(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139988
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】殺虫組成物
(51)【国際特許分類】
A01N 53/06 20060101AFI20230927BHJP
A01P 7/04 20060101ALI20230927BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20230927BHJP
A01N 53/04 20060101ALI20230927BHJP
A01N 53/08 20060101ALI20230927BHJP
A01N 37/02 20060101ALI20230927BHJP
A01N 33/12 20060101ALI20230927BHJP
A01N 43/80 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
A01N53/06 110
A01P7/04
A01P3/00
A01N53/04 510
A01N53/08 100
A01N37/02
A01N33/12 101
A01N43/80 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045815
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000112853
【氏名又は名称】フマキラー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 裕城
(72)【発明者】
【氏名】本多 佳子
【テーマコード(参考)】
4H011
【Fターム(参考)】
4H011AA01
4H011AA03
4H011AC01
4H011BB04
4H011BB06
4H011BB10
4H011BB15
(57)【要約】
【課題】殺虫組成物の分野においてカチオン性界面活性剤を利用して殺虫効果を増強させる。
【解決手段】殺虫組成物は、疎水性の殺虫成分と、脂肪酸と、カチオン性界面活性剤と、水とを含んでいる。脂肪酸に溶解した殺虫成分が水中に分散した状態になっている。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
疎水性の殺虫成分と、
脂肪酸と、
カチオン性界面活性剤と、
水と、
を含み、
前記脂肪酸に溶解した前記殺虫成分が水中に分散していることを特徴とする殺虫組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の殺虫組成物であって、
前記脂肪酸は、炭素数8から12の飽和脂肪酸であることを特徴とする殺虫組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の殺虫組成物であって、
前記脂肪酸を1重量%以上含むことを特徴とする殺虫組成物。
【請求項4】
請求項2または3に記載の殺虫組成物であって、
前記殺虫成分を溶解した脂肪酸と、前記カチオン性界面活性剤とが混合ベシクルを形成していることを特徴とする殺虫組成物。
【請求項5】
請求項4に記載の殺虫組成物であって、
前記カチオン性界面活性剤は、モノアルキルカチオン性界面活性剤およびジアルキルカチオン性界面活性剤を含むことを特徴とする殺虫組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、例えばハエ、ゴキブリ、アリ等の害虫を殺虫する殺虫組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に使用される殺虫成分の多くは疎水性であるため、水を主溶媒とする場合は、界面活性剤によって殺虫成分を可溶化ないし乳化することによって製剤化が行われることが多い。殺虫剤の分野において、殺虫成分を可溶化ないし乳化するための界面活性剤としては、もっぱらノニオン性界面活性剤が用いられるが、補助的にアニオン性界面活性剤が用いられる場合もある(例えば特許文献1参照)。ノニオン性界面活性剤・アニオン性界面活性剤は、一般的に乳化・可溶化力に優れるとされている。
【0003】
一方で、例えばカチオン性界面活性剤は、一般的には帯電防止効果や殺菌性があるとされているが、殺虫剤の分野における応用は進んでいない。この点、例えば、特定の有機酸とカチオン性界面活性剤を配合することで、殺生物剤抵抗性回避作用が得られることが知られている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平6-305904号公報
【特許文献2】特開平6-145003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献2に記載の殺生物剤効力増強剤は、1000倍希釈で使用されるように殺虫成分溶液に配合されるものであるから、殺虫成分は予め乳化ないし可溶化されている必要がある。また特許文献2は、特にカチオン性界面活性剤に着目した技術というわけではない。
【0006】
本開示はかかる点に鑑みたものであり、その目的は、殺虫組成物の分野においてカチオン性界面活性剤を利用して殺虫効果を増強させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願発明者らは、脂肪酸とカチオン性界面活性剤により、疎水性の殺虫成分を水中に分散させることができるだけでなく、当該殺虫成分の効力を増強させる効果があることを見出して本発明を完成させた。
【0008】
本開示の一態様では、殺虫組成物が疎水性の殺虫成分と、脂肪酸と、カチオン性界面活性剤と、水とを含んでいる。そして、前記脂肪酸に溶解した殺虫成分が水中に分散していることを特徴とするものである。
【0009】
これにより、カチオン性界面活性剤を用いて殺虫成分を水中に分散させることができるとともに、ノニオン性界面活性剤によって乳化・可溶化した場合に比べて殺虫効果を増強させることができる。
【0010】
本開示の他の態様では、前記脂肪酸が炭素数8から12の飽和脂肪酸であってもよい。これにより、殺虫成分を水中に好適に分散させることができるとともに、その効力を増強させることができる。
【0011】
本開示の他の態様では、前記脂肪酸を1重量%以上含んでいてもよい。この態様によっても、殺虫成分を水中に好適に分散させることができるとともに、その効力を増強させることができる。
【0012】
本開示の他の態様では、殺虫成分を溶解した脂肪酸と、カチオン性界面活性剤とが混合ベシクルを形成していてもよく、水中で混合ベシクルを形成することにより、経日安定性が向上するとともに、殺虫成分のノックダウン活性の増強効果も得ることができる。
【0013】
本開示の他の態様に係るカチオン性界面活性剤は、モノアルキルカチオン性界面活性剤およびジアルキルカチオン性界面活性剤を含んでいてもよい。これにより、ベシクルを好適に形成することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、カチオン性界面活性剤を用いて殺虫成分を水中に分散させることができ、殺虫効果を増強させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0016】
実施形態に係る殺虫組成物は、疎水性の殺虫成分と、脂肪酸と、カチオン性界面活性剤と、水とを含んでおり、脂肪酸に溶解した殺虫成分が水中に分散しているものである。
【0017】
<疎水性の殺虫成分>
疎水性の殺虫成分は、特に限定されるものではない。使用可能な殺虫成分として、例えばピレスロイド系殺虫剤を挙げることができる。ピレスロイド系殺虫剤として、トランスフルトリン、ピレトリン、アレスリン、フタルスリン、テトラメトリン、プラレトリン、フェノトリン、トラロメトリン、シフルトリン、レスメトリン、ペルメトリン、エンペントリン、シフェノトリン、イミプロトリン、フェンプロパトリン、フェンバレレート、エトフェンプロックス、シラフルオフェンなどを挙げることができる。速効的なノックダウン効果を有するトランスフルトリン、フタルスリン、プラレトリン、イミプロトリンが特に好ましい。これらのうち、1種または2種以上を混合して使用できる。殺虫成分は、害虫駆除成分と呼ぶこともできる。殺虫成分の濃度は、例えば0.01質量%以上0.20質量%以下とすることができる。
【0018】
<脂肪酸>
脂肪酸としては、炭素数8から12の飽和脂肪酸を使用することができる。このような脂肪酸として、例えばペラルゴン酸、カプリル酸、ラウリン酸等を挙げることができ、これらのうち、任意の1種のみまたは任意の複数種を組み合わせて用いることもできる。
【0019】
<カチオン性界面活性剤>
カチオン性界面活性剤としては、モノアルキルカチオン性界面活性剤およびジアルキルカチオン性界面活性剤のうちの一方または両方を使用することができる。モノアルキルカチオン性界面活性剤としては、塩化ラウリルトリメチルアンモニウム、塩化ミリスチルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、塩化アルキル(C12-C16)トリメチルアンモニウム、塩化アルキル(C16-C18)トリメチルアンモニウム、などを挙げることができる。
【0020】
ジアルキルカチオン性界面活性剤としては、塩化ジオクチルジメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジラウリルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキル(C12-C18)ジメチルアンモニウム、塩化ジデシルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキルジメチルアンモニウム、塩化ジアルキル(C16-18)ジメチルアンモニウム、などを挙げることができる。
【0021】
カチオン性界面活性剤としては、モノアルキルカチオン性界面活性剤のみであってもよいし、ジアルキルカチオン性界面活性剤のみであってもよい。また、カチオン性界面活性剤としては、モノアルキルカチオン性界面活性剤と、ジアルキルカチオン性界面活性剤とを含有していてもよく、この場合、モノアルキルカチオン性界面活性剤を1種、ジアルキルカチオン性界面活性剤を2種以上含有していてもよいし、モノアルキルカチオン性界面活性剤を2種以上、ジアルキルカチオン性界面活性剤を1種含有していてもよい。
【0022】
<水>
水は、脂肪酸の溶媒となる成分である。使用可能な水としては特に限定されず、例えば、精製水、イオン交換水、水道水、温泉水、海洋深層水、植物蒸留水等が挙げられる。
【0023】
<脂肪酸の濃度>
また、脂肪酸の濃度の上限は8質量%以下に設定されている。脂肪酸の濃度の上限は7質量%以下に設定することもできる。脂肪酸の濃度が上記範囲を超えると、後述の混合ベシクルが形成されにくくなるとともに、殺虫組成物の粘度が高くなって噴霧や散布に適さなくなる。脂肪酸の濃度の下限は、例えば1質量%以上に設定することができる。脂肪酸の濃度の下限は、例えば2質量%以上に設定してもよい。
【0024】
<脂肪酸とカチオン性界面活性剤の濃度比>
脂肪酸に対するカチオン性界面活性剤の濃度比比(カチオン性界面活性剤の濃度/脂肪酸の濃度)が0.8以上に設定されている。濃度比は、0.9以上に設定することもできる。濃度比の上限は、例えば10.0以下に設定することができ、また8.0以下に設定することもできる。
【0025】
<カチオン性界面活性剤の濃度>
カチオン性界面活性剤の濃度は、1質量%以上に設定されている。カチオン性界面活性剤の濃度は、1.5質量%以上に設定することもできる。カチオン性界面活性剤の濃度の上限は、20質量%以下に設定されている。カチオン性界面活性剤の濃度の上限は、19質量%以下に設定することもできる。
【0026】
<他の成分>
殺虫組成物には、他の成分として、例えばアルコールや防腐剤等が含まれていてもよい。アルコールは、一価または多価アルコールであり、炭素数が2以上6以下で、ヒドロキシ基の数が1以上6以下のアルコールが好ましい。このようなアルコールとしては、例えばエチルアルコール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、1,3ブチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ソルビトールなどを挙げることができる。上記特定のアルコールを用いることで、水中における混合ベシクルの形成がより確実になる。
【0027】
防腐剤としては、例えばイソチアゾリノン誘導体等を挙げることができるが、これは殺虫効力には影響を与えない成分である。
【0028】
<混合ベシクルの形成>
本実施形態に係る殺虫組成物は、脂肪酸とカチオン性界面活性剤とを上述のように配合したことで、殺虫成分を溶解した脂肪酸とカチオン性界面活性剤とが水中で混合ベシクルを形成することができる。この場合、殺虫成分を溶解した脂肪酸は、水中でカチオン性界面活性剤と相互作用することにより、混合ベシクルを形成して存在している。この混合ベシクルは、水中で疎水性と親水性の両方を持つ両親媒性分子が球殻状または袋状をなすように隙間なく並んだ自己集合体であり、自己会合体の層が複数相になるために、脂肪酸が均一に含まれていることで、水中で脂肪酸を長期安定化させることができる。
【0029】
ただし、殺虫成分を水中に均一に分散させるという観点では、混合ベシクルの形成は必須ではない。すなわち、混合ベシクルが形成されない場合であっても、脂肪酸およびカチオン性界面活性剤によって、殺虫成分を水中に分散させることができる。
【0030】
<殺虫組成物の製造方法>
殺虫組成物の製造方法の一例について説明する。まず、疎水性の殺虫成分を脂肪酸に溶解させるとともに、例えば70℃まで加熱した精製水を用意する。この精製水に、脂肪酸に溶解した殺虫成分、カチオン性界面活性剤、アルコールを溶解させる。その後、室温まで冷却した後、防腐剤を加える。
【0031】
<殺虫組成物の使用方法>
本実施形態に係る殺虫組成物は、害虫に対して噴霧ないし散布することにより使用できる。例えば、殺虫組成物を例えばスプレー容器やエアゾール容器等の噴霧容器(図示せず)に収容しておき、その後、噴霧容器の噴霧口を害虫に向けてから噴霧ボタンやトリガー等を操作することで、殺虫組成物が噴霧口から噴出して害虫に付着させる。また例えば、殺虫組成物をシャワー容器に収容し、当該シャワー容器を傾けることで害虫に散布しても良い。
【0032】
<実施例及び比較例>
実施例1~7を表1に示し、比較例1~4を表2に示している。また、比較例5は表1に示している。実施例および比較例のサンプルを作成後、100mlガラス瓶に入れ、室温(RT)で外観を目視評価した。また、各サンプルを100mlガラス瓶に入れ、室温(RT)にて、直交する偏光板(クロスニコル)を有するボックスに入れた。そして偏光板ボックスの外からサンプル瓶に対して光を当て、偏光板越しにサンプル瓶を通過した光の様子を目視観察することで混合ベシクル形成の有無を評価した。表中の「外観」の欄の意味は以下のとおりである。
【0033】
ベシクル:混合ベシクルが形成され、均一な状態
白濁:混合ベシクルは形成しないが、均一な白濁(乳化)状態
分散せず:混合ベシクルは形成せず、二層に分離した状態
可溶化:混合ベシクルは形成せず、均一で透明または半透明状態
【0034】
実施例1~3、6、7では殺虫成分が水中に分散しており、ベシクルが形成されている。実施例4、5は水中にベシクルが形成されていないが、水中に均一に分散した状態である。また比較例1、3は、ノニオン性界面活性剤によって殺虫成分を可溶化させる従来技術である。比較例2、4は、ノニオン性界面活性剤に加えて更にペラルゴン酸を配合したものである。比較例1~4は可溶化しているが、水中にベシクルが形成されていない。また、比較例5は殺虫成分が水中に分散しなかった。
【0035】
【0036】
【0037】
以上のように、カチオン性界面活性剤と脂肪酸により、疎水性の殺虫成分を水中に均一に分散させることができる。比較例5に示すとおり、カチオン性界面活性剤のみ(脂肪酸なし)では、殺虫成分を水中に分散させることができない。また、表中には無いが、脂肪酸のみ(カチオン性界面活性剤なし)でも殺虫成分を水中に分散させることができない。これは、カプリル酸、ペラルゴン酸、ラウリン酸等の高級脂肪酸はそれ自体が疎水性であり、水と混合しないためである。
【0038】
すなわち、カチオン性界面活性剤または脂肪酸の何れか一方のみでは殺虫成分を水中に分散させることができず、カチオン性界面活性剤と脂肪酸の組み合わせによって、疎水性の殺虫成分を水中に均一に分散させることができることがわかる。
【0039】
<ノックダウン試験>
次に、ノックダウン試験について説明する。なお、ノックダウンとは、虫が仰向け(仰転)になって正常な行動ができなくなった状態を言う。まず、試験方法について説明すると、直径8cmのガラスリングを用意する。供試虫はイエバエ、チャバネゴキブリ、アルゼンチンアリである。供試虫をそれぞれガラスリングに入れてメッシュネットで封をし、これを12個(実施例1~7、比較例1~5)用意する。実施例1~7、比較例1~5の組成物をそれぞれハンドスプレーにて各メッシュネットから20cm離して各ガラスリング内へ1回噴霧した。噴霧後から時間計測を開始し、供試虫の50%がノックダウンするのに要した時間(KT50:50%ノックダウン時間)を算出した。この数値が小さいほど速攻性が高いことを示す。3回の反復試験を行って平均化した時間を表3に示す。尚、イエバエとアルゼンチンアリのKT50の単位は「秒(sec)」であり、チャバネゴキブリのKT50の単位は「分(min)」である。
【0040】
【0041】
表3に示すように、実施例1~7の全てでイエバエ、チャバネゴキブリ、アルゼンチンアリに対するノックダウン効果が早期に現れることが分かる。これに対し、脂肪酸を含まない比較例1、3では、チャバネゴキブリが30分以上ノックダウンせず、またイエバエのノックダウン時間が55秒以上となり、極めて長かった。また比較例3のアルゼンチンアリに対するノックダウン時間は36秒以上で、実施例1~5に比べて長かった。比較例5は殺虫成分が水中に分散しなかったため、試験できなかった。
【0042】
このように、脂肪酸とカチオン性界面活性剤によって疎水性の殺虫成分を水中に均一に分散させることで、ノックダウン効果を有する噴霧可能な水ベースの殺虫組成物が得られることが分かる。このノックダウン効果は、ノニオン性界面活性剤によって水中に分散させる従来技術(比較例1、3)と比べても遜色ない。更に、水中に混合ベシクルを形成した場合(実施例1,2,3,6,7)は、ベシクルが形成されない場合(実施例4,5)に比べてノックダウン効果の増強(ノックダウン時間の短縮)効果が得られる。
【0043】
<致死試験>
次に致死試験について説明する。ノックダウン試験と同様な試験系を用意する。実施例1~7、比較例1~5の組成物をそれぞれハンドスプレーにて各メッシュネットから20cm離して各ガラスリング内へ1回噴霧した。噴霧後から24時間経過後の供試虫の致死率を表5に示す。
【0044】
【0045】
表4に示すように、実施例1~7の全てでイエバエ及びアルゼンチンアリに対する致死効果が高いことが分かる。また、チャバネゴキブリについても、比較例に比べて高い致死効果が得られている。特に、ベシクルが形成されている実施例1~3、6、7ではチャバネゴキブリに対しても高い致死効果が得られる。一方、比較例1では、実施例に比べてイエバエ及びチャバネゴキブリに対する致死効果が低くなっており、また比較例2、3では、チャバネゴキブリに対する致死効果が3%と極めて低くなっている。また比較例3では、イエバエに対する致死効果が0%であり、また比較例4でもイエバエ及びチャバネゴキブリに対する致死効果が低くなっている。比較例5は殺虫成分が水中に分散しなかったため、試験できなかった。
【0046】
このように、脂肪酸とカチオン性界面活性剤によって疎水性の殺虫成分を水中に均一に分散させることで、ノニオン性界面活性剤によって水中に分散させる従来技術(比較例1~4)と比べても遜色ない致死効果が得られることが分かる。更に、水中に混合ベシクルを形成した場合(実施例1,2,3,6,7)は、特にチャバネゴキブリに対する致死効果が高まる。
【0047】
<経日安定性>
次に、安定性試験を行った結果について説明する。表5、6中、「RT(室温)」とは、製造直後から1ヶ月間、室温で保存した場合を示し、「5℃」とは、製造直後から1ヶ月間、5℃で保存した場合を示し、「50℃」とは、製造直後から1ヶ月間、50℃で保存した場合を示している。
【0048】
〇:分離なし(均一1相)。
【0049】
×:2相に完全に分離している。
【0050】
【0051】
表5は、実施例8~18の処方例を示すものである。実施例8~18では水中にベシクルが形成されている。
【0052】
【0053】
表6は、比較例6~10の処方例を示すものである。比較例6、7、9は白濁しており、水中にベシクルが形成されていない。また、比較例8、10は透明なゲル状となっており、水中にベシクルが形成されていない。尚、比較例6~10は、ベシクル形成の有無の観点から実施例8~18と対比させる意味で「比較例」としているが、前述のように、水中にベシクルが形成されていなくても、殺虫成分を水中に均一に分散させることができる。
【0054】
表5に示すように、ベシクルが形成されていることで、1ヶ月後においても分離することなく、製造直後の半透明な状態が維持されていた。尚、前述の実施例1~3、6、7については表中に結果を示していないが、1ヶ月後においても分離することなく、製造直後の半透明な状態が維持されていた。
【0055】
一方、表6に示す比較例6~10では製造直後に白濁または透明ゲル化した状態であり、殺虫成分が水中に一旦分散するものの、安定性が悪く、特に50℃の1ヶ月保存で分離した。また、比較例8、10では製造直後にゲル化してしまったので、噴霧や散布等の使用に適さない性状になった。また、比較例5は製造直後から分離した状態になっているので殺虫剤としての使用は不可であった。
【0056】
以上のとおり、殺虫成分を溶解した脂肪酸と、カチオン性界面活性剤とによって水中に混合ベシクルが形成されることにより、殺虫組成物の使用(噴霧や散布)が可能な分散状態を長期間にわたって安定維持できることが分かる。
【0057】
上述の実施形態はあらゆる点で単なる例示に過ぎず、限定的に解釈してはならない。さらに、特許請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明したように、本発明は、各種害虫を殺虫する場合に利用できる。