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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140101
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】複合セラミックス材料および接合体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/596 20060101AFI20230927BHJP
   C04B 37/02 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
C04B35/596
C04B37/02 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045970
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000003078
【氏名又は名称】株式会社東芝
(74)【代理人】
【識別番号】110001092
【氏名又は名称】弁理士法人サクラ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山下 知大
(72)【発明者】
【氏名】アルベサール 恵子
(72)【発明者】
【氏名】末綱 倫浩
【テーマコード(参考)】
4G026
【Fターム(参考)】
4G026BA17
4G026BA18
4G026BB22
4G026BF16
4G026BH07
(57)【要約】
【課題】熱伝導率または曲げ強度を向上できる、複合セラミックス材料および接合体を提供する。
【解決手段】
複合セラミックス材料は、窒化ケイ素粒子と、窒化ホウ素素粒子と、を具備する。複合セラミックス材料の断面において、窒化ケイ素粒子の平均粒径は、0.1μm以上10μm以下である。断面において、窒化ホウ素粒子の平均粒径は、0.1μm以上10μm以下である。断面において、窒化ホウ素粒子は、断面における全ての窒化ケイ素粒子および窒化ホウ素粒子に対して1%以上20%以下の面積割合を有する。複合セラミックス材料の空隙率は、5%以下である。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
窒化ケイ素粒子と、窒化ホウ素素粒子と、を具備する複合セラミックス材料であって、
前記複合セラミックス材料の断面において、前記窒化ケイ素粒子の平均粒径は、0.1μm以上10μm以下であり、
前記断面において、前記窒化ホウ素粒子の平均粒径は、0.1μm以上10μm以下であり、
前記断面において、前記窒化ホウ素粒子は、前記断面における全ての窒化ケイ素粒子および前記窒化ホウ素粒子に対して1%以上20%以下の面積割合を有し、
前記複合セラミックス材料の空隙率は、5%以下である、複合セラミックス材料。
【請求項2】
前記断面において、前記窒化ケイ素粒子の平均粒径の2.5倍以上の粒径を有する窒化ケイ素粒子は、全ての窒化ケイ素粒子に対して60%以下の面積割合を有する、請求項1に記載の複合セラミックス材料。
【請求項3】
前記断面において、前記窒化ホウ素粒子の平均粒径の1.8倍以上の粒径を有する窒化ホウ素粒子は、全ての窒化ホウ素粒子に対して40%以下の面積割合を有する、請求項1または請求項2に記載の複合セラミックス材料。
【請求項4】
前記窒化ホウ素粒子は、鱗片状であり、
前記窒化ホウ素粒子の少なくとも一部は、前記窒化ケイ素粒子の内部に延在する、請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の複合セラミックス材料。
【請求項5】
前記複合セラミックス材料のX線回折パターンにおいて、窒化ケイ素の結晶相の最大ピーク強度に対する結晶性粒界相の最大ピーク強度の比は、5%以下である、請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の複合セラミックス材料。
【請求項6】
前記窒化ケイ素粒子および前記窒化ホウ素粒子のそれぞれは、六方晶の結晶構造を有し、
前記断面において、前記窒化ケイ素粒子のc軸に対する前記窒化ホウ素粒子のab面の角度は、0度以上30度以下である、請求項1ないし請求項5のいずれか一項に記載の複合セラミックス材料。
【請求項7】
前記窒化ホウ素粒子は、鱗片状であり、
複数の前記窒化ホウ素粒子のc軸は、互いに配向する、請求項1ないし請求項6のいずれか一項に記載の複合セラミックス材料。
【請求項8】
複数の前記窒化ケイ素粒子のc軸は、互いに配向する、請求項1ないし請求項7のいずれか一項に記載の複合セラミックス材料。
【請求項9】
請求項1ないし請求項8のいずれか一項に記載の複合セラミックス材料を用いた基板と、
前記基板に接合された第1金属部と、
を備える、接合体。
【請求項10】
前記基板と前記第1金属部は、第1接合部を介して接合され、
前記第1金属部は、銅を含み、
前記第1接合部は、銀と、銅と、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、シリコ
ン、マグネシウム、インジウム、錫、および炭素からなる群より選択される少なくとも1つと、を含む、請求項9に記載の接合体。
【請求項11】
前記基板に接合された第2金属部をさらに備え、
前記基板は、前記第1金属部と前記第2金属部との間に位置する請求項9または請求項10に記載の接合体。
【請求項12】
前記第1金属部と接合された半導体素子をさらに備え、
前記第1金属部は、前記基板と前記半導体素子との間に位置する請求項9ないし請求項11のいずれか一項に記載の接合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、複合セラミックス材料および接合体に関する。
【背景技術】
【0002】
窒化ケイ素セラミックスは放熱や曲げ強度などの優れた特性を示すため、放熱基板用の材料として使われる。高容量を有するパワーデバイス等の素子の開発が進むにつれて発熱量が増える一方、搭載機器の軽量化が求められるため、放熱基板用材料の熱伝導率と曲げ強度は高いことが好ましい。このため、熱伝導率と曲げ強度が高い窒化ホウ素を窒化ケイ素と複合化することが行われている。しかし、このような複合セラミックス材料では、窒化ケイ素粒子の長径が10μm以上と大きく、曲げ強度の面で不利である。一方、窒化ホウ素の割合も10質量%以下と少なく窒化ホウ素の特性の一つである高熱伝導率の効果が発揮されない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平9-169575号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態は、熱伝導率または曲げ強度を向上できる、複合セラミックス材料および接合体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
実施形態の複合セラミックス材料は、窒化ケイ素粒子と、窒化ホウ素素粒子と、を具備する。複合セラミックス材料の断面において、窒化ケイ素粒子の平均粒径は、0.1μm以上10μm以下である。断面において、窒化ホウ素粒子の平均粒径は、0.1μm以上10μm以下である。断面において、窒化ホウ素粒子は、断面における全ての窒化ケイ素粒子および窒化ホウ素粒子に対して1%以上20%以下の面積割合を有する。複合セラミックス材料の空隙率は、5%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】複合セラミックス材料の構造例を示す断面模式図である。
図2】複合セラミックス材料を例示する斜視図である。
図3】複合セラミックス材料を例示する斜視図である。
図4】接合体を例示する模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、実施形態について、図面を参照して説明する。なお、図面は模式的なものであり、例えば厚さと平面寸法との関係、各層の厚さの比率等は現実のものとは異なる場合がある。また、実施形態において、実質的に同一の構成要素には同一の符号を付し説明を省略する。
【0008】
図1は、実施形態の複合セラミックス材料の構造例を示す断面模式図である。実施形態の複合セラミックス材料110は、図1に示すように、結晶粒子10aと、結晶粒子10bと、粒界相20と、空隙30と、を含む。結晶粒子10aおよび結晶粒子10bのそれぞれは、複数存在する。結晶粒子10aおよび結晶粒子10bを含む複数の結晶粒子10は、互いに離れて存在してもよいし、互いに部分的に接していてもよい。複数の結晶粒子10の一部が互いに離れ、複数の結晶粒子10の別の一部が互いに部分的に接していてもよい。空隙30は、複合セラミックス材料110の断面において、後述するSEM-EDSマッピング像で、観察断面に導電コートした元素(金やプラチナなど)がほとんど検出されない領域として定義される。
【0009】
結晶粒子10aは、例えば窒化ケイ素粒子である。窒化ホウ素粒子は、例えば六方晶の結晶構造を有する。窒化ケイ素粒子の結晶相は、β型窒化ケイ素であることが好ましく、α型窒化ケイ素を含まないことが好ましい。測定面で観察される全窒化ケイ素のうち、β型窒化ケイ素の割合をβ化率と呼び、式(1)で表される。複合セラミックス材料のX線回折を測定し、その回折パターンから、β型窒化ケイ素のX線回折パターン(例えばPDFカードNo.01-073-3034)とα型窒化ケイ素のX線回折パターン(例えばPDFカードNo.01-078-2962)を参考に、β型窒化ケイ素の(101)面のピーク強度と(120)面のピーク強度、および、α型窒化ケイ素の(102)面のピーク強度と(210)面のピーク強度を読み取り、式(1)のβ(101)強度、β(120)強度、α(102)強度、α(210)強度、にそれぞれに当てはめる。
【0010】
【数1】
【0011】
β化率が80%よりも低いとβ型窒化ケイ素が柱状に成長する粒子が少なくなるため、熱伝導率や強度の特性が低下する。β化率が高いほどこれらの特性は向上し、90%以上の窒化ケイ素がβ型窒化ケイ素、すなわちβ化率が90%以上であることが好ましく、全てのα型窒化ケイ素がβ型に相転移し複合セラミックス材料に含まれる窒化ケイ素は100%β型窒化ケイ素である、すなわちβ化率が100%であることがより好ましい。測定面から得られたβ化率を複合セラミックス材料のβ化率とする。
【0012】
結晶粒子10bは、例えば窒化ホウ素粒子である。窒化ホウ素粒子は、例えば六方晶の結晶構造を有する。
【0013】
実施形態の複合セラミックス材料は、結晶粒子10aおよび結晶粒子10b以外の他の結晶相を含んでいてもよい。
【0014】
本実施形態の複合セラミックス材料は、窒化ケイ素粒子と、窒化ホウ素粒子と、を複合化することにより、高い熱伝導率と高い強度とを両立するものである。
【0015】
窒化ケイ素粒子を用いたセラミックスは、高い強度を有するが、例えば高温焼結により窒化ケイ素粒子が粒成長して結晶粒径が大きくなると、熱伝導率では有利であるが、強度が低下する場合がある。
【0016】
これに対し、実施形態の複合セラミックス材料では、窒化ケイ素粒子と窒化ホウ素粒子とを複合化することにより、高温焼結により複合化セラミックスを製造する場合であっても窒化ケイ素粒子の粒成長を抑制できる。これにより、高い強度を実現できる。
【0017】
複合セラミックス材料の断面は、エネルギー分散型X線分光器搭載の走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscopy-Energy Dispersive X-ray Spectroscopy:SEM-EDS)を用いて、例えば加速電圧15kV、照射電流10μAの条件で観察される。観察する断面の方向は、プレス面と垂直な面とする。プレス面が不明な場合、後述するX線回折による評価で決定する。断面は、焼結体の中心の部分を破断することにより形成される破断面であってもよいが、より好ましくは、焼結体の切断面を鏡面研磨した後、CHガスによるプラズマエッチングを行った断面である。複合セラミックス材料が接合体に組み込まれている場合は複合セラミックス材料を接合体から取り出して、鏡面研磨した後、CHガスによるプラズマエッチングを行い観察する。破断面、鏡面研磨した断面、およびプラズマエッチングした断面のいずれの場合も、SEM観察時のチャージアップを防ぐために、断面に導電コートを行ってから観察する。また、EDS分析を行うことを前提に、観察断面の導電コートは金やプラチナなどカーボン以外の材料が好ましい。観察領域には500個以上の結晶粒子が存在するように観察倍率を設定する。このため、観察倍率は結晶粒子のサイズによるが、例えば全粒子の平均粒径が約2μmなら、観察領域は約130μm×約95μmであり、観察倍率は約1000倍である。また、全粒子の平均粒径が約0.4μmなら、観察領域は約15μm×約9μmであり、観察倍率は約10000倍であり、全粒子の平均粒径が約10μmなら、観察領域は約450μm×約270μmであり、観察倍率は約35倍である。このように調節した観察領域を複数、例えば3カ所用意し、後述するそれぞれの観察領域について各粒子の粒径やアスペクト比などの測定およびEDS点分析を行う。測定する粒子数は、複数の観察視野合計で例えば100粒子以上とする。その測定結果の平均値を本実施形態にかかる複合セラミックス材料の平均粒径や面積割合とする。
【0018】
得られた複数の観察像は、画像処理ソフトウェアImageJを用いて解析される。観察像において、空隙30は暗い領域として、粒界相20は明るい領域として抽出され、残りの領域、すなわち明るさが中間の領域が結晶粒子10と抽出される。より具体的には、観察像の二値化により抽出する場合、まず観察像を暗い領域とそれ以外の領域で二値化することにより、暗い領域として空隙30を抽出できる。ここで、この抽出した空隙30が、SEM-EDSマッピング像で観察断面に導電コートした元素(金やプラチナなど)がほとんど検出されない領域(暗い領域)と一致していることを確認する。ここで、ほとんど検出されない領域とは、他の領域に比べて導電コートした元素の信号強度100分の1以下の領域をいう。もし、一致しない場合は、二値化の閾値が不適切であると考えられるため、一致するよう閾値を設定し直し、二値化する。次に、元の観察像を今度は明るい領域とそれ以外の領域で二値化することにより、明るい領域として粒界相20が抽出できる。上記で抽出した空隙30と粒界相20以外の領域が結晶粒子10となる。ここで、各結晶粒子10が、繋がった粒界相20によって囲まれて閉じた領域になっていることを確認する。もし繋がった結晶粒子10によって粒界相20が囲まれて閉じた領域になっている場合、二値化の閾値が不適切であると考えられるため、各結晶粒子10が、繋がった粒界相20によって囲まれて閉じた領域になるよう閾値を設定し直し、二値化する。また、窒化ケイ素粒子と窒化ホウ素粒子は、SEM-EDSの結果から判別される。SEM観察を行った断面像のEDSマッピング像を測定することで、ケイ素が多く検出される粒子は窒化ケイ素粒子(結晶粒子10a)、ホウ素が多く検出される粒子は窒化ホウ素粒子(結晶粒子10b)であるため、窒化ケイ素粒子と窒化ホウ素粒子を区別できる。より具体的には、ひとつの粒子に対してEDS点分析にてケイ素、ホウ素および窒素の3元素のみを対象として測定する。すなわち上記3元素の合計が100原子%となる条件でEDS点分析の定性分析を行うとき、窒化ケイ素粒子は、例えばケイ素が30原子%以上かつホウ素が35原子%未満であり、窒化ホウ素粒子は例えばケイ素が30原子%未満かつホウ素が35原子%以上である。ただし、上記いずれも満たさない粒子の場合、対象粒子近傍の他の粒子からの信号が混ざっていると考えられるため、測定点をずらして測定し直すか、別の粒子を測定する。粒子内で測定点をずらして測定し直す場合、測定回数は1つの粒子に対して合計3回までとする。上記測定により種類が特定できない粒子については、下で述べる平均粒径や面積割合等の算出には用いない。なお、点分析の対象範囲(スポット径)が広いと、対象粒子近傍の他の粒子からの信号が混ざりやすくなるため、点分析の対象範囲は粒子内に収まる程度に小さくする。
【0019】
各粒子の粒径は、ImageJを用いて算出された各粒子の面積を円と仮定したときの直径(円相当径)により定義される。このようにして得た各粒子の粒径を平均することで、窒化ホウ素粒子及び窒化ケイ素粒子の平均粒径を求めることができる。
【0020】
上記断面において、複数視野から算出された窒化ケイ素粒子の平均粒径は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.2μm以上5μm以下であることが好ましく、0.5μm以上3μm以下であることがより好ましい。平均粒径が0.1μm未満では、粒界相20で熱伝導が妨げられることに加え、熱伝導率が低い粒界相の割合が増えるため、熱伝導率が低下する。また、平均粒径が10μmを超えると、表面積が広くなってしまうため亀裂が入りやすく、強度が低下する。
【0021】
上記断面において、複数視野から算出された窒化ホウ素粒子の平均粒径は、0.1μm以上10μm以下であることが好ましく、0.2μm以上5μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上3μm以下であることがより好ましい。平均粒径が0.1μm未満では、粒界相20で熱伝導が妨げられることに加え、熱伝導率が低い粒界相の割合が増えるため、熱伝導率が低下する。また、平均粒径が10μmを超えると、表面積が広くなってしまうため亀裂が入りやすく、強度が低下する。
【0022】
上記断面において、窒化ケイ素粒子の平均粒径の2.5倍以上の粒径を有する窒化ケイ素粒子は、全ての窒化ケイ素粒子に対して60%以下の面積割合を有することが好ましく、50%以下の面積割合を有することがより好ましい。これにより、表面積が広い粗大粒子が少ないため、強度の低下を抑制できる。平均粒径の2.5倍以上の粒径を有する窒化ケイ素粒子が全ての窒化ケイ素粒子に対して面積割合で60%を超える場合、表面積が広い粗大粒子が多くなり、強度の低下を招く。
【0023】
上記断面において、全ての窒化ホウ素粒子は、全ての窒化ケイ素粒子および全ての窒化ホウ素粒子を含む全ての粒子に対して1%以上20%以下の面積割合を有することが好ましく、2%以上10%以下の面積割合を有することがより好ましい。窒化ホウ素粒子の存在が、窒化ケイ素粒子の粒成長を抑え、平均粒径の2.5倍以上の窒化ケイ素粒子の割合の増加を抑えることができるため、高い強度を維持することができる。さらに、窒化ケイ素粒子よりも熱伝導率が高い窒化ホウ素粒子の存在により、高い熱伝導率を達成できる。これにより、高い熱伝導率と高い強度とを両立できる。上記面積割合が1%未満であると、窒化ケイ素粒子の粒成長の抑制が困難となる。上記面積割合が20%を超えると、窒化ホウ素の凝集が発生しやすくなり、凝集した窒化ホウ素を起点とした破断が発生しやすいため、高い強度の維持が困難となる。
【0024】
上記断面において、窒化ホウ素粒子の平均粒径の1.8倍以上の粒径を有する窒化ホウ素粒子は、全ての窒化ホウ素粒子に対して40%以下の面積割合を有することが好ましく、30%以下の面積割合を有することがより好ましい。これにより、表面積が広い粗大粒子が少ないため、強度の低下を抑制できる。平均粒径の1.8倍以上の粒径を有する窒化ケイ素粒子が全ての窒化ケイ素粒子に対して面積割合で40%を超える場合、表面積が広い粗大粒子が多くなり、強度の低下を招く。
【0025】
上記断面において、空隙30の占める割合が高くなると、複合セラミックス材料の熱伝導率と曲げ強度の低下を招くため、空隙30の占める割合は低いほど好ましく、複合セラミックス材料110は、空隙30を含まないことが最も好ましい。複合セラミックス材料110の断面積中の空隙30が占める面積割合を空隙率という。複合セラミックス材料の空隙率は、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがより好ましい。空隙率が5%を超えると、熱伝導率の低下や強度の低下を招く。なお、複合セラミックス材料の空隙率の取り得る範囲は0%以上、100%未満である。
【0026】
上記断面において、窒化ホウ素粒子の平均アスペクト比は、2以上10以下であることが好ましい。窒化ホウ素粒子は、例えば鱗片状である。窒化ホウ素粒子の平均アスペクト比が2以下だと窒化ホウ素粒子を配向させることが困難であり、アスペクト比が10以上だと窒化ホウ素粒子間に空隙が生じやすく、その結果強度と熱伝導率が低下してしまう。
【0027】
窒化ホウ素粒子のアスペクト比は、ImageJにより、各粒子の最大フェレ径と最小フェレ径とを算出し、最小フェレ径に対する最大フェレ径の比により定義される。ここで、最大フェレ径とは、対象とする粒子内の任意の2点間での最長距離を意味する。また、最小フェレ径とは、対象とする粒子に外接する任意の2本の平行線の中で最小の距離を意味する。このようにして得たアスペクト比を用いて窒化ホウ素粒子の平均アスペクト比を求めることができる。
【0028】
窒化ホウ素粒子は、窒化ケイ素粒子に突き刺さっていることが好ましい。これにより、熱伝導率と強度とを向上できる。ここで「窒化ホウ素粒子が窒化ケイ素粒子に突き刺さっている」とは、上記断面において、窒化ホウ素粒子の少なくとも一部が窒化ケイ素粒子の内部に延在する状態をいう。なお、窒化ホウ素粒子は、窒化ケイ素粒子を貫通していてもよい。
【0029】
粒界相20は、結晶性粒界相を含まないことが好ましい。ここで、結晶性粒界相とは、窒化ケイ素および窒化ホウ素以外の結晶相を表し、例えば結晶相はYSi型結晶相等がある。複合セラミックス材料のX線回折パターンにおいてピーク角度と強度から、複合セラミックス材料が含む結晶相を同定することができる。複合セラミックス材料のX線回折パターンにおいて、窒化ケイ素の結晶相の最大ピーク強度に対する結晶性粒界相の最大ピーク強度の比は、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがより好ましい。結晶性粒界相を低減することにより、熱伝導率を向上できる。なお、粒界相20は、非晶質の粒界相を有していてもよい。
【0030】
X線回折パターンの測定時の条件は、例えば以下のように設定される。X線回折装置、例えば(株)リガク製Smart-Labを用い、集中法(反射法、Bragg-Brendano法)によるX線回折を行う。X線回折では、複合セラミックス材料のプレス面に平行な断面を測定面とする。プレス面が不明な場合、複合セラミックス材料を直方体に加工し、直方体のある1つの頂点に集まる互いに垂直な3つの面に対し、それぞれX線回折を行い、後述する式(2)で表される窒化ケイ素の配向性を示す値が最も小さい面(c軸が配向している面)をプレス面とする。測定面は、表面粗さRaが0.05μm以下の平面となるように研磨する。測定には、Cuターゲット(Cu-Kα)を使用する。管電圧は、45kVに設定する。管電流は、200mAに設定する。走査速度は、2.0~20.0°/minに設定する。入射平行スリットを5度、長手制限スリットを10mm、受光スリットを20mm、受光平行スリットを5度に設定する。走査範囲(2θ)は、10°~80°に設定し、0.01°刻みで測定する。
【0031】
次に、本実施形態の複合セラミックス材料の製造方法例について説明する。製造方法例は、混合工程と、粉砕工程と、焼結工程と、を具備する。
【0032】
混合工程では、第1の原料と、第2の原料と、助剤と、を混合して混合粉を形成する。これらは、例えば自転ボールミルを用いて混合できる。自転ボールミルを用いることにより、第1の原料、第2の原料、および助剤を混合し、混合粉中の各原料の分散性を高めることができる。
【0033】
粉砕工程では、混合粉を粉砕して粉砕粉を形成する。混合粉は、例えば遊星ボールミルを用いて粉砕できる。遊星ボールミルを用いることにより、混合粉に含まれる粗大な粒子を粉砕できるため、粉砕粉末の粒子サイズの均一性を高めることができる。
【0034】
第1の原料の例は、窒化ケイ素等の粉末が挙げられる。
【0035】
第2の原料の例は、窒化ホウ素等の粉末が挙げられる。窒化ホウ素は、六方晶の結晶構造を有する。窒化ホウ素粉末の平均粒径は、100nm以下であることが好ましいが、数μmのオーダーでも構わない。
【0036】
助剤の例は、酸化マグネシウム、酸化イットリウム等が挙げられる。これらの助剤材料は単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。助剤は、焼成途中でケイ素や窒化ホウ素の表面酸化膜と反応して窒化ケイ素や窒化ホウ素の粒成長を促す。なお、助剤は、粒界相20に非晶質の粒界相として残る場合もある。
【0037】
混合粉末は、87質量%以上96質量%以下の窒化ケイ素と窒化ホウ素と、1質量%以上4質量%以下の酸化マグネシウムと、2.5質量%以上9質量%以下の酸化イットリウムと、を合計100質量%になるように混合して形成されることが好ましい。助剤が少なすぎると窒化ケイ素や窒化ホウ素の粒成長が困難となり、多すぎると粒界相が増加して複合セラミックス材料の熱伝導率や曲げ強度を低下させる。
【0038】
焼結工程では、放電プラズマ焼結法(SPS)を用いて1500℃以上2000℃以下の温度、20MPa以上のプレス圧、0.05気圧から10気圧の窒素雰囲気圧力下の第1の熱処理を行う。温度が1500℃未満であり、プレス圧が20MPa未満であり、雰囲気圧力が0.05未満である場合、空隙が低減できなかったり、高特性なβ型窒化ケイ素へ相転移を起こさなかったりする問題がある。温度が2000℃超である場合、窒素の脱離や焼結型との反応により異相が生じて熱伝導率や強度の低下が生じる問題がある。処理時間は、特に限定されないが、例えば3分以上72時間以下である。3分未満であると、空隙が低減できなかったり、高特性なβ型窒化ケイ素へ相転移を起こさなかったりする問題がある。72時間を超えると、窒素の脱離や焼結型との反応により異相が生じて熱伝導率や強度の低下が生じる問題がある。上記熱処理により、混合粉を加圧しながら焼結できるため、成形工程を不要とする。また、第1の原料に窒化ケイ素を用いることにより、窒化処理を不要とする。
【0039】
その後、上記SPSで得られた焼結体に対し、例えば7.5気圧以上10気圧以下の窒素雰囲気下で1900℃以上2000℃以下の温度で12時間以上72時間以下の第2の熱処理を行うこともできる。7.5気圧以上10気圧以下の窒素雰囲気により窒化ケイ素の蒸発を抑制できる。
【0040】
第2の熱処理のような高温高圧熱処理の前に第1の熱処理としてSPSを行うことで、窒化ケイ素や窒化ホウ素よりも熱伝導率や強度が低い粒界相を減らすことが可能になるため、熱伝導率や強度を向上させることができる。SPSでは、プレス圧により、焼結中に粒界相が焼結体の表面に押し出されるために、高温高圧熱処理に比べて結晶性粒界相を減らす効果がある。また、SPSの代わりにホットプレスを用いてもよい。
【0041】
焼結工程により得られた焼結体は、切り出し加工により所望の形状に加工される。
【0042】
製造された複合セラミックス材料の熱伝導率は、JIS-R-1611に準じて測定される。JIS-R-1611は、ISO18755(2005)に対応する。熱伝導率は、ネッチ製 フラッシュアナライザ LFA 467 HyperFlashを用い、レーザフラッシュ法により測定される。
【0043】
製造された複合セラミックス材料の曲げ強度は、JIS-R-1601に準じて3点曲げ強度試験により測定される。JIS-R-1601は、ISO14704(2000)に対応する。3点曲げ強度試験には、島津製作所製 オートグラフ AG-X(100kN)を用いる。ロードセルを1kN、試験速度を0.5mm/min、圧子半径および支持台半径を共にR2、支点間距離を30mmに設定し、室温で実施する。
【0044】
実施形態の複合セラミックス材料の熱伝導率は、70W/(m・K)以上である。熱伝導率の上限は、特に限定されないが、例えば250W/(m・K)以下である。
【0045】
実施形態の複合セラミックス材料の曲げ強度は、500MPa以上である。曲げ強度の上限は、特に限定されないが、例えば1100MPa以下である。
【0046】
上記製造方法例を用いて形成される複合セラミックス材料110において、複数の窒化ケイ素粒子のc軸は、互いに配向していることが好ましい。配向性は、例えばSPSを行った焼結体の面のX線回折を測定することにより評価できる。このX線回折で測定された焼結体の面を測定面と呼ぶ。測定面から得られた回折パターンを、β型窒化ケイ素のX線回折パターン(例えばPDFカードNo.01-073-3034)を参考に、β型窒化ケイ素粒子の(002)面のピーク強度と(320)面のピーク強度を読み取る。下記の式(2)により求められる配向性を示す値から、測定面に対するβ型窒化ケイ素粒子のc軸の方向が確認でき、当該値が小さいほど、窒化ケイ素粒子のc軸が測定面と平行に近いことを意味する。焼結体の面のうち少なくともひとつの測定面から得られた窒化ケイ素粒子のc軸が測定面と非垂直(≠±90度)、さらには±45度以内の角度、さらには略平行になることが好ましい。略平行とは、平行方向だけでなく、平行方向から±20度以内の状態も含む。また、式(2)により求められる配向性を示す値は、0.5未満であることが好ましい。
【0047】
配向性=(β型窒化ケイ素粒子の(002)面のピーク強度)/β型窒化ケイ素粒子の((320)面のピーク強度)・・・式(2)
【0048】
窒化ケイ素粒子のc軸方向の熱伝導率が高いため、窒化ケイ素粒子のc軸を配向させることにより、窒化ケイ素粒子のc軸を配向させた方向の熱伝導率を向上させることができる。
【0049】
上記製造方法例を用いて形成される複合セラミックス材料110において、複数の窒化ホウ素粒子のc軸は、互いに配向していることが好ましい。配向性は、例えばSPSを行った焼結体の面のX線回折を測定することにより評価できる。このX線回折で測定された焼結体の面を測定面と呼ぶ。測定面から得られた回折パターンを、窒化ホウ素のX線回折パターン(例えばPDFカードNo.00-034-0421)を参考に、窒化ホウ素粒子の(002)面のピーク強度と(100)面のピーク強度を読み取る。下記の式(3)により求められる配向性を示す値から、測定面に対する窒化ホウ素粒子のc軸の方向が確認でき、当該値が小さいほど、窒化ケイ素粒子のc軸が測定面と垂直に近いことを意味する。焼結体の面のうち少なくともひとつの測定面から得られた窒化ホウ素粒子のc軸が測定面と非平行(≠0度)、さらには±45度以上の角度、さらには略垂直になることが好ましい。略垂直とは、垂直方向だけでなく、垂直方向から±20度以内の状態も含む。また、式(3)により求められる配向性を示す値は、0.5未満であることが好ましい。
【0050】
配向性=(窒化ホウ素粒子の(100)面のピーク強度/窒化ホウ素粒子の(002)面のピーク強度)・・・式(3)
【0051】
窒化ホウ素粒子のa軸およびb軸方向(ab面内)の熱伝導率が高いため、窒化ホウ素粒子のab面を配向させることにより、熱伝導率を向上させることができる。ここで、窒化ホウ素粒子のab面は窒化ホウ素粒子のc軸と垂直であることから、窒化ホウ素粒子のc軸を配向させることにより、窒化ホウ素粒子のab面を配向させた方向の熱伝導率を向上させることができる。なお、六方晶の結晶構造を有する窒化ホウ素粒子では、a軸とb軸が等価である。
【0052】
上記製造方法例を用いて形成される複合セラミックス材料110において、窒化ケイ素粒子のc軸に対する窒化ホウ素粒子のab面の角度は、0度以上30度以下であることが好ましく、0度以上20度以下であることがより好ましい。窒化ケイ素粒子のc軸の方向を窒化ホウ素粒子のa軸の方向と平行に近づけることにより、熱伝導率をさらに向上させることができる。
【0053】
窒化ケイ素粒子のc軸に対する窒化ホウ素粒子のab面の角度は、例えば次の測定方法により求められる。まず、上述の方法で、試料断面のSEM観察を行い、窒化ケイ素粒子と窒化ホウ素粒子を同定する。断面において、窒化ケイ素粒子は長軸方向にc軸を有し、窒化ホウ素粒子は、長軸方向にab面を有する。次に、隣接する窒化ケイ素粒子と窒化ホウ素粒子のそれぞれについて、各粒子内の任意の2点間での最長距離となる2点を通る直線を引いたとき、2直線がなす角を、窒化ケイ素粒子のc軸に対する窒化ホウ素粒子のab面の角度とする。ただし、2直線がなす角の内、小さい方の角(鋭角または直角)とする。すなわち、窒化ケイ素粒子のc軸に対する窒化ホウ素粒子のab面の角度は0°以上90°以下となる。
【0054】
図2図3は、実施形態の複合セラミックス材料を例示する斜視図である。例えば図2および図3に示すように、複合セラミックス材料110は、基板である。基板の形状は、任意である。上述した通り、実施形態の複合セラミックス材料は、高い熱伝導率および高い曲げ強度を有する。このため、実施形態の複合セラミックス材料は、基板に好適に用いることができる。または、実施形態の複合セラミックス材料は、ベアリング等であってもよい。
【0055】
図4は、実施形態の接合体を例示する模式的断面図である。実施形態の接合体210は、図4に示すように、第1金属部31および複合セラミックス材料110を含む。この例では、複合セラミックス材料110は、基板として用いられる。
【0056】
第1金属部31は、複合セラミックス材料110と接合されている。例えば、第1金属部31と複合セラミックス材料110との間に、接合部41が設けられる。第1金属部31は、接合部41を介さずに、複合セラミックス材料110と直接接合されてもよい。
【0057】
図4に示す例では、接合体210は、第2金属部32および半導体素子50をさらに含む。半導体素子50は、第1金属部31と接合される。第1金属部31は、複合セラミックス材料110と半導体素子50との間に位置する。例えば、半導体素子50と第1金属部31との間に、接合部42が設けられる。半導体素子50は、接合部42を介さずに、第1金属部31と直接接合されてもよい。
【0058】
第2金属部32は、複合セラミックス材料110と接合されている。複合セラミックス材料110は、第1金属部31と第2金属部32との間に位置する。例えば、第2金属部32と複合セラミックス材料110との間に、接合部43が設けられる。第2金属部32は、接合部43を介さずに、複合セラミックス材料110と直接接合されてもよい。第2金属部32は、例えばヒートシンクとして機能する。
【0059】
第1金属部31および第2金属部32は、例えば、銅およびアルミニウムからなる群より選択された少なくとも1つを含む。接合部41~43は、例えば、銀および銅からなる群より選択された少なくとも1つを含む。接合部41~43は、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、ニオブ、シリコン、マグネシウム、インジウム、錫、および炭素からなる群より選択された少なくとも1つをさらに含んでもよい。半導体素子50は、例えば、ダイオード、MOSFET、またはIGBTを含む。
【0060】
接合部41~43は、活性金属を含むことが好ましい。例えば、第1金属部31および第2金属部32が銅を含むとき、活性金属は、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、およびニオブからなる群より選択された少なくとも1つである。接合部41~43は、銀と、銅と、チタン、ハフニウム、ジルコニウム、およびニオブからなる群より選択された少なくとも1つと、を含むことが好ましい。
【0061】
第1金属部31および第2金属部32がアルミニウムを含むとき、活性金属は、シリコンおよびマグネシウムからなる群より選択された少なくとも1つである。接合部41~43は、銀と、銅と、シリコンおよびマグネシウムからなる群より選択された少なくとも1つと、を含むことが好ましい。
【0062】
第1金属部31および第2金属部32が銅を含むとき、活性金属として、チタンが特に好ましい。チタンは窒化珪素と反応して窒化チタンを形成することにより、接合強度を高めることができる。
【0063】
実施形態の複合セラミックス材料110を接合体210に用いることで、接合体210の熱伝導率および曲げ強度を向上できる。また、優れた熱伝導率を有する複合セラミックス材料110を基板に用いることで、例えば、基板の放熱性を向上させることができる。加えて、複合セラミックス材料110は、優れた曲げ強度を有する。このため、基板の強度を維持しつつ、基板を薄くできる。これにより、基板の放熱性をさらに向上させることができる。
【0064】
以上で説明した各実施形態によれば、熱伝導率および曲げ強度を向上できる複合セラミックス材料および接合体を提供できる。
【0065】
以上、具体例を参照しつつ、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明の実施形態は、これらの具体例に限定されるものではない。例えば、複合セラミックス材料、金属部、接合部、半導体素子などの各要素の具体的な構成に関しては、当業者が公知の範囲から適宜選択することにより本発明を同様に実施し、同様の効果を得ることができる限り、本発明の範囲に包含される。
【0066】
また、各具体例のいずれか2つ以上の要素を技術的に可能な範囲で組み合わせたものも、本発明の要旨を包含する限り本発明の範囲に含まれる。
【0067】
その他、本発明の実施の形態として上述した複合セラミックス材料および接合体を基にして、当業者が適宜設計変更して実施し得る全ての複合セラミックス材料および接合体も、本発明の要旨を包含する限り、本発明の範囲に属する。
【0068】
その他、本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例および修正例に想到し得るものであり、それら変更例および修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【実施例0069】
以下、実施例を挙げて本発明を説明する。
【0070】
(実施例1)
三方晶窒化ケイ素(α-Si)粉末と、六方晶窒化ホウ素(h-BN)粉末と、酸化マグネシウム(MgO)粉末と、酸化イットリウム(Y)粉末と、をポットにセットし、ボールとエタノールを追加した後、自転ボールミルを用いて回転数を60rpmから150rpmにセットして1時間から120時間混練することによりスラリーを形成した。得られたスラリーを蒸留乾燥して混合粉末を調整した。混合粉末をポットにセットし、ボールとエタノールを追加した後、遊星ボールミルを用いて、回転数を300rpmから600rpmにセットして60分から180分混練することによりスラリーを形成した。得られたスラリーを蒸留乾燥して粉砕粉末を調製した。粉砕粉末に対し、0.05気圧から10気圧の窒素雰囲気下、20MPa以上のプレス圧1500℃以上2000℃以下の温度、3分以上72時間以下の時間で、SPSによる熱処理を行い、その後0.05気圧から10気圧を有する窒素雰囲気中において1500℃以上2000℃の温度、3分超72時間以下の時間で熱処理を行うことにより、窒化ケイ素と窒化ホウ素を備える実施例1の複合セラミックス材料を得た。
【0071】
(実施例2~5および比較例1、2)
実施例1において原料として用いた窒化ケイ素粉末の平均粒径を変化させることで、実施例2~5および比較例1、2の複合セラミックス材料を得た。
【0072】
(実施例6~9および比較例3、4)
実施例1において原料として用いた窒化ホウ素粉末の平均粒径を変化させることで、実施例6~9および比較例3、4の複合セラミックス材料を得た。
【0073】
(実施例10、11および比較例5、6)
実施例1において原料粉における窒化ホウ素粉末の割合を変化させることで、実施例10、11および比較例5、6の複合セラミックス材料を得た。
【0074】
(実施例12、13および比較例7)
実施例1においてSPS時のプレス圧力を変化させることで、実施例12、13および比較例7の複合セラミックス材料を得た。
【0075】
(実施例14、15)
実施例1において原料として用いた窒化ケイ素粉末の粒度分布を変化させることで、実施例14、15の複合セラミックス材料を得た。
【0076】
(実施例16、17)
実施例1において原料として用いた窒化ホウ素粉末の粒度分布を変化させることで、実施例16、17の複合セラミックス材料を得た。
【0077】
(実施例18)
実施例1において原料粉末の混合条件(回転数、時間)を変化させることで実施例18の複合セラミックス材料を得た。
【0078】
(実施例19)
実施例1において原料粉末に用いる窒化ホウ素の粒子形状を鱗片状から球状に変更することで、実施例19の複合セラミックス材料を得た。
【0079】
(実施例20~22)
実施例1において原料粉における焼結助剤(酸化マグネシウムおよび酸化イットリウム)の割合を変化させることで、実施例20~22の複合セラミックス材料を得た。
【0080】
(実施例23)
実施例1において原料粉末の六方晶窒化ホウ素(h-BN)の代りに立方晶窒化ホウ素(c-BN)を用いることで、実施例23の複合セラミックス材料を得た。
【0081】
(実施例24、25)
実施例1において原料粉末の混合条件(回転数、時間)および得られた混合粉末の粉砕条件(回転数、時間)を変化させることで実施例24、25の複合セラミックス材料を得た。
【0082】
(実施例26)
実施例1において原料として用いた窒化ホウ素粉末のアスペクト比およびSPS時のプレス圧力を変化させることで、実施例26の複合セラミックス材料を得た。
【0083】
(実施例27)
実施例1においてSPS時のプレス圧力およびSPSによる熱処理時間を変化させることで、実施例27の複合セラミックス材料を得た。
【0084】
(実施例28)
実施例1において熱処理時間を短く、熱処理温度を低くすることで、実施例28の複合セラミックス材料を得た。
【0085】
(実施例29、30)
実施例1において原料として用いた窒化ホウ素粉末のアスペクト比を変化させることで、実施例29、30の複合セラミックス材料を得た。
【0086】
(実施例31)
実施例1において原料として用いた窒化ケイ素粉末および窒化ホウ素粉末の平均粒径および粒度分布、原料粉における窒化ホウ素粉末の割合、原料粉末の混合条件(回転数、時間)および得られた混合粉末の粉砕条件(回転数、時間)、SPS時のプレス圧力、熱処理時間および熱処理温度を変化させることで、実施例31の複合セラミックス材料を得た。
【0087】
上記工程により得られた複合セラミックス材料を加工後、熱伝導率および強度を測定した。熱伝導率の測定に使用したサンプルを、片面を鏡面加工した後、鏡面加工した面に対してX線回折を行った。X線回折の結果から、窒化ケイ素および窒化ホウ素の結晶構造をそれぞれ評価し、窒化ケイ素の結晶相の最大ピーク強度に対する結晶性粒界相の最大ピーク強度の比を評価し、式(1)により求められる窒化ケイ素のβ化率を評価し、式(2)および式(3)により求められる窒化ケイ素および窒化ホウ素の配向性をそれぞれ評価した。さらに鏡面加工した面に対してプラズマエッチングを行うことにより、断面観察用のサンプルを形成した。このサンプルに金蒸着を施した後、SEM-EDSにより、断面における粒子像およびその組成を得た。得られた断面像の粒子解析を、ImageJを用いて上述した方法で行い、窒化ケイ素粒子の平均粒径および粗大粒子の割合、窒化ホウ素粒子の平均粒径および粗大粒子の割合、窒化ホウ素粒子の面積割合、空隙率、窒化ホウ素粒子の形状、窒化ケイ素粒子の内部に延在する窒化ホウ素粒子の有無、窒化ケイ素粒子のc軸に対する窒化ホウ素粒子のab面の角度ならびに窒化ホウ素粒子のアスペクト比を評価した。結果を表1、表2、表3、表4、表5、表6に示す。表中「―」は未評価あるいは評価不能を表す。表中の粗大粒子割合とは、窒化ケイ素については平均粒径の2.5倍以上の粒径を有する粒子の割合のことであり、窒化ホウ素については平均粒径の1.8倍以上の粒径を有する粒子の割合のことである。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【0091】
【表4】
【0092】
【表5】
【0093】
【表6】
【0094】
実施例1~5および比較例1、2の結果から、窒化ケイ素粒子の平均粒径が0.1μm未満では、熱伝導率が著しく低下する。また、平均粒径が10μmを超えると、強度が著しく低下する。このため、窒化ケイ素粒子の平均粒径は0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。さらに、熱伝導率と強度の両立の観点から、窒化ケイ素粒子の平均粒径は0.2μm以上5μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上3μm以下であることが最も好ましい。
【0095】
実施例1、6~9および比較例3、4の結果から、窒化ホウ素粒子の平均粒径が0.1μm未満では、熱伝導率が著しく低下する。また、平均粒径が10μmを超えると、強度が著しく低下する。このため、窒化ホウ素粒子の平均粒径は0.1μm以上10μm以下であることが好ましい。さらに、熱伝導率と強度の両立の観点から、窒化ホウ素粒子の平均粒径は0.2μm以上5μm以下であることがより好ましく、0.5μm以上3μm以下であることが最も好ましい。
【0096】
実施例1、10、11および比較例5、6の結果から、全ての窒化ホウ素粒子は、全ての窒化ケイ素粒子および全ての窒化ホウ素粒子を含む全ての粒子に対して面積割合(以下、窒化ホウ素面積割合とする)が1%未満または20%を超えると、強度が著しく低下する。従って、窒化ホウ素面積割合は1%以上20%以下の面積割合を有することが好ましい。強度の向上のために、2%以上10%以下の面積割合を有することがより好ましい。
【0097】
実施例1、12、13および比較例7の結果から、複合セラミックス材料の空隙率が5%を上回ると熱伝導率と強度がともに著しく低下する。従って、複合セラミックス材料の空隙率は、5%以下であることが好ましい。さらに熱伝導率と強度の向上のために、複合セラミックス材料の空隙率は、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることが最も好ましい。
【0098】
実施例1、14、15の結果から、強度の向上のために、窒化ケイ素粒子の平均粒径の2.5倍以上の粒径を有する窒化ケイ素粒子は、全ての窒化ケイ素粒子に対して60%以下の面積割合を有することが好ましく、さらに50%以下の面積割合を有することがより好ましい。
【0099】
実施例1、16、17の結果から、強度の向上のために、窒化ホウ素粒子の平均粒径の1.8倍以上の粒径を有する窒化ホウ素粒子は、全ての窒化ホウ素粒子に対して40%以下の面積割合を有することが好ましく、さらに30%以下の面積割合を有することがより好ましい。
【0100】
実施例1と実施例18の結果から、熱伝導率と強度の向上のために、窒化ホウ素粒子は、窒化ケイ素粒子の内部に延在することが好ましい。
【0101】
実施例1と実施例19の結果から、熱伝導率と強度の向上のために、窒化ホウ素粒子の形状は鱗片状であることが好ましい。
【0102】
実施例1と実施例20~22の結果から、熱伝導率の向上のために、複合セラミックス材料のX線回折パターンにおいて、窒化ケイ素の結晶相の最大ピーク強度に対する結晶性粒界相の最大ピーク強度の比は、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、1%以下であることがより好ましい。
【0103】
実施例1と実施例23の結果から、熱伝導率の向上のために、窒化ホウ素粒子の結晶構造は六方晶であることが好ましい。
【0104】
実施例1と実施例24、25の結果から、熱伝導率の向上のために、窒化ケイ素粒子のc軸に対する窒化ホウ素粒子のab面の角度は0度以上30度以下であることが好ましく、0度以上20度以下であることがより好ましい。
【0105】
実施例1と実施例26の結果から、熱伝導率の向上のために、式(3)により求められる窒化ホウ素の配向性を示す値は、0.5未満であることが好ましい。
【0106】
実施例1と実施例27の結果から、熱伝導率の向上のために、式(2)により求められる窒化ケイ素の配向性を示す値は、0.5未満であることが好ましい。
【0107】
実施例1と実施例28の結果から、熱伝導率および強度の向上のために、式(1)により求められる窒化ケイ素のβ化率は80%以上であることが好ましい。
【0108】
実施例1と実施例29、30の結果から、熱伝導率の向上のために、窒化ホウ素粒子の平均アスペクト比は、2以上10以下であることが好ましい。
【0109】
実施例1と実施例31の結果から、表中に示した各パラメータを最適化することで、熱伝導率と強度を両方とも向上させることができる。
【0110】
以上のように、実施例の複合セラミックス材料は、窒化ケイ素粒子と、窒化ホウ素粒子と、を具備する複合セラミックス材料であり、複合セラミックス材料の断面において、窒化ケイ素粒子の平均粒径は、0.1μm以上10μm以下である。断面において、窒化ホウ素粒子の平均粒径は、0.1μm以上10μm以下である。断面において、窒化ホウ素粒子は、断面における全ての窒化ケイ素粒子および窒化ホウ素粒子に対して1%以上20%以下の面積割合を有する。複合セラミックス材料の空隙率は、5%以下であり、高熱伝導率と高強度とを両立できることがわかった。
【0111】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0112】
10a…結晶粒子、10b…結晶粒子、20…粒界相、30…空隙、31…第1金属部、32…第2金属部、41~43…接合部、50…半導体素子、110…複合セラミックス材料、210…接合体。
図1
図2
図3
図4