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特開2023-140146バイオガス発電設備の制御システム及びバイオガス発電設備の制御方法
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  • 特開-バイオガス発電設備の制御システム及びバイオガス発電設備の制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140146
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】バイオガス発電設備の制御システム及びバイオガス発電設備の制御方法
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/04 20060101AFI20230927BHJP
   C02F 11/04 20060101ALI20230927BHJP
   G05B 23/02 20060101ALI20230927BHJP
   H02P 101/25 20150101ALN20230927BHJP
【FI】
H02P9/04 F
C02F11/04 A ZAB
G05B23/02 R
H02P101:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046029
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】591030651
【氏名又は名称】水ing株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 美有
(72)【発明者】
【氏名】飯倉 智弘
(72)【発明者】
【氏名】茂木 拓真
【テーマコード(参考)】
3C223
4D059
5H590
【Fターム(参考)】
3C223AA02
3C223AA06
3C223BA01
3C223CC01
3C223DD01
3C223EB01
3C223FF04
3C223FF05
3C223FF16
3C223FF22
3C223FF23
3C223FF26
3C223FF27
3C223GG01
4D059AA01
4D059AA02
4D059AA03
4D059AA04
4D059AA05
4D059AA06
4D059AA07
4D059BA01
4D059BA11
4D059BA12
4D059BA21
4D059BD00
4D059BE01
4D059BE19
4D059BE31
4D059BE38
4D059BF15
4D059BK12
4D059CA11
4D059EA08
4D059EB20
5H590CA08
5H590EA01
5H590EA05
5H590GB05
(57)【要約】
【課題】バイオガス発生施設に付帯する発電機を効率良く運転することが可能なバイオガス発電設備の制御システム及びバイオガス発電設備の制御方法を提供する。
【解決手段】バイオガス発生施設2の運転情報を取得する取得部11と、運転情報に基づいて、バイオガス発生施設2から発生するバイオガス又はメタンガスのガス発生量を予測するガス発生量予測部12と、ガス発生量予測部12が予測したガス発生量予測値からバイオガス発生施設2に付帯する発電機4a、4b、・・・4xに消費させるガス消費量目標値を算出するガス消費量算出部13と、ガス消費量目標値に基づいて、発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数を決定する台数決定部14と、台数決定部14の決定結果に基づいて、発電機4a、4b、・・・4xの発動又は停止を制御する発電制御部15とを備えるバイオガス発電設備の制御システムである。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バイオガス発生施設の運転情報を取得する取得部と、
前記運転情報に基づいて、前記バイオガス発生施設から発生するバイオガス又はメタンガスのガス発生量を予測するガス発生量予測部と、
前記ガス発生量予測部が予測したガス発生量予測値から前記バイオガス発生施設に付帯する発電機に消費させるガス消費量目標値を算出するガス消費量算出部と、
前記ガス消費量目標値に基づいて、前記発電機の稼働台数を決定する台数決定部と、
前記台数決定部の決定結果に基づいて、前記発電機の発動又は停止を制御する発電制御部と
を備えるバイオガス発電設備の制御システム。
【請求項2】
前記ガス発生量予測部が、前記運転情報として前記バイオガス発生施設への投入バイオマス量、投入バイオマス濃度及び処理温度の少なくともいずれかを含む情報を学習データとして用いた機械学習により得られる学習済モデルに基づいて、前記ガス発生量予測値を予測することを含む請求項1に記載のバイオガス発電設備の制御システム。
【請求項3】
前記バイオガス発生施設の過去のガス発生量実測値を、前記学習済モデルの入力データとして更に含む請求項2に記載のバイオガス発電設備の制御システム。
【請求項4】
前記ガス消費量算出部が、前記ガス発生量予測部が予測した将来の所定期間にわたる前記ガス発生量予測値の平均値を前記ガス消費量目標値として算出することを含む請求項1~3のいずれか1項に記載のバイオガス発電設備の制御システム。
【請求項5】
前記発電制御部が、前記発電機の稼働台数の決定結果に基づいて、前記発電機の発停回数が最小となるように、前記発電機の発動又は停止を制御することを含む請求項1~4のいずれか1項に記載のバイオガス発電設備の制御システム。
【請求項6】
前記バイオガスを貯留するガスタンクと、
前記ガスタンクのレベルを測定するレベル計と
を更に備え、
前記台数決定部が、前記レベルの測定結果に基づいて、前記発電機の稼働台数を決定することを更に含む請求項1~5のいずれか1項に記載のバイオガス発電設備の制御システム。
【請求項7】
前記台数決定部が決定した前記発電機の稼働台数を補正する補正部を更に備える請求項1~6のいずれか1項に記載のバイオガス発電設備の制御システム。
【請求項8】
バイオガス発生施設の運転情報を用いて、前記バイオガス発生施設から発生するバイオガスの将来のガス発生量を予測し、
前記バイオガスのガス発生量予測値から前記バイオガス発生施設に付帯する発電機に消費させるガス消費量目標値を算出し、
前記ガス消費量目標値に基づいて、前記発電機の稼働台数を決定し、
前記稼働台数の決定結果に基づいて、前記発電機を発動又は停止させること
を有することを特徴とするバイオガス発電設備の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオガス発電設備の制御システム及びバイオガス発電設備の制御方法に関し、例えば、汚泥のメタン発酵において発生するバイオガスの処理に好適なバイオガス発電設備の制御システム及びバイオガス発電設備の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
メタン発酵設備から生じるバイオガスは主に発電設備によって電力に変換され、売電し、利益化される。効率的にバイオガスの発電設備を運用し、バイオガスを有効に利用することは、利益拡大につながる。しかしながら、メタン発酵に伴うバイオガスの発生量は、投入原料の性状や微生物の活性状態に大きく依存するため、予測が難しいという問題がある。また、バイオガス発生量の管理方法及び発電設備の運用方法は、技術者の知識や経験に依存している部分も多い。そのため、技術者の熟練度によらない管理方法及び運用方法の検討が進められている。
【0003】
特開2020-6291号公報(特許文献1)には、2種類以上の菌に関する菌叢データ、および、バイオガスの発生量のデータを変数として含む関数を、バイオガスの発生量を予測するための予測データとして用いることが記載されている。
【0004】
特開2019-141756号公報(特許文献2)には、廃棄物の撮影画像を解析し、廃棄物の色、濃度及び凹凸度に基づいて廃棄物の種類を特定し、特定した種類及びメタン発酵槽への廃棄物投入量を用いて、メタンガス又はバイオガスの発生量を予測する廃棄物処理システムの例が記載されている。
【0005】
特開2009-33906号公報(特許文献3)には、複数台の発電機を備えるガス発電設備において、貯留ガス量が基準ガス量よりも多くなると、マスタ発電機を定格運転させ、設定ガス量より多くなると、スレイブ発電機を定格運転させるガス発電設備の制御装置の例が記載されている。また、非特許文献1には、バイオマス発電プラントの売電事業をAIでサポートする技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-6291号公報
【特許文献2】特開2019-141756号公報
【特許文献3】特開2009-33906号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】山科勇輔ら、「予測から異常検知・影響因子の抽出までバイオマス発電プラントの売電事業をAIがサポート」、三菱重工技報、Vol.55、No.4(2018)p.1-5
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、発酵槽の菌叢データを元にガス発生量を予測しているため、菌叢データの取得のための分析装置等が必要となり、時間と費用がかかるという問題がある。また、特許文献1では、菌叢データの取得のために一定の時間がかかるため、ニアリアルタイムでの予測には不向きである。特許文献2も、廃棄物の撮影装置が必要となるため、メタンガス発生量を予測するための別途装置が必要となる。
【0009】
特許文献3では、ガスタンク内の貯留ガス量に基づいて、複数の発電機の運転を制御しているが、発電機の発停時には、エネルギーロスが生じる。そのため、貯留ガス量の変動が大きいと、発電機の発停頻度が多くなり、逆に発電効率が下がる場合がある。また、非特許文献1では、機械学習を用いて1~3日後のガス発生量を予測することが記載されているが、アルゴリズムはアンサンブル学習であり、時系列での解析は行われていない。また、ガス発生量の予測結果に基づいて発電機をどのように運転するかについては具体的な検討がなされていない。
【0010】
上記課題に鑑み、本発明は、バイオガス発生施設に付帯する発電機を効率良く運転することが可能なバイオガス発電設備の制御システム及びバイオガス発電設備の制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討したところ、バイオガス発生施設から発生するバイオガスの発生量を予測し、ガス発生量予測値に基づいて発電機のガス消費量目標値を算出し、更に、発電機のガス消費量目標値に基づいて、発電機の稼働台数を制御することが有用であるとの知見を得た。
【0012】
以上の知見を基礎として完成した本発明は一側面において、バイオガス発生施設の運転情報を取得する取得部と、運転情報に基づいて、バイオガス発生施設から発生するバイオガス又はメタンガスのガス発生量を予測するガス発生量予測部と、ガス発生量予測部が予測したガス発生量予測値からバイオガス発生施設に付帯する発電機に消費させるガス消費量目標値を算出するガス消費量算出部と、ガス消費量目標値に基づいて、発電機の稼働台数を決定する台数決定部と、台数決定部の決定結果に基づいて、発電機の発動又は停止を制御する発電制御部とを備えるバイオガス発電設備の制御システムである。
【0013】
本発明の実施の形態に係るバイオガス発電設備の制御システムは一実施態様において、ガス発生量予測部が、運転情報としてバイオガス発生施設への投入バイオマス量、投入バイオマス濃度及び処理温度の少なくともいずれかを含む情報を学習データとして用いた機械学習により得られる学習済モデルに基づいて、ガス発生量予測値を予測することを含む。
【0014】
本発明の実施の形態に係るバイオガス発電設備の制御システムは別の一実施態様において、バイオガス発生施設の過去のガス発生量実測値を学習済モデルの入力データとして更に含む。
【0015】
本発明の実施の形態に係るバイオガス発電設備の制御システムは更に別の一実施態様において、ガス消費量算出部が、ガス発生量予測部が予測した将来の所定期間にわたるガス発生量予測値の平均値をガス消費量目標値として算出することを含む。
【0016】
本発明の実施の形態に係るバイオガス発電設備の制御システムは更に別の一実施態様において、発電制御部が、発電機の稼働台数の決定結果に基づいて、発電機の発停回数が最小となるように、発電機の発動又は停止を制御することを含む。
【0017】
本発明の実施の形態に係るバイオガス発電設備の制御システムは更に別の一実施態様において、バイオガスを貯留するガスタンクと、ガスタンクのレベルを測定するレベル計とを更に備え、台数決定部が、レベルの測定結果に基づいて、発電機の稼働台数を決定することを更に含む。
【0018】
本発明の実施の形態に係るバイオガス発電設備の制御システムは更に別の一実施態様において、台数決定部が決定した発電機の稼働台数を補正する補正部を更に備える。
【0019】
本発明は別の一側面において、バイオガス発生施設の運転情報を用いて、バイオガス発生施設から発生するバイオガスの将来のガス発生量を予測し、バイオガスのガス発生量予測値からバイオガス発生施設に付帯する発電機に消費させるガス消費量目標値を算出し、ガス消費量目標値に基づいて、発電機の稼働台数を決定し、稼働台数の決定結果に基づいて、発電機を発動又は停止させることを有するバイオガス発電設備の制御方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、バイオガス発生施設に付帯する発電機を効率良く運転することが可能なバイオガス発電設備の制御システム及びバイオガス発電設備の制御方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施の形態に係るバイオガス発電設備の一例を示す概略図である。
図2】本発明の実施の形態に係るバイオガス発電設備の制御方法の一例を表すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであってこの発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0023】
(バイオガス発電設備)
本発明の実施の形態に係るバイオガス発電設備は、図1に示すように、バイオガスを発生させるバイオガス発生施設2と、バイオガス発生施設2で発生したバイオガスを貯留するガスタンク3と、バイオガスを用いて発電する複数の発電機4a、4b、・・・4xと、発電機4a、4b、・・・4xの発動及び停止を制御する制御装置10とを備える。
【0024】
バイオガス発生施設2の前段には、バイオガス発生施設2へ流入する原水を前処理する前処理施設1を備えていても良い。また、バイオガス発生施設2の後段には、バイオガス発生施設2で得られる処理汚泥の後処理を行うための後処理施設(不図示)が設けられていても良い。
【0025】
処理対象とする原水としては、有機性物質を含有する有機性廃水又は有機性廃棄物が好適に用いられる。例えば、下水汚泥、屎尿、浄化槽汚泥、排水汚泥等の有機性汚泥、又は各種工場から排出される厨芥類、生ごみ等の有機性廃棄物が好適に用いられる。
【0026】
前処理施設1の具体的装置構成は特に限定されない。例えば、原水に対して、可溶化処理、凝集沈殿処理、好気性処理、嫌気性処理、固液分離処理(濃縮、脱水)等の前処理を行って、バイオガス発生施設2での発酵処理に適した性状の汚泥又はバイオマスを得るための処理装置を前処理施設1として用いることが好ましい。例えば、重力沈降を利用した重力濃縮、スクリーン、ろ布又は遠心分離等を利用した機械濃縮を行う処理装置等が典型的に利用可能である。
【0027】
バイオガス発生施設2は、バイオガス発生施設2へ流入する汚泥又はバイオマスを発酵処理して処理汚泥を得るとともに、バイオガスを発生させる装置である。バイオガス発生施設2としては、例えば、投入された汚泥を嫌気性微生物により嫌気性処理する消化槽等が利用できる。バイオガス発生施設2で処理された処理汚泥は、典型的には、脱水機、乾燥機等を用いて後処理を行った後に、外部へ搬出される。バイオガス発生施設2で発生したバイオガスは、バイオガスを構成するメタンガス、二酸化炭素等の他に硫化水素等を含むため、脱硫処理等の精製処理を行った後に、ガスタンク3内へ収容される。
【0028】
ガスタンク3は、バイオガス発生施設2で発生したバイオガスを収容する。ガスタンク3は、図1に例示されるような1台のみに限られず、例えば複数の発電機4a、4b、・・・4xにそれぞれ隣接して1台又は複数台設けられていても良い。ガスタンク3には、ガスタンク3内に収容されるバイオガスのガスタンク3内のレベル(残量)を測定可能なレベル計31が設けられている。
【0029】
レベル計31の測定結果は、レベル計31に接続された制御装置10に出力されるように構成されている。発電機4a、4b、・・・4xは、それぞれ制御装置10に接続されており、制御装置10を介して、発電機4a、4b、・・・4xそれぞれの発動及び停止が制御できるようになっている。
【0030】
制御装置10は、汎用のコンピュータ等で構成される。制御装置10は、取得部11と、ガス発生量予測部12と、ガス消費量算出部13と、台数決定部14と、発電制御部15と、補正部16を備える。また、制御装置10の処理に必要な各種情報を記憶する記憶部20、機械学習を用いた予測分析に必要な各種情報を記憶する学習部17が、制御装置10に接続されていてもよい。
【0031】
制御装置10は、ネットワーク50を介して他のバイオガス発電設備30に接続されてもよく、他のバイオガス発電設備30と、発電機4a、4b、・・・4xの制御情報を相互に交換できるように構成されていてもよい。制御装置10は、本発明の実施の形態に係るバイオガス発電設備30を含めた複数の設備を集約して管理することが可能な運転管理施設40等に接続されていてもよく、これにより、発電機4a、4b、・・・4xの制御情報、学習済モデル、過去の実績データ等を相互に交換できるように構成されていてもよい。
【0032】
取得部11は、バイオガスを発生させるバイオガス発生施設2の運転情報を取得する。運転情報としては、例えば、バイオガス発生施設2へ投入される投入バイオマスの投入バイオマス量、投入バイオマス濃度(TS、VS)、COD、pH、処理温度、容積負荷、水理学的滞留時間、バイオガス発生施設2の処理槽の有効容量、撹拌速度、バイオガス又はメタンガスの発生率(汚泥分解率)、バイオガス発生施設2で処理された処理汚泥のTS、VS、pH、汚泥引抜量等を含む。取得部11は、更に前処理施設1の前処理情報を取得してもよい。前処理情報としては、前処理施設1の処理条件、原水の汚泥濃度(TS、VS)、凝集剤注入率、前処理によって得られるバイオマスの濃度(TS、VS)、浮遊物質濃度(SS)、バイオマス引抜量・移送量等を含む。
【0033】
ガス発生量予測部12は、運転情報に基づいて、バイオガスまたはバイオガスに含まれるメタンガスのガス発生量を予測する。例えば、ガス発生量予測部12は、バイオガス発生施設2に投入される投入バイオマスの投入バイオマス量、投入バイオマス濃度、処理温度、投入バイオマスの種類に応じたバイオガス又はメタンガスのガス発生量または投入バイオマスに対するメタンガスへの変換率等の少なくともいずれかを蓄積したデータベースを備える運転情報に基づいて、統計解析やシミュレーションを行い、現在又は将来の所定の期間におけるバイオガス又はメタンガスのガス発生量予測値を演算する。バイオガスのガス発生量予測値は、過去のデータベースを参照し、過去の所定の期間のガス発生量実測値の平均値を求めてもよいし、運転情報を解析するための解析ソフト等用いてシミュレーションを行うことによって求めてもよい。
【0034】
バイオガス又はメタンガスの発生量の予測は機械学習を利用することにより、予測精度を向上させることができる。例えば、ガス発生量予測部12は、バイオガス発生施設2への投入バイオマス量、投入バイオマス濃度及び処理温度の情報の少なくともいずれかを含む運転情報を学習データとして用いた機械学習により得られる学習済モデルに基づいて、バイオガス又はメタンガスのガス発生量予測値を予測する。機械学習を利用することで、バイオガス発生施設2の運転情報を時系列的に解析できるため、より精度よく将来の所定期間におけるバイオガス又はメタンガスの発生量を予測できる。なお、学習済モデルの作製は、制御装置10とは別の計算機で行ってもよい。
【0035】
ガス発生量予測部12による予測分析で用いられる学習済モデルの説明変数としては、バイオガス発生施設2の運転情報(例えば、発酵処理条件、投入原料、処理汚泥の情報等)、及び前処理施設1の前処理情報等が用いられる。例えば、バイオガス発生施設2として、下水汚泥の消化槽が配置される場合、説明変数として、例えば、消化槽の処理温度、消化槽への汚泥投入量、投入汚泥濃度等の中から適宜選択して用いることができる。
【0036】
機械学習アルゴリズムとしては、ランダムフォレスト、ニューラルネットワーク(ANN、RNN)等を用いた種々の公知の解析ツールの中から適宜選択して利用できる。特に、本実施形態に係るバイオガスの発生量の予測には、RNNの中でもLSTM又はGRUが好ましく、更に好ましくはLSTMが更に好ましいが、これらに限定されるものではない。
【0037】
RNNの場合、ハイパーパラメータであるタイムステップは、90日以内とすることが好ましく、より好ましくはバイオガス発生施設2の発酵日数(水理学的滞留時間)以内とすることが精度向上の観点から好ましい。バイオガス発生施設2が複数ある場合は、ガス発生量予測部12は、バイオガス発生施設2のそれぞれについてガス発生量予測値を予測してもよいし、総発生量を予測してもよい。
【0038】
バイオガス又はメタンガスの発生量の予測は機械学習を利用する場合、バイオガス発生施設2の過去のガス発生量実測値を学習済モデルの入力データとして更に含むことがより好ましい。過去のガス発生量実測値を上記説明変数以外の入力データとして含ませることにより、過去のガス発生量実測値を考慮した予測を行うことができるため、予測の精度が高まる。
【0039】
バイオガス発生量を予測する期間は、先の将来にまで設定しすぎると、現在のガス発生量と将来のガス発生量の予測値との差異が大きくなる。その結果、ガスタンク3に貯留されるバイオガスが所定のレベルに到達する速度が速くなることがある。バイオガス発生量を予測する期間は、ガス発生量予測値のばらつきと、ガスタンク3の有効容量とを考慮して決定されることが好ましい。
【0040】
例えば、バイオガス発生量を予測する期間について、例えば何日後まで予測するかについては、過去の1か月のガス発生量実測値をもとに、発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数及び発停回数の最適化が行われるように、予め机上検証を行って、決定することが好ましい。以下に限定されるものではないが、一実施態様では、バイオガス発生量の予測期間は10日以内とすることが好ましく、更に好ましくは1~7日、より更に好ましくは1~3日である。例えば、バイオガス発生量の予測期間を3日とする場合、ガス発生量予測部12は、1日後、2日後、3日後のバイオガス発生量を予測する。
【0041】
ガス消費量算出部13は、ガス発生量予測部12が予測したガス発生量予測値からバイオガス発生施設2に付帯する発電機4a、4b、・・・4xに消費させるガス消費量目標値を算出する。例えば、ガス消費量算出部13は、ガス発生量予測部12が予測したガス発生量予測値と、予め定められた定格発電効率と実際の発電効率とに基づいて、発電機4a、4b、・・・4xの発電効率が所定の目標効率を達成する範囲で適正に発電が行われるように、ガス消費量目標値を算出する。
【0042】
更に、ガス消費量算出部13は、発電機4a、4b、・・・4xの発停回数が最小となるように、ガス消費量目標値を算出することが好ましい。例えば、ガス消費量算出部13は、ガス発生量予測部12が予測したガス発生量予測値について、将来、極短時間における急激な変動があることが予測されたとしても、その後にガス発生量が一定範囲に安定する傾向にある場合には、ガス発生量の急激な変動が生じる極短時間におけるガス発生量の予測結果を平滑化して、ガス消費量目標値を算出する。これにより、ガス発生量の急激な変動による発電機4a、4b、・・・4xの発動及び停止を行わないようにできるため、発電機4a、4b、・・・4xの発停回数を低減できる。
【0043】
発電機4a、4b、・・・4xの発動又は停止の際には、エネルギーが多く消費されるため、発停回数を多くすることによって消費されるエネルギー量も多くなる。本実施形態によれば、発電機4a、4b、・・・4xの発停回数が最小となるようにガス消費量目標値が算出されるため、発電機4a、4b、・・・4xのエネルギーロスを極力低減した発電を行うことができる。「発停回数」とは、基本的には、発電機4a、4b、・・・4xの発動又は停止の回数を指す。例えば、発電機4aが停止状態から発動状態になったときを1回、発動状態から停止状態になったときを1回と数える。発停回数については、より簡易的に、発電機の稼働台数を変更するときを1回と数えても良い。この場合、例えば、稼働台数を8台から10台へ変更する場合を1回、10台から13台へ変更する場合を1回と数える。
【0044】
バイオガス発生施設2から発生するバイオガスには、メタンガスの他に、二酸化炭素、硫化水素等が含まれており、バイオガス発生施設2へ投入される汚泥の性状や処理条件等によって、その組成が変動する。そのため、ガス消費量算出部13は、ガス発生量予測部12が予測した将来の所定期間におけるバイオガス又はメタンガスのガス発生量予測値の平均値を算出し、これをガス消費量目標値として決定することが好ましい。このように、バイオガス発生量に関して、現在から将来における一定期間の時系列を考慮して、ガス消費量目標値が算出されることによって、発電機4a、4b、・・・4xの発動又は停止操作に対し、バイオガス発生量の極短時間の変動の影響を小さくすることができる。その結果、発電機4a、4b、・・・4xの発停回数が低減でき、効率の良い発電が実現できる。
【0045】
なお、ガス発生量予測値が長期間安定しており、ガス発生量の変動を考慮する必要がない場合等には、ガス消費量算出部13は、将来の任意の特定の時間におけるガス発生量予測値をそのままガス消費量目標値と決定してもよい。
【0046】
台数決定部14は、ガス消費量算出部13が算出したガス消費量目標値に基づいて、発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数を決定する。例えば、台数決定部14は、以下の式:
(稼働台数)=(ガス消費量目標値)÷(発電機1台あたりのガス消費量)・・・(1)
に基づいて、発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数を決定することができる。
【0047】
更に、台数決定部14は、レベル計31によるガスタンク3のレベルの測定結果に基づいて、発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数を決定することが更に好ましい。ガスタンク3のレベルに基づいて稼働台数を決定することにより、ガスタンク3内のバイオガスのレベルに応じた処理が行えるため、効率的な発電機運用が可能となる。
【0048】
例えば、台数決定部14は、ガスタンク3のレベルの測定結果が上限値を超える場合に、発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数について、ガス消費量目標値を発電機1台当たりのガス消費量で除算した値よりも多い台数となるように決定することができる。一方、ガスタンク3のレベルの測定結果が下限値以下となる場合には、稼働台数について、ガス消費量目標値を発電機1台当たりのガス消費量で除算した値よりも少ない台数となるように設定することができる。
【0049】
例えば、台数決定部14は、上記の式(1)において、ガスタンク3のレベルが上限値を超える場合には、式(1)で得られる値の小数点以下の数値を切り上げた整数の値となるように、稼働台数を決定する。ガスタンク3のレベルが下限値を超える場合には、式(1)で得られる値の小数点以下の数値を切り捨てた整数となるように、稼働台数を決定する。
【0050】
台数決定部14は、式(1)の計算式に所定のパラメータを与えて補正してもよい。例えば、台数決定部14は、ガスタンク3のレベルを上昇させたいときに、補正パラメータa(整数)を式(1)の計算結果から減算するように決定することもできる。式(1)を用いた上記の例では、発電機4a、4b、・・・4xのガス消費量がそれぞれ同一である場合を例に説明するが、この例には限定されない。例えば、発電機4a、4b、・・・4xのそれぞれのガス消費量の大小に応じて、台数決定部14が稼働台数を適宜最適化できることは勿論である。
【0051】
ガスタンク3のレベルの測定のタイミングは特に限定されない。例えば、台数決定部14が、ガス消費量目標値に基づいて稼働台数を決定した後、決定された稼働台数に基づいて、発電制御部15が発電機の運転制御に反映させる前に、ガスタンク3のレベルを測定する。そして、ガスタンク3のレベルが上限値又は下限値を超える場合には、台数決定部14が、式(1)に基づいて稼働台数を再計算してもよい。或いは、台数決定部14は、ガス発生量予測部12の予測結果をもとに、ガスタンク3のレベルが上限値又は下限値を超えることが予測された場合、レベルの上限値又は下限値に到達する前に、式(1)を用いて稼働台数を決定してもよい。
【0052】
制御装置10は、補正部16を更に備えることができる。補正部16は、台数決定部14が決定した発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数を補正する。例えば、補正部16は、レベル計31によるガスタンク3のレベルの測定の結果、一定期間が経過してもレベルの上昇又は下降傾向が切り替わらなかった場合には、稼働台数を補正してもよい。例えば、ガスタンク3のレベルが上限値に到達してガスタンク3のレベルを下げたいにも関わらず、稼働台数の設定後もレベルが上昇し続けた場合、補正部16が、稼働台数が台数決定部14の決定結果に対して更に1台多くなるように稼働台数を補正することにより、ガスタンク3のレベルが早期に下降するように切り替えることができるようになる。
【0053】
ガスタンク3のレベルが上限値又は下限値を超えるような場合でも、ガス発生量の予測結果によっては、補正部16が、発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数を補正しなくてもよい場合がある。具体的には、例えばガス発生量予測値が一時的に減少するような場合でも、その後すぐにガス発生量予測値が増大することが予測されるような場合等である。このような場合に、一時的なガス発生量予測値に基づいて、稼働台数を決定してしまうと、発電機4a、4b、・・・4xの発停回数が多くなり、エネルギーロスが生じる場合がある。
【0054】
補正部16は、例えば、ガスタンク3のレベルが上限値に達した時に、その時点でのガス消費量目標値が、実際のガス消費量((発電機1台当たりのガス消費量)×(稼働台数))よりも小さい場合、稼働台数の補正を行わないようにする。これにより、発電機4a、4b、・・・4xの発停回数をより少なくしてエネルギーロスを極力少なくしながら、発電を効率良く行える。
【0055】
発電制御部15は、台数決定部14の決定結果に基づいて、発電機4a、4b、・・・4xの発停回数が最小となるように、発電機4a、4b、・・・4xの発動又は停止を制御する。例えば、発電制御部15は、台数決定部14の決定結果と発電機4a、4b、・・・4xの運転状況に基づいて、発電機4a、4b、・・・4xを新たに発動又は停止させる必要性が生じる場合にのみ、発電機4a、4b、・・・4xの発動又は停止を制御するようにすることができる。
【0056】
本発明の実施の形態に係るバイオガス発電設備の制御システムによれば、ガス発生量予測部12のガス発生量予測値に基づいてガス消費量算出部13がガス消費量目標値を算出し、このガス消費量目標値に基づいて、発電機4a、4b、・・・4xの発停回数ができるだけ少なくなるように稼働台数が決定される。これにより、バイオガス発生施設に付帯する発電機を効率良く運転することが可能なバイオガス発電設備の制御システムが提供できる。
【0057】
(バイオガス発電設備の制御方法及び発電方法)
本発明の実施の形態に係るバイオガス発電設備の制御方法及び発電方法は、図2に示すように、バイオガス発生施設2の運転情報を取得するステップS1と、運転情報を用いて、バイオガス発生施設2から発生するバイオガスの将来のガス発生量を予測するステップS2と、バイオガスのガス発生量予測値からバイオガス発生施設に付帯する発電機に消費させるガス消費量目標値を算出するステップS3と、ガス消費量目標値に基づいて、発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数を決定するステップS4と、決定された発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数を補正するか否かを判断するステップS5と、発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数を補正するステップS6と、稼働台数の決定結果に基づいて、発電機4a、4b、・・・4xを発動又は停止させるステップS7とを有する。
【0058】
図2のステップS1において、図1の取得部11は、バイオガス発生施設2から発生するバイオガスの発生量の予測のために必要な各種情報を取得する。例えば、取得部11は、バイオガス発生施設2の運転情報及び必要に応じて前処理施設1の前処理情報を取得する。取得部11は、バイオガス発生施設2の過去のガス発生量実測値を記憶部20又は運転管理施設40からネットワーク50を介して取得し、これを入力データとして用いることで、予測の精度を高めることができる。
【0059】
図2のステップS2において、図1のガス発生量予測部12は、取得部11が取得した運転情報に基づいて、予め定められた所定期間おいてバイオガス発生施設2から発生する現在及び将来のバイオガスの発生量を予測する。バイオガスの発生量の予測は、記憶部20に記憶された過去のバイオガス発生量の実測値に基づいて演算してもよいし、上述の通り、機械学習を実行することにより得られた学習済モデルを用いて予測してもよい。
【0060】
図2のステップS3において、図1のガス消費量算出部13が、ステップS2で予測された所定期間のバイオガスのガス発生量予測値に基づいて、発電機4a、4b、・・・4xの発電効率が適正範囲内となるようにガス消費量目標値を算出する。図2のステップS4において、図1の台数決定部14が、ガス消費量目標値に基づいて、発電機4a、4b、・・・4xの発電効率が適正範囲内で運転されるように発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数を決定する。
【0061】
図2のステップS5において、図1の補正部16が、台数決定部14が決定した発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数を補正する必要があるか否かを判断する。例えば、補正部16は、図1のガスタンク3が備えるレベル計31の測定結果に基づいて、将来ガスタンク3のレベルの上限値を超え、稼働台数を補正する必要があると判断される場合には、ステップS6において、稼働台数を増加させるように補正を行う。補正後はステップS7へ進む。ステップS5において、補正部16が、台数決定部14が決定した発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数を補正する必要がないと判断した場合は、ステップS7へ進む。ステップS7において、発電制御部15は、発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数の決定結果に基づいて、発電機4a、4b、・・・4xの発動及び停止を制御する。
【0062】
このように、本発明の実施の形態に係るバイオガス発電設備の制御システムによれば、バイオガス発生施設のガス発生量を予測し、それをもとに発電機4a、4b、・・・4xの稼働台数の決定及び補正を行うことができるため、熟練した技術者の経験がなくとも、継続的に安定した効率のよい発電機4a、4b、・・・4xの運用が可能となる。
【実施例0063】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0064】
下水汚泥を嫌気性消化する消化槽と、消化槽から発生する消化ガスを貯留するガスタンクと、ガスタンクに貯留された消化ガスを用いて発電を行う複数の発電機を備えるバイオガス発電設備を制御対象とした。消化ガス発生量、消化槽汚泥投入量、消化槽汚泥濃度、消化槽投入前の前処理において重力濃縮や機械濃縮等により処理された濃縮汚泥濃度を含むデータセットを学習データとし、機械学習アルゴリズムとしてLSTMを用いて、消化ガスのガス発生量を予測するモデルを構築した。消化槽は3槽とし、それぞれについてモデルを構築し、各槽の予測値の合計値を、ガス発生施設のガス発生量予測値とした。
【0065】
発電機の稼働台数は、ガスタンクのレベルが上限ライン又は下限ラインに到達した場合に、設定することとした。ガスタンクのレベルが上限ラインに到達した場合は、稼働台数について、式(1)を用いて算出した値の小数点を切り上げた整数値を稼働台数とした。ガスタンクのレベルが下限ラインに到達した場合は、稼働台数について、式(1)を用いて算出した値の小数点を切り捨てた整数値を稼働台数とした。
【0066】
LSTMを用いて機械学習を行うことにより、将来3日間、5日間、7日間の期間におけるガス発生量予測値の平均値をガス消費量目標値とした。このガス消費量目標値に基づいて発電機の稼働台数を決定し、発電機の発動及び停止を制御した。発停回数は、稼働台数の変更が生じる場合を1回として数えた。その結果、平均値を3日間とした場合の発停回数が最も少なかった。そこで、本実施例では、ガス発生量の予測について、1日後、2日後、及び3日後のガス発生量予測値をそれぞれ得て、この予測値の平均値をガス消費量目標値とした。
【0067】
上記の条件で、20日間検証を行った結果、本実施例での発電機の発停回数は6回となった。本実施例と同一のバイオガス発電設備で運転員が設定した場合、20日間で発停回数が14回となった。即ち、本実施例によれば、発停回数低減の効果が得られることが分かった。
【符号の説明】
【0068】
1…前処理施設
2…バイオガス発生施設
3…ガスタンク
4a、4b、・・・4x…発電機
10…制御装置
11…取得部
12…ガス発生量予測部
13…ガス消費量算出部
14…台数決定部
15…発電制御部
16…補正部
17…学習部
20…記憶部
30…バイオガス発電設備
31…レベル計
40…運転管理施設
50…ネットワーク
図1
図2