(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139990
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】回転慣性質量ダンパ
(51)【国際特許分類】
F16F 15/02 20060101AFI20230927BHJP
F16F 15/023 20060101ALI20230927BHJP
F16F 9/512 20060101ALI20230927BHJP
F16F 7/10 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
F16F15/02 C
F16F15/023 A
F16F9/512
F16F7/10
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045817
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】504242342
【氏名又は名称】株式会社免制震ディバイス
(74)【代理人】
【識別番号】100095566
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 友雄
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(72)【発明者】
【氏名】木田 英範
(72)【発明者】
【氏名】中南 滋樹
(72)【発明者】
【氏名】田中 久也
(72)【発明者】
【氏名】尾家 直樹
(72)【発明者】
【氏名】籠宮 千秋
(72)【発明者】
【氏名】高橋 靖
【テーマコード(参考)】
3J048
3J066
3J069
【Fターム(参考)】
3J048AD06
3J048BE03
3J048BF14
3J048CB21
3J048EA38
3J066AA26
3J066DA01
3J066DB03
3J066DB04
3J069AA54
3J069EE02
3J069EE64
(57)【要約】
【課題】圧力モータを備え、軸線方向の長さの短縮によって、免震装置としてもコンパクトに用いることができる回転慣性質量ダンパを提供する。
【解決手段】マスダンパ1は、作動油HFが充填されたインナーシリンダ2と、インナーシリンダ2との間にタンク室12を画成するアウターシリンダ9と、インナーシリンダ2内に摺動自在に設けられ、第1端壁2b側の第1油室2eと第2端壁2c側の第2油室2fに区画するピストン3と、ピストン3から第1油室2e側に延びるピストンロッド10と、第1及び第2油室2e、2fに連通し、アウターシリンダ9を貫通する連通路4と、タンク室12から第2油室2f及びその逆方向の作動油HFの流れのみをそれぞれ許容する第1及び第2逆止弁27、25と、連通路4内の作動油HFの流動を回転運動に変換する歯車モータ5と、歯車モータ5で駆動され、回転慣性質量効果を発揮するフライホイール6と、を備える。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造物を含む系内の相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられ、前記構造物の振動を抑制する回転慣性質量ダンパであって、
周壁と軸線方向に互いに対向する第1及び第2端壁を有し、作動流体が充填されたインナーシリンダと、
少なくとも前記インナーシリンダの前記周壁と前記第2端壁を取り囲むように設けられ、前記周壁及び前記第2端壁との間に作動流体を貯留するタンク室を画成するとともに、前記第1部位に連結されるアウターシリンダと、
前記インナーシリンダ内に摺動自在に設けられ、当該インナーシリンダ内を前記第1端壁側の第1流体室と前記第2端壁側の第2流体室に区画するピストンと、
当該ピストンに一体に設けられ、当該ピストンから前記第1流体室側に軸線方向に延び、前記第1端壁を貫通して外部に延び、前記第2部位に連結されるピストンロッドと、
前記ピストンをバイパスし、前記第1及び第2流体室に連通するとともに、前記アウターシリンダを貫通して外部に延び、作動流体が充填された連通路と、
前記インナーシリンダの前記第2端壁に設けられ、前記タンク室から前記第2流体室への作動流体の流れのみを許容する第1逆止弁、及び前記第2流体室から前記タンク室への作動流体の流れのみを許容する第2逆止弁と、
前記連通路に設けられ、当該連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換する圧力モータと、
当該圧力モータに連結され、当該圧力モータで駆動されることによって、回転慣性質量効果を発揮する回転マスと、を備えることを特徴とする回転慣性質量ダンパ。
【請求項2】
前記ピストンに設けられ、前記第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに開弁し、前記第1流体室内の作動流体を前記第2流体室に流出させることによって、前記第1流体室内の圧力を調整する第1調圧弁と、前記第2流体室内の作動流体の圧力が前記第1所定圧に達したときに開弁し、前記第2流体室内の作動流体を前記第1流体室に流出させることによって、前記第2流体室内の圧力を調整する第2調圧弁とを、さらに備えることを特徴とする、請求項1に記載の回転慣性質量ダンパ。
【請求項3】
前記ピストンに設けられ、前記第1流体室内の作動流体の圧力が、前記第1所定圧よりも大きな第2所定圧に達したときに開弁し、前記第1流体室内の圧力を前記第2流体室に逃がす第1リリーフ弁と、前記第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定圧に達したときに開弁し、前記第2流体室内の圧力を前記第1流体室に逃がす第2リリーフ弁とを、さらに備えることを特徴とする、請求項2に記載の回転慣性質量ダンパ。
【請求項4】
前記連通路は、前記アウターシリンダをシールを介して液密に貫通し、外部に延びていることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の回転慣性質量ダンパ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧力モータで駆動される回転マスの回転慣性質量効果によって、構造物の振動を抑制する回転慣性質量ダンパに関する。
【背景技術】
【0002】
出願人は、この種の回転慣性質量ダンパを、例えば特許文献1において開示している。この回転慣性質量ダンパは、例えば構造物内の上梁と下梁の間に制振装置として設置されるものであり、作動流体が充填され、上梁に連結されるシリンダと、シリンダ内に摺動自在に設けられ、シリンダ内を第1流体室と第2流体室に区画するピストンと、ピストンから軸線方向の両側に延び、シリンダの両端壁を貫通するとともに、一方の端部が下梁に連結されるピストンロッドと、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通する連通路を備える。連通路には歯車モータが設けられ、歯車モータには回転マスが連結されている。
【0003】
この回転慣性質量ダンパでは、地震時などに構造物の上梁と下梁が相対的に変位すると、その相対変位がシリンダ及びピストンに伝達されることによって、ピストンがシリンダに対して往復動する。それに伴い、第1及び第2流体室の一方の作動流体が、ピストンで押し出されることで、連通路を流動し、歯車モータに流入する。これに伴い、作動流体の流動が歯車モータにより回転運動に変換され、回転マスに伝達されることによって、回転マスによる回転慣性質量効果が発揮される。また、作動流体が連通路を流動する際の粘性抵抗により、粘性減衰効果が併せて発揮されることによって、制振効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したような歯車モータ式の回転慣性質量ダンパを、構造物と地盤の間に設置し、免震装置として用いた場合には一般に、構造物内で制振装置として用いる場合と比較して、ダンパのストローク(相対変位)は非常に大きくなる。これに対し、上述した従来の回転慣性質量ダンパでは、ピストンロッドがピストンの両側に延びており、ダンパの軸線方向の設置長さとして、ピストンロッドの長さとダンパのストロークとの合計の長さが少なくとも必要であるため、ダンパを軸線方向にコンパクトに構成できないという問題がある。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、圧力モータを備える場合において、軸線方向の長さを短縮することによって、免震装置としてもコンパクトに用いることができる回転慣性質量ダンパを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、請求項1に係る発明は、構造物を含む系内の相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられ、構造物の振動を抑制する回転慣性質量ダンパであって、周壁と軸線方向に互いに対向する第1及び第2端壁を有し、作動流体が充填されたインナーシリンダと、少なくともインナーシリンダの周壁と第2端壁を取り囲むように設けられ、周壁及び第2端壁との間に作動流体を貯留するタンク室を画成するとともに、第1部位に連結されるアウターシリンダと、インナーシリンダ内に摺動自在に設けられ、インナーシリンダ内を第1端壁側の第1流体室と第2端壁側の第2流体室に区画するピストンと、ピストンに一体に設けられ、ピストンから第1流体室側に軸線方向に延び、第1端壁を貫通して外部に延び、第2部位に連結されるピストンロッドと、ピストンをバイパスし、第1及び第2流体室に連通するとともに、アウターシリンダを貫通して外部に延び、作動流体が充填された連通路と、インナーシリンダの第2端壁に設けられ、タンク室から第2流体室への作動流体の流れのみを許容する第1逆止弁、及び第2流体室からタンク室への作動流体の流れのみを許容する第2逆止弁と、連通路に設けられ、連通路内の作動流体の流動を回転運動に変換する圧力モータと、圧力モータに連結され、圧力モータで駆動されることによって、回転慣性質量効果を発揮する回転マスと、を備えることを特徴とする。
【0008】
本発明の回転慣性質量ダンパは、上述した構成のインナーシリンダ、アウターシリンダ、ピストン、ピストンロッド、連通路、圧力モータ及び回転マスを有する圧力モータ型のものであり、振動の抑制対象である構造物を含む系内の相対変位する第1部位と第2部位の間に設けられる。この回転慣性質量ダンパでは特に、ピストンロッドはピストンから第1流体室側にのみ延び、インナーシリンダとアウターシリンダの間のタンク室に作動流体が貯留されるとともに、ピストンロッドが設けられていない第2流体室側の第2端壁に、タンク室から第2流体室への作動流体の流れのみ、及びその逆方向の流れのみをそれぞれ許容する第1及び第2逆止弁が設けられている。
【0009】
この構成では、地震時などに構造物に振動が入力され、第1及び第2部位の間に相対変位が発生すると、その相対変位がアウターシリンダ及びピストンロッドに伝達されることによって、ピストンがインナーシリンダ内を摺動(往復動)する。このピストンの往復動に伴い、その両側の第1又は第2流体室内の作動流体がピストンで押し出され、圧力モータが設けられた連通路に流入する。これに伴い、作動流体の流動が圧力モータにより回転運動に変換され、回転マスに伝達されることによって、回転マスによる回転慣性質量効果が発揮され、それにより、構造物の振動が抑制される。
【0010】
また、本発明の回転慣性質量ダンパによれば、ピストンが第1流体室側に移動するとき(ピストンロッドの伸長時)には、第2流体室内の圧力が低下するのに応じて第1逆止弁が開弁することによって、作動流体がタンク室から第2流体室に流入する。これにより、ピストンロッドの有無に応じた第1及び第2流体室間の断面積の差異による不足分の作動流体が、第2流体室に補充される。
【0011】
これとは逆に、ピストンが第2流体室側に移動するとき(ピストンロッドの収縮時)には、第2流体室内の圧力が上昇するのに応じて第2逆止弁が開弁することによって、作動流体が第2流体室からタンク室に流出する。これにより、ピストンロッドの有無に応じた第1及び第2流体室間の断面積の差異による余剰分の作動流体が、第2流体室から排出される。
【0012】
以上のように、構造物の振動時、ピストンが往復動するのに伴い、第1及び第2逆止弁の作用により、ピストンロッドの有無に応じた、第2流体室に対する作動流体の補充又は排出が、過不足なく自動的に行われる。これにより、ピストンの往復動や連通路における作動流体の流動が円滑に行われ、圧力モータの良好な動作が確保されることによって、回転マスによる回転慣性質量効果を良好に発揮させることができる。
【0013】
また、本発明の回転慣性質量ダンパによれば、ピストンロッドは、ピストンの片側にのみ設けられていて、ピストンの両側に設けられる従来の場合よりも短いので、その分、回転慣性質量ダンパの軸線方向の長さを短縮でき、免震装置としてもコンパクトに用いることができる。
【0014】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、ピストンに設けられ、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに開弁し、第1流体室内の作動流体を前記第2流体室に流出させることによって、第1流体室内の圧力を調整する第1調圧弁と、第2流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに開弁し、第2流体室内の作動流体を第1流体室に流出させることによって、第2流体室内の圧力を調整する第2調圧弁とを、さらに備えることを特徴とする。
【0015】
この構成によれば、第1調圧弁及び第2調圧弁がピストンに設けられている、第1調圧弁は、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに開弁し、第1流体室内の作動流体を第2流体室に流出させることによって、第1流体室内の圧力を調整する。これにより、第1流体室内の圧力の上昇が抑制されるとともに、作動流体が第1調圧弁を通って流動する際の粘性抵抗による減衰力が得られる。同様に、第2流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧に達したときに開弁し、第2流体室内の作動流体を第1流体室に流出させることによって、第2流体室内の圧力を調整する。これにより、第2流体室内の圧力の上昇が抑制されるとともに、作動流体が第2調圧弁を通って流動する際の粘性抵抗による減衰力が得られる。
【0016】
以上のような第1及び第2調圧弁の作用により、振動の初期において、第1及び第2流体室がクッションとして機能することによって、圧力モータへの衝撃を緩和し、衝撃による悪影響を回避することができる。
【0017】
請求項3に係る発明は、請求項2に記載の回転慣性質量ダンパにおいて、ピストンに設けられ、第1流体室内の作動流体の圧力が、第1所定圧よりも大きな第2所定圧に達したときに開弁し、第1流体室内の圧力を第2流体室に逃がす第1リリーフ弁と、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定圧に達したときに開弁し、第2流体室内の圧力を第1流体室に逃がす第2リリーフ弁とを、さらに備えることを特徴とする。
【0018】
この構成によれば、第1リリーフ弁及び第2リリーフ弁がピストンに設けられている、第1リリーフ弁は、第1流体室内の作動流体の圧力が第1所定圧よりも大きな第2所定圧に達したときに開弁し、それにより、作動流体が第2流体室に逃がされることによって、リリーフ後の減衰係数が0の場合は、第1流体室内の圧力が第2所定圧以下に制限される。同様に、第2リリーフ弁は、第2流体室内の作動流体の圧力が第2所定圧に達したときに開弁し、それにより、作動流体が第1流体室に逃がされることによって、リリーフ後の減衰係数が0の場合は、第2流体室内の圧力が第2所定圧以下に制限される。以上により、第1及び第2流体室内の圧力の過大化を防止し、インナーシリンダ及びピストンに作用する軸力や、圧力モータに作用する作動流体の圧力を適切に制限することができる。
【0019】
請求項4に係る発明は、請求項1から3のいずれかに記載の回転慣性質量ダンパにおいて、連通路は、アウターシリンダをシールを介して液密に貫通し、外部に延びていることを特徴とする。
【0020】
この構成によれば、連通路と連通路が貫通するアウターシリンダとの隙間が、シールによって液密状態に保たれるので、回転慣性質量ダンパの設置時や作動時、輸送時などにおける、この隙間からのタンク室内の作動流体の漏れを確実に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施形態によるマスダンパを示す断面図である。
【
図2】マスダンパを含む免震装置を構造物に設置した例を概略的に示す図である。
【
図3】マスダンパ及び支持部材で構成される付加振動系をモデル化して示す図である。
【
図4】ピストン内を流れる作動油の速度と減衰力との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
図1に示すように、実施形態による回転慣性質量ダンパ(以下「マスダンパ」という)1は、水平に配置されるインナーシリンダ2と、インナーシリンダ2の外側に設けられたアウターシリンダ9と、インナーシリンダ2内に設けられたピストン3と、ピストン3をバイパスし、インナーシリンダ2内に連通する連通路4と、連通路4に配置された、圧力モータとしての歯車モータ5と、歯車モータ5に連結されたフライホイール6などを備える。
【0023】
インナーシリンダ2は、円筒状の周壁2aと、周壁2aの両端部に設けられた、薄い板状の第1端壁2bと、より厚いブロック状の第2端壁2cを一体に有する。これらの3つの壁2a~2cによって、インナーシリンダ2の内部空間が画成されている。
【0024】
ピストン3は、インナーシリンダ2内に軸線方向に摺動自在に設けられており、インナーシリンダ2の内部空間を、第1端壁2b側の第1油室2eと第2端壁2c側の第2油室2fに区画している。第1及び第2油室2e、2fと連通路4には、作動油HFが充填されている。作動油HFは、適度な粘性を有する通常のものである。
【0025】
ピストン3には、ピストンロッド10が同心状に一体に設けられている。ピストンロッド10は、第1油室2e側にのみ設けられており、インナーシリンダ2の第1端壁2b及びアウターシリンダ9の後述する第1端壁9bを、シール11を介して液密に貫通し、外部に延びている。ピストンロッド10の外端部には、自在継手(図示せず)を介して第1取付具FL1が設けられている。
【0026】
アウターシリンダ9は、インナーシリンダ2の全体を取り囲んでおり、円筒状の周壁9aと、その両端部に設けられた板状の第1及び第2端壁9b、9cを一体に有し、第1端壁9bは、インナーシリンダ2の第1端壁2bに接した状態で固定されている。一方、インナーシリンダ2及びアウターシリンダ9の周壁2a、9aの間と第2端壁2c、9cの間には、空間が画成され、この空間がタンク室12になっている。タンク室12には、最上部に空気層Aを残した状態で、作動油HFが貯留されている。アウターシリンダ9の第2端壁9cには、自在継手(図示せず)を介して第2取付具FL2が設けられている。
【0027】
連通路4は、門型のものであり、上下方向に延びる一対の鉛直通路部4a、4aと、それらの上端部間に連結された水平通路部4bで構成されている。鉛直通路部4a、4aは、下端部において、インナーシリンダ2の第1及び第2油室2e、2fにそれぞれ連通するとともに、シール13を介してインナーシリンダ2の周壁2aを液密に貫通し、シール14を介してアウターシリンダ9の周壁9aを液密に貫通している。
【0028】
歯車モータ5は、連通路4の水平通路部4bに設けられている。歯車モータ5は、例えば内接式のものであり、2つの出入口(図示せず)を介して水平通路部4bに連通するハウジング7と、ハウジング7に収容され、互いに噛み合う回転自在の入力ギヤ及び出力ギヤ(いずれも図示せず)と、出力ギヤに一体に設けられた出力軸8を有する。なお、歯車モータ5として、内接式に代えて外接式のものを用いてもよい。
【0029】
また、ハウジング7内には、作動油HFを排出するためのドレン通路(図示せず)が設けられている。このドレン通路には、ドレン配管31の一端部が接続され、ドレン配管31の他端部はタンク室12に挿入されている。
【0030】
フライホイール6は、歯車モータ5の出力軸8に取り付けられている。フライホイール6は、比重が比較的大きな材料、例えば鋼材などで円板状に形成されており、出力軸8に同軸状に一体に設けられている。
【0031】
一方、ピストン3には、軸線方向に貫通し、第1及び第2油室2e、2fに連通する4つの連通路が形成されている。これらの連通路にはそれぞれ、第1調圧弁21、第1リリーフ弁22、第2調圧弁23及び第2リリーフ弁24が設けられている。これらの弁21~24はいずれも、常閉弁として構成されており、連通路を開閉する弁体と、弁体を閉弁側に付勢するばねを有する。
【0032】
第1調圧弁21は、第1油室2e内の圧力が値0に近い第1所定圧に達したときに開弁し、作動油HFを第2油室2f側に流出させることで、第1油室2e内の圧力を調整する。第1リリーフ弁22は、第1油室2e内の圧力が第1所定圧よりも高い第2所定圧(リリーフ荷重相当)に達したときに開弁し、作動油HFを第2油室2f側に逃がすことで、リリーフ後の減衰係数が0の場合は、第1油室2e内の圧力を第2所定圧以下に制限する。上記とは逆に、第2調圧弁23は、第2油室2f内の圧力が第1所定圧に達したときに開弁することで、第2油室2f内の圧力を調整し、第2リリーフ弁24は、第2油室2f内の圧力が第2所定圧に達したときに開弁することで、リリーフ後の減衰係数が0の場合は、第2油室2f内の圧力を第2所定圧以下に制限する。
【0033】
また、インナーシリンダ2の第2端壁2cには、軸線方向に貫通し、第2油室2f及びタンク室12に連通する2つの連通路が形成されている。これらの連通路にはそれぞれ、上記の弁21~24と同様に構成された第3調圧弁25及び第3リリーフ弁26が設けられている。
【0034】
第3調圧弁25は、第2油室2f側からタンク室12側への作動油HFの流出のみを許容する第2逆止弁の機能を有するものであり、第2油室2f内の圧力が第1所定圧に達したときに開弁し、作動油HFをタンク室12側に流出させることで、第2油室2f内の圧力を調整する。第3リリーフ弁26は、第2油室2f内の圧力が第2所定圧に達したときに開弁し、作動油HFをタンク室12側に逃がすことで、リリーフ後の減衰係数が0の場合は、第2油室2f内の圧力を第2所定圧以下に制限する。
【0035】
さらに、インナーシリンダ2の第2端壁2cには、軸線方向に貫通する2つの連通孔が形成されており、これらの連通孔は逆止弁27によって開閉される。逆止弁27は、連通孔を開閉する弁体27a、27aと、弁体27aを閉弁側に付勢するばね27bで構成されており、それにより、タンク室12側から第2油室2f側への作動油HFの流入のみを許容する。
【0036】
以上の構成のマスダンパ1は、例えば
図2に示すように、構造物(建物)Bとその基礎Fの間に、積層ゴムタイプなどの複数の免震支承52とともに、免震装置51として設けられる。具体的には、マスダンパ1は、構造物Bから垂下する第1支持部材EN1と、基礎Fから立設する第2支持部材EN2に、それぞれ第1及び第2取付具FL1、FL2を介して取り付けられている。以下、このように構成・設置されたマスダンパ1の動作について説明する。
【0037】
まず、構造物Bが振動していないとき、マスダンパ1は、
図1に示す初期状態にある。この初期状態から、地震時に基礎Fが振動すると、第1及び第2支持部材EN1、EN2の間に相対変位が発生し、その相対変位がインナーシリンダ2及びピストン3に伝達されることによって、ピストン3がインナーシリンダ2内を往復動する。
【0038】
例えば、ピストン3が第1油室2e側に移動するとき(ピストンロッド10の伸長時)には、ピストン3で押圧されることにより、第1油室2e内の圧力が上昇し、第1所定圧に達することで、第1調圧弁21が開弁し、ピストン3で押圧された作動油HFの一部が、第1調圧弁21を通って第2油室2f側に流出する。また、作動油HFの残りは、第1油室2eから連通路4の一方の鉛直通路部4aを介して水平通路部4bに流入し、歯車モータ5のハウジング7内を流動した後、他方の鉛直通路部4aを経て、第2油室2fに戻る。この場合、ピストンロッド10の有無に応じた第1及び第2油室2e、2fの間の断面積の差異による、第2油室2fの不足分の作動油HFは、逆止弁27が開弁することによって、タンク室12から第2油室2fに補充される。
【0039】
一方、上記とは逆に、ピストン3が第2油室2f側に移動するとき(ピストンロッド10の収縮時)には、ピストン3で押圧されることにより、第2油室2f内の圧力が上昇し、第1所定圧に達することで、第2調圧弁23が開弁し、ピストン3で押圧された作動油HFの一部が、第1油室2e側に流出する。また、押圧された作動油HFの一部は、第2油室2fから連通路4の一方の鉛直通路部4aを介して水平通路部4bに流入し、歯車モータ5のハウジング7内を流動した後、他方の鉛直通路部4aを経て、第1油室2eに戻る。この場合、第1及び第2油室2e、2fの間の断面積の差異による、第2油室2fの余剰分の作動油HFは、第3調圧弁25が開弁することによって、第2油室2fからタンク室12に排出される。
【0040】
上記のように作動油HFが歯車モータ5のハウジング7内を流動する際、作動油HFの圧力が歯車モータ5の回転運動に変換され、出力軸8と一体のフライホイール6が回転駆動されることによって、回転慣性質量効果(慣性力)が発揮される。また、作動油HFが連通路4を流動する際の粘性抵抗による粘性減衰効果(粘性力)が発揮されることで、回転慣性質量効果と併せて構造物の振動抑制効果を得ることができる。
【0041】
また、マスダンパ1の作動中、第1油室2e内の作動油HFの圧力が第1所定圧に達したときに、第1調圧弁21が開弁し、作動油HFを第2油室2fに流出させることによって、第1油室2e内の圧力が逃がされ、その上昇が抑制されるとともに、作動油HFが第1調圧弁21を通って流動する際、粘性抵抗による減衰力が得られる。同様に、第2油室2f内の作動油HFの圧力が第1所定圧に達したときに、第2調圧弁23が開弁し、作動油HFを第1油室2eに流出させることによって、第2油室2f内の圧力が逃がされ、その上昇が抑制されるとともに、作動油HFが第2調圧弁23を通って流動する際、粘性抵抗による減衰力が得られる。以上のような第1及び第2調圧弁21、23の作用により、振動の初期において、第1及び第2油室2e、2fがクッションとして機能することによって、歯車モータ5への衝撃が緩和され、衝撃による悪影響が回避される。
【0042】
さらに、第1油室2e内の作動油HFの圧力が第2所定圧に達したときに、第1リリーフ弁22が開弁し、作動油HFが第2油室2fに逃がされることによって、リリーフ後の減衰係数が0の場合は、第1油室2e内の圧力が第2所定圧以下に制限される。同様に、第2油室2f内の作動油HFの圧力が第2所定圧に達したときに、第2リリーフ弁24が開弁し、作動油HFが第1油室2eに逃がされることによって、リリーフ後の減衰係数が0の場合は、第2油室2f内の圧力が第2所定圧以下に制限される。以上により、第1及び第2油室2e、2f内の圧力の過大化が防止され、インナーシリンダ2及びピストン3に作用する軸力や歯車モータ5に作用する作動油HFの圧力が適切に制限される。
【0043】
また、例えば長周期地震動の入力に対する構造物の応答などに伴い、歯車モータ5が長時間、作動することによって、ハウジング7内の作動油HFの圧力が増加し、歯車モータ5のドレンから作動油HFが漏れ出る状態になった場合には、作動油HFは、ドレン配管31を介して、大気状態にあるタンク室12に逃がされる。これにより、ハウジング7内の過度の高圧化が確実に防止される。
【0044】
上述したマスダンパ1と支持部材(第1及び第2支持部材EN1、EN2)で構成される付加振動系は、
図3のようにモデル化される。すなわち、互いに並列関係にある(a)フライホイール6及び作動油HFから成る、等価質量λmdの慣性質量要素、及び(b)連通路4や歯車モータ5を流動する作動油HFから成る減衰係数cdの粘性要素に、(c)リリーフ弁(第1及び第2リリーフ弁22、24)のリリーフ前の調圧弁(第1及び第2調圧弁21、23)を流動する作動油HFから成る、減衰係数c1の粘性要素、リリーフ弁によるリリーフ荷重Frの制限要素、及びリリーフ後の調圧弁及びリリーフ弁を流動する作動油HFから成る減衰係数c2の粘性要素と、(d)作動油HFの圧縮剛性を含む支持部材から成る剛性kbのばね要素が、直列に接続されたモデルになる。
【0045】
図3のモデルにおいて、Fdは、マスダンパ1に作用するダンパ外力、Frは、第1及び第2リリーフ弁22、24のリリーフ荷重である。xbは、作動油HFの圧縮量を含む支持部材の変位である。xiHGDは、ダンパ外力Fdが作用したときのピストン移動量であり、ピストン3の移動に伴う押し出し流量をV、ピストン断面積をApとすると、次式(1)で表される。
xiHGD = V/Ap ・・・(1)
また、xrは、調圧弁やリリーフ弁を通ってピストン3内を流れる作動油HFの流量Vrをピストン断面積Apで除した見かけの移動量であり、次式(2)で表される。xdは、連通路4を通って歯車モータ5に流れる作動油HFの流量Vdをピストン断面積Apで除した見かけの移動量であり、次式(3)で表される。
xr = Vr/Ap ・・・(2)
xd = Vd/Ap ・・・(3)
【0046】
そして、V、VrとVdの間に次式(4)の関係が成立するので、式(4)と式(1)~(3)から、次式(5)の関係が成立する。
V = Vr+Vd ・・・(4)
xiHGD = xr+xd ・・・(5)
また、ピストン3に設置した調圧弁やリリーフ弁に作用する圧力と歯車モータ5に作用する圧力は、互いに等しい。 ・・・(6)
【0047】
これらの(5)及び(6)の関係などから、次式(7)~(9)が成立する。
x = xb+xiHGD = xb+xr+xd ・・・(7)
|vr|≦Fr/c1のとき(リリーフ前の条件)
Fd = kb・xb
= c1・vr
= λmd・αd+cd・vd ・・・(8)
|vr|>Fr/c1のとき(リリーフ後の条件)
Fd = kb・xb
= sgn(vr)・Fr+c2・(vr-sgn(vr)・Fr/c1)
= λmd・αd+cd・vd ・・・(9)
ここで、 x:付加振動系全体の変位
c1:リリーフ前の減衰係数
c2:リリーフ後の減衰係数
vr:xrの速度
vd:xdの速度
αd:xdの加速度
λmd:マスダンパの等価質量
cd:マスダンパの減衰係数
【0048】
上記の式(8)及び(9)から、調圧弁やリリーフ弁を通ってピストン3内を流れる作動油HFから算出した見かけの速度vrと、その粘性抵抗による減衰力F(=ダンパ反力)との関係は、vr≧0の範囲に対して、
図4のように表される。すなわち、減衰力Fは速度vrに対してバイリニア特性を示し、減衰係数は、リリーフ荷重Frに達するまでは、作動油HFが調圧弁だけを流れることによって、より大きな減衰係数c1になり、リリーフ荷重Frに達した後には、作動油HFが調圧弁及びリリーフ弁の両方を流れることによって、より小さな減衰係数c2になる。
【0049】
以上のように、本実施形態のマスダンパ1によれば、ピストンロッド10は、ピストン3の片側にのみ設けられていて、ピストンの両側に設けられる従来の場合よりも短いので、その分、マスダンパ1の軸線方向の長さを短縮でき、免震装置としてコンパクトに用いることができる。
【0050】
また、構造物Bの振動時、ピストン3が往復動するのに伴い、逆止弁27及び第3調圧弁25の作用により、ピストンロッド10の有無に応じた、第2油室2fに対する作動油HFの補充又は排出が、過不足なく自動的に行われる。これにより、ピストン3の往復動や連通路4における作動油HFの流動が円滑に行われ、歯車モータ5の良好な動作が確保されることによって、回転マスによる回転慣性質量効果を良好に発揮させることができる。
【0051】
さらに、第1油室2e内又は第2油室2f内の作動油HFの圧力が第1所定圧に達したときに、ピストン3に設けられた第1又は第2調圧弁21、23が開弁し、作動油HFを反対側の第2油室2f又は第1油室2eに流出させる。これにより、第1油室2e内又は第2油室2f内の圧力の上昇が抑制されるとともに、作動油HFが第1又は第2調圧弁21、23を通って流動する際の粘性抵抗による減衰力が得られる。以上の作用により、振動の初期において、第1及び第2油室2e、2fがクッションとして機能することによって、歯車モータ5への衝撃を緩和し、衝撃による悪影響を回避することができる。
【0052】
また、第1油室2e内又は第2油室2f内の作動油HFの圧力が第1所定圧よりも大きな第2所定圧に達したときに、ピストン3に設けられた第1又は第2リリーフ弁22、24が開弁し、作動油HFを反対側の第2油室2f又は第1油室2eに逃がす。これにより、リリーフ荷重Frに達した後の減衰係数c2が0の場合は、第1油室2e内又は第2油室2f内の作動油HFの圧力が第2所定圧以下に制限されることによって、その過大化を防止し、インナーシリンダ2及びピストン3に作用する軸力や、歯車モータ5に作用する作動油HFの圧力を適切に制限することができる。
【0053】
さらに、連通路4の鉛直通路部4a、4aとそれらが貫通するアウターシリンダ9との隙間にシール14が設けられ、液密状態に保たれるので、マスダンパ1の設置時や作動時、輸送時などにおける、この隙間からのタンク室12内の作動油HFの漏れを確実に防止することができる。
【0054】
なお、本発明は、説明した実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、インナーシリンダ2の第2端壁2cに、第2逆止弁として兼用される第3調圧弁25と第3リリーフ弁26が設けられているが、これらの弁25、26を省略し、第2油室2f側からタンク室12側への作動油HFの流出のみを許容する第2逆止弁のみを設けてもよい。
【0055】
さらに、実施形態では、ピストン3に、第1及び第2調圧弁21、23と第1及び第2リリーフ弁22、24が設けられているが、これらの調圧弁及びリリーフ弁の一方又は両方を省略してもよく、そのように構成されたマスダンパもまた、本発明の範囲内のものである。
【0056】
また、マスダンパ1の圧力モータとして、歯車モータを用いているが、作動流体の流動を回転運動に変換するものである限り、他の形式の圧力モータを用いてもよく、例えばピストンモータやベーンモータ、ねじモータを用いてもよい。また、実施形態では、ダンパの作動流体として、通常の作動油を用いると説明したが、他の適当な作動流体を用いてもよいことはもちろんである。
【0057】
また、実施形態では、マスダンパ1を、免震装置として用いるものとして説明したが、これに限らず、制振装置として用いてもよいことはもちろんである。その他、本発明の趣旨の範囲内で、細部の構成を適宜、変更することが可能である。
【符号の説明】
【0058】
1 マスダンパ(回転慣性質量ダンパ)
2 インナーシリンダ
2a インナーシリンダの周壁
2b インナーシリンダの第1端壁
2c インナーシリンダの第2端壁
2e 第1油室(第1流体室)
2f 第2油室(第2流体室)
3 ピストン
4 連通路
5 歯車モータ(圧力モータ)
6 フライホイール(回転体)
9 アウターシリンダ
10 ピストンロッド
12 タンク室
14 シール
21 第1調圧弁
22 第1リリーフ弁
23 第2調圧弁
24 第2リリーフ弁
25 第3調圧弁(第2逆止弁)
27 逆止弁(第1逆止弁)
HF 作動油(作動流体)
B 構造物
F 基礎