(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140055
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】ヘモグロビンFの測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/88 20060101AFI20230927BHJP
G01N 30/86 20060101ALI20230927BHJP
G01N 30/02 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
G01N30/88 Q
G01N30/86 J
G01N30/02 Z
G01N30/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045898
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000141897
【氏名又は名称】アークレイ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 一輝
(57)【要約】
【課題】血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラフから、HbFをより正確に測定する。
【解決手段】血液検体を液体クロマトグラフィーに付して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンピーク全体のピーク値に対するHbFピークのピーク値の割合を算出し、前記割合に所定の係数を乗じて、ヘモグロビンピーク全体に対するHbFピークの修正値を算出する。
【選択図】
図12
【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液検体を液体クロマトグラフィーに付して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンピーク全体のピーク値に対するヘモグロビンFピークのピーク値の割合を算出し、
前記割合に所定の係数を乗じて、ヘモグロビンピーク全体に対するヘモグロビンFピークの修正値を算出する、ヘモグロビンFの測定方法。
【請求項2】
前記係数は1.15以上1.25未満である、請求項1に記載のヘモグロビンFの測定方法。
【請求項3】
前記係数は1.2である、請求項2に記載のヘモグロビンFの測定方法。
【請求項4】
前記液体クロマトグラフィーは陽イオン交換クロマトグラフィーである、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のヘモグロビンFの測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液検体中のヘモグロビンFの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
血液検体中の各種ヘモグロビンは、高速液体クロマトグラフィーやキャピラリー電気泳動などの分離分画法において測定することが可能である。ヘモグロビンの一種であるヘモグロビンF(HbF)の測定値は、異常ヘモグロビン症やサラセミア症の診断材料となるため、高い正確性が求められている。HbFの測定はキャピラリー電気泳動で行われることが多く、キャピラリー電気泳動で測定されたHbFの測定値が診断材料として用いられることが多い。液体クロマトグラフィーを用いたヘモグロビンFの測定方法としては、下記特許文献1に開示されている方法が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液体クロマトグラフィーで得られるヘモグロビンのクロマトグラムで見られる成分ピークは、キャピラリー電気泳動で得られるヘモグロビンの分析チャートで見られる成分ピークと概ね比率が一致するが、HbFピークのみ、両者の間で乖離が見られる。具体的には、液体クロマトグラフィーでのHbFピークの比率は、キャピラリー電気泳動でのHbFピークの比率より小さい。
【0005】
そこで本開示の実施態様は、血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラムから、HbFをより正確に測定することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様のHbFの測定方法は、血液検体を液体クロマトグラフィーに付して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンピーク全体に対するHbFピークの割合を算出し、前記割合に所定の係数を乗じて、ヘモグロビンピーク全体に対するHbFピークの修正値を算出する。
【発明の効果】
【0007】
本発明の実施態様によれば、血液検体を液体クロマトグラフィーに供して得られるクロマトグラフから、HbFをより正確に測定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】血液検体を高速液体クロマトグラフィーに供して得られるヘモグロビンのクロマトグラフの例を模式的に示す。
【
図2】通常検体におけるHbFピークと合成ピークとの関係を模式的に示す。
【
図3】高HbF検体におけるHbFピークと合成ピークとの関係を模式的に示す。
【
図4】通常検体をキャピラリー電気泳動に供して得られるヘモグロビンの分析チャートを模式的に示す。
【
図5】高HbF検体をキャピラリー電気泳動に供して得られるヘモグロビンの分析チャートを模式的に示す。
【
図6】装置1を第一モードで使用して得られたクロマトグラムの例を示す。
【
図7】装置1を第二モードで使用して得られたクロマトグラムの例を示す。
【
図8】装置2を使用して得られた血液検体のクロマトグラムの例を示す。
【
図9】装置3を第一モードで使用して得られた血液検体のクロマトグラムの例を示す。
【
図10】装置3を第二モードで使用して得られた血液検体のクロマトグラムの例を示す。
【
図11】キャピラリー電気泳動装置を使用して得られた血液検体の分析チャートの例を示す。
【
図12】液体クロマトグラフィーで得られたHbFピーク値と、キャピラリー電気泳動で得られたHbFピーク値との相関関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示における実施形態を、図面を参照しつつ説明する。各図において共通する符号は、特段の説明がなくとも同一の部分を指し示す。なお、本開示における「ピーク値」とは、クロマトグラムで認められる各ピークの高さ又は面積であり、相対値を用いることができ、絶対値を用いることもできる。この相対値は、クロマトグラムの面積の全体に帯する比率であってもよいし、クロマトグラムに占めるヘモグロビンに関するピーク面積の全体に対する比率であってもよいし、あるいは、特定のピーク(たとえば、HbA0ピーク)の面積に対する比率であってもよい。
【0010】
血液検体を液体クロマトグラフィーに供すると、たとえば
図1に模式的に示すようなヘモグロビンのクロマトグラフが得られる。このクロマトグラフでは、カラムからの溶出速度の速い順に、HbA1aピーク11及びHbA1bピーク12(
図2及び
図3参照)を含む合成ピーク10、HbFピーク20、不安定型HbA1cピーク30、HbA1cピーク40、HbA0ピーク50及びHbA2ピーク60(
図8を参照)が認められる。
【0011】
HbFピーク値が1%未満である通常の血液検体のクロマトグラフを
図2に、また、高HbF血症患者の血液検体のクロマトグラフを
図3に、それぞれ模式的に示す。両図でほぼ同じ大きさのHbA1cピーク30と比較して分かるように、
図3のクロマトグラフのHbFピーク20は、
図2のクロマトグラフのHbFピーク20より高くなっている。このとき、
図3のクロマトグラフの合成ピーク10もまた、
図2のクロマトグラフの合成ピーク10よりも高くなっている。
【0012】
ここで、合成ピーク10には、HbAの糖化物であるHbA1のうち、
図2に示すように、HbA1aピーク11及びHbA1bピーク12が含まれている。そして、
図3に示すようにHbFピーク20が増大すると合成ピーク10が増大する。この合成ピーク10は糖化物であるHbA1aピーク11及びHbA1bピーク12が含まれているため、この合成ピーク10の増大分は、
図3に示すように、HbFの修飾物である修飾HbFピーク13の増大によるものと考えられる。一方、
図2に示す通常検体では修飾HbFピーク13はごくわずかであり、合成ピーク10の大部分はHbA1aピーク11及びHbA1bピーク12で占められていると考えられる。
【0013】
次に、HbFピーク値が1%未満である通常の血液検体をキャピラリー電気泳動に供して得られた分析チャートを
図4に、また、高HbF血症患者の血液検体をキャピラリー電気泳動に供して得られた分析チャートを
図5に、それぞれ模式的に示す。両図に示すように、HbAピーク100、HbFピーク120、HbA2ピーク160の順番に分析チャートにピークが出現する。両図を比較して分かるように、
図5のクロマトグラフのHbFピーク120は、
図4のクロマトグラフのHbFピーク120より高くなっている。しかし、
図4のHbAピーク100とHbA2ピーク160の大きさは、
図5のHbAピーク100とHbA2ピーク160の大きさとほぼ同じである。このことから、キャピラリー電気泳動のHbFピーク120には、修飾HbFピーク値も含まれていることが推測される。
【0014】
以上の観察に基づき、本開示の実施態様のHbFの測定方法は、血液検体を液体クロマトグラフィーに付して得られるクロマトグラムから、ヘモグロビンピーク全体に対するヘモグロビンFピークの割合を算出し、この割合に所定の係数を乗じて、ヘモグロビンピーク全体に対するヘモグロビンFピークの修正値を算出する。この所定の係数は、具体的には、1.15以上1.25未満、望ましくは1.2である。この修正値の算出に当たっては、ヘモグロビンピーク全体に対するヘモグロビンFピークの割合に所定の係数が結果的に乗じられていればよい。たとえば、ヘモグロビンFのピーク値に所定の係数を乗じた修正値を求め、その後ヘモグロビンピーク全体のピーク値に対する修正値の割合を算出すれば、ヘモグロビンピーク全体に対するヘモグロビンFピークの修正値を算出できる。
【実施例0015】
(1)液体クロマトグラフィー装置
液体クロマトグラフィー装置として、以下の装置1、装置2、装置3及び装置4の陽イオン交換クロマトグラフィー装置を用いた。
【0016】
(1-1)装置1
装置1として、ADAMS HA-8180V(販売元:アークレイ)を使用した。この装置1には、充填剤としてメタクリル酸エステル共重合体からなる親水性ポリマーが0.35ml充填されたカラムであるカラムユニット80(販売元:アークレイ)を使用した。試薬として、カラムからヘモグロビンを溶出させる溶離液Aとして80A(販売元:アークレイ)を、溶離液Bとして80B(販売元:アークレイ)を、溶離液Cとして80CV(販売元:アークレイ)をそれぞれ使用し、溶血・洗浄液として80H(販売元:アークレイ)を使用した。80A、80B、80CV及び80Hの組成及びpHは下記表1に示すとおりであった。これらの試薬は、流速1.7ml/minでカラムに流した。
【0017】
(1-2)装置2
装置2として、ADAMS HA-8180T(販売元:アークレイ)を使用した。この装置2には、充填剤としてメタクリル酸エステル共重合体からなる親水性ポリマーが0.45ml充填されたカラムであるカラムユニット80T(販売元:アークレイ)を使用した。試薬として、カラムからヘモグロビンを溶出させる溶離液Aとして80Aを、溶離液Bとして80Bを、溶離液Cとして80CT(販売元:アークレイ)をそれぞれ使用し、溶血・洗浄液として80Hを使用した。80A、80B、80CT及び80Hの組成及びpHは下記表1に示すとおりであった。これらの試薬は、流速1.7ml/minでカラムに流した。
【0018】
(1-3)装置3
装置3として、ADAMS HA-8190V(販売元:アークレイ)を使用した。この装置3には、充填剤としてメタクリル酸エステル共重合体からなる親水性ポリマーが0.25ml充填されたカラムであるカラムユニット90(販売元:アークレイ)を使用した。試薬として、カラムからヘモグロビンを溶出させる溶離液Aとして90A(販売元:アークレイ)を、溶離液Bとして90B(販売元:アークレイ)を、溶離液Cとして90CV(販売元:アークレイ)をそれぞれ使用し、溶血・洗浄液として90H(販売元:アークレイ)を使用した。90A、90B、90CV及び90Hの組成及びpHは下記表1に示すとおりであった。これらの試薬は、流速4.0ml/minでカラムに流した。
【0019】
【0020】
なお、ヘモグロビンの溶出力は、溶離液A~Cのうち溶離液Aが最も小さく、溶離液Bが最も大きかった。
【0021】
(2)液体クロマトグラフィーの測定方法
装置1、装置2及び装置3を用いたHbFの測定は、アークレイ社の添付資料に従って行った。なお、装置1及び装置3については、各々下記の第一モード及び第二モードの両方に従って測定した。
【0022】
(2-1)第一モード
溶離液Aをカラムに流してHbF及びHbA1cを溶出した後、溶離液Bをカラムに流して残ったヘモグロビンを全て溶出した。
【0023】
(2-2)第二モード
溶離液Aをカラムに流してHbF及びHbA1cを溶出し、次に溶離液Cをカラムに流してHbS、HbC、HbE及びHbDを溶出した後、溶離液Bをカラムに流して残ったヘモグロビンを全て溶出した。
【0024】
(3)キャピラリー電気泳動装置
キャピラリー電気泳動装置として、Capillarys 2 Flexpiercing(Sebia)を用いた。キャピラリー電気泳動装置を用いたHbFの測定は、Sebia社の添付資料に基づいて行った。
【0025】
(4)測定結果
上記装置1~装置3及びキャピラリー電気泳動装置を用いて、51個の全血検体についてHbFピーク値を測定した。
【0026】
液体クロマトグラフィー装置として、装置1を第一モードで測定した例を
図6に、装置1を第二モードで測定した例を
図7に、装置2で測定した例を
図8に、装置3を第一モードで測定した例を
図9に、装置3を第二モードで測定した例を
図10にそれぞれ示す。いずれの装置でも、HbFピーク20と、HbA1aピーク及びHbA1bピークの合成ピーク10とを分離することができることが示された。
【0027】
また、キャピラリー電気泳動装置で測定した例を
図11に示す。
図11の分析チャートでは、ヘモグロビンのピークの合計に対するHbFピーク120の比率は、液体クロマトグラフィー装置での、ヘモグロビンのピークの合計に対するHbFピーク20の比率よりも明らかに大きいことが分かった。
【0028】
図12は、同じ検体を各液体クロマトグラフィー装置で測定して得られたHbFピーク値とキャピラリー電気泳動装置とで測定して得られたHbFピーク値の相関関係を示すグラフである。グラフの横軸はキャピラリー電気泳動装置で得られたHbFピーク値、グラフの縦軸は液体クロマトグラフィー装置で得られたHbFピーク値を示す。なお、グラフ中の破線は、横軸をx、縦軸をyとしたときの、
y=x
で表される直線である。このグラフから、キャピラリー電気泳動装置で得られたHbFピーク値は、液体クロマトグラフィー装置で得られたHbFピーク値よりも大きいことが分かった。
【0029】
また、下記表2に、各液体クロマトグラフィー装置で得られたHbFピーク値に対する、キャピラリー電気泳動装置で得られたHbFピーク値の比率を示す。キャピラリー電気泳動装置で得られたHbFピーク値は、液体クロマトグラフィー装置で得られたHbFピーク値の1.18倍~1.23倍であることが分かった。
【0030】
【0031】
以上より、キャピラリー電気泳動装置で得られたHbFピーク値に、1.15以上かつ1.25未満の係数、望ましくは1.18以上かつ1.23以下の係数、より望ましくは1.2倍の係数を乗ずることで、キャピラリー電気泳動装置で得られるような、より正確なHbFピーク値を測定することができることが示された。