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特開2023-140110架空線引き留め用カムアロングとこれを用いた架空線張力の仮支持工法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140110
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】架空線引き留め用カムアロングとこれを用いた架空線張力の仮支持工法
(51)【国際特許分類】
   H02G 1/02 20060101AFI20230927BHJP
   H02G 1/04 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
H02G1/02
H02G1/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022045983
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】505272618
【氏名又は名称】株式会社タワーライン・ソリューション
(71)【出願人】
【識別番号】000001890
【氏名又は名称】三和テッキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078950
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 忠
(72)【発明者】
【氏名】下山 航大
(72)【発明者】
【氏名】竹田 良太
【テーマコード(参考)】
5G352
【Fターム(参考)】
5G352AA07
5G352AC02
5G352BA02
(57)【要約】
【課題】宙乗り機や自走機を用いずに、鉄塔上から遠隔操作で架空線上に設置して架空線を仮把持でき、しかも堅牢な架空線引き寄せ用カムアロングを提供する。
【解決手段】カムアロング1は、把持装置2と、操作棒3とを具備する。把持装置2は、架空線G上の鉄塔Tから離れた位置において上下クランプ5,6間で架空線Gを把持し、牽引手段で鉄塔Tへ引き寄せられる。操作棒3は、鉄塔T上から遠隔操作で、把持装置2を設置位置まで架空線G上を滑らせて送り出し、かつ上下クランプ5,6に架空線Gを仮把持させる。上クランプ5は、操作棒3の軸周り回転に連動して下降し、下クランプ6との間で初期把持力をもって架空線Gを仮把持する。リンク機構7は、牽引手段の牽引に伴い、下クランプ6を押し上げるように下クランプ6に連結され、それにより、上クランプ5との間で架空線Gを初期把持力に追加した把持力をもって把持するように設けられる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄塔に引き留められた架空線上の当該鉄塔から離れた位置に配置され、当該架空線を上下クランプの間で把持し、牽引手段により前記鉄塔へ引き寄せられる把持装置と、
前記把持装置に連結され、開放した前記上下クランプ間に前記架空線を受け入れた当該把持装置を設置位置まで前記架空線上を滑らせて送り出し、また引き戻し可能で、かつ前記上下クランプを接近させて前記架空線を初期把持力もって仮把持し、また離反させて把持を解除するように前記把持装置を鉄塔上から遠隔操作する操作棒とを具備し、
前記把持装置は、本体と、当該本体上に相対上下動自在に支持され前記架空線上に乗せ置かれる前記上クランプと、当該上クランプの下方に相対向して前記本体上に相対上下動自在に支持される前記下クランプと、前記本体上に支持され一端側において前記牽引手段に接続され他端側において前記下クランプに連結されるリンク機構とを具備し、
前記上クランプは、前記操作棒の軸周り一方向回転に連動して前記本体に対して相対的に下降し、前記下クランプとの間で前記架空線を仮把持し、他方向回転により上昇して把持を解除するように設けられ、
前記リンク機構は、前記牽引手段による牽引に伴い前記下クランプを押し上げるように当該下クランプに連結され、それにより、前記上クランプとの間で前記架空線を前記初期把持力に追加した把持力をもって把持するように設けられることを特徴とする架空線引き寄せ用カムアロング。
【請求項2】
前記本体上には、軸心が上下方向のねじ筒部が設けられ、
前記上クランプは、前記ねじ筒部に螺合して上下動するねじ棒に連結され、
前記ねじ棒は、伝動機構を介して前記操作棒の軸周り回転を受動するように設けられることを特徴とする請求項1に記載の架空線引き寄せ用カムアロング。
【請求項3】
前記本体上には、前記ねじ棒の上下動に連動して上位の開放位置と下位の閉鎖位置との間を上下動するシャッタ板が設けられ、
前記シャッタ板は、上位の開放位置において前記上下クランプ間の側方開放部を開放して当該上下クランプ間への前記架空線の受け入れを可能とし、下位の閉鎖位置において前記側方開放部を閉鎖して前記把持装置の前記架空線からの脱線を阻止するように設けられることを特徴とする請求項1に記載の架空線引き寄せ用カムアロング。
【請求項4】
前記操作棒は、相互に伸縮及び固定可能な複数の構成管からなるテレスコピックパイプで構成され、先端側の前記構成管の先端において前記把持装置に着脱自在に接続されることを特徴とする請求項1に記載の架空線引き寄せ用カムアロング。
【請求項5】
請求項1に記載のカムアロングを用いた架空線張力の仮支持工法であって、
前記把持装置の上下クランプ間を開いた状態で、前記架空線を当該上下クランプ間に取り込み、当該把持装置を架空線上に支持する第1の工程と、
前記第1の工程に続いて、前記把持装置に接続された前記操作棒により、当該把持装置を架空線上で滑らせて所定の設置位置まで移動させる第2の工程と、
前記第2の工程に続いて、前記操作棒を軸周りに一方向へ回転させて、前記上クランプを前記本体に対して下降させることにより、前記上下クランプ間に前記架空線を、初期把持力をもって仮把持させる第3の工程と、
前記第3の工程に続いて、前記リンク機構の一端側を前記牽引手段により牽引することにより、前記下クランプを押し上げて前記上クランプとの間で前記架空線を前記初期把持力に追加した把持力をもって把持しつつ、前記鉄塔側へ引き寄せて仮支持し、それにより所定の工事箇所の前記架空線の張力をなくす第4の工程と、
前記所定の工事箇所の工事完了後、前記牽引手段による牽引を緩めることによって前記上下クランプ間の把持力を低減させる第5の工程と、
前記第5の工程に続いて、前記把持装置に接続された前記操作棒を軸周りに反対方向へ回転させることにより、前記上クランプを前記本体に対して上昇させ、前記下クランプとの間を開いて前記架空線の把持を解き張力を解放する第6の工程と、
前記第6の工程に続いて、前記把持装置に接続された前記操作棒をたぐって前記把持装置を前記架空線に沿って手元まで引き寄せ、当該架空線上から取り外す第7の工程とを含むことを特徴とする架空線張力の仮支持工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
既設の架空地線などの架空線を張り替えたり、架空線周りの付随設備を交換したりする工事においては、架空線を鉄塔から切り離し又は接続する作業の間、これを鉄塔に引き寄せて仮留めし、その張力をいったん鉄塔に預けて、作業箇所の張力をなくすことが行われる。本発明は、このような工事において、架空線を鉄塔側へ引き寄せて仮支持するために用いられるカムアロングに関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、既設の架空線を鉄塔との接続部から切り離す際には、架空線を別途、カムアロングで緊線して鉄塔に仮留めし、接続部の張力を鉄塔に一旦預けてから作業を行う。この場合、カムアロングは、接続部より鉄塔から離れた位置において架空線に取り付ける必要がある。
特許文献1に記載のカムアロングは、電線を把持する二つ割りのクサビ部材と、このクサビ部材が挿入される筒状のカムアロング本体と、カムアロング本体に結合するアームとを具備する。クサビ部材の外周面及びカムアロング本体の内周面は挿入側先細りのテーパー状に形成されている。電線を挿入したクサビ部材をカムアロング本体に装着して、鉄塔に連結した後、チェーンブロック等でアームを引き寄せると、クサビ部材とカムアロング本体とで電線を把持し、緊線することができる。
特許文献2に記載のカムアロングは、鉄塔に結合されたチェーンブロックのワイヤに接続されたアームと、電線を内側に受け入れて把持する対向一対の挟持片を備えたクランプとがリンクで連結される。一対の挟持片は、チェーンブロックによるアームの引き寄せに伴うアームとクランプとの延線方向の相対移動により電線を把持し、これを緊線することができる。
特許文献3に記載の自走式カムアロングは、架空電線をクサビとの間に通して移動可能な本体と、その進行方向の後方に位置する自走車とを備え、自走車が押し棒により本体を押し付けて架空電線上を走行し、本体を所定の把持位置まで搬送する。自走車を逆走させて回収後、本体の把手に結合したワイヤをウィンチ等で牽引し、カム機構を介してクサビを本体に押し込むことで電線を把持して引き寄せる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実開昭58-193807号公報
【特許文献2】特許4121081号公報
【特許文献3】実公平3-006100号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1,2に記載のいずれのカムアロングも、その取り付け、取り外し作業は、作業員が架空線に吊られる宙乗り機に乗って接続部(例えば碍子の先端部)より先の位置まで移動して行う必要がある。小径の架空線では、宙乗り機自体の使用が禁止されるので、これを適用することができないという問題点がある。
特許文献3に記載の自走式のカムアロングは、電線上にダンパ等の障害物があると使用できず、電源等の駆動源が必要なため、大重量化により総合的に施工性の低下を招く。また、電気設備の経年劣化が早く、故障による装置の回収困難等、電気設備の脆弱性に伴うトラブルが生じやすい問題点がある。
したがって、本発明は、宙乗り機や電動式自走機を用いることなく、鉄塔上の作業員が、遠隔操作で架空線上に取り付け、取り外しすることができ、しかも堅牢な架空線引き寄せ用カムアロングを提供し、またこれを用いて、工事期間中、架空線の張力を鉄塔に仮に支持する工法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下の説明において添付図面の符号を参照するが、本発明はこれに限定されるものではない。
上記課題を解決するための、本発明のカムアロング1は、把持装置2と、これに連結される操作棒3とを具備する。把持装置2は、鉄塔Tに引き留められた架空線G上の鉄塔Tから離れた位置において上下クランプ5,6間で架空線Gを把持し、チェーンブロックCのような牽引手段により鉄塔Tへ引き寄せられる。操作棒3は、把持装置2に連結され、開放した上下クランプ5,6間に架空線Gを受け入れた把持装置2を設置位置まで架空線G上を滑らせて送り出し、また引き戻し、かつ上下クランプ5,6を接近させて架空線Gを初期把持力もって仮把持し、また離反させて把持を解除するように把持装置2を鉄塔上から遠隔操作可能に設けられる。把持装置2は、本体4上に相対上下動自在に支持され、架空線G上に乗せ置かれる上クランプ5と、上クランプ5の下方に相対向して本体4上に相対上下動自在に支持される下クランプ6と、本体4上に支持され一端側において牽引手段に接続され他端側において下クランプ6に連結されるリンク機構7とを具備する。上クランプ5は、操作棒3の軸周り回転に連動して本体4に対して相対的に下降することにより、下クランプ6との間で架空線Gを仮把持し、また上昇して把持を解除するように設けられる。リンク機構7は、牽引手段の牽引に伴い、下クランプ6を押し上げるように下クランプ6に連結され、それにより、上クランプ5との間で架空線Gを初期把持力に追加した把持力をもって把持するように設けられる。
また、本発明のカムアロング1を用いた架空線Gの仮支持工法は、把持装置2の上下クランプ5,6間を開いた状態で、架空線Gを上下クランプ5,6間に取り込み、把持装置2を架空線G上に支持する第1の工程と、これに続いて、把持装置2に接続された操作棒3により、把持装置2を架空線G上で滑らせて所定の設置位置まで移動させる第2の工程と、これに続いて、操作棒3を軸周りに一方向へ回転させて、上クランプ5を本体4に対して下降させることにより、上下クランプ5,6間に架空線Gを、初期把持力をもって仮把持させる第3の工程と、これに続いて、リンク機構7の一端側を牽引手段により牽引することにより、下クランプ6を押し上げて上クランプ5との間で架空線Gを初期把持力に追加した把持力をもって把持しつつ、鉄塔T側へ引き寄せて仮支持し、それにより所定の工事箇所の架空線Gの張力をなくす第4の工程と、これに続いて、牽引手段による牽引を緩めることによって上下クランプ5,6間の把持力を低減させる第5の工程と、これに続いて、把持装置2に接続された操作棒3を軸周りに反対方向へ回転させることにより、上クランプ5を本体4に対して上昇させ、下クランプ6との間を開いて架空線Gの把持を解き張力を解放する第6の工程と、これに続いて、把持装置2に接続された操作棒3をたぐって把持装置2を架空線Gに沿って手元まで引き寄せ、当該架空線G上から取り外す第7の工程とを含む。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、宙乗り機や電動式自走機を用いることなく、鉄塔上の作業員が、遠隔操作で容易に架空線上に取り付け、取り外しすることができ、しかも堅牢な架空線引き寄せ用カムアロングと、これを用いて作業を安全に迅速に行える架空線の仮支持工法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本発明に係る架空線引き留め用カムアロングの斜視図である。
図2図1のカムアロングの使用状態の説明図である。
図3】本発明に係る架空線引き留め用カムアロングの正面図である。
図4図1のカムアロングにおける把持装置の正面図である。
図5図1のカムアロングにおける把持装置の右側面図である。
図6図1のカムアロングにおける把持装置の左側面図である。
図7図1のカムアロングにおける把持装置の背面図である。
図8図4におけるVIII-VIII断面図である。
図9図4におけるIX-IX断面図である。
図10図1のカムアロングにおける操作棒を示し、(A)は正面図、(B)は平面図である。
図11図1のカムアロングの動作の過程(開放位置)を示し、(A)は正面図、(B)は側面図である。
図12図1のカムアロングの動作の過程(閉鎖位置)を示し、(A)は正面図、(B)は側面図である。
図13図1のカムアロングの動作の過程(仮把持位置)を示し、(A)は正面図、(B)は側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図面を参照して本発明に係る架空線引き留め用カムアロングの実施の一形態を説明する。
【0009】
カムアロング1は、例えば図2に示すように、鉄塔Tに引き留められた既設の架空線Gを張り替える等の工事において、架空線Gを碍子連Iから取り外す作業の間、架空線Gを鉄塔Tに別途仮止めして一旦張力を預ける工法を実行する際に、架空線Gの取り外し箇所より前方を把持装置2で把持し、牽引ワイヤW,チェーンブロックC等を介して架空線Gを鉄塔Tへ引き寄せて仮支持するために用いられ、工事終了後は架空線Gから取り外して回収される。
【0010】
図1,3に示すように、カムアロング1は、把持装置2と操作棒3とを具備する。把持装置2は、鉄塔Tに引き留められた既設の架空地線等の架空線G上に配置され、架空線Gを把持して鉄塔T上のチェーンブロックC等により牽引ワイヤWを介して引き寄せられる。
【0011】
操作棒3は、把持装置2に連結分離可能で、鉄塔T上からの操作で、把持装置2を架空線G上の所定の設置位置まで送り出すと共に、遠隔操作で把持装置2に架空線Gに対する初期把持力を付与した後、把持装置2から切り離される。
【0012】
図4~9によく示すように、把持装置2は、本体4と、本体4上に相対上下動自在に支持され、架空線G上に乗せ置かれる上クランプ5と、上クランプ5の下方に相対向し、リンク機構7を介して本体4上に相対上下動自在に支持される下クランプ6とを具備する。リンク機構7は、本体4上に支持され、一端側において牽引ワイヤWに接続され、他端側において下クランプ6に連結される。
【0013】
上クランプ5は、操作棒3の軸周り一方向回転に連動して本体4に対して相対的に下降することにより、下クランプ6との間で初期把持力をもって架空線Gを仮把持し、また他方向回転により上昇して把持を解除するように設けられる。
【0014】
リンク機構7は、牽引ワイヤWの牽引に伴い、下クランプ6を押し上げるように下クランプ6に連結され、それにより、上クランプ5との間で架空線Gを初期把持力に追加した把持力をもって把持するように設けられる。
【0015】
図5,6に示すように、把持装置2の本体4は、架空線Gの延線直交方向の片側(後側)に架空線Gに沿うように配置される平板状の支持板部41と、図7,8,9によく示すように、支持板部41の上部から前方架空線G上へ張り出すように設けられるねじ筒部42とを具備する。支持板部41の後側には、複数のリブ411が形成される。
【0016】
上クランプ5は、図5,6によく示すように、支持板部41の前側に設けられ、架空線G上に載せ置かれるクランプ本体51と、ねじ棒52を具備する。ねじ棒52は、図7,8によく示すように、クランプ本体51の中央から軸周り回転自在に上方に延出し、ねじ筒部42に螺合し、上端部において、伝動機構8を介して、操作棒3の先端部に接続分離可能である。ねじ棒52は、伝動機構8に接続された操作棒3の軸周り回転操作により正逆回転し、ねじ筒部42に沿って、クランプ本体51と共に、本体4に対して上下に移動する。クランプ本体51が架空線Gの上に乗っている状態において、クランプ本体51が本体4に対して下降すると、本体4が下クランプ6と共に架空線Gに対して引き上げられることになる。
【0017】
図4によく示すように、クランプ本体51の延線方向の前後両端には、ガイド部材53が固着される。ガイド部材53は、図5,6によく示すように、架空線Gに掛かるように、クランプ本体51から延線直交方向前側へ延出し、把持装置2を架空線G上へ掛けるときに、架空線Gを滑らせて上クランプ5の下へ導くように、下方へ開いた概略V字状の切欠部を具備する。
【0018】
図4,8によく示すように、伝動機構8はギアケース81内に設けられる。ねじ棒52の上端部と、操作棒3を接続する接続軸82の内端が互いに直交方向に、それぞれ軸周り回転自在にギアケース81に受け入られる。接続軸82には、枢支ピン82aで接続板85が枢支される。接続板85は、先端側に、延線直交方向に突出する脱着ロッド85aを具備する。ねじ棒52の上端と接続軸82の内端にそれぞれ固着された傘歯車83,84が、ギアケース81内で噛み合い、接続軸82の回転がねじ棒52へ伝えられる。
【0019】
図4,8によく示すように、ギアケース81の前側の側面には、支持板部41と平行に下方へ延びる平板状のピニオン支持板9がボルト91で固着される。ピニオン支持板9の後側面に、延線方向前後一対のピニオンギア10が軸101で支持される。
【0020】
ピニオン支持板9に相対上下動自在に重なるようにシャッタ板11が設けられる。シャッタ板11は、把持装置2を架空線G上で移動させるときに、上下クランプ5,6間の前側開放部を閉じて把持装置2が架空線Gから脱線することを防止するためのものである。シャッタ板11の延線方向前後の縦縁には、図7,8,9によく示すように、ピニオンギア10に噛み合う縦方向のラック12がボルト121,122で取り付けられる。図9に示すように、ラック12の取り付け座には、ピニオン支持板9の縦縁に摺動自在に噛み合う縦方向のガイド溝123が形成される。シャッタ板11は、ガイド溝123に嵌まるピニオン支持板9の両縁に案内されて、ピニオン支持板9に対して上下動し、上位の開放位置において上下クランプ5,6間の側方開放部を開放して上下クランプ5,6間への架空線Gの受け入れを可能とし、下位の閉鎖位置において側方開放部を閉鎖して把持装置の架空線Gからの脱線を阻止する。シャッタ板11に形成される一対の縦方向の長孔11aは、ピニオンギア10の軸101の突出部を逃がす長孔である。
【0021】
図9によく示すように、ピニオンギア10に噛み合うもう一つのラック13がねじ筒部42に固着される。ねじ筒部42に対してねじ棒52がピニオン支持板9と共に上下動すると、ラック13に噛み合うピニオンギア10が回転し、シャッタ板11を同方向に上下動させる。したがって、ねじ棒52の回転で、それが上クランプ5、ピニオン支持板9と共に本体4に対して下降するとき、シャッタ板11も下降して上下クランプ5,6間の開放部を閉鎖するように動作する。
【0022】
図8によく示すように、リンク機構7は、支持板部41と、それの前側平行に間隔を置いてボルト44で固着されたカバー板43との間に支持される。図4図8によく示すように、リンク機構7は、牽引ワイヤWに接続される概略円弧状の牽引レバー71と、牽引レバー71が引かれるとき下クランプ6を押し上げるように回転する概略L字状の押し上げレバー72とを具備する。
【0023】
牽引レバー71は、一端側において牽引ワイヤWに接続され、中間の円弧状長孔71aにおいて軸73で支持板部41に枢支され、他端側において押し上げレバー72の一端に軸74で枢支される。押し上げレバー72は、中間において軸75で下クランプ6のリンク板62に枢支され、他端側において軸76で支持板部41に枢支される。牽引レバー71と押し上げレバー72は、軸74とボルト44との間に介設されたばね77で下クランプ6を下位に配置するように付勢される。
【0024】
図8によく示すように、下クランプ6は、クランプ本体61とリンク板62とを具備する。クランプ本体61は、架空線Gの下面に当接してこれを把持する。リンク板62は、クランプ本体61の前後に挟んで一対が下方へ延出し、下部において軸75で押し上げレバー72の中間部に枢着される。
【0025】
図1,3,10を参照して操作棒3について説明する。操作棒3は、相互に伸縮及び固定可能な第1~第3の3つの構成管31,32,33からなるテレスコピックパイプで構成され、先端側の第1構成管31の先端において接続板85に着脱自在に接続される。
【0026】
第1構成管31の先端部には、脱着ロッド85aを受け入れる管軸直交方向の切欠溝31aが形成され、またその内部には、切欠溝31aと直交して脱着ロッド85aを保持する接続クレビス34が、ばね35で保持位置に付勢されて設けられる。接続クレビス34は、3つの構成管31,32,33内に通る操作ワイヤ36を介して第3構成管33の基端に操作ノブ37で係止される。操作ノブ37、操作ワイヤ36を介して保持位置にある接続クレビス34を離脱位置へ引くと、脱着ロッド85aが解放され、操作棒3は伝動機構8から切り離される。
【0027】
第3構成管33の基端には、トルクリミッタ38を介して回転操作ハンドル39が接続される。回転操作ハンドル39の回転は、許容トルクの範囲で操作棒3を介して伝動機構8の接続軸82へ伝えられる。
【0028】
次に、本発明のカムアロングを用いた緊線作業について説明する。図11に示すように、把持装置2の上下クランプ5,6間を開いた状態で、ガイド部材53を架空線Gに掛け、架空線Gを上下クランプ5,6間(上クランプ5の下)に取り込む。この状態で、装置全体が架空線G上に支持される。
【0029】
次いで、操作棒3を回転操作ハンドル39により軸周りに右回転させて、伝動機構8を介してねじ棒52を回転させると、図12に示すように、ねじ棒52は、把持装置2の本体4に対してねじ筒部42に沿って下降する。伝動機構8、ピニオン支持板9、上クランプ5はねじ棒52と一体であるから、ねじ棒52と共に、本体4に対して下降する。クランプ本体51が架空線Gの上に乗っているので、上クランプ5が本体4に対して下降すると、本体4が下クランプ6と共に架空線Gに対して引き上げられる。本体4とピニオン支持板9が上下に相対変位すると、本体4に固着されたラック13によりピニオン支持板9上のピニオンギア10が回転し、シャッタ板11に固着されたラック12を介してシャッタ板11が下降し、上下クランプ5,6間の側方開放部を閉じ、把持装置2の脱線を防止する。
【0030】
この状態で、操作棒3を伸長させつつ、把持装置2を架空線G上で滑らせて所定の位置まで移動させる。把持装置2が所定の位置に到達したら、操作棒3をさらに右回転させて本体4と共に下クランプ6を引き上げることにより、図13に示すように、上下クランプ5,6間に架空線Gを、初期把持力をもって仮把持させる。上下クランプ5,6間に架空線Gが把持されると、操作棒3の回転操作ハンドル39がトルクリミッタ38により空転するから、仮把持が完了したことがわかる。
【0031】
この状態で、操作ノブ37を引いて接続クレビス34を脱着ロッド85aから外し、操作棒3を把持装置2から取り外して回収する。
【0032】
次いで、牽引レバー71に接続されている牽引ワイヤWをチェーンブロックCで鉄塔T側へ牽引すると、押し上げレバー72が図13(A)において軸76を中心に反時計方向へ回転し、軸75を介して下クランプ6を押し上げ、架空線Gの把持力を強化しつつ、架空線Gを鉄塔T側へ引き寄せる。牽引ワイヤWによって牽引レバー71が引かれるまで、ばね77が押し上げレバー72を時計方向へ回転付勢して下クランプ6の上昇を止めている。
【0033】
以上で緊線作業が完了する。これで、工事箇所の架空線Gの張力がなくなり、所定の工事が可能となる。
【0034】
所定の工事が完了したら、チェーンブロックCを緩め、上下クランプ5,6間の把持力を低減させた後、再び操作棒3を把持装置2の伝動機構8に連結する。操作ノブ37を引いて、切欠溝31aを開き、脱着ロッド85aを切欠溝31a内へ受け入れた後、操作ノブ37を戻して接続クレビス34を脱着ロッドに係合させ、ロックする。
【0035】
回転操作ハンドル39を左回転させることにより、伝動機構8を介してねじ棒52を回転させ、本体4に対して上クランプ5を上昇させ、下クランプ6との間を開いて架空線Gの把持を解き張力を解放する。このとき、操作棒3の回転は、シャッタ板11を開放しない程度の最小限に止める。この状態で、操作棒3をたぐり寄せて把持装置2を鉄塔T側へ引き寄せる。この間、シャッタ板11が上下クランプ5,6間の側方開放部を閉鎖しているので、把持装置2が架空線Gから脱線することがない。把持装置2を手元まで引き寄せたら、操作棒3をさらに左回転させてシャッタ板11を引き上げ、把持装置2を架空線G上から取り外して回収する。
【符号の説明】
【0036】
1 カムアロング
2 把持装置
3 操作棒
31 第1構成管
31a 切欠溝
32 第2構成管
33 第3構成管
34 接続クレビス
35 ばね
36 操作ワイヤ
37 操作ノブ
38 トルクリミッタ
39 回転操作ハンドル
4 把持装置の本体
41 支持板部
411 リブ
42 ねじ筒部
43 カバー板
44 ボルト
5 上クランプ
51 クランプ本体
52 ねじ棒
53 ガイド部材
6 下クランプ
61 クランプ本体
62 リンク板
7 リンク機構
71 牽引レバー
71a 円弧状長孔
72 押し上げレバー
73 軸
74 軸
75 軸
76 軸
77 ばね
8 伝動機構
81 ギアケース
82 接続軸
82a 枢支ピン
83 傘歯車
84 傘歯車
85 接続板
85a 脱着ロッド
9 ピニオン支持板
91 ボルト
10 ピニオンギア
101 軸
11 シャッタ板
11a 長孔
12 ラック
121 ボルト
122 ボルト
123 ガイド溝
13 ラック
C チェーンブロック
G 架空線
I 碍子連
T 鉄塔
W 牽引ワイヤ
図1
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図3
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図13