(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139864
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】ポリ乳酸分解方法、ポリ乳酸処理方法、ポリ乳酸分解システム及びポリ乳酸処理システム
(51)【国際特許分類】
C08J 11/28 20060101AFI20230927BHJP
C02F 3/28 20230101ALI20230927BHJP
C07C 59/08 20060101ALI20230927BHJP
C07C 51/00 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C08J11/28 ZBP
C02F3/28 A ZAB
C07C59/08
C07C51/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045611
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000000284
【氏名又は名称】大阪瓦斯株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001818
【氏名又は名称】弁理士法人R&C
(72)【発明者】
【氏名】坪田 潤
(72)【発明者】
【氏名】勝矢 祥平
【テーマコード(参考)】
4D040
4F401
4H006
【Fターム(参考)】
4D040AA01
4D040AA42
4D040AA54
4D040AA63
4F401AA22
4F401AA40
4F401CA68
4F401CA75
4F401DC10
4F401EA45
4F401EA65
4F401FA07Z
4F401FA20Z
4H006AA02
4H006AC41
4H006AC46
4H006AC91
4H006BB31
4H006BE14
4H006BN10
4H006BS10
(57)【要約】
【課題】乳酸アミドの生成を抑えつつ、ポリ乳酸を乳酸に分解でき、ポリ乳酸の分解に用いるアンモニアの循環的な再利用が容易に可能となり、ポリ乳酸の処理システムの効率的な運用が可能となるポリ乳酸分解方法を提供する。
【解決手段】ポリ乳酸を分解して乳酸を生成する方法であって、アンモニアと乳酸とを含む処理液に、ポリ乳酸を含浸させて分解するポリ乳酸分解工程を行い、ポリ乳酸分解工程時の処理液中のアンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下であり、且つ、処理液中の乳酸濃度が266μmol/ml以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ乳酸を分解して乳酸を生成する方法であって、
アンモニアと乳酸とを含む処理液に、前記ポリ乳酸を含浸させて分解するポリ乳酸分解工程を行い、
前記ポリ乳酸分解工程時の前記処理液中のアンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下であり、且つ、前記処理液中の乳酸濃度が266μmol/ml以上である、ポリ乳酸分解方法。
【請求項2】
前記ポリ乳酸分解工程時の前記処理液中の前記アンモニア濃度が267μmol/ml以下である請求項1に記載のポリ乳酸分解方法。
【請求項3】
前記ポリ乳酸分解工程時の前記処理液中の前記アンモニア濃度が134μmol/ml以下であり、且つ前記処理液中の前記乳酸濃度が5333μmol/ml以上である請求項1又は2に記載のポリ乳酸分解方法。
【請求項4】
前記ポリ乳酸分解工程時の前記処理液のpHが0.5以上1.5以下である請求項3に記載のポリ乳酸分解方法。
【請求項5】
ポリ乳酸を処理する方法であって、
アンモニアと乳酸とを含む処理液に、前記ポリ乳酸を含浸させて分解するポリ乳酸分解工程と、
前記ポリ乳酸分解工程後の処理物から前記アンモニアを回収するアンモニア回収工程と、
前記ポリ乳酸分解工程後の処理物から前記乳酸の一部を回収する乳酸回収工程と、
前記アンモニア回収工程及び前記乳酸回収工程後の処理物に含まれる前記乳酸をメタン発酵するメタン発酵工程と、を行い、
前記ポリ乳酸分解工程時の前記処理液中のアンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下であり、且つ、前記処理液中の乳酸濃度が266μmol/ml以上であり、
前記アンモニア回収工程で回収した前記アンモニアと、前記乳酸回収工程で回収した前記乳酸とを、前記ポリ乳酸分解工程で再利用するポリ乳酸処理方法。
【請求項6】
ポリ乳酸を分解して乳酸を生成するシステムであって、
アンモニアと乳酸とを含む処理液に、前記ポリ乳酸を含浸させて分解するポリ乳酸分解部を備え、
前記ポリ乳酸分解部は、前記処理液中のアンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下であり、且つ、前記処理液中の乳酸濃度が266μmol/ml以上となるように調整可能に構成されたポリ乳酸分解システム。
【請求項7】
ポリ乳酸を処理するシステムであって、
アンモニアと乳酸とを含む処理液に、前記ポリ乳酸を含浸させて分解するポリ乳酸分解部と、
前記ポリ乳酸を分解した後の処理物から前記アンモニアを回収するアンモニア回収部と、
前記ポリ乳酸を分解した後の処理物から前記乳酸の一部を回収する乳酸回収部と、
前記アンモニア及び前記一部の乳酸を回収した後の処理物に含まれる前記乳酸をメタン発酵するメタン発酵部と、を備え、
前記ポリ乳酸分解部は、前記処理液中のアンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下であり、且つ、前記処理液中の乳酸濃度が266μmol/ml以上となるように調整可能に構成され、
前記アンモニア回収部で回収した前記アンモニアと、前記乳酸回収部で回収した前記乳酸とを、前記ポリ乳酸分解部に供給可能に構成されたポリ乳酸処理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリ乳酸を分解する方法及びシステム、並びに、ポリ乳酸を処理する方法及びシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
廃プラスチックについては、長年にわたってリサイクル技術の開発が進められており、例えば、現在では、廃プラスチックを化学原料や燃料として利用可能なメタンなどのガスとして再生するケミカルリサイクルの手法が確立されている。
【0003】
ケミカルリサイクルを利用して廃プラスチックからメタンを製造する場合、廃プラスチックから一旦シンガス(水素及び一酸化炭素を主に含む混合ガス)を生成し、このシンガス中の一酸化炭素をメタン化することになる。しかしながら、廃プラスチックからシンガスを生成する際に、廃プラスチックが分子レベルに分解されており、例えば、得られたシンガス中の一酸化炭素の全量をメタン化するために必要な水素の量が不足する場合があるため、別途製造した水素が必要になる場合も多い。
【0004】
脱炭素社会が望まれる現在、水素は比較的高価なエネルギーであるため、これを多量に用いて製造したメタンは高価なものにならざるを得ず、結果的にリサイクルに要するコストが増加するという問題がある。
【0005】
そこで、従来から廃プラスチックから効率よくメタンを得る手法が検討されており、例えば、特許文献1記載の技術が提案されている。
【0006】
特許文献1記載の技術は、炭酸アンモニウムなどのアミン化合物の有機酸塩や無機酸塩を含む処理液にポリ乳酸を含む有機物を含浸させてポリ乳酸を分解してモノマーとしての乳酸とした後、この乳酸をメタン発酵させてバイオガスとしてメタンを得る技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
アミン化合物としてアンモニアを用いたポリ乳酸の分解においては、アンモニアとポリ乳酸の分解で得られる乳酸との反応によって乳酸アミドが生じる虞がある。この乳酸アミドは、乳酸と同様にメタン発酵によってバイオガス化することが可能である。しかしながら、乳酸アミドのバイオガス化の際にはアンモニアが発生するため、このアンモニアによってメタン細菌の活性の低下が引き起こされる虞がある。また、アンモニアは、最終的に水処理での除去が必要になる。そのため、分解処理に用いたアンモニアを再利用することが、処理システムを効率よく運用する上で重要である。即ち、アンモニアによるポリ乳酸の分解を利用したポリ乳酸処理システムを効率よく運用するためには、ポリ乳酸の分解時に乳酸アミドを極力生じさせないことや、アンモニアを循環的に容易に再利用できるようにすることが重要となる。
【0009】
ところで、上記特許文献1記載の技術では、炭酸アンモニウムなどのアミン化合物の塩を用いているため、乳酸及びアンモニア以外のアミン化合物塩由来の物質(例えば、炭酸アンモニウム由来の物質)が分解処理後の処理物中に存在している。そのため、この処理物からアンモニアを容易に回収することができず、アンモニアの循環的な再利用を容易に行えない場合がある。したがって、上記特許文献1記載の技術は、ポリ乳酸の処理システムを効率よく運用するという点において改善の余地がある。
【0010】
本発明は以上の実情に鑑みなされたものであり、乳酸アミドの生成を抑えつつ、ポリ乳酸を乳酸に分解でき、ポリ乳酸の分解に用いるアンモニアの循環的な再利用が容易に可能となり、ポリ乳酸の処理システムの効率的な運用が可能となるポリ乳酸分解方法及びポリ乳酸分解システム、並びに、これを利用したポリ乳酸処理方法及びポリ乳酸処理システムの提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明に係るポリ乳酸分解方法の特徴構成は、
ポリ乳酸を分解して乳酸を生成する方法であって、
アンモニアと乳酸とを含む処理液に、前記ポリ乳酸を含浸させて分解するポリ乳酸分解工程を行い、
前記ポリ乳酸分解工程時の前記処理液中のアンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下であり、且つ、前記処理液中の乳酸濃度が266μmol/ml以上である点にある。
【0012】
また、上記目的を達成するための本発明に係るポリ乳酸分解システムの特徴構成は、
ポリ乳酸を分解して乳酸を生成するシステムであって、
アンモニアと乳酸とを含む処理液に、前記ポリ乳酸を含浸させて分解するポリ乳酸分解部を備え、
前記ポリ乳酸分解部は、前記処理液中のアンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下であり、且つ、前記処理液中の前記乳酸濃度が266μmol/ml以上となるように調整可能に構成された点にある。
【0013】
本願発明者は、ポリ乳酸を分解する手法について鋭意研究を重ねた結果、アンモニア濃度及び乳酸濃度がそれぞれ所定範囲内である処理液にポリ乳酸を含浸させて処理することで、乳酸アミドの生成を抑えつつ、ポリ乳酸を乳酸に分解でき、ポリ乳酸の分解に用いるアンモニアの循環的な再利用が容易に可能となることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
上記特徴構成によれば、アンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下であり、且つ、乳酸濃度が266μmol/ml以上である処理液を用いてポリ乳酸の分解処理を行うことにより、乳酸アミドの生成を抑えつつ、ポリ乳酸を乳酸に分解できる。更に、アンモニアと分解処理の対象であるポリ乳酸を構成する乳酸とを使用し、従来のような炭酸アンモニウムなどのアミン化合物塩を使用していない。そのため、分解処理後の処理物中にアミン化合物塩由来の物質が存在せず、アンモニアの回収を従来より容易に行うことが可能となり、回収したアンモニアの循環的な再利用が容易に可能となるため、ポリ乳酸の分解を伴う処理システムの効率的な運用が可能となる。
【0015】
また、処理物中に乳酸及びアンモニア以外のアミン化合物塩由来の物質が含まれることで、当該物質がメタン細菌の活性に影響を及ぼす虞がある。そのため、分解処理後の処理物をメタン発酵処理に供するためには、アンモニアの除去処理のみならず、アミン化合物塩由来の物質の除去処理も必要となる。しかしながら、上記のように、分解処理後の処理物中にアミン化合物塩由来の物質が存在しないため、アミン化合物塩由来の物質の除去処理を行うことなく、分解処理後の処理物をメタン発酵処理に供することができ、ポリ乳酸の分解を伴う処理システムのより効率的な運用も可能となる。
【0016】
本発明に係るポリ乳酸分解方法の更なる特徴構成は、
前記ポリ乳酸分解工程時の前記処理液中の前記アンモニア濃度が267μmol/ml以下である点にある。
【0017】
本願発明者は、アンモニア濃度が267μmol/ml以下である処理液を使用してポリ乳酸の分解処理を行うことで、乳酸アミドの生成をより抑えられることを発見した。即ち、上記特徴構成によれば、乳酸アミドの発生をより抑えつつ、ポリ乳酸を分解することができる。
【0018】
本発明に係るポリ乳酸分解方法の更なる特徴構成は、
前記ポリ乳酸分解工程時の前記処理液中の前記アンモニア濃度が134μmol/ml以下であり、且つ前記処理液中の前記乳酸濃度が5333μmol/ml以上である点にある。
【0019】
本願発明者は、アンモニア濃度が29μmol/ml以上134μmol/ml以下であり、且つ、乳酸濃度が5333μmol/ml以上である処理液を使用してポリ乳酸の分解処理を行うことで、乳酸アミドが生じず、且つ、乳酸の生成量が極めて多くなることを発見した。即ち、上記特徴構成によれば、乳酸アミドの発生を抑えつつ、より効率よくポリ乳酸を分解することができる。
【0020】
本発明に係るポリ乳酸分解方法の更なる特徴構成は、
前記ポリ乳酸分解工程時の前記処理液のpHが0.5以上1.5以下である点にある。
【0021】
アンモニア濃度が29μmol/ml以上134μmol/ml以下であり、且つ、乳酸濃度が5333μmol/ml以上である処理液を使用した場合、処理液のpHが0.5以上1.5以下となるが、乳酸アミドが生じず、且つ、乳酸の生成量が極めて多くなる。
【0022】
上記目的を達成するための本発明に係るポリ乳酸処理方法の特徴構成は、
ポリ乳酸を処理する方法であって、
アンモニアと乳酸とを含む処理液に、前記ポリ乳酸を含浸させて分解するポリ乳酸分解工程と、
前記ポリ乳酸分解工程後の処理物から前記アンモニアを回収するアンモニア回収工程と、
前記ポリ乳酸分解工程後の処理物から前記乳酸の一部を回収する乳酸回収工程と、
前記アンモニア回収工程及び前記乳酸回収工程後の処理物に含まれる前記乳酸をメタン発酵するメタン発酵工程と、を行い、
前記ポリ乳酸分解工程時の前記処理液中のアンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下であり、且つ、前記処理液中の乳酸濃度が266μmol/ml以上であり、
前記アンモニア回収工程で回収した前記アンモニアと、前記乳酸回収工程で回収した前記乳酸とを、前記ポリ乳酸分解工程で再利用する点にある。
【0023】
また、上記目的を達成するための本発明に係るポリ乳酸処理システムの特徴構成は、
ポリ乳酸を処理するシステムであって、
アンモニアと乳酸とを含む処理液に、前記ポリ乳酸を含浸させて分解するポリ乳酸分解部と、
前記ポリ乳酸を分解した後の処理物から前記アンモニアを回収するアンモニア回収部と、
前記ポリ乳酸を分解した後の処理物から前記乳酸の一部を回収する乳酸回収部と、
前記アンモニア及び前記一部の乳酸を回収した後の処理物に含まれる前記乳酸をメタン発酵するメタン発酵部と、を備え、
前記ポリ乳酸分解部は、前記処理液中のアンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下であり、且つ、前記処理液中の乳酸濃度が266μmol/ml以上となるように調整可能に構成され、
前記アンモニア回収部で回収した前記アンモニアと、前記乳酸回収部で回収した前記乳酸とを、前記ポリ乳酸分解部に供給可能に構成された点にある。
【0024】
上記特徴構成によれば、アンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下であり、且つ、乳酸濃度が266μmol/ml以上である処理液を用いてポリ乳酸の分解処理を行うことにより、乳酸アミドの生成を抑えつつ、ポリ乳酸を乳酸に分解できる。更に、アンモニアと分解処理の対象であるポリ乳酸を構成する乳酸とを使用し、従来のような炭酸アンモニウムなどのアミン化合物塩を使用していない。そのため、分解処理後の処理物中にアミン化合物塩由来の物質が存在せず、アンモニアの回収を従来より容易に行うことが可能であり、回収したアンモニアと乳酸とをポリ乳酸の分解に再利用できるため、効率的な運用が可能となる。
【0025】
また、上記のように、処理物中に乳酸及びアンモニア以外のアミン化合物塩由来の物質が含まれることで、当該物質がメタン細菌の活性に影響を及ぼす虞がある。そのため、分解処理後の処理物をメタン発酵処理に供するためには、アンモニアの除去処理のみならず、アミン化合物塩由来の物質の除去処理も必要となる。しかしながら、上記特徴構成によれば、アミン化合物塩由来の物質の除去処理を行うことなく、分解処理後の処理物から乳酸の一部を回収し、残りをメタン発酵処理に供することも可能となるため、システムのより効率的な運用も可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】一実施形態に係る乳酸処理システムの概略構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照して本発明の一実施形態に係るポリ乳酸分解システム、ポリ乳酸分解方法、ポリ乳酸処理システム及びポリ乳酸処理方法について説明する。
【0028】
図1は、一実施形態に係るポリ乳酸処理システム1の概略構成を示す図である。同
図1に示すように、ポリ乳酸処理システム1は、ポリ乳酸を処理するシステムであって、アンモニアと乳酸とを含む処理液に、ポリ乳酸を含浸させて分解するポリ乳酸分解部2と、ポリ乳酸を分解した後の処理物からアンモニアを回収するアンモニア回収部3と、ポリ乳酸を分解した後の処理物から乳酸の一部を回収する乳酸回収部4と、アンモニア及び一部の乳酸を回収した後の処理物に含まれる乳酸をメタン発酵するメタン発酵部5とを備えている。
【0029】
ポリ乳酸処理システム1の処理対象であるポリ乳酸は、ポリ乳酸分解部2での分解性に優れるという観点から、バイオマス由来であると好ましいが、これに限られるものではなく、化石燃料由来であってもよい。
【0030】
また、本実施形態に係るポリ乳酸処理システム1は、ポリ乳酸分解部2にアンモニアを供給するアンモニア供給部6と、ポリ乳酸分解部2に乳酸を供給する乳酸供給部7とを備えている。
【0031】
ポリ乳酸分解部2は、分解槽などを備えており、分解槽内において、アンモニアと乳酸と水とを含む処理液にポリ乳酸を含浸させて、ポリ乳酸の加水分解処理が行われる。
【0032】
本実施形態において、分解槽には、図示しない水供給手段によって水が供給されるとともに、処理液中のアンモニア濃度及び乳酸濃度がそれぞれ所定範囲内の濃度となるように、加水分解処理の開始前や途中にアンモニア及び乳酸がアンモニア供給部6及び乳酸供給部7から適宜供給される。
【0033】
ここで、本実施形態のポリ乳酸処理システム1においては、分解槽内の処理液を、そのアンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下、且つ乳酸濃度が266μmol/ml以上に調製することができ、これにより、ポリ乳酸の加水分解処理を行った際に、乳酸アミドの生成が抑えられつつ、ポリ乳酸を乳酸に分解できる。尚、分解槽内の処理液は、乳酸アミドの生成をより抑えるという観点から、アンモニア濃度が267μmol/ml以下であることがより好ましい。また、乳酸アミドの生成を抑えつつ、乳酸の生成量を増加させるという観点から、アンモニア濃度が134μmol/ml以下であり、且つ、乳酸濃度が5333μmol/ml以上であることが更に好ましく、この場合、処理液のpHが0.5以上1.5以下であっても、乳酸アミドの生成が抑えられ、且つ、乳酸の生成量が極めて多くなる。
【0034】
尚、分解槽へのアンモニアや乳酸の供給タイミングについては、加水分解処理の開始前や、加水分解処理中の分解槽内の処理液のアンモニア濃度や乳酸濃度をモニタリングし、アンモニア濃度が所望の濃度より低くなったタイミングを例示できる。
【0035】
分解槽へのアンモニアの供給方法は、分解槽へ所定濃度のアンモニア水を供給する方法や液化アンモニアを供給する方法、ガス態のアンモニアを供給する方法などのどのような方法であってもよい。本実施形態においては、アンモニア供給部6から分解槽へ高濃度のアンモニア水を供給する方法を採用している。尚、アンモニア供給部6は、後述するアンモニア回収部3で回収されたアンモニア水が貯留槽に貯留し、貯留槽内のアンモニア水の濃度をモニタリングできるように構成され、分解槽内の処理液中のアンモニア濃度が所望の値となるように適量のアンモニア水を供給可能に構成されている。
【0036】
また、分解槽への乳酸の供給方法は、分解槽へ乳酸溶液や所定濃度に調製した乳酸水溶液を供給する方法を採用できるが、本実施形態においては、乳酸供給部7から乳酸溶液を供給する方法を採用している。尚、乳酸供給部7は、後述する乳酸回収部4で回収された乳酸が貯留槽に貯留されるように構成され、分解槽内の処理液中の乳酸濃度が所望の値となるように適量の乳酸を供給可能に構成されている。
【0037】
加水分解処理の圧力条件(即ち、分解槽内の圧力)は、分解槽中のアンモニアや乳酸の量や処理すべきポリ乳酸の量を考慮して設定される。加水分解処理の圧力条件は、例えば、ゲージ圧で0~10MPaGであることが好ましいが、装置構造上の観点からより好ましくは0~1MPaGである。
【0038】
加水分解処理の処理時間についても、分解槽中のアンモニアや乳酸の量や処理すべきポリ乳酸の量を考慮して設定されるが、例えば、0.1~48時間であることが好ましく、1~12時間であることがより好ましい。
【0039】
加水分解処理の温度条件(即ち、分解槽内の温度)は、例えば、40℃以上であり、好ましくは50~220℃である。
【0040】
また、図示しないが、ポリ乳酸分解部2は、任意の量のポリ乳酸を分解槽に供給するためのポリ乳酸供給手段を備えている。
【0041】
以上の構成を備えたポリ乳酸分解部2によれば、ポリ乳酸が分解槽に供給されるとともに、分解槽内の処理液がアンモニア濃度及び乳酸濃度が所定濃度に調整された状態で、所定時間経過させることにより、ポリ乳酸が乳酸に加水分解される。尚、本実施形態において、ポリ乳酸処理システム1中のポリ乳酸分解部2がポリ乳酸分解システムに相当する。
【0042】
アンモニア回収部3は、公知の手法によってポリ乳酸分解処理後の処理物(アンモニア、乳酸及び水の混合物)から少なくともアンモニアを回収可能に構成され、回収したアンモニアは、アンモニア供給部6の貯留槽に貯留され、ポリ乳酸分解部2で再利用される。
【0043】
本実施形態のポリ乳酸処理システム1では、アンモニアと、加水分解対象たるポリ乳酸を構成する乳酸とを使用し、炭酸アンモニウムなどのアミン化合物塩を使用しない。そのため、加水分解処理後の処理物中にアミン化合物塩由来の物質が存在しない。そこで、本実施形態のアンモニア回収部3では、ポリ乳酸分解部2においてポリ乳酸が加水分解された後の処理物を加熱して蒸留し、アンモニア水として回収する手法を採用している。したがって、本実施形態においては、アンモニア回収後の処理物として乳酸が残る。このように、本実施形態では、加水分解処理後の処理物中に炭酸アンモニウムなどのアミン化合物塩由来の物質の存在を考慮してアンモニアの回収を行う必要がなく、アンモニアの回収を簡易な手法を用いて行うことができる。尚、アンモニア回収部3でアンモニアを回収する態様は、アンモニア水として回収する態様に限られるものではなく、ガス態のアンモニアを回収する態様であってもよい。また、アンモニア水として回収する態様を採用する場合、アンモニア供給部6の貯留槽内のアンモニア濃度が所望の濃度となるように、加水分解後の処理物から回収したアンモニア水を貯留槽に回収する前に適宜蒸留処理に供して、貯留槽に回収するアンモニア水の濃度を調整するようにしてもよい。
【0044】
乳酸回収部4についても、公知の手法によってアンモニア回収後の処理物から乳酸の一部を回収可能に構成されている。
【0045】
上記のように、本実施形態のポリ乳酸処理システム1では、加水分解処理後の処理物中に炭酸アンモニウムなどのアミン化合物塩由来の物質が存在しない。そこで、本実施形態の乳酸回収部4では、アンモニア回収後に残った乳酸の一部を回収することで、乳酸の一部を回収する手法を採用している。このように、アミン化合物塩由来の物質の除去処理を行うことなく、加水分解処理後の処理物(乳酸)の一部を回収するだけで乳酸を一部回収が可能であり、また、残りの処理物(乳酸)をそのままメタン発酵に供することができる。
【0046】
メタン発酵部5は、発酵槽などを備えており、発酵槽内において、ポリ乳酸の分解により得られた乳酸がメタン発酵されてメタンが生成される。尚、発酵槽は、乳酸のメタン発酵に適した条件を調節・保持可能に構成されている。
【0047】
発酵槽内の温度は、用いる微生物の種類に応じて広い温度範囲から適宜設定することができ、特に限定されるものではないが、例えば、20~60℃程度である。
【0048】
また、発酵槽内での乳酸の処理時間は、当該乳酸の量や使用する微生物の種類、発酵槽内の温度などを考慮して設定されるが、例えば、1~10日程度である。
【0049】
また、図示しないが、メタン発酵部5は、発酵槽内で発生したバイオガスによって当該発酵槽を撹拌する撹拌手段や、発酵槽内で発生したメタン等を含むバイオガスを外部に取り出す取出手段などを備えており、これら各手段は、公知の手法を採用して構築できる。
【0050】
以上の構成を備えたメタン発酵部5によれば、乳酸回収部4で乳酸の一部が回収された残りの乳酸が発酵槽内に供給され、乳酸のメタン発酵が進行してメタンが生成され、この生成されたメタンが外部に取り出される。
【0051】
次に、ポリ乳酸処理システム1によってポリ乳酸を処理する方法(ポリ乳酸処理方法)について説明する。
【0052】
まず、ポリ乳酸をポリ乳酸分解部2の分解槽に供給するとともに、分解槽内に処理液を調製する。そして、分解槽内の温度及び圧力が所定範囲内となるように調整して、所定時間処理を行うことで、ポリ乳酸を乳酸に加水分解する(ポリ乳酸分解工程)。尚、本実施形態において、ポリ乳酸処理方法におけるポリ乳酸分解工程がポリ乳酸分解方法に相当する。
【0053】
ここで、本実施形態においては、分解槽内での処理液の調製を、当該分解槽内の処理液中のアンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下、且つ乳酸濃度が266μmol/ml以上となるように、アンモニア供給部6及び乳酸供給部7からアンモニア水及び乳酸溶液を供給するとともに、水を供給する。
【0054】
このように、アンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下、且つ乳酸濃度が266μmol/ml以上である処理液を用いることで、ポリ乳酸の加水分解時に、乳酸アミドの生成を抑えつつ、ポリ乳酸を乳酸に分解することができる。尚、ポリ乳酸分解工程においては、ポリ乳酸の分解によって分解槽内の乳酸量が徐々に増加することになり、アンモニアの相対的な濃度が低下し、所望の濃度範囲(29μmol/ml以上534μmol/ml以下)を維持できない場合がある。そのため、ポリ乳酸分解工程の間、分解槽内のアンモニア濃度をモニタリングし、アンモニア濃度が所望の値となるように、適宜アンモニア供給部6からアンモニア水を供給する。
【0055】
ついで、ポリ乳酸分解処理工程後の処理物(アンモニア、乳酸及び水の混合物)からアンモニア及び水を分離してアンモニア水を回収する(アンモニア回収工程)。そして、回収したアンモニア水は、アンモニア供給部6の貯留槽に貯留され、適宜分解槽に供給され再利用される。即ち、本実施形態においては、ポリ乳酸の分解に用いるアンモニアの循環的な再利用が可能である。
【0056】
その後、アンモニア回収工程後の処理物として残った乳酸の一部を回収する(乳酸回収工程)。そして、回収した乳酸は、乳酸供給部7の貯留槽に貯留され、適宜分解槽に供給され再利用される。即ち、本実施形態においては、ポリ乳酸の分解によって得られる乳酸を、ポリ乳酸の分解に利用することが可能である。
【0057】
しかる後、乳酸回収工程後の残りの乳酸をメタン発酵部5の発酵槽に供給し、乳酸のメタン発酵を行ってメタンを生成する(メタン発酵工程)。
【0058】
そして、乳酸を発酵槽内に供給してから所定時間経過した後、発酵槽内のメタンを外部に排出する。
【0059】
以上のように、本実施形態に係るポリ乳酸処理システム、ポリ乳酸分解システム、ポリ乳酸処理方法及びポリ乳酸分解方法によれば、ポリ乳酸の加水分解時に、乳酸アミドの生成を抑えつつ、ポリ乳酸を乳酸に分解することができる。更に、アンモニアと、加水分解対象たるポリ乳酸を構成する乳酸とを使用し、炭酸アンモニウムなどのアミン化合物塩を使用しないで、ポリ乳酸の加水分解処理を行うため、加水分解処理後の処理物中にアミン化合物塩由来の物質が存在しない。そのため、加水分解処理後の処理物中に炭酸アンモニウムなどのアミン化合物塩由来の物質の存在を考慮してアンモニアの回収を行う必要がなく、アンモニアの回収を簡易な手法を用いて行うことができる。即ち、本実施形態に係るポリ乳酸処理システム、ポリ乳酸分解システム、ポリ乳酸処理方法及びポリ乳酸分解方法によれば、乳酸アミドの生成を抑えつつ、ポリ乳酸を乳酸に分解でき、ポリ乳酸の分解に用いるアンモニアの循環的な再利用が可能となり、ポリ乳酸の処理システムの効率的な運用が可能となる。
【0060】
〔実験例〕
以下、本発明を実験例に基づいてより詳細に説明する。尚、本発明が実験例に限定されないことは言うまでもない。
【0061】
アンモニア及び乳酸を用いてポリ乳酸を加水分解する場合について、アンモニア濃度及び乳酸濃度の違いによる乳酸アミド生成の有無及び乳酸の増加量について検討した。
【0062】
具体的には、アンモニア濃度及び乳酸濃度が表1~表3に示す各濃度となるように、2mlチューブ内の1.5mlの水に28%アンモニア水(キシダ化学株式会社製)及び/又は乳酸(富士フイルム和光純薬株式会社製)を添加するとともに、20mgのポリ乳酸を添加して混合し、70℃で2時間反応させた。その後、乳酸アミド及び乳酸の濃度を測定し、反応開始前の乳酸アミド及び乳酸の濃度からの増加量を算出した。
【0063】
表1は、乳酸アミド濃度の増加量をまとめた表である。当該表1に示すように、乳酸濃度にかかわらず、アンモニア濃度が29.3μmol/ml以上533.3μmol/ml以下である場合、乳酸アミドが生成していない。また、本願発明者は、特にアンモニア濃度が29.3μmol/ml以上266.7μmol/ml以下である場合に乳酸アミドが生成し難くなることを確認した。このことから、アンモニア及び乳酸を用いてポリ乳酸を加水分解する際に、アンモニア濃度を29μmol/ml以上534μmol/ml以下程度とすることにより、乳酸アミドの生成を抑えられ、特に、267μmol/ml以下程度とすることにより、乳酸アミドの生成をより抑えられることがわかる。
【0064】
【0065】
一方、表2は、乳酸濃度の増加量をまとめた表である。当該表2から分かるように、ポリ乳酸から乳酸への分解は、アンモニア濃度及び乳酸濃度によって影響を受けることがわかる。具体的に、アンモニア濃度が587.3μmol/ml以上であれば、乳酸濃度にかかわらずポリ乳酸が乳酸へと分解している。これに対し、アンモニア濃度がこれより低い場合、乳酸濃度33.3μmol/ml以下ではポリ乳酸から乳酸への分解が進まない。また、ポリ乳酸から乳酸への分解は、乳酸濃度が高いほど進み易くなる傾向があることがわかる。
【0066】
【0067】
また、表3は、反応開始前の処理液のpHをまとめた表である。表2及び表3から分かるように、アンモニア濃度が29μmol/ml以上134μmol/ml以下であり、且つ、乳酸濃度が5333μmol/ml以上であると、pHが1前後と極めて低くなるが、ポリ乳酸の分解が進み易い。
【0068】
【0069】
これらの結果をまとめると、アンモニア及び乳酸を使用してポリ乳酸の加水分解処理を行う場合、処理液のアンモニア濃度が29μmol/ml以上534μmol/ml以下であり、且つ、乳酸濃度が266μmol/ml以上であれば、乳酸アミドの生成を抑えつつ、ポリ乳酸を乳酸に分解することができ、また、アンモニアと乳酸とを使用し、アンモニア化合物塩を使用していないため、アンモニアの再利用を容易にできる。また、アンモニア濃度が267μmol/ml以下であれば、乳酸アミドの生成をより抑えられる。
【0070】
また、アンモニア濃度が29μmol/ml以上134μmol/ml以下であり、且つ、乳酸濃度が5333μmol/ml以上であれば、ポリ乳酸の分解が進み易く、乳酸の生成量を高められ、且つ、乳酸アミドの生成も抑えられる。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明は、ポリ乳酸を分解する方法及びシステム、並びに、ポリ乳酸を処理する方法及びシステムに適用することができる。
【符号の説明】
【0072】
1 :ポリ乳酸処理システム
2 :ポリ乳酸分解部(ポリ乳酸分解システム)
3 :アンモニア回収部
4 :乳酸回収部
5 :メタン発酵部