(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139973
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】プリプレグシート、プリプレグシートの製造方法、積層シート及びコンクリートを補修又は補強する方法
(51)【国際特許分類】
C08J 5/24 20060101AFI20230927BHJP
C08F 290/06 20060101ALI20230927BHJP
C08F 283/01 20060101ALI20230927BHJP
E04G 23/02 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C08J5/24
C08F290/06
C08F283/01
E04G23/02 E
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045786
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000230364
【氏名又は名称】日本ユピカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000133294
【氏名又は名称】株式会社ダイクレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002789
【氏名又は名称】弁理士法人IPX
(72)【発明者】
【氏名】王 鵬飛
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓之
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 靖
【テーマコード(参考)】
2E176
4F072
4J127
【Fターム(参考)】
2E176AA01
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4J127FA03
4J127FA48
(57)【要約】
【課題】シート硬化後のコンクリート構造物の強度を向上させることができるプリプレグシート等を提供すること。
【解決手段】本発明の一態様によれば、コンクリートの補修又は補強に用いられるプリプレグシートが提供される。このプリプレグシートは、繊維基材に光硬化性組成物を含浸させてなるものである。光硬化性組成物は、ラジカル重合性化合物(A)と、光ラジカル発生剤(B)とを含み、かつ、25℃で測定したチキソトロピーインデックスTIが2以上である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートの補修又は補強に用いられるプリプレグシートであって、
前記プリプレグシートは、繊維基材に光硬化性組成物を含浸させてなるものであり、
前記光硬化性組成物は、ラジカル重合性化合物(A)と、光ラジカル発生剤(B)とを含み、かつ、25℃で測定したチキソトロピーインデックスTIが2以上である、プリプレグシート。
【請求項2】
請求項1に記載のプリプレグシートにおいて、
前記光硬化性組成物は、さらにシリカ(C)を含む、プリプレグシート。
【請求項3】
請求項2に記載のプリプレグシートにおいて、
前記光硬化性組成物における前記シリカ(C)の含有量は、前記ラジカル重合性化合物(A)の含有量を100質量部としたときに0.5質量部以上10質量部以下である、プリプレグシート。
【請求項4】
請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載のプリプレグシートにおいて、
前記光硬化性組成物は、さらにシランカップリング剤(D)を含む、プリプレグシート。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載のプリプレグシートにおいて、
前記ラジカル重合性化合物(A)は、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂からなる群から選択される1以上の成分を含む、プリプレグシート。
【請求項6】
請求項1ないし請求項5のいずれか1項に記載のプリプレグシートにおいて、
前記ラジカル重合性化合物(A)は、ラジカル重合性モノマーを含む、プリプレグシート。
【請求項7】
請求項1ないし請求項6のいずれか1項に記載のプリプレグシートにおいて、
前記光ラジカル発生剤(B)は、紫外線領域に吸収ピークがある化合物を含む、プリプレグシート。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載のプリプレグシートにおいて、
前記光硬化性組成物の25℃での粘度が、2Pa・s以上180Pa・s以下である、プリプレグシート。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載のプリプレグシートにおいて、
前記光硬化性組成物を硬化することで得られる硬化物の屈折率が1.52以上1.58以下である、プリプレグシート。
【請求項10】
請求項1ないし請求項9のいずれか1項に記載のプリプレグシートにおいて、
前記繊維基材が、ガラス繊維である、プリプレグシート。
【請求項11】
請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載のプリプレグシートにおいて、
前記繊維基材を構成する材料の屈折率と、前記光硬化性組成物を硬化することで得られる硬化物の屈折率との差の絶対値が0.1以下である、プリプレグシート。
【請求項12】
請求項1ないし請求項11に記載のプリプレグシートを製造する方法であって、
繊維基材と、光硬化性組成物とを準備することと、
前記繊維基材に前記光硬化性組成物を含浸させることと、を備え、
前記光硬化性組成物は、ラジカル重合性化合物(A)と、光ラジカル発生剤(B)とを含み、かつ、25℃で測定したチキソトロピーインデックスTIが2以上である、方法。
【請求項13】
積層シートであって、
請求項1ないし請求項11に記載のプリプレグシートと、
前記プリプレグシートの少なくとも一方の面に配された、透光性を有するシートと、
を備える、積層シート。
【請求項14】
コンクリートを補修又は補強する方法であって、
請求項13に記載の積層シートを準備することと、
補修又は補強するコンクリートの面に対して、前記積層シートに備えられる前記プリプレグシートを対向するように配置し、前記コンクリートの面に前記プリプレグシートをラミネートすることと、
透光性を有する前記シートを介して、前記プリプレグシートに露光することと、
を備える、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プリプレグシート、プリプレグシートの製造方法、積層シート及びコンクリートを補修又は補強する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、建築物などの補修を行う際に、光硬化性を有する成分を含浸させたシートが用いられてきた。たとえば、特許文献1には作業者の技能レベルによらず質の高い作業を行うことができるプリプレグシートとして、未硬化部分を構成する領域と硬化部分を構成する領域とを含むシートが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、本発明者らが検討した結果、コンクリートの補修等を行う従来のシートにおいては、シート硬化後のコンクリート構造物の強度についてまだ改善の余地があることが分かってきた。とりわけコンクリート構造物は施工上の問題や、経年劣化、損傷などの原因によって、コンクリート片が剥落する事故が起こりうるため、上述したようなシート硬化後のコンクリート構造物の強度を向上させることができるシートの開発要望は高い。
【0005】
本発明では上記事情に鑑み、シート硬化後のコンクリート構造物の強度を向上させることができるプリプレグシート等を提供することとした。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によれば、コンクリートの補修又は補強に用いられるプリプレグシートが提供される。このプリプレグシートは、繊維基材に光硬化性組成物を含浸させてなるものである。光硬化性組成物は、ラジカル重合性化合物(A)と、光ラジカル発生剤(B)とを含み、かつ、25℃で測定したチキソトロピーインデックスTIが2以上である。
【0007】
上記態様によれば、シート硬化後のコンクリート構造物の強度を向上させることができるプリプレグシート等が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態にかかるプリプレグシートを備える積層シートの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に示す実施形態中で示した各種特徴事項は、互いに組み合わせ可能である。また、本明細書において「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」及び「メタアクリレート」の双方を包含する概念を表す。また、本明細書中の「~」はとくに断りがなければ以上から以下を表す。
【0010】
[プリプレグシート]
まず、本実施形態のプリプレグシートについて説明する。本実施形態のプリプレグシートは以下に示されるものである。
コンクリートの補修又は補強に用いられるプリプレグシートであって、
前記プリプレグシートは、繊維基材に光硬化性組成物を含浸させてなるものであり、
前記光硬化性組成物は、ラジカル重合性化合物(A)と、光ラジカル発生剤(B)とを含み、かつ、25℃で測定したチキソトロピーインデックスTIが2以上である、プリプレグシート。
【0011】
すなわち、本実施形態のプリプレグシートはコンクリートの補修や補強を行う際に用いられるものであり、典型的には、コンクリートの剥落を防止するように、コンクリート材料を強化等するために用いられる。
【0012】
また、本実施形態のプリプレグシートは、繊維基材に対して、所定の成分を含み、所定の物性を満足する光硬化性組成物を含浸させてなるものである。以下、プリプレグシートを構成する材料について説明する。
【0013】
<繊維基材>
プリプレグシート中の繊維基材は公知のものを採用することができ、たとえば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ザイロン繊維、ビニロン繊維、ポリエチレン繊維、ボロン繊維、バサルト繊維、セルロース等を用いることができる。また、強化繊維の表面処理剤、形状(一方向、クロス、NCF、不織布等)についても適宜設定の上、使用することができる。
【0014】
この繊維基材の中でも、本実施形態のプリプレグシートにおいては、繊維基材が、ガラス繊維である場合が好ましい。このような態様を採用することにより、硬化後のプリプレグシートの強度や透明性等を高い水準とすることができる。
【0015】
本実施形態のプリプレグシート全体における繊維基材の含有割合は、たとえば10質量%~90質量%とすることができ、機械特性と成形性の面から、好ましくは20質量%~80重量%とすることができる。
【0016】
<光硬化性組成物>
続いて、本実施形態のプリプレグシートに使用される光硬化性組成物について、特性や含まれる成分について説明する。
【0017】
まず、本実施形態における光硬化性組成物は、25℃で測定したチキソトロピーインデックスTIが2以上であるという特徴を有する。
すなわち、このように光硬化性組成物のチキソトロピーインデックスTIを高い水準とすることにより、
1)光硬化性組成物を繊維基材内で安定化させ、また、
2)コンクリートに対する施工を行うときに、外力(脱泡ローラーでの貼り付けや脱泡操作)をかけることで粘度が低くなり、コンクリートに浸透しやすく、接着性を高くなる、
との効果を奏することとなる。
つまり、上述のような効果が相俟って、コンクリートの補修や補強を行うに際して安定した作業を行うことができ、シート硬化後のコンクリート構造物の強度を向上させることができるプリプレグシート等が達成できるといえる。
【0018】
また、このチキソトロピーインデックスTIは、典型的には「JIS K 6901」の5.6項に記載の方法に準拠して測定することができ、
TI = VISL(低い回転数の粘度)/VISH(高い回転数の粘度) ・・・(1)
の式に従い計算することができる。
なお、この「低い回転数」と「高い回転数」との比は1:10にて設定され、通常、VISHは20rpm~80rpmの範囲で設定される。
【0019】
光硬化性組成物の25℃で測定したチキソトロピーインデックスTIは、2.3以上であることが好ましく、2.5以上であることがより好ましく、2.8以上であることがさらに好ましく、3以上であることがいっそうに好ましく、3.2以上であることがとりわけ好ましく、3.5以上であることが特に好ましい。このようにチキソトロピーインデックスTIを設定することにより、上述した効果をより安定的に発揮することができる。
光硬化性組成物の25℃で測定したチキソトロピーインデックスTIの上限値はとくに制限されるものではないが、たとえば10以下や8以下に設定される。
【0020】
なお、このチキソトロピーインデックスTIは、たとえば光硬化性組成物に含まれるラジカル重合性化合物(A)の種類を適切に選択することで調整される。その他、必要に応じてシリカ(C)を適切な量含ませたりすることで調整しやすくなる。その他、適切な揺変剤や揺変助剤を選択して光硬化性組成物に配合することで調整することでも、上述のチキソトロピーインデックスTIの値に調整することができる。
【0021】
また、本実施形態の光硬化性組成物の25℃での粘度は、たとえば2Pa・s以上180Pa・s以下の範囲に設定されていることが好ましい。すなわち、このような粘度範囲に設定されることにより、光硬化性組成物を繊維基材に保持させやすくするとともに、プリプレグシート作製時における加工性を安定させることができる。なお、25℃での粘度は公知の手法により測定することができる。
また、光硬化性組成物の25℃での粘度の下限値は、3Pa・s以上であることがより好ましく、4Pa・s以上であることがさらに好ましく、5Pa・s以上であることがいっそう好ましく、10Pa・s以上であることがとりわけ好ましい。また、光硬化性組成物の25℃での粘度の上限値は、160Pa・s以下であってもよい。
【0022】
また、本実施形態の光硬化性組成物は、硬化することで得られる硬化物の屈折率が1.52以上1.58以下であることが好ましい。このような範囲に硬化物の屈折率を設定することにより、プリプレグシートを硬化した後に、施工したコンクリートの外観が優れたものとなりやすくなる。
また、前述した繊維基材を構成する材料の屈折率と、光硬化性組成物を硬化することで得られる硬化物の屈折率との差の絶対値が0.1以下であるように設定されることが好ましい。すなわち、このような光硬化性組成物の硬化物と、繊維基材との屈折率のギャップをなくすことで、施工したコンクリートの外観がより優れたものとなりやすくなる。
【0023】
続いて、本実施形態の光硬化性組成物に必須又は任意に含まれる成分について説明する。
【0024】
(ラジカル重合性化合物(A))
本実施形態の光硬化性組成物は、ラジカル重合性化合物(A)を含む。
このラジカル重合性化合物(A)は、典型的にはその化学構造の中にラジカル重合性基(典型的には炭素-炭素の不飽和結合)が含まれる化合物であり、公知の材料の中から適宜選択して用いればよい。
【0025】
より具体的には、ラジカル重合性化合物(A)は、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂、ポリエーテル(メタ)アクリレート樹脂のような樹脂成分を含み得る。
また、ラジカル重合性化合物(A)は、ラジカル重合性モノマーや、このラジカル重合性モノマーの多量体を含むことができる。
【0026】
本実施形態の光硬化性組成物は、これらの中でもラジカル重合性化合物(A)として、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂からなる群から選択される1以上の成分を含むことが好ましい。
また、本実施形態の光硬化性組成物は、これらの中でもラジカル重合性化合物(A)として、ラジカル重合性モノマーを含むことが好ましい。なお、上述した各種樹脂成分と当該ラジカル重合性モノマーとを組み合わせてラジカル重合性化合物(A)を構成することも好ましい態様である。
以下、このラジカル重合性化合物(A)に相当する成分について説明を続ける。
【0027】
・ウレタン(メタ)アクリレート樹脂
本実施形態におけるウレタン(メタ)アクリレート樹脂は、例えば、一分子中に2個以上の水酸基を有するポリアルコールおよび/またはポリエステルポリオールおよび/またはポリエーテルポリオールとジイソシアネートとを反応させた分子末端のイソシアネート、および/または一分子中に1個以上のイソシアネートに、アルコール性水酸基と1個以上のアクリレート基またはメタクリレート基を有する化合物を反応させることで得ることができる樹脂である。
または、まずアルコール性水酸基と1個以上のアクリレート基またはメタクリレート基を有する化合物とジイソシアネートとをイソシアネート基が残るように反応させ、残ったイソシアネート基と一分子中に2個以上の水酸基を有するポリアルコールおよび/またはポリエステルポリオールおよび/またはポリエーテルポリオールとを反応させて得ることができる樹脂である。
ウレタン(メタ)アクリレートの製造において、イソシアネートと、ポリアルコールおよび/またはポリエステルポリオールおよび/またはポリエーテルポリオールの組み合わせ、及びアルコール性水酸基と1個以上のアクリレート基またはメタクリレート基を有する化合物を適宜選択する事により、樹脂の物性を調整することができる。
【0028】
上記アルコール性水酸基と1個以上のアクリレート基またはメタクリレート基を有する化合物には、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、フェノキシヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等を用いることができる。
【0029】
また、上記一分子中に2個以上の水酸基を有するポリアルコールには、例えば、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-へプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、水添ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物等を用いることができる。
また、上記一分子中に2個以上の水酸基を有するポリエステルポリオールには、ネオペンチルグリコール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、水添ビスフェノールA、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物等のポリアルコールと、アジピン酸、(無水)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸等の多塩基酸との脱水縮合反応から得られる分子量1000~2000の飽和ポリエステルポリオールを用いることができる。
また、上記一分子中に2個以上の水酸基を有するポリエーテルポリオールには、エチレンオキシド或いはプロピレンオキシドの開環反応により得られる分子量300~2000のポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール類又は、カプロラクトンの開環反応で得られるポリカプロラクトン等を用いることができる。
これらは、単独または2種類以上を併用して使用することができる。
【0030】
上記一分子中に2個以上のイソシアネート基を有する化合物としては、芳香族及び/又は脂肪族ポリイソシアネート化合物が用いられ、例えば、トリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、水添ジフェニルメタンジイソシアネート、1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、2官能イソシアネート化合物が3量化されたイソシアヌレート環を有する3官能イソシアネート、市販されているポリオールで変性されたイソシアネートプレポリマー等を挙げることができる。
これらは単独または2種類以上を混合して用いることができる。
【0031】
・エポキシ(メタ)アクリレート樹脂
本実施形態におけるエポキシ(メタ)アクリレート樹脂は、公知の方法で製造することができる。たとえば、公知の禁止剤、公知のエステル化触媒の存在下又は非存在下、不活性ガス気流中又は空気雰囲気下にてエポキシ樹脂、及び不飽和一塩基酸を適宜選択することにより所望のエポキシ(メタ)エポキシアクリレート樹脂とすることができる。必要に応じて反応系の溶融粘度を下げる目的で他のラジカル重合性モノマーや有機溶剤を入れて反応させることができる。
【0032】
本実施形態におけるエポキシ(メタ)アクリレート樹脂は、一例として、例えば、1分子中に2個以上のグリシジルエーテル基を有するエポキシ樹脂にアクリル酸またはメタクリル酸を付加反応させて得られる分子末端にアクリレートまたはメタクリレートの二重結合を有するエポキシ(メタ)アクリレート樹脂とすることができる。
上記1分子中に2個以上のグリシジルエーテル基を有するエポキシ樹脂は、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS等、あるいはこれらの誘導体からのビスフェノール型エポキシ樹脂;ビキシレノールおよびその誘導体からのビキシレノール型エポキシ樹脂;ビフェノールおよびその誘導体からのビフェノール型エポキシ樹脂;あるいはナフタレンおよびその誘導体からのナフタレン型エポキシ樹脂;さらにはノボラック型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂であってよい。
これらは単独で、または2種以上を混合して使用することができる。エポキシ樹脂の分子量の目安になるエポキシ当量は174~2000eq/gのものが好ましい。
【0033】
・不飽和ポリエステル樹脂
本実施形態における不飽和ポリエステル樹脂は、一例において、例えば、不飽和多塩基酸、飽和多塩基酸及びグリコール類を公知の脱水縮合反応により得ることができ、通常、2~40mg-KOH/gの酸価を有することができる。不飽和ポリエステル樹脂の製造において、不飽和多塩基酸、飽和多塩基酸の酸成分の選択や組合せ、及びグリコール類の選択や組合せ、それらの配合割合等を適宜選択することにより所望の不飽和ポリエステル樹脂とすることができる。
【0034】
不飽和多塩基酸類は、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、メサコン酸、イタコン酸、テトラヒドロフタル酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、グルタコン酸等を挙げることができる。
【0035】
飽和多塩基酸類は、フタル酸、無水フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、コハク酸、アジピン酸、セバチン酸、アゼライン酸、テトラヒドロ無水フタル酸、メチルテトラヒドロ無水フタル酸、エンドメチレンテトラヒドロ無水フタル酸、ヘット酸、テトラブロム無水フタル酸等を挙げることができる。
【0036】
グリコール類は、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-ブタンジオール、水素化ビスフェノールA、ビスフェノールAプロピレンオキシド化合物、シクロヘキサンジメタノール、ジブロムネオペンチルグリコール等を挙げることができる。
【0037】
本実施形態においては、不飽和ポリエステル樹脂の中でも、不飽和多塩基酸としてフマル酸や無水マレイン酸、飽和多塩基酸としてイソフタル酸やテレフタル酸が使用され、グリコールとして主成分にエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、シクロヘキサンジメタノールやネオペンチルグリコールを使用した不飽和ポリエステル樹脂が好適である。
【0038】
・ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂
本実施形態におけるポリエステル(メタ)アクリレート樹脂は、例えば、ポリエステルポリオールとアクリル酸あるいはメタクリル酸とのエステル化によって得られる樹脂である。
あるいは、酸末端ポリエステルとグリシジル基を有するアクリレートまたはメタクリレートとの反応により得られる樹脂であってもよい。
ポリエステル(メタ)アクリレート樹脂の製造において、ポリエステルポリオールとアクリル酸あるいはメタクリル酸、あるいは酸末端ポリエステルとグリシジル基を有するアクリレートまたはメタクリレートを適宜選択する事によりポリエステル(メタ)アクリレート樹脂の特性を調整することができる。
【0039】
・ポリエーテル(メタ)アクリレート樹脂
本実施形態におけるポリエーテル(メタ)アクリレート樹脂は、例えば、ポリエーテルポリオールとアクリル酸あるいはメタクリル酸とのエステル化によって得られる樹脂である。
あるいは、酸末端ポリエーテルとグリシジル基を有するアクリレートまたはメタクリレートとの反応により得られる樹脂であってもよい。
ポリエーテル(メタ)アクリレート樹脂の製造において、ポリエーテルポリオールとアクリル酸あるいはメタクリル酸、あるいは酸末端ポリエステルとグリシジル基を有するアクリレートまたはメタクリレートを適宜選択する事によりポリエステル(メタ)アクリレート樹脂の特性を調整とすることができる。
【0040】
・ラジカル重合性モノマー等
本実施形態におけるラジカル重合性モノマーとしては、スチレン、ベンジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ノルボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ノルボルネンジメタノールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド付加ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
また、ラジカル重合性モノマーは、常温(25℃)で固体のモノマー、常温(25℃)で液体のモノマーのいずれであってもよい。
【0041】
また、本実施形態の光硬化性組成物は、上述したラジカル重合性モノマーの多量体をラジカル重合性化合物(A)として含んでもよい。この例としては、ジアリルフタレートプレポリマー、タイクプレポリマー、エポキシプレポリマー、ウレタンプレポリマー、アクリレートプレポリマー等が挙げられる。
【0042】
光硬化性組成物全体におけるラジカル重合性化合物(A)の含有割合は、たとえば70質量%以上99.5質量%以下であり、好ましくは75質量%以上99質量%以下であり、より好ましくは80質量%以上98質量%以下である。
このような範囲に設定することにより、プリプレグシートの硬化性と、硬化後の機械特性とのバランスを取りやすくなる。
【0043】
なお、ラジカル重合性化合物(A)が樹脂成分を含む場合、その含有量は、ラジカル重合性化合物(A)全体を100質量部としたときに、15質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましい。樹脂成分の含有量についてこのような範囲に設定することでプリプレグシートの成形性が向上する。
なお、ラジカル重合性化合物(A)全体を樹脂成分とすることもできるが、樹脂成分の含有量は、ラジカル重合性化合物(A)全体を100質量部としたときに、95質量部以下や90質量部以下とすることもできる。
【0044】
なお、ラジカル重合性化合物(A)がラジカル重合性モノマーを含む場合、その含有量は、ラジカル重合性化合物(A)全体を100質量部としたときに、15質量部以上であることが好ましく、20質量部以上であることがより好ましく、30質量部以上であることがさらに好ましい。ラジカル重合性モノマーの含有量についてこのような範囲に設定することでプリプレグシートを用いた施工の作業性が向上する。
なお、ラジカル重合性化合物(A)全体をラジカル重合性モノマーとすることもできるが、ラジカル重合性モノマーの含有量は、ラジカル重合性化合物(A)全体を100質量部としたときに、95質量部以下や90質量部以下とすることもできる。
【0045】
(光ラジカル発生剤(B))
本実施形態の光硬化性組成物は、光ラジカル発生剤(B)を含む。
すなわち、本実施形態のプリプレグシート中の光硬化性組成物は、露光されることでこの光ラジカル発生剤(B)がラジカルを発生させ、前述したラジカル重合性化合物(A)を重合させることで硬化することとなる。
この光ラジカル発生剤(B)は公知の材料の中から適宜選択して用いればよい。なお、露光の際の波長も任意であるが、光源となる装置が廉価となり、材料の取り扱い性も容易になることから、光ラジカル発生剤(B)は、紫外線領域に吸収ピークがある化合物を含むことが好ましい。
【0046】
この光ラジカル発生剤(B)としては、例えば、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-[4-(1-メチルビニル)フェニル]プロパノンオリゴマー等のアセトフェノン類;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン類;ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル、4-フェニルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4'-メチル-ジフェニルサルファイド、3,3',4,4'-テトラ(t-ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2,4,6-トリメチルベンゾフェノン、4-ベンゾイル-N,N-ジメチル-N-[2-(1-オキソ-2-プロペニルオキシ)エチル]ベンゼンメタナミニウムブロミド、(4-ベンゾイルベンジル)トリメチルアンモニウムクロリド等のベンゾフェノン類;2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、2-(3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシ)-3,4-ジメチル-9H-チオキサントン-9-オンメソクロリド等のチオキサントン類;2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルフォスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド等のアシルフォスフォンオキサイド類;等が挙げられる。
なお、これら光ラジカル発生剤(B)は、1種のみが単独で用いられてもよいし、2種以上が併用されてもよい。
【0047】
光硬化性組成物における光ラジカル発生剤(B)の含有量は、ラジカル重合性化合物(A)の含有量を100質量部としたときに0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.8質量部以上8質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上5質量部以下であることがさらに好ましい。
このような範囲に設定することにより、プリプレグシートの硬化性と、硬化後の機械特性とのバランスを取りやすくなる。
【0048】
(シリカ(C))
本実施形態の光硬化性組成物は、さらにシリカ(C)を含むことが好ましい。
このように、光硬化性組成物にシリカ(C)を含ませることで、チキソトロピーインデックスTIを調整しやすくなる。
【0049】
このシリカ(C)は、平均粒子径がたとえば100μm以下、好ましくは0.01~50μmのものを使用することができる。このような平均粒子径を有するシリカ(C)を使用することにより、成形時の流動性や硬化後の強度に優れた光硬化性組成物を実現しやすくなる。なお、本実施形態においては、市販されているシリカ(C)の製品を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0050】
光硬化性組成物がシリカ(C)を含む場合、その含有量は、ラジカル重合性化合物(A)の含有量を100質量部としたときに0.5質量部以上10質量部以下であることが好ましく、0.8質量部以上8質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上5質量部以下であることがさらに好ましい。
このような範囲に設定することにより、成形時の流動性や硬化後の強度に優れた光硬化性組成物を実現しやすくなる。
【0051】
(シランカップリング剤(D))
光硬化性組成物は、さらにシランカップリング剤(D)を含んでもよい。
シランカップリング剤(D)として、たとえば、エポキシシラン、メルカプトシラン、フェニルアミノシラン等のアミノシランが挙げられる。コンクリートに対するプリプレグシートの密着性を向上する観点から、シランカップリング剤(D)は、好ましくはエポキシシランまたはアミノシランであり、より好ましくはエポキシランである。同様の観点から、シランカップリング剤(D)は、好ましくはフェニルアミノプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシランおよび3-メルカプトプロピルトリメトキシシランからなる群から選択される1つ以上である。
【0052】
光硬化性組成物がシランカップリング剤(D)を含む場合、その含有量は、ラジカル重合性化合物(A)の含有量を100質量部としたときに0.5質量部以上30質量部以下であることが好ましく、0.8質量部以上25質量部以下であることがより好ましく、1質量部以上15質量部以下であることがさらに好ましい。
このような範囲に設定することにより、プリプレグシートの硬化性を担保しつつ、コンクリートに対しての密着性が向上しやすい。
【0053】
(その他の成分)
なお、本実施形態の光硬化性組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、上記以外の樹脂;揺変剤;揺変助剤;フィラー;増感剤;緑、赤、青、黄、および黒等の染料、黒色顔料等の顔料、色素からなる群から選択される一種以上を含む着色剤;低応力剤;消泡剤;レベリング剤;発泡剤、;酸化防止剤;イオン捕捉剤;ゴム成分等の上記の成分以外の添加剤を含んでもよい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
なお、上述の揺変剤としては、有機系揺変剤と無機系揺変剤のいずれも用いることができる。有機系揺変剤としては、植物油脂肪酸とアミンより合成される脂肪酸アミド類(アマイドワックス系);水素添加ひまし油系;酸化ポリエチレン系;重合油系;界面活性剤系;尿素変性化合物が含まれ得る。無機系揺変剤としては、ベントナイト類、タルク、マイカ等の粘土鉱物等が含まれ得る。これらの揺変剤の配合量は目的に合わせて適宜設定される。
【0055】
また、上述の揺変助剤は、公知の材料の中から目的に応じて適宜選択して採用すればよく、その配合量は任意であるが、一例としては、ラジカル重合性化合物(A)の含有量を100質量部としたときに0.01質量部以上5質量部以下とすることができ、0.05質量部以上4質量部以下とすることができ、0.1質量部以上3質量部以下とすることができる。
【0056】
揺変助剤は、たとえばポリヒドロキシカルボン酸エステル誘導体、ポリカルボン酸アマイド誘導体、ポリエーテルリン酸エステル誘導体であってよい。
ポリヒドロキシカルボン酸エステル誘導体としては、たとえば、BYK-R 606(ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名)等を使用することができる。ポリカルボン酸アマイド誘導体としては、たとえば、BYK-405、及びBYK-R 605等(ビックケミー・ジャパン株式会社製、商品名)等を使用することができる。ポリエーテルリン酸エステル誘導体としては、たとえば、ディスパロン3500(楠本化成株式会社製、商品名)等を使用することができる。
【0057】
その他、揺変助剤の具体的な例としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、ベタイン型界面活性剤のほか、ポリエチレングリコールが挙げられる。
アニオン界面活性剤としては、高級脂肪酸アルカリ塩、アルキル硫酸塩、アルキルスルホン酸塩、アルキルアリールスルホン酸塩、スルホコハク酸エステル塩等を使用することができる。カチオン界面活性剤としては、高級アミンハロゲン酸塩、ハロゲン化アルキルピリジニウム、第四アンモニウム塩等を使用することができる。ノニオン界面活性剤としては、ポリエチレングリコールアルキルエーテル、ポリエチレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、脂肪酸モノグリセリド等を使用することができる。ベタイン型界面活性剤としては、アミノ酸等を使用することができる。
なお、揺変助剤としてポリエチレングリコールを用いる際の平均分子量は任意であるが、一例としては200以上1500以下に設定することができ、250以上1000以下と設定することもできる。
【0058】
また、上述のフィラーとしては、アルミナ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、水酸化カルシウム、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、窒化アルミニウム、窒化ホウ素等が含まれ得る。これらフィラーは単独で用いても複数種を組み合わせて用いてもよく、その粒径や配合量は任意で設定することができる。
【0059】
(光硬化性組成物の製造方法)
本実施形態の光硬化性組成物は、上述した各材料を混合することによって製造することができる。
たとえば、各材料について、ホモディスパー、ホモミキサー、万能ミキサー、プラネタリーミキサー、ニーダー、3本ロール等の混合機を用いて混合することによって、所定の光硬化性組成物が得られる。
混合の際の温度条件や、撹拌条件等は使用する材料に応じて適宜設定すればよい。
【0060】
本実施形態のプリプレグシート全体における光硬化性組成物の含有割合は、たとえば10質量~90質量%とすることができ、機械特性と成形性の面から、好ましくは20質量~80重量%とすることができる。
【0061】
[プリプレグシートの製造方法]
続いて、本実施形態のプリプレグシートの製造方法について説明する。
本実施形態のプリプレグシートの製造方法は、以下の工程を備える。
(Sa1)繊維基材と、光硬化性組成物とを準備する
(Sa2)繊維基材に光硬化性組成物を含浸させる
【0062】
すなわち、前述した繊維基材と、光硬化性組成物を工程(Sa1)にて準備した上で、工程(Sa2)において光硬化性組成物を繊維基材に含浸させることでプリプレグシートが得られる。
必ずしもこのような態様に限定されないが、この含浸を行うに際しては、典型的には光硬化性組成物を無溶媒にて繊維基材に含浸させる。なお、光硬化性組成物を繊維基材に含浸をさせるにあたっては、ローラーを用いて光硬化性組成物の粘度を下げたり、光硬化性組成物を加熱することでその粘度を下げたりする手法を採用することもできる。
【0063】
[プリプレグシートの用途/積層シート]
続いて、プリプレグシートの用途について説明する。
本実施形態のプリプレグシートは、一態様において積層シートとして取引され、コンクリートの補修や補強を行うに際して用いられる。
【0064】
図1は、本実施形態にかかるプリプレグシートを備える積層シートの断面図である。本実施形態の積層シートは、例示的にはプリプレグシートと、プリプレグシートの少なくとも一方の面に配された、透光性を有するシートと、を備える。
【0065】
詳述すると、
図1に示された積層シート10は、プリプレグシート11を中央に備え、一方の面には第1のシート12、他方の面には第2のシート13を備える。
図1の積層シート10においては、第1のシート12および第2のシート13のうち少なくとも一方が透光性を有するシートである。
なお、
図1に示された積層シート10は、各々のシートが面一となっている形状であるが必ずしもこのような形状である必要はなく、第1のシート12及び/又は第2のシート13が、プリプレグシート11の縁部よりも外方向に突出していても構わない。
【0066】
このような積層シート10を用いたコンクリートを補修又は補強する方法について、一例として、第1のシート12が透光性を有するシートであるものとして説明をする。
すなわち、本実施形態のコンクリートを補修又は補強する方法は、以下の工程に沿って行われる。
(Sb1)積層シート10を準備する
(Sb2)第2のシート13を剥離する
(Sb3)補修又は補強するコンクリートの面に対して、積層シート10に備えられるプリプレグシート11を対向するように配置し、コンクリートの面にプリプレグシート11をラミネートする
(Sb4)第1のシート12(透光性を有するシート)を介して、プリプレグシート11に露光する
(Sb5)露光後に第1のシート12を剥離する
【0067】
まず、工程(Sb1)の積層シート10の準備について説明する。
本実施形態のコンクリートを補修又は補強する方法において、積層シート10のうち第1のシート12は透光性を有するシートである。この透光性を有するシートは公知の材料の中から設定することができるが、ポリエステル(PET等)で構成されるシートやフィルムであってよい。
なお、本明細書において「シート」という用語は、「フィルム」という用語とともに、とくに厚さなどを制限せず、膜状ないし薄い板状となっている材を包括的に指すものとする。以下の範囲に制限されるものではないが、プリプレグシート11、第1のシート12および第2のシート13は、それぞれ厚さ10μm以上1mm以下の範囲である態様が例示される。
【0068】
また積層シート10のうち第2のシート13は、透光性を有していても有していなくてもよい(すなわち、遮光性を有するシートやフィルムであってもよい)。なお、本実施形態のプリプレグシート11は光硬化性組成物を含んでいるため、この硬化を妨げるために光を透過させない材料を用いることも取り得る態様である。また、一態様においては、積層シート10に、この第2のシート13を設けず、後述する工程(Sb2)を実施しないことプロセスを構築することもできる。
【0069】
なお、積層シート10における第1のシート12および第2のシート13は、その剥離性を向上させるために表面処理が行われていても構わない。また、積層シート10を得るにあたっては、前述したプリプレグシート11を準備の上、公知の手法により各々のフィルムを積層させればよい。
【0070】
続く工程(Sb2)においては、上述した積層シート10から、第2のシート13を剥離する。
【0071】
工程(Sb3)においては、補修又は補強するコンクリートの面に対して、積層シート10に備えられるプリプレグシート11を対向するように配置し、コンクリートの面にプリプレグシート11をラミネートする。
この工程のラミネート方法は公知の手法を採用すればよいが、典型的には、外力(脱泡ローラーでの貼り付けや脱泡操作)をかけることで行われる。ここで、本実施形態のコンクリートを補修又は補強する方法においては、プリプレグシート11が所定の光硬化性組成物を有しているため、当該組成物の粘度が低くなり、コンクリートに浸透しやすく、接着性を高くなる。
【0072】
続いて、工程(Sb4)にて、第1のシート12を介して、プリプレグシート11に露光する。なお、この露光に用いる光の波長は光ラジカル発生剤(B)の種類に応じて適宜選択すればよい。
【0073】
最後に、工程(Sb5)にて、第1のシート12を剥離し、補修又は補強されたコンクリートを得ることができる。
【0074】
さらに、次に記載の各態様で提供されてもよい。
前記プリプレグシートにおいて、前記光硬化性組成物は、さらにシリカ(C)を含む、プリプレグシート。
前記プリプレグシートにおいて、前記光硬化性組成物における前記シリカ(C)の含有量は、前記ラジカル重合性化合物(A)の含有量を100質量部としたときに0.5質量部以上10質量部以下である、プリプレグシート。
前記プリプレグシートにおいて、前記光硬化性組成物は、さらにシランカップリング剤(D)を含む、プリプレグシート。
前記プリプレグシートにおいて、前記ラジカル重合性化合物(A)は、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ(メタ)アクリレート樹脂及び不飽和ポリエステル樹脂からなる群から選択される1以上の成分を含む、プリプレグシート。
前記プリプレグシートにおいて、前記ラジカル重合性化合物(A)は、ラジカル重合性モノマーを含む、プリプレグシート。
前記プリプレグシートにおいて、前記光ラジカル発生剤(B)は、紫外線領域に吸収ピークがある化合物を含む、プリプレグシート。
前記プリプレグシートにおいて、前記光硬化性組成物の25℃での粘度が、2Pa・s以上180Pa・s以下である、プリプレグシート。
前記プリプレグシートにおいて、前記光硬化性組成物を硬化することで得られる硬化物の屈折率が1.52以上1.58以下である、プリプレグシート。
前記プリプレグシートにおいて、前記繊維基材が、ガラス繊維である、プリプレグシート。
前記プリプレグシートにおいて、前記繊維基材を構成する材料の屈折率と、前記光硬化性組成物を硬化することで得られる硬化物の屈折率との差の絶対値が0.1以下である、プリプレグシート。
前記プリプレグシートを製造する方法であって、繊維基材と、光硬化性組成物とを準備することと、前記繊維基材に前記光硬化性組成物を含浸させることと、を備え、前記光硬化性組成物は、ラジカル重合性化合物(A)と、光ラジカル発生剤(B)とを含み、かつ、25℃で測定したチキソトロピーインデックスTIが2以上である、方法。
積層シートであって、前記プリプレグシートと、前記プリプレグシートの少なくとも一方の面に配された、透光性を有するシートと、を備える、積層シート。
コンクリートを補修又は補強する方法であって、前記積層シートを準備することと、補修又は補強するコンクリートの面に対して、前記積層シートに備えられる前記プリプレグシートを対向するように配置し、前記コンクリートの面に前記プリプレグシートをラミネートすることと、透光性を有する前記シートを介して、前記プリプレグシートに露光することと、を備える、方法。
もちろん、この限りではない。
【0075】
以上、本発明の実施形態について述べたが、これらは本発明の例示であり、上記以外の様々な構成を採用することができる。また、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲での変形、改良等は本発明に含まれる。
【実施例0076】
以下、実施例および比較例により、本発明をさらに詳しく説明する。なお、本発明は以下の実施例により制限されるものではない。
【0077】
(合成例1)
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応容器に、1,3-プロパンジオールを197.9質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート390.3質量部、2,6-ジーターシャリーブチルークレゾール0.6質量部、メチルハイドロキノン0.15質量部を添加した。内容物が均一になるまで撹拌した後、イソホロンジイソシアネート911.4質量部添加した。そこで、ジブチルチンジラウレート0.04質量部添加し、1時間かけて100℃まで昇温した。その後、100℃で5時間ホールドし、全てのイソシアネート基が消失していることを確認後、冷却し、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂を得た。なお、本実施例項において、得られた樹脂を「樹脂(A-1)」と略記する。
【0078】
(合成例2)
攪拌機、還流冷却管、窒素導入管、温度計を備えた反応容器に、エポキシ当量が189g/eqのビスフェノールA型エポキシ化合物1357.8質量部、メタクリル酸633.8質量部、メチルハイドロキノン0.4質量部、トリフェニルスチビン6.0質量部および2-メチルイミダゾール2.0質量部を仕込み、130℃まで昇温させ、同時間で5時間反応させ、エポキシアクリレート樹脂を得た。なお、本実施例項において、得られた樹脂を「樹脂(A-2)」と略記する。
【0079】
(合成例3)
攪拌機、分留装置、窒素導入管、温度計を備えた反応容器に、プロピレングリコール270.9質量部、ネオペンチルグリコール701.4質量部、イソフタル酸639.3質量部を添加し、攪拌しながら215℃まで昇温した。215℃で内容物の酸価が20mgKOH/g以下になったら、100℃まで冷却し、無水マレイン酸565.8質量部を添加し215℃まで昇温した。215℃で8時間反応させ、酸価が9.8mgKOH/gの不飽和ポリエステル樹脂を得た。なお、本実施例項において、得られた樹脂を「樹脂(A-3)」と略記する。
【0080】
[実施例1:積層シートの調製及び評価]
攪拌機、加熱装置を備えた遮光容器に、合成例1で得た樹脂(A-1)50質量部、反応性モノマーとしてジシクロペンテニルオキシエチルメタクリレート(以下「DCPMA」と略記する。)25質量部とベンジルメタクリレート(以下「BzMA」と略記する。)25質量部、シランカップリング剤として信越化学工業株式会社製KBM-503 5.0質量部、光ラジカル発生剤としてIGM Resins B.V.製Omnirad 184(以下「O-184」と略記する。)0.4質量部、揺変助剤として三洋化成工業株式会社製イオネットT-20C(以下「T-20C」と略記する。)2.0質量部、揺変剤として日本アエロジル株式会社製AEROSIL(登録商標) 200(以下「A-200」と略記する。)3.0質量部を添加し、攪拌することにより、光硬化性組成物を調製した(攪拌時の粘度に応じて適宜に加温した。)。調製した光硬化性組成物を25℃において、以下の条件で粘度と揺変度測定(TI測定)を行った。その後、ガラス基材としてChomarat製G-FLOWTM 500L(以下「G-flow」と略記する。)を厚み25μの二軸延伸ポリエステルフィルムに置き、上記で調製した光硬化性組成物を含浸ローラーでG-flowに含浸させた(塗布量1.0kg/m2)。もう一枚の二軸延伸ポリエステルフィルムで含浸したG-flowの表面をかぶせて、プリプレグシートを含む積層シートを得た。
【0081】
(粘度の評価)
上記で得た光硬化性組成物を25℃の条件下で、JIS K 6911 5.5.1の方法に従い粘度を測定した。なお、粘度の測定にあたってはTOKI SANGYO製TVB-10M粘度計を用いており、表1には用いたスピンドル番号と回転数とをあわせて記している。
【0082】
(揺変度の評価)
得られた光硬化性組成物を25℃の条件下で、JIS K 6911 5.6の方法に従い揺変度を測定した。なお、表1には、回転数比と、用いたスピンドル番号をあわせて記している。
【0083】
(シート成形性評価)
上記で得られた積層シートの一端をワイヤに固定し、吊り下げる状態で1時間保持し以下の項目により成形性を評価した。なお、評価は以下の基準に沿って行っている。
〇:目視による未含浸の部分がなく、直径5mm以上の空洞がない、かつ樹脂のたれがない。
×:目視による未含浸の部分があり、また直径5mm以上の空洞があり、また樹脂のたれがある。
【0084】
(コンクリート剥落防止性能の評価)
上記で得られた積層シートについて片面の保護フィルムを剥がし、以下の手順に沿ってコンクリート剥落防止性能の評価を行った。
まず、日本テストパネル株式会社製押し抜き試験用U字溝蓋に、積層シートの片面の保護フィルムを剥がすことで露出したプリプレグシートを貼り付けて、ゴムローラーで気泡が無いようにプリプレグシートを密着させたあと、このプリプレグシートについて、剥離を行わなかった保護フィルムを介して1kWのメタルハライドランプ(2.5mW/cm2)で3分間照射した。その後、表面に存在する保護フィルムを剥がし、プリプレグシートを貼り付けた面を下向きにして、「土木学会規格JSCE-K 533-2010 5.試験方法」に従い、コンクリート剥落防止性能を評価した。なお、評価は以下の基準に沿って行っており、表1には押し抜き強度をあわせて記している。
〇:押し抜き変位が10mm以上、かつ押し抜き強度が1.5kN以上
×:押し抜き変位が10mm未満、また押し抜き強度が1.5kN未満
【0085】
[実施例2:積層シートの調製及び評価]
光硬化性樹脂組成物について表1で示される組成とした以外は、実施例1と同様に光硬化性組成物と、積層シートとを調製し、その後評価した。なお、本実施例2においては、揺変助剤としてBYK製BYK R 605(以下「R 605」と略記する。)を0.35質量部用いている。
【0086】
[実施例3:積層シートの調製及び評価]
光硬化性樹脂組成物について表1で示される組成とした以外は、実施例1と同様に光硬化性組成物と、積層シートとを調製し、その後評価した。なお、本実施例3においては、ラジカル重合性化合物(A)として、合成例3で得た樹脂(A-3)65質量部に加えスチレンモノマー(以下「SM」と略記する。)20質量部とBzMA 15質量部を用いており、揺変助剤として平均分子量400のポリエチレングリコール(以下「PEG-400」と略記する。)を0.17質量部用いている。
【0087】
[実施例4:積層シートの調製及び評価]
光硬化性樹脂組成物について表1で示される組成とした以外は、実施例1と同様に光硬化性組成物と積層シートとを調製し、その後評価した。
【0088】
[比較例1:積層シートの調製及び評価]
光硬化性樹脂組成物について表1で示される組成とした以外は、実施例1と同様に光硬化性組成物と積層シートとを調製し、その後評価した。
【0089】
[比較例2:積層シートの調製及び評価]
光硬化性樹脂組成物について表1で示される組成とした以外は、実施例1と同様に光硬化性組成物と積層シートとを調製し、その後評価した。
【0090】
本実施例項の結果を以下の表1にまとめる。表1に示される通り、光硬化性組成物のTIの値を適切に調製することで、コンクリートの剥落防止性能を向上させることのできるプリプレグシートを実現することができる。
【0091】