(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140081
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】小型無人航空機
(51)【国際特許分類】
B64C 37/00 20060101AFI20230927BHJP
B64C 27/08 20230101ALI20230927BHJP
B64C 13/18 20060101ALI20230927BHJP
B64C 25/38 20060101ALI20230927BHJP
G05B 11/36 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
B64C37/00
B64C27/08
B64C13/18 Z
B64C25/38
G05B11/36 G
G05B11/36 501Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045933
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000220354
【氏名又は名称】東京航空計器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上半 文昭
(72)【発明者】
【氏名】栗原 寛典
(72)【発明者】
【氏名】須田 信一
(72)【発明者】
【氏名】隅田 和哉
【テーマコード(参考)】
5H004
【Fターム(参考)】
5H004GA01
5H004GA05
5H004GB11
5H004GB13
5H004HA07
5H004HB07
5H004KB02
5H004KB04
5H004KB06
(57)【要約】
【課題】無限軌道によって構造物面を安定して走行することができるうえに、走行後も安定した飛行を行うことが可能な小型無人航空機を提供する。
【解決手段】無限軌道とロータとを有する小型無人航空機である。
そして、本体部11と、本体部から横方向に張り出された複数のアーム11aにそれぞれロータ12が取り付けられる飛行手段部120と、本体部の上方に設けられるクローラ21を有する移動手段部2と、本体部の姿勢を制御する飛行制御部とを備えている。
ここで、飛行制御部では、比例制御、積分制御及び微分制御を組み合わせたフィードバック制御によって飛行手段部の制御が行われるとともに、積分制御の積分値を減ずる忘却部が設けられている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
無限軌道とロータとを有する小型無人航空機であって、
本体部と、
前記本体部から横方向に張り出された複数のアームにそれぞれロータが取り付けられる飛行手段部と、
前記本体部の上方に設けられる無限軌道を有する移動手段部と、
前記本体部の姿勢を制御する飛行制御部とを備え、
前記飛行制御部では、比例制御、積分制御及び微分制御を組み合わせたフィードバック制御によって前記飛行手段部の制御が行われるとともに、前記積分制御の積分値を減ずる忘却部が設けられていることを特徴とする小型無人航空機。
【請求項2】
前記忘却部は、前記移動手段部による走行時に機能することを特徴とする請求項1に記載の小型無人航空機。
【請求項3】
前記移動手段部は、前記本体部から上方に向けて延出される複数の柱部と、前記柱部の上端に支持されて横方向に拡がる枠体部と、前記枠体部に取り付けられる一対の略平行なクローラとを備え、
前記枠体部には、前記クローラが前記本体部に対して傾くことを許容する弾性可動部が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載の小型無人航空機。
【請求項4】
前記柱部は、前記本体部に対して長方形の隅角部となる位置にそれぞれ設けられており、
前記枠体部は、前記柱部の上端間に略平行に架け渡される一対の不動梁と、それぞれの前記不動梁の中央に弾性回転可能に中央が接続される第1可動梁と、一対の前記第1可動梁の両端間を接続する一対の略平行な連結梁と、それぞれの前記連結梁の中央に弾性回転可能に中央が接続される第2可動梁とを備え、
一対の前記第2可動梁の両端間を接続するように前記一対の略平行なクローラが設けられることを特徴とする請求項3に記載の小型無人航空機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無限軌道とロータとを有する小型無人航空機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1,2に開示されているように、高所などに位置する構造物に接近して各種の検査を実施することが可能なドローンを活用した検査システムが開発されている。このドローンには、カメラ、打音検査装置、鉄筋探査装置などが搭載されて、各種の検査を行うことができる。
【0003】
また、特許文献1,2に開示された検査システムのドローンには、壁面などの構造物面を安定して走行することができるように、ロータの他に構造物面の走行用の無限軌道(クローラ)を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6864644号公報
【特許文献2】特許第6363632号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、無限軌道を設けることで壁面などの構造物面を安定して走行することができるようになるが、壁面に付着した状態でドローンを操縦すると、壁面に接したクローラが、ドローンの機体制御装置からの制御情報(目標)に反して機体を拘束して、姿勢変更を妨げることになる。
【0006】
このような状況が長く続くと、ドローン機体のフィードバック制御(PID制御)の目標値と出力値との偏差(積分誤差)が蓄積し、制御が破綻する可能性がある。制御が破綻すると、ドローン機体が想定外の挙動を示すことになるので、その対策が求められる。
【0007】
そこで、本発明は、無限軌道によって構造物面を安定して走行することができるうえに、走行後も安定した飛行を行うことが可能な小型無人航空機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の小型無人航空機は、無限軌道とロータとを有する小型無人航空機であって、本体部と、前記本体部から横方向に張り出された複数のアームにそれぞれロータが取り付けられる飛行手段部と、前記本体部の上方に設けられる無限軌道を有する移動手段部と、前記本体部の姿勢を制御する飛行制御部とを備え、前記飛行制御部では、比例制御、積分制御及び微分制御を組み合わせたフィードバック制御によって前記飛行手段部の制御が行われるとともに、前記積分制御の積分値を減ずる忘却部が設けられていることを特徴とする。ここで、前記忘却部は、前記移動手段部による走行時に機能する構成とすることが好ましい。
【0009】
また、前記移動手段部は、前記本体部から上方に向けて延出される複数の柱部と、前記柱部の上端に支持されて横方向に拡がる枠体部と、前記枠体部に取り付けられる一対の略平行なクローラとを備え、前記枠体部には、前記クローラが前記本体部に対して傾くことを許容する弾性可動部が設けられている構成とすることができる。
【0010】
さらに、前記柱部は、前記本体部に対して長方形の隅角部となる位置にそれぞれ設けられており、前記枠体部は、前記柱部の上端間に略平行に架け渡される一対の不動梁と、それぞれの前記不動梁の中央に弾性回転可能に中央が接続される第1可動梁と、一対の前記第1可動梁の両端間を接続する一対の略平行な連結梁と、それぞれの前記連結梁の中央に弾性回転可能に中央が接続される第2可動梁とを備え、一対の前記第2可動梁の両端間を接続するように前記一対の略平行なクローラが設けられる構成とすることができる。
【発明の効果】
【0011】
このように構成された本発明の小型無人航空機は、ロータを有する飛行手段部と、無限軌道を有する移動手段部と、本体部の姿勢を制御する飛行制御部とを備えている。そして、飛行制御部では、比例制御、積分制御及び微分制御を組み合わせたフィードバック制御によって飛行手段部の制御が行われるとともに、積分制御の積分値を減ずる忘却部が設けられている。
【0012】
このため、無限軌道によって構造物面を安定して走行することができるうえに、付着を伴う走行によって積分誤差が蓄積するのを忘却部によって防ぐことができるので、走行後も安定した飛行を行うことが可能になる。
【0013】
また、移動手段部のクローラが取り付けられる枠体部に、クローラが本体部に対して傾くことを許容する弾性可動部が設けられていれば、クローラの走行面による小型無人航空機の拘束を柔軟にして、フィードバック制御の偏差の増大そのものを軽減することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本実施の形態の小型無人航空機の構成を示す斜視図である。
【
図2】本実施の形態の小型無人航空機の飛行制御部の構成を説明するブロック図である。
【
図3】本実施の形態の小型無人航空機の構成を拡大して示す斜視図である。
【
図4】本実施の形態の小型無人航空機のローリング時の動作を説明する図であって、(a)は安定時の説明図、(b)は右下がり時の説明図、(c)は左下がり時の説明図である。
【
図5】本実施の形態の小型無人航空機のピッチング時の動作を説明する図であって、(a)は安定時の説明図、(b)は右下がり時の説明図、(c)は左下がり時の説明図である。
【
図6】本実施の形態の小型無人航空機の飛行実験結果を示す説明図である。
【
図7】本実施の形態の小型無人航空機の別の飛行実験結果を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。
図1及び
図3は、本実施の形態の小型無人航空機1の構成を説明するための斜視図、
図2は小型無人航空機1の飛行制御部13の構成を説明するブロック図である。
【0016】
本実施の形態の小型無人航空機1を利用すれば、足場のない高所箇所や作業員が近付きにくい箇所の検査などが行えるようになる。例えば橋梁、建築物又は擁壁等の構造物の下面や側面などの表面(構造物面)に対して、打音検査や鉄筋探査などの検査を行うことができるようになる。
【0017】
小型無人航空機1は、本体部11と、複数のロータ12が取り付けられる飛行手段部120と、本体部11の上方に支持体部3を介して設けられる無限軌道を有する移動手段部2と、本体部11の姿勢を制御する飛行制御部13とを備えている。
【0018】
本実施の形態の本体部11には、例えば平面視長方形に形成された基部110に、小型無人航空機1の飛行を制御するための飛行制御部13、バッテリーやコンバータなどの駆動電源部、使用目的に応じた検査装置4などが搭載される。
【0019】
また、本体部11からは、四方にアーム11aが張り出されており、4本のアーム11aのそれぞれには、ロータ12が取り付けられている。本実施の形態の小型無人航空機1では、アーム11aの下側に、モータの駆動によって回転するプロペラを有するロータ12が配置される。
【0020】
アーム11aには、中間部にロータ12が取り付けられるとともに、先端には下方に向けて延伸される脚部11cが設けられる。また、四方に張り出されたアーム11aの先端間は、棒状のガード11bによって連結される。このガード11bによる連結によって、アーム11aの変形を抑えることができるうえに、ロータ12や本体部11が異物と衝突したり干渉したりするのを防ぐことができる。
【0021】
本体部11に搭載される飛行制御部13は、個々のロータ12の回転数を制御することで、小型無人航空機1の浮上や進行や旋回などの飛行を制御する。飛行制御部13はジャイロ等の飛行用センサを有しており、このジャイロ等により小型無人航空機1の姿勢を検出して飛行制御に利用する。
【0022】
また、小型無人航空機1には、本体部11にGPSアンテナを搭載させて、GPSアンテナを介して受信したGPS通信衛星からの情報に基づいて、飛行制御部13による小型無人航空機1の姿勢制御及び飛行制御を行わせることができる。
【0023】
さらに、飛行制御部13は無線通信部を有しており、地上側の操縦機(図示省略)などとの間で無線通信を行い、種々の信号や情報の送受信を行う。飛行制御部13には予め航路などの飛行データを記憶させておくこともできるが、操縦機などを介して地上から操作することもできる。
【0024】
そして、本実施の形態の飛行制御部13では、
図2のブロック図に示すように、比例制御(P)、積分制御(I)及び微分制御(D)を組み合わせたフィードバック制御(PID制御)による飛行手段部120の制御が行われる。
【0025】
PID制御では、飛行制御部13の演算処理によって求められる目標値(131)と、実際に小型無人航空機1が動作した出力値(139)との偏差を、フィードバックさせることによって、連続する飛行制御に反映させる。
【0026】
PID制御では、比例ゲインKp(132)に基づく比例制御と、積分ゲインKi(133)に基づく積分制御と、微分ゲインKd(134)に基づく微分制御とを組み合わせた制御が行われる。
【0027】
PID制御の各パラメータ(Kp,Ki,Kd)は、任意に設定することができる。一方、橋梁等の構造物の壁面(構造物面)を、無限軌道で付着させながら走行して検査する場合、付着面との摩擦によって小型無人航空機1の挙動が制限(拘束)されるため、姿勢を目標値(131)の通りに修正することができず、制御と機体挙動に齟齬が生じることになる。
【0028】
そして、齟齬が生じる状態が長く続くと、PID制御における目標値(131)と出力値(139)との偏差の積分値が、積分器(135)に蓄積されて増大していく可能性がある。そこで、積分制御に積分値を減ずる忘却部(137)を設けることによって、制御が破綻するのを防ぐこととする。
【0029】
すなわち、PID制御の積分誤差の増大を防ぐために、小型無人航空機1の飛行中や付着走行中の制御において、増大する積分誤差を解消するための忘却係数γ(138)を導入した制御則を用いる。
【0030】
本実施の形態の飛行制御部13のPID制御では、偏差の積分値を、積分ゲインKi(133)だけで調節するのではなく、意図的に削減するために「忘却係数γ(138)」を制御に導入し、これにより目標値(131)と出力値(139)との偏差の積分値の増大を防止して、制御の破綻を防ぐ。各パラメータ(Kp,Ki,Kd)の具体的な設定値などについては、飛行実験の説明とともに後述する。
【0031】
また、小型無人航空機1の本体部11には、例えば構造物の表面を観察するためのカメラ(図示省略)を取り付けることができる。カメラにより撮像された画像は、飛行制御部13を介して操縦機に送信される。さらに、検査の目的に応じて、打音検査装置や鉄筋探査装置などの検査装置4を、小型無人航空機1に搭載することができる。
【0032】
続いて、
図3に示した小型無人航空機1の拡大斜視図を参照しながら、移動手段部2の詳細な構成について説明する。移動手段部2は、本体部11から上方に向けて延出される複数の柱部31と、柱部31の上端に支持されて横方向に拡がる枠体部32と、枠体部32に取り付けられる一対の略平行な無限軌道となるクローラ21とを備えている。
【0033】
柱部31は、本体部11の平面視略正方形の基部110の隅角部となる4箇所の位置にそれぞれ設けられている。そして、枠体部32は、これら4本の柱部31によって支持されている。
【0034】
枠体部32は、柱部31の上端間に略平行に架け渡される一対の不動梁321と、それぞれの不動梁321の中央に弾性回転可能に中央が接続される第1可動梁322と、一対の第1可動梁322の両端間を接続する一対の略平行な連結梁323と、それぞれの連結梁323の中央に弾性回転可能に中央が接続される第2可動梁324とを備えている。
【0035】
そして、一対の第2可動梁324の両端間を接続するように、一対の略平行なクローラ21が設けられる。ここで、第2可動梁324の両端間の接続は、枠体部32を構成する連結梁で行ってからそれに対して平行にクローラ21を取り付けてもよいし、クローラ21を構成する棒状部材によって直接、第2可動梁324の両端間の接続を行ってもよい。
【0036】
無限軌道となるクローラ21は、ベルトと、ベルトが架け回される複数個のプーリと、これらプーリのうちの一つに接続して回転駆動させるためのモータ及びギアボックスとを備えている。
【0037】
そして、クローラ21の表面が構造物などの表面(構造物面)に接触した状態でプーリが回転駆動されることで、このプーリに架け回されているベルトが移動し、これにより小型無人航空機1をクローラ21の長さ方向に沿って移動(自走)させることができる。
【0038】
この移動手段部2の制御は、例えば飛行制御部13とは別に設けられた制御部(図示省略)によって行われる。また、回転センサ等によってプーリの回転量を計測することで、小型無人航空機1の移動手段部2による移動距離のデータを得ることができる。
【0039】
ここで、クローラ21の表面は、摩擦係数が高くなるように形成されている。すなわち、浮力で構造物面に押し付けられた小型無人航空機1を、クローラ21の回転駆動で走行させようとすれば、ある程度の摩擦抵抗が必要になる。クローラ21の表面は、ゴム、微細な吸盤構造、超微細毛構造(ファンデルワールス力利用)など、吸着性能の高い構造にすることができる。
【0040】
そして、枠体部32には、クローラ21が本体部11に対して傾くことを許容する弾性可動部33A,33Bが設けられている。すなわち、飛行手段部120が取り付けられる本体部11とクローラ21との間に、2軸(多方向)に可動するサスペンション機構を設ける。
【0041】
すなわち、弾性可動部33Aは、不動梁321に対する第1可動梁322の揺動を許容する揺動軸に、バネなどの復元力を有する部材が組み込まれたサスペンション機構となっている。同様に、弾性可動部33Bは、連結梁323に対する第2可動梁324の揺動を許容する揺動軸に、バネなどの復元力を有する部材が組み込まれたサスペンション機構となっている。
【0042】
弾性可動部33A,33Bのようなサスペンション機構を介在させることにより、走行面となる構造物面による小型無人航空機1の拘束を柔軟にすることができる。こうすることで、制御信号に対する本体部11の応答の余裕代を設けることができるようになり、上述したPID制御における目標値(131)と出力値(139)との偏差の増大そのものを軽減することができるようになる。
【0043】
図4は、本実施の形態の小型無人航空機1のローリング時の動作を説明する図である。この図は、ローリング時の揺動の可動範囲を説明するための図で、実際の飛行姿勢を示すものではない。
【0044】
すなわち、
図4(a)は、一対のクローラ21,21に対して、何も力が作用していない、又は同じ大きさの下向きの力が作用している安定時の状態の説明図である。そして、
図4(b)に示した右下がり時の説明図は、右側のクローラ21に左側のクローラ21よりも大きな下向きの力が作用した状態を示している。反対に、
図4(c)の左下がり時の説明図は、左側のクローラ21に右側のクローラ21よりも大きな下向きの力が作用した状態を示している。実際には、クローラ21,21の走行面が水平面であれば、本体部11の方が傾くことになる。
【0045】
こうしたローリング(ロール)の傾きは、連結梁323に対して弾性可動部33Bを介して接続された第2可動梁324が、弾性可動部33Bの回転剛性を有するヒンジで回転することによって起きる。
【0046】
一方、
図5は、
図4とは平面視で直交する方向から小型無人航空機1を見た、ピッチング時の動作を説明する図である。この図も、ピッチング時の可動範囲を説明するための図で、実際の飛行姿勢を示すものではない。
【0047】
すなわち、
図5(a)は、クローラ21に対して、何も力が作用していない、又は全長に同じ大きさの下向きの力が作用している安定時の状態の説明図である。そして、
図5(b)に示した右下がり時の説明図は、クローラ21の右端に左端よりも大きな下向きの力が作用した状態を示している。反対に、
図5(c)の左下がり時の説明図は、クローラ21の左端に右端よりも大きな下向きの力が作用した状態を示している。実際には、クローラ21の走行面が水平面であれば、本体部11の方が傾くことになる。
【0048】
こうしたピッチング(ピッチ)の傾きは、不動梁321に対して弾性可動部33Aを介して接続された第1可動梁322が、弾性可動部33Aの回転剛性を有するヒンジで回転することによって起きる。
【0049】
要するにクローラ21は、枠体部32の弾性可動部33A,33Bを介して本体部11に支持されているので、クローラ21が構造物面に付着した状態でも、本体部11のロールやピッチの動き(揺れ)が許容されることになる。
【0050】
ただし、こうした弾性可動部33A,33Bによる前後左右の揺動の動作範囲は、小型無人航空機1のガード11bやロータ12などが、検査対象面(構造物面)やクローラ21に衝突しない範囲に制限する必要がある。このため、図示していないが、弾性可動部33A,33Bには、動作範囲を制限するストッパが設けられる。
【0051】
また、小型無人航空機1のクローラ21を構造物面に付着させたまま、一対のクローラ21,21の速度を変えることで機体を旋回させる場合があるが、この旋回時のモーメントでクローラ21が構造物面から離れたり、検査装置4と検査対象面との距離が変わったりしない範囲に、弾性可動部33A,33Bの動作範囲は抑制される。
【0052】
他方、小型無人航空機1によりクローラ21を検査対象面(構造物面)に付着させて走行させるときには、検査側線の曲がりやブレを防ぐ必要があるため、進行方向に対する回転の自由度(ヨー)は、拘束することとする。すなわち、本体部11に固定された柱部31の上端に、不動梁321が上端面内で回転しないように固定されているので、平面視で本体部11の基部110に対してクローラ21が交差する方向の回転は起きない。
【0053】
次に、本実施の形態の小型無人航空機1を使った飛行実験について、
図6,7を参照しながら説明する。
図6及び
図7は、本実施の形態の小型無人航空機1の2回の飛行実験結果を示す説明図である。
【0054】
飛行実験は、小型無人航空機1をホバリングさせた後に、検査対象面に見立てた天井面にクローラ21を付着させ、クローラ21による走行と、停止して検査装置4による打音検査を行う動作を繰り返すというテスト飛行を行い、その際の安定性を確認した。
【0055】
ここで、飛行実験を行った際の小型無人航空機1の飛行制御部13におけるPID制御のパラメータについて説明する。比例制御を行うための比例ゲインKp(132、
図2参照)については、ロールとピッチに対しては1.8に設定し、ヨーについては1.9に設定した。また、微分制御を行うための微分ゲインKd(134)については、ロールとピッチに対しては0.066に設定し、ヨーについては0に設定した。
【0056】
そして、忘却部(137)を設けた積分制御については、次のような設定にした。まず、積分ゲインKi(133)については、ロールとピッチに対しては7に設定し、ヨーについては4.4に設定した。さらに、忘却部(137)の忘却係数γ(138)については、ロールとピッチに対しては0.001に設定し、ヨーについては0に設定した。
【0057】
図6に示した1回目の飛行実験の結果を見ると、高度が2.39mから2.51mの天井接触期間で、弾性可動部33A,33Bの揺動軸による変動幅は、ロール時で-0.52度から0.80度の範囲に収まり、ピッチ時でも-0.57度から0.80度の範囲に収まった。
【0058】
また、
図7に示した2回目の飛行実験の結果を見ても、高度が2.30mから2.36mの天井接触期間で、弾性可動部33A,33Bの揺動軸による変動幅は、ロール時で-0.86度から0.75度の範囲に収まり、ピッチ時でも-0.57度から0.80度の範囲に収まった。
【0059】
これらの2回の飛行実験の結果から、忘却部(137)で忘却係数γ(138)の設定を行ったことで、小型無人航空機1のクローラ21を検査対象面に付着させて走行させる検査を行ったとしても、積分制御の積分値が忘却部(137)で減じられて、小型無人航空機1の飛行が破綻するような状態にはならなくなり、安定した飛行を続けることができることが分かった。
【0060】
次に、本実施の形態の小型無人航空機1の作用について説明する。
このように構成された本実施の形態の小型無人航空機1は、ロータ12を有する飛行手段部120と、クローラ21を有する移動手段部2と、本体部11の姿勢を制御する飛行制御部13とを備えている。
【0061】
そして、飛行制御部13では比例制御、積分制御及び微分制御を組み合わせたフィードバック制御(PID制御)によって飛行手段部120の制御が行われるとともに、積分制御の積分値を減ずる忘却部(
図2の137参照)が設けられている。
【0062】
このため、クローラ21によって構造物面を安定して走行することができるうえに、付着を伴う走行によって積分誤差が蓄積するのを忘却部(137)で設定される忘却係数γ(138)によって防ぐことができるので、走行後も安定した飛行を行うことができる。特に、付着面からクローラ21が離脱する際に、蓄積した積分誤差の影響で、小型無人航空機1の制御が破綻する可能性が高くなるが、そのような状況下でも、本実施の形態の小型無人航空機1であれば、積分誤差の蓄積が過大にならないので、安定して飛行を続けることができる。
【0063】
一方、飛行時に小型無人航空機1の姿勢を適切に制御するためには、PID制御により目標値(131)と出力値(139)との偏差を用いた制御を行う必要がある。そのため、忘却係数γ(138)は、離陸時や付着走行時には忘却効果の高い値を設定し、それ以外の自由飛行時には、忘却係数γ(138)を用いない制御とするのが好ましい。
【0064】
このように、忘却部(137)をPID制御に取り入れた飛行制御部13とすることで、小型無人航空機1の制御の破綻を防止することができる。その結果、長時間、検査対象面にクローラ21を付着走行させても、小型無人航空機1が異常な挙動を示すことがなくなり、継続して検査作業を実施することができるようになる。また、小型無人航空機1の墜落等による事故の発生も防止することができる。
【0065】
さらに、移動手段部2のクローラ21が取り付けられる枠体部32に、クローラ21が本体部11に対して傾くことを許容する弾性可動部33A,33Bが設けられていれば、クローラ21の走行面による小型無人航空機1の拘束を柔軟にして、PID制御の偏差の増大そのものを軽減することができるようになる。
【0066】
そして、枠体部32に設けられた弾性可動部33A,33Bのサスペンション機構の効果により、目標値(131)と出力値(139)との偏差の増大を充分に抑えられる場合には、忘却係数γ(138)による忘却効果を抑えたとしても、クローラ21による長時間の付着走行が可能となる。その場合は、過大な忘却係数γ(138)を与えることなく付着走行時の機体制御を行うことも可能となるので、事前の飛行実験でサスペンション機構(33A,33B)の効果に応じた忘却係数γ(138)を設定して、制御則を構築することとする。
【0067】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0068】
例えば、前記実施の形態では、橋梁や高層建築物などの構造物面の検査を行う小型無人航空機1を例に説明したが、これに限定されるものではなく、検査以外の目的にも本発明の小型無人航空機1を適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 :小型無人航空機
11 :本体部
11a :アーム
120 :飛行手段部
12 :ロータ
13 :飛行制御部
137 :忘却部
2 :移動手段部
21 :クローラ(無限軌道)
31 :柱部
32 :枠体部
321 :不動梁
322 :第1可動梁
323 :連結梁
324 :第2可動梁
33A,33B:弾性可動部