(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140069
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】コイルの製造方法、コイル、及び電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 15/04 20060101AFI20230927BHJP
H02K 3/04 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
H02K15/04 Z
H02K3/04 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045916
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100161702
【弁理士】
【氏名又は名称】橋本 宏之
(74)【代理人】
【識別番号】100189348
【弁理士】
【氏名又は名称】古都 智
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(72)【発明者】
【氏名】池見 健
(72)【発明者】
【氏名】笠見 明子
(72)【発明者】
【氏名】新井 貴
(72)【発明者】
【氏名】中塚 怜志
【テーマコード(参考)】
5H603
5H615
【Fターム(参考)】
5H603AA09
5H603BB09
5H603BB12
5H603CA01
5H603CB01
5H603CC05
5H603CC06
5H603CC17
5H603CD23
5H615AA01
5H615BB14
5H615PP12
5H615QQ11
5H615RR07
5H615TT01
(57)【要約】
【課題】より大きな占積率を有するコイルの製造方法、コイル、及び電動機を提供する。
【解決手段】コイルの製造方法は、軸線方向に向かうに従って該軸線回りに捩れるように延びるとともに、延在方向の一部が他の部分よりも剛性の低い変形許容部とされた巻線部を形成する工程と、巻線部の延在方向にわたって絶縁膜を形成する工程と、絶縁膜が形成された巻線部を軸線方向に圧縮する工程と、を含む。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
軸線方向に向かうに従って該軸線回りに捩れるように延びるとともに、延在方向の一部が他の部分よりも剛性の低い変形許容部とされた巻線部を形成する工程と、
前記巻線部の延在方向にわたって絶縁膜を形成する工程と、
前記絶縁膜が形成された前記巻線部を前記軸線方向に圧縮する工程と、
を含むコイルの製造方法。
【請求項2】
前記変形許容部は、前記巻線部における前記軸線方向を向く端面から該軸線方向に延びる溝である請求項1に記載のコイルの製造方法。
【請求項3】
前記絶縁膜を形成する工程の前に、前記溝の内面を覆うマスキングを設ける工程を実行し、前記絶縁膜を形成する工程の後に、前記マスキングを除去する工程を実行する請求項2に記載のコイルの製造方法。
【請求項4】
前記マスキングを除去する工程の後に、前記溝の内面に導電性材料を塗布する工程を実行する請求項3に記載のコイルの製造方法。
【請求項5】
前記変形許容部は、前記巻線部の前記延在方向に延びるとともに該巻線部を前記軸線に交差する方向に貫通するスリットである請求項1又は2に記載のコイルの製造方法。
【請求項6】
前記変形許容部は、前記巻線部を前記軸線に交差する方向に貫通する複数の孔である請求項1又は2に記載のコイルの製造方法。
【請求項7】
前記巻線部を形成する工程の後に、該巻線部から前記軸線方向に突出する把持部を形成する工程を実行する請求項1から6のいずれか一項に記載のコイルの製造方法。
【請求項8】
前記巻線部を形成する工程では、三次元積層造形法を用いて該巻線部を形成する請求項1から7のいずれか一項に記載のコイルの製造方法。
【請求項9】
前記把持部を形成する工程では、前記巻線部と一体に三次元積層造形法を用いて該把持部を形成する請求項7に記載のコイルの製造方法。
【請求項10】
軸線を中心とする環状をなすとともに、該軸線の周方向に向かうに従って内周側に向かうように延びる巻線部と、
該巻線部を外側から覆う絶縁膜と、
前記巻線部の延在方向の一部に形成され、他の部分よりも剛性の低い変形許容部と、
を備えるコイル。
【請求項11】
前記変形許容部は、前記巻線部における前記軸線方向を向く端面から該軸線方向に延びる切れ込みと、該切れ込みに充填された導電性材料である請求項10に記載のコイル。
【請求項12】
前記変形許容部は、前記巻線部の前記延在方向に延びるとともに該巻線部を前記軸線に交差する方向に貫通するスリットである請求項10に記載のコイル。
【請求項13】
前記変形許容部は、前記巻線部を前記軸線に交差する方向に貫通する複数の孔である請求項10に記載のコイル。
【請求項14】
中心軸回りに回転可能なロータと、
該ロータを外周側から覆うステータと、
を備え、
前記ステータは、
前記中心軸を中心とする環状のヨーク、及び該ヨークの内周面から突出するとともに周方向に間隔をあけて配列された複数のティースを有するステータコアと、
前記ティースの外周面を覆うように取り付けられた請求項10から13のいずれ一項に記載のコイルと、
を有する電動機。
【請求項15】
前記変形許容部は、前記中心軸の径方向から見た場合に、前記ステータコアと重ならない部分であるコイルエンドに設けられている請求項14に記載の電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、コイルの製造方法、コイル、及び電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、コイルを三次元積層造形装置によって形成する技術が提唱されている。下記特許文献1に係る技術では、コイルを形成する導体と、この導体の外側を覆う絶縁層と、を三次元積層造形によって一体に形成することが可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、銅等の導体と、セラミック等の絶縁層とを同時に造形する場合、材料の物性値が大きく異なることから、安定的な造形を行うことが難しい。安定的な造形を行うためには絶縁層の厚さを大きくする必要がある。その結果、コイルの占積率が低下してしまうという課題がある。
【0005】
本開示は上記課題を解決するためになされたものであって、より大きな占積率を有するコイルの製造方法、コイル、及び電動機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本開示に係るコイルの製造方法は、軸線方向に向かうに従って該軸線回りに捩れるように延びるとともに、延在方向の一部が他の部分よりも剛性の低い変形許容部とされた巻線部を形成する工程と、前記巻線部の延在方向にわたって絶縁膜を形成する工程と、前記絶縁膜が形成された前記巻線部を前記軸線方向に圧縮する工程と、を含む。
【0007】
本開示に係るコイルは、軸線を中心とする環状をなすとともに、該軸線の周方向に向かうに従って内周側に向かうように延びる巻線部と、該巻線部を外側から覆う絶縁膜と、前記巻線部の延在方向の一部に形成され、他の部分よりも剛性の低い変形許容部と、を備える。
【0008】
本開示に係る電動機は、中心軸回りに回転可能なロータと、該ロータを外周側から覆うステータと、を備え、前記ステータは、前記中心軸を中心とする環状のヨーク、及び該ヨークの内周面から突出するとともに周方向に間隔をあけて配列された複数のティースを有するステータコアと、前記ティースの外周面を覆うように取り付けられた上記のコイルと、を有する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、より大きな占積率を有するコイルの製造方法、コイル、及び電動機を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示の実施形態に係る電動機の構成を示す断面図である。
【
図2】本開示の実施形態に係るステータを径方向から見た図である。
【
図3】本開示の実施形態に係るコイル中間体の構成を示す斜視図である。
【
図4】本開示の実施形態に係るコイル中間体の側面図である。
【
図5】本開示の実施形態に係るコイル中間体の要部拡大図である。
【
図6】本開示の実施形態に係るコイルの要部拡大図である。
【
図7】本開示の実施形態に係るコイルの製造方法の各工程を示すフローチャートである。
【
図8】本開示の実施形態に係るコイルの第一変形例を示す側面図である。
【
図9】本開示の実施形態に係るコイルの第二変形例を示す側面図である。
【
図10】本開示の実施形態に係るコイルの第三変形例を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施形態に係る電動機1、コイル22、及びコイル22の製造方法について、
図1から
図7を参照して説明する。
【0012】
(電動機の構成)
図1に示すように、電動機1は、ロータ10と、ステータ20と、ハウジング30と、を備えている。ロータ10は、中心軸Aを中心とする円柱状をなしている。ロータ10は、不図示の永久磁石を有している。ロータ10は中心軸A回りに回転可能な状態で、その軸端が軸受等によって支持されている。
【0013】
ステータ20は、ロータ10を外周側から覆っている。ステータ20は、ステータコア21と、コイル22と、を有する。ステータコア21は、ヨーク23と、ティース24と、を有する。ヨーク23は、中心軸Aを中心とする環状をなしている。ティース24は、ヨーク23の内周面から径方向内側に突出するとともに、周方向に等間隔をあけて複数配列されている。本実施形態では一例として9つのティース24が設けられているが、ティース24の数は8つ以下や10以上であってもよい。
【0014】
ティース24は、ティース本体25と、つば部26と、を有する。ティース本体25は、ヨーク23の内周面から径方向に延びている。ティース本体25の周方向の寸法(つまり幅寸法)は、径方向の全域にわたって一定である。ティース本体25の径方向内側の端部(先端)には、つば部26が設けられている。つば部26は、ティース本体25の先端から周方向の両側に張り出している。つば部26は、ティース本体25に取り付けられたコイル22が脱落することを防ぐために設けられている。
【0015】
周方向に互いに隣り合う一対のティース24同士の間の空間はスロット27と呼ばれている。このスロット27にはコイル22が配置される。スロット27内におけるコイル22が占める容積を、占積率と呼ぶ場合がある。
【0016】
コイル22は、銅等のように導電性を有する材料で形成されたコイル22用線材を上記のティース本体25にそれぞれ複数回にわたって巻き回すことによって形成されている。コイル22に電流を供給すると、ロータ10の永久磁石とステータ20のコイル22との間で生じる磁界によって電磁力が発生し、ロータ10が中心軸A回りに回転駆動される。ロータ10の回転は軸端から取り出されて種々の利用に供される。
【0017】
ハウジング30は、中心軸Aを中心とする筒状をなすことで、ステータ20を外周側から覆っている。一例として、ステータ20は、ハウジング30の内周面に締り嵌めによって固定される。
【0018】
(コイルの構成)
図2又は
図6に示すように、コイル22は、巻線部41と、この巻線部41の表面を覆う絶縁膜42と、を有している。巻線部41は、上述の中心軸Aに対する径方向に延びる軸線Xを中心とする矩形環状をなしている。巻線部41は、軸線Xに対する周方向に向かうに従って、軸線X方向から見た外形寸法が次第に小さくなるように渦巻き状をなしている。この巻線部41が上述のティース本体25の周囲に取り付けられている。巻線部41は、銅等の導電性を有する材料で形成されている。
【0019】
さらに、
図6に示すように、巻線部41には、変形許容部43が形成されている。変形許容部43は、他の部分よりも剛性が低い部分である。本実施形態では、変形許容部43として、巻線部41における軸線X方向を向く面から軸線X方向に延びる切れ込み44が形成されている。この切れ込み44の内面同士の間には、導電性材料45(ペースト等)が塗布されている。さらに、この切れ込み44の内側の端部には、円形の開口部62が形成されている。当該開口部62については後述する。
【0020】
このような変形許容部43は、
図2に示すように、軸線X方向から見て(つまり、中心軸Aに対する径方向から見て)、コイル22におけるティース本体25とは重ならない部分であるコイルエンド部51に形成されている。言い換えれば、コイル22におけるティース本体25と重なる部分には変形許容部43は形成されていない。
【0021】
(コイルの製造方法)
続いて、コイル22の製造方法について、
図3から
図7を参照して説明する。
図7に示すように、この製造方法は、巻線部41を形成する工程S1と、把持部91を形成する工程S2と、マスキングを設ける工程S3と、絶縁膜42を形成する工程S4と、マスキングを除去する工程S5と、導電性材料45を塗布する工程S6と、巻線部41を圧縮する工程S7と、を含む。
【0022】
巻線部41を形成する工程S1、及び把持部91を形成する工程S2では、
図3に示すようなコイル中間体90が形成される。コイル中間体90は、巻線部41と、把持部91と、変形許容部43と、を有している。巻線部41は、上述したコイル22の巻線部41が軸線X方向に引き延ばされたような形状をしている。言い換えると、コイル中間体90における巻線部41は、軸線X方向に向かうに従って、当該軸線X回りに捩じれるように延びる螺旋状をなしている。また、軸線X方向一方側から他方側に向かうに従って、巻線部41が構成する環状の部分の開口面積が次第に小さくなる。
【0023】
把持部91は、矩形をなす巻線部41における4つの角部にそれぞれ1つずつ設けられている。把持部91は、巻線部41から軸線X方向に突出する棒状をなしている。把持部91は、後述する巻線部41を圧縮する工程で作業者が工具や自らの手で把持するために設けられている。
【0024】
巻線部41における上述のコイル22エンドに対応する領域(コイルエンド部51)では、巻線部41の延在方向に向かうに従って、当該巻線部41が軸線X方向一方側から他方側に向かうように、軸線Xに対して傾斜して延びている。コイルエンド部51の両端部には、巻線部本体52が接続されている。巻線部本体52は、軸線Xに直交する面内で延びている。
【0025】
巻線部41には、
図4に示すように、軸線X方向を向く端面にそれぞれ変形許容部43としての溝60が形成されている。より具体的には、コイルエンド部51と巻線部本体52との境界にそれぞれ1つずつの溝60が形成されている。溝60は、傾斜しているコイルエンド部51と巻線部本体52の境界上で、これらコイルエンド部51と巻線部本体52とのなす角度が180°よりも大きい側の端面にそれぞれ形成されている。つまり、コイルエンド部51と巻線部本体52とがなす2つの角のうち、優角となる側に溝60が形成されている。
【0026】
図5に示すように、この溝60は、軸線X方向に向かうに従って、次第に内面同士の間隔が小さくなることで略V字状をなす溝本体61と、溝本体61の底部に設けられた円形の開口部62と、を有する。開口部62は、溝本体61の底部における応力集中を回避するために設けられている。なお、コイル22の材料の種類や、コイル22の寸法体格によっては、この開口部62を形成しないことも可能である。このような変形許容部43が形成されていることによって、当該変形許容部43では他の部分に比べて剛性が低く、優先的に変形しやすくなっている。
【0027】
これら巻線部41、及び把持部91は、例えば三次元積層造形(Additive Manufacturing)によって一体に形成することが望ましい。三次元積層造形とは、粉末状の金属材料に高出力のレーザを照射してこれを溶融硬化させて所定の形状の層を得る処理を連続する複数の層にかけて行う造形方法である。なお、三次元積層造形によらずに、他の方法で巻線部41、把持部91を形成することも可能である。
【0028】
続いて、マスキングを設ける工程S3を実行する。この工程S3では、上記の溝本体61の内面に、シリコン等で形成されたマスキングを施す。なお、上記に開口部62にはマスキングを施してもよいし、施さなくてもよい。
【0029】
次に、巻線部41の外表面に絶縁膜42を形成する(工程S4)。この工程S4では、例えば、絶縁材料が貯留された容器内に巻線部41を把持部91とともに浸漬して絶縁膜42を形成する。または、絶縁材料をスプレーガン等で巻線部41に吹き付けて絶縁膜42を形成してもよい。
【0030】
次いで、絶縁膜42が形成された巻線部41から、上記のマスキングを除去する(工程S5)。つまり、溝60からマスキングが除去される。これにより、溝本体61の内面では、巻線部41を構成する銅等の金属表面が露出した状態となる。続いて、溝本体61の内面に導電性材料45で形成されたペースト等を塗布する(工程S6)。
【0031】
その後、巻線部41を軸線X方向の両側から圧縮する(工程S7)。この工程S7では、作業台上にコイル中間体90を配置して、把持部91を持って当該コイル中間体90に軸線X方向への圧縮力を与えることが望ましい。これにより、巻線部41が塑性変形して、軸線Xに直交する面内に広がる渦巻き状のコイル22となる。言い換えると、当初螺旋状をなしていたコイル中間体90が圧縮されて、扁平なコイル22となる。
【0032】
この時、塑性変形によって溝本体61の内面同士が互いに当接する。その結果として、
図6に基づいて上述したように、導電性材料45を挟んで溝本体61の内面同士が導通した状態となる。その後、把持部91を除去することで、コイル22の製造方法に係る全工程が完了する。
【0033】
(作用効果)
ここで、コイル22を上述のような三次元積層造形で形成する場合、銅等の導体と、セラミック等の絶縁膜42とを同時に造形する方法も考えらえる。しかしながら、導体と絶縁膜42とでは材料の物性値が大きく異なることから、安定的な造形を行うことが難しい。安定的な造形を行うためには絶縁層の厚さを大きくする必要がある。その結果、コイル22の占積率が低下してしまうという課題がある。そこで、本実施形態では、上述のような構成と方法を採っている。
【0034】
上記方法によれば、軸線X回りに捩れるように延びた状態の巻線部41に絶縁膜42を形成する。つまり、巻線部41の外表面が重なり合うことなく、全て外部に露呈した状態で、それら外表面に絶縁膜42を形成する材料が塗布される。したがって、絶縁膜42の形成が過度になったり、反対に絶縁膜42の形成が不十分になったりする可能性を回避することができる。これにより、当該絶縁膜42の厚さを薄く均一に仕上げることができる。その結果、巻線部41に対する絶縁膜42の体積比が下がり、コイル22の占積率を上げることができる。つまり、電動機1の効率をさらに向上させることが可能となる。
【0035】
また、上記方法と構成によれば、巻線部41に変形許容部43としての溝60が形成されていることから、巻線部41を圧縮する際に、当該変形許容部43が優先的に変形する。これにより、当該巻線部41を容易に塑性変形させることができる。反対に、変形許容部43が形成されていない場合、巻線部41におけるいずれの箇所で塑性変形が生じるかをコントロールすることができないため、最終的なコイル22の形状が不均一になる可能性がある。上記方法によれば、このような可能性が低減され、一定の形状と品質を有するコイル22を安定的に製造することが可能となる。
【0036】
さらに、上記方法と構成によれば、絶縁膜42を形成するに先立って、溝60の内面にマスキングが設けられる。このため、絶縁膜42を形成する際に当該溝60の内面には絶縁材料が付着しない。その後、マスキングを除去することで、当該内面では金属表面が露出した状態となる。この状態で巻線部41を圧縮すると、変形によって溝60の内面が互いに当接する。これにより、当該溝60が存在した部分の導電性を確保することができる。つまり、溝60を形成したことに伴うコイル22の性能低下を回避することが可能となる。
【0037】
加えて、上記方法と構成によれば、マスキングを除去した後に溝60の内面に導電性材料45を塗布する。これにより、巻線部41を圧縮して変形させた際に、当該内面同士の間に導電性材料45が介在した状態となる。その結果、これら内面同士の間の導電性をさらに高めることができる。
【0038】
また、上記方法と構成によれば、コイル中間体90に把持部91が形成されていることから、当該把持部91を工具等で把持しながら巻線部41を軸線X方向に容易に圧縮することができる。これにより、製造時の作業性と効率性を向上させることができる。
【0039】
さらに、上記方法によれば、三次元積層造形を用いることによって巻線部41、及び把持部91をより容易かつ短時間のうちに製造することができる。これにより、従来の製法を用いる場合に比べて、製造コストを削減することができる。
【0040】
(その他の実施形態)
以上、本開示の実施形態について説明した。なお、本開示の要旨を逸脱しない限りにおいて、上記の方法や構成に種々の変更や改修を施すことが可能である。
【0041】
例えば、上記実施形態では、変形許容部43として溝60が形成されている例について説明した。しかしながら、変形許容部43の態様は溝60に限定されない。第一変形例として
図8に示すように、変形許容部43としてのスリット160が複数形成されていてもよい。これらスリット160は、巻線部41のコイルエンド部51で、当該コイルエンド部51を軸線Xに直交する方向に貫通するとともに、コイルエンド部51の延在方向に沿って延びている。また、
図8の例では、一対のスリット160が軸線X方向に間隔をあけて形成されている。この構成によれば、スリット160を形成することのみによって変形許容部43を容易に形成することが可能となる。また、上述したマスキングを設ける工程等が不要となるため、製造工程の簡略化も可能となる。
【0042】
さらに、第二変形例として
図9に示すように、変形許容部43はV字型の貫通孔260であってもよい。より具体的には、この貫通孔260は軸線X方向一方側の頂部から他方側に向かうに従って互いに離間する2つの方向に延びている。このような貫通孔260が軸線X方向に間隔をあけて複数設けられている。この構成によっても、容易に巻線部41を塑性変形させることが可能である。
【0043】
また、第三変形例として
図10に示すように、変形許容部43は複数の三角形状の孔360であってもよい。これら孔360は、軸線X方向一方側から他方側に向かうに従って次第に数が少なくなるように、全体として三角形状に配列されている。つまり、孔360が多い側になるほど、変形しやすくなっている。このような構成によっても、容易に巻線部41を塑性変形させることが可能である。
【0044】
<付記>
各実施形態に記載のコイル22の製造方法、コイル22、及び電動機1は、例えば以下のように把握される。
【0045】
(1)第1の態様に係るコイル22の製造方法は、軸線X方向に向かうに従って該軸線X回りに捩れるように延びるとともに、延在方向の一部が他の部分よりも剛性の低い変形許容部43とされた巻線部41を形成する工程と、前記巻線部41の延在方向にわたって絶縁膜42を形成する工程と、前記絶縁膜42が形成された前記巻線部41を前記軸線X方向に圧縮する工程と、を含む。
【0046】
上記方法によれば、軸線X回りに捩れるように延びた状態の巻線部41に絶縁膜42を形成することから、当該絶縁膜42の厚さを薄く均一に仕上げることができる。これにより、コイル22の占積率を上げることができる。
【0047】
(2)第2の態様に係るコイル22の製造方法は、(1)のコイル22の製造方法であって、前記変形許容部43は、前記巻線部41における前記軸線X方向を向く端面から該軸線X方向に延びる溝60である。
【0048】
上記方法によれば、変形許容部43としての溝60が形成されていることから、巻線部41を圧縮する際に、当該巻線部41を容易に塑性変形させることができる。
【0049】
(3)第3の態様に係るコイル22の製造方法は、(2)のコイル22の製造方法であって、前記絶縁膜42を形成する工程の前に、前記溝60の内面を覆うマスキングを設ける工程を実行し、前記絶縁膜42を形成する工程の後に、前記マスキングを除去する工程を実行する。
【0050】
上記方法によれば、溝60の内面にマスキングを設けることから、絶縁膜42を形成する際に当該内面には絶縁材料が付着しない。その後、マスキングを除去してから巻線部41を圧縮すると、変形によって溝60の内面が互いに当接する。これにより、当該溝60が存在した部分の導電性を確保することができる。
【0051】
(4)第4の態様に係るコイル22の製造方法は、(3)のコイル22の製造方法であって、前記マスキングを除去する工程の後に、前記溝60の内面に導電性材料45を塗布する工程を実行する。
【0052】
上記方法によれば、マスキングを除去した後に溝60の内面に導電性材料45を塗布することから、巻線部41を圧縮して変形させた際に、当該内面同士の間の導電性をさらに高めることができる。
【0053】
(5)第5の態様に係るコイル22の製造方法は、(1)又は(2)のコイル22の製造方法であって、前記変形許容部43は、前記巻線部41の前記延在方向に延びるとともに該巻線部41を前記軸線Xに交差する方向に貫通するスリット160である。
【0054】
上記方法によれば、巻線部41にスリット160を形成することのみによって、当該巻線部41を圧縮する際に容易に塑性変形させることができる。これにより、加工コストを削減することができる。
【0055】
(6)第6の態様に係るコイル22の製造方法は、(1)又は(2)のコイル22の製造方法であって、前記変形許容部43は、前記巻線部41を前記軸線Xに交差する方向に貫通する複数の孔360である。
【0056】
上記方法によれば、巻線部41に複数の孔360を形成することのみによって、当該巻線部41を圧縮する際に容易に塑性変形させることができる。これにより、加工コストを削減することができる。また、スリット160を形成した場合に比べて、巻線部41に形成される空隙が小さいことから、コイル22の占積率の減少も回避することができる。
【0057】
(7)第7の態様に係るコイル22の製造方法は、(1)から(6)のいずれか一態様に係るコイル22の製造方法であって、前記巻線部41を形成する工程の後に、該巻線部41から前記軸線X方向に突出する把持部91を形成する工程を実行する。
【0058】
上記方法によれば、把持部91が形成されていることから、当該把持部91を工具等で把持しながら巻線部41を軸線X方向に圧縮することができる。これにより、製造時の作業性を向上させることができる。
【0059】
(8)第8の態様に係るコイル22の製造方法は、(1)から(7)のいずれか一態様に係るコイル22の製造方法であって、前記巻線部41を形成する工程では、三次元積層造形法を用いて該巻線部41を形成する。
【0060】
上記方法によれば、三次元積層造形によって巻線部41をより容易かつ短時間のうちに製造することができる。これにより、製造コストを削減することができる。
【0061】
(9)第9の態様に係るコイル22の製造方法は、(7)のコイル22の製造方法であって、前記把持部91を形成する工程では、前記巻線部41と一体に三次元積層造形法を用いて該把持部91を形成する。
【0062】
上記方法によれば、三次元積層造形によって巻線部41に加えて把持部91も一体に形成されることから、製造に要する所要時間やコストをさらに削減することができる。
【0063】
(10)第10の態様に係るコイル22は、軸線Xを中心とする環状をなすとともに、該軸線Xの周方向に向かうに従って内周側に向かうように延びる巻線部41と、該巻線部41を外側から覆う絶縁膜42と、前記巻線部41の延在方向の一部に形成され、他の部分よりも剛性の低い変形許容部43と、を備える。
【0064】
上記構成によれば、巻線部41に変形許容部43が形成されていることから、巻線部41の製造時には当該巻線部41を螺旋状になるように引き延ばした状態で絶縁膜42を形成することが可能となる。これにより、薄く均一な絶縁膜42を形成することができる。その結果、コイル22の占積率を向上させることができる。
【0065】
(11)第11の態様に係るコイル22は、(10)のコイル22であって、前記変形許容部43は、前記巻線部41における前記軸線X方向を向く端面から該軸線X方向に延びる切れ込み44と、該切れ込み44に充填された導電性材料45である。
【0066】
上記構成によれば、切れ込み44に導電性材料45が充填されていることから、製造時に必要であった溝60の内面が導電性材料45を挟んで当接する。これにより、巻線部41の導電性を確保することができる。
【0067】
(12)第12の態様に係るコイル22は、(10)のコイル22であって、前記変形許容部43は、前記巻線部41の前記延在方向に延びるとともに該巻線部41を前記軸線Xに交差する方向に貫通するスリット160である。
【0068】
上記構成によれば、巻線部41にスリット160を形成することのみによって、当該巻線部41を圧縮する際に容易に塑性変形させることができる。これにより、加工コストを削減することができる。
【0069】
(13)第13の態様に係るコイル22は、(10)のコイル22であって、前記変形許容部43は、前記巻線部41を前記軸線Xに交差する方向に貫通する複数の孔360である。
【0070】
上記構成によれば、巻線部41に複数の孔360を形成することのみによって、当該巻線部41を圧縮する際に容易に塑性変形させることができる。これにより、加工コストを削減することができる。また、スリット160を形成した場合に比べて、巻線部41に形成される空隙が小さいことから、コイル22の占積率の減少も回避することができる。
【0071】
(14)第14の態様に係る電動機1は、中心軸A回りに回転可能なロータ10と、該ロータ10を外周側から覆うステータ20と、を備え、前記ステータ20は、前記中心軸Aを中心とする環状のヨーク23、及び該ヨーク23の内周面から突出するとともに周方向に間隔をあけて配列された複数のティース24を有するステータコア21と、前記ティース24の外周面を覆うように取り付けられた(10)から(13)のいずれか一態様に係るコイル22と、を有する。
【0072】
上記構成によれば、占積率の高いコイル22を有することで、効率がさらに向上した電動機1を得ることができる。
【0073】
(15)第15の態様に係るコイル22は、(14)の電動機1であって、前記変形許容部43は、前記中心軸Aの径方向から見た場合に、前記ステータコア21と重ならない部分であるコイル22エンドに設けられている。
【0074】
上記構成によれば、変形許容部43がコイル22エンドに設けられていることから、磁束密度の高いコイル22エンド以外の部分では変形許容部43を形成したことによる磁場への影響を最小限に抑えることが可能となる。
【符号の説明】
【0075】
1…電動機
10…ロータ
20…ステータ
21…ステータコア
22…コイル
23…ヨーク
24…ティース
25…ティース本体
26…つば部
27…スロット
30…ハウジング
41…巻線部
42…絶縁膜
43…変形許容部
44…切れ込み
45…導電性材料
51…コイルエンド部
52…巻線部本体
60…溝
61…溝本体
62…開口部
90…コイル中間体
91…把持部
160…スリット
260…貫通孔
360…孔
A…中心軸
X…軸線