(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139879
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】船尾付加構造及び船舶
(51)【国際特許分類】
B63H 5/16 20060101AFI20230927BHJP
B63B 3/40 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
B63H5/16 Z
B63B3/40
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045631
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】502116922
【氏名又は名称】ジャパンマリンユナイテッド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118267
【弁理士】
【氏名又は名称】越前 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】若林 友輝
(72)【発明者】
【氏名】増田 聖始
(72)【発明者】
【氏名】岡本 直也
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 裕樹
(57)【要約】
【課題】推力損失を改善し省エネルギーを図ることができる、船尾付加構造及び船舶を提供する。
【解決手段】船舶1は、プロペラ11の上部の船底12に配置された船尾付加構造2を備え、船尾付加構造2は、プロペラ11の位置より前方に位置する第一面21と、プロペラ11の位置より後方に位置する第二面22と、を備えている。船尾付加構造2を配置することにより、船体を後方に引っ張る力F1を低減し船体を前方に押す力F2を増大させることができ、第一面21及び第二面22に生じる圧力差により推進力を得ることができ、推力損失を改善して省エネルギーを図ることができる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラの上部の船底に配置された船尾付加構造であって、
前記プロペラの位置より前方に位置する第一面と、
前記プロペラの位置より後方に位置する第二面と、を備え、
前記第一面及び前記第二面に生じる圧力差により推進力を得るようにした、
ことを特徴とする船尾付加構造。
【請求項2】
前記第一面は、前記プロペラの作動時の圧力分布を差圧で表示した場合に負の圧力を受ける面であり、前記第二面は、前記プロペラの作動時の圧力分布を差圧で表示した場合に正の圧力を受ける面である、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項3】
前記船尾付加構造は、船体伴流分布の流速が遅い領域に配置され、船体伴流分布の流速が速い領域に突出したフィン形状の突出部を有しない形状を備えている、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項4】
前記第一面の水平線に対する第一角度は0°以上45°以下に設定される、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項5】
前記第二面の水平線に対する第二角度は0°より大きく90°以下に設定される、請求項1に記載の船舶。
【請求項6】
前記第一面は、平面形状、曲面形状又は下方に凸な形状を備えている、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項7】
前記第一面は、後方に向かって横幅が狭くなるように構成されている、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項8】
前記第二面は、平面形状、曲面形状又は後方に凸な形状を備えている、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項9】
前記プロペラの直上に開口部を有する、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項10】
前記船尾付加構造は、舵の根元部分の一部を覆うように構成された後方延長部を備えている、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項11】
請求項1~請求項10の何れか一項に記載された船尾付加構造を有する、ことを特徴とする船舶。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船尾付加構造及び船舶に関し、特に、プロペラ上部の船底に配置される船尾付加構造及び該船尾付加構造を備えた船舶に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に記載されたように、速度分布の不均一な水流の中でプロペラが回転すると大きな変動圧力を受けるため、振動が発生し、船体に伝播されることになる。この船体振動を減少させるために、従来、船側からプロペラ上方にかけてスターントンネルフィンを船体に取り付けることが提案されている(特許文献1の
図4~6参照)。
【0003】
このようなスターントンネルフィンを取り付けることにより、船側からの水流をスターントンネルフィンに沿ってプロペラ上方へ導けるため、水流の遅かった部分の水流が速くなり、プロペラに流入する水流の速度分布が平滑化され、流速分布の不均一による船体振動を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載されたようなトンネルフィンでは、水流をプロペラ上方に導くように整流する必要があるため大型化しやすく、トンネルフィンを設置したことにより船体抵抗が増大して所要馬力が大きくなってしまい、省エネルギーを図ることが難しいという問題があった。
【0006】
本発明はかかる問題点に鑑み創案されたものであり、推力損失を改善し省エネルギーを図ることができる、船尾付加構造及び船舶を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、プロペラの上部の船底に配置された船尾付加構造であって、前記プロペラの位置より前方に位置する第一面と、前記プロペラの位置より後方に位置する第二面と、を備え、前記第一面及び前記第二面に生じる圧力差により推進力を得るようにした、ことを特徴とする船尾付加構造が提供される。
【0008】
前記第一面は、前記プロペラの作動時の圧力分布を差圧で表示した場合に負の圧力を受ける面であり、前記第二面は、前記プロペラの作動時の圧力分布を差圧で表示した場合に正の圧力を受ける面であってもよい。
【0009】
前記船尾付加構造は、船体伴流分布の流速が遅い領域に配置され、船体伴流分布の流速が速い領域に突出したフィン形状の突出部を有しない形状を備えていてもよい。
【0010】
前記第一面の水平線に対する第一角度は0°以上45°以下に設定されていてもよい。
【0011】
前記第二面の水平線に対する第二角度は0°より大きく90°以下に設定されていてもよい。
【0012】
前記第一面は、平面形状、曲面形状又は下方に凸な形状を備えていてもよい。
【0013】
前記第一面は、後方に向かって横幅が狭くなるように構成されていてもよい。
【0014】
前記第二面は、平面形状、曲面形状又は後方に凸な形状を備えていてもよい。
【0015】
前記船尾付加構造は、前記プロペラの直上に開口部を有していてもよい。
【0016】
前記船尾付加構造は、舵の根元部分の一部を覆うように構成された後方延長部を備えていてもよい。
【0017】
また、本発明によれば、上述した何れかの構成を備えた船尾付加構造を有する、ことを特徴とする船舶が提供される。
【発明の効果】
【0018】
上述した本発明に係る船尾付加構造及び船舶によれば、プロペラの位置より前方に位置する第一面と、プロペラの位置より後方に位置する第二面と、を船尾付加構造に形成したことにより、前記第一面及び前記第二面に生じる圧力差により推進力を得ることができ、推力損失を改善して省エネルギーを図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第一実施形態に係る船尾付加構造を備えた船舶を示す船尾部の側面図である。
【
図3】
図2に示した船尾付加構造を示す図であり、(A)は側面図、(B)は
図3(A)におけるB矢視図、(C)は
図3(A)におけるC矢視図、を示している。
【
図4】船尾付加構造と流速との関係を示す伴流分布図である。
【
図5】プロペラ作動時における船尾部周辺の圧力分布図であり、(A)は船尾付加構造がない場合、(B)は船尾付加構造を配置した場合、を示している。
【
図6】本発明の第二実施形態に係る船尾付加構造を備えた船舶を示す船尾部の斜視図である。
【
図7】
図6に示した船尾付加構造を示す図であり、(A)は側面図、(B)は
図7(A)におけるB矢視図、(C)は
図7(A)におけるC矢視図、を示している。
【
図8】本発明の第三実施形態に係る船尾付加構造を備えた船舶を示す船尾部の側面図である。
【
図10】
図9に示した船尾付加構造を示す図であり、(A)は側面図、(B)は
図10(A)におけるB矢視図、(C)は
図10(A)におけるC矢視図、を示している。
【
図11】本発明の第四実施形態に係る船尾付加構造を備えた船舶を示す船尾部の斜視図である。
【
図12】
図11に示した船尾付加構造を示す図であり、(A)は側面図、(B)は
図12(A)におけるB矢視図、(C)は
図12(A)におけるC矢視図、を示している。
【
図13】本発明の第五実施形態に係る船尾付加構造を備えた船舶を示す船尾部の斜視図である。
【
図14】本発明の第六実施形態に係る船尾付加構造を備えた船舶を示す船尾部の斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施形態について
図1~
図15を用いて説明する。ここで、
図1は、本発明の第一実施形態に係る船尾付加構造を備えた船舶を示す船尾部の側面図である。
図2は、
図1に示した船尾部の斜視図である。
図3は、
図2に示した船尾付加構造を示す図であり、(A)は側面図、(B)は
図3(A)におけるB矢視図、(C)は
図3(A)におけるC矢視図、を示している。
【0021】
本発明の第一実施形態に係る船舶1は、
図1及び
図2に示したように、プロペラ11の上部の船底12に配置された船尾付加構造2を備え、船尾付加構造2は、プロペラ11の位置より前方に位置する第一面21と、プロペラ11の位置より後方に位置する第二面22と、を備えている。なお、
図2では、説明の便宜上、プロペラ11の図を省略してある。
【0022】
本明細書において、「船尾付加構造」とは、「船殻と別部品である付加物を船底に取り付けた構造」及び「船底を構成する船殻を部分的に変形して形成した構造」の両方を含む趣旨である。
【0023】
また、
図1では、説明の便宜上、船舶1の船尾部のみを図示してある。船舶1は、船底12の下方に位置し後方に突出したボッシング13と、ボッシング13に回転可能に支持されるプロペラ11と、船底12とボッシング13との間の配置されたスターンフレーム14と、プロペラ11の後方に配置された舵15と、船底12に配置され舵15を支持するラダーホーン16と、を備えている。
【0024】
図1に示したように、船尾付加構造2は、プロペラ11及び舵15(ラダーホーン16)により囲まれた空間の船底12に配置された突起物である。船尾付加構造2は、例えば、
図2及び
図3(A)~
図3(C)に示したように、プロペラ11側に配置され水平線Lhに対して第一角度αだけ傾斜した平面を有する第一面21と、舵15側に配置され水平線Lhに対して第二角度βだけ起立した湾曲面を有する第二面22と、船底12に配置可能に形成された第三面23と、第一面21と第三面23との交線によって形成される前縁24と、を備えている。
【0025】
第一面21は、プロペラ11側に面した船尾付加構造2の底面を構成する面である。第一面21は、前方が上方に第一角度αだけ傾斜するように構成されている。また、第一面21は、本実施形態では平面形状に形成しているが、下方に突出した凸面であってもよい。
【0026】
第一角度αは、例えば、0°以上45°以下に設定される。第一角度αの数値は、例えば、船底12の形状、船尾付加構造2の水平方向長さや厚さ等の条件によって、0°≦α≦45°の範囲内で設定される。
【0027】
第二面22は、舵15(ラダーホーン16)側に面した船尾付加構造2の後背面を構成する面である。第二面22は、例えば、第一面21及び第三面23によって囲まれた空間の側周面に沿って湾曲した略部分円柱側面形状を有している。すなわち、第二面22は後方に凸な形状を備えている。かかる構成により船尾付加構造2によって生じる船体抵抗の増大を低減することができる。
【0028】
本実施形態では、船尾付加構造2の側面及び後背面を一連の湾曲面により構成しているが、側面と後背面との境界を明確に区別するようにしてもよい。また、第二面22は、本実施形態では曲面形状により構成されているが、平面により構成してもよい。また、図示しないが、第二面22は、前方に窪むように形成された曲面形状であってもよい。
【0029】
第二角度βは、例えば、0°より大きく90°以下に設定される。第二角度βの数値は、例えば、船底12の形状、第一面21の形状、ラダーホーン16の形状等の条件によって、0°<β≦90°の範囲内で設定される。
【0030】
第三面23は、船尾付加構造2を設置する位置の船底12の形状に沿って形成される面であり、図示した形状に限定されるものではない。また、前縁24は、スターンフレーム14の形状に沿って略V字形状に形成される。なお、前縁24は厚さを有していてもよい。また、前縁24は、図示した形状に限定されるものではない。
【0031】
ここで、
図4は、船尾付加構造と流速との関係を示す伴流分布図である。図中、船底12の下方に描いた円はプロペラ11のプロペラ径を示している。また、図中の細線はプロペラ11のプロペラ面の位置における流速を等高線状に図示したものである。船底12に近い部分ほど流速が遅く、プロペラ11の回転部分に近くなるに連れて流速は速くなる。
【0032】
船尾付加構造2は、船底12に近い流速の遅い領域に沿って配置される。例えば、船尾付加構造2は、図の灰色に塗り潰した領域の範囲内に収まるように配置される。また、船尾付加構造2は、
図1及び
図4に示したように、船尾付加構造2の再下端の位置とプロペラ11の上端との間に側面視で所定の隙間Gを有している。すなわち、船尾付加構造2は、従来のトンネルフィンのようなプロペラ11の上部の沿って覆うような形状を有していない。
【0033】
また、船尾付加構造2は、船体伴流分布の流速が速い領域に突出したフィン形状の突出部を有しない形状を備えている。例えば、従来のトンネルフィンでは、プロペラに水流を集約するためのフィンがプロペラ11の上部を覆うように配置される。その場合、トンネルフィンの先端が流速の速い部分に突出することとなり船体抵抗が増大することとなる。それに対して本実施形態に係る船尾付加構造2は、船体伴流分布の流速が遅い領域に限定して配置されることから船体抵抗の増大を抑制することができる。
【0034】
また、
図1において、プロペラ11のプロペラ面の位置をPとすれば、第一面21はプロペラ面の位置Pより前方に位置する面を含むように構成され、第二面22はプロペラ面の位置Pより後方に位置する面を含むように構成される。
【0035】
ここで、
図5は、プロペラ作動時における船尾部周辺の圧力分布図であり、(A)は船尾付加構造がない場合、(B)は船尾付加構造を配置した場合、を示している。
図5(A)及び
図5(B)に示した圧力分布はプロペラ11の作動時における圧力分布を差圧により図示したものである。
【0036】
図5(A)に示したように、船底12に船尾付加構造がない状態では、プロペラ11の作動時にプロペラ11の前方側(プロペラ面の位置Pの前側)に負の圧力が生じ、プロペラ11の後方側(プロペラ面の位置Pの後側)に正の圧力が生じる。図中に矢印で示したように、負の圧力は船体を後方に引っ張る力F1を生じさせ、正の圧力は舵15を後方に押す力F2を生じさせる。
【0037】
プロペラ11の上方における船底12は、プロペラ11の前方側から後方側に渡って上方に傾斜した面を有しており、プロペラ11の前方側で船底12の面に対して略垂直な方向に引っ張る力F1が生じ、プロペラ11の後方側で船底12の面に対して略垂直な方向に押す力F2が生じることとなる。この船底12に生じる引っ張る力F1は斜め後方下向きに作用し、船底12に生じる押す力F2は斜め前方上向きに作用し、推力損失を生じさせる原因となる。
【0038】
図5(B)に示したように、第一面21及び第二面22を備えた船尾付加構造2をプロペラ11の上方の船底12に設置した場合、第一面21は、プロペラ11の作動時の圧力分布を差圧で表示した場合に負の圧力を受ける面を構成し、第二面22は、プロペラ11の作動時の圧力分布を差圧で表示した場合に正の圧力を受ける面を構成している。
【0039】
したがって、図中に矢印で示したように、第一面21に略垂直な方向である斜め前方下向きに引っ張る力F1が生じ、第二面22に略垂直な方向である前方向きに押す力F2が生じることとなる。すなわち、船尾付加構造2を配置することにより、船体を後方に引っ張る力F1を低減し船体を前方に押す力F2を増大させることができ、第一面21及び第二面22に生じる圧力差により推進力を得ることができる。よって、船舶1の推力損失を改善して船舶1の省エネルギーを図ることができる。
【0040】
次に、本発明の第二実施形態に係る船尾付加構造2について、
図6~
図7(C)を参照しつつ説明する。ここで、
図6は、本発明の第二実施形態に係る船尾付加構造を備えた船舶を示す船尾部の斜視図である。
図7は、
図6に示した船尾付加構造を示す図であり、(A)は側面図、(B)は
図7(A)におけるB矢視図、(C)は
図7(A)におけるC矢視図、を示している。なお、
図6では、説明の便宜上、プロペラ11の図を省略してある。
【0041】
第二実施形態に係る船尾付加構造2は、突起物を平面により構成したものである。具体的には、船尾付加構造2は、プロペラ11側に配置され水平線Lhに対して第一角度αだけ傾斜した平面を有する第一面21と、舵15側に配置され水平線Lhに対して第二角度βだけ起立した平面を有する第二面22と、船底12に配置可能に形成された第三面23と、第一面21と第三面23との交線によって形成される前縁24と、第一面21~第三面23により囲まれ突起物の右舷側及び左舷側の側面を構成する一対の第四面25と、を備えている。
【0042】
船尾付加構造2は、例えば、
図6及び
図7(C)に示したように、船底12の左右方向(船幅方向)に沿って略同じ厚さとなるように構成されており、第一面21は下方に凸な形状を備えている。第一面21は、例えば、中心に位置する主底面21aと、一対の第四面25に隣接する一対の副底面21bと、主底面21aと副底面21bとを連結する連結面21cと、により形成される多面体により構成される。
【0043】
なお、図示した第一面21の構成は単なる例示であり、第一面21はより多くの面数を有する多面体であってもよいし、より少ない面数を有する多面体であってもよい。また、第一面21は、全体として下方に凸な形状を有する曲面により構成してもよい。
【0044】
また、第一面21は、後方に向かって横幅が徐々に狭くなるように構成されていてもよい。例えば、第二面22側の横幅Wrは、前縁24側の横幅Wfよりも狭くなるように設定される。かかる構成により、船尾付加構造2により生じる船体抵抗を低減することができる。
【0045】
第二面22は、船尾付加構造2の後背面を形成する平面により構成される。第二角度βは、例えば、90°に設定されるが、0<β≦90°の範囲で傾斜した面であってもよい。上述した第一実施形態では、第二面22及び側面を連続する曲面により構成しているが、第二実施形態のように、第二面22と第四面25とを平面で区別するようにしてもよい。
【0046】
次に、本発明の第三実施形態に係る船尾付加構造2について、
図8~
図10(C)を参照しつつ説明する。ここで、
図8は、本発明の第三実施形態に係る船尾付加構造を備えた船舶を示す船尾部の側面図である。
図9は、
図8に示した船尾部の斜視図である。
図10は、
図9に示した船尾付加構造を示す図であり、(A)は側面図、(B)は
図10(A)におけるB矢視図、(C)は
図10(A)におけるC矢視図、を示している。なお、
図9では、説明の便宜上、プロペラ11の図を省略してある。
【0047】
第三実施形態に係る船尾付加構造2は、舵15の根元部分(ラダーホーン16)の一部を覆うように構成された後方延長部26を備えたものである。具体的には、船尾付加構造2は、プロペラ11側に配置され略水平(第一角度α=0°)の平面を有する第一面21と、舵15側に配置され水平線Lhに対して第二角度βだけ傾斜した平面を有する第二面22と、船底12に配置可能に形成された第三面23と、第一面21と第三面23との交線によって形成される前縁24と、第一面21~第三面23により囲まれ突起物の右舷側及び左舷側の側面を構成する一対の第四面25と、を備えている。
【0048】
第二面22は、後方延長部26の下面により構成される。船尾付加構造2の第二面22を構成する後方延長部26をラダーホーン16の船底12側の部分を覆うように形成することにより、ラダーホーン16と船尾付加構造2との間に形成される空間を埋めることができ、乱流の発生を抑制することができ、船体抵抗を低減することができる。
【0049】
また、後方延長部26は、
図10(B)に示したように、後方に向かって横幅が狭くなるように構成されていてもよい。かかる構成により、船尾付加構造2により生じる船体抵抗の増大を抑制することができる。
【0050】
また、第二面22が後方に傾斜している場合(0°<β<90°)であっても、プロペラ11の作動時には第二面22に垂直な方向に押す力F2が発生することから、推力損失の改善を図ることができる。
【0051】
また、本実施形態では、第一面21を水平面により構成している。この場合、船尾付加構造2が前方に長くなる傾向にあり、船体抵抗が増大する可能性がある。そこで、第一面21の船長方向の長さL21は、スターンフレーム14の変曲点Qと舵15との船長方向の間隔Dよりも小さく設定することが好ましい。
【0052】
なお、
図10(A)~
図10(C)において、船尾付加構造2と舵15の根元部分(ラダーホーン16)との取り合い部における船尾付加構造2の形状については、説明の便宜上、ラダーホーン16がないと仮定した場合の形状を図示してある。この取り合い部の形状はラダーホーン16の形状に倣って形成されるものであり、ラダーホーン16の形状によって異なるものである。
【0053】
次に、本発明の第四実施形態に係る船尾付加構造2について、
図11~
図12(C)を参照しつつ説明する。ここで、
図11は、本発明の第四実施形態に係る船尾付加構造を備えた船舶を示す船尾部の斜視図である。
図12は、
図11に示した船尾付加構造を示す図であり、(A)は側面図、(B)は
図11(A)におけるB矢視図、(C)は
図11(A)におけるC矢視図、を示している。なお、
図11では、説明の便宜上、プロペラ11の図を省略してある。
【0054】
第四実施形態に係る船尾付加構造2は、第一面21を曲面形状に形成したものである。第一面21は、例えば、
図11及び
図12(A)に示したように、上方に窪んだ形状を有している。第一角度αは、第一面21と第二面22との境界部から立ち上がる部分の接線の角度によって定義される。また、図示した第四実施形態に係る船尾付加構造2は、後方延長部26を有しているが、後方延長部26を有しない構成であってもよい。
【0055】
なお、
図12(A)~
図12(C)において、船尾付加構造2と舵15の根元部分(ラダーホーン16)との取り合い部における船尾付加構造2の形状については、説明の便宜上、ラダーホーン16がないと仮定した場合の形状を図示してある。この取り合い部の形状はラダーホーン16の形状に倣って形成されるものであり、ラダーホーン16の形状によって異なるものである。
【0056】
次に、本発明の第五実施形態に係る船尾付加構造2について、
図13を参照しつつ説明する。ここで、
図13は、本発明の第五実施形態に係る船尾付加構造を備えた船舶を示す船尾部の斜視図である。なお、
図13では、説明の便宜上、プロペラ11の図を省略してある。
【0057】
図13に示した第五実施形態に係る船尾付加構造2は、プロペラ11の直上に開口部27を形成したものである。具体的には、開口部27は第一面21に形成される。開口部27は、船尾付加構造2に形成された凹部であってもよいし、船尾付加構造2を貫通するように形成された貫通孔であってもよい。
【0058】
このようにプロペラ11の直上に開口部27を形成することにより、プロペラ11と船尾付加構造2との隙間を十分に確保することができ、プロペラ11の駆動に起因する船体の振動を低減することができる。なお、開口部27は、第一実施形態又は第二実施形態のように、後方延長部26を有しない船尾付加構造2に形成してもよい。
【0059】
次に、本発明の第六実施形態に係る船尾付加構造2について、
図14を参照しつつ説明する。ここで、
図14は、本発明の第六実施形態に係る船尾付加構造を備えた船舶を示す船尾部の斜視図である。なお、
図14では、説明の便宜上、プロペラ11の図を省略してある。
【0060】
図14に示した第六実施形態に係る船尾付加構造2は、舵15が吊り舵の場合を想定したものである。舵15は、根本部分に軸部分を覆うフェアリングカバー17を備えている。この場合、図示したように、船尾付加構造2は、フェアリングカバー17の前縁部を覆うように後方延長部26が構成される。
【0061】
なお、
図14に示した船尾付加構造2の構成は、
図9に示した第三実施形態に係る船尾付加構造2の構成と実質的に同じである。また、船尾付加構造2の構成は、第四実施形態又は第五実施形態に係る船尾付加構造2の構成に変更してもよい。
【0062】
次に、上述した第一実施形態、第二実施形態及び第三実施形態に係る船尾付加構造2について、模型による水槽試験した結果について
図15を参照しつつ説明する。ここで、
図15は、模型による水槽試験結果を示す図である。
図15の縦軸は改善効果(%)を示しており、正の数値は改善効果があることを示し、負の数値は改善効果がないことを示している。
【0063】
図15は、水槽試験の結果を有効馬力、1-t(スラスト減少係数)、1-wt(有効伴流係数)及び軸馬力の項目ごとに第一実施形態~第三実施形態の改善効果を算出したものである。白色は第一実施形態、灰色は第二実施形態、黒色は第三実施形態を示している。
【0064】
有効馬力の項目では、第一実施形態及び第二実施形態の船尾付加構造2について改善効果はみられなかったが、第三実施形態の船尾付加構造2について0.5%程度の改善効果がみられた。1-t(スラスト減少係数)の項目では、第一実施形態の船尾付加構造2について3.0%程度の改善効果がみられ、第二実施形態の船尾付加構造2について1.0%程度の改善効果がみられ、第三実施形態の船尾付加構造2について1.0%程度の改善効果がみられた。1-wt(有効伴流係数)の項目では、全ての実施形態について改善効果はみられなかった。
【0065】
軸馬力の項目では、第一実施形態の船尾付加構造2について1.0%程度の改善効果がみられ、第二実施形態の船尾付加構造2について0.5%程度の改善効果がみられ、第三実施形態の船尾付加構造2について1.0%程度の改善効果がみられた。各項目について、改善効果の有無は異なるが、最終的に軸馬力の評価では全ての実施形態について改善効果が確認することができ、総合的に省エネルギー効果を有することがわかる。
【0066】
本発明は上述した実施形態に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々変更が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0067】
1 船舶
2 船尾付加構造
11 プロペラ
12 船底
13 ボッシング
14 スターンフレーム
15 舵
16 ラダーホーン
17 フェアリングカバー
21 第一面
21a 主底面
21b 副底面
21c 連結面
22 第二面
23 第三面
24 前縁
25 第四面
26 後方延長部
27 開口部
【手続補正書】
【提出日】2023-07-25
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プロペラの上部の船底に配置された船尾付加構造であって、
前記プロペラの位置より前方に位置する第一面と、
前記プロペラの位置より後方に位置する第二面と、を備え、
前記第一面及び前記第二面に生じる圧力差により推進力を得るようにした、
ことを特徴とする船尾付加構造。
【請求項2】
前記船尾付加構造は、前記プロペラよりも前記船底に近い部分に配置されている、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項3】
前記第一面の水平線に対して船首側に向かうにつれて上昇する角度である第一角度は0°以上45°以下に設定される、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項4】
前記第二面の水平線に対して船首側に向かうにつれて下降する角度である第二角度は0°より大きく90°以下に設定される、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項5】
前記第一面は、平面形状、曲面形状又は下方に凸な形状を備えている、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項6】
前記第一面は、後方に向かって横幅が狭くなるように構成されている、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項7】
前記第二面は、平面形状又は曲面形状を備えている、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項8】
前記プロペラの直上に開口部を有する、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項9】
前記船尾付加構造は、舵の根元部分の一部を覆うように構成された後方延長部を備えている、請求項1に記載の船尾付加構造。
【請求項10】
請求項1~請求項9の何れか一項に記載された船尾付加構造を有する、ことを特徴とする船舶。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0008
【補正方法】削除
【補正の内容】
【手続補正3】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0009
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0009】
前記船尾付加構造は、前記プロペラよりも前記船底に近い部分に配置されていてもよい。
【手続補正4】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0010
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0010】
前記第一面の水平線に対して船首側に向かうにつれて上昇する角度である第一角度は0°以上45°以下に設定されていてもよい。
【手続補正5】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0011
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0011】
前記第二面の水平線に対して船首側に向かうにつれて下降する角度である第二角度は0°より大きく90°以下に設定されていてもよい。
【手続補正6】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0014
【補正方法】変更
【補正の内容】
【0014】
前記第二面は、平面形状又は曲面形状を備えていてもよい。