(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023139992
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】トンネル補助工法における注入材の注入方法及びトンネル補助工法用注入装置
(51)【国際特許分類】
E21D 9/04 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
E21D9/04 F
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045819
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】591029921
【氏名又は名称】フジモリ産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003340
【氏名又は名称】弁理士法人湧泉特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 高司
(72)【発明者】
【氏名】坂根 一聡
(72)【発明者】
【氏名】小林 圭吾
【テーマコード(参考)】
2D054
【Fターム(参考)】
2D054FA02
2D054FA07
(57)【要約】
【課題】トンネル補助工法における注入材の注入施工に際し、冬季の環境温度が低いときでも、注入材をバラツキなく安定的に注入して硬化させる。
【解決手段】第1タンク11内で注入材20の原料の第1液21を第1ヒータ31によって加熱する。第2タンク12内で注入材20の原料の第2液22を第2ヒータ32によって加熱する。第1タンク11からの加熱された第1液21と、第2タンク12からの加熱された第2液22とを注入管40の合流部45で合流させて混合する。前記混合してなる注入材20をトンネル周辺の地山2に注入して地山2を安定化させる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
トンネルの周辺の地山を、第1液及び第2液を混合してなる注入材によって安定化させるトンネル補助工法における前記注入材の注入方法であって、
第1タンク内で前記第1液を第1ヒータによって加熱する工程と、
第2タンク内で前記第2液を第2ヒータによって加熱する工程と、
前記第1タンクからの加熱された第1液と、前記第2タンクからの加熱された第2液とを混合する工程と、
前記混合してなる注入材を地山に注入する工程と、を備えたことを特徴とする注入材の注入方法。
【請求項2】
トンネルの周辺の地山を、第1液及び第2液を混合してなる注入材によって安定化させるトンネル補助工法に用いられる注入装置であって、
前記第1液が溜められる第1タンクと、
前記第2液が溜められる第2タンクと、
前記第1タンクに設けられた第1ヒータと、
前記第2タンクに設けられた第2ヒータと、
前記第1タンク及び第2タンクからそれぞれ延びて先端部が互いに合流された2つの個別注入管部、及びこれら個別注入管部の合流部から延びる合流注入管部を含む注入管と
を備えたことを特徴とするトンネル補助工法用注入装置。
【請求項3】
前記第1タンク及び前記第2タンクの少なくとも一方には攪拌機が設けられていることを特徴とする請求項2に記載のトンネル補助工法用注入装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トンネルの施工時に周辺の地山を安定化させる補助工法として地山に注入材を注入する方法及び注入装置に関し、特に、冬季ないしは寒冷地に適した注入方法及び注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
山岳トンネルをNATM(New Austrian Tunneling Method)工法によって構築する際、状況に応じて地山を安定化させるために補助工法が実施されることがある(例えば特許文献1等参照)。例えば、特許文献1においては、切羽前方の地山に先受け鋼管を打ち込み、該先受け鋼管に設けられた注入穴から注入材を地山内に注入している。注入材としては、ウレタン系注入材、シリカレジン系注入材、セメント系注入材等が用いられている。ウレタン系注入材及びシリカレジン系注入材は、2液混合による発泡性注入材である。
セメント系注入材は、配合成分が異なる2つの練り液を混合して注入することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ウレタン系、シリカレジン系などの発泡性注入材は、外気温(環境温度)ひいては液温により発泡時間及び発泡倍率にバラツキが有る。液温が低いと、発泡(硬化)時間が長く、発泡倍率が低くなる。このため、施工時間が長くなるだけでなく、所望の発泡倍率を得にくい。セメント系注入材は、温度が低すぎると、硬化にバラツキが生じる。
本発明は、かかる事情に鑑み、トンネル補助工法における注入材の注入施工に際し、主に冬季や寒冷地で環境温度が低いときでも、注入材をバラツキなく安定的に注入して硬化させることができるようにして施工品質を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記課題を解決するため、本発明方法は、トンネルの周辺の地山を、第1液及び第2液を混合してなる注入材によって安定化させるトンネル補助工法における前記注入材の注入方法であって、
第1タンク内で前記第1液を第1ヒータによって加熱する工程と、
第2タンク内で前記第2液を第2ヒータによって加熱する工程と、
前記第1タンクからの加熱された第1液と、前記第2タンクからの加熱された第2液とを混合する工程と、
前記混合してなる注入材を地山に注入する工程と、を備えたことを特徴とする。
【0006】
本発明装置は、トンネルの周辺の地山を、第1液及び第2液を混合してなる注入材によって安定化させるトンネル補助工法に用いられる注入装置であって、
前記第1液が溜められる第1タンクと、
前記第2液が溜められる第2タンクと、
前記第1タンクに設けられた第1ヒータと、
前記第2タンクに設けられた第2ヒータと、
前記第1タンク及び第2タンクからそれぞれ延びて先端部が互いに合流された2つの個別注入管部、及びこれら個別注入管部の合流部から延びる合流注入管部を含む注入管と
を備えたことを特徴とする。
【0007】
前記第1タンク及び前記第2タンクの少なくとも一方には攪拌機が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、トンネル補助工法における注入材の注入施工に際し、主に冬季や寒冷地で環境温度が低いときでも、第1液及び第2液をそれぞれ加温して適温に近づけることができる。したがって、注入材をバラツキなく安定的に注入して硬化させることができ、施工品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の第1実施形態に係るトンネル補助工法用注入装置による注入材の注入施工状況の概略図である。
【
図2】
図2は、本発明の第2実施形態に係るトンネル補助工法用注入装置による注入材の注入施工状況の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態を図面にしたがって説明する。
<第1実施形態(
図1)>
図1は、構築中のNATMトンネル1を示したものである。トンネル周辺の地山、特に切羽前方の地山2の安定化のために、補助工法としてAGF(ALL Grand Fasten)工法が実施されている。切羽前方の地山2には、先受け鋼管3が打ち込まれている。トンネル1内には、トンネル補助工法用注入装置10が設置されている。トンネル補助工法用注入装置10によって、注入材20が、先受け鋼管3を通して切羽前方の地山2に注入される。注入材20として、発泡性注入材であるシリカレジン系注入材が用いられている。シリカレジン系注入材は、特殊珪酸ソーダ(A液)と、変性ポリイソシアネート(B液)とを原料とする変性ポリウレタンである。
以下、適宜、A液である特殊珪酸ソーダを「第1液21」と称し、B液である変性ポリイソシアネートを「第2液22」と称す。
【0011】
トンネル補助工法用注入装置10は、2つのタンク11,12と、加温システム30と、注入管40を備えている。第1タンク11には、第1液供給源13が接続されている。第1液供給源13からの第1液21が、第1タンク11に供給されて溜められている。第1タンク11内の第1液21は、第1攪拌機15によって攪拌されることによって成分分離が防止されるとともに、液温が均一化されている。
【0012】
第2タンク12には、第2液供給源14が接続されている。第2液供給源14からの第2液22が、第2タンク12に供給されて溜められている。第2タンク12内の第2液22は、第2攪拌機16によって攪拌可能である。
なお、第2液22の変性ポリイソシアネートは、成分分離を起こしにくいから、成分分離の観点からは第2攪拌機16を省略してもよい。一方、第2液22の液温均一化の観点からは第2攪拌機16が設けられていることが望ましい。
【0013】
加温システム30は、ヒータ31,32と、温度センサ33,34と、コントローラ35を備えている。第1ヒータ31と第1温度センサ33とが、第1タンク11内に収容されて、第1液21と接している。第1ヒータ31は、上下に延びる棒状ないしは直線状の電気ヒータによって構成されている。第1ヒータ31の制御信号線31c及び第1温度センサ33の検出信号線33cが、コントローラ35に接続されている。コントローラ35は、第1温度センサ33による検出温度に基づいて、第1液21の液温が第1設定温度になるよう、若しくは第1設定温度に近づくよう、第1ヒータ31の出力を制御する。第1設定温度は、例えば20℃前後(20℃±5℃程度)である。
【0014】
第2ヒータ32と第2温度センサ34とが、第2タンク12内に収容されて、第2液22と接している。第2ヒータ32は、上下に延びる棒状ないしは直線状の電気ヒータによって構成されている。第2ヒータ32の制御信号線32c及び第2温度センサ34の検出信号線34cが、コントローラ35に接続されている。コントローラ35は、第2温度センサ34による検出温度に基づいて、第2液22の液温が第2設定温度になるよう、若しくは第2設定温度に近づくよう、第2ヒータ32の出力を制御する。第2設定温度は、例えば20℃前後(20℃±5℃程度)である。
【0015】
注入管40は、2つの個別注入管部41,42と、合流注入管部46とを含む。第1タンク11から第1個別注入管部41が延びている。第1個別注入管部41には、第1注入ポンプ43が設けられている。第2タンク12から第2個別注入管部42が延びている。第2個別注入管部42には、第2注入ポンプ44が設けられている。
【0016】
個別注入管部41,42の先端部が、合流部45において互いに合流されている。合流部45から合流注入管部46が延びている。合流注入管部46は、先受け鋼管3の手元端部に連なっている。ないしは、先受け鋼管3が、合流注入管部46における地山2に埋設された管部分を構成している。図示は省略するが、先受け鋼管3の内部には、第1液21及び第2液22の混合を促すスタティックミキサーが設けられている。先受け鋼管3の管壁の各所には、吐出穴3dが形成されている。
【0017】
トンネル補助工法用注入装置10は、冬季や寒冷地においての使用に適しており、次のように作動される。
<第1加熱工程>
第1タンク11内の第1液21(特殊珪酸ソーダ)を第1ヒータ31によって加熱する。これによって、例えば10℃前後の第1液21を20℃前後の設定温度近くまで加温することができる。或いは、外気温(℃)が一桁台ないしは氷点下であっても、第1液21を10℃以上に加温することができる。後記混合工程の前に第1加熱工程を行なうことによって、第1液21(特殊珪酸ソーダ)の加熱時間を十分に確保できる。
【0018】
<第2加熱工程>
第2タンク12内の第2液22(変性ポリイソシアネート)を第2ヒータ32によって加熱する。これによって、例えば10℃前後の第2液22を20℃前後の設定温度近くまで加温することができる。或いは、外気温(℃)が一桁台ないしは氷点下であっても、第2液22を10℃以上に加温することができる。後記混合工程の前に第2加熱工程を行なうことによって、第2液22(変性ポリイソシアネート)の加熱時間を十分に確保できる。
【0019】
<第1送出工程>
第1注入ポンプ43の駆動によって、第1タンク11における加熱された第1液21を第1個別注入管部41へ送り出す。送出された分の第1液21を、第1液供給源13から第1タンク11に供給する。これによって、第1タンク11内の第1液21の貯留量が一定に保たれる。
【0020】
<第2送出工程>
第2注入ポンプ44の駆動によって、第2タンク12における加熱された第2液22を第2個別注入管部42へ送り出す。送出された分の第2液22を、第2液供給源14から第2タンク12に供給する。これによって、第2タンク12内の第2液22の貯留量が一定に保たれる。
【0021】
<混合工程>
第1個別注入管部41の加熱された第1液21と、第2個別注入管部42の加熱された第2液22とが、合流部45において合流される。これによって、第1液21の特殊珪酸ソーダと第2液22の変性ポリイソシアネートとが混合されて、発泡反応すなわちシリカレジン系注入材20の生成反応が開始される。
【0022】
<注入工程>
シリカレジン系注入材20は、発泡しながら、合流注入管部46ひいては先受け鋼管3の内部を通り、吐出穴3dから地山2へ注入される。
外気温が低い冬季や寒冷地であっても、注入材原料の特殊珪酸ソーダ(第1液21)と変性ポリイソシアネート(第2液22)とが、それぞれ混合前に予め加温されているため、シリカレジン系注入材20を短時間で十分に発泡させることができる。特殊珪酸ソーダ(第1液21)及び変性ポリイソシアネート(第2液22)の両方が予め加温されているため、シリカレジン系注入材20を確実に短時間で十分に発泡させることができる。すなわち、発泡(硬化)時間を短くでき、かつ発泡倍率を高くすることができる。例えば、外気温が10℃程度であっても、発泡時間を70秒前後(70秒±20秒程度)とすることができる。
この結果、外気温が低くても、注入材20をバラツキなく安定的に注入でき、施工品質を確保することができる。
【0023】
次に、本発明の他の実施形態を説明する。以下の実施形態において既述の形態と重複する構成に関しては、図面に同一符号を付して説明を省略する。
<第2実施形態(
図2)>
図2に示すように、第2実施形態に係るトンネル補助工法用注入装置10Bにおいては、注入材として、セメント系注入材50が用いられている。セメント系注入材50は、セメント52a、減水材52b、急硬材51a、凝結調整剤51b、及び水wを成分として含む。急硬材51aと凝結調整剤51bとが、水wと一緒に混ぜられて、第1液51(A液)となり、第1タンク61に溜められている。セメント52aと減水材52bとが、水wと一緒に混ぜられて、第2液52(B液)となり、第2タンク62に溜められている。
【0024】
第1タンク61は、上側タンク部61aと、下側タンク部61bを含む。上側タンク部61aに、第1ヒータ31と、第1温度センサ33と、第1攪拌機15が設けられている。第1液51が、上側タンク部61aに投入されて、第1ヒータ31によって設定温度近くまで加温される。
【0025】
上側タンク部61aの底部にはホッパー61cが設けられている。ホッパー61cが、下側タンク部61bの開口された上面部に挿し入れられている。下側タンク部61bから第1個別注入管部41が延びている。
【0026】
ホッパー61cのシャッター61dが開かれることで、上側タンク部61aにおける前記加温された第1液51の一部又は全部が、下側タンク部61bへ移される。さらに、第1液51が下側タンク部61bから第1個別注入管部41へ送出される。
【0027】
第2タンク62は、上側タンク部62aと、下側タンク部62bを含む。上側タンク部62aに、第2ヒータ32と、第2温度センサ34と、第2攪拌機16が設けられている。第2液52が、上側タンク部62aに投入されて、第2ヒータ32によって設定温度近くまで加温される。
【0028】
上側タンク部62aの底部にはホッパー62cが設けられている。ホッパー62cが、下側タンク部62bの開口された上面部に挿し入れられている。下側タンク部62bから第2個別注入管部42が延びている。
【0029】
ホッパー62cのシャッター62dが開かれることで、上側タンク部62aにおける前記加温された第2液52の一部又は全部が、下側タンク部62bへ移される。さらに、第2液52が下側タンク部62bから第2個別注入管部42へ送出される。
これによって、第1液51及び第2液52が、合流部45で合流して混合されることによってセメント系注入材50となる。該セメント系注入材50が、合流注入管部46ひいては先受け鋼管3から地山2へ注入されて硬化される。
第1液51及び第2液52は、合流される前に予め加温されているから、冬季や寒冷地で環境温度が低いときでも、セメント系注入材50をバラツキなく安定的に注入して硬化させることができ、施工品質を向上できる。
【0030】
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の改変をなすことができる。
例えば、発泡性注入材としては、シリカレジン系注入材20(
図1)に限らず、ウレタン系注入材であってもよい。
トンネル補助工法としては、AGF工法(長尺先受け鋼管工法)に限らず、鏡ボルト工法であってもよい。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明は、例えば、NATMトンネル施工の際の補助工法に適用できる。
【符号の説明】
【0032】
1 NATMトンネル
2 地山
3 先受け鋼管
10,10B トンネル補助工法用注入装置
11 第1タンク
12 第2タンク
20 シリカレジン系注入材
21 第1液(特殊珪酸ソーダ)
22 第2液(変性ポリイソシアネート)
30 加温システム
31 第1ヒータ
32 第2ヒータ
33 第1温度センサ
34 第2温度センサ
35 コントローラ
40 注入管
41 第1個別注入管部
42 第2個別注入管部
43 第1注入ポンプ
44 第2注入ポンプ
45 合流部
46 合流注入管部
50 セメント系注入材
51 第1液(A液)
52 第2液(B液)
61 第1タンク
62 第2タンク