C-C)アルコキシ基、(C-C)シクロアルキル(C-C)アルコキシ基、ハロ(C-C)シクロアルキル(C-C)アルコキシ基、(C-C)アルコキシ(C-C)アルキル基、ハロ(C-C)アルコキシ(C-C)アルキル基、(C-C)シクロアルキル(C-C)アルコキシ(C-C)アルキル基、ハロ(C-C)シクロアルキル(C-C)アルコキシ(C-C)アルキル基、(C-C)アルケニル基、(C-C)アルキニル基、(C-C)アルコキシカルボニル基、ハロ(C-C)アルコキシカルボニル基、ヒドロキシ(C-C)アルキル基、(C-C)アルキルチオ基、(C-C)アルキルスルフィニル基、(C-C)アルキルスルホニル基、ハロ(C-C)アルキルチオ基、ハロ(C-C)アルキルスルフィニル基、ハロ(C-C)アルキルスルホニル基等が挙げられる。
【0032】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
アシル基としては、例えば、ホルミル基、アセチル基、マロニル基、ベンゾイル基等が挙げられる。
【0033】
(C-C)アルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、ノルマルプロピル基、イソプロピル基、ノルマルブチル基、イソブチル基、セカンダリーブチル基、ターシャリーブチル基、ノルマルペンチル基、イソペンチル基、ターシャリーペンチル基、ネオペンチル基、2,3-ジメチルプロピル基、1-エチルプロピル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、ノルマルヘキシル基、イソヘキシル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、3,3-ジメチルブチル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルキル基が挙げられる。
【0034】
(C-C)シクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素原子数3~6個の環状のアルキル基が挙げられる。
【0035】
(C-C)アルキルカルボニル基としては、例えば、メチルカルボニル基、エチルカルボニル基、ノルマルプロピルカルボニル基、イソプロピルカルボニル基、ノルマルブチルカルボニル基、イソブチルカルボニル基、セカンダリーブチルカルボニル基、ターシャリーブチルカルボニル基、ノルマルペンチルカルボニル基、イソペンチルカルボニル基、ターシャリーペンチルカルボニル基、ネオペンチルカルボニル基、2,3-ジメチルプロピルカルボニル基、1-エチルプロピルカルボニル基、1-メチルブチルカルボニル基、2-メチルブチルカルボニル基、ノルマルヘキシルカルボニル基、イソヘキシルカルボニル基、2-ヘキシルカルボニル基、3-ヘキシルカルボニル基、2-メチルペンチルカルボニル基、3-メチルペンチルカルボニル基、1,1,2-トリメチルプロピルカルボニル基、3,3-ジメチルブチルカルボニル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルキルカルボニル基が挙げられる。
【0036】
(C-C)アルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、ノルマルプロポキシ基、イソプロポキシ基、ノルマルブトキシ基、セカンダリーブトキシ基、ターシャリーブトキシ基、ノルマルペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ターシャリーペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、2,3-ジメチルプロピルオキシ基、1-エチルプロピルオキシ基、1-メチルブチルオキシ基、ノルマルヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、1,1,2-トリメチルプロピルオキシ基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルコキシ基が挙げられる。
【0037】
(C-C)アルケニル基としては、例えば、エテニル基(ビニル基)、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数2~6個のアルケニル基が挙げられる。
【0038】
(C-C)アルキニル基としては、例えば、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数2~6個のアルキニル基が挙げられる。
【0039】
(C-C)アルコキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ノルマルプロポキシカルボニル基、イソプロポキシカルボニル基、ノルマルブトキシカルボニル基、セカンダリーブトキシカルボニル基、ターシャリーブトキシカルボニル基、ノルマルペンチルオキシカルボニル基、イソペンチルオキシカルボニル基、ターシャリーペンチルオキシカルボニル基、ネオペンチルオキシカルボニル基、2,3-ジメチルプロピルオキシカルボニル基、1-エチルプロピルオキシカルボニル基、1-メチルブチルオキシカルボニル基、ノルマルヘキシルオキシカルボニル基、イソヘキシルオキシカルボニル基、1,1,2-トリメチルプロピルオキシカルボニル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルコキシが結合しているカルボニル基が挙げられる。
【0040】
ヒドロキシ(C-C)アルキル基としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基、ジヒドロキシプロピル基等の1又は2以上の水酸基が置換している直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルキル基が挙げられる。
【0041】
(C-C)アルキルチオ基としては、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、ノルマルプロピルチオ基、イソプロピルチオ基、ノルマルブチルチオ基、セカンダリーブチルチオ基、ターシャリーブチルチオ基、ノルマルペンチルチオ基、イソペンチルチオ基、ターシャリーペンチルチオ基、ネオペンチルチオ基、2,3-ジメチルプロピルチオ基、1-エチルプロピルチオ基、1-メチルブチルチオ基、ノルマルヘキシルチオ基、イソヘキシルチオ基、1,1,2-トリメチルプロピルチオ基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルキルチオ基が挙げられる。
【0042】
(C-C)アルキルスルフィニル基としては、例えば、メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ノルマルプロピルスルフィニル基、イソプロピルスルフィニル基、ノルマルブチルスルフィニル基、セカンダリーブチルスルフィニル基、ターシャリーブチルスルフィニル基、ノルマルペンチルスルフィニル基、イソペンチルスルフィニル基、ターシャリーペンチルスルフィニル基、ネオペンチルスルフィニル基、2,3-ジメチルプロピルスルフィニル基、1-エチルプロピルスルフィニル基、1-メチルブチルスルフィニル基、ノルマルヘキシルスルフィニル基、イソヘキシルスルフィニル基、1,1,2-トリメチルプロピルスルフィニル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルキルスルフィニル基が挙げられる。
【0043】
(C-C)アルキルスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ノルマルプロピルスルホニル基、イソプロピルスルホニル基、ノルマルブチルスルホニル基、セカンダリーブチルスルホニル基、ターシャリーブチルスルホニル基、ノルマルペンチルスルホニル基、イソペンチルスルホニル基、ターシャリーペンチルスルホニル基、ネオペンチルスルホニル基、2,3-ジメチルプロピルスルホニル基、1-エチルプロピルスルホニル基、1-メチルブチルスルホニル基、ノルマルヘキシルスルホニル基、イソヘキシルスルホニル基、1,1,2-トリメチルプロピルスルホニル基等の直鎖又は分岐鎖状の炭素原子数1~6個のアルキルスルホニル基が挙げられる。
【0044】
なお、本明細書において、「ハロ」とは、「ハロゲン原子」を意味する。また、(C-C)アルキル基、(C-C)シクロアルキル基、(C-C)アルキルカルボニル基、及び(C-C)アルコキシカルボニル基の水素原子が置換され得る位置において、水素原子が1又は2以上のハロゲン原子によって置換されていてもよく、置換するハロゲン原子が2以上の場合は、ハロゲン原子は同一又は異なっていてもよい。
1又は2以上のハロゲン原子が置換された置換基は、それぞれ、ハロ(C-C)アルキル基、ハロ(C-C)シクロアルキル基、ハロ(C-C)アルキルカルボニル基、及びハロ(C-C)アルコキシカルボニル基と示される。
【0045】
また、本明細書において、「(C-C)」、「(C-C)」、「(C-C)」等の表現は、各種置換基の炭素原子数の範囲を意味する。更に、前記置換基が連結した基についても、前述の定義で示すことができ、例えば、(C-C)アルコキシ(C-C)アルキル基の場合は、直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~6個のアルコキシ基が、直鎖又は分岐鎖状の炭素数1~6個のアルキル基に結合していることを示す。
【0046】
本発明では、前記一般式(1)中、R及びRとして、水素原子、アルキル基及びアルコキシ基からなる群より選ばれるいずれか1種であることが好ましい。
前記アルキル基としては、特にメチル基が好ましい。
前記アルコキシ基としては、特にメトキシ基が好ましい。
【0047】
より具体的には、PP5阻害物質として、下記化学式(1-1)又は(1-2)で表される化合物が挙げられる。
【0048】
【化5】
【0049】
【化6】
【0050】
上記化学式(1-1)で表される化合物は、オルメトプリム(Ormetoprim)と称され、動物用医薬品に分類される合成抗菌剤である。このオルメトプリムは、病原微生物及び内寄生虫の治療に用いられ、スルファモノメトキシン水和物とオルメトプリムとの合剤は、水産養殖産業において、細菌性病原体の処理に用いられている(J. Guerard et al., J Agric Food Chem. 2012)。
また、上記化学式(1-2)で表される化合物は、オルメトプリムの類縁体であるトリメトプリム(Trimetoprim)であり、主に尿路感染症の予防や治療に使用される合成抗菌剤である。
オルメトプリム及びトリメトプリムの作用機序としては、ジヒドロ葉酸レダクターゼを阻害することで、細菌や真菌や原虫のDNA複製を阻害することが知られている。
【0051】
したがって、上記化学式(1-1)及び(1-2)で表される化合物は、既に医薬品として用いられていることから、製造や調達が容易である。また、いずれも低分子化合物であることから、化学合成も容易であり、安価に製造できる。そのため、これらの化合物をがんの予防及び/又は治療に用いることで、がん患者の治療機会の向上や、医療費の削減にも繋がる。
【0052】
本発明では、PP5阻害物質のPP5阻害活性は、後述する実施例に示すように、PP5による、Smurf2(Smad特異的E3ユビキチンタンパク質リガーゼ2、Smad specific E3 ubiquitin protein ligase 2)の第249番目のスレオニンのリン酸化状態からの、脱リン酸化を阻害することに基づくものであることが好ましい。
【0053】
本発明に係る抗がん剤の投与又は摂取対象は、通常ヒトであるが、本発明では、ヒト以外の哺乳動物、例えば、イヌ、ネコ、ハムスター等のペット動物、ウシ、ヒツジ、ブタ、ウマ、ヤギ等の家畜、マウス、ラット、ウサギ、モルモット、ハムスター、サル等の実験動物も含む。
【0054】
本発明に係る抗がん剤の剤形は、固体製剤又は液体製剤のいずれの形態でもよく、例えば、錠剤、散剤、細粒剤、顆粒剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、懸濁剤、乳剤、ゼリー剤、注射剤、外用剤、吸入剤、点鼻剤、点眼剤、座剤等が挙げられる。また、その剤形に応じて、経口投与又は非経口投与(例えば、静脈内、動脈内、皮下、皮内、筋肉内、腹腔内、経皮、経鼻、経粘膜など)によって対象に適用され得る。なお、これらの投与経路は互いに排他的なものではなく、任意に選択される二つ以上を併用することもできる。また、全身投与によらず、局所投与することにしてもよく、ドラッグデリバリーシステム(DDS)等を利用してもよい。
【0055】
本発明に係る抗がん剤は、上述した有効成分以外に、薬学的に許容される他の成分(例えば、担体、賦形剤、崩壊剤、緩衝剤、乳化剤、懸濁剤、無痛化剤、安定剤、保存剤、防腐剤、界面活性剤、滑沢剤、稀釈剤、被覆剤、糖衣剤、矯味矯臭剤、乳化・可溶化・分散剤、pH調製剤、等張剤、可溶化剤、香料、着色剤、溶解補助剤、生理食塩水等)を含んでいてもよい。また、他の有効成分を含んでいてもよく、他の有効成分(例えば、他の抗がん剤など)を含む医薬品組成物と共に用いられてもよい。
【0056】
また、本発明に係る抗がん剤は、上述した医薬品の他、医薬部外品、飲食品(健康食品、機能性食品、病者用食品、経腸栄養食品、特別用途食品、保健機能食品、特定保健用食品、機能性表示食品、栄養機能食品等を含む)、飼料等の形態にすることもできる。
【0057】
本発明に係る抗がん剤には、本発明の効果が奏されるために必要な量(すなわち、治療上有効量)の有効成分が含有される。本発明に係る抗がん剤剤中の有効量は一般的に剤形によって異なるが、所望の投与量を達成できるような有効量(例えば、0.01重量%~100重量%の範囲内)を適宜設定し得る。
【0058】
2.PP5阻害剤
本発明に係るPP5阻害剤は、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩を含有する。
【0059】
PP5の活性を阻害することで、がんはもとより、その他の疾患の発症や進展等にも関与する可能性があり、基礎研究や、各種疾患の予防乃至治療法の開発の対象となり得る。したがって、本発明に係るPP5阻害剤は、例えば、このような研究・開発における各種ツール(例えば、研究用試薬、診断用試薬など)として有用である。
【0060】
3.がんの予防及び/又は治療方法
本発明に係る予防及び/又は治療方法は、PP5阻害物質を投与又は摂取することを含む。ただし、ヒトに対する医療行為を除く。
【0061】
本発明に係る予防及び/又は治療方法において、投与又は摂取対象や剤形等については、上述の通りである。投与又は摂取は、任意の計画に従って行われ、例えば、1日1回~数回に分けて、数週間~数ヶ月間継続して投与又は摂取され得る。
【実施例0062】
以下、実施例に基づいて本発明を更に詳細に説明する。
なお、以下に説明する実施例は、本発明の代表的な実施例の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0063】
<実験例1>
本実験例1では、PP5が神経膠腫の治療標的となり得るかについて検討した。
【0064】
具体的には、グリオーマ幹細胞(Glioma Initiating Cells;GIG)株に、PP5を発現させるレンチウイルスベクターとshPP5によりPP5をノックダウンさせるレンチウイルスベクターとをそれぞれ感染させ、スフィア形成能の評価と、各感染細胞のマウス脳への移植し、生存期間の観察を行った。
【0065】
[スフィア形成能の評価]
グリオーマ幹細胞株を細胞分散後2×105cells/mlの細胞密度で幹細胞培養メディウム中に懸濁し、プレートに播種した。播種したグリオーマ幹細胞株にPP5を発現させるレンチウイルスベクターを感染させた。感染させたグリオーマ幹細胞株をAccutaseにより細胞を分散し、プレートに1%メチルセルロースメディウムで播種してスフィア培養を行った。7日間培養し、50μm以上の大きさのスフィアの数を計測した。
【0066】
[グリオーマモデルマウスの生存期間の観察]
グリオーマ幹細胞株に各感染細胞を導入し、ヌードマウス(BALB/c-nu/nuマウス)の脳Bregma前方0.5mm,側方2mm,深さ3mmの位置に5×104cells移植し、生存期間を観察した。
【0067】
なお、「グリオーマ幹細胞」とは、神経膠腫における癌幹細胞であり、神経幹細胞抗原(幹細胞マーカー)を発現する、EGF及びbFGFの存在下で無血清培地にて培養するとスフェアと呼ばれる非接着性の球状の細胞塊を形成する、自己複製能を有するなどの特徴を有する。また、グリオーマ幹細胞は、強い腫瘍原性を有し、浸潤能や転移能も有する一方、抗癌剤や放射線治療に対して抵抗性を有することが知られている。
【0068】
本実験例1の結果を図1に示す。PP5過剰発現により、50μm以上のスフィアの数が有意に上昇し、移植マウスの生存日数は有意に短縮した。一方、PP5ノックダウンによりスフィアの数が有意に低下し、移植マウスの生存期間が有意に延長した。
【0069】
これらの結果から、PP5はGIGの幹細胞性を上昇させ、グリオーマの悪性進展を促進することが示唆されたため、PP5は神経膠腫の治療標的となり得ることが分かった。
【0070】
<実験例2>
本実験例2では、PP5の作用について検討した。
【0071】
[プロテインホスファターゼベクター導入]
グリオーマ幹細胞株に各種プロテインホスファターゼを発現させるレンチウイルスベクターを感染させ、3日後細胞をタンパク質回収bufferで懸濁し、Western blottingサンプルとして調製した。回収したサンプルでWestern blottingを行い、Smurf2のリン酸化を測定した。
【0072】
[免疫沈降による相互作用確認]
グリオーマ幹細胞株をタンパク質回収bufferで懸濁し、回収したタンパク質溶液にPP4,PP5,Smurf2に対する抗体を加え、overnightで反応させた。その後、Protein A sepharoseにより抗体が結合したタンパク質複合体を回収し、SDS処理によりWestern blotting用サンプルとして調製した。調製したサンプルをWestern blottingで解析した。
【0073】
[PP familyタンパク質のホスファターゼアッセイ]
各種PP familyタンパク質のリコンビナントタンパク質を精製し、ホスファターゼアッセイbuffer中に100~500IUとなるように加え、リン酸化Smurf2ペプチド(Smurf2T249(Smad特異的E3ユビキチンタンパク質リガーゼ2の第249番目のスレオニン2)周辺15アミノ酸)と反応させた。反応後、脱リン酸化により遊離したリン酸をモリブデンブルー法により呈色し、プレートリーダーにより反応したSmurf2ペプチド量を定量した。
【0074】
本実験例2の結果を図2に示す。
プロテインホスファターゼベクター導入の結果、E.V.導入群と比較して、PP4,PP5導入群ではSmurf2T249リン酸が低下していることが観察された。
免疫沈降による相互作用確認の結果、PP4免疫沈降物にはSmurf2の検出は確認されなかった。一方、PP5免疫沈降物ではSmurf2が検出された。また、Smurf2免疫沈降物にはPP5の検出が確認された。
PP familyタンパク質のホスファターゼアッセイの結果、各種PP familyの中でPP5が最もp-Smurf2ペプチドの脱リン酸化量が多いことが確認された。
【0075】
プロテインホスファターゼベクター導入の結果、PP4,PP5はSmurf2を脱リン酸化する候補であることが示唆された。
免疫沈降による相互作用確認の結果、PP5はSmurf2と直接的に相互作用し、脱リン酸化を行うことが示唆された。一方、PP4による脱リン酸化は間接的な作用によるものと考えられた。
PP familyタンパク質のホスファターゼアッセイの結果、PP5はSmurf2に直接結合してT249の脱リン酸化を行い、生体内でSmurf2の脱リン酸化を行う候補であることが示唆された。
【0076】
<実験例3>
本実験例3では、上記化学式(1-1)及び(1-2)で表される化合物のPP5阻害活性について検討した。
【0077】
具体的には、上記化学式(1-1)及び(1-2)で表される化合物を段階希釈で2倍ずつ希釈した。希釈した各溶液をp-Smurf2T249ペプチド脱リン酸化buffer中にPP5と共に加え、37℃で30分間脱リン酸化反応を行い、遊離リン酸をモリブデンブルー法により呈色させ、プレートリーダーで検出した。
【0078】
本実験例3の結果を図3に示す。上記化学式(1-1)及び(1-2)で表される化合物は、ともに濃度依存的にPP5の脱リン酸化活性を抑制した。上記化学式(1-1)で表される化合物は約780nMのIC50を検出し、上記化学式(1-2)で表される化合物は約6μMのIC50を検出した。
【0079】
これらの結果から、上記化学式(1-1)及び(1-2)で表される化合物は、いずれもPP5阻害活性を有するが、特に上記化学式(1-1)で表される化合物は、上記化学式(1-2)で表される化合物と比較してPP5阻害能が高いことが示唆された。また、上記化学式(1-1)で表される化合物は、上記化学式(1-2)で表される化合物よりGICのスフィア形成阻害能も高く、上記化学式(1-1)で表される化合物はPP5を強く阻害することで、GICの幹細胞性を減弱させることが示唆された。
【0080】
<実験例4>
本実験例4では、上記化学式(1-1)及び(1-2)で表される化合物のPP familyに対する特異性について検討した。
【0081】
具体的には、上記化学式(1-1)及び(1-2)で表される化合物を段階希釈で2倍ずつ希釈した。希釈した各溶液をp-Nitrophenylphosphate脱リン酸化assay buffer中に各種PP familyリコンビナントタンパク質と共に加え、37℃で30分間脱リン酸化反応を行い、反応後のp-Nitrophenolをプレートリーダーで各PP familyの脱リン酸化活性を測定した。
【0082】
本実験例4の結果を図4に示す。上記化学式(1-1)及び(1-2)で表される化合物は、ともにPP2,PP5に対して濃度依存的に阻害することが確認された。上記化学式(1-1)で表される化合物は、PP2に対して約50μMのIC50を検出し、PP5に対して約400nMのIC50を検出した。一方、上記化学式(1-2)で表される化合物は、PP2に対して約100μMのIC50を検出し、PP5に対して約15μMのIC50を検出した。
【0083】
これらの結果から、上記化学式(1-1)及び(1-2)で表される化合物は各PP familyに対してPP2とPP5を特異的に阻害し、中でもPP5を強く阻害することが示された。また、この系においても、上記化学式(1-1)で表される化合物は、上記化学式(1-2)で表される化合物よりも強い阻害活性を示した。
【0084】
<実験例5>
本実験例5では、上記化学式(1-1)及び(1-2)で表される化合物のスフィア形成能に及ぼす影響について検討した。
【0085】
具体的には、上記化学式(1-1)及び(1-2)で表される化合物を、DMSOを用いて段階希釈し、1%メチルセルロースメディウムに懸濁したグリオーマ幹細胞株に各濃度で曝露し、プレートに播種してスフィア培養を行い、7日後50μm以上のスフィアの数を計測した。
【0086】
本実験例5の結果を図5に示す。上記化学式(1-1)で表される化合物では、濃度依存的にスフィア形成率が抑制され、0.4,2,10μMではスフィア形成が有意に抑制された。上記化学式(1-2)で表される化合物でも同様に、濃度依存的にスフィア形成が抑制され、0.4,2,10μMではスフィア形成が有意に抑制されたが、抑制率は上記化学式(1-1)で表される化合物に比べて低いことが観察された。
【0087】
これらの結果から、上記化学式(1-1)及び(1-2)で表される化合物はGICの幹細胞性を濃度依存的に低下させることが示された。また、上記化学式(1-1)で表される化合物は、上記化学式(1-2)で表される化合物よりGICのスフィア形成阻害能も高く、上記化学式(1-1)で表される化合物はPP5を強く阻害することで、GICの幹細胞性を減弱させることが示唆された。
【0088】
<実験例6>
本実験例6では、上記化学式(1-1)で表される化合物のヒトジヒドロ葉酸レダクターゼに対する阻害作用について検討した。
【0089】
具体的には、上記化学式(1-1)で表される化合物とメトトレキサートを段階希釈で2倍ずつ希釈した。希釈した各溶液をジヒドロ葉酸レダクターゼアッセイbuffer中に加え、bufferにジヒドロ葉酸レダクターゼと基質としてジヒドロ葉酸とNADPHを加え、37℃で5分間反応させた。還元反応により遊離したNADP+を、プレートリーダーを用いて340nmの吸光度で測定し、各濃度におけるジヒドロ葉酸レダクターゼ活性の阻害率を計測した。
【0090】
本実験例6の結果を図6に示す。メトトレキサートでは濃度依存的にジヒドロ葉酸レダクターゼを阻害し、この測定においては約4.0nMのIC50を検出した。一方、上記化学式(1-1)で表される化合物おいては、12.5~25μMの濃度において僅かな阻害が見られたがそれ以外の濃度では阻害が認められず、IC50も検出できなかった。
【0091】
これらの結果から、本実験例6で用いた上記化学式(1-1)で表される化合物の濃度範囲においてヒトジヒドロ葉酸レダクターゼに対する阻害効果は認められず、該化合物のGICの幹細胞性低下作用はジヒドロ葉酸レダクターゼを介した効果ではないことが示唆された。
【0092】
<実験例7>
本実験例7では、上記化学式(1-1)で表される化合物のSmurf2T249(Smad特異的E3ユビキチンタンパク質リガーゼ2の第249番目のスレオニン)のリン酸化に対する効果について検討した。
【0093】
具体的には、グリオーマ幹細胞株を細胞分散後2×105cells/mlの細胞密度で幹細胞培養メディウム中に懸濁し、プレートに播種した。その後、上記化学式(1-1)で表される化合物を最終濃度10μMで曝露し、12時間後にタンパク回収bufferで細胞を懸濁し、SDS処理によりWestern blotting用サンプルとして調製した。調製サンプルをWestern blottingで解析し、Smurf2,p-Smurf2の発現量を測定した。
【0094】
本実験例7の結果を図7に示す。Vehicle(DMSO)群と比較して、上記化学式(1-1)で表される化合物を曝露した群ではSmurf2T249のリン酸化が上昇していたが、Smurf2の発現量自体には変化は認められなかった。
【0095】
上記化学式(1-1)で表される化合物の曝露によりSmurf2のリン酸化が上昇しており、Smurf2のリン酸化の活性化、又はSmurf2脱リン酸化の抑制が亢進したことが示唆された。また、これまでの結果から、上記化学式(1-1)で表される化合物はPP5の脱リン酸化酵素活性を抑制することから、PP5の抑制によりSmurf2の脱リン酸化が抑えられ、p-Smurf2のリン酸化レベルが上昇したことが示唆された。
【0096】
<実験例8>
本実験例8では、Smurf2T249のリン酸化修飾がGIGに及ぼす影響について検討した。
【0097】
[スフィア形成能の評価]
グリオーマ幹細胞株にHEK293T細胞から精製したSmurf2T249変異体(Smurf2T249A,Smurf2T249E)を発現させるレンチウイルスベクターを感染させた。感染させたグリオーマ幹細胞株をAccutaseにより細胞を分散し、プレートに1%メチルセルロースメディウムで播種してスフィア培養を行った。7日間培養し、50μm以上の大きさのスフィアの数を計測した。
【0098】
[グリオーマモデルマウスの腫瘍形成測定]
グリオーマ幹細胞株に実験例1と同様にSmurf2変異体を導入した。また、移植後30日目にマウス脳を回収し、厚さ5μmのパラフィン切片を作製し、HE染色を行い、腫瘍形成を観察した。
【0099】
本実験例8の結果を図8に示す。
スフィア形成能の評価の結果、E.V.導入群と比較して、Smurf2T249A導入群では50μm以上のスフィアの数が有意に増加し、Smurf2T249E導入群ではスフィアの数が有意に減少した。
グリオーマモデルマウスの腫瘍形成測定の結果、E.V.導入群と比較して、Smurf2T249A導入群では生存期間が有意に短縮し、Smurf2T249E導入群では有意に延長した。また、Smurf2T249E導入群では、脳腫瘍の体積が減少していた。
【0100】
スフィア形成能の評価の結果、Smurf2T249A導入群ではスフィアの数が増加したことから、GICの幹細胞性の上昇が示された。一方、Smurf2T249E導入群では幹細胞性の低下が示唆された。
グリオーマモデルマウスの腫瘍形成測定の結果、Smurf2T249A導入群ではグリオーマの進展が促進し、Smurf2T249E導入群ではグリオーマの進展が抑制されていることが示された。
【0101】
<実験例9>
本実験例9では、グリオーマ患者の腫瘍組織を用いた解析を行った。
【0102】
具体的には、ヒトgliomaサンプルをタンパク質回収buffer中でホモジナイズし、SDS処理を行い、Western blotting用サンプルとして調製した。20μgのタンパク質をSDS-PAGEにアプライし、Western blotting法によりSmurf2タンパク質とSmurf2T249のリン酸化を定量した。
【0103】
本実験例9の結果を図9に示す。Smurf2タンパク質の発現量にgliomaサンプルのグレード間での差は認められなかった。一方、Smurf2T249のリン酸化は、グレード3とグレード4のサンプルにおいて正常能より有意に低下していた。
【0104】
Smurf2のリン酸化レベルはグリオーマの悪性度に依存して低下することが示された。このことから、グリオーマの悪性度にSmurf2T249のリン酸化状態が関与する可能性が示唆された。
【0105】
<実験例10>
本実験例10では、スルファメトキサゾールとトリメトプリム(すなわち、上記化学式(1-2)で表される化合物)の合成抗菌剤として知られるバクタ(登録商標)のグリオーマに対する臨床的作用について後方視的に検討した。
【0106】
具体的な実験手法を、以下に示す。
対象:初発膠芽腫(小脳以外)手術加療例
期間:2014年1月~2020年12月
症例数:94例
評価項目:バクタ(登録商標)治療
(一般的に予後関連因子とされる種々の因子:年齢、IDH変異、MGMT promoterメチル化、摘出率、術前KPS)
エンドポイント:PFS(無増悪生存期間)、OS(全生存期間)
【0107】
本実験例10の結果を図10に示す。バクタ(登録商標)使用により、統計学的有意差は認めないものの、PFSとOSの延長傾向が認められた。
【0108】
これらの結果から、背景因子として、バクタ(登録商標)投与群は、年齢が若く、NLRが低い傾向にあり、上記因子を補正した解析においても、バクタ(登録商標)投与による臨床的意義が見出された。
【0109】
<実験例11>
本実験例11では、イヌ悪性リンパ腫細胞株及び急性リンパ芽球性白血病細胞株における、トリメトプリム(すなわち、上記化学式(1-2)で表される化合物)及びオルメトプリム(すなわち、上記化学式(1―1)で表される化合物)の効果を検討した。
【0110】
具体的には、イヌ悪性リンパ腫細胞株として、CLBL-1、UL-1、及びEmaを、イヌリンパ芽球性白血病細胞株としてGL-1を用い、コントロールとして、健康なイヌ(n=3)由来末梢血リンパ球(PBMoC 1~3)を用い、qPCR法により、PP5(PPP5C:Serine/threonine protein phosphatase 5)のmRNAの相対定量を行った。また、WST-8法を用いたトリメトプリム/オルメトプリム投与による生細胞率減少効果も確認した。
【0111】
本実験例11の結果を図11に示す。PP5のmRNA発現量は、リンパ腫細胞株及びリンパ芽球性白血病細胞株で上昇していることが分かった。また、トリメトプリムとオルメトプリムのいずれを投与した場合も、リンパ腫細胞及びリンパ芽球性白血病細胞の生細胞率を減少させる効果を認め、当該効果は、トリメトプリムと比較してオルメトプリムの方が、高いことが分かった。
【0112】
以上のことから、上記化学式(1-1)で表される化合物及び上記化学式(1-2)で表される化合物は、いずれも、悪性リンパ腫及び急性リンパ芽球性白血病に対しても効果があることが分かった。また、当該効果は、上記化学式(1-1)で表される化合物の方がより顕著であった。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明に係る抗がん剤は、PP5を阻害することで、がんの予防及び/又は治療に効果的である。したがって、本発明に係る抗がん剤は、新しい作用機序に基づくがんの予防及び/又は治療剤としての有用性が期待でき、更には、上記一般式(1)で表される化合物又はその塩は、低分子化合物であることから安価に製造でき、がん患者の治療機会の向上や、医療費の削減にも繋がる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11