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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140054
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】ヘモグロビンFの測定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/88 20060101AFI20230927BHJP
   G01N 30/86 20060101ALI20230927BHJP
   G01N 30/02 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
G01N30/88 Q
G01N30/86 J
G01N30/02 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045897
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 一輝
(57)【要約】
【課題】血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、HbFをより正確に測定する。
【解決手段】HbA1cを含み、かつ、HbFが全ヘモグロビンに対し所定の含有率未満であることが既知の第一の血液検体群を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、HbA1cピーク値と、HbA1aピーク及びHbA1bピークを含む合成ピーク値との相関式である第一相関式をあらかじめ決定し、測定対象の血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムのHbA1cピーク値を第一相関式に当て嵌めて得られた合成ピーク値を、当該血液検体のHbA1aピーク及びHbA1bピークを含む合成ピーク値から減じて修飾HbFピーク値を算出し、前記修飾HbFピーク値を当該血液検体のHbFピーク値に加算して当該HbFピーク値を補正する。
【選択図】図8
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘモグロビンA1cを含み、かつ、ヘモグロビンFが全ヘモグロビンに対し所定の含有率未満であることが既知の第一の血液検体群を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンA1cピーク値と、ヘモグロビンA1aピーク及びヘモグロビンA1bピークを含む合成ピーク値との相関式である第一相関式をあらかじめ決定し、
測定対象の血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムのヘモグロビンA1cピーク値を前記第一相関式に当て嵌めて得られた合成ピーク値を、当該血液検体のヘモグロビンA1aピーク及びヘモグロビンA1bピークを含む合成ピーク値から減じて修飾ヘモグロビンFピーク値を算出し、
前記修飾ヘモグロビンFピーク値を当該血液検体のヘモグロビンFピーク値に加算して当該ヘモグロビンFピーク値を補正する、ヘモグロビンFの測定方法。
【請求項2】
ヘモグロビンA1cを含み、かつ、ヘモグロビンFが全ヘモグロビンに対し所定の含有率未満であることが既知の第一の血液検体群を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンA1cピーク値と、ヘモグロビンA1aピーク及びヘモグロビンA1bピークを含む合成ピーク値との相関式である第一相関式をあらかじめ決定し、
ヘモグロビンA1c及びヘモグロビンFを含むことが既知の第二の血液検体群を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンA1cピーク値を前記第一相関式に当て嵌めて合成ピーク値を得て、当該第二の血液検体群の、ヘモグロビンA1aピーク及びヘモグロビンA1bピークを含む合成ピーク値から前記合成ピーク値を減じて当該第二の血液検体群の修飾ヘモグロビンFピーク推定値を得て、当該第二の血液検体群のヘモグロビンFピーク値と前記修飾ヘモグロビンFピーク推定値を用いて、ヘモグロビンFピーク値と修飾ヘモグロビンFピーク値との相関式である第二相関式をあらかじめ決定し、
測定対象の血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムのヘモグロビンFピーク値を前記第二相関式に当て嵌めて修飾ヘモグロビンFピーク値を算出し、
前記修飾ヘモグロビンFピーク値を当該血液検体のヘモグロビンFピーク値に加算して当該ヘモグロビンFピーク値を補正する、ヘモグロビンFの測定方法。
【請求項3】
ヘモグロビンA1cを含み、かつ、ヘモグロビンFが全ヘモグロビンに対し所定の含有率未満であることが既知の第一の血液検体群を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンA1cピーク値と、ヘモグロビンA1aピーク及びヘモグロビンA1bピークを含む合成ピーク値との相関式である第一相関式をあらかじめ決定し、
ヘモグロビンA1c及びヘモグロビンFを含むことが既知の第二の血液検体群を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンA1cピーク値を前記第一相関式に当て嵌めて合成ピーク値を得て、当該第二の血液検体群の、ヘモグロビンA1aピーク及びヘモグロビンA1bピークを含む合成ピーク値から前記合成ピーク値を減じて当該第二の血液検体群の修飾ヘモグロビンFピーク推定値を得て、当該第二の血液検体群のヘモグロビンFピーク値と前記修飾ヘモグロビンFピーク推定値を用いて、ヘモグロビンFピーク値と修飾ヘモグロビンFピーク値との相関式である第二相関式をあらかじめ決定し、
測定対象の血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムがヘモグロビンA1cピークを有する場合、
当該血液検体のヘモグロビンA1cピーク値を前記第一相関式に当て嵌めて得られた合成ピーク値を、当該血液検体のヘモグロビンA1aピーク及びヘモグロビンA1bピークを含む合成ピーク値から減じて修飾ヘモグロビンFピーク値を算出し、
前記修飾ヘモグロビンFピーク値を当該血液検体のヘモグロビンFピーク値に加算して当該ヘモグロビンFピーク値を補正し、
測定対象の血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムがヘモグロビンA1cピークを有しない場合、
当該血液検体のヘモグロビンFピーク値を前記第二相関式に当て嵌めて修飾ヘモグロビンFピーク値を算出し、
前記修飾ヘモグロビンFピーク値を当該血液検体のヘモグロビンFピーク値に加算して当該ヘモグロビンFピーク値を補正する、ヘモグロビンFの測定方法。
【請求項4】
前記第二相関式の代わりに、当該第二の血液検体群のヘモグロビンFピーク値と、当該ヘモグロビンFピーク値及び前記修飾ヘモグロビンFピーク推定値の合計値との相関式である第三相関式をあらかじめ決定し、
測定対象の血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムのヘモグロビンFピーク値を、前記第二相関式の代わりに前記第三相関式に当て嵌めて、当該ヘモグロビンFピーク値を補正する、請求項2又は請求項3に記載のヘモグロビンFの測定方法。
【請求項5】
前記液体クロマトグラフィーは陽イオン交換クロマトグラフィーである、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検体中のヘモグロビンFの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液検体中の各種ヘモグロビンは、高速液体クロマトグラフィーなどの分離分画法において測定することが可能である。ヘモグロビンの一種であるヘモグロビンF(HbF)の測定値は、異常ヘモグロビン症やサラセミア症の診断材料となるため、高い正確性が求められている。液体クロマトグラフィーを用いたヘモグロビンFの測定方法としては、下記特許文献1に開示されている方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2014-235023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
血液検体を陽イオン交換液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムでは、HbFピークよりもカラムからの溶出速度の早い側に、ヘモグロビンA(HbA)の糖化物であるヘモグロビンA1(HbA1)のうち、ヘモグロビンA1a(HbA1a)ピーク及びヘモグロビンA1b(HbA1b)ピークが重なったピークである合成ピークが現れる。
【0005】
そこで本開示の実施態様は、血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、HbFをより正確に測定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
HbAが糖化されるとHbA1cとなるように、HbFも糖化などの修飾を受けて修飾型HbFとなると推測される。修飾型HbFもHbFの一種であるため、HbFをより正確に測定するためには修飾型HbFのピーク値も測定する必要がある。発明者の実験では、この合成ピークの大きさは、HbFピークの大きさに応じて変化することが観察された。この観察結果から、この合成ピークには、HbFの修飾物も含まれていることが推察された。合成ピークに含まれるHbA1aとHbA1bと修飾型HbFの電荷や大きさは互いに近いため、HbA1aとHbA1bと修飾型HbFを陽イオン交換クロマトグラフィーで分離するのは困難であり、修飾型HbFのピーク値を正確に測定できない。その結果、血液検体中のHbF総量(換言すると、修飾されてないHbF濃度と修飾型HbF濃度との合計濃度)の測定ができない。
【0007】
本開示の一態様のHbFの測定方法は、HbA1cを含み、かつ、HbFが全ヘモグロビンに対し所定の含有率未満であることが既知の第一の血液検体群を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、HbA1cピーク値と、HbA1aピーク及びHbA1bピークを含む合成ピーク値との相関式である第一相関式をあらかじめ決定し、測定対象の血液検体のHbA1cピーク値を第一相関式に当て嵌めて得られた合成ピーク値を、当該血液検体のHbA1aピーク及びHbA1bピークを含む合成ピーク値から減じて修飾HbFピーク値を算出し、この修飾HbFピーク値を当該血液検体のHbFピーク値に加算して当該HbFピーク値を補正する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の実施態様によれば、血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、HbFをより正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】血液検体を高速液体クロマトグラフィーに供して得られるヘモグロビンのクロマトグラムの例を模式的に示す。
図2】通常検体におけるHbFピークと合成ピークとの関係を模式的に示す。
図3】高HbF検体におけるHbFピークと合成ピークとの関係を模式的に示す。
図4】血液検体1を高速液体クロマトグラフィーに供して得られたクロマトグラムである。
図5】血液検体2を高速液体クロマトグラフィーに供して得られたクロマトグラムである。
図6】血液検体3を高速液体クロマトグラフィーに供して得られたクロマトグラムである。
図7】血液検体4を高速液体クロマトグラフィーに供して得られたクロマトグラムである。
図8】健常人の血液検体群を高速液体クロマトグラフィーに供して得られたクロマトグラムにおける、HbA1cピーク値と、HbA1aピーク及びHbA1bピークを含む合成ピーク値との相関関係を示す散布図である。
図9】HbFを含むことが既知な血液検体群を高速液体クロマトグラフィーに供して得られたクロマトグラムにおける、HbFピーク値と修飾HbFピーク値との相関関係を示す散布図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本開示における実施形態を、図面を参照しつつ説明する。各図において共通する符号は、特段の説明がなくとも同一の部分を指し示す。なお、本開示における「ピーク値」とは、クロマトグラムで認められる各ピークの高さ又は面積であり、相対値を用いることができ、絶対値を用いることもできる。この相対値は、クロマトグラムの面積の全体に帯する比率であってもよいし、クロマトグラムに占めるヘモグロビンに関するピーク面積の全体に対する比率であってもよいし、あるいは、特定のピーク(たとえば、HbA0ピーク)の面積に対する比率であってもよい。
【0011】
(1)第一実施形態
血液検体を陽イオン交換液体クロマトグラフィーに供すると、たとえば図1に模式的に示すようなヘモグロビンのクロマトグラムが得られる。このクロマトグラムでは、カラムからの溶出速度の速い順に、HbA1aピーク11及びHbA1bピーク12(図2及び図3参照)を含む合成ピーク10、HbFピーク20、不安定型HbA1cピーク30、HbA1cピーク40、HbA0ピーク50及びHbA2ピーク60(図4図7を参照)が認められる。
【0012】
HbFピーク値が1%未満である通常の血液検体のクロマトグラムを図2に、また、高HbF血症患者の血液検体のクロマトグラムを図3に、それぞれ模式的に示す。両図でほぼ同じ大きさのHbA1cピーク40と比較して分かるように、図3のクロマトグラムのHbFピーク20は、図2のクロマトグラムのHbFピーク20より高くなっている。このとき、図3のクロマトグラムの合成ピーク10もまた、図2のクロマトグラムの合成ピーク10よりも高くなっている。
【0013】
ここで、合成ピーク10には、HbAの糖化物であるHbA1のうち、図2に示すように、HbA1aピーク11及びHbA1bピーク12が含まれている。そして、図3に示すようにHbFピーク20が増大すると合成ピーク10が増大する。この合成ピーク10は糖化物であるHbA1aピーク11及びHbA1bピーク12が含まれているため、この合成ピーク10の増大分は、図3に示すように、HbFの修飾物である修飾HbFピーク13の増大によるものと考えられる。一方、図2に示す通常検体では修飾HbFピーク13はごくわずかであり、合成ピーク10の大部分はHbA1aピーク11及びHbA1bピーク12で占められていると考えられる。
【0014】
一方、図2に示すような通常検体でも、図3に示すような高HbF検体でも、HbA1cピーク40に対するHbA1aピーク11値及びHbA1bピーク12値の合計の割合はほぼ一定であると仮定する。この仮定の下、通常検体において、HbA1cピーク40のピーク値と合成ピーク10のピーク値(実質的にHbA1aピーク11のピーク値及びHbA1bピーク12のピーク値の合計値)との相関関係を見出せば、この相関関係を高HbF検体のHbA1cピーク40に当て嵌めて合成ピーク10中のHbA1aピーク11及びHbA1bピーク12の合計を算出することができる。HbA1aピーク11のピーク値及びHbA1bピーク12のピーク値の合計値と合成ピーク10のピーク値との差は修飾HbFピーク13値に基づく。そしてその算出した合計を、図3に示すクロマトグラム中の合成ピーク10から差し引くことで、修飾HbFピーク13を算出することができると考えられる。そして、後述の実施例(図8参照)に示すように、複数の通常検体について、HbA1cピーク40と合成ピーク10との間には高い相関関係があることが分かった。
【0015】
この相関関係に基づき、本開示の第一実施形態のHbFの測定方法は、HbA1cを含み、かつ、HbFを含まないことが既知の第一の血液検体群を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、HbA1cピーク値と、HbA1aピーク及びHbA1bピークを含む合成ピーク値との相関式である第一相関式をあらかじめ決定し、測定対象の血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムのHbA1cピーク値を前記第一相関式に当て嵌めて得られた合成ピーク値を、当該血液検体のHbA1aピーク及びHbA1bピークを含む合成ピーク値から減じて修飾HbFピーク値を算出し、修飾HbFピーク値を当該血液検体のHbFピーク値に加算して当該HbFピーク値を補正する。当該HbFピーク値は血液検体に含まれるHbF濃度と相関するので、当該HbFピーク値に基づいて、たとえば血液検体に含まれるHbF濃度や全ヘモグロビン量に対するHbF量の割合などを求めることができる。
【0016】
具体的には、HbA1cを含み、かつ、HbFが全ヘモグロビンに対し所定の含有率未満であることが既知の複数の血液検体について、HbA1cピーク値と合成ピーク値(実質的にHbA1aピーク値とHbA1bピーク値との合計)との相関関係から、第一相関式を決定する。なお、ここでいう「所定の含有率」とは、HbFピーク値が正常値以下(たとえば、全ヘモグロビンのピーク値の5%、望ましくは3%、さらに望ましくは1%とすることができる。この「HbFが全ヘモグロビンに対し所定の含有率未満であることが既知の複数の血液検体」は、液体クロマトグラフィーで血液検体に含まれるヘモグロビンを分離分析したときに得られるHbFピーク値が上記所定の含有率未満を示す血液検体として得てもよく、また、たとえば、液体クロマトグラフィー以外の測定原理(たとえばキャピラリー電気泳動)を用いた分析によりヘモグロビンFの含有量が全ヘモグロビンに対し所定の含有率未満であることが示された血液検体として得てもよい。この第一相関式は、HbA1cピーク値を変数xとして、合成ピーク値を変数yとすれば、下記式(1)のように表される。
【0017】
y=ax+b ・・・(1)
x:HbA1cピーク値(変数)
y:合成ピーク値(変数)
:傾き(定数)
:切片(定数)
【0018】
そして、測定対象の血液検体から得たクロマトグラムからHbA1cピーク値を求め、これを上記式(1)の変数xに代入して、算出された変数yとして合成ピーク値が推定される。この算出された合成ピーク値の推定値を、クロマトグラムに表れた合成ピーク10から得られた(すなわち、クロマトグラムに表れた合成ピーク10を用いて測定された)合成ピーク値から減じることで、合成ピーク10に含まれる修飾HbFピーク値が算出される。そして、この算出された修飾HbFピーク値を、クロマトグラムから得られたHbFピーク20のピーク値に加算することで、当該HbFピーク値を補正して、血液検体中の真のHbFピーク値が推定される。修飾HbFピーク値は下記式(2)のように表され、修飾HbFピーク値をwとし、HbFピーク値を変数zとすれば、真のHbFピーク値(v)は下記式(3)のように表される。
【0019】
w=y-(ax+b) ・・・(2)
v=z+w=z+(y-(ax+b)) ・・・(3)
v:真のHbFピーク値(変数)
w :修飾HbFピーク値(変数)
x :HbA1cピーク値(変数)
y :合成ピーク値(変数)
z :HbFピーク値(変数)
:傾き(定数)
:切片(定数)
【0020】
(2)第二実施形態
上記第一実施形態では、測定対象の血液検体にHbA1cが含まれることを前提としているが、HbA1cが含まれない血液検体や、HbA1cが検出されない血液検体では第一相関式にHbA1cピーク値を当て嵌めることができない。
【0021】
そこで、第二実施形態のHbFの測定方法では、上述の第一実施形態で示したように第一相関式をあらかじめ決定し、さらに、HbA1c及びHbFを含むことが既知の第二の血液検体群を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、HbA1cピーク値を前記第一相関式に当て嵌めて合成ピーク値を得て、当該第二の血液検体群の、HbA1aピーク及びHbA1bピークを含む合成ピーク値から前記合成ピーク値を減じて当該第二の血液検体群の修飾HbFピーク推定値を得て、当該第二の血液検体群のHbFピーク値と前記修飾HbFピーク推定値との相関式である第二相関式をあらかじめ決定し、測定対象の血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムのHbFピーク値を前記第二相関式に当て嵌めて修飾HbFピーク値を算出し、前記修飾HbFのピーク値を当該血液検体のHbFピーク値に加算して当該HbFピーク値を補正する。
【0022】
具体的には、まず、上述の第一実施形態で述べたとおりに、上記式(1)で表される第一相関式が決定される。
【0023】
次いで、HbA1c及びHbFがいずれも含まれることが既知である複数の血液検体のクロマトグラムについて、まずHbA1cピーク値を求め、これを上記式(1)の変数xに代入して、算出された変数yとして合成ピーク値が推定される。この算出された合成ピーク値を、クロマトグラムに表れた合成ピーク10から得られた(すなわち、クロマトグラムに表れた合成ピーク10を用いて測定された)合成ピーク値から減じることで、合成ピーク10に含まれる修飾HbFピーク値が算出される。一方、同じクロマトグラムからHbFピーク値を得て、このHbFピーク値と、算出された修飾HbFピーク値との相関関係から、第二相関式を決定する。この第二相関式は、HbFピーク値を変数zとして、修飾HbFピーク値をwとすれば、下記式(4)のように表される。
【0024】
w=az+b ・・・(4)
w :修飾HbFピーク値(変数)
z :HbFピーク値(変数)
:傾き(定数)
:切片(定数)
【0025】
そして、測定対象の血液検体から得たクロマトグラムからHbFピーク値を求め、これを上記式(4)の変数zに代入して、変数wとして修飾HbFピーク値が算出される。そして、この算出された修飾HbFピーク値を、クロマトグラムから得られたHbFピーク値に加算することで、当該HbFピーク値を補正して、血液検体中の真のHbFピーク値が推定される。血液検体中の真のHbFピーク値(v)は下記式(5)のように表される。
【0026】
v=z+w=z+(az+b) ・・・(5)
v:真のHbFピーク値(変数)
w:修飾HbFピーク値(変数)
z:HbFピーク値(変数)
:傾き(定数)
:切片(定数)
【0027】
なお、上述の第二相関式の代わりに、HbFピーク値と、補正HbFピーク値(HbFピーク値と修飾HbFピーク値との合計)との相関関係から、第三相関式を決定することとしてもよい。この第三相関式は、HbFピーク値を変数zとして、真のHbFピーク値である補正HbFピーク値をvとすれば、下記式(6)のように表される。
【0028】
v=az+b ・・・(6)
v :真のHbFピーク値(変数)
z :HbFピーク値(変数)
:傾き(定数)
:切片(定数)
【0029】
そして、測定対象の血液検体から得たクロマトグラムからHbFピーク値を求め、これを上記式(5)又は上記式(6)の変数zに代入して、算出された変数vとして、補正HbFピーク値、すなわち、血液検体中の真のHbFピーク値が推定される。
【0030】
(3)第三実施形態
上述の第一実施形態は、HbA1cが含まれている血液検体に適している。また、上述の第二実施形態は、HbA1cが含まれていない血液検体に適している。よって、クロマトグラムにHbA1cが含まれているか否かによって、上述の第一実施形態の測定方法と、上述の第二実施形態の測定方法とを使い分けるのが望ましい。
【0031】
すなわち、第三実施形態のHbFの測定方法では、上述の第一実施形態で示したように第一相関式をあらかじめ決定し、また、上述の第二実施形態で示したように第二相関式をあらかじめ決定する。そして、測定対象の血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られる対象クロマトグラムがHbA1cピークを有する場合、上述の第一実施形態で示したように当該血液検体のHbFピーク値を補正する。一方、測定対象の血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られる対象クロマトグラムがHbA1cピークを有しない場合、上述の第一実施形態で示したように当該血液検体のHbFピーク値を補正する。
【実施例0032】
(1)液体クロマトグラフィー装置
市販の高速液体クロマトグラフィーの装置に、メタクリル酸エステル共重合体からなる親水性ポリマーを充填した市販の陽イオン交換クロマトカラムを接続した。陽イオン交換クロマトカラムの下流の流路の所定の位置に、流路を流れるヘモグロビンの濃度を検出する光学検出器(具体的には吸光度計)を取り付けた。
【0033】
(2)溶離液
3種類の溶離液を、下記表1に示すとおりの組成の水溶液として調整した。
【0034】
【表1】
【0035】
なお、溶離液AはpH5.08に調整し、溶離液BはpH8.0に調整し、溶離液CはpH6.82に調整した。これらの溶離液のヘモグロビンの溶出力は、溶離液Aが最も小さく、溶離液Bが最も大きかった。
【0036】
(3)クロマトグラム
上記(1)の液体クロマトグラフィー装置に溶離液Aを流してカラムを平衡化した。その後、溶血した血液検体をカラムに導入した。その後、溶離液Aを13秒間流してHbA1a、HbA1b、HbF及びHbA1c溶出した。次いで、溶離液A及び溶離液Cを1:9で混合した液を5秒間流してHbA0を溶出した。次いで、溶離液Cを5秒間流してHbA2を溶出した。そして、溶離液Bを2秒間流してカラムに残ったヘモグロビンを全て溶出したのち、溶離液Aを5秒流した。この溶出の間、検出波長420nmで光学検出器より得られた吸光度からクロマトグラムを作成した。
【0037】
得られたクロマトグラムの例を、図4図7に示す。これらの図からも明らかなように、HbFピーク20の面積(HbFピーク値)が大きいほど、合成ピーク10の面積(合成ピーク値)は大きくなった。よって、HbA1aピーク11及びHbA1bピーク12(図3参照)を含むことが知られている合成ピーク10は、修飾HbFピーク13(図3参照)を含むことが強く推測された。
【0038】
(4)第一相関式
第一相関式を決定するために、健常者の血液検体(HbFピーク値が全ヘモグロビンのピーク値の1%未満を示す血液検体)66人分を用意した。これらの血液検体からそれぞれクロマトグラムを得て、各々でHbA1cピーク値と合成ピーク値とを測定したところ、図8の散布図に示すような相関関係があることが分かった。なお、グラフの横軸はHbA1cピーク値を示し、縦軸は合成ピーク値(すなわち、HbA1aピーク値とHbA1bピーク値との合計)を示す。また、図8中の破線の直線で表される第一相関式は、HbA1cピーク値を変数xとして、合成ピーク値を変数yとすると下記式(7)のとおりであった。この第一相関式の相関係数(r)は0.8951であった。
【0039】
y=0.1475x+0.8048 ・・・(7)
x :HbA1cピーク値(変数)
y :合成ピーク値(変数)
【0040】
なお、このようにHbA1aとHbA1bとを含む合成ピーク10とHbA1cピーク40とが相関関係を示すのは、HbA1a、HbA1b、HbA1cはいずれもHbA0の糖化物であり、HbA0の糖化によって生じるHbA1a、HbA1b、HbA1cのそれぞれの比率はほぼ一定であるからだと推測される。
【0041】
そして、測定対象の血液検体から得たクロマトグラムから、HbA1cピーク値を測定して、これを変数xとして上記式(7)に代入して、変数yとしてHbA1aピーク値とHbA1bピーク値との合計値(以下、「AB値」とする。)が算出される。クロマトグラムから測定された合成ピーク値とこのAB値の差は修飾HbFピーク値に基づく。そこでこのAB値を、クロマトグラムから測定された合成ピーク値から減じて、修飾HbFピーク値が算出される。そして、この算出された修飾HbFピーク値を、クロマトグラムから測定されたHbFピーク値に加えた値が、当該血液検体の正しいHbFピーク値であると推測される。
【0042】
(2)第二相関式
第二相関式を決定するために、健常者の血液検体(HbFピーク値が全ヘモグロビンのピーク値の1%未満を示す血液検体)66人分及び高HbF症患者の血液検体48人分を用意した。これらの血液検体からそれぞれクロマトグラムを得た。これらのクロマトグラムから、HbA1cピーク値を測定して、これを変数xとして上記式(7)に代入して、変数yとしてAB値を算出した。さらに、このAB値を、クロマトグラムから測定された合成ピーク値から減じて、修飾HbFピーク値を算出した。そして、これらのクロマトグラムから測定されHbFピーク値と、算出された修飾HbFピーク値との間には、図9の散布図に示すような相関関係があることが分かった。なお、グラフの横軸はHbFピーク値を示し、縦軸は修飾HbFピーク値を示す。また、図9中の破線の直線で表される第二相関式は、HbFピーク値を変数zとして、修飾HbFピーク値を変数wとすると下記式(8)のとおりであった。この第一相関式の相関係数(r)は0.9697であった。
【0043】
w=0.2323z ・・・(8)
【0044】
そして、測定対象の血液検体から得たクロマトグラムから、HbFピーク値を測定して、それを変数zとして上記式(8)に代入して、変数wとして修飾HbFピーク値が算出される。そして、この算出された修飾HbFピーク値を、クロマトグラムから測定されたHbFピーク値に加えた値が、当該血液検体の正しいHbFピーク値であると推測される。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、液体クロマトグラフィーを用いた血液検体中のHbFの測定に利用可能である。
【符号の説明】
【0046】
10 合成ピーク
11 HbA1aピーク
12 HbA1bピーク
13 修飾HbFピーク
20 HbFピーク
30 不安定型HbA1cピーク
40 HbA1cピーク
50 HbA0ピーク
60 HbA2ピーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9