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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140176
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】工作機械および工作機械の制御方法
(51)【国際特許分類】
   B23B 13/12 20060101AFI20230927BHJP
【FI】
B23B13/12 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046079
(22)【出願日】2022-03-22
(71)【出願人】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000137856
【氏名又は名称】シチズンマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏之
【テーマコード(参考)】
3C045
【Fターム(参考)】
3C045FC18
3C045FC36
(57)【要約】
【課題】ロータリーガイドブッシュの開度が調整ナットにより調整されるとともにロータリーガイドブッシュが正面主軸と同期回転する構造の場合に、ロータリーガイドブッシュと棒材との隙間を自動的に調整する工作機械および工作機械の制御方法を提供すること。
【解決手段】ロータリーガイドブッシュ140が、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間を調整する際にガイドブッシュ本体144を回転させて隙間の大きさを調整すると共にガイドブッシュ本体144と螺合した調整ナット145とを有し、制御装置180が、背面主軸160で棒材Wを保持して正面主軸駆動モーター123を励磁させない状態で背面主軸160を回転させた際の正面主軸120の回転角度に基づいて隙間の調整量を決定するガイドブッシュ開度決定部181bを有している。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒材を回転自在に保持する正面主軸と、
該正面主軸を回転駆動させる正面主軸駆動モーターと、
該正面主軸駆動モーターの回転角度を検出するエンコーダーと、
前記正面主軸の前方でガイドブッシュ支持台に設置されて前記正面主軸から進出した前記棒材の回転軸回りの回転および回転軸方向への移動を許容して支持すると共に前記正面主軸と同期回転するロータリーガイドブッシュと、
前記正面主軸に対向配置されて前記棒材を回転自在に保持する背面主軸と、
該背面主軸を回転駆動させる背面主軸駆動モーターと、
前記正面主軸および前記背面主軸の動作を制御する制御装置とを備えた工作機械であって、
前記ロータリーガイドブッシュが、前記ガイドブッシュ支持台に固定されるガイドブッシュホルダと、該ガイドブッシュホルダに対して回転自在としつつ前記棒材の回転軸回りの回転および回転軸方向への移動を許容して支持するガイドブッシュ本体と、前記棒材と前記ガイドブッシュ本体との隙間を調整する際に前記ガイドブッシュ本体を回転させて前記隙間の大きさを調整すると共に前記ガイドブッシュ本体と螺合する調整ナットとを有し、
前記制御装置が、前記背面主軸で前記棒材を保持して前記正面主軸駆動モーターを励磁させない状態で前記背面主軸を回転させた際の前記正面主軸の回転角度に基づいて前記隙間の調整量を決定するガイドブッシュ開度決定部を有していることを特徴とする工作機械。
【請求項2】
前記背面主軸が、前記棒材を保持する保持治具を着脱自在であることを特徴とする請求項1に記載の工作機械。
【請求項3】
前記正面主軸と対向する前記ロータリーガイドブッシュの調整ナットと係合して該調整ナットを回転させる回転治具が、前記正面主軸と前記ロータリーガイドブッシュとの間で前記棒材に装着されていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の工作機械。
【請求項4】
棒材を回転自在に保持する正面主軸と、該正面主軸を回転駆動させる正面主軸駆動モーターと、該正面主軸駆動モーターの回転角度を検出するエンコーダーと、前記正面主軸の前方でガイドブッシュ支持台に設置されて前記正面主軸から進出した前記棒材の回転軸回りの回転および回転軸方向への移動を許容して支持すると共に前記正面主軸と同期回転するロータリーガイドブッシュと、前記正面主軸に対向配置されて前記棒材を回転自在に保持する背面主軸と、該背面主軸を回転駆動させる背面主軸駆動モーターと、前記正面主軸および前記背面主軸の動作を制御する制御装置とを備え、
前記ロータリーガイドブッシュが、前記ガイドブッシュ支持台に固定されるガイドブッシュホルダと、該ガイドブッシュホルダに対して回転自在としつつ前記棒材の回転軸回りの回転および回転軸方向への移動を許容して支持するガイドブッシュ本体と、前記棒材と前記ガイドブッシュ本体との隙間を調整する際に前記ガイドブッシュ本体を回転させて前記隙間の大きさを調整すると共に前記ガイドブッシュ本体と螺合する調整ナットとを有した工作機械の制御方法であって、
前記棒材を前記背面主軸で保持するステップと、
前記背面主軸を回転軸回りに回転させるステップと、
前記背面主軸を回転させて生じた前記正面主軸駆動モーターの回転角度を前記エンコーダーで測定するステップと、
前記エンコーダーで測定した前記正面主軸の回転角度に基づいて、前記隙間の調整量を決定するステップと、
決定した前記隙間の調整量となるように、前記背面主軸を回転軸回りに回転させて前記ロータリーガイドブッシュを前記調整ナットに対して回転させるステップと、
を含む、工作機械の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、棒材とロータリーガイドブッシュとの隙間を調整する工作機械および工作機械の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、主軸の前方に配置されて主軸で保持した棒材を支持して案内するガイドブッシュを備えた工作機械が知られている。
そして、棒材を安定して加工精度良く加工するには、棒材とガイドブッシュとの隙間の大きさの調整(ガイドブッシュの開度調整ともいう)が必要であり、このガイドブッシュの開度調整を自動的に行う技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平7-328804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の工作機械は、ガイドブッシュの開度を調整する場合に、ガイドブッシュに螺合する調整ナット(ドローバーともいう)が用いられている。
ここで、特許文献1はガイドブッシュが主軸と同期回転していないが、ガイドブッシュへの棒材の焼き付きを避けることに加え、棒材の表面性状の悪化を避けるためにガイドブッシュを主軸と同期回転させるロータリーガイドブッシュの場合にも、棒材を安定して加工精度良く加工するために、ロータリーガイドブッシュと棒材との隙間を自動的に調整することが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、前述したような従来技術の問題を解決するものであって、すなわち、本発明の目的は、ロータリーガイドブッシュの開度が調整ナットにより調整されるとともにロータリーガイドブッシュが正面主軸と同期回転する構造の場合に、ロータリーガイドブッシュと棒材との隙間を自動的に調整する工作機械および工作機械の制御方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明は、棒材を回転自在に保持する正面主軸と、該正面主軸を回転駆動させる正面主軸駆動モーターと、該正面主軸駆動モーターの回転角度を検出するエンコーダーと、前記正面主軸の前方でガイドブッシュ支持台に設置されて前記正面主軸から進出した前記棒材の回転軸回りの回転および回転軸方向への移動を許容して支持すると共に前記正面主軸と同期回転するロータリーガイドブッシュと、前記正面主軸に対向配置されて前記棒材を回転自在に保持する背面主軸と、該背面主軸を回転駆動させる背面主軸駆動モーターと、前記正面主軸および前記背面主軸の動作を制御する制御装置とを備えた工作機械であって、前記ロータリーガイドブッシュが、前記ガイドブッシュ支持台に固定されるガイドブッシュホルダと、該ガイドブッシュホルダに対して回転自在としつつ前記棒材の回転軸回りの回転および回転軸方向への移動を許容して支持するガイドブッシュ本体と、前記棒材と前記ガイドブッシュ本体との隙間を調整する際に前記ガイドブッシュ本体を回転させて前記隙間の大きさを調整すると共に前記ガイドブッシュ本体と螺合する調整ナットとを有し、前記制御装置が、前記背面主軸で前記棒材を保持して前記正面主軸駆動モーターを励磁させない状態で前記背面主軸を回転させた際の前記正面主軸の回転角度に基づいて前記隙間の調整量を決定するガイドブッシュ開度決定部を有していることにより、前述した課題を解決するものである。
【0007】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載された工作機械の構成に加えて、前記背面主軸が、前記棒材を保持する保持治具を着脱自在であることにより、前述した課題を解決するものである。
【0008】
請求項3に係る発明は、請求項1または請求項2に記載された工作機械の構成に加えて、前記正面主軸と対向する前記ロータリーガイドブッシュの調整ナットと係合して該調整ナットを回転させる回転治具が、前記正面主軸と前記ロータリーガイドブッシュとの間で前記棒材に装着されていることにより、前述した課題をさらに解決するものである。
【0009】
請求項4に係る発明は、棒材を回転自在に保持する正面主軸と、該正面主軸を回転駆動させる正面主軸駆動モーターと、該正面主軸駆動モーターの回転角度を検出するエンコーダーと、前記正面主軸の前方でガイドブッシュ支持台に設置されて前記正面主軸から進出した前記棒材の回転軸回りの回転および回転軸方向への移動を許容して支持すると共に前記正面主軸と同期回転するロータリーガイドブッシュと、前記正面主軸に対向配置されて前記棒材を回転自在に保持する背面主軸と、該背面主軸を回転駆動させる背面主軸駆動モーターと、前記正面主軸および前記背面主軸の動作を制御する制御装置とを備え、前記ロータリーガイドブッシュが、前記ガイドブッシュ支持台に固定されるガイドブッシュホルダと、該ガイドブッシュホルダに対して回転自在としつつ前記棒材の回転軸回りの回転および回転軸方向への移動を許容して支持するガイドブッシュ本体と、前記棒材と前記ガイドブッシュ本体との隙間を調整する際に前記ガイドブッシュ本体を回転させて前記隙間の大きさを調整すると共に前記ガイドブッシュ本体と螺合する調整ナットとを有した工作機械の制御方法であって、前記棒材を前記背面主軸で保持するステップと、前記背面主軸を回転軸回りに回転させるステップと、前記背面主軸を回転させて生じた前記正面主軸駆動モーターの回転角度を前記エンコーダーで測定するステップと、前記エンコーダーで測定した前記正面主軸の回転角度に基づいて、前記隙間の調整量を決定するステップと、決定した前記隙間の調整量となるように、前記背面主軸を回転軸回りに回転させて前記ロータリーガイドブッシュを前記調整ナットに対して回転させるステップと、含むことにより、前述した課題を解決するものである。
【発明の効果】
【0010】
請求項1に係る発明の工作機械によれば、制御装置が、背面主軸で棒材を保持して正面主軸駆動モーターを励磁させない状態で背面主軸を回転させた際の正面主軸の回転角度に基づいて隙間の調整量を決定するガイドブッシュ開度決定部を有していることにより、棒材を保持した背面主軸を回転駆動させる際に回転自在となっている正面主軸の回転角度の変動が背面主軸の回転駆動に伴う棒材の回転のみに基づくため、棒材を保持した背面主軸を背面主軸駆動用モーターにより回転駆動させた際の背面主軸駆動用モーターの負荷に基づいてロータリーガイドブッシュと棒材との隙間の大きさを調整する場合に比べてSN比が高まり、ロータリーガイドブッシュの開度が調整ナットにより調整されるとともにロータリーガイドブッシュが正面主軸と同期回転する構造の場合に、ロータリーガイドブッシュと棒材との隙間を精度良く自動的に調整することができる。
【0011】
請求項2に係る発明の工作機械によれば、請求項1に係る発明の工作機械が奏する効果に加えて、背面主軸が、棒材を保持する保持治具を着脱自在であることにより、背面主軸に装着された保持治具が棒材を保持するため、背面主軸が棒材を直接保持できない場合であっても、棒材に対応した保持治具を選択することで間接的に棒材を背面主軸に保持させることができる。
【0012】
請求項3に係る発明の工作機械によれば、請求項1または請求項2に係る発明の工作機械が奏する効果に加えて、正面主軸と対向するロータリーガイドブッシュの調整ナットと係合してこの調整ナットを回転させる回転治具が、正面主軸とロータリーガイドブッシュとの間で棒材に装着されていることにより、背面主軸で棒材を保持して回転治具が調整ナットと係合した状態で、背面主軸が棒材を回転させることでロータリーガイドブッシュの調整ナットが回動するため、ロータリーガイドブッシュと棒材との隙間を精度良く自動的に調整することができる。
【0013】
請求項4に係る発明の工作機械の制御方法によれば、背面主軸を回転させて生じた正面主軸駆動モーターの回転角度をエンコーダーで測定するステップと、エンコーダーで測定した正面主軸の回転角度に基づいて、隙間の調整量を決定するステップと、決定した隙間の調整量となるように、背面主軸を回転軸回りに回転させてロータリーガイドブッシュを調整ナットに対して回転させるステップとを含むことにより、棒材を保持した背面主軸を回転駆動させる際に回転自在となっている正面主軸の回転角度の変動が背面主軸の回転駆動に伴う棒材の回転のみに基づくため、棒材を保持した背面主軸を背面主軸駆動用モーターにより回転駆動させた際の背面主軸駆動用モーターの負荷に基づいてロータリーガイドブッシュと棒材との隙間の大きさを調整する場合に比べてSN比が高まり、ロータリーガイドブッシュの開度が調整ナットにより調整されるとともにロータリーガイドブッシュが正面主軸と同期回転する構造の場合に、ロータリーガイドブッシュと棒材との隙間を精度良く自動的に調整することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に係る工作機械の一実施例である自動旋盤の概略構成図である。
図2】ロータリーガイドブッシュ、正面主軸および背面主軸の構成図である。
図3図2に示す調整ナットの斜視図。
図4図2に示す保持治具の斜視図。
図5図2に示す回転治具の斜視図。
図6A】棒材とロータリーガイドブッシュとの隙間の大きさの調整手順を示すフローチャート。
図6B図6Aに示す準備工程を示すフローチャート。
図6C図6Aに示す隙間調整工程を示すフローチャート。
図7A】棒材を正面主軸に挿通した状態を模式図。
図7B】棒材をロータリーガイドブッシュまで挿通した状態を模式図。
図7C】正面主軸を前進させて回転治具と調整ナットとを係合させた状態を示す模式図。
図8】回転治具と調整ナットとの係合を解除させた状態を示す模式図。
図9図8に示す回転治具および棒材を後方から見た模式図。
図10A】背面主軸を後退させて回転治具と調整ナットとを係合させた状態を示す模式図。
図10B】背面主軸を回転させて棒材とガイドブッシュ本体との隙間の大きさを調整する工程を説明する模式図。
図11】本発明に係る工作機械の変形例である自動旋盤の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、棒材を回転自在に保持する正面主軸と、この正面主軸を回転駆動させる正面主軸駆動モーターと、この正面主軸駆動モーターの回転角度を検出するエンコーダーと、正面主軸の前方でガイドブッシュ支持台に設置されて正面主軸から進出した棒材の回転軸回りの回転および回転軸方向への移動を許容して支持すると共に正面主軸と同期回転するロータリーガイドブッシュと、正面主軸に対向配置されて棒材を回転自在に保持する背面主軸と、この背面主軸を回転駆動させる背面主軸駆動モーターと、正面主軸および背面主軸の動作を制御する制御装置とを備えた工作機械であって、ロータリーガイドブッシュが、ガイドブッシュ支持台に固定されるガイドブッシュホルダと、このガイドブッシュホルダに対して回転自在としつつ棒材の回転軸回りの回転および回転軸方向への移動を許容して支持するガイドブッシュ本体と、棒材とガイドブッシュ本体との隙間を調整する際にガイドブッシュ本体を回転させて隙間の大きさを調整すると共にガイドブッシュ本体と螺合する調整ナットとを有し、制御装置が、背面主軸で棒材を保持して正面主軸駆動モーターを励磁させない状態で背面主軸を回転させた際の正面主軸の回転角度に基づいて隙間の調整量を決定するガイドブッシュ開度決定部を有し、ロータリーガイドブッシュと棒材との隙間を自動的に調整するものであれば、その具体的な実施態様は、如何なるものであっても構わない。
【0016】
また、棒材を回転自在に保持する正面主軸と、この正面主軸を回転駆動させる正面主軸駆動モーターと、この正面主軸駆動モーターの回転角度を検出するエンコーダーと、正面主軸の前方でガイドブッシュ支持台に設置されて正面主軸から進出した棒材の回転軸回りの回転および回転軸方向への移動を許容して支持すると共に正面主軸と同期回転するロータリーガイドブッシュと、正面主軸に対向配置されて棒材を回転自在に保持する背面主軸と、この背面主軸を回転駆動させる背面主軸駆動モーターと、正面主軸および背面主軸の動作を制御する制御装置とを備え、ロータリーガイドブッシュが、ガイドブッシュ支持台に固定されるガイドブッシュホルダと、このガイドブッシュホルダに対して回転自在としつつ棒材の回転軸回りの回転および回転軸方向への移動を許容して支持するガイドブッシュ本体と、棒材とガイドブッシュ本体との隙間を調整する際にガイドブッシュ本体を回転させて隙間の大きさを調整すると共にガイドブッシュ本体と螺合する調整ナットとを有した工作機械の制御方法であって、棒材を背面主軸で保持するステップと、背面主軸を回転軸回りに回転させるステップと、背面主軸を回転させて生じた正面主軸駆動モーターの回転角度をエンコーダーで測定するステップと、エンコーダーで測定した正面主軸の回転角度に基づいて、隙間の調整量を決定するステップと、決定した隙間の調整量となるように、背面主軸を回転軸回りに回転させてロータリーガイドブッシュを調整ナットに対して回転させるステップと、を含み、ロータリーガイドブッシュと棒材との隙間を自動的に調整するものであれば、その具体的な実施態様は、如何なるものであっても構わない。
【実施例0017】
以下、図1乃至図10Bに基づいて、本発明の一実施例である工作機械100について説明する。
【0018】
<1.工作機械の概要>
まず、図1乃至図5に基づいて、工作機械100の概要について説明する。
図1は、本発明に係る工作機械の一実施例である自動旋盤の概略構成図である。
【0019】
工作機械100は、自動旋盤であり、図1に示すように、床面Fに載置された平面視で矩形状のベッド110を備えている。
以下、ベッド110に対する垂直方向を「Y方向」とし、平面視におけるベッド110の長手方向を「Z方向」とし、平面視におけるベッド110の短手方向を「X方向」とする。
【0020】
ベッド110には、棒材Wを回転自在に保持する正面主軸120と、この正面主軸120をZ方向と平行なZ1方向に送る正面主軸送り機構130と、正面主軸120から進出した棒材Wの回転軸L回りの回転および回転軸L方向への移動を許容して支持するロータリーガイドブッシュ140と、正面主軸120の前方に設置されてロータリーガイドブッシュ140を支持するガイドブッシュ支持台150と、正面主軸120およびロータリーガイドブッシュ140に対向配置されて棒材Wを回転自在に保持する背面主軸160と、この背面主軸160をZ方向と平行なZ2方向およびX方向と平行なX2方向に送る背面主軸送り機構170とが載置されている。
【0021】
ここで、正面主軸120および棒材WはZ1方向に進退自在であり、正面主軸120および棒材Wにおける「前方」とは正面主軸120および棒材Wが背面主軸160に近づく方向を意味し、正面主軸120および棒材Wにおける「後方」とは正面主軸120および棒材Wが背面主軸160から遠ざかる方向を意味する。
また、ロータリーガイドブッシュ140における「前方」とはロータリーガイドブッシュ140が背面主軸160に近づく方向を意味し、ロータリーガイドブッシュ140における「後方」とはロータリーガイドブッシュ140が背面主軸160から遠ざかる方向を意味する。
そして、背面主軸160はX2方向に進退自在であると共にZ2方向に進退自在であり、背面主軸160における「前方」とは背面主軸160が正面主軸120に近づく方向を意味し、背面主軸160における「後方」とは背面主軸160が正面主軸120から遠ざかる方向を意味する。
【0022】
工作機械100の加工対象である棒材Wは丸棒状の長尺のワークであり、不図示のバーフィーダーの押し矢を用いて正面主軸120の後端から供給されて、正面主軸120を介してロータリーガイドブッシュ140で回転軸L回りに回転自在に支持されて、背面主軸160に向けて送られる。
なお、バーフィーダーの押し矢の先端には、棒材Wの後端を把持するフィンガーチャックが設けられている。
【0023】
また、工作機械100は、正面主軸120および背面主軸160の動作を制御する制御装置180を備えている。
【0024】
<2.工作機械の各構成要素>
次に、以上説明した工作機械100の各構成要素について、図1乃至図5に基づいて詳説する。
図2はロータリーガイドブッシュ、正面主軸および背面主軸の構成図であり、図3図2に示す調整ナットの斜視図であり、図4図2に示す保持治具の斜視図であり、図5図2に示す回転治具の斜視図である。
【0025】
<2.1.正面主軸>
正面主軸120は、図1に示すように、正面主軸送り機構130に搭載されてZ1方向に移動自在な主軸台121と、この主軸台121に回転自在に支持される正面主軸本体122と、この正面主軸本体122を回転駆動させる正面主軸駆動モーター123と、この正面主軸駆動モーター123の回転角度を検出するエンコーダー124とを有している。
【0026】
正面主軸本体122は、図1に示すZ1方向を軸線として主軸台121に支持され、図2に示すように、チャック122aを介して棒材Wを回転軸L回りに回転自在に把持(保持)可能となっている。
チャック122aは、正面主軸本体122と同心に配置され、正面主軸本体122と共に一体的に回転する。
すなわち、棒材Wの回転軸Lは、正面主軸120の回転中心と一致する。
【0027】
また、正面主軸本体122の前端部分には、図1に示すように、タイミングベルトV1が掛け回されるタイミングプーリー122bが設けられている。
【0028】
正面主軸駆動モーター123は、固定子と回転子とを有し、どちらかが回転変化することで磁界を発生させ、その磁界の変化によって駆動力を生み出す、いわゆる「電気モーター」である。
【0029】
<2.2.正面主軸送り機構>
正面主軸送り機構130は、ベッド110に固定されてZ1方向に延びるZ1レール131と、このZ1レール131に装着されてZ1方向に沿ってスライド自在なZ1スライダー132と、このZ1スライダー132をスライドさせるZ1モーター133とを有している。
Z1スライダー132上には、正面主軸120の主軸台121が設置されている。
【0030】
また、この正面主軸送り機構130には、自転自在なカウンター軸134が設けられている。
このカウンター軸134には、タイミングベルトV1が掛け回される主軸側タイミングプーリー134aと、タイミングベルトV2が掛け回されるロータリーガイドブッシュ側タイミングプーリー134bとが装着されている。
したがって、正面主軸本体122が正面主軸駆動モーター123によって回転駆動すると、タイミングベルトV1を介してカウンター軸134が回転する。
【0031】
<2.3.ロータリーガイドブッシュ>
ロータリーガイドブッシュ140は、図1に示すように、正面主軸120と同心のロータリーガイドブッシュ挿入孔150aを有するガイドブッシュ支持台150に内挿されて設置されている。
【0032】
そして、このロータリーガイドブッシュ140は、図2に示すように、ガイドブッシュ支持台150のロータリーガイドブッシュ挿入孔150aに挿入して固定される中空筒状のガイドブッシュホルダ141と、このガイドブッシュホルダ141に内挿されるガイドブッシュスリーブ142と、このガイドブッシュホルダ141とガイドブッシュスリーブ142との間に配置されてガイドブッシュスリーブ142をガイドブッシュホルダ141に対して回転自在に支持する軸受143と、ガイドブッシュスリーブ142に内挿される円筒状のガイドブッシュ本体144と、このガイドブッシュ本体144の後端部分に形成された雄ねじ144aと螺合する調整ナット145と、ガイドブッシュホルダ141の後端側に内挿されてガイドブッシュホルダ141に対して回転自在なタイミングプーリー146と、ガイドブッシュスリーブ142と係合してタイミングプーリー146の抜け止めとなる抜け止めナット147と、ガイドブッシュ支持台150に固定されてタイミングプーリー146の抜け止めとなるフランジ148とを有している。
【0033】
ガイドブッシュホルダ141は、ガイドブッシュ支持台150のロータリーガイドブッシュ挿入孔150aに挿入される中空筒状のガイドブッシュホルダ本体141aと、このガイドブッシュホルダ本体141aの後端側に装着されてガイドブッシュホルダ本体141aと共に軸受143の前後方向の位置決めを行う環状の軸受押さえ141bとを有している。
【0034】
ガイドブッシュスリーブ142の前端部分の内周側には、後方に向けて次第に内径が小さくなるテーパ142aが形成されている。
また、このガイドブッシュスリーブ142には、止めねじ142bが螺入される貫通ねじ孔142cが半径方向に形成されている。
さらに、ガイドブッシュスリーブ142の後端部分の外周側には、タイミングプーリー146と係合するキー142dが埋設されている。
【0035】
ガイドブッシュ本体144は、図2に示すように、正面主軸120で保持した棒材Wの回転軸L回りの回転および回転軸L方向への移動を許容するように支持して案内する。
このガイドブッシュ本体144の前端部分には、Z方向に延びる摺り割り144bが形成されている。
【0036】
また、このガイドブッシュ本体144の前端部分の外周側には、後方に向けて次第に外径が小さくなる、ガイドブッシュスリーブ142のテーパ142aのテーパ角に対応したテーパ144cが形成されている。
このテーパ144cの後方には、後方に向けて延びる溝144dが形成されている。
この溝144dは、後方に向けて次第に深くなるように形成され、雄ねじ144aに達するまで延びている。
【0037】
また、この溝144dには、ガイドブッシュスリーブ142の貫通ねじ孔142cに螺入された止めねじ142bが挿入されている。
したがって、止めねじ142bと溝144dとが係合し、ガイドブッシュ本体144がガイドブッシュスリーブ142に対してZ方向のみに進退可能となると共に、ガイドブッシュ本体144がガイドブッシュスリーブ142とともに回転軸L軸回りに回転可能となる。
すなわち、ガイドブッシュ本体144は、止めねじ142bと溝144dとが係合すると、ガイドブッシュホルダ141に対して回転自在となる。
【0038】
調整ナット145(ドローバーともいう)は、中空筒状でありガイドブッシュ本体144の後方に設けられており、ガイドブッシュスリーブ142に対して回転自在となっている。
この調整ナット145の前端部分の内周側には図2に示すように所定ピッチの雌ねじ145aが形成されており、この雌ねじ145aはガイドブッシュ本体144の後端部分に形成された雄ねじ144aと螺合している。
【0039】
したがって、調整ナット145を回転軸L回りに回転させることでガイドブッシュ本体144本体がガイドブッシュスリーブ142に対して進退する。
ガイドブッシュ本体144がガイドブッシュスリーブ142に対して後退すると、テーパ144cがテーパ142aに押されて、摺り割り144bによってガイドブッシュ本体144の前端部分が棒材W側に向かって撓むため、ガイドブッシュ本体144の前端部分の開度が小さくなる。
一方、ガイドブッシュ本体144がガイドブッシュスリーブ142に対して前進すると、テーパ142aによる押圧が解除されてガイドブッシュ本体144の前端部分が外側に拡がるため、ガイドブッシュ本体144の前端部分の開度が大きくなる。
【0040】
すなわち、本実施例におけるガイドブッシュ本体144の変位量(ロータリーガイドブッシュ140の開度、ガイドブッシュ本体144の前端部分の開度と同じ)は、調整ナット145に対する回転量で決定される。
換言すると、調整ナット145は、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間を調整する際にガイドブッシュ本体144を回転させて隙間の大きさを調整することができる。
【0041】
また、図3に示すように、調整ナット145の後面145bには、係合穴145b1が複数(例えば3つ)形成されている。
【0042】
タイミングプーリー146は、円筒状であり、図2に示すように、ガイドブッシュホルダ141の軸受押さえ141bの後端側に回転自在に内挿されている。
【0043】
タイミングプーリー146の前端部分の内周側には、ガイドブッシュスリーブ142のキー142dと係合するキー溝146aが形成されている。
また、タイミングプーリー146の外周には、ベルト位置決め溝146bが形成され、このベルト位置決め溝146bにはタイミングベルトV2が掛け回されている。
【0044】
したがって、正面主軸本体122が回転するとタイミングベルトV1によりカウンター軸134も回転し、ロータリーガイドブッシュ側タイミングプーリー134bも回転するため、タイミングベルトV2を介してロータリーガイドブッシュ140のタイミングプーリー146が回転し、キー142dを介してガイドブッシュスリーブ142が回転し、止めねじ142bを介してガイドブッシュ本体144が回転する。
すなわち、ガイドブッシュ本体144は、正面主軸120と同期回転、すなわち、正面主軸120と同一の回転速度で回転軸L回りに回転する。
【0045】
抜け止めナット147の内周側に形成された雌ねじは、ガイドブッシュスリーブ142の後端部分の外周側に形成された雄ねじと螺合する。
この抜け止めナット147の雌ねじとガイドブッシュスリーブ142の雄ねじとの螺合により、図2に示すように、タイミングプーリー146が後方側に抜けないようになっている。
【0046】
フランジ148は、円環状の部材であり、図2に示すように、固定ボルトBによりガイドブッシュ支持台150に固定されている。
【0047】
<2.4.ガイドブッシュ支持台>
ガイドブッシュ支持台150は、ベッド110に固定されている。
そして、このガイドブッシュ支持台150には、図1に示すように、正面主軸送り機構130のカウンター軸134の先端に取り付けられたロータリーガイドブッシュ側タイミングプーリー134bを内部に収納している。
【0048】
また、このガイドブッシュ支持台150の背面主軸160側には、刃物台152を載置する刃物台移動機構151が設けられている。
刃物台移動機構151は、刃物台152をX方向やY方向に移動可能となっている。
刃物台152には、先端を回転軸Lに向けた刃物152aが装着されている。
したがって、正面主軸120を回転軸L方向に移動させ、刃物台152をX方向またはY方向に移動させることによって、刃物152aで棒材Wを加工することができる。
【0049】
<2.5.背面主軸>
背面主軸160は、図1に示すように、背面主軸送り機構170に搭載されてZ2方向およびX2方向に移動自在な主軸台161と、この主軸台161に回転自在に支持される背面主軸本体162と、この背面主軸本体162を回転駆動させる背面主軸駆動モーター163とを有している。
【0050】
背面主軸本体162は、図1に示すZ1方向に平行なZ2方向を軸線として主軸台161に支持され、図2に示すように、チャック162aを介して棒材Wを回転自在に把持(保持)可能となっている。
チャック162aは、背面主軸本体162と同心に構成され、背面主軸本体162と共に一体的に回転自在である。
【0051】
チャック162aには、図2に示すように、棒材Wを保持する保持治具164が着脱自在に取り付けられている。
この保持治具164は、図2および図4に示すように、背面主軸本体162に取り付けられるC字環状の主軸装着具164aと、棒材Wを保持するC字環状の棒材保持具164bと、主軸装着具164aと棒材保持具164bとを結合する結合ボルト164cとから構成されており、正面主軸120側から見たときにC字状の部材となっている。
【0052】
主軸装着具164aは、図2に示すように、内径が背面主軸本体162の外径とほぼ等しくなっている。
また、この主軸装着具164aは、図4に示すように、主軸装着具164aの周方向と直交する方向に形成された貫通孔に締付ボルト164dを挿通してこの貫通孔と対向するネジ孔と螺合させることで背面主軸本体162に締め付けられている。
これにより、主軸装着具164aは、背面主軸本体162と一体になって回転する。
【0053】
棒材保持具164bには、Z2方向に延びる貫通孔が形成されている。
結合ボルト164cがこの貫通孔に挿通され、主軸装着具164aの前面164a1に形成されたネジ孔と螺合することで、棒材保持具164bは主軸装着具164aと一体となっている。
また、この棒材保持具164bがC字環であるため、図2に示すように、棒材保持具164bの内径φは可変となっている。
この棒材保持具164bの内径は、棒材保持具164bの周方向と直交する方向に形成された貫通孔に調整ボルト164eを挿通してこの貫通孔と対向するネジ孔164b1と螺合させることで調整される。
【0054】
<2.6.背面主軸送り機構>
背面主軸送り機構170は、図1に示すように、ベッド110に載置されるX2方向送り構造171と、このX2方向送り構造171に載置されるZ2方向送り構造172とから構成されている。
【0055】
X2方向送り構造171は、ベッド110に固定されてX2方向に延びるX2レール171と、このX2レール171に装着されてX2方向に沿ってスライド自在なX2スライダー172と、このX2スライダー172をスライドさせるX2モーター173とを有している。
【0056】
Z2方向送り構造172は、X2スライダー172に固定されてZ2方向に延びるZ2レール171と、このZ2レール171に装着されてZ2方向に沿ってスライド自在なZ2スライダー172と、このZ2スライダー172をスライドさせるZ2モーター173とを有している。
Z2スライダー172上には、背面主軸160の主軸台161が設置されている。
【0057】
<2.7.制御装置>
正面主軸120や背面主軸160の回転、正面主軸送り機構130や背面主軸送り機構170の移動は、制御装置180で制御されている。
制御装置180は、制御ユニット181と入力ユニット182とを有し、これらはバスを介して接続されている。
【0058】
制御ユニット181は、CPUやメモリ等からなり、例えばROMに格納されている各種のプログラムやデータをRAMにロードし、このプログラムを実行する。
すなわち、工作機械100は、制御部181にロードされたプログラムにより、動作が制御される。
なお、正面主軸120や背面主軸160の回転、正面主軸送り機構130や背面主軸送り機構170の移動等は、プログラムで、あるいは入力ユニット182への入力によって設定可能となっている。
【0059】
また、制御ユニット181は、モーター制御部181aと、ガイドブッシュ開度決定部181bと、データテーブル181cとを有している。
モーター制御部181aは、例えば、棒材Wとロータリーガイドブッシュ140(すなわち、ガイドブッシュ本体144)との隙間を調整する際に、正面主軸駆動モーター123、背面主軸駆動モーター163、およびZ2モーター172cの動作を制御する。
ガイドブッシュ開度決定部181bは、エンコーダー124により測定した正面主軸駆動モーター123の回転角度に基づいて、データテーブル181cを参照して、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の調整量を決定する。
より具体的には、ガイドブッシュ開度決定部181bは、正面主軸駆動モーター123の回転角度により、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさを推定し、この隙間の大きさの推定値と最適な隙間の大きさとの差分量を算出し、この差分量に基づく背面主軸160の回転量、すなわち、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の調整量を決定する。
データテーブル181cは、棒材Wの材質や径等に応じた、正面主軸駆動モーター123の回転角度と、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさとの対応データが保存されている。
【0060】
<2.8.回転治具>
工作機械100は、図2に示すように、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさを調整する調整ナット145を回転させる回転治具190を備えている。
【0061】
回転治具190は、図5に示すようにC字環状であり、図2に示すように棒材Wを内挿している。
そして、この回転治具190は、棒材保持具164bと同様に、内径が可変となっている。
回転治具190の内径は、回転治具190の周方向と直交する方向に形成された貫通孔に締め付けボルト191を挿通してこの貫通孔と対向するネジ孔190aと螺合させることで調整される。
【0062】
また、回転治具190の前面190bには、ロータリーガイドブッシュ140の調整ナット145の係合穴145b1と係合する係合ピン192が配設されている。
【0063】
<3.隙間調整手順>
次に、図1乃至図10Bに基づき、本発明の一実施例である工作機械100による棒材Wとロータリーガイドブッシュ140との隙間、すなわち、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさの調整手順の一例について説明する。
図6Aは棒材とロータリーガイドブッシュとの隙間の大きさの調整手順を示すフローチャートであり、図6B図6Aに示す準備工程を示すフローチャートであり、図6C図6Aに示す隙間調整工程を示すフローチャートであり、図7Aは棒材を正面主軸に挿通した状態を模式図であり、図7Bは棒材をロータリーガイドブッシュまで挿通した状態を模式図であり、図7Cは正面主軸を前進させて回転治具と調整ナットとを係合させた状態を示す模式図であり、図8は回転治具と調整ナットとの係合を解除させた状態を示す模式図であり、図9図8に示す回転治具および棒材を後方から見た模式図であり、図10Aは背面主軸を後退させて回転治具と調整ナットとを係合させた状態を示す模式図であり、図10Bは背面主軸を回転させて棒材とガイドブッシュ本体との隙間の大きさを調整する工程を説明する模式図である。
なお、以下に示す手順はあくまで一例であり、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさの調整は以下の手順に限定されるものではない。
【0064】
<3.1.準備工程>
(ステップS10)
まず、工作機械100は、図6Bに示す準備工程を行う。
【0065】
(ステップS11)
準備工程では、棒材Wを不図示のバーフィーダーの押し矢を用いて正面主軸120の後端から挿通(図7A参照)し、回転治具190、ロータリーガイドブッシュ140の順に挿通する。
このとき、背面主軸160の回転中心を、正面主軸120の回転中心、ロータリーガイドブッシュ140の回転中心と一致させておく。
【0066】
(ステップS12)
次に、図7Bに示すように、回転治具190を締め付けて棒材Wに固定し、回転治具190と棒材Wとが一体となって回転軸L回りに回転されるようになる。
なお、回転治具190を棒材Wに固定する際、回転治具190からロータリーガイドブッシュ140の調整ナット145までの距離D1が棒材Wから背面主軸160の保持治具164までの距離D2より短くなっている。
【0067】
(ステップS13)
次に、回転治具190の係合ピン192がロータリーガイドブッシュ140の調整ナット145の係合穴145b1に挿入されるまで棒材Wを押し出す。
回転治具190の係合ピン192がロータリーガイドブッシュ140の調整ナット145の係合穴145b1に挿入されることで、調整ナット145の向き、すなわち、ガイドブッシュ本体144の向きが所定の向きに定められる。
また、回転治具190の係合ピン192がロータリーガイドブッシュ140の調整ナット145の係合穴145b1に挿入されると、回転治具190からロータリーガイドブッシュ140の調整ナット145までの距離D1が棒材Wから背面主軸160の保持治具164までの距離D2より短いため、背面主軸160の保持治具164の内径φを十分大きくしておけば、棒材Wは、図7Cに示すように、背面主軸160の保持治具164に挿通される。
【0068】
なお、棒材Wを押し出す際、調整ナット145の係合穴145b1と回転治具190の係合ピン192の位置が回転方向にずれている場合、調整ナット145の係合穴145b1と回転治具190の係合ピン192とが正対するまで棒材W(すなわち、棒材Wを保持した正面主軸120)を回転させる。
【0069】
(ステップS14)
次に、この状態で背面主軸160の保持治具164の調整ボルト164eにより保持治具164を棒材Wに締め付けて背面主軸160で把持(保持)する。
【0070】
(ステップS15)
次に、電気モーターである正面主軸120の正面主軸駆動モーター123の励磁を切り、回転治具190が調整ナット145から離脱するまで背面主軸160をロータリーガイドブッシュ140に向かって前進させて、図8に示す状態にする。
【0071】
<3.2.検査工程>
(ステップS20)
次に、この状態で、背面主軸160を所定方向に所定角度回転させる。
すなわち、図9に示すように、背面主軸160を回転させて、棒材Wを基準角度位置Pから角度位置P1まで所定角度θだけ回転させる。
【0072】
(ステップS21)
ここで、正面主軸駆動モーター123の励磁が切られていると、ロータリーガイドブッシュ140のタイミングプーリー146の回転が、タイミングベルトV1、V2を介して正面主軸120の正面主軸駆動モーター123を回転させることができる。
【0073】
したがって、上述したように、棒材Wが基準角度位置Pから角度位置P1まで所定角度θだけ回転したときに棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間が狭いと、棒材Wとガイドブッシュ本体144とが接触することがあり、この棒材Wとの接触によりガイドブッシュ本体144が棒材Wと連れ回れることがある。
このガイドブッシュ本体144が連れ回りにより、ガイドブッシュ本体144と止めねじ142bで一体になっているガイドブッシュスリーブ142が回転し、このガイドブッシュスリーブ142に埋設されたキー142dと係合するタイミングプーリー146が回転する。
このタイミングプーリー146の回転が、タイミングベルトV2からカウンター軸134へ、カウンター軸134からタイミングベルトV1へ、タイミングベルトV1から正面主軸120の正面主軸本体122へ、正面主軸本体122から正面主軸駆動モーター123へ伝達され、この正面主軸駆動モーター123が回転する。
【0074】
逆に、棒材Wが基準角度位置Pから角度位置P1まで所定角度θだけ回転したときに棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間が大きすぎると、棒材Wとガイドブッシュ本体144とが接触せず、ガイドブッシュ本体144が回転しないことがある。
【0075】
そこで、ステップS21では、この正面主軸駆動モーター123の回転角度が所定角度範囲に収まっている否かを判定する。
【0076】
正面主軸駆動モーター123の回転角度が所定角度範囲に収まっている場合、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさが最適な隙間の大きさであるとして、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさの調整を終了する。
【0077】
一方、正面主軸駆動モーター123の回転角度が所定角度範囲の下限値を下回る場合、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさが大きすぎるため、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさの調整が必要として、ステップS22に進み、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさの調整を行う。
また、正面主軸駆動モーター123の回転角度が所定角度範囲の上限値を上回る場合、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさが小さすぎるため、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさの調整が必要として、ステップS22に進み、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさの調整を行う。
【0078】
(ステップS22)
まず、背面主軸160を回転させて、棒材Wを角度位置P1から基準角度位置Pに戻るまで回転(すなわち、ステップS20と逆回転)させる。
その後、ステップS30に進み、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさの調整を行う。
【0079】
<3.3.隙間調整工程>
(ステップS30)
次に、図6Cに示す隙間調整工程の諸工程を行う。
【0080】
(ステップS31)
まず、回転治具190がロータリーガイドブッシュ140の調整ナット145に挿入されるまで背面主軸160を後退させて図10Aに示す状態にする。
【0081】
(ステップS32)
次に、正面主軸駆動モーター123を励磁させる。
これにより、正面主軸駆動モーター123に保持トルクが働くようになり、この保持トルクの影響がロータリーガイドブッシュ140のタイミングプーリー146に及ぶため、タイミングプーリー146を回転させようとしても回転しなくなる。
【0082】
(ステップS33)
この状態で、図10Bに示すように、背面主軸160で棒材Wを保持した状態で、ガイドブッシュ開度決定部181bによる出力結果に基づき、背面主軸160を所定方向に所定量だけ回転させる。
この背面主軸160の回転により棒材Wが回転し、棒材Wに固定されている回転治具190が所定方向に所定量だけ回転する。
【0083】
ここで、タイミングプーリー146が回転しないため、タイミングプーリー146とキー142dで係合しているガイドブッシュスリーブ142およびこのガイドブッシュスリーブ142と止めねじ142bで係合しているガイドブッシュ本体144も回転しない。
しかし、回転治具190が回転すると、回転治具190と係合する調整ナット145が回転し、調整ナット145はガイドブッシュスリーブ142と回転治具190とによりZ方向に移動できないため、この調整ナット145と螺合しているガイドブッシュ本体144が調整ナット145の回転方向に対応してガイドブッシュスリーブ142および調整ナット145に対してZ方向に進退し、棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさが調整される。
【0084】
(ステップS34)
棒材Wとガイドブッシュ本体144との隙間の大きさが所定量だけ変化した後、背面主軸160を前進させて回転治具190をロータリーガイドブッシュ140の調整ナット145から離脱させ、ステップS20に戻る。
【0085】
以下、正面主軸駆動モーター123の回転角度が所定角度範囲に収まるまで、上述したステップを適宜繰り返す。
【0086】
<4.工作機械100が奏する効果>
以上説明した工作機械100によれば、棒材Wを保持した背面主軸160を回転駆動させる際に回転自在となっている正面主軸120の回転角度の変動が背面主軸160の回転駆動に伴う棒材Wの回転のみに基づくため、棒材を保持した背面主軸を背面主軸駆動用モーターにより回転駆動させた際の背面主軸駆動用モーターの負荷に基づいてロータリーガイドブッシュと棒材との隙間の大きさを調整する場合に比べてSN比が高まり、ロータリーガイドブッシュ140の開度が調整ナット145により調整されるとともにロータリーガイドブッシュ140が正面主軸120と同期回転する構造の場合に、ロータリーガイドブッシュ140と棒材Wとの隙間を精度良く自動的に調整することができる。
【0087】
また、背面主軸160が、棒材Wを保持する保持治具164を着脱自在であることにより、背面主軸160に装着された保持治具164が棒材Wを保持するため、背面主軸160が棒材Wを直接保持できない場合であっても、棒材Wに対応した保持治具164を選択することで間接的に棒材Wを背面主軸160に保持させることができる。
【0088】
さらに、正面主軸120と対向するロータリーガイドブッシュ140の調整ナット145と係合してこの調整ナット145を回転させる回転治具190が、正面主軸120とロータリーガイドブッシュ140との間で棒材Wに装着されていることにより、背面主軸160で棒材Wを保持して回転治具190が調整ナット145と係合した状態で、背面主軸160が棒材Wを回転させることでロータリーガイドブッシュ140の調整ナット145が回動するため、ロータリーガイドブッシュ140と棒材Wとの隙間を精度良く自動的に調整することができる。
【0089】
<変形例>
以上、本発明の一実施例である工作機械について説明したが、本発明の工作機械は、上述した実施例の工作機械に限定されるものではない。
【0090】
例えば、上述した実施例において、正面主軸駆動モーター123は主軸台121に載置されていたが、正面主軸駆動モーターは主軸台に設けられなくてもよく、たとえばベッドに載置して伝達機構を介して正面主軸本体を回転駆動させてもよい。
なお、背面主軸駆動モーターについても同様である。
【0091】
例えば、上述した実施例において、正面主軸120とロータリーガイドブッシュ140との同期回転にタイミングベルトを用いた例を挙げて説明したが、本発明はこの例に限定されるものではなく、正面主軸120とロータリーガイドブッシュ140とが構造的に連結されて正面主軸120とロータリーガイドブッシュ140とが同期回転するものであれば、いかなる方法であってもよい。
【0092】
さらに、下記に記載するように、正面主軸120とロータリーガイドブッシュ140とが電気的に連結されて正面主軸120とロータリーガイドブッシュ140とが同期回転するものであってもよい。
【0093】
すなわち、本発明に係る工作機械の変形例である自動旋盤の概略構成図である図11に示すように、本発明の変形例である工作機械100Aは、上述した工作機械100のようにエンコーダー124およびカウンター軸134を設けずに、ロータリーガイドブッシュ140のガイドブッシュ本体144を回転させるためのロータリーガイドブッシュ駆動モーター149をベッド110上に設け、このロータリーガイドブッシュ駆動モーター149の先端に設けられたタイミングプーリーにタイミングベルトV2を掛け回している。
なお、ロータリーガイドブッシュ駆動モーター149は、正面主軸駆動モーター123と同様に電気モーターであり、ロータリーガイドブッシュ駆動モーター149の回転角度を検出するエンコーダー149aを有している。
【0094】
また、制御装置180のモーター制御部181aは、正面主軸駆動モーター123の動作だけでなくロータリーガイドブッシュ駆動モーター149の動作も制御している。
そして、本変形例では、モーター制御部181aは正面主軸駆動モーター123の回転駆動とロータリーガイドブッシュ駆動モーター149の回転駆動とを同期させている。
【0095】
この工作機械100Aでは、正面主軸駆動モーター123ではなくロータリーガイドブッシュ駆動モーター149の回転角度を検出することで、棒材Wとロータリーガイドブッシュ140との隙間の大きさの調整をしている。
なお、棒材Wとロータリーガイドブッシュ140との隙間の大きさの調整手順については、検出対象をロータリーガイドブッシュ駆動モーター149の回転角度とし、ステップS32で励磁する対象をロータリーガイドブッシュ駆動モーター149とする点以外は、上述した工作機械100による棒材Wとロータリーガイドブッシュ140との隙間の大きさの調整手順と同様の手順である。
【0096】
このように構成された工作機械100Aによれば、背面主軸160で棒材Wを保持してロータリーガイドブッシュ駆動モーター149および正面主軸駆動モーター123を励磁させない状態で背面主軸160を回転させた際のロータリーガイドブッシュ駆動モーター149の回転角度に基づいて隙間の調整量を決定するガイドブッシュ開度決定部181bを有していることにより、棒材Wを保持した背面主軸160を回転駆動させる際に回転自在となっているロータリーガイドブッシュ駆動モーター149の回転角度の変動が背面主軸160の回転駆動に伴う棒材Wの回転のみに基づくため、棒材Wを保持した背面主軸を背面主軸駆動用モーターにより回転駆動させた際の背面主軸駆動用モーターの負荷に基づいてロータリーガイドブッシュと棒材との隙間の大きさを調整する場合に比べてSN比が高まり、ロータリーガイドブッシュ140の開度が調整ナット145により調整されるとともにロータリーガイドブッシュ140が正面主軸120と同期回転する構造の場合に、ロータリーガイドブッシュ140と棒材Wとの隙間を簡便な構造で精度良く自動的に調整することができる。
【符号の説明】
【0097】
100 ・・・ 工作機械
100A ・・・ 工作機械
110 ・・・ ベッド
120 ・・・ 正面主軸
121 ・・・ 主軸台
122 ・・・ 正面主軸本体
122a ・・・ チャック
122b ・・・ タイミングプーリー
123 ・・・ 正面主軸駆動モーター
124 ・・・ エンコーダー
130 ・・・ 正面主軸送り機構
131 ・・・ Z1レール
132 ・・・ Z1スライダー
133 ・・・ Z1モーター
134 ・・・ カウンター軸
134a ・・・ 主軸側タイミングプーリー
134b ・・・ ロータリーガイドブッシュ側タイミングプーリー
140 ・・・ ロータリーガイドブッシュ
141 ・・・ ガイドブッシュホルダ
141a ・・・ ガイドブッシュホルダ本体
141b ・・・ 軸受押さえ
142 ・・・ ガイドブッシュスリーブ
142a ・・・ テーパ
142b ・・・ 止めねじ
142c ・・・ 貫通ねじ孔
142d ・・・ キー
143 ・・・ 軸受
144 ・・・ ガイドブッシュ本体
144a ・・・ 雄ねじ
144b ・・・ 摺り割り
144c ・・・ テーパ
144d ・・・ 溝
145 ・・・ 調整ナット
145a ・・・ 雌ねじ
145b ・・・ 後面
145b1・・・ 係合穴
146 ・・・ タイミングプーリー
146a ・・・ キー溝
146b ・・・ ベルト位置決め溝
147 ・・・ 抜け止めナット
148 ・・・ フランジ
149 ・・・ ロータリーガイドブッシュ駆動モーター
149a ・・・ エンコーダー
150 ・・・ ガイドブッシュ支持台
150a ・・・ ロータリーガイドブッシュ挿入孔
151 ・・・ 刃物台移動機構
152 ・・・ 刃物台
152a ・・・ 刃物
160 ・・・ 背面主軸
161 ・・・ 主軸台
162 ・・・ 背面主軸本体
162a ・・・ チャック
163 ・・・ 背面主軸駆動モーター
164 ・・・ 保持治具
164a ・・・ 主軸装着具
164a1・・・ 前面
164b ・・・ 材料保持具
164b1・・・ ネジ孔
164c ・・・ 結合ボルト
164d ・・・ 締付ボルト
164e ・・・ 調整ボルト
170 ・・・ 背面主軸送り機構
171 ・・・ X2方向送り構造
171a ・・・ X2レール
171b ・・・ X2スライダー
171c ・・・ X2モーター
172 ・・・ Z2方向送り構造
172a ・・・ Z2レール
172b ・・・ Z2スライダー
172c ・・・ Z2モーター
180 ・・・ 制御装置
181 ・・・ 制御ユニット
181a ・・・ モーター制御部
181b ・・・ ガイドブッシュ開度決定部
181c ・・・ データテーブル
182 ・・・ 入力ユニット
190 ・・・ 回転治具
190a ・・・ ネジ孔
190b ・・・ 前面
191 ・・・ 締め付けボルト
192 ・・・ 係合ピン

W ・・・ 棒材
F ・・・ 床面
L ・・・ 回転軸
φ ・・・ 棒材保持具の内径
V1、V2・・・ タイミングベルト
D1 ・・・ 回転治具から調整ナットまでの距離
D2 ・・・ 棒材から保持治具までの距離
B ・・・ 固定ボルト
P ・・・ 基準角度位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C
図8
図9
図10A
図10B
図11