(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139895
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】非常用軸受給油装置
(51)【国際特許分類】
F16N 7/38 20060101AFI20230927BHJP
F16N 7/08 20060101ALI20230927BHJP
F16N 29/00 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
F16N7/38 G
F16N7/38 B
F16N7/38 D
F16N7/08
F16N29/00 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045656
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(71)【出願人】
【識別番号】317015294
【氏名又は名称】東芝エネルギーシステムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久恒 亮
(72)【発明者】
【氏名】小菅 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】高橋 玲樹
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 晋司
(72)【発明者】
【氏名】菅野 健司
(57)【要約】
【課題】回転機器の停止までの軸受への給油に必要な総給油量が適正化された非常用軸受給油装置を提供する。
【解決手段】実施形態によれば、回転機器1の軸受2への主油タンク4からの通常用潤滑油の給油が停止した場合に非常用潤滑油の給油を可能とする非常用軸受給油装置10は、軸受の上方に設けられ非常用潤滑油を貯留する非常用ヘッドタンク11と、非常用ヘッドタンク11内の非常用潤滑油を軸受2に導く非常用給油管12と、非常用給油管12に設けられた調節弁13と、温度測定対象部30に設けられた軸受温度検出器16と、軸受温度検出器16からのフィードバック信号により調節弁13への指令値を算出する制御部100を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転機器の軸受への主油タンクからの通常用潤滑油の給油が停止した非常時に前記軸受への非常用潤滑油の給油を可能とする非常用軸受給油装置であって、
前記軸受の上方の高さ位置に設けられ前記非常用潤滑油を貯留する非常用ヘッドタンクと、
前記非常用ヘッドタンク内の前記潤滑油を前記軸受に導く非常用給油管と、
前記非常用給油管に設けられて前記非常用潤滑油の流量を調節する調節弁と、
前記調節弁への指令値を算出する制御部と、
前記制御部へのフィードバック信号としての温度信号を得るべき温度測定対象部に設けられた温度検出器と、
を備えることを特徴とする非常用軸受給油装置。
【請求項2】
前記軸受に設けられた軸受温度検出器をさらに有し、
前記フィードバック信号は、前記軸受温度検出器の出力である、
ことを特徴とする請求項1に記載の非常用軸受給油装置。
【請求項3】
前記軸受の軸受箱に設けられた軸受箱内温度検出器をさらに有し、
前記フィードバック信号は、前記前記軸受箱内温度検出器の出力である、
ことを特徴とする請求項1に記載の非常用軸受給油装置。
【請求項4】
前記軸受から排出される戻り油配管と、
前記戻り油配管に設けられた戻り油温度検出器と、
をさらに備え、
前記フィードバック信号は、前記前記戻り油温度検出器の出力である、
ことを特徴とする請求項1に記載の非常用軸受給油装置。
【請求項5】
前記制御部は、
設定温度を記憶する設定温度記憶部と、
前記設定温度から前記フィードバック信号の値を減じて温度偏差を出力する第1の減算器と、
前記温度偏差を受け入れて、前記調節弁への指令を算出する制御演算部と、
を有することを特徴とする請求項2ないし請求項4のいずれか一項に記載の非常用軸受給油装置。
【請求項6】
前記制御部は、
前記回転機器が運転状態から停止する際の回転数の時間変化を記憶する停止時回転数変化特性記憶部と、
前記回転数から当該回転数に対応する前記軸受への前記非常用潤滑油の必要流量を導出し前記必要流量を前記調節弁の必要開度に換算する開度換算部と、
前記必要開度に前記制御演算部の出力を加える第1の加算器と、
をさらに有することを特徴とする請求項5に記載の非常用軸受給油装置。
【請求項7】
前記非常用給油管に設けられた非常用給油温度検出器をさらに備え、
前記制御部は、
非常用潤滑油の基準温度を記憶する基準温度記憶部と、
前記非常用給油温度検出器からの信号値から前記基準温度を減ずる第2の減算器と、
前記温度偏差に前記第2の減算器の出力を加える第2の加算器と、
をさらに有することを特徴とする請求項5または請求項6に記載の非常用軸受給油装置。
【請求項8】
回転機器の軸受への主油タンクからの通常用潤滑油の給油が停止した場合に前記軸受への非常用潤滑油の給油を可能とする非常用軸受給油装置であって、
前記軸受の上方の高さ位置に設けられ前記非常用潤滑油を貯留する非常用ヘッドタンクと、
前記非常用ヘッドタンク内の前記非常用潤滑油を前記軸受に導く非常用給油管と、
前記非常用給油管に設けられ温度測定対象部に設けられたバイメタルによって開度が変化する調節弁と、
を備えることを特徴とする非常用軸受給油装置。
【請求項9】
前記軸受は複数設けられ、
前記軸受に設けられた前記非常用ヘッドタンクは、共通の共通非常用ヘッドタンクであることを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の非常用軸受給油装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、非常用軸受給油装置に関する。
【背景技術】
【0002】
回転機器の軸受への潤滑油の給油システムは、給排油の利便性や潤滑油漏洩時の周辺機器への影響を極力低減するために、多くの場合、回転機器の運転に必要な潤滑油を貯蔵する主油タンクを回転機器より低位置に設置している。
【0003】
潤滑油を、主油タンクから、それより高い場所にある回転機器の軸受に送油し、かつ、必要な軸受給油圧力を確保するために、ポンプを使用することが一般的である。
【0004】
回転機器への潤滑油の供給が喪失すると、回転機器において回転体と静止部との摩擦力が増加し、振動や発熱が増加する。十分な潤滑油が供給されない状態での運転が長引くと、振動および発熱がさらに増加する。この結果、振動や発熱による回転機器の損傷、さらには、火災あるいは損傷した部品の飛散等により、周囲の機器、人間に多大な被害を与える可能性がある。
【0005】
従って、前述のような潤滑油の給油システムの場合、給油ポンプの多重化や多様化によりシステムの信頼性の向上を図っている。しかしながら、給油ポンプが機能しないリスクを完全に排除することは出来ない。
【0006】
このため、いかなる状況においても確実に軸受への給油を行うため、上述の給油システムに加え、回転機器より高い位置に非常用ヘッドタンクを有する非常用の給油システムを設ける場合がある。このような非常用の給油システムは、潤滑油の自重による重力流れによる受動的なシステムである。これにより、給油ポンプが使用できない状況下においても、回転機器を損傷させることなく安全に停止させることを担保している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
回転機器の回転体の回転速度が低下するにつれ、必要となる給油量も減少する。非常用ヘッドタンクからの給油量は、給油開始の流量が定格時の流量となるように構成されている。したがって、非常用の給油量が、回転速度の低下とともに減少しないと、軸受に過剰に給油される状態が続くことになる。一方、給油の流量は重力流れにより決まるため、細かい給油量の調節が困難である。このため、一般的には、非常用ヘッドタンクには、機器の健全性を担保するために必要な給油量より多くの潤滑油を貯留しておく必要がある。
【0009】
慣性モーメントの大きな大型の回転機器では、回転体の停止に要する時間がたとえば数十分のオーダとなるなど、回転体の停止に長い時間を要する。したがって、停止までに必要な総給油量も増加する。このため、非常用ヘッドタンクが大型化する。この結果、非常用ヘッドタンクの設置スペースの確保や初期コストの増加が問題となる。したがって、回転機器の停止までの軸受への給油に必要な総給油量が過剰とならない適正な値となることが望まれる。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、回転機器の停止までの軸受への給油に必要な総給油量が適正化された非常用軸受給油装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
実施形態によれば、非常用軸受給油装置は、回転機器の軸受への主油タンクからの通常用潤滑油の給油が停止した非常時に前記軸受への非常用潤滑油の給油を可能とする非常用軸受給油装置であって、前記軸受の上方の高さ位置に設けられ前記非常用潤滑油を貯留する非常用ヘッドタンクと、前記非常用ヘッドタンク内の前記潤滑油を前記軸受に導く非常用給油管と、前記非常用給油管に設けられた調節弁と、温度測定対象部に設けられた温度検出器と、前記温度検出器からのフィードバック信号により前記調節弁への指令値を算出する制御部と、を備えることを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】回転機器の軸受け廻りの系統において、第1の実施形態に係る非常用軸受給油装置の構成を示す系統図である。
【
図2】第1の実施形態に係る非常用軸受給油装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【
図3】第2の実施形態に係る非常用軸受給油装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【
図4】回転機器の軸受け廻りの系統において、第3の実施形態に係る非常用軸受給油装置の構成を示す系統図である。
【
図5】回転機器の軸受け廻りの系統において、第4の実施形態に係る非常用軸受給油装置の構成を示す系統図である。
【
図6】回転機器の軸受け廻りの系統において、第5の実施形態に係る非常用軸受給油装置の構成を示す系統図である。
【
図7】回転機器の軸受け廻りの系統において、第6の実施形態に係る非常用軸受給油装置の構成を示す系統図である。
【
図8】第6の実施形態に係る非常用軸受給油装置の制御部の構成を示すブロック図である。
【
図9】回転機器の軸受け廻りの系統において、第7の実施形態に係る非常用軸受給油装置の構成を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る非常用軸受給油装置について説明する。ここで、互いに同一または類似の部分には、共通の符号を付して、重複説明は省略する。
【0014】
[第1の実施形態]
図1は、回転機器1の軸受廻りの系統において、第1の実施形態に係る非常用軸受給油装置10の構成を示す系統図である。
【0015】
まず、本実施形態に係る非常用軸受給油装置10の給油設備1aの構成を説明する。
【0016】
給油設備1aは、主油タンク4、給油ポンプ5、油冷却器6、主給油管7、および戻り油配管8を有する。
【0017】
主油タンク4内に貯蔵された潤滑油4aは、給油ポンプ5に駆動されて主油タンク4から流出し、油冷却器6で冷却された後に、主給油管7を経由して2つの軸受箱3内の軸受2のそれぞれに至る。それぞれの軸受2で軸受2を潤滑、冷却した潤滑油4aは、戻り油配管8を経由して、主油タンク4に戻る。油冷却器6が設けられているのは、軸受2を潤滑、冷却した潤滑油4aが主油タンク4に戻る循環システムであることにより、除熱を必要とするためである。
【0018】
次に、本実施形態に係る非常用軸受給油装置10について説明する。
【0019】
非常用軸受給油装置10は、それぞれの軸受2に対応する非常用ヘッドタンク11、非常用給油管12、調節弁13、軸受温度検出器16、および制御部100を有する。以下、一方の軸受2に対応する部分について説明する。他方の軸受についても同様の内容である。
【0020】
非常用ヘッドタンク11は、貯留する潤滑油11aの自重による軸受2への重力流れを可能とするように、軸受2に対して上方の高さ位置に配置されている。非常用ヘッドタンク11の潤滑油11aの保有容量は、回転機器1が停止して回転数低下する際の、各回転数において必要な給油量(潤滑油流量)の積算値に対応する必要最小限の容量に、十分な余裕を加えた容量となっている。余裕分には、制御の遅れや必要流量からのズレ等の要素分を含んでいる。
【0021】
非常用給油管12は、非常用ヘッドタンク11と主給油管7とを接続する。主給油管7の、非常用給油管12と主給油管7との合流点12aの上流側の部分には、主給油管逆止弁15が設けられている。また、非常用給油管12にも非常用給油管逆止弁14が設けられている。主給油管逆止弁15が設けられていることにより、非常時に非常用ヘッドタンク11から軸受2に給油される潤滑油が、主給油管7の上流側に逆流することが防止される。
【0022】
また、非常用給油管逆止弁14が設けられていることにより、通常時に主油タンク4から軸受2に供給される潤滑油4aが、合流点12aから非常用給油管12の方に流入することが防止される。
【0023】
非常用給油管12には、非常用ヘッドタンク11から軸受2に重力流れにより移動する潤滑油11aの流量調節を可能とするように、調節弁13が設けられている。なお、調節弁13の出口または入口に止め弁を設けてもよい。
【0024】
軸受温度検出器16は、温度測定対象部30としての軸受2の温度を検出し、軸受温度信号を出力する。ここで、軸受温度とは、たとえば、すべり軸受の場合は、軸受メタルの表面温度あるいは内部温度である。また、転がり軸受の場合は、静止部側の収納箱の温度である。あるいは、これらに限定されず、接触部分の温度の変化を監視できるのであれば他の部位でもよい。
【0025】
制御部100は、軸受温度検出器16からの軸受温度信号を入力として受け入れ、制御演算を行い、調節弁13に開閉指令あるいは開度指令を出力する。
【0026】
図2は、第1の実施形態に係る非常用軸受給油装置10の制御部100の構成を示すブロック図である。
【0027】
制御部100は、入力部110、記憶部120および演算部130を有する。給油設備1aによる軸受2への給油が確保できない場合に、制御部100が自動的に動作を開始するように、スイッチング部(図示しない)が備えられている。
【0028】
入力部110は、設定温度の設定値(設定温度)等を、外部入力として受け入れる。
【0029】
記憶部120は、外部入力として入力部110が受け入れた設定温度を収納、記憶する設定温度記憶部121を有する。設定温度は、たとえば、通常運転時の軸受2の温度レベルの値を用いてもよい。
【0030】
演算部130は、減算器131および制御演算部135を有する。減算器131は、設定温度記憶部121に収納されている設定温度と、フィードバック信号である軸受温度検出器16からの軸受温度を、入力として受け入れて、設定温度から軸受温度を減じて、温度偏差を、制御演算部135に出力する。制御演算部135は、たとえば、比例積分(P+I)制御回路である。
【0031】
なお、
図2では示していないが、給油設備1aによって軸受2への給油が正常に行われている状態において制御部100は待機状態となるが、この間、積分器がプラス側あるいはマイナス側に飽和する状態となると、非常用軸受給油装置10が動作すべきときに、その正常な起動が妨げられる。このため、制御部100の起動時には、制御演算部135が通常状態での給油量に見合う指令を出力するように構成されている。これは、たとえば、制御開始時の積分器の出力レベルを所定のレベルとするように設定することにより可能である。
【0032】
次に、以上のように構成された本実施形態に係る非常用軸受給油装置10の作用を説明する。
【0033】
給油設備1aによる軸受2への給油が確保できない状態(「非常状態」)が発生した場合に、スイッチ動作により、制御部100は自動的に制御状態に移行し非常用軸受給油装置10が動作する。ここで、非常状態を示す信号は、たとえば、給油ポンプ5のトリップ信号、軸受温度検出器16の出力の高信号等のOR信号である。なお、調節弁13の出口または入口に止め弁を設けている場合は、止め弁にも開信号が出力される。
【0034】
非常状態を示す信号が入力部110に入力されると、非常用ヘッドタンク11内の潤滑油11aは、非常用給油管12を経由して主給油管7との合流点12aに至り、さらに、主給油管7を経て、軸受2に導かれる。軸受2を潤滑しかつ冷却した潤滑油11aは、戻り油配管8を経由して主油タンク4に貯留される。
【0035】
軸受2の潤滑、冷却に必要な潤滑油11aの流量は、ほぼ、回転機器1の回転数に比例する。このため、回転機器1の回転数が低下すると、同じ潤滑油流量では軸受2の温度が設定温度より低くなる。このため、制御部100から調節弁13の開度を減少させる指令が出力され、潤滑油11aの流量を低下させる方向に制御される。
【0036】
ここで、回転機器1がタービンのような大型の回転機器の場合、回転数の低下に要する時間は、たとえば、30ないし40分あるいはそれ以上かかる場合がある。したがって、軸受温度検出器16および制御部100には、それほどの応答性は要求されない。
【0037】
軸受2の温度の変化に対して、軸受温度検出器16の応答性、制御部100の演算部130での遅れ等の存在により、調節弁13による潤滑油11aの流量の制御は遅れ時間を有しながら行われる。これは、回転数低下時の回転機器1の潤滑油流量の確保の観点からは安全側、すなわち、冷却を確実に確保する側である。
【0038】
以上のように、本実施形態によれば、給油設備1aによる軸受2への給油機能の喪失した非常時においても、軸受2の潤滑、冷却を確実に行うことができる。
【0039】
[第2の実施形態]
図3は、第2の実施形態に係る非常用軸受給油装置10の制御部100aの構成を示すブロック図である。本実施形態における制御部100aは、第1の実施形態における制御部100の変形である。
【0040】
本実施形態における制御部100aの記憶部120は、停止時回転数変化特性記憶部122をさらに有する。また、制御部100aの演算部130は、加算器132および開度換算部136をさらに有する。
【0041】
停止時回転数変化特性記憶部122は、回転機器1が通常運転状態から停止する際の、通常運転時の回転数から停止するまでの回転数の時間的な変化特性を記憶する。回転数の時間的な変化特性については、実機の測定データ等に基づいて得られた特性を外部から入力する等により与えられる。
【0042】
開度換算部136は、停止時回転数変化特性記憶部122から読み出した回転数の時間的な変化特性に基づいて、調節弁13の開度指令値を出力する。この際、軸受2に供給すべき潤滑油11aの流量は、回転機器1の回転数に比例すると近似してもよい。非常用ヘッドタンク11内の液面の変化が小さければ調節弁13にかかる差圧の変化は小さい。したがって、潤滑油11aの必要流量に対して、たとえば、調節弁13の開度-Cv値特性の逆関数により、必要流量に対する開度を得ることができる。
【0043】
加算器132は、先行信号としての開度換算部136からの開度指令値に、フィードバックループの偏差信号としての減算器131の出力を加えることにより、先行信号とその補正信号の合計値を、制御演算部135に出力する。
【0044】
本実施形態による制御部100aによれば、給油設備1aによる軸受2への給油が確保できない非常状態が発生すると、非常用軸受給油装置10に切り替わると同時に、先行信号により調節弁13がほぼ適切な開度となる。また、停止過程においても、停止時回転数変化特性記憶部122に記憶された回転数の時間的な変化特性に応じた開度となるような先行信号が主となり制御される。実際の回転数の変化が停止時回転数変化特性と異なることによる軸受の温度の上下に対しては、軸受温度検出器16からの信号によるフィードバック制御により補正され、実際の回転数変化に追従する制御がなされる。
【0045】
[第3の実施形態]
図4は、回転機器の軸受け廻りの系統において、第3の実施形態に係る非常用軸受給油装置10aの構成を示す系統図である。
【0046】
本実施形態は、第1の実施形態の変形である。非常用軸受給油装置10aは、第1の実施形態における軸受温度検出器16に代えて、軸受箱内温度検出器17を有する。
【0047】
軸受箱内温度検出器17は、温度測定対象部30としての軸受箱3内雰囲気の温度を検出し、軸受箱内温度信号を出力する。軸受箱内温度検出器17は、軸受2のメタルからの放熱による軸受箱3内雰囲気の温度を測定することにより、軸受2のメタル温度を間接的に監視する。すなわち、軸受2の温度の上昇、下降は、軸受箱3内雰囲気の温度の上昇、下降をもたらす。制御上は、この変化分が偏差信号の増減をもたらすことになる。したがって、制御ゲインおよび積分時間を調整することにより、第1の実施形態での軸受2の温度を用いる場合と同様の効果が得られる。
【0048】
[第4の実施形態]
図5は、回転機器1の軸受け廻りの系統において、第4の実施形態に係る非常用軸受給油装置10bの構成を示す系統図である。
【0049】
本実施形態は、第1の実施形態の変形である。非常用軸受給油装置10bは、第1の実施形態における軸受温度検出器16に代えて、戻り油温度検出器18を有する。
【0050】
戻り油温度検出器18は、温度測定対象部30としての戻り油配管8の温度を検出し、戻り油温度信号を出力する。戻り油温度検出器18は、戻り油温度を測定することにより、軸受2のメタル温度を間接的に監視する。すなわち、軸受2の温度の上昇、下降は、戻り油温度の上昇、下降をもたらす。制御上は、この変化分が偏差信号の増減をもたらすことになる。したがって、制御ゲインおよび積分時間を調整することにより、第1の実施形態での軸受2の温度を用いる場合と同様の効果が得られる。
【0051】
[第5の実施形態]
図6は、回転機器の軸受け廻りの系統において、第5の実施形態に係る非常用軸受給油装置10cの構成を示す系統図である。
【0052】
本実施形態は、第1の実施形態の変形である。第1の実施形態においては、それぞれの軸受2に対応して、非常用ヘッドタンク11がそれぞれ設けられている。一方、本実施形態においては、非常用軸受給油装置10cは、共通非常用ヘッドタンク11sを有する。
【0053】
それぞれの軸受2には、共通非常用ヘッドタンク11sからそれぞれの非常用給油管12を介して、潤滑油11aが供給される。また、それぞれの軸受2への非常用給油管12に設けられた調節弁13は、それぞれの軸受2に対応する制御部100により制御される。
【0054】
このように、一つの共通非常用ヘッドタンク11sに一体化することにより、全体としての余裕を、個別の非常用ヘッドタンク11の余裕の合計よりも小さな適正な値に抑えることができる。
【0055】
[第6の実施形態]
図7は、回転機器1の軸受け廻りの系統において、第6の実施形態に係る非常用軸受給油装置10dの構成を示す系統図である。
【0056】
本実施形態は、第1の実施形態の変形である。非常用軸受給油装置10dは、非常用給油管12に設けられた非常用給油温度検出器19を有する。非常用給油温度検出器19の出力は制御部100bに入力される。
【0057】
図8は、第6の実施形態に係る非常用軸受給油装置10dの制御部100bの構成を示すブロック図である。
【0058】
本実施形態における制御部100bは、
図2に示す第1の実施形態における制御部100の構成と以下の点で異なる。
【0059】
すなわち、記憶部120は、基準給油温度を収納、記憶する基準温度記憶部123をさらに有する。
【0060】
また、演算部130は、非常用給油温度検出器19からの非常用給油温度から基準温度記憶部123に記憶された基準給油温度を減じて給油温度偏差を出力する減算器133と、減算器131からの温度偏差信号と減算器133からの給油温度偏差とを加算する加算器134とを、さらに有する。
【0061】
以上のような構成に基づいて、本実施形態においては、基本的には、第1の実施形態と同様の制御動作を行うが、給油温度偏差の分を補正するように調節弁13が制御される。
【0062】
以上のように、本実施形態では、非常用給油温度が変動した場合にも、その変動を計算に入れた制御が可能である。
【0063】
[第7の実施形態]
図9は、回転機器1の軸受け廻りの系統において、第7の実施形態に係る非常用軸受給油装置10fの構成を示す系統図である。
【0064】
本実施形態は、第1の実施形態の変形である。本実施形態による非常用軸受給油装置10fは、第1の実施形態における調節弁13に代えて、温度感知型調節弁20を有する。
【0065】
温度感知型調節弁20は、弁本体21および弁本体21に取り付けられたポジショナ22、並びに、軸受箱3内に設けられた温度検知部23および変位発信器24を有する。
【0066】
ポジショナ22は、外部からの入力により弁本体21を外部からの入力に見合った開度に動作させるサーボ機構の一部として機能する。
【0067】
温度検知部23は、たとえばバイメタルであり、設置されている軸受箱3内の雰囲気温度に対応して変形する。変位発信器24は、温度検知部23の変形を信号変換して、ポジショナ22に出力する。なお、主油タンク4からの通常用の潤滑油4aの給油がなされている場合は、ポジショナ22には全閉信号が入り、非常時のみに変位発信器24からの信号がポジショナ22に出力されるように図示しないスイッチング部が設けられている。
【0068】
通常運転時において、軸受2の温度が正常な温度でありその際の軸受箱3内の温度をtn、潤滑油流量をWとする。温度感知型調節弁20は、温度検知部23の周囲温度がtnのときに、弁本体21が潤滑油の流量Wを流す開度となるように調整されている。
【0069】
このように構成された本実施形態による非常用軸受給油装置10fでは、非常状態が生じた直後は、温度検知部23の周囲温度がほぼtnであることから、まず通常運転時と同様の流量の非常用潤滑油が流れる開度まで温度感知型調節弁20の弁本体21が開く。
【0070】
その後、回転機器1の回転数が低下すると、非常用潤滑油の必要流量が低下する。実際に流れる非常用潤滑油の流量が必要流量を上回っている場合は、軸受箱3内の温度が低下するので、温度検知部23は、弁本体21が閉まる側に変形する。逆に、実際に流れる非常用潤滑油の流量が必要流量より少ない場合は、軸受箱3内の温度が上昇するので、温度検知部23は、弁本体21が開く側に変形する。
【0071】
このようにして、本実施形態による非常用軸受給油装置10fでは、温度感知型調節弁20が軸受箱3内の温度に応じて、非常用潤滑油の流量を自動的に制御することができる。
【0072】
以上、説明した実施形態によれば、回転機器の停止までの軸受への給油に必要な総給油量の適正化が可能となる。
【0073】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。それぞれの実施形態の特徴を組み合わせてもよい。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0074】
1…回転機器、1a…給油設備、2…軸受、3…軸受箱、4…主油タンク、5…給油ポンプ、6…油冷却器、7…主給油管、8…戻り油配管、10、10a、10b、10c、10d、10f…非常用軸受給油装置、11…非常用ヘッドタンク、11a…潤滑油、11s…共通非常用ヘッドタンク、12…非常用給油管、12a…合流点、13…調節弁、14…非常用給油管逆止弁、15…主給油管逆止弁、16…軸受温度検出器、17…軸受箱内温度検出器、18…戻り油温度検出器、19…非常用給油温度検出器、20…温度感知型調節弁、21…弁本体、22…ポジショナ、23…温度検知部、24…変位発信器、30…温度測定対象部、100、100a、100b…制御部、110…入力部、120…記憶部、121…設定温度記憶部、122…停止時回転数変化特性記憶部、123…基準温度記憶部、130…演算部、131…減算器、132…加算器、133…減算器、134…加算器、135…制御演算部、136…開度換算部、140…出力部