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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140171
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】デジタル移相器
(51)【国際特許分類】
   H01P 1/185 20060101AFI20230927BHJP
   H03H 7/30 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
H01P1/185
H03H7/30 B
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046071
(22)【出願日】2022-03-22
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-05-27
(71)【出願人】
【識別番号】000005186
【氏名又は名称】株式会社フジクラ
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100206081
【弁理士】
【氏名又は名称】片岡 央
(74)【代理人】
【識別番号】100188891
【弁理士】
【氏名又は名称】丹野 拓人
(72)【発明者】
【氏名】上道 雄介
(57)【要約】
【課題】他回路の接地パターンの接続に起因するデジタル移相回路の移相量の減少を抑制することが可能なデジタル移相器を提供する。
【解決手段】信号線路、信号線路の両側に設けられた一対の内側線路、内側線路の外側に各々設けられた一対の外側線路、内側線路及び外側線路の各一端に接続された第1の接地導体、外側線路の各他端に接続された第2の接地導体、内側線路の各他端と第2の接地導体との間に設けられる一対の電子スイッチを備えた複数のデジタル移相回路が縦続接続されてなるデジタル移相器であって、複数のデジタル移相回路は前列と後列とからなる多列構造、また前列と後列は隣り合っており、接地パターンは前列と一点で接続される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
信号線路、当該信号線路の両側に設けられた一対の内側線路、当該内側線路の外側に各々設けられた一対の外側線路、前記内側線路及び前記外側線路の各一端に接続された第1の接地導体、前記外側線路の各他端に接続された第2の接地導体、前記内側線路の各他端と前記第2の接地導体との間に各々設けられる一対の電子スイッチを少なくとも備えた複数のデジタル移相回路が縦続接続されてなるデジタル移相器であって、
前記複数のデジタル移相回路は、所定の接続回路を介して接続されることにより前列と後列とからなる多列構造を備えるとともに、前列と後列は隣り合っており、前記前列の前記外側線路が所定の接地パターンによって接続される構造を備え、
前記接地パターンは、前記前列と1点で接続されるデジタル移相器。
【請求項2】
前記接地パターンは、前記前列の前端と接続される請求項1に記載のデジタル移相器。
【請求項3】
前記接地パターンは隣り合う前記前列と前記後列に挟まれた領域にあり、前記接地パターンは、前記前列の後端と1点で接続される請求項1に記載のデジタル移相器。
【請求項4】
前記デジタル移相回路は、複数の導電層によって構成され、
前記接地パターンは、前記複数の導電層のいずれか一層である請求項1~3のいずれか一項に記載のデジタル移相器。
【請求項5】
前記デジタル移相回路は、複数の導電層によって構成され、
前記接地パターンは、前記複数の導電層とは異なる導電層である請求項1~3のいずれか一項に記載のデジタル移相器。
【請求項6】
前記デジタル移相回路は、上部電極が前記信号線路に接続され、下部電極が前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方に接続されるコンデンサを備える請求項1~5のいずれか一項に記載のデジタル移相器。
【請求項7】
前記デジタル移相回路は、前記コンデンサの下部電極と前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方との間にコンデンサ用電子スイッチをさらに備える請求項6に記載のデジタル移相器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタル移相器に関する。
【背景技術】
【0002】
下記非特許文献1には、マイクロ波、 準ミリ波あるいはミリ波を対象とするデジタル制御型の移相回路(デジタル移相回路)が開示されている。このデジタル移相回路は、非特許文献1の図2に示されているように、信号線路(signal line)、当該信号線路の両側に設けられた一対の内側線路(inner lines)、一対の内側線路の外側に各々設けられた一対の外側線路(outer lines)、一対の内側線路及び一対の外側線路の各一端に接続された第1接地バー、一対の外側線路の各他端に接続された第2接地バー、一対の内側接路の各他端と第2接地バーとの間に各々設けられる一対のNMOSスイッチ等を備える。
【0003】
このようなデジタル移相回路は、信号線路における信号波の伝送に起因して一対の内側線路あるいは一対の外側線路に流れるリターン電流を一対のNMOSスイッチの開/閉に応じて切り替えることにより、動作モードを低遅延モードと高遅延モードとに切り替える。すなわち、デジタル移相回路は、一対の内側線路にリターン電流が流れる場合に動作モードが低遅延モードとなり、一対の外側線路にリターン電流が流れる場合に動作モードが高遅延モードとなる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】A Ka-band Digitally-Controlled Phase Shifter with sub-degree Phase Precision (2016,IEEE,RFIC)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記デジタル移相回路は、例えばフェイズドアレイアンテナを用いた基地局等に適用されるものであり、実際には多数が縦続接続された状態で半導体基板上に実装される。すなわち、上記デジタル移相回路は、実際の移相器の構成における単位ユニットであり、各段を構成する数十個が縦続接続されることによってデジタル移相器を構成する。このデジタル移相器は、各段の単位ユニットが各々に低遅延モードあるいは高遅延モードに設定されることにより、全体として複数の移相量を実現する。
【0006】
このようなデジタル移相器を半導体基板上に実装する場合、実装スペース等の制約によって複数のデジタル移相回路(単位ユニット)を多列状態に配置する場合がある。そして、このような多列構造のデジタル移相器では、接地される線路つまり列間で隣り合う2つの外側線路や列間で隣り合う第1接地バー及び第2接地バー等に他回路の接地パターンを接続する場合がある。このような接地パターンのデジタル移相器への接続は、デジタル移相回路の移相量を減少させるという問題がある。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、他回路の接地パターンの接続に起因するデジタル移相回路の移相量の減少を抑制することが可能なデジタル移相器の提供を目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明では、デジタル移相器に係る第1の解決手段として、信号線路、当該信号線路の両側に設けられた一対の内側線路、当該内側線路の外側に各々設けられた一対の外側線路、前記内側線路及び前記外側線路の各一端に接続された第1の接地導体、前記外側線路の各他端に接続された第2の接地導体、前記内側線路の各他端と前記第2の接地導体との間に各々設けられる一対の電子スイッチを少なくとも備えた複数のデジタル移相回路が縦続接続されてなるデジタル移相器であって、前記複数のデジタル移相回路は、所定の接続回路を介して接続されることにより前列と後列とからなる多列構造を備えるとともに、前列と後列は隣り合っており、前記前列の前記外側線路が所定の接地パターンによって接続される構造を備え、前記接地パターンは、前記前列と1点で接続される、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、デジタル移相器に係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記接地パターンは、前記前列の前端と接続される、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、デジタル移相器に係る第3の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記接地パターンは隣り合う前記前列と前記後列に挟まれた領域にあり、前記接地パターンは、前記前列の後端と1点で接続される、という手段を採用する。
【0011】
本発明では、デジタル移相器に係る第4の解決手段として、上記第1~第3のいずれかの解決手段において、前記デジタル移相回路は、複数の導電層によって構成され、前記接地パターンは、前記複数の導電層のいずれか一層である、という手段を採用する。
【0012】
本発明では、デジタル移相器に係る第5の解決手段として、上記第1~第3のいずれかの解決手段において、前記デジタル移相回路は、複数の導電層によって構成され、前記接地パターンは、前記複数の導電層とは異なる導電層である、という手段を採用する。
【0013】
本発明では、デジタル移相器に係る第6の解決手段として、上記第1~第5のいずれかの解決手段において、前記デジタル移相回路は、上部電極が前記信号線路に接続され、下部電極が前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方に接続されるコンデンサを備える、という手段を採用する。
【0014】
本発明では、デジタル移相器に係る第7の解決手段として、上記第6の解決手段において、前記デジタル移相回路は、前記コンデンサの下部電極と前記第1の接地導体及び前記第2の接地導体の少なくとも一方との間にコンデンサ用電子スイッチをさらに備える、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、他回路の接地パターンの接続に起因するデジタル移相回路の移相量の変化を抑制することが可能なデジタル移相器を提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の第1実施形態に係るデジタル移相器A1の構成を示す正面図である。
図2】本発明の第1実施形態におけるデジタル移相回路Bの機能構成を示す概念図である。
図3】本発明の第1実施形態におけるデジタル移相回路Bにおいて、高遅延モード時のリターン電流の通電経路を示す模式図である。
図4】本発明の第1実施形態におけるデジタル移相回路Bにおいて、低遅延モード時のリターン電流の通電経路を示す模式図である。
図5】本発明の第2実施形態に係るデジタル移相器A2の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
〔第1実施形態〕
最初に、本発明の第1実施形態について説明する。第1実施形態に係るデジタル移相器A1は、図1に示すように、マイクロ波、 準ミリ波あるいはミリ波等の信号(高周波信号)を入力とし、所定の移相量だけ位相シフトした高周波信号を外部に出力する高周波回路である。
【0018】
このデジタル移相器A1は、図1に示すように、複数(n個)のデジタル移相回路B~B、一対の接続回路C1,C2、接地パターンD及び一対の追加線路E1,E2を備える。なお、本実施形態において、上記「n」は自然数である。また、以下の「i」は2以上かつn以下の自然数である。
【0019】
n個(複数)のデジタル移相回路B~Bは、図示するように一対の接続回路C1,C2を介して二列(多列)に配置されている。すなわち、第1実施形態に係るデジタル移相器A1は、一対の接続回路C1,C2を用いた複数のデジタル移相回路B~Bに関する多列構造を備える。なお、図1に示す二列構造は多列構造の一例であり、三列以上であってもよい。
【0020】
詳細については後述するが、デジタル移相回路B~Bは、代表としてデジタル移相回路Bに示すように、信号線路1、2つの内側線路2(第1の内側線路2a及び第2の内側線路2b)、2つの外側線路3(第1の外側線路3a及び第2の外側線路3b)、2つの接地導体4(第1の接地導体4a及び第2の接地導体4b)等を備えている。
【0021】
デジタル移相器A1において、高周波信号の伝送方向は、第1のデジタル移相回路Bから第nのデジタル移相回路Bに向かう方向である。第1のデジタル移相回路Bは、高周波信号の伝送方向において最上流(最前段)に位置し、第nのデジタル移相回路Bは、高周波信号の伝送方向において最下流(最後段)に位置している。
【0022】
n個のデジタル移相回路B~Bのうち、第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1は、前列(第1列)を構成しており、直線状に縦続接続されている。一方、第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bは、後列(第2列)を構成しており、直線状に縦続接続されている。前列(第1列)と後列(第2列)とは、一対の接続回路C1,C2及び第iのデジタル移相回路Bを介して略平行に設けられている。
【0023】
前列(第1列)の第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1において、列方向に隣り合う信号線路1は、一列に直列接続されている。また、後列(第2列)の第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bにおいて、列方向に隣り合う信号線路1は、一列に直列接続されている。
【0024】
また、前列(第1列)の第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1において、列方向に隣り合う第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bは、一列に直列接続されている。また、後列(第2列)の第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bにおいて、列方向に隣り合う第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bは、一列に直列接続されている。
【0025】
また、前列(第1列)の第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1において、列方向に隣り合う第1の接地導体4aと第2の接地導体4bとは、相互に接続されている。また、後列(第2列)の第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bにおいて、列方向に隣り合う第1の接地導体4aと第2の接地導体4bとは、相互に接続されている。
【0026】
前列(第1列)の第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1と後列(第2列)の第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bとは、列間で隣り合う関係にある。列間で隣り合う関係の前列(第1列)の第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1と後列(第2列)の第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bとは、列間方向に隣り合う第1の外側線路3a同士、第1の接地導体4aと第2の接地導体4b及び第2の接地導体4bと第1の接地導体4aのうち少なくとも1つが接地パターンDを介して相互接続されている。
【0027】
すなわち、接地パターンDは、電気的に接地されており、列間方向に隣り合う第1の外側線路3a同士、第1の接地導体4aと第2の接地導体4b及び第2の接地導体4bと第1の接地導体4aのうち少なくとも1つを相互接続する。このような接地パターンDを備えるデジタル移相器A1は、列間接続構造を備える。
【0028】
ここで、第1実施形態に係るデジタル移相器A1は、n個のデジタル移相回路B~Bのうち、第iのデジタル移相回路Bが前列(第1列)及び後列(第2列)を構成しておらず、一対の接続回路C1,C2に挟まれた状態で配置されている。ただし、この第iのデジタル移相回路Bについては、前列(第1列)あるいは後列(第2列)を構成するように配置してもよい。
【0029】
一対の接続回路C1,C2は、前列(第1列)と後列(第2列)とを平行な状態で接続する回路である。一対の接続回路C1,C2のうち、第1の接続回路C1は、図示するように前列(第1列)において最後段に位置する第i-1のデジタル移相回路Bi-1と第iのデジタル移相回路Bとを接続する。この第1の接続回路C1は、図示するように5つの個別接続線路F1,F2a,F2b,F3a,F3bを備える。
【0030】
これら個別接続線路F1,F2a,F2b,F3a,F3bのうち、第1の個別接続線路F1は、第i-1のデジタル移相回路Bi-1における信号線路1の出力端(一端)と第iのデジタル移相回路Bにおける信号線路1の入力端(他端)とを接続する帯状導体である。この第1の個別接続線路F1は、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、図示するように斜めに延在している。
【0031】
第2の個別接続線路F2aは、第i-1のデジタル移相回路Bi-1における第1の内側線路2aの一端と第iのデジタル移相回路Bにおける第1の内側線路2aの他端とを接続する帯状導体である。この第2の個別接続線路F2aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第1の個別接続線路F1と同様に斜めに延在している。
【0032】
第3の個別接続線路F2bは、第i-1のデジタル移相回路Bi-1における第2の内側線路2bの一端と第iのデジタル移相回路Bにおける第2の内側線路2bの他端とを接続する帯状導体である。この第3の個別接続線路F2bは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第1の個別接続線路F1と同様に斜めに延在している。
【0033】
第4の個別接続線路F3aは、第i-1のデジタル移相回路Bi-1における第1の外側線路3aの一端と第iのデジタル移相回路Bにおける第1の外側線路3aの他端とを接続する帯状導体である。この第4の個別接続線路F3aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第1の個別接続線路F1と同様に斜めに延在している。
【0034】
第5の個別接続線路F3bは、第i-1のデジタル移相回路Bi-1における第2の外側線路3bの一端と第iのデジタル移相回路Bにおける第2の外側線路3bの他端とを接続する帯状導体である。この第5の個別接続線路F3bは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第1の個別接続線路F1と同様に斜めに延在している。
【0035】
一方、第2の接続回路C2は、図示するように第iのデジタル移相回路Biと後列(第2列)において最前段に位置する第i+1のデジタル移相回路Bi+1とを接続する、この第2の接続回路C2は、図示するように5つの個別接続線路G1,G2a,G2b,G3a,G3bを備える。
【0036】
これら個別接続線路G1,G2a,G2b,G3a,G3bのうち、第6の個別接続線路G1は、第iのデジタル移相回路Bにおける信号線路1の出力端(一端)と第i+1のデジタル移相回路Bi+1における信号線路1の入力端(他端)とを接続する帯状導体である。この第6の個別接続線路G1は、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、図示するように斜めに延在している。
【0037】
第7の個別接続線路G2aは、第iのデジタル移相回路Bにおける第1の内側線路2aの一端と第i+1のデジタル移相回路Bi+1における第1の内側線路2aの他端とを接続する帯状導体である。この第7の個別接続線路G2aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第6の個別接続線路G1と同様に斜めに延在している。
【0038】
第8の個別接続線路G2bは、第iのデジタル移相回路Bにおける第2の内側線路2bの一端と第i+1のデジタル移相回路Bi+1における第2の内側線路2bの他端とを接続する帯状導体である。この第8の個別接続線路G2bは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第6の個別接続線路G1と同様に斜めに延在している。
【0039】
第9の個別接続線路G3aは、第iのデジタル移相回路Bにおける第1の外側線路3aの一端と第i+1のデジタル移相回路Bi+1における第1の外側線路3aの他端とを接続する帯状導体である。この第9の個別接続線路G3aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第6の個別接続線路G1と同様に斜めに延在している。
【0040】
第10の個別接続線路G3bは、第iのデジタル移相回路Bにおける第2の外側線路3bの一端と第i+1のデジタル移相回路Bi+1における第2の外側線路3bの他端とを接続する帯状導体である。この第10の個別接続線路G3bは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体であり、第6の個別接続線路G1と同様に斜めに延在している。
【0041】
接地パターンDは、前列(第1列)と後列(第2列)に挟まれた領域にあり、前列(第1列)及び後列(第2列)の延在方向に沿って設けられた矩形状導体である。この接地パターンDは、図示するように前列(第1列)と後列(第2列)との間隔よりも若干狭い幅を備えている。このような接地パターンDは、例えば後述するスイッチ制御部8用に前列(第1列)及び後列(第2列)との間に設けられている。
【0042】
詳細については後述するが、複数のデジタル移相回路B1~Bnは複数の導電層からら構成されている。上記接地パターンDは、これら複数の導電層のいずれか一層である。ただし、接地パターンDは、これら複数の導電層のいずれか一層に限定されるものではなく、複数の導電層とは異なる導電層であってもよい。
【0043】
一対の追加線路E1,E2は、接地パターンDと前列(第1列)及び後列(第2列)とを接続する導体である。これら追加線路E1,E2は、所定幅を有する略帯状の導体であり、各々に前列(第1列)及び後列(第2列)を接地パターンDに対して1点で接続する。
【0044】
これら追加線路E1,E2のうち、第1の追加線路E1は、前列(第1列)の後端と接地パターンDとを1点かつ最短距離で接続する。すなわち、第1の追加線路E1は、図示するように、前列(第1列)の最後段に位置する第i-1のデジタル移相回路Bi-1における第1の外側線路3aの一端を接地パターンDに接続する。
【0045】
一方、第2の追加線路E2は、後列(第2列)の後端と接地パターンDとを1点かつ最短距離で接続する。すなわち、第2の追加線路E2は、図示するように、後列(第2列)の最後段に位置する第nのデジタル移相回路Bにおける第1の外側線路3aの一端を接地パターンDに接続する。
【0046】
続いて、第1実施形態におけるデジタル移相回路B~Bの詳細構成について説明する。これらデジタル移相回路B~Bは、図2に代表符号Bとして示すように、上述した信号線路1、一対の内側線路2(第1の内側線路2a及び第2の内側線路2b)、一対の外側線路3(第1の外側線路3a及び第2の外側線路3b)、一対の接地導体4(第1の接地導体4a及び第2の接地導体4b)に加え、コンデンサ5、複数の接続導体6、4つの電子スイッチ7(第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b、第3の電子スイッチ7c及び第4の電子スイッチ7d)及びスイッチ制御部8を備える。
【0047】
信号線路1は、所定方向に延在する直線状の帯状導体である。すなわち、信号線路1は、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。図2では、信号線路1には、手前側から奥側に向かって高周波信号が流れる。高周波信号は、マイクロ波、 準ミリ波、又はミリ波等の周波数帯域を有する信号である。
【0048】
なお、図2ではデジタル移相回路Bの前後方向をX軸方向とし、左右方向をY軸方向とし、上下方向(鉛直方向)をZ軸方向とする。また、+X方向は、X軸方向を手前側から奥側に向かう方向であり、-X方向は+X方向とは反対方向である。+Y方向は、Y軸方向を右に進む方向であり、-Y方向は+Y方向とは反対方向である。+Z方向は、Z軸方向を上方に進む方向であり、-Z方向は+Z方向とは反対方向である。
【0049】
一対の内側線路2(第1の内側線路2a及び第2の内側線路2b)は、信号線路1の両側に設けられた直線状の帯状導体である。第1の内側線路2aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第1の内側線路2aは、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。第1の内側線路2aは、信号線路1と平行に設けられており、所定の距離だけ離間している。具体的には、第1の内側線路2aは、信号線路1の一方側に所定の距離だけ離間して配置されている。換言すれば、第1の内側線路2aは、信号線路1から+Y方向に所定の距離だけ離間して配置されている。
【0050】
第2の内側線路2bは、第1の内側線路2aと同様に、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第2の内側線路2bは、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。第2の内側線路2bは、信号線路1と平行に設けられており、所定の距離だけ離間している。具体的には、第2の内側線路2bは、信号線路1の他方側に所定の距離だけ離間して配置されている。換言すれば、第2の内側線路2bは、信号線路1から-Y方向に所定の距離だけ離間して配置されている。
【0051】
一対の外側線路3(第1の外側線路3a及び第2の外側線路3b)は、内側線路の外側に各々設けられた直線状の帯状導体である。第1の外側線路3aは、信号線路1の一方側において、第1の内側線路2aよりも信号線路1から遠い位置に設けられる直線状の帯状導体である。
【0052】
すなわち、第1の外側線路3aは、第1の内側線路2aよりも+Y方向に配置された直線状の帯状導体である。第1の外側線路3aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第1の外側線路3aは、信号線路1に対して第1の内側線路2aを挟んだ状態で信号線路1から所定距離を隔てて平行に設けられている。第1の外側線路3aは、第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bと同様に、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。
【0053】
第2の外側線路3bは、信号線路1の他方側において、第2の内側線路2bよりも信号線路1から遠い位置に設けられる直線状の帯状導体である。すなわち、第2の外側線路3bは、第2の内側線路2bよりも-Y方向に配置された直線状の帯状導体である。第2の外側線路3bは、第1の外側線路3aと同様に、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。第2の外側線路3bは、信号線路1に対して第2の内側線路2bを挟んだ状態で信号線路1から所定距離を隔てて平行に設けられている。第2の外側線路3bは、第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bと同様に、信号線路1の延在方向と同一な方向に延在する。
【0054】
第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各一端側に設けられる直線状の帯状導体である。第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各一端に電気的に接続されている。第1の接地導体4aは、一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。
【0055】
第1の接地導体4aは、同一方向に延在する第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bに直交するように設けられている。すなわち、第1の接地導体4aは、Y軸方向に延在するように配置されている。第1の接地導体4aは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bから所定距離を隔てた下方に設けられている。
【0056】
図2に示す例では、第1の接地導体4aは、+Y方向における端部である一端が、第1の外側線路3aの右側縁部と略同一位置となるように設定されている。図2に示す例では、第1の接地導体4aは、-Y方向における端部である他端が、第2の外側線路3bの左側縁部と略同一位置となるように設定されている。
【0057】
第2の接地導体4bは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bの各他端側に設けられる直線状の帯状導体である。第2の接地導体4bは、第1の接地導体4aと同様に一定幅、一定厚及び所定長さを有する長尺板状の導体である。
【0058】
第2の接地導体4bは、第1の接地導体4aに対して平行に配置されており、第1の接地導体4aと同様に、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bに直交するように設けられている。第2の接地導体4bは、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bから所定距離を隔てた下方に設けられている。
【0059】
第2の接地導体4bは、+Y方向における端部である一端が、第1の外側線路3aの右側縁部と略同一位置となるように設定されている。第2の接地導体4bは、-Y方向における端部である他端が、第2の外側線路3bの左側縁部と略同一位置となるように設定されている。図2では、第2の接地導体4bは、Y軸方向における位置が第1の接地導体4aと同一である。
【0060】
コンデンサ5は、信号線路1と第1の接地導体4a又は第2の接地導体4bとの間に設けられる。例えば、コンデンサ5は、上部電極が信号線路1に対して接続され、下部電極が第4の電子スイッチ7dに対して電気的に接続されている。例えば、コンデンサ5は、MIM(Metal Insulator Metal)構造の薄膜のコンデンサである。なお、コンデンサ5は、平行平板型のコンデンサであってもよいし、櫛歯対向型のキャパシタ(インターデジタルキャパシタ)でもよい。
【0061】
複数の接続導体6は、少なくとも接続導体6a~6iを含む。接続導体6aは、第1の内側線路2aの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6aは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の内側線路2aの下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。
【0062】
接続導体6bは、第2の内側線路2bの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6bは、接続導体6aと同様にZ軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の内側線路2bの下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。
【0063】
接続導体6cは、第1の外側線路3aの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6cは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の外側線路3aの一端における下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。
【0064】
接続導体6dは、第1の外側線路3aの他端と第2の接地導体4bとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6dは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第1の外側線路3aの他端における下面に接続し、他端(下端)が第2の接地導体4bの上面に接続する。
【0065】
接続導体6eは、第2の外側線路3bの一端と第1の接地導体4aとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6eは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の外側線路3bの一端における下面に接続し、他端(下端)が第1の接地導体4aの上面に接続する。
【0066】
接続導体6fは、第2の外側線路3bの他端と第2の接地導体4bとを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6fは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が第2の外側線路3bの他端における下面に接続し、他端(下端)が第2の接地導体4bの上面に接続する。
【0067】
接続導体6gは、信号線路1の他端とコンデンサ5の上部電極とを電気的かつ機械的に接続する導体である。例えば、接続導体6gは、Z軸方向に延在する導体であり、一端(上端)が信号線路1の他端における下面に接続し、他端(下端)がコンデンサ5の上部電極に接続する。
【0068】
第1の電子スイッチ7aは、第1の内側線路2aの他端と第2の接地導体4bとの間に接続される。第1の電子スイッチ7aは、例えばMOS型FET(電界効果トランジスタ)であり、ドレイン端子が第1の内側線路2aの他端に電気的に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに電気的に接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に電気的に接続されている。
【0069】
第1の電子スイッチ7aは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。閉状態とは、ドレイン端子及びソース端子が導通している状態である。開状態とは、ドレイン端子及びソース端子が導通しておらず、電気的な接続が遮断している状態である。第1の電子スイッチ7aは、スイッチ制御部8の制御によって、第1の内側線路2aの他端及び第2の接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0070】
第2の電子スイッチ7bは、第2の内側線路2bの他端と第2の接地導体4bとの間に接続される。第2の電子スイッチ7bは、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子が第2の内側線路2bの他端に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。
【0071】
第2の電子スイッチ7bは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。第2の電子スイッチ7bは、スイッチ制御部8の制御によって、第2の内側線路2bの他端及び第2の接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0072】
第3の電子スイッチ7cは、信号線路1の他端と第2の接地導体4bとの間に接続される。第3の電子スイッチ7cは、例えばMOS型FETであり、ドレイン端子が信号線路1の他端に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。なお、第3の電子スイッチ7cは、図2に示すように信号線路1の他端側に設けられているが、これに限定されず、信号線路1の一端側に設けられてもよい。
【0073】
第3の電子スイッチ7cは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。第3の電子スイッチ7cは、スイッチ制御部8の制御によって、信号線路1の他端及び第2の接地導体4bを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0074】
第4の電子スイッチ7dは、信号線路1の他端と第2の接地導体4bとの間において、コンデンサ5に対して直列に接続されるコンデンサ用電子スイッチである。第4の電子スイッチ7dは、例えばMOS型FETである。第4の電子スイッチ7dは、図2に示すように、ドレイン端子がコンデンサ5の下部電極に接続され、ソース端子が第2の接地導体4bに接続され、ゲート端子がスイッチ制御部8に接続されている。
【0075】
第4の電子スイッチ7dは、スイッチ制御部8からゲート端子に入力されるゲート信号に基づいて閉状態又は開状態に制御される。第4の電子スイッチ7dは、スイッチ制御部8の制御によって、コンデンサ5の下部電極と第2の接地導体4bとを電気的に接続した導通状態又はその電気的な接続を遮断した遮断状態にする。
【0076】
スイッチ制御部8は、複数の電子スイッチ7である第1の電子スイッチ7a、第2の電子スイッチ7b、第3の電子スイッチ7c及び第4の電子スイッチ7dを制御する制御回路である。例えば、スイッチ制御部8は、4つの出力ポートを備えている。スイッチ制御部8は、各出力ポートから個別のゲート信号を出力して複数の電子スイッチ7の各ゲート端子に供給することにより複数の電子スイッチ7のそれぞれを個別に開状態又は閉状態に制御する。
【0077】
ここで、図2ではデジタル移相回路Bの機械的構造が解り易いようにデジタル移相回路Bを斜視した模式図を示しているが、実際のデジタル移相回路Bは、半導体製造技術を利用した多層構造物である。例えば、デジタル移相回路Bは、信号線路1、第1の内側線路2a、第2の内側線路2b、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bが第1の導電層に形成されている。
【0078】
また、第1の接地導体4a及び第2の接地導体4bは、絶縁層を挟んで第1の導電層と対向する複数の第2の導電層に形成されている。第1の導電層に形成された構成要素と複数の第2の導電層に形成された構成要素とは、複数のビアホール(via hole)によって相互に接続される。また、複数の接続導体6は、絶縁層内に埋設されたビアホールに相当する。
【0079】
続いて、このように構成されたデジタル移相回路Bの動作について、図3及び図4を参照して説明する。デジタル移相回路Bは、動作モードとして以下に説明する高遅延モード及び低遅延モードを有する。すなわち、このデジタル移相回路Bは、スイッチ制御部8によって制御されることにより、高遅延モードまたは低遅延モードで動作する。
【0080】
〔高遅延モード〕
高遅延モードでは、高周波信号に第1の位相差を発生させるモードである。高遅延モードでは、図3に示すように、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが開状態に制御され、第4の電子スイッチ7dが閉状態に制御される。
【0081】
第1の電子スイッチ7aが開状態に制御されることにより、第1の内側線路2aの他端及び第2の接地導体4bの電気的な接続が遮断された状態となる。第2の電子スイッチ7bが開状態に制御されることにより、第2の内側線路2bの他端と多層構造の第2の接地導体4bとの間の接続が遮断された状態となる。第4の電子スイッチ7dが閉状態に制御されることにより、信号線路1の他端は、コンデンサ5を介して第2の接地導体4bに接続された状態となる。
【0082】
信号線路1に入力端(他端)から出力端(一端)に向かって高周波信号が伝搬すると、高周波信号とは逆方向である一端から他端に向かってリターン電流R1が流れる。すなわち、リターン電流R1は、+X方向に流れる高周波信号とは逆方向である-X方向に向かって流れる電流である。高遅延モードでは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが開状態であるため、リターン電流R1は、主として、図3に示すように、第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bを-X方向に流れる。
【0083】
高遅延モードでは、リターン電流R1が第1の外側線路3a及び第2の外側線路3bを流れるため、低遅延モードと比較して、インダクタンス値Lが高い。また、第4の電子スイッチ7dが閉状態であるため、コンデンサ5が機能している。そのため、高遅延モードでは、低遅延モードよりも高い遅延量を得ることができる。
【0084】
〔低遅延モード〕
低遅延モードでは、高周波信号に第1の位相差よりも小さい第2の位相差を発生させるモードである。低遅延モードでは、図4に示すように、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが閉状態に制御され、第4の電子スイッチ7dが開状態に制御される。
【0085】
第1の電子スイッチ7aが閉状態に制御されることにより、第1の内側線路2aの他端及び第2の接地導体4bが電気的に接続された状態となる。第2の電子スイッチ7bが閉状態に制御されることにより、第2の内側線路2bの他端及び第2の接地導体4bが電気的に接続された状態となる。
【0086】
低遅延モードでは、第1の電子スイッチ7a及び第2の電子スイッチ7bが閉状態であるため、リターン電流R2は、主として、図4に示すように、第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bを-X方向に流れる。低遅延モードでは、リターン電流R2が第1の内側線路2a及び第2の内側線路2bを流れるため、高遅延モードと比較して、インダクタンス値Lが低い。また、第4の電子スイッチ7dが開状態であるため、コンデンサ5は機能していない。そのため、高遅延モードと比較して、静電容量値Cが小さい。そのため、低遅延モードでの遅延量は、高遅延モードでの遅延量よりも低くなる。
【0087】
続いて、第1実施形態に係るデジタル移相器A1の特徴的な作用効果について、図1を参照して説明する。
【0088】
このデジタル移相器A1では、上述したように前列(第1列)と後列(第2列)との間に設けられた接地パターンDが一対の追加線路E1,E2によって前列(第1列)及び後列(第2列)に対して1点で接続されている。
【0089】
また、この1点は、前列(第1列)については最後段に位置する第i-1のデジタル移相回路Bi-1における第1の外側線路3aの一端であり、後列(第2列)については最後段に位置する第nのデジタル移相回路Bnにおける第1の外側線路3aの一端である。すなわち、前列(第1列)における接地パターンDとの接続点(第1接続点)と後列(第2列)における接地パターンDとの接続点(第2接続点)とは、図1に示すように、矩形状の接地パターンDにおける一方の対角線の近傍部位に位置する。これら第1接続点と第2接続点とは、接地パターンDにおいて最も離れた位置に相当する。
【0090】
このようなデジタル移相器A1によれば、接地パターンDが第1接続点及び第2接続点によって前列(第1列)及び後列(第2列)に1点で各々接続されるとともに、第1接続点と第2接続点とが離間しているので、接地パターンDを前列(第1列)と後列(第2列)とに接続することに起因する第1~第i-1のデジタル移相回路B~Bi-1及び第i+1~第nのデジタル移相回路Bi+1~Bの移相量の減少を抑制することが可能である。
【0091】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態について図5を参照して説明する。
第1実施形態に係るデジタル移相器A1は前列(第1列)と後列(第2列)との間つまり前列(第1列)の内側に接地パターンDを備えるが、第2実施形態に係るデジタル移相器A2は、図示するように前列(第1列)の外側に接地パターンDaを備える。
【0092】
また、このデジタル移相器A2は、前列(第1列)と接地パターンDaとを1点で接続する追加線路E3を備える。この追加線路E3は、図示するように、第1のデジタル移相回路Bにおける第2の外側線路3bの他端近傍部位、つまり前列(第1列)の前端と接地パターンDaとを1点かつ最短距離で接続する略帯状の導体である。
【0093】
このようなデジタル移相器A2によれば、追加線路E3によって前列(第1列)と接地パターンDaとを1点で接続するので、接地パターンDaを接続することに起因する移相特性への影響を最小限に抑えることが可能である。すなわち、第2実施形態によれば、接地パターンDaの接続に起因するデジタル移相回路の移相量の減少を抑制することが可能なデジタル移相器A2を提供することが可能である。
【0094】
なお、第1実施形態に係るデジタル移相器A1及び第2実施形態に係るデジタル移相器A2は、多列構造の一例として列数が2つの二列構造を備える。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、列数が3以上つまり三列以上の構造を備えるデジタル移相器にも適用可能である。
【符号の説明】
【0095】
A1,A2…デジタル移相器、B,B~B…デジタル移相回路、C1,C2…接続回路、D,Da…接地パターン、E1,E2,E3…追加線路、1…信号線路、2…内側線路、2a…第1の内側線路、2b…第2の内側線路、3…外側線路、3a…第1の外側線路、3b…第2の外側線路、4…接地導体、4a…第1の接地導体、4b…第2の接地導体、5…コンデンサ、6…接続導体、7…電子スイッチ、7a…第1の電子スイッチ、7b…第2の電子スイッチ、7c…第3の電子スイッチ、7d…第4の電子スイッチ(コンデンサ用電子スイッチ)、8…スイッチ制御部
図1
図2
図3
図4
図5