(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139876
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物用のキレート剤型分散剤
(51)【国際特許分類】
C04B 24/04 20060101AFI20230927BHJP
C04B 24/06 20060101ALI20230927BHJP
C04B 24/12 20060101ALI20230927BHJP
C04B 28/08 20060101ALI20230927BHJP
C04B 28/02 20060101ALI20230927BHJP
C04B 18/08 20060101ALI20230927BHJP
C04B 18/14 20060101ALI20230927BHJP
C04B 103/40 20060101ALN20230927BHJP
【FI】
C04B24/04 ZAB
C04B24/06 Z
C04B24/12
C04B28/08
C04B28/02
C04B18/08 Z
C04B18/14
C04B103:40
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045625
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004628
【氏名又は名称】株式会社日本触媒
(72)【発明者】
【氏名】新井 太一朗
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼山 猛
【テーマコード(参考)】
4G112
【Fターム(参考)】
4G112PA27
4G112PA29
4G112PB16
4G112PB17
4G112PB20
4G112PC03
(57)【要約】
【課題】ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物の分散性を向上する技術を提供すること。
【解決手段】一般式(1)で表される特定の化合物を含有し、ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物に用いられる、分散剤、を提供する。当該化合物は、3-ヒドロキシ-2,2´-イミノジコハク酸、2,2´-イミノジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、カルボキシエチルイミノコハク酸、エチレンジアミンジコハク酸、カルボキシメチルイミノコハク酸、ヒドロキシカルボキシメチルイミノコハク酸、メチルグリシンジ酢酸、L-グルタミン酸ジ酢酸、エチレンジアミンジリンゴ酸、オキシジコハク酸、エタノールアミンジコハク酸、ヒドロキシオキシジコハク酸、エチレングリコールジコハク酸、アスパラギン酸ジ酢酸、イミノジリンゴ酸及びこれらの塩から選ばれることが望ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される化合物を含有し、
ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物に用いられる、
分散剤。
【化1】
{式(1)中、
X及びYは、其々独立して、水素原子又は-(CH
2)n
1-CHR
1-COOM(n
1は0~2のいずれかの整数、R
1は水素原子、メチル基、水酸基又はスルホン酸基)を示し、
Zは、-(CH
2)n
2-CHR
2-COOM(n
2は0~2のいずれかの整数、R
2は水素原子、水酸基又はスルホン酸基)、-CH(COOM)-CHR
3COOM(R
3は水素原子、メチル基、水酸基又はスルホン酸基)、又は-(CH
2)n
3-CHR
4-A
2-CH(COOM)-CHR
5COOM(n
3は0又は1の整数、R
4は水素原子又はメチル基、A
2はNH又は酸素原子、R
5は水素原子、メチル基、水酸基又はスルホン酸基)を示し、
A
1は窒素原子又は酸素原子を示し(但し、A
1が酸素原子の場合はYまたはZのいずれか一方は存在しない)、
上記のMは、其々独立して、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛又はアミン類のいずれかを示す。}
【請求項2】
前記化合物が、3-ヒドロキシ-2,2´-イミノジコハク酸、2,2´-イミノジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、カルボキシエチルイミノコハク酸、エチレンジアミンジコハク酸、カルボキシメチルイミノコハク酸、ヒドロキシカルボキシメチルイミノコハク酸、メチルグリシン二酢酸、L-グルタミン酸ジ酢酸、エチレンジアミンジリンゴ酸、オキシジコハク酸、エタノールアミンジコハク酸、酒石酸モノコハク酸、エチレングリコールジコハク酸、アスパラギン酸ジ酢酸、イミノジリンゴ酸、ヒドロキシスルホイミノジコハク酸、ジスルホエチレンジアミンコハク酸及びこれらの塩から選ばれる、請求項1に記載の分散剤。
【請求項3】
前記化合物が、水酸基価が250~1500mgKOH/g、酸価が250~950mgKOH/g、水酸基価/酸価が0.40以上5.00未満である化合物ではない、請求項1に記載の分散剤。
【請求項4】
スラグを含む組成物に用いられる、請求項1~3のいずれかに記載の分散剤。
【請求項5】
フライアッシュを含む組成物に用いられる、請求項1~3のいずれかに記載の分散剤。
【請求項6】
請求項1~3のいずれかに記載の分散剤、及びポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物。
【請求項7】
ポゾラン反応性物質若しくは潜在水硬性物質、又はポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物、と請求項1~3のいずれかに記載の分散剤を混和することを特徴とする、分散剤の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、分散剤、分散剤を含む組成物、又は分散剤の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、セメントを含むモルタルやコンクリートにおいて、セメントの一部を、石炭火力発電等によって発生するフライアッシュ、スラグ、シリカフューム等のポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質に置き換える傾向がある。
これら物質は産業副産物として一般に知られる物質であり、コンクリートの製造原料などとして活用されることが積極的に望まれるものである。
【0003】
しかしながらセメントの一部をポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質に置き換えると流動性が悪化するという問題が生じる。この点に関連して、特許文献1や2ではポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質とポリカルボン酸系重合体を含む組成物の紹介があり、特許文献3では脂肪族オキシカルボン酸(水酸基価が250~1500mgKOH/g;酸価が250~950mgKOH/g;水酸基価/酸価が0.40以上5.00未満)の塩を含むジオポリマー用添加剤の紹介があり、特許文献4ではキレート剤等を含むジオポリマー組成物の紹介があり、特許文献5では炭素数3以下のアルコール等を含むジオポリマー組成物の紹介がある。
ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物の流動性の改善に関する知見の蓄積はいくらか見られるものの、いまだ上記問題が満足に解決されたとは言い難いのが現状である。産業副産物として多量に排出されるこれら物質の活用を促進するため、上記問題を解決する技術の創出が早急に望まれるのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005-220739号公報
【特許文献2】特開平7-291691号公報
【特許文献3】特開2016-79046号公報
【特許文献4】特開2014-28726号公報
【特許文献5】特開2018-16514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題はポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物の分散性を向上する技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物の分散性を改善する技術を鋭意検討した結果、特定の化合物はポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物に対して優れた分散性を付与することを見出した。本発明者はその知見に基づいて、下記の本発明を完成するに至った。
【0007】
本発明は、ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物用の特定の化合物である分散剤、ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質と特定の化合物である分散剤を含む組成物、又はポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物についての特定の化合物である分散剤の使用方法(以下、「本発明の分散剤等」と呼ぶ。)に関するものであり、その好ましい構成は以下(1)~(6)において記述されるものである。
(1)下記一般式(1)で表される化合物を含有し、
ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物に用いられる、
分散剤。
【0008】
【化1】
{式(1)中、
X及びYは、其々独立して、水素原子又は-(CH
2)n
1-CHR
1-COOM(n
1は0~2のいずれかの整数、R
1は水素原子、メチル基、水酸基又はスルホン酸基)を示し、
Zは、-(CH
2)n
2-CHR
2-COOM(n
2は0~2のいずれかの整数、R
2は水素原子、水酸基又はスルホン酸基)、-CH(COOM)-CHR
3COOM(R
3は水素原子、メチル基水酸基又はスルホン酸基)、又は-(CH
2)n
3-CHR
4-A
2-CH(COOM)-CHR
5COOM(n
3は0又は1の整数、R
4は水素原子又はメチル基、A
2はNH又は酸素原子、R
5は水素原子、メチル基、水酸基又はスルホン酸基)を示し、
A
1は窒素原子又は酸素原子を示し(但し、A
1が酸素原子の場合YまたはZのいずれか一方は存在しない)、
上記のMは、其々独立して、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛又はアミン類のいずれかを示す。}
(2)前記化合物が、3-ヒドロキシ-2,2´-イミノジコハク酸、2,2´-イミノジコハク酸、カルボキシメチルオキシコハク酸、カルボキシエチルイミノコハク酸、エチレンジアミンジコハク酸、カルボキシメチルイミノコハク酸、ヒドロキシカルボキシメチルイミノコハク酸、メチルグリシン二酢酸、L-グルタミン酸ジ酢酸、エチレンジアミンジリンゴ酸、オキシジコハク酸、エタノールアミンジコハク酸、酒石酸モノコハク酸、エチレングリコールジコハク酸、アスパラギン酸ジ酢酸、イミノジリンゴ酸、ヒドロキシスルホイミノジコハク酸、ジスルホエチレンジアミンコハク酸及びこれらの塩から選ばれる、前記(1)に記載の分散剤。
(3)前記化合物が、水酸基価が250~1500mgKOH/g、酸価が250~950mgKOH/g、水酸基価/酸価が0.40以上5.00未満である化合物ではない、前記(1)に記載の分散剤。
(4)スラグを含む組成物に用いられる、前記(1)~(3)のいずれかに記載の分散剤。
(5)フライアッシュを含む組成物に用いられる、前記(1)~(3)のいずれかに記載の分散剤。
(6)前記(1)~(3)のいずれかに記載の分散剤、及びポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物。
(7)ポゾラン反応性物質若しくは潜在水硬性物質、又はポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物、と前記(1)~(3)のいずれかに記載の分散剤を混和することを特徴とする、分散剤の使用方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明は、ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物の分散性を向上する効果を有するものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下で本発明の分散剤等に関する事項を詳細に説明する。但し以下の記載は本発明を説明するための例示であり、本発明をこの記載範囲にのみ特別限定する趣旨ではない。
【0011】
(用語の定義)
本明細書中で「(メタ)アクリル」とは、「アクリルおよび/またはメタクリル」を意味する。また「質量」、「重量」はお互いに同義である。
【0012】
(特定の化合物)
本発明の分散剤等は、特定の化合物を含むものであり、該特定の化合物を含有することで分散性について優れた特性を有する。また本発明の分散剤等に1種または2種以上の該特定の化合物が含まれていてもよい。
【0013】
本発明における該特定の化合物は、具体的には下記の構造式(1)で示される化合物である。
【0014】
【化2】
{式(1)中、
X及びYは、其々独立して、水素原子又は-(CH
2)n
1-CHR
1-COOM(n
1は0~2のいずれかの整数、R
1は水素原子、メチル基、水酸基又はスルホン酸基)を示し、
Zは、-(CH
2)n
2-CHR
2-COOM(n
2は0~2のいずれかの整数、R
2は水素原子、水酸基又はスルホン酸基)、-CH(COOM)-CHR
3COOM(R
3は水素原子、メチル基、水酸基又はスルホン酸基)、又は-(CH
2)n
3-CHR
4-A
2-CH(COOM)-CHR
5COOM(n
3は0又は1の整数、R
4は水素原子又はメチル基、A
2はNH又は酸素原子、R
5は水素原子、メチル基、水酸基又はスルホン酸基)を示し、
A
1は窒素原子又は酸素原子を示し(但し、A
1が酸素原子の場合はYまたはZのいずれか一方は存在しない)、
上記のMは、其々独立して、水素原子、アルカリ金属、アルカリ土類金属、亜鉛又はアミン類のいずれかを示す。}
【0015】
上記Xは、好ましくは-(CH2)n1-CHR1-COOMであり、より好ましくは-CH(CH3)-COOMであり、更により好ましくは-CH(CH3)-COONaである。
上記A1は好ましくは窒素原子であり、Yは好ましくは水素原子である。
上記Zは、好ましくは-CH(COOM)-CHR3COOMであり、より好ましくは-CH(COOM)-CH(OH)COOMであり、更により好ましくはCH(COOM)-CH(OH)COONaである。
上記Mは、好ましくは水素原子又はアルカリ金属であり、より好ましくはアルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウム等)であり、更により好ましくはナトリウムである。
上記構造式(1)で示される化合物はオキシカルボン酸であることが望ましく、-COOM基を3つ以上有することが望ましい。
【0016】
上記構造式(1)で示される化合物として、具体的には3-ヒドロキシ-2,2´-イミノジコハク酸(HIDS)、2,2´-イミノジコハク酸(IDS)、カルボキシメチルオキシコハク酸(CMOS)、カルボキシエチルイミノコハク酸(CEIS)、エチレンジアミンジコハク酸(EDDS)、カルボキシメチルイミノコハク酸(CMIS)、ヒドロキシカルボキシメチルイミノコハク酸(HCMIS)、メチルグリシンジ酢酸(MGDA)、L-グルタミン酸ジ酢酸(GLDA)、エチレンジアミンジリンゴ酸(EDDM)、オキシジコハク酸(ODS)、エタノールアミンジコハク酸(EADS)、酒石酸モノコハク酸(TMS)、エチレングリコールジコハク酸(EGDS)、アスパラギン酸ジ酢酸(ASDA)、イミノジリンゴ酸(IDM)、ヒドロキシスルホイミノジコハク酸(HSIDS)、ジスルホエチレンジアミンコハク酸(DSEDS)及びこれらの塩(前記で挙げられる任意の酸の塩;特にナトリウム塩)等が挙げられ、好ましくはHIDS、IDS、HCMIS、CMIS、EDDS及びこれらの塩(特にナトリウム塩)から選ばれ、より好ましくはHIDS及び其の塩(特にナトリウム塩)から選ばれ、更により好ましくはHIDSの四ナトリウム塩である。
【0017】
(他の成分)
本発明における分散剤や分散剤を含む組成物には上記構造式(1)の化合物以外の成分を含むことが可能であり、例えばセメント分散剤(上記構造式(1)の化合物以外のもの)、AE剤、消泡剤、凝結遅延剤、硬化促進剤、防水剤、防錆剤、ひび割れ低減剤、膨張材等のセメント用添加剤が挙げられ、これらは1種又は2種以上添加されていてもよい。
【0018】
(凝結遅延剤)
本発明における凝結遅延剤として、例えば、オキシカルボン酸若しくはその塩、ケト酸若しくはその塩、糖、糖アルコールが挙げられる。
上記オキシカルボン酸としては、例えば、グリコール酸、グルコン酸、酒石酸、クエン酸、リンゴ酸、グルコヘプトン酸、アラボン酸等が挙げられる。
上記ケト酸としては、例えば、ピルビン酸、オキソグルタル酸等が挙げられる。
上記塩としては、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩、マグネシウム塩、アンモニウム塩、トリエタノールアミン塩等が挙げられる。
上記糖としては、例えば、グルコース、フラクトース、ガラクトース、マンノース、キシロース、アラビノース、リボース、異性化糖などの単糖類、マルトース、スクロース、ラクトースなどの二糖類、ラフィノースなどの三糖類、デキストリンなどのオリゴ糖等が挙げられる。
【0019】
(硬化促進剤)
本発明における硬化促進剤として、例えば、アルカノールアミンが特に挙げられる。
上記アルカノールアミンとしては、例えば、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、メチルエタノールアミン、メチルイソプロパノールアミン、メチルジエタノールアミン、メチルジイソプロパノールアミン、ジエタノールイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールエタノールアミン、テトラヒドロキシエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、トリス(2-ヒドロキシブチル)アミンなどが挙げられ、好ましくはトリイソプロパノールアミン、N,N,N’,N’-テトラキス(2-ヒドロキシプロピル)エチレンジアミン、ジイソプロパノールエタノールアミンから選択されるものであり、より好ましくはトリイソプロパノールアミンである。
【0020】
(分散剤の形態)
本発明における分散剤は、液体又は粉末の形態で使用されるものであるが、好ましくは液体の形態である。
液体である当該分散剤の溶媒としては、水又は水性溶媒が好ましく、より好ましくは水である。水性溶媒とは、水との相溶性を有する有機溶媒であり、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、イソブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、t-ブチルアルコール等の低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等の低級ケトン類;ジメチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジエチルエーテル等のエーテル類等を用いることができる。液体である当該分散剤中の上記構造式(1)で示される化合物の濃度としては、30質量%~60質量%が好ましい。
【0021】
(化合物の製造方法)
本発明における上記構造式(1)の化合物を得る製造方法は一般的な手法を用いれば特に限定されないが、例えば、アスパラギン酸及びエポキシコハク酸を反応させることでHIDSを製造することができる。
【0022】
(潜在水硬性物質)
本発明における組成物の一つとして、潜在水硬性物質を含む組成物が挙げられる。
本発明における潜在水硬性物質は、単に水を混ぜただけでは硬化は起さないが、刺激剤と呼ばれる少量の物質が存在するときに硬化する物質であり、例えばスラグ(高炉スラグ・高炉徐冷スラグ・製鋼スラグ等)である。潜在水硬性物質は粒径が0.01~10mmの粒状物となっていることが望ましい。尚、前記スラグの粉末度は4000~5000cm2/gであることが望ましい。
刺激剤としては、アルカリ金属炭酸塩の水溶液、アルカリ金属フッ化物の水溶液、アルカリ金属水酸化物の水溶液、アルカリ金属アルミン酸塩の水溶液、アルカリ金属ケイ酸塩の水溶液(例えば水ガラス)及び/又はそれらの混合物が挙げられ、本発明における潜在水硬性物質を含む組成物に添加することができる。
【0023】
(ポゾラン反応性物質)
本発明における組成物の一つとして、ポゾラン反応性物質を含む組成物が挙げられる。
本発明におけるポゾラン反応性物質は、それ自体水硬性はないが、コンクリート中の成分(例えば、セメントの水和により生成した水酸化カルシウム)と徐々に化合して不溶性の化合物(例えばカルシウムシリケート水和物)をつくる物質であり、天然ポゾラン、フライアッシュ、シンダーアッシュ、クリンカーアッシュ、ハスクアッシュ、メタカオリン又はシリカフュームが挙げられ、好ましくはフライアッシュである。フライアッシュはI、II、III、IV種があるが、好ましくはII種である。ポゾラン反応性物質は粒径が0.01~10mmの粒状物となっていることが望ましい。
【0024】
(水硬性物質)
本発明における水硬性物質とは所謂セメントであり、セメントとしては、ポルトランドセメント(普通、早強、超早強、中庸熱、低熱、耐硫酸塩及びそれぞれの低アルカリ形)、各種混合セメント(高炉セメント、シリカセメント
、フライアッシュセメント)、白色ポルトランドセメント、アルミナセメント、超速硬セメント(1クリンカー速硬性セメント、2クリンカー速硬性セメント、リン酸マグネシウムセメント)、グラウト用セメント、油井セメント、低発熱セメント(低発熱型高炉セメント、フライアッシュ混合低発熱型高炉セメント、ビーライト高含有セメント)、超高強度セメント、セメント系固化材、エコセメント(都市ごみ焼却灰、下水汚泥焼却灰の一種以上を原料として製造されたセメント)が挙げられる。本発明におけるセメントは、1種、または2種以上であってもよい。
【0025】
(ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物)
本発明におけるポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物は、ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質及びその他の成分を含むものであって、当該その他の成分として、例えば水硬性物質、水、粗骨材及び細骨材が挙げられる。本発明におけるポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物はスラリーであって良い。
本発明におけるポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物は、ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を2種類以上(例えば、上記で挙げられる物質(スラグ、フライアッシュ、シリカフューム等)の中から選ばれる2種類以上)含む組成物であっても良く、1種類のみ(例えばフライアッシュ又はスラグのいずれか1種)含む組成物であっても良い。
【0026】
本発明におけるポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物は、其の固形分の総質量に対して、好ましくはポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を41.0質量%以上、より好ましくは50.0質量%以上、更により好ましくは60.0質量%以上、最も好ましくは80.0質量%以上の割合で含むものであり、95.0~100.0質量%の割合とすることも可能である。一方、当該含有割合の上限を、例えば90.0質量%以下とすることも任意で可能である。
また、当該組成物は水硬性物質を更に含むことが望ましく、当該組成物の固形分の総質量に対して水硬性物質を好ましくは5.0~59.0質量%、より好ましくは5.0~40.0質量%、更により好ましくは10.0~30.0質量%含む。
また、当該組成物は水を更に含むことが望ましく、当該組成物の固形分の総質量に対して水を好ましくは20.0~75.0質量%、より好ましくは30.0~60.0質量%含む。
【0027】
本発明におけるポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物中の本発明における分散剤は目的に応じて、任意の適切な含有割合を採用し得る。例えば、当該組成物の総質量に対して、本発明におけるポリカルボン酸系共重合体は、好ましくは0.01~5.0質量%、より好ましくは0.05~3.0質量%、さらにより好ましくは0.1~1.0質量%、最も好ましくは0.1~0.5質量%である。
【0028】
本発明の組成物は、レディーミクストコンクリート、コンクリート2次製品用のコンクリート、遠心成形用コンクリート、振動締め固め用コンクリート、蒸気養生コンクリート、吹付けコンクリート等に有効であり得る。本発明のセメント組成物は、中流動コンクリート(スランプ値が22~25cmのコンクリート)、高流動コンクリート(スランプ値が25cm以上で、スランプフロー値が50~70cmのコンクリート)、自己充填性コンクリート、セルフレベリング材等の高い流動性を要求されるモルタルやコンクリートにも有効であり得る。
【0029】
本発明の組成物は、構成成分を任意の適切な方法で配合して調整すればよい。例えば、構成成分をミキサー中で混練する方法などが挙げられる。
【0030】
(使用方法)
本発明は、上記構造式(1)の化合物を含む分散剤の使用方法を含むものであるが、より具体的には、ポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質又はポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物と上記構造式(1)の化合物を含む分散剤を混和する使用方法である。
当該混和後の組成物は水を含んでスラリーを形成していることが望ましい。
当該使用方法に関わるその他事項(ポリカルボン酸系共重合体の構成、上記分散剤と混和前又は混和後の組成物等)は、上記で説明した内容を適用することが勿論可能である。
【実施例0031】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、特に明記しない限り、%とある場合は質量%を意味する。
【0032】
[製造例1](HIDS)
エポキシコハク酸ナトリウム88.0g(0.5モル)を水250gに溶解し、これにアスパラギン酸66.6g(0.5モル)を添加した後、48%水酸化ナトリウム水溶液で溶液のpHを11に調整し、85℃で6時間反応させた。反応後に得られた溶液をメタノールにて晶析してHIDSの四ナトリウム塩を318g得た。
【0033】
[製造例2](TMS)
無水マレイン酸49.0g(0.5モル)を水250gに溶解し、次いで酒石酸カルシウム94.1g(0.5モル)、48%水酸化ナトリウム水溶液196.7gを加えた。このスラリー液を300gになるまで濃縮した後、80℃で8時間反応させた。反応後、60℃に冷却した後、微細に粉砕した炭酸ナトリウム(0.55モル)を添加し、60℃で1時間攪拌した。次いで、反応液を室温に冷却し、生成した炭酸カルシウムを水洗した。濾過により得られた濾液中にTMSの四ナトリウム塩を得た。
【0034】
[製造例3](MGDA)
50重量%水酸化ナトリウム水溶液42.0gを水84.0gに溶かした。D,L-α-アラニン44.5g(0.5モル)を、室温で30分にわたってこの溶液中に添加した。次いでこの混合物を80℃に加熱し、圧力を500ミリバールに下げた。その直後から3時間にわたって33重量%NaCN水溶液186gを添加し、並びに、15分後に開始した上で同様に3時間にわたって、30重量%ホルムアルデヒド水溶液125gを添加した。この間、温度を80℃に保ち、形成されたアンモニアをストリッピングした。80℃で更に3時間後に、MGDAの三ナトリウム塩の淡黄色溶液335gを得た。
【0035】
[製造例4](HSIDS)
スルホマレイン酸ナトリウム131g(0.5モル)を水200gに溶解し、これに3-ヒドロキシアスパラギン酸ジナトリウム96.5g(0.5モル)を添加した後、85℃で10時間反応した。反応後の溶液をメタノールにて晶析し、HSIDSの四ナトリウム塩を182g得た。
【0036】
[製造例5~18]
表2記載の原料A、Bを用いて製造例1~4と同様の方法で製造例5~18を実施した。製造例5~7では、製造例1におけるエポキシコハク酸ナトリウムの代わりに原料Aを、アスパラギン酸の代わりに原料Bを使用した。製造例8~15では、製造例2における無水マレイン酸の代わりに原料Aを、酒石酸カルシウムの代わりに原料Bを使用した。製造例16~17では、製造例3におけるD,L-α-アラニンの代わりに原料Aを使用した。製造例18では、製造例4における3-ヒドロキシアスパラギン酸ジナトリウムの代わりに原料Bを使用した。
尚、製造例5、11、15、18における原料Aの使用量は1.0モルに変更されている。
また、製造例1~18で製造された化合物はいずれもナトリウム塩である。
【0037】
【0038】
【0039】
[試験例1:ペーストフロー試験]
ペーストフロー試験用の組成物は以下で説明するように調整した。まず、ホバートミキサー(ホバート社製)を用い、混練容器にフライアッシュ若しくはスラグを投入し、低速で10秒間混錬した。そして低速で混練しながら、水溶液(製造例1~18で生成した物質、リンゴ酸及びクエン酸ナトリウムのいずれかの添加剤をイオン交換水中に充分に均一溶解したもの(下記配合例5~8の場合は水酸化ナトリウムも添加した。下記実施例6、43の場合はグルコン酸ナトリウムを、下記実施例21の場合はスクロースも添加した。))を15秒間かけて投入した。混練を始めてから60秒後にミキサーを停止し、60秒間かけて容器の壁に付着したペースト状の組成物のかき落としを行った。その後、さらに低速で180秒間混練を行い、試験用の各ペースト状組成物(実施例1~43、比較例1~8)を調整した。尚、上記各成分の投入量は下記の表3、4に記載の組成となるように行っており、各実施例・比較例の組成物に含まれる添加剤の種類は下記の表4に記載の通りである。
上記で得られたペースト状組成物を、水平に設置したフロー測定板(鋼製平板、60cm×60cm)上に置かれたコーン(上端内径50mm、下端内径50mm、高さ50mm)にすりきりいっぱいまで詰めて表面をならした。その後、最初にミキサーを始動させてから5分後にコーンを垂直に引き上げ、広がったペーストの直径(最も長い部分の直径(長径)および該長径に対して90度をなす部分の直径)を2箇所測定し、その平均値をフロー値とした(下記表2参照)。なお、フロー値は、数値が大きいほど分散性能が優れていることを示す。上記試験(調整~フロー測定)は、温度が20℃±1℃、相対湿度が60%±15%の環境下で行った。
上記フロー試験結果は下記の表4~6において示す通りである。
【0040】
下記表3は試験用のペースト状組成物の各配合の組成比の情報を示しており、W/Bは水結合剤比(%)を、FAはフライアッシュを、Slagはスラグを意味する。また、下記表4~6の添加剤の添加量は結合剤(B)に対する質量%である。尚、ここでの結合剤とはフライアッシュ及びスラグのことである。
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
表4~6より、本発明に係る化合物を用いた実施例1~43は、低分子キレート化合物を用いた比較例1~8と比較して、いずれもフロー値が顕著に高いことが示された。よって、本発明に係る化合物はポゾラン反応性物質または潜在水硬性物質を含む組成物の分散性を有意に向上する効果を有することが理解される。