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特開2023-139916導電性部材の板厚評価システムと方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139916
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】導電性部材の板厚評価システムと方法
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/06 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
G01B7/06 M
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045691
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000198318
【氏名又は名称】株式会社IHI検査計測
(71)【出願人】
【識別番号】504147254
【氏名又は名称】国立大学法人愛媛大学
(74)【代理人】
【識別番号】100097515
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 実
(74)【代理人】
【識別番号】100136700
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 俊博
(72)【発明者】
【氏名】前角 貴弘
(72)【発明者】
【氏名】大森 征一
(72)【発明者】
【氏名】三浦 かさね
(72)【発明者】
【氏名】藤原 貢
(72)【発明者】
【氏名】水上 孝一
【テーマコード(参考)】
2F063
【Fターム(参考)】
2F063AA16
2F063BB02
2F063BC05
2F063CA10
2F063DA01
2F063DA05
2F063DA24
2F063GA08
2F063LA13
(57)【要約】
【課題】表面に付着している非導電性異物(例えば塗膜、錆、貝殻など)を除去することなく、導電性部材の表面とプローブとの間隔(リフトオフ)が変化しても導電性部材の板厚を測定することができる導電性部材の板厚評価手段を提供する。
【解決手段】板厚が既知のサンプルを用いて、パルス電流の印加後の経過時間tと検出電圧Vとの第1関係(V=f1(t))と、高位しきい値Vhと低位しきい値Vlの間に含まれる検出電圧Vの積分値Sとサンプルの板厚Tとの第2関係(T=f2(S))を求める。次いで、板厚が未知の試験体を用いて第1関係(V=f1(t))を記録し、高位しきい値Vhと低位しきい値Vlを用いて、その間に含まれる積分値Sを求め、第2関係(T=f2(S))から板厚を求める。
【選択図】図7

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に非導電性の異物が付着した導電性の試験体の板厚を評価する導電性部材の板厚評価システムであって、
中空筒形の励磁コイルと、前記励磁コイルの内側に同軸に配置された検出コイルと、を有するプローブと、
前記励磁コイルに矩形のパルス電流を印加するパルス電流発生器と、
前記プローブの軸心を前記試験体の表面に直交させて前記異物の表面に位置決めし、前記励磁コイルに前記パルス電流を印加し、印加後に前記検出コイルに生じる検出電圧Vをデータ解析するデータ解析装置と、を備え、
前記データ解析装置は、
前記印加からの経過時間tと前記検出電圧Vとの第1関係(V=f1(t))を記録し、
前記検出電圧の高位しきい値Vhと低位しきい値Vlとを用いて、その間に含まれる前記検出電圧Vの積分値Sを求め、
板厚が既知のサンプルを用いて、前記積分値Sと前記サンプルの板厚Tとの第2関係(T=f2(S))を求め、
板厚が未知の前記試験体を用いて、前記積分値Sを求め、前記第2関係から前記板厚を求める、導電性部材の板厚評価システム。
【請求項2】
前記検出コイルは、軸方向に間隔を隔てた第1検出コイルと第2検出コイルからなり、
前記検出電圧Vは、前記第1検出コイルと前記第2検出コイルの電圧の差である、請求項1に記載の導電性部材の板厚評価システム。
【請求項3】
前記高位しきい値Vhと前記低位しきい値Vlは、前記第2関係が前記プローブのリフトオフ値の影響を受けないように、予め最適化されている、請求項1に記載の導電性部材の板厚評価システム。
【請求項4】
前記パルス電流発生器は、矩形の前記パルス電流を一定の周期で発生するファンクションジェネレータと、発生した前記パルス電流を増幅し前記励磁コイルに流すパワーアンプとを有し、
前記データ解析装置は、前記検出電圧をAD変換するオシロスコープと、AD変換後の前記検出電圧から前記第1関係、前記積分値、及び前記板厚を求める演算処理器とを有する、請求項1に記載の導電性部材の板厚評価システム。
【請求項5】
表面に非導電性の異物が付着した導電性の試験体の板厚を評価する導電性部材の板厚評価方法であって、
(A)中空筒形の励磁コイルと前記励磁コイルの内側に同軸に配置された検出コイルとを有するプローブの軸心を前記試験体の表面に直交させて前記異物の表面に位置決めし、前記励磁コイルに矩形のパルス電流を印加するステップと、
(B)前記印加からの経過時間tと、前記検出コイルに生じる検出電圧Vとの第1関係(V=f1(t))を記録するステップと、
(C)前記検出電圧の高位しきい値Vhと低位しきい値Vlとを用いて、その間に含まれる前記検出電圧Vの積分値Sを求めるステップと、を有し、
板厚が既知のサンプルを用いて、前記(A)~(C)のステップを実施して、前記積分値Sと前記サンプルの板厚Tとの第2関係(T=f2(S))を求め、
板厚が未知の前記試験体を用いて、前記(A)~(C)のステップを実施して、前記積分値Sを求め、前記第2関係から前記板厚を求める、導電性部材の板厚評価方法。
【請求項6】
前記板厚が既知の前記サンプルを用いて、前記第2関係が前記プローブのリフトオフ値の影響を受けないように前記高位しきい値Vhと前記低位しきい値Vlを最適化する、請求項5に記載の導電性部材の板厚評価方法。
【請求項7】
前記高位しきい値Vhに相当する前記経過時間を高位経過時間t1と、前記低位しきい値Vlに相当する前記経過時間を低位経過時間t2と、定義し、
前記積分値Sは、第3関係(V=f3(t)=f1(t)-Vl)を高位経過時間t1から低位経過時間t2まで積分して求める、請求項5に記載の導電性部材の板厚評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パルス渦電流を用いた導電性部材の板厚評価手段に関する。
【背景技術】
【0002】
導電性部材の板厚評価には、従来から超音波探傷試験が主に用いられている。
しかし、超音波探傷試験では導電性部材(例えば鋼材)の表面の塗膜、錆、貝殻などを除去しなければならない。
そこで、表面の塗膜、錆、貝殻などを除去せずに、それらの上から板厚を評価する手段としてパルス渦電流を用いることが、提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特表2006-510892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の「壁厚の監視」では、検査場所に対して所定の位置にプローブを配置し、送信器手段を作動させる。これにより物体中に過渡的な渦電流を誘導させて受信器手段により信号を記録する第1ステップと、この信号の各々から検査時間に関係する壁厚を求める第2ステップとを有する。
【0005】
しかし、特許文献1の方法には、以下の問題点があった。
(1)第1ステップにおいて、検査場所の上方の特定位置に渦電流プローブを固定的に取り付けるか、或いは、別法として、各測定の前に所定の位置にプローブを配置している。そのため、導電性部材の表面とプローブとの間隔(以下、リフトオフ)は一定であり、表面の塗膜、錆、貝殻などでリフトオフが変動する場合には適用できない。
(2)第2ステップにおいて、初期厚さは、「例えば超音波測定などの独立した絶対測定技術を用いて絶対的に明確に知られる。」としている。すなわち、従来の超音波探傷試験により初期厚さを求める必要があり、そのためには、表面の塗膜、錆、貝殻などを除去する必要がある。
【0006】
試験体の表面に非導電性異物(例えば塗膜、錆、貝殻など)が付着している場合、異物の表面にプローブを位置決めしても試験体の表面とプローブとの間に隙間(リフトオフ)が生じる。
この状態で励磁コイルにパルス電流を印加し、試験体内に生じた渦電流により検出コイルに生じる検出電圧を検出すると、検出電圧の時間変化は、板厚だけでなくリフトオフの影響を受ける。
またリフトオフ値は塗膜のむらや錆、貝殻の厚さで大きく変化するため、リフトオフ値を用いた補正は、特に測定箇所が多い場合、実質的に不可能だった。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の目的は、表面に付着している非導電性異物(塗膜、錆、貝殻など)を除去することなく、導電性部材の表面とプローブとの間隔(リフトオフ)が変化しても導電性部材の板厚を測定することができる導電性部材の板厚評価手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、表面に非導電性の異物が付着した導電性の試験体の板厚を評価する導電性部材の板厚評価システムであって、
中空筒形の励磁コイルと、前記励磁コイルの内側に同軸に配置された検出コイルと、を有するプローブと、
前記励磁コイルに矩形のパルス電流を印加するパルス電流発生器と、
前記プローブの軸心を前記試験体の表面に直交させて前記異物の表面に位置決めし、前記励磁コイルに前記パルス電流を印加し、印加後に前記検出コイルに生じる検出電圧Vをデータ解析するデータ解析装置と、を備え、
前記データ解析装置は、
前記印加からの経過時間tと前記検出電圧Vとの第1関係(V=f1(t))を記録し、
前記検出電圧の高位しきい値Vhと低位しきい値Vlとを用いて、その間に含まれる前記検出電圧Vの積分値Sを求め、
板厚が既知のサンプルを用いて、前記積分値Sと前記サンプルの板厚Tとの第2関係(T=f2(S))を求め、
板厚が未知の前記試験体を用いて、前記積分値Sを求め、前記第2関係から前記板厚を求める、導電性部材の板厚評価システムが提供される。
【0009】
また本発明によれば、表面に非導電性の異物が付着した導電性の試験体の板厚を評価する導電性部材の板厚評価方法であって、
(A)中空筒形の励磁コイルと前記励磁コイルの内側に同軸に配置された検出コイルとを有するプローブの軸心を前記試験体の表面に直交させて前記異物の表面に位置決めし、前記励磁コイルに矩形のパルス電流を印加するステップと、
(B)前記印加からの経過時間tと、前記検出コイルに生じる検出電圧Vとの第1関係(V=f1(t))を記録するステップと、
(C)前記検出電圧の高位しきい値Vhと低位しきい値Vlとを用いて、その間に含まれる前記検出電圧Vの積分値Sを求めるステップと、を有し、
板厚が既知のサンプルを用いて、前記(A)~(C)のステップを実施して、前記積分値Sと前記サンプルの板厚Tとの第2関係(T=f2(S))を求め、
板厚が未知の前記試験体を用いて、前記(A)~(C)のステップを実施して、前記積分値Sを求め、前記第2関係から前記板厚を求める、導電性部材の板厚評価方法が提供される。
【発明の効果】
【0010】
本願発明者等は、リフトオフ値を変化させて、パルス渦電流による検出電圧の第1関係(V=f1(t))を求めた。
また、発明者等は、第1関係の曲線の高位しきい値Vhと低位しきい値Vlの間に挟まれる検出電圧Vの面積(積分値S)が、リフトオフ値の影響をほとんど受けず、かつ板厚との相関が強い(ほぼ正比例する)ことを新たに見出した。
【0011】
本発明は、上述した新規の知見に基づくものである。
すなわち本発明によれば、板厚が既知のサンプルを用いて、パルス電流の印加後の経過時間tと検出電圧Vとの第1関係(V=f1(t))と、積分値Sとサンプルの板厚Tとの第2関係(T=f2(S))を求める。
次いで、板厚が未知の試験体を用いて第1関係(V=f1(t))を記録し、高位しきい値Vhと低位しきい値Vlを用いて、その間に含まれる積分値Sを求め、第2関係(T=f2(S))から板厚を求める。
【0012】
従って、表面に付着している非導電性異物(例えば塗膜、錆、貝殻など)を除去することなく、導電性部材の表面とプローブとの間隔(リフトオフ値)が変化しても導電性部材の板厚を測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明による板厚評価システムの説明図である。
図2】パルス電流発生器による印加電圧と検出コイルに生じる検出電圧Vの関係を示す図である。
図3】印加時点からの経過時間tと検出電圧Vとの関係を示す実施例である。
図4】データ解析装置により検出電圧Vの高位しきい値Vhと低位しきい値Vlとを用いて、その間に含まれる検出電圧Vの積分値Sを求める計算方法を示す模式図である。
図5】高位しきい値Vhを変化させた第2関係(T=f2(S))の例である。
図6】低位しきい値Vlを変化させた第2関係(T=f2(S))の例である。
図7】本発明による導電性部材の板厚評価方法を示す全体フロー図である。
図8】板厚が既知のサンプルを用いて得られた第2関係(T=f2(S))を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい実施形態を、図面を参照して説明する。なお各図において、共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明は省略する。
【0015】
図1は、本発明による板厚評価システム100の説明図である。この図において、(A)は全体構成図、(B)はプローブ10の側面図である。
【0016】
図1(A)において、板厚評価システム100は、プローブ10、パルス電流発生器20、及び、データ解析装置30を備える。
【0017】
プローブ10は、励磁コイル12と検出コイル14を有する。
励磁コイル12は、中空筒形であり、その軸心を試験体1の表面に垂直に位置決めして試験体1の内部に渦電流を発生させるようになっている。中空筒形は、この例では中空円筒形であるが、四角形等、その他の形状であってもよい。
【0018】
検出コイル14は、この例では軸方向に間隔を隔てた第1検出コイル14aと第2検出コイル14bからなる。
検出コイル14は、励磁コイル12により試験体1の内部に発生した渦電流をそれぞれ検出する。
本発明では、検出コイル14の検出電圧Vは、第1検出コイル12aと第2検出コイル12bの電圧の差である。すなわち、第1検出コイル12aと第2検出コイル12bの電圧差を検出電圧Vとして用いることで、励磁コイル12の磁場の影響を低減している。
【0019】
図1(A)において、パルス電流発生器20は、励磁コイル12に矩形のパルス電流を印加する。
この例において、パルス電流発生器20は、ファンクションジェネレータ22とパワーアンプ24を有する。ファンクションジェネレータ22は、矩形のパルス電流を一定の周期で発生する。パワーアンプ24は、発生したパルス電流を増幅し励磁コイル12に流す。
矩形のパルス電流の周波数は、好ましくは10Hzである。
後述する実施例では、ファンクションジェネレータ22から矩形のパルス(10Hz,デューティ比50%、Vp-p±0.53V)で印加した電流を、パワーアンプ24で20倍に増幅し、励磁コイル12に流している。
【0020】
データ解析装置30は、検出コイル14に生じる検出電圧をデータ解析する。
すなわち、プローブ10の軸心を試験体1の表面に直交して異物の表面に位置決めし、励磁コイル12にパルス電流を印加し、データ解析装置30により、印加後に検出コイル14に生じる電圧をデータ解析する。
異物の表面に位置決めした際の、試験体1の表面1aとプローブ10の下端10aとの距離がリフトオフ値loである。プローブ10の下端10aは、この例では、励磁コイル12の下端と一致する。
【0021】
図1(A)において、データ解析装置30は、オシロスコープ32と演算処理器34を有する。オシロスコープ32は、検出コイル14で検出した複数周期分の検出電圧をAD変換する。演算処理器34は、例えばコンピュータ(PC)であり、AD変換後の複数周期分の検出電圧を平均化処理する。平均化処理は、例えば加算平均20回、移動平均1000回であるが、試験データ波形で異なる平均化処理の回数であってもよい。
さらに、データ解析装置30は、以下の機能を有する。
(1)パルス電流の印加からの経過時間tと検出電圧Vとの第1関係(V=f1(t))を記録(記憶)する。この記録は、データ解析装置30を構成する演算処理器34(例えばコンピュータ)の記憶装置に記憶することが好ましい。
(2)検出電圧Vの高位しきい値Vhと低位しきい値Vlとを用いて、その間に含まれる検出電圧Vの積分値Sを求める。
(3)板厚が既知のサンプルを用いて、積分値Sとサンプルの板厚Tとの第2関係(T=f2(S))を求める。
(4)板厚が未知の試験体を用いて、積分値Sを求め、第2関係から板厚を求める。
【0022】
図2は、パルス電流の印加による励磁コイル12に生じる印加電圧Vaと検出コイル14に生じる検出電圧Vとの関係を示す図である。
パルス電流発生器20による矩形のパルス電流は、この例では10Hzであり、印加電圧Vaは0.05秒間一定電圧を維持し、次いで電圧0まで急減し、0.05秒間電圧0を維持する。すなわち、電圧0まで急減する時点で、励磁コイル12に矩形のパルス電流を印加する。
検出コイル14に生じる検出電圧Vは、印加電圧Va(パルス電流)が0に急減したパルス電流の印加時点から経過時間tを計測する。検出電圧Vの計測時間は、次に印加電圧Vaが上昇するまでの最大0.05秒間である。
【0023】
(実施例1)
図3は、印加時点からの経過時間tと検出電圧Vとの関係を示す実施例である。
板厚が2,3,4,5mmの試験片(サンプル)を用い、非導電性材料を間に挟んでリフトオフ値loを0,5,10mmに変化させて、データ解析装置30によりパルス電流の印加からの経過時間tと検出電圧Vとの第1関係(V=f1(t))を記録した。
図3において、(A)はリフトオフ値loが同じで板厚Tが相違する場合、(B)はリフトオフ値loが相違し板厚Tが同じ場合を示している。
【0024】
図3(A)において、リフトオフ値loは同一(この例で5mm)であり、板厚Tの相違(この例で2,3,4,5mm)により検出電圧Vが大きく変化することがわかる。
また、図3(B)において、板厚Tが同一(この例で3mm)であっても、リフトオフ値loが相違する(この例で0,5,10mm)と、検出電圧Vも大きく変化することがわかる。
従って、上述したように検出電圧Vの時間変化は、板厚だけでなくリフトオフ値loの影響を受けるため、図3(A)(B)に示す第1関係(V=f1(t))が得られても、これから板厚Tを求めることは、困難であり実質的に不可能であった。
【0025】
図4は、データ解析装置30により検出電圧Vの高位しきい値Vhと低位しきい値Vlとを用いて、その間に含まれる検出電圧Vの積分値Sを求める計算方法を示す模式図である。
高位しきい値Vhと低位しきい値Vlは、予め任意に設定する。
なお、板厚が既知のサンプルを用いて、第2関係(後述する)がプローブのリフトオフ値loの影響を受けないように高位しきい値Vhと低位しきい値Vlを最適化する、ことが好ましい。
【0026】
図4において、高位しきい値Vhに相当する経過時間を高位経過時間t1と、低位しきい値Vlに相当する経過時間を低位経過時間t2と定義する。
検出電圧Vの積分値Sは、第3関係(V=f3(t)=f1(t)-Vl)を高位経過時間t1から低位経過時間t2まで積分して求めることができる。
【0027】
(実施例2)
実施例1の結果を用いて、積分値Sとサンプルの板厚Tとの第2関係(T=f2(S))を求めた。
図5は、高位しきい値Vhを変化させた例であり、(A)は高位しきい値Vhが19.5mV、(B)は15mVの場合である。その他に高位しきい値Vhが19mV,18mVの場合も同時に実施した。なお、低位しきい値Vlは、すべて5mVである。
図6は、低位しきい値Vlを変化させた例であり、(A)は低位しきい値Vlが15mV、(B)は4mVの場合である。その他に低位しきい値Vlが10mV,5mVの場合も同時に実施した。なお、高位しきい値Vhは、すべて19mVである。
【0028】
図5図6の結果から、すべての例において、第1関係の曲線の高位しきい値Vhと低位しきい値Vlの間に挟まれる検出電圧Vの面積(積分値S)が、リフトオフ値loの影響をほとんど受けず、かつ板厚との相関が強い(ほぼ正比例する)ことがわかる。
また、図5図6の結果から、板厚が既知のサンプルを用いて、第2関係がプローブのリフトオフ値loの影響を受けないように高位しきい値Vhと低位しきい値Vlを最適化することができる。
この例では、高位しきい値Vhと低位しきい値Vlの最適値は、19mVと5mVであった。
【0029】
図7は、本発明による導電性部材の板厚評価方法を示す全体フロー図である。
この図において、板厚評価方法は、S1~S10の各ステップ(工程)を有する。
この方法は、板厚が既知のサンプルを用いて実施するS1~S5のステップと、板厚が未知の試験体を用いて実施するS6~S10のステップとからなる。
【0030】
ステップS2,S7において、中空筒形の励磁コイル12と励磁コイルの内側に同軸に配置された検出コイル14とを有するプローブ10の軸心を試験体(又はサンプル)の表面に直交させて異物の表面に位置決めし、励磁コイル12に矩形のパルス電流を印加する。
ステップS3,S8において、パルス電流の印加からの経過時間tと、検出コイル14に生じる検出電圧Vとの第1関係(V=f1(t))を記録する。
ステップS4,S9において、検出電圧Vの高位しきい値Vhと低位しきい値Vlとを用いて、その間に含まれる検出電圧Vの積分値Sを求める。
【0031】
板厚が既知のサンプルを用いて実施するS1~S5では、ステップS5において、積分値Sとサンプルの板厚Tとの第2関係(T=f2(S))を求める。
板厚が未知の試験体を用いて実施するS6~S10では、ステップS10において、第2関係から試験体の板厚を求める。
【0032】
(実施例3)
図8は、板厚が既知のサンプルを用いて得られた第2関係(T=f2(S))を示す図である。
この例では、高位しきい値Vhと低位しきい値Vlの最適値を、実施例2で得られた19mVと5mVとしている。
この図から、横軸の積分値Sが、リフトオフ値loの影響をほとんど受けず、かつ縦軸の板厚との相関が強い(ほぼ正比例する)ことがわかる。
従って、板厚が未知の試験体を用いて実施するS6~S10により、リフトオフ値loの影響をほとんど受けず、第2関係から試験体の板厚を求めることができることがわかる。
【0033】
上述したように本願発明者等は、第1関係(V=f1(t))の曲線の高位しきい値Vhと低位しきい値Vlの間に挟まれる検出電圧Vの面積(積分値S)が、リフトオフ値loの影響をほとんど受けず、かつ板厚との相関が強い(ほぼ正比例する)ことを新たに見出した。本発明は、この新規の知見に基づくものである。
【0034】
すなわち本発明によれば、板厚が既知のサンプルを用いて、パルス電流の印加後の経過時間tと検出電圧Vとの第1関係(V=f1(t))と、積分値Sとサンプルの板厚Tとの第2関係(T=f2(S))を求める。
次いで、板厚が未知の試験体を用いて第1関係(V=f1(t))を記録し、高位しきい値Vhと低位しきい値Vlを用いて、その間に含まれる積分値Sを求め、第2関係(T=f2(S))から板厚を求める。
【0035】
従って、表面に付着している非導電性異物(例えば塗膜、錆、貝殻など)を除去することなく、導電性部材の表面とプローブとの間隔(リフトオフ値lo)が変化しても導電性部材の板厚を測定することができる。
【0036】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々に変更することができることは勿論である。
【符号の説明】
【0037】
lo リフトオフ値、S 積分値、T 板厚、t 経過時間、
t1 高位経過時間、t2 低位経過時間、V 検出電圧、
Va 印加電圧、Vh 高位しきい値、Vl 低位しきい値、
1 試験体、1a 表面、10 プローブ、10a 下端、
12 励磁コイル、14 検出コイル、14a 第1検出コイル、
14b 第2検出コイル、20 パルス電流発生器、
22 ファンクションジェネレータ、24 パワーアンプ、
30 データ解析装置、32 オシロスコープ、
34 演算処理器(コンピュータ)、100 板厚評価システム
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8