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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140158
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】ヒータ及び加熱部材
(51)【国際特許分類】
   H05B 3/20 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
H05B3/20 326B
H05B3/20 310
H05B3/20 328
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046048
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】宮入 由紀夫
(72)【発明者】
【氏名】桝田 昌明
(72)【発明者】
【氏名】葛谷 晃司
(72)【発明者】
【氏名】林 伸三
【テーマコード(参考)】
3K034
【Fターム(参考)】
3K034AA02
3K034AA03
3K034AA12
3K034BA05
3K034BB06
3K034BC15
3K034BC16
3K034CA02
3K034CA03
3K034CA26
3K034EA05
(57)【要約】
【課題】コージェライト基材に亀裂が発生し難く、熱変動の大きな環境下における信頼性が高いヒータ及び加熱部材を提供する。
【解決手段】第一のコージェライト基材10と、第一のコージェライト基材10上に設けられたガラス部20と、ガラス部20中に埋設された電熱部30とを備えるヒータ100である。ガラス部20はMgO、Al23及びSiO2を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一のコージェライト基材と、前記第一のコージェライト基材上に設けられたガラス部と、前記ガラス部中に埋設された電熱部とを備え、
前記ガラス部がMgO、Al23及びSiO2を含むヒータ。
【請求項2】
前記ガラス部上に設けられた第二のコージェライト基材を更に備える、請求項1に記載のヒータ。
【請求項3】
ろう材によって前記電熱部に接続された端子を更に備える、請求項1又は2に記載のヒータ。
【請求項4】
前記端子は、前記第二のコージェライト基材に設けられた貫通孔に挿入配置されている、請求項3に記載のヒータ。
【請求項5】
前記端子と、前記ガラス部又は前記第二のコージェライト基材との境界表面に設けられたシール部を更に備える、請求項3又は4に記載のヒータ。
【請求項6】
前記ガラス部がコージェライトを含む、請求項1~5のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項7】
前記ガラス部が、30~40質量%のコージェライト相と、2質量%以下の、ムライト及び/又はスピネルを含む結晶相と、残部のガラス相とから構成されている、請求項1~6のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項8】
前記第一のコージェライト基材及び/又は前記第二のコージェライト基材が、90質量%以上のコージェライト相と、5質量%以下の、ムライト及び/又はスピネルを含む結晶相と、残部のガラス相とから構成されている、請求項1~7のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項9】
前記ガラス部の熱膨張率が1.6×10-6/K超過3.0×10-6/K未満である、請求項1~8のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項10】
前記電熱部が、Mo及び/又はWを含む導体から構成される、請求項1~9のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項11】
前記端子は、熱膨張率が1.6×10-6/K超過6.0×10-6/K未満の導体から構成される、請求項3~10のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項12】
前記端子を構成する前記導体の熱膨張率が3.0×10-6/K超過6.0×10-6/K未満である、請求項11に記載のヒータ。
【請求項13】
前記シール部は、熱膨張率が1.6×10-6/K超過6.0×10-6/K未満のガラスから構成される、請求項5~12のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項14】
前記シール部を構成する前記ガラスの熱膨張率が2.0×10-6/K超過4.0×10-6/K未満である、請求項13に記載のヒータ。
【請求項15】
前記端子がFe、Ni及びCoを含む、請求項3~14のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項16】
前記シール部がSiO2及びB23を含む、請求項5~15のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項17】
前記ろう材が、Ag、Ti及びCuを含む、請求項3~16のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項18】
排ガスの加熱に用いられる、請求項1~17のいずれか一項に記載のヒータ。
【請求項19】
円筒部材と、
前記円筒部材の少なくとも一部の内周面に沿って配置される、請求項1~18のいずれか一項に記載の複数のヒータと、
前記円筒部材と前記ヒータとの間に配置される絶縁材と、
を備え、
複数の前記ヒータの前記電熱部が、電気的に直列又は並列で電源と接続可能である加熱部材。
【請求項20】
還元剤前駆体を加熱して還元剤を生成するために用いられる、請求項19に記載の加熱部材であって、
前記円筒部材の少なくとも一部に配置され、前記円筒部材の内周面に前記還元剤前駆体を噴射可能なノズルを更に備え、
前記ヒータが、前記ノズルから前記還元剤前駆体が噴射される前記円筒部材の内周面に配置され、
前記円筒部材がディーゼルエンジンの排気管である加熱部材。
【請求項21】
前記ヒータの前記電熱部は、一端が前記電源と電気的に接続され、他端が前記円筒部材と電気的に接続されており、
前記電源からの印加電圧が60V以下である、請求項20に記載の加熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒータ及び加熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車排ガスの有害成分(HC、NOx、CO)の低減に対する要求が高まっている。特に、ディーゼルエンジンから排出されるNOxの浄化は重要な課題である。NOx浄化の方策としては、尿素SCRシステムと呼ばれる技術が一般に知られている。尿素SCRシステムでは、尿素の熱分解及び加水分解によってNOx還元剤となるNH3が生成される。尿素の熱分解及び加水分解を効率良く進めるためには、尿素を効率良く加熱することが必要となる。しかしながら、エンジン効率の向上に伴って排ガス温度が低くなっているとともに、エンジン始動直後も排ガス温度が低い。排ガス温度が低い場合、尿素を排ガスに噴射しても分解反応が起こり難いため、NH3が十分に生成されない。また、噴射された尿素が排気管の内壁面に衝突する際、内壁面の温度が低いと尿素が完全にNH3に分解されず、中間物の固形デポジットとなって堆積する。その結果、排ガスの流れの障害になったり、排ガスの流れの変化により、生成したNH3と排ガスとの混合を阻害したりする恐れがある。そのため、排ガスを効率良く加熱するとともに、排気管の内壁面を高温に保つことが可能なヒータの開発が行われている。
【0003】
また、内燃機関からの熱源がない電気自動車(BEV:Battery Electric Vehicle)及び燃料電池車(FCV:Fuel Cell Vehicle)、内燃機関を頻繁に停止するプラグインハイブリッドカー(PHV:Plug-in Hybrid Vehicle、PHEV:Plug-in Hybrid Electrical Vehicle)では、暖房負荷が走行距離に影響を及ぼすため、暖房効率を高めることが重要な課題である。そのため、車室全体を暖めるのではなく、特定の空間だけを効率良く短時間で暖めるヒータの開発が行われている。
【0004】
さらに、カーボンニュートラル達成のため、水の電気分解によって生成される水素と、発電所や工場などから排出されるCO2とを合成して得られる合成燃料の開発が進められているが、合成燃料の製造プロセスにおいては加熱が要求される。この製造プロセスが工場排熱などの供給が可能な場所で実施される場合は熱源を容易に確保することができる一方、熱源がない場所で実施される場合は電力を使って加熱しなければならない。電力は、製造過程でCO2が排出されることがない再生可能エネルギーから製造することが好ましく、ヒータに対しても加熱効率の向上が要求されている。
【0005】
熱容量の小さい基材中に導体を埋設又は当該基材間に導体を配置したヒータは、上記のような各種用途における有力な加熱手段の1つである。
例えば、特許文献1には、板状の第一のヒータ基板と、第一のヒータ基板の第一面上に並列回路で配設された電熱線と、電熱線に通電するために電熱線に接続された電極と、第一のヒータ基板の第一面、電熱線及び電極を、第二面側で覆う板状のカバー基板とを備えるヒータが提案されている。このヒータでは、第一のヒータ基板及び/又はカバー基板はSi34又はAl23を含み、電熱線はWC、TiN、TaC、ZrN、MoSi2、Pt、Ru及びWからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含む。
【0006】
特許文献2には、アルミナ質セラミックス、窒化珪素質セラミックスなどから構成される絶縁基体と、絶縁基体に埋設された抵抗体とを備え、抵抗体はタングステンを主成分とする第1の導体粒子及びモリブデンを主成分とする第2の導体粒子を含むヒータが提案されている。
特許文献3には、アルミナ、窒化珪素、コージェライトなどの絶縁性セラミックス製の外筒と、外筒の内側に設けられた絶縁性セラミックス製のフィンと、外筒及び/又はフィンの少なくとも一部に埋設された電熱部とを備える排ガス浄化装置用混合器が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2017-182890号公報
【特許文献2】特許第5748918号公報
【特許文献3】特開2020-197208号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記したような用途で用いられるヒータには、迅速且つ効率良く加熱できるとともに、熱変動の大きな環境下での信頼性が高いことが要求される。
上記の先行技術において、ヒータの基材に用いられる窒化珪素(Si34)は、約3g/cm3の低密度であるため軽量である。また、窒化珪素は、約3×10-6/Kの低熱膨張率であり、約300GPaの高ヤング率であるが、約800MPaの高い曲げ強度を有するため、熱変動の大きな環境下でも高い信頼性を確保することができる。しかしながら、窒化珪素は高価であるとともに、焼結温度も1700℃以上が必要であるため製造コストも高い。
また、アルミナ(Al23)は、安価な材料であり、広く利用されている代表的なセラミックスであるが、約4g/cm3の高密度であるため重い。また、アルミナは、約8×10-6/Kの高熱膨張率、約350GPaの高ヤング率を有する。そのため、熱変動の大きな環境下では熱応力が大きくなるため、信頼性が確保し難い。
【0009】
一方、コージェライトは、約2.5g/cm3の低密度であるため軽量である。また、コージェライトは、約1.6×10-6/Kの低熱膨張率、約150GPaの低ヤング率である。そのため、コージェライトは、熱変動が大きな環境下でも熱応力の発生は小さく抑えることができるため高い信頼性を確保することができる。
しかしながら、低熱膨張率のコージェライトから構成されるコージェライト基材中に高熱膨張率の導体を埋設又は当該コージェライト基材の間に導体を配置した場合、熱膨張率の差によってコージェライト基材に亀裂が発生するという課題がある。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、コージェライト基材に亀裂が発生し難く、熱変動の大きな環境下における信頼性が高いヒータ及び加熱部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、電熱部(導体)をガラス部に埋設してコージェライト基材に設けることで、コージェライト基材の熱膨張係数と電熱部の熱膨張係数との差に起因するコージェライト基材の亀裂の発生を抑制し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、第一のコージェライト基材と、前記第一のコージェライト基材上に設けられたガラス部と、前記ガラス部中に埋設された電熱部とを備え、
前記ガラス部がMgO、Al23及びSiO2を含むヒータである。
【0013】
また、本発明は、円筒部材と、
前記円筒部材の少なくとも一部の内周面に沿って配置される前記ヒータと、
前記円筒部材と前記ヒータとの間に配置される絶縁材と、
を備え、
複数の前記ヒータの前記電熱部が、電気的に直列又は並列で電源と接続可能である加熱部材である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、コージェライト基材に亀裂が発生し難く、熱変動の大きな環境下における信頼性が高いヒータ及び加熱部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態に係るヒータの上面図である。
図2図1のA-A’線の断面図である。
図3】本発明の別の実施形態に係るヒータの上面図である。
図4図3のB-B’線の断面図である。
図5】本発明の実施形態に係る加熱部材の断面図である。
図6】本発明の実施形態に係る複数のヒータの電熱部が、電気的に直列で電源と接続された状態を示す上面図である。
図7】本発明の実施形態に係る複数のヒータの電熱部が、電気的に並列で電源と接続された状態を示す上面図である。
図8】還元剤前駆体を加熱して還元剤を生成するために用いられる本発明の実施形態に係る加熱部材の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施形態に対し変更、改良などが適宜加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0017】
(1)ヒータ
図1は、本発明の実施形態に係るヒータの上面図であり、図2は、このヒータのA-A’線の断面図である。
図1及び2に示されるように、ヒータ100は、第一のコージェライト基材10と、第一のコージェライト基材10上に設けられたガラス部20と、ガラス部20中に埋設された電熱部30とを備える。なお、図1において、点線はガラス部20に埋設された電熱部30の位置を表している。ガラス部20は、第一のコージェライト基材10と同程度の熱膨張率を有するため、電熱部30をガラス部20に埋設して第一のコージェライト基材10上に設け、第一のコージェライト基材10と電熱部30とが直接接触しないようにすることにより、第一のコージェライト基材10の亀裂を抑制することができる。したがって、熱変動の大きな環境下におけるヒータ100の信頼性を高めることができる。
【0018】
第一のコージェライト基材10は、コージェライト(2MgO・2Al23・5SiO2)を主成分とする基材である。
ここで、本明細書において「主成分」とは、全成分に占める割合が50質量%超過、好ましくは90質量%以上の成分のことを意味する。
第一のコージェライト基材10は、90質量%以上のコージェライト相と、5質量%以下の、ムライト及び/又はスピネルを含む結晶相と、残部のガラス相とから構成されていることが好ましい。このような組成であれば、熱膨張率やヤング率などの特性を所望の範囲に制御することができる。
ここで、第一のコージェライト基材10における各相の質量%は、次のようにして求めるられる。まず、コージェライト、ムライト、スピネル及びガラスの質量比を変えて混合したサンプルを複数作製し、X線回折のピーク値の検量線を予め作成する。次に、第一のコージェライト基材10のX線回折によってピーク値を求め、検量線に基づいて、第一のコージェライト基材10における各相の質量比率(質量%)を求める。
【0019】
第一のコージェライト基材10の開気孔率は、特に限定されないが、好ましくは10%以下、より好ましくは5%以下である。この範囲に開気孔率を制御することにより、還元剤前駆体(例えば、尿素水)などの液体が付着する環境下でヒータ100が使用される場合に、液体が第一のコージェライト基材10の内部に浸透し難くすることができる。
ここで、第一のコージェライト基材10の開気孔率は、既存の試験方法(アルキメデス法、JIS R1634:1998)を用いて測定することができる。第一のコージェライト基材10の開気孔率は、原料粉末の粒径を小さくしたり、焼結助剤などを添加したりすることによって制御することができる。
【0020】
第一のコージェライト基材10の熱膨張率(熱膨張係数)は、特に限定されないが、好ましくは1.5×10-6~2.0×10-6/Kである。このような範囲の熱膨張率であれば、熱変動の大きな環境下における熱応力を小さくすることができるため、ヒータ100の信頼性が向上する。
ここで、第一のコージェライト基材10の熱膨張率は、JIS R1618:2002に準拠して測定することができる。
【0021】
第一のコージェライト基材10のヤング率は、特に限定されないが、好ましくは160GPa以下である。このような範囲のヤング率であれば、熱変動の大きな環境下における熱応力を小さくすることができるため、ヒータ100の信頼性が向上する。また、第一のコージェライト基材10のヤング率は、振動によるヒータ100の変形や破壊を抑制する観点から、好ましくは100GPa以上である。
ここで、第一のコージェライト基材10のヤング率は次のようにして算出することができる。第一のコージェライト基材10について、JIS R1601:2008に示される4点曲げ強さ試験法に準拠することにより曲げ強さを測定し、この測定結果から「応力-歪曲線」を作成する。このようにして得られた「応力-歪曲線」の傾きを算出し、この「応力-歪曲線」の傾きをヤング率とする。
【0022】
ガラス部20は、MgO、Al23及びSiO2を含む。MgO、Al23及びSiO2はコージェライトの構成成分であるため、ガラス部20がMgO、Al23及びSiO2を含むことにより、ガラス部20と第一のコージェライト基材10との間の熱膨張率の差を小さくすることができる。その結果、熱変動の大きな環境下における熱応力を小さくすることができるため、ヒータ100の信頼性が向上する。また、ガラス部20と第一のコージェライト基材10との接着性を向上させることもできる。
【0023】
ガラス部20は、コージェライト(2MgO・2Al23・5SiO2)を含むことができる。ガラス部20にコージェライトを含ませることにより、ガラス部20の熱膨張率を第一のコージェライト基材10の熱膨張率に近づけることができる。その結果、熱変動の大きな環境下における熱応力を小さくすることができるため、ヒータ100の信頼性が向上する。また、第一のコージェライト基材10に対するガラス部20の接着性も高めることができる。
ガラス部20にコージェライトを含ませる方法としては、特に限定されないが、例えば、第一のコージェライト基材10の作製時に発生する廃材などをガラス部20の原料に加えればよい。
【0024】
ガラス部20は、30~40質量%のコージェライト相と、2質量%以下の、ムライト及び/又はスピネルを含む結晶相と、残部のガラス相とから構成されていることが好ましい。このような組成であれば、熱膨張率などの特性を所望の範囲に制御することができる。
ここで、ガラス部20における各相の質量%は、次のようにして求められる。まず、コージェライト、ムライト、スピネル及びガラスの質量比を変えて混合したサンプルを複数作製し、X線回折のピーク値の検量線を予め作成する。次に、ガラス部20のX線回折によってピーク値を求め、検量線に基づいて、ガラス部20における各相の質量比率(質量%)を求める。
【0025】
ガラス部20の熱膨張率(熱膨張係数)は、特に限定されないが、好ましくは1.6×10-6/K超過3.0×10-6/K未満、より好ましくは1.6×10-6/K超過2.5×10-6/K以下、更に好ましくは1.6×10-6/K超過2.0×10-6/K以下である。ガラス部20の熱膨張率が上記のような範囲であれば、ガラス部20と第一のコージェライト基材10との間の熱膨張率の差を小さくすることができる。その結果、熱変動の大きな環境下における熱応力を小さくすることができるため、ヒータ100の信頼性が向上する。
【0026】
電熱部30は、通電によって発熱する導体から構成されている。導体としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の金属又は合金を用いることができる。その中でも導体は、Mo及び/又はWを含むことが好ましい。このような導体を用いることにより、電熱部30とガラス部20との間の熱膨張率の差を小さくするとともに、埋設されるガラス部20との親和性も向上させることができる。その他の使用可能な導体としては、Ni-Cr系合金、Fe-Cr-Al系合金などが挙げられる。
【0027】
電熱部30の熱膨張率(熱膨張係数)は、特に限定されないが、好ましくは1.6×10-6/K超過6.0×10-6/K未満、より好ましくは1.6×10-6/K超過5.5×10-6/K以下である。電熱部30の熱膨張率が上記のような範囲であれば、電熱部30とガラス部20との間の熱膨張率の差を小さくすることができる。その結果、熱変動の大きな環境下における熱応力を小さくすることができるため、ヒータ100の信頼性が向上する。例えば、Moは、約5.0×10-6/Kの熱膨張率を有する。また、電熱部30の熱膨張率は、Mo粉末及び/又はW粉末と低熱膨張のガラス粉末とを複合化した導電性複合体を用い、各成分の割合や種類などを調整することによっても制御することができる。
【0028】
電熱部30の形状は、特に限定されず、線状、板状、シート状などの各種形状とすることができる。なお、図1及び2では、線状の電熱部30を形成した場合を一例として示している。
【0029】
電熱部30が埋設されたガラス部20上には第二のコージェライト基材を更に備えることができる。
ここで、第二のコージェライト基材を更に備えるヒータの上面図を図3、このヒータのB-B’線の断面図を図4に示す。
図3及び4に示されるように、ヒータ200は、第一のコージェライト基材10と、第一のコージェライト基材10上に設けられたガラス部20と、ガラス部20中に埋設された電熱部30と、ガラス部20上に設けられた第二のコージェライト基材40とを備える。なお、図4において、点線はガラス部20に埋設された電熱部30の位置を表している。このような構造とするヒータ200では、電熱部30をガラス部20に埋設して第一のコージェライト基材10と第二のコージェライト基材40との間に設け、第一のコージェライト基材10及び第二のコージェライト基材40と電熱部30とが直接接触しないようにしているため、第一のコージェライト基材10及び第二のコージェライト基材40の亀裂を抑制することができる。したがって、熱変動の大きな環境下におけるヒータ200の信頼性を高めることができる。
【0030】
第二のコージェライト基材40は、第一のコージェライト基材10と同様にコージェライト(2MgO・2Al23・5SiO2)を主成分とする基材であり、第一のコージェライト基材10と同様のものを用いることができる。
第二のコージェライト基材40は、90質量%以上のコージェライト相と、5質量%以下の、ムライト及び/又はスピネルを含む結晶相と、残部のガラス相とから構成されていることが好ましい。このような組成であれば、熱膨張率やヤング率などの特性を所望の範囲に制御することができる。第二のコージェライト基材40における各相の質量%は、第一のコージェライト基材10における各相の質量%と同様にして求めることができる。
【0031】
ヒータ100,200は、図1~4に示されるように、ろう材60によって電熱部30に接続された端子50を更に備えることができる。このような構成とすることにより、電熱部30を外部電源(図示していない)と電気的に接続させることが容易になる。
【0032】
端子50は、通電可能な導体から構成されている。端子50に用いられる導体としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の金属又は合金を用いることができる。その中でも端子50に用いられる導体は、Fe、Ni及びCoを含むことが好ましい。このような材料として、例えば、コバールを用いることができる。
なお、端子50に用いられる導体は、電熱部30と同じ導体から構成されていてもよいし、電熱部30と異なる導体から構成されていてもよい。
【0033】
端子50を構成する導体の熱膨張率(熱膨張係数)は、特に限定されないが、好ましくは1.6×10-6/K超過6.0×10-6/K未満、より好ましくは3.0×10-6/K超過6.0×10-6/K未満である。端子50を構成する導体の熱膨張率が上記のような範囲であれば、特に、図3及び4に示されるヒータ200において、第二のコージェライト基材40と端子50を構成する導体との間の熱膨張率の差を小さくすることができる。その結果、熱変動の大きな環境下における熱応力を小さくすることができるため、ヒータ200の信頼性が向上する。例えば、コバールは、約5.0×10-6/Kの熱膨張率を有する。
【0034】
図3及び4に示されるヒータ200において、端子50は、第二のコージェライト基材40に設けられた貫通孔に挿入配置されていることが好ましい。このような構成とすることにより、電熱部30を外部電源(図示していない)と電気的に接続させることが容易になる。
【0035】
ろう材60は、電熱部30と端子50との間を接合する材料である。ろう材60としては、特に限定されず、電熱部30及び端子50の種類に応じて適切な材料を選択すればよい。例えば、電熱部30にMo及び/又はWを含む導体、端子50にFe、Ni及びCoを含む導体を用いる場合、ろう材60は、Ag、Ti及びCuを含むことが好ましい。このような成分を含むろう材60であれば、電熱部30及び端子50に影響を与えることなく適切に接合することができる。
【0036】
ここで、電熱部30にMoから構成される導体(Moワイヤ)、端子50にコバールから構成される導体(コバールピン)を用い、3種類(66Ag-8Ti-Cu、65Ag-15Pd-Cu及びNi-Cr-P)のろう材60によって電熱部30と端子50との間を実際に接合する実験を行った。その結果、66Ag-8Ti-Cuは、Moワイヤとコバールピンとの間を約900℃で良好に接合することができた。これに対して65Ag-15Pd-Cuは、Moワイヤとコバールピンとの間を900℃で接合したところ、Pdの蒸発が確認された。また、Ni-Cr-Pは、Moワイヤとの反応が確認された。したがって、電熱部30にMoワイヤ、端子50にコバールピンを用いる場合は、66Ag-8Ti-Cuが最も適したろう材60であるといえる。
【0037】
ヒータ100,200は、図1~4に示されるように、端子50と、ガラス部20又は第二のコージェライト基材40との境界表面に設けられたシール部70を更に備えることができる。具体的には、ヒータ100では、端子50とガラス部20との境界表面にシール部70を備えることができる。また、ヒータ200では、端子50と第二のコージェライト基材40との境界表面にシール部70を備えることができる。このような構成とすることにより、当該境界から液体や空気などが侵入することを抑制することができるため、ヒータ100,200の信頼性が向上する。
【0038】
シール部70を構成する材料としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のシール材を用いることができる。その中でもシール部70を構成する材料はガラスであることが好ましい。
また、シール部70(ガラス)は、SiO2及びB23を含むことが好ましい。このような成分を含むシール部70であれば、熱膨張係率が小さいため、シール部70やその周辺の部材(ガラス部20や第二のコージェライト基材40)の亀裂を抑制することができる。
【0039】
シール部70を構成するガラスの熱膨張率(熱膨張係数)は、特に限定されないが、好ましくは1.6×10-6/K超過6.0×10-6/K未満、より好ましくは2.0×10-6/K超過4.0×10-6/K未満である。シール部70を構成するガラスの熱膨張率が上記のような範囲であれば、ヒータ100では、ガラス部20、及び端子50を構成する導体とシール部70を構成するガラスとの間の熱膨張率の差が小さくなり、ヒータ200では、第二のコージェライト基材40、及び端子50を構成する導体とシール部70を構成するガラスとの間の熱膨張率の差が小さくなる。その結果、熱変動の大きな環境下における熱応力を小さくすることができるため、ヒータ100,200の信頼性が向上する。
【0040】
ヒータ100,200は、上記のような構成とすることにより、コージェライト基材(第一のコージェライト基材10及び第二のコージェライト基材40)に亀裂が発生し難く、熱変動の大きな環境下における信頼性が高いため、様々な用途で用いることができる。
例えば、ヒータ100,200は、ディーゼルエンジンの尿素SCRシステムにおいて、尿素と排ガスとの混合を行う排ガス混合器内の排ガスの加熱に用いるのに有用である。また、この尿素SCRシステムにおいて、排ガス混合器を構成する円筒部材(排気管)の内壁面の温度を高く保ち、尿素が内壁面に衝突した際に、中間物の固形デポジットとなって堆積するのを抑制するのにも有用である。尿素SCRシステムでは、ヒータ100,200によって加熱された排ガスに尿素水を噴射することにより、NOx還元剤となるアンモニア(NH3)を生成することができる。
また、ヒータ100,200は、電気自動車、燃料電池車及びプラグインハイブリッドカーにおける暖房設備や、合成燃料の製造プロセスにおける加熱手段として用いるのにも有用である。
【0041】
ヒータ100,200は、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。
例えば、ヒータ100は、次のようにして製造することができる。
まず、コージェライト原料粉末を含む成形材料を成形した後、焼結させることによって第一のコージェライト基材10を作製する。成形方法としては特に限定されず、押出成形やモールドキャスト成形などを用いることができる。また、第一のコージェライト基材10は、所定の形状を有する焼結体を機械加工することによって作製してもよい。
次に、ガラス部20となる2つのガラスシートの間に電熱部30を挟み、第一のコージェライト基材10上に配置して積層構造体とする。このとき表面側のガラスシートには、電熱部30と端子50とをろう材60によって接続するための開口部が設けられる。
次に、積層構造体を加熱加圧処理することによって一体化させる。このときガラスシートは一体化してガラス部20となり、ガラス部20に電熱部30が埋設された状態となる。加熱及び加圧の条件は、使用するガラスシートの種類に応じて適宜設定すればよく特に限定されない。
次に、表面側ガラスシートの開口部に露出した電熱部30上にろう材60を介して端子50を配置し、加熱処理して接合させる。加熱条件は、使用するろう材60の種類に応じて適宜設定すればよく特に限定されない。
最後に、ガラス部20の表面の、端子50とガラス部20との境界にシール材を塗布した後、加熱処理することによってシール部70を形成し、ヒータ100が完成する。加熱条件は、使用するシール材の種類に応じて適宜設定すればよく特に限定されない。
【0042】
また、ヒータ200は、次のようにして製造することができる。
まず、コージェライト原料粉末を含む成形材料を成形した後、焼結させることによって第一のコージェライト基材10及び第二のコージェライト基材40を作製する。
次に、ガラス部20となる2つのガラスシートの間に電熱部30を挟み、これを第一のコージェライト基材10と第二のコージェライト基材40との間に配置して積層構造体とする。このとき第二のコージェライト基材40及び第二のコージェライト基材40側のガラスシートには、電熱部30と端子50とをろう材60によって接続するための開口部が設けられる。
次に、第一のコージェライト基材10と、第二のコージェライト基材40と、電熱部30を挟んだガラスシートとの間の密着性を向上させるために、積層構造体を加圧しながら加熱処理することによって一体化させる。
次に、第二のコージェライト基材40及び第二のコージェライト基材40側のガラスシートの開口部に露出した電熱部30上にろう材60を介して端子50を配置し、加熱処理して接合させる。
最後に、第二のコージェライト基材40の表面の、端子50と第二のコージェライト基材40との境界にシール材を塗布した後、加熱処理することによってシール部70を形成し、ヒータ200が完成する。
【0043】
(2)加熱部材
図5は、本発明の実施形態に係る加熱部材の断面図である。なお、図5は、加熱部材1000を構成する円筒部材300の軸方向に垂直な方向の断面図である。
図5に示されるように、加熱部材1000は、円筒部材300と、円筒部材300の少なくとも一部の内周面に沿って配置される複数のヒータ100,200と、円筒部材300とヒータ100,200との間に配置される絶縁材400とを備える。このような構造とすることにより、円筒部材300の内部を加熱することが可能になる。
【0044】
円筒部材300としては、特に限定されず、軸方向において均一な径を有していてもよく、軸方向において縮径及び/又は拡径していてもよい。
円筒部材300の材料は、特に限定されないが、製造性の観点から金属であることが好ましい。金属としては、例えば、ステンレス、チタン合金、銅合金、アルミ合金、真鍮などを用いることができる。これらの中でも、耐久信頼性が高く、安価という理由により、ステンレスが好ましい。
【0045】
円筒部材300の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.1mm以上、より好ましくは0.3mm以上、更に好ましくは0.5mm以上である。円筒部材300の厚みを0.1mm以上とすることにより、耐久信頼性を確保することができる。また、円筒部材300の厚みは、10mm以下が好ましく、5mm以下がより好ましく、3mm以下が更により好ましい。円筒部材300の厚みを10mm以下とすることにより、軽量化を図ることができる。
【0046】
絶縁材400としては、特に限定されず、窒化珪素、アルミナなどから構成される繊維マットを用いることができる。
絶縁材400の厚みは、絶縁性を確保可能な厚みであれば特に限定されない。
【0047】
複数のヒータ100,200は、円筒部材300の少なくとも一部の内周面に沿って配置される。ヒータ100,200の固定方法としては、特に限定されないが、例えば、ボルト500などの固定治具を用いて円筒部材300の内周面に固定すればよい。
【0048】
複数のヒータ100,200は、電熱部30が、電気的に直列又は並列で電源と接続可能であるように構成される。このような構成とすることにより、電源から電圧を印加することにより、複数のヒータ100,200が発熱し、円筒部材300の内部を加熱することが可能になる。
ここで、複数のヒータ100,200の電熱部30が、電気的に直列で電源と接続された状態を示す上面図を図6に示す。また、複数のヒータ100,200の電熱部30が、電気的に並列で電源と接続された状態を示す上面図を図7に示す。なお、図6及び7では、理解し易くする観点から3つのヒータ100を平面的に表している。また、点線は、埋設された電熱部30の位置を表している。
図6では、複数のヒータ100,200の電熱部30が電気的に直列して接続されており、直列的に接続された電熱部30の一端が電源と電気的に接続され、他端がアース(例えば、円筒部材300)と電気的に接続される。図7では、複数のヒータ100,200の電熱部30が電気的に並列して接続されており、それぞれの電熱部30の一端が電源と電気的に接続され、他端がアース(例えば、円筒部材300)と電気的に接続される。
【0049】
電源からの印加電圧は、特に限定されないが、60V以下であることが好ましい。この範囲の電圧であれば、特別な絶縁を必要としない。また、印加電圧は、ヒータ100,200の加熱効率を考慮すると、12V以上であることが好ましい。
【0050】
本発明の実施形態に係る加熱部材は、ディーゼルエンジンの尿素SCRシステムに用いるのに適している。すなわち、本発明の実施形態に係る加熱部材は、還元剤前駆体(例えば、尿素水)と排ガスとを混合する排ガス混合器を構成する円筒部材300の内壁面の温度を高く保ち、還元剤前駆体が内壁面に衝突した際に、中間物の固形デポジットとなって堆積するのを抑制しつつ、還元剤前駆体を加熱して還元剤(例えば、アンモニア)を生成するために用いることができる。
【0051】
ここで、還元剤前駆体を加熱して還元剤を生成するために用いられる加熱部材の断面図を図8に示す。なお、図8は、加熱部材2000を構成する円筒部材300の軸方向に垂直な方向の断面図である。
図8に示されるように、加熱部材2000は、円筒部材300の少なくとも一部に配置され、円筒部材300の内周面に還元剤前駆体を噴射可能なノズル600を更に備えている。また、複数のヒータ100,200は、ノズル600から還元剤前駆体が噴射される円筒部材300の内周面に配置されている。さらに、円筒部材300は、ディーゼルエンジンの排気管である。このような構成とすることにより、円筒部材300(排気管)を流通する排ガスを複数のヒータ100,200で加熱することができ、加熱された排ガスに還元剤前駆体を噴射することにより、還元剤を生成させることができる。また、ノズル600から噴射された還元剤前駆体が複数のヒータ100,200に衝突しても、還元剤前駆体がすぐに蒸発するため、還元剤前駆体の分解によって生成する堆積物の堆積を抑制することもできる。
【0052】
加熱部材2000は、複数のヒータ100,200の電熱部30が電気的に並列して接続されていることが好ましい。すなわち、複数のヒータ100,200の電熱部30の一端が電源と電気的に接続され、他端がアース(例えば、円筒部材300)と電気的に接続されていることが好ましい。また、電源からの印加電圧は、60V以下であることが好ましい。このような構成とすることにより、還元剤前駆体を迅速且つ効率良く加熱して還元剤を生成するとともに、円筒部材300の内壁面における中間物の堆積を抑制することができる。
【符号の説明】
【0053】
10 第一のコージェライト基材
20 ガラス部
30 電熱部
40 第二のコージェライト基材
50 端子
60 ろう材
70 シール部
100,200 ヒータ
300 円筒部材
400 絶縁材
500 ボルト
600 ノズル
1000,2000 加熱部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8