IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本化薬フードテクノ株式会社の特許一覧 ▶ 学校法人君が淵学園の特許一覧

特開2023-140201非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物、及び非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用経口用組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023140201
(43)【公開日】2023-10-04
(54)【発明の名称】非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物、及び非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用経口用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/722 20060101AFI20230927BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20230927BHJP
【FI】
A61K31/722
A61P1/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022046113
(22)【出願日】2022-03-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 公益社団法人 日本薬剤学会第36年会 講演要旨集 第253頁(P-111)、令和3年5月7日公開 https://www.apstj.org/36/ https://www.apstj.jp/wp/wp-content/uploads/2021/06/apstj36_abstract.pdf 公益社団法人 日本薬剤学会第36年会 一般演題(ポスター)(P-111)、令和3年5月13日~令和3年5月15日開催 https://www.apstj.org/36/
(71)【出願人】
【識別番号】596015527
【氏名又は名称】日本化薬フードテクノ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】594158150
【氏名又は名称】学校法人君が淵学園
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100107515
【弁理士】
【氏名又は名称】廣田 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100107733
【弁理士】
【氏名又は名称】流 良広
(74)【代理人】
【識別番号】100115347
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 奈緒子
(72)【発明者】
【氏名】安楽 誠
(72)【発明者】
【氏名】庵原 大輔
(72)【発明者】
【氏名】水飼 康之
(72)【発明者】
【氏名】川野 和男
【テーマコード(参考)】
4C086
【Fターム(参考)】
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA23
4C086GA15
4C086GA20
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA35
4C086MA41
4C086MA52
4C086NA03
4C086NA05
4C086NA14
4C086NA20
4C086ZA75
(57)【要約】
【課題】優れた非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用を有する非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物、及び非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用経口用組成物を提供すること。
【解決手段】水和型キトサンを有効成分として含有する非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物である。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水和型キトサンを有効成分として含有することを特徴とする非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物。
【請求項2】
水和型キトサンが、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θが10°±2°に回折ピークを有する、請求項1に記載の非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物。
【請求項3】
請求項1から2のいずれかに記載の非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物を含有することを特徴とする非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用経口用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物、及び非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用経口用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD:nonalcoholic fatty liver disease)は、組織診断あるいは画像診断で脂肪肝を認め、アルコール性肝障害等の他の肝疾患を除外した病態である。NAFLDの多くは、肥満、糖尿病、脂質異常症、高血圧などを基盤に発症することから、メタボリックシンドロームの肝病変としてとらえられている。NAFLDは、組織学的に大滴性の肝脂肪編成を基盤に発症し、病態がほとんど進行しないと考えられている非アルコール性脂肪肝(NAFL:nonalcoholic fatty liver)と、進行性で肝病変や肝癌の発症母地にもなる非アルコール性脂肪肝炎(NASH:nonalcoholic steato-hepatitis)との2つに大別されている。
【0003】
現在、肥満人口の増加は先進国だけでなく発展途上国においても社会問題となるなど、全世界的に増加の一途をたどっている。日本においても生活習慣の西欧化に伴い、肥満人口やメタボリックシンドロームの患者が増加しており、これに伴ってNASHの有病者数も増加している実態が明らかとなっている。NASHの病態においては、単に肝細胞に脂肪が蓄積するだけでなく、肝臓に炎症や線維化が惹起されやすくなり、最終的に肝硬変や肝癌に進行することが知られている。C型肝炎を代表とするウイルス性肝炎の治療法が急速に進歩し、将来的にウイルスによる肝癌患者の減少が見込まれる中、NASHを基盤にした肝癌の増加が懸念されている(非特許文献1参照)。
【0004】
NASHの病因は複雑であり、現在のところ仮説として、NAFLに二次的ストレスが加わることによってNASHにいたるTwo-hit theoryが広く認知されている(非特許文献2~5参照)。また、最近では、炎症が脂肪化と同時あるいは先行する機序(multiple parallel hit)も提唱されている。更に、酸化ストレス、小胞体ストレス、ミトコンドリア機能異常、オートファジーなどがNASHの病態に関与していることも報告されている(非特許文献6参照)。しかし、現在利用可能なNASHの治療法は限られており、食事療法や運動療法を含む生活習慣の改善と、基礎疾患に対する対症療法が治療の基礎となっているのが現状である(非特許文献7~10参照)。
【0005】
これに対し、脱アセチル化キチン(表面キトサン)ナノファイバーが、NASH改善作用を有することが知られている(非特許文献11参照)。しかしながら、そのNASH改善作用は、十分満足できるものではないという問題があった。
【0006】
したがって、優れたNASHの改善作用又はNASHの進行抑制作用を有する組成物の提供が強く望まれているのが現状である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】D.M. Torres, C. D. Williams and S. A. Harrison. Features, Clin Gastroenterol Hepatol, 2012, 10(8), p.837-858
【非特許文献2】T. Okanoue et al., Journal of Gastroenterol and Hepatology, 2011, 26, p.153-162
【非特許文献3】J. Chem, J. A. et al., Radiology, 2011, 259, p.749-756
【非特許文献4】S. Yatsuji et al., Journal of Gastroenterology and Hepatology, 2009, 24(2), 248-254
【非特許文献5】H. Tilg and A. R. Moschen., Hepatology, 2010, 52(5), p.1836-1846
【非特許文献6】M. Amir and M. J. Czaja., Expert Rev Gastroenterol Hepatol, 2011, 5(2), p.159-166
【非特許文献7】J. Aron-Wisnewsky et al., Nat. Rev. Gastroenterol. Hepatol. 2020, 17, p.279-297
【非特許文献8】L. Xiuxia et al., Hepatol. Res, 200, 50, p.5-14
【非特許文献9】R. Kelishadi et al., Hepat. Mon, 2013, 13(4), e7233
【非特許文献10】M. Mouzaki and R. Bandsma., Curr. Drug Targets, 2015, 16, p.1324-1331
【非特許文献11】Miwa Goto et al., International Journal of Biological Macromolecules 164, 2020, p. 659-666
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、優れた非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用を有する非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物、及び非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用経口用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 水和型キトサンを有効成分として含有することを特徴とする非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物である。
<2> 水和型キトサンが、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θが10°±2°に回折ピークを有する、前記<1>に記載の非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物である。
<3> 前記<1>から<2>のいずれかに記載の非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物を含有することを特徴とする非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用経口用組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における前記諸問題を解決し、前記目的を達成することができ、優れた非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用を有する非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物、及び非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用経口用組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、造粒キトサン粉末のSEM観察像の一例を示す図である。スケールバーは、2mmを示す。
図1B図1Bは、図1Aの拡大図である。スケールバーは、1mmを示す。
図1C図1Cは、未造粒キトサン粉末のSEM観察像の一例を示す図である。スケールバーは、2mmを示す。
図1D図1Dは、図1Cの拡大図である。スケールバーは、1mmを示す。
図2図2は、造粒キトサン粉末及び未造粒キトサン粉末のX線回折(XRD)パターンを示す図である。縦軸:強度(CPS)、横軸:回折角2θ(°)。
図3A図3Aは、造粒キトサン粉末の分子モデルを示す図である。
図3B図3Bは、図3Aの拡大図である。
図4A図4Aは、造粒キトサン錠の接触角の測定時の液滴の一例を示す図である。
図4B図4Bは、未造粒キトサン錠の接触角の測定時の液滴の一例を示す図である。
図5図5は、試験例1-3における、造粒キトサン錠、未造粒キトサン錠、及びSDACNFsのABTSラジカル消去能の評価の結果を示すグラフである。縦軸は、ABTSラジカル消去能(%)を示す。また、「*」は、SDACNFsに対してp<0.05であることを示す。
図6A図6Aは、試験例2における、対照群、造粒キトサン錠投与群、及び未造粒キトサン錠投与群の、各投与サンプル投与前(0時間)から投与8時間後の血中トリグリセリド濃度の変化を示すグラフである。縦軸は、血中トリグリセリド濃度(mg/mL)を示し、横軸は、投与後経過時間(hour)を示す。グラフ中、「●」は対照群を示し、「▲」は未造粒キトサン錠投与群を示し、「■」は造粒キトサン錠投与群を示す。また、「*」は、対照群に対してp<0.05であることを示す。
図6B図6Bは、試験例2における、造粒キトサン錠投与群及び未造粒キトサン錠投与群の各投与サンプル投与1時間後の胃の観察像を示す図である。
図7A図7Aは、試験例3-1において、肝臓片全体を8-OHdG染色した組織化学的観察の結果を示す図である。
図7B図7Bは、試験例3-1において、肝臓片全体をMT染色した組織化学的観察の結果を示す図である。
図7C図7Cは、試験例3-1において、肝臓の組織切片を8-OHdG染色、MT染色、又はPAS染色した組織化学的観察の結果を示す図である。
図8A図8Aは、試験例3-2における、対照群、未造粒キトサン錠投与群、及び造粒キトサン錠投与群の、各投与サンプル投与前(0週間)から投与6週間後の体重の変化を示すグラフである。縦軸は、体重(g)を示し、横軸は、投与後経過期間(週)を示す。グラフ中、「●」は対照群を示し、「▲」は未造粒キトサン錠投与群を示し、「■」は造粒キトサン錠投与群を示す。また、「*」は、対照群に対してp<0.05であることを示す。
図8B図8Bは、試験例3-2において、対照群、未造粒キトサン錠投与群、及び造粒キトサン錠投与群の投与6週間後の肝重量の結果を示すグラフである。縦軸は、肝重量(g)を示す。また、「*」は、対照群に対してp<0.05であることを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物)
本発明の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の改善用又は進行抑制用組成物は、水和型キトサンを有効成分として含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0013】
本発明において、「非アルコール性脂肪肝炎の改善」とは、体重、肝重量、血中総コレステロール濃度、血中グルコース濃度、血中トリグリセリド濃度、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)濃度、アラニントランスアミナーゼ(ALT)濃度、及び血中抗酸化能の少なくともいずれかを正常な状態に戻すことをいう。
また、本発明において、「非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制」とは、体重、肝重量、血中総コレステロール濃度、血中グルコース濃度、血中トリグリセリド濃度、AST濃度、及びALT濃度の少なくともいずれかの増加の抑制、並びに、血中抗酸化能の低下の抑制、の少なくともいずれかをいう。
なお、AST及びALTが共に高値を示す場合、あるいはALTが単独で高値を示す場合は肝障害の可能性が高いと判断される。
【0014】
<水和型キトサン>
「キトサン」は、グルコサミンの1,4-重合体、又はグルコサミンとN-アセチルグルコサミンとの1,4-共重合体(ランダム共重合体)であり、直鎖状の多糖類である。
キトサンは、経口摂取することにより、コレステロール調整作用、脂肪吸収阻害作用、血圧上昇阻害機能、腎保護作用、創傷治癒促進作用、抗酸化作用等の種々の生理的調整機能を有し、健康維持や体調改善のための機能性素材として知られている。キトサンの生理活性機能は、経口摂取の後、胃酸によりキトサンが溶解し、脂質、胆汁酸、糖質、塩化物イオンなどの生活習慣病に関連する原因物質を吸着して消化吸収を阻害することで発揮されると考えられている。
【0015】
一方、飲食品(機能性食品等を含む)又は医薬品としてキトサンを摂取する場合、キトサンの用量と服用の容易さを考慮すると、高含量キトサンの錠剤化が望まれる。しかしながら、キトサンは嵩密度が小さく、かつ粉体流動性が悪いため、錠剤化に不向きであるという問題があった。
【0016】
そこで、本発明者らは、水で造粒加工することにより水中での崩壊性が向上した造粒キトサン錠を調製し、該造粒キトサン錠は未造粒キトサン錠に比べて高い分散性及び崩壊性を有することを明らかにした(Anraku M. et al., Carbohydr Polym, 2021 Feb 1, 253, 117246参照)。
しかしながら、造粒キトサン粉末又はこれを用いた造粒キトサン錠の非アルコール性脂肪肝炎(NASH)に対する効果については明らかになっていなかった。そこで、本発明者らは、鋭意検討を行い、水和型キトサンが、非アルコール性脂肪肝炎に対して、優れた改善作用及び進行抑制作用を有することを見出した。
【0017】
キトサンは、工業的には、主として、カニ、エビ、イカ、昆虫等の甲殻中に多量に含まれるキチン(N-アセチルグルコサミンの1,4-重合体)を抽出し、これをアルカリ中で加水分解して脱アセチル化することにより得られる。分子量、脱アセチル化度、粘度等において、様々な物性及び品質の市販品のキトサンを入手することができる。
以下に、キチン及びキトサンの構造式を示す。下記構造式1で表される化合物がキチンであり、下記構造式2で表される化合物がキトサンである。
【0018】
【化1】
ここで、構造式1及び構造式2において、m及びnは、それぞれ独立に整数を示す。
【0019】
キトサンは、斜方晶系のP2空間群で結晶化し、水和物と無水物ではセル寸法が異なることが知られている(Baklagina, Y. G. et al., Crystallography reports, 2018, 63, p.303-313、Okuyama, K et al., Macromolecules, 1997, 30, p.5849-5855、及びYui, T et al., Macromolecules, 1994, 27, p.7601-7605参照)。キトサン水和物は、2θ=10°及び20°にそれぞれ(020)反射と(110)反射に割り当てられた典型的な粉末X線回折(XRD)ピークを与える。一方、キトサン無水物は、2θ=15°及び20°に典型的な粉末XRDピークを与える(Ogawa, K., Agricultural and Biological Chemistry, 1991, 55, p,2375-2379参照)。水和物結晶では、図3A及び図3Bに示すように、反平行に配置された2本のキトサン鎖がc軸に沿って伸び、その鎖が直接又は水和の水分子を介して水素結合で結合してbc面上にシートを形成し、そのシートがa軸に沿って積層している(Ogawa, K., Agricultural and Biological Chemistry, 1991, 55, p,2375-2379参照)。(020)の反射は、水和水の存在によって大きく影響を受ける。
【0020】
前記非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物が含有するキトサンは、水和型キトサンであり、CuKα線を使用した粉末X線回折において、2θが10°±2°に回折ピークを有するものである。
上記の通り、通常、無水型キトサンは、2θが10°±2°に回折ピーク有しない。そのため、本発明においては、少なくとも無水型キトサンと比較した場合に、2θが10°±2°の回折ピークの強度が高いものを水和型キトサンとする。
【0021】
前記水和型キトサンの形態としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、水和型キトサンの造粒物(以下、「水和型キトサン粉末」と称することがある)であることが、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で好ましい。
前記水和型キトサン粉末の製造方法としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、後述する<<水和型キトサンの製造方法>>の項目に記載の方法によって好適に製造することができる。
【0022】
前記水和型キトサン粉末は、粉末X線回折を行った時に、2θ=10°±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、9°以上11°以下であることが好ましく、9.5°以上10.5°以下であることがより好ましく、9.8°以上10.2°以下であることが更に好ましい。
【0023】
また、前記水和型キトサン粉末は、粉末X線回折を行った時に、2θ=20±2°にピークが存在し、そのピークの半価幅としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、15°以上24°以下であることが好ましく、17°以上23°以下であることがより好ましく、19°以上22°以下であることが特に好ましい。
【0024】
前記水和型キトサン粉末の粉末X線回折による2θ=10±2°のピーク(I10)と、2θ=20±2°のピーク(I20)とのピーク強度比(I20/I10)としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、その下限値としては、2.3以上が好ましく、2.4以上がより好ましく、2.5以上が特に好ましい。また、前記ピーク強度比(I20/I10)の上限値としても、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができるが、3.1以下が好ましく、3.0以下がより好ましく、2.9以下が特に好ましい。前記ピーク強度比(I20/I10)の下限値と上限値とは適宜組み合わせることができるが、2.3以上3.1以下が好ましく、2.4以上3.0以下がより好ましく、2.5以上2.9以下が特に好ましい。前記ピーク強度比(I20/I10)が、前記好ましい範囲内であると、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で有利である。
【0025】
前記水和型キトサン粉末の粉末X線回折は、公知のX線回折装置を用いて測定することができ、例えば、RINT Ultima+型自動X線回折装置(リガク株式会社製)などを用いて測定することができる。粉末X線回折の測定条件の一例を以下に示す。
[粉末X線回折測定条件]
・ X線源 : Cu-Kα線(1.542Å)
・ 走査速度 : 5°/分
・ 回折各角(2θ) : 5°~30°
【0026】
得られた粉末X線回折図形から、2θ=10±2°の範囲の回折ピークの強度と、2θ=20±2°の範囲内の回折ピークの強度とを求め、その比(I20/I10)を算出することができる。
【0027】
前記水和型キトサン粉末の体積平均粒径としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、その上限値としては、440μm以下が好ましく、300μm以下がより好ましく、140μm以下が特に好ましい。また、前記水和型キトサン粉末の体積平均粒径の下限値としても、特に制限はないが、50μm以上が好ましく、100μm以上がより好ましい。前記水和型キトサン粉末の体積平均粒径の下限値と上限値とは適宜組み合わせることができるが、50μm以上440μm以下が好ましく、50μm以上300μm以下がより好ましく、100μm以上140μm以下が特に好ましい。前記水和型キトサン粉末の体積平均粒径が、50μm以上440μm以下であると、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で有利である。
【0028】
前記水和型キトサン粉末の体積粒径20μm以下の含有率としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20体積%未満が好ましく、15体積%以下がより好ましく、10体積%未満が特に好ましい。前記水和型キトサン粉末の体積粒径20μm以下の含有率が、20体積%未満であると、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で有利である。
【0029】
前記水和型キトサン粉末の体積平均粒径及び体積粒径(体積基準の粒度分布における粒径)20μm以下の含有率は、例えば、レーザー回折-散乱式粒度分析計(レーザーマイクロンサイザーLMS2000e型、株式会社セイシン企業製)を用いて、適当な溶媒(例えば、メタノール)に水和型キトサン粉末(例えば、10mg以上30mg以下/溶媒1mL)を分散し、その粒子にレーザー光を照射して生じた回析折/散乱光の角度により異なる強度パターン(強度分布)を観測し、Fraunhofer(フランホーファ)回折理論やMie(ミー)散乱理論を用いて、粒径分布を求めることにより、測定することができる。
【0030】
なお、水和型キトサン粉末の粒度分布の測定は、従来は振動篩を用いた篩別法を用いていたが、本発明においては、平均粒径を評価することが不可欠であり、篩別法では設置する篩の目開きにより平均粒径の測定結果が異なる恐れがある。したがって、粒度分布の測定は全てレーザー回折-散乱法を用いた。
レーザー回折-散乱法は、篩別法による段階的な粒度分布の値と比較すると比較的連続した分布結果となり測定粒子の幅も広いことが特徴である。また、コンピューターを用いた解析も可能であるため、容易に平均粒径や任意の粒度の割合を計算することができる。前記体積平均粒径は、レーザー回折-散乱式粒度分析計における測定粒径(d)を小さい順から、d1,d2,・・・・di,・・・dk、それぞれの粒径を持つ粒子の個数をそれぞれn1,n2,・・・・ni,・・・nk個、粒子1個当りの表面積をai、体積をviとしたときに次式により計算される粒子平均値のことである。
体積平均粒径=Σ(vi・di)÷Σ(vi)
また、体積粒径20μm以下の含有率は、レーザー回折-散乱式粒度分析計のアウトプットより、体積粒径20μm以下の頻度を測定粒度毎に累計することにより求めることができる。
【0031】
前記水和型キトサン粉末の嵩密度としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.25g/mL以上0.45g/mL未満が好ましく、0.25g/mL以上0.40g/mL以下がより好ましい。前記水和型キトサン粉末の嵩密度が0.25g/mL以上0.45g/mL未満であると、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で有利である。
前記水和型キトサン粉末の嵩密度は、例えば、顔料用嵩密度測定器(JIS K 5101型、筒井理化学器械株式会社製)を用い、水和型キトサン粉末を測定カップ容積30mL(直径22mm)に自由落下させ、測定カップ内の水和型キトサン粉末の質量(g)を容積30mLで割ることにより算出することができる。
【0032】
前記水和型キトサン粉末のタップ密度としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.30g/mL以上0.42g/mL以下が好ましく、0.35g/mL以上0.40g/mL以下がより好ましい。前記水和型キトサン粉末のタップ密度が0.30g/mL以上0.42g/mL以下であると、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で有利である。
前記水和型キトサン粉末のタップ密度は、例えば、100mLメスシリンダーに入れ、タッピング装置(Electrolab社製)を用いて、3mm±0.2mmの高さにて250±15回/分間の回数でタッピングを行い、粉末体積(タップ体積)を測定し、次式により算出することができる。
タップ密度(g/mL)=粉体重量(g)/粉体体積(mL)
(ただし、前記式において「粉体」は、水和型キトサン粉末を示す。)
【0033】
前記水和型キトサンの重量平均分子量としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、100,000~1,500,000が好ましく、500,000~1,200,000がより好ましい。前記水和型キトサンの重量平均分子量が800,000~1,000,000であると、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で有利である。
前記水和型キトサンの重量平均分子量は、被験水和型キトサン試料を0.5体積%酢酸水溶液に溶解した分析試料を調製し、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法により、標準品としてプルランを用いて測定した重量平均分子量により規定される。
【0034】
前記水和型キトサンの粘度としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20mPa・s~800mPa・sが好ましく、100mPa・s~500mPa・sがより好ましい。前記水和型キトサンの粘度が20mPa・s~800mPa・sであると、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で有利である。
前記水和型キトサンの粘度は、「日本健康・栄養食品協会キトサン食品品質規格基準」の「別記4 粘度測定法」に基づき、ブルックフィールド型粘度計のNo.2ローターを用いて30rpmにて回転粘度(mPa・s)で測定することができる。
【0035】
前記水和型キトサンの脱アセチル化度としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、60%以上100%以下が好ましく、80%以上100%以下がより好ましい。前記水和型キトサンの脱アセチル化度が60%以上100%以下であると、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で有利である。
【0036】
前記水和型キトサンの脱アセチル化度は、例えば、水和型キトサンを0.5体積%酢酸水溶液で溶解し、トルイジンブルーを指示薬としてN/400 PVSK溶液(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いてコロイド滴定を行い、遊離アミノ基のモル数を測定することにより算出することができる。前記脱アセチル化度は、前記構造式2中、m/(m+n)×100に相当する。
【0037】
前記水和型キトサン粉末を打錠した際の水における崩壊時間としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1分間以内が好ましく、30秒間以内がより好ましい。前記水和型キトサン粉末を打錠した際の水における崩壊時間が1分間以内であると、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で有利である。
従来のキトサン粉末を含むキトサン含有製剤は、水中において、錠剤表面が水分を吸収してゲル状になり、錠剤の崩壊を妨げる現象が生じるという問題があった。しかしながら、前記水和型キトサン粉末は、高含量であっても優れた崩壊性を発揮することができる。
前記水和型キトサン粉末を打錠した際の水における崩壊時間は、前記水和型キトサン粉末が、内径8mmCRの臼と、杵とを備えた単発式打錠機(例えば、HANDTAB-100型、市橋精機株式会社製)により20KNの打錠圧で打錠して得られた200mg錠を用い、「第十四改正日本薬局方、崩壊試験法」の「(1)錠剤」の評価方法に準じて、試験液として水を用いて崩壊性を評価した際の、崩壊までに要した時間である。
【0038】
前記水和型キトサン粉末を打錠した際の錠剤硬度としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1.5N/mm以上が好ましく、2.0N/mm以上がより好ましく、3.0N/mm以上が特に好ましい。前記水和型キトサン粉末を打錠した際の錠剤硬度が1.5N/mm以上であると、保存性及び安定性の観点から有利である。
前記錠剤硬度は、例えば、モンサント型錠剤硬度計(装置名:B型、富士理化工業株式会社製)を用いて測定を用いて測定することができる。
【0039】
前記水和型キトサン粉末を打錠した際の錠剤の水に対する接触角としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0°~90°が好ましく、0°~60°がより好ましく、0°~50°が特に好ましい。前記水和型キトサン粉末を打錠した際の錠剤の水に対する接触角が0°~90°であると、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で有利である。
前記錠剤の接触角は、例えば、動的接触角・表面張力測定装置(DMo-501、協和界面科学株式会社製)を用いて測定を用いて測定し、θ/2法で求めることができる。
【0040】
前記水和型キトサン粉末を打錠した際の錠剤の比表面積としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.2m/g~1.00m/gが好ましく、0.3m/g~1.00m/gがより好ましく、0.4m/g~0.8m/gが特に好ましい。前記水和型キトサン粉末を打錠した際の錠剤の比表面積が0.2m/g~1.00m/gであると、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で有利である。
前記比表面積は、例えば、比表面積測定装置(Tristar 3000、Micromeritics社製)を用いてBET法により測定することができる。
【0041】
前記水和型キトサン粉末を打錠した際の錠剤の細孔容積としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.001cm/g~0.05cm/gが好ましく、0.001cm/g~0.01cm/gがより好ましく、0.005cm/g~0.01cm/gが特に好ましい。前記水和型キトサン粉末を打錠した際の錠剤の細孔容積が0.001cm/g~0.05cm/gであると、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で有利である。
【0042】
前記水和型キトサン粉末を打錠した際の錠剤の平均細孔直径としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、1nm~1,000nmが好ましく、1nm~500nmがより好ましく、10nm~100nmが特に好ましい。前記水和型キトサン粉末を打錠した際の錠剤の平均細孔直径が1nm~1,000nmであると、非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用に優れる点で有利である。
【0043】
前記細孔容積及び平均細孔直径は、例えば、細孔分布測定装置(BELSORP-mini II、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて測定し、解析ソフトウエア(BELMasterTM version 6.4.1.0、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて解析することができる。
【0044】
前記非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物における前記水和型キトサンの含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができる。前記非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物は、前記水和型キトサンそのものであってもよい。
【0045】
なお、前記非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物は、その効果を奏することができる限り、無水型キトサンを含んでいてもよいが、水和型キトサンと、無水型キトサンとの含有質量比(水和型キトサン/無水型キトサン)は、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上が特に好ましい。
【0046】
<<水和型キトサンの製造方法>>
前記水和型キトサンの製造方法としは、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、加水工程及び乾燥工程を含むことが好ましく、更に回転運動付与工程及び整粒工程を含むことがより好ましく、更に必要に応じてその他の工程を含んでいてもよい。
前記水和型キトサンは、粉末状のキトサン原料に前記加水工程及び前記乾燥工程を施すことにより製造できる。
【0047】
-キトサン原料-
前記キトサン原料は、粉末状のキトサンであり、キトサン及び水からなる。
【0048】
前記キトサン原料の体積平均粒径としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50μm以上150μm以下が好ましく、75μm以上150μm以下がより好ましく、75μm以上125μm以下が特に好ましい。
【0049】
前記キトサン原料の体積粒径20μm以下の含有率としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、20体積%以上が好ましく、20体積%以上50体積%以下がより好ましく、20体積%以上45体積%以下が特に好ましい。
【0050】
前記キトサン原料の嵩密度としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、その上限値としては、0.25g/mL以下が好ましく、0.15g/mL以下がより好ましく、また、その下限値としては、0.08g/mL以上が好ましく、0.10g/mL以上がより好ましい。前記キトサン原料の嵩密度の数値範囲としても、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、0.08g/mL以上0.25g/mL以下が好ましく、0.10g/mL以上0.15g/mL以下がより好ましい。
【0051】
前記キトサンの重量平均分子量としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5,000以上500,000以下が好ましく、10,000以上200,000以下がより好ましい。
前記キトサンの重量平均分子量は、被験キトサン試料を0.5体積%酢酸水溶液に溶解した分析試料を調製し、ゲル浸透クロマトグラフ(GPC)法により、標準品としてプルランを用いて測定した重量平均分子量により規定される。
前記キトサンの重量平均分子量の調整は、原料キチン質としてカニ殻を使用する場合、塩酸を用いてカルシウムを取り除く工程の塩酸濃度、反応時間、及び反応温度、並びに濃水酸化ナトリウムを用いてキチンを脱アセチル化する工程における水酸化ナトリウム濃度、反応時間、及び反応温度のいずれかをコントロールすることで所望の重量平均分子量のキトサンを調製することができる。
【0052】
前記キトサンの脱アセチル化度としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上が更に好ましく、85%以上が特に好ましい。
【0053】
前記キトサン原料の製造方法としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができる。例えば、前記キトサンを、摩砕式粉砕機、凍結粉砕機、衝撃式粉砕機、エアージェット式粉砕機、遠心カッター式粉砕機等の粉砕機で機械的に粉砕し、任意に所定の目開きのメッシュを装着した篩別機で篩分けすることで、様々な粒径及び嵩密度のキトサン原料を得る方法が挙げられる。
なお、前記キトサン原料の粒径制御としては、粉砕機運転条件、篩別条件、粉砕時間などを調整することにより、粒径及び粒度分布を調整することができる。前記キトサン原料の嵩密度については、キトサンの分子量が大きいほど粉砕負荷が強くなり、粉砕物の嵩密度が低下するため、キトサンの分子量により調整することができる。粉砕原理的には、摩砕式粉砕機、衝撃式粉砕機、エアージェット式粉砕機は、嵩密度が小さくなる傾向にあり、ボールミル粉砕機、カッター式粉砕機は、比較的嵩密度が大きくなる傾向にあるが、粉砕機の種別としては、特に限定なく、目的に応じて適宜選択することができる。また、これらの粉砕機は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
前記キトサン原料は、例えば、衝撃式微粉砕機等により粒度分布の広いキトサン粉体を調製する方法;ボールミル粉砕機を用いてキトサンを粉砕した後、更にジェットミル粉砕を行うこと等により粒度分布が異なる複数のキトサン粉体を得、これらを混合する方法;篩(例えば、80メッシュ)を装着した衝撃式微粉砕機を用い、キトサンチップ(例えば、3mm角)を粉砕する方法などにより得ることができる。
なお、ジェットミルによるキトサンの粉砕は、粉砕熱が発生しないため安定した品質の粉砕物が得られるが、3mm角のチップのような大きな粒子を粉砕することには適さない場合がある。その際、予め衝撃式微粉砕機などで粗粉砕を行うことで、ジェットミルで微粉砕は可能となるが、ジェットミルによる粉砕で得られる粉砕物は、体積平均粒径20μm程度の非常に細かい物性の粉砕物となる。これを体積平均粒径の比較的大きな粉砕物と混合することで、前記キトサン原料に調整してもよい。
【0055】
前記キトサン原料は、上記のような粉砕工程を経ることで、その多くが無水物となる(Ogawa, K., Agricultural and Biological Chemistry, 1991, 55, p,2375-2379参照)。したがって、前記キトサン原料は、2θ=10°付近にはピークを有さず、2θ=15°及び20°に典型的な粉末XRDピークを有するものである。
【0056】
<<<加水工程>>>
前記加水工程は、前記キトサン原料に水を加える工程である。
【0057】
前記水としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、工業用水、水道水、ミネラル水、蒸留水、精製水などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。また、前記水は、水蒸気の形態で前記キトサン原料に添加されてもよく、含水溶媒の形態で前記キトサン原料に添加されてもよい。これらの中でも、前記水としては、廃水の問題や、回収工程の有無の点で、工業用水、水道水、ミネラル水、蒸留水、精製水が好ましく、健康食品用の有効成分として使用することを考慮すると、蒸留水、精製水がより好ましい。
【0058】
前記含水溶媒における溶媒としては、水と任意の割合で混合できる有機溶媒であれば、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、アセトン、エタノールなどのキトサンを溶解しない溶媒を用いることが好ましい。また、前記溶媒としては、経口摂取において認容されている有機溶媒が好ましい。
【0059】
前記含水溶媒における含水率としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、5体積%以上が好ましく、40体積%以上がより好ましい。
【0060】
前記キトサン原料に前記水を加える方法としては、例えば、前記キトサン原料50gあたり20mL以上200mL以下(例えば、100mL)の水を加え、均一になるまで練合する方法;前記キトサン原料50gあたり20mL以上200mL以下(例えば、100mL)の水を、噴霧器等を用いて霧状に水分を吹き付けながら撹拌することにより、前記キトサン原料に均一に水を浸透させる方法;前記キトサン原料50gあたり40mL以上400mL以下(例えば、200mL)の50体積%エタノール水溶液を、前記練合、噴霧等の方法により加えて均質化した後、熱を加えてエタノールを蒸発させる方法などが挙げられる。これにより、均一な含水キトサン原料が得られる。
【0061】
前記含水キトサン原料における含水率としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、前記含水キトサン原料の全質量に対して、20質量%~45質量%が好ましく、35質量%~45質量%がより好ましい。また、含水率が45質量%を超えるような含水キトサン原料を、水分が20質量%~45質量%の範囲まで部分乾燥、又は、含水率が20%超え45%未満の含水キトサン原料を、水分量が20質量%~45質量%未満になるように部分乾燥した後、取り出し、混合機で回転運動を与えた後に、更に乾燥を行ってもよいし、回転運動を与えた後、別の乾燥方法によって再び乾燥してもよい。
【0062】
<<<回転運動付与工程>>>
前記回転運動付与工程は、前記水を加えたキトサン原料(含水キトサン原料)に対し、回転運動を与える工程である。
【0063】
前記回転運動を与える方法としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、V型混合機、混合パン、リボンミキサー、ナウター混合機、コニカル混合機などの粉体混合機を用いて前記キトサン原料に回転運動を与える方法が挙げられる。前記粉体混合機は、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
前記回転運動を与える時の温度としては、水が凍結しない温度であれば、特に限定はないが、10℃以上80℃以下が好ましい。
【0065】
前記回転運動を行う時間としては、前記含水キトサン原料が目視で均一な粉状物(造粒物)になったことを確認できれば、特に限定はなく適宜選択することができるが、粉体混合機を用いた回転運動時間として、1分間以上が好ましく、1分間以上120分間以下がより好ましく、1分間以上60分間以下が更に好ましく、5分間以上30分間以下が特に好ましい。なお、前記含水キトサン原料が1kg以下の少量である場合には、前記含水キトサン原料を気体(例えば、空気)と共に容器(例えば、ビニール袋)に封入し、手動で混合しながら回転運動を与えてもよい。
【0066】
<<<乾燥工程>>>
前記乾燥工程は、前記含水キトサン原料、又は回転運動を与えた含水キトサン原料を、乾燥する工程である。これにより、前記水和型キトサン粉末が得られる。
【0067】
前記乾燥する方法としては、例えば、乾燥機を用いる方法が挙げられる。
前記乾燥機としては、例えば、棚式乾燥機、透過式乾燥機、凍結乾燥機、減圧乾燥機等の静置状態で乾燥する乾燥機;コニカル乾燥機、ナウター乾燥機、スクリュー式乾燥機等の一般の健康食品製造工場に設置され、混合機能を有する乾燥機などが挙げられる。これらの中でも、混合機能を有する乾燥機が好ましい。
【0068】
前記乾燥の温度(前記乾燥機内の温度)としては、特に限定はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、効率等の点から、その下限値としては、30℃以上が好ましく、60℃以上がより好ましく、80℃以上が特に好ましく、またその上限値としては、180℃以下が好ましく、150℃以下がより好ましく、120℃以下が特に好ましい。
【0069】
前記乾燥工程は、水和型キトサン粉末が得られる限り、特に制限はなく、適宜乾燥を継続することができ、例えば、前記含水量としては、20質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましく、8質量%以下が更に好ましく、5質量%以下が特に好ましい。
【0070】
<<<その他の工程>>>
-整粒工程-
前記整粒工程は、乾燥中又は乾燥後の水和型キトサン粉末を整粒する工程である。
前記整粒する方法としては、例えば、篩(例えば、目開き2.0mmのステンレス製篩)を通過させることにより整粒する方法などが挙げられる。
【0071】
<その他の成分>
前記非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物は、本発明の効果を損なわない限り、前記水和型キトサン以外にその他の成分を含有してもよい。
前記その他の成分としては、食品業界や医薬品業界において使用可能な製剤添加物であれば、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択することができ、例えば、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、界面活性化剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤などが挙げられる。これらの成分の詳細は、以下の「-製剤形態-」において詳述する。
【0072】
前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ。
【0073】
-製剤形態-
前記非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物の製剤形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、主として静注、筋注等に用いられる注射剤;カプセル剤、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、細粒剤、シロップ剤、トローチ剤等の経口剤;軟膏剤、点眼剤、点耳剤、点鼻剤、眼軟膏剤、皮膚粘膜吸収剤、外皮用剤、吸入剤、坐剤等の非経口投与の外用剤;その他乾燥粉末;霧状化エアロゾル処方物などが挙げられる。これらの中でも、錠剤が好ましい。前記水和型キトサンは、高含有で錠剤化することができ、分散性及び崩壊性に優れる点で有利である。
【0074】
前記製剤は、賦形剤、増量剤、結合剤、湿潤化剤、崩壊剤、界面活性化剤、滑沢剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤などの添加剤を用いて常法により製造することができる。
【0075】
前記添加剤の具体例としては、例えば、注射剤、点眼剤、点耳剤、及び点鼻剤では、水性或いは用時溶解型の剤形を構成しうる溶解剤又は溶解補助剤(注射用蒸留水、生理食塩水、エタノール、グリセリン、プロピレングリコール、トウモロコシ油、ゴマ油等)、pH調整剤(オルトリン酸三ナトリウム、炭酸水素ナトリウム等の無機酸付加塩;クエン酸ナトリウム等の有機酸性塩;L-リジン、L―アルギニン等の有機塩基性塩等)、等張化剤(塩化ナトリウム、ブドウ糖、グリセリンなど)、緩衝剤(塩化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、クエン酸ナトリム等)、界面活性剤(モノオレイン酸ソルビタン、ポリソルベート80等)、分散剤(D-マンニトール等)、安定化剤(アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム等の抗酸化剤;クエン酸、酒石酸等のキレート剤等)などが挙げられる。
【0076】
例えば、眼軟膏剤、皮膚粘膜吸収剤、及び外皮用剤では、軟膏剤、クリーム剤、貼付剤として適切な製剤成分(白色ワセリン、マクロゴール、グリセリン、流動パラフィン、綿布など)などが挙げられる。
【0077】
例えば、液状の吸入剤では、pH調整剤(クエン酸ナトリウム、水酸化ナトリウムなど)、等張化剤(塩化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、クエン酸ナトリウムなど)、緩衝剤(塩化ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、クエン酸ナトリウムなど)などが挙げられる。
例えば、粉末吸入剤では、キャリアーとしての乳糖などが挙げられる。
【0078】
例えば、経口投与剤及び坐剤では、賦形剤(乳糖、D-マンニトール、トウモロコシデンプン、結晶セルロース等)、崩壊剤(カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースカルシウム等)、結合剤(ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルピロリドン等)、滑沢剤(ステアリン酸マグネシウム、タルク等)、コーテイング剤(セラック、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、白糖、酸化チタン等)、可塑剤(グリセリン、ポリエチレングリコール等)、基質(カカオ脂、ポリエチレングリコール、ハードファット等)などが挙げられる。
【0079】
-投与-
前記非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物の投与経路、投与量、投与時期、及び投与対象としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
前記投与経路としては、特に制限はなく、病原菌や疾患の種類、投与対象個体の性質などに応じて、経口又は非経口で投与することができる。前記非経口としては、例えば、静注、筋注、皮下投与、直腸投与、経皮投与、眼局所投与、経肺投与などが挙げられる。これらの中でも、経口投与が好ましい。
【0080】
前記投与量としては、特に制限はなく、用法、投与対象個体の年齢、性別、体重、体質、疾患の重篤度、他の成分を有効成分とする医薬や薬剤の投与の有無など、様々な要因を考慮して適宜選択することができる。例えば、ヒトに経口投与する場合には、例えば、成人一人当たり一日に10mg/kg~200mg/kg投与することができる。
【0081】
前記投与時期としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0082】
前記投与対象となる動物種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒト、サル、ブタ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、トリなどが挙げられるが、これらの中でもヒトに好適に用いることができる。
【0083】
-用途-
前記非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物は、前記水和型キトサンを含有するため、非アルコール性脂肪肝炎の改善又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制に好適に利用可能である。また、前記非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物の非アルコール性脂肪肝炎の改善作用又は非アルコール性脂肪肝炎の進行抑制作用により、非アルコール性脂肪肝炎から肝硬変や肝がんへの移行も好適に抑制することができる。したがって、前記非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物は、後述する本発明の非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用経口用組成物に好適に利用可能である。
【0084】
(非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用経口用組成物)
本発明の非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用経口用組成物(以下、「経口用組成物」と略記することがある)は、本発明の非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物を含有し、更に必要に応じて、その他の成分を含有する。
【0085】
本発明の非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用経口用組成物は、前記非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物を含有するため、該非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物の作用により、非アルコール性脂肪肝炎の改善、非アルコール性脂肪肝炎の進行の抑制、非アルコール性脂肪肝炎から肝硬変や肝がんへの移行抑制などのために用いることができるものである。
【0086】
前記経口用組成物とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品などの区分に制限されるものではない。したがって、前記経口用組成物は、経口的に摂取される一般食品、健康食品(サプリメント、機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品,機能性表示食品)、医薬部外品、医薬品等を構成する飲食品を幅広く含むものを意味する。
【0087】
前記経口用組成物の種類としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、茶飲料、清涼飲料、炭酸飲料、栄養飲料、果実飲料、乳酸飲料等の飲料;アイスクリーム、アイスシャーベット、かき氷等の冷菓;そば、うどん、はるさめ、ぎょうざの皮、しゅうまいの皮、中華麺、即席麺等の麺類;飴、キャンディー、ガム、チョコレート、錠菓、スナック菓子、ビスケット、ゼリー、ジャム、クリーム、焼き菓子、パン等の菓子類;カニ、サケ、アサリ、マグロ、イワシ、エビ、カツオ、サバ、クジラ、カキ、サンマ、イカ、アカガイ、ホタテ、アワビ、ウニ、イクラ、トコブシ等の水産物;かまぼこ、ハム、ソーセージ等の水産・畜産加工食品;加工乳、発酵乳等の乳製品;サラダ油、てんぷら油、マーガリン、マヨネーズ、ショートニング、ホイップクリーム、ドレッシング等の油脂及び油脂加工食品;ソース、たれ等の調味料;カレー、シチュー、親子丼、お粥、雑炊、中華丼、かつ丼、天丼、うな丼、ハヤシライス、おでん、マーボドーフ、牛丼、ミートソース、玉子スープ、オムライス、餃子、シューマイ、ハンバーグ、ミートボール等のレトルトパウチ食品;サラダ、漬物等の惣菜;種々の形態の健康・美容・栄養補助食品;錠剤、顆粒剤、カプセル剤、ドリンク剤、トローチ、うがい薬等の医薬品、医薬部外品;口中清涼剤、口臭防止剤等の口腔内で使用する口腔清涼剤、歯磨剤などが挙げられる。
【0088】
<非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物>
前記経口用組成物が含有する前記非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物は、前述の本発明の非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物である。
前記経口用組成物中の前記非アルコール性脂肪肝炎の改善用又は進行抑制用組成物の含有量としては、特に制限はなく、使用目的、症状、性別等を考慮して適宜調整することができる。
【0089】
<その他の成分>
前記経口用組成物における前記その他の成分としては、特に制限はなく、通常の経口用組成物の製造に用いられる補助的原料又は添加物又はその他の成分の中から目的に応じて適宜選択することができ、例えば、pH調整剤、ブドウ糖、果糖、ショ糖、マルトース、ソルビトール、ステビオサイド、ルブソサイド、コーンシロップ、dl-α-トコフェロール、エリソルビン酸ナトリウム、グリセリン、プロピレングリコール、前記(E)成分以外の脂肪酸エステルアラビアガム、カラギーナン、カゼイン、ゼラチン、ペクチン、寒天、ビタミンB類、ニコチン酸アミド、パントテン酸カルシウム、アミノ酸類、カルシウム塩類、色素、香料、保存剤、溶媒、安定化剤、酸化防止剤等の各種添加剤などが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0090】
前記経口用組成物における前記その他の成分の含有量としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【実施例0091】
以下に実施例、比較例、及び試験例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例及び試験例に何ら限定されるものではない。なお、特に明記しない限り、「%」は「質量%」を示す。
【0092】
(実施例1:造粒キトサン錠の製造)
<造粒キトサン粉末の調製>
80メッシュの篩いを全通するように粉砕したキトサン粉末(日本化薬フードテクノ社製)20kgに、水20kgを加え、80℃にて、スピードニーダーで3分間練合し、スピードミルで整粒後、V型混合機(株式会社セイシン企業製)で5分間回転を与えた。次いで、60℃の真空乾燥機で乾燥し、14メッシュの篩いで篩過することで、造粒キトサン粉末を得た。
【0093】
<造粒キトサン錠の調製>
得られた造粒キトサン粉末を、内径8mmCRの杵及び臼を装着した単発式打錠機(HANDTAB-100型、市橋精機株式会社製)で、打錠圧20KNで1粒200mgになるように打錠し、直径8mmの造粒キトサン錠を得た。なお、賦形剤、滑沢剤、結着剤等の添加物は加えずに造粒キトサン粉末のみを打錠に供した。
【0094】
(比較例1:未造粒キトサン錠の製造)
製造例1において、<造粒キトサン粉末の調製>を行わず、<造粒キトサン錠の調製>において、造粒キトサン粉末を、80メッシュの篩いを全通するように粉砕したキトサン粉末(甲陽ケミカル株式会社製)(以下、「未造粒キトサン粉末」と称することがある)に変更したこと以外は、製造例1と同様の方法で未造粒キトサン錠を得た。
【0095】
(比較例2:SDACNFsの調製)
表面脱アセチル化キチンナノファイバー(SDACNFs)は、特開2010-180309号公報に記載の方法により調製した。具体的には、以下に示す(1)精製アルファキチンの部分脱アセチル化処理、(2)浸漬処理、及び(3)解繊処理、の工程によりアルファキチンを原料とするナノファイバー水分散液を作製した。なお、SDACNFsはジェル状であり、錠剤化することができない。
【0096】
<(1)精製アルファキチンの部分脱アセチル化>
精製アルファキチン(甲陽ケミカル株式会社製)を用意し、87℃~99℃に保持した33%水酸化ナトリウム水溶液(キチン重量に対して3%のNaBHを含む)に4時間浸漬し、アルファキチンを部分脱アセチル化処理した。その後、濾過-水洗浄によって、ろ液が中性になるまで十分洗浄した。以上の工程により、部分脱アセチル化によりN-アセチル化度を低下させた精製アルファキチン試料を得た。
【0097】
<(2)浸漬処理>
次に、上記(1)で得られた精製アルファキチン試料に水を加えて固形分濃度0.1%の精製アルファキチン水分散液を調製した。その後、上記の水分散液に酢酸を添加することでpHを3~4に調整した水分散液試料を作製した。
【0098】
<(3)解繊処理>
次に、得られた精製アルファキチン水分散液試料を家庭用ミキサーで1分間解繊処理した後、超音波ホモジナイザーで1分間解繊処理し、ナノファイバー水分散液を得た。
【0099】
(試験例1-1:造粒キトサン粉末、未造粒キトサン粉末、及びSDACNFsの物性評価)
実施例1で調製した造粒キトサン粉末及び比較例1で調製した未造粒キトサン粉末について、以下の方法で、「外観観察」、「粉体X線回折」、「体積平均粒径及び粒径20μm以下の含有率」、「嵩密度」、「タップ密度」、「粘度」、及び「脱アセチル化度」の物性評価を行った。
また、比較例2で調製したSDACNFsは、ジェル状であるため、「粘度」及び「脱アセチル化度」のみ物性評価を行った。
【0100】
<外観観察>
造粒キトサン粉末及び未造粒キトサン粉末をSEM(Miniscope(登録商標)TM3000、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)にて観察した。造粒キトサン粉末のSEM画像を図1A及び図1Bに、未造粒キトサン粉末のSEM画像を図1C及び図1Dに示す。
これらのSEM画像より、造粒キトサン粉末は、均一な粒子サイズであり、滑らかな表面を有していた。一方、未造粒キトサン粉末は、表面が粗く、しわが寄り、粒子サイズが不均一で、多数の大小の粒子が存在していた。
【0101】
<粉体X線回折>
造粒キトサン粉末及び未造粒キトサン粉末の粉体X線回折測定は、X線回折装置(RINT Ultima+型自動X線回折装置、リガク株式会社製)を用い、造粒キトサン粉末又は未造粒キトサン粉末をガラスセルに固定し,以下の条件で測定した。
[X線回折測定条件]
・ X線源 : Cu-Kα線(1.542Å)
・ 管電圧 : 40kV
・ 管電流 : 40mA
・ 走査速度 : 5°/分
・ 回折各角(2θ) : 5°~30°
・ サンプリング幅 : 0.020°
・ 発散スリット : 1°
・ 散乱スリット : 1°
・ 受光スリット : -0.15mm
【0102】
造粒キトサン粉末及び未造粒キトサン粉末のX線回折(XRD)パターンを図2に、造粒キトサン粉末の分子モデルを図3A及び図3Bに示す。
未造粒キトサン粉末では、2θが、約12°~15°及び約20°において、非常に広いショルダーと拡散したピークを有するハローパターンが見られ、主に非晶質の状態、あるいは結晶化度が非常に低い状態であることがわかった。一方、造粒キトサン粉末では、2θが、約10°及び約20°において、2つのピークが見られた。これは水和物の形態であることを示唆している。即ち、高温(80℃)の水の存在下での混合又は造粒中に、未造粒キトサン粉末が造粒キトサン粉末において結晶化したことを意味している。また、(020)反射の強度が大きくなっていることから、キトサンの水和水とアミノ部位の層からなるac面が大きくなっており、粒子の表面性状、特に(010)方向の性状が変化していると考えられた。
【0103】
<体積平均粒径及び粒径20μm以下の含有率>
メタノール1mLあたり、造粒キトサン粉末又は未造粒キトサン粉末10mg以上30mg以下を分散した分散液を調製し、試験サンプルとした。この試験サンプルを、レーザー回折-散乱式粒度分析計(レーザーマイクロンサイザーLMS2000e型、株式会社セイシン企業製)を用いて測定し、造粒キトサン粉末又は未造粒キトサン粉末の体積平均粒径を測定した。
造粒キトサン粉末又は未造粒キトサン粉末の粒径20μm以下の含有率は、粒径20μm以下の頻度を測定粒度毎に累計することにより求めた。
造粒キトサン粉末又は未造粒キトサン粉末の体積平均粒径及び粒径20μm以下の含有率の結果を下記表1に示す。
【0104】
<嵩密度>
造粒キトサン粉末又は未造粒キトサン粉末の嵩密度は、顔料用嵩密度測定器(JIS K 5101型、筒井理化学器械株式会社製)を用い、造粒キトサン粉末又は未造粒キトサン粉末を測定カップ容積30mL(直径22mm)に自由落下させ、測定カップ内のキトサンの質量(g)を容積30mLで割ることにより算出した。結果を下記表1に示す。
【0105】
<タップ密度>
造粒キトサン粉末又は未造粒キトサン粉末20gを量りとり、100mLメスシリンダーに入れ、タッピング装置(Electrolab社製)を用いて、3mm±0.2mmの高さにて250回/分間の回数でタッピングを行い、粉末体積(タップ体積)を測定し、次式によりタップ密度を算出した。結果を下記表1に示す。
タップ密度(g/mL)=粉体重量(g)/粉体体積(mL)
(ただし、前記式において「粉体」は、造粒キトサン粉末又は未造粒キトサン粉末を示す。)
【0106】
<粘度>
造粒キトサン粉末、未造粒キトサン粉末、及びSDACNFsの粘度は、「日本健康・栄養食品協会キトサン食品品質規格基準」の「別記4 粘度測定法」に基づき測定した。
具体的には、300mLビーカーに、造粒キトサン粉末、未造粒キトサン粉末、又はSDACNFsを1.5g摂取し、水297.0gを加え、撹拌して分散させた後、酢酸1.5mLを加え、20℃にて2時間撹拌した。一晩静置し、更に30分間撹拌した。この溶液の温度を20℃±0.5℃に保持し、ブルックフィールド型粘度計のNo.2ローターを用いて30rpmで回転粘度(mPa・s)を測定した。結果を下記表1に示す。
なお、SDACNFsは粘度が低すぎ、測定限界以下であったため、下記表1において「N.D.」とした。
【0107】
<脱アセチル化度>
造粒キトサン粉末、未造粒キトサン粉末、及びSDACNFsの脱アセチル化度は、「日本健康・栄養食品協会キトサン食品品質規格基準」の「別記 3脱アセチル化度」に基づき測定した。ただし、PVSK試薬は、ポリビニル硫酸カリウム滴定液(N/400)(規格:コロイド滴定用、和光純薬工業株式会社製)が終売の為、N/400 PVSK溶液(規格:コロイド滴定用、富士フイルム和光純薬株式会社製)に変更した。
【0108】
具体的には次のようにして脱アセチル化度を測定した。
200mLメスフラスコ中に乾燥減量法に従い乾燥後、測定試料(造粒キトサン粉末、未造粒キトサン粉末、又はSDACNFs)1.0gを精密に採取し、0.5体積%酢酸水溶液を加えて溶解し、正確に200mLとし、測定試料溶液とした。この測定試料溶液1.0gを正確に滴定容器に採取し、水50mL及びトルイジンブルー試液(トルイジンブルー滴定用 1W/V%トルイジンブルー指示薬溶液、富士フイルム和光純薬株式会社製)0.2mLを加え、充分混合した後、N/400 PVSK溶液(コロイド滴定用 N/400ポリビニル硫酸カリウム溶液、富士フイルム和光純薬株式会社製)で滴定した。滴定の終点は、青色が赤紫色に変わる点とした。
また、測定試料を水に変更したこと以外は同様の方法で空試験を行った。
【0109】
測定試料の脱アセチル化度は、以下のようにして算出した。
まず、下記式(1)により測定試料溶液中のキチン又はキトサン量C(g)を算出した。なお、下記式(1)において、「0.5」は測定試料溶液中の測定試料の濃度である。
次に、下記式(2)により測定試料溶液中の遊離アミノ基量A(mol)を算出した。
次に、下記式(3)により測定試料溶液中のグルコサミンポリマー量X(g)を算出した。なお、下記式(3)において、「161」はグルコサミンポリマーの構成単位の当量分子量である。
次に、下記式(4)により測定試料溶液中のアセチルグルコサミンポリマー量Y(g)を算出した。キチン又はキトサンは、グルコサミンとアセチルグルコサミンのコポリマーであり、滴定ではグルコサミンに由来する遊離アミノ基(mol)量が求められる。測定試料溶液S(g)中のキトサン量からグルコサミンポリマー量を差し引くことで、残りのアセチルグルコサミンポリマー量を算出することができる。
次に、下記式(5)により測定試料の脱アセチル化度を算出した。なお、下記式(5)において、「161」はグルコサミンポリマーの構成単位の当量分子量であり、「203」はアセチルグルコサミンポリマー構成単位の当量分子量である。下記式(5)において、総アミノ基量(mol)はグルコサミン由来の遊離アミノ基量(mol)とアセチルグルコサミン由来のアセチル化された結合アミノ基量(mol)の総和として算出することができる。
脱アセチル化度の結果を下記表1に示す。
キトサン量C=S×0.5÷100 ・・・式(1)
遊離アミノ基量A=1/400×1/1,000×F×(V-B) ・・・式(2)
グルコサミンポリマー量X=A×161 ・・・式(3)
アセチルグルコサミンポリマー量Y=C-X ・・・式(4)
脱アセチル化度(%)=A/総アミノ基量×100
=(X/161)/(X/161+Y/203)×100 ・・・式(5)
ただし、前記式(1)~(5)において、各記号は以下を示す。
C:測定試料溶液中のキチン又はキトサン量(g)
S:測定試料溶液の質量(g)
A:測定試料溶液中の遊離アミノ基量(mol)
F:N/400 PVSK溶液のファクター
V:試験試料の滴定値(mL)
B:空試験の滴定値(mL)
X:測定試料溶液S中のグルコサミンポリマー量(g)
Y:測定試料溶液S中のアセチルグルコサミンポリマー量(g)
【0110】
【表1】
【0111】
(試験例1-2:造粒キトサン錠及び未造粒キトサン錠の物性評価)
実施例1の造粒キトサン錠及び比較例1の未造粒キトサン錠について、以下の方法で、「崩壊時間」、「硬度」、「接触角」、「比表面積」、及び「細孔容積及び平均細孔直径」の物性評価を行った。なお、「接触角」の測定においては、実施例1で調製した造粒キトサン粉末及び比較例1で調製した未造粒キトサン粉末を、後述する<接触角>の項目に記載の条件で錠剤化したものを用いた。
【0112】
<崩壊時間>
造粒キトサン錠及び未造粒キトサン錠の崩壊性は、第十四改正日本薬局方の一般試験法「崩壊試験法」(試験液:水)の評価方法に準じて行った。具体的には、崩壊試験器(NT-210、富山産業株式会社製)を用い、37℃、純水中における崩壊時間(秒又は分)を求めた。造粒キトサン錠及び未造粒キトサン錠それぞれ6錠の平均値を錠剤の崩壊時間とした。結果を下記表2に示す。
【0113】
<硬度>
造粒キトサン錠及び未造粒キトサン錠の硬度は、モンサント型錠剤硬度計(装置名:B型、富士理化工業株式会社製)を用いて測定した。造粒キトサン錠及び未造粒キトサン錠それぞれ6錠の平均値を錠剤の硬度とした。結果を下記表2に示す。
【0114】
<接触角>
実施例1で調製した造粒キトサン粉末及び比較例1で調製した未造粒キトサン粉末を、それぞれ内径7mmCRの杵及び臼を装着した単発式打錠機(HANDTAB-100型、市橋精機株式会社製)で、打錠圧20KNで1粒200mgになるように打錠し、接触角測定用試料としての直径7mmの造粒キトサン錠及び未造粒キトサン錠を得た。なお、賦形剤、滑沢剤、結着剤等の添加物は加えずに造粒キトサン粉末のみを打錠に供した。
【0115】
前記測定試料の造粒キトサン錠及び未造粒キトサン錠の接触角は、動的接触角・表面張力測定装置(DMo-501、協和界面科学株式会社製)を用いて測定した。造粒キトサン錠及び未造粒キトサン錠に蒸留水を1μL滴下し、温度25℃、相対湿度50%の条件下で、液滴法にて、蒸留水を添加直後の接触角θ(°)をθ/2法で求めた。接触角の測定は5回行い、その平均値を求めた。
【0116】
結果を下記表2に示す。また、造粒キトサン錠の接触角の測定時の液滴の一例を図4Aに、未造粒キトサン錠の接触角の測定時の液滴の一例を図4Bに示す。
なお、造粒キトサン錠は、崩壊が非常に早く、正確な接触角を測定することが困難であった。
【0117】
<比表面積>
造粒キトサン錠及び未造粒キトサン錠の比表面積は、比表面積測定装置(Tristar 3000、Micromeritics社製)を用いてBET法により測定した。結果を下記表2に示す。
【0118】
<細孔容積及び平均細孔直径>
造粒キトサン錠及び未造粒キトサン錠の細孔容積及び平均細孔直径は、細孔分布測定装置(BELSORP-mini II、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用い、測定温度:-196℃、測定吸着質:Nガス、測定圧力範囲(P/P):0~0.99の条件で測定し、解析ソフトウエア(BELMasterTM version 6.4.1.0、マイクロトラック・ベル株式会社製)を用いて解析した。結果を下記表2に示す。
【0119】
【表2】
【0120】
(試験例1-3:造粒キトサン錠、未造粒キトサン錠、及びSDACNFsのABTSラジカル消去能)
ABTSラジカル試薬(ナカライテスク株式会社製)を用いて、1錠(20mg)の造粒キトサン錠(実施例1)又は未造粒キトサン錠(比較例1)をABTS溶液に混合した。また、SDACNFs(比較例2)は終濃度が20体積%となるようにABTS溶液に混合した。
24時間後に、吸光度計(紫外可視赤外分光光度計 V-750、日本分光株式会社製)を用いて734nmの吸光度を測定し、ラジカル色(緑色)の脱色の比率から、それぞれの抗酸化能を測定した。結果を図5に示す。なお、図5において、エラーバーは、mean±S.D.(n=4)を示し、one-way ANOVA検定により、SDACNFsと比較してp値が0.05未満(p<0.05)のものには「*」印を付し、p<0.05を有意差があると判断した。
【0121】
図5の結果より、造粒キトサン錠は、未造粒キトサン錠及びSDACNFsと比べて高い抗酸化能を有することが確認された。
【0122】
(試験例2:血中トリグリセリドに対する作用)
SDラット(7週齢、雄、日本エスエルシー株式会社より入手)を、温度、湿度、及び照度が管理された部屋で1週間予備飼育した後、3群(n=4)に分け、以下の投与サンプルを1回、ゾンデを用いて経口投与し、8時間飼育した。なお、投与16時間前より、絶食し、水は自由飲水とした。
[投与サンプル]
・ 対照群:コーン油(ナカライテスク株式会社製)を2mL/kg投与した。
・ 造粒キトサン錠投与群:造粒キトサン錠(実施例1)を40mg(20mg/錠を2錠)、及びコーン油を2mL/kg投与した。
・ 未造粒キトサン錠投与群:未造粒キトサン錠(比較例1)を40mg(20mg/錠を2錠)、及びコーン油を2mL/kg投与した。
【0123】
各投与サンプルの投与から1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、及び8時間後の血液を採取した。採取した血液は、3,500×gで10分間遠心分離して血清を調製した。
また、造粒キトサン錠投与群及び未造粒キトサン錠投与群のうち1頭は、1時間後に胃を取り出し、胃内の錠剤の形状を確認した。
【0124】
-血中トリグリセリドの測定-
各投与サンプルの投与から1時間後、2時間後、4時間後、6時間後、及び8時間後の血清から、ラボアッセイTM Triglyceride(富士フイルムワコーシバヤギ株式会社製)を用いて血中トリグリセリド濃度の経時的変化を測定した。結果を図6Aに示す。また、投与から1時間後の胃の観察像を図6Bに示す。
なお、図6Aにおいて、エラーバーは、mean±S.D.(n=3)を示し、one-way ANOVA検定により、対照群と比較してp<0.05のものには「*」印を付し、p<0.05を有意差があると判断した。
【0125】
図6A及び図6Bの結果より、造粒キトサン錠(20mg/錠を2錠)は、胃内でのすばやい崩壊後、コーン油を吸着及び排泄することにより、血中トリグリセリド濃度を減少させることが分かった。
【0126】
(試験例3-1:NASH抑制効果1)
<投与サンプルの投与>
NASHモデルラットであるSHRSP5/Dmcrラット(7週齢、雄、日本エスエルシー株式会社より入手)を、温度、湿度、及び照度が管理された部屋で1週間予備飼育した後、4群(n=4~7)に分け、以下の投与サンプルを1日に1回、ゾンデを用いて経口投与し、4週間飼育した。なお、飼料は、HFC飼料(フナバシファーム株式会社製)を自由摂取させ、水は自由飲水とした。4週間の飼育期間中、摂食量及び飲水量については、各群において有意差は認められなかった。
[投与サンプル]
・ 対照群:水2mLを投与した。
・ 造粒キトサン錠投与群:造粒キトサン錠(実施例1)を1日当たり40mg(20mg/錠を2錠)投与した。
・ 未造粒キトサン錠投与群:未造粒キトサン錠(比較例1)を1日当たり40mg(20mg/錠を2錠)投与した。
・ SDACNFs投与群:SDACNFs(懸濁液)を1日当たり20mg(SDACNFs20mg/水2mL)投与した。
【0127】
<評価>
-体重及び肝重量の測定、並びに、血清の調製-
各投与サンプルの投与から4週間後に体重測定及び血液の採取を行った後、肝臓を取り出して重量を測定した。その後、肝臓の一部は、組織化学的観察のために10%中性緩衝ホルマリン液を用いて固定した。採取した血液は、3,500×gで10分間遠心分離して血清を調製した。
体重及び肝重量について、それぞれ対照群に対する、各投与サンプルの投与4週間後の比(投与4週間後/対照群)を算出した。結果を下記表3-1に示す。
【0128】
-生化学パラメータの測定-
得られた血清を用いて、血中総コレステロール(T-cho)、アスパラギン酸トランスアミナーゼ(AST)、及びアラニントランスアミナーゼ(ALT)の測定を、富士フイルムVETシステムズ株式会社に委託して行った。また、得られた血清を用いて、血中グルコースを、ラボアッセイTM(富士フイルム和光純薬株式会社製)を用いて測定した。また、得られた血清を用いて、血中トリグリセリドを、試験例2と同様の方法で測定した。また、測定した値から、AST/ALT比を算出した。
測定した血中総コレステロール(mg/dL)、血中グルコース(mg/dL)、及び血中トリグリセリド(mg/dL)について、それぞれ対照群に対する、各投与サンプルの投与4週間後の比(投与4週間後/対照群)を算出した。結果を下記表3-1に示す。
また、AST/ALT比については、対照群に対する、各群の投与前に対する投与サンプルの投与4週間後の比(投与4週間後/投与前)を算出した。結果を下記表3-2に示す。
【0129】
-抗酸化パラメータの測定-
抗酸化能測定キット(「PAO」Test kit for Potential Antioxidant in aqueous solution、日研ザイル株式会社製)で測定した。
測定した血中抗酸化能(μM)については、対照群に対する、各群の投与前に対する投与サンプルの投与4週間後の比(投与4週間後/投与前)を算出した。結果を下記表3-に示す。
【0130】
-肝臓片全体及び切片の組織化学的観察(8-OHdG染色)-
10%中性緩衝ホルマリン液で固定した肝臓組織は8-OHdG Check ELISA(日研ザイル株式会社製)を用いて染色した。8-ヒドロキシ-2’-デオキシグアノシン(8-OHdG)は、デオキシグアノシン(dG)が酸化されて生じるものであり、酸化ストレスマーカーとして用いられている。染色像は、オールインワン蛍光顕微鏡(BZ-X800、株式会社キーエンス製)のマクロセルカウントによる恣意性を排除した定量解析を行い、各群の8-OHdGの占有率を数値した。結果を図7Aに示す。
また、10%中性緩衝ホルマリン液で固定した肝臓組織から切片を作成し、同様にして8-OHdG染色を行った。結果を図7Cに示す。
【0131】
-肝臓片全体及び切片の組織化学的観察(MT染色)-
10%中性緩衝ホルマリン液で固定した肝臓組織は、トリクローム染色キット(Modified Masson’s、コスモ・バイオ株式会社製)を用いて染色した。マッソントリクローム(MT)染色は、膠原線維の染め分けを目的とした染色法で、核を黒く、細胞質を赤く、膠原線維を青く染め分けることができる(トリクローム:3色染色)。染色像は、オールインワン蛍光顕微鏡(BZ-X800、株式会社キーエンス製)のマクロセルカウントによる恣意性を排除した定量解析を行い、各群の膠原線維の占有率を数値した。結果を図7Bに示す。
また、10%中性緩衝ホルマリン液で固定した肝臓組織から切片を作成し、同様にしてMT染色を行った。結果を図7Cに示す。
【0132】
-肝臓切片の組織化学的観察(PAS染色)-
10%中性緩衝ホルマリン液で固定した肝臓組織から切片を作成し、PAS(Periodic Acid Schiff)染色キット(コスモ・バイオ株式会社製)を用いて染色した。過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色は、リンパ球及びムコ多糖類を染色することができる。結果を図7Cに示す。
【0133】
【表3-1】
【0134】
【表3-2】
【0135】
表3-1及び表3-2の結果より、造粒キトサン錠投与群は、対照群、未造粒キトサン錠投与群、及びSDACNFs投与群と比較して、血中抗酸化能の増加率が増加しており、その他のパラメータにおいては、いずれも造粒キトサン錠投与群の増加率の低下が認められた。なお、4週間飼育中の摂取量及び飲水量については、各群間で有意差はなかった。
また、図7A図7Cの結果より、肝臓組織における抗酸化能及び線維化の改善も認められた。
【0136】
(試験例3-2:NASH抑制効果2)
<投与サンプルの投与>
試験例3-1において、投与サンプルの投与期間(飼育期間)を4週間から6週間に変更したこと以外は、試験例3-1と同様の方法で各投与サンプルの投与を行った。なお、試験例3-2では、対照群、造粒キトサン錠投与群、及び未造粒キトサン錠投与群についてのみ試験した(SDACNFs投与群については試験しなかった)。6週間の飼育期間中、摂食量及び飲水量については、各群において有意差は認められなかった。
【0137】
<評価>
-体重及び肝重量の測定、並びに、血清の調製-
体重は、各投与サンプルの投与前、投与から2週間後、4週間後、及び6週間後に測定した。また、各投与サンプルの投与から6週間後に、血液を採取した後、肝臓を取り出して重量を測定した。肝臓の一部は,組織化学的観察のために10%中性緩衝ホルマリン液を用いて固定した。採取した血液は、3,500×gで10分間遠心分離して血清を調製した。
【0138】
各投与サンプルの投与後の体重の変化を図8Aに、各投与サンプルの投与から6週間後の肝重量の結果を図8Bに示す。なお、図8A及び図8Bにおいて、エラーバーは、mean±S.D.(n=3)を示し、one-way ANOVA検定により、対照群と比較してp<0.05の群には「*」印を付し、p<0.05を有意差があると判断した。
【0139】
-生化学パラメータ及び抗酸化パラメータの測定-
生化学パラメータ及び抗酸化パラメータの測定は、試験例3-1と同様の方法で行った。結果を下記表4に示す。
【0140】
【表4】
【0141】
なお、表4に示す、生化学パラメータ及び抗酸化パラメータの数値は、mean±S.D.(n=3)を示し、one-way ANOVA検定により、対照群と比較してp<0.05ものには「*」印を付し、p<0.05を有意差があると判断した。
【0142】
試験例3-1及び試験例3-2の結果より、造粒キトサン錠は、未造粒キトサン錠と比較して顕著な体重抑制及び肝肥大抑制作用、更には肝組織における線維化抑制作用及び酸化抑制作用が確認された。またSDACNFsと比較しても、AST/ALT比の上昇抑制及び血中抗酸化能の増加が確認された。
造粒キトサン錠は、未造粒キトサン錠と比較して、崩壊性及び分散性が優れるため、体内で優れた脂質吸着作用及び抗酸化作用を発揮することが示唆された。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図7C
図8A
図8B